今回は塩野七生氏の「ローマ人の物語」を要約していきます。15は「パクス・ロマーナ」の中巻です。アウグストゥス(旧オクタヴィアヌス)が着実にローマ皇帝としての地位・影響力を確立していくプロセスを記述しています。アウグストゥスが統治中期に成しえた様々な政治制度改革は現代の政治経済のシステムの基礎・お手本になっているものも多く、本書では珍しく戦争や人間の政治劇に関する記述がないものの非常に読み応えのある内容となっています。
「ローマ人の物語15」
■ジャンル:世界史・歴史小説
■読破難易度:低(非常によみやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとわかりやすくなります。)
■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方
・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方
≪ローマ人の物語11・12(ユリウス・カエサル・ルビコン以後)は下記≫
■要約≪ローマ人の物語11≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪ローマ人の物語12≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪ローマ人の物語13≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪ローマ人の物語14≫ - 雑感 (hatenablog.com)
≪参考文献≫
■ローマ人盛衰原因論
■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)
【要約】
■アウグストゥスによる帝国内部の制度改革
・本書はローマ皇帝アウグストゥスの統治中期(紀元前18~紀元前6年)にフォーカスした内容となっております。統治中期には主に少子化対策・軍事制度再構築・税制整備・分権化に注力します。
・少子化対策:婚姻関係以外の異性関係に関する処罰を定める法律と貴族階級における規定の年齢で結婚していないと不利になる法律を制定し、間接的な少子化対策を実施します。
・国防・軍備:カエサルにより実施された北部国境ラインの拡充・強化(アルプス山脈→ライン川)への拡大および周辺民族の掃討・融和の為の出兵を実施します。加えて、防衛のための常備軍設置と兵士の勤務条件向上(20年で任期を区切り退職金制度を設立、植民地への移住or地元自治体役人ポストへのキャリアパス整備)の仕組を整備することでミリタリーとシビリアンの併存・カエサル時比の大幅な兵力減で広大なローマ帝国の統治をする仕組みを可能にしました。常備軍の構成はローマ市民による軍団兵と属州市民による補助兵で構成され、併存することで軍備を通じて属州のローマ化を進めるという間接的な狙いも存在しました。具体的にはイベリア半島・ゲルマン民族との国境を持つローマ北部・ガリア東部・北アフリカ・エジプト・シリアを中心に配備します。更にカエサルが定めた周辺民族との国境であるライン川からゲルマン民族のいる土地を超えた先のエルベ川にすることを意思決定し、執政官ドゥルースス・ティベリウスを派遣して大業を成しえようと模索するフェーズに入ります。
・経済:関税・ローマ貨幣を用いたローマ帝国内部の通商活動の整備・促進が進み(現代のEUユーロのようなもの)、属州税に加えて相続税を創設して経済活動を阻害しない形で国の税収を安定確保する仕組みを整備しました。
・分権化:アウグストゥスはイタリア半島を11の州に分割して統治する方法を取り入れ、首都ローマを14の区に分割統治するようにして、現代のアメリカ合衆国や東京都のマネジメント手法に通ずるような分散統治・政治人材育成機能を構築しました。細かな所では現代でいう国土交通省や消防庁といった公共分野における専門組織の設定・警視総監といったポジションの新設も行っています。
■アウグストゥスを支えたキーマン
・アウグストゥスはカエサルに才能を見出されて政治の中枢に踊り出ることになりますが、それを陰で支えた相棒が2名いました。武におけるアグリッパと知性におけるマエケナスです。アウグストゥスは元来病弱で、軍事面においても才能・実績に乏しいものをカエサルが見出だしたアグリッパに権限移譲することでローマにおけるリーダーシップをはることのできる実績を構築していました。屈強な男であったアグリッパが紀元前12年に51歳で死去してしまい、同じく陰でアウグストゥスを支えたマエケナスにも先立たれてしまう悲劇に直面します。マエケナスはアントニウスを始めとしたカエサル死後、ブルータスなどが暗躍する混乱期にいたステークホルダーとの外交を一手に引き受けて対応する外交術を展開し、平衡感覚と先見性のある知見をもってオクタヴィアヌスがアウグストゥスになった後も助言・精神的な支えになっていました。
・上記2名に先立たれるのに加えて自分の息の根のかかった若き後継者候補であるドゥルースス・ティベリウス兄弟ともうまくコラボレーションできないという悲劇に見舞われます。ドゥルーススは29歳で執政官に就任し、ゲルマン民族掃討作戦においてもユトレヒト(現オランダ)から東部に侵入してゲルマン民族をゲルマニアまで推し進める躍動を指揮しました。ドゥルーススはアウグストゥスが注視していた名家の子息でしたが、行軍中に不慮の落馬事故による急死を遂げてしまいます。相対的にアウグストゥスとの関係性に乏しいティベリウスのみが残り、ゲルマン民族掃討作戦における軍事上の解釈の違い・自身の親族含む関係性の悪さも拍車をかけてティベリウスは後継者レーンに乗る政治的な要職から自ら離脱するということに陥ってしまいます。こうした一連の流れを踏まえて57歳のアウグストゥスは支援者・後継者の基盤がぜい弱な状態になりながらローマ皇帝としての統治終盤を迎えることになります。
【所感】
・現代の政治経済のシステムに通じる考え方はローマ帝国の時代に既に確立されていたことがわかり、それらはカエサルは勿論、本パートの主人公であるアウグストゥスにより構築されたものであるということが衝撃的でした。核は抑えて分散統治・文化はそれぞれの個性を重んじるといった帝国全体における統治システムも非常に先進的であり、考えさせられる内容です。
・自分に出来ること出来ないことを明確に理解しており、謙虚さや節制を重んじる態度を強く持ち合わせていたからこそアウグストゥスはカリスマ性に欠けてもこれだけの偉業が出来るのであるということを深く知ることが出来る内容でした。一方で後継者育成や軍事における軽率な意思決定など自身の弱点や拘りが一瞬の足かせになるということもあることを見るともっと凡である自分は日々の振る舞いに気をつけないといけないよなと戒めになる記述も多く目立ちました。
以上となります!