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ANALYSIS

トランプ氏指名のウクライナ特使による終戦計画、プーチン氏を喜ばせる可能性

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ウクライナでの戦争終結に向けた計画を策定した米退役将官のキース・ケロッグ氏/Mariam Zuhaib/AP

ウクライナでの戦争終結に向けた計画を策定した米退役将官のキース・ケロッグ氏/Mariam Zuhaib/AP

(CNN) 1件の投稿の中で、トランプ次期米大統領は世界に向け、ウクライナ戦争の終焉(しゅうえん)がどのような様相を呈し得るかを伝えた。実際それは大きな外交上の難題となるだろう。控え目に言ってもそうなってしまうはずだ。

「キース・ケロッグ将軍を大統領補佐官兼ウクライナ・ロシア特使に指名できるのは大変喜ばしい」。トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」にそう書き込んだ。「我々は共に、力による平和を確保する。そして米国と世界を再び安全にする!」

ケロッグ氏を政権のウクライナ特使に指名することで、トランプ氏は非常に具体的な未発表の計画も選択したことになる。計画は同氏が抱える最も厄介な外交政策のために策定されたものだ。

過去にトランプ氏の国家安全保障担当顧問を務めた80歳のケロッグ氏は、既に自身の和平計画をある程度詳細に説明している。それは右派系シンクタンク「アメリカ第一政策研究所」への今年4月の寄稿で記した内容だ。

寄稿は冒頭、当該の戦争を「回避可能な危機」と形容する。回避できたはずが、「バイデン政権の無能な政策のせいで米国は終わりなき戦争に巻き込まれた」と続ける。

端的に言えば停戦によって前線は凍結し、両軍が交渉のテーブルに着かざるを得なくなるというのが計画の筋書きだが、細部の説明はそれよりも長く、あらゆる面で複雑になっている。

米国による関与を変更

ケロッグ氏はほとんどの時間をバイデン氏の行動への非難に費やしている。それによると、バイデン政権による決定的な支援は規模が小さすぎる上にタイミングも遅すぎた。ケロッグ氏は、トランプ氏が2018年にウクライナ向けの最初の決定的な支援に踏み切ったことで、ロシアのプーチン大統領に対抗するだけの強さがもたらされたと指摘する。またトランプ氏のプーチン氏に対する穏やかな接し方も、取り引きを成立させるのに寄与するだろうと述べた。トランプ氏はバイデン氏のようにプーチン氏を悪者扱いする行動は取らない。

ケロッグ氏はもっと多くの兵器がロシアの侵攻前、また侵攻直後にウクライナへ供与されるべきだったと訴える。そうした支援がウクライナの勝利を可能にしたはずだとしている。

しかしこの部分を最後に、計画はウクライナ寄りの姿勢を止めてしまう。同計画についてCNNは以前、トランプ氏によって次期国家安全保障担当補佐官に指名されたマイク・ウォルツ下院議員が検討中だと報じた。

ケロッグ氏によれば、米国は新たな紛争に関与する必要はない。自前の兵器の備蓄がウクライナ支援の影響を被る中、米国は台湾を巡って中国との紛争に直面しかねない状況にある。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟については、無期限保留とするべきだとケロッグ氏は主張する。実際のところウクライナがNATOに加盟する見込みは極めて薄いが、同国政府に対してはひとまず結束のシンボルとして、加盟を擁護する申し出が行われている。ケロッグ氏は加盟の交換条件として「安全保障を伴う包括的かつ検証可能な和平協定」を挙げる。

何よりもまず計画では「正式な米国の政策として、停戦及び交渉による紛争の解決を模索するべき」と断言している。

ロシア軍に向けて自走式榴弾砲を発射するウクライナ軍第24独立機械化旅団の兵士/Ukrainian Armed Forces/Reuters
ロシア軍に向けて自走式榴弾砲を発射するウクライナ軍第24独立機械化旅団の兵士/Ukrainian Armed Forces/Reuters

計画によれば今後の米国からの支援は融資となる公算が大きいが、それにもウクライナがロシアと交渉するという条件が付く。そして米国の軍事支援は、ウクライナの自衛を可能にし、ロシア側のさらなる前進を阻止できる水準を念頭に行われる。ロシアの前進は、あらゆる和平協定の前後に実施されるのを想定している。後者の提案は恐らく、ウクライナ東部でロシアが行う迅速な前進に起因するものだろう。そして現行の米国による高水準の支援について、既にケロッグ氏は不快感を抱いている。

同氏は次に挙げる複数の考察に関して、リチャード・ハース氏とチャールズ・カプチャン氏による23年の記事の功績であることを部分的に認めている。

前線を凍結

計画では停戦により前線を凍結し、非武装地帯を設置する。これに合意する見返りとして、ロシアには限定的な制裁の緩和を認める。全面緩和はウクライナにとって望ましい和平協定への署名が行われる場合にのみ実現する。ロシアのエネルギー輸出にかかる課徴金はウクライナの復興のために支払われる。ウクライナは占領された領土の返還要求を断念するよう求められはしないものの、返還は外交のみによって追求することで合意する。領土返還には「将来的な外交上の突破口が必要であり、恐らくそれはプーチン氏が大統領職を退くまで起こらない」という点をウクライナは受け入れるとしている。

魅力的なまでにシンプルで、敏速なアプローチだと言える。しかしそこにはロシア政府の今後の要求や、過去に用いてきた外交プロセスへの適応が欠けている。それは周囲を顧みることなく軍事侵攻を追求する、ロシアの姿勢に他ならない。前線の凍結は、そこに至るまでの数カ月間に非常な暴力を引き起こすだろう。ロシア政府は可能な限りの領土を奪おうとするからだ。クレムリン(ロシア大統領府)は過去に停戦を無視し、その領土的目標を果たそうとしたことがある。自分たちはしばしば平気でそれを否定するが。

非武装地帯では治安の維持が必要になる公算が大きい。ことによるとNATO軍や、他の中立国の兵士を双方の間に配備するのかもしれない。そのような体制を維持し、人員を充てるのは控え目に言っても至難の業だろう。国境線は長大で、何百キロにもわたって伸びている。財政投資も莫大(ばくだい)な規模に上るだろう。

ウクライナを一定程度武装させて現在及び将来のロシアによる前進を阻止するという施策も、同様に厳しいものになる。計画の指摘するところによれば、米国は155ミリ砲弾を月1万4000発生産するが、ウクライナ軍はその数をたった48時間で使い切ってしまうこともある。逆説的ではあるが、ケロッグ氏は米国にもっとウクライナを武装させて欲しいと望みつつ、現実にはそれが不可能だと認めてもいる。

今年2月、首都キーウへのミサイル攻撃で発生した住居ビル火災の消火に当たる消防士ら/Sergei Supinsky/AFP/Getty Images
今年2月、首都キーウへのミサイル攻撃で発生した住居ビル火災の消火に当たる消防士ら/Sergei Supinsky/AFP/Getty Images

価値観の変容

以下の二つの記述から、計画の策定者の考えに対するより広範な洞察が得られる。彼は国家安全保障にとって、米国第一の手法上、実際的必要性こそが重要だと説く。

「バイデン氏はトランプ氏のやり方をリベラルな国際主義者のものに置き換えた。それが促進するのは西側諸国の価値観と人権、そして民主主義だ」。この見解に基づいて欧州の安全保障を巡る妥協点を構築するのは相当に厳しい。

ケロッグ氏は加えて、ウクライナへの支援継続を批判する一部の人々についても言及する。その中には自分自身も含まれているようだ。同氏によればそうした人々は、「米国にとって極めて重要な戦略的利益がウクライナ戦争の中で危機に瀕(ひん)しているのではないかと不安を抱いている。米軍が戦争に関与するのではないか、米国がロシアとの代理戦争にのめり込むのではないかと懸念する。そうなれば事態は激化し、核による紛争を引き起こしかねない」。

上記二つの記述は、提案された取り引きの究極的な背景を示している。つまりウクライナの戦争にまつわる価値観を我が国が永続させる必要はなく、我が国としてはプーチン氏の核の脅威から距離を置くべきだとする見解だ。それは現行の西側諸国の結束とは対極に位置する。西側は自分たちの生き方と安全保障についての価値観を最優先している。根底にあるのは、譲歩によって独裁者を止めることは出来ないという1930年代の教訓だ。

計画はウクライナにとって、暴力に終止符を打つ歓迎すべき機会をもたらす。同国は現在全ての前線で敗北し、深刻な兵力不足に陥っている。状況を打開するのは不可能かもしれない中、一方のロシアは今後常に戦況で優位に立つ公算が大きい。

とはいえ、計画から始まる一連の流れは、狡猾(こうかつ)で不誠実なプーチン氏を喜ばせるだろう。停戦を利用し、西側の弱点に付け込むのは同氏の得意とするところであり、3年近くも待ち続けたのはまさにこの瞬間のためだった。計画は西側の戦争疲れを容認する。各国の兵器の生産は遅れがちで、掲げる価値観には無駄が多い。今後ロシアが展望を覆す行動に出た場合、対応は困難だろう。

計画は見通しの暗い戦争のために用意された、見込みの薄い妥協案に他ならない。しかし事態はそこで終わらず、新たな章を開くことになるのかもしれない。そこでは西側の結束と支援が崩壊し始める一方、プーチン氏が少しずつ成果を手にする。交渉のテーブルと前線の両方で、同氏は自ら掲げた目標へとさらに近づいていく。

本稿はCNNのニック・ペイトン・ウォルシュ記者の分析記事です。

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