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ゼファー・コールレイン

登録日:2018/3/31 (土) 3:00:00
更新日:2023/01/20 Fri 23:37:59
所要時間:約 ? 分で読めます






“勝利”とは、何だ?






『ゼファー・コールレイン』とはlightから発売されたPCゲーム『シルヴァリオ ヴェンデッタ』の主人公である。
CV:ルネッサンス山田(PC版)/前田剛(CS版)



◆概要

職無し・金無し・やる気無しの典型的な駄目人間。義理の妹であるミリィに半ば養われながらヒモニート生活満喫中。酒は好きだが非常に弱い。
今でこそこんなんだが軍事帝国アドラーが誇る人造の超能力者星辰奏者(エスペラント)の一人にして、かつては帝国の軍部である黄道十二星座部隊(ゾディアック)、その中でも最精鋭の第七特務部隊裁剣天秤(ライブラ)の隊員であり、本当はやればできる子のはず。
少なくとも彼に親しい人間たち*1からは軒並み高い評価を受けているが、当人はそんな評価を受けていることを重圧に感じている模様。
定職にこそ就いていないがツテとその頃の経験を活かして臨時の仕事を請け負うこともあり、養われているように見える裏でミリィの為に数年間は食べるに困らないだけの金を貯めている。

貧民窟(スラム)生まれであり、姉*2であるマイナ・コールレインや同じ境遇の浮浪児たちと暮らしていたが、ある日突然マイナが行方を晦ませてしまい仲間たちは離散。ゼファーは貧困から逃れるため一人帝国軍の門戸を叩くことに決める。
星辰奏者(エスペラント)としての素養を見出された後は裁剣天秤(ライブラ)へ配属され、裁剣天秤(ライブラ)の先代隊長から素質を見出された為に彼の娘にして現隊長である『チトセ・朧・アマツ』と引き合わされ、彼女の相棒となる。

人狼(リュカオン)の二つ名で呼ばれ数々の”勝利”を手にする中、やがて先代隊長がある事情で死去した為にチトセが部隊長になった後には天秤の副隊長、階級としては少佐にまで昇進するものの、首都を襲った大虐殺*3を境に軍を脱走して今に至る。
軍内部からも白い目で見られる貧民窟(スラム)の出身者がそこまで出世できることなどそうそうあるものではなく、即ちそれは彼の優れた能力が評価された結果である。
では、そんなゼファーを軍から脱走させるほどに動かしたものは一体何だったのだろうか。











◆来歴


+ ある天才剣士「少佐は―――今の自分を後悔しているのですか?」
「ああ、全部な。俺は軍人には向いてない。笑えるだろう? こんな男が新世代の星辰奏者なんだから」*4
天秤におけるゼファーの任務、それは彼の持つ星の特性を活かした暗殺である。
彼はチトセの右腕として、日々命じられる任務をこなし続けてしまう。次々と、延々と、殺して殺して殺して―――勝利を積み上げていく。
暗殺という仕事は確かに彼に向いていたのだろう。周囲からの評価がそれを証明している*5
向いていなかったのだろう。勝利の度に彼の心は擦り切れ、摩耗していったのだから。

そんなある時、ゼファーはある要人とその家族の暗殺をチトセから命令され、表向きは対象の護衛として潜入、そこでミリィ(ミリアルテ・ブランシェ)という少女とその両親に出会う。
ブランシェ一家はゼファーを本当の家族のように受け入れ、彼らとの日常は限界を迎えかけていたゼファーの心を癒していくが、その一方で俺は殺さなくてはならない、でももう少しだけ一緒にいたいと彼は結論を先延ばしにしてしまう。悩んだ末に彼は…暗殺者は、いつもそうであるように、暗殺対象であるミリィの両親を殺害してしまったのだった。
しかし、その直後大虐殺が発生。一帯は炎に包まれる。ミリィは現場から離れた場所で彼の行った所業も見ることなく倒れ伏していた。ゼファーは無感動のまま、最後の暗殺対象にとどめを刺すべくその刃を振るおうとしたが…


「お兄ちゃん……生きてて、良かった」

「行っちゃ、やだ……やだよぉ……」


朦朧とする意識の中でゼファーをその目に捉え、そう小さく呟いたミリィはそのまま気を失ってしまった。
斬首の刃は止まったまま動かない。目の前の愚かな少女は、両親を殺した暗殺者の生存に心から安堵し、もう失いたくないと願っていた。
そして、ゼファーは遂に確かな信念を手に入れる。絶対にミリィを守り抜くという決意の元、彼は天秤から離反、たった一人でかつての同僚たちを皆殺しにした果てにチトセと敵対し、彼女の右目を抉り勝利したのだった。

事態の鎮静後は脱走兵という立場になったものの、ルシード、イヴと知人になり、彼らの協力者となることでミリィの身を守ることに成功した。


そんなわけでやればできる子で、しかもやる時は容赦なく(とことん)やるタイプなゼファーだが、本人の自己評価は凄まじく低い。自虐的なまでに低い。
あらゆる意味で自分という人間を悲観しており、自分を小物、落伍者だと自虐している。中でも自分が得る”勝利”という概念に対しては著しくその傾向が強い。

軍の精鋭部隊に入って貧民窟(スラム)の様な生活から抜け出したかと思ったら汚れ仕事ばかりを回される。
どれだけ技術を磨いて努力しても相棒であるチトセの万事に秀でた能力には及ばないという事実を突き付けられる。
死ぬ気で任務を成功させたらより難易度の高い任務ばかりが回される。
何がしかに勝利したら更に強い次の敵、更に困難な次の試練という連続を強いられ、戦い、勝ちを納めたのに一向に状況が好転しない。
誰しも現状をより良くしようと勝利や栄光を求めるはずなのに、自分に限ってはそれが自分の首を絞めていく。
勝てば碌なことにならない。そう、いつもいつも。いつもいつもいつもいつも……。
いつまでがんばればいい?苦しい時間はいつ終わる? 今勝っている、じゃあ次も勝てるのか? 戦闘において一手間違えればそれが死に直結するゼファーからすれば猶更である*6
英雄(ヴァルゼライド)でも女神(チトセ)でもない彼はその終わりなき苦痛に耐えられず、勝利しても救われない自分の在り方を倦み、勝利から逃げ出したのだ。
繰り返すがゼファーは帝国において間違いなく上位の星辰奏者である。
だが同時に怪物を目にして、俺はあんなものにはなれないし関わりたくもないと恐怖する凡人の一人でもあるのだった。




◆星辰光

狂い哭け、罪深き銀の人狼よ(Silverio Cry)



創生せよ天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星

輝く御身の尊さを、己はついぞ知り得ない。尊き者の破滅を祈る傲岸不遜な畜生王

人肉を喰らえ。我欲に穢れろ。どうしようもなく切に切に、神の零落を願うのだ

絢爛たる輝きなど、一切滅びてしまえばいいと、苦しみ嘆けと顎門が吐くは万の呪詛。喰らい尽くすは億の希望

死に絶えろ、死に絶えろ、すべて残らず塵と化せ。我が身は既に邪悪な狼、牙が乾いて今も疼く

怨みの叫びよ、天に轟け。虚しく闇へ吼えるのだ

超新星(Metal Nova)――狂い哭け、罪深き銀の人狼よ(Silverio Cry)


基準値 発動値 集束性 拡散性 操縦性 付属性 維持性 干渉性
D A C C C C D A


ネガティブ全開の詠唱で発動するゼファーの星辰光(アステリズム)「物体や空気を介する振動を操る能力」である。
発動体*7は大型のナイフ。
見ての通り発動値と干渉性以外が軒並み平均かそれ以下という一点特化の尖った性能だが、逆にD以下も基準値と維持性しか存在せず、非常に高い汎用性を持つ。
そして基準値と発動値が大きく離れているということは発動値に達する前と後では動きが全く異なるということであり、敵の意表を突くことが容易となる。
星辰光も振動という万物に影響を与えるものを対象とする能力なので、発想次第で応用の幅は多彩。
例えば
  • ナイフに振動を付属させ切れ味を上げる
  • 音の反響共鳴による索敵・攪乱・消音
  • 振動を送り込むことで身体の内側から破裂させる
など非常に多岐。シナリオライターからはこれらの特性の為に戦闘手数特化型と表されている。格ゲーで言うならばコマンドが何十種類も用意されている様なものとのこと。

欠点は発動値こそ高いものの基準値との差が大きいため、使用後の反動も大きいこと。
ゼファーに限らずこのタイプの星は長期戦を不得手とするが、前述の通り逆に言えば爆発力があるため短期決戦を得意とするので一概に欠点とも言えないが(本人は無理なく扱える方がいいに決まってるとか言いそうだけど)。
もう一つは汎用性が高い反面個別の適性はそれなり止まりなのでやりたいことにちょっとだけ足りないところ。
星辰光(アステリズム)はCが普通、B以上が優秀とされており、B以上の能力が複数存在していればその組み合わせを必勝パターン()として運用できる。
だがゼファーの場合高い汎用性が存在する代わりにそういった必勝パターンが存在せず、一々正確に次の手を見極めて行動しなければならないのである。考えて運用しよう!反動ある上に維持性低いから余裕もないけど!

そしてこの欠点こそが、ゼファーの自虐癖を加速させている大きな要因。
彼の相棒だったチトセの星辰光は全方面に優れた能力を持っており、欠点どころか優秀ではない部分が存在しない
チトセからゼファーへの評価は兵士としても異性としても特に後者についてはちょっとヤバイレベルで極めて高かったが、そんな彼女を間近で見続けた結果、ゼファー自身は「自分は万能型(チトセのよう)になれなかった落伍者。特化型などというのは言い訳にすぎない」という考えを持つ様になってしまう。
その上大虐殺の際、同じ特化型でありながら自分を遥かに上回るヴァルゼライドの力を目の当たりにし、自分は雑魚だという結論を出してしまったのだ。

しかし前述の通りゼファーはチトセに一度勝利を収めており、またヴァルゼライドの能力値(ステータス)は再星辰強化措置*8によってブーストされたものである。
加えて言えば、ヴァルゼライドの強さは星辰光(アステリズム)能力値(ステータス)等で語れるものではない。
はっきり言って、チトセはともかくヴァルゼライドについては比較対象にする方が色んな意味で間違っている。そんなヴァルゼライドを大真面目に自分と比較してしまうことは、寧ろ彼の能力の高さを示すものであるかもしれない。
生身の人間としては、彼は今も昔も帝国十指に入る星辰奏者(エスペラント)である。

またヴェンデッタと同調することにより、他者の星光に干渉する星殺しの能力が付与される。加えてヴェンデッタを通して莫大な量の星辰体が流れ込むため、身体能力も圧倒的に強化される。超強いよ!でも反動が上の通常用途の比じゃないくらい酷いのでゼファーとしては絶対に使いたくない代物。ヴェンデッタもヴェンデッタでスパルタなため同調を緩めてくれるなんてまずしないので尚更である。しかし物語の展開上これを使って乗り切らなければいけない場面しか迫ってこない。がんばれ


生首爆弾


「(分かるぜ、同僚が死ぬのは堪えるよなぁ。自分の無力で、見知った顔が粘土みたいに壊れていくのは、辛いよなぁ、苦しいよなぁ。だから、効果は覿面なんだよ。俺も体験しているからさ)」
「そして、おまえに次はない」

ある意味ゼファーさんの代名詞とも言える振動操作による応用技。
首から斬り落とした相手の頭部をその仲間に投げつけ、頭部を振動波で弾けさせて敵の意表を突く技。
突然の異常事態で戸惑う敵に奇襲を仕掛けて一気に仕留めるのがゼファーのパターン。
殺傷力は皆無だが、仲間の頭部が血と共に眼前で花火のように爆散するゴアすぎる状況になるため、仲間との絆が深い敵ほど有効に働く。
主役とは思えないあまりにも外道な所業を、任務のためなら心を鬼にして実行できるのがゼファーである。そりゃ仕事に嫌気を感じて心折れるわ



闇の竪琴、謳い上げるは冥界賛歌(Howling Sphere razer)



天墜せよ、我が守護星──鋼の冥星で終滅させろ

毒蛇に愛を奪われて、悲哀の雫が頬を伝う。眩きかつての幸福は闇の底へと消え去った

ああ、雄弁なる伝令神よ。彼女の下へどうか我が身を導いてくれ。蒼褪めて血の通わぬ死人の躯であろうとも、想いは何も色あせていないのだ

嘆きの琴と、慟哭の詩を、涙と共に奏でよう。死神さえも魅了して、吟遊詩人は黄泉を降る


だから願う、愛しい人よ──どうか過去を振り向いて

光で焼き尽くされぬよう優しく無明へ沈めてほしい。二人の煌く思い出は、決して嘘ではないのだから


ならばこそ、呪えよ冥王。目覚めの時は訪れた。怨みの叫びよ、天へ轟け。輝く銀河を喰らうのだ

──これが、我らの逆襲劇



超新星(Metal Nova)──闇の竪琴、謳い上げるは冥界賛歌(Howling Sphere razer)



基準値 発動値 集束性 拡散性 操縦性 付属性 維持性 干渉性
C AA B C C B C EX


ヴェンデッタルートにてゼファーとヴェンデッタが到達した、新西暦における第一の極晃星
本編でこれに至ったゼファー1は「星辰滅奏者」と称され、極晃星そのものは多くの場合「滅奏」と称される。

その能力は反粒子の生成。
相手の星辰体(アストラル)の一部を反星辰体(アンチ・アストラル)に置換することで、2倍や3倍の出力では相殺すら覚束ない圧倒的な相性差を実現する。つまりはどんな性質を備えようと星辰体である限り滅奏には勝てない。
発動値AAA・集束性AAAを誇るヴァルゼライドの天霆ですら話にならず、相性差を覆す可能性があるのは極晃に達した星のみ。

なお滅奏は星辰体を無効化するだけの所謂「異能を殺す異能」ではなく、星辰体の影響下にある全てのものに効果を発揮する。
星辰体の影響下から突如引き剥がされるという急激な環境変化に有機も無機も耐えられず、人も草木も鉱物も死に絶える。
星辰奏者の使う星辰体だけを殺すといった生易しい性質はなく、むしろ活動する星たる星辰奏者にこそ効果覿面。近づけば死ぬ。



◆本編の活躍

ある日、隣国のアンタルヤ商業連合国のトップたる十氏族の一角グランセニック家の御曹司にして己の親友そして負け犬仲間であるルシード・グランセニックから貨物列車の内偵調査を請け負うも、時同じくしてその貨物列車の調査の為に張り込んでいた己の古巣である裁剣天秤の星辰奏者三人と遭遇し、戦闘。
三対一の状態で「見ろよ圧勝できてねぇだろうが」とかほざきつつ発動値に達したら結局瞬殺して勝利した後に積み荷として搬送されていたヴェンデッタを意図せず起動させてしまったことで、帝国で進められていた巨大な陰謀に巻き込まれてしまい、ヴェンデッタを新しい家族に迎えながら彼女を狙うヴァルゼライドと魔星たちの襲撃を受けてしまう、というのが大筋。

その魔星たちや更なる上位存在である迦具土神壱型(カグツチ)とヴァルゼライドからは、これまで眠りについていたヴェンデッタ……死想恋姫(エウリュディケ)-No.β(ベータ)を起動させたことから、一方的に吟遊詩人(オルフェウス)と呼ばれることになる。
ヴェンデッタからは嫌な感覚を覚えながらも突き放すことが出来ず、また生来の臆病さから自発的に行動して状況を好転させようとすることも出来ないまま日々を送っていくが、
そんななかでも少しずつ前進し、「勝利とは何か」という己の疑問に少しずつ答えを見出していく。
そしてある時、ヴェンデッタと出会った日と同じようにルシードから呼び出しを受けて彼の邸宅に赴くも、そこには魔星達が待ち構えており……というのが共通ルート。
だがその後の顛末はルートによって大きく異なる。

チトセルートではチトセと共闘し彼女との関係を深めていく。しかし、私見だがこのルートのヒロインはゼファーではないかと思う。敵の罠に囚われたゼファーを助けんがため颯爽と駆けつけ圧倒する無敵のヒーローヒロインチトセ様だもの。
以降は彼女への想いを自覚し元鞘に納まる。だがかつてと大きく違うのは「女神を守る人狼」という誇りを抱き彼女の隣にいるということ。
ヴェンデッタのを巡りチトセと共にヴァルゼライドに挑むも終始圧倒されるが、武器を失いながらも喉笛を噛み千切り勝利する。

ミリィルートではミリィへの愛を胸に、人狼でも吟遊詩人でもないミリィだけを守る只人として生きることを選択。
魔星の襲撃を振り切り、ある一つの決着をつけた後は2人で国外に脱出する。

グランドルートであるヴェンデッタルートでは他のルートと同じく魔星を迎え撃つも、何より忌避すべきヴァルゼライドの参戦という悪夢が発生。
肩から脇腹を深く斬られると同時にガンマ線を叩き込まれるも立ち上がるが、その様な域の執念を発揮した結果ヴェンデッタとの同調があまりにも高まりすぎた結果死ぬ寸前になる。しかし直後に乱入してきたチトセと裁剣天秤によって救出され、その場は凌ぐ。

だがその後もヴェンデッタとの同調率は下がることがなく、ゼファーの肉体は流れ込む莫大な星辰体によって崩壊間際となってしまう。
猶予は最早なく、その為にゼファーは此処にきて自分から行動に出た。事の真相を問いただすべく、そして事態のこれ以上の進行を阻止するべく、ヴェンデッタとともにヴァルゼライド、そしてカグツチの居る政府中央棟(セントラル)へと真正面から突入したのである。
だがそこで自分やヴェンデッタ、そして大虐殺に巻き込まれた人々といった「犠牲には“勝利”で報いる」という全てを前向き(みらいのため)に切り捨てる姿勢を二人が取ったこと、そしてカグツチの放った言葉から彼らが自分の姉(マイナ)に何かをしたことを確信した為に激昂。
二人へと突撃するもヴァルゼライドによる反撃で両腕を斬り飛ばされ、当たり前のように確保され月乙女を手に入れ計画は最終段階へと移行。
星辰体をより強く制御する為の素材であるオリハルコン製の義手を取り付けられて制御(ぶたい)装置と成り果てたゼファーを蚊帳の外に置いたままヴァルゼライドvs魔星たちの連戦が開始。

一方、ゼファーはヴェンデッタと同調した夢の中で彼女の正体を知る。
それは、マイナ・コールレインを素体にした魔星*9月乙女(アルテミス)-No.β(ベータ)
マイナとは別人でありながら、しかし消え去るはずの彼女の人格を残した最大のイレギュラーであった。
そしてそのイレギュラーが生まれた理由。口にだすのも憚られる彼らの罪。
それは——。

+ ハンプティ・ダンプティ、塀の上。ハンプティ・ダンプティ、落っこちた。王様の馬と、王様の家来。みんな揃っても戻せないもの、なぁんだ?
答えは——卵

それは、マイナ・コールレインが、己を魔星の被験体とするべく目をつけていたヴァルゼライドの部下によって射殺される直前、弟であるゼファーを強姦して妊娠していたためだった。
浮浪児たちを養うべく、彼らに隠れて汚い仕事をしていたマイナはある日唐突に限界を迎えてしまい、罪悪感に苛まれながらもゼファーにはけ口を求めてしまったのだ。
魔星とは素体を改造して作り上げるもの。
だが、ゼファーとの間に生じた受精卵は素体(マイナ)ではない。紛れ込んだ砂粒がごときエラーが深刻なバグを引き起こした結果、ヴェンデッタの中には本来消える筈のマイナ本来の人格と、魔星(アルテミス)としての人格の二つが混在していた。
そして魔星としての意識は己の目覚めをマイナの人格に託し、ヴァルゼライド達の為に起動する気などないマイナはゼファーが、体内に宿った二重螺旋(いぶつ)の片割れにして唯一の外部起動コードの持ち主が目の前に現れるまで眠りに付いていたのだった。

その事実を知り、ヴェンデッタは、マイナは悪くない、彼女が追い詰められていたことに気づけなかった自分が悪い、暗殺任務の過酷さに軍に入って偉くなったら姉を探すという当初の目的を忘れた自分が悪い、何があっても傍にいる、俺はもう家族だけは裏切らない、全てを懸けて償いたい、お前が好きだヴェンデッタと告げるゼファーへと、ヴェンデッタは言う。とてもとても大切な願いがある、と。


「さあ−−その手で私を殺しなさい、ゼファー」

「そして、もう一度立ち上がるの。大切なものを守るために、ここで朽ちるのはよしなさい」

ゼファーとヴェンデッタの同調は進みすぎている。ヴェンデッタの側からは、ゼファーを精神世界から解放することが出来ない。そして、聖戦が発動してしまえばヴェンデッタの役割は終わる。役割が終わったならば彼女の機能は停止し、精神世界も崩壊してしまう。それだけではない。もし聖戦が発動しヴァルゼライドとカグツチの戦いが始まれば、両者は共に限界くらい何度でも超えてしまう。それが英雄譚(サーガ)の王道で、その余波のために何万という犠牲者(いしずえ)が発生するだろう、と*10。現実にまだ存在する大切なものを守りたければ、自分を殺してこの世界を出ろ、と。
だがゼファーは叫ぶ。

「——ふざけんな! 出来るわけがねえだろうがッ」

「今度こそ、家族と一緒に生きて死ぬ。あいつらみたいに諦めないのが、”勝利”なら——そんなものは糞くらえだッ」

愛する者を犠牲にして正しい道を突き進むなど、そんなものは英雄(ヴァルゼライド)神星(カグツチ)と何ら変わらない理屈だと断じ、そう叫ぶゼファー。
しかし、そんな彼を、ヴェンデッタは、マイナは嘘つきだと断じる。そんなものは、ゼファーの本当の気持ちではないと。そうしてゼファーは二人から拒絶されてしまう。

……だがしかし、そんな彼らの下へと現れた負け犬(しんゆう)が、命と引き換えにヴァルゼライドを追い詰めて政府中央棟(セントラル)の地下へと到達した親友が、最期の言葉(ひとおし)を投げた。


「ゼファー、もう止めよう――贖うなんて大嘘は。似合ってないぜ? 君、ヘタレなんだしさ。いいから全部丸ごとぶちまけちゃいなよ」


その言葉に目を覚ますゼファー。再び同じ場所に立った姉弟は最後の対話を始める。あの日言えなかったこと、ずっと隠していたこと。互いに想い合いながらもすれ違い傷つけ合った悲しさと無念を告白して―――



「俺……俺、姉ちゃんの……こと――本当はずっと――姉ちゃんのこと、怖かったよ……ッ」


スラムの絶望の中であり得ないはずの光と映った彼女の姿を、自分は何よりも恐怖していたことを、ゼファーは告白した。
謝るべきだったのはマイナが強さの裏に隠していた弱さを見抜けなかったことでも、傍にいられなかったことでもない。本当に償わなければならなかったのは、愛していた姉に本当の気持ちを言えなかった臆病さに他ならない。
死後に本当の意味でゼファーと通じ合ったマイナは、もう心残りはないと今度こそ無明へ旅立って行った。「あなたをずっと愛している」 穏やかに、それだけを告げて……。

そしてゼファーは答えを手に入れる。誰にとっても同じ、普遍的な意味合いで、”勝利”とはいったい何であるか。極論、人が生きていく上で勝つとはいったいどういうものか。その答えとは——。

「勝利とは、”気づくこと(・・・・・)”だ! 自分が今まで生きた過去を、あるがままに受け止めてやることだった……!」



“勝利”とは気づくこと、過去を受け容れることだったのだと。
数え切れない過ちがあった。あの時ああしていればという後悔があった。それらは決して消えないけれど、でも受け容れることはできる。嘆かなければならない理由も、目を逸らさなければならない理由も、逆に見つめなければならない義務さえ同時にない。ゼファーは誰に悲しめと命令されたわけでもないのだから。
無意味に生まれた自分たちは、無価値であっても生きていく。何の祝福を持たないままでも幸せになれる無常こそ、救いであり罰だった。自分の重ねてきた時間が生きてきただけで価値を秘めているものなのだと、思えたその時、人は何処へだって飛び立てる。

だからこそ、光から、泣いたことなどないままに涙を明日に変えると嘯いて、今ここにある全ての現実(せかい)を轢殺する者達から、愛しき罪と過去(せかい)を守るために。

彼は、ヴェンデッタの胸に刃を突き立てた。そして崩壊する精神世界と、ヴェンデッタの肉体。星辰体そのものへの干渉によってゼファーは彼女の身体とその魂を取り込んで——。


「さあ、逆襲(ヴェンデッタ)を始めよう」


「天墜せよ、我が守護星――鋼の冥星(ならく)で終滅させろ」


舞い戻るは死神の咆哮——
ここへ、冥界の闇に相応しい最後の魔星が産声を上げた。


創生——星を滅ぼす者(スフィアレイザー)
太陽系から放逐された闇の冥王星(ハデス)が、最悪最後の人造惑星(プラネテス)として冥府の底から表れた。
ヴェンデッタを取り込んだゼファ―……冥王は、聖戦を御破算にする怪物は、輝く光を滅殺せんと目覚め逆襲を開始する。


「闇の竪琴、謳い上げるは冥界賛歌」——新西暦最初の極晃星(スフィア)にして滅奏の力。
発現せし星殺し、遍く星辰光(いのう)の源たる星辰体の反粒子を作り上げて全ての星辰光を消し去る冥王の闇は殺塵鬼、氷河姫を一蹴し英雄へとその矛先を向ける。



「貴様は、何だ。いったい、何を我々は生み出してしまったというのだ!?」


「それこそ、今さら何を言う。俺たちは、運命の車輪に紛れた小さな小さな砂粒だよ」

「おまえ達に比べれば取るに足らない、過ちを犯しただけの幼く惨めな姉弟だ。つまるところ負け犬だな。さして珍しいものじゃない」


「だが、それがすべてを狂わせた」


「運命を破綻させたのは、結局のところおまえ達自身の過失だろう。――失敗したな……ヴァルゼライド」


「未来を愛する余り、あらゆる過去を切り捨てた……その結末がこれなんだ」

踏みにじってしまったもののためにも、未来という全体幸福を尊び続けてしまったこと……。
間違っていない、何もおかしくはない。自分に比べればとても立派な正論だ。
——で、だから?

愚者(おれ)は嫌だ。分かるか? そんな強さは、嫌なんだよ」


「さあ、刮目しろ――これが俺たちの逆襲劇(ヴェンデッタ)。勝者の栄光を踏みにじる、敗者の牙と知るがいいッ!」


「ゼファー、コールレイン……!」




ヴァルゼライド、お前は正しい。
それまで踏み躙ってしまったものたちと同じように、マイナとゼファーの犠牲も無駄にはしないと、より多くの幸福のために走り続けた。
だが彼らの行動によって恩恵を受けるその他大勢ならともかく、犠牲になった者からすれば、それがいくら正しくとも認められるものではない。結局、ゼファーのこともマイナのことも、彼らはただの犠牲者(だれか)の中の一人だとしか思わなかった。
あらゆる困難を物ともせず、只管前だけを見て走り続けてきた英雄の背に、滅ぼしたはずの敗北者が追いついた。
闇が光を飲み込んだ。ヴァルゼライドはここに生涯最初で最後、そして最大の敗北を刻み込まれるのだった。

だが、ヴァルゼライドを取り込み光と光の重ね掛けという反則によりカグツチが復活、ゼファーと同じ「極晃星」へと到達する。
闇が齎す圧倒的な相性差すら覆す気合と根性出力の無限上昇によって互角の勝負を演じるも、彼らは自分自身の存在を星辰体へと変換。自らを特異点の一部になるという勝利を捨てた逆襲により、カグツチを斬首し逆襲譚を遂げた。



光を滅ぼし過去を守ることには成功したが、肉体を捨てたために地上に帰ることはできない。
光と闇が去った世界で、少女(ミリィ)は愛する家族の帰りを待ち続けるのだった……






◆余談

人気投票の結果は6位。ルシードやアスラの次点にあるあたり、やはり主人公としては好みが分かれるキャラクターだったようだ*11
だが『ラグナロク』発売後に行われたシリーズ全キャラ総選挙ではなんと2位に入賞した。

声はルネ山だが別にゼファーは観測者の触覚でもなければヴァルゼライド自滅因子でもない。ただしヴァルゼライドとゼファーは似通いながらも正反対という自滅因子とその宿主の様な精神性を持っており、シルヴァリオ ヴェンデッタの劇中でも度々彼らは似た者同士であるという指摘がなされている。

ゼファーもヴァルゼライドも貧民窟(スラム)という極限の環境で少年時代を過ごしたためか端的に言って邪魔者(ひと)排除する(ころす)のが極めて上手い人間であり、その様な能力を持っていることを含めて己自身を人間としては塵屑だと蔑んでいる。
そしてその様な自虐的な精神状態にあって尚、自分が一度やると決めたなら必ずそれを実行するし、その為に必要ならば我が身を省みずに挑み、凄まじい苦痛でも乗り越える。擁する星辰光も一点特化型で、肉体には強烈な反動が掛かるもの。違いが在るとすれば、ヴァルゼライドは平然と苦痛を乗り越えるがゼファーは悶えながらも結局は乗り越えるというくらいだろう。
そんな彼らに対して周囲の人間は全肯定できないながらも高い評価を下し、当人自身はそんな評価は不釣り合いだと感じてしまう。卑屈であると同時に強固極まる意志とそれを実行に移せる強い力を持った者同士なのだ。

ただしヴァルゼライドは未来と全体幸福をこそ肯定し、ゼファーは過去と個人への愛情をこそ肯定する。
だからこそヴァルゼライドは自分の周囲にあった全てを切り捨てて国家の頂点まで上り詰め、ゼファーはミリィを守るために己の地位を捨て去った。
少なくともゼファーはヴァルゼライドに対して行き過ぎてはいたが間違っていたわけではなく、彼らの行動が誰かの為になっていたのは間違いなく事実だと考えていたが、守りたいと願うものは全くの真逆。そうであるが故に、彼らは不倶戴天の敵同士でもあるのだろう。







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最終更新:2023年01月20日 23:37

*1 先述の最精鋭部隊の隊長、後に技術的ブレイクスルーを齎す天才技術者の卵、帝国暗部が生んだ人造兵器、帝国の諜報網を一手に握る歓楽街の女王、隣国のトップに立つ十氏族の一人の御曹司など錚々たる面々。続編では更に増える

*2 CS版では義理の姉とされる

*3 魔星と呼ばれることとなる、それぞれ殺塵鬼(マルス)、氷河姫(ウラヌス)という名で呼ばれる正体不明の二体の超兵器の襲撃

*4 ある要人の暗殺を、一切の痕跡を残すことなく、ただの一撃で頚椎を断ち切り完全無欠の鮮やかさで終了させた直後の言葉

*5 常人でありながら星辰奏者とすら互角以上に戦いおおせる天才剣士は彼の暗殺技術を目の当たりにしたことで “自分では完成された星辰奏者には勝てない”と絶望し、軍からの脱走の際には「あなたほどの方が」とまで嘆く部下すら存在していた

*6 後述するが彼の能力は非常に汎用性が高いが、高すぎるためにかえって使いづらく、特化した強みを持つ相手に対しては正確に打つ手を選ばなければ負けてしまう。そして彼は命懸けの戦いの中で自分の判断を尽く信じられるほど、自分自身が好きではない

*7 星辰奏者が能力を発揮するのに必要な物体で、多くの場合武器。アダマンタイトという特殊な金属で出来ている

*8 死亡率九割以上とされる手術。この重ねがけにより、ヴァルゼライドは収束性を1ランク、基準値と発動値、付属性を2〜3ランク向上させている

*9 または人造惑星とも表記し、どちらもプラネテスと読む。素体である人間の死体にオリハルコンを組み込んで作り上げた、リビングデッドとも言うべき生体兵器。素体が持っていた強い衝動など人格の核心部分は受け継ぐが、生前の人格そのものは本来残らない

*10 はっきり言ってこの見立てすら凄まじい過小評価。シナリオライターのコラムでの発言によると、実際には地球全てを含めた太陽系そのものが焼き尽くされ、新しい宇宙が構築される

*11 次回作の主人公はぶっちぎりの1位に輝いている