WO2013161294A1 - 流体封入式防振装置 - Google Patents

Abstract

　衝撃荷重等の入力時における異音発生の原因となるキャビテーションを効果的に抑制することの出来る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供する。　オリフィス通路４０で相互に連通された主液室３６および副液室３８を備えた流体封入式防振装置１０において、かかる封入流体には、常温で大気圧の環境下において０．０３容積％以上の溶存ガスを含有せしめると共に、かかる主液室３６の内面において、対水接触角が９０度以上とされた低接着エネルギー面５０を設けた。

Description

流体封入式防振装置

　本発明は、例えば自動車のエンジンマウント等に用いられる流体封入式防振装置に係り、特に衝撃的荷重等の入力に伴って発生するキャビテーションに起因する異音に対して効果的で且つ簡便な解決策を提供することができる技術に関するものである。

　従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振連結体や防振支持体の如き防振装置の一種として、内部に封入された流体の流動作用に基づいた防振効果を利用する流体封入式防振装置が知られている。かかる流体封入式防振装置は、例えば特開２００５－３３７３４８号公報（特許文献１）に記載されているように、振動入力時に本体ゴム弾性体の変形に基づいて圧力変動が惹起される主液室と、振動入力時に該主液室との間で相対的な圧力変動が生ぜしめられる副液室とが、オリフィス通路で連通された構造とされる。そして、振動入力時に相対的な圧力変動が惹起される主液室と副液室との間でオリフィス通路を通じて流動せしめられる非圧縮性封入流体の流動作用に基づいて防振効果が発揮されるようになっている。

　ところで、このような流体封入式防振装置では、衝撃的荷重の入力時に発生する異音や振動が問題になる場合がある。かかる異音等は、衝撃的荷重の入力で主液室の圧力が急激に低下して発生するキャビテーション気泡に起因すると考えられる。

　このような問題に対して、特許４２６５６１３号公報（特許文献２）に記載されているように、主液室に相当する受圧室と副液室に相当する平衡室との間にリリーフバルブ等を備えた短絡流路を設けて、主液室における過大な負圧を速やかに解消させる構造も提案されている。

　しかしながら、リリーフバルブや短絡流路などを特別に形成する必要があり、部材点数の増加や構造の複雑化が避けられないという問題があった。

特開２００５－３３７３４８号公報 特許４２６５６１３号公報

　本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、衝撃的荷重等の入力に伴って発生するキャビテーションに起因する異音に対して効果的な解決策を提供することにあり、特に、基本的な設計が完了した後にキャビテーション異音が問題となった場合でも、基本的な防振性能への悪影響を可及的に回避しつつ、キャビテーション異音に対して簡便に対策することを可能とする新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。

　本発明の第一の態様は、振動入力時に本体ゴム弾性体の変形に基づいて圧力変動が惹起される主液室と、振動入力時に該主液室との間で相対的な圧力変動が生ぜしめられる副液室と、それら主液室と副液室との間での封入流体の流動を許容するオリフィス通路とを、備えた流体封入式防振装置において、前記封入流体には、常温で大気圧の環境下において０．０３容積％以上の溶存ガスが含有されていると共に、対水接触角が９０度以上とされた低接着エネルギー面が、前記主液室の内面に設けられていることを特徴とするものである。

　本発明に従う構造の流体封入式防振装置では、常温で大気圧の環境下において０．０３容積％以上の溶存ガスが非圧縮性流体である液体中に溶存されていることから、衝撃的荷重の入力により主液室の圧力が大きく低下すると、所謂キャビテーションといわれる蒸気性キャビテーションが発生する以前に、気体性キャビテーションであるエアレーションの現象が発生して、液体に溶解していたガスが気泡となって表れる。そして、このエアレーション気泡が特に表れやすい主液室の壁面には、対水接触角が９０度以上とされた低接着エネルギー面が設けられていることから、現出した気泡が主液室の壁面上で拡張せずにレンズ状又は球状に近い形となる。その結果、主液室の圧力低下に際して気泡が一層安定して発現し且つ維持されて、かかる気泡が主液室における負圧の吸収軽減作用を発揮することとなり、主液室における著しい圧力低下が回避されることにより、キャビテーション（蒸気性キャビテーション）が防止されて、キャビテーションに起因する異音や振動が効果的に抑えられるのである。

　特に、本発明では、主液室や副液室、オリフィス通路などの基本的構造に変更を加えることなく、例えば主液室を構成する部材の材質を変更したり、主液室に露呈される部材表面に処理を加えること等により、主液室の内面の少なくとも一部に低接着エネルギー面を設けることによって、キャビテーションに起因する異音等を低減することが可能になる。それ故、流体封入式防振装置の設計完了後の段階でも、基本的な防振性能への悪影響を可及的に回避しつつ、キャビテーション異音に対して簡便に対策することもできるのである。

　ところで、本発明では、以下に記載の如き構成が、適宜にまた必要に応じて組み合わせて採用可能とされ得る。

　本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る流体封入式防振装置において、前記封入流体における前記溶存ガスの含有量が、常温で大気圧の環境下において６１２００容積％以下であるものである。

　本態様によれば、常温で大気圧の環境下で６１２００容積％以下の溶存ガス含有量とすることにより、封入流体へのガス溶存が不必要に困難となることを回避できる。また、主液室の圧力低下が小さい場合にも不必要にガスが現出することに起因する、オリフィス通路の防振性能の低下を回避することも可能になる。

　なお、本発明において、常温とは、少なくとも使用開始または製造工程において加熱や冷却を加えない状態の温度であって通常は２５℃とされる。また、大気圧とは、少なくとも使用開始または製造工程において加圧や減圧もしていない状態の圧力であって通常は標準大気圧とされる。

　本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係る流体封入式防振装置において、前記低接着エネルギー面が、前記主液室を構成する構造部材の表面に直接に設けられているものである。

　本態様によれば、主液室を構成する構造部材の表面に低接着エネルギー面を直接形成することにより、例えば構造部材の全体の材質を変更する場合等に比して容易に且つ効率的に本発明が実施可能とされる。なお、低接着エネルギー面を形成する表面処理は、例えば構造部材の表面に対して、対水接触角が９０度以上の物性を有する材質層を積層成形したり、別体成形後に積層固着すること等も可能であるが、構造部材の表面に皮膜コーティングしたり、表面処理することにより、目的とする低接着エネルギー面を簡単に形成することができる。具体的には、例えばフッ素樹脂のコーティングや、放射線の照射処理などによって、低接着エネルギー面を得ることも可能である。

　本発明の第四の態様は、前記第一又は第二の態様に係る流体封入式防振装置において、対水接触角が９０度以上とされた低接着エネルギー面を表面に備えた独立部材が、前記主液室を構成する構造部材の表面に取り付けられることにより、前記低接着エネルギー面が設けられているものである。

　本態様によれば、主液室や副液室、オリフィス通路などの基本的構造に変更を加えることなく、表面に低接着エネルギー面を備えた独立部材を主液室の壁内面に取り付けることにより、主液室の壁内面の少なくとも一部に低接着エネルギー面を設けて、キャビテーションに起因する異音等を低減することが可能になる。それ故、流体封入式防振装置の設計完了後の段階でも、基本的な防振性能への悪影響を可及的に回避しつつ、キャビテーション異音に対して簡便に対策を講ずることもできるのである。

　しかも、低接着エネルギー面を備えた独立部材が、主液室の壁面を構成する構造部材（本体ゴム弾性体や仕切部材等）とは別体とされていることから、主液室の壁面を構成する構造部材の材質を限定することなく、主液室の壁内面に低接着エネルギー面を設けることができる。それ故、要求される防振特性や耐久性、重量の制限等に高度に対応しつつ、キャビテーション異音の低減を実現することが可能となる。

　本発明の第五の態様は、前記第四の態様に係る流体封入式防振装置において、前記独立部材が周方向に延びており、該独立部材が前記主液室に設けられた周壁の内面に重ね合わされて取り付けられているものである。

　本態様によれば、主液室の壁内面に取り付けられた独立部材の表面積を効率的に大きく得ることができて、主液室の壁内面における低接着エネルギー面の面積が大きく確保される。その結果、気泡の安定した保持等によるキャビテーション異音の低減作用がより効果的に発揮される。しかも、主液室の内周部分には独立部材の取付け構造や独立部材の配設スペースが要求されないことから、液圧吸収機構や負圧低減用のリリーフ弁機構等といった種々のデバイスを配設することが可能となる。

　本発明の第六の態様は、前記第五の態様に係る流体封入式防振装置において、前記独立部材が周方向に延びるように弾性的に湾曲変形された状態で前記主液室に収容されており、該独立部材がそれ自体の弾性によって該主液室に設けられた周壁の内面に押し当てられて取り付けられているものである。

　本態様によれば、特別な固定手段を要することなく、独立部材がそれ自体の弾性によって主液室の周壁内面に押し当てられて取り付けられることから、構造の簡略化が実現されると共に、流体封入式防振装置の設計完了後の段階においてキャビテーション異音に対してより簡便に対策を講ずることもできる。

　本発明の第七の態様は、前記第五の態様に係る流体封入式防振装置において、前記独立部材が環状とされており、該独立部材が前記主液室に設けられた周壁の内面に嵌入されて取り付けられているものである。

　本態様によれば、環状の独立部材が主液室の周壁内面に対して嵌入されることで、独立部材が主液室の周壁内面に押し当てられて保持される。それ故、独立部材が特別な固定手段を要することなく取り付けられて、構造の簡略化やキャビテーション異音に対するより簡便な対策手段の提供が実現される。

　本発明の第八の態様は、前記第四～第七の何れかの態様に係る流体封入式防振装置において、前記主液室を構成する構造部材の表面に対する前記独立部材の相対変位を制限する位置決め手段が設けられているものである。

　本態様によれば、主液室の壁内面に対する独立部材の位置ずれや脱落が位置決め手段によって防止されることから、目的とする防振特性や異音の低減作用を安定して得ることができる。特に、独立部材を主液室の壁内面に取り付けるための取付け手段とは別に位置決め手段が設けられて、それら取付け手段と位置決め手段が組み合わせて採用されることによれば、主液室の壁内面に対する独立部材の位置決めがより効果的に実現される。

　本発明の第九の態様は、前記第一～第八の何れかの態様に係る流体封入式防振装置において、前記低接着エネルギー面が、前記主液室の封入流体に晒される部材の表面に設けられた表面処理層によって形成されているものである。

　本態様によれば、表面処理層で低接着エネルギー面を主液室の封入流体に晒される部材の表面に形成することにより、例えば構造部材の全体の材質を変更する場合等に比して、より容易に且つ効率的に本発明が実施可能とされる。

　本発明の第十の態様は、前記第一～第九の何れかの態様に係る流体封入式防振装置において、振動伝達系を構成する各一方の部材に取り付けられる第一の取付部材および第二の取付部材を前記本体ゴム弾性体で連結せしめて、該第二の取付部材で支持された仕切部材の一方の側に該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成された前記主液室を形成すると共に、該仕切部材の他方の側に前記副液室を形成し、更に、該仕切部材における該主液室側の面において前記低接着エネルギー面を設けたものである。

　本態様によれば、主液室と副液室を仕切る仕切部材を採用し、かかる仕切部材に低接着エネルギー面を設けたことにより、低接着エネルギー面の形成が容易になると共に、低接着エネルギー面を設ける位置の設定自由度も大きくされ、低接着エネルギー面の面積も容易に確保することが可能になる。

　本発明の第十一の態様は、前記第十の態様に係る流体封入式防振装置において、前記構造部材としての前記仕切部材における前記主液室の前記封入流体に晒される面と、該仕切部材に取り付けられる別部材における該主液室の前記封入流体に晒される面との、少なくとも一方に対して前記低接着エネルギー面を設けたものである。

　本態様によれば、仕切部材に対して、低接着エネルギー面が設けられる部材が別部材として取り付けられることから、振動入力時に積極的に弾性変形する本体ゴム弾性体に取り付けられる場合に比して、かかる別部材の位置ずれや脱落等といった不具合が生じ難くなる。なお、本態様において、仕切部材に取り付けられる別部材における主液室の封入流体に晒される面に対して低接着エネルギー面が設けられた場合には、当該別部材が、前記第四～第八の態様に記載の独立部材とされることとなる。

　本発明の第十二の態様は、前記第十一の態様に係る流体封入式防振装置において、前記低接着エネルギー面が形成される前記仕切部材または前記別部材が熱可塑性の合成樹脂で形成されているものである。

　本態様によれば、例えば低接着エネルギー面が形成される別部材が設けられる場合には、仕切部材の材質が限定されることが回避され得て、成形性に優れ且つ軽量の熱可塑性合成樹脂で仕切部材を形成しながら、別部材をステンレス鋼で形成してフッ素系樹脂の焼付け等によって強固な低接着エネルギー面を形成するといったことも可能となる。

　本発明の第十三の態様は、前記第一～第十二の何れかの態様に係る流体封入式防振装置において、前記低接着エネルギー面が、前記オリフィス通路の前記主液室への開口部から離れた位置に設けられているものである。

　本態様によれば、オリフィス通路を通じての流体流動による大きな流体圧力の作用を避けることで、前述の如き主液室における溶存ガス気泡の現出と存続の安定化が図られて、目的とするキャビテーションによる異音等の低減効果がより安定して発揮され得る。

　本発明の第十四の態様は、前記第一～第十三の何れかの態様に係る流体封入式防振装置において、前記主液室の内面に凹凸を有する流体滞留領域が設けられており、該流体滞留領域の内面に前記低接着エネルギー面が形成されているものである。

　本態様によれば、流体滞留領域に低接着エネルギー面を形成することで、振動入力時に主液室内に惹起される流体流動の悪影響を抑えて、前述の如き主液室における溶存ガス気泡の現出と存続の安定化が図られ得る。これにより、溶存ガス気泡による、目的とするキャビテーションによる異音等の低減効果を一層安定して得ることが可能となる。

　本発明の第十五の態様は、前記第十四の態様に係る流体封入式防振装置において、前記主液室に開口する凹所形状をもって形成されているものである。

　本態様によれば、主液室に開口する凹所形状とすることで、主液室内の流体流動による悪影響を回避した領域に一層大きな面積を確保して低接着エネルギー面を形成することも可能となる。なお、かかる凹所形状の流体滞留領域は、本体ゴム弾性体の表面に形成したり、前述の仕切部材の表面に形成したりすることで、特別な部材の増加を伴うことなく簡単な構造で一層有利に実現可能となる。

　本発明の第十六の態様は、前記第一～第十五の何れかの態様に係る流体封入式防振装置において、前記封入流体に晒されることでガス化する粉状体が該封入流体の収容領域に封入されており、該粉状体がガス化したものが前記溶存ガスとされているものである。

　本態様によれば、封入流体への溶融等でガスを発生する物質を、固体や液体の状態で、溶媒に添加することができて、大きなガス溶存量を容易に実現することも可能になる。

　本発明の第十七の態様は、前記第十六の態様に係る流体封入式防振装置において、前記粉状体からなる分散質が、前記封入流体中で溶融する固体状又はゲル状の分散媒で該分散質の表面を被覆することによって構成されたガス混入用複合体として、前記封入流体の収容領域に封入されているものである。本態様によれば、粉状体からなる分散質を容易に取り扱うことが可能となる。

　本発明の第十八の態様は、前記第十七の態様に係る流体封入式防振装置において、前記固体状又はゲル状の分散媒として、ゼラチンとペクチンと寒天の何れかであるものである。

　本発明の第十九の態様は、前記第十六～第十八の何れかの態様に係る流体封入式防振装置において、前記粉状体からなる分散質が、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウムの少なくとも一つを含むものである。

　本発明の第二十の態様は、前記第一～第十九の何れかの態様に係る流体封入式防振装置において、前記低接着エネルギー面において、前記主液室の圧力低下によるエアレーションで現出する気泡における前記封入流体中での対気泡接触角が９０度以上とされているものである。

　本態様によれば、主液室に現出する溶存ガス気泡の低接着エネルギー面における接触角が大きくされることにより、かかる気泡が球形に近くなって気泡内の圧力が維持され得て、液中で気泡が一層安定して存続することに主液室の圧力緩和作用がより効果的に発揮され得る。

　また、本発明は、振動入力時に本体ゴム弾性体の変形に基づいて圧力変動が惹起される主液室と、振動入力時に該主液室との間で相対的な圧力変動が生ぜしめられる副液室と、それら主液室と副液室との間での封入流体の流動を許容するオリフィス通路とを、備えた流体封入式防振装置の製造方法であって、前記主液室の内面の少なくとも一部において、対水接触角が９０度以上とされた低接着エネルギー面を形成する工程を含むと共に、前記封入流体に晒されることでガス化する粉状体からなる分散質の表面が前記封入流体中で溶融する固体状又はゲル状の分散媒で被覆されてなるガス混入用複合体を準備する工程と、該ガス混入用複合体を前記封入流体の収容領域に収容せしめると共に該収容領域に該封入流体を充填する工程とを、含み、該収容領域に充填された該封入流体内で該粉状体がガス化したものを該封入流体の溶存ガスとして０．０３容積％以上の濃度で含有せしめる流体封入式防振装置の製造方法も、特徴とする。

　このような本発明方法に従えば、キャビテーションに起因する異音等に対して低減効果を発揮し得る本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置を製造するに際して、封入流体に対して所定量の溶存ガスを容易に含有させることが可能になって、目的とする流体封入式防振装置を一層容易に製造することができる。

　本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置では、エアレーションで主液室に現出する溶存ガス気泡が低接着エネルギー面上で効果的に維持されることにより、かかる気泡による負圧の吸収軽減作用が発揮されて、キャビテーションに起因する異音や振動が効果的に抑えられる。しかも、主液室を構成する構造部材の表面、或いは、該構造部材表面に取り付けられる独立部材の表面に低接着エネルギー面を設けることで発明効果を得ることが出来ることから、流体封入式防振装置の設計完了後の段階でも基本的な防振性能への悪影響を回避しつつ、キャビテーション異音に対する対策が実現可能になる。

本発明の第一の実施形態としての流体封入式防振装置を示す縦断面図。 主液室に現出する溶存ガスのエアレーションによる気泡を説明するための説明図。 本発明の第二の実施形態としての流体封入式防振装置を示す縦断面図。 本発明の第三の実施形態としての流体封入式防振装置を示す縦断面図。 本発明の第四の実施形態としての流体封入式防振装置を示す縦断面図であって、図６におけるＶ－Ｖ断面に相当する断面図。 図５に示された流体封入式防振装置を構成する仕切部材を示す平面図。 図６に示された仕切部材の正面図。 図７におけるＶＩＩＩ－ＶＩＩＩ断面図。 本発明の第五の実施形態としての流体封入式防振装置を示す縦断面図。 本発明の第六の実施形態としての流体封入式防振装置を示す縦断面図。 図１０の流体封入式防振装置を構成する仕切部材に撥水部材が取り付けられた状態を示す斜視図。 図１１に示された撥水部材付き仕切部材を別の角度から示す斜視図。 図１１に示された撥水部材の単品図であって、仕切部材への装着前に湾曲変形させる作業工程を説明する図。 図１３に示された湾曲状態の撥水部材を仕切部材に装着する作業工程を説明する図。 本発明に係る流体封入式防振装置を構成する撥水部材付き仕切部材の別の一態様を示す斜視図。 図１５に示された撥水部材付き仕切部材の平面図。 湾曲状態の撥水部材を仕切部材に装着して図１５に示された撥水部材付き仕切部材を形成する作業工程を説明する図。 本発明の第七の実施形態としての流体封入式防振装置を示す縦断面図。 本発明の第八の実施形態としての流体封入式防振装置を示す縦断面図。 図１９に示された流体封入式防振装置を構成する撥水部材付き仕切部材の平面図。 本発明の第九の実施形態としての流体封入式防振装置を示す縦断面図。 図２１に示された流体封入式防振装置を構成する撥水部材付き仕切部材の斜視図。 流体封入式防振装置の防振特性を測定する試験装置を説明するための説明図。 図２３に示された試験装置を用いて図１に示された構造の本発明品について測定した防振特性の結果としての振動入力時の主液室圧力を、比較例の測定結果とともに表すグラフ。 図２３に示された試験装置を用いて図１に示された構造の本発明品について測定した防振特性の結果としての振動入力時の伝達荷重を、比較例の測定結果とともに表すグラフ。

　以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。

　図１には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント１０が示されている。エンジンマウント１０は、第一の取付部材１２と第二の取付部材１４が本体ゴム弾性体１６によって弾性連結された構造を有している。そして、第一の取付部材１２と第二の取付部材１４との一方がパワーユニット側に取り付けられると共に他方が車両ボデーに取り付けられることにより、自動車において車両ボデーに対してパワーユニットを防振支持するようになっている。なお、以下の説明中、上下方向とは、原則として図１中の上下方向であってエンジンマウント１０の中心軸である弾性主軸が延びる方向をいう。

　より詳細には、第一の取付部材１２は、上下方向に延びる円形短柱形状を有しており、軸方向下端部分が下方に向かって小径化された逆円錐台形状とされている。中心軸上には、上端面に開口する固定ボルト穴１８が設けられており、この固定ボルト穴１８に螺着される固定ボルトによってパワーユニットに固着されるようになっている。

　第二の取付部材１４は、上下方向に延びる大径の略円筒形状を有しており、例えば図示しない取付ブラケットを介して、車両ボデーに固着されるようになっている。また、第二の取付部材１４には、上端部近くに周溝状の括れ部２０が設けられていると共に、軸方向上側の開口周縁部にはフランジ部が一体形成されている。また、括れ部２０の周壁部は、上側開口部側に向かって次第に拡径するテーパ筒部とされている。そして、第二の取付部材１４の軸方向上方に離隔して、第一の取付部材１２が、略同一中心軸上に配置されており、第一の取付部材１２の逆円錐台形状の外周面と、第二の取付部材１４のテーパ筒部の内周面とが、互いに対向位置せしめられている。

　さらに、本体ゴム弾性体１６は、略円錐台形状を有しており、その小径側端部の中央部分に第一の取付部材１２が埋入状態で固着されている一方、その大径側端部の外周面に第二の取付部材１４の上端部分の内周面が固着されている。そして、第一の取付部材１２の外周面と第二の取付部材１４の上端部の内周面との対向面間が、本体ゴム弾性体１６によって弾性的に連結されている。なお、本体ゴム弾性体１６は、第一及び第二の取付部材１２，１４を有する一体加硫成形品とされている。また、本体ゴム弾性体１６には、大径側端面に開口する逆向き略すり鉢状の大径凹所２２が形成されている。更に、第二の取付部材１４の内周面には、略全面を覆うシールゴム層２４が、本体ゴム弾性体１６から軸方向下方に延び出すようにして本体ゴム弾性体１６と一体形成されている。

　また、第二の取付部材１４の下側の開口部分には、可撓性膜としての薄肉ゴム製のダイヤフラム２６が配設されている。ダイヤフラム２６の外周面にはリング形状の嵌着金具２８が加硫接着されており、この嵌着金具２８が第二の取付部材１４の下側開口部分に嵌着固定されることにより、第二の取付部材１４の下側開口がダイヤフラム２６で流体密に封止されている。

　これにより、第二の取付部材１４の内部には、本体ゴム弾性体１６とダイヤフラム２６との対向面間において、外部空間に対して密閉されて非圧縮性の封入流体が充填された収容領域としての液封領域が画成されている。

　また、かかる液封領域には、仕切部材３０が収容配置されている。仕切部材３０は、何れも略円板形状の上仕切板３２と下仕切板３４が重ね合わされており、全体として所定厚さの円板形状を有している。この仕切部材３０は、第二の取付部材１４に対して嵌め込まれて軸方向中間部分で軸直角方向に広がる状態で組み付けられており、仕切部材３０の外周面が、第二の取付部材１４の内周面に対してシールゴム層２４を介して嵌着固定されている。なお、仕切部材３０を構成する上仕切板３２および下仕切板３４は、鉄やアルミニウム合金といった金属や、熱可塑性又は熱硬化性の合成樹脂等で形成された硬質の部材であって、本実施形態では金属により形成されている。

　これにより、液封領域が、仕切部材３０によって上下両側に仕切られており、仕切部材３０の上方には、壁部の一部が本体ゴム弾性体１６で構成されて、振動入力時に本体ゴム弾性体１６の弾性変形に基づいて圧力変動が惹起される主液室３６が形成されている。また、仕切部材３０の下方には、壁部の一部がダイヤフラム２６で構成されて、容積変化が容易に許容されることで圧力変動が回避されて略大気圧に保たれる副液室３８が形成されている。従って、本実施形態では、本体ゴム弾性体１６および仕切部材３０が主液室３６を構成する構造部材とされている。

　また、仕切部材３０には、外周部分を周方向に所定長さで延びるオリフィス通路４０が形成されており、振動入力時には主液室３６と副液室３８の間で相対的な圧力変動が生ぜしめられて、両液室３６，３８間においてオリフィス通路４０を通じての流体流動が許容されるようになっている。なお、本実施形態では、上仕切板３２の外周部分において外周面に開口して周方向に一周弱の長さで延びる上溝４２と、下仕切板３４の外周部分において上面に開口して周方向に一周弱の長さで延びる下溝４４とが、各一方の周方向端部で相互に連通されることにより、全体として一周弱の長さで延びるオリフィス通路４０が形成されている。

　特に本実施形態では、上仕切板３２の中央部分には、上方に向かって開口する大径の円形凹所４６が形成されている。また、オリフィス通路４０の主液室３６側の開口部４８が、円形凹所４６の外周側の厚肉部分において、上方に向かって開口形成されている。これにより、円形凹所４６は、オリフィス通路４０の開口部４８を外れた位置で、且つ、オリフィス通路４０の開口部４８の開口方向の延長線上からも外れた位置に形成されている。

　さらに、本実施形態では、主液室３６の内面、特に主液室３６を構成する構造部材である仕切部材３０の上面が、実質的に全面に亘って低接着エネルギー面５０とされている。この低接着エネルギー面５０は、対水接触角が９０度以上の面であって、例えば上仕切板３２を疎水性材料（非極性物質）で成形することによって実現することも可能であるが、好適には疎水性材料のコーティング層を表面処理層として上仕切板３２の表面に形成することによって低接着エネルギー面５０が形成され得る。このようにコーティング層を採用することで、上仕切板３２の材質の選択自由度が大きく確保されると共に、事後的な処理によって低接着エネルギー面５０を容易に得ることが可能になる。

　なお、低接着エネルギー面５０を与えるコーティング層としては、例えば四フッ化エチレン樹脂（ＰＴＦＥ）や四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体樹脂（ＦＥＰ）、四フッ化エチレン・バーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂（ＰＦＡ）、三フッ素化樹脂（ＰＣＴＦＥ）、ポリフッ化ビニリデン（ＰＶＤＦ）、ポリフッ化ビニル（ＰＶＦ）、ＰＴＦＥ／ＰＦＡ複合塗料などのフッ素系樹脂やシリコーン樹脂が、優れた耐久性をもって良好な疎水性を与え得ることから、好適に採用される。特に、このようなフッ素系樹脂等は、撥水性と共に撥油性も発揮することから、本発明において一層好適に採用され得る。

　すなわち、液封領域に充填された封入流体としては、一般に水の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール等の有機溶剤からなる極性（親水性）の液体が採用されることとなり、かかる極性の液体を溶媒として更に極性の物質が溶質として必要に応じて添加されることが好ましい。しかし、要求特性によっては、かかる極性の液体に対して非極性（疎水性）の物質が添加されることもあり、何れの場合でも、更に非極性の溶媒を封入流体に採用する場合でも、フッ素系樹脂を用いることにより低接着エネルギー面５０を得ることが可能になる。

　そして、本実施形態では、かかる封入流体として、常温で且つ大気圧の環境下で０．０３～６１２００容積％の溶存ガスを含有するものが採用されている。溶存ガスとしては、空気の他、アンモニア、塩化水素、二酸化炭素、一酸化窒素、酸素、一酸化炭素、水素、窒素、ネオン、ヘリウムからなる群から選択される少なくとも一つが好適に採用される。特に、空気、又は空気よりも親水性の大きい溶存ガスが、好適に採用されることとなり、それにより、極性の液体を封入流体とする場合における溶媒への親和性の向上と共に、低接着エネルギー面５０に対する気泡の接触角を大きくして気泡を球状に近づけて消失し難くする作用にも有利となる。

　また、溶存ガスの含有量を大きくすることは、キャビテーション防止に有効であることから、提供される封入流体において、常温で且つ大気圧の環境下で自然に溶存するガス含有量を越えて更に大きなガス溶存量を設定することが望ましい。具体的には、例えば常温で且つ大気圧の環境下で０．１０容積％以上の溶存ガスを含有する封入流体が好適に採用され得る。

　ここにおいて、大きなガス溶存量を容易に実現するには、ガスを発生する物質を、固体や液体の状態で、溶媒に添加することも有効である。具体的には、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウムの粉状体（粉末や粉体）が好適であるが、その他、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ドライアイスおよび過酸化カルシウムからなる群から選択される少なくとも一つの発泡性又は無発泡性の粉状体が、添加物として採用され得る。また、塩化アンモニウムとあわせて水酸化カルシウムを添加することで、溶媒中で容易にアンモニアが発生することから、アンモニアを溶媒に溶存することも可能である。なお、上記の粉状体は後述するガス混入用の複合体７０における分散質としても採用され得る。

　上述の如き構造とされたエンジンマウント１０においては、車両への装着状態下で第一の取付部材１２と第二の取付部材１４との間に主として上下方向の振動が入力されると、主液室３６と副液室３８の間に惹起される相対的な圧力変動に基づいてオリフィス通路４０を通じての流体流動が生ぜしめられる。そして、オリフィス通路４０を流動する流体の共振作用などを利用して、例えばエンジンシェイクに対する高減衰効果などの目的とする防振効果が発揮されることとなる。

　ところで、車両の段差乗り越え等に際して衝撃的荷重がエンジンマウント１０に入力されると、主液室３６に過大な圧力低下が急激に発生し、それに起因するキャビテーションによる異音等が問題になり易い。ここにおいて、本実施形態のエンジンマウント１０では、封入流体に溶存ガスが含有されていることから、キャビテーションに至る前にエアレーションが発生して溶存ガスの気泡が現出せしめられる。

　そして、この現出した気泡によって主液室３６の圧力変化量が吸収されて緩和されることから、主液室３６の著しい圧力低下が軽減されることとなり、その結果、キャビテーションが防止され、ひいてはキャビテーションに起因すると解される異音や振動の低減効果が発揮されることとなる。特に本実施形態のエンジンマウント１０では、溶存ガスの気泡が現出し易い主液室３６の内面において、対水接触角の大きい低接着エネルギー面５０が形成されていることにより、かかる低接着エネルギー面５０上に現出した気泡が一層効果的に維持されて、主液室３６の圧力変化の緩和によるキャビテーション防止効果が一層安定して発揮されるのである。

　すなわち、図２（ａ）に示されているように、低接着エネルギー面５０上に現出した気泡５２について、その接触角θは、低接着エネルギー面５０の物性および表面状態に応じた値とする。そして、本実施形態では、対水接触角を９０度以上としたことにより、撥水性が付与された低接着エネルギー面５０とされていることで、かかる気泡５２の接触角θも大きくされる。特に好適には、封入流体中における低接着エネルギー面５０上の気泡５２の接触角θが９０度以上となるように設定される。

　その結果、低接着エネルギー面５０上に発現した気泡５２が、レンズ状又は球状に近い形とされて、例えば図２（ｂ）に示されているように接触角θ′が小さくて扁平な拡張形状の気泡５２′に比して、現出した気泡５２が安定して維持され易くなる。なお、図２（ａ）に示すレンズ状又は球状に近い形の気泡５２が、図２（ｂ）の如き扁平な拡張形状の気泡５２′に比して、主液室３６の圧力変動に際しても消失し難く、安定して維持され易いことの理由としては、以下の如く推定される。即ち、図２（ｃ）に示されているように、次式で表されるヤング・ラプラスの式から求められる気泡内部圧力Ｐｉと外部圧力Ｐｏおよび気泡表面の界面張力と気泡形態から定まるΔＰとの関係が、下式のように示されるときに気泡は維持、成長され易くなる。
　　Ｐｉ　＞　Ｐｏ　＋　ΔＰ
　　ΔＰ＝γ（１／ｒ１＋１／ｒ２）
　但し、γは界面張力であり、ｒ１，ｒ２は楕円の主曲率半径であって、球形の場合にはｒ１＝ｒ２＝最小値となる。そのため、図２（ａ）に示されている気泡５２のように、球状に近いほうが表面積が小さくなることで外部圧力の作用面積が小さくなり、気泡５２に作用する総合的な外圧が抑えられて、安定して維持され易いものと考えられる。また、低接着エネルギー面５０の臨界界面張力が低いことも寄与しているものと推定される。

　そして、このような理論が正しいことは、エンジンマウントの透明モデルを用いた加振実験での気泡の発生と消失の状況を目視することによって確認できている。加えて、後述する実験データからも、気泡５２が維持されることによって、気泡５２による主液室３６の圧力変化の緩和によるキャビテーション防止効果を確認することができる。

　また、本実施形態では、気泡５２が付着状態で発現保持される低接着エネルギー面５０が、オリフィス通路４０の主液室３６への開口部４８を外れた位置で、且つ、オリフィス通路４０の開口部４８を通じての流体流出入方向を外れた領域に形成されている。これに加えて、かかる低接着エネルギー面５０が、主液室３６に開口する円形凹所４６の形状をもって形成されていることから、振動入力時に主液室３６に生ぜしめられる流体流動の影響が回避されて、流体の滞留領域である円形凹所４６内において気泡５２が一層安定して維持され得ることとなる。即ち、気泡が低接着エネルギー面５０を離れると、複数の気泡が相互に結合して大きくなるおそれがあり、大きくなった気泡の消失時に発生する衝撃が異音等として新たな問題を惹起するおそれもあるが、低接着エネルギー面５０上に気泡５２が保持されることにより、そのような問題も効果的に回避され得る。

　ところで、低接着エネルギー面５０は、主液室３６に晒される面において任意の位置に任意の形状や大きさ、数等を持って形成することが可能であり、例えば、オリフィス通路４０の内面や副液室３８の内面にまで広がって形成されていても良い。

　具体的には、例えば第二の実施形態として図３に示されたエンジンマウント５４のように、仕切部材３０において主液室３６に開口するカップ状凹凸５６を設けて、仕切部材３０の上面中央領域に小さな中央凹所５８を形成すると共に、この中央凹所５８を滞留領域として、中央凹所５８の内面を低接着エネルギー面５０としても良い。なお、以下の実施形態において、第一の実施形態と同様な構造とされた部材および部位については、第一の実施形態と同一の符号を図中に付することにより、それらの詳細な説明を省略する。

　本実施形態では、上方に向かって開口するオリフィス通路４０の主液室３６への開口部４８よりも下方に位置して、且つ、軸直角方向でも、オリフィス通路４０の開口部４８から充分に離れた位置に開口する中央凹所５８をもって、滞留領域が形成されることから、低接着エネルギー面５０に発現した気泡が、主液室３６内の流体流動による悪影響を殆ど受けることなく、一層効果的に維持され得る。

　また、例えば第三の実施形態として図４に示されているように、中央凹所５８とその外周側に形成される円形凹所４６とを何れも滞留領域とすると共に、両凹所４６，５８の内面を低接着エネルギー面５０として形成しても良い。これにより、一層大きな面積をもって低接着エネルギー面５０を形成することが可能になる。

　さらに、図５には、本発明の第四の実施形態としてのエンジンマウント６０が示されている。本実施形態のエンジンマウント６０は、第一の実施形態のエンジンマウント１０に比して、仕切部材に形成されたオリフィス通路の別態様を、滞留領域としての凹所の別態様と併せて、採用したものである。

　具体的には、本実施形態の仕切部材６２は、図６～８にも単体図が示されているように、上仕切板３２における上溝４２が周方向に一周以下の長さで延びており、上溝４２の周方向両端部間の該上溝４２が形成されていない部分に凹所６４が形成されている。なお、上溝４２の周方向両端部は、第一の実施形態と同様に、下溝４４と主液室３６との各一方に接続されてオリフィス通路４０を形成している。

　この凹所６４は、上溝４２に対して連通しておらずにオリフィス通路４０から独立して形成されている。また、凹所６４は、主液室３６に開口せしめられて、凹所６４の内部を含んで主液室３６が形成されており、凹所６４の内面が主液室３６の内面の一部を構成している。そして、この凹所６４の内面が低接着エネルギー面６６とされている。なお、本実施形態では、第一の実施形態と同様に、仕切部材６２の上面中央部分に形成された大径の円形凹所４６の内面も低接着エネルギー面５０とされている。

　さらに、凹所６４は、上方に向かって主液室３６に開口している一方、オリフィス通路４０の主液室３６への開口部４８が、円形凹所４６の内周壁を貫通して軸直角方向に向かって形成されている。これにより、オリフィス通路４０の主液室３６への開口方向を外れた位置に、凹所６４の開口部が形成されて、オリフィス通路４０の開口部４８を通じて流動せしめられる流体圧力の凹所６４への影響が軽減されて凹所６４内に滞留領域が効果的に形成されるようになっている。特に本実施形態では、図８の断面図に示すように、マウント中心軸周りの周方向において、凹所６４が、オリフィス通路４０の開口部４８に対して９０度以内の領域に形成されており、それによって、オリフィス通路４０の主液室３６への流体流出入方向を略完全に外れた位置に凹所６４が開口形成されている。

　従って、本実施形態のエンジンマウント６０では、凹所６４により、主液室３６内の流体流動による悪影響が一層回避され得る態様をもって低接着エネルギー面６６が形成されており、それ故、この低接着エネルギー面６６上に現出する気泡に基づいて、主液室３６の圧力変化の緩和によるキャビテーション防止効果が一層効果的に発揮され得るのである。

　また、図９には、本発明の第五の実施形態としてのエンジンマウント６８が示されている。本実施形態のエンジンマウント６８は、第一の実施形態のエンジンマウント１０において、封入流体への溶存ガスを特定の添加構造をもって実現したものである。

　具体的には、本実施形態のエンジンマウント６８は、エンジンマウント１０の製造工程において、ガス混入用の複合体７０が液封領域に収容されることにより、かかる複合体７０が封入流体中に浸漬された初期構造とされる。かかる複合体７０は、封入流体への浸漬によって分解や溶融して実質的に消失する固体やゲル状の分散媒に対して、封入流体に晒されることによって溶解して発泡又は無発泡でガスを生成する粉末又は粉体状の分散質を内包させた複合構造とされている。なお、本発明において、複合体７０内における分散とは、分散質である粉末の大きさや、分散媒中での分散質の散在又は偏在の状態等に拘わらず、分散質が表面を分散媒で覆われた状態で複合体７０の内部に含有された状態を言う。

　なお、複合体７０における分散媒としては、例えばゼラチンやペクチン、寒天などが採用され得るが、特にペクチンや寒天などの常温では溶融し難くゲル状に維持されるものが好適である。また、複合体７０における分散質としては、例えば塩化アンモニウムや硫酸アンモニウムなどが採用され得る。そして、かかる分散質が分散媒で表面をコーティングされた状態で複合体７０が構成されることから、ガスを生成する粉末又は粉体状の分散質を、ブロック状態として容易に取り扱うことが可能となる。また、所定大きさの複合体７０の一つに含まれる分散質の量を予め規定しておくことにより、目的するガス量を、封入流体に対して精度良く且つ容易に含有させることが可能となり、目的とするエンジンマウント６８を安定して製造することができる。

　すなわち、本実施形態のエンジンマウント６８は、例えば第一及び第二の取付部材１２，１４を含む本体ゴム弾性体１６の一体加硫成形品を封入流体中に浸漬せしめて、別途に準備した仕切部材３０とダイヤフラム２６を、かかる封入流体中で順次に本体ゴム弾性体１６の一体加硫成形品に嵌め入れて組み付け、その後、第二の取付部材１４の下側開口部分を絞り加工して封止することにより、封入流体の充填と共にエンジンマウント本体を製造することができる。その際、例えば仕切部材３０やダイヤフラム２６の組付前に、本体ゴム弾性体１６の一体加硫成形品の内部に対して上述の如き複合体７０を収容することにより、図９に示されている本実施形態のエンジンマウント６８を得ることが出来る。

　このようにして製造されたエンジンマウント６８では、製造完了時には、図９に示されているように複合体７０が主液室３６に収容されているが、その後の時間経過等に伴って、複合体７０の分散媒が溶融等して分散質が封入流体に晒されることとなる。これにより、密閉構造とされた液封領域において分散質がガス化して溶存ガスとして封入流体中に含有せしめられることとなる。

　従って、このようなエンジンマウント６８の製造方法に従えば、液封領域に充填された封入流体中に溶存ガスを容易に且つ精度良く含有させることが可能になり、目的とする本発明に従うエンジンマウント６８を一層安定して製造することができる。

　次に、図１０には、本発明の第六の実施形態としてのエンジンマウント７２が示されている。本実施形態のエンジンマウント７２では、前記第一の実施形態のエンジンマウント１０における仕切部材３０に代えて、図１１，１２に示されている仕切部材７４が収容配置されている。この仕切部材７４は、何れも略円板形状の上仕切板７６と下仕切板７８が重ね合わされて構成されており、前記第一の実施形態における仕切部材３０と略同じ構造とされている。なお、図１１以降の図面においては、液圧吸収機構を構成するための収容空所８０と上下の透孔８４，８６、可動膜８２の図示が何れも省略されている。

　本実施形態では、仕切部材７４の中央部分に収容空所８０が形成されており、収容空所８０に可動部材としての可動膜８２が配設されている。可動膜８２は、略円板形状を呈するゴム膜であって、外周端部を全周に亘って上下の仕切板７６，７８で上下に挟持されている。そして、可動膜８２の上面には上透孔８４を通じて主液室３６の液圧が及ぼされていると共に、下面には下透孔８６を通じて副液室３８の液圧が及ぼされており、主液室３６と副液室３８の相対的な圧力変動によって可動膜８２が弾性変形することで、液圧吸収作用が発揮されるようになっている。

　なお、本実施形態の仕切部材７４を構成する上仕切板７６および下仕切板７８は、優れた成形性や重量の低減等を考慮して熱可塑性の合成樹脂で形成されている。この熱可塑性合成樹脂は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアセタール、酢酸セルロース等が好適に採用され得る。

　ここにおいて、主液室３６を構成する構造部材である仕切部材７４には、前記第一の実施形態と同様に、円形凹所４６が形成されている。そして、かかる円形凹所４６の周壁内面には、独立部材としての撥水部材８８が取り付けられており、この円形凹所４６の周壁内面に低接着エネルギー面５０が設けられている。

　より詳細には、撥水部材８８は、図１３に示されているように、長手矩形板状の部材であって、鉄やアルミニウム合金等の金属、或いは熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等で形成されており、本実施形態ではステンレス鋼によって形成されることで厚さ方向の変形に対して優れた弾性が付与されている。また、撥水部材８８は、主液室３６の壁面を構成する本体ゴム弾性体１６の一体加硫成形品や仕切部材７４に対して独立して、別部材として形成されている。そして、かかる撥水部材８８の表面に対して、表面処理層として疎水性材料（非極性物質）のコーティング層が形成されることにより、撥水部材８８の表面が低接着エネルギー面５０とされている。

　かくの如き低接着エネルギー面５０を備えた撥水部材８８は、図１３に示されているように厚さ方向で弾性的に湾曲変形されて周方向に延びるＣ環形状とされた状態で、図１４に示されているように、上仕切板７６の円形凹所４６に挿入されている。これにより、撥水部材８８は、それ自体の弾性に基づいて円形凹所４６の周壁内面に押し当てられて、上仕切板７６に取り付けられており、主液室３６の周壁内面に当接状態で重ね合わされて、周方向に延びるように配設されている。

　特に、本実施形態では、円形凹所４６の周壁内面から内周側に突出する円柱状の係止突起９０が設けられていると共に、撥水部材８８の長手方向一方の端部付近には厚さ方向に貫通する円形の係止孔９２が形成されており、係止突起９０が係止孔９２に挿通係止されることで、撥水部材８８の円形凹所４６からの抜けが防止されている。要するに、本実施形態では、仕切部材７４の係止突起９０と撥水部材８８の係止孔９２との係止によって、主液室３６を構成する構造部材である仕切部材７４の表面に対して撥水部材８８の相対変位を制限して位置決め保持する位置決め手段が構成されている。

　ここにおいて、本実施形態のエンジンマウント７２では、低接着エネルギー面５０が仕切部材７４とは別部材として形成された部材である撥水部材８８の表面に設けられており、撥水部材８８を仕切部材７４の主液室３６に晒される面に取り付けることにより、主液室３６の壁内面に低接着エネルギー面５０が設けられている。このように低接着エネルギー面５０を流体封入式防振装置の基本的な構成部品とは別の部品に形成することで、主液室３６の壁内面における任意の部位に低接着エネルギー面５０を簡単に設けることが可能とされる。特に、従来構造の流体封入式防振装置においてキャビテーション異音に対する対策が要求される場合に、撥水部材８８の取付工程を追加するだけで有効な対策を簡便に施すことが可能となる。

　しかも、焼き付けによるコーティング等の表面処理によって低接着エネルギー面５０を設ける場合にも、仕切部材の形成材料として表面処理が可能なものを選択する必要がなく、例えば成形性等に優れた熱可塑性の合成樹脂等を採用することも可能となる。

　また、本実施形態では、撥水部材８８が単体で帯状の矩形平板とされており、厚さ方向に弾性的に湾曲変形された状態で円形凹所４６に挿入されることにより、撥水部材８８自体の弾性によって円形凹所４６の周壁内面に押し当てられている。これにより、弾性的な保持力が発揮されて、撥水部材８８が仕切部材７４に対して非接着で取り付けられるようになっている。しかも、低接着エネルギー面５０が撥水部材８８の表面処理によって設けられており、撥水部材８８の形成材料が必要以上に限定されるのを防止できることから、ステンレス鋼等の優れた弾性を有する材料で形成することで、撥水部材８８を仕切部材７４に対して充分な保持力で取り付けることが可能になる。

　さらに、撥水部材８８が円形凹所４６の周壁内面に沿って周方向に延びるＣ字状に湾曲変形された状態で配設されることから、撥水部材８８の内周側の領域に可動膜８２を用いた液圧吸収機構等を設けることもできる。このように、本実施形態の仕切部材７４の中央部分には任意の防振機構やリリーフ機構等を採用することが可能とされることから、優れた防振性能等を発揮するエンジンマウント７２をスペース効率良くコンパクトに実現することができる。

　また、エンジンマウント７２では、撥水部材８８の弾性だけでなく、仕切部材７４の係止突起９０と撥水部材８８の係止孔９２との係止によっても、撥水部材８８が仕切部材７４に対して所定の位置に位置決め保持される。尤も、位置決め手段の構造は、このような係止突起９０の係止孔９２への挿通による係止に限定されるものではなく、例えば、図１５，図１６に示されているように、仕切部材９４に設けられた一対の係止突起９６，９６と、撥水部材９８に設けられた一対の係止凹部１００，１００との係止によっても、実現され得る。

　すなわち、係止突起９６は、図１５～図１７に示されているように、円形凹所４６の周壁の上端部から内周側に向かって略矩形断面で突出しており、開口部４８を挟んだ周方向両側に一対が形成されている。なお、本実施形態では、一対の係止突起９６，９６が仕切部材９４を構成する上仕切板と一体で形成されている。

　係止凹部１００は、帯状の矩形平板とされた撥水部材９８の上面に開口して、撥水部材９８の厚さ方向全長に亘って延びる切欠き状とされており、撥水部材９８の長手方向両端部分にそれぞれ設けられることで、撥水部材９８がＣ字状に湾曲変形された状態でその周方向両端部分に設けられて、周方向に所定の距離を隔てて配置されている。

　そして、撥水部材９８が湾曲変形された状態で円形凹所４６に挿入されると共に、一対の係止凹部１００，１００が一対の係止突起９６，９６に下方から嵌め合わされることによって、撥水部材９８の周方向両端部分において円形凹所４６からの抜けと周方向での位置ずれが防止されるようになっている。これにより、一対の係止突起９６，９６と一対の係止凹部１００，１００との係止によって位置決め手段が構成されている。なお、円形凹所４６の周上で更に１つ乃至は複数の係止突起９６を設けると共に、撥水部材９８の中間部分に更に１つ乃至は複数の係止凹部１００を設けて、それらの係止突起９６と係止凹部１００との係止によって周方向中間部分で位置決め作用が発揮されるようにしても良い。なお、位置決め手段は必須ではなく、例えば、独立部材がそれ自体の弾性のみによって主液室３６の壁内面に対して充分に位置決めされる場合には、上記の如き特別な位置決め手段を設ける必要はない。

　図１８には、本発明の第七の実施形態としてのエンジンマウント１０２が示されている。このエンジンマウント１０２では、独立部材としての撥水部材１０４が、主液室３６の壁内面を構成する本体ゴム弾性体１６の内周面に取り付けられている。

　すなわち、撥水部材１０４は、略一定の矩形断面で全周に亘って連続して延びる環状とされており、表面が低接着エネルギー面５０とされている。そして、本体ゴム弾性体１６の一体加硫成形品に対する仕切部材１０６の組付け前に、本体ゴム弾性体１６の中央凹所２２に挿入されている。なお、撥水部材１０４は、その外径寸法が中央凹所２２の開口部分の内径寸法よりも大きくされており、本体ゴム弾性体１６を径方向に押し広げながら嵌入されることで、本体ゴム弾性体１６の弾性によって取付け状態に保持されている。また、撥水部材１０４の本体ゴム弾性体１６への装着後に仕切部材１０６および可撓性膜２６が第二の取付部材１４に固定されることで、撥水部材１０４の下面が仕切部材１０６の上端面に当接されており、撥水部材１０４の下方への抜けが防止されている。

　このようなエンジンマウント１０２においても、仕切部材１０６とは別部材とされた撥水部材１０４が本体ゴム弾性体１６の内周面に重ね合わされた状態で取り付けられることにより、主液室３６の壁内面に低接着エネルギー面５０が設けられている。それ故、第一の実施形態のエンジンマウント１０と同様に、キャビテーション異音の発生が簡便に防止されると共に、仕切部材および本体ゴム弾性体の形成材料や形状等の自由度が確保される。

　本実施形態からも明らかなように、低接着エネルギー面５０を備えた独立部材（撥水部材）の取付位置は、主液室３６の壁内面を構成する部分であれば、仕切部材の表面に限定されるものではなく、本体ゴム弾性体１６の表面であっても良い。また、本実施形態の如く撥水部材１０４が本体ゴム弾性体１６に取り付けられる場合には、例えば、上仕切板が薄肉円板形状の金属プレートとされて円形凹所４６が省略されていても、撥水部材１０４を主液室３６の周壁内面に取り付けることが可能であり、仕切部材の構造をより自由に設定することができる。

　図１９には、本発明の第八の実施形態としてのエンジンマウント１０８が示されている。本実施形態のエンジンマウント１０８では、独立部材としての撥水部材１１０が、仕切部材１１２における円形凹所４６の底面に重ね合わされて取り付けられている。

　より詳細には、撥水部材１１０は、円板形状を有しており、径方向中央を厚さ方向に貫通する円形の挿通孔１１４が形成されている。また、撥水部材１１０は、フッ素系樹脂によるコーティング等といった表面処理が施されることにより、表面に対して低接着エネルギー面５０が形成されている。

　そして、撥水部材１１０は、図１９，２０に示されているように、仕切部材１１２を構成する上仕切板７６における円形凹所４６の底壁部に重ね合わされており、円形凹所４６の底壁中央から上方に突出する支持突部１１８が挿通孔１１４に挿通されることにより、上仕切板７６の中央上面に固定的に保持されている。これにより、主液室３６の壁内面を構成する円形凹所４６の底壁面において、低接着エネルギー面５０が設けられている。なお、支持突部１１８は、基端部分が先端部分よりも小径とされていると共に、先端部分が上方に向かって次第に小径となるテーパ形状とされており、挿通孔１１４に対して下方から挿通可能とされていると共に、撥水部材１１０の上方への抜けが防止されている。

　このように、低接着エネルギー面を備えた独立部材は、必ずしも周方向に延びる形状に限定されず、取付部位も主液室３６の壁内面であれば周壁には限定されない。なお、撥水部材を支持するための支持突部は、本体ゴム弾性体１６や第一の取付部材１２に一体形成されて、中央凹所２２の上底壁面から突出するように設けられていても良く、撥水部材が本体ゴム弾性体１６に重ね合わされて配置されていても良い。

　図２１には、本発明の第九の実施形態としてのエンジンマウント１２０が示されている。本実施形態のエンジンマウント１２０においては、本体ゴム弾性体１６と仕切部材１２２の間に独立部材としての撥水部材１２４が挟持された構造を有している。

　より詳細には、撥水部材１２４は、略一定断面で周方向に連続する円環板形状を有しており、表面に低接着エネルギー面５０が設けられている。この撥水部材１２４は、図２２に示されているように、円形凹所４６よりも外周側の厚肉部分（上溝４２が形成された外周部分）の上面に重ね合わされている。なお、撥水部材１２４は、仕切部材１２２の上面に対して載置されるだけでも良いが、接着や係止等の手段によって位置決めすれば、後述する本体ゴム弾性体１６の一体加硫成形品への取付け作業が容易になる。

　そして、撥水部材１２４と仕切部材１２２が第二の取付部材１４に挿入されて、仕切部材１２２が第二の取付部材１４に対する八方絞り等の縮径加工によって第二の取付部材１４に固定されると共に、撥水部材１２４の外周部分が本体ゴム弾性体１６の下面と仕切部材１２２の上面との間で全周に亘って挟持される。なお、撥水部材１２４は、本体ゴム弾性体１６と仕切部材１２２の間で挟持された状態において、内周部分が中央凹所２２の開口部上に突出しており、内周部分が主液室３６の壁内面上に配置されることから、低接着エネルギー面５０が撥水部材１２４の配設によって主液室３６の壁内面に設けられている。

　このように撥水部材１２４が本体ゴム弾性体１６と仕切部材１２２の間に挟持された構造を有するエンジンマウント１２０においても、第一の実施形態に係るエンジンマウント１０と同様に、キャビテーション異音の低減を簡便に実現することができる。しかも、撥水部材１２４がより安定して所定の位置に保持されることから、撥水部材１２４の位置ずれや脱落による防振特性や異音低減効果への悪影響が防止されて、安定した性能を得ることができる。

　因みに、本発明の効果を確認するために、第一の実施形態に従う構造とされたエンジンマウント１０を製作し、かかるエンジンマウント１０を、図２３に示されている如き試験装置１２６にセットして防振特性を実測した。かかる試験装置１２６は、ベース部材１２８と加振具１３０との間にエンジンマウント１０をセットして、エンジンマウント１０を介して加振具１３０からベース部材１２８に伝達される伝達荷重を荷重センサ１３２で検出するようになっている。なお、荷重センサ１３２による検出信号は、ハイパスフィルタ（５００Ｈｚ）を通して対象振動数域の振動荷重を検出した。また、かかる実験に際しては、主液室３６内に圧力センサを設置して、加振具１３０の加振変位に対する伝達荷重の変化と併せて主液室３６内の圧力変化も実測した。得られた結果を、以下［表１］に示すと共に、［表１］中の実施例７と比較例１における測定結果を図２４，２５に併せ示す。なお、［表１］中の比較例１～３では、比較対象として低接着エネルギー面を設けていないエンジンマウントを採用している。また、［表１］中の「主液室を構成する構造部材の対水接触角（°）」の段におけるそれぞれの括弧内は、実施例１～９では、低接着エネルギー面を与えるコーティング層の材質を示すものであり、比較例１～３では、仕切部材（上仕切板）の材質を示すものである。更に、比較例１，３の上仕切板の材質であるＰＰＳは、熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイド樹脂を示しており、比較例２の上仕切板の材質であるＡ６０６１は添加元素としてシリコンおよびマグネシウムを含むアルミニウム合金を示している。

　これらの測定結果から、本発明に従って常温常圧下で０．０３容積％以上の溶存ガスを含有させた封入流体を用いると共に、対水接触角を９０度以上とする低接着エネルギー面を主液室に設けることにより、過大な振動荷重の入力時における主液室の圧力低下を軽減することが出来て、衝撃荷重による異音等の発生が抑えられることがわかる。なお、実施例５，９で採用した、封入流体中で溶存ガスを発生する塩化アンモニウムの粉末の量（重量％）は、気体の容積％に換算すると、何れも、２３０容積％となる。また、このような測定結果を含めて更なる検討を加えた結果、本発明においては、溶存気体量を１００容積％以上にすることが望ましく、それによって、キャビテーションに起因する伝達荷重を、従来構造品に比して３割以下に抑えることが可能となる。

　以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記第一～第五の実施形態では、周方向において低接着エネルギー面５０が全周に亘って形成されていたが、周方向の複数箇所において形成される態様が採用されても良い。また、前記第六～第九の実施形態では、低接着エネルギー面５０を備えた独立部材が１つだけ配設された構造が例示されているが、互いに独立した複数の独立部材が主液室３６の壁内面に配設されて、複数の低接着エネルギー面が主液室の壁内面に設けられていても良い。

　また、低接着エネルギー面は、主液室３６に晒される面において、任意の位置や形状、大きさで形成することが可能であり、例えば、独立部材がオリフィス通路４０に入り込むように配設されて、低接着エネルギー面がオリフィス通路４０の内面にまで広がっていても良い。

　さらに、独立部材を採用する場合には、例えば、仕切部材の径方向中間部分において主液室３６に向かって突出する突部を形成して、その突部に低接着エネルギー面を備えた環状の独立部材を外嵌することで、主液室３６の壁内面に低接着エネルギー面を設けることも可能である。

　また、独立部材の表面に低接着エネルギー面が形成される場合には、独立部材の表面全体に設けられていても良いが、主液室３６に晒される面だけに設けられる等、独立部材の表面に対して部分的に設けられていても良い。

　本発明の適用範囲は、必ずしもエンジンマウントに限定されず、ボデーマウントやサブフレームマウント、デフマウント等、各種の流体封入式防振装置に適用され得る。また、本発明は自動車に用いられる流体封入式防振装置に限定されず、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両等に用いられる流体封入式防振装置にも好適に適用可能である。

１０，５４，６０，６８，７２，１０２，１０８，１２０：エンジンマウント（流体封入式防振装置）、１２：第一の取付部材、１４：第二の取付部材、１６：本体ゴム弾性体、３０，６２，７４，９４，１０６，１１２，１２２：仕切部材、３６：主液室、３８：副液室、４０：オリフィス通路、４６：円形凹所、４８：開口部、５０，６６：低接着エネルギー面、５２：気泡、５６：カップ状凹凸、５８：中央凹所、６４：凹所、７０：ガス混入用複合体、８８，９８，１０４，１１０，１２４：撥水部材（独立部材）、９０，９６：係止突起、９２：係止孔、１００：係止凹部

Claims (21)

1. 　振動入力時に本体ゴム弾性体の変形に基づいて圧力変動が惹起される主液室と、振動入力時に該主液室との間で相対的な圧力変動が生ぜしめられる副液室と、それら主液室と副液室との間での封入流体の流動を許容するオリフィス通路とを、備えた流体封入式防振装置において、
   　前記封入流体には、常温で大気圧の環境下において０．０３容積％以上の溶存ガスが含有されていると共に、
   　対水接触角が９０度以上とされた低接着エネルギー面が、前記主液室の内面に設けられていることを特徴とする流体封入式防振装置。
2. 　前記封入流体における前記溶存ガスの含有量が、常温で大気圧の環境下において６１２００容積％以下である請求項１に記載の流体封入式防振装置。
3. 　前記低接着エネルギー面が、前記主液室を構成する構造部材の表面に直接に設けられている請求項１又は２に記載の流体封入式防振装置。
4. 　対水接触角が９０度以上とされた低接着エネルギー面を表面に備えた独立部材が、前記主液室を構成する構造部材の表面に取り付けられることにより、前記低接着エネルギー面が設けられている請求項１又は２に記載の流体封入式防振装置。
5. 　前記独立部材が周方向に延びており、該独立部材が前記主液室に設けられた周壁の内面に重ね合わされて取り付けられている請求項４に記載の流体封入式防振装置。
6. 　前記独立部材が周方向に延びるように弾性的に湾曲変形された状態で前記主液室に収容されており、該独立部材がそれ自体の弾性によって該主液室に設けられた周壁の内面に押し当てられて取り付けられている請求項５に記載の流体封入式防振装置。
7. 　前記独立部材が環状とされており、該独立部材が前記主液室に設けられた周壁の内面に嵌入されて取り付けられている請求項５に記載の流体封入式防振装置。
8. 　前記主液室を構成する構造部材の表面に対する前記独立部材の相対変位を制限する位置決め手段が設けられている請求項４～７の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
9. 　前記低接着エネルギー面が、前記主液室の封入流体に晒される部材の表面に設けられた表面処理層によって形成されている請求項１～８の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
10. 　振動伝達系を構成する各一方の部材に取り付けられる第一の取付部材および第二の取付部材を前記本体ゴム弾性体で連結せしめて、該第二の取付部材で支持された仕切部材の一方の側に該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成された前記主液室を形成すると共に、該仕切部材の他方の側に前記副液室を形成し、更に、該仕切部材における該主液室側の面において前記低接着エネルギー面を設けた請求項１～９の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
11. 　前記構造部材としての前記仕切部材における前記主液室の前記封入流体に晒される面と、該仕切部材に取り付けられる別部材における該主液室の前記封入流体に晒される面との、少なくとも一方に対して前記低接着エネルギー面を設けた請求項１０に記載の流体封入式防振装置。
12. 　前記低接着エネルギー面が形成される前記仕切部材または前記別部材が熱可塑性の合成樹脂で形成されている請求項１１に記載の流体封入式防振装置。
13. 　前記低接着エネルギー面が、前記オリフィス通路の前記主液室への開口部から離れた位置に設けられている請求項１～１２の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
14. 　前記主液室の内面に凹凸を有する流体滞留領域が設けられており、該流体滞留領域の内面に前記低接着エネルギー面が形成されている請求項１～１３の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
15. 　前記主液室に開口する凹所形状をもって前記流体滞留領域が形成されている請求項１４に記載の流体封入式防振装置。
16. 　前記封入流体に晒されることでガス化する粉状体が該封入流体の収容領域に封入されており、該粉状体がガス化したものが前記溶存ガスとされている請求項１～１５の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
17. 　前記粉状体からなる分散質が、前記封入流体中で溶融する固体状又はゲル状の分散媒で該分散質の表面を被覆することによって構成されたガス混入用複合体として、前記封入流体の収容領域に封入されている請求項１６に記載の流体封入式防振装置。
18. 　前記固体状又はゲル状の分散媒が、ゼラチンとペクチンと寒天の何れかである請求項１７に記載の流体封入式防振装置。
19. 　前記粉状体からなる分散質が、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウムの少なくとも一つを含む請求項１６～１８の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
20. 　前記低接着エネルギー面において、前記主液室の圧力低下によるエアレーションで現出する気泡における前記封入流体中での対気泡接触角が９０度以上とされている請求項１～１９の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
21. 　振動入力時に本体ゴム弾性体の変形に基づいて圧力変動が惹起される主液室と、振動入力時に該主液室との間で相対的な圧力変動が生ぜしめられる副液室と、それら主液室と副液室との間での封入流体の流動を許容するオリフィス通路とを、備えた流体封入式防振装置の製造方法であって、
    　前記主液室において該封入流体に晒される面の少なくとも一部において、対水接触角が９０度以上とされた低接着エネルギー面を設ける工程を含むと共に、
    　前記封入流体に晒されることでガス化する粉状体からなる分散質の表面が前記封入流体中で溶融する固体状又はゲル状の分散媒で被覆されてなるガス混入用複合体を準備する工程と、
    　該ガス混入用複合体を前記封入流体の収容領域に収容せしめると共に該収容領域に該封入流体を充填する工程と
    を、含み、
    　該収容領域に充填された該封入流体内で該粉状体がガス化したものを該封入流体の溶存ガスとして０．０３容積％以上の濃度で含有せしめることを特徴とする流体封入式防振装置の製造方法。

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