「なんでASCII.jpってボーカロイドとニコニコ動画ばっかりやってるの?」
以前、Twitter上でそんな一言を見かけたことがあった。それに対して編集者がつぶやき返すとしたら恐らく、こう。「面白かったから」
その短絡さにあきれることなく、動画サイトを一度どっぷり見てみてほしい。そこには数えきれないほどの新曲が、毎朝毎晩さも当然という顔をして投稿されている。投稿するDTM作家はMIDI世代のベテランと、20代の学生が中心といわれる。曲の質はおしなべて高い。異様に感じるくらいだ。
彼らが曲の質を高めた背景には、ネットの高速なコミュニケーションがあった。Skypeがあり、Twitterがあり、一部には交流専用のSNSさえあった。彼らはそこで互いに作曲ノウハウをおしみなく教え、ルーツを共有し、猛烈なスピードで曲の質を高めた。ネット上のファンとはゼロに近い距離で交流し、彼らを喜ばせるために名曲を作りつづけてきた。
そうしてネットで生まれ、ネットで育ってきた作家たちは、「ネット音楽」という新たな方法論を自然に発展させてきた。今回はその中で、ASCII.jpが「これは面白い!」と思い、毎週のようにつづけてきた取材をトピックスとして振り返りながら、座談会という形でネット音楽のこれからを考えてみたい。2010年代を面白くしてくれる作家たちの生き方に、答えが見えることを期待しながら。
なぜASCII.jpはネット音楽に注力したのか
盛田:ASCII.jp編集部の盛田です。今回は各自担当した記事を挙げて、09年を振り返りつつ10年代を展望したいと思うわけです。
広田:同じくASCII.jp編集部で、本当はMac担当の広田です。
四本:出入りの業者の四本です。ところでASCII.jpって、なんで最近ネット音楽ネタばっかりやってるの?
盛田:いや他人事みたいに言わないでくださいよ。単に僕らの個人的興味からですけど。ボカロで曲を上げている人たちって、一体、どういう人たちだろうという。
広田:それでボカロ系の人々を重点的に取材し始めたわけです。2008年の12月にはOSTER projectさんの単独インタビューをやって、さらに2009年の3月にはdorikoさんとkzさん、cosMoさんと真優さんというふたつの対談を投入してきました。
その次に若干Pというか、KNOTSさんに取材したんですよね。もう最近の人達は「野生のプロ」というレベルを超えて、曲のクオリティーが高過ぎる。
四本:僕はKORG DS-10の公式イベントに出てからですね。以前、船田戦闘機と電子工作ものの連載をやってたんですけど、そのネタとしてDS-10の動画をYouTubeに上げといたら呼ばれたんです。そこにbakerさんとDenkitribeさんがいて、速攻で取材の申し込みを。その後、広田さんに誘われて鼻そうめんPの取材をしたんですよね。
広田:メジャーみたいに事務所が仕切っていたり、広報からリリースが来るわけでもない。たまたまネットで有名になった素人、みたいな取り上げ方はあっても、アーティストとして取材をかけているメディアはそんなになかったと思います。
四本:ASCII.jpとITmediaくらいでしょ? でもね、いま歴史の転換点なんですよ。レガシーメディアが衰退して、メジャーもじきに解体する。じゃあ音楽はどうなるんだろう? その担い手は誰なのか? それは作り手に話を聞いていくしかない。で、それってウェブ媒体の使命でしょ?
広田:アツいですねー(笑)。転換期と言えば、ボカロ関係のCDがオリコンチャートを賑わしたことが正にそうだと思うんですよ。supercellは週間4位まで行ったんですよね、確か。
盛田:転換点といえば、YouTubeで話題になったスーザン・ボイルをNHKが紅白に呼んだのは、象徴的だったかも知れませんね。
四本:僕は30年前のパンクムーブメントを通過している世代だけど、遥かに今の方が面白いです。なぜそれが音楽系のウェブ媒体で話題にならないかといえば、広告が取れないから。大体インタビュー記事ってあんなの広告とバーターなのが多いから……あっ。
盛田:って、平沢さんですか!
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