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"くるみ"をはじめとするオメガ3脂肪酸が豊富な食品の摂取は、 アルツハイマー病の予防に大きな役割を果たす可能性が最新研究から示唆されています

キーワード: 協会・賛助会員関連ニュース

 cwc24fig01rr.png認知症とアルツハイマー病に関する医学専門誌『Alzheimer's & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring』掲載の最新研究で、くるみをはじめとするオメガ3脂肪酸が豊富な食品の摂取は、アルツハイマー病の予防に大きな役割を果たす可能性が明らかになりました1。  くるみは、体内で生成されず食品から摂る必要がある必須脂肪酸であるオメガ3脂肪酸(α-リノレン酸=ALA)をナッツの中で唯一豊富に含む食品です。今回の研究では、くるみをはじめとする植物由来のオメガ3脂肪酸「α-リノレン酸(ALA)」は、脳の主要な領域におけるグルコースの取り込みを高めることが解明されました。グルコースは、脳がエネルギーとして唯一利用できる物質です。グルコースの取り込みの低下は、アルツハイマー病の症状が現れる前の特徴的な変化であり、グルコースの取り込みの低下が抑制されることは、アルツハイマー病の進行が抑制されることを示しています。

カリフォルニア くるみ協会

認知症は日本だけではなく、世界的な公衆衛生対策上の課題

 現在、認知症は日本だけではなく、世界的な公衆衛生対策上の課題となっています。

 内閣府の『令和6年版高齢社会白書』によると、2022年の日本における65歳以上の認知症の高齢者数は443.2万人(有病率12.3%)、軽度認知障害*(MCI;Mild Cognitive Impairment)は558.5万人(有病率15.5%)、日本における認知症に占めるアルツハイマー型認知症の割合は67.6%と推計されています2
*軽度認知障害:認知症ではないが、認知症と健常の中間に位置する状態

 また、厚生労働省より発表された認知症患者の将来推計の最新研究では、認知症の高齢者は2040年には584万2000人にのぼると報告されており、高齢者のおよそ15%、6.7人に1人が認知症と推計されます3-4。なお、本研究が実施されたスペインでも認知症は社会課題となっており、スペインでは10人に1人が認知症を発症し、その最大原因の60~70%はアルツハイマー病が占めることが報告されています5

研究の概要

 本研究は、スペインで実施されているアルツハイマー病患者とその家族を対象とする縦断研究(ALzheimer's and Families study;ALFA研究)の参加者から、遺伝的にアルツハイマー病のリスクが高いものの、認知機能の低下を示していない320名を対象に実施。参加者の血中のオメガ3脂肪酸濃度を測定するとともに、陽電子放出断層撮影(PET)検査により脳内の各領域のグルコースの代謝を測定しました。さらに参加者が回答した、検査より数週間前の食事に関する自己記入式の調査票を分析し、脂肪酸が多く含まれる食品の摂取量を推定しました。本調査票の記入データが不完全な参加者と摂取総エネルギー量が基準外の参加者249名は、解析対象から除外した上で、最終解析が実施されています。

 そして本研究結果では、解析対象となった参加者全体の傾向として、くるみをはじめとする植物性食品由来のオメガ3脂肪酸であるα-リノレン酸(ALA)が、脳の主要な領域におけるグルコースの取り込みを高めることが明らかになりました。なかでも、アルツハイマー病のリスクが高い遺伝的背景のある参加者は、より顕著な傾向を示しました。一方で、海産物由来のオメガ3脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)は、いまだ発症はしていないものの、アルツハイマー病特有のタンパク質(アミロイドやタウと呼ばれるタンパク質)の蓄積がすでに始まっている参加者のみ、同様の効果が認められました。

 同研究結果について、デルマール病院医学研究所の主任研究員であるアレイス・サラ=ヴィラ博士は、「くるみをはじめとするオメガ3脂肪酸を豊富に含む食品が、アルツハイマー病の前兆となる脳内の変化を抑制する可能性があるという考えを、今回の結果がさらに支持するものだと捉えています」と述べています。

 アルツハイマー病のような退行性変化を呈する疾患は、その兆候や症状が高齢になるまで現れにくい傾向があります。そのため、若いうちから取り入れやすく、また栄養バランスのとれた食習慣、例えばオメガ3脂肪酸を豊富に含む食品(くるみや脂ののった魚など)を積極的に摂取することで、認知機能の維持や退行性疾患の予防につながる可能性が期待できます6

 なお、本研究結果から、本研究対象とは異なる人々にも当てはまるかどうかを確認する必要があります。また、食品からのα-リノレン酸(ALA)の摂取量と脳内でのグルコース代謝の関係において、くるみが単独でどの程度寄与するかを理解するためにも、さらなる研究が求められます。

認知症に対するオメガ3脂肪酸の効果

 今回の最新研究結果について、長年、認知症の研究に携わっている朝田隆先生(メモリークリニックお茶の水院長、筑波大学名誉教授)は、以下のように評価しています。

 認知症の原因となる病気は70を超え、その2/3(約66%)はアルツハイマー病(AD)が原因です。アルツハイマー型認知症の予防には、運動、休養(十分な睡眠)、栄養が挙げられます。栄養関連で最も注目されてきたのが抗酸化物質です。特にくるみをはじめとするナッツなどに含まれるオメガ3脂肪酸が注目されてきました。オメガ3脂肪酸はヒトの体内では合成されないため、食事として摂取する必要のある栄養素ですが、ヒトの神経の働きに重要であり、その摂取量が多いとADになり難く、AD治療効果もあるという報告も多くあります。実際、ADの予防食として有名な地中海食の特徴の一つは、くるみなどのナッツ類を取入れていることですが、その効果のメカニズムはわかっておりません。本年7月、認知 症領域では権威のある医学雑誌に、そのメカニズムの解明につながる成果が発表されました。それが本研究報告です。

 さて、ヒトの脳を働かせるエネルギー源はグルコース(ブドウ糖)です。ADになると脳の障害部位では糖代謝が低下し、それは脳機能PET検査で画像化することができます。本研究でも、遺伝的にAD発症の危険性が高いがまだ発症していない320名を対象に、脳のどの部位でオメガ3脂肪酸と関係した糖代謝が起こるかがPETを用いて調査され、ALAの血中濃度が高いほど、より多くの糖代謝が行われているいくつかの部位を明らかにしました。本研究で注目すべきは、その一つがADで最初に障害が生じる頭頂側頭移行部だったこと、しかも遺伝的にADの発症危険性がより高い対象者でそれが顕著であったことです。本研究は、認知症に対するオメガ3脂肪酸の効果のエビデンスといえます。

fig002rr.png朝田 隆 先生
認知症の早期発見・早期治療に特化した「メモリークリニックお茶の水」理事長・院長。東京医科歯科大学客員教授。筑波大学名誉教授。認知症予防と治療の第一人者。40年にわたり、1万人を超える認知症、および、その予備群である軽度認知障害の治療に従事するとともに、テレビや新聞、雑誌での啓発活動を続けている。著書は多数。

くるみには身体に必要な栄養素、オメガ3脂肪酸が豊富に含まれています

 くるみに豊富に含まれる植物由来のオメガ3脂肪酸であるα-リノレン酸(ALA)は、身体の中では生成されない必須脂肪酸で、ナッツ類の中で唯一オメガ3脂肪酸を豊富に含みます。脂肪と聞くと悪いイメージを持たれがちですが、α-リノレン酸(ALA)は身体に良い脂肪なので、積極的に摂ることがおすすめです。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2020年版)7では、オメガ3脂肪酸の摂取量の目標値を決めており、18~29歳の男子で1日あたり2g以上、女子で1.6g以上としています。くるみひとつかみ(約30g)には2.7gのオメガ3脂肪酸が含まれます(米国農務省データ8)。 cwc24fig03r.png

カリフォルニア くるみ協会について

 1987年設立のカリフォルニア くるみ協会 California Walnut Commission(CWC)は、カリフォルニア州の4,500以上のくるみ生産者と、75社に及ぶ加工・販売業者を代表する機関です。カリフォルニア くるみ協会は、世界の輸出市場の開拓活動に関わり、くるみの健康に関する研究を実施しています。アメリカで生産されるくるみの99%以上は、カリフォルニア州の肥沃な土壌で栽培されており、世界で流通するくるみの50%以上を占めています。

参考文献

1.Falcón, Carles; Gispert, Juan-Domingo; Sala-Vila, Aleix, et al. Omega-3 blood biomarkers relate to brain glucose uptake in individuals at risk of Alzheimer's disease dementia. Alzheimers Dement (Amst). 2024 Jul-Sep. doi: 10.1002/dad2.12596
2.内閣府「令和6年版高齢社会白書」
3.厚生労働省科学研究「認知症対策総合研究事業報告書:都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」(研究代表者:筑波大学臨床医学系精神医学 教授 朝田隆),2013
4.厚生労働省 令和5年度老人保健健康増進等事業:「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究報告書」)(研究班長: 九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学部門教授 二宮利治),2024
5.Alzheimer's Association. Alzheimer's Disease Facts and Figures (2017)
・Arab L, Ang A. A cross sectional study of the association between walnut consumption and cognitive function among adult US populations represented in NHANES. J Nutr Health Aging. 2015;19(3):284-290.
・Barbaresko J, Lellmann AW, Schmidt A, et al. Dietary factors and neurodegenerative disorders: An umbrella review of meta-analyses of prospective studies. Adv Nutr. 2020;11(5):1161-1173.
6.Chauhan A, Chauhan V. Beneficial effects of walnuts on cognition and brain health. Nutrients. 2020;12(2):550.
7.厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」 8.U.S. Department of Agriculture, Agricultural Research Service. Food Data Central, 2019. fdc.nal.usda.gov.
[mhlab]

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