2008年に登場したSuperSixは伝説的なバイクだった。軽さと高い剛性、ピーター・サガンをはじめとする世界のトップライダーが扱って勝利を量産したのも話題になった。SuperSixは今でも根強い人気があるオールラウンドバイクだ。
キャノンデールが第4世代のSuperSix EVOをついに発表した。SuperSixが登場した当時の目新しさや特別さはなく、他社の新型バイクと同様に「エアロ」と「軽さ」が進化した。それでも、既存の剛性を維持しながら、より高いエアロダイナミクスと軽さを手に入れている。
先代の「SuperSix EVO」は2019年にモデルチェンジをしている。この変更は、初代SuperSixで象徴的だった伝統的なフレーム造形から、より今風で現代的でエアロなデザインに変更されている。「SuperSixのエアロ化」は当時はかなり話題になった。
SuperSixの熱狂的な愛好家からすれば、方針変更に落胆した人も多かったようだ。しかし、トップメーカーがこぞって「エアロ」と「軽さ」にカジを切った流れに乗り遅れなかったからこそ、SuperSixはいまも最先端を走り続けることができている。
発表された第4世代は、第3世代と大幅に異なる点があるわけではない。汎用性、快適性、使いやすさを維持しようとしながら、空力的にも重量的にも改善がされた「オールラウンドバイク」だ。
第4世代Super Six EVO
第4世代では、フレーム、フォークキット、コックピットの軽量化を図ると同時に、空力性能を向上させ、「第3世代のスーパーシックス」と「システムシックス」の間に存在しているギャップを縮めることに注力された。
SPECIALIZEDのTARMAC SL7がVENGEとSL6の間を埋めるべく開発された設計思想と同様だ。ただし、SuperSix EVOは軽さが際立っており、TREKのEmondaとくらべても遜色がなく、サイズ56のペイント込で770gアンダーという重量を記録している。
その他のモデルの重量は以下の通りだ。
- 770g:Ultralight Series 0 Carbon
- 810g:ハイモッドカーボン
- 930g:ノーマルカーボン
770gのフレームは、Ultralight Series 0 Carbonを使用している。強度や剛性に優れたナノレジンの組み合わせで、材料の量を減らし軽量かに寄与している。
第4世代のSuperSix EVOのフレーム造形で注目すべきはフロントまわりだ。ヘッドチューブ、シートチューブ、シートポストともに、非常に薄くしあがっている。そのため、キャノンデールはかなり過激な技術的な取捨選択をしている。
可能な限りシートポスト側を薄くするために、通常は内部に収められているDi2バッテリーを取り外すことにした。このバッテリーは、ボトムブラケット近くのダウンチューブに移設され、小さなカバーを開けて取り外しできるように設計されている。
その結果、バイクの重心が下がるというメリットだけではなく、シートポストを外すことなくバッテリーにアクセスしやすくなるという2つのメリットが生まれた。
シートクランプは、CANYON INFLITEのようにトップチューブの下に配置されている。
MOMOデザインとのコラボレーション
バイクのコクピットは、イタリアの「モモ・デザイン」とのコラボレーションによるものだ。SystemBar R oneと呼ばれるもので、LAB71とHi-MOD 1のモデルに付属している。もちろん、このコックピットは美しいだけでなく、人間工学的にも優れている。
フラットでありながら広すぎないトップバーは、手の小さな人もフィットするように設計されている。サイズ展開は、幅38cm~42mm、ステムは90mm~120mmで、11種類を用意している。
フォージドカーボン
材料に使用されているのは「フォージドカーボン」だ。フォージドカーボンは、独自の製造技術を用いた複合材料で、一般的な編み込み状のカーボンとは対照的に、刻んだカーボンを樹脂と混ぜ合わせている。
フォージドカーボンは、刻んだカーボンファイバーにエポキシ樹脂を含浸させて膜を作る。これを金型に入れて加熱し、プレスして最終的な形状に仕上げていく。
このMOMOコックピットとフレームのデザインを統一させるため、キャノンデールはフレームのトップチューブにフォージドカーボンを採用している。
昨今のエアロ系ロードバイクは、メーカー純正のコックピットに縛られることがおおくなった。しかし、GIANTのPROPELやTARMAC SL7がそうであったように、エアロ系ロードバイクで自分に合ったコクピットを選べるという意味は大きい。
エアロは細部に宿る。
キャノンデールは、SuperSix EVOの細部にまで気を配っている。それはフォークの「スルーアクスルの通し穴」だ。他メーカーはアクスルの通し穴を見える設計がほとんどだ。CANYON AEROADは専用のカバーを取り付けている。
しかし、新型SuperSix EVOはスルーアクスルの通し穴が完全に閉じた美しいフォーク設計が施されている。過去に他社メーカーが主張していたように、エアロ観点ではあまりプラスにはならない(ゼロではない)。
しかし、風がまっさきに当たるフォーク部分、そしてエアロを追求する姿勢、美しさには多少のメリットはある。なにより、フォークがなめらかなデザインになっている。また、スルーアクスル通し穴から雨やホコリが入らないため、常に汚れが付着しないメリットが有る。
一方で、リア側はディレイラーハンガーの交換を行う必要があるため、フロント側とはことなりこれまでと同様のスルーアクスル通し穴が存在している。
もうひとつ、GIANT PROPELに採用されたエアロボトルゲージのさらに一歩先を行く、エアロボトルも開発された。ボトル自体の幅がダウンチューブと同じぐらい細く、乱流を抑える効果がある。
小さな空力性能の改善の結果、第4世代のSuperSix EVO4はSystemSixとSuperSix EVO 3との差を縮めることに成功した。「空力性能は高いが重たいエアロロード」のSystemSixよりも約1キロの軽量化している。
エアロダイナミクス
第4世代のSuperSix EVOは、時速45kmで走行した場合、第3世代と比較して12ワットの電力を節約するという。風洞実験は、サンディエゴ・ロースピード風洞施設で行われた。TREK MADONEの風洞実験も同施設で行われている。
風洞実験結果は、SISTEMSIXには及ばないものの、第3世代のSuperSix EVOとは比べ物にならないレベルの空力性能を手に入れている。
- 202W:CANYON AEROAD CFR(DTSWIS 1100 DICT 62mm)
- 203W:Cannondale SYSTEMSIX(KNOT 64)
- 206W:Cervelo S5 DISC(ENVE SES)
- 208W:S-WORKS VENGE DISC(CLX 64)
- 210W:S-WORKS TARMAC SL7 DISC(RAPIDE CLX)
- 212W:TREK MADONE DISC(AEOLUS XXX6)
- 227W:(参考)TREK EMONDA SLR DISC(RSL 37)
SYSTEM SIXは現在でも最速クラスのバイクだ。風洞実験データーをみると、これらのバイクに迫るエアロダイナミクス性能を備えているため、VENGEやTARMAC SL7と近い空力性能を備えている可能性がある。
ジオメトリ
ジオメトリーも非常に美しい。特にトレール量が小さいサイズでも最適化されている点に注目してほしい。ヨーロッパ系のバイクブランドの場合、小さいサイズのトレール量がめちゃくちゃになっていることがある。
今回の第4世代SuperSixEVOはフォークレイクとヘッド角度が絶妙に調整され美しい値で統一されている。ローンチの際に「SuperSix EVOの優れたハンドリング性能」とあるがジオメトリ一つ見ても確かにコントロール性能が高そうだ。
まとめ:トレンドど真ん中のオールラウンドバイク
どのメーカーも「エアロ」と「軽さ」を追求したバイクを開発し市場に投入している。エアロロードと軽量バイクという垣根が無くなり、「1つで全てを」という考え方がトレンドになった。そして、長らくCannondaleのバイクの象徴でもあった圧入式BBからBSAのスレッド式に変更された。
このような話をすると、「TARMAC SL7と同じ設計思想だな」と思う人もいるかもしれない。しかし、どちらかといえばPINARELLOのDOGMAの長らく変わらない設計思想にTARMAC SL7を含めた各社が(紆余曲折を繰り返しながら)舞い戻ってきたようにも思える。
これから各社のバイクはますます、「エアロ化」「軽さ」「コクピット周りの高い自由度」「スレッド式BB」「ハイエンドカーボン素材」、そして新UCI規定による刀のような薄いフレームの設計になっていくのだろう。
ドロップシートステーはもはや目新しいものではなくなった。だからこそどれもこれも似たようなフレームのように見える。しかし、MOMOデザインのようにステアリング周りの設計や、フォージドカーボンの採用、バッテリー配置を変えたフレーム設計など小さな変更などで差別化が行われていくのだろう。
TARMAC SL7やAEROADといった現代のトップエンドモデルよりも、細部への設計の配慮が行き届いた第4世代SuperSix EVOはまた新しいオールラウンドエアロロードバイクの戦いを加熱させそうだ。