「イース」をモダンバレエに、「ドラゴンスレイヤー」をヨーヨー大会に
「先を越される前にやらなきゃ、という話になりまして」
そう言い、いたずらっぽく笑ってみせたのは、ゲームメーカー・日本ファルコムの近藤季洋社長。2年前に加藤正幸前社長から社長の座を引き継いだ、34歳の若き経営者だ。
5日に発表した「ファルコム音楽フリー宣言」は、これまでに自社で開発してきた歴代のゲームに使用されてきた音楽を、ユーザーが自由に許諾なく無料で利用できるという衝撃的なものだった。もちろん世界初の試みだ。
宣言を発表してからのわずか3日間で、同社への問い合わせは3000件を超えた。その内容は「バレエの音楽に使いたい」というものや「ヨーヨーの大会でBGMにさせてほしい」というユニークなものなど様々だ。
使用できる楽曲には「イース」や「ザナドゥ」「ソーサリアン」など歴代の有名タイトルのBGMも含まれており、その数は合計で3453曲にも及んでいる。
そのすべてがパーティーやライブ、ラジオのBGMに使用でき、リミックス曲をYouTubeやニコニコ動画にアップしてもいいというのだから驚かないわけにはいかない。
「昔ながら」を生かしながら「新しさ」を求めるのがフリー宣言の原点
日本ファルコムは「ドラゴンスレイヤー」をはじめとしたパソコンゲームで知られている老舗メーカー。
今年9月にはPSP用のゲーム「イース7」の発売を控えているが、一般ゲーム機向けにゲームを発売するようになったのは今からまだ3年前のことだ。
「それまで、コンソール(一般ゲーム機)向けのソフトは他の会社にライセンスを提供する形で制作していました。ですが、やはり自分たちが手がけて作ったものでなければもったいないという意識があったんです」
そう考えた近藤氏が自社開発を推し進め、ヒット作となったのがPSP用ゲーム「英雄伝説 空の軌跡」シリーズだ。
パソコンゲーム版の人気シリーズを移植した同作は堅調に売り上げを伸ばし、現在でも注文の勢いは衰えない。今ではパソコン版の売り上げをはるかに上回り、同社を支える柱の1つとなっている。
パソコンゲームという「過去の遺産」を受け継ぎながら、携帯ゲームという「新しい資産」を作り出していく。それは「自分の発想だけに頼ることなく、新しさを生かした経営を」という加藤前社長の教えによるものだ。その意志が今回の「フリー宣言」にもつながっている。