家のなか、街の様子、社会のひずみ、時代や調度、上流階級など、背景が丁寧。人物コマのバックが真っ白なものが続くことは全くない素晴らしい文月先生クオリティ! 帰還したばかりの少佐の戸惑いが、大袈裟でなく描かれ、同時に、妻の毎日が志高く社会のため
に尽くす立派な行いに、十分理解を進めていく少佐が、柔らかい頭の持ち主であることを、日常生活復帰の過程で、見せて行く。
夜毎パーティなどのような贅沢はしていないヒロインの生き方は、自分の役割を社会の中で見つけた人間として美しい。
だが、夫がそれをどう思うのかは別。
家系を絶やさないことが何より求められる旧家名家の類に嫁ぐ女性というものは、子どもが出来ないと妻の座に長く居られなかった。そんな時代に、愛のみで生きていくストーリー。この夫の愛情は、妻に求められる務め、即ち、子を産むという役目が期待できなくても、些かも揺るがなかった。
むしろ、辛いときに共に居てやれなかったことを悔いた。自分が戦場で厳しい年月を過ごしてきたのに。自分の留守中に、思いもよらなかった変化があっても、それを少しの反発もなく受け入れて、妻のやることに暖かい同調と、むしろ出し惜しみしないレベルの協力。
当時の、一般には家名大事の自己中か横暴かが服を着ていた男性ばかりの中にあって、あり得ないほどの、恐らくお話の世界だから見いだせる神対応。
妻の意思を尊重し、夫婦としての夜さえも、妻の気持ちに沿って、待つ。一年待つつもりで気長に接して、ひたすら自分が受け入れられる迄我慢する。
女性の立場は強くなって今は当然のことでも、男性の庇護のもとで生きる時代には、きっと、かなり珍しい存在。だからこそ、ある夫婦のあり方を見せることでストーリーが成り立つ。
子を授からない前提と、慈善活動を精力的に行うのは、ヒロインには同じことでも、夫によっては捉え方も様々と思うが、この男性は満点だと実感した。
夫婦としてのストーリーなため、燃え上がる情熱とか、キュンとか、その方面のドキドキは、ナシ。
もっとみる▼