仮想化ホスティング基盤の構築を振り返る
はじめに
筆者が所属するITコアでは、2004年からVMwareを使った仮想化ホスティング事業(GrowServer)を手がけています。毎年、新しい技術を積極的に取り入れ、システム構成とサービス・メニューを継続的に更新しています。2009年には世の中が一気にクラウド・ブームになりました。GrowServerは、いわゆるIaaS(Infrastructure as a Service)に位置づけられます。
本連載では、仮想化ホスティング事業基盤の構築における技術的な苦労点や、クラウド・ブーム以降の業界構造の変化、そして変化に対応していくための生き残り策などを解説していきます。全4回にわたり、以下の内容を予定しています。
- 第1回 仮想化ホスティング基盤の構築を振り返る
- 第2回 仮想化におけるストレージの考察
- 第3回 ハイパーバイザ選択の戦略
- 第4回 クラウド事業の今後の展望
仮想化をはじめた理由
VMwareを使った仮想化ホスティングを始めたころ、仮想化というキーワードはほとんど普及していませんでした。そんな中でなぜ仮想化を始めたかというと、専用サーバー・ホスティングのビジネスが、もはやコモディティ化しており、技術的にも面白くなかったからです。
専用サーバー事業を始めたのは会社設立の1998年ごろからですが、当時は1Uラックマウント型サーバーのようなデータ・センター向けのサーバーはなく、データ・センター自体(特にネットワーク接続料金)も高価で、専用サーバー・ホスティング事業はメジャーではありませんでした。その後、データ・センターは一般化し、1Uサーバーが登場し、新たに専用サーバー事業を行う会社も増え、専用サーバー・ホスティング事業がコモディティ化されていきました。
今の仮想化クラウドも、これに似たような状況にあると思います。もはや仮想化はコモディティ化された技術であり、お金とその気さえあれば、誰でもクラウド・ビジネスに参入できるといっても過言ではないでしょう。ただ、専用サーバー時代とは違って、現在はAmazon EC2という巨大なプレイヤが既に存在しており、日本の中だけでの競争では最早ありません(そこで、どうしたらよいのか、という点については、最終回で触れます)。
仮想化ソフト
最初に使ったサーバー仮想化ソフトは、VMware ESX 2.0でした。技術的にはよくできていて、品質的にも安定していました。ただ、性能面には課題があり、ホストがメモリー不足に陥ると重大な障害につながるので、各VM(仮想サーバー)にメモリーを占有型で割り当てることにしました。
そのころのVMwareは、OSのシステム・コールの処理が遅く、sendmailによるメール送信は物理サーバーに比べて数倍の処理時間がかかることもありました。その後は、ハードウエアによる仮想化支援機構が登場したこともあり、このあたりも改善されてはきています。
一番のネックは、コストでした。VMwareのコストがサーバー本体よりも高いくらいです。とにかく、集約率を高めてコスト・パフォーマンスを出すことが最大の課題となっていました。
しかし、一度使ってしまうと、その便利さのため、あっと言う間にVMが増えていきます。最初の1台目はメモリー4GBと控えめなスペックで始めましたが、2台目からはMAX値の12GBを搭載するようになりました(当時のメモリーは、非常に高価でした)。
仮想化のメリット
仮想化ホスティングを始めて最初に経験した苦労は「ユーザー(顧客企業)の不安」でした。例えば、「仮想化って何?」「性能はでるの?」「セキュリティは大丈夫?」「聞いたことがない」などの反応がありました。当時は確かに、運用側(ITコア)にはメリットが大きくても、ユーザーが直接目にできるメリットはあまりないのが実情でした。
ユーザーにとって一番分かりやすかったメリットが、納期の短縮です。それまでは、新規サーバーであれば機器の発注から構築まで1カ月以上かかるのが普通でしたが、仮想サーバーの場合は1週間以内で準備できます。メモリーの追加もリブートするだけでOKになるなど、とても便利になりました。
仮想化で一番大きかったメリットは、インフラ技術者の職場環境が改善されたことでした。それまでは、休日・深夜のデータ・センターにおける長時間作業など、肉体的に非常につらい仕事でした。それが、仮想化されることで、平日日中に無停止でできる作業が多くなり、データ・センターに行く回数も10分の1以下になりました。インフラ技術者に余裕が出た分だけ、ユーザーへのサポートに時間がとれるようになり、結果的にユーザーの満足度につながったと思います。
価格の推移
以下の図は、仮想サーバー(メモリー1GB)の価格の推移を表したものです。
図1: 仮想サーバーの価格の推移 |
仮想サーバーの料金は、下がり続けています。サービス当初から5年間ほどは、月額10万円でした。2009年に、それまでの半額の5万円に、そして2010年には1万円にしました。ちなみに、仮想化以前の専用サーバーの場合は、当初月額30万円から初めて、2004年の時点では10万円になっていました。つまり、当初は専用サーバーと同額で仮想サーバーのビジネスを始めたのです。
仮想サーバーのメニューとして、メモリー1GB(10万円)のほかに、512MB(5万円)や256MB(3万円)という下位モデルを作りました。このこともあり、それなりに売れて、ビジネスとしても何とか成り立つ状態で始められました。
2009年に価格を半額に下げた背景には、CPUのマルチコア化と大容量メモリーの低コスト化という技術革新があります。2010年に価格を大幅に下げたのは、InfiniBandによるコネクションの仮想化という技術要素に加えて、「Amazon EC2に対抗できるもの」というマーケットへの訴求も大きな要因でした。その後、技術革新とマーケット拡大がさらに進み、今ではたくさんのクラウド・サーバーが多くの会社から提供されています。