登録日:2011/07/02(土) 04:06:51
更新日:2024/09/03 Tue 23:32:33
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「この世には不思議なことなどなにも無いのだよ、関口君」
●中禅寺秋彦
京極夏彦の同一世界観による小説作品「
妖怪シリーズ」の主要登場人物の一人。
同シリーズの柱となるキャラクターの一人にして、所謂ミステリーに於ける「名探偵」の位置にあるキャラクターである事から、概ね主人公として扱われる事も多い。
……が、実際の役割は狂言回しとして物語を完結させる事であり、また事件を解決では無く、解体する彼の手法は「
憑物落とし」と呼び現されている。
その目的も犯人の指摘と事件の解説を目的とする一般の推理小説に対して、
物語を通じて蔓延し読者にすら取り憑いた悪しきモノに「妖怪」と云う形を与えて落とす事を目的とする。
馬鹿馬鹿しい程に宗教や民俗伝承、故事来歴に精通した博学者。
また、言葉を操る呪術者にして徹底的な現実主義者であり、作者の思想を代弁する分身でもあるが、
シリーズに於ける主人公、また分身であるとの意見に付いては作者自身が過去のインタビューにて明確に否定している。(流石に象徴的なキャラクターであるためか、メディアミックスも進んだ現在ではメインヴィジュアルとして扱われることが殆どの為に、主人公と呼ばれることについては否定しなくなってきているが。)
少なくとも、シリーズが進んで以降は作者は自身と中禅寺との間に一線を画して描写している様である。
また、シリーズが進む事に意図的に劇中での登場の機会を減らされているのでは?……と邪推してしまう程に物語の最後の最後まで登場してこないことすらある。
【人物】
中野にある古書店「京極堂」の主人で、年齢は三十代半ば。
当時としても時代遅れと評される和装の痩せぎすの男で、器用であるが力は無い。
二年前までは高等学校の教師をしていた。
店には関口曰く「達筆なのか下手なのか能く判らない」と評された主人自らの筆による『京極堂』の額が掛かっているらしい。
小説家の関口巽は高等学校の同窓。
探偵・榎木津礼二郎は一級先輩に当たり、彼らを始めとしてシリーズに登場して来る多くのキャラクターと親交がある。
彼の仇名である「京極堂」は二年前より経営を始めた古書店に因んだ名称なのだが、
関口を始めとした古い友人(知人)らも現在は彼をそれに因んだ名称で呼ぶのが常である。
尚、古本屋を始めた契機は「四六時中、趣味である読書に没頭出来る」と考えたからであり、
事実、古書店経営を始めて日が浅いにもかかわらずに地方の古書肆との親交が窺える辺り、元々は客としての付き合いがあったと考えられる事は難くない。
また『鵼の碑』ラストでは、直接的名称こそ出さないものの古本屋としての師匠筋は『書楼弔堂』シリーズの「書楼弔堂の主人」だと話の中でさらっと明かしている。
不機嫌を通り越して「凶相」とすら喩えられる仏頂面の持ち主で、かなりの皮肉屋にして詭弁家。
相手を馬鹿にする時に片眉を上げる癖がある。
大正時代の文士の様な見た目とも評されており、作家・芥川龍之介の有名な写真にそっくりらしい。
【裏稼業】
上記の様に中禅寺の現在の本業は古本屋だが、先祖からの家業として実家の隣にある「武蔵清明神社」の神主と云う役目があり、
恐らくは中禅寺の家系はその役目から派生したのであろう「憑物落としの拝み屋」と云う更なる裏稼業を持つ。
……これは、呼んで字の如く呪術を操る業の事だが、
本シリーズではこの業の事を世界を顕す言葉を操り、世界を自由に壊し、また創造し、世界を在るべき姿に戻す業……と説明している。
……この様に書いてしまうと、シリーズを未見の人間には中禅寺が怪しげな業を使う呪い師の様に思えてしまうであろうが、
中禅寺は作中の登場人物の中でも特に合理的な現実主義者であり、
割り切れない現実を言葉に顕す(※即ち呪文である)事で均衡を取り戻そうとする人物として描写されている。
……それこそが、本シリーズをミステリーと云うジャンルの中でも特異な位置付けに置かれる原因であり、そして今も色褪せない、強烈な独創性の理由でもある。
非常に善く通る声の持ち主であり、この言葉こそが中禅寺の最大の武器(呪文)なのである。
シリーズの起点となった『
姑獲鳥の夏』以降は主に友人(知人)達の願いに応えて重い腰を上げるのが基本形になっているが、
以前より拝み屋の仕事を通じて刑事事件に関わる事が多かったらしい。
こうした因縁は、現在も増え続けている真っ最中であり、本人も自身の行いの悪さに苦笑する場面もある。
……実際、本シリーズに於いて「妖怪」の姿を浮かび上がらせる「事件」は、積み重ねられた「因縁」や「齟齬」がギリギリのバランスで危うい「日常」を保たせていた……。
という、ことも少なくないためか、それを強制的に「解体」してしまう「憑き物落とし」を行うことを、その中で生きていた人々のことを鑑みて善しとはしていないようである。
……尚、戦時中には友人(知人)である関口などは中禅寺が余りにも病的な見た目であった事から徴兵はされていなかったのだろうと思い込んでいたのだが、
実際には内地徴集され、秘匿されていた「陸軍第十二特別研究施設」にて異教徒を国家神道に改宗させる宗教的洗脳実験の研究をやらされていた。
……本人曰く「楽しい仕事じゃあなかった」との事で、
当時からの因縁が幾度か事件に関わって来た事(『
魍魎の匣』や『
塗仏の宴』等)もあるが、いずれも厭な思いをしている。
また、かつての中禅寺の血に連なる者の中にはこの業を悪用する者も居た様だが……それは、また別の物語である……。
【仏頂面】
※本シリーズを代表するお遊びの一つで、毎回中禅寺の仏頂面が登場時にやけに仰々しく紹介されているのが特徴である。
■親戚全部が死に絶えでもしたような仏頂面 『
魍魎の匣』
■町内会の人間全部が死に絶えたかのような仏頂面 『
狂骨の夢』
■まるで日本が滅んでしまったかの如き仏頂面 『
絡新婦の理』
■三千世界が滅んでしまったかのような悪相『
陰摩羅鬼の瑕』
■艦隊を全滅させた海軍指揮官のような不機嫌な顔『陰摩羅鬼の瑕』
■葬式を二十ばかり梯子したかのような極め付きの仏頂面『
邪魅の雫』
■まるでどこか病んでいるかの如き不健康そうな顔『
百器徒然袋 雨』
■宇宙の終わりが三回続けて訪れたような凶悪な顔『百器徒然袋 雨』
■余程酷いことでもなければこんなに凶相にはなるまい『鵼の碑』
■久住の知人で、財布を落として困り果て、夜通し歩いて漸う家に帰り着いたところ自宅は火事で全焼しており、唖然としているところに借金取りがやって来た――と云う散々な目に遭った男が居たが、その時の彼は丁度こんな顔をしていた『鵼の碑』
【家族・交遊関係】
下北半島の生まれで七歳で親許を離れた後、祖父の手で育てられたとの事。
妹の敦子によれば情はあるが絆が薄いらしく、中禅寺と敦子が初めて出会ったのも中禅寺が十八の時の事だと云う。
妻。敦子が預けられていた京都の菓子司の娘で、一見西洋人風の和装の美人。
大学卒業後にすぐに結婚したが子供は居ない。
陰険な主人とは真逆の良く出来た人で、道や坂に異様に詳しい。
年齢の離れた妹で、義理の姉である千鶴子の実家である菓子司「京極堂」で育つ。
尚、古書店の店名は中禅寺がここから勝手に戴いたものであるらしい。
本シリーズを代表するヒロインである。
高等学校以来の古い友人(知人)である小説家。
褒め甲斐は無いが貶なし甲斐はあると云う本人の性格の所為か馬鹿にする事を常としているが、なんだかんだで仲が良い。
シリーズを代表する語り部で、この二人から物語は始まったのである。
高等学校時代の一級先輩で、中禅寺は榎木津の「唯一下僕で無い仲間」と言われる。
中禅寺が榎木津の特異体質に気付いたのが親交を結ぶ契機であったと云う。
【演じた役者】
■映画
●演:堤真一
◆『姑獲鳥の夏』
◆『魍魎の匣』
■ラジオドラマ
●声:高嶋政宏
◆『百器徒然袋 雨』
◆『百器徒然袋 風』
※そのあまりにもねちっこい喋り方に衝撃を受けたリスナーからは「高嶋堂」と呼ばれている。
■ドラマCD
●声:
津田健次郎
◆『百器徒然袋 雨』
◆『百器徒然袋 風』
■アトラクション
●声:
石田彰
◆『京極堂 逢魔の闇』(京極夏彦による書き下ろし作品)
※2012年に八景島シーパラダイスを皮切りに各地で開催。
■舞台
●演:荻須夜羽
◆『魍魎の匣(1999年初演、2001年再演版)』
◆『小袖の手/鬼一口~匣ノソトデ(百鬼夜行 陰)』
◆『狂骨の夢』
●演:橘ケンチ
◆『魍魎の匣(2019年版)』
※荻須版『魍魎の匣』は原作に忠実であると云うコンセプトの結果、三時間半の超大作になっている。
■ミュージカル
●演:小西遼生
◆『魍魎の匣』
◆『鉄鼠の檻』
■朗読劇
●演:京極夏彦
◆『五徳猫 疾風怒濤ヴァージョン・猫抜き(百器徒然袋 風)』
※榎木津礼二郎との兼役。
【余談】
『
名探偵コナン』コミックスカバー袖に掲載されているミニコーナー「青山剛昌の名探偵図鑑」は、
古今東西、更には出版社の壁をも超えて様々な作品の探偵役が描きおろしイラストと共に紹介されているが、53巻では中禅寺秋彦が紹介されている。
ちなみに青山氏は『姑獲鳥の夏』がオススメとの事。
マンガ『
ぬらりひょんの孫』の登場キャラクター「花開院竜二」は
不機嫌そうな表情をした黒い和装の陰陽師、言葉を弄しての戦術、書斎での描写と云った要素から京極堂がモデルだと目されている。
作者の椎橋寛は連載中に雑誌の巻末コメントにて、京極夏彦に会った旨を報告しているため、このキャラクターに関しては京極夏彦公認である可能性が極めて高い。
『ゲゲゲの鬼太郎』第4期TVシリーズのエピソード『言霊使いの罠!』に登場する「
一刻堂」は、
作者の京極夏彦自身が声優を務めた「京極堂」を思わせるファン必見のゲストキャラクターである。
キャラクターデザインは京極夏彦自身で、デザイン案はファンによる同人誌が元ネタともされる。
尚、同話には被害者役として「木場」「関口」の名も登場している。
これ以降、自作の映像化等の際に京極夏彦が特別出演する機会は多いのだが、それも頷ける程の本職顔負けの演技を見せている他、
「この世には不思議なことなど何もない」の決め台詞も聞ける。
中「追記は拝み屋の仕事じゃあないな……君達がやり給え」
- 作者本人が演じるいっこく堂が一番それっぽい声色でかっこいい件w -- 名無しさん (2014-10-24 06:48:56)
- 対談集で、中禅寺を百鬼夜行シリーズの主人公と発言してたけれど -- 名無しさん (2015-02-03 16:30:50)
- 仏頂面の説明パワーアップしとるw -- 名無しさん (2020-05-29 16:52:47)
- 『百器徒然袋 風』での榎木津礼二郎を演じる作者を想像できない -- 名無しさん (2023-09-27 14:51:19)
- ワイの中で安倍晴明と並んで好きな怪異の専門家(拝み屋、古書店主人、陰陽師) -- 名無しさん (2023-09-27 19:10:52)
最終更新:2024年09月03日 23:32