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日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

理想を追求した?志賀直哉らの「白樺派」を解説する

白樺派は、1910年(明治43年)創刊の文学同人誌『白樺』を中心にして起こった文芸思潮の一つであり、その理念や作風を共有していたと考えられる作家達のことである。

 

雑誌「白樺」に依拠して、キリスト教、トルストイ主義、メーテルランク、ホイットマン、ブレイクなどの影響を受けつつ、人道主義、理想主義、自我・生命の肯定などを旗印に掲げた文学者たちが白樺派に名を連ねる。

 

この記事では白樺派について解説したい。

 

 

白樺派とは?

明治末期から大正時代にかけて、日本の文壇に清新な風を吹き込んだ白樺派。彼らは、1910年(明治43年)に創刊された文芸雑誌『白樺』の同人たちを中心とした文学者や芸術家の集団であった。学習院の同窓生であった武者小路実篤と志賀直哉が中心となり、里見弴、有島武郎、有島生馬らが加わって結成された。

自然主義文学が隆盛を極めていた当時、白樺派の作家たちは、人間の醜い部分や些細な出来事をありのままに描く風潮に疑問を抱いていた。彼らは、むしろ人間の精神的な内面や、理想を追求することに重きを置いたのである。大正デモクラシーの自由主義的な風潮を背景に、人間性尊重、個性解放、理想主義、人道主義を掲げ、既成の文学や芸術の枠にとらわれない、自由な表現を追求した。

白樺派は、自我の尊重と積極的な生き方を理想とし、恋愛の自由など、当時の社会ではタブーとされていたテーマにも果敢に挑戦した。特に有島武郎は、女性の解放といったテーマを積極的に作品に取り上げている。

 

 

白樺派の主要な作家と作品

白樺派には、多才な作家たちが集い、それぞれの個性を活かした作品を生み出した。

中心人物であった武者小路実篤、志賀直哉、有島武郎について、詳しく見ていこう。

 

武者小路実篤

白樺派の精神的な支柱であった武者小路実篤は、常に理想を追い求め、人間性の可能性を信じていた。彼の作品には、理想主義、人道主義といった思想が色濃く反映されている。

代表作の一つである『お目出たき人』では、どんな時でも幸福を感じ、周囲の人々にも幸福を分け与えようとする主人公を通して、人間の理想的な生き方を提示している。また、『友情』では、自己犠牲を厭わず、友のために尽くす主人公の姿を描写し、真の友情の在り方を問いかけている。さらに、『愛と死』では、愛する人を失った悲しみと、それを乗り越えていく人間の強さを、繊細な筆致で描いている。

実篤は、理想的な社会の実現を目指し、宮崎県に「新しき村」を建設したことでも知られている。共同生活や労働を通して、人間性の向上と社会の改革を目指した彼の活動は、白樺派の思想を体現するものと言えるだろう。

 

志賀直哉

小説の神様」と称された志賀直哉は、鋭い観察眼と簡潔な文体で、人間の心理や行動をリアルに描写した。彼の作品は、私小説の要素が強く、自身の体験や内面世界を題材にしたものが多く見られる。

代表作『暗夜行路』は、主人公の時任謙作が、父との確執や過去の恋愛、そして自身の内面と向き合いながら、苦悩し成長していく姿を描いた長編小説である。また、『和解』では、父との確執を乗り越え、新たな家族との絆を築いていく過程が描かれている。『城の崎にて』は、城崎温泉での療養生活を通して、死生観や自然観を綴った作品である。そして、『小僧の神様』では、貧しい少年の純粋な心を描写し、読者の心を温かくする。

志賀の作品は、人間の心の奥底を深く探求し、普遍的なテーマを扱っていることから、現代においても多くの読者に愛読されている。

 

 

有島武郎

社会問題や倫理的なテーマに鋭く切り込んだ有島武郎。キリスト教的人道主義の影響を受け、人間の罪と救済、そして社会における矛盾を深く考察した。

代表作『或る女』は、封建的な社会の中で、自由を求めて生きる女性の葛藤を描いた作品である。『カインの末裔』では、貧困や差別といった社会問題を背景に、人間のエゴイズムや罪の意識を描き出している。『生まれ出づる悩み』は、自身の出生の秘密に苦悩する青年を通して、人間の存在意義を問いかける作品である。

有島は、社会主義思想にも傾倒し、労働運動にも参加した。彼の作品は、社会的な弱者に対する温かいまなざしと、社会の矛盾に対する鋭い批判精神を併せ持っている。

 

 

白樺派の特徴

白樺派の文学作品には、共通して見られる特徴がある。

人間性への関心

白樺派の作家たちは、人間の内面世界、精神の自由、個性の尊重といったテーマを重視した。彼らは、人間を善なる存在として捉え、その可能性を信じ、理想的な人間像を追求した。自然主義が客観的な描写に終始したのに対し、白樺派は人間の主体性や内面世界を深く掘り下げることで、新たな文学の地平を切り開いたのである。

理想主義

白樺派は、理想的な社会や人間関係の実現を強く願っていた。彼らの作品には、人道主義、平和主義、博愛主義といった思想が色濃く反映されている。特に、トルストイの思想は、白樺派の作家たちに大きな影響を与えた。彼らは、トルストイの非暴力主義や無政府主義的な思想に共鳴し、理想社会の実現を夢見ていたのである。

自然主義の影響

白樺派は自然主義を批判しながらも、その写実的な描写手法を部分的に取り入れている。志賀直哉の作品などに見られる、客観的な視点と細やかな描写は、自然主義の影響と言えるだろう。しかし、白樺派は自然主義のように、ただ現実をありのままに描くのではなく、そこに人間の精神性や理想を織り込むことで、作品に深みと奥行きを与えた。

第172回芥川龍之介賞の受賞作『DTOPIA』と『ゲーテはすべてを言った』について紹介する

第172回芥川賞の受賞作が発表された。

受賞作は安堂ホセ「DTOPIA」と鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」の二作品だ。

 

ノミネート作品は下記の五作品だった。

  • 安堂ホセ「DTOPIA」(文藝秋季号)
  • 鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」(小説トリッパー秋季号)
  • 竹中優子「ダンス」(新潮11月号)
  • 永方佑樹「字滑り」(文學界10月号)
  • 乗代雄介「二十四五」(群像12月号)

 

ノミネートされた5名のうち、鈴木結生、竹中優子、永方佑樹は初めて候補に選ばれ、安堂ホセは3回目、乗代雄介は5回目のノミネートとなる。

 

芥川賞をざっくり簡単に説明すると、新人作家の純文学作品に与えられる文学賞だ。文学賞の中で一番有名な賞だろう。純文学というと定義が難しいのだけれど、芥川賞に限っていえば、「文學界」・「新潮」・「群像」・「すばる」・「文藝」の五大文芸誌に掲載された作品が候補の対象となる。候補の作品となる小説の長さは中編程度が多い。

以下作品の詳細について書いていく。

 

 

 

そもそも芥川賞とは?

まず、芥川賞について簡単に説明しよう。芥川賞とは、新人作家の純文学作品に与えられる文学賞だ。純文学における登竜門的な賞で、文学賞の中で一番知名度がある賞かもしれない。純文学界のM−1グランプリみたいなものだ。純文学というと定義が難しいのだけれど、芥川賞に限っていえば、「文學界」・「新潮」・「群像」・「すばる」・「文藝」の五大文芸誌に掲載された作品が候補の対象となる。他の文芸誌に載った作品も候補になることがあるが非常にまれだ。

 

第172回芥川龍之介賞受賞作品の紹介

それでは、今回芥川賞を受賞した2作品について紹介したい。

 

安堂ホセ「DTOPIA」(文藝秋季号)

DTOPIA

DTOPIA

Amazon

安堂ホセの『DTOPIA』は、恋愛リアリティショーを題材とした作品だ。安藤ホセは『ジャクソンひとり』で第59回文藝賞を受賞し、作家としてデビュー。この作品は、東京に暮らすブラックミックスたちの逆襲劇を描いており、独特な視点と表現が評価されている。これまでに『ジャクソンひとり』と『迷彩色の男』で芥川賞候補になっている。

今回候補になった『DTOPIA』は、南太平洋の楽園、ボラ・ボラ島を舞台に、YouTubeで配信される恋愛リアリティ番組『プリンス・オブ・ボラ・ボラ』の裏側を描いた作品。ミス・ユニバースを巡り、10人の男たちが争うという番組だが、実際には出演者同士の争いや権力闘争が渦巻く過酷な世界となっている。 番組は視聴者から絶大な人気を誇り、出演者たちは一躍時の人となるが、裏側では様々な問題を抱え苦悩する姿も。そんな中、番組の真相が明らかになり、出演者たちは新たな決意を固める。 リアリティ番組という虚構と、その中で生きる人間のリアルな感情の対比が鮮やかに描かれた作品だ。

 

 

鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」(小説トリッパー秋季号)

鈴木結生の「ゲーテはすべてを言った」は、ゲーテの名言に出会った主人公がその言葉の原典を探し求めるアカデミックな冒険を描いた作品だ。
鈴木結生は「人にはどれほどの本がいるか」という作品で第10回林芙美子文学賞の佳作を受賞しデビュー。

ゲーテ学者・博把統一(ひろばとういち)は、家族との夕食中にティーバッグのタグに書かれた見慣れないゲーテの言葉に遭遇する。 長年の研究生活の記憶を辿り、膨大な原典を読み漁る統一。 ゲーテの言葉の意味を追求する中で、彼は自身の研究や人生、そして創作活動そのものを見つめ直していく。 ひとつの言葉を巡る彼の旅路は、読者を思いがけない結末へと誘う。

 

折角なので皆さんも芥川賞受賞作品を読んでみては!

 

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佐世保に行ったので佐藤正午の聖地を巡礼してみた

最近というわけではないのだが、長崎旅行してきた。

 

メインは大浦天主堂やハウステンボスだったのだが、せっかく長崎に行くので敬愛する作家・佐藤正午の聖地巡礼をしたいということで、佐世保に行ってきた。

 

知らない人のために説明しておくと、佐藤正午は『永遠の1/2』や『鳩の撃退法』、『月の満ち欠け』などの作品で知られる作家だ。文体や小説の構成が素晴らしく、唯一無二の小説を書いている。特に『鳩の撃退法』は、メタフィクション的な仕掛けがある大傑作で是非多くの人に読んでもらいたいと思う。『月の満ち欠け』で直木賞を受賞し、映画化もされたので知っている人も多いのではと思う。大学生の時にハマって以来、佐藤正午作品は全て読んできた。

 

佐世保と佐藤正午にどのような関係があるかというと、佐世保は佐藤正午の出身地であり佐藤正午作品には佐世保を舞台にしたものが多くある。直木賞受賞時のインタビューでは、贈呈式には出ますかという質問に佐世保で誕生日のお祝いをしてるかもしれないと言って会場を沸かせていた。冗談かと思いきや、本当に授賞式には来なかったのだが。

 

そんなこともあって「ダ・ヴィンチ 2018年2月号」で佐藤正午特集が組まれた時には、「佐世保から出ない直木賞作家」というキャッチコピーをつけられていた。

 

その「ダ・ヴィンチ 2018年2月号」に佐世保にある行きつけの喫茶店が紹介されていた。これが今回聖地巡礼してきた「くにまつ」という喫茶店である。

tabelog.com

 

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商店街付近のところにある喫茶店だ。来店した時の雰囲気だと、地域に根ざした感じの喫茶店の印象だった。マスターが気さくな方で色々と話しかけてくれた。佐藤正午のファンで来ましたというと、同じように来店する佐藤正午ファンが多いとのこと。店内には佐藤正午が直木賞を取った時のポスターも貼ってあった。佐藤正午がいつも座っている席とかも教えてもらったりと楽しい聖地巡礼であった。コーヒーも美味しかったのでぜひ佐藤正午ファンの方は佐世保に行って、「くにまつ」に行ってみて下さい!

 

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帰りは佐世保市内にある本屋に立ち寄ってみた。ちょうどその時は佐藤正午の新刊『冬に子供が生まれる』の発売前だったので、予約受付中の広告が。さすが、佐藤正午の地元の本屋である。せっかくなので、持ってはいるものの記念に佐藤正午の文庫本を買って帰った。サイン会とかあれば行きたかったな。

 

 

 

次に実写化される館シリーズは?Huluで映像化される『〇〇館の殺人』を予想してみた


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綾辻行人の館シリーズは、中村青司が設計した館を舞台に繰り広げられる密室殺人や複雑なトリックが魅力のミステリ小説シリーズだ。1987年の「十角館の殺人」を皮切りに、多くの読者を魅了し続けてきた。

特にシリーズ一作目の『十角館の殺人』は、どんでん返しの名作として有名であり、そのトリックの性質ゆえ「映像化不可能」と言われていた。映像化不可能の名作といわれた『十角館の殺人』だが、2024年3月にHuluにて実写ドラマ化された。当時は「どうやって映像化するんだ」と思っていたが、実際に見てみるとかなりの力技で実写化していた。

これで館シリーズの実写化は終わりかなと思っていたら、なんとhuluでまた実写化されるとのこと。一体どの作品を映像化するのか?

まだ正式に発表されていないのだが、気になりすぎるのでどの作品が映像化されるのか考察してみた。

この記事では、綾辻行人の館シリーズ全作品の実写化の可能性を検討し、次にHuluで実写化される作品を予想する。館シリーズ全作品のネタバレが含まれるため、未読の人は要注意!

 

 

次に映像化される館シリーズを考察する


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Huluで次に実写化される館シリーズを予想するのは難しいのだが、館シリーズの内容や登場人物の数、作品の長さ、実写化された時のインパクトなどから予想してみようと思う。

登場人物が多い作品はキャスティングや演出が難しくなる可能性があるし、あまりにも長い長編作品(特に暗黒館の殺人)は、時間の都合上難しいのではないかと思う。

とりあえず、館シリーズの各作品について映像化されるのかについてまず検討していこうと思う。館シリーズのネタバレが過分に含まれるので、未読の方はご注意ください。

 

 

水車館の殺人

館シリーズ二作目の『水車館の殺人』では、仮面の当主と美少女が住む水車館で、過去の惨劇が再現される恐怖が描かれる。水車館に招かれた客たちが、次々と不審な死を遂げる様子が描かれる。オーソドックスな本格ミステリだ。静謐な雰囲気が漂う水車館の雰囲気も魅力的である。

ストーリーは複雑なのだが、『十角館の殺人』と違ってメイントリックの映像化のハードルは低いと考えられる。メインの叙述トリックが仮面をつけている人物が実は入れ替わっていたというものなので、映像化はしやすそうである。ただ、館シリーズの中でも地味な印象は拭えない。

 

 

迷路館の殺人

三作目の『迷路館の殺人』は、地下に迷路を持つ迷路館が舞台の作品である。作家たちが推理小説の競作を行う中、連続殺人が発生する。『迷路館の殺人』には特殊な仕掛けがあり、作中作の形式を取り入れたメタフィクション的な仕掛けが施されているところが特徴である。迷路館は十角館と並んでどんでん返しの名作として知られている。

メタフィクション的な仕掛けがあるのでこれを映像化するのはかなり難しそうではある。性別の誤認トリックも出来なさそうではないが…あとはメタフィクションの部分をどうするか。ただ、『迷路館の殺人』も『十角館の殺人』と並んで映像化不可能のどんでん返しの名作として知られているので、映像化した際のインパクトは大きそう。どうやって映像化するかの方法は思いつかないが、割と映像化の可能性はあるのではと思う。映像化された迷路館をみてみたいという気持ちもある。

 

 

人形館の殺人

四作目の『人形館の殺人』は館シリーズの中でも変化球的なミステリだ。京都の屋敷を舞台に、顔のないマネキン人形と通り魔殺人が絡むミステリである。これまでの館シリーズを読んでいないと楽しめないギミックが仕込まれているので順番通り読むことをお勧めする。

『人形館の殺人』は映像化しないのではと思っている。『人形館』では中村青司の設計した館のように誤認させるトリックが使われていて、実際は中村青司の館ではなかったというオチだ。また、語り手が多重人格という特殊な設定があるので実写化は厳しそうに思う。『人形館の殺人』は、今までに三作品館シリーズを読んだ上で初めて驚きがある変化球的な作品なので、映像化2作品目では実写化しないだろうなと思う。二作目で変化球的な作品が来てもなと思う。

 

 

時計館の殺人

五作目の『時計館の殺人』は鎌倉の時計館で起こるクローズドサークルもののミステリだ。日本推理作家協会賞を受賞した名作である。『時計館の殺人』のトリックは、館内の時計の時間をずらしていたというもの。これであれば、実写化するのも大変ではないかなと思う。また、時計がたくさん置かれているビジュアルも映像化向けではと思う。

 

 

黒猫館の殺人

六作目の『黒猫館の殺人』も変化球的な作品である。個人的には『十角館の殺人』の次に衝撃があった作品だ。このミステリは記憶を失った老人の依頼から始まり、深い森に隠された館での謎に主人公たちが挑む。

こちらもメタフィクション的な仕掛けがあるので映像化は厳しいのではと思う。変化球的な作品なので、『時計館』や『迷路館』のほうがいいのではと思う。

 

 

暗黒館の殺人

七作目の『暗黒館の殺人』はホラー的な要素も絡んだ超大作である。館シリーズの中でも一番長い作品だ。湖上の小島にある漆黒の館を舞台とした大作。複雑な家族関係と多くの謎が絡みあう。

『暗黒館の殺人』は館シリーズの中でも最も長く、複雑な作品だ 。なので実写化はしないのではと思う。十角館でさえ5話必要だったので、暗黒館ではどのぐらい話数が必要になるんだという話になる。また、幻想的な内容であるため、その点でも映像化は厳しいか。

 

 

びっくり館の殺人

八作目の『びっくり館の殺人』は児童向け要素も含むホラーサスペンス。クリスマスの夜に起こる密室惨劇が描かれている。これはちょっと短すぎるというのと、腹話術の人形が実は人間だったという叙述トリックを映像化するのはなかなか厳しそうである。映像がホラーすぎる。

 

 

奇面館の殺人

九作目の『奇面館の殺人』は季節外れの吹雪で孤立した館で、仮面を被った客たちの間で起こる事件を描いている。仮面による「顔」の隠蔽と入れ替わりという設定は映像化に適していそうだが 、複雑なプロットと伏線を映像で表現するには工夫が必要そうだ。あとは映像化2作品目なのにいきなり九作品目をやるのも考えづらいか。

 

 

実写化の可能性が高い作品


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ここまで館シリーズを全て振り返って確認してきたが、実写化しそうな作品は『水車館の殺人』、『迷路館の殺人』、『時計館の殺人』、『奇面館の殺人』だろうか。

その中でも館シリーズの順番を考えると、『水車館の殺人』、『迷路館の殺人』かなと思う。また、実写化した際のインパクトを考えると個人的な予想は『迷路館の殺人』ではないかと考えている。雑な予想になってしまったが。

まあ、映像化第二弾が好調であればHuluは次々と館シリーズを映像化するかもしれない。『十角館の殺人』の実写化ドラマを見ると、Huluはかなり原作に忠実に映像化してくれるのではないかと期待している。

今後のHuluの発表から目が離せない。あと、館シリーズ最終作の『双子館の殺人』も早く読みたいところ。今年は読めるかな?

 

 

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『世界でいちばん透きとおった物語2』が出版される件について

皆さんは本は紙で読む派だろうか?それとも電子書籍派だろうか?

自分は紙で読む派なのだが、最近では電子書籍派の人もかなり増えてきているんじゃないだろうかと思う。どっちでもいいんじゃないと思う人が多そうだが、中には「電子書籍化絶対不可能」と言われる小説がある。

 

「電子書籍化絶対不可能」「紙の本でしかできない体験」と話題になったミステリが『世界でいちばん透きとおった物語』だ。

 

「電子書籍化絶対不可能」という口コミが広がりメディアでも話題を集め、2023年のベストセラーになったミステリ小説だ。実際に紙の本でしか味わえない仕掛けが施されており、電子版は発売されていない。読んだ人なら分かると思うのだが、この本を電子書籍化するのは不可能だ。

 

そんな『世界でいちばん透きとおった物語』だが、どうやら続編が出るみたいだ。タイトルは、その名の通り『世界でいちばん透きとおった物語2』だ。どうやら今回は主人公はそのままに「ある小説」の遺稿に秘められた想いを解き明かす物語のようだ。

この記事では、発売前の『世界でいちばん透きとおった物語2』についてあれこれ考えてみたいと思う。

 

 

話題になった『世界でいちばん透きとおった物語』とは?

世界でいちばん透きとおった物語』は、杉井光による長編ミステリ小説で、2023年5月に新潮文庫nexから刊行された。

この作品は、特に「電子書籍化絶対不可能」や「ネタバレ厳禁」といった触れ込みで注目を集め、発売から50万部を超える売上を記録した大ベストセラー作品だ。

「電子書籍化絶対不可能」という触れ込みに間違いはなく、紙の本でしか味わえない感動がこの本にはある。原理的にこの仕掛けを電子書籍化することは不可能である。

あらすじを簡単に書いてみよう。大御所ミステリ作家の宮内彰吾は、妻帯者ながら多くの女性と交際し、そのうちの一人と子供までつくっていた。その隠し子が主人公である「僕」だ。「僕」は、宮内が死ぬ間際に書いていたとされる『世界でいちばん透きとおった物語』という遺稿探しを探すことになる。この本の仕掛けに気付いた時、作者が仕掛けた緻密なトリックに驚き、感嘆すること間違いなし。よくこのアイデアを実現させたなというのが初めて読んだ時の感想だ。紙の本への愛情や可能性を感じた一冊である。ぜひ、紙媒体で読んで驚きの体験を味わってみてほしい。
 

 

続編の『世界でいちばん透きとおった物語2』はどんな小説?

そんな話題作の『世界でいちばん透きとおった物語』の続編が出るのだから気にならないわけがない。

『世界でいちばん透きとおった物語2』のあらすじだが、新人作家の藤阪燈真の元に奇妙な依頼が舞い込むところから話が始まる。コンビ作家・翠川双輔のプロット担当が死去したため、ミステリ専門雑誌『アメジスト』で連載中の未完の作品『殺導線の少女』の解決編を探ってほしいというものだ。本作でも、霧子&燈真のコンビは健在のようだ。

プレスリリースを読んでいると、この作品は安楽椅子探偵もので、作家ものならではの虚実入り乱れるプロットになっているようだ。また、『世界でいちばん透きとおった物語』はシリーズ化するとのことなので、今後の動向も気になるところ。

 

紙の本ならではの仕掛けはあるのか?

もう一つ気になる点があるとすれば、『世界でいちばん透きとおった物語2』にも「紙の本でしかできない仕掛け」があるのかどうかだ。この点に関して、次回作では「紙の本でしかできない体験」はおそらくないのではないかと考える。

「紙の本でしかできない体験」がないと考える理由としては、Amazonの予約ページにある。

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『世界でいちばん透きとおった物語』には電子書籍版の販売はないのだが、『世界でいちばん透きとおった物語2』では電子書籍版の販売もあるようだ。

このように電子書籍版の販売もあるようなので『世界でいちばん透きとおった物語2』では「紙の本でしかできない仕掛け」はないと思っている。

 

 

2025年1月29日に発売予定

『世界でいちばん透きとおった物語2』だが、2025年1月29日に新潮文庫nexから発売予定とのこと。まだ先だが、どんな謎や仕掛けが込められたミステリか気になるところだ。

 

 

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今年の振り返り

皆さん、こんにちは。

 

なおひとです。

今年は仕事が忙しく、ブログからも、読書からも遠ざかってしまった一年でした…

来年こそは読書とブログを充実させたい!

 

特に純文学、ミステリ、村上春樹あたりにフォーカスしてブログを更新して行きたいなと思う。

 

久しぶりのまとまった休みなので読書しまくってます。

 

それでは良いお年を!

ミステリ小説のフェアプレー精神!ノックスの十戒とは?

推理小説の世界には、読者への挑戦状ともいえる独特の構造が存在します。 作家は、読者に謎を解くための手がかりをすべて提示し、読者はその情報をもとに探偵と推理を競い合う、いわばゲームのようなものです。このゲームを成立させるための暗黙の了解、それが推理小説におけるルールです。その代表的なものが「ノックスの十戒」と「ヴァン・ダインの二十則」です。 今回は、ロナルド・ノックスが提唱した「ノックスの十戒」に焦点を当て、その内容と影響、そして現代における意義について詳しく解説していきます。  

 
 
 
 

ノックスの十戒とは?
「ノックスの十戒」は、イギリスの推理作家ロナルド・ノックスが1928年に、ヘンリー・ハリントンと共編したアンソロジー『THE BEST DETECTIVE STORIES OF THE YEAR 1928』の序文で発表した、推理小説を書く上での10個のルールです。 本格ミステリーの黄金時代ともいえる1920年代、アガサ・クリスティやエラリー・クイーンといった巨匠が登場し、数多くの作品が世に出されました。しかし、中には読者を欺くような不当なトリックや、納得のいかない展開の作品も存在していました。こうした状況を憂慮したノックスは、「十戒」を定めることで、作家と読者の双方にとってフェアプレーな推理小説のあり方を提示したのです。 ちなみに、アメリカの作家S・S・ヴァン=ダインも同年に「ヴァン・ダインの二十則」を発表しており、 これら2つのルールは推理小説の基本指針として、今日まで多くの作家に影響を与え続けています。  

 
 
 

十戒の内容
「ノックスの十戒」は以下の通りです。  

 
 
 

戒律
内容
1
犯人は物語の当初に登場していなければならない。ただしその心の動きが読者に読みとれている人物であってはならない。
2
探偵方法に、超自然能力を用いてはならない。
3
犯行現場に、秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない。
4
未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない。
5
主要人物として「中国人」を登場させてはならない。
6
探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない。
7
変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない。
8
探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない。
9
サイドキックは、自分の判断を全て読者に知らせねばならない。また、その知能は、一般読者よりもごくわずかに低くなければならない。
10
双子・一人二役は、予め読者に知らされなければならない。
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これらの戒律は、読者に謎を解くための公平な機会を与えることを目的としています。

各戒律の詳細と影響
1. 犯人の登場
第一戒は、犯人が物語の初期に登場し、読者がその人物に注目できる機会を与えるべきだと述べています。 登場人物全員が容疑者となりうるミステリーにおいて、犯人が物語の終盤で突然登場するような展開は、読者への裏切り行為とみなされます。  

 
 

2. 超自然能力の禁止
第二戒は、超自然能力や魔術といった非論理的な要素を排除することで、推理小説を論理的な謎解きのゲームとして確立することを目指しています。 現代のミステリーにおいても、この戒律は広く守られており、SFミステリーのような例外を除いて、超自然的な要素はほとんど見られません。 例えば、綾辻行人氏の『十角館の殺人』では、館に閉じ込められた人々が次々と殺害される事件が発生しますが、そのトリックはすべて論理的なものであり、超自然的な力は一切介在しません。  

 
 
 

3. 秘密の抜け穴・通路
第三戒は、犯行現場に秘密の抜け穴や通路を複数設けることを禁じています。 これは、複雑すぎる構造や仕掛けによって読者を混乱させ、フェアな推理を妨げる可能性があるためです。 例えば、江戸川乱歩の『孤島の鬼』では、孤島という閉鎖空間が舞台となりますが、秘密の抜け穴などは存在せず、限られた空間と登場人物の中で事件が展開されます。  

 
 

4. 未発見の毒薬・機械の禁止
第四戒は、未発見の毒薬や難解な機械といった、読者にとって未知の要素をトリックに用いることを禁じています。 読者が理解できない情報に基づいた解決は、フェアプレーの精神に反するためです。 例えば、横溝正史の『犬神家の一族』では、遺産相続を巡る殺人事件が発生しますが、トリックには毒薬や機械は使われず、人間の心理や行動を巧みに利用したものが中心となっています。  

 
 

5. 中国人の登場
第五戒は、当時の西洋社会における東洋人に対する偏見に基づいたものであり、現代においては批判の対象となっています。 ノックス自身も、この戒律は冗談半分に書いたと述べており、 現代の作家はこの戒律を無視することが一般的です。 本来は「中国人」ではなく、「謎めいた外国人」と解釈するべきであり、 読者を欺くためにステレオタイプ的なイメージを利用することを戒めたものと考えられます。  

 
 

6. 偶然や第六感の禁止
第六戒は、探偵が偶然や第六感によって事件を解決することを禁じています。 論理的な推理に基づかない解決は、読者にとって納得のいくものではないためです。 例えば、シャーロック・ホームズシリーズでは、ホームズは鋭い観察眼と推理力によって事件を解決しますが、偶然や第六感に頼ることはありません。  

 
 

7. 探偵が犯人であることの禁止
第七戒は、探偵自身が犯人であることを禁じています。 これは、読者を欺く行為であり、フェアプレーの精神に反するためです。ただし、変装などによって読者を騙す場合は例外として認められています。  

 
 

8. 未提示の手がかりによる解決の禁止
第八戒は、探偵が読者に提示していない手がかりを用いて事件を解決することを禁じています。 読者に開示されていない情報に基づいた解決は、読者にとって不公平であるためです。  

 
 

9. 探偵の助手の役割
第九戒は、探偵の助手(ワトスン役)の重要性を説いています。 探偵の助手は、読者と同じ目線で事件を体験し、読者の疑問や推理を代弁する役割を担います。 シャーロック・ホームズシリーズのワトソン医師のように、探偵の助手は読者と探偵をつなぐ役割を果たし、物語をより分かりやすく、親しみやすいものにしています。  

 
 

10. 双子・一人二役の制限
第十戒は、双子や変装による一人二役をトリックに用いる場合、事前に読者にその事実を知らせるべきだと述べています。 これは、読者を不当に混乱させることを避けるためです。  

 
 

現代におけるノックスの十戒
「ノックスの十戒」は、発表から約100年が経った現在でも、推理小説の基本的なルールとして一定の影響力を持っています。 しかし、現代の推理小説は多様化しており、「十戒」を厳格に守る作品ばかりではありません。むしろ、「十戒」を意図的に破ったり、逆手に取ったりすることで、新たな表現や驚きを生み出す作品も数多く存在します。 例えば、麻耶雄嵩氏の『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』は、「ノックスの十戒」を含むミステリーのルールをことごとく破ることで、読者の予想を覆す衝撃的な作品となっています。  

 
 
 
 

ノックスの十戒とゲームのシナリオ
少し余談になりますが、「ノックスの十戒」は推理小説だけでなく、テーブルトークRPG(TRPG)のようなゲームのシナリオ作成にも応用できるという興味深い指摘があります。 TRPGでは、ゲームマスターが提示するシナリオに基づいてプレイヤーがキャラクターを操作し、物語を進めていきます。この時、ゲームマスターはプレイヤーに謎を解くための手がかりを公平に提示し、プレイヤーが推理や行動を通じて物語に参加できるよう配慮する必要があります。  

 
 

結論
「ノックスの十戒」は、推理小説の黄金時代に生まれた、作家と読者のためのフェアプレー精神を体現したルールです。 読者に謎を解く喜びを与えるという、推理小説の本質を捉えたルールといえるでしょう。現代においても、その精神は多くの作品に受け継がれており、 作家たちは「十戒」を意識しながら、それぞれの解釈で作品に活かしています。 一方で、現代のミステリーは多様化しており、社会派ミステリーや心理サスペンスなど、「十戒」の枠にとらわれない作品も数多く存在します。 「ノックスの十戒」は、推理小説をより深く理解するための道しるべとして、そして、新たな創作の可能性を探るためのヒントとして、今後も重要な役割を果たしていくでしょう。