カラクルムの生物保護区はエセキエルによると7000ヘクタールらしい。
でも、畑や田んぼを持つ農家でもない限り、ヘクタールという面積をイメージするのは難しい。日本人なら、ここでよく引き合いに出てくるのが「東京ドーム」だ。
東京ドームは4.6ヘクタールらしいので、7000÷4.6=1521個分だ。
やっぱりよくわからないね。
要するに、ブラジルのアマゾンの熱帯雨林の保護区の次に世界で2番目に大きくて、グーグルマップでみたら、世界地図レベルで俯瞰しても緑だらけだという広さだ。
生物保護区というだけあって、トリップアドバイザーのコメントを見ても「猿を見た、けどジャガーは見られなかった」、というなかなか好奇心をそそる森であることはよくわかる。
国道から、自然保護区に入る村で、売店兼関所のようなカウンターに地元の日によくやけた女性が座っていた。
そこで190ペソを払ったら、紙製の細いブレスレットを手首に巻かれた。つまりこれが行く先々で検問の際に見せないといけない入場券なのだ。
「エヒード(村のコミュニティ)が徴収する料金だよ」
エセキエルに聞いたが、どうもこの先さらに遺跡に入る際にもう1回支払いがあるらしい。さすがにこの広さ全部を保全しているわけではないだろうが、森の中にある村がこの料金を徴収することで少しでも環境保護をしてくれているのなら、進んで払いますという感覚になる。
関所を通過して、いよいよ生物保護区に入っていくと、エセキエルは車のスピードを落とした。今までの真っ直ぐな道とは違い、ジャングルの中の舗装された道は、やはりグネグネと曲がっている箇所も多い。
道すがら、七面鳥が何度もいろいろなところで歩いているのをみることができた。
メキシコでは七面鳥をクリスマスによく食べるし、スーパーにも肉が置いてある。ただここで登場するのは野生の七面鳥だ。見た目もカラフルで黒い家畜の七面鳥とは様子が違う。
エセキエルも野鳥愛好家の急先鋒だから、七面鳥が現れるにつき車を徐行させたり、停まったりしてくれた。まだ朝が早いから車がほとんどない。
僕が写真を撮っていても、悠々としているものもいれば、さっさとジャングルに消えていくのもいる。「Pavo de Monte(パボ・デ・モンテ)」だとエセキエルは教えてくれた。豹紋七面鳥(ヒョウモンシチメンチョウ)と日本語では言うらしい。
とにかく周りが木だらけで気温は町中よりさらに2~3度低い。だから写真を撮ろうと車から降りると肌寒い。
ユカタン半島はどうやら何に置いても一つの文化圏、一つの生物圏を築いているらしい。マヤの文化圏はベリーズ、グアテマラ、メキシコの3つの国に大雑把に分かれているが、それは人間が勝手に国境を決めたからだ。そんなことは動物には関係ない。国境も動物にはもちろん意味がないから、パスポートもいらない。
そしてこの七面鳥もベリーズなどを中心にいるが、メキシコでは狩りなんかの影響で希少種になっているらしい。
ただ、少なくなっているとは言え、こんなに何回も惜しげもなく我々の前に姿を見せてくれるのだから、相当な数がこのジャングルの中にいるはずだ。
他にもいろいろな大きな蝶が舞っているのに何度も出くわした。中に青い羽をした、美しいアゲハチョウのような大きな蝶に出会った。
「Mariposa Morfo(モルフォ蝶)だよ。珍しい王様みたいな蝶だ」
そうやって野生動物たちに歓迎されながら、僕らはいよいよ遺跡の駐車場に着いた。