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兵庫の田園地帯で「幻の弾丸列車」用地を探してみた 手がかりは清算事業団の図面

東京~下関間を結ぶはずだったものの、幻に終わった高速鉄道計画「弾丸列車」。遅くとも20年ほど前までは買い手がつかずに放置されていた旧建設用地を訪ねてみました。

それは「小額物件」だった

 いまから1年以上前の2017年4月のこと。私は実家の物置で自分の荷物を整理するため、昔集めた鉄道関係の本やきっぷなどが詰まった段ボール箱を次々に開封していました。そのときに出てきたのが、日本国有鉄道清算事業団の『小額物件の図面集』です。

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東海道新幹線は戦前の弾丸列車計画で着工したトンネルや買収した建設用地を活用したが、写真の山陽新幹線では買収した建設用地をほとんど使わず建設された(2011年10月、恵 知仁撮影)。

 国鉄は1987(昭和62)年4月に分割民営化されましたが、民営化後の新会社が引き継がなかった土地は国鉄清算事業団が引き継ぎ、その売却益が国鉄の長期債務償還に充てられました。そのスキームがうまくいかなかったことは、とりあえず脇に置いておきます。

 都市部の土地は比較的高額で売却されたものの、なかには廃線跡の線路敷など、どう考えても高額では買い手がつきそうにない物件も多数ありました。物置から出てきた『図面集』は、そうした物件をまとめたもの。1995(平成7)年10月から売りに出された300万円以下の土地(71件)の図面が収録されていました。

 この『図面集』をどこで手に入れたのか、全く記憶がありません。1995(平成7)年10月ごろの自分の行動範囲や時期から考えると、おそらくは日比谷公園(東京都千代田区)で開催されたイベント「第2回鉄道フェスティバル」で配布されていたものと思われます。

 そのなかでとくに興味をひかれたのが、「曽根(弾丸列車)(1)」「曽根(弾丸列車)(2)」と記された物件でした。

点と線がつながった!

 いわゆる「弾丸列車」とは、東京~下関間を結ぶはずだった戦前の高速鉄道計画のこと。用地買収やトンネル工事などが進められたものの、戦局の悪化に伴い1943(昭和18)年度に中止されました。戦後に建設された東海道新幹線は、弾丸列車計画で建設されたトンネルや買収した土地を活用しています。

 一方、山陽新幹線は弾丸列車とは異なるルートで建設されました。弾丸列車用として買収された土地のほとんどは戦後、元の所有者に返還もしくは売却されたようです。ただ、さまざまな事情から返還、売却されずに国鉄に残った土地もあり、分割民営化時に国鉄清算事業団が引き継いだのです。

 国鉄清算事業団が弾丸列車の旧用地を「弾丸列車」という名称で販売していたこと自体は、以前から知っていました。ただ、戦前の国鉄線を運営していた鉄道省は「弾丸列車」という言葉を正式には使わず「新幹線」と呼んでいましたから、物件名に「弾丸列車」が使われているのは不思議です。たとえば「新幹線用地」といった名前だと、現在営業している新幹線の線路の近く=騒音が大きいというイメージになり、高く売ることができなくなると考えたのでしょうか。

 それはともかく『図面集』に収録された住所情報や物件の図面を確認してみると、「曽根(弾丸列車)(1)」は兵庫県高砂市の阿弥陀地区にある小高い丘の北西側斜面(946平方m)。「曽根(弾丸列車)(2)」は、その反対側になる南東側斜面のすぐそばにある平地(169平方m)のようです。場所は「阿弥陀」なのに物件名が「曽根」とは少し変ですが、この物件に一番近い国鉄の駅が山陽本線の曽根駅だったためかもしれません。

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「曽根(弾丸列車)(1)」(左)と「曽根(弾丸列車)(2)」の位置図。小高い丘の北西側と南東側に売却対象地の位置が描かれている(出典:『小額物件の図面集』)。

 このふたつの土地を地図に点で落とし込んで直線で結び、南東側にそのまま1.5kmほど直線を伸ばしてみたところ、国道2号加古川バイパスにぶつかりましました。この道路は弾丸列車用地を活用して建設(正確には1950年代に売却され、建設省が再買収)されたもの。阿弥陀地区の物件が弾丸列車用地だったことは、間違いなさそうです。

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弾丸列車のルート。国道2号加古川バイパスの先に『図面集』に収録されていた物件がある(国土地理院の地図を加工)。

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Writer:

鉄道誌の編集やウェブサイト制作業を経て鉄道ライターに。2020年から鉄道ニュースサイト『鉄道プレスネット』所属記者。おもな研究分野は廃線や未成線、鉄道新線の建設や路線計画。鉄道誌『鉄道ジャーナル』(成美堂出版)などに寄稿。おもな著書に『鉄道計画は変わる。』(交通新聞社)など。

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