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3泊4日で旅に出る会社員の旅ブログ

勤め人で時間がなくても旅に出たいをテーマに、自称旅行作家の吉川が、メキシコを中心に旅した記録をつづります。

カラクルム生物保護区 7000ヘクタールってどんだけ?の巻(第11話)

ラクルムの生物保護区はエセキエルによると7000ヘクタールらしい。

でも、畑や田んぼを持つ農家でもない限り、ヘクタールという面積をイメージするのは難しい。日本人なら、ここでよく引き合いに出てくるのが「東京ドーム」だ。

東京ドームは4.6ヘクタールらしいので、7000÷4.6=1521個分だ。

やっぱりよくわからないね。

要するに、ブラジルのアマゾンの熱帯雨林の保護区の次に世界で2番目に大きくて、グーグルマップでみたら、世界地図レベルで俯瞰しても緑だらけだという広さだ。

生物保護区というだけあって、トリップアドバイザーのコメントを見ても「猿を見た、けどジャガーは見られなかった」、というなかなか好奇心をそそる森であることはよくわかる。

国道から、自然保護区に入る村で、売店兼関所のようなカウンターに地元の日によくやけた女性が座っていた。

そこで190ペソを払ったら、紙製の細いブレスレットを手首に巻かれた。つまりこれが行く先々で検問の際に見せないといけない入場券なのだ。

「エヒード(村のコミュニティ)が徴収する料金だよ」

エセキエルに聞いたが、どうもこの先さらに遺跡に入る際にもう1回支払いがあるらしい。さすがにこの広さ全部を保全しているわけではないだろうが、森の中にある村がこの料金を徴収することで少しでも環境保護をしてくれているのなら、進んで払いますという感覚になる。

関所を通過して、いよいよ生物保護区に入っていくと、エセキエルは車のスピードを落とした。今までの真っ直ぐな道とは違い、ジャングルの中の舗装された道は、やはりグネグネと曲がっている箇所も多い。

 

よくこんな道を整備したもんだなと感謝しながら通る。

道すがら、七面鳥が何度もいろいろなところで歩いているのをみることができた。

メキシコでは七面鳥をクリスマスによく食べるし、スーパーにも肉が置いてある。ただここで登場するのは野生の七面鳥だ。見た目もカラフルで黒い家畜の七面鳥とは様子が違う。

野生の七面鳥が道路わきに現れる。

エセキエルも野鳥愛好家の急先鋒だから、七面鳥が現れるにつき車を徐行させたり、停まったりしてくれた。まだ朝が早いから車がほとんどない。

僕が写真を撮っていても、悠々としているものもいれば、さっさとジャングルに消えていくのもいる。「Pavo de Monte(パボ・デ・モンテ)」だとエセキエルは教えてくれた。豹紋七面鳥(ヒョウモンシチメンチョウ)と日本語では言うらしい。

とにかく周りが木だらけで気温は町中よりさらに2~3度低い。だから写真を撮ろうと車から降りると肌寒い。

ユカタン半島はどうやら何に置いても一つの文化圏、一つの生物圏を築いているらしい。マヤの文化圏はベリーズグアテマラ、メキシコの3つの国に大雑把に分かれているが、それは人間が勝手に国境を決めたからだ。そんなことは動物には関係ない。国境も動物にはもちろん意味がないから、パスポートもいらない。

そしてこの七面鳥ベリーズなどを中心にいるが、メキシコでは狩りなんかの影響で希少種になっているらしい。

個体によって隠れるまでの足の速さが違う。

ただ、少なくなっているとは言え、こんなに何回も惜しげもなく我々の前に姿を見せてくれるのだから、相当な数がこのジャングルの中にいるはずだ。

他にもいろいろな大きな蝶が舞っているのに何度も出くわした。中に青い羽をした、美しいアゲハチョウのような大きな蝶に出会った。

「Mariposa Morfo(モルフォ蝶)だよ。珍しい王様みたいな蝶だ」

そうやって野生動物たちに歓迎されながら、僕らはいよいよ遺跡の駐車場に着いた。

やっとの思いで着いた森は、いたるところに石の小山が埋もれている。

 

こぼれないのか、こぼれるのか、ブラックコーヒーの巻 (第10話)

再生紙の紙袋の中身はこんなだった。

・バナナ

・りんご

・シリアルバー

・1リットルの水(PETボトル)

・オレンジジュース(ブリックタイプ)

・サンドウィッチ

前夜のうちに、ホテルのスタッフからのおすすめ通り、サンドウィッチは木の壁に埋め込まれた冷蔵庫に入れておいた。その時に袋の中身を全部、ワインやコーヒーメーカーが置いてある台に広げておいた。ただ単純に起きてバタバタしているうちに食べ忘れないようにしたかっただけだが、その朝バナナの異変に気づいた。

ちょうど手で持つあたり、下4分の1あたりのところに見覚えがない穴が空いている。0.5ミリ程度の穴は分厚い皮を貫通し、身のところまで届いていた。確かこんな穴、もらった時はなかったよなあ、いやあったかな? と寝ぼけながら考えていたが、結局ジャングルのせいにすることにした。

僕は今、大自然のただ中にこっそり滞在させてもらっていて、このきれいでおしゃれな部屋の中にも何かしら生命体がいるはずだ。夜中に蚊の羽音や小さな蛾はやっぱり気になったし、それ以外にも見えないところにバナナを突っつくような何かがいても不思議ではない。

そういえば、チアパスのエバーグリーン牧場行った時も、おんなじような経験をしている。牧場のすぐ近くにあった小さな売店で買った手作りのパンは、一夜あけてみると袋が引き裂かれて中身がほじくり返されていた。その時の様子はエバーグリーン牧場とゆかいな仲間たちの「第45話 闇夜でパンをかじったのは」を読んでほしい。

僕はなんとなくゾウムシのようなクチバシのような長い体の部分の使い手を想像しながらバナナの皮をむき、穴が空いているところだけ少し削ってありがたく1本まるまるいただいた。

それ以外のサンドウィッチやシリアルバー、オレンジジュースも荷物を減らしたいので平げた。水は1リットルも持っていくと重いので、備え付けで部屋にあった500ミリリットルのボトルをリュックに入れ、約束の6時に間に合うように部屋を出た。もちろん双眼鏡も入れた。

その朝起きてすぐ、多分5時ぐらいに部屋を出てみたら、月がまぶしいぐらいに照っていた。そんな時、街の暗闇はなんであんなに真っ黒なんだろうかと不思議になった。おそらく明暗というのは相対的な光の加減でしなかくて、街灯が全くないカサ・カーンのある林では太陽から月や星に照らされる光で足元は十分に明るい。

まだ月明かりを頼りにレセプションとレストランを兼用している、ホテルの玄関口でしばらく待っていると、グレーに光るTOYOTA車が駐車スペースにやってきた。降りてきたのが、何度も旅行前にやりとりした、ガイドのエセキエルだった。後ろに髪を束ねて、多少不精ヒゲもあるが、不潔な感じはない。45歳の男だ。

早速、助手席に乗り込みカサ・カーンがあるバレンティン村を後にした。真っすぐに続く国道を100Kmで走行し、窓を少し開けて風を受けながら、早朝の冷んやりした温度に耐えられるようにジャンパーも着たままだ。

「で、どれぐらい走るの?」

「え? 知らないの? 2時間だよ」

僕はカサ・カーンまでイシュプヒルまで乗せてもらったタクシーに聞いていたのだが、なんとなく信じられなくて確認したのだった。

「カラクムルまで120キロで、途中から自然保護区に入る」

今回の旅は、なんとなく行ってみたいなあと心に留めていたカラクムルに、突然行けることになった。だから予備知識なんて何もない。家には地球の歩き方もブループラネットもないので、見たのはトリップアドバイザーのコメント欄ぐらいだ。というわけで甘く考えていた。120キロなんて、東京から富士山まで行ける。まあ、いいやこの際、多少疲れそうだけど行ってみよう、というちょっと朝からだるめの心持ちではあったのだ。

エセキエルは途中唯一買い物ができそうなガソリンスタンド併設の売店に寄って、ホットコーヒーを買った。僕はおやつにバナナチップを買った。

「運転手は寝ちゃダメだけど、君は寝ていいよ」

どうやら、朝が弱いらしい。さらに寒い。

「いやいや、起きてる。景色も見たいし」

「蓋がなかったんだよね、コーヒー買ったんだけど」

そう言いながら、少しずつすすっては、運転席と助手席の間のカップホルダーになみなみとつがれたブラックのコーヒーを置き、猛スピードで国道を突っ走る。いやあ、慣れているのか、運がいいのか、結局一滴もこぼれなかった。この道が相当に整備されているのもあるが、彼が絶妙に穴や突起のある場所をうまく避けていたからだと、最初の入り口に到着してから理解した。

ジャングルの中で寝るのはこんなに寒いんですか?の巻 (第9話)

荷物もほどき終わって、コーヒーで一服したら、もう夕方の6時だった。

受付に併設されたレストランは半屋外になっていて、テントの延長みたいな骨組みだ。人懐っこい白と黒のまあまあ大きめの犬が二匹ウロウロと歩いている。どうやら食事のおこぼれに預かりたいのか、僕のところにもやってきたが、食事中だから撫でてあげられないし、餌もあげない。もちろん周りは木だらけで、知らない鳥がたまに枝から枝へ飛び移っていたりする。

受付兼レストランのカウンターの内側に陣取るメガネの女性に、明日紹介してもらったエセキエルというガイドが朝6時に迎えにくる旨を伝えた。小柄でショートヘアの彼女は、きっとこのホテルの事務作業をすべて取り仕切っているのだろう。

木製のカウンターの上にはホワイトボードがあって、15時からの17時半までのハッピーアワーをアピールしていた。カクテルを1杯頼めば、おかわり1杯タダらしい。そのボードに気を取られて、見落としそうになっていたが、朝食は6時15分から9時までだった。

「明日は出発が早いから、ここで朝ごはん食べられないんだけど、どうしたらいい?」

「そういう人のために、ボックスランチを前の晩に用意しています。オレンジジュース、水、シリアルバー、サンドイッチ、バナナです」

朝ごはんなのにランチ(昼ごはん)とは何ぞや、といつも思うのだが、対応の仕方があまりにスムーズなところを見ると、カラクムルには早朝出かける僕のような旅行者が結構いるのだろう。ありがたくちょうだいすることにした。

「サンドイッチは、ベッドの脇の下の方に取っ手がついた木の扉があるので、そこの冷蔵庫に入れてね」

横にいた若いウェイターからそう聞いて、部屋に冷蔵庫があることを初めて知った。メキシコでは冷蔵庫がついたホテルに行き当たることは少ない。それもさりげなすぎる。木製の仕切り板の中におしゃれに組み込まれて隠れていたのだ。旅人を気取る層の心に刺さる計らいが何かをよく知っている。ニコラス、なかなかやり手だなと、宿の見知らぬオーナーにがじわじわと畏敬の念がわいてくる。

食事もなかなかに美味かったカサ・カーンのレストラン。当然だけどまわりは木だらけ。

同じタイミングで大所帯の家族が隣の席で食事をしていた。

ワイワイとやっていて、子供たちはまだ3歳から5歳ぐらいの男の子一人と女の子とが3人。若い白人夫婦が二組で遊びにきているようだ。

子供は僕のところにもやってきては愛想を振りまいている。ちょっと犬の近づき方と似ている。遊んであげないととっとと他に興味があるところに移っていく。あんまりにぎやかなので、どこの国の人だろうかと考えたが、結局自力では結論に至らなかった。

ドイツ語だと思ったが、知っている単語が聞こえない。もちろん英語でもフランス語でもない。というわけで、ウェイターに帰り際に聞いたら、オランダ人家族だった。僕は英語、中国語(北京語と広東語)、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ヒンズー語、ポルトガル語あたりはだいたい、知り合いやビジネスで知っている人がいて、言い当てることができる。

でもオランダ人はたいてい英語がとてもきれいなので、たとえ話ししたことがあってもオランダ語を聞くことはなかったのだと思う。そういえば大学時代にベルギー人でオランダ語とほぼ同じフラマン語母語とする人がいた。でも結局英語で話していた。

ビールを飲んだら、明日に備えてとっとと寝ようということで、あたりも真っ暗だし8時半ぐらいには部屋に入った。やっぱりジャングルだから、ちょっとドアを開けたすきに何だかんだと虫は入ってしまうみたいで、キャリーケースから服を取り出したりしていると、カサカサと黒い人差し指の第1関節ぐらいのクモが面倒臭そうに逃げていった。

暗闇で踏んでも嫌なので、丁重にお菓子の袋で外へご退出いただいた。

シャワーにはなぜか赤いランプがあった。

英語とスペイン語の表記を読んで、それがソーラーパネルによる熱を利用した給湯の仕組みを用いていることを知った。スイッチを入れるとその間だけ熱いお湯が出た。ランプが赤く点灯している間は、熱湯を出せるが、使い終わったら切ってねというわけだ。初期投資がかかっても、極力エコでいきたいという姿勢が伝わってくる。

「部屋を出る時は消灯を必ずしてください」というプレートが、入り口のスイッチのところにさりげなく掲げてある。すべて必要以上に目立たない黄緑色の文字だった。

ガラスの扉のシェードをすべて下げ、電気を消したら本当に真っ暗になった。まだ早いけどカラクルムを歩き回るので、目を閉じた。でもジャングルの中のホテルのベッドは、シーツを1枚上にかけるだけしか用意がない。クローゼットを探ったらベッドカバーがあったので、それを半分に折って掛け布団がわりにした。

だけど、寒くて何度も起きた。明け方5時前に目が覚めた時は、周りの鳥の声が昼間と違った。キリキリキリという少し甲高い音が、一拍置いては定期的に繰り返される。あとでアプリで調べたら「アカフクロウ」という鳥だということがわかった。一度姿を見てみたいと願うようになった。

 

 

 

ジャングルの中でAI(人工知能)にきいたことの巻 (8話)

自然の中に放り出されて宿泊するとき、個人的に2種類のスタイルがあると思っている。

ひとつは、デジタル接続なしのスタイル。つまりWifiもない、携帯電波もない、前回の旅行で泊まったエバーグリーン牧場がそれだ。母屋以外からはWifiがつながらないし、携帯を見てもアンテナのバーは1本も立たないから、諦めがついて潔い。

だけど今回は、小屋の横にWifiのアンテナが各棟にそびえたっている。専用なので混み合って速度が遅くなることもない。

ガラスの大きな扉を開けてデッキに出ると、鳥のさえずりが聞こえる。幹が白い細い木がたくさん並んでいて、視界はやがて緑にさえぎられるが、匂いがいい。たぶん草だったり、葉っぱだったり木自体が放つ微量の芳香なのだろう。そして耳にもうれしい鳥たちの声。

あれ、俺 野鳥の会の回し者か?

まったくこのような自体を想像していなくて、事前の準備をしていなかったが、僕は慌ててChat GPTにきいた。

「カラクルムの自然の中で聞こえる鳥の声を判別したいのですが、どんな鳥がいますか?」

すると、8つの代表的な鳥の解説の後に、「鳥の声を判別するコツ」という補足がついていた。それによるとアプリで鳥の声を判別できるらしく、2つ候補が出てきた。

いやあ、きいてみるもんだね、と感心した。そのうちの「Marlin Bird ID」をすかさずダンロードし、早速試してみた。録音ボタンを押すと、鳥の声の声紋を膨大なデータベースと照合し、名前と写真が表示されるようになっている。その上、あらかじめ収録されたサンプルの声がその場で聞けるので、認識違いをしていないかがわかるし、あわよくばつられて同じ種類の鳥が寄ってくるかもしれないのだ。

ウッドデッキでコーヒーを飲みながら(部屋にはコーヒーメーカーも完備されている)、林の中から聞こえるさえずりから、その姿が見えない鳥の名前とサムネイルが表示され始めた。うーーん。デジタル・デトックスには程遠いが、これはこれでずいぶんと楽しいから、よしとすることにする。そもそも小心者の僕は、いつ職場から連絡があるかもしれないとおどおどしているので、ワールド・ワイド・ウェブの中にいる方が、逆に落ち着くのかもしれない。

姿は見えないが、ウッドスラッシュとオオキイロムクドリモドキという鳥がいるらしい。

 

声しかわからなくても、こんな感じで鳥の名前や姿がイメージができると、

「ああ、こいつらの縄張りに長居させてもらうんだよなあ、あんまりびっくりさせたらいかんなあ。京都だったら、家主にぶぶ漬け(お茶漬け)をすすめられるところだなあ」

という気持ちになってくる。

そもそもジャングルしかなかった緑の中に小さな集落ができて、そこにニコラスさんが建てた小屋たちがあるのだ。この森では動物たちが我々の大先輩なのだから、リスペクトして当たり前だろう。

ところで今回、生まれて初めて「マイ双眼鏡」を手にいれるべく、アマゾンで取り寄せた。そして実際にカサ・カーンのコテッジで、にわか野鳥ラバーになった自分がそれを取り出して本当に使おうとしている。こっけいでつい笑ってしまうぐらいだが、別に一人だしいいじゃん、という感じだ。

僕が選んだ双眼鏡は、ブッシュネル社製で重さ250gの軽量タイプだ。レンズは25ミリなのでそれほど大きくは見えないかもしれない。大きなものでは40ミリというものもあるが、説明を読んでいるとやたらと重そうだ。そもそも使うかどうか分からないし、きっとじゃまになるに決まっている。まずは初心者向けでいいだろうとこれに決めた。

さっそく試しに林の木を見てみたが、ピントを合わす方法さえ知らないのだから、説明書を見て調べるところから始めなくてはならなかった。右眼、左眼それぞれで焦点を別々に合わす方法がようやくわかってきた。真ん中にあるダイヤルを回すと左、右はレンズの外のゴムの部分を回して調整する。ふんふん、なるほどね。どうやら、これは今年の僕の中でのベストバイになりそうだ。

 

トリップアドバイザーの超主観的「正しい」使い方(第7話)

前にも書いたが、旅の行き先を決める時、トリップアドバイザーを頼りにすることが多い。

今回のホテルも、探した時の流れはいつもと同じだ。とにかくあまり迷って時間を無駄にしたくない。迷うことこそが楽しみだという考え方もあるが、僕の場合は単純にその時間の余裕がない。会社には行き先と日程を事前に伝えるというルールがある。

そこで何度も使っているうちに編み出したトリップアドバイザーの使い方が下に記した1から5のステップだ。

1.目的地にあるホテルすべてを評価が高い順に並べ替える。

2.5点満点で極力5つ丸がついているホテルを上から眺める。最低で4.5。

3.コメント欄は、ヨーロッパ人のものを中心に本音を言ってそうなものを読む。

4.目星が決まったら、直近で行った人のコメントがどれぐらい載っているかを確認する。

5.写真は旅行者が撮った写真を見る。

これは自分に合っている探し方というだけで、万人には当てはまらないかもしれない。

分かりにくいかもしれないので、5の写真の話は補足しておく。ホテルの写真はプロのカメラマンが撮った写真のコーナーと、Travellerが撮ったものがはっきり分かれている。だいたい旅行者のは携帯で素人が撮っているので、アングルが凝っていなかったり、逆光だったり、整頓されていない状態の部屋やレストランが映り込むことが多い。つまりかなり「素」に近い状態を知ることができる。

たとえ、そこであまりきれいでなくても、行ってみると一度期待値が下がっているので、着くと「なんだ、意外にいいね」となることが多いのだ。

個人的にはこの探し方で行ったホテルでハズレは1回もなかった。ただし気をつけないといけないのは、トリップアドバイザーも商売なので、広告的に上位表示する場合があって、必ずしも評価が高い順になっていない時があることだ。

今回のイシュプヒルについて、その心配はない。決してメジャーな目的地ではないし、そもそもホテル自体がそれほどないからだ。

そうして、今回見つけたカサ・カーンも正解だった。

トリップアドバイザーで評価が5点満点に近いのを見届け、コメントを見ると、すぐにそのホテルが運営するサイトから、連絡先を探り、連絡を始める。Booking.comなどの予約サイトを使う方法もあるが、ホテルのスタッフが素早く返事をくれるかを見たい。即座に連絡が返ってくるところは、客への対応がしっかりしていることが多いのだ。

何か旅行評論家みたいになってしまったが、この方法を編み出してからずいぶん結論を出すのが早くなった。今回のように2週間前に突然決める場合なんかは、ウジウジと迷っていると部屋も埋まるし、フライトの予約とセットだから早ければ早いほどいいわけだ。

案の定、対応は早い。ここ数年の傾向として、気の利いたホテルはワッツアップでの対応が主流になってきている。そして滞在中も部屋には電話がなく、そのまま携帯でメッセージを送れば清掃やルームサービスまで全て対応してくれる。もちろんWifiが備わっているという条件はついてしまうが、ストレスがないし、きめ細かい。

タクシーは、国道から村落に入り、林の中へ未舗装の道をずんずんと奥へ進んでいく。そのまま受付横の小さな駐車スペースで荷物を下ろすと、受付で名前を告げた。

「Colibri(ハチドリ)という名前のコテージです」

「コテージということは、一棟の小屋ということ?」

「そうです。荷物は多いですか? 部屋まではどうします?」

どうします? というのは荷物を誰かに持たせますかということみたいだ。

「いや自分で持って行くから鍵だけもらえれば大丈夫だよ」

一瞬、間があったが、分かりましたと返事があり、僕は歩いてその小屋に向かった。すぐに着くと思っていたら、未舗装の道が5分ほどうねうねと続いた。その脇にひっそりと名前のついたコテージが点在している。それぞれは十分な距離が取られていて、宿泊者が森の中でプライベート感を楽しめるようになっている。

それにしても、ガタガタ道で愛用のキャリーケースのキャスターが持つかしらと、心配していたら、なんとか壊れる前についたようだ。

林の奥の奥に、あったあ、マイルーム

ホテルはスイートルームが一室だけ空いているという話だったので、てっきり普通に何部屋もある建物を想像していたが、あまりに適当に下調べしていたので、部屋に入って「なるほど、こういうことね(今風に言うと「あーね」)」と気持ちが高揚した。

部屋がガラス張りのフォレストビューになっている。

高床式で、ドーム型の天井は吹き抜けで高い。部屋は奥半分がガラス張りで、ジャングルの中というロケーションを存分にいかしている。あまり聞いたことがないが、「ジャングルビュー」と呼んだらいいのだろうか。ガラスの扉を開けると、ウッドデッキがせり出していて、コーヒーなりワインなりがゆっくりのめるようになっている。

部屋の中にはちゃっかりワイングラスが逆さまにかかっていて、ワインボトルが3本別々に鉄製のスタンドに置いてある。それぞれ抜栓したら料金がチャージされるが、Concha y Toroのメルローが250ペソ、Casa Maderoの3Vが 700ペソととても安い。

このホテルまで連れてきてくれた強面のタクシー運転手は、カサ・カーンのオーナーが「ニコラス」という人だと言っていた。その言い方が、尊敬を込めた感じだったのを思い出した。

 

Ixpujil  なんて読めばいいのか想像がつかないの巻 (第6話)

イシュプヒルの町は、ベリーズとの国境の町チェトゥマルから、内陸に向かって西に進んで2時間のところにある、人口3千人程度の小さな町だ。途中キンタナロー州とカンペチェ州の州境を超えるが、そこで1時間の時差が発生する。実はホテルに着くまでどの時間が正しいのか分からないまましばらく過ごしていた。

ラクムルがあるカンペチェ州は、若干メキシコシティに向かって西に戻る位置にあるため、また1時間時計を巻き戻さなくてはならない。携帯電話は電波がつながりさえすれば勝手に現地時間を変更してくれるが、僕が愛用しているアディダスの腕時計は自分で針を戻さなくてはならない。腕時計が正しいのか、携帯電話が正しいのか、結局ホテルの受付の姉さんに聞くまでよくわからなかった。

「イシュプヒル」という地名は、メキシコシティからチェトゥマルに到着してタクシー乗り場に行くまで、読み方が分からないまま来てしまった。Xpujilと書くが、「エキスプヒル」とも読めるし、「シュプヒル」とも読める。実際、地球の歩き方には最初の「イ」を抜いた状態で載っている。「X(エックス)」はメキシコのスペイン語でどうとでも変化するのだ。古代から伝わる地名に無理やり字をあてたという経緯がある。

そんなわけで現地の人が発音している「イシュプヒル」と自信を持って発音できるまで、2日かかった。

そして、着いてから自分の事前調査がまったく足りないことに気づいた。カラクムル遺跡の最寄りの町だと先輩トラベラーがコメントしていたので、たかをくくっていたが、そこからさらに2時間(120Km)走って、やっとカラクルム遺跡に着くという。

この旅の予定は、こんな感じ。

初日はイシュプヒルまで移動。

2日目は朝からカラクムル遺跡探索。

3日目は、ベカン遺跡、マヤ文化体験(料理など)をする。※わりと楽しみだ。

4日目は、チェトゥマル経由でメキシコシティに戻る。

というわけで、初日の今日は宿泊地のホテル、カサ・カーンに向かう以外に何の予定も入れていない。翌日は朝6時にガイドのエセキエルが車で迎えにくることになっている。

イシュプヒルの発着所に2時間かけて着いた、我らがぎゅう詰め号は、乗客が降りると即解散だった。僕はあんなに親密な空間を共にしたので、さては乗客同士、運転手との挨拶で熱い抱擁でもあるのかとちょっと身構えていたが、みんな下りたらお金を払ってさっさと歩いてそれぞれの行き先を目指していった。

観光タクシーで旅行者同士が乗っていたら、「次どこまで行くの、一緒に行こうか」みたいな「旅は道連れ」的な会話がありそうなもんだ。でもそもそも乗客は地元の人で、用事があって仕方なく、お互い、狭い空間を我慢して移動しただけなのだ。解放されてせいせいしたら、きっとこれ以上距離を縮めたいなど思わないのだ。あるいは僕が貧乏学生で若ければ、「仕方ないわねえ、ぼうや」と下りてからも面倒を見てくれたかもしれないが。

乗り合いタクシーの運転手に、どうやったら、ここからホテルに行けるのかと尋ねたら、すぐ先にあるタクシー乗り場を教えてくれた。ころころとキャリーケースを押しながら、リュックをしょったアジア人が来たので、運転手たちは大声で「タクシーか!」ときいてきた。

大声、早口で、超いかついサングラスをかけた男たちに囲まれ、「もうなんでもいいから早くホテル連れて行って」という気持ちがさらに盛り上がってきた。値段も乗り合いバスの料金の半分ぐらいかかったが、まあ、いいだろう。そういえばファティマがユカタンの人の花しかたって「殴っているみたいなんだよね」とつぶやいていた。まさにへとへとのところに早口でまくし立てる大声を聞いていると「はい。はい。その通りです。ああ、日本人です。名前はしんじです」と最低限のあいづちや受け答えをするぐらいの元気しか出てこなかった。

でも、ホテルについてがぜん潮目が変わってきた。

 

 

 

 

 

 

女性用ですが入っていいんですか?の巻(第5話)

乗り合いタクシーは、4名の乗客が集まらない限り、絶対に出発しない。

僕が市場でダラダラ歩き回っているうちに、1台出発してしまったらしい。

もう何時に着こうが、今日中にホテルにさえつければいいわけだから、多少遅れても構わない。ファティマによると少しずつ人が集まるから、気長に待ってなさいとのことだった。

イシュプヒルまでは直行で2時間かかる。だからタクシーに乗り込む前にトイレに行くことにした。実は社長然としてデスクを構えていたチョンボさんは、トイレの代金回収担当だった。

「10ペソもらうよ。そこのバケツに水があるだろ、それ持って入りな」

小さなバケツに水がくまれていて、多少のサイズの違いはあれ5つほど並んでいる。

「手前の方に入るんだよ」

「でも女性用って書いてあるよ」

「心配すんな、男女兼用だから」

要するに男性用の奥のトイレが故障しているだけだった。まあ、予想通りだが、便座はないし、バケツの水がないと水も流れない。でも、待合室でタクシーが乗客で埋まるのを待つ人たちは、かわるがわる10ペソ分のコインをデスクに置いて、小さなバケツを抱えてはトイレに入っていった。

「ほら、出発するってよ」

そう、声がかかるまで30分ほど、のんびりしていただろうか。いつの間にか通りの向こうで乗客がタクシーに乗り込み始めていた。乗る前に僕は、少しズルをした。タクシー運転手に料金をいつ払うのか聞いたり、ダラダラ荷物をトランクにのせたりして、後部座席の真ん中にならないように時間を稼ぎ、おばさんが2人順に後部席に乗り込むのを見届けてから、一番最後に乗り込んで、助手席の後ろの右端の席を確保してからドアを閉めた。助手席は若い男がすでに膝にリュックを抱えてちんまりと座っていた。

こんなぎゅうづめの状態で2時間もいるのが気まずいので、自分からみんなに話しかけた。助手席の彼は僕が宿泊するイシュプヒルに戻るところだった。運転手席の後ろに陣取ったおばさんは、イシュプヒルからさらに違う村に戻るらしい。なんとなく上品な身なりの小柄な女性で、道中の所々で、どちらからともなく話をした。

真ん中に座ったおばさんは、ビニール袋に入れた地元へ持ち帰る荷物を足元に置き、真ん中でどっかと陣取り無口なまま目を閉じた。やはり真ん中の席は気に入らないのだろうか。途中、タクシーはガソリンを給油したり、運転手が飲み物を買ったりと、いちいち止まったが、一度だけこの真ん中おばさんが車を停めたことがあった。

道の駅には程遠い、メガネをかけ日にやけたおじさんの物売りから、水分補給のためにペットボトルに詰められた手作りのココナッツ水を買っていた。

「あんたも飲みなよ。腎臓がきれいになるんだよ」

物売りと結託しているかのような勧誘の言葉に屈することなく、オファーは固辞させていただいた。その後おばさんはおいしそうに飲み干していたから、別に物売りの知り合いではなく、単純に地元のおいしいものを、よそ者の僕に飲ませてあげたいという親切心から言ってくれているのはよくわかった。確かにモノは良かったのだろうが、リサイクルしているペットボトルの衛生状態が気になって、買う気にならなかった。

初日に下痢にでもなったら、せっかくの休みが台無しになる。これが学生時代だったら、間違いなく買って、「真ん中おばさん」と一緒にぺちゃくちゃしゃべりながら、長距離ドライブを楽しんでいたところだったに違いない。こんなところにも後先を考えてしまう、真面目なサラリーマン魂が見え隠れしてしまうのだ。

だんだん僕もおばさんたちも口数が少なくなってきた。風の音が激しい上、道は単調だ。たまに検問所があって、軍の人が怪しい車でないか確認するためにすべての車を停車させるところが2か所あった。特に大型のトラックが路肩に寄せるよう指示されて、いろいろと尋問を受けているようだが、どうやらタクシーはたいていそのまま通すみたいだ。

僕は真ん中に座ってくれた「ココナッツ水おばさん」に対する引け目から、道中ずっとシートに背中をつけず、邪魔にならないように前屈みでじっと時間が過ぎるのを耐えていた。肩幅が広い僕が後ろにもたれてしまうと、残りの女性陣2人はきっと肩がおさまらず、ゆっくりできないだろう。

さらに車は快調に飛ばしている。1時間半ほど過ぎたあたりで、気品あふれる左端のご婦人が、目を閉じている僕の肩を、軽く叩いた。

「ここら辺から、気候が変わってくるよ。ジャングルだからね」

確かに周りは亜熱帯の森林が見えるだけだ。でもそう言われれば、ひんやりしている上に、緑の匂いがいい。僕の前の助手席の彼は窓を開けっぱなしにしているから、時速120Kmでひた走る乗り合いタクシー内は、ずっと風の音がボーボーと鳴っていた。