養殖魚が世界で存在感を増している。天然魚の代替品とみなされがちだが、今や世界の漁業生産量の半分以上を占める。供給と価格は年間を通じてコントロールされ、ブリは国内の卸売市場で天然物よりも高値がつく。その実力をデータで探ってみよう。
天然魚は旬が近づくと卸値が上がるが、水揚げも増えるので値崩れしやすい。一方、養殖魚は生産計画に基づいて出荷の量や時期を調整している。ブリの旬は12〜1月。養殖ブリは1月に入ると出荷量が急減するため、旬を過ぎても卸値が下がらない。天然物の脂の乗りが悪い夏には養殖物の方が高くなる。
世界の漁業生産量は20年間で6割増えた。最大の理由が養殖量の急増だ。2014年は1億114万トンと94年の3.6倍に膨らんだ。生産量全体に占める割合も13年に51%に達し、初めて漁獲量を上回った。中国やインドネシアでは養殖が7〜8割を占める。生産量が減少傾向にある日本でも、養殖の割合は高まっている。
日本の漁業生産量に占める養殖の割合は2割強だが、魚種によっては圧倒的に養殖物が多い。ウナギはほぼ全量、マダイは8割を養殖が占める。クロマグロは近年、資源保護の観点から漁獲量が急減。養殖物の割合が7割近くに達している。人工飼育下で産まれた卵から稚魚を育てる「完全養殖」は、マダイではすでに定着。ブリやクロマグロも商業生産が始まった。ただウナギは生態に謎が多いこともあり、今も研究途上だ。
養殖は沿岸の海面で幼魚を育てる「海面養殖」と湖や沼で育てる「内水面養殖」に大別される。海面養殖の代表格であるブリ、マダイは温暖な海域での養殖が盛ん。冷たい海水を好むホタテガイの養殖は北海道や北東北に集中している。内水面養殖は大きな湖沼や川がある、または地下水が豊富な地域で盛んだ。
養殖業と漁船漁業のコスト構造はそれぞれ大きく異なる。会社形態をとる事業者の支出内訳をみると、養殖はコストの7割をエサ代が占める。一方、漁船漁業は販管費に含まれる役員報酬などを合わせると約4割が人件費。2割近くが燃料代だ。養殖業はエサの原料となる魚粉の国際価格に収益が大きく左右される。