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緋色の研究(小説)

登録日:2021/05/28 Fri 14:41:57
更新日:2024/10/11 Fri 00:30:42
所要時間:約 3 分で読めます





There’s the scarlet thread of murder running through the colourless skein of life, and our duty is to unravel it, and isolate it, and expose every inch of it.

(人生という無色の糸カセには、それを貫く殺人という緋色の糸がある。我々の務めはそれをほぐし、選り分け、隅々まで暴き抜くことだ)



─── A.Conan Doyle「A Study in Scarlet」より引用



【概要】


緋色の研究/A Study in Scarletはアーサー・コナン・ドイルの長編小説。1887年初版発行。
ドイルの生み出した名探偵シャーロック・ホームズが初登場した記念すべき第1作目。

本作は2部構成。ワトソンとホームズの出会いの場面から始まり、彼が目覚ましい活躍を見せとある殺人事件を解決するまでを描く。
本作自体がワトソンが残した回顧録から復刻された小説という設定で、第2部は犯人が被害者を殺害するに至った動機を描く形式がとられている。
なおこの2部構成方式は、後に『恐怖の谷』でも使用されている。

アニヲタ的な面で言えば『名探偵コナン』において冒頭の台詞が『ホームズの黙示録』『名探偵コナン ベイカー街の亡霊』などのエピソードや劇場版作品でも引用されているので、『緋色の研究』をまだ読んだことの無い人も台詞だけは知っているだろう。

ちなみに、本作では後半実在の宗教が登場しているが、それに関する描写が古かったり実態に即していなかったりとある意味失礼な書かれ方もされている。
このため、少なくともここ数十年程はそのままの実写化は実現しておらず(一応1910年代にあったそうだが)、リメイク作『SHERLOCK』で本作を元にした『ピンク色の研究』が制作された際も、動機は変更されたし第2部は扱われなかった。
また日本で制作されたNHK人形劇版『シャーロック ホームズ』では、ジャンルを学園ものに変更したのもあり、短編『六つのナポレオン』と合わせて『最初の冒険』としてリメイクされた。
ただ「明確なビジュアライズ」をしなければこの問題をクリアできるということなのか、2020年には毛利亘宏演出による「ホームズとワトソンによる二人芝居の朗読劇」として披露されている。

+ 以下、第2部のネタバレに付き注意!(注:本作は19世紀後半に書かれたフィクションです)
本作の事件の切っ掛けは、平たく言うと「モルモン教がアレな戒律を持ち、それを自由に生きたい街の住人にも支配のため押し付けたから」。
しかも、作中でその戒律強制を命じたのは実在したモルモン教の指導者(史実ではソルトレイクシティ創設者にして『エンダーのゲーム』原作者の先祖)というおまけつきで。

もちろんフィクションである以上実際のモルモン教とは関係無いだろうし、一方でその戒律自体はかつてのモルモン教に実在し(本作の2年後に廃止されている)指導者自身がその最大の影響力を持つ実行者だったが、
それでも被害者がかつてモルモン教の教義と命令を大義名分にして非道を働き、そのせいで真犯人から恨まれて殺されたというストーリーと、実在宗教内の実在貢献者が事件の遠因というのは、
末日聖徒イエス・キリスト教会がそれなりに普及し本拠地でも2002年に冬季五輪が開催される程栄え、日本にもまとまった信徒コミュニティがある現代では扱いづらいだろう。

また「被害者がモルモン教徒だったら戒律で禁止されている酒を飲むはずねーだろ」等、本拠地から見て異国の地イギリスで書かれたゆえのリアル戒律への無知も指摘されている。多分ネット時代だったら速攻で出版社に批判が届いていただろう。


【あらすじ】


アフガン戦争で受けた負傷と病気のため、ロンドンで静養していた元軍医・ワトソンは、生活資金が底をつきはじめた事から安い賃貸を探していた。
昔馴染みの医師スタンフォードからシャーロック・ホームズを紹介されたワトソンは、彼とルームシェアをする事に決める。
ワトソンがアフガニスタンから帰還したのを初対面を果たして間もなく言い当てたホームズに驚きつつも、親交を深めていく二人。

そうする内に、ホームズの元に手紙が届く。「イーノック・ドレバーという男が不可思議な状況で死んだ事件の解決に知恵を貸してほしい」というものだ。
ホームズはスコットランドヤードのレストレードとグレッグソンからの依頼を承諾し、ワトソンと共に現場へ赴き一通りの調査をする。
そして
これは殺人事件で被害者は毒殺され、犯人は男」だと断定したばかりか、その男の人相まで言い当てたのだ。

果たしてホームズはいかにしてそれらを推理したのか、そして犯人はいったい何者なのか。
ワトソンは事細かにそれらの詳細をメモしていた──



【登場人物】



お馴染み名探偵。
スタンフォードが勤務する病院で化学実験に明け暮れていたところをワトソンと出会う。
ベイカー街221Bに下宿することを考えていたが、敷金の高さからルームシェアをする相手を探していた。
長年の習慣により一足飛びで結論を出してしまうためワトソン達を驚かせるが、順序だてて解説することも出来る明晰な頭脳の持ち主。

  • ジョン・H・ワトソン

ホームズの相棒。
軍医としてアフガン戦争*1に赴くが、左肩を撃たれた*2上に病院では腸チフスにかかって生死の境をさまよった末、静養のためにイギリスへ送還された。
しばらくはホテルに住みながら浪費しまくっていたが、そのせいで生活費が心もとなくなり、ホームズとルームシェアを始める。
(ここでいうホテルとは我々がイメージする「旅行時の宿泊施設」ではなく「高級なアパート」に相当する。こちらのホテルも同様。
当初はホームズの能力を疑問視していたが、その活躍を見届けて感銘を受けたワトソンはある決意をする……。

  • レストレード

スコットランドヤード(イギリス警察)の警部。
グレッグソンと張り合っているが、彼ともどもホームズの後塵を拝している。
壁に書かれた「Rache」という血文字を発見し、犯人は「レイチェル(Rachel)」という女だと推理するが、
ホームズからは「『Rache』はドイツ語で『復讐』という意味だ」とあっさり言われてしまう。
一方で後半で事件の犯人を確保した際、警察署での事情聴取の内容を手帳に速記しており、その速記はワトソンも自身のメモの参考にするほど正確だった。

  • トビアス・グレッグソン

スコットランドヤードの警部。グレグスンとも。
レストレードに対し並々ならぬ敵対心が窺えるが、作中では残念な活躍ばかり目立つ。

  • ジョン・ランセ

死体の第一発見者で巡査。
深夜警戒中に空き家に明かりが点いていたことから怪しみ、死体を発見した。
犯人らしき人物を見逃したためホームズからは「出世できそうにない」と言われてしまう。

  • ウィギンズ

「ベイカーストリートイレギュラーズ」のリーダー格である浮浪者の少年。
なお「イレギュラーズ」は他にも何人か登場するが、固有の名前が出てくるのは彼のみだしフルネームも不明。


被害者。訳により「ドレッバー」とも。
ローストリン・ガーデンの空き家で死亡していた。
外傷はないにもかかわらず、部屋には血の跡があった。
かなり横柄で下品な人物だったらしく、大陸旅行中に宿泊した宿の娘に手を出そうとしたらしい。

  • ジョセフ・スタンガーソン

ドレバーの秘書。スタンガスンとも。
ドレバーと比べて物静かな人物で、ドレバーの行き過ぎた行動を静止していた。

  • アーサー・シャルパンティエ

グレッグソンが逮捕した容疑者。
ドレバーが宿泊していた宿の息子。海軍中尉。妹に粉をかけたドレバーに憤慨していたらしい。








【疑問点】

本作に限らずホームズ作品の多くに言えることだが、作者は細かい考証よりもアイディアと物語としての面白さを重視している節があり、そのため後世の読者からは様々な疑問が提唱されている。
以下はその一例である。

+ ネタバレに付き注意
  • 第1の殺人事件の現場となった建物の扉は施錠されていたのだから、犯人は鍵を持っていたはずだ。そうなると、前にジェファーソン・ホープの馬車に乗って空き家を見にきた客が鍵を持っていたということで第1の容疑者となるはずだが、警察もホームズもまったくその点について考慮している様子がない。
  • ジェファーソン・ホープがベイカー街221B番地に呼び出されたとき、何の疑いも抱かなかったことは不自然である。彼は同じ住所に老女に扮した友人を送り込んでおり、前日に金の指輪についての新聞記事を読んだ直後にその住所を忘れてしまうとは考えにくい。仮に忘れていたとしてもそれは結果論であり、覚えていてなんの不思議もない以上、そんな場所に彼を呼び出そうとするのは不用意で危険な試みである。
  • そもそもジェファーソン・ホープは、文字通り殺したいほど憎悪している敵がルーシーに贈った唾棄すべき結婚指輪を、なぜ後生大事に持っていたのか。砕くなり溶かすなりして跡形もなく処分してしまいたくなるのが普通ではないか。実際、「こんなもの」をはめられたまま埋葬はさせないと言って、死体の指から抜き取っているのに。




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最終更新:2024年10月11日 00:30

*1 発表年代等や作中での時代設定から、1878年に開戦した『第二次アフガン戦争』とされる。

*2 後の作品では足を負傷した事に変更されている。

*3 「末日聖徒イエス・キリスト教会」のことで、ソルトレイクシティの開拓&本拠化も史実通り。俗称は聖典のひとつ「モルモン書」に由来する。