家探しで重視すべきことは何か。不動産事業プロデューサーの牧野知弘さんは「資産価値を基準に家を選んでも、いつまでも維持することはできない。重要なのは、自分にとっての一等地はなんであるかということをよく認識することだ」という――。
※本稿は、牧野知弘『家が買えない 高額化する住まい商品化する暮らし』(ハヤカワ新書)の一部を再編集したものです。
三世代が暮らす街は良い街である証し
俗に「江戸っ子」の定義は、「三代が江戸に生まれて江戸で育ったこと」だとされる。京都などでは応仁の乱(1467年)以前から住んでいなければ、しかも洛中でなければピュアな「京都人」とは呼ばないなどと冗談めかして語られるが、街が形成されて住民にその街への愛着が生まれ、コミュニティが醸成されるためには、おおむね三世代にわたって同じ街に住むことは必要条件だと思われる。
たとえば湘南エリアには、三世代にわたって居住している家族が多いという。もともとは別荘地として開発されたエリアだが、土地の区画が広く、藤沢市の鵠沼エリアなどは、1区画が数百坪から1千坪を超えたことから、子どもが離れに家を建てる、二世帯住宅に建替えるなど、複数の世代が暮らすことができる素地があった。
また、風光明媚な景勝地であり、気候は温暖で、都心に通勤も可能ということで、大学を卒業した子どもたちも再びこの地に戻って世帯を構えるケースが多いそうだ。「海」をテーマにしたブランディングの成功も、この地の活気につながっている。
タワマンや再開発エリアに人は根付くか
三世代とは祖父母、父母、その子どもたちのことだ。同じ時代を生きることができる三世代であれば、街についての共通の話題ができる。三世代が同じ小学校や中学校で学んだり、同じ公園や海、川、山野で遊んだりする共通体験があることによって、街に対する共通の想いが出来上がり、それが街に対する親近感、プラウドとなるのである。
こうした街づくりを、果たしてタワマンの建設や市街地再開発事業で実現できるのだろうか。三世代が想いを共有できる街の魅力は、金銭的な価値には代えがたい精神的な価値から生まれる。