エネルギー保存の法則を無視して、無限のエネルギーを取り出せる。水に「ありがとう」と書いた紙を見せれば美しい結晶ができる……なんだかヨタ話のように感じるけれど、どこがおかしいのかよく分からない。
もしかしたら本当のことで、しかもいいことを言っているのかも? 対処に困るそんな言説に対し「それはおかしい」と声を上げる活動をネット上で長らく続けてきた科学者がいる。大阪大学の菊池誠教授は、「科学的な装い」をまとって信憑性の低い言説をもっともらしく見せようとする動きを「ニセ科学」と名付け、警告する活動を行なってきた。
ニセ科学は増え続けている
活動の一環は、2006年3月の第61回日本物理学会年次大会シンポジウム「『ニセ科学』とどう向き合っていくか?」で発表され、新聞各社に取り上げられた。
2007年12月には名古屋大学で開催されたシンポジウム「ニセ科学・情報を見る学問の眼」の講師としても招かれるなど、ニセ科学批判活動は広く認知されてきている。
同氏はこの3月に対談書「信じぬ者は救われる」(かもがわ出版)を出版。ニセ科学を信じる根幹について、精神科医の香山リカ氏と認識がかなり一致していることを語っている。
「最初にニセ科学について雑誌に書いたのは1996年。このときはオウム真理教とからめて真面目に取り上げたんです。ああいうものがどうしておかしいか、という考え方について。科学の考え方とそうじゃない考え方について説明したんです」(菊池氏)
このときから菊池教授は大学の教養講座などを通じて、一般向けに発言してきた。
ニセ科学はインチキ商品のような金銭的損失をもたらすことが問題だが、「なんでも白黒二分法で考えたがる」「善意という社会的リソースのムダづかい」「科学研究が利用できるリソースを奪う」といった社会的損失を発生させているために問題視しているという。しかし、ニセ科学の実例は増えるばかりだ。
「2003年の時点で、今取り上げているトピックスはほとんど出そろっています。血液型性格判断、フリーエネルギー、マイナスイオン……。マイナスイオンはすでに『教訓を読み取るべきだ』という話になっていますね。それから『波動』に『水からの伝言』、EM菌。市民運動という善意とニセ科学の親和性の高さにも注目しています」