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米半導体大手NVIDIA(エヌビディア)が発表した最新の高性能車載チップ「DRIVE Thor」の量産開始が遅れている。これにより同社は中国の主要顧客を失うリスクにさらされている。
もともとThorは2024年中に量産が始まる予定だったものの、その計画は大幅に遅れ、「車両への搭載は25年中、それもエントリーモデルに限られる見込みだ」と関係者は語る。これを受けて、中国電気自動車(EV)メーカーの小鵬汽車(Xpeng Motors)はThor採用計画の棚上げを検討しているという。
2024年3月に開催された世界最大級のAI技術カンファレンス「NVIDIA GTC 2024」で、小鵬汽車は間もなくリリースする新型EVの「頭脳」としてThorを採用すると発表した。11月に発売したAI搭載EV「P7+」にもThorの採用を検討していたが、量産開始が延期となったため、最終的にNVIDIAの第2世代車載チップ「Orin」が採用された。
目下、小鵬汽車は独自の自動運転用チップ「図霊(TURING)」の開発を急ピッチで進めており、すでにテープアウト(設計完了)を終え、チップの安定性や性能を検証する段階に入っているという。
中国EVメーカーの蔚来汽車(NIO)にも、2025年に「Thorを採用する動きはない」という。李斌CEOは過去に、同社が23年に調達した自動運転用チップは、NVIDIAの世界出荷数の46%を占めると語っていた。蔚来汽車の23年販売台数は16万台で、車両1台にOrin4枚を搭載すると、年間のチップ購入数は64万枚となり、NVIDIAが同年中に販売したOrinはざっと見積もっても130万枚以上に達する計算になる。
その蔚来汽車も24年7月には、自社開発の自動運転用チップ「神璣NX9031」のテープアウトを完了している。25年に発表する新型車には自社製チップかOrin、もしくは地平線機器人(ホライズン・ロボティクス)の車載チップを搭載する予定で、小鵬汽車と同様にThorは選択肢に入っていないという。
小鵬汽車と蔚来汽車という大口顧客をつなぎ止めることはできなかったものの、比亜迪(BYD)や極氪(ZEEKR)、理想汽車(Li Auto)などの中国EVメーカーはいずれもThorの採用を公表している。
市場はThorに大きな期待を寄せており、NVIDIAのデータセンター事業に続く第2の成長曲線を描くものと見込まれていた。しかし直近の2024年8~10月期決算を見ると、売上高350億ドル(約5兆5000億円)のうち、車載チップ事業はわずか1%にとどまっている。
自動運転機能の普及が進むにつれて、車載チップのニーズが日増しに拡大している。中国では、老舗メーカーも新興勢も自動運転機能の搭載を目標に掲げており、2025年には15万元(約320万円)クラスの中価格帯モデルにも導入される見込みだ。現時点では、NVIDIAが市場を獲得するうえでOrinが大きな役割を果たしている。しかし、新製品Thorの量産延期で顧客が離れていけば、25年の車載チップ事業の業績に影響が及ぶだろう。
中国ではホライズン・ロボティクスなどが実力をつけているほか、自動車メーカーによる独自チップ開発の流れが加速しており、順調にいけば2025年中に続々と車両への搭載が始まる可能性があることを考えると、Thorへの包囲網は狭まりつつあると言える。自動車市場の競争が白熱するなか、メーカーは材料コストの管理を徹底するようになり、消費者もコストパフォーマンスを意識するようになった。こうした厳しい環境のなか、NVIDIAが高い利益率を保つのは容易なことではないだろう。
*1元=約21円、1ドル=157円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)
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