以下に、本発明の実施の形態にかかる半導体レーザ装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下の図面においては、同一または同一に相当する構成要素については、同一符号を付し、x方向、y方向およびz方向を示す座標系の向きを明示してある。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる半導体レーザ装置10の構成を示す上面模式図である。図2は、実施の形態1にかかる半導体レーザ装置10の構成を示す側面模式図である。実施の形態1にかかる半導体レーザ装置10は、半導体レーザ素子100と、ファースト軸補正レンズ2と、出力結合素子である出力ミラー300とを備える。そして、半導体レーザ素子100、ファースト軸補正レンズ2および出力ミラー300がレーザ光に対する外部共振器を構成し、この外部共振器が半導体レーザ素子100からレーザ光を出力させる。半導体レーザ装置10は、中心波長975nmで発振する端面発光型の半導体レーザ素子100を使用している。
図1の上面模式図は、半導体レーザ素子100の活性層103の接合面と垂直な方向であるy方向から観た模式図である。図2の側面模式図は、半導体レーザ素子100の活性層103の接合面と平行な方向であるx方向から観た模式図である。活性層103の接合面とは、活性層103が他の層とpn接合、ヘテロ接合といった接合によって接合している接合面のことである。ここで、半導体レーザ素子100の活性層103の接合面に垂直な方向は、レーザ光のファースト軸方向と呼称されており、図1および図2のy方向に相当する。また、半導体レーザ素子100の活性層103の接合面に平行な方向は、ファースト軸方向に垂直であって、レーザ光のスロー軸方向と呼称されており、図1および図2のx方向に相当する。ここで、レーザ光の光軸はz方向に沿っており、ファースト軸方向およびスロー軸方向は共にレーザ光の光軸に垂直な方向、すなわちz方向に垂直な方向である。
半導体レーザ素子100は、活性層103を構成する半導体レーザ媒質104を備えている。図1では明示されていないが、半導体レーザ素子100に適宜電極等を設けて、活性層103の接合面に直交する方向であるy方向へ電流を注入することによって、中心波長975nm近傍の光に対して増幅作用が働いて、半導体レーザ素子100はレーザ光を出射する。以下の説明では、半導体レーザ媒質104は、半導体レーザ素子100の層構造のみによって決定される領域ではなく、電流が印加されレーザ増幅作用を有する領域とする。なお、半導体レーザ媒質104のスロー軸方向すなわちx方向の幅は、レーザ光が出射される前側端面101上における発光点幅に略等しい。本実施の形態においては、発光点幅200μmの半導体レーザ素子100が使用されている。また、レーザ光が出射される前側端面101には、波長975nmに対する反射防止コーティングが施され、半導体レーザ素子100の後側端面102には、波長975nmに対する全反射膜が施されている。ここで、半導体レーザ素子100の前側端面101に施された反射防止コーティングの反射率は、半導体レーザ素子100単体での自励発振を抑制するため、1%以下であることが望ましい。
半導体レーザ装置10においては、半導体レーザ素子100の前側端面101に対向するようにファースト軸補正レンズ2が配置されている。すなわち、ファースト軸補正レンズ2は、半導体レーザ素子100と出力ミラー300との間のレーザ光の光路上に配置されている。ファースト軸補正レンズ2は、レーザ光のファースト軸方向の発散角を補正する機能を有している。具体的には、ファースト軸補正レンズ2は、レーザ光のファースト軸方向のビームの発散角を低減する。ここで、ファースト軸補正レンズ2は、円筒凸レンズによって構成される。当該円筒凸レンズの母線の方向がスロー軸方向(x方向)と一致し、且つ円筒凸レンズの焦点が前側端面101に略一致する位置となるようにファースト軸補正レンズ2は配設されている。これにより、前側端面101から出射されるレーザ光のファースト軸方向(y方向)に対するビーム発散角を効果的に低減することができる。
ファースト軸補正レンズ2を透過したレーザ光は、出力ミラー300へ入射する。ここで出力ミラー300は円筒平凹ミラーにより構成される。当該円筒平凹ミラーの凹面が出力ミラー300の入射面301である。そして、凹面である入射面301が半導体レーザ素子100へ対向する向きとなり、且つ円筒平凹ミラーの母線の方向がファースト軸方向(y方向)と一致するように出力ミラー300は配設されている。また、出力ミラー300の主点と半導体レーザ素子100の前側端面101との間の光学距離は、出力ミラー300を構成する円筒平凹ミラーの凹面の曲率半径の略1/2に設定されている。したがって、実施の形態1にかかる半導体レーザ装置10における外部共振器は、スロー軸方向(x方向)を含むxz平面内でsemi−confocal共振器を構成する。
図3は、実施の形態1にかかる出力ミラー300の構成を示す模式図である。出力ミラー300は、上述したように円筒平凹ミラーによって構成されており、半導体レーザ素子100からのレーザ光が入射する入射面301と、レーザ光を出射する出射面303とを有している。凹面からなる入射面301には、レーザ光のスロー軸方向(x方向)の中央に設けられた高反射部302を除いて、波長975nmのレーザ光に対する反射率が0%またはほぼ0%の反射防止コーティングが施されている。なお、高反射部302は、入射面301の中央において、x方向に対して幅w1を有する領域のみに設けられていて、それ以外の領域が反射防止コーティングが施された低反射部になっている。すなわち、高反射部302は、レーザ光のスロー軸方向(x方向)の中央においてファースト軸方向(y方向)に伸びた中心線350を含んだ幅w1の領域に設けられているので、入射面301のレーザ光に対する反射率はレーザ光のスロー軸方向の位置に依存して、高反射部302と低反射部との境界で変化している。したがって、入射面301のレーザ光に対する反射率は、スロー軸方向の中央である中心線350からスロー軸方向に沿って離れるに従って、中心線350における反射率から減少することはあっても増加しない。また、平面からなる出射面303にも、全面に亘り波長975nmのレーザ光に対する反射防止コーティングが施されている。以上の構成により、出力ミラー300は、半導体レーザ素子100からのレーザ光の一部を入射面301で反射し、残りを通過させて出射面303から出力する。入射面301で反射されたレーザ光は、半導体レーザ素子100へと戻る。
実施の形態1にかかる出力ミラー300の入射面301には、スロー軸方向であるx方向に対して幅w1を有する領域のみに高反射部302が設けられている。したがって、図1に示すように、スロー軸方向(x方向)に対しては、高反射部302による光帰還によって、高反射部302の幅w1に相当する主発振光401が形成される。また、主発振光401の周囲には、半導体レーザ媒質104内において、主発振光401の回折光を種に増幅された周辺増幅光402が発生する。
ここで、出力ミラー300として入射面301が一様な反射率を有する一般的な出力ミラーを使用した場合に、外部共振器の構成によって受動的に選択される固有モードにより決定される入射面301上におけるスロー軸方向(x方向)のビーム径をw2とする。なお、上記固有モードは、スロー軸方向(x方向)の横モードの固有モードである。実施の形態1にかかる出力ミラー300の入射面301に設けられた高反射部302の幅w1は、入射面301上におけるスロー軸方向(x方向)のビーム径w2に比べて小さな値に設定されているため、高反射部302は、外部共振器のスロー軸方向(x方向)において横モードの次数を低次に制限する開口として作用する。この結果、高反射部302の幅w1に対応して形成される主発振光401のスロー軸方向の横モードの次数は、一様な反射率を有する一般的な出力ミラーを使用した外部共振器の場合に比べて低い値となり、集光性を向上させることができる。また、周辺増幅光402は、主発振光401の回折光を種として、誘導放出現象によって増幅されるため、主発振光401との可干渉性が維持され、周辺増幅光402についても主発振光401と同等の集光性を得ることができる。
また、ファースト軸方向(y方向)に関しては、半導体レーザ素子100の高い閉じ込め作用により、回折限界に近い集光性が容易に得られるものの、前側端面101上の発光点から出射されるレーザ光の発散全角は原理的に30°〜60°程度と非常に大きくなる。本実施の形態1においては、図2に示す通り、半導体レーザ素子100の前側端面101に対向するようにファースト軸補正レンズ2を配設しているので、前側端面101から出射されるレーザ光のファースト軸方向(y方向)に対する発散角を効果的に低減することができる。この結果、外部共振器を構成する出力ミラー300を半導体レーザ素子100へ近接して配置する必要がなくなり、目標とするビーム特性に応じた外部共振器を適宜設計することができる。したがって、出力ミラー300を半導体レーザ素子100から有意な距離だけ隔離して設置することが可能になる。ここで有意な距離とは、例えば10mm以上の距離である。
出力ミラー300を半導体レーザ素子100から有意な距離だけ隔離して設置することができると、出力ミラー300の入射面301上におけるスロー軸方向(x方向)のビーム径を、半導体レーザ素子100の前側端面101上の発光点の幅に比して、十分拡大することが可能になる。例えば、出力ミラー300と半導体レーザ素子100の前側端面101との距離を10mmとすると、前側端面101上のスロー軸方向の発光点の幅が200μmで、スロー軸方向のビーム発散角が全角で5°である場合には、入射面301上のスロー軸方向のビーム径は約1.1mmとなり、約5倍の拡大が可能となる。そして、出力ミラー300と半導体レーザ素子100との距離を更に離せば、ビーム径を更に拡大することができる。これにより、入射面301のスロー軸方向(x方向)の中央部分に高反射部302を設ける実施の形態1においては出力ミラー300の設計および製造を容易にすることができるという効果がある。なお、ファースト軸方向(y方向)に対しては、出力ミラー300の入射面301の反射率は一定であるため、実施の形態1にかかる半導体レーザ装置10の外部共振器は、通常の外部共振器と同様に機能する。
ここで、出力ミラー300の入射面301に設けられる高反射部302の設計は、以下に説明するように行えばよい。実施の形態1にかかる図3に示すスロー軸方向の反射率を変化させた出力ミラー300の等価反射率Reqは、以下に示す数式(1)に従って算出することができる。数式(1)において、Rhは高反射部302の反射率、Rlは入射面301の高反射部302を除いた領域の反射率である。ここで、Rh>Rlが成り立っている。なお、スロー軸方向の中央である中心線350からx方向または−x方向にみた反射率の分布は中心線350に対して対称な分布になっている。
反射率が入射面のスロー軸方向に沿って一定値である通常の出力ミラーを用いた場合には、半導体レーザ媒質104の利得に応じて半導体レーザ装置10の出力が最大となる最適値である最適反射率が存在する。実施の形態1にかかる出力ミラー300においては、上述したように外部共振器のスロー軸方向(x方向)の固有モードからw2を算出するとともに、スロー軸方向の横モードの目標とする次数に基づいて高反射部302の幅w1が決定される。そして、数式(1)により算出される等価反射率Reqの値が上記最適反射率に概ね一致するようにRhおよびRlの値を設定すれば、実施の形態1にかかる高反射部302を設けた出力ミラー300を使用した場合であっても、半導体レーザ媒質104から効率的にレーザ光を取り出すことができる。すなわち、集光性を高めるために高反射部302を設けてスロー軸方向の反射率を変化させた実施の形態1にかかる出力ミラー300を使用した場合であっても、半導体レーザ媒質104からレーザ光を効率的に出力させることができる。
なお、上記説明において、出力ミラー300の入射面301に、高反射部302を除いて反射防止コーティングを施した構成を示したが、出力ミラー300の構成はこれに限定されない。高反射部302以外の領域に一定の値の反射率を有するコーティングを施しても、適切な出力ミラーの入射面上の位置に目標とするスロー軸方向の横モードの次数に応じた適切な幅w1の高反射部を設けて、数式(1)に示した等価反射率Reqの値が最適反射率に概ね一致するようにRhおよびRlの値を設定すれば、スロー軸方向の集光性を容易に改善することができるとともに、半導体レーザ媒質104から効率的にレーザ光を取り出すことができる。
また、上記説明においては、外部共振器の出力ミラー300に円筒平凹レンズを使用した構成を示したが、出力ミラー300の構成はこれに限るものではなく、目標とするビームモードに応じて外部共振器を適宜設計して、出力ミラー300の入射面および出射面の形状を定めればよい。
また、上記説明においては、出力ミラー300の入射面301のスロー軸方向の中央部の幅w1の領域に高反射部302を設け、入射面301の高反射部302を除いた領域に反射防止コーティングを施した構成を示した。しかし、実施の形態1にかかる出力ミラー300の入射面301および出射面303と同一の曲率半径の入射面および出射面を備え、入射面の反射率が高反射部302の反射率と同一で幅w1のミラーを出力ミラー300の代りに使用しても同様な効果を得ることができることは言うまでもない。
以上説明したように、実施の形態1にかかる半導体レーザ装置10によれば、半導体レーザ素子100と出力ミラー300との間のレーザ光の光路上であって半導体レーザ素子100に対向する位置にファースト軸補正レンズ2を設置することにより、レーザ光のファースト軸方向のビーム発散角を低減している。これにより、外部共振器を構成する出力ミラー300を半導体レーザ素子100へ近接させずに設置することが可能になり、外部共振器の構成の調整が容易になるとともに、レーザ光を安定的に発生させることができる。そして、出力ミラー300を半導体レーザ素子100へ近接させて設置する必要がないので、出力ミラー300上におけるスロー軸方向のビーム径を、半導体レーザ素子100のスロー軸方向の発光点の幅よりも拡大することが可能になり、出力ミラー300のスロー軸方向に設ける反射率の変化の位置精度を緩和することができる。その結果、出力ミラー300の製造コストが低減するとともに、出力ミラー300の調整裕度を増加させることができるという効果が得られる。そして、出力ミラー300へ入射されるレーザ光に対する出力ミラー300の反射率をスロー軸方向に変化させているため、スロー軸方向において目標とする横モードを選択的に増幅して、スロー軸方向の集光性を効率的且つ容易に改善することができる。
実施の形態2.
図4は、本発明の実施の形態2にかかる出力ミラー310の構成を示す模式図である。実施の形態2にかかる半導体レーザ装置の構成は、図1および図2における出力結合素子である出力ミラー300を出力ミラー310に置き換えたものと同様であり、実施の形態2におけるレーザ光に対する外部共振器の構成も実施の形態1と同様になる。
図4の出力ミラー310においては、入射面301のスロー軸方向(x方向)の中央部に、幅w3の第1の高反射部304が設けられている。出力ミラー310においては、スロー軸方向(x方向)の幅w4(>w3)の領域内であって第1の高反射部304の両側に第2の高反射部305がさらに設けられている。なお、第1の高反射部304の幅w3は、入射面301上におけるスロー軸方向(x方向)のビーム径w2に比べて小さな値に設定されている。
なお、図4の出力ミラー310の出射面303には、実施の形態1と同様に波長975nmのレーザ光に対する反射防止コーティングが施されている。そして、第1の高反射部304の反射率をRh1とし、第2の高反射部305の反射率をRh2とし、第1の高反射部304および第2の高反射部305を除いた入射面301の反射率をRlとすれば、Rh1、Rh2およびRlは、以下の数式(2)に示す関係を満たしている。
図4に示すように、出力ミラー310の入射面301に、第1の高反射部304に加えて、反射率が異なる第2の高反射部305をスロー軸方向(x方向)に沿って配列させて設けることにより、出力ミラー310の入射面301は、1つの高反射部302のみを備えた実施の形態1の出力ミラー300の入射面301に比べて、反射率をスロー軸方向においてより段階的に変化させることができる。出力ミラー310においても、入射面301のレーザ光に対する反射率は、スロー軸方向の中央である中心線350からスロー軸方向に沿って離れるに従って減少することはあっても増加しない。そして、スロー軸方向の中央である中心線350からx方向または−x方向にみた反射率の分布は中心線350に対して対称な分布になっている。これによって、出力ミラー310は、スロー軸方向に対する横モードの目標とする次数に応じて、共振器損失のスロー軸方向に対する空間分布をより精細に設定することが可能になるため、スロー軸方向に対する横モードの目標とする次数を有したレーザ光の発生をさらに容易に実現することができるという効果が得られる。
なお、実施の形態2にかかる出力ミラー310の等価反射率Reqは、以下に示す数式(3)に従って算出することができる。
まず、スロー軸方向の横モードの目標とする次数に応じて、第1の高反射部304の幅w3および反射率Rh1と、第2の高反射部305の幅w4および反射率Rh2とを選定する。先に述べたように、反射率が入射面のスロー軸方向に沿って一定値である通常の出力ミラーを用いた場合には、当該反射率に最適反射率が存在する。したがって、数式(3)により算出される等価反射率Reqの値が上記最適反射率に概ね一致するよう入射面301の反射率Rlを設定すれば、実施の形態2にかかる出力ミラー310を使用した場合であっても、半導体レーザ媒質104から効率的にレーザ光を取り出すことができる。すなわち、集光性を高めるために第1の高反射部304および第2の高反射部305を設けてスロー軸方向の反射率を変化させた実施の形態2にかかる出力ミラー310を使用した場合であっても、スロー軸方向の横モードについて目標とする次数を有したレーザ光を効率的に発生させることができる。
実施の形態2にかかる出力ミラー310においては、反射率が異なる第1の高反射部304および第2の高反射部305をスロー軸方向(x方向)に配列させて入射面301に設けた構成を示したが、出力ミラーの入射面に高反射部を設けた構成はこれに限るものではない。例えば、第1の高反射部304および第2の高反射部305と反射率が各々異なりさらに互いに反射率が異なる第3および第4の高反射部を出力ミラーの入射面上にスロー軸方向に配列させて設ければ、共振器損失のスロー軸方向に対する空間分布をさらに精細に設定することが可能になり、スロー軸方向の横モードに対する目標とする次数を有したレーザ光を、さらに容易に発生させることができる。
実施の形態3.
図5は、本発明の実施の形態3にかかる出力ミラー320の構成を示す模式図である。実施の形態3にかかる半導体レーザ装置の構成は、図1および図2における出力結合素子である出力ミラー300を出力ミラー320に置き換えたものと同様であり、実施の形態3におけるレーザ光に対する外部共振器の構成も実施の形態1と同様になる。また、出力ミラー320の形状も出力ミラー300と同様である。
実施の形態3にかかる出力ミラー320の入射面301には、ファースト軸方向(y方向)に沿って反射率が一定値であり、且つスロー軸方向(x方向)に対しては中央で反射率が最大となるガウス分布型の反射率を呈するコーティングが施されている。すなわち、出力ミラー320においても、入射面301のレーザ光に対する反射率は、スロー軸方向の中央である中心線350からスロー軸方向に沿って離れるに従って減少することはあっても増加しない。そして、スロー軸方向の中央である中心線350からx方向または−x方向にみた反射率の分布は中心線350に対して対称な分布になっている。図5の下には、スロー軸方向(x方向)に沿った位置に対する反射率がグラフで示してある。なお、図示してはいないが、出力ミラー320の平面からなる出射面にも、全面に亘り波長975nmに対する反射防止コーティングが施されている。
図5に示すようなスロー軸方向に対して反射率が連続的に変化する入射面301を備えた出力ミラー320を使用した場合は、実施の形態1にかかる出力ミラー300および実施の形態2にかかる出力ミラー310と同様な効果が得られるばかりでなく、スロー軸方向に対する共振器損失分布の設計自由度がさらに向上する。これにより、スロー軸方向の横モードの目標とする次数に応じた最適な反射率分布を設定することができるので、スロー軸方向に対する横モードの目標とする次数を有したレーザ光を効率的、且つさらに容易に発生させることが可能になる。
実施の形態3においては、スロー軸方向に対してガウス分布型の反射率分布を備えた出力ミラー320を使用した構成を示したが、反射率分布の形状はこれに限るものではなく、スロー軸方向の横モードの目標とする次数に応じて適宜設計すればよいことは言うまでもない。
なお、実施の形態1から実施の形態3においては、何れも出力ミラーの入射面301の反射率が、スロー軸方向に対し変化するとともに、出力ミラーの出射面303には、レーザ光の波長に対する反射防止コーティングを施す構成を示したが、出力ミラーの構成はこれらに限るものではない。具体的には、入射面301にレーザ光の波長に対する反射防止コーティングを施すとともに、出射面303の反射率をスロー軸方向に対し変化させた構成にした場合であっても、実施の形態1から実施の形態3と同様な効果を得ることができる。
実施の形態4.
図6は、本発明の実施の形態4にかかる半導体レーザ装置20の構成を示す上面模式図である。図7は、実施の形態4にかかる半導体レーザ装置20の構成を示す側面模式図である。図8は、実施の形態4にかかる出力ミラー330の構成を示す模式図である。実施の形態4にかかる半導体レーザ素子100の構成は、実施の形態1にかかる半導体レーザ素子100の構成と同一である。
実施の形態4にかかる半導体レーザ装置20は、半導体レーザ素子100と、ファースト軸補正レンズ2と、第1の水平方向円筒レンズ5と、第1の垂直方向円筒レンズ6と、第2の水平方向円筒レンズ7と、出力結合素子である出力ミラー330とを備える。ファースト軸補正レンズ2は、水平方向である半導体レーザ素子100のスロー軸方向(x方向)に母線が配された焦点距離f1の円筒レンズである。第1の水平方向円筒レンズ5は、垂直方向(y方向)に母線が配された焦点距離f3の円筒レンズである。第1の垂直方向円筒レンズ6は、水平方向(x方向)に母線が配された焦点距離f2の円筒レンズである。第2の水平方向円筒レンズ7は、垂直方向(y方向)に母線が配された焦点距離f4の円筒レンズである。そして、半導体レーザ素子100、ファースト軸補正レンズ2、第1の水平方向円筒レンズ5、第1の垂直方向円筒レンズ6、第2の水平方向円筒レンズ7および出力ミラー330がレーザ光に対する外部共振器を構成し、この外部共振器が半導体レーザ素子100に波長975nmのレーザ光を出力させる。
実施の形態4にかかる出力ミラー330は平面ミラーにより構成される。出力ミラー330の入射面301においては、入射面301へ入射するレーザ光のスロー軸方向であるx方向の中央部に、入射面301へ入射するレーザ光のビーム径w2より狭い範囲の幅w1に高反射部302が設けられている。高反射部302の幅w1は、スロー軸方向の横モードの目標とする次数に基づいて決定される。そして、入射面301の高反射部302を除いた領域には、波長975nmに対する反射防止コーティングが施されている。出力ミラー330においても、入射面301のレーザ光に対する反射率は、スロー軸方向の中央である中心線350からスロー軸方向に沿って離れるに従って減少することはあっても増加しない。そして、スロー軸方向の中央である中心線350からx方向または−x方向にみた反射率の分布は中心線350に対して対称な分布になっている。また、図示していないが、出力ミラー330の入射面301の反対面である出射面303には、全面に亘り波長975nmに対する反射防止コーティングが施されている。
実施の形態4にかかる半導体レーザ装置20においては、スロー軸方向(x方向)に母線が配された焦点距離f1のファースト軸補正レンズ2を、半導体レーザ素子100の前側端面101より距離f1の位置に配設すると共に、スロー軸方向(x方向)に母線が配された焦点距離f2の第1の垂直方向円筒レンズ6を、ファースト軸補正レンズ2より距離f1+f2の位置に配設し、出力ミラー330を、第1の垂直方向円筒レンズ6から距離f2の位置に配設している。ここで、f1およびf2で示した距離は、各光学素子の主点間の光学距離であるとする。これにより、半導体レーザ素子100の前側端面101と出力ミラー330の入射面301との間で、ファースト軸方向(y方向)に対するアフォーカルな結像光学系が構成される。従って、ファースト軸方向(y方向)に対し、半導体レーザ素子100の前側端面101と出力ミラー330の入射面301とは、光学的に共役となる。
また、実施の形態4にかかる半導体レーザ装置20においては、垂直方向(y方向)に母線が配された焦点距離f3の第1の水平方向円筒レンズ5を、半導体レーザ素子100の前側端面101より距離f3の位置に配設すると共に、垂直方向(y方向)に母線が配された焦点距離f4の第2の水平方向円筒レンズ7を、第1の水平方向円筒レンズ5より距離f3+f4の位置に配設し、出力ミラー330を、第2の水平方向円筒レンズ7から距離f4の位置に配設している。ここで、f3およびf4で示した距離は、各光学素子の主点間の光学距離であるとする。これにより、スロー軸方向(x方向)についても、半導体レーザ素子100の前側端面101と出力ミラー330の入射面301との間でアフォーカルな結像光学系が構成される。従って、スロー軸方向(x方向)についても、半導体レーザ素子100の前側端面101と出力ミラー330の入射面301とは、光学的に共役となる。
以上により、実施の形態4にかかる半導体レーザ装置20において、半導体レーザ素子100の前側端面101は、出力ミラー330に結像される。その転写倍率をMとすると、出力ミラー330上のスロー軸方向のビーム幅w2は、半導体レーザ素子100のスロー軸方向の発光点幅にMを乗じた値に等しくなる。
実施の形態4にかかる半導体レーザ装置20によれば、少なくともスロー軸方向(x方向)に対して、半導体レーザ素子100の前側端面101と出力ミラー330の入射面301とは光学的に共役であるため、半導体レーザ素子100の前側端面101上の発光点中央部に、発光点のスロー軸方向(x方向)の幅に比してw1/w2の幅の領域に高反射部が設けられた構成と光学的に等価となる。すなわち、実施の形態4にかかる半導体レーザ装置20は、半導体レーザ素子100の前側端面101に部分反射コーティングが設けられた一般的なファブリペロー型の光共振器と光学的に同等な構成となる。これにより、スロー軸方向(x方向)に対する横モードの次数の選択性が実施の形態1から実施の形態3にかかる半導体レーザ装置10よりも格段に向上するので、スロー軸方向の横モードについて目標とする次数を有したレーザ光をさらに効率的に発生させることができる。
上記したように、実施の形態4にかかる半導体レーザ装置20は、半導体レーザ素子100の発光点のスロー軸方向の限られた領域に高反射部を設けた構成と光学的に等価となる。しかし、半導体レーザ素子100の前側端面101上の微小な領域に精度よく高反射部を形成することは、技術的な難易度が高いことに加えて、コーティングプロセスの工程が複雑になるため、製造コストも増加してしまうという問題があった。これに対して、実施の形態4にかかる半導体レーザ装置20においては、少なくともスロー軸方向について、半導体レーザ素子100の前側端面101が出力ミラー330上へ結像される外部共振器が構成されているので、出力ミラー330上へ半導体レーザ素子100の発光点を拡大結像することができる。これにより、半導体レーザ装置20においては、半導体レーザ素子100の前側端面101に高反射部を直接形成する場合の高反射部の幅に比べ、出力ミラー330の入射面301上に形成する高反射部302の幅w1を広げることが可能になる。その結果、技術的にも容易に、且つ安価なコストで、出力ミラー330を製造することが可能になる。
なお、実施の形態4にかかる半導体レーザ装置20は、図8に示した入射面301に単一の高反射部302を備えた出力ミラー330を使用して外部共振器を構成するとして説明したが、出力ミラーの構成はこれに限定されない。実施の形態2にかかる出力ミラー310のように反射率が異なる複数の高反射部がスロー軸方向に配列して設けられた出力ミラーを使用してもよいし、実施の形態3にかかる出力ミラー320のように入射面の反射率をスロー軸方向に沿って連続的に変化させた出力ミラーを使用してもよく、これらの構成の出力ミラーを採用することにより、スロー軸方向の横モードの次数の選択性をさらに向上させてもよい。
実施の形態5.
図9は、本発明の実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30の構成を示す上面模式図である。図10は、実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30の構成を示す側面模式図である。なお、実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30は、図8にて示した出力ミラー330を使用している。また、実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30の外部共振器は、図9に示すように回折格子8を備えており、回折効果によって外部共振器の光軸は折り曲げられる。ただし、回折格子8はレンズ作用を呈しないことから、図10に示す側面模式図においては、半導体レーザ装置30の技術的な特徴を明確にするため、半導体レーザ素子110から出力ミラー330に至る外部共振器の構成は、模式的に光軸が直線になっているように示されている。また、回折格子8によって光軸が曲げられた後の方向を明確にするために、図9には、x’方向、y’方向およびz’方向を示す座標系の向きを明示してある。
実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30は、半導体レーザ素子110と、ファースト軸補正レンズ2と、第1の水平方向円筒レンズ5と、第1の垂直方向円筒レンズ6と、回折格子8と、第2の水平方向円筒レンズ7と、出力ミラー330とを備える。
半導体レーザ装置30が備える単一の半導体レーザ素子110は、複数の半導体レーザ媒質からなる半導体レーザアレイにより構成されている。半導体レーザ素子110は、第1の半導体レーザ媒質1041、第2の半導体レーザ媒質1042および第3の半導体レーザ媒質1043の3つの半導体レーザ媒質からなる半導体レーザアレイである。また、実施の形態5にかかる半導体レーザ素子110の前側端面101には、波長975nmを中心とする広帯域のレーザ光に対する反射防止コーティングが施され、後側端面102には、波長975nmを中心とする広帯域のレーザ光に対する全反射コーティングが施されている。なお、図9では、実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30は、3つの半導体レーザ媒質を備えた半導体レーザアレイからなる半導体レーザ素子110を使用した構成で示されているが、半導体レーザ素子110の構成はこれに限るものではない。すなわち、半導体レーザ媒質の数が3以外の複数の数であってもかまわない。
ファースト軸補正レンズ2は、水平方向である半導体レーザ素子110のスロー軸方向(x方向)に母線が配された円筒レンズである。第1の水平方向円筒レンズ5は、ファースト軸方向である垂直方向(y方向)に母線が配された円筒レンズである。第1の垂直方向円筒レンズ6は、水平方向(x方向)に母線が配された円筒レンズである。回折格子8には、垂直方向(y方向)に沿った溝が平行に形成されている。第2の水平方向円筒レンズ7は、垂直方向(y’方向)に母線が配された円筒レンズである。
なお、図9において、y’方向はファースト軸方向(y方向)と同一方向である。また、出力ミラー330を構成する平面ミラーの平面に垂直な方向がz’方向であり、y’方向およびz’方向に垂直な方向がx’方向となる。したがって、回折格子8による回折後のレーザ光のスロー軸方向はx’方向で、ファースト軸方向はy’方向である。
そして、半導体レーザ素子110、ファースト軸補正レンズ2、第1の水平方向円筒レンズ5、第1の垂直方向円筒レンズ6、回折格子8、第2の水平方向円筒レンズ7および出力ミラー330がレーザ光に対する外部共振器を構成し、この外部共振器が半導体レーザ素子110にレーザ光を出力させる。
実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30において、垂直方向(y方向)に母線が配された第1の水平方向円筒レンズ5は、半導体レーザ素子110から第1の水平方向円筒レンズ5の焦点距離と略等しい距離に配設されている。また、回折格子8も第1の水平方向円筒レンズ5から第1の水平方向円筒レンズ5の焦点距離と略等しい距離に配設されている。従って、第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043から各々出射されたレーザ光は、第1の水平方向円筒レンズ5によってスロー軸方向(x方向)の発散角が平行化されて、回折格子8上における第1の水平方向円筒レンズ5の焦点位置において、主光線がほぼ一点に重なるよう集光される。また、外部共振器を構成する出力ミラー330は、第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043に対して共通であり、平面ミラーからなる出力ミラー330に対しては、z’方向に垂直入射するレーザ光の共振器損失が最小となる。したがって、回折格子8による回折角が、回折後のレーザ光を出力ミラー330へ垂直入射させる角度に一致するように、第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043各々のレーザ発振波長が受動的に選択される。この結果、第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043各々から出射された複数のレーザ光は、回折格子8と出力ミラー330との間の光路において、同軸状に重畳される。したがって、上記発振波長の選択により、回折格子8は、結果的に上記複数のレーザ光の光軸が重畳する位置に配置されていることになり、上記複数のレーザ光を1つのビームに波長結合して出力ミラー330へ向けて出射する。
なお、実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30においても、実施の形態4にかかる半導体レーザ装置20と同様に、水平方向であるスロー軸方向(x方向、x’方向)については、第1の水平方向円筒レンズ5、第2の水平方向円筒レンズ7および出力ミラー330を適切な距離だけ離して設置することにより、半導体レーザ素子110の前側端面101を、出力ミラー330の入射面301上へ結像する光学系を構成している。また、垂直方向であるファースト軸方向(y方向、y’方向)については、ファースト軸補正レンズ2、第1の垂直方向円筒レンズ6および出力ミラー330を適切な距離だけ離して設置することにより、半導体レーザ素子110の前側端面101を、出力ミラー330の入射面301上へ結像する光学系を構成している。従って、両方向において半導体レーザ素子110の前側端面101と出力ミラー330の入射面301とは、光学的に共役となる。
実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30においては、第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043といった複数の半導体レーザ媒質を備えた半導体レーザアレイである半導体レーザ素子110が用いられて、第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043のそれぞれに対応した外部共振器が、単一の出力ミラー330を共有する。さらに、半導体レーザ装置30においては、回折格子8の波長分散効果を利用した波長結合により、第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043からなる複数の半導体レーザ媒質から出射された複数のレーザ光を同軸状に重畳している。これにより、実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30は、単一の半導体レーザ媒質104を備えた半導体レーザ素子100を使用した場合に比べて、集光性を低下させることなく、高出力化することが容易に可能となる。
さらに、実施の形態5にかかる出力ミラー330の入射面301には、スロー軸方向の横モードの目標とする次数に対応して設定された範囲のみに、高反射部302が設けられているので、複数の半導体レーザ媒質を備えた半導体レーザ素子110を使用した場合であっても、複数の半導体レーザ媒質それぞれに対応するスロー軸方向の集光性を、全て同時に改善することが可能になる。また、実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30においても、半導体レーザ素子110の前側端面101と出力ミラー330の入射面301とは光学的に共役であるため、実施の形態4にかかる半導体レーザ装置20と同じく、スロー軸方向(x方向)に対する横モードの次数の選択性を実施の形態1から実施の形態3にかかる半導体レーザ装置10よりも格段に向上させることができる。
実施の形態6.
図11は、本発明の実施の形態6にかかる半導体レーザ装置40の構成を示す上面模式図である。図12は、実施の形態6にかかる半導体レーザ装置40の構成を示す側面模式図である。図13は、実施の形態6にかかる出力ミラー340の構成を示す模式図である。実施の形態6にかかる半導体レーザ素子110の構成は、実施の形態5にかかる半導体レーザ素子110の構成と同一であるが、実施の形態5と同様にこの構成に限定されるわけではない。さらに、実施の形態6にかかる半導体レーザ装置40の外部共振器も、実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30と同じく回折格子8により光軸が折り曲げられているが、図12に示す側面模式図においては、半導体レーザ装置40の技術的な特徴を明確にするため、模式的に光軸が直線になっているように示されている。また、回折格子8によって光軸が曲げられた後の方向を明確にするために、図11には、x’方向、y’方向およびz’方向を示す座標系の向きを明示してある。そして、実施の形態6にかかる半導体レーザ装置40は、半導体レーザ装置30の構成に加えて、ファースト軸補正レンズ2と第1の垂直方向円筒レンズ6との間に回転光学素子11が設置され、回折格子8と第2の水平方向円筒レンズ7との間には第2の垂直方向円筒レンズ9が設置されている。そして、半導体レーザ装置40においては、半導体レーザ素子110、ファースト軸補正レンズ2、回転光学素子11、第1の垂直方向円筒レンズ6、第1の水平方向円筒レンズ5、回折格子8、第2の垂直方向円筒レンズ9、第2の水平方向円筒レンズ7および出力結合素子である出力ミラー340がレーザ光に対する外部共振器を構成し、この外部共振器が半導体レーザ素子110にレーザ光を出力させる。なお、実施の形態6では、1つの半導体レーザ素子110から互いに異なる光軸を有する複数のレーザ光が出射され、回折格子8は複数のレーザ光を1つのビームに波長結合して出射している。
図14は、実施の形態6にかかる回転光学素子11の構成の一例を示す斜視図である。回転光学素子11は、90°像回転光学系アレイであり、対向した一対の円筒凸レンズが、基準軸の方向であるy方向に対し45°傾けられて、半導体レーザ素子110の複数の発光点の間隔と同一のピッチで配列されたものである。そして、回転光学素子11においては、円筒凸レンズの焦点距離をfとすれば、対向する円筒凸レンズ間の間隔Lは2fに設定されている。回転光学素子11に対し、偏平光の長軸または短軸を基準軸の方向であるy方向に平行な角度で入射させた場合、出射光においては長軸と短軸とが入れ替わる。すなわち、回転光学素子11は、入射されたそれぞれのレーザ光をそれぞれの光軸を回転軸にして90°回転させた光をそれぞれ出射する。したがって、回転光学素子11からの出射光による像は、回転光学素子11への入射光の像を90°回転したものとなる。回転光学素子11は、例えば、ドイツのLIMO Lissotschenko Mikrooptik GmbH社が製品化しており、Beam Transformation Systemという製品名で容易に入手することが可能である。
実施の形態6にかかる半導体レーザ装置40において、半導体レーザ素子110の第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043から各々出射されたレーザ光は、ファースト軸補正レンズ2によってファースト軸方向(y方向)の発散角が略平行化される。次に、回転光学素子11を透過することによって、各レーザ光は光軸周りに90°回転する。従って、半導体レーザ素子110から出射された時の各レーザ光のスロー軸方向(x方向)の成分はそれぞれ垂直方向(y方向)の成分に変換され、半導体レーザ素子110から出射された時の各レーザ光のファースト軸方向(y方向)の成分はそれぞれ水平方向(x方向)の成分に変換される。回転光学素子11を透過したレーザ光は、水平方向(x方向)に母線が配された第1の垂直方向円筒レンズ6によって、スロー軸方向(y方向)の発散角が略平行化され、垂直方向(y方向)に母線が配された第1の水平方向円筒レンズ5へ入射する。第1の水平方向円筒レンズ5によって、各レーザ光は回折格子8上において、主光線がほぼ一点に重なるようファースト軸方向(x方向)に対して集光される。回折格子8には、垂直方向(y方向)に沿った溝が平行に形成されている。
上述したように、回転光学素子11を透過することによって、各レーザ光のファースト軸方向とスロー軸方向とは入れ替わるので、図11において、回折格子8による回折後のレーザ光のスロー軸方向はy’方向で、ファースト軸方向はx’方向である。なお、y’方向はy方向と同一方向であり、x’方向およびy’方向に垂直なz’方向が、出力ミラー340を構成する平面ミラーの平面に垂直な方向になっている。
実施の形態6にかかる半導体レーザ装置40においても、実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30と同じく、第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043が、単一の出力ミラー340を共有しており、回折格子8による回折角が、回折後のレーザ光を出力ミラー340へ垂直入射させる角度に一致するように、第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043各々のレーザ発振波長が受動的に選択される。この結果、実施の形態5と同様に、第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043各々から出射されたレーザ光は、回折格子8と出力ミラー340との間の光路において、同軸状に重畳される。
回折格子8によって同軸状に重畳されたレーザ光は、水平方向(x’方向)に母線が配された第2の垂直方向円筒レンズ9によって、スロー軸方向(y’方向)に対し集光され、垂直方向(y’方向)に母線が配された第2の水平方向円筒レンズ7へ入射する。第2の水平方向円筒レンズ7へ入射したレーザ光は、ファースト軸方向(x’方向)の発散角が略平行化されて、出力ミラー340へ入射する。
なお、実施の形態6にかかる半導体レーザ装置40においても、水平方向(x方向、x’方向)については、第1の水平方向円筒レンズ5、第2の水平方向円筒レンズ7および出力ミラー340を適切な距離だけ離して設置することにより、半導体レーザ素子110の前側端面101を、出力ミラー340の入射面301上へ結像する光学系を構成している。また、垂直方向(y方向、y’方向)については、ファースト軸補正レンズ2、第1の垂直方向円筒レンズ6、第2の垂直方向円筒レンズ9および出力ミラー340を適切な距離だけ離して設置することにより、半導体レーザ素子110の前側端面101を、出力ミラー340の入射面301上へ結像する光学系を構成している。従って、両方向において半導体レーザ素子110の前側端面101と出力ミラー340の入射面301とは、光学的に共役となる。
実施の形態6にかかる半導体レーザ装置40においても、複数の半導体レーザ媒質を備えた半導体レーザアレイである半導体レーザ素子110が用いられて、第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043のそれぞれに対応した外部共振器が、単一の出力ミラー340を共有する。さらに、半導体レーザ装置40においては、回折格子8の波長分散効果を利用した波長結合により、第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043からなる複数の半導体レーザ媒質が出射したレーザ光を同軸状に重畳している。したがって、実施の形態5と同様に、実施の形態6にかかる半導体レーザ装置40は、単一の半導体レーザ媒質104を備えた半導体レーザ素子100を使用した場合に比べて、集光性を低下させることなく、高出力化することが容易に可能となる。
複数の半導体レーザ媒質を備えた半導体レーザ素子110においては、製造プロセスに起因したスマイルと呼ばれる変形が発生して、第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043それぞれのy方向の設置高さに差異が生じる場合がある。これに対して、実施の形態6にかかる半導体レーザ装置40は、回転光学素子11をさらに使用することにより、第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043のそれぞれから出射されたレーザ光を光軸周りに90°回転させている。これにより、設置高さの差異によってビーム重畳時に発生する光軸ずれの方向をy方向からx方向に変換することができる。すなわち、ビーム重畳時に発生する光軸ずれの方向をファースト軸方向に比べて相対的に集光性が低く、光軸ずれ量に対する集光性の低下割合が相対的に小さなスロー軸方向とすることができるので、実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30に比べて集光性の低下割合を抑制しながら安定的に高出力化することができるという効果が得られる。
また、図13に示すように、実施の形態6にかかる出力ミラー340の入射面301には、スロー軸方向の横モードの目標とする次数に基づいて決定されたy’方向の幅w1の領域のみに高反射部302が設けられている。出力ミラー340においても、入射面301のレーザ光に対する反射率は、回折後のレーザ光のスロー軸方向(y’方向)の中央である中心線350からスロー軸方向に沿って離れるに従って減少することはあっても増加しない。そして、スロー軸方向の中央である中心線350からy’方向または−y’方向にみた反射率の分布は中心線350に対して対称な分布になっている。したがって、出力ミラー340を用いることにより第1〜第3の半導体レーザ媒質1041,1042,1043を備えた半導体レーザ素子110を使用した場合であっても、実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30と同じく、複数の半導体レーザ媒質それぞれに対応するスロー軸方向の集光性を、全て同時に改善することが可能になる。さらに、実施の形態6にかかる半導体レーザ装置40においても、半導体レーザ素子110の前側端面101と出力ミラー340の入射面301とは光学的に共役であるため、実施の形態4にかかる半導体レーザ装置20および実施の形態5にかかる半導体レーザ装置30と同じく、スロー軸方向(x方向)に対する横モードの次数の選択性を実施の形態1から実施の形態3にかかる半導体レーザ装置10よりも格段に向上させることができる。
実施の形態7.
図15は、本発明の実施の形態7にかかる半導体レーザ装置50の構成を示す上面模式図である。半導体レーザ装置50においては、2つの半導体レーザ素子である第1の半導体レーザ素子121および第2の半導体レーザ素子122を使用し、共通の出力ミラー340のもとで、回折格子8を用いてレーザ光を重畳することにより、集光性を維持しながら高出力化する構成になっている。なお、第1の半導体レーザ素子121および第2の半導体レーザ素子122は、いずれも実施の形態5および6にかかる半導体レーザ素子110と同一な構成であり、それぞれ複数の半導体レーザ媒質を備える。すなわち、第1の半導体レーザ素子121は、第1〜第3の半導体レーザ媒質1051,1052,1053を備え、第2の半導体レーザ素子122は、第1〜第3の半導体レーザ媒質1061,1062,1063を備える。また、実施の形態7にかかる出力ミラー340の構成は、実施の形態6にかかる出力ミラー340と同一である。したがって、第1の半導体レーザ素子121および第2の半導体レーザ素子122それぞれに対する外部共振器の構成は実施の形態6と同様になっている。
図15の半導体レーザ装置50に示すように、複数の半導体レーザ素子である第1の半導体レーザ素子121および第2の半導体レーザ素子122を使用し、回折格子8によってレーザ光を重畳するとともに、共通の出力ミラー340を用いて外部共振器を構成すれば、実施の形態6にかかる半導体レーザ装置40と同様な効果が得られるばかりでなく、集光性を維持しながら容易に高出力化することがさらに可能になる。
なお、図15に示した実施の形態7にかかる半導体レーザ装置50においては、2つの半導体レーザ素子を使用して回折格子8を用いて波長結合する構成を示したが、波長結合する半導体レーザ素子の数は複数であればこれに限るものではない。また、複数の半導体レーザ素子がそれぞれ全て複数の半導体レーザ媒質を備えた半導体レーザアレイで構成されていなくてもよい。すなわち、複数の半導体レーザ素子の一部が半導体レーザ素子100のように単一の半導体レーザ媒質しか有さない半導体レーザ素子であってもかまわない。
なお、実施の形態5から実施の形態7においては、回折格子8の波長分散効果を利用し、半導体レーザ素子の外部共振器内において、複数の半導体レーザ媒質から出射されるレーザ光を同軸状に重畳する構成を示したが、レーザ光を重畳する手段はこれに限るものではない。例えば、異なる発振波長帯に利得を有する複数の半導体レーザ媒質を使用して、単一の出力ミラーを共有する外部共振器内で、ダイクロイックミラー等におけるコーティング反射率の波長依存性を利用して、複数の半導体レーザ媒質から出射されたレーザ光を同軸状に重畳しても、実施の形態5から実施の形態7と同様な効果を得ることができる。
また、実施の形態5から実施の形態7においては、入射面301に単一の高反射部302を備えた出力ミラー330,340を使用して外部共振器を構成するとして説明したが、出力ミラーの構成はこれに限定されない。実施の形態2にかかる出力ミラー310のように反射率が異なる複数の高反射部がスロー軸方向に配列して設けられた出力ミラーを使用してもよいし、実施の形態3にかかる出力ミラー320のように入射面の反射率をスロー軸方向に沿って連続的に変化させた出力ミラーを使用してもよく、これらの構成の出力ミラーを採用することにより、スロー軸方向の横モードの次数の選択性をさらに向上させてもよい。
また、実施の形態5から実施の形態7においては、半導体レーザ素子の前側端面101を出力ミラー330,340の入射面301上へ結像する外部共振器を示したが、外部共振器の構成はこれに限るものではなく、目標とするビーム特性に応じて適宜設計すればよい。
実施の形態8.
実施の形態1から実施の形態7にかかる半導体レーザ装置における端面発光型の半導体レーザ素子のスロー軸方向の光閉じ込めは、光増幅作用のある領域に光が集中するゲインガイド作用のほかに、温度分布やキャリア濃度分布に基づく屈折率分布によるレンズ作用が働いていると考えられる。これらの光閉じ込めの効果は、レーザ出力が高いと強くなる。その結果、実施の形態1から実施の形態7のように外部共振器をスロー軸方向のビーム集光性を向上させる構成としても、レーザ出力が高い領域では、集光性が向上しない可能性がある。
本発明の実施の形態8においては、実施の形態1から実施の形態7にかかる半導体レーザ装置が備える、半導体レーザ素子100,110,121,122の発光点及び発光点近傍、すなわち各半導体レーザ媒質に、スロー軸方向の光閉じ込め作用を減ずる屈折率分布が形成されている。すなわち、半導体レーザ素子100,110,121,122の半導体レーザ媒質のスロー軸方向の屈折率分布がレーザ光のスロー軸方向への閉じ込め効果を抑制するような分布になっていることにより、スロー軸方向の光閉じ込めの効果を抑制することができる。これにより、高出力の領域でも高い集光性を得ることが可能となる。
図16は、本発明の実施の形態8にかかる半導体レーザ素子の内部に形成されたスロー軸方向の屈折率分布を示す図である。図16は、レーザ光のスロー軸方向への閉じ込め効果を抑制するような半導体レーザ媒質のスロー軸方向の屈折率分布の一例である。図16に示すように、非通電状態の半導体レーザ素子のレーザ光に対する屈折率のスロー軸方向の分布において、発光領域である半導体レーザ媒質の屈折率は、発光領域の周囲の非発光領域の屈折率よりも低くなっている。このような屈折率分布を形成しておくことで、レーザ光の閉じ込め効果は低くなる。実施の形態8にかかる半導体レーザ素子を用いれば、半導体レーザ素子内部および外部共振器の双方において、高次モードの閉じ込めを抑制する作用が働くので、特にレーザ出力を高くした場合にビーム集光性をさらに向上することが出来るという効果が得られる。
実施の形態9.
図17は、本発明の実施の形態9にかかる半導体レーザ装置60の構成を示す上面模式図である。図18は、実施の形態9にかかる半導体レーザ装置60の構成を示す側面模式図である。実施の形態9における半導体レーザ素子100の発光点への出力ミラー352によるレーザ光の反射の割合のスロー軸方向に沿った分布は、実施の形態1から8とは異なる分布となる。
実施の形態1から8の出力結合素子においては、スロー軸方向の中心領域のレーザ光を周辺領域より多く半導体レーザ素子の発光点に向けて反射していた。実施の形態9の出力結合素子である出力ミラー352は、スロー軸方向の中心領域のレーザ光と比較して、周辺領域のレーザ光を積極的に反射する。
実施の形態9の出力ミラー352は、図17において、主発振光401および周辺増幅光402のうちのスロー軸方向(x方向)の周辺領域を通過するレーザ光である片方の周辺増幅光402の部分のみ反射するように挿入されている。出力ミラー352の入射面351は、レーザ光に対して高い反射率のコーティングが施されている。出力ミラー352の出射面353は、反射率の低いコーティングであるAR(Anti Reflection)コーティングが施されていてもよいし、コーティングされずに砂摺り面などの荒面化加工が施されていてもよい。出射面353をこのように加工することで、出射面353での残存反射率による不要発振を抑制することが可能であり、半導体レーザ装置60の動作を効果的に安定させることができる。
実施の形態9にかかる半導体レーザ装置60においては、出力ミラー352が周辺増幅光402を反射するので、半導体レーザ素子100の後側端面102と、出力ミラー352とで半導体レーザ共振器を構成し、主発振光401を全て出力とする。これにより、半導体レーザ装置60から出力されるレーザ光のうち集光性の高い主発振光401が占める割合を出力ミラー352を設けない場合に比べて増加させることができる。すなわち、半導体レーザ装置60から出力されるレーザ光のスロー軸方向の集光性を向上させることが可能である。
ここで、出力ミラー352が挿入されるレーザ光中の領域は、スロー軸に沿ったレーザ光のエネルギーの空間分布であるプロファイルにおいて、レーザ光のエネルギーが2%〜40%含まれる片側の領域とする。レーザ光のスロー軸方向のプロファイルは、レーザ光軸に対してほぼ対称である。実施の形態9では、出力ミラー352は、対称形状のビームプロファイルの片側にのみ挿入される。対称形状のビームプロファイルのいずれか一方の片側に出力ミラーを配置することにより、スロー軸方向の中央部の反射率は、中央部のスロー軸方向の両側に存在する周辺部の反射率の少なくともいずれか一方よりも低い値となる。そして、出力ミラー352のスロー軸方向の位置を調整することにより、出力ミラー352によるレーザ光の反射の割合を調整することが可能である。出力ミラー352をレーザ光軸の中心に向けて移動することで、より多くレーザ光エネルギーが反射されるようにすることができる。出力ミラー352が反射するレーザ光のエネルギーを増やすと、集光性を向上させることが出来るが、半導体レーザ装置60から出力されるレーザ光のパワーは低下する。本発明の発明者の実験によると、出力ミラー352によって反射されるレーザ光のエネルギーの割合が全体の5%〜10%の時にパワーの低下を抑えて、スロー軸方向の集光性を改善することができた。
実施の形態10.
図19は、本発明の実施の形態10にかかる半導体レーザ装置70の構成を示す上面模式図である。図20は、実施の形態10にかかる半導体レーザ装置70の構成を示す側面模式図である。実施の形態10においては、実施の形態9においてレーザ光のスロー軸に沿ったプロファイルの片側に挿入した出力ミラーを両側に挿入する。
図19に示すように、実施の形態10の出力結合素子を構成する出力ミラー360および出力ミラー370は、スロー軸方向(x方向)においてレーザ光軸に対して対称に設置されている。これにより、スロー軸方向の中央部の反射率は、中央部のスロー軸方向の両側に存在する周辺部の反射率よりも低い値になる。さらに、スロー軸方向の中央に対して、反射率は対称な分布になっている。反射率の分布が対称であることにより、半導体レーザ装置70より出力されるビームの空間的な対称性を向上させることができ、レーザ加工の異方性を抑制することが出来る。
出力ミラー360の入射面361および出力ミラー370の入射面371は、実施の形態9の出力ミラー352の入射面351と同様にレーザ光に対して高い反射率のコーティングが施されている。出力ミラー360の出射面363および出力ミラー370の出射面373は、実施の形態9の出力ミラー352の出射面353と同様の構成である。
実施の形態10にかかる半導体レーザ装置70によれば、出力ミラー360および出力ミラー370を、スロー軸方向に沿ってレーザ光軸を中心軸として対称な位置に挿入することにより、半導体レーザ素子100から出力されるレーザ光のスロー軸方向に沿ったビームプロファイルを、レーザ光軸を中心として対称な形状とすることが可能である。
実施の形態10においても、実施の形態9と同様に、出力ミラー360および出力ミラー370のレーザ光のスロー軸方向の位置を調整することにより、半導体レーザ素子100への出力ミラー360および出力ミラー370によるレーザ光の反射の割合を調整することが出来る。
実施の形態10においては、出力ミラー360および出力ミラー370による反射の割合の合計が、レーザ光のエネルギーの2%〜40%とする。実施の形態10においても、出力ミラー360および出力ミラー370が反射するレーザ光のエネルギーを増やすと、集光性を向上させることが出来るが、半導体レーザ装置70から出力されるレーザ光のパワーは低下する。本発明の発明者の実験によると、出力ミラー360および出力ミラー370によって反射されるレーザ光のエネルギーの割合の合計が全体の5%〜10%の時にパワーの低下を抑えて、スロー軸方向の集光性を改善することができた。
実施の形態10にかかる半導体レーザ装置70から出力されたレーザ光は、光ファイバーへ導光されて使用されることも、直接集光してレーザ加工に使用されることもある。半導体レーザ装置70からのレーザビームのプロファイルの対称性が高いことにより、前者においては光ファイバーへの導光効率の向上の効果が得られ、後者においてはレーザ加工の異方性の抑制の効果が得られる。
半導体レーザ素子100から出力されるレーザ光のスロー軸方向のビームプロファイルは、レーザ光軸に対してほぼ対称な形状を有する。しかし、完全な対称形状とはならず、半導体レーザ素子100の実装における微細な組み立て誤差により、歪んだレーザビームプロファイルとなる。実施の形態10にかかる半導体レーザ装置70のように、向きの調整または配置の位置制御を空間的に大きく実行することが容易な出力ミラー360,370によってレーザ光のプロファイルの対称性を向上させる構成とすることで、上記組み立て誤差によらず、レーザ光のプロファイルの対称性を改善することが可能となる。
実施の形態11.
図21は、本発明の実施の形態11にかかる半導体レーザ装置80の構成を示す上面模式図である。図22は、実施の形態11にかかる半導体レーザ装置80の構成を示す側面模式図である。図23は、実施の形態11にかかる出力ミラー380の構成を示す斜視模式図である。
実施の形態9および実施の形態10においては、高反射率の出力ミラーをレーザ光のスロー軸方向の周辺部からレーザ光の進路に挿入することによって、レーザ光のスロー軸方向のプロファイルにおいて、周辺部のレーザ光を中心部のレーザ光よりも多く反射させる構成であった。そして、実施の形態9および実施の形態10においては、出力ミラーの入射面内でのレーザ光の反射率は空間的に変化していなかった。しかし、実施の形態11にかかる半導体レーザ装置80では、出力結合素子である出力ミラー380の入射面における反射率の分布によって、スロー軸方向のプロファイルの周辺部において中心部より多く半導体レーザ素子100に向けてレーザ光を反射する構成とする。
実施の形態11における出力ミラー380の入射面381には、高反射部382および低反射部386が形成されている。出射面383は、反射率を抑制するためのARコーティングが施されている。
図24は、実施の形態11にかかる出力ミラー380の構成を示す模式図である。高反射部382は、図23および図24に示すように、レーザ光のスロー軸方向(x方向)において、低反射部386の両側に配置されている。図21に示すように、レーザ光の周辺増幅光402が、出力ミラー380の高反射部382により半導体レーザ素子100の発光点に向けて反射される。
実施の形態9および10と同様に、実施の形態11にかかる半導体レーザ装置80によれば、レーザ光の周辺増幅光402を反射させて半導体レーザ共振器を構成することにより、出力されるレーザ光において主発振光401の割合を高めることができる。これにより、半導体レーザ装置80から出力されるレーザ光のスロー軸方向の集光性を改善する効果が得られる。
実施の形態11にかかる出力ミラー380によれば、スロー軸方向の反射率分布をコーティングにより変化させた一枚の出力ミラーによって周辺増幅光402を多く反射させる。出力ミラー380の低反射部386と高反射部382との境界で発生するレーザ光の散乱および吸収は、実施の形態9および10にかかる出力ミラー352,360,370の上記境界に対応する領域である機械的なエッジ部で発生するレーザ光の散乱および吸収に比べて著しく小さくすることができる。したがって、レーザ光が高出力である場合には、実施の形態11にかかる出力ミラー380によれば、レーザ光の散乱および吸収に起因する出力ミラーの破損または異常発振といった悪影響を抑制することが可能である。
また、出力結合素子は、実施の形態10においては出力ミラー360,370の2枚の出力ミラーにより構成されていたが、実施の形態11においては一枚のミラーである出力ミラー380により構成される。実施の形態11によれば、出力結合素子の調整がさらに容易になるだけではなく、出力ミラー380の入射面381の反射率の分布を設計することで、以下で説明するように、半導体レーザ素子100の広い動作領域で半導体レーザ装置80が安定したレーザ光の出力特性を得ることが可能になる。
図24の下に、出力ミラー380の入射面381のスロー軸方向の反射率分布が示してある。図24の例においては、高反射部382の反射率は100%に近く、低反射部386における反射率はほぼ0%である。出力ミラー380がこのような反射率分布を有する場合、出力ミラー380による作用効果は、実施の形態10における高反射率の出力ミラー360および出力ミラー370によって構成された出力結合素子による作用効果に近いものとなる。
図25は、実施の形態11にかかる出力ミラー380の構成を示す別の模式図である。図25に示した出力ミラー380の入射面381のスロー軸方向の反射率分布は、図24の例とは異なる。図25の例においては、高反射部382の反射率は約80%で、低反射部386の反射率は約5%になっている。半導体レーザ素子100から出射されるレーザ光のスロー軸方向のビーム発散角は、半導体レーザ素子100への印加電流が少ないときには小さく、印加電流を増加させると増大する。このため、印加電流の増加にともない、半導体レーザ素子100から出射されるレーザ光における周辺増幅光402の割合が増加する。したがって、出力ミラー380の反射率分布を印加電流の値が高電流域であるときに最適な反射率分布になるように設計すると、印加電流が少なくて周辺増幅光402の割合が少ないときには、半導体レーザ素子100への反射光の割合が低くなりすぎる場合がある。その結果、半導体レーザ素子100の後側端面102と出力ミラー380とで構成される外部共振器が動作しないことがある。このように印加電流が少ない場合、図25の例のように、低反射部386の反射率をゼロに近い値にしないで数パーセントの値とすることで、低電流印加時においても安定な発振が可能となる。図25の例においては、出力ミラー380の入射面381の全体により反射されるレーザ光のエネルギーの割合を保つために、高反射部382の反射率を低減するようにしたが、低反射部386と高反射部382との面積比によって調整することも可能である。
実施の形態12.
図26は、本発明の実施の形態12にかかる半導体レーザ装置90の構成を示す上面模式図である。半導体レーザ装置90は、実施の形態7の半導体レーザ装置50における出力ミラー340を実施の形態11にかかる出力ミラー380に置き換えた構成である。実施の形態12においては、回転光学素子11、回折格子8および出力ミラー380、を用いて、複数の半導体レーザ素子である第1の半導体レーザ素子121および第2の半導体レーザ素子122からのレーザビームを波長分散結合する。
実施の形態12にかかる半導体レーザ装置90においては、図24および図25の中心線350の向きが図26におけるx’方向となるように出力ミラー380が配置される。すなわち、半導体レーザ装置90は、出力結合素子として、スロー軸方向(図26におけるy’方向)の周辺増幅光を半導体レーザ素子の発光点により多く反射する出力ミラー380を用いる。
第1の半導体レーザ素子121におけるスロー軸方向はx方向であり、ファースト軸方向はy方向である。第2の半導体レーザ素子122におけるスロー軸方向はx方向とは異なる方向であり、ファースト軸方向はy方向である。しかし、回転光学素子11より下流の光路においては、第1の半導体レーザ素子121および第2の半導体レーザ素子122からのレーザビームのスロー軸方向は、共にy方向またはy’方向である。すなわち、出力ミラー380の位置においては、スロー軸方向はy’方向になっている。
実施の形態12にかかる半導体レーザ装置90においても、第1の水平方向円筒レンズ5、第2の水平方向円筒レンズ7、ファースト軸補正レンズ2、第1の垂直方向円筒レンズ6、第2の垂直方向円筒レンズ9および出力ミラー380を適切な距離だけ離して設置することにより、水平方向(x方向、x方向とは異なる上記方向、x’方向)および垂直方向(y方向、y’方向)において、第1の半導体レーザ素子121および第2の半導体レーザ素子122の前側端面101を、出力ミラー380の入射面381上へ結像する光学系を構成することができる。すなわち、両方向において第1の半導体レーザ素子121および第2の半導体レーザ素子122の前側端面101と出力ミラー380の入射面381とは、スロー軸方向において光学的に共役な関係になっている。
実施の形態12にかかる半導体レーザ装置90によれば、実施の形態7にかかる半導体レーザ装置50と同様に、一つの出力ミラーで複数の半導体レーザ素子の発光点からのレーザ光の集光性を向上させて出力を高めることが可能になるのみならず、以下のような効果を奏する。
出力ミラー380の高反射部382により反射されるレーザ光は、出力ミラー380の向きがスロー軸方向に角度がずれても、第1の半導体レーザ素子121および第2の半導体レーザ素子122の発光点まで到達する。したがって、第1の半導体レーザ素子121および第2の半導体レーザ素子122の外部共振器の動作に支障は発生しない。なぜならば、第1の半導体レーザ素子121および第2の半導体レーザ素子122の前側端面101に位置する発光点と出力ミラー380とは、スロー軸方向において光学的に共役な関係になっているからである。光学的に共役な位置関係とした場合、一方の特定の点から発生した光は、その出射角度に依らず他方における特定の点に到達する。
出力ミラー380のファースト軸方向(図26におけるx’方向)の角度ずれは、回折格子8による波長分散が存在する方向の角度ずれである。出力ミラー380のファースト軸方向の角度がずれた場合でも、外部共振器の発振波長が変化することで、自動的に補償される。
以上説明したように、実施の形態12にかかる半導体レーザ装置90によれば、出力ミラー380の角度ずれに対してロバストな動作が可能になる。
また、半導体レーザから出射されるレーザビームのスロー軸方向のビーム発散角は、半導体レーザ素子への印加電流および半導体レーザ素子の動作温度によって変化する。すなわち、印加電流の増加および動作温度の上昇に伴い、スロー軸方向のビーム発散角は大きくなる。さらに、実施の形態12にかかる半導体レーザ装置90のように複数の半導体レーザ素子および発光点が存在する場合には、半導体レーザ素子の発光点ごとにビーム発散角にはばらつきが発生する。
出力ミラー380によりスロー軸方向の周辺増幅光を多く反射させて、出力されるレーザ光のビーム集光性を向上させる構成は、ビーム集光性向上効果は高いものの、半導体レーザ素子の発光点におけるスロー軸方向のビーム発散角のばらつきおよび変動に伴い、半導体レーザの外部共振器のフィードバック量が変動するおそれがある。その結果、目標とする外部共振器動作が行えず、半導体レーザ装置90の動作が不安定になるという問題が生じる。しかし、実施の形態12にかかる半導体レーザ装置90においては、第1の半導体レーザ素子121および第2の半導体レーザ素子122の前側端面101と出力ミラー380の入射面381とを光学的に共役な関係とすることにより上記問題を回避することができる。
すなわち、第1の半導体レーザ素子121および第2の半導体レーザ素子122の前側端面101と出力ミラー380の入射面381とを光学的に共役な関係とすることにより、出力ミラー380の入射面381の位置でのレーザ光のスロー軸方向のプロファイルの幅は、印加電流変化または素子のばらつきによって発生するビーム発散角の変動に依らず、一定の大きさとなる。ここで、第1の半導体レーザ素子121および第2の半導体レーザ素子122の前側端面101から出力ミラー380までの転写倍率をMとする。また、第1の半導体レーザ素子121および第2の半導体レーザ素子122のスロー軸方向の発光点の幅をWとする。すると、出力ミラー380におけるレーザ光のスロー軸方向のプロファイルの幅はWMになり、上述のようにビーム発散角に依らずに一定となる。レーザ光のプロファイルの幅が一定であるから、出力ミラー380の高反射部382に照射されるレーザ光のエネルギーのレーザ光全体に対する割合は、半導体レーザ素子のスロー軸方向のビーム発散角に依らずに一定となる。
その結果、実施の形態12にかかる半導体レーザ装置90によると、印加電流変化または半導体レーザ素子のばらつきに起因するスロー軸方向のビーム発散角の変動の影響を受けないロバストな動作を実現した上で、スロー軸方向のレーザ光のプロファイルの周辺領域を選択的に反射してスロー軸方向の集光性を改善することが容易に可能となる。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。