5月末に『世界を歩いて考えよう!』という旅エッセイを出版したことでご縁を頂き、『地球の歩き方』を発行するダイヤモンド・ビッグ社の取締役石谷一成氏とお話しさせて頂く機会に恵まれました。
第一回 「対談「ちきりんも『地球の歩き方』ライターだった!?」
第二回 「地球の歩き方はなぜ圧倒的ブランドに?」
第三回 「ガイドブックの未来はどうなるの?」
第四回 「イラン女性の小さな変化」
『地球の歩き方』といえば日本を代表する海外旅行ガイドブック。もちろん私もお世話になったので、長くその編集に携わってこられた方とお話しする機会が得られ、感激でした。
お忙しいところ2時間にもわたり、ちきりんの細かくしつこい質問にも根気強く答えて頂き、心から感謝しています。
- 作者: 地球の歩き方編集室
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド・ビッグ社
- 発売日: 2011/12/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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さて、ちきりんが最も(&ほぼ唯一)知りたいと思っていたのは、「なぜ『地球の歩き方』はここまで強く、他社を寄せ付けない地位を築けているの?」ということでした。
一般書籍だと、有望分野にこれだけのドミナント・プレーヤー(ぶっちぎりのトップブランド)が存在する場合、必ずライバルが「真似た商品」を出してきて、市場の一部を切り取ろうとします。
ところが、旅行ガイドブックって、構造的にドミナントができやすい市場に見えます。『地球の歩き方』は日本における海外旅行ガイドブックのドミナント、『Lonely Planet』は英語圏のドミナントで、日本の国内旅行ガイドブックにもドミナントブランドが存在してる。
「なんでそういうふうになるのかな?」
というのが知りたかった。
で、その回答が下記です。
といっても、これは私が「2時間のインタビュー」+その時に頂いた『地球の歩き方 30年史』という超お宝・社内限定誌を熟読した上で考えたことなので、正しいかどうかはよくわかりません。信じるかどうかは(いつもの通り)みなさまのアタマで考えてくださいませ。
<ちきりんが考える『地球の歩き方』がぶっちぎりに強い理由>
理由1:書き手が「旅が好きな編集者&ライター」ではなく、「旅をする人」そのものであり、書き手の質と情熱が違う。 (これは石谷さんも強調されていた点です)
理由2:「旅する人であるライター」と、「全体の方針を決める発行元」が健全な対立構造を維持してきた。
小口を青く塗るのをやめたり、発行順に振っていた番号を地域ごとに振りなおしたり。高級ホテルやレストランもどんどん載せて、「格安旅行」という当初のポジショニングや「バックパッカーのこだわり」も、平気でサクサク切り捨てて来ています。
普通は「こだわりのある書き手」を使うと、現場サイドが暴走し始めるんです。自分たちが自己満足できるものを作りたくなる。そこをしっかり制御した。「野生馬を使いながら、うまく手綱をとってきた」のが、成功要因のひとつなのかなと思いました。
どこの世界も同じですが、長く残っていくものって「過去の成功要因を切ることができた人」に限られるんですよね。
理由3:カバレッジ拡大が大事
旅行先には、ものすごく多くの人が訪れるパリやニューヨーク、ソウルや上海といったエリアもあれば、ネパールやバングラディッシュなど旅行者数の少ない国もあります。
あたしがライバル誌だったら、市場の大きいパリやニューヨーク編、ソウルや上海、香港編だけ出せばいいじゃん!?とか考えそう。大量に売れそうなもの(=利益率も高い)だけ出せば、価格も安く抑えられそうだしね。
でもそれじゃダメなんだそうです。カバレッジは常に広げていくという姿勢を見せないとだめ。そうじゃないと「書店の棚が取れない」
「あーなるほどー」って思いました。「シリーズで書店の棚を確保する」のは、大事なんだけど、すごく難しい。なんせ本の数と本屋のスペースのアンバランスときたら甚だしいですからね。なんらかの理由がないと一定規模の棚を常時、確保するなんて不可能。
もしも書店が、一部の地域しかカバーしていないガイドブックを置いておくと、書店員は客から「○○国のガイドブックは無いんですか?」と聞かれちゃう。それを置いてないと売り逃がしが起こる。これは書店にしてみると、非常に避けたい事態。
ところが『地球の歩き方』を全部一冊ずつ置いておけば、それで問題は解決する。いちいち「全部の国のガイドブックが揃ってるかな?」などと確認する必要もない。
これは確かに(書店の棚が確保しやすく、したがって売り上げが大きくなる)めちゃくちゃ大きな理由だと思いました。だからガイドブックってドミナントが生まれやすいんだ!
理由4:定期的な更新が大事
あと、『地球の歩き方』は定期的な情報更新にトコトンこだわってる。これも実はすごい大事なのだと今回ようやく理解しました。
2001年から911やSARSが発生し、海外旅行市場は壊滅的な落ち込みを受けたのですが、多くのガイドブックはその時に更新をやめてしまい、「○○年度版」という表記を消してしまったとのこと。でも『地球の歩き方』は更新にこだわった。
ちなみに皆様よくご存じのように、書店においてある本はすべて出版社の在庫です。したがって5000店の本屋にシリーズ本を全部を並べ、2年に一回、更新版を出すと、更新版が出た時点で、古い本は全部(各5000部)不良在庫(てか、返品)になるんだよね。
それは結構エグイ話なわけです。キャッシュフロー的に&会計利益的に。
「それでも2年に一回、更新する」には、それなりの覚悟と(それを可能にするだけの利益のプール)が必要になります。これが、他社にマネのできない「ガイドブックとして(最低限)鮮度のいい情報」を読者に届けるためのキーポイントになっている。
これも(たぶん)ドミナントだけがもてる余力のなせるワザなんだと思う。
というわけで、これが全部なのかどうかも、正しい4つの理由なのかどうかもわかりませんが、自分なりの結論が出たので、とってもハッピー。
といってたら、こんなツイートをいただきました。 考えてみると、確かに!
考えるってホントに楽しい。
そんじゃーね!
- 作者: ちきりん
- 出版社/メーカー: 大和書房
- 発売日: 2012/05/19
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