癌の治療における抗モータリン 2抗体と機能性核酸の使用
技術分野
[0001] 本発明は、モータリン 2 (mot- 2)に結合する抗体を用いた癌の治療と機能性核酸に 関する。
背景技術
[0002] 細胞分裂の制御や不死化の機構の解明は、バイオテクノロジーの進歩及び癌の治 療において重要である。正常な細胞の細胞分裂の回数は有限であり、最後には分裂 的老化 (replicative senescence)と呼ばれる永久の増殖停止である代謝的に活性な 状態に至る(非特許文献 33)。ところが、何らかの機構により遺伝的あるいは後成的 な変化が誘発されると、細胞はこの分裂能の限界力 逃れて培養中で永久に分裂し 続けることができるようになる。これが、細胞の「不死化」とよばれる状態である。極ま れにではあるが、細胞は自然発生的に不死化することもある。細胞分裂の開始と停 止が分子レベルでどのように調節されているの力、現在、完全には解明されていない 。例えば、ウィルス性の癌遺伝子の発現の結果、細胞の寿命が伸び、その後細胞は「 危機 (crisis)」と呼ばれるステージに入る。「危機」を逃れることのできる細胞は僅かで あり(10_6から 10_9の頻度)、大抵は不死化されてしまう。細胞の不死化や悪性変異 、腫瘍の成長や発達における分子レベルの事象は未だ明確になっていない。テロメ ラーゼをはじめとする細胞内因子に関する研究が注目されている力 テロメラーゼ非 依存性のテロメァの維持を伴う不死化、さらにはテロメァとは無関係な何らかの老化メ 力-ズムの存在及びテロメラーゼ活性に依存しな ヽ遺伝子や経路の役割につ 、ても 多くの研究が示唆して 、る(非特許文献 34— 38)。
[0003] モータリンは、細胞内情報伝達や細胞分化、細胞分裂の制御等様々な細胞内機 能に関与するタンパク質である。モータリンは、マウス由来の正常な繊維芽細胞の細 胞質画分に存在する hsp70ファミリータンパク質の一つとして、先ず遺伝子が単離さ れ (非特許文献 1)、続いて、不死化繊維芽細胞の細胞質画分にはこのタンパク質が 存在しないことが明らかにされた。正常な繊維芽細胞力 単離したモータリンの全長
タンパク質に対して抗体を作成し (非特許文献 1)、その抗体を用いて免疫蛍光染色 を行うと、正常細胞では細胞質が染色された。これに対して、不死化細胞では、核周 辺部が染色された (非特許文献 2)。
そして、マウス不死化細胞の cDNAの免疫クローニングと、正常細胞から単離された 配列との比較により、カルボキシル末端のアミノ酸 2残基だけ異なるタンパク質をコー ドする 2つのモータリン遺伝子 (mot-1及び mot-2)の存在が明ら力となった (非特許文 献 3)。 mot-1 (モータリン 1)は正常細胞、 mot-2 (モータリン 2)は不死化細胞に存在し 、モータリンタンパク質の特徴的な局在に関与して 、る。
[0004] NIH 3T3細胞を用いた研究により、これら 2つの遺伝子の cDNAが対照的な生物学 的活性を生じることが示された。 mot-1 (モータリン 1)の発現は細胞老化様の表現型 を引き起こした。一方、 mot-2 (モータリン 2)の過剰発現は悪性変異を引き起こすこと 1S ヌードマウスアツセィにより明ら力となった (非特許文献 4)。
モータリンについての研究の初期には、 mot-1と mot-2が 2つの別の遺伝子なのか あるいは対立遺伝子なのかは明らかではな力 た (非特許文献 5、 6)。最終的な答え は、マウスの家系調査力 得られ、 2世代における 2つの遺伝子座の分離が示された ことから、 mot-1と mot-2はマウスにおいて同座の対立遺伝子であることが示された( 非特許文献 7)。
[0005] モータリン 2はまた、 PBP74 (非特許文献 8)、 mtHSP70 (非特許文献 9)、 GRP75 (非 特許文献 10)としても同定された。モータリン 2はストレス応答 (非特許文献 10— 15) 、細胞内輸送 (非特許文献 11)、抗原プロセッシング (非特許文献 8)、細胞増殖の制 御 (非特許文献 3、 4、 12)、 in vivo腎毒性の調節 (非特許文献 13、 14)、分化 (非特 許文献 15)、腫瘍形成 (非特許文献 4、 16)などの多岐にわたる機能における関与が 指摘されている。
特に、モータリン 2は腫瘍サブレッサータンパクである p53に結合してその転写活性 機能を不活性ィ匕することが示された (非特許文献 17)。このような p53の不活性化が、 NIH 3T3細胞の悪性変異 (非特許文献 4)や正常ヒト繊維芽細胞の寿命延長の原因 の一部であると考えられている(非特許文献 18)。モータリン 2がテロメラーゼと協力し てヒト包皮繊維芽細胞を不死化させることも示されている(非特許文献 19)。
[0006] マウス細胞とは対照的に、ヒト細胞には一種類のモータリンしかなぐそれはマウス モータリン 2 (mot-2)に類似の活性を有しているため hmot-2と呼ばれる(非特許文献 4)。マウス及びヒトの両方で、モータリンは複数の細胞内部位に配置されているため 、モータリンタンパク質の細胞内分布の局在化を司る少なくとも 2つのメカニズムの存 在が示唆されて 、る (非特許文献 20)。第一のメカニズムは相異なる cDNAの存在に よるものであり、マウスにおいて見出されている 2つの対立遺伝子である mot-1及び m ot—2による。
[0007] 第二のメカニズムは、マウス及びヒトの両方に見出される未だ不明のタンパク質修飾 か細胞因子によるものであろうと推測される。
抗体を用 Vヽた染色によりモータリンを検出すると、正常細胞では細胞質全体に分布 し、不死化細胞と腫瘍細胞では細胞核の周りに集まって存在して!/ヽることがヒト及び マウスで共通して確認された。ヒトの in vitro変異腫瘍由来細胞は非細胞質全体型の モータリン染色のパターンを示すのに対し、正常細胞は細胞質全体型の染色パター ンを示す (非特許文献 21)。 SUSM1細胞にクロモソーム 7を導入することにより細胞老 化を誘導すると、モータリンの染色が非細胞質全体型から細胞質全体型へと変化し た (非特許文献 22)。 5-プロモデォキシゥリジンによる細胞老化の誘導でも同様のモ 一タリン染色パターンの転換を示した (非特許文献 12、 23)。ローダシァニン染色剤 処理によってヒト変異細胞が増殖停止した場合にもモータリン染色パターンの変化が 見られた (非特許文献 24)。これらの研究によりモータリンの細胞内分布が細胞分裂 ヽての表現型と関連することが示された。
[0008] モータリンの発現レベルが筋肉やミトコンドリアの活性及び分ィ匕と相関することを示 す研究結果もある(非特許文献 25、 26)。例えば、ヒトの変異細胞や腫瘍細胞株がモ 一タリンの発現のアップレギュレーションを示すのに対し (4)、 HL-60前骨髄白血球 細胞の分ィ匕誘導中にはモータリンの発現レベルが減少しており(15)、一方、モータ リンの過剰発現した細胞は分化の誘導が顕著に減退して!/、た (非特許文献 15)。
[0009] Ssclpは酵母におけるモータリンの相同体である。 Ssclpは細胞生存能に必須であり
(非特許文献 27)、特にミトコンドリア輸送において不可欠な機能を担っている(非特 許文献 28)。 Ssclpは内部ミトコンドリア膜アンカーである Tim-44に結合する、ミトコン
ドリア輸送装置の必須構成要素である(非特許文献 29、 30)。 Tim-44に変異が起こ つて mtsp70/Ssclの動員が不十分となるは、酵母 Saccharomyces cerevisiaeにおいて 致死的である (非特許文献 28)。酵母での研究から、モータリンに関して少なくとも 3 種類の活性が推定されている。これらに含まれるのは、(0ミトコンドリア外側のタンパク 質のアンフォールデイング、 GO膜電位 M Δ Ψによって開始される一方向のミトコンドリ ァ膜透過輸送、(iii)ATP駆動モーターとして作用して移入を完了させることである。モ 一タリンは、誤ってフォールディングされたペプチドの m-AAA及び PIM1プロテアーゼ によるミトコンドリア内での分解にも必要とされる。モータリンがミトコンドリア内で mtHS P60及び CPN10シャペロンと協力して、移入されたタンパク質をフォールデイングして 機能的に有用な形態にすること、そして mtHSP60のミトコンドリア外の場所での未知の 役割に関与することも示唆されている(非特許文献 31、 32)。これらの報告から、モー タリンの機能のうち、腫瘍サブレッサー p53の不活性化に加えて、ミトコンドリア輸送装 置及びシャぺ口ニンとしての機能も細胞分裂の表現型に寄与することが想像される。 モータリンは細胞内の異なる部位で分裂を制御する多様な機能を担うタンパク質で あると考えられている。
[0010] 細胞分裂、不死化、転移などに関係する癌細胞に特徴的な分子を標的とした、正 常細胞への副作用が少ない新規な抗癌剤が待望されている。また、抗癌剤のような 、正常細胞も殺してしまうような作用の強い薬剤において、患部の癌細胞だけに輸送 され、患部の癌細胞だけを攻撃するような性質を薬剤に持たせることにより、正常細 胞の破壊による副作用を防ぐことができるターゲット療法の開発も待望されている。 このような目的にかなう新しい抗癌剤として、有望なのが抗体医薬である。抗体医薬 は、患部の殺した 、癌細胞だけをその細胞の抗原タンパク質に対応する抗体で狙 ヽ 撃ちできる。また、目的とする抗原に対して薬剤を送り込むというターゲット療法にお ける利用も可能であり、高い治療効果が期待される。
[0011] 特許文献 1 :特開 2001— 354564号公報
特許文献 2:特願平 11 272778号
特許文献 3:特願平 11― 357545号
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発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0012] 本発明は、癌の治療のための新たな手段を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0013] 本発明者らは、モータリンが癌の治療において有用なターゲットとなることを見出し 、これにより癌の治療のための新たな手段を提供するという課題を解決した。また、モ 一タリンに対する抗体に、癌細胞選択的な細胞内内在化機能を有するものが存在す ることを見出し、このような抗体の癌の治療及びその他の用途への適用させる手段を 考案した。
[0014] 詳細には、以下の通りである。
モータリンの癌の治療におけるターゲットとしての有用性という観点から、
(1)モータリンは癌の治療において有用なターゲットであり、 1)モータリン 2タンパク 質の発現抑制や中和が癌の治療法に有用であることから、ァ)抗モータリン 2抗体で モータリン 2タンパク質を中和する、ィ)機能性核酸 (siRNA、 shRNA、など)を用いてモ 一タリン 2タンパク質の発現を抑制する、ための手段を提供する。また、 2)モータリン 2タンパク質を利用した抗癌性物質のスクリーニングができる。さらに、 3)正常細胞と 癌細胞でモータリン 2タンパク質の局在が異なることから、抗モータリン 2抗体を用い た時の染色パターンの違いから正常細胞と癌細胞の峻別が可能であり、ァ)被験物 質が癌細胞力 正常細胞 ·老化細胞へ誘導する効果を有する力否かの判定に利用 可能 (被験物質のスクリーニング)、及び、ィ)正常細胞と癌細胞を峻別するキットが提 供される。
[0015] (2)抗モータリン 2抗体に癌細胞選択的な細胞内内在化の機能があるものが存在 することから、 1)キャリア一として利用でき、ァ)抗モータリン 2抗体に薬剤を担持させ て用いることができ、具体的には、 a)薬剤として任意の癌遺伝子の発現を抑制する機 能性核酸、 b)薬剤として任意のタンパク質機能を抑制する (低分子)化合物、を担持 させて用いることができる。また、ィ)抗モータリン 2抗体に蛍光物質等をつけて用いる こともでき、 a)癌細胞のライブイメージ化に利用できる。さら〖こ、 2) IL-lRtypelを発現 抑制ないし中和すると抗モータリン 2抗体の内在化機能が促進されること、も有用であ る。
[0016] また、本発明の別の側面として、モータリンに対する抗体 (抗モータリン 2抗体)及び その用途という観点からは以下のようになる。特に内在化機能を有する抗体は、抗モ 一タリン 2抗体を生細胞 (ライブセル)に内在化させることによる様々な用途、例えば、 癌細胞に対する薬剤キャリアーとしての利用、癌細胞のライブイメージィ匕の際のキヤリ ァ一としての利用が可能である。あるいは、内在化機能があってもなくてもよいが、モ 一タリンに特異的に結合させることによる様々な用途、例えば、固定した細胞に対し て抗モータリン 2抗体で免疫染色した時に正常細胞と癌細胞で染色パターンが異な ることを禾 IJ用することができる。
[0017] 本発明者らはモータリン遺伝子の発現レベルが、臨床由来の腫瘍組織及び腫瘍細 胞株の大部分にぉ 、てアップレギュレートされて 、ること、全長モータリン 2タンパク
質に対する抗体を使用して腫瘍の成長を抑制できること、そしてこの抗体が細胞に内 在化されることを発見して本発明を完成した。
[0018] すなわち、本発明は、モータリン 2を中和する物質を有効成分として含む抗癌剤を 提供する。さらに本発明は、モータリン 2を中和する物質として、モータリン 2に結合す る抗体を有効成分として含む抗癌剤を提供する。ここで、モータリン 2に結合する抗 体は、モータリン 2の全長タンパク質に対する抗体であっても、 5個以上のアミノ酸か らなるモータリン 2の部分ペプチドに対する抗体であってもよい。また、モータリン 2に 結合する抗体は、細胞内に取り込まれてモータリン 2に結合する抗体であってもよい
[0019] 本発明はまた、上記モータリン 2を中和する物質として、モータリン 2遺伝子の転写 領域、プロモーター領域を含む、任意の部位を標的とする機能性核酸、及びかかる 機能性核酸を有効成分として含む抗癌剤を提供する。このような機能性核酸は、 siR NA、二本鎖 RNA、または、修飾された RNA鎖を少なくとも片方の鎖に含む siRNAまた は二本鎖 RNAの!、ずれであってもよ!/、。
[0020] さらに、本発明は、モータリンを用いて被験物質の抗癌活性を評価する方法であり 、以下の(a)〜(c)の 、ずれかの工程を含むものを提供する:
(a) モータリン 2タンパク質と被験物質を接触させ、接触の強度により評価する工程;
(b) モータリン 2遺伝子を発現させた細胞またはその細胞破砕液を、被験物質に接 触させ、接触の強度により評価する工程;
(c) モータリン 2遺伝子のプロモーターの下流にレポーター遺伝子をつないだ DNAを 有する細胞、および細胞破砕液を、被験物質に接触させ、レポーター遺伝子の発現 を指標として評価する工程。
[0021] さらに、本発明は、モータリンを中和する物質と医薬上許容される担体とを混合する 工程を含む、抗癌活性を有する医薬組成物の製造方法を提供する。この製造方法 の一態様において、モータリンを中和する物質は、モータリン 2に結合する抗体であ る。モータリン 2に結合する抗体は、モータリン 2の全長タンパク質に対する抗体であ つても、 5個以上のアミノ酸力 なるモータリン 2の部分ペプチドに対する抗体であつ てもよい。また、モータリン 2に結合する抗体は、細胞内に取り込まれてモータリン 2に
結合する抗体であってもよい。別の態様において、モータリン 2を中和する物質は、 モータリン 2遺伝子の転写領域、プロモーター領域を含む、任意の部位を標的とする 機能性核酸でありうる。このような機能性核酸は、 siRNA、二本鎖 RNA、または、修飾 された RNA鎖を少なくとも片方の鎖に含む siRNAまたは二本鎖 RNAのいずれであつ てもよい。
[0022] さらに、本発明は、上述のモータリンを用いて抗癌活性を評価する方法によって抗 癌活性を有すると評価された物質と医薬上許容される担体とを混合する工程を含む 、抗癌活性を有する医薬組成物の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、免疫毒及びペプチド、ヌクレオチド、有機分子その他の小分子 の細胞内へのキャリアとしての、抗モータリン 2抗体およびモータリン 2結合物質の使 用を提供する。
[0023] さらに、本発明は以下の人工抗体及び複合体を提供する:
抗モータリン 2抗体の抗原認識部位及び抗原認識部位を含むペプチドの単量体、 もしくはその単量体を化学的及び遺伝子工学的手法により二量体及び三量体を含 む多量体化した人工抗体;
抗モータリン 2抗体の抗原認識部位及び抗原認識部位を含むペプチドをィ匕学的及 び遺伝子工学的手法により他の抗体、抗体の一部、または他のタンパク質等との複 合体として提供されるキメラ人工抗体;
抗モータリン 2抗体の抗原認識部位及び抗原認識部位を含むペプチドを PEG (ポリ エチレングリコール)及びリボソームなどの細胞内への薬物導入物質、及び、放射性 物質、毒素、抗癌剤などの小分子に結合させた複合体。
[0024] さらに、以下の発明も本願の範囲に入る。
以下の(a)〜(d)の 、ずれ力から選択される、生細胞に内在化される抗モータリン 2 抗体:
(a)全長モータリン 2タンパク質を抗原として作製されたポリクローナル抗体
(b) 5個以上のアミノ酸力もなるモータリン 2タンパク質の部分ペプチドを抗原として作 製されたポリクローナル抗体
(c)全長モータリン 2タンパク質を抗原として作製されたモノクローナル抗体、又は
(d) 5個以上のアミノ酸力もなるモータリン 2タンパク質の部分ペプチドを抗原として作 製されたモノクローナル抗体
であって、且つ、以下の(1)〜(3)の基準を満たす抗モータリン 2抗体:
(1)ウェスタン .ブロッテイング法の解析によりモータリン 2への反応性と特異性を有す ること、
(2)正常細胞は細胞質全体が染色され、癌細胞では核膜周辺が染色される免疫染 色のパターンがみられること、及び
(3)細胞内へ内在化されること。
このような抗体を「内在化機能を有する抗モータリン 2抗体」と称する。
[0025] また、別途、内在化機能を有して!/、ても!、なくてもよ!、が、モータリン 2タンパク質の 部分ペプチド又は全長ペプチドを抗原として作成され、モータリン 2タンパク質に特 異的に結合するような抗体を、「モータリン 2に特異的に結合する抗体」と称する。
[0026] これらの抗体を用いて以下の発明を提供する。
「内在化機能を有する抗モータリン 2抗体」を有効成分として含む抗癌剤。
「内在化機能を有する抗モータリン 2抗体」を小分子のキャリアとして使用することを 特徴とする、小分子を細胞内へ移行させる方法。
「内在化機能を有する抗モータリン 2抗体」の生細胞への内在化を促進する方法で あって、 IL— lR'typelを発現抑制あるいは中和する工程を含むことを特徴とする方 法。
上記方法中、 IL lR'typelを発現抑制あるいは中和する工程において、 shRNA を使用して IL lR'typelを発現抑制することを特徴とする方法。
[0027] 具体的には、 shRNAは以下(ァ)または (ィ)であることができるが、これらに限定さ れない。
(ァ) shRNAのターゲットサイトの配列:
5' -AC A AGC CUC CAG GAU UCA U- 3'
該ターゲットサイト 1)に対応する shRNAの配列:
5' -AC A AGU CUC UAG GAU UCA UGU GUG CUG UCC AUG AAU CCU GGA GGC UUG UUU-3';又は
(ィ) shRNAのターゲットサイトの配列:
5, - GCC UCC AGG AUU CAU CAA C- 3'
該ターゲットサイト 1)に対応する shRNAの配列:
5, - GCU UUC AGG AUU CAU CAA CGU GUG CUG UCC GUU GAU GAA UCC UGG AGG CUU-3' ο
[0028] 「内在化機能を有する抗モータリン 2抗体」及び抗癌活性を有する物質を組合わせ てなる、抗癌活性を有する物質のキャリア一として抗モータリン 2抗体を使用すること を特徴とする、癌のターゲット療法用キット。
上記の癌のターゲット療法用キットにおいて、さらに、アンチセンスヌクレオチド、 siR NA、 shRNA、 miRNA、二本鎖 RNA、リボザィム、抗体、及びアンタゴ-ストからな る群から選択される、 IL— lR'typelを発現抑制あるいは中和する物質を組合わせて なるキット。
[0029] 「内在化機能を有する抗モータリン 2抗体」及び癌細胞をライブイメージ化するため に可視化せしめる非蛍光物質又は蛍光物質を組合わせてなる、癌細胞のライブィメ 一シ用3 rット。
上記の癌細胞のライブイメージ用キットにおいて、さらに、アンチセンスヌクレオチド 、 siRNA、 shRNA、 miRNA、二本鎖 RNA、リボザィム、抗体、及びアンタゴ-ストか らなる群力も選択される、 IL— lR'typelを発現抑制あるいは中和する物質を組合わ せてなるキット。
[0030] 「内在化機能を有する抗モータリン 2抗体」を含む、癌の転移治療のための薬剤。
「モータリン 2に特異的に結合する抗体」を用いて免疫染色を行うことを特徴とする、 正常細胞と癌細胞を峻別して、癌細胞集団中にある老化細胞又は正常化細胞を検 出する、又は老化細胞又は正常化細胞集団中にある癌細胞を検出する方法。
[0031] 「モータリン 2に特異的に結合する抗体」、免疫染色に必要な試薬、及び説明書を 含む、キットであって、正常細胞と癌細胞を峻別して、癌細胞集団中にある老化細胞 又は正常化細胞を検出する、又は老化細胞又は正常化細胞集団中にある癌細胞を 検出するために使用可能なキット。
[0032] 「内在化機能を有する抗モータリン 2抗体」を用 、て癌細胞をライブイメージ化する
ことを特徴とする、正常細胞と癌細胞を峻別して、癌細胞集団中にある老化細胞又 は正常化細胞を検出する、又は老化細胞又は正常化細胞集団中にある癌細胞を検 出する方法。
「内在化機能を有する抗モータリン抗体」、ライブイメージィ匕に必要な試薬、及び説 明書を含む、キットであって、正常細胞と癌細胞を峻別して、癌細胞集団中にある老 化細胞又は正常化細胞を検出する、又は老化細胞又は正常化細胞集団中にある癌 細胞を検出するために使用可能なキット。
[0033] 被検物質を癌細胞と接触させ、癌細胞を「モータリン 2に特異的に結合する抗体」を 用いて免疫染色を行い、そして、その免疫染色パターンを観察することによる、癌細 胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質のスクリーニング方法であって、当該 免疫染色パターンが老化細胞又は正常化細胞に特有のパターンである場合に披検 物質が癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質であるとする、スクリー二 ング方法。
「モータリン 2に特異的に結合する抗体」、免疫染色に必要な試薬、及び説明書を 含む、癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質のスクリーニングのために 使用可能なキット。
[0034] 被検物質を癌細胞と接触させ、癌細胞を「内在化機能を有する抗モータリン 2抗体」 を用いてライブイメージィ匕を行い、そして、そのライブイメージパターンを観察すること による、癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質のスクリ一二ング方法で あって、当該ライブイメージパターンが老化細胞又は正常化細胞に特有のパターン である場合に披検物質が癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質である とする、スクリーニング方法。
「内在化機能を有する抗モータリン 2抗体」、ライブイメージィ匕に必要な試薬、及び 説明書を含む、癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する物質のスクリーニング のために使用可能なキット。
発明の効果
[0035] モータリンが癌治療の標的となることが示された。本発明により、新規で有効な抗癌 剤が提供される。また、細胞に内在化される抗モータリン抗体を開発した。これを用い
た様々な用途を提供する。
図面の簡単な説明
[図 1]各種の腫瘍組織 (Tumor)及び対照としてマッチさせた正常組織 (Normal)にお けるモータリン遺伝子の発現を分析した、 2 gのポリ ARNAを含むドットブロットの結 果である。 (実施例 1)
[図 2]各種の腫瘍組織 (T)及びマッチさせた正常組織 (N)におけるモータリン遺伝子 の発現を分析した、各レーン中に 2 gのポリ ARNAを含むドットブロットの結果である 。 (実施例 1)
[図 3]各種の腫瘍組織 (T)及び対照としてマッチさせた正常組織 (N)におけるモータ リン遺伝子の発現を分析した、モータリン (mortalin)に特異的なポリクローナル抗体を 用いたウェスタンブロットの結果である。ローデイング量コントロールのためにァクチン (Actin)を使用している。(実施例 1)
[図 4]正常な包皮繊維芽細胞(HFF5、レーン 1)、結腸癌細胞(SW480、 SW116、 SW6 20、 KM125M, HT29、 LOVO、 HCT116、 LS174Tp4、 LIM1215, LISP— 1、 LIM2099p4、 LS513、 COLO- 16、レーン2—14)、前立腺癌細胞(011145、 PC3、 CaoV- 3、 LNCaP 、レーン 15— 18)におけるモータリンの発現を調べた結果である。(実施例 1)
[図 5]正常な包皮繊維芽細胞 (HFF5、レーン 1)、正常な肺繊維芽細胞 (MRC5p21、 レーン 2)、乳癌細胞(MDA- MB- 415、 MDA- MB- 157、 MDA- MB- 436、 MDA- MB- 13 4V、 MDCT、 MDA- MB361、レーン 3— 8)におけるモータリンの発現を調べた結果で ある。(実施例 1)
[図 6]正常な肺繊維芽細胞 (MRC5)、 SV40で形質転換された細胞 (MRC5-SV2及び U87MG)、骨癌(U20S)、卵巣癌(C33A及びヒーラ細胞)、乳癌 (MCF7)及び、神経 グリア芽腫 (A172、 U138MG、 DBTRG、 U118MG、 U87MG)におけるモータリンの発現 を調べた結果である。 (実施例 1)
[図 7]ヒト胚性繊維芽細胞 (WI-38)及びこれに由来する不死化細胞 (WB_1、 WB-6, WB- 7、 WB-11)についての、モータリン、 p53、 mdm2、 p21、 pRb、 E6E7のウェスタンブ ロットの結果である。 MRC5細胞は正常なヒト肺繊維芽細胞である。(実施例 2)
[図 8]WB-1及び WB-6細胞の増殖の特徴を示す写真であり、 WB-6が高密度で増殖
していることがわかる。(実施例 2)
[図 9]正常な皮膚繊維芽細胞 (MJ90)及びこれに由来する不死化細胞 (MJT-6)及び 各種サブクローン(MJT- 61〜66)のウェスタンブロットの結果である。 MRC5細胞は正 常なヒト肺繊維芽細胞である。(実施例 2)
[図 10]MJ90及び MJ90由来のクローンのフィンガープリントである。 (実施例 2)
[図 11]モータリン K抗体による正常 (WI-38)及び腫瘍細胞(U20S、 Saos-2)由来のヒ ト細胞のウェスタンプロットの結果である。(実施例 3)
[図 12]モータリン K抗体(Mortalin-K antibody)によるモータリンの免疫沈降の結果で ある。 U20S細胞はモータリン V5 (Mortalin- V5)タンパクをコードする発現プラスミドで トランスフエタトした。 V5タグ付タンパクのモータリン K抗体による免疫沈降反応を抗 V 5タグ抗体によりウェスタンブロット (Western withanti-V5 Ab)で検出した。(実施例 3) [図 13]正常(Normal cells: TIG- 1)及び腫瘍(Cancer cells:U20S)細胞におけるモー タリン K抗体を用いたモータリンの免疫染色である。細胞をメタノール 酢酸(1: 1)で 固定し、モータリン K抗体で染色した後、抗ゥサギ蛍光タグ付二次抗体 (rabbit Alexa 488,Molecular Probes)で検出した。(実施例 3)
[図 14]正常 (TIG-1)及び変異(U20S及び MCF-7)ヒト細胞におけるモータリン K抗体 (mot-KAb)の内在化を示す写真である。(実施例 3)
[図 15]Qdot— K抗体により、 U20S細胞内のモータリンを染色した写真である。(実施 例 3)
[図 16]Qdot—K抗体(KAb— Qdot655conjugate)の細胞内への内在化(下のパネル )を示す。 Qdot 対照抗体(CAb— Qdot655 conjugate) (上のパネル)は細胞内に入 つていない。(実施例 3)
[図 17]モータリン K抗体の注射後(MotK-Ab injection)の HT1080細胞のヌードマウス アツセィの結果を示す写真である。腫瘍芽 (約 6mm)が形成されたときに、対照及び モータリン K抗体を注射し、その後の進行を観察した。 (実施例 4)
[図 18]モータリン K抗体の注射後(Mot K-Ab injection)の HT1080細胞のヌードマウ スアツセィの結果を示す写真である。腫瘍芽 (約 6— 8mm)が形成されたときに、対照 及びモータリン K抗体を注射し、その後の進行を観察した。 (実施例 4)
[図 19]モータリン K抗体の注射後(Mot K-Ab injection)の HT1080細胞のヌードマウ スアツセィの結果を示す写真である。腫瘍にモータリン K抗体を注射した。(実施例 4 )
[図 20]モータリン K抗体(Mot K-Ab)の注射後の HT1080細胞のヌードマウスアツセィ の結果を示す写真である。上側の腫瘍にモータリン K抗体を注射した。(実施例 4)
[図 21]内在化した K-抗体のウェスタン ·ブロッテイング (実施例 5)。
[図 22]インターロイキン- 1レセプタ一'タイプ 1 (IL-lR,typeI)の発現抑制(実施例 6)。
[図 23]shRNAによるインターロイキン- 1レセプタ一'タイプ 1 (IL- lR,typeI)の発現抑制 によって K-抗体の細胞内への内在化が促進されることを示した (実施例 6)。
[図 24]モータリンに対するモノクローナル抗体の作製及び内在化機能をもつ抗モー タリンモノクローナル抗体の選別(実施例 7)。
[図 25]FITC結合 2次抗体を用いた免疫染色により細胞内に内在化するモノクローナ ル抗体を検出した図(実施例 7)。
[図 26]細胞を酸洗浄処理し、抗モータリンモノクローナル抗体が細胞内へ内在化す ることを確認した図(実施例 7)。
[図 27]抗モータリンモノクローナル抗体が癌細胞に選択的に内在化することを示した 図(実施例 8)。
[図 28]抗 IL-lR,typel抗体により抗モータリンモノクローナル抗体(クローン 37— 1、 3 7— 6、 38— 4)の癌細胞内への内在化が促進されることを示した図(実施例 8)。
[図 29]癌細胞(HepG2)において、 IL-lR,typelを発現抑制すると、抗モータリンモノ クローナル抗体の癌細胞内内在化が選択的に促進されることを示した図(実施例 8) 圆 30]癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖 ·転移の関係分析一その 1 (実施例 9)。
圆 31]癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖 ·転移の関係分析一その 2 (実施例 9)。
圆 32]癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖 ·転移の関係分析一その 3 (実施例 9)。
[図 33]癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖 ·転移の関係分析一その 4 (実施例 9)。
[図 34]癌細胞集団中に存在する老化細胞の検出に抗モータリンモノクローナル抗体 を使用することについての図(実施例 10)。
[図 35]老化誘導された癌細胞におけるモータリン染色パターンの変化についての図 (実施例 10)。
[図 36]抗モータリンモノクローナル抗体のライブイメージ(実施例 11)。
発明を実施するための最良の形態
[0037] (1)モータリン 2遺伝子及びタンパク質
本発明において、特に断らない限り、モータリンあるいはモータリン 2とは、マウスモ 一タリン 2 (mot- 2)あるいはヒトモータリン (hmot- 2)を指す。これらを単にモータリンと称 することもある。ヒトモータリンは細胞を悪性変異させると 、うマウスモータリン 2と同様 の機能を有する。マウス及びヒトモータリンの遺伝子及びタンパク質は公知である。マ ウスモータリン(mot- 2)については、 Wadhwa, R" Kaul, S. C, Ikawa, Y" and Sugimot o, Y. (1993) J Biol Chem 268, 6615- 6621. (非特許文献 1)に記載されている。ヒトモ ~~タリン (hmot— 2)につ ヽては、 Bhattacnaryya, T. et al. Cloning and subcellular local ization of human mitochondrial hsp70. J Biol Chem 270, 1705-10 (1995)に記載され て 、る。マウスとヒトのモータリンはタンパク質レベルで 95%以上の高!、相同性を有し ている。
[0038] (2)モータリン 2を中和する物質
モータリン 2を中和する物質とは、モータリン 2の細胞内における機能を阻害しうる任 意の物質を意味する。上述の通り、モータリン 2は細胞内において様々な機能を有す るが、本発明においては、腫瘍サブレッサー p53を不活性ィ匕する機能及び細胞分裂 を制御する機能が特に重要である。モータリン 2の中和は、モータリンタンパク質の果 たす機能の阻害であっても、遺伝子発現の阻害であってもよい。モータリンタンパク 質の果たす機能の阻害は、完全な阻害でも部分的な阻害でもよい。遺伝子発現の 阻害とは、モータリン遺伝子の転写および Zまたは翻訳の阻止である。
本発明者らはモータリン遺伝子の転写及び発現のレベルが、臨床由来の腫瘍組織
及び腫瘍株細胞の大部分においてアップレギュレートされていることを見出した。ま た、モータリン 2に対する抗体を腫瘍に注射すると腫瘍の成長が抑制されることを見 出した。腫瘍細胞においてモータリン 2を中和することにより、モータリン 2の細胞内に おける機能が阻害され、腫瘍細胞の増殖を阻害することができる。
[0039] (3)モータリン 2に結合する抗体
本発明の一態様において、モータリン 2を中和する物質として、モータリン 2に結合 する抗体を用いることができる。本発明で使用する抗体は、マウスあるいはヒトモータ リンの全長タンパク質あるいは部分ペプチドを抗原として、抗体作成のための慣用技 術を用いて、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体として得ることができる。上述の ように、マウスとヒトのモータリンタンパク質は非常に高い相同性を有することから、マ ウスモータリン 2に対して作成した抗体はヒトのモータリンタンパク質を認識し、その逆 も同様である。
抗原としてのモータリンタンパク質としては、マウス細胞から単離されたある ヽは遺 伝子組換えにより生産された全長タンパク質、公知のアミノ酸配列に基き合成された 部分ペプチド等を適宜用いることができる。モノクローナル抗体のみを得る場合には 、必ずしも精製する必要性はないが、ポリクローナル抗体を得る場合は、 HPLC, SDS -PAGEなどの方法により抗原を精製する。
[0040] ポリクローナル抗体は、ゥサギに免疫し、その血液を回収し抗体を作製する技術に より作製できる。ここで言うポリクローナル抗体とは、遠心分離した抗血清 (IgG粗画分 )のことである。この抗血清からさらに抗体のみを精製したい場合には、プロテイン A やプロテイン Gが充填されてある市販のカラムや、抗原であるモータリンタンパク質や ペプチドを適当な担体に結合させたァフニティカラムを用いて精製することができる。 本発明にお 、て「ポリクローナル抗体」と 、う場合は、抗血清 (IgG粗画分)並びに精 製された抗体の両方を含む。
[0041] ポリクローナル抗体は、例えば以下のようにして作製可能である。 1匹のゥサギ当り 抗原 1〜1. 5mgを 4回に分けて免疫する。具体的には、抗原を生理食塩液 (0. 9w Zw%NaCl水溶液)を用いて適当な蛋白質濃度(lmgZml)に調製する。これを完 全フロイントアジュバントと容量 3: 2の比率で混合して油中水型乳剤を作成する。
それぞれの免疫の間隔は、 1週間から 10日間の間隔で行う。ニュージーランドホヮ イトラビット(SPF (special pathogen free) , 12週齢、雌) 2匹に初回免疫として抗原 0. 5mgZrabbit相当量を足躕及び側腹部皮下にそれぞれ注射する。追加免疫は、不 完全フロイントアジュバントを用いて同様に乳剤を作成して抗原 0. 25mgZrabbit相 当量を家兎の背部皮下に数力所に分けて注射する。追加免疫は、 3回実施する。最 終免疫の約 10日後に耳動脈又は頸動脈から無菌的に全採血を行い、遠心分離機 にかけて血漿を分離する。
[0042] 次に、得られた血漿を温浴中で 56°C、 30分間加熱処理し、 2〜15°Cで血漿に 0.
01M PBS (—)緩衝液(0. l%NaNを含む 0. 01Mリン酸緩衝化生理食塩水、 pH
3
7. 4)を等容量加えて希釈する。そこへ、予めアンモニア水で調製した飽和硫酸アン モ -ゥム水溶液 (pH7. 4)を希釈液と等容量加える。これを高速冷却遠心機に掛け た後(4°C、 30分間、 14000rpm ; 1000 X G)、上清を除去する。沈渣に生理食塩液を 加えて完全に溶解させてから、透析又は Sephadex G25Mカラムに掛けて残存する硫 酸アンモ-ゥムを除去する。硫酸アンモ-ゥムの除去の確認は、ネスラー試薬 (ナカ ライテスタ社製)を用いて行う。次に、冷却した清透化剤 (Friegen, Behringwerke; trie hlorotrifluoroethane)を用いて透析内液と等量の清透化剤を混合し、振盪後遠心し、 内液層を分取する。この脱脂操作を 3回繰り返し、 IgG粗画分 (ポリクローナル抗体) を得る。
[0043] 本発明者らはモータリンに結合する 6つの異なるポリクローナル抗体を作成した(5 つは部分ペプチドを抗原とし、 1つは細菌で発現させた全長タンパク質を抗原とした) 。全長タンパク質に対する抗体である K抗体を培養液に加えると生細胞内に取り込ま れること、すなわち生細胞に内在化されることを見出した。また、本発明者らは、モー タリンに対するモノクローナル抗体も作成し、同様に内在化機能を有するものを見出 した。
本発明で用いることのできるモータリンと結合する抗体として、このように生細胞に 内在化されてモータリンと結合する抗体は特に好ましい。このような抗体(内在化機 能を有する抗モータリン 2抗体)は、モータリンを中和するという目的以外にも、腫瘍 細胞内への小分子のキャリアとしても使用することができる。このような抗体をキャリア
として用いることにより、好適には、免疫毒及びペプチド、ヌクレオチド、有機分子そ の他の小分子を腫瘍細胞内へ導入することができる。
[0044] また、本発明者らは、細胞膜表面に存在するレセプタータンパクである IL-lrecepto r (type I)の発現が抑制されると抗体の細胞内内在化が促進されることを見出した。 発明者らは、内在化についての仮説として、以下の理論を構築している。本発明は この理論に拘束されるものではな 、が、発明の理解をより容易にするためにここに記 載する。
癌細胞ではモータリン 2タンパク質が細胞膜表面にも存在して 、る。内在化機能を 有する抗モータリン 2抗体を細胞培養液に入れて細胞培養すると、抗モータリン 2抗 体は細胞膜表面上のモータリン 2タンパク質と結合する。この抗モータリン 2抗体-モ 一タリン 2タンパク質力もなる複合体が細胞膜から細胞内に移行し、結果的に抗モー タリン 2抗体が細胞内に内在化する。
[0045] IL-lreceptor (type 1)は細胞膜表面に存在するレセプタータンパクである。癌細胞 ではモータリン 2タンパク質が細胞膜表面にも存在して 、るが、 IL-1Rとモータリン 2タ ンパク質はその細胞膜表面上で相互作用(結合)する。 IL-1Rに結合しているモータ リン 2タンパク質に、抗モータリン 2抗体は結合できないため、内在化機能を有する抗 モータリン 2抗体は癌細胞内に移行することができない。しかし、 IL-1Rとモータリン 2 タンパク質の相互作用を阻害すると細胞膜表面上のフリーのモータリン 2タンパク質 が増加する(例えば、阻害方法として IL-1Rの発現を抑制(ノックダウン)したり、抗 IL- 1R抗体を培養液に添加して細胞膜上の IL-1Rを中和する、など)。「内在化機能を有 する抗モータリン 2抗体」は、細胞膜上でフリーのモータリン 2タンパク質と結合できる チャンスが増加し、従って、その細胞内内在化が促進される。
[0046] モノクローナル抗体は、均質な抗体を安定に生産できる点で、ポリクローナル抗体 よりも好ましい。モノクローナル抗体は、連続細胞培養系により抗体を産生する任意 の方法で調製できる。これらには下記のものが含まれる力 これらに限定されない:ハ イブリドーマ法(Koehler and Milstein. (1975)Nature, 256, 495— 497)、ヒト B細胞ハ イブリドーマ法(Kosbor et al. (1983) Immunol. Today, 4, 72 ; Cote et al. (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 80, 2026— 2030)、および EBV—ハイブリドーマ法(Col
e et al. (1985) Monoclonal Antibody and Cancer Therapy, Alan R Liss社, p. 77— 96)。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、たとえば、ミルスティンら の方法(Kohler. G. and Milstein, C, Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46 )等に準じ て、以下のようにして作製できる。すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細 胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる 免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリー二 ング法により、モノクローナルな抗体産生細胞 (ノヽイブリドーマ)をスクリーニングする こと〖こよって作製できる。
ハイプリドーマの作製は、また、抗体遺伝子をノヽイブリドーマ力もクローユングし、適 当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生 させた遺伝子組換え型抗体を用いることができる(例えば、 Carl, A. K. Borrebaeck, J ames, W. Larrick, THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。具体的には、 ハイプリドーマの mRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域 (V領域)の cDNAを 合成する。 目的とする抗体の V領域をコードする DNAが得られれば、これを所望の 抗体定常領域 (C領域)をコードする DNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む 。または、抗体の V領域をコードする DNAを、抗体 C領域の DNAを含む発現べクタ 一へ組み込んでもよい。発現制御領域、例えば、ェンハンサー、プロモーターの制御 のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細 胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。さら〖こ、適切な抗原特異性および 生物活性をもつ分子を得るためには、キメラ抗体とすることも望ましい。キメラ抗体は、 例えば以下の文献に記載の方法により、マウス抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子にスプラ イシングして調製することができる。 (Morrison et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 81, 6851— 6855 ; Neuberger et al. (1984) Nature, 312, 604— 608 ;Takeda et al. (1985) Nature, 314, 452— 454)。また、ポリエチレングリコール(PEG)等の各 種分子と結合した抗モータリン 2抗体を使用することもできる。このような抗体修飾物 は、この分野においてすでに確立された手法により、得られた抗体に化学的な修飾 を施すことによって得ることができ、抗体の高機能化を図ることができる。
[0048] 本発明の抗体には、抗モータリン 2抗体の抗原認識部位を含む人工抗体や複合体 も包含される。すなわち、抗モータリン 2抗体の抗原認識部位及び抗原認識部位を 含むペプチドの単量体、もしくはその単量体を化学的及び遺伝子工学的手法により 二量体及び三量体を含む多量体化した人工抗体;抗モータリン 2抗体の抗原認識部 位及び抗原認識部位を含むペプチドをィ匕学的及び遺伝子工学的手法により他の抗 体、抗体の一部、または他のタンパク質等との複合体として提供されるキメラ人工抗 体も含まれる。また、抗モータリン 2抗体の抗原認識部位及び抗原認識部位を含む ペプチドを PEG (ポリエチレングリコール)及びリボソームなどの細胞内への薬物導入 物質、及び、放射性物質、毒素、抗癌剤などの小分子に結合させた複合体も本発明 において使用可能である。
[0049] (4)モータリン遺伝子の任意の部位を標的とする機能性核酸
本発明の別の態様において、モータリンを中和する物質として、モータリン遺伝子 の転写領域、プロモーター領域を含む、任意の部位を標的とする機能性核酸を用い ることもできる。機能性核酸とは、 siRNA、 shRNA、 miRNA、二本鎖 RNA、リボザィム 、アンチセンス等、特定遺伝子の発現や産物の作用をコントロールする機能を有する 核酸分子である。機能性核酸により、遺伝子発現を阻止し、モータリンを遺伝子レべ ルで中和することができる。モータリン 2の公知の配列情報に基き、当業者は例えば 以下の文献に基き、これらの機能性核酸を設計することができる。 (Wadhwa, R., Kaul , b. C, iyagishi, M., Taira, K. (2004) Know-how of RNA interference ana its appn cations in research and therapy. Reviews in Mutat. Res. (in press). Wadhwa, R., K aul, S. C, Miyagishi, M. and Taira, K. (2004) Vectors for RNA interference. Curren t Opinions in Molecular Therapeutics (in press). Wadhwa, R., Ando, H., Kawasaki, H., Taira, K., and Kaul, S. C. (2003); Conventional and RNA helicase coupled hamm erhead ribozymes for mortalin. EMBO Reports, 4, 595-601)
[0050] (5)モータリン 2に結合する抗体を有効成分として含む抗癌剤
モータリン 2に結合する抗体を有効成分として含む抗癌剤は、常法にしたがって製 剤ィ匕すること力 eさ (Remington s Pharmaceutical science, latest edition, Mark Publis hing Company, Easton,米国)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むもので
あってもよい。
本発明の抗癌剤には等張化剤として、ポリエチレングリコール;デキストラン、マン- トーノレ、ソノレビトーノレ、イノシトール、グルコース、フラクトース、ラタトース、キシロース、 マンノース、マルトース、ラフイノースなどの糖類を用いることができる。
本発明の抗癌剤には界面活性剤をさらに含むことができる。界面活性剤としては、 非イオン界面活性剤、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソ ルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、 グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デ カグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレ ート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、 ポリオキシエチレンソルビタンモノォレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステ アレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタ ントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシェチレ ンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオ キシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エス テル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン 脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂 肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキル エーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールエーテル、ポリオキシェ チレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレ ンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポ リオキシェチェレンノニルフエニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフエニル エーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシ エチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソ ルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等 のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオ キシエチレン脂肪酸アミド等の HLB6〜18を有するもの;陰イオン界面活性剤、例え ばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ォレイル硫酸ナトリウム等の炭素原
子数 10〜 18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫 酸ナトリウム等の、エチレンォキシドの平均付加モル数が 2〜4でアルキル基の炭素 原子数が 10〜 18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホ コハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が 8〜18のアルキルスル ホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセ口リン脂質;ス フインゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数 12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸 エステル等を典型的例として挙げることができる。本発明の製剤には、これらの界面 活性剤の 1種または 2種以上を組み合わせて添加することができる。
[0052] 本発明の抗癌剤には、所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、賦形剤、 pH調整剤 、無痛化剤、緩衝剤、含硫還元剤、酸ィ匕防止剤等を含有してもよい。例えば、含硫還 元剤としては、 N—ァセチルシスティン、 N—ァセチルホモシスティン、チォタト酸、チ ォジグリコール、チォエタノールァミン、チォグリセロール、チォソルビトール、チォグ リコール酸及びその塩、チォ硫酸ナトリウム、ダルタチオン、並びに炭素原子数 1〜7 のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等が挙げられる。また、酸化防止 剤としては、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシァ二ソール 、 a—トコフエロール、酢酸トコフエロール、 L—ァスコルビン酸及びその塩、 L—ァス コルビン酸パルミテート、 Lーァスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜 硫酸ナトリウム、没食子酸トリァミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジァミン四酢 酸ニナトリウム (EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤が 挙げられる。さらには、塩ィ匕ナトリウム、塩ィ匕カリウム、塩ィ匕カルシウム、リン酸ナトリウ ム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩;クェン酸ナトリウム、クェン酸カリ ゥム、酢酸ナトリウムなどの有機塩などの通常添加される成分を含んで!、てよ 、。 本発明の抗癌剤は、これらの成分をリン酸緩衝液などの緩衝液に溶解して調製す ることができる。好ましい pHは 5〜8である。
[0053] 本発明の抗癌剤は通常非経口投与経路で、例えば注射剤 (皮下注、静注、筋注、 腹腔内注など)、経皮、経粘膜、経鼻、経肺などで投与されるが、経口投与も可能で ある。
本発明の抗癌剤は、溶液製剤であっても、使用前に溶解再構成するために凍結乾
燥したものであってもよ 、。凍結乾燥のための賦形剤としては例えばマン-トール、 ブドウ糖などの糖アルコールや糖類を使用することが出来る。
[0054] 本発明の製剤中に含まれるモータリン 2に結合する抗体の量は、治療すべき疾患 の種類、疾患の重症度、患者の年齢などに応じて決定できる力 一般には最終投与 濃度で 0. 1 μ g〜200 μ g/ml、好ましくは 0. 1 μ g〜2mg/mlである。
モータリン 2に結合する抗体の一例として、本発明において提供される K抗体を用 いることができる。 K抗体の作成の詳細は、後述の実施例に詳しく説明されている。
[0055] (6)物質の抗癌活性を評価する方法
本発明者らは、モータリンが癌細胞に特徴的な分子であり、癌治療の標的となりうる ことを見出した。モータリンの発現を中和する物質やモータリンが細胞内で機能する のを妨げるような物質は、抗癌活性を有する物質である可能性がある。したがって、 被験物質の存在下でモータリンの発現の強度やモータリンの機能を解析することに より、当該被験物質の抗癌活性を評価することができる。モータリンの発現の強度を 解析するためには、ウェスタン分析、ノーザン分析等の遺伝子の発現を解析するため の公知の標準的な手段を用いることができる。モータリンの機能は、 p53や GRP94そ の他のモータリン結合タンパク質の活性を調べることにより解析することができる。
[0056] 被験物質の抗癌活性は、具体的には以下のようにして評価することができる。
一態様として、モータリンタンパク質と被験物質を接触させ、その接触の強度により 被験物質の抗癌活性を評価することができる。モータリンタンパク質は、遺伝子組換 えにより産生されたものでも培養細胞力ゝら単離されたものでもよい。接触の強度は、 被験物質のモータリンタンパク質への結合量あるいは被験物質のモータリンタンパク 質への結合の結果としてのモータリンタンパク質の機能の変化として測定される。被 験物質のモータリンタンパク質への結合量は、例えば、抗モータリン抗体を用いた im munoprecipitation法や immunodepletion法により測定することができる。これらは特異 的な抗体によるモータリンタンパク質の沈降反応に基く方法である。被験物質がモー タリンに結合することにより抗体による沈降反応が影響を受ける場合があり、免疫複 合体についての SDS PAGEによりその影響を可視化できる。また別の方法としては、 被験物質にセファロースビーズのタグを付けることにより、被験物質とモータリンタン
ノ^質とが結合した"被験物質—モータリン複合体"を直接沈降させることができ、こ の場合にも、モータリンと被験物質との結合を SDS PAGEゲル上で定量ィ匕できる。こ のような方法を用いた例として、 Wadhwa, R., Sugihara, T., Yoshida, A., Nomura, H., Reddel, R. R., Simpson, R., Maruta, H., and Kaul, S. C. (2000). Selective toxicity o f MKT— 077 to cancer cells is mediated by its Dinding to the hsp70 family protein mo t-2 and reactivation of p53 lunction. Cancer Res 60, 6818— 6821.には、 MKT007のモ 一タリンへの結合量の測定が記載されて 、る。モータリンタンパク質の機能の変化は 、例えば、被験物質がモータリンタンパク質に結合してその機能が中和される結果と しての p53の活性の上昇や、さらにその結果としての細胞増殖の阻害の程度により評 価できる。
[0057] 被験物質の抗癌活性を評価する方法の別の態様として、分子生物学的手段により モータリン遺伝子を導入してモータリンを過剰発現する細胞を作製し、その細胞また はその細胞破砕液を、被験物質に接触させ、接触の強度により評価することができる 。接触の強度は、上述の immunoprecipitation法、 immunodepletion法や、セファロース ゃァガロースのビーズでタグ付された被験物質による直接沈降法を用いて、被験物 質のモータリンへの結合量を測定することにより評価することができる。
[0058] さらに別の態様としては、モータリン遺伝子のプロモーターの下流にレポーター遺 伝子をつないだ DNAを有する細胞、および細胞破砕液を、被験物質に接触させ、レ ポーター遺伝子の発現を指標として、被験物質の抗癌活性を評価することができる。 被験物質がモータリンプロモーターに対して何らかの作用を及ぼすことにより、モータ リンの発現レベルが影響を受ける。モータリンの発現レベルを低下させるような影響を 与える物質は、モータリンを中和する物質であり、抗癌活性を有する物質である可能 性がある。モータリン遺伝子のプロモーターの下流にレポーター遺伝子をつないだ D NAは、分子生物学の分野における慣用法に従い、公知のモータリン遺伝子配列に 基きルシフェラーゼゃ /3 -gal等の通常用いられるレポーター遺伝子をつな 、で作製 したプラスミドとして構築することが可能である。
[0059] (7)小分子キャリアとしてのモータリン 2結合物質の使用
モータリンが腫瘍細胞に特異的に発現することから、細胞に入り込んでモータリンに
特異的に結合する物質を、腫瘍細胞内への小分子のキャリアとして使用することがで きる。モータリンに特異的に結合する物質としては、上述の生細胞内に内在化される 抗モータリン抗体の他に、以下の文献に記載される MKT007等の「モータリン 2結合 物質」も用いることができる。 Wadhwa, R., Colgin, L., Yaguchi, T., Taira, K., Reddel, R. R., and Kaul, S. C. (2002). Rhodacyanine Dye MKT— 077 Inhibits in Vitro Telom erase Assay But Has No Detectable Effects on Telomerase Activity in Vivo. Cancer Res 62, 4434-4438 ; Wadhwa, R., Sugihara, T., Yoshida, A., Nomura, H., Reddel, R. R" Simpson, R., Maruta, H" and Kaul, S. C. (2000). Selective toxicity of MKT- 0 77 to cancer cells is mediated by its binding to the hsp70 family protein mot— 2 and r eactivation of p53 function. Cancer Res 60, 6818 - 6821。
[0060] 例えば、低分子化合物、ペプチド、脂質、オリゴヌクレオチド(siRNA、 shRNA、 miRN A、二本鎖 RNA、リボザィム、ァプタマ一、ダンベル DNAなど)を細胞内移行させる ために、抗モータリン抗体 (モノクロ 'ポリクロどちらでも)やその他のモータリンに特異 的に結合する物質を使用することができる。
例えば、モータリンに特異的に結合する物質を、ターゲット療法の薬剤キャリアとし て用いて、免疫毒及びペプチド、ヌクレオチド、有機分子その他の小分子を腫瘍細 胞に輸送することができる。
[0061] また、 in vitro又は in vivoで細胞をライブイメージ化するために、可視化可能せしめ る非蛍光物質 (Qdot)や蛍光物質を細胞内に内在化させるにあたり、抗モータリン抗 体 (モノクロ ·ポリクロどちらでも)やその他のモータリンに特異的に結合する物質を、 造影物質のキャリアとして使用することもできる。例えば、生体内における癌転移調査 のために、抗モータリン抗体の細胞内内在化 (あるいはキャリアー)の性質を利用して 細胞を Qdotでラベルイ匕し、当該細胞をヌードマウスに注射する。生体内での当該細 胞の転移をライブイメージで観察でき、動物のと殺などのオペが!/ヽらな!、。
[0062] (8)細胞内に内在化する抗モータリン抗体の使用
全長モータリンを抗原として、生細胞内に取り込まれる(内在化される)ポリクローナ ルあるいはモノクローナル抗体が作製可能である。このような抗体は、上述のような分 子キャリアとしての用途に特に適する。抗モータリン抗体が内在化される理由ははつ
きりとは判明して 、な ヽが、細胞表面で発現するモータリンとインターロイキン 1レセプ ター'タイプ l (IL-lR'typel)との相互作用に何らかの関係があるものと考えられ、イン ターロイキン 1レセプタ一.タイプ 1の発現抑制又は中和によりモータリン抗体の内在 化をさらに促進することができる。
また、このような抗モータリン抗体(内在化機能を有する抗モータリン 2抗体)は癌細 胞に特異的に内在化されるため、癌細胞へ選択的にドラッグ 'デリバリーするキャリア 一または癌治療目的とする用途に有用である。
さらに、このような内在化機能を有する抗モータリン 2抗体は単独での使用するのみ ならず、 IL-lR'typelの発現抑制や中和手段(抗体、アンタゴニスト、 siRNA、リボザィ ムなど)と組み合わせても使用できる。
[0063] (9)細胞の免疫染色のための抗モータリン抗体の使用
抗モータリン抗体により細胞を免疫染色すると、正常細胞では細胞質全体に広範 に染色が見られるが、癌細胞では核の周囲に染色が見られる。また、老化を誘導した 細胞では、モータリンの染色が核膜周囲での集中したパターンから、細胞質全体に 広がるパターンに変わる。
このような染色パターンに着目して、抗モータリンポリクローナル抗体 (K-抗体)同 様に、ハイプリドーマクローン由来の抗モータリンモノクローナル抗体を使用すれば、 老化細胞を検出するキットを設計することができる。つまり、癌細胞集団中にある老化 細胞又は正常化細胞を検出'選別するために抗モータリンモノクローナル抗体又は 抗モータリンポリクローナル抗体を使用することができる。このような抗モータリンモノ クローナル抗体又は抗モータリンポリクローナル抗体の使用とは、具体的には、モー タリン染色パターンを使用することによる。老化細胞又は正常化細胞を検出'選別す ることにより、癌細胞力 老化細胞又は正常化細胞への被験物質による誘導の検査 を行うことができる。具体的には、癌細胞を老化細胞又は正常化細胞に誘導する被 験物質 (低分子化合物、ペプチド、ヌクレオチド、抗体など)のスクリーニングにモータ リン染色パターンを使用することができる。
[0064] 本発明を以下の実施例でさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。
種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれ
る。
実施例 1
[0065] (腫瘍及び腫瘍由来株細胞におけるモータリン遺伝子の発現)
ノーザン及びサザンブロットにより、ヒト形質転換細胞、腫瘍由来株細胞及び腫瘍 組織におけるモータリン遺伝子の発現を解析した。
[0066] (試験方法)
ノーザンブロット
TrizoKLife Technologies, Inc)を用いて、正常ヒト細胞及び形質転換ヒト細胞から全 RNAを調製した。得られた RNAを 2.2Mのホルムアルデヒドを含む 1%ァガロースゲル 上で変性してでサイズ分画したものを Hybond N+メンブラン (Amarsham Corp.)に転写 した。プローブとしては、マウス cDNAをプローブとして Hela細胞由来の cDNAから得ら れたヒト cDNAのカルボキシル末端の 0.5kb断片を用いた。ハイブリダィゼーシヨンは 6 5°Cでエキスプレスハイブリダィゼーシヨンバッファー(CLONTECH)中で行った。メン ブランを 2X SSCと 0.1% SDS含有 2X SSCでそれぞれ 10分間洗浄し、次いで 0.1% SDS 含有 IX SSCで 2回洗浄した。ブロット上の RNAローデイング量はァクチン又は 18Sリ ポソームプローブにより決定した。
ウェスタンブロット
タンパク質サンプル(10-20 μ g)を SDSポリアクリルアミドゲル上で分離し、セミドライト ランスファーブロッター(Biometra, Tokyo)を用いたエレクトロブロッテイングにより-ト ロセルロースメンブラン(BA85、 Schleicher and Schuell)に移した。抗モータリン抗体( 後述の T抗体及び K抗体)を用いてィムノアツセィを行った。形成された抗体複合体 は西洋わさびペルォキシダーゼ (HRP)かアルカリホスファターゼ結合抗マウス Zゥサ ギ免疫グロブリン G(IgG)を用いて可視化した(ECL kit, Amersham pharmacia Biotech
) o
[0067] (結果)
胸部、脳、結腸、卵巣の腫瘍組織、及び対応する正常組織 (対照)でモータリン遺 伝子の発現を調べた結果を図 1 3及び表 1に示す。図 1と図 2は各部の腫瘍組織 ( Tumor)及び対応する正常組織 (Normal)における発現を示すドットブロットである。図
3は、各種の腫瘍組織 (T)及び対応する正常組織 (N)における発現を示す、モータリ ンに特異的なポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロットの結果である。表 1はこ れらの結果をまとめたものであり、左の列力 順に、腫瘍の種類、検体の数、モータリ ンがアップレギュレーションしていた検体の数(Mot-UP)、モータリンがダウンレギユレ ーシヨンしていた検体の数(Mot- DOWN)、モータリンの発現に変化がなかった検体 の数 (Mot-NO- CHANGE)である。これらの結果から、殆どの腫瘍組織において対照 の正常組織よりもモータリン遺伝子の発現が亢進していたことがわかる。
[0068] [表 1]
[0069] 次に、腫瘍由来の株細胞におけるモータリン遺伝子の発現を調べた結果を図 4〜 図 6に示す。図 4は、各部組織由来の腫瘍株細胞におけるモータリン遺伝子の発現 を調べた結果であり、レーン 1は対照としての正常な包皮繊維芽細胞 (HFF-5)、レー ン 2— 14は結腸癌細胞、レーン 15— 18は前立腺癌細胞である。 13の結腸癌細胞の うち 7つが非常に高レベルのモータリン遺伝子の発現を示し、他の 6つが正常の包皮 繊維芽細胞と比較して中程度の増加を示した。前立腺癌細胞 3つも、正常な包皮繊
維芽細胞と比較して高レベルの発現を示した。図 5のレーン 1は正常な包皮細胞 (HF F-5)、レーン2は正常な肺繊維芽細胞(MRC5)、レーン3— 8は乳癌細胞でぁる。図 6は正常な肺繊維芽細胞 (MRC5)、 SV40で形質転換された細胞 (MRC5-SV2及び U 87MG)、骨癌(U20S)、卵巣癌(C33A及びヒーラ細胞)、乳癌 (MCF7)及び、神経グ リア芽腫 (A172、 U138MG、 DBTRG、 U118MG、 U87MG)におけるモータリンの発現を 示す。モータリンの発現は 7つの乳癌由来細胞のうち 5つにおいてアップレギュレート され、骨癌、卵巣癌、神経グリア芽腫由来の細胞においても同様であった(図 5、図 6
) o
実施例 2
[0070] (形質転換されたヒト細胞におけるモータリンの発現レベルと足場非依存性増殖の解 析)
ヒト繊維芽細胞を不死化して、様々なモータリンの発現レベルを示す細胞株を取り 、これらの細胞株を足場非依存性コロニー形成アツセィに供し、モータリンの発現レ ベルと足場非依存性増殖能の関連を調べた。足場非依存性増殖能、すなわちソフト ァガ一中などの細胞接着のない浮遊状態でも増殖することができることは癌化した細 胞に共通の性質である。
[0071] (試験方法)
ヒト不死化細胞のサブクローニング
テロメラーゼの触媒サブユニット hTERT単独又は hTERT及び E6及び E7発現プラスミ ドの組合せ (オーストラリア国シドニー Dr. Roger Reddel研究室より分譲された発現プ ラスミドを用いた)のいずれ力を導入することによりヒト繊維芽細胞 (米国テキサス大学 より分譲された)を不死化して、段階希釈によりサブクローユングした。サブクローニン グにより、様々なモータリン発現レベルを示す細胞株を得ることができた(図 7)。 コロニー形成アツセィ
細胞をトリプシン処理し、計数し、 DMEM中の 0.8%寒天に懸濁して寒天ベッドプレー ト上に蒔いた。プレートを 37°Cの COインキュベータ一中で 3〜10週間培養した。
2
[0072] (結果)
サブクロー-ングした不死化細胞について、上述のウェスタンブロットによるモータリ
ン発現レベルの分析、及び足場非依存性コロニー形成アツセィを行った結果を図 7 〜: L0に示す。
足場非依存性コロニー形成アツセィの結果、正常細胞はソフトァガー上で増殖しな かったが、ヒト繊維芽細胞腫由来細胞 HT1080は高い効率でコロニーを形成した。図 7にヒト胚性繊維芽細胞 (WI-38)とそれに由来する hTERT、 E6及び E7で形質転換さ れた不死化細胞(WB-1、 WB-6、 WB- 7、 WB-ll)、及び正常なヒト肺繊維芽細胞(M RC5)に対する、ウェスタンブロットの結果及びコロニー形成効率 (CFE)を示す。不死 化細胞のソフトァガー上での増殖は悪かった力 高レベルのモータリンの発現を示す サブクローンはより高い増殖又はコロニー形成効率を顕著に示した(図 7)。
図 8は WB-1及び WB-6細胞の通常の培地での増殖の様子を示す写真であり、特に WB-6が高密度で増殖していることがわかる。すなわち、これらの細胞は密度依存性 の増殖阻害力 のエスケープ現象を示し、通常の培地で高密度で増殖する。
[0073] ヒト不死化細胞の他の系統も同様に解析した。図 9は、正常な皮膚繊維芽細胞 (MJ 90)及びこれに由来するテロメラーゼ導入により得た不死化細胞 (MJT-6)及び各種 サブクローン (MJT_61〜66)、及び正常なヒト肺繊維芽細胞である MRC5細胞のゥェ スタンプロット及びコロニー形成の結果である。モータリンが高レベルで発現して 、る サブクローンは、モータリンの発現が低レベルなものと比較してソフトァガー上で高い コロニー开成効率(Colony Formation Rate)を示したことがわかる。他の开質転換細 胞とのクロスコンタミネーシヨンの可能性を排除するため、 MJ90及び MJ90由来のサブ クローンを DNAフィンガープリントにより分析したところ、これらのサブクローンは各細 胞型カも正しく由来したものであることが確認された(図 10)。
この結果により、腫瘍の特徴である足場非依存性の細胞増殖とモータリンの高レべ ルの発現との関連とが明らかとなつた。
実施例 3
[0074] (モータリンに特異的な抗体)
(試験方法)
抗体の作成
以下の抗原を用いて、ゥサギ (ニュージーランドホワイトラビット)を免疫し、モータリ
ンに対する抗体を作成した。マウスのモータリン 2の一部分であるペプチドに対する 5 つの抗体 (P、 Q、 R、 S、 T抗体と名付けた)、及び全長モータリン 2タンパク質に対す る 1つの抗体 (Κ抗体)を作成した。抗原であるモータリンタンパク質やペプチドのァフ 二ティカラムを用 、て精製した抗体を以下の実験に用 ヽた。
1.抗原- Ρ : モータリンペプチド
^et-Ile-Ser-Ala-Ser-Arg-Ala-Ala-Ala-Ala-Arg-Leu-Val-Gly-Thr-Ala-Ala-Ser- Arg-Ser-Cys —OH
2.抗原- Q : モータリンペプチド
487Cys-Gln-Gly-Glu-Arg-Glu-Met-Ala-Gly-Asp-Asn-Lys498-OH
3.抗原- R: モータリンペプチド
'Cys-Glu-Glu-Ile-Ser-Lys-Val-Arg- Ala-Leu-Leu- Ala- Arg-Lys -OH
4.抗原- S : モータリンペプチド
613Cys- Glu- Glu- lie- Ser- Lys- Met- Arg- Ala- Leu- Leu- Ala- Gly- Lys625- OH
5.抗原- T: モータリンペプチド
469Ser- Gin- Va Phe- Ser- Thr- Ala- Ala- Asp- Gly- Gin- Thr- Gin- Va Glu- lie- Lys- Val - Cys487— OH
6.抗原- K: 大腸菌で発現させて NTA-Niァガロースにより精製した、 Hisタグ付全長 モータリンタンパク質。
マウス細胞由来のモータリン 2タンパク質に対する抗体で cDNAライブラリーをスクリ 一ユングして得たモータリン cDNAクローンの 2.0kbのオープンリーディングフレーム( ORF)を pQE30ベクター(Qiagen)中にクローン化して、 Hisタグ付タンパク質を得た。 この抗体についての詳細は、 Wadhwa, R., Kaul, S. C, Ikawa, Y., and Sugimoto, Y. ( 1993) J Biol Chem 268, 6615- 6621に記載されている。 pQE30/モータリン構築物を用 いて大腸菌 M15株を形質転換し、 OD 力 6になるまで増殖させ、イソプロピル- 1-チ
580
ォ- β -D-ガラクトピラノシド (IPTG) (0.2mM)で 37°Cで 5時間誘導をかけた。菌の溶解 物(IPTGで誘導を受けたもの、及び受けて ヽな 、もの)を SDS-ポリアクリルアミドゲル 電気泳動で分析してから、抗 His抗体(Qiagen)によるウェスタンブロットを行った。 His タグ付組換タンパク質を用いて、ゥサギポリクローナル抗体である抗モータリン抗体 (a
nti— mortalin antibody) :K抗体を作成した。
[0076] (細胞内への抗体の取り込み)
12穴培養デッシュ内にカバーグラスを置き、その上に細胞を蒔いた。 24時間後に 、上述の抗原 Kにより免疫して得られた抗モータリン抗体である K抗体 (K-Ab)の 5 μ 1 を培養液(1.0ml)にカ卩えた。 12〜24時間後に細胞を固定し、フルォレセインイソチォ シァネートーヒッジ抗マウス IgG及びテキサスレッドー抗ゥサギ IgG (Amersham Corp.) で二次染色を行って可視化した。細胞を蛍光顕微鏡 (Carl Zeiss)で観察した。 P、 Q 、 R、 S、 T抗体についても同様に実験を行った。
[0077] (結果)
まず、モータリンペプチドに対する 5つの抗体(P、 Q、 R、 S、 T抗体)、及び全長モ 一タリンタンパク質に対する 1つの抗体 (Κ抗体)のモータリンへの特異性を確認した 。ウェスタンブロットと免疫沈降法により、 R、 S、 T、 Κ抗体がヒト及びマウスのモータリ ンと特異的に反応することがわ力つた。ウェスタンプロット上で、 Κ抗体は予想された サイズの一つのバンドだけを認識した(図 11)。免疫沈降法で、 Κ抗体によるモータリ ンの特異的な沈降を検出した(図 12)。
正常細胞と形質転換細胞においては異なるモータリンの染色パターンが観察され た(図 13)。これは既に報告されて!、る通りである(非特許文献 2参照)。
図 14は非常に興味深 ヽ結果を示す。それは Κ抗体を培養中の培地に加えると細 胞内に取り込まれたと 、うものである。正常(TIG-1)及び変異(U20S及び MCF-7)ヒ ト細胞において、いずれもモータリン Κ抗体 (mot- K Ab)が細胞に内在化されている 様子がわかる。この染色パターンは、細胞を固定してから K抗体で染色して得られた 染色パターンと同じであった (非特許文献 2参照)。他の抗体もウェスタンプロットと免 疫沈降法に用いたが、このような内在化を全く示さな力つた。
[0078] 本発明者らは、 Qdot655抗体コンジユゲーシヨンキット(Quantum Dot Corporation, USA)を用いて Qdot—抗体コンジュゲートを作製した。 Qdotコンジユゲートー K抗体を 用いて細胞を抗体染色すると、予想通りの染色パターンが得られた(図 15)。 Qdot- K抗体コンジュゲート(約 5 μ g/ml)を U20S細胞の培地に加えた。細胞をメタノール Z アセトン (50/50, v/v)中で 10分間氷上で固定し、 Qdotフィルターセット XF 305-1 (励
起フィルター 425DF45、ダイクロイツク 475DCLP、ェミッションフィルター 655DF20) を装着した Carl Zeiss顕微鏡により観察した(Omega Optical, Inc.)。図 16に示すよう に、 Qdot655は、 K抗体と結合した場合のみ、細胞内に見られた。このデータにより、 K抗体及びそれと結合した Qdotの内在化が明確に示された。他の抗体については、 ウェスタン及び免疫沈降アツセィにおいては特異的結合が示されたにも関わらず、内 在化は見られなかった。
実施例 4
[0079] (腫瘍の治療のための K抗体の使用)
上述の実験の結果、腫瘍細胞においてモータリンがアップレギュレートされているこ と、そしてモータリンに対する抗体である K抗体が細胞内に内在化されることを見出し た。次に、 K抗体を用いて、腫瘍において in vivoでモータリンを中和することにより、 腫瘍の成長に何らかの影響を与えることができるか検討した。
[0080] (試験方法)
ヌードマウスにおける腫瘍形成
ヌードマウスは日本クレア力 購入した。ヒト線維肉腫細胞(HT1080)をヌードマウス に皮下注射した。小さな腫瘍芽が現れたとき、試験用の腫瘍に抗モータリン抗体であ る K抗体 (K-Ab)を注射した。対照用の腫瘍には免疫前血清 (preserum)を含有する DMEMを注射した。その後の腫瘍の進行を観察した。
[0081] (結果)
実験 1では、 lxlO6個の HT1080細胞を注射し、 5日後に小さな腫瘍芽が現れた。こ の腫瘍にモータリン K抗体 (Mot-K Ab)ある ヽは免疫前血清(Control)を注射した (5 00 μ 1の DMEM中に 5 μ 1)。抗体を注射していない腫瘍は 12〜 15日間で 2cm以上に 成長したが、抗体を注射した腫瘍は 4週間で lcmにしかならな力つた(図 17、図 18) 実験 2では、 lxlO5個の HT1080細胞を注射して、抗体の注射は腫瘍芽がまだ 1 2mmの頃に開始した。その後 1ヶ月間、 5日毎に注射を繰り返しながら、腫瘍の進行 を観察した。対照の抗体を注射された腫瘍のサイズは徐々に大きくなつたが、 Mot-K 抗体を注射された腫瘍は縮小した(図 19)。
実験 3では、 2つの横に並んだ腫瘍 (上部の大きな腫瘍及び下部の小さな腫瘍)を 有するマウスを用いた。 K抗体を上部腫瘍のみに注射した。注目すべきは、 K抗体を 注射された上部腫瘍が縮小する一方、 4週間後に下部の腫瘍の大きさが拡大したこ とである(図 20)。
実施例 5
[0082] (K抗体)
別ロットの K-抗体 (Mot-2全長タンパク質に対するポリクローナル抗体)を調整し、 Vヽ ずれのロットの抗体も細胞内へ取り込まれることをチェックした。
3つの濃度の異なる K-抗体 (A-C)、免疫前血清、ァフィ二ティー精製した K-抗体( AP)、対照の T-抗体(モータリンの一部のペプチド469 Ser- Gin- Va卜 Phe- Ser- Thr- Ala- Ala- Asp- Gly- Gin- Thr- Gin- Vaト Glu- lie- Lys- Vaト Cys487— OHに対する抗体)を A549 細胞 (肺癌細胞)の培養液に添加し、 24時間培養した。細胞溶解物は、培養細胞を トリプシン処理して回収した細胞力 調整した。細胞内に内在化した抗体を、ウェスタ ン.ブロッテイング法により、 HRP結合抗ゥサギ抗体によって検出した。モータリンとァ クチンを内部コントロールとして、各レーンに流したサンプル量を同量に調整した。
[0083] (結果)
図 21に内在化した K-抗体のウェスタン 'ブロッテイング法による検出の図を示す。 K -抗体及びァフィユティー精製した K-抗体は細胞内に内在化したのに対し、免疫前 血清および T-抗体は内在化しな力つた。
実施例 6
[0084] (インターロイキン- 1レセプタ一'タイプ 1の発現の抑制)
モータリンが癌細胞の細胞表面にも存在することが報告されている(Shin, B. K., W ang, H., Yim, A. M., Le Naour, F., Bnchory, F., Jang, J. H., Zhao, R., Puravs, E., Tra, J., Michael, C. W., Misek, D. E., and Hanash, S. M. (2003) J Biol Chem 278, 7 607- 7616 ; Dundas, S. R., Lawrie, L. C, Rooney, P. H., and Murray, G. I. (2005) J Pathol)。
また、モータリンがインターロイキン- 1レセプタ一'タイプ 1 (以下、 IL- lR,typeIと記載 することもある)と相互作用することが知られている(Sacht, G., Brigelius-Flohe, R., Ki
ess, M., Sztajer, H., and Flohe, L. (1999) Biofactors 9, 49—60)。
[0085] K-抗体が細胞内に取り込まれる内在化現象は、モータリンが細胞表面で発現し IL- lR,typeIと結合することに関係すると我々は予想した。
この点を調べるために、まず IL-lR,typeIの発現を抑制する shRNA発現プラスミドを 構築した。 cDNA上の 2つの標的部位 289-307、 293-311に対して、 2種類の shRNA発 現プラスミドを構築した。この shRNA配列を図 22に示した。
今回構築したプラスミド (2種類)より細胞内で発現される shRNA配列は、
UU-3'
及び
CUU-3'
である。細胞に各々の発現プラスミドをトランスフエクシヨンし、 IL-lR,typeIの発現抑制 を抗 IL- lR,typeI抗体を用いたウェスタン'ブロッテイング法によって解析した。
[0086] (結果)
IL-lR,typeIの発現は、図 22に示した 2種類の shRNA発現プラスミドの使用によって 抑制された(図 22ゲル写真)
[0087] (インターロイキン- 1レセプタ一'タイプ 1の発現の抑制による K抗体内在化の促進)
2種類の shRNA発現プラスミドは、効果的に IL-lR,typeIの発現を抑制した(図 22ゲ ル写真)ので、コントロールプラスミド又は図 22の 2種類のうちのいずれかの shRNA発 現プラスミドがトランスフエクシヨンされた細胞 (HepG2)を、 K-抗体とともに培養し、細 胞内に内在化した抗体を HRP結合抗ゥサギ抗体を用いてウェスタン 'ブロッテイング 法によって解析した。
[0088] (結果)
2種類の shRNA発現プラスミドにより効果的に IL-lR,typeIの発現が抑制されている 一方(図 23下段写真)、 K-抗体の細胞内への内在化は促進されていた(図 23上段 写真)。 IL_lR,typeIは K-抗体の内在化を妨害し、この IL_lR,typeIの発現が抑制され ると K-抗体の細胞内内在化が促進されることをこの実験結果が裏付けている。細胞
表面でのモータリンと IL-1 R,typelの結合が、モータリン -K抗体(抗モータリン抗体)複 合体の細胞内内在化を妨げていると考えられる。
このような細胞内内在化の促進効果は、 K-抗体をドラッグデリバリーなどのキャリア として利用したり、抗がん剤成分として利用する場合に、より好ましいと考えられる。細 胞内内在化の促進効果は、図 23のようなインターロイキン- 1レセプタ一'タイプ 1の ヘアピン型 RNAのみならず、アンチセンスヌクレオチド、 siRNA、 shRNA、 miRNA、 二本鎖 RNA、リボザィムによるノックダウンでも、抗体やアンタゴ -ズトによる中和でも 、いかなる方法による IL-lR,typeI発現抑制 ·中和も、図 23に示されるデータのように 、細胞によるモータリン抗体の摂取を促進するものと考えられる。
実施例 7
[0089] (K抗体が持つ 3つの性質を有するモノクローナル抗体)
組み換えヒト全長モータリンに対するマウスモノクローナル抗体を作製した。作製し た抗モータリンモノクローナル抗体 50クローンについて、以下の 3つの基準を満たす か否力、調査した:(1)ウェスタン 'ブロッテイング法の解析によるモータリンへの反応性 と特異性、(2)正常細胞と癌細胞におけるモータリンの免疫染色のパターン (正常細 胞は細胞質全体が染色され、癌細胞では核膜周辺が染色されるパターンがみられる 力 、(3)細胞内への内在化、である。
[0090] (結果)
図 24は、モータリンに対する新しいモノクローナル抗体の作製及び内在化機能をも っ抗モータリンモノクローナル抗体選別に関する図である。上記 3つの基準を満たす モノクローナル抗体のクローンが得られた。そのようなクローンは 50クローンのうち 4ク ローンであった。数多くのクローンが、反応性 ·特異性や免疫染色パターンに関する 基準を満たしたが、細胞内へ内在化しなかった。最終的に、細胞内に内在化する抗 モータリンモノクローナル抗体を産生する細胞(ハイブリドーマ)(37番、 38番、 71番 、 96番)を得た。また、反応性'特異性および免疫染色に関する基準を満たすものの 細胞内に内在化しないクローン(52番)をネガティブコントロールとするハイプリドーマ を作製した。
最も細胞内内在化効率の高い抗モータリン 2モノクローナル抗体を産生するクロー
ン (37— 6)を、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託し た。
(受託番号: FERM ABP— 10408、寄託日:平成 17年 8月 23日)
[0091] (モノクローナル抗体の細胞内内在化の確認)
図 25に示す抗モータリンモノクローナル抗体とともに細胞を培養し、 24時間後に固 定化のち、 FITC結合 2次抗体によって免疫染色した。
抗モータリンモノクローナノレ抗体(37— 1、 37— 6、 38-4, 71— 1、 96— 5) ίま、明 瞭に細胞内に内在化していた。クローン 52— 3の抗モータリンモノクローナル抗体は 内在化しなかった。
さらに、細胞を酸洗浄処理し、抗モータリンモノクローナル抗体が細胞内へ内在化 することを確認した(図 26)。癌細胞 (U20S)を図に示された抗体クローンとともに培 養し、固定した後、内在化した抗体を FITC結合 2次抗体による免疫染色によって検 出した。細胞表面に付着した抗体の非特異的な検出を無くすために、 0.2Μ酢酸一 0. 5Μ NaClを含む冷却した PBSで細胞を洗浄した後に細胞を固定した。酸洗浄処理し た細胞の免疫染色の強度と通常の PBS洗浄処理した細胞の免疫染色の強度を比較 した結果を図 26にまとめた。
酸によって洗浄された細胞に染色が変ることなく見られたことは、その免疫染色が 確かに細胞内に内在化した抗体によるものであることを支持しており、その染色が細 胞表面に非特異的に存在する抗体によるものではないことを示す。
実施例 8
[0092] (抗モータリンモノクローナル抗体の癌細胞選択的な細胞内内在化促進)
癌細胞(U20S)または正常細胞 (TIG- 1)を、抗モータリンモノクローナル抗体と抗 I L-lR,typel抗体とともに培養した。細胞を図 27に示す抗体の組み合わせで 30分培 養し、固定した後、内在化した抗モータリンモノクローナル抗体を FITC結合抗マウス 2次抗体で検出した。
[0093] (結果)
抗モータリンモノクローナノレ抗体(37— 1、 37— 6、 38—4、 71— 1、 96— 5) ίま、選 択的に癌細胞の細胞内に内在化した。クローン 37—1、 37-6, 38— 4では、抗 IL-1
R'typel抗体 (Monoclonal Anti-human IL- IRtypel Antibody ^ R&D Sysytems Inc.製、 Catalog Number :MAB269)とともに培養したとき、癌細胞内への内在化の促進が見 られた。正常細胞においては、どのクローンも内在化の促進は見られず、むしろ、減 少が見られた。
[0094] (抗 IL-lR,typel抗体共存ィ匕における抗モータリンモノクローナル抗体の癌細胞選択 的細胞内内在化促進)
抗モータリンモノクローナル抗体(クローン 37— 1、 37— 6又は 38— 4)と抗 IL- lR,ty pel抗体の共存下で、癌細胞 (U20S)または正常細胞 (TIG-1)を培養した。細胞を 2
4時間後に固定した後、 FITC結合抗マウス抗体で抗モータリンモノクローナル抗体 を検出した。
[0095] (結果)
図 28に示すのは、抗 IL-lR,typel抗体により抗モータリンモノクローナル抗体(クロ ーン 37— 1、 37-6, 38— 4)の癌細胞内への内在化が促進されることである。
癌細胞では 3つ全ての抗モータリンモノクローナル抗体において細胞内内在化が 見られたのに対し、正常細胞では細胞内内在化が見られな力つた。
[0096] (IL_lR,typelの発現抑制及び中和による抗モータリンモノクローナル抗体の癌細胞 選択的細胞内内在化促進)
図 29では、癌細胞(HepG2)において、 IL-lR,typelを発現抑制すると、抗モータリ ンモノクローナル抗体の癌細胞内内在化が選択的に促進されることを示した。 IL-1R の発現が高い癌細胞(HepG2)に対し、 shRNA発現プラスミドを用いて IL-lR,typel の発現をノックダウンした。このトランスフエクシヨンした細胞を、図 29に示す抗モータ リンモノクローナル抗体及び抗 IL-lR,typel抗体の組合せ存在下のもと培養した。細 胞を固定した後に、 FITC結合マウス 2次抗体を用いて細胞を可視化した。
[0097] (結果)
shRNAによる IL- lR,typelの発現抑制により、及び、 IL- lR,typel特異的な抗体によ るレセプターの中和により、癌細胞での抗モータリンモノクローナル抗体の細胞内内 在化が促進された。 IL-lR,typelに対する shRNAまたは特異的な中和抗体は、抗モ 一タリンモノクローナル抗体の正常細胞への内在化には影響を及ぼさな力つた。
実施例 9
[0098] (癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖 ·転移の関係 その 1)
まず、モータリン過剰発現用癌細胞株を準備した。ヌードマウスに腫瘍形成しない 乳癌細胞(MCF7)において、レトロウイルス発現ベクターを用いてモータリンを過剰発 現させた。 mycタグの付いたモータリンの過剰発現力 抗 myc抗体を用いたウェスタン .ブ口ティング法により、検出された(図 30)。泳動するタンパク質量の調整には、内在 性モータリンとァクチンを内部対照として用いた。
[0099] (癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖 ·転移の関係 その 2)
次に、モータリン過剰発現による悪性腫瘍の増殖性への影響をチェックした。図 31 では、レトロウイルス発現ベクターを用いて乳癌細胞(MCF7)にモータリンを過剰発 現させ、定常的にモータリンを過剰発現するこの乳癌細胞がヌードマウスにおいて腫 瘍形成するかどうか調べた。
[0100] (結果)
モータリンを過剰発現して 、る乳癌細胞 (MCF7)はヌードマウスにお 、て腫瘍形成 したのに対し、モータリンを過剰発現して ヽな 、元の乳癌細胞はヌードマウスにお ヽ て腫瘍形成しな力 た。
上記より、モータリンの過剰発現は、悪性腫瘍を増殖させる。つまり、モータリンは癌 治療にふさわしい標的であると考えられる。
[0101] (癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖 ·転移の関係 その 3)
図 32において、癌細胞におけるモータリン過剰発現と転移の関係を分析した。レト ロウィルス発現ベクターを用いて MCF7細胞にモータリンを過剰発現させ、モータリ ンを定常的に過剰発現している細胞の走ィ匕性を調査した。尚、走ィ匕性テストは、癌細 胞の転移にっ 、て信頼性のある指標となる。
走ィ匕性アツセィは実験対照細胞とモータリンを過剰発現させた MCF7細胞で行った 。 60%〜70%コンフレンシ一の細胞を冷 PBSで洗浄し、トリプシン処理した後に、細胞 密度 2 X 105 cells/mlになるよう 0.5%FBS(Sigma)を含む DMEMに再懸濁した。 Transwel 1(12 mm- pore, Costar )の内部部分に 2 X 104 cells/mlになるように細胞を撒き、製造 者の使用説明書にしたがって、インべイジヨン'アツセィを行った。化学誘引物質とし
ては、ヒト血漿由来のフイブロネクチン (Sigma)を使用した。
[0102] (結果)
モータリンを過剰発現して!/、る MCF7細胞では走化性が見られたが、元の MCF7細 胞では見られな力つた。
モータリンの過剰発現は、癌細胞に転移する性質をもたらしている。つまり、モータ リンが癌の転移治療にふさわしい標的であると考えられる。
[0103] (癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖 ·転移の関係 その 4)
図 33で、癌細胞におけるモータリン過剰発現と増殖 ·転移の関係をさらに調べた。 レトロウイルス発現ベクターを用いて MCF7細胞にモータリンを過剰発現させ、モー タリンを定常的に過剰発現して 、る細胞の運動性をスクラッチ ·ウーンドアッセィによ つて調べた。尚、スクラッチ 'ウーンドアッセィは、癌細胞の転移についての信頼性で きる指標になる。フイブロネクチン(10マイクロ g/ml)で表面をコートされたディッシュ上 に、細胞を単層培養した。この単層培養の細胞に P-200ピペットチップで線を引き、 完全に細胞を力きとることで、外傷を形成させた。細胞残屑を除去するために細胞を PBSで数回洗浄し、再び培地を足した。引つ力き傷 (スクラッチ 'ウーンド)を作った時 間を 0とした。続く 48時間の間、細胞を増殖させ、外傷へと移動させた。外傷への細 胞の移動は、位相差顕微鏡の 10倍対物レンズによって観察し記録した。
[0104] (結果)
モータリンを過剰発現して!/、る MCF7細胞と U20S細胞は、スクラッチ ·ウーンドアツ セィにおいて、高い運動性を示した。モータリンの過剰発現は、癌細胞に転移する性 質をもたらしている。つまり、モータリンが癌の転移治療にふさわしい標的であると考 えられる。
実施例 10
[0105] (抗モータリン抗体による正常細胞と癌細胞の免疫染色パターン)
抗モータリンモノクローナル抗体(図 34)又は抗モータリンポリクローナル抗体(図 3 5)を使用して染色パターンをチェックした。
図 34は、癌細胞集団中に存在する老化細胞の検出に抗モータリンモノクローナル 抗体を使用することについての図である。正常細胞 (TIG- 1)と癌細胞 (U20S)を抗モ
一タリンモノクローナル抗体用いて免疫染色した。
図 34に示されるように、正常細胞では細胞質全体に広範に染色が見られるが、癌 細胞では核の周囲に染色が見られた。このような染色パターンの違いは、ポリクロー ナル抗体を用いたときにも見られたものである。
図 35は、老化誘導された癌細胞におけるモータリン染色パターンの変化について の図である。ウイタフエリン A (ァシュヮガンダからの粗抽出物に含まれる成分)などの ファイトケミカル、過酸化水素、又は、ァザシチジンによって、癌細胞に老化を誘導し た。細胞は薬剤処理後に固定し、抗モータリンポリクローナル抗体 (K-抗体)を用い てモータリンを免疫染色した。
老化を誘導した細胞 (老化は細胞の増殖停止と P53の誘導(図 35中のグリーン染色 部分)で確認済)では、モータリンの染色が核膜周囲での集中したパターンから、細 胞質全体に広がるパターンに変わって ヽた(図 35中の赤色染色部分)。
実施例 11
[0106] (抗モータリンモノクローナル抗体をキャリア一とし、 Qdotで細胞をライブイメージ化さ せた実験)
図 36は、抗モータリンモノクローナル抗体のライブイメージに関する図である。 Qdot (量子ドット)を結合させた抗モータリンモノクローナル抗体 (37-6)存在下で癌 細胞 (U20S)を培養した。 24時間の培養後、細胞を固定ィ匕するケースと固定ィ匕しない ケースに分けて細胞内の抗体を可視化した。また、 Qdotを結合させた抗モータリンモ ノクローナル抗体を除去し 1-2回細胞分裂させた後、固定ィ匕し Qdotを観察した。
[0107] (結果)
Qdotを結合させた抗モータリンモノクローナル抗体は細胞内に内在化し、細胞分 裂後であっても細胞は Qdotラベルされて 、た。
産業上の利用可能性
[0108] 本発明者らは、モータリンが細胞分裂の制御に関与し、腫瘍の成長と密接に関係し ていることを明らかにした。モータリンは癌治療の新たな標的として有用である。モー タリンを中和する物質を用いることにより、癌の治療のための新たな手段が提供でき る。
配列表フリーテキスト
〈210〉 1
〈223〉 抗原 P
〈210〉 2
〈223〉 抗原。
〈210〉 3
〈223〉 抗原 R
〈210〉 4
〈223〉 抗原 S
〈210〉 5
〈223〉 抗原 T
〈210〉 6
〈223〉 ヒトヒートショック 70kDa蛋白質 9B (モータリン 2XHSPA9B)
(.nuclear gene encoding mitochondrial protein; ACし ESSION NM— 004134 〈210〉 7
〈223〉 IL-lR-type 1ターゲットサイト
〈210〉 8
〈223〉 shRNA
〈210〉 9
〈223〉 IL-lR-type 1ターゲットサイト
〈210〉 10
〈223〉 shRNA