紺碧(こんぺき)の海に白く光る胸びれ。ゆっくりと海面へ浮かび上がる、親子とみられる2頭のザトウクジラ。その大きさは自然の雄大さを物語る。場所は那覇空港の数キロ先の沖合。新春を迎えた沖縄の海は子育てするザトウクジラが集まり生命を育む「ゆりかご」となっている。
ホエールスイムツアーを開催する那覇市の「ダイバーズガイド グマ」の大谷友斗さん(35)は「身近な海でこんなに大きな生き物を間近で見ることができる沖縄の魅力を知ってほしい。自然に感謝し、観察を通してクジラの魅力を伝えていきたい」と笑顔を輝かせる。
ザトウクジラは例年12月頃から4月頃にかけて、慶良間諸島や沖縄本島周辺を回遊する。繁殖や子育てなどが目的とみられている。「ダイバーズガイド グマ」では、クジラへの配慮を第一に、少人数制で沖縄本島中南部ホエール協会のルールにのっとってツアーを開催している。同協会の理事でホエールスイム事業部長を担う大谷さんは「クジラへのプレッシャーを避け、クジラの世界をのぞき見させてもらう感覚で臨んでいる。クジラとの出会いは感動を生み最高な体験になる」と強調する。
スキューバーダイビングのインストラクターを通し約15年前からクジラに関わってきた大谷さん。8月には店の繁忙期を投げ出し、南半球にある島国トンガまで追いかけて行くほどのクジラ好きだ。「クジラはいろいろな表情を見せてくれる。存在だけで人の感情を揺さぶる」と魅力を語れば止めどない。沖縄近海で出会ったクジラと翌年に再会した際は「お帰りなさい」とうれしさが込みあげるという。
大谷さんによると、約10年前に本島周辺でホエールスイムツアーが始まった。環境保全や情報共有を目的に中南部ホエール協会が設立された。当初はホエールウオッチング業者も含め20事業者ほどだったが、現在は約50事業者が加盟する。クジラの生態系への配慮を目的に、ウオッチング船とのすみ分けや、安全対策など観察ルールを協議する。昨年には県や沖縄美ら島財団、他のホエール協会と会合を持ち、環境保全に向けて持続可能な取り組みを進めているという。
大谷さんは「クジラと人が上手に共存できるような体制やルールを整え、毎年、クジラが元気いっぱいに帰ってこられるよう海のあり方を模索していきたい」と話す。