WO2023027171A1 - 耐水害浮上式の総合防災節水建築構造物 - Google Patents

Abstract

雨水の利用の推進に関する法律の課題としての雨水利用を推進し、水資源の有効利用を図り、併せて下水道、河川等への雨水の集中的な流出の抑制に寄与する。国連サミット国際目標であるＳＤＧｓが示す目標６、１１、１３と共通する課題の実現を目指す。　耐水害浮上式の総合防災節水建築構造物は下層部の貯水槽を排水式浮力槽として、建築構造物を浮上させて洪水の浸水被害を回避する。下層部の貯水槽に雨水を貯留することで、低重心構造として耐震性を高め、浮上可動部に対地震免震機能を備える基本構造であると共に、地震火災時に最も不足する防火用水を各貯水槽の貯留水で確保する構造を具現する。

Description

耐水害浮上式の総合防災節水建築構造物

　本発明は、顕著な大雨水害の発生が予想される時に建築構造物の下層部に設けられた貯水槽を排水式浮力槽として、建築構造物を浮上させることで、耐水害性能を備える建築構造物として可動させる構造に加え、日常においてはその排水式浮力槽に雨水を貯水することにより建築構造物の低重心化を実現して浮上可動部に対地震免震機能を備える基本構造である。本発明は、また、建築構造物の下層部に設けられた貯水槽の貯留水を防火用水に活用して消火栓の使用が不可時の震災火災の消火を可能にする防火水確保槽として設置する構造であり、さらに、雨水の生活利用貯水槽等の活用で持続可能な上水道の節水を実現して非常時の生活用水の確保をも実現する構造である。本発明は、さらに、防火スプリンクラーから気化熱冷却のための雨水を散水することにより、建築構造物の外壁の高温化を防ぎ、太陽光発電パネルの日射熱によるモジュール温度の上昇を起因とする発電効率低下という科学的弱点を解決する。本発明に係る建築構造物は、また、降雪期には防火スプリンクラーから加熱水を散水して建築構造物の積雪被害を防止する機能を具備する。
　本発明は、加えて、貯水槽兼救命艇による水害避難救命艇をも具備し、行政との情報共有化による地域総合防災にも寄与し、避難行動をも支援する個別総合防災節水建築構造物に関するものである。

　地球温暖化に起因すると考えられる気候変動がもたらす記録的大雨による甚大な水害が深刻化し喫緊の課題となっている。
　従来の耐水害性能を備える建築構造物では、構造物への浸水を防ぐ防水技術のみであり、地震災害に対する耐震・制震・免震機能を具備するものではない。高水密性にて水害時に構造物防水技術で建築物を浮上させる等の実証実験も公知ではあるが水害に特化している構造のため平常時での利便性と実用性とに欠き普及には至っていない。
　免震技術に関しても、地震振動を軽減して建築構造物の共振を緩和する若しくは強度補強による耐震・免震・制震のみであり、水害への防災寄与は全く無いのが現状である。
　現在の技術における、耐水害性能を備える建築構造物や対地震構造を有する建築構造物は、個別構造物単位での対策に過ぎず、様々な行政機関（日本においては例えば、気象庁や国土交通省、地方自治体行政）との情報共有による防災システムとしての雨水の貯排水管理、防火用水設備の具備等の地域総合防災への寄与は皆無であった。洪水氾濫の際の緊急安全確保の切迫時に、建築構造物に救命艇が一体構造として具備される提案は無く、持続可能な節水や防火消防にまで防災寄与する建築構造物は無いのが現状である。

　特許文献１では、床下貯水槽と地下貯水槽とを具備するシステムが提案されているが、豪雨災害が予想される時点での事前排水の貯水能力を有するものではあっても雨水利用による節水が主目的である設備であるため、水害防止への寄与率は限定的である。
　特許文献２では、洪水や津波等の際に、住宅基礎部と土台との間から居住空間に水が浸入するのを防止する耐水害構造が提案されているが、床上浸水等の住居空間への浸水を防止する技術であり、耐水害性能を備える建築構造物における被害防止上の最大の課題である倒壊、構造物漂流を阻止できるものではない。
　特許文献３では、耐洪水塀を備えた耐水害性能を備える建物およびリノベーション工法が提案されているが、洪水、高潮等の被害から長期の避難生活を可能とする水密性を有する耐洪水塀を備えた耐水害建物の提案であり、耐水害性能を備える建築構造物における被害防止上の最大の課題である倒壊、構造物漂流を阻止する構造ではなく、建築コストを雨水活用で持続的に長期償却できるものではない。
　特許文献４では、台船型建築物を容器構造をなすプール型基礎内に収納し、浸水時に浮体を鉛直上方に浮上させる考案が提示されているが、浮体の平常時における活用がなく、プール型基礎内を越える浮上時には潮流や氾濫水に漂流翻弄される構造であり、漂流時の他の構造物への衝突等の二次被害や漂流先の着定場所での圧縮損壊及び解体撤去費用等の発生が全く考慮されていない。

　非特許文献１では、世界初の耐水害性能を備える住宅として、建物が水位上昇により浮上する前に、床下に水を引き込み浮力に対抗する床下注水ダクト方式と、建物の水密性を高めるとともに敷地四隅に設置したポールに専用ダンパーにて係留して建物の浮上時の流失を防止した浮上方式と、を提案している。しかし、国立研究開発法人防災科学技術研究所（日本）との共同実証実験で、世界最大級の規模、能力である散水施設を使用した実大実験を繰り返し、浮上と着地とを確認したとして気候変動アクションに関する環境大臣の表彰を初代受賞するも、水害発生現場における瓦礫や流木、車両などの造作漂流物等が床下へと進入して水平着地できない状況が想定されておらず、水位のみの変化に対応した実験設備内での検証提案の域にある。
　非特許文献２では、国立研究開発法人建築研究所（日本）の住宅・都市研究グループによって、建築における水害対策の必要性により、費用対効果の試算を含む耐水化計画案を提案しているが、浸水の被害を最小限にする耐水化に留まり、都市レベルでの浸水対策への展開は検討予定とされている。
　非特許文献３では、２０１０年４月に発表された２００９年度の日本における特許出願技術動向調査報告書において多用途の免震、制震、除震システムの動向が記述されてはいるが、水害との関連性は無い。免震・除震技術では積層ゴム及びばね、制震技術では塑性、流体、粘弾性、及びばね等の技術分野に属する出願が多いが、建造物被害の耐水害を具備する提案ではない。

特開２０１７－００３２１５号公報 特開２０２１－００１４６７号公報 特許第６５０１９６１号公報 特開２００７－１９２００７号公報

一条工務店　一条工務店の耐水害住宅２０２０年実大浸水実験公開 国立研究開発法人建築研究所、住宅・都市研究グループ「水害に強い住宅づくりへの取り組みを開始しました」資料７ 特許庁総務部企画調査技術動向班「特許出願技術動向調査報告書」

　解決しようとする問題点は、上記特許文献１～４並びに非特許文献１～３ではいずれも解決できない、建築構造物における高度な耐水害性能と、耐震性能と、貯水槽内の貯留水を防火消火用水として活用しつつ水害の際に緊急避難する構造と、を併せて具備し、行政との連携による地域防災に寄与することを目的とした持続可能な雨水利用構造の実現である。
　雨水を貯留したり排水したりする機能を具備する耐水害性能を備える浮上式の総合防災節水建築構造物により、ＡＩ技術とスーパーコンピュータによる降雨予測とに呼応した緊急安全確保を図る地域防災に寄与する。気候変動対応を建築構造物で図り、生命と財産とを守るとともに、地震では揺れによる危険性を上回る被害想定となっている地震火災への備えも欠かすことができない課題である。さらに地球環境維持のために、持続可能な節水、太陽光発電の効率化、二酸化炭素排出量の削減を実現することを志向する。
　「雨水の利用の推進に関する法律」（日本）が、水資源循環の適正化を課題として、雨水の利用を推進し、水資源の有効な利用を図り、あわせて下水道、河川等への雨水の集中的な流出の抑制に寄与することを目的としていることとの合致を図る。さらに、国連サミットで採択された国際目標であるＳＤＧｓが示した目標６、目標１１、及び目標１３とも共通する課題の解決を図る。

　上記目的を達成するため、本発明は、建築構造物の下層部に設けられた貯水槽を排水式浮力槽として、アルキメデスの原理でいう、液体中にある物体は、その物体が排除した液体の重量と等しい力で持ち上げられる浮力が生じる現象を援用し、水害被害を回避したい建築構造物の範囲を演算し、それを浮上させる排水式浮力槽を設備することにより、耐水害建築構造物として浮上可動させる構造に加え、浮上する際に利用される延伸性を有する可動支柱部に免震機能を備えると共に、水害が懸念されない時には排水式浮力槽への雨水の貯留による建築構造物の低重心化によって耐震性能の向上を図り、貯留水を防火消火用水として活用する。更に、貯留水を生活用水として中水活用し、持続可能な上水の節水を実現する総合防災節水建築構造物の基本構造を特徴とする。

　また、想定外の豪雨災害や津波による耐水害建築構造物の浮上可動を超える水位に備え、建築構造物の上部の屋上又は屋根裏、壁面等に貯水可能な貯水槽兼救命艇を脱出用救命艇として設備し、平常時では貯水した雨水の活用機能を有し、緊急時には垂直避難者の建築構造物からの離脱を支援できる救命機能をも具備する、命を守る総合防災節水建築構造物とすることを付加可能とする。

　本発明は上記知見に基づくものであり、その特徴は以下の通りである。
［項目１］
　耐水害建築構造と対地震免震機能構造と防火用水確保構造と雨水利用による水道の節水構造とを有する持続可能な総合防災節水建築構造物であって、
　顕著な災害級降雨による水害の発生が予想される時に、建築物下層部の貯水槽を排水式浮力槽として、建築構造物を浮上させる耐水害建築構造物として可動させる建築構造と、
　その浮上時可動部に対地震免震機能を具備する建築構造と、
　降雨氾濫規模以内の雨水を貯留して、対地震低重心建築構造と、消防防火用水確保と、持続可能な雨水利用による水道の節水と、を実現する建築構造と、
　貯留雨水の散水による屋上屋根部及び外壁等の気化熱冷却を図る建築構造と、
　壁面の貯水槽を離脱式救命艇として機能させて、救助における効率的な複数人搬送を実現する建築構造と、を有し、
　前記の各建築構造を任意に選択して設備施工できるとする持続可能な総合防災節水建築構造物。
［項目２］
　地域総合防災に寄与する個別建築構造物であって、行政の豪雨対策計画との計量的治水管理に連動し、個別貯留若しくは地域計画排水放流を実施できる、地域総合防災設備建築構造を有する、
　項目１記載の総合防災節水建築構造物。
［項目３］
　防火水槽、消火栓が洪水氾濫で堆積した瓦礫による障害により機能不可時の初期消火の水源を確保する機能を有する総合防災節水建築構造における貯水設備の位置エネルギーによる水圧の現地確保と、消火用放水スプリンクラー機能と、地震での道路寸断、消防組織の到着が不可時での自主初期消火と、を可能とする、
　項目１記載の総合防災節水建築構造物。
［項目４］
　消火用放水スプリンクラーの散水機能を利用して、太陽光発電で最も普及率が高い結晶シリコン系ソーラーパネルへの水道水散水でのカルキ、塩素含有、カルシウム凝固付着の問題を解決する、雨水放水による気化熱冷却を実現し、パネルの温度上昇による電圧の大幅低下を防ぎ発電効率を高めると共に室温の上昇を軽減し、さらに、降雪期には前記消火用放水スプリンクラーから加熱水を散水して建築構造物の積雪被害を防止する機能を具備する、
　項目１記載の総合防災節水建築構造物。
［項目５］
　想定外の洪水氾濫による水位の上昇時に、耐水害建築構造物における垂直避難では回避できない災害発生に即応し、貯水槽を離脱式救命艇として機能させて、貯水槽兼救命艇の複数連結による安定性確保及び救助における効率的な複数人搬送を実現する、
　項目１記載の総合防災節水建築構造物。

　本発明は、予想降雨量に応じて建築構造物の下層部に設けられた貯水槽の雨水を事前に排水し、浮力槽として浮力を確保して建築構造物を浮上させることにより浸水被害を防止することができる。その浮上を定位置で上昇させる支持体としての延伸支柱に、免震機能を具備させることにより耐水害建築構造物と予測困難な地震に対する免震機能とを備え、豪雨が予想されていない時の構造物の下層部における貯水での低重心化による耐震性能の向上が図れる。貯留水を防火消火用水として総合防災節水建築構造物としての基本構造をも実現し、防火消火用水を太陽光発電パネルの冷却用水として発電効率の向上を図ることも具現化する。
　更に、建築構造物の下層部の貯水槽や、屋上又は屋根裏、壁面等に設置した貯水槽兼救命艇等の貯排水機能を日常では雨水利用として使用して上水の節約を実現し、豪雨予想や津波警報の発令時には、様々な行政機関（日本においては例えば、気象庁や国土交通省、地方自治体）との連動水量管理に基づく、雨水の貯留や事前計画排水等による治水参与、貯水槽兼救命艇の活用による自主避難困難者の垂直避難支援、救助効率化等の総合防災に寄与する総合防災節水建築構造物として活用できる。行政による豪雨対策では、巨額の予算を投じて貯留・浸透施設等の整備を進めているが、対策目標値を超える豪雨が多発している現在、土地買収を伴わない総合防災節水建築構造物の貯水能力を向上させる施策は、洪水被害の軽減化と防火用水の貯留確保とを実現する。
　海外との防災技術共有を見据えた戦略を実現することも、産業の醸成課題としても重要であり、防災施設計画・データの共有によって水害被害の軽減、人命の保護・救助に多大な寄与を実現するモニタリングシステムの構築など産業経済的に実施できることが特徴である。

本発明の実施形態に係る耐水害建築構造物の浮上構造の概要を示す模式図である。 本実施形態に係る貯水槽兼救命艇の浮上離脱による水害避難時の救命艇のイメージ図である。

　以下、本発明の実施形態に係る総合防災節水建築構造物の概要を図を参照して説明する。

　本実施形態に係る耐水害性能を備える建築構造物の浮上構造は、建築構造物への水の浸入を防ぎ耐水害を具現化するに留まらず、持続可能な雨水利用設備としての建築構造物の下層部の貯水槽及び壁面の貯水槽を、水害発生の危険度の予測に応じ、行政との連携により雨水の貯留もしくは事前排水することで建築構造物の浮上動力としてのフロート機能を具現化する構造に関するものである。

　本発明の実施形態に係る総合防災節水建築構造物の浮上構造を図１に示す。

　本実施形態に係る耐水害性能を備える建築構造物の浮上構造は、排水可能貯水浮力槽１を、建築構造物の下層部に貯水槽として設置し、豪雨予想や津波警報に呼応して雨水の貯留もしくは事前排水することにより、建築構造物の浮上動力としてのフロート機能が確保される。すなわち、本実施形態に係る耐水害浮上式の総合防災節水建築構造物は、下層部の貯水槽（排水可能貯水浮力槽１）を排水式の浮力槽として、建築構造物を浮上させて洪水の浸水被害を回避する。本実施形態に係る耐水害浮上式の総合防災節水建築構造物は、また、下層部の貯水槽（排水可能貯水浮力槽１）に雨水を貯留することで、低重心の構造として耐震性を高め、浮上可動部に対地震免震機能を備える基本構造であるとともに、地震火災時に最も不足する防火消火用水を各貯水槽（排水可能貯水浮力槽１並びに下述の符号３、５、６）の貯留水で確保する構造を具現する。

　雨水集水貯水誘導管２にて屋根もしくは屋上より集水した雨水は、壁面の貯水槽兼救命艇３と壁面の雨水生活利用貯水槽５と壁面の雨水貯水増量補助槽６とを、貯水槽水位自在連管４を通して排水可能貯水浮力槽１に貯留する構造の概要を示す模式図で解説している。壁面の貯水槽３、５、６は、建築構造物の外壁の外側面、外壁の内部、及び外壁の内側面のうちのいずれに対して設置されても問題なく、建築構造物それぞれに固有の設計構造に対応する。

　雨水集水貯水誘導管２で誘導する雨水は、壁面の貯水槽兼救命艇３、壁面の雨水生活利用貯水槽５、及び壁面の雨水貯水増量補助槽６のいずれか又は全てを省略して排水可能貯水浮力槽１に貯留されてもよく、耐水害建築構造物の浮上構造は問題なく機能する。

　総合防災節水建築構造物の浮上構造では排水可能貯水浮力槽１による建築構造物の浮上動力機能が主要ではあるが、水害発生時における飲料水や生活用水の自家調達を、壁面の貯水槽兼救命艇３、壁面の雨水生活利用貯水槽５、及び壁面の雨水貯水増量補助槽６を、貯水槽水位自在連管４にて連結する際に、壁面の各貯水槽３、５、６内での貯水槽水位自在連管４の長尺（即ち、鉛直方向に沿う長手方向の寸法）を任意に設定して適宜に変更可能として水量を確保し、取水端末前での浄水器、濾過装置の任意設置により必要な水質レベルの確保を実現する。

　水害の発生が予想されていない日常では、壁面の貯水槽兼救命艇３、壁面の雨水生活利用貯水槽５、及び壁面の雨水貯水増量補助槽６の雨水を取水端末前での浄水器、濾過装置の任意設置での水質管理により、トイレ排水、浴槽補水、炊事洗浄用水、車両等の道具洗浄用水、及び植物散水等に活用でき、持続可能な上水道の節水を実現し、二酸化炭素排出量の削減にも寄与する。すなわち、排水可能貯水浮力槽１並びに壁面の貯水槽３、５、６の貯留水を中水利用し、渇水時や被災時の生活用水とし活用するのみならず、平常時における水道水の節水を実現し、設備投資での費用対効果を高め、設備の導入施工の促進が実現される。

　総合防災節水建築構造物では、日常の渇水時であっても、雨水の利用水量を確保すべく、揚水兼排水用ポンプ１３を作動させ、排水可能貯水浮力槽１より壁面の貯水槽兼救命艇３に揚水し、壁面の貯水槽兼救命艇３及び壁面の雨水生活利用貯水槽５に給水して持続可能な上水道の節水を実現する。

　揚水兼排水用ポンプ１３を任意に作動させて排水可能貯水浮力槽１より防火スプリンクラー１５や外壁気化熱冷却導管１６に揚水し、屋上屋根部や外壁等の気化熱冷却のための散水を実現したり、太陽光発電パネルの日射熱によるモジュール温度上昇による発電効率低下という科学的弱点を、雨水利用の防火スプリンクラー１５による散水による気化熱冷却によって解決して発電効率の大幅向上を実現したりする。建築構造物内の温度調節にも寄与し、さらに、積雪被害を温水散布にて防止する。当然、防火スプリンクラー１５や外壁気化熱冷却導管１６では、任意の作動と散水圧力の任意の調整とが前提で、設置そのものも任意に選択できる。

　浮力槽底収納自立脚１１は、設置数、自立高低、設置有無等が当然任意である。浮力槽底収納自立脚１１の設置に替わり、排水可能貯水浮力槽１の底部に積層免震材を任意に設置して良い。壁面の雨水貯水増量補助槽６は壁面の雨水生活利用貯水槽５に適宜変更可能である。排水可能貯水浮力槽１、壁面の貯水槽兼救命艇３、壁面の雨水生活利用貯水槽５、及び壁面の雨水貯水増量補助槽６等の形状、容量、及び数量などは耐水害建築構造物の規模により適宜に変更可能である。模式図では、躯体支持柱と延伸支柱８とが別に図示されているが当然同一であって良い。

　以上の本実施形態に係る総合防災節水建築構造物では、排水可能貯水浮力槽１、壁面の貯水槽兼救命艇３、壁面の雨水生活利用貯水槽５、及び壁面の雨水貯水増量補助槽６等の適用素材を特定するものでなく、排水可能貯水浮力槽１等の成形素材が軽量コンクリート成形の防水構造等であっても良い。

　総合防災節水建築構造物の概要を示す模式図では、排水可能貯水浮力槽１が建築構造物の上層部全域を、一体構造にて支持する形態が例示されているが、浮力による上昇時に利用される延伸支柱８が建築構造物それぞれに固有の必要数により構成され、建築構造物の上層部を均衡に浮上させる必然の位置に必要数設定されるため、排水可能貯水浮力槽１が適宜最適に形成され、任意の箇所にて分割されたり連結されたりすることを当然に前提とする。

　揚水兼排水用ポンプ１３の揚水動力が消火消防に必要な揚水力に未達の場合、消防給水口は排水可能貯水浮力槽１への直接の投入が当然に可能で、揚水兼排水用ポンプ１３の出力能力に応じ給水設備の設置を自在に選択できる。

　図１で示す模式図では、貯水槽兼救命艇３が壁面の貯水槽３、５、６の７段目に例示されているが、個別建築構造物の条件により当然可変される。また浮力によって浮上した構造物から離脱して避難する場合のイメージ図（図２）によらず、人力等による着脱で使用する場合をも想定し、搬送サイズにて当然に分割設備として設置できる。単身離脱用救命艇の集合体に適宜変更することも当然に可能である。

　壁面の貯水槽兼救命艇３の浮力によって浮上した構造物から離脱して避難する場合のイメージ図（図２）に示される貯水槽水位自在連管４や雨水生活利用取水栓７の取外し後に詰める止水用パッキン等は、連管や取水口に逆流防止弁を具備する構造にて補完することも当然に可能であり推奨される。

　本発明を構成する各部の構造や機能などを整理すると下記のとおりである。
　排水可能貯水浮力槽１は、平常時には雨水の貯留槽であり、雨水を排水することによって建築構造物の浮上動力としてのフロート機能を具現化する。

　雨水集水貯水誘導管２は、建築構造物の屋上や屋根上への降雨を集水して各貯水槽１、３、５、６に誘導するための導管である。

　壁面の貯水槽兼救命艇３は、救命艇機能を有し、雨水生活利用貯水槽としての機能を併せ持つ離脱救命艇である。離脱式の壁面の貯水槽兼救命艇３を具備することにより、生命を守る救命設備構造が実現される。

　貯水槽水位自在連管４は、下方の貯水槽への連結管であり、長尺（即ち、鉛直方向に沿う長手方向の寸法）の設定で貯留水量を任意に設定することができる。

　壁面の雨水生活利用貯水槽５は、雨水を貯留して生活で利用する機能を備え、水位による（言い換えると、貯水設備の位置エネルギーによる）水圧にて雨水利用が実現される。

　壁面の雨水貯水増量補助槽６は、貯留水量を最大化するための補助槽であり、壁面の雨水生活利用貯水槽５への変更が可能である。

　雨水生活利用取水栓７は、壁面の貯水槽兼救命艇３と、雨水を溜める壁面の雨水生活利用貯水槽５と、壁面の雨水貯水増量補助槽６と、のうちの少なくとも１つに配管し、任意に設置される浄水器や濾過装置と接続する取水栓である。

　延伸支柱８は、建築構造物の浮上時に建築構造物を定位置で上昇させて建築構造物の漂流を防止するための支持体／ガイドとして機能する。浮力による上昇時に利用される延伸支柱８は、粘弾性球等の免震、制震、耐震素材を内蔵して耐震機能を備える構造とされてもよい。

　延伸支柱免震材断面９として示す構造は、建築構造物の躯体支持柱（延伸支柱８）の内部構造に免震、制震、耐震素材を具備する場合の例である。

　粘弾性球／積層ゴム１０は、建築構造物の躯体支持柱（延伸支柱８）の内部構造に免震、制震、耐震素材として配設されてもよい。粘弾性球／積層ゴム１０は、また、排水可能貯水浮力槽１の底部に設けられる浮力槽底収納自立脚１１の上下に、免震、制震、耐震素材として配設されてもよく、積層されて配設されてもよい。

　浮力槽底収納自立脚１１は、排水可能貯水浮力槽１の底部に収納され、建築構造物が浮力によって浮上すると回動して垂下し、水害が沈静して水位が下がって建築構造物が着地する際に建築構造物が自立するように支持するための脚である。浮力槽底収納自立脚１１により、建築構造物が着地する際の、排水可能貯水浮力槽１の下方へと進入した漂流物などを回避するためのスペースが確保され、水平着地が実現される。浮力槽底収納自立脚１１は、粘弾性球等の免震、制震、耐震素材を内蔵して耐震機能を備える構造とされてもよい。

　自重自立用ウエイト１２は、建築構造物が浮力によって浮上した際に、浮力槽底収納自立脚１１を確実に回動させて垂下させ、さらに、建築構造物が着地する際に、排水可能貯水浮力槽１の下方へと進入した漂流物などを押し退けて建築構造物の水平着地を一層確実にするための錘である。

　揚水兼排水用ポンプ１３は、排水可能貯水浮力槽１内の貯留水を、壁面の貯水槽３、５、６に揚水したり、排水したり（このとき、消防用水源提供水栓１７への供給も行われる）するためのポンプである。

　雨水濾過フィルター１４は、降雨水を貯水する前に雨水集水貯水誘導管２等からの流入物を除去するための濾過設備である。

　防火スプリンクラー１５は、防火消防のために散水したり、太陽光発電パネルや屋根等の気化熱冷却のために散水したりするための設備である。

　外壁気化熱冷却導管１６は、防火スプリンクラー１５からの気化熱冷却用水を外壁面に散水するための設備である。

　消防用水源提供水栓１７は、排水可能貯水浮力槽１内の貯留水を防火用水として提供するための水栓である。

　救命艇吊上げフック１８は、壁面の貯水槽兼救命艇３を吊上げて複数の壁面の貯水槽兼救命艇３の連結を実現するための設備である。

　上記の各構造や機能は個別選択的に採用されて設備でき、建築構造物の既存、新築等や立地条件によって可変できる構造で構成され、費用対効果を考慮して柔軟に現場適応することにより、普及の促進が図られる。

　　１　排水可能貯水浮力槽
　　２　雨水集水貯水誘導管
　　３　壁面の貯水槽兼救命艇
　　４　貯水槽水位自在連管
　　５　壁面の雨水生活利用貯水槽
　　６　壁面の雨水貯水増量補助槽
　　７　雨水生活利用取水栓
　　８　延伸支柱
　　９　延伸支柱免震材断面
　１０　粘弾性球／積層ゴム
　１１　浮力槽底収納自立脚
　１２　自重自立用ウエイト
　１３　揚水兼排水用ポンプ
　１４　雨水濾過フィルター
　１５　防火スプリンクラー
　１６　外壁気化熱冷却導管
　１７　消防用水源提供水栓
　１８　救命艇吊上げフック

Claims (5)

1. 　耐水害建築構造と対地震免震機能構造と防火用水確保構造と雨水利用による水道の節水構造とを有する持続可能な総合防災節水建築構造物であって、
   　顕著な災害級降雨による水害の発生が予想される時に、建築物下層部の貯水槽を排水式浮力槽として、建築構造物を浮上させる耐水害建築構造物として可動させる建築構造と、
   　その浮上時可動部に対地震免震機能を具備する建築構造と、
   　降雨氾濫規模以内の雨水を貯留して、対地震低重心建築構造と、消防防火用水確保と、持続可能な雨水利用による水道の節水と、を実現する建築構造と、
   　貯留雨水の散水による屋上屋根部及び外壁等の気化熱冷却を図る建築構造と、
   　壁面の貯水槽を離脱式救命艇として機能させて、救助における効率的な複数人搬送を実現する建築構造と、を有し、
   　前記の各建築構造を任意に選択して設備施工できるとする持続可能な総合防災節水建築構造物。
2. 　地域総合防災に寄与する個別建築構造物であって、行政の豪雨対策計画との計量的治水管理に連動し、個別貯留若しくは地域計画排水放流を実施できる、地域総合防災設備建築構造を有する、
   　請求項１記載の総合防災節水建築構造物。
3. 　防火水槽、消火栓が洪水氾濫で堆積した瓦礫による障害により機能不可時の初期消火の水源を確保する機能を有する総合防災節水建築構造における貯水設備の位置エネルギーによる水圧の現地確保と、消火用放水スプリンクラー機能と、地震での道路寸断、消防組織の到着が不可時での自主初期消火と、を可能とする、
   　請求項１記載の総合防災節水建築構造物。
4. 　消火用放水スプリンクラーの散水機能を利用して、太陽光発電で最も普及率が高い結晶シリコン系ソーラーパネルへの水道水散水でのカルキ、塩素含有、カルシウム凝固付着の問題を解決する、雨水放水による気化熱冷却を実現し、パネルの温度上昇による電圧の大幅低下を防ぎ発電効率を高めると共に室温の上昇を軽減し、さらに、降雪期には前記消火用放水スプリンクラーから加熱水を散水して建築構造物の積雪被害を防止する機能を具備する、
   　請求項１記載の総合防災節水建築構造物。
5. 　想定外の洪水氾濫による水位の上昇時に、耐水害建築構造物における垂直避難では回避できない災害発生に即応し、貯水槽を離脱式救命艇として機能させて、貯水槽兼救命艇の複数連結による安定性確保及び救助における効率的な複数人搬送を実現する、
   　請求項１記載の総合防災節水建築構造物。

Images