明 細 書
胚性幹細胞から分化した体性幹細胞の製造方法、及びその用途 技術分野
[0001] 本発明は、胚性幹細胞から分化した体性幹細胞の製造方法及びその用途に関し、 さらに詳しくは、胚性幹細胞を選択的に、効率よく体性幹細胞へ分化誘導して体性 幹細胞を作成し、分離し、増幅する方法、そのようにして得られる体性幹細胞及びそ の用途に関する。
背景技術
[0002] 近年、幹細胞を利用する再生医学及びその応用としての再生医療に注目が集まつ ている。再生医療機構の戦略として、 1) ES細胞を用いる方法、 2)体性幹細胞を利 用する方法、の 2つの戦略が想定されている。原則として、細胞や組織の移植を含む 再生医療に用いる分化した細胞は、その表現型が均一であり、かつ同一系列の子孫 を産生することが要求される。
[0003] 胚性幹細胞(embryo stem cell;胚幹細胞、以下、「ES細胞」という)は、胎生発達に おいてあらゆる組織を構成する細胞種に分化する多分化能を有する未分化胚芽細 胞の内部細胞塊由来の単一の細胞株であり、培養により永続して正常の核型を維持 したまま細胞増殖することができ(自己複製能)、さらに多種の細胞へ分ィ匕することが できる(多分化能又は全能性)ことを特徴として ヽる。全能性を有する ES細胞は本質 的に全種類の細胞に分化する能力があると考えられており(非特許文献 1)、ヒトの治 療に有用な様々な細胞及び組織の供給源になりうると期待されて 、る。
[0004] 従って、 ES細胞を利用する方法は、該細胞の持つ高!ヽ分ィ匕能のため、様々な組 織、臓器の疾患に対する治療法の確立に結びつくことが期待される。しかし、通常の 条件下で ES細胞が自然分化すると、ある範囲にわたる種々の細胞系譜に相当する 非常に不均一な表現型の混合物からなる細胞集団が生じる。し力も、現在利用可能 な誘導手段によっては ES細胞の分ィ匕の方向を厳密に制御することはほぼ不可能で ある。従来の ES細胞の分化誘導系の場合、意図しない組織へ分ィ匕したり、未熟な E S細胞が残存することによる腫瘍発症の危険性がある。
[0005] 体性幹細胞 (成体幹細胞又は組織幹細胞)は既に形作られた組織の中から採取さ れる、分化する前の未分化細胞であり、分化後は、通常、特定の組織において定め られた機能を果たす細胞である。従って、体性幹細胞は固有の組織細胞へ分化する 能力と、分裂した際自己と同じ能力を持つ細胞を複製する能力(自己複製能力)とを 有し、上記 ES細胞におけるランダムな分ィ匕の危険性が低ぐより安全に使用すること 力 Sできる。体性幹細胞は既に骨髄、血液、角膜、肝臓、皮膚の他、脳や心臓にも存 在することが確認されており、これらの組織から単離した体性幹細胞の研究が進めら れている。しかし、体性幹細胞を組織力 得、高純度で継代して増幅し維持すること は、手技的にも倫理的にも極めて困難である。従って、実用化のためには、インビトロ 増殖させ高純度の体性幹細胞を十分量供給する必要があるが、技術的及び社会的 な問題が未解決なままである。例えば、神経幹細胞の場合、胎生期の脳より分離して 培養する方法が確立して ヽるが、生体組織力ゝらそのような体性幹細胞を採取すること には倫理的な問題が存在する。また、 ES細胞を意図した体性幹細胞のみへ分ィ匕誘 導、保持及び増幅する方法は確立されておらず、従来の方法で得られる細胞には、 未分化 ES細胞や分化途上の未成熟な細胞、予期しな!ヽ系列へと分化した細胞など が混在して 、ると 、う問題点もあった。
[0006] このように、従来の ES細胞の分化誘導法では、最終分化を来した細胞を同定する ことはできるが、再生医療の基盤となる体性幹細胞を、効率よく作成し、同定し、単離 して長期間安定に維持することは困難である。再生医学、医療をさらに進展させるた めには、目的の体性幹細胞を ES細胞力 効率よく作成、同定し、任意に制御する基 盤技術、それら体性幹細胞の機能再構築能を生体において評価するシステム、及び その機序解明の方法の確立が不可欠である。
[0007] 体性幹細胞を、その能力を維持したままインビトロで高純度で継代する系が確立さ れれば、該体性幹細胞をさらに分化させて得られる細胞を増殖させたり、組織を形成 させ、それらを患者の必要な部位に移植することができる。
あるいは、該体性幹細胞をインビボで増殖、分化させる外的因子を、インビトロで増 殖させた体性幹細胞と一緒に、又は単独で患者の必要な部位に適用し、該部位で 体制幹細胞を分化を誘導する方法も利用しうる。
[0008] 体性幹細胞は広範な組織や器官における再生医療に有用である力 神経幹細胞 は、従来治療が困難又は不可能と考えられていた神経系疾患の治療を可能にする ものとして、大いに期待されている。
哺乳類の中枢神経組織形成に係る神経幹細胞は脳 ·脊髄等に存在し、ニューロン を含む多様な神経細胞、ァストロサイト、オリゴデンドロサイトの 3種の細胞に分ィ匕して 中枢神経系の発生及び維持に寄与している。既に神経幹細胞を利用したパーキンソ ン病、網膜色素変性、脊髄損傷等に対する移植治療、神経の再生医療の研究が行 われている。
[0009] 神経幹細胞を安定に生産し維持するためには、 ES細胞から神経系への限局した 分ィ匕誘導をコントロールできる実験系が必要である。従来、 ES細胞より分化成熟した 神経細胞、ァストロサイト、オリゴデンドロサイトを形成させたとの報告は多数存在する (例えば、非特許文献 2、 3)。しかし、その過程で形成されると推測される神経幹細胞 につ!/、ては、神経幹細胞のマーカーを発現する細胞を確認したとの報告は散見され る力 神経幹細胞を分取し、安定した形で保持、増幅した例はない。
[0010] Mckayらは ES細胞カゝら無血清下で接着培養させ、増殖したネスチン陽性細胞を誘 導し、この細胞をラット胎児の脳室内に移植して-ユーロン、ァストロサイト、オリゴデ ンドロサイトへの分ィ匕を確認したことを報告している(非特許文献 4)。また、 Trop印 eら は、繊維素細胞増殖因子- 2(FGF-2)と白血病阻止因子 (LIF)の存在下、 ES細胞を無 血清培養すると、頻度は少ないが、神経幹細胞又は神経前駆細胞へ分化誘導され たと報告している (非特許文献 5)。その他、脊椎動物の神経分化を媒介する細胞内 因子として、内胚葉組織力ゝら抽出された分子であるノギン (Noggin)やコルジン( Chordin)が二次神経軸の形成を誘導することが示された。これらは神経分化を強く 抑制する TGF βスーパーファミリーの 1つである骨形成タンパク (BMPs)と細胞外で結 合することによって作用する。また、神経誘導における FGFシグナルの関与も示され ており、 Q.L. Ying等は FGF4が ES細胞の早期神経分ィ匕の誘導に関与していることを 報告した (非特許文献 6)。さらに、 ES細胞と骨髄の間質細胞を共培養して、 ES細胞 より神経系統の細胞を作成したことも報告されている (非特許文献 7)。しかし、これら の文献では ES細胞力 効率よく神経幹細胞を誘導する方法やそれに関する因子(
分子又は物質)は解明されていない。
[0011] 例えば、 ES細胞をストローマ細胞と共培養して、外胚葉細胞に分化させる方法が 開示されており(非特許文献 2、特許文献 1)、ドーパミン作動性神経細胞等まで分化 したとの記載はある力 神経幹細胞の分離、増殖や関連因子の同定については明確 に記載されていない。
[0012] ES細胞をノギン蛋白質存在下で浮遊培養する力、ノギン蛋白質の存在下又は非 存在下で培養して得られる胚葉体を繊維芽細胞増殖因子及びソニックヘッジホッグ 蛋白質の存在下で浮遊培養することによる、神経幹細胞 (ニューロスフェア)の誘導 方法が開示されている(特許文献 2)。しかし、この方法は、 ES細胞から胚様体( Embrioid body)を形成させた後、体性幹細胞へと分ィ匕させているため、目的以外の 細胞へ分化する細胞が混在している可能性があり、形成効率、長期にわたる神経幹 細胞の性質保持という点からも問題があると考えられる。また得られる-ユーロンは運 動-ユーロンと GABA-ユーロンのみである。
[0013] また、一定条件下で幹細胞集団 (胚性幹細胞など)を培養して分ィ匕を惹起し、神経 前駆細胞、分ィ匕した-ユーロン、グリア細胞、及びァストロサイトの集団を作成したこと が記載されている (特許文献 3)が、神経前駆細胞集団に神経幹細胞が高純度で存 在する力否かは不明である。
[0014] さらに、分化誘導物質や成長因子の存在下で ES細胞を培養した後、分化した細 胞の表現型(例えば、ポリシアル酸付加型 NCAM又は A2B5ェピトープの有無)により 細胞を選別し、神経細胞集団を得る方法が記載されている(特許文献 4)が、必ずし も神経幹細胞を効率よく調製することはできな 、。
[0015] 特許文献 1: WO001/088100号パンフレット
特許文献 2:特開 2002-291469号公報
特許文献 3:特表 2003-533224号公報
特許文献 4:WO001/088100号パンフレット
特許文献 5:特開 2002-291469号公報
非特許文献 1 : R.A. Pedersen, Scientif. Am. 280 (4) : 68(1999)
非特許文献 2 : Kawasaki H.等、 Neuron, vol. 28, 31-40(2000)
非特許文献 3 : Nakayama T.等、 Neuroscience Research 46 241-249 (2003) 非特許文献 4 : Mckay,等、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 14809-14814 (1997) 非特許文献 5 : Tropepe等 Neuron 30, 65-78 (2001)
非特許文献 6 : Q丄. Ying等、 Nat. BiotechnoL, 21, 183-186 (2003)
非特許文献 7 : Barberi T.等、 Nature Biotechnology 21, 1200-1207 (2003) 発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0016] 本発明は、体性幹細胞を ES細胞から効率よく分化誘導し、分取し、安定した形質 を保持したまま長期にわたって増幅する方法を提供することを目的としている。 本発明はまた、そのようにして榭立された体性幹細胞の再生医学 ·医療における用 途を提供することを目的として!、る。
さらに本発明は、体性幹細胞を ES細胞カゝら分ィ匕誘導するための液性因子をスクリ 一二ングし、評価する方法を提供することを目的としている。
特に、本発明は神経幹細胞を効率的に供給する手段を提供することを目的として いる。
課題を解決するための手段
[0017] 本発明者らは、 ES細胞を初代体性幹細胞と共培養すると、培養物中に ES細胞の 自然分化で生成する体性幹細胞に比べて有意に多くの体性幹細胞が存在するとの 知見を得、その培養上清をさらに詳しく分析して ES細胞力 体性幹細胞への分ィ匕誘 導に係る液性因子の分離、同定に成功し、本発明を完成するに至った。
本発明は以下の通りである。
(1) ES細胞を体性幹細胞の初代培養の培養液の存在下で培養することを特徴とす る、 ES細胞を当該体性幹細胞に分化誘導する方法。
(2) ES細胞を、(A)初代体性幹細胞と共培養する、(B)体性幹細胞の初代培養の 培養上清の存在下で培養する、又は (C)体性幹細胞の初代培養由来の、 ES細胞 から当該体性幹細胞への分化促進因子の存在下で培養することからなる、 (1)記載 の方法。
(3)体性幹細胞が神経幹細胞である、 (1)又は(2)に記載の方法。
(4) ES細胞をシスタチン C、又はその ES細胞から体性幹細胞への分化促進活性を 有する誘導体若しくはフラグメントで処理することを特徴とする、 ES細胞を神経幹細 胞に分化誘導する方法。
(5)神経幹細胞が-ユーロン、ァストロサイト及び Z又はオリゴデンドロサイトに分ィ匕し うる神経幹細胞である、(3)又は (4)に記載の方法。
(6)サイト力インの共存下で行うことを特徴とする、 (1)〜(5)の 、ずれかに記載の方 法。
(7)サイト力インが白血病抑制因子 (LIF)、塩基性繊維芽細胞増殖因子 (bFGF)及 び表皮増殖因子 (EGF)からなる群から選択される、 (6)記載の方法。
(8)シスタチン C又はその ES細胞から体性幹細胞への分化促進活性を有する誘導 体若しくはフラグメントからなる、 ES細胞力も体性幹細胞への分ィ匕誘導因子。
(9)上記(1)〜(7)の ヽずれかに記載の方法で調製される体性幹細胞。
(10)神経幹細胞である、上記(9)に記載の体性幹細胞。
(11)上記(9)又は(10)に記載の体性幹細胞をさらに分化促進因子の存在下で培 養することを特徴とする、インビトロで生体細胞、組織又は器官を調製する方法。
(12)上記(1)〜(7)の 、ずれかに記載の方法で調製される体性幹細胞又は上記(1 1)に記載の方法で調製される生体細胞、組織又は器官を、それらの移植を必要とす る生体に移植することを含む、哺乳動物における欠損若しくは障害に基づく疾患の 治療法。
(13)欠損性疾患が中枢神経外傷、中枢神経変性症、脊髄損傷又は網膜疾患であ る、上記(12)記載の方法。
(14)神経疾患がアルッノヽイマ一病、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病、虚血性 脳疾患、てんかん、脳外傷、背堆損傷、運動神経疾患、神経変性疾患、網膜色素 変性症、内耳性難聴、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、又は神経毒物の障害 に起因する疾患である、上記(13)記載の方法。
(15)上記(3)又は (4)に記載の方法で調製される神経幹細胞を被検化合物の存在 下又は非存在下で培養し、体性細胞への分化の程度を比較することを特徴とする、 中枢神経疾患治療薬の有効性及び Z又は安全性を評価する方法。
(16)被検物質の存在下及び非存在下で上記(1)〜(7)のいずれかの方法を行い、 該被検物質の存在下と非存在下で、 ES細胞力ゝら体性幹細胞への分ィ匕を比較するこ とを特徴とする、 ES細胞力 体性幹細胞への分ィ匕促進因子をスクリーニングする方 法。
( 17)被検物質の存在下及び非存在下で上記( 16)の方法を行い、該被検物質の存 在下と非存在下で、 ES細胞から体性幹細胞へ分化を比較することを特徴とする、 ES 細胞から体性幹細胞への分化調節に関連する物質の評価方法。
(18)上記(16)記載の方法で得られる分化促進因子を含有する組成物。
(19)上記(16)記載の方法で得られる分化促進因子を含有する医薬組成物。
(20)シスタチン C、又はその ES細胞から体性幹細胞への分化促進活性を有する誘 導体若しくはフラグメントを哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物における欠損 若しくは障害に基づく疾患を治療する方法。
(21)疾患が中枢神経外傷、中枢神経変性症、脊髄損傷又は網膜疾患である、上記 (20)記載の方法。
(22)神経疾患がアルッノヽイマ一病、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病、虚血性 脳疾患、てんかん、脳外傷、背堆損傷、運動神経疾患、神経変性疾患、網膜色素 変性症、内耳性難聴、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、又は神経毒物の障害 に起因する疾患である、上記(21)記載の方法。
発明の効果
本発明の効果を以下に例示する。
1) ES細胞を体性幹細胞の初代培養の培養液の存在下で培養する、例えば、(A) 初代体性幹細胞との共培養、 (B)体性幹細胞の初代培養の培養上清の存在下での 培養、又は (C)体性幹細胞の初代培養由来の分ィ匕促進因子の存在下で培養するこ とことにより、 ES細胞を体性幹細胞に転換させるシステムの開発に寄与することがで きる。
2)効率よく ES細胞を体性幹細胞に分化誘導できるので、未分化 ES細胞や分化途 中の細胞が混在しない生成物を得ることができ、再生医学、再生医療の研究、開発 を進展させる。
3)胚様体 (Embrioid body)を形成しな!、ので、目的目的以外の細胞へ分化する体性 幹細胞へと分ィ匕誘導する恐れがなぐ高純度の体性幹細胞を得ることができる。
4)得られる体性幹細胞の幹細胞活性が高ぐ安定であるため長期間活性を維持して 保持できる。
5)未分化 ES細胞や、 ES細胞から体性幹細胞への中間に位置する細胞を殆ど含有 せず、効率的に体性幹細胞を分化誘導できるので、生成物である体性幹細胞は移 植、再生治療に安全に使用できる。
6)体性幹細胞の初代培養中に ES細胞の体制幹細胞への分化誘導に関与する因 子が存在することを開示したことにより、そのような因子の開発研究を進展させる。
7)具体的には、初代神経幹細胞の培養上清に含まれるシスタチン C又はその誘導 体、フラグメント等を用いる ES細胞から神経幹細胞への分化誘導法が提供される。
8)分化誘導された神経幹細胞は、インビトロ、インビボでドーパミン作動性-ユーロン を含む多様な神経細胞や、ァストロサイト、オリゴデンドロサイトに分ィ匕するので、該神 経幹細胞をもとに、種々の神経疾患の治療に利用可能な細胞を作成することが可能 になる。
図面の簡単な説明
[図 1]GFP—標識 ES細胞を初代神経幹細胞 (NSC)の存在下又は非存在下、無血清 培地で 21日間培養することで分化誘導し、形成されたスフエアの明視野及び蛍光顕 微鏡写真である。上方パネルは明視野、下方のパネルは蛍光を検出した像を表す。
[図 2]Aは ES細胞単独と、 NSCの存在下でのスフエアの数を比較したグラフであり、 B は共培養で得られた GFP陽性-ユーロスフェア細胞の DNA含量を示すヒストグラムで ある。
[図 3]ソーティングした GFP陽性の ES細胞由来のスフエアを無血清培地で培養した場 合の増殖能を示すグラフである。
[図 4]A、 B、 Cは図 3記載の増殖能を有するスフエアを接着培養してさらに分ィ匕誘導 して形成される神経系細胞の顕微鏡写真である。
[図 5]Aは ES細胞を CMPNCと共培養した場合に形成される ES細胞由来のニューロ スフエアの総数であり、 Bは構成する細胞数と、 CMPNC濃度の関係を示すグラフであ
る。 Cは組織切片力も得た RNAを用いる RT- PCRによる増幅生成物を電気泳動して 得られた泳動パターンの模写図である。
[図 6]CMPNC処理した ES細胞由来の-ユーロスフェアを分離し、無血清培地で培養 して、継代した場合の細胞増殖を示すグラフである。
[図 7]A〜Cは CMPNC処理した ES細胞由来の-ユーロスフェアを分離し、無血清培 地で培養して、継代した場合のスフエアの形成過程を示す顕微鏡写真であり、 D〜F は該ニューロスフェアを神経幹細胞へ分化誘導した場合の分化細胞の蛍光顕微鏡 写真である。
[図 8]A〜Dは CMPNC処理と非処理群での ES細胞由来-ユーロスフ アをさらに分 化させた細胞の免疫染色の結果を示す写真である。
[図 9]ES細胞由来ニューロスフェアをさらに分ィ匕させた細胞における、細胞マーカー 陽性細胞の比率と培養時間との関係を示すグラフである。
[図 10]A〜Dは CMPNCと共培養して分化誘導した-ユーロスフェアのコロニーを接触 培養して得られた細胞の免疫組織染色による顕微鏡写真である。
[図 11]Aは既知の分化促進因子と CMPNCの、 ES細胞分化誘導効果を比較したダラ フであり、 Bは CMPNCを熱処理した場合の ES細胞分ィ匕誘導活性の変化を示すダラ フであり、 Cは、 CMPNCを分子量により分画した各分画の ES細胞分化誘導効果を示 すグラフである。
[図 12]Aは初代神経幹細胞の培養上清を精製して SDS-PAGEに供して得られ電気 泳動パターンであり、 Bはそれぞれのバンド由来のトリプシン処理ペプチドの分子量 分析の結果を示すチャートであり、 Cは該トリプシン処理ペプチドのアミノ酸配列であ る。
[図 13]Aはシスタチン Cの濃度と、 ES細胞を 21日間浮遊培養して得られた ES細胞由 来のスフエアの総数との関係を示すグラフ、 Bはスフエア総数と、各種サイト力インとの 併用との関係を示すグラフである。 Cは組織切片力も得た RNAを用いる RT-PCRによ る増幅生成物を電気泳動して得られた泳動パターンの模写図である。
[図 14] A〜Hはシスタチン Cにより分化誘導された ES細胞由来のスフエアの免疫染 色による顕微鏡写真である。
[図 15] Aはシスタチン Cで処理した ES細胞由来の-ユーロスフェアを分離し、無血清 培地で培養して、継代した場合の細胞増殖を示すグラフであり、 B〜Dはスフェアの 形成過程を示す顕微鏡写真である。
[図 16]A、 Bはシスタチン Cの存在下又は非存在下で形成された ES細胞由来スフェ ァを分化させた場合の細胞像を示す顕微鏡写真である。
[図 17]Aは培養 3, 7日目の神経系細胞の割合を示すグラフである。 Bは細胞レベル でのいくつかの転写因子の発現の差を評価するための、 RT-PCRにおける電気泳動 の泳動パターンの模写図である。
発明を実施するための最良の形態
本発明は、 ES細胞を、初代体性幹細胞 (primary somatic stem cell culture)、例え ば初代神経幹細胞(primary neurosphere culture)の培養液の存在下で培養すること により ES細胞を当該体性幹細胞に分化誘導する方法、換言すると、胚性幹細胞から 分化した体性幹細胞を製造する方法、要するに ES細胞の新規な分化誘導系を提供 するものである。以下に、神経幹細胞を代表例として、本発明を説明するが、本発明 は神経系細胞に限定されな 、。
(1) ES細胞 (胚性幹細胞又は胚幹細胞)
ES細胞は、インビトロで増殖可能であり、生体を構成するすべての細胞に分化しう る多分化能を有する細胞を包含する。本発明に用いる ES細胞には、(a)着床以前の 初期胚を培養することによって榭立した哺乳動物等の ES細胞、(b)体細胞の核を核 移植することによって作製された初期胚を培養することによって榭立した ES細胞、及 び (c) (a)あるいは (b)の ES細胞の染色体上の遺伝子を遺伝子工学の手法を用い て改変した ES細胞が包含される。上記 (a)に記載の ES細胞としては、具体的には、 初期胚を構成する内部細胞塊より榭立された ES細胞、始原生殖細胞から榭立され た EG細胞、着床以前の初期胚の多分ィ匕能を有する細胞集団(例えば、原始外胚葉 )から単離した細胞、あるいはその細胞を培養することによって得られる細胞が挙げら れる。悪性奇形腫より榭立された EC細胞も ES細胞と同様の性質を示すことが知られ ていることから、着床以前の初期胚を培養することによって榭立した哺乳動物等の E S細胞に包含される。
[0021] 本発明には、既に培養細胞として確立されている ES細胞を使用することができる。 例えば、マウス、ノ、ムスター、ブタ、サル、ヒト等の ES細胞株を使用することができる。 具体例としては、マウス ES— D3細胞株 (ATCC)やマウス CCE細胞株 (ATCC)が挙げ られる。
[0022] ES細胞は、血清を含む GMEM培地等にて継代培養しておくのが好ましい。 ES細 胞の培養方法も既知であり、一般的には、マ-ピュレイティング'ザ'マウス'ェンプリ ォ ·Τ·ラボラトリー,マ-ユアノレ (Methods in Enzymology, vol. 225, Guide to
TechniquES in Mouse Development, Academic PrESs(1993》等に記載されている方 法が使用できる。
具体的には DMEMに 0〜20 %FCS好ましくは約 15% FCS、 5〜20 mM、好ましくは約 10 mM非必須アミノ酸、 0.05〜0.2 mM、好ましくは約 0.1 mM 2-メルカプトエタノール 、及び分化促進因子、好ましくは LIF (白血病阻害因子) (約 1000 U/ml)を添加した培 養液を用いる。培養は 5% CO条件下、 35〜40°Cで行うのが好ましい。
2
LIFは ES細胞を未分ィ匕状態に維持することができる因子であるが、同様の因子とし て、 LIFの受容体のサブユニットの 1つである gpl30を活性化する IL-6、 CNTF等によ つても ES細胞を未分ィ匕状態に維持することが可能である。
[0023] (2)体性幹細胞
本発明は、 ES細胞の全能性に鑑みて、原則としてあらゆる体性幹細胞に適用する ことができる。本明細書中、単に「体性幹細胞」というときは、原則として本発明方法に より ES細胞から分化誘導された体性幹細胞を意味し、「初代体性幹細胞」というとき は、体性幹細胞の初代培養を意味する。
体性幹細胞の初代培養は、組織から得て、それぞれに適した培地で培養すること により調製するか、市販品を使用することができる。初代培養の作成方法は当該技術 分野で既知であり、例えば、文献 [実験手引き書: Methods in Molecular vol.198 (15-27) Humana Press〈以下、「実験手引書」と証する)]に記載の方法で作成できる。 本発明方法は、あらゆる体性幹細胞に適用可能である力 なかでも神経幹細胞に好 適に用いられる。
初代体性幹細胞を培養するための培地も既知であり、上記の文献等に記載されて
いる。例えば、体性幹細胞が神経幹細胞である場合、後述の実施例に記載の培地、 それと同等の培地が適する。
[0024] 体性幹細胞及び ES細胞の起源としては、脊椎動物、中でも温血動物、さらにはマ ウス、ラット、モノレモット、ノヽムスター、ゥサギ、ネコ、ィヌ、ヒッジ、ブタ、ゥシ、ャギ、サ ル、ヒト等の哺乳動物が挙げられる。
[0025] 1)神経幹細胞(1つの形態学的特徴としてニューロスフェアーを呈する)
神経幹細胞とは、神経細胞 (ニューロン)、ァストロサイト(ァストログリア細胞、星状 膠細胞)及びオリゴデンドロサイト (希突起神経膠)に分ィ匕しうる能力を有し、かつ自 己複製能力を有する細胞を意味する。 ES細胞のようにすベての細胞に分化する多 分ィ匕能は有していないが、脳内において神経細胞、ァストロサイト、オリゴデンドロサ イトを供給する機能を有する。従って、本発明方法で ES細胞から分化誘導された生 成物が神経幹細胞である力否かの判定は、該細胞を実際に脳に移植して分ィ匕能を 確認する方法、インビトロで神経幹細胞を神経細胞、ァストロサイト、オリゴデンドロサ イトに分ィ匕誘導して確認する方法などが挙げられる(Mol. Cell Neurosci, 8,380-404 (1997); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 14809—14814 (1997)) 0
又は、神経前駆細胞での発現が確認されている細胞骨格蛋白質ネスチンを認識す る抗ネスチン抗体で染色可能である(R. Mckay, Science, 276, 66 (1997))ので、抗ネ スチン抗体で染色することによって確認することもできる。
[0026] 2)ニューロン
ニューロンは、一般に、神経細胞が産生する神経伝達物質の違いにより分類されて おり、具体的には、神経伝達物質、神経伝達物質の合成酵素などに基づいて分類さ れている。神経伝達物質は、ペプチド性、非ペプチド性に大別され、非ペプチド性の 神経伝達物質としては、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニン、ァセ チルコリン、 γァミノ酪酸、グルタミン酸が挙げられる。ドーノミン、ノルアドレナリン、ァ ドレナリンの 3種類をカテコールアミンと称する。これらの神経伝達物質で分類される 神経細胞としては、例えば、ドーパミン作動性神経細胞、アセチルコリン作動性神経 細胞、 γァミノ酪酸作動性神経系細胞、セロトニン作動性神経細胞、ノルアドレナリ ン Ζアドレナリン作動性神経細胞、グルタミン酸作動性神経細胞などが挙げられる。
ドーパミン作動性神経細胞、ノルアドレナリン Zアドレナリン作動性神経細胞はカテ コールァミン作動性神経細胞と総称される。
本発明の分化誘導法は、神経細胞、好ましくはドーパミン作動性神経細胞、ァセチ ルコリン作動性神経細胞、 γァミノ酪酸作動性神経系細胞、セロトニン作動性神経 細胞への分ィ匕誘導に用いられる。
[0027] (3) ES細胞を体性幹細胞の初代培養の培養液の存在下で培養することによる ES細 胞の分化誘導
本発明の、 ES細胞を体性幹細胞に分化誘導する方法は、具体的には (Α)該体性 幹細胞に対応する初代体性幹細胞そのもの、 (Β)初代培養の上清、(C)培養上清 に含有される初代体性幹細胞由来の ES細胞分化促進因子、のいずれかの存在下 で ES細胞を培養すること等により実施されるがこれらに限定されない。なお、本発明 に関して、「共培養」という語句をこれらの態様を包含する意味で使用する場合もある
[0028] (Α)初代体性幹細胞
上記の通り、初代体性幹細胞を得、適当な培地で維持することにより得ることができ る。
[0029] (Β)初代体性幹細胞の培養上清
体性幹細胞の初代培養物より遠心分離 (例えば、 1500rpm、 5分、 3回)し、必要に 応じて適当なフィルター(例えば、 Millex- GV (0.22 μ m) Millipore)で濾過することに より得ることがでさる。
[0030] (C)初代体性幹細胞由来の ES細胞分化促進因子
「ES細胞分化促進因子」は一般に「液性因子」と称されるものを含み、体性幹細胞 の初代培養に分泌される物質 (通常、蛋白質)である。その同定、精製は、通常の活 性タンパク又はポリペプチドの培養上清からの単離精製法に準じて行うことができる。 例えば、常法に従い、硫安による塩析、エタノール等の有機溶媒による沈殿、イオン 交換クロマトグラフィゃゲルろ過、ァフィユティークロマトグラフィなどを、適宜組み合わ せて行う。得られた活性を含有する画分を、 ES細胞を含有する、分化誘導に適した 培地に添加し ES細胞から目的の体性幹細胞への分ィ匕誘導を観察することにより、 E
s細胞分化促進活性を有する画分を同定し、該画分から目的の因子を精製する。該 因子が蛋白質であれば、既存の蛋白質のデータと比較して同定する力、部分又は全 配列を決定し、それをプローブとして、該因子を分泌している初代体性幹細胞の cD NAライブラリーをスクリーニングして目的の蛋白質を同定することができる。このよう にして同定された因子は、その DNAを組み込んだ適当な発現ベクターを構築し、宿 主細胞に導入することにより、組換え蛋白質として大量生産することが可能である。 蛋白質の精製、同定、配列決定、組換え法による製造方法等は当該技術分野で既 知である。
[0031] 本発明方法には、 ES細胞から体性幹細胞への分化促進活性を有する ES細胞分 化促進因子 (野生型、組換え型)そのもの、並びにその活性を保持した誘導体 (例え ばアミノ酸の欠失、置換、挿入による変異体)若しくはフラグメント、あるいは同等の活 性を示すアナログも利用できる。そのような誘導体の製造法、活性部位の同定、活性 なフラグメントの調製は、当該技術分野で既知の方法により行うことができる。
[0032] 例えば、初代神経幹細胞力も分泌される ES細胞分ィ匕促進因子 (NDF:
neurosphere-derived factor)の同定は次の方法で実施できる。培養上清をフエ-ル 疎水親和性カラムを用い、硫安濃度を段階的に低下させて分画し、 NDF活性を含 有する画分を得、これを SDS— PSGEで解析する。ゲルからそれぞれのバンドの蛋白 質をトリプシン処理とともに抽出した後、分子量 (molecular mass)分析によって解析し 、目的の NDFが存在すると思われるバンドに相当する蛋白質について分析する。こ のようにして、神経幹細胞の活性な NDFとしてシスタチン Cが同定された。本明細書 中、シスタチン Cを含有する神経幹細胞培養物又は培養上清を CMPNC (conditioned medium of primary neurosphere cultureノと呼称する。従来; 0ら、ンス" 7"インブロア 7 ーゼインヒビターであるシスタチン C力 神経幹細胞の細胞増殖と神経細胞への分ィ匕 に関与する補助因子であることは知られていた(Neuron 28, 385-397 (200))が、 ES細 胞を神経幹細胞に効率的に分ィ匕誘導しうる NDFであることは知られていな力つた。 本発明には、ヒト又は哺乳動物由来のシスタチン Cを用いることができる。また、シスタ チン Cは生体に由来するものであっても、合成されたもの又は組換え体でもよい。さら に、シスタチン Cの ES細胞分化促進活性を有する誘導体 (例えばアミノ酸の欠失、置
換、挿入による変異体)若しくはフラグメント、あるいは同等の活性を示すアナログも 本発明に有用である。
[0033] (4)サイト力イン類
培地には、初代体性幹細胞を増幅させるのに必要なサイト力インを添加することが 好ましい。そのようなサイト力イン類として、白血病抑制因子 (LIF)、塩基性繊維芽細 胞増殖因子 (bFGF)及び表皮増殖因子(EGF)が挙げられる。中でも bFGFが好まし ヽ
[0034] (5)培養
初代体件榦細朐 の共焙着
1)本発明の、 ES細胞と初代体性幹細胞を共培養することからなる分化誘導法にお いて、 ES細胞に対する初代体性幹細胞の比率は、 ES細胞を目的の体性幹細胞に 分ィ匕誘導することが可能な割合であれば特に限定されない。しかし、一般に、 1〜20 : 1〜20、好ましくは 4〜: LO : l〜5より好ましくは約 7 : 3とすることができる。神経幹細 胞の場合も上記範囲でょ 、が、約 7: 3であることがとりわけ好ま 、。
2)この態様の場合、 ES細胞と初代体性幹細胞は同一培養系に存在することを条件 として、培養方法は任意であり、物理的に接触した状態、物質の行き来が可能な隔 壁 (フィルター)により隔てられ細胞自体の物理的接触ができな 、状態の!/、ずれでも よい。そのような培養方法は既知である。
[0035] 3) ES細胞と初代体性幹細胞を共培養し、 ES細胞から体性幹細胞を分化誘導する ための培地は、原則として、初代体性幹細胞の培養に適した培地であれば、任意で ある。例えば、神経幹細胞の場合には、無血清培地 (Reynolds and Weiss, Dev. Biol. 175, 1-13, 1996)の培養液を使用することができる。
[0036] 4)共培養は 5% CO条件下、 32〜37°Cで常法に従!、行うことができる。培養時間は
2
、通常 1〜5週間の間であり、約 3週間が好ましい。共培養中、数回、通常 2〜3日お きに、細胞を分離し、浮遊培養する。但し、上記の条件は制限的なものでなぐ必要 に応じて適宜変更される。
[0037] 体件榦細胞の初代焙着の培着卜.清、初代焙着由 の分化促進 子 (シスタチン C を含す。の存在下での培着
これらの態様における培養は、上記「共培養」に関して記載した培地及び培養条件 等を用いて行うことができる。
[0038] 5) ES細胞由来の体性幹細胞の形成
培養物に体性幹細胞が形成されていることの確認は、 ES細胞を予め GFP (緑色蛍 光タンパク)等で標識することにより実施できる。共培養で得られた培養物から、 GFP 標識された細胞を分離し、形成されるスフ ア (sphere)を蛍光顕微鏡で観察するほか 、セルソーティング、 DNA解析、免疫染色法、 RNA抽出と RT- PCR分析等で体性幹細 胞であることを確認することができる。また、培養物力も単離した GFP陽性細胞を分ィ匕 因子の存在下インビトロさらに分化させて体性細胞に特異的な遺伝子発現を検出す ることにより、共培養で得られた細胞が初代体性幹細胞に対応する体性幹細胞であ ることを ½認できる。
[0039] (6)体性幹細胞から体性細胞へのインビト口での分化誘導
得られた体性幹細胞を体性細胞さらには組織へ分化誘導するには、適当な分化誘 導因子の存在下、既知の方法で培養することにより行う。そのような方法は、例えば、 culture of hematopoietic cells (R. Ian Freshney, et.al. Wiley- Lis s'Inc, 205-221, 1994)等に記載されている。
[0040] (7) ES細胞から体性幹細胞への分化促進因子の用途
1)組成物
ES細胞力 体性幹細胞への分ィ匕促進因子を含有する組成物は、体性幹細胞さら には体性細胞、組織を形成するための試薬として利用される。
さらに、そのような組成物は ES細胞の体性幹細胞への分化増殖を促進する増殖促 進因子の活性を増強するために用いることができる。そのような増殖促進因子には、 FGF-2 (繊維芽細胞増殖因子— 2)、 bFGF (塩基性繊維芽細胞増殖因子)、 PDGF( 血小板由来増殖因子)、 HGF (肝細胞増殖因子)等が挙げられる。
2)医薬組成物
ES細胞から体性幹細胞への分化促進因子は、製薬的に許容される担体、賦形剤 と共に医薬組成物として調製しうる。そのような医薬組成物の投与形態、投与部位及 び用量は適宜医師により決定される。
3)分化促進剤
本発明のシスタチン Cで代表される ES細胞力 体性幹細胞への分ィ匕促進因子は、 単独で、又は必要に応じてサイト力インと共に、生体に直接適用して処理することに より、 ES細胞を体性幹細胞に分ィ匕誘導するために用いることができる。この処理によ り、例えば、後述の「体性幹細胞の用途」の欄に記載の、欠損若しくは障害に基づく 疾患を治療することが可能である。
[0041] (8)体性幹細胞の用途
1)本発明により調製される体性幹細胞は分ィ匕して、障害を受けた細胞の機能と同じ 機能を有する細胞、障害を受けた細胞の前駆細胞、障害を受けた細胞の機能を代 償する細胞を与えることができ、及び/又は障害を受けた細胞の再生を促進する機能 を有するので、医薬として有用であり、また移植等による再生医療に有用である。治 療用途は、得られる体性幹細胞が分ィ匕する細胞の種類に応じて様々であり、例えば 、ドーパミン産生細胞ならパーキンソン病、心筋細胞なら心筋梗塞、脾臓 |8細胞なら 糖尿病、血管内皮細胞なら動脈硬化症、骨細胞なら、骨欠損や骨粗鬆症、血液細 胞なら白血病や輸血用に、皮膚細胞なら火傷等による皮膚欠損に使用することがで きる。
神経幹細胞の場合、中枢神経外傷、中枢神経変性症、脊髄損傷、網膜疾患等の 神経疾患に対して有用であり、特に、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、パー キンソン病、虚血性脳疾患、てんかん、脳外傷、背堆損傷、運動神経疾患、神経変 性疾患、網膜色素変性症、内耳性難聴、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、又 は神経毒物の障害に起因する疾患に対して有用である。
神経幹細胞等の体性幹細胞を生体に移植する方法としては、局所注入、血管内注 入 (動脈内、静脈内)を挙げることができる。分化促進因子 (例、 bFGF)や神経保護 因子を同時に投与してもよい。
2)あるいは、インビトロで必要に応じてさらに細胞、組織、器官へと分化させた後、上 記と同様に目的に応じて適宜移植することができる。
[0042] (9)本発明方法で得られる体性幹細胞は、被検化合物の存在下又は非存在下でそ れを培養し、体性細胞への分化の程度を比較することにより、当該体性細胞に関係
する疾患治療薬の有効性及び z又は安全性を評価する方法に利用できる。
[0043] (10)本発明は別の態様として、被検物質の存在下及び非存在下で本発明の ES細 胞と初代体性幹細胞との共培養を行い、該被検物質の存在下と非存在下で、 ES細 胞から体性幹細胞への分化を比較することにより、 ES細胞から体性幹細胞への分化 調節に関連する物質をスクリーニングや当該物質の効果を評価する方法にも関する
[0044] (11)さらに、本発明は、 ES細胞と、体性幹細胞の初代培養、その培養上清又は培 養上清に含有される ES細胞から体性幹細胞への分化促進因子を含有する、インビト 口の ES細胞から体性幹細胞への分化培養系の使用を提供する。
実施例
[0045] 以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に 制限されるものではない。
[0046] 参考例
共培養により得られたスフエアとコントロールとしての脳組織の連続切片の免疫組 織染色は以下の方法で行った。
スフエアは室温で 20分 4%パラホルムアルデヒドによって固定した。 PBSによって 3回 洗浄した後、検体 (スフエアとコントロールとしての脳組織)は、 20%と 30%スクロースで 平衡化し、クリオスタツトによって切断した (5-10 m)。切片は 1次抗体をカ卩え、 4°Cで 1 夜定温放置した。使用した 1次抗体は以下の通りである。杭-ネスチンマウスモノクロ ーナル抗体 (1: 200 chemicon)、抗- SSEA1マウスモノクローナル抗体(IgG) (1:200 chemicon)0次いで、 3回 PBSで洗浄した後、 2次抗体をカ卩え、切片を 1時間室温で定 温放置した。
抗原の局在は Cy3又は Alexa- 488 (Molecular Probe)と結合した二次抗体を用いて 可視化した。これら、使用した抗体の特異性について、適切な組織や細胞を用いて 確認した。
[0047] mi ES細朐 神終 細朐の共谘着
(1)出発物質
ES細胞として緑色蛍光蛋白 (GFP)で標識した ES-D3細胞株 (ATCC)と CCE細胞株
(ATCC)を用いた。どちらの細胞も 6継代までのものを使用した。未分化な ES細胞の 維持のために、 DMEMに 15% FCS, 10 mM非必須アミノ酸, O.lmM 2-メルカプトエタ ノール、 LIF (白血球阻害因子)(lOOOU/ml)を添カ卩した培養液で 1% ゼラチンコート培 養皿上、 37°C、 5%COにて培養を行った。
2
初代神経幹細胞は、妊娠 14日目の胎児マウスの線条体由来の神経幹細胞を「実 験手引き書 (前掲)」記載の方法により調製した。
[0048] (2)共培養
ES細胞を PBSで 3回洗浄した後、化学的に規定された既存の無血清培地 (.chemically denned serum-free media; Reynolds and Weiss, 1996)の培 ¾揿を用い、 分離した初代神経幹細胞と共に 37°C、 5%COにて浮遊培養を行った。使用した
2
chemically defined serum-free media の糸且成 ί 、 Der. Biol.175 1—13(199りパこ ti載 れて 、る。共培養における ES細胞と初代神経幹細胞の細胞比は 7: 3である。
共培養は、 LIF (1000U/ml)、 EGF (20 ng/ml Sigma)及び bFGF (10 ng/ml Sigma), それぞれ単独、また併用下で 21日間培養した。総細胞培養濃度は 1.0 X 106/mlで 開始した。共培養中、培養開始後 7日目、 14日目に細胞を分離し、培地を交換して 再度浮遊培養を行った。
[0049] (3)形態学的観察
上記(2)の共培養終了後、 GFP陽性の ES細胞の表現型を評価した。 GFPで標識さ れた形態学的に球状のスフエア並びに分離した細胞を蛍光顕微鏡下で算出し、スフ エアは径 100 μ m以上のものとした。
結果を図 1、 2に示す。 ES細胞の単独無血清培養ではその大多数の細胞は死ん でしまうが,神経幹細胞と共培養することによって ES細胞は効率よく GFP陽性の-ュ 一口スフエアの形態を示す神経幹細胞様のコロニーを形成した。この ES細胞由来の 神経幹細胞の形成は LIF依存性を示した。図 1中、上方パネルは明視野、下方のパ ネルは蛍光を検出した像を表す。また、図 2Aは ES細胞単独と、初代神経幹細胞( NSC)の存在下でのスフエアの数を示して!/、る。
[0050] (4)セルソーティング(Cell Sorting)
共培養により形成された ES細胞由来の GFP陽性-ユーロスフェアを常法に従って
機械的に分離した後、 FACS Vantage flow cytometer/cell sorter (Becton Dickinson) を使用し、 FACSソーティングを行った。
細胞 (1-2 X 10- 6/ml)は、前方散乱光(forward scatter)、側方散乱光(side scatter) 、第一蛍光(PI fluorescence),そしてアルゴンレーザー (488 nm, lOOmW)による GFP 蛍光によって解析した。死細胞は前方、側方散乱光、そして PI-陽性細胞群として除 外した。 D3野生型クローンを蛍光のバックグラウンドとして用いた。生存し蛍光陽性細 胞を 1000 cells /secondの速度で DMEM/F12培地中に採取した。
その結果、 ES細胞由来の-ユーロスフェアはその 10〜20%が GFP陽性細胞で、残り は初代神経幹細胞の細胞で構成されて 、ることが判明した(図 2B)。図 2Bにお 、て 、縦軸は細胞数 (カウント)、横軸は DNA量を表している。上方左は ES細胞、上方右 は-ユーロスフェア、下方左右は ES細胞由来細胞の結果を示して 、る。
[0051] DNA含量
共培養の過程で細胞融合が生じて ヽる可能性を DNA含量 (DNA contents)に基づ いて検討した。 DNA含量は FACS Calibur and CELL QuESt Software (Becton Dickinson, San Jose, CA, USA)を用いて解析した。細胞は 4%パラホルムアルデヒドに よる固定化、 70%エタノールにより透過性を高めた後、ヨウ化プロビジゥム溶液中に浮 遊させた。 10,000細胞を解析に用いてデータを得た。その結果、 ES細胞由来の細胞 の核型は 2倍体を示し、このことからこの共培養システムにおいて細胞融合という現 象がみられないことが明ら力となった。データを図 2B (下段、 2枚パネル)に示す。
[0052] (5)分化誘導、免疫染色(Immunochemistry)
ソーティングした GFP陽性の ES細胞由来の細胞を無血清培養で 7日間, FGF2そし て EGFの成長因子の存在下で接着培養した。
すなわち、 1つのスフエアを L-オル-チンでコートし 48ゥエルプレートのそれぞれ 1 ゥエルに移し、分化誘導を行なった。細胞は 4%パラホルムアルデヒドにて固定した。 免疫組織染色はスタンダードプロトコールに基づいて施行した。
[0053] 使用した 1次抗体は以下の通りである。
抗- Tujマウスモノクローナル抗体(IgG) (1: 500 sigma),抗- MAP- 2マウスポリクロー ナル抗体 (IgG) (1:100 chemicon),抗 -GFAPゥサギポリクローナル抗体 (1: 400),抗
-G Cゥサギポリクローナル抗体 (1:50 chemicon),抗- MBPマウスモノクローナル抗体 (IgG) (1:200 chemicon),抗- THマウスモノクローナル抗体(IgG) (1:500 sigma)及びゥ サギポリクローナル抗体 (1:500 chemicon),抗-セロト-ンゥサギポリクローナル抗体 (1:1000 sigma),抗- DBHゥサギポリクローナル抗体(1: 1000 chemicon),並びに抗 - ChATゥサギポリクローナル抗体(1:500 chemicon)。
[0054] その結果、ニューロスフェア様のコロニーの細胞増殖は 7回以上持続して培養し続 けることが可能であった(図 3)。図 3中、横軸の P1〜P5はそれぞれ継代数を表す。ま た、個々のスフ アを接着培養をさせ分化させたところ、神経細胞マーカーである MAP2と Tuj (III型 βチューブリン、 tubulin type III)陽性の細胞が分化 7日目に出現し た。その後、分化 14日目にはァストロサイトのマーカーである GFAP陽性細胞とオリゴ デンドロサイトのマーカーである G C陽性細胞とが検出された(図 4A、 B、 C)。図 4A 、 B、 Cはそれぞれ、 MAP2、 GFAP、 G Cによる免疫染色像を表す。これらの結果は 上記共培養によって形成された ES細胞が、多分化能と自己増幅能を有する神経幹 細胞へ分化誘導されたことを示して!/、る。
[0055] ¾ 列 2 初代神終 細朐の谘着卜.清^: S細朐の #谘着
(1)初代神経幹細胞の培養上清 (CMPNC)を用いて、実施例 1記載の共培養システ ムにより ES細胞を培養した。 CMPNCは、実施例 1と同様 (但し、 ES細胞を除く)の条 件下で神経幹細胞を培養し、遠心分離(1500rpm、 5分)を 3回繰り返した後、フィルタ 一(Millex- GV (0.22 μ m) Millipore)で濾過することにより得た。これを、実施例 1と同 様の共培養系にカ卩え、 ES細胞を 21日間培養した。その結果、初代神経幹細胞の培 養上清(CMPNC)をカ卩えることにより、 ES細胞の無血清培養によって形成される ES 細胞由来の-ユーロスフェアの総数とその構成する細胞数の明らかな増加が確認さ れた(図 5A、 B)。次いで、実施例 1と同様にして個々のスフエアを分ィ匕させると、 MAP2又は Tuj陽性細胞はそれぞれ分化 7日目に検出された。また GFAP陽性細胞や G C陽性細胞は分化 14日目に検出された。
[0056] (2) RNA抽出と RT- PCR
ES細胞から神経幹細胞への分化誘導を評価するために、神経系や神経系以外の 組織に限局した遺伝子の発現を RT-PCRによって解析した。結果を図 5Cに示す。
ES細胞由来神経幹細胞を RNase-free DNase (Invitrogen)で処理した後、 Total RNAを RNAeasy total RNA purification kit (Qiagen)を用いて採取した。 cDNA合成の ために、ランダムへキサマープライマー (randam hexamer primers, Gibco/BRL)を用い て RT (逆転写)反応を行った。この方法では、異なる遺伝子特異的プライマーセットに よる PCR反応で、最適なアニーリング温度 (54〜62°C)を選択し、同一の RT反応 (cDNA)を用いることが可能である。 cDNA合成は、 M-MLV Superreverse transcriptase (Superscript II)を用 ヽ飞行つ 7こ。プフイマ ~~ (forward及 O、reverseノの酉 ti 列と増幅生成物のサイズ (大きさ)は以下の通りである。
Nurrl :TGAAGAGAGCGGAGAAGGAGATC (配列番号 1);
TCTGGAGTTAAGAAATCGGAGCTG (配列番号 2)生成物のサイズ: 255
Enl :TCTTCGTCTTTGTCCTGAACCGT (配列番号 3);
TGGTCAAGACTGACTCACAGCA (配列番号 4)生成物のサイズ: 390
Nestin: GGATACAGCTTTATTCAAGG (配列番号 5);
CAGCCGCTGAAGTTCACTCT (配列番号 6)生成物のサイズ: 481
Otx2: CCATGACCTATACTCAGGCTTCAGG (配列番号 7);
GAAGCTCCATATCCCTGGGTGGAAAG (配列番号 8)生成物のサイズ: 211 Brachyury: TTTCTTGGAAAAGCGGTGGC (配列番号 9);
CCCGTTCACATATTTCCAGCG (配列番号 10)生成物のサイズ: 411
Rexl: AAAGTGAGATTAGCCCCGAG (配列番号 11);
TCCCATCCCCTTCAATAGCA (配列番号 12)生成物のサイズ: 933
増幅生成物は臭化工チジゥム(25 μ g/ml)を加えた 2%ァガロースゲルで電気泳動し 、 UV (294nm)によって可視化した。少なくとも 3回実験し、再現性を確認した。結果を 図 5Cに示す。図 5Cにおいて、レーン 1は培養 4日目の胚様体、レーン 2は初代神経 幹細胞、レーン 3〜5は ES細胞由来神経幹細胞、レーン 6は陽性組織コントロールを 表す。なお、 HPRT (Hypoxanthine- guanine pnospnonbosyltransferase)は、ホ田胞の分 化状態によらず一定発現レベルを保つ内在性遺伝子のコントロールである。
Rexlは未分化胚芽細胞の内部細胞塊や ES細胞で発現し, ES細胞の分化に従つ てその発現が減少する。 Oct4は ES細胞や原始外胚葉で発現する。この両者の遺伝
子は CMPNC処理 ES細胞由来の-ユーロスフェアでは検出されなかった。中枢神経 系の幹細胞での発現がみられるいくつかの遺伝子(nestin、 OTX2と Mashl)は ES細 胞では発現されていないが、 CMPNCで処理された ES細胞由来のニューロスフェア では検出された。また、中胚葉のマーカーである brachyuryの発現は検出されなかつ た。これらの遺伝子発現パターンは、 CMPNCで処理された ES細胞由来の-ユーロス フェア力 初代神経幹細胞とほぼ同等な性格を有することを示している。
[0058] (3) -ユーロスフエアの継代培養
CMPNCで処理した ES細胞由来の-ユーロスフェアを分離した後、無血清培地(実 施例 1に記載)に、上記の条件下で浮遊培養した。その結果、少なくとも 9回以上継 代する事が可能であり、細胞増殖を持続していることが判明した。これらの結果から、 初代神経幹細胞は、 ES細胞を神経幹細胞に分化誘導する因子を培養物中に分泌 しており、該因子の存在下で形成された ES細胞由来のスフエアは多分ィ匕能と自己増 幅能を有しており、ニューロスフェアと同一の性質を持つことが明らかになった(図 6、 7)。図 6中、横軸の Pl、 P2、 P3、 P4、 P5はそれぞれ継代数を表す。
図 7A〜Cは CMPNCで処理した ES細胞由来の単一細胞から-ユーロスフェアが形 成される様子を表しており、 A、 B、 Cはそれぞれ培養 2、 4、 7日目を表す。また、図 7 Dは MAP2、図 7Eは Tujと GFAP、図 7Fは G Cの抗体染色像を表している。これらの 結果より、ニューロン、ァストロサイト及びオリゴデンドロサイトのマーカー陽性細胞が 検出され、 CMPNCで処理した ES細胞由来-ユーロスフェアは多分化能を有している ことがわ力ゝる。
[0059] (4) ES細胞由来ニューロスフェアの分ィ匕誘導
上記で得られた-ユーロスフ ア (ES細胞由来の神経幹細胞)のさらなる分ィ匕を誘 導した。
CMPNCによって形成された ES細胞由来の-ユーロスフェアを、 1%FCSの存在下 、上記と同じ培地中で培養し分ィ匕誘導した。その結果、図 8A〜Dに示すように、ドー ノ ミン作動性神経細胞のマーカーであるチロシンヒドロキシダーゼ (TH)、コリン作動 性神経細胞のマーカーであるコリンァセチルトランスフェラーゼ(ChAT)、セロトニン 作動性神経細胞のマーカーであるセロトニン(serotonin)、ノルェピネフリン神経細胞
のマーカーであるドーパミン βーデヒドロキシダーゼ(d
opamine-beta-dehydroxyrase)などが免疫染色によって確認された。図 8Aは TH、図 8Bは ChAT、図 8Cは DBH、図 8Dはセロトニンの抗体染色像を示す。これらの成熟神 経細胞のマーカー陽性細胞は同時に神経細胞マーカーである Tujにも陽性を呈した 。図 9は細胞マーカー陽性細胞の比率と培養時間との関係を示すグラフである。分 ィ匕 14、 21日目での TH陽性細胞の出現率はそれぞれ 75%と 90.9%を示し(図 9)、この TH発現率は ChATゃセロトニン陽性細胞の発現率と比較すると有意に高力つた。こ れらの結果からこの ES細胞由来の-ユーロスフェアは多様な-ユーロトランスミッタ 一を持つ神経細胞に分ィ匕する能力を有し、特にドーパミン作動性神経細胞に優位に 分ィ匕することが判明した.
[0060] (5) ES細胞由来ニューロスフェアの分ィ匕誘導
CMPNCをカ卩えなくても ES細胞は極少数のスフエアを形成するので、上記の結果が 、(0CMPNCが ES細胞の神経系への分ィ匕誘導に直接関与している、又は (ii)ES細胞 から自然に神経系に分化誘導された細胞の増幅'成熟化に関与して!/ヽる、の!ヽずれ であるかを検討した。
ES細胞を CMPNCの存在下で神経系細胞へ分化誘導した場合に生じるスフエア( 処理群)と、非存在下で自然に神経系細胞へ分化誘導された場合に生じる極少数の スフエア (非処理群)の特徴を、免疫染色法及び RT-PCRで比較検討した。
[0061] 免痔 色解析
両群のスフ アをさらに分化させると、 CMPNC処理されて形成されたスフ ア(処理 群)からより多くの Tuj陽性細胞が検出された。分化 7日目での Tuj陽性細胞の出現率 において、非処理群との間で有意差が認められた (データ示さず)。この結果は、 ES 細胞は CMPNC処理により、そのより多くが神経幹細胞に分化誘導され、 1つのスフェ ァ内に存在することを示して 、る。
[0062] RT- PCR分析
細胞レベルでの特徴の差を RT-PCRによって評価した結果、 Enlや Nurrlのようなド ーパミン作動性神経細胞への分化誘導調節に重要な遺伝子は処理群の ES細胞由 来のスフエアでより高発現していた。反対に、未分ィ匕 ES細胞のマーカーである Rexl
の発現は処理群のスフエアでより低ぐ非処理群のスフエアでは ES細胞と同様に高 かった。これらの結果力 CMPNC処理されずに形成されたスフ アは発達学上、未 分化 ES細胞と神経幹細胞との中間に位置して ヽることが示され、 ES細胞から神経 系への分ィ匕誘導に関与する因子が CMPNC中に存在することが示唆された。
[0063] (6) ES細胞-由来-ユーロスフェアのインビボでの分化
ES細胞由来のニューロスフェアのインビボでの分化能力をマウス脳への移植により 評価した。
上記の方法と同様にして作成した分離した GFP標識 ES細胞由来の-ユーロスフエ ァの細胞を生後 24時間の新生児マウスの片側脳室内に注入した。注入した細胞数 は 200,000であった。移植後 4、 8週目に移植細胞の生着を評価した。評価は上記参 考例記載の免疫組織染色により行った。マウス脳組織免疫染色の結果を図 10に示 す。 自己蛍光と GFP蛍光の比較を Aに、 GFPと THの局在の比較を B〜Dに示した。 A 右は自己蛍光、左は GFP蛍光を検出したものである。 B〜Dは同一切片で GFP(B)、 TH (C)の染色像を示し、 Dは Bと Cの画像を融合したものである。 Aと、 B〜Dの両方 で染まる細胞が存在することは、生着した細胞の中に TH陽性細胞が含まれて ヽるこ とを示している。
ES細胞由来の移植細胞は移植後 4週の時点で 8匹中 6匹に、また移植後 8週の時 点では 8匹中 7匹に GFP陽性として容易に検出された。生着した細胞はすべて脳室 周囲に検出され、それらの多くはドーノ ミン作動性神経マーカーの THに陽性を呈し た。し力しながら、ドーパミン作動性神経細胞に分ィ匕した移植細胞の適切な部位への 遊走の確認はできなかった。その他にはァストロサイトのマーカーである GFAP陽性 細胞も極少数認められた。更に,これらドナーマウスの脳内においてテラトーマ( teratoma)様の腫瘍構造を認めた例は全くなかった.従って,これらの ES細胞由来の ニューロスフェアは実際の細胞移植の手段としてその有用性並びに安全性があると 考えられた。
[0064] 実施例 3 初代神経榦細胞由 の ES細胞分化促進 子の柚出 分析
そこで、初代神経幹細胞の培養上清 (CMPNC)中の因子の同定を試みた。 (1)活性因子の同定
1) 10000U/ml LIF、 Noggin, Chordin,又は FGF4を、実施例 1に記載の ES細胞の無 血清培養に加えて浮遊培養した結果、 CMPNC存在下における ES細胞由来の-ュ 一口スフエアの形成効果と同様の効果は認められな力つた(図 11 A)。この結果から、 CMPNC中の活'性因子は LIF、 noggin, chordin, FGF4等の因子と異なるものであるこ とが明ら力となった。図中、 Fは bFGFを、 Eは EGFを添カ卩したことを意味する。
[0065] 2) CMPNC中の活性因子の種類
未知の活性因子が蛋白質力どうかを評価するために、 CMPNCを熱処理 (60°C、 30 分又は 90°C、 10分)することによって活性の変化を調べた。図 11Bに示すように、熱 処理 CMPNC存在下では、形成される ES細胞由来の-ユーロスフ アの総数が明ら かに低下し、 CMPNC中の活性因子が蛋白質であることが示唆された。 CMPNCの限 外ろ過解析により、目的蛋白質が含まれる分画は分子量 3000〜10000の分画である ことが分った。これらの分画を銀染色し、 20 kDa以下の蛋白質のバンドが検出された ことと併せて目的蛋白質の分子量は約 3000〜20000と予想された。図 11Cは分子量 により分画した各分画を様々な濃度で添加したときの-ユーロスフェア数を表す。
[0066] 3) CMPNC中の ES細胞分化促進因子(NDF)の同定
NDFを精製するために、初代神経幹細胞を実施例 1と同様にして培養し、実施例 2 (1)と同様、上清の遠心分離(1500rpm、 5分、 3回)と濾過(Millex- GV (0.22 μ m) Millipore)により CMPNCを得、限外濾過により 200倍濃縮した後、フエ-ル疎水親和 性カラムによって、硫安の濃度を 1M力 0Mまで段階的に低下させることにより分画 した。 NDF活性は 0M硫安画分に検出された。粗抽出画分を SDS-PAGEによって解 祈したところ、分子量 3000から 20000の範囲で 7本のバンドが検出された(図 12A)。 ゲル力もそれぞれのバンドの蛋白質をトリプシン処理とともに抽出した後、トリプシン 処理断片の分子量を MALDI- TOFZMS(Voyager- DE/STR)を用いて分析すると共に 、アミノ酸配列決定を決定し解析した(図 12B、 C、それぞれ、配列番号 13〜18)。既 知(NCBInr)のシスタチン Cアミノ酸配列を図 12C下方に示し、トリプシン処理により得 られたフラグメントに対応する配列を下線で示した。解析の結果、図 12Aのバンド 1-3 で検出された配列はすべてぺプチジルプロリルイソメラーゼ A(peptidylprolyl isomerase A)と、バンド 4はマウスシスタチン C (cystatin C)、マウスプロフィリン 2 (
mouse profilin 2)、バンド 7はインスリンに適合することが明らかになった。
[0067] (2)シスタチン Cの NDF活性
シスタチン Cの ES細胞から-ユーロスフェアの形成に関する NDF活性を評価した。 組み換えシスタチン C (GENZYME-TECHNE)を用いて、実施例 1に記載の共培養条 件下、 ES細胞を FGF2及び Z又は EGFの存在下、 21日間浮遊培養した。様々な濃 度の組換えシスタチン C (rCystatin C)を培地に加えたところ、細胞数と ES細胞由来 のスフエアの総数が顕著に増加した(図 13A、 B)。組換えシスタチン Cのスフエア形 成効果は、初代神経幹細胞培養上清 (CMPNC)を用いた場合の約 80%であり、組換 えシスタチン Cや CMPNSが存在しない場合、スフ アは殆ど形成されなかった(図 13 A、コントロール)。また、シスタチン単独でも軽度のスフエア形成が認められ、サイト力 イン (bFGF及び Z又は EGF)と組合わせると、スフエア形成数が著しく増加した(図 13 B)。
[0068] (4)シスタチン Cにより形成される-ユーロスフェアと CMPNCにより形成される-ユーロ スフエアの it較
ES細胞由来のスフエアの遺伝子発現形式の特徴を明瞭化させるために神経系や 神経系以外の組織に限局した遺伝子の発現を実施例 2 (2)と同様にして、 RT-PCR 分析によって評価した(図 13C)。図 13Cにおいて、レーン 1は培養 4日目の胚様体、 レーン 2は初代神経幹細胞、レーン 3〜5は ES細胞由来神経幹細胞、レーン 6は陽 性組織コントロールを表す。シスタチン Cを用いて形成された-ユーロスフェアでは、 インビボで、内部細胞塊 (ICM)に高発現し、 ES細胞の分ィ匕にしたがって徐々にその 発現が減少する Rexlの発現は検出されなかった。同様に ES細胞や原始外胚葉の 細胞で発現する Oct4の発現はシスタチン Cを用いて ES細胞力 形成されたニューロ スフエアにおいて減弱であった。対称的に,神経幹細胞での発現が in vivoで確認さ れているネスチン、 OTX2及び Mashl遺伝子の発現が確認された。中胚葉マーカー である brachyuryの発現は検出されなかった。以上のことから、シスタチン Cで処理し た ES細胞由来の-ユーロスフェアにおけるこれらの遺伝子の発現パターンは、初代 神経幹細胞における発現パターンとほぼ一致していた。これらの結果は、シスタチン Cに、 ES細胞を神経幹細胞へ分化誘導する活性があることを示唆して ヽる。
[0069] (5)シスタチン Cによって形成された ES細胞由来のスフエアの特徴
シスタチン Cによって ES細胞から分化誘導された-ユーロスフェアの、ニューロン、 ァストロサイト、オリゴデンドロサイトの 3系統への分ィ匕能を免疫染色法によってインビ トロで評価した(図 14)。図 14において、 A〜Dはそれぞれ、明視野像、 MAP2、 Cy3- Tuj/FITC- GFAP、 Cy3- MBP/FITC- GFAPである。実施例 1 (5)と同様に、個々 のスフエアを 1%FCSを添加することにより分ィ匕させて分析すると、 MAP2又は Tuj陽性 細胞はそれぞれ分化 3日目に検出された(図 14B、 C)。また GFAP陽性細胞や G C 陽性細胞は分化 7日目に検出された(図 14C、 D)。このことから、シスタチン Cによつ て形成された ES細胞由来のスフエアは 3系統へ分ィ匕する多分ィ匕能を有していること が示された。
[0070] この ES細胞由来の-ユーロスフェアの神経細胞分ィ匕の特徴について評価した。免 疫染色によって ES細胞由来の-ユーロスフェアを分ィ匕させると、ドーパミン作動性神 経細胞のマーカーであるチロシンヒドロキシダーゼ(TH) (図 14E)ゃコリン作動性神 経細胞のマーカーアセチルコリントランスフェラーゼ(ChAT) (図 14F)、セロト-ン作 動性神経細胞マーカーである serotonin (図 14G)、ノルェピネフリン神経細胞マーカ 一であるドーパミン一 13—デヒドロキシダーゼ(DBH)などが検出された(図 14H)。こ れらの成熟神経細胞のマーカー陽性細胞は同時に神経細胞マーカーである Tujにも 陽'性を呈した。
[0071] (6) ES細胞由来-ユーロスフェアの自己再生活性
シスタチン Cで処理した ES細胞由来のスフエアを細胞分離した後、同じ培地で再度 浮遊培養を行った。細胞総数が増カロし生成するコロニーの数は初代培養と同様であ つた (図 15A)。また、 9回以上継代することが可能であった。第 2又は第 3継代培養で 生成したコロニーは、少なくとも 9回以上、多分ィ匕能を維持しながら継代する事が可 能であり、かつ ES細胞由来の細胞は細胞増殖を持続していることが判明した。 ES細 胞由来の神経幹細胞の再生活性をより厳密に調べるために、単一細胞の浮遊培養 を行った。培地は 0.3%寒天含有無血清培地であり、細胞密度は 200,000細胞/ mlであ る。スフエアは 7日目に観察され、培養中増加した (図 15B〜D;)。図 15B〜Dはそれぞ れ、単一細胞からスフエアが形成される様子を示しており、 B〜Dは、それぞれ培養 2
、 4、 7日目の観察像を表す。形成されたスフエアは-ユーロン、ァストロサイト及びォ リゴデンドロサイト、ニューロンへの多分ィ匕能を維持していた。以上から、シスタチンの 存在下、 ES細胞から形成されたコロニーが-ユーロスフェアであることが明らかにな つた o
[0072] (7)シスタチン Cによる、 ES細胞の神経系への分ィ匕の直接調節
シスタチン C (CC)の存在下又は非存在下で形成されたスフエアの特徴を実施例 2 (5)と同様、免疫染色法や RT-PCRにより評価した。
免疫染色による解析
シスタチン Cの存在下で形成されたスフエアを分ィ匕させると、より多くの Tuj陽性細胞 が検出された(図 16A、 B、及び図 17A)。図 16Aはシスタチン Cの存在下、図 16B は非存在下で形成されたスフエアから分化した細胞の Tuj陽性細胞の免疫染色像を 示す (7日目)。図 17Aはシスタチン存在下、非存在下でスフエア力も分ィ匕した Tuj及 び GFAP陽性細胞の出現率を表す(3日目及び 7日目)。シスタチン非存在下で形成 されたスフエアでは GFAP陽性細胞は検出されず、ァストロサイトの形成は認められな かった。
[0073] RT- PCRによる解析
細胞レベルでのいくつかの転写因子の発現の差を、実施例 2 (2)と同様の方法で、 RT-PCRにより評価した(図 17B)。ネスチンは両群で発現されていた力 Enlや Nurrl のようなドーパミン作動性神経細胞への分ィ匕誘導調節に重要な遺伝子はシスタチン C処理 ES細胞から分化誘導されたスフエアでより高発現していた。更に、未分化 ES 細胞のマーカーである Rexlは、シスタチン C処理により形成されたスフエアではダウン レギュレート (減弱)されていた。これらの結果は、シスタチン C非存在下では、形態的 に小さぐ発達学上、 ES細胞と神経幹細胞との中間に位置する特徴を有するスフ ァが形成されることを示して 、る。
産業上の利用可能性
[0074] 本発明の、 ES細胞の新規な分化誘導系(ES細胞と初代体性幹細胞の共培養系) は、 ES細胞を選択的に目的の体性幹細胞へと分化誘導し、治療及び研究での使用 に充分な高純度の体性幹細胞を十分量供給することが可能である。また、本発明に
よれば、倫理的な問題を回避して体性幹細胞を得ることができ、再生医学 ·医療の研 究の進展に大いに寄与しうる。さらに、本発明方法により得られる体性幹細胞の培養 物には未熟な ES細胞がほとんど残存していないので、残存 ES細胞による意図しな い組織への分化傾向や腫瘍の発生を回避し、安全に再生医療を実施することが可 能となる。
特に、本発明の分ィ匕誘導系では、神経幹細胞の初代培養の存在下で ES細胞を培 養することにより、ニューロン、ァストロサイト、オリゴデンドロサイトへの分化能を有す る神経幹細胞へと選択的に分化誘導することができ、該神経幹細胞は、例えば以下 の用途を有する。
1)神経疾患の治療 (神経幹細胞移植):中枢神経外傷、中枢神経変性症 (パーキ ンソン病等)、脊髄損傷、網膜疾患等の様々な神経疾患治療の開発。
2)神経幹細胞の発生系譜の詳細な解析:内因性神経幹細胞の制御などによる神 経疾患の治療方法開発のための手段。
3)中枢神経疾患治療薬開発のための有効性、安全性評価:神経幹細胞を用いて 薬剤のスクリーニングや毒性評価の系を構築し、評価する方法の確立。