※本稿は、カート・ワグナー(原著)、鈴木ファストアーベント理恵(翻訳)『TwitterからXへ 世界から青い鳥が消えた日』(翔泳社)の一部を再編集したものです。
ツイッターブランドを“根絶やし”に
2023年7月下旬、イーロン・マスクは正式にツイッターにとどめを刺した。ツイッターを象徴する鳥のロゴはアプリストアから削除され、サンフランシスコのオフィス内の壁からも取り除かれた。鳥が姿を消した穴を埋めるのにマスクが必要としたのは、たった1文字「X」だった。
マスクは昔からXという文字を好んだ。息子の名前でもあり、初期に立ち上げたスタートアップの一つにもX.comという社名をつけている。Xは今や、彼のお気に入りのソーシャルネットワークの名前にもなった。
このようにして、買収完了から約9カ月後の7月23日、17年以上存続してきたツイッターのブランドを根絶やしにしていった。ツイッターのアプリは誕生以来ずっと青く、真ん中に白い鳥が描かれていたが、突然黒地に白いXの文字デザインになった。
マスクはサンフランシスコのダウンタウン、マーケット・ストリートのツイッター本社の外壁にXの文字を投影させ、屋上に巨大な金属製のXのロゴ看板の設置を手配した(毎度のことながら適切な許可を取得しておらず、何十件もの苦情を受けた市当局が、同社に安全規定への違反を通知してからわずか3日後、Xの巨大看板は撤去されるに至った)。
イーロン・マスクは“満足気”
世界的に認知され、ニュース速報の代名詞でもあったブランドを捨てるというマスクの決断は、疑問の残るものだった。多くの人は、それは表面的な変化に過ぎないと受け取った。
しかし、マスクは、洗面ボウルを持ってオフィスの正面玄関をくぐった瞬間(編集部注:初めてオフィスを訪れた日のエピソード)から、ツイッターの企業文化、従業員、ニュースバリュー、すなわちツイッターをツイッターたらしめていたものを解体してきた。
ツイッターを何か新しいものに変えるというビジョンを持つマスクは、古い鳥が飛び去っていくのを満足気に眺めた。その新しいものが何であるかは、就任から9カ月経った今でもはっきりとは見えてこない。多くの点で、プロダクト自体はツイッター1.0の頃とほとんど変わらないように見える。
その一方でマスクは、表からは見えにくい部分で変化を起こしている。例えば、Xが決済事業に参入できるよう、送金業者としてのライセンスを申請した。Xを「エブリシング・アプリ」に変えるという野望達成へ向けた取り組みの一環である。
また、一部の人気ユーザーと広告収入を分け合うことで、サービスのさらなる利用を促した。