登録日:2024/03/17 Sun 21:39:17
更新日:2024/12/03 Tue 22:37:55
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我を崇めよ。
破壊の魔神・加藤保憲!
魔都で激突する超能力!
人類の終末を予言する超娯楽大作!
━━━━これが映画だ。
帝 都 物 語
『帝都物語』は、1988年1月30日に公開された日本のSF映画。
東宝株式会社製作・配給。
【概要】
85年より発表されて話題となっていた博物学研究家・作家の荒俣宏の
同名著作を題材として、映画監督でもある林海象が脚本化。
『
ウルトラマン』シリーズ等での、一癖も二癖もある演出でカルト的な人気を得てきた実相寺昭雄が監督を務めた。
尚、実相寺以下の中核スタッフも『ウルトラマン』シリーズに携わってきた人間が多く、視覚効果を担当した中野稔も、撮影担当の中堀正夫との共同インタビューの中で、本作は「“円谷的SFX”の発展型と呼べる作品だった」と自ら分析している。
当時のレートで10億円の予算がかけられ、原作での『神霊篇』から『龍動篇』までを、当時の国内で考えられる最高の特技効果(VFX)により忠実に再現されている。
ただし、全体的にシナリオの密度が濃すぎて物語や時系列、人物関係が分かり難くなってしまっている面135分もあるのに……や、VFXは凄まじくとも画面が暗すぎたり、本来は解説や理解の為の専門知識が必要となるような要素や用語についても映像作品としての不自然さやテンポを損なわないように基本的に説明が無視されていることもあってか、原作(コミカライズ含む)を知らない初見さんにとってはワケワカメな作品であることは否めず、
配給収入は10億5000万円(この年の日本映画配給収入の第8位。)と辛うじて制作費を越えているものの、その他の宣伝費を鑑みれば赤字作品だったと思われる。
……が、上述の通りで原作を知っているorオカルトに超詳しい人間にとっては、間違いなく80年代最後期にして、当時の日本特撮作品史上で見ても過去からの技術の蓄積が生んだ渾身の傑作と呼べるのは間違いないので、是非とも視聴の際には事前知識を得てから見ていただきたい所。
原作小説でもいいが、映画以前に執筆された藤原カムイによるコミカライズもちょうど同じ所まで描かれているので入門篇&映画版のガイドブックとしては読みやすいかも。}
シンボルキャラクター(主役にして敵役)である加藤保憲を演じた嶋田久作は、本作が映画(というか映像作品全般の)初出演となった。
そもそもの役者人生のスタートが29歳と遅咲きであり、本作への出演時点では新人と呼べるキャリアだったものの、異相と長身もあってか舞台では
強烈な個性を放っており、所属していた劇団(東京グランギニョル)が『帝都物語/ガラチア』を上演したことが本作の企画の実現に奔走していた関係者の目に止まり抜擢されることになった。
本作への出演以降はその強烈なビジュアルが世間に浸透し、直接に映画を見ていない層にまで名前と顔が売れることになり、原作者の荒俣の希望で映画以降は加藤のイメージは嶋田を元にしたものに統一されている。
また『
ストII』時代の
ベガなど、加藤(嶋田)をモチーフとしたキャラも多くがオマージュ的に生み出されていくことになった。
【物語】
━━明治45年。(1912年)
近代に入り、西洋文化を積極的に吸収すると共に急速に先進的都市として生まれ変わった帝都・東京。
しかし、更なる発展を遂げようとしている帝都を破壊せんと企む魔人の存在があった。
一千年前に無念を抱いて散った平将門公の魂を怨霊として復活させ、帝都を灰燼に帰さんとする其の者の名は加藤保憲。
陸軍少尉として籍を置きながらも正体不明の加藤は、卓越した呪法の力を以て将門公を怨霊とするべく暗躍していたのだ。
加藤が標的として狙うのは将門公の直系たる辰宮家……その中でも特に霊的素養が高い辰宮由佳理。
彼女を、将門の霊の依代にしようというのだ。
加藤に対抗しようとする総帥・平井保昌に率いられた土御門家の陰陽師達だが、加藤の外法により道場の結界が破られ、由佳理の兄である洋一郎や平井の弟子でもある作家・幸田露伴らの眼の前で由佳理は加藤に拐かされてしまう。
━━大正12年。(1923年)
結局、目的こそ達成したものの今は時期ではないとして加藤が姿を消してから10年以上が過ぎていた。
海を越えた大連の地にて地脈を動かした加藤は、計が成ったとして今度こそ怨霊・将門の目覚めを見るために日本へと帰国。
平井の、自らの命を賭して加藤による帝都破壊の日の予言を受け取っていた露伴は奇門遁甲を用いて加藤の進軍を阻止しようとするが力及ばずに術は破られる。
いよいよ絶体絶命かと思われたが加藤を止めたのは意外にも自らの目覚めを望まぬ将門公の霊であった。
……しかし、夜が明けた大正12年9月1日正午少し前(1923年9月1日11時58分)
予言されていた亥の年。亥の月。亥の刻。に大連より連なる地脈を通り増幅された地震波が襲来……関東大震災が発生する。
目論見通りに東京は破壊されるが、荒野と化した地に将門公が復活しなかったことに失望しつつも尚も執念を燃やす加藤の姿があった。
━━昭和5年。(1930年)
震災から数年を経て、着々と復興が進む帝都だったが、その裏で再び加藤の暗躍が顕在化。
加藤と縁のある者達、加藤とは縁はないが未来の為に帝都の発展を臨む者達は其々のやり方で加藤との戦いに赴く。
帝都・東京の行く末を決める戦い、ここに極まる!
【主要登場人物】
■辰宮洋一郎
演:石田純一
若き大蔵官僚として登場後、時代を跨ぎつつ帝都改造計画の実行を担いつつも将門公の末裔として加藤に立ち向かう。
尺の都合か妹の由佳理との道ならぬ関係が見てるだけでは解りにくいかも。
■辰宮由佳理
演:姿晴香
洋一郎の妹。
霊媒的素質を持つ辰宮家の中でも特に霊的感能力が高く、血縁的にも将門公の依代に相応しいとして加藤に狙われ、実際に誘拐されることになる。
……その際に蠱毒により生み出された腹中蟲を宿らされるに留まらず、加藤の胤をも仕込まれていた筈であったが……。
失礼な話は承知だが、演者が当時の不倫は文化や冬彦さんよりも年長なので娘時代や妹設定に違和感を感じてしまう絵面に。
■目方/辰宮恵子
演:原田美枝子
相馬俤神社の宮司の娘であり、父親よりの言いつけにより幼き日より帝都を破壊せんとする怨敵と戦うことを宿命付けられ修行に励んできた。
来る日を前に洋一郎の妻となり、将門の末の血が呼び寄せた神馬に乗って加藤との決戦に赴くが行方不明となる。
■辰宮雪子
演:山本清美
由佳理が加藤に拐かされ救出された後に出来た子供。
それ故にか母親譲りの強大な霊能力者としての素質を持ち、父である加藤に新たな依代として狙われる実は、洋一郎と加藤に犯された後の由佳理の間に生まれた呪われた不義の子。しかし、それ故に加藤の呪縛から逃れられた。
■幸田露伴
演:高橋幸治
作家。
魔術師としての卓越した才能を持ち、平井保昌の直弟子として秘術をも授けられている。
元は官職にあったからか国家の中枢にも顔が利くようで、最前線にて長きに渡り加藤と対峙する。
■鳴滝純一
演:佐野史郎
洋一郎の友人。
由佳理に淡い想いを寄せていたが……。
■平井保昌
演:平幹二朗
安倍晴明の末たる陰陽寮を預かる土御門家の総帥。
一族郎党の力を以て加藤に対抗していたが力及ばず、最期には自らの命を捨ててまで加藤による帝都破壊(大震災)の日を露伴に知らせようとするが、それすらも果たせずに死を愚弄される。(亥の年。亥の月。亥の刻。の予言は加藤自らが残していった。)
■寺田寅彦
演:寺泉憲
異端の物理学者。
若い時分より異彩を放ち、突飛ながら先進的な意見を期待されて渋沢翁の催した帝都改造計画にも参加していたが、その時には地下都市計画の構想を話して笑われていた。
震災後に東京地下鉄の創始者・早川徳次(演:宍戸錠)にその知識を見込まれると共に再び渋沢の下に。
地下鉄道予定地にて辰宮家とは別に加藤と戦う。
■今和次郎
演:いとうせいこう
考現学者。
復興後の東京の足跡を路肩に腰を下ろしての思いつくままの筆記という形で残している。
寺田と仲がよく、早川に紹介される。
■黒田茂丸
演:桂三枝(現:6代目桂文枝)
風水師。
地脈を見る術を操ることから、独自の方向から加藤の起こそうとしている異変へと辿り着き、その中で洋一郎や恵子と邂逅。
二宮金次郎像に模した要石を置くなど加藤の企みを妨害しつつ、最後の戦いに向かう恵子の援護をした。
■西村真琴
演:西村晃
異端の生物学者であり、東洋初のロボット“學天則”を生み出した。
本作の“學天則”はデザインが実際の物とは少し異なり、更には自らの意思すら持っている描写すら見られる人造人間と呼ぶに相応しい存在となっている。
工事途中の地下鉄坑内に放たれた加藤の式神を破る為に“學天則”の力を貸してくれるように寺田達に依頼されて快く応える。
尚、本作で西村真琴博士を演じた西村晃(
二代目黄門様で
マモー)氏が、本物の西村博士の実子(次男)である……というのは、本作の有名なトリビアである。覚えておこう。
■泉鏡花
演:坂東玉三郎(特別出演/松竹)
当時を代表する作家だが、当人の趣味なのか劇中では独自の絵柄のタロット占いをする易者もどきとして登場。加藤一派以外で年齢を重ねていないように見える唯一の人物。
■渋沢栄一
演:勝新太郎
日本の経済界を支える傑物であり、帝都を自由競争経済の一大都市とするべく帝都改造計画を打ち出し、様々な有識者を集めていた。
……チョイ役なのだが、演者が大物すぎて誰よりも先に名前がクレジットされている。
■赤巾の女
演:中川比佐子
加藤の腹心である謎の女。
■加藤保憲
演:嶋田久作
本作のラスボスにして主役。
将門公の意思を継ぐと嘯きつつ帝都破壊を目指し、自在に式神や人知を越えた外法を操る魔人。
原作に於いても謎めいた人物であったが、映画版は映像作品であるという都合上、色々と端折られているためか更に謎が多い上に謎行動を繰り返す謎人物となってしまっており、ぶっちゃけ嶋田久作の存在感が九分九厘……位の扱いになってしまっている。
後の原作の描写に先駆けて、劇中の18年の時間経過でも年齢を重ねた様子が見られない。
ちなみに嶋田氏は鳴滝役の佐野氏と付き合いが長く、本作のしばらく前には俳優活動の合間に一緒にバンド活動もしていたそうな。
【オープンセット】
本作の撮影の為に昭島市の昭和の森に総工費3億円を投じて3000坪分に及ぶ新宿4丁目から新橋方面の物語の設定当時の町並みを再現。
街中を走る路電も2千万円を投じて再現された。
更に、述べ3000人にも及ぶエキストラを使って当時のファッションをさせた上で画面に登場させており、その時代考証の緻密さと自然な画面構成の説得力も注目を浴びた。
豪華なロケセットは同年公開の『花のあすか組!』にも流用された。
【クリーチャー】
加藤の操る式神や呪法により動き出した阿修羅像等、小さい物が殆どとはいえ50体を超すクリーチャーが登場している。
クリーチャーの動きは人形アニメーターの真賀里文子が担当。
尚、登場クリーチャーの中でも一際に異彩を放つ護法童子のデザイン案を担当したのは『エイリアン』のコンセプトデザイナーとして知られるH・R・ギーガーによるもの。
ギーガー当人は映画内全てのデザインをすることを希望していたのだがスケジュールが合わず護法童子のデザインのみに留まり、結局はコンセプチュアルデザイナーとしてのみクレジットされることになったとのこと。
そうした経緯もあってか、実際に護法童子のデザインは他のクリーチャーとは一線を画した異質な物になっている。
【VFX】
クリーチャーの動きに人形アニメーションが用いられていることからも解るように本作ではCGの類などは用いられておらず、火薬やミニチュア等を利用した特撮技術により撮影されている。
その為に危険な撮影もあったらしく、特に特撮を伴った撮影が多かった加藤役の嶋田は両手を火傷→撮影後に病院直行といった場面もあったとか。
【余談】
- 前述のように本作以前にも劇団に所属して舞台では演技の経験があった嶋田だが、加藤役が決まる前には既に劇団の活動停止に伴い演劇活動は休止して本業と捉えていた庭師をしており、加藤役が打診された際も「親方に確認してから」との返答だったというが、結局は親方より役者業に進むことを薦められて加藤役を引き受けると共にその後のキャリアを築くことに。本作の時点では舞台での経験を含めても新人と呼べるキャリアだったので監督の実相寺は相当にイラついたというが、本作以降は実相寺作品の常連となっている。
- 元々、原作者の荒俣宏が加藤のモデルとしてイメージしていたのはミュージシャンの立花ハジメだったというが、本作の撮影現場にて嶋田と出合って以降は“嶋田の演じる加藤”に惚れ込み、文庫化に際して加藤の描写を嶋田のイメージに書き換えている。因みに、本作では荒俣先生もビリヤード場のシーンでカメオ出演しているので探してみよう。
- 本作の続編として翌年に『帝都大戦』が製作されている。ただし、比較的に原作に忠実に作られた本作が映画としてはワケワカメになった反省からか、次回作では原作ファンが期待した本作から継続した原作の映像化ではなく、全くの別物となっている。
追記修正は将門公を目覚めさせてからお願い致します。
- キャスト陣がすごい。スーパー特撮俳優大戦 -- 名無しさん (2024-03-17 22:06:17)
- ↑その辺全てぶっ飛ばしたのが、ほぼ新人の主演俳優である嶋田久作というね。確かにインパクトある面構えだものなぁ -- 名無しさん (2024-03-18 18:41:14)
- ↑ 個人的には身体つきも怖かった。気味悪いほど細長いんだもんよ -- 名無しさん (2024-03-18 18:49:19)
- 初代ライチだもんな、嶋田久作 -- 名無しさん (2024-03-18 20:34:10)
- ベガのモデルって鷲崎じゃないスか?まあ鷲崎のモデルは加藤やから似たようなもんなんやけどなブヘヘヘへ -- 名無しさん (2024-03-19 03:47:44)
- クリーチャーデザインを全てギーガーが担当してたら、絵面も予算もさらに凄くなってただろうな -- 名無しさん (2024-12-03 22:37:55)
最終更新:2024年12月03日 22:37