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JPWO2005054491A1 - 光学活性テトラヒドロチオフェン誘導体の製造方法、および、光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールの晶析方法 - Google Patents

光学活性テトラヒドロチオフェン誘導体の製造方法、および、光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールの晶析方法 Download PDF

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JPWO2005054491A1 JP2005515936A JP2005515936A JPWO2005054491A1 JP WO2005054491 A1 JPWO2005054491 A1 JP WO2005054491A1 JP 2005515936 A JP2005515936 A JP 2005515936A JP 2005515936 A JP2005515936 A JP 2005515936A JP WO2005054491 A1 JPWO2005054491 A1 JP WO2005054491A1
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Abstract

(A)テトラヒドロチオフェン−3−オンの、(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールへの生物学的変換を行うことができるものであって、かつペニシリウム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属またはストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する菌株またはその培養菌体の調製物の存在下で、テトラヒドロチオフェン−3−オンをインキュベーション処理する工程、(B)インキュベーション処理液から(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールを採取する工程、を含んでなる(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールの製造方法、および、光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを液温1℃以下の有機溶媒沖で晶析させることを特徴とする、より光学純度の高い光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールの晶析方法。

Description

本発明は、光学活性な医薬品の合成中間体として利用可能な(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールの生物学的変換による製造方法および光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールの晶析方法に関する。
式(II)で示される(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールは、ペネム系抗生物質の合成中間体として用いられる(特開昭63−287781号公報参照)。
Figure 2005054491
(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールの製造方法としては、イリジウム触媒を用いる方法(特開平04−139192号公報参照)、金属錯体触媒を用いる方法(特開平04−139140号公報参照)、アミノ酸から合成する方法(ジャーナル・オブ・オルガニック・ケミストリー(J.Org.Chem.)57,4354(1992)参照)、2,3−ジヒドロチオフェンから合成する方法(ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(J.Am.Chem.Soc.)108,2049−2054(1986)参照)等の化学合成による方法が知られている。しかしこれらの方法は、高価な試薬を必要としたり、複数の反応工程を経ることから収量が低くなる等の問題があり、工業的製法として満足できる方法とは言えない。
またラセミのテトラヒドロチオフェン−3−オールをエステル化し、このエステルをリパーゼ等の酵素を用いて光学分割して得る方法が知られている(バイオカタリシス(Biocatalysis)9,61−69(1994)参照)。しかし、この方法は、ラセミ体を原料とした光学分割法のため、目的の光学活性体の理論収率は最大でも50%であり、収率的に満足できる方法ではない。また、一般的にリパーゼ等の酵素を使用した選択的加水分解あるいはエステル化による光学分割法は、酵素反応工程以外に、基質への保護基の導入、あるいは反応生成物の脱保護等の工程を必要とする場合があり、結果的に工程が複雑になって工業的製法としてあまり有利な方法とは言えない。
そこで、本発明の第一の目的は、前記した立体選択的還元法あるいは光学分割法が抱える問題点(例えば、所望とする光学活性体と反対の立体配置をもつ光学活性体の副生、毒性の高い化合物の使用、選択性の低下等)の少ない生物学的変換方法によるテトラヒドロチオフェン−3−オンを原料とした光学活性なテトラヒドロチオフェン−3−オールの新規な製造方法を提供することである。
また、医薬品の合成中間体として使用するためには、光学活性なテトラヒドロチオフェン−3−オールの光学純度を高めることが望ましい。
光学活性体の光学純度を高める方法として、その活性体が酸性物質や塩基性物質である場合には、光学活性の酸あるいは塩基とのジアステレオマー塩を形成させ、それらの溶解度の差により一方のジアステレオマー塩を優先的に晶析させる方法が知られている。その他にも光学異性体分離カラムクロマトグラフィーを用いる方法あるいは光学純度の高い種結晶を用いる優先的結晶化方法が知られている。
しかしながらテトラヒドロチオフェン−3−オールは、室温では液体であり、通常の優先的結晶化方法による光学純度の向上は困難である。またカルボキシル基、アミノ基等の際立った酸性または塩基性を示す官能基を有していないので、ジアステレオマー塩形成による方法も適用するのは困難である。さらに光学異性体分離カラムクロマトグラフィーによる方法も、設備あるいはコストの面で工業的生産には向いていない。
そこで、本発明の第二の目的は、光学活性なテトラヒドロチオフェン−3−オールを原料にして、より光学純度の高いテトラヒドロチオフェン−3−オールを得る方法を提供することである。
本発明者らは、上記第一の目的を達成するために、広範な微生物群から下記式(I)で示されるテトラヒドロチオフェン−3−オンの3位オキソ基を立体選択的に還元し、光学活性な(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールに変換しうる微生物を探索したところ、高い選択性を有する微生物を見出し、本発明の第一の態様を完成した。
本発明の第一の態様は、以下の通りである。
[1]式(I):
Figure 2005054491
で示されるテトラヒドロチオフェン−3−オンの、
式(II):
Figure 2005054491
で示される(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールへの生物学的変換方法による、式(II)で示される(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールの製造方法であって、
(A)前記生物学的変換方法を行うことができるものであって、かつペニシリウム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属またはストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する菌株またはその培養菌体の調製物の存在下で、式(I)で示されるテトラヒドロチオフェン−3−オンをインキュベーション処理する工程、
(B)インキュベーション処理液から式(II)で示される(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールを採取する工程、
を含んでなる方法。
[2]前記生物学的変換方法を行うことができる菌株が、ペニシリウム・ビナセウム(Penicillum vinaceum)、アスペルギルス・オカラセウス(Aspergillus ochraceus)またはストレプトマイセス・ミシガネンシス(Streptomyces michiganensis)に属する菌株である[1]に記載の方法。
[3]前記生物学的変換方法を行うことができる菌株が、ペニシリウム・ビナセウム(Penicillium vinaceum)IAM7143(寄託番号NITE BP−35)、アスペルギルス・オカラセウス(Aspergillus ochraceus)ATCC18500(寄託番号NITE BP−41)またはストレプトマイセス・ミシガネンシス(Streptomyces michiganensis)NBRC12797(寄託番号:NITE BP−36)に属する菌株である[1]または[2]に記載の方法。
更に、本発明者らは、上記第二の目的を達成するために種々の検討を行い、本発明の第二の態様を完成するに至った。
本発明の第二の態様は、以下の通りである。
[4]光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールと有機溶媒とを含む溶液を1℃以下に保持することにより、該溶液中から光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを晶析させることを特徴とする、より光学純度の高い光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを晶析する方法。
[5]液温1℃以下の有機溶媒に光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを滴下することにより、光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを晶析させることを特徴とする、より光学純度の高い光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールの晶析方法。
[6]前記有機溶媒を攪拌しながら、前記光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールの滴下を行う、[5]に記載の方法。
[7]有機溶媒が、光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールと相溶性であり、かつ晶析させる温度で凝固しないものである[4]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールがR体過剰である[4]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記有機溶媒が、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、エタノール、2−プロパノールおよびトルエンからなる群より選択される少なくとも一種の溶媒またはそれらの混合溶媒である[4]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]前記光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールの晶析温度が1℃以下である[4]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[第一の態様]
本発明の第一の態様は、
式(I):
Figure 2005054491
で示されるテトラヒドロチオフェン−3−オンの、
式(II):
Figure 2005054491
で示される(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールへの生物学的変換方法による、式(II)で示される(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールの製造方法であって、
(A)前記生物学的変換方法を行うことができるものであって、かつペニシリウム(Penicillum)属、アスペルギルス(Aspergillus)属またはストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する菌株またはその培養菌体の調製物の存在下で、式(I)で示されるテトラヒドロチオフェン−3−オンをインキュベーション処理する工程、
(B)インキュベーション処理液から式(II)で示される(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールを採取する工程、
を含んでなる方法
である。
本発明の生物学的変換方法では、ペニシリウム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属またはストレプトマイセス(Streptomyces)属のいずれかの属に属し、前記式(I)で示されるテトラヒドロチオフェン−3−オンを前記式(II)で示される(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールへ変換する能力を有する微生物の培養菌体またはその培養菌体の調製物であれば、種および株の種類を問うことなく使用することができる。またこれらの菌株から分離され、前記変換反応を触媒する酵素(以下、テトラヒドロチオフェン−3−オン還元酵素というときがある)を用いることもできる。
そのような微生物の好ましい例として、ペニシリウム・ビナセウム(Penicillium vinaceum)、アスペルギルス・オカラセウス(Aspergillus ochraceus)、ストレプトマイセス・ミシガネンシス(Streptomyces michiganensis)等に属する微生物を挙げることができる。
それらの中で特に好ましい例として、具体的には、ペニシリウム・ビナセウム(Penicillum vinaceum)IAM7143、アスペルギルス・オカラセウス(Aspergillus ochraceus)ATCC18500またはストレプトマイセス・ミシガネンシス(Streptomyces michiganensis)NBRC12797等を挙げることができる。
またその他の前記微生物は、それらの株名に付与されている保存機関に保存されており、容易に入手することができる。保存機関は以下のとおりである。IAM:東京大学応用微生物研究所、ATCC:American Type Culture Collection、NBRC:独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物資源部門
また、ペニシリウム・ビナセウム(Penicillium vinaceum)IAM7143およびストレプトマイセス・ミシガネンシス(Streptomyces michiganensis)NBRC12797は、2004年11月16日付で、アスペルギルス・オカラセウス(Aspergillus ochraceus)ATCC18500は、2004年11月25日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番8号)に、それぞれ、NITE BP−35、NITE BP−36、およびNITE BP−41として寄託されている。
本発明によれば、前述した性質をもつ微生物の培養菌体またはその培養菌体の調製物の存在下で、出発原料(基質)であるテトラヒドロチオフェン−3−オンがインキュベーション処理される。この処理は前記微生物を培養する際、または培養後その培養液中に基質を添加して行うことができる。または、場合により前記微生物の培養菌体を集菌し、例えばそのまま、もしくは凍結乾燥処理、噴霧乾燥処理、有機溶媒(例えばアセトン)処理、破砕処理等の前処理を行った後に使用するか、テトラヒドロチオフェン−3−オン還元酵素を粗精製または精製単離した後に緩衝液中に懸濁し、これに基質を添加し、インキュベーションして反応を行うこともできる。
培養液への基質の添加は、培養前または培養開始後一定期間経過したときのいずれの時期に行ってもよい。また、主に基質の溶解補助等の目的でメタノール、エタノール、メチルエチルケトン、アセトン等を同時に加えることが出来るが、これに限定されるものでないことは言うまでも無い。上記菌体は上記の微生物を栄養源含有培地に接種し、好気的に培養することにより製造できる。このような培養菌体の調製物を用意するための微生物の培養および、基質が添加された状態で行われる微生物の培養は、原則的には一般微生物の培養方法に準じて行うことができるが、通常は液体培養による振とう培養、通気攪拌培養等の好気的条件下で実施することが好ましい。
培養に用いられる培地としては、これら微生物が生育できる培地であればよく、各種の合成培地、半合成培地、天然培地等いずれも利用可能である。培地組成としては炭素源としてのグルコース、マルトース、キシロース、フルクトース、シュークロース、スターチ、デキストリン、グリセリン、マンニトール、オートミール等を単独または組合せて用いることができる。
窒素源としては、ペプトン、肉エキス、大豆粉、カゼイン、アミノ酸、麦芽エキス、酵母エキス、尿素、クエン酸アンモニウム、フマル酸アンモニウム等の有機窒素源、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等の無機窒素源を、単独または組合せて用いることができる。その他、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、塩化コバルト等の塩類、ビタミン類も必要に応じ添加して使用することができる。なお、培養中発泡が著しいときは、公知の各種消泡剤を適宜培地中に添加することもできる。
好適な培地として、例えば、F1培地(ポテトスターチ20g/L、グルコース10g/L、大豆粉20g/L、リン酸二水素カリウム1g/L、硫酸マグネシウム・7水和物0.5g/L)あるいはC培地(ポテトスターチ20g/L、グルコース20g/L、大豆粉20g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム2.5g/L、炭酸カルシウム3.2g/L、金属イオン混合液2ml/L(金属イオン混合液組成:硫酸銅・5水和物0.25g/L、硫酸亜鉛・7水和物0.25g/L、塩化マンガン・4水和物0.25g/L))を挙げることができる。
培養条件は、上記微生物が良好に生育し得る範囲内で適宜選択することができる。通常、pH5.0〜10.0、20〜30℃、好ましくはpH6.5〜8.0、25〜28℃であり、通常1〜3日、好ましくは3日程度培養する。上述した各種の培養条件は、使用する微生物の種類や特性、外部条件等に応じて適宜変更でき、最適条件を選択できる。
また、培養菌体の調製物は、培養終了後、遠心分離または濾過により分離した菌体または凍結乾燥処理、噴霧乾燥処理、有機溶媒処理、破砕処理等の前処理を行った菌体を適当な溶液に懸濁して調製する。菌体の懸濁に使用できる溶液は、前記した培地であるか、あるいはトリス−酢酸、トリス−塩酸、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等の緩衝液を単独または混合したものである。緩衝液のpHは、好ましくは5.0〜9.0、さらに好ましくは7.0〜8.5である。培養菌体そのものを用いる場合はグルコース、グリセロール等のエネルギー源を、培養菌体処理物を用いる場合はNAD(P)Hや補酵素再生系を添加することも有効である。補酵素再生系の一例としてはグルコース、グルコースデヒドロゲナーゼ、NAD(P)の組み合わせが挙げられる。
基質となるテトラヒドロチオフェン−3−オンは、液体のままか、あるいは水溶性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等に希釈して培養液または菌体の懸濁液に添加することができる。その添加量は、例えば培養液の場合、培養液1リットル当り0.1〜100gとすることができ、好ましくは1〜20gである。基質の添加は一度に行ってもよいが、添加量が比較的多い場合は、数度にわたって、または連続的に行ってもよい。基質添加後は、1〜3日間、好ましくは1日間、振とうあるいは通気攪拌等の操作を行い、反応を進行させることにより、基質である式(I)で示されるテトラヒドロチオフェン−3−オンを、式(II)で示される目的の(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールに変換することができる。
こうして生成した、目的の(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールを反応混合物から単離するには、種々の既知精製手段を選択、組合せて行うことができる。例えば、疎水性吸着樹脂への吸着・溶出や、酢酸エチル、n−ブタノール等を用いた溶媒抽出、シリカゲル等によるカラムクロマトグラフィー法、あるいは薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、蒸留等を、単独あるいは適宜組合せ分離精製することができる。
[第二の態様]
本発明の第二の態様は、2つの態様、即ち、
光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールと有機溶媒とを含む溶液を1℃以下に保持することにより、該溶液中から光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを晶析させることを特徴とする、より光学純度の高い光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを晶析する方法(以下、「晶析方法I」という);および、
液温1℃以下の有機溶媒に光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを滴下することにより、光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを晶析させることを特徴とする、より光学純度の高い光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールの晶析方法(以下、「晶析方法II」という)
からなる。
晶析方法Iでは、光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールの晶析を以下のようにして行なう。原料となる光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを有機溶媒と混合して光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールと有機溶媒との混合溶液を調製する。得られた光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを含む混合溶液を1℃以下、好ましくは−3℃〜−18℃に保持することにより、より光学純度の高い光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを晶析させることができる。
晶析方法IIでは、液温1℃以下、好ましくは−10〜−18℃の有機溶媒に、好ましくは該有機溶媒を攪拌しながら、原料となる光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを滴下することにより、より光学純度の高い光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを晶析させることができる。原料の滴下速度および滴下量は、特に限定されず、適宜設定することができる。
晶析方法Iでは、光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールと有機溶媒との混合溶液を1℃以下に保持する間、溶液を攪拌することが好ましい。
また、晶析方法IIでは、有機溶媒を攪拌しながら光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを滴下することが好ましく、滴下後も攪拌を続けることが更に好ましい。なお、晶析方法IIでも、原料滴下後の溶液を、晶析方法Iと同様に、1℃以下に保持することが好ましく、−10℃〜−18℃に保持することが更に好ましい。
なお、晶析方法IおよびIIに用いる原料である光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールの光学純度は、ラセミ体でなければよく、75%e.e.以上が好ましい。このような光学純度の光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールは、どのような方法により製造されたものでも利用できる。例えば、前記した化学合成、酵素を用いた光学分割法、または、生物学的変換法、具体的には本発明の第一の態様の方法、により製造されたものを挙げることができる。なお、晶析方法IおよびIIで用いられる光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールはR体、S体のどちらでも用いることができる。
また、晶析方法IおよびIIに用いる有機溶媒は、室温で光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールと相溶性であり、かつ晶析させる温度で凝固しないものであればよい。好ましい有機溶媒として、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エタノール、2−プロパノール等を挙げることができる。通常、これらの溶媒を単独または2種類以上を混合して使用することができる。より好ましい条件として、ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒、あるいはヘキサンとアセトンの混合溶媒を使用することができる。たとえば、その混合比は、ヘキサン:アセトン=2:1〜5:1程度が好ましい。
こうして、晶析した光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールの結晶は、1℃以下の温度において、通常の分離回収手段、例えば、濾過、遠心分離などの方法により分離回収することができる。
以下、本発明について具体例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
実施例1
F1培地(ポテトスターチ20g/L、グルコース10g/L、大豆粉20g/L、リン酸二水素カリウム1g/L、硫酸マグネシウム・7水和物0.5g/L)を250mL容三角フラスコに25mL分注し、121℃、20分間高圧蒸気滅菌した。これにアスペルギルス・オカラセウス(Aspergillus ochraceus)ATCC18500を接種し、25℃、72時間震盪培養した。得られた培養液にテトラヒドロチオフェン−3−オンを30mg加え、25℃で24時間震盪した。
得られた反応液を酢酸エチル(15mL x 3)で抽出した。有機層を合わせ、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、ろ過濃縮した。残渣を分取用TLC(ヘキサン/酢酸エチル=1/1)にて分離精製し目的物を12mg(収率39%)、光学純度81%e.e.(R)で得た。;[α]D=+8.8(c=0.5,CHCl);H−NMR(CDCl)δ(ppm):1.75(m,2H),2.15(m,1H),2.82−3.17(m,4H),4.5(m,1H)。
本発明において、光学純度は光学分割カラム(キラルパックAS−H(φ0.46 x 25cm)ダイセル化学工業製)を付した高速液体カラムクロマトグラフィー(移動層:ヘキサン/イソプロパノール=96/4、流量:1ml/min.、温度:30℃、検出:210nm)により決定した。絶対配置は、J.Am.Chem.Soc.108,2049(1986)に記載された比旋光度と比較して決定した。
実施例2
ペニシリウム・ビナセウム(Penicillium vinaceum)IAM7143を用い基質の添加量を50mgとした以外、全て実施例1と同様に変換反応を行った。その結果、目的物が11mg(収率22%)、光学純度91%e.e.(R)で得られた。
実施例3
ストレプトマイセス・ミシガネンシス(Streptomyces michiganensis)NBRC12797を用いること以外、全て実施例2と同様に変換反応を行った。その結果、目的物が32mg(79%)、光学純度88%e.e.(R)で得られた。
実施例4
121℃、20分間で高圧蒸気滅菌したF1培地(ポテトスターチ20g/L、グルコース10g/L、大豆粉20g/L、リン酸二水素カリウム1g/L、硫酸マグネシウム・7水和物0.5g/L)を3L容ミニジャー3基に1.5Lずつ分注した。これらにペニシリウム・ビナセウム(Penicillium vinaceum)IAM7143を接種し、25℃、72時間震盪培養した。得られた各培養液にテトラヒドロチオフェン−3−オンを4mLずつ加え、20〜23℃で24時間震盪した。
3L容ミニジャー1基分から得られた反応液を酢酸エチル(計1.75L)で抽出した。抽出操作を残り2基についても同様に行った。有機層を合わせ、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、ろ過濃縮した。残渣を蒸留によって精製した。結果(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールを8.0g(収率55%)、光学純度87%e.e.で得た。
実施例5
実施例4により製造した光学純度87%e.e.の(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オール8gにヘキサン(6.8mL)およびアセトン(2.8mL)を加えた。これを攪拌しながら、−15℃まで冷却した。この状態で一夜撹拌を続けた。析出した白色結晶を桐山ロート(φ40mm、No.4ろ紙)を用い、ろ取した。ろ取した結晶は、徐々に液体の(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールとなった。
5.7g(収率71%);光学純度95%e.e.;[α]D=+11.6(c=0.1,CHCl);H−NMR(CDCl)δ(ppm):1.75(m,2H),2.15(m,1H),2.82〜3.17(m,4H),4.5(m,1H)。
実施例6
光学純度が91.8%e.e.の(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オール(50g)をアセトン(217ml)とヘプタン(43ml)の混合溶液に加えた。これを、撹拌しながら徐々に冷却し、最終的に−15℃まで冷却した。この状態で一夜撹拌を続けた。生成した白色結晶を桐山ロート(φ40mm、No.4ろ紙)にてろ取した。ろ取した結晶から溶媒を十分に除去した後、加温することにより液体として(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オール31.6g(収率63%)を、光学純度96%e.e.で得ることが出来た。
実施例7
300mlの容器にアセトン(23.6ml)とヘキサン(100ml)を入れ、−18℃まで冷却した。攪拌下で光学純度が91.8%e.e.の(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オール(122.32g)を滴下した。滴下に使用した容器はアセトン(11.8ml)で洗いこみを行った。一夜攪拌後結晶を桐山ロート(φ60mm、No.5Bろ紙)にて濾取した。ろ取した結晶から溶媒を十分除去した後、加温することにより液体として(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オール86.0g(収率70%)を、光学純度97%e.e.で得ることが出来た。
実施例8
300mlの容器にメチルエチルケトン(23.5ml)とヘキサン(100ml)を入れ、−18℃まで冷却した。攪拌下で光学純度が91.8%e.e.の(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オール(128.03g)を滴下した。滴下に使用した容器はアセトン(11.8ml)で洗いこみを行った。一夜攪拌後結晶を桐山ロート(φ60mm、No.5Bろ紙)にて濾取した。ろ取した結晶から溶媒を十分除去した後、加温することにより、液体として(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オール83.9g(収率66%)を、光学純度96%e.e.で得ることが出来た。
実施例9
光学純度92%e.e.の(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オール(1.37g)、ヘキサン(1.2ml)、アセトン(0.48ml)を用い、晶析温度を1℃にして実施した以外、実施例5と同様に処理したところ、(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールを収率65%、95%e.e.で得ることが出来た。
本発明により、医薬品の合成中間体として有用な、光学純度の高い(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールを得ることができる。

Claims (10)

  1. 式(I):
    Figure 2005054491
    で示されるテトラヒドロチオフェン−3−オンの、
    式(II):
    Figure 2005054491
    で示される(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールへの生物学的変換方法による、式(II)で示される(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールの製造方法であって、
    (A)前記生物学的変換方法を行うことができるものであって、かつペニシリウム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属またはストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する菌株またはその培養菌体の調製物の存在下で、式(I)で示されるテトラヒドロチオフェン−3−オンをインキュベーション処理する工程、
    (B)インキュベーション処理液から式(II)で示される(R)−テトラヒドロチオフェン−3−オールを採取する工程、
    を含んでなる方法。
  2. 前記生物学的変換方法を行うことができる菌株が、ペニシリウム・ビナセウム(Penicillum vinaceum)、アスペルギルス・オカラセウス(Aspergillus ochraceus)またはストレプトマイセス・ミシガネンシス(Streptomyces michiganensis)に属する菌株である請求項1記載の方法。
  3. 前記生物学的変換方法を行うことができる菌株が、ペニシリウム・ビナセウム(Penicillium vinaceum)IAM7143(寄託番号NITE BP−35)、アスペルギルス・オカラセウス(Aspergillus ochraceus)ATCC18500(寄託番号NITE BP−41)またはストレプトマイセス・ミシガネンシス(Streptomyces michiganensis)NBRC12797(寄託番号:NITE BP−36)に属する菌株である請求項1または2記載の方法。
  4. 光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールと有機溶媒とを含む溶液を1℃以下に保持することにより、該溶液中から光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを晶析させることを特徴とする、より光学純度の高い光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを晶析する方法。
  5. 液温1℃以下の有機溶媒に光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを滴下することにより、光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールを晶析させることを特徴とする、より光学純度の高い光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールの晶析方法。
  6. 前記有機溶媒を攪拌しながら、前記光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールの滴下を行う、請求項5に記載の方法。
  7. 有機溶媒が、光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールと相溶性であり、かつ晶析させる温度で凝固しないものである請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールがR体過剰である請求項4〜7のいずれか1項に記載の方法。
  9. 前記有機溶媒が、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、エタノール、2−プロパノールおよびトルエンからなる群より選択される少なくとも一種の溶媒またはそれらの混合溶媒である請求項4〜8のいずれか1項に記載の方法。
  10. 前記光学活性テトラヒドロチオフェン−3−オールの晶析温度が1℃以下である請求項4〜9のいずれか1項に記載の方法。
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