以下、添付図面を参照しながら本発明によるポリキャピラリレンズの実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係るポリキャピラリレンズ(マルチキャピラリレンズ)10Aを示す側面図である。図1には、このポリキャピラリレンズ10Aに入射するX線XR1と、ポリキャピラリレンズ10Aから出射するX線XR2とが併せて示されている。ポリキャピラリレンズ10Aは略円柱形状を呈しており、中心軸線に対して垂直な断面は、該中心軸線上に中心を有する円形である。このポリキャピラリレンズ10Aは、点状のX線源12から一端面14に入射したX線XR1を、平行X線(X線XR2)として他端面16から出力する。そのため、ポリキャピラリレンズ10Aの直径は、入射端面14に近づくにつれて次第に小さくなっている。
図2(a)は、図1に示されるII-II線に沿ったポリキャピラリレンズ10Aの断面、すなわちポリキャピラリレンズ10AのX線導波方向と交差する断面を示している。より詳細には、この断面は、ポリキャピラリレンズ10Aの中心軸線Bに対して垂直な断面である。
図2(a)に示されるように、このポリキャピラリレンズ10Aは、X線導波方向と交差する面内において、複数(本実施形態では2つ)の同心円状の領域A1,A2を有している。換言すれば、ポリキャピラリレンズ10Aは、X線導波方向と交差する面内において、第1の領域(有効中心部)A1と、第1の領域A1を囲む第2の領域(周辺部)A2とを有している。なお、これらの領域A1,A2に共通の中心は、例えばポリキャピラリレンズ10Aの中心軸線B上にあり、導波されるX線束の中心軸線と一致する。領域A1の直径は、例えば領域A2の直径の1/2である。
図2(b)は、領域A1を拡大して示す断面図である。また、図2(c)は、領域A2を拡大して示す断面図である。図2(b)及び図2(c)に示されるように、ポリキャピラリレンズ10Aは、複数のキャピラリ18aを領域A1に、複数のキャピラリ18bを領域A2にそれぞれ有している。複数のキャピラリ18aは、X線導波方向と交差する面内の領域A1において、二次元状に整列されている。同様に、複数のキャピラリ18bは、X線導波方向と交差する面内の領域A2において、二次元状に整列されている。
キャピラリ18a及び18bは、ポリキャピラリレンズ10Aの入射端面(一端面)14から出射端面(他端面)16へ延びる空孔であって、これらの面間を貫通して形成されている。キャピラリ18a及び18bは、入射端面14側の開口に入射したX線(入射X線XR1)をその内部で導波し、出射端面16側の開口から平行X線XR2を出射する。なお、図では円形断面のキャピラリ18a及び18bが示されているが、キャピラリ18a及び18bの断面形状は、例えば正多角形(一例では正六角形)や、正多角形の角が丸みを帯びた形状であってもよい。
前述したように、本実施形態のポリキャピラリレンズ10Aでは、点状のX線源12から入射したX線XR1を平行X線XR2として出力する為に、入射端面14に近づくにつれて、断面径が次第に小さくなっている。具体的には、点状のX線源12から放射されて次第に拡がるX線XR1を効率良く入射させるため、入射端面14におけるキャピラリ18a及び18bの中心軸線の延長線がX線源12を通るように、入射端面14付近のキャピラリ18a及び18bはレンズ10Aの中心へ向けて傾斜している。一方、平行X線XR2を出射するため、出射端面16におけるキャピラリ18a及び18bの中心軸線は、レンズ10Aの中心軸線に対して平行となっている。
そして、このような形態のキャピラリ18a及び18bの内部をX線が好適に導波するように、キャピラリ18a及び18bは、レンズ10Aの中心軸線上及びその付近では直線状に延びており、中心軸線から離れるほど大きな曲率で湾曲している。すなわち、中心軸線に近い領域A1に含まれるキャピラリ18aは直線状か若しくはやや湾曲しており、中心軸線から離れた領域A2に含まれるキャピラリ18bは大きく湾曲している。
更に、本実施形態では、領域A1のキャピラリ18aの内径Laと、領域A2のキャピラリ18bの内径Lbとが互いに異なっている。例えば本実施形態では、図2に示されるように、中心軸線Bに近い領域A1のキャピラリ18aの内径Laが、中心軸線Bから離れた領域A2のキャピラリ18bの内径Lbよりも大きい。ここで、内径Laは内径Lbに対して例えば2倍といった大きさを有しており、このような内径Laと内径Lbとの差は、いわゆる寸法誤差や製造工程における温度分布の偏り等により生じる内径差よりも十分に大きなものである。
このようなポリキャピラリレンズ10Aは、キャピラリ18a,18bを構成する複数の中空管が束ねられて成るキャピラリ集合体(中空マルチファイバ)を複数束ねて母材を作製し、その母材に熱を加えてテーパ状に引き延ばすことによって製造される。図3は、ポリキャピラリレンズ10Aの製造に用いられる母材20の断面構造を示す図であって、X線導波方向と交差する断面を示している。また、図4は、図3に示された母材20の断面構造の一部を拡大して示す図である。なお、図3において、中心軸線B付近のハッチングが施された領域は、図2(a)に示された領域A1となる領域である。また、その周囲のハッチングが施されていない領域は、図2(a)に示された領域A2となる領域である。
図3に示されるように、母材20は、複数のキャピラリ集合体21A,21Bを備えている。領域A1では、複数のキャピラリ集合体21Aが、X線導波方向と交差する面内において二次元状に整列されている。また、領域A2では、複数のキャピラリ集合体21Bが、X線導波方向と交差する面内において二次元状に整列されている。図4に示されるように、キャピラリ集合体21Aは、キャピラリ18aを構成する複数の中空管22aが束ねられて構成されており、キャピラリ集合体21Bは、キャピラリ18bを構成する複数の中空管22bが束ねられて構成されている。
本実施形態では、X線導波方向と交差する面内におけるキャピラリ集合体21A,21Bの断面形状は正六角形であり、隣合うキャピラリ集合体21A(または21B)同士の正六角形の一辺が互いに接するような蜂の巣状の配列がなされている。母材20のこのような形態はポリキャピラリレンズ10Aにも受け継がれ、ポリキャピラリレンズ10Aもまた、正六角形断面の複数のキャピラリ集合体を備えている。
また、図4に示されるように、領域A1に含まれるキャピラリ集合体21Aを構成する中空管22aの内径及び外径は、領域A2に含まれるキャピラリ集合体21Bを構成する中空管22bの内径及び外径よりも大きい。これにより、この母材20が加熱され引き延ばされた後のポリキャピラリレンズ10Aにおいても、領域A1におけるキャピラリ18aの内径は、領域A2におけるキャピラリ18bの内径よりも大きくなる。
但し、図4に示されるように、X線導波方向と交差する面内におけるキャピラリ集合体21Aの断面形状及び大きさと、キャピラリ集合体21Bの断面形状及び大きさとは互いに等しい。具体的には、キャピラリ集合体21A,21Bの断面形状は共に正六角形であり、且つ、それらの外径L1及びL2は互いに等しい。
以上に説明した本実施形態のポリキャピラリレンズ10Aによって得られる効果について説明する。図5は、ポリキャピラリレンズ10Aの特性を説明するための図である。図5(a)はポリキャピラリレンズ10Aの側面図であり、図5(b)は端面14に入射するX線XR1の強度分布の一例を示しており、図5(c)は端面16から出射されるX線XR2の強度分布の一例を示している。なお、比較のため、図5(c)には、キャピラリの内径が均一である場合に想定される強度分布が破線で示されている。
このポリキャピラリレンズ10Aでは、領域A1に含まれるキャピラリ18aがほぼ直線状に延びており、領域A2に含まれるキャピラリ18bが大きく湾曲している。そして、このような場合、領域A1,A2におけるキャピラリの内径が互いに等しいと、図20及び図21を示して説明したように、領域A1ではキャピラリの内径が狭くX線の損失が増し、また、領域A2ではキャピラリの内径が広くX線の損失が増すこととなる。
これに対し、本実施形態では、領域A1に含まれるキャピラリ18aの内径Laが、領域A2に含まれるキャピラリ18bの内径Lbよりも大きい。これにより、領域A1におけるキャピラリ18a内でのX線の反射間隔が長くなるので(図20(a)を参照)、反射回数が減り、X線の損失を低減して透過率を高めることができる。また、領域A2に含まれるキャピラリ18bでは、入射X線の最初の反射位置が端面14に近づくので、内壁へのX線の入射角が大きくなって反射率が高まり(図21(b)を参照)、X線の損失を低減して透過率を高めることができる。したがって、出射X線XR2の全体で強度を大きくすることができ、例えば大きなX線量が必要なXRD等を好適に実施することができる。
図6は、本実施形態のポリキャピラリレンズ10Aと、キャピラリ内径が均一である比較例のポリキャピラリレンズとで、出射X線の強度分布を比較した結果を示すグラフである。図6において、横軸は出射端面の径方向位置を表し、縦軸はX線強度を表している。また、グラフG11は本実施形態のポリキャピラリレンズ10Aの強度分布を示しており、グラフG12は比較例のポリキャピラリレンズの強度分布を示している。なお、入射X線の強度分布は互いに等しい。また、比較例のポリキャピラリレンズでは母材の段階でのキャピラリ内径を一律6μmとし、本実施形態のポリキャピラリレンズ10Aでは母材20の段階での領域A1のキャピラリ内径Laを12μm、領域A2のキャピラリ内径Lbを6μmとした。
図6に示されるように、本実施形態のポリキャピラリレンズ10Aでは、比較例に対し、領域A1及びA2の双方において出射X線の強度が高くなっていることがわかる。すなわち、本実施形態のポリキャピラリレンズ10Aによれば、X線の損失を低減して効率良くX線を平行化することができる。
なお、本実施形態では、中心軸線Bに近い領域A1におけるキャピラリ内径Laを大きくし、中心軸線Bから離れた領域A2におけるキャピラリ内径Lbを小さくしたが、各領域間でのキャピラリ内径の大小は、ポリキャピラリレンズの用途や求められる特性に応じて適宜設定されるとよい。例えば、直線状のキャピラリ18aを含む領域A1において損失を大きくしたい場合には、領域A1のキャピラリ18aの内径Laを小さくするとよい。また、湾曲しているキャピラリ18bを含む領域A2において損失を大きくしたい場合には、キャピラリ18bの内径Lbを大きくするとよい。このように、キャピラリの内径を複数の領域毎に異ならせることにより、用途に適したレンズ特性を実現することができる。
また、キャピラリ18a,18bの内壁においてX線が反射する際の全反射臨界角(ここでの全反射臨界角とは、導波方向に沿った内壁面の接線と、内壁面に入射するX線との成す角度であって、X線が全反射し得る最も大きい角度をいう)は、X線のエネルギーが高いほど小さく、X線のエネルギーが低いほど大きい。また、全反射臨界角はポリキャピラリレンズ10Aの構成材料の密度にも依存し、密度が大きいほど全反射臨界角は大きくなる。例えば、ポリキャピラリレンズ10Aの構成材料がホウケイ酸ガラスである場合、X線エネルギーが8keVであるときの全反射臨界角は約0.22°であり、20keVであるときの全反射臨界角は0.08°である。
したがって、X線のエネルギーが高い場合には、全反射臨界角が小さいので領域A2(周辺部)のキャピラリ18bの内径Lbは小さいことが好ましい。これにより、入射角を大きくして損失を効果的に低減することができる。逆に、X線のエネルギーが低い場合には、全反射臨界角が大きいので領域A2(周辺部)のキャピラリ18bの内径Lbは大きいことが好ましい。これにより、反射回数を少なくして損失を効果的に低減することができる。このように、本実施形態では、X線のエネルギーに応じて適切なキャピラリ内径を選択することにより、ポリキャピラリレンズ10Aから出力されるX線全体の強度を高めることができる。
また、本実施形態のように、キャピラリ集合体の断面形状及び大きさは、相互に隣接する領域A1,A2間で互いに等しいことが好ましい。これにより、キャピラリの内径が互いに異なる隣合う領域A1,A2の境界部分においても、各領域A1,A2の内部と同様にキャピラリ集合体21A,21Bを連続して整列させることができる。したがって、境界部分における隙間の発生を抑えつつ、ポリキャピラリレンズ10Aを好適に作製することができる。なお、キャピラリ集合体21A,21Bの断面形状は、本実施形態のような正六角形であることが好ましい。これにより、キャピラリ集合体21A,21Bを隙間なく密に整列させることが容易にできる。
(第1の変形例)
図7(a)は、第1変形例に係るポリキャピラリレンズ10BのX線導波方向と交差する断面を示す図である。このポリキャピラリレンズ10Bと上記実施形態のポリキャピラリレンズ10Aとの相違点は、領域A1に含まれる複数のキャピラリ18aの内径Laと、領域A2に含まれる複数のキャピラリ18bの内径Lbとの大小関係である。本変形例では、図7(b)及び図7(c)に示されるように、内径Lbが内径Laよりも大きい。なお、その他の構成は上記実施形態と同様である。
このようなポリキャピラリレンズ10Bを作製するためには、図3及び図4に示された母材20において、領域A2に含まれるキャピラリ集合体21Bの中空管22bの内径及び外径を、領域A1に含まれるキャピラリ集合体21Aの中空管22aの内径及び外径よりも大きくするとよい。
図8は、ポリキャピラリレンズ10Bの特性を説明するための図である。図8(a)はポリキャピラリレンズ10Bの側面図であり、図8(b)は端面14に入射するX線XR1の強度分布の一例を示しており、図8(c)は端面16から出射されるX線XR2の強度分布の一例を示している。なお、比較のため、図8(c)には、キャピラリの内径が均一である場合に想定される強度分布が破線で示されている。
このポリキャピラリレンズ10Bでは、中心軸線Bに近い領域A1においてキャピラリ18aの内径Laが小さくなっている。これにより、領域A1におけるキャピラリ18a内でのX線の反射間隔が短くなるので(図20(b)を参照)、反射回数が増し、X線の損失を大きくすることができる。したがって、図8(c)に示されるように、出射X線XR2の中心軸線付近の強度を低下させて、強度分布を均一に近づけることができる。このようなポリキャピラリレンズ10Bは、例えばXRDの試料に対してX線を均一に照射したい場合に好適に用いられる。
(第2の変形例)
図9は、第2変形例に係るポリキャピラリレンズ10Cを示す側面図である。図9には、このポリキャピラリレンズ10Cに入射するX線XR3と、ポリキャピラリレンズ10Cから出射するX線XR4とが併せて示されている。ポリキャピラリレンズ10Cは略円柱形状を呈しており、中心軸線に対して垂直な断面は、該中心軸線上に中心を有する円形である。このポリキャピラリレンズ10Cは、図2に示された断面構造と同様の断面構造を有しており、X線導波方向と交差する面内において、同心円状の領域A1,A2を有している。
このポリキャピラリレンズ10Cは、一端面14に入射した平行X線XR3を、集束点Dへ向けて集束する集束X線XR4として他端面16から出力する。そのため、ポリキャピラリレンズ10Cの直径は、出射端面16に近づくにつれて次第に小さくなっている。
具体的には、平行X線XR3を効率良く入射させるため、入射端面14におけるキャピラリ18a及び18bの中心軸線の延長線がX線源12を通るように、入射端面14付近のキャピラリ18a及び18bの延伸方向は、ポリキャピラリレンズ10Cの中心軸線に対して平行となっている。一方、集束点Dへ向けてX線XR4を集束させるため、出射端面16におけるキャピラリ18a及び18bの中心軸線の延長線が集束点Dを通るように、出射端面16付近のキャピラリ18a及び18bはポリキャピラリレンズ10Cの中心軸線へ向けて傾斜している。
そして、このような形態のキャピラリ18a及び18bの内部をX線が好適に導波するように、キャピラリ18a及び18bは、ポリキャピラリレンズ10Cの中心軸線及びその付近では直線状に延びており、ポリキャピラリレンズ10Cの中心軸線から離れるほど大きな曲率で湾曲している。すなわち、ポリキャピラリレンズ10Cの中心軸線に近い領域A1(図2を参照)に含まれるキャピラリ18aは直線状か若しくはやや湾曲しており、ポリキャピラリレンズ10Cの中心軸線から離れた領域A2(図2を参照)に含まれるキャピラリ18bは大きく湾曲している。
図10は、領域A1に含まれるキャピラリ18aの内径Laが、領域A2に含まれるキャピラリ18bの内径Lbよりも大きい場合における、ポリキャピラリレンズ10Cの特性を説明するための図である。図10(a)はポリキャピラリレンズ10Cの側面図であり、図10(b)は端面14に入射するX線XR3の強度分布の一例を示しており、図10(c)は端面16から出射されるX線XR4の強度分布の一例を示している。なお、比較のため、図10(c)には、キャピラリの内径が均一である場合に想定される強度分布が破線で示されている。
このポリキャピラリレンズ10Cでは、上記実施形態と同様に、ポリキャピラリレンズ10Cの中心軸線に近い領域A1におけるキャピラリ18aの内径Laが、その周囲の領域A2におけるキャピラリ18bの内径Lbよりも大きい。これにより、領域A1におけるキャピラリ18a内でのX線の反射間隔が長くなるので(図20(a)を参照)、反射回数が少なくなり、X線の損失を小さくすることができる。したがって、出射X線XR4の全体で強度を大きくすることができ、例えば大きなX線量が必要なXRD等を好適に実施することができる。
また、図11は、領域A1に含まれるキャピラリ18aの内径Laが、領域A2に含まれるキャピラリ18bの内径Lbよりも小さい場合における、ポリキャピラリレンズ10Cの特性を説明するための図である。このポリキャピラリレンズ10Cでは、領域A1におけるキャピラリ18a内でのX線の反射間隔が短くなるので(図20(b)を参照)、反射回数が多くなり、X線の損失を大きくすることができる。これにより、図11(c)に示されるように、ポリキャピラリレンズ10Cの中心軸線付近における出射X線XR4の強度を低下させて、強度分布を均一に近づけることができる。このようなポリキャピラリレンズ10Cは、例えば試料面から発生したX線を均一な強度で集光したい場合に好適に用いられる。
(第3の変形例)
図12は、第3変形例に係るポリキャピラリレンズ10Dを示す側面図である。図12には、このポリキャピラリレンズ10Dに入射するX線XR5と、ポリキャピラリレンズ10Dから出射するX線XR6とが併せて示されている。ポリキャピラリレンズ10Dは略円柱形状を呈しており、中心軸線に対して垂直な断面は、該中心軸線上に中心を有する円形である。このポリキャピラリレンズ10Dは、図2に示された断面構造と同様の断面構造を有しており、X線導波方向と交差する面内において、同心円状の領域A1,A2を有している。
このポリキャピラリレンズ10Dは、点状のX線源12から一端面14に入射したX線XR5を、集束点Dへ向けて集束する集束X線XR6として他端面16から出力する。そのため、ポリキャピラリレンズ10Dの直径は、中心軸線方向における中心部から入射端面14に近づくにつれて次第に小さくなっており、また、中心軸線方向における中心部から出射端面16に近づくにつれて次第に小さくなっている。
具体的には、点状のX線源12から放射されて次第に拡がるX線XR5を効率良く入射させるため、入射端面14におけるキャピラリ18a及び18bの中心軸線の延長線がX線源12を通るように、入射端面14付近のキャピラリ18a及び18bはポリキャピラリレンズ10Dの中心軸線へ向けて傾斜している。一方、集束点Dへ向けてX線XR6を集束させるため、出射端面16におけるキャピラリ18a及び18bの中心軸線の延長線が集束点Dを通るように、出射端面16付近のキャピラリ18a及び18bはポリキャピラリレンズ10Dの中心軸線へ向けて傾斜している。
そして、このような形態のキャピラリ18a及び18bの内部をX線が好適に導波するように、キャピラリ18a及び18bは、ポリキャピラリレンズ10Dの中心軸線及びその付近では直線状に延びており、ポリキャピラリレンズ10Dの中心軸線から離れるほど大きな曲率で湾曲している。すなわち、ポリキャピラリレンズ10Dの中心軸線に近い領域A1に含まれるキャピラリ18aは直線状か若しくはやや湾曲しており、ポリキャピラリレンズ10Dの中心軸線から離れた領域A2に含まれるキャピラリ18bは大きく湾曲している。
図13は、領域A1に含まれるキャピラリ18aの内径Laが、領域A2に含まれるキャピラリ18bの内径Lbよりも大きい場合における、ポリキャピラリレンズ10Dの特性を説明するための図である。図13(a)はポリキャピラリレンズ10Dの側面図であり、図13(b)は端面14に入射するX線XR5の強度分布の一例を示しており、図13(c)は端面16から出射されるX線XR6の強度分布の一例を示している。なお、比較のため、図13(c)には、キャピラリの内径が均一である場合に想定される強度分布が破線で示されている。
このポリキャピラリレンズ10Dでは、上記実施形態と同様に、中心軸線Bに近い領域A1におけるキャピラリ18aの内径Laが、その周囲の領域A2におけるキャピラリ18bの内径Lbよりも大きい。したがって、領域A1におけるキャピラリ18a内でのX線の反射間隔が長くなるので(図20(a)を参照)、反射回数が少なくなり、X線の損失を小さくすることができる。また、領域A2に含まれるキャピラリ18bでは、入射するX線XR5の最初の反射位置が端面14に近づくので、内壁へのX線の入射角が大きくなって反射率が高まり(図21(b)を参照)、X線の損失を低減することができる。したがって、出射X線XR6の全体で強度を大きくすることができ、例えば大きなX線量が必要なXRD等を好適に実施することができる。
また、図14は、領域A1に含まれるキャピラリ18aの内径Laが、領域A2に含まれるキャピラリ18bの内径Lbよりも小さい場合における、ポリキャピラリレンズ10Dの特性を説明するための図である。このポリキャピラリレンズ10Dでは、領域A1におけるキャピラリ18a内でのX線の反射間隔が短くなるので(図20(b)を参照)、反射回数が多くなり、X線の損失を大きくすることができる。これにより、図14(c)に示されるように、ポリキャピラリレンズ10Dの中心軸線付近における出射X線XR6の強度を低下させて、強度分布を均一に近づけることができる。このようなポリキャピラリレンズ10Dは、例えば試料の一点から発生したX線を均一な強度で集光したい場合に好適に用いられる。
(第4の変形例)
図15は、第4変形例として、ポリキャピラリレンズの製造に用いられる母材25の断面構造を示す図であって、X線導波方向と交差する断面を示している。また、図16は、図15に示された母材25の断面構造の一部を拡大して示す図である。
図15に示されるように、母材25は、複数のキャピラリ集合体26A,26Bを備えている。複数のキャピラリ集合体26Aは、X線導波方向と交差する面内の領域A1において縦方向及び横方向の二次元状に整列されている。また、複数のキャピラリ集合体26Bは、X線導波方向と交差する面内の領域A2において縦方向及び横方向の二次元状に整列されている。図16に示されるように、キャピラリ集合体26Aはキャピラリ18a(図4参照)を構成する複数の中空管22aが束ねられて構成されており、キャピラリ集合体26Bはキャピラリ18b(図4参照)を構成する複数の中空管22bが束ねられて構成されている。
本実施形態では、X線導波方向と交差する面内におけるキャピラリ集合体26A,26Bの断面形状は正方形であり、隣合うキャピラリ集合体26A(または26B)同士の正方形の一辺が互いに接するような配列がなされている。母材25のこのような形態はポリキャピラリレンズにも受け継がれ、ポリキャピラリレンズもまた、正方形断面の複数のキャピラリ集合体を備える。
なお、図15において、中心付近のハッチングが施された領域は、領域A1となる領域である。また、その周囲のハッチングが施されていない領域は、領域A2となる領域である。一例では、領域A1に含まれるキャピラリ集合体26Aを構成する中空管22aの内径及び外径は、領域A2に含まれるキャピラリ集合体26Bを構成する中空管22bの内径及び外径よりも大きい(若しくは小さい)。これにより、この母材25が加熱され引き延ばされた後のポリキャピラリレンズにおいても、領域A1におけるキャピラリ18aの内径は、領域A2におけるキャピラリ18bの内径よりも大きくなる(若しくは小さくなる)。
また、図16に示されるように、X線導波方向と交差する面内における、領域A1のキャピラリ集合体26Aの断面形状及び大きさと、領域A2のキャピラリ集合体26Bの断面形状及び大きさとは互いに等しい。具体的には、キャピラリ集合体26A,26Bの断面形状は共に正方形であり、且つ、それらの一辺の長さは互いに等しい。
本変形例のように、キャピラリ集合体の断面形状は正方形であってもよく、そのような形状であってもキャピラリ集合体26A,26Bを隙間なく密に整列させることができる。また、本変形例のように、キャピラリ集合体26A,26Bの断面形状及び大きさが互いに等しいことにより、隣合う領域A1,A2の境界部分においても各領域A1,A2の内部と同様にキャピラリ集合体26A,26Bを連続して整列させることができる。したがって、境界部分における隙間の発生を抑えつつ、ポリキャピラリレンズを好適に作製することができる。
図17は、本変形例の別の形態を示す図であって、ポリキャピラリレンズの製造に用いられる母材28の断面構造の一部を拡大して示している。この母材28と図16に示された母材25との相違点は、領域A1,A2におけるキャピラリ集合体の大きさである。すなわち、母材28では、領域A1におけるキャピラリ集合体26Aの一辺の大きさと、領域A2におけるキャピラリ集合体26Bの一辺の大きさとが互いに異なっており、キャピラリ集合体26Aの一辺の大きさは例えばキャピラリ集合体26Bの一辺の大きさの2倍である。なお、大きさ以外のキャピラリ集合体26A,26Bの構成は、図15及び図16に示されたものと同様である。
本変形例のようにキャピラリ集合体の断面形状が正方形である場合、図17に示されたように、互いに隣合う二つの領域A1,A2のキャピラリ集合体の大きさはそれぞれ異なっても良い。そのような場合であっても、隣合う領域A1,A2の境界部分においてキャピラリ集合体を連続して整列させることができ、境界部分における隙間の発生を抑えることができる。
(第5の変形例)
図18は、第5変形例として、ポリキャピラリレンズの製造に用いられる母材24の断面構造を示す図である。図18に示されるように、母材24は、複数のキャピラリ集合体21を備えている。これらのキャピラリ集合体21は、前述した実施形態と同様に、キャピラリを構成する複数の中空管が束ねられて構成された断面正六角形の部材であって、X線導波方向と交差する面内において蜂の巣状に整列されている。
また、図19は、ポリキャピラリレンズの製造に用いられる母材29の断面構造を示す図である。図19に示されるように、母材29は、複数のキャピラリ集合体26を備えている。これらのキャピラリ集合体26は、前述した第4変形例と同様に、キャピラリを構成する複数の中空管が束ねられて構成された断面正方形の部材であって、X線導波方向と交差する面内において縦横に整列されている。
図18に示される母材24、及び図19に示される母材29は、X線導波方向と交差する断面において、3つの同心円状の領域A3~A5を有している。なお、図18及び図19において、領域A3は中心付近の密なハッチングが施された領域であり、領域A4はその周囲の粗いハッチングが施された領域であり、領域A5は更にその周囲のハッチングが施されていない領域である。
したがって、これらの母材24,29から作製されるポリキャピラリレンズもまた、X線導波方向と交差する断面において、領域A3~A5に相当する3つの同心円状の領域を有することとなる。換言すれば、母材24,29から作製されるポリキャピラリレンズは、X線導波方向と交差する面内において、第1の領域と、第1の領域を囲む第2の領域と、第2の領域を囲む第3の領域とを有することとなる。なお、これらの領域に共通の中心は、例えばポリキャピラリレンズの中心軸線上にあり、導波されるX線束の中心軸線と一致する。
一例では、キャピラリ集合体21,26を構成する中空管の内径及び外径は、領域A3において最も大きく、領域A5において最も小さい。これにより、これらの母材24,29が加熱され引き延ばされた後のポリキャピラリレンズにおいても、領域A3におけるキャピラリの内径が最も大きく、領域A5におけるキャピラリの内径が最も小さくなる。このように、ポリキャピラリレンズの中心軸線に近い領域ほどキャピラリの内径が大きいことにより、ポリキャピラリレンズの中心軸線付近におけるキャピラリ内でのX線の反射間隔が長くなるので、反射回数が減り、X線の損失を低減することができる。
また、別の一例では、キャピラリ集合体21,26を構成する中空管の内径及び外径は、領域A5において最も大きく、領域A3において最も小さい。これにより、これらの母材24,29が加熱され引き延ばされた後のポリキャピラリレンズにおいても、領域A5におけるキャピラリの内径が最も大きく、領域A3におけるキャピラリの内径が最も小さくなる。このように、ポリキャピラリレンズの中心軸線に近い領域ほどキャピラリの内径が小さいことにより、中心軸線付近におけるキャピラリ内でのX線の反射間隔が短くなるので、反射回数が多くなり、X線の損失を大きくすることができる。したがって、ポリキャピラリレンズの中心軸線付近における出射X線の強度を低下させて、強度分布を均一に近づけることができる。
本発明によるポリキャピラリレンズは、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態及び各変形例では、キャピラリ集合体の断面形状として正六角形および正方形を例示したが、キャピラリ集合体の断面形状はこれらに限られるものではない。また、上記実施形態及び各変形例では、X線導波方向と交差する面内において2つ(或いは3つ)の領域のキャピラリ内径がそれぞれ異なるとしたが、4つ以上の領域間でキャピラリ内径がそれぞれ異なってもよい。
また、上記実施形態及び各変形例ではポリキャピラリレンズの導波対象としてX線を例示したが、本発明のポリキャピラリレンズは、ガンマ線といった他の放射線、或いは荷電粒子や中性子線といった粒子線を導波対象としてもよい。
上記実施形態による第1のポリキャピラリレンズでは、一端面から他端面へ延びており一端面から入射した放射線又は粒子線を他端面へ導波する複数のキャピラリを有するポリキャピラリレンズであって、放射線又は粒子線の導波方向と交差する面内において、キャピラリの内径がそれぞれ異なる複数の同心円状の領域が存在する構成としている。
また、上記実施形態による第2のポリキャピラリレンズでは、一端面から他端面へ延びており一端面から入射した放射線又は粒子線を他端面へ導波する複数のキャピラリを有するポリキャピラリレンズであって、放射線又は粒子線の導波方向と交差する面内において、第1の領域におけるキャピラリの内径と、第1の領域を囲む第2の領域におけるキャピラリの内径とが互いに異なる構成としている。
また、上述したポリキャピラリレンズは、複数のキャピラリをそれぞれ構成する複数の中空管が束ねられて各々構成され、面内において二次元状に整列された複数のキャピラリ集合体を備え、面内におけるキャピラリ集合体の断面形状及び大きさが、複数の領域のうち互いに隣接する少なくとも二つの領域間で互いに等しい構成としてもよい。
これにより、キャピラリの内径が互いに異なる隣合う領域同士の境界部分においても、各領域の内部と同様にキャピラリ集合体を連続して整列させることができるので、境界部分における隙間の発生を抑えつつ、上記のポリキャピラリレンズを好適に作製することができる。
また、この場合、面内におけるキャピラリ集合体の断面形状は正六角形または正方形であることが好ましい。これにより、キャピラリ集合体を隙間なく密に整列させることが容易にできる。
また、上述したポリキャピラリレンズでは、ポリキャピラリレンズの中心に近い領域ほど、キャピラリの内径が大きくてもよい。或いは、上述したポリキャピラリレンズでは、ポリキャピラリレンズの中心に近い領域ほど、キャピラリの内径が小さくてもよい。
また、上述したポリキャピラリレンズは、点状の線源から一端面に入射した放射線又は粒子線を平行化して他端面から出力してもよい。或いは、上述したポリキャピラリレンズは、一端面に入射した平行放射線又は平行粒子線を集束線として他端面から出力してもよい。或いは、上述したポリキャピラリレンズは、点状の線源から一端面に入射した放射線又は粒子線を集束線として他端面から出力してもよい。