【発明の詳細な説明】
抗B型肝炎ウイルスオリゴヌクレオチド
発明の領域
本発明は、オリゴヌクレオチド組成物、該オリゴヌクレオチドを含む薬学的組
成物、およびB型肝炎感染の予防や治療のためのそれらの使用に関する。
発明の背景
ウイルス感染の結果は、ウイルスおよび宿主双方の多くの要因の影響を受ける
。病原に影響を与えるこれらの要因には、感染ウイルス粒子の数、感受性細胞へ
の透過、ウイルスの複製と蔓延の速度、ウイルスの細胞機能に対する効果、細胞
損傷に対する宿主の二次的反応、および宿主の免疫学的、非特異的な防御が含ま
れる。一般的に、ウイルス感染の効果には、急性、慢性の臨床的疾患、無症候性
感染、様々な癌の誘発、および慢性進行性神経病が含まれる。ウイルスは、強力
な感染性病原体である。その理由は、ある一つの細胞で産生されたウイルス粒子
は、他の細胞を襲い、感染の蔓延を引き起こしうるからである。ウイルスは、侵
襲された細胞に重大な機能の変化をもたらし、その結果その細胞は死に至ること
が多い。
肝炎ウイルスは、世界中で大きな医療問題となっている。その他の肝炎ウイル
スと同様に、B型肝炎ウイルス(HBV)は、急性から慢性まで、潜在性または無症候
性から致死的および劇症性まで、広範なスペクトルの疾患を引き起こす。全世界
の人口のおよそ5%、少なくとも40億の人々が、現在B型肝炎(HBV)に感染してい
る。HBVは、急性劇症肝炎および慢性肝疾患をもたらす危険性が高い。慢性肝疾
患には、硬変、活動性慢性肝炎、および慢性のウイルスキャリヤの個体における
原発性肝細胞癌の最終分化が含まれる。
過去10年間の治療研究により、ヌクレオチドアナログのアデニンアラピソシド
(Ara-A)、可溶性を高めたそのモノホスフェートAra-AMP、およびインターフェロ
ン−アルファを含む、抗ウイルス活性をもつ有望な薬物が同定された。これらの
薬物による治療は、何人かの患者においては有効であるが、その反応が一時的な
ものであったり、かなりの毒性を有することが多いことが示されている。したが
って、ウイルス複製を停止し、その他の細胞へのウイルスの蔓延を防止するため
の方法および治療薬が依然として必要とされている。しかし、この目的には、相
当の困難が伴う。主要な問題は、宿主細胞に害を与えずにウイルスを阻害すると
いうことである。ウイルスの複製は、細胞の遺伝子に依存しているため、選択的
な攻撃箇所が制限される。最も大きいウイルスですら、宿主の反応とは異なる生
化学的反応をほとんど行わない。さらに、ウイルスの複製が相当進行し、細胞の
変化が起こって初めて、ウイルスの感染は明らかになる。したがって、制御のた
めの通常の方法は、予防的なものである。ほとんどの場合、治療は、損傷が結果
的に修復されるなら、ある程度の非感染細胞の死が起こってもよいという場合に
限られる。
抗ウイルス治療を制限しているもう一つの重要な要因は、耐性株の出現である
。このような変異体の選択を最小限にするために、適量投与、多剤治療、そして
明らかに必要でない限り治療を避けるなどの細菌感染の治療に有効な原理がウイ
ルスにも同様に適用できる。このように、ウイルス感染の重大な性質、および感
染ウイルスの性質により生じる障害のため、ウイルス複製を制御する方法が緊急
に必要とされている。RNAウイルスおよびDNAウイルスに適用可能な方法は、広範
な応用性を有するであろう。
合成アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ウイルス遺伝子発現の阻害剤として
用いられてきた。「Smith et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:2787-2791(1986)
」は、プレ-mRNA4および5の直前の単純ヘルペスウイルスI型のスプライス結合部
に相補的なオリゴ(ヌクレオチドメチルホスフェート)の抗ウイルス活性を報告
している。「アグリス(Agris)ら、メチルホスフェートによる水泡性口内炎ウイ
ルスのタンパク質合成と感染の阻害、(Biochem.25,6268-6275(1986))」、「ザメ
クニック(Zamecnik)ら、特異的オリゴデオキシヌクレオチドによるラウス肉腫ウ
イルスの複製と細胞形質転換の阻害、(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75:280-284(197
8))」、「ザメクニックら、ウイルスRNAに相補的な外因性の合成オリゴヌクレオ
チドによる培養細胞におけるヒトT細胞リンパ球ウイルスIII型の複製および発現
の阻害、(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:4143-4146(1986))」も参照のこと。「Goo
darzi et al.,J.Gen.Virol.71:3021-3025(1990)」は、mRNAのキャップ部位およ
びHBsAg遺伝子の翻訳開始領域に対するアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチ
ドに
よるB型肝炎ウイルス表面抗原の遺伝子の発現の阻害を報告している。「オッフ
ェンスパーガー(Offensperger)ら、ホスホロチオネート修飾アンチセンスオリゴ
デオキシヌクレオチドによるダックB型肝炎ウイルスの複製および遺伝子発現の
インビボの阻害、(EMBO J.12:1257-1262,No.3(1993))」は、プレ-S/S-領域、ポ
リメラーゼ領域、およびプレ-C/C領域由来のアンチセンスオリゴデオキシヌクレ
オチドによるダックB型肝炎ウイルス(DHBV)の複製の阻害を報告している。特に
有効なのは、プレ-S領域由来のアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドおよび
直接反復II(direct repeat II/DR1I)領域由来のアンチセンスオリゴヌクレオチ
ドである。
発明の概要
本発明は、HBVに対する抗ウイルス剤としてのアンチセンスオリゴヌクレオチ
ド、好ましくはアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド、該抗ウイルスオリゴ
ヌクレオチドを提供する薬学的組成物、およびHBVを阻害するためのそれらの使
用方法に関する。HBV DR2領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチド組成
物は、ウイルスの転写、抗原産生、および複製を完全に阻害する。該抗ウイルス
オリゴヌクレオチドを標的細胞内に提供するには、アンチセンスDNAまたはアン
チセンスRNAとして外因的に提供するか、または標的細胞内で内因的にアンチセ
ンスオリゴヌクレオチドを複数コピー産生することができる発現ベクターにセン
スDNA配列を挿入することにより行う。
本発明は、HBVゲノムのプラス(+)鎖の一部分に実質的に相補的な配列から本質
的になる、B型肝炎ウイルス(HBV)に対して抗ウイルス活性を有するオリゴヌクレ
オチドを含む。その部分は、DR2の11残基(配列番号:44)と5'側隣接配列の0〜
6ヌクレオチドと3'側隣接配列の0〜30ヌクレオチドとを含む。該オリゴヌクレオ
チドの例には、以下の配列、
5'-TGGGCGTTCACGGTGGTCGCCATGCAACGTGCAGAGGTGAAGCGAAG-3'(配列番号:45)、
5'-TGGGCGTTCACGGTGGTCTCCATGCAACGTGCAGAGGTGAAGCGAAG-3'(配列番号:46)、
5'-TGGGCGTTCACGGTGGTCGCCATGCGACGTGCAGAGGTGAAGCGAAG-3'(配列番号:47)、
または
5'-TGGGCGTTCACGGTGGTCTCCATGCGACGTGCAGAGGTGAAGCGAAG-3'(配列番号:48)、
を有するオリゴヌクレオチド、または好ましくは少なくとも15ヌクレオチド(そ
してさらに好ましくは少なくとも18ヌクレオチド)の長さのそれらの一部が含ま
れる。オリゴヌクレオチドは好ましくは、配列5'-ACGTGCAGAGGTGAAGCG-3'(配列
番号:21)を含む。本発明のオリゴヌクレオチドの例は、以下のものを含む。
5'-CAACGTGCAGAGGTGAAGCGA-3'(オリゴHBV10011;配列番号:6)、
5'-CGACGTGCAGAGGTGAAGCGA-3'(オリゴCJP114;配列番号:10)、
5'-ACGTGCAGAGGTGAAGCGA-3'(オリゴCJP140;配列番号:24)、
5'-GCGAAGTGGAGACGTGCAGC-3'(オリゴCJP150;配列番号:20)、
5'-GACGTGCAGAGGTGAAGCGA-3'(配列番号:49)、
5'-AACGTGCAGAGGTGAAGCGA-3'(配列番号:50)、
5'-GACGTGCAGAGGTGAAGCG-3'(配列番号:51)、
5'-AACGTGCAGAGGTGAAGCG-3'(配列番号:52)、
5'-CGTGCAGAGGTGAAGCGA-3'(オリゴCJP141;配列番号:25)、
5'-GTGCAGAGGTGAAGCGA-3'(オリゴCJP142;配列番号:26)、
5'-TGCAGAGGTAAGCGA-3'(オリゴCJP143;配列番号:27)、
5'-GCAGAGGTGAAGCGA-3'(オリゴCJP144;配列番号:28)、
5'-CAGAGGTGAAGCGA-3'(オリゴCJP145;配列番号:29)、
5'-AGAGGTGAAGCGA-3'(オリゴCJP146;配列番号:30)、
5'-GAGGTGAAGCGA-3'(オリゴCJP147;配列番号:31)、
5'-AGGTGAAGCGA-3'(オリゴCJP148;配列番号:32)、
5'-CGACGTGCAGAGGTGAAGC-3'(オリゴCJP149;配列番号:33)、
5'-CGACGTGCAGAGGTGAAG-3'(オリゴCJP151;配列番号:34)、
5'-CGACGTGCAGAGGTGAA-3'(オリゴCJP152;配列番号:35)、
5'-CGACGTGCAGAGGTGA-3'(オリゴCJP153;配列番号:36)、
5'-CGACGTGCAGAGGTG-3'(オリゴCJP154;配列番号:37)、
5'-CGACGTGCAGAGGT-3'(オリゴCJP155;配列番号:38)、
5'-CGACGTGCAGAGG-3'(オリゴCJP156;配列番号:39)、
5'-CGACGTGCAGAG-3'(オリゴCJP157;配列番号:40)、
5'-AACGTGCAGAGGTGAAGCGA-3'(オリゴCJP158;配列番号:41)、
5'-CGACGTGCAGAGGTGAAGCGAAG-3'(オリゴCJP159;配列番号:42)、および
5'-CGACGTGCAGAGGTGAAGCGAA-3'(オリゴCJP160;配列番号:43)。
好ましい本発明のオリゴヌクレオチドは、以下の配列のうちの一つから本質的
になる配列を有するものを含む。
5'-CAACGTGCAG AGGTGAAGCG A-3'(オリゴHBV10011;配列番号:6)、
5'-CGACGTGCAGAGGTGAAGCGA-3'(オリゴCJP114;配列番号:10)、
5'-ACGTGCAGAGGTGAAGCGA-3'(オリゴCJP140;配列番号:24)、
5'-GCGAAGTGGAGACGTGCAGC-3'(オリゴCJP150;配列番号:20)、
5'-GACGTGCAGAGGTGAAGCGA-3'(配列番号:49)、
5'-AACGTGCAGAGGTGAAGCGA-3'(配列番号:50)、
5'-GACGTGCAGAGGTGAAGCG-3'(配列番号:51)、または
5'-AACGTGCAGAGGTGAAGCG-3'(配列番号:52)。
本発明のオリゴヌクレオチドは、哺乳類の細胞におけるHBVの複製を防止する
方法に用いられうる。該方法は、阻害量の(a)オリゴヌクレオチド、または(b)本
発明のオリゴヌクレオチドを産生するように細胞内で転写される配列を含む発現
ベクター、を細胞に導入する段階を含む。該発現ベクターは、好ましくは、肝細
胞内で発現するための転写調節配列を含む。オリゴヌクレオチドは、動物の肝細
胞におけるHBVの複製を阻害するのに有効な量のオリゴヌクレオチドと、薬学的
に許容される担体とから本質的になる薬学的組成物の形態で動物に投与されうる
。
本発明のオリゴヌクレオチドがリボヌクレオチドである場合には、本明細書に
記載された各配列中の「T」は「U」を意味するものとする。
図面の簡単な説明
図1は、HBVゲノムの地図であり、4つの主要なオープンリーディングフレーム
のコーディング構成、ならびに3.5kbのプレゲノムRNAおよび2.1kbのサブゲノムR
NAを示している。DR1およびDR2が図示されている。
図2は、HBVのRNA配列のコンピュータにより推定した二次構造を表す図である(
HPBADW1)(n.t.s.1500〜n.t.s.1700)。DR2がステム−ループ構造の一部として示
されている。
詳細な説明
ヒトB型肝炎ウイルス(HBV)は、現在ヘパドナウイルス(肝親和性DNAウイルス
)
と呼ばれる動物ウイルスの科に属するものとして認識されている。ヒトHBVは、
ヘパドナウイルス1型に分類される。類似のウイルスが、ウッドチャック(woodch
ucks)、ジリス(ground squirrels)、リス(tree squirrels)、ペキンダック(Peki
n duck)、およびアオサギ(heron)を含むその他の動物種に感染し、急性肝炎、慢
性肝炎、および肝細胞癌を引き起こす。これらのヘパドナウイルスの全長分子ク
ローンが得られ、そのヌクレオチド配列が決定されている。現在、哺乳類のウイ
ルスのコーディング構成は、ヒトHBVと実質的に同一であることが知られている
が、鳥類のウイルスは、ヌクレオチド配列、生物学的性質、およびコーディング
構成に関して比較的異なっている。ダックHBV(DHBV)ゲノムは、X領域を欠いてお
り、そのコア抗原コーディング領域は、哺乳類のウイルスよりも実質的に大きい
(Ganem&Varmus,The Molecular Biology of the Hepatitis B Viruses;Ann.Rev.B
iochem.56:651-93(1987))。
B型肝炎ウイルスの複製法は、「Seeger et al.,Science 232:477-484(1986)」
「Khudyakov et al.,FEBS Letters 243:115-118(1989)」、「Will et al.,J.of
Virol.61:904-911(1987)」、および「Hirsch et al.,Nature 344:552-555(1990)
」により開示されている。
「Dane粒子」と呼ばれる感染性ヒトHBVウイルス粒子は、42または43nmの二重
構造の粒子であり、HBV表面抗原(HBsAg)の外被および21kdの塩基性リンタンパク
質であるHBVコア抗原(HBcAg)を含む。HBVヌクレオカプシドコアの内部には、大
部分が二本鎖であるが、部分的に一本鎖である3200塩基対のDNAゲノム、およびH
BV DNAの複製および修復を行う内因性DNAポリメラーゼが含まれる。全長のHBV D
NA鎖は、mRNAを含むウイルスRNAに相補的であり、通常マイナス極で表される。
短い方の相補鎖が、プラス鎖と表される。プラス鎖の5'末端は固定されているが
、3'末端は、同じウイルスストックの分子の間でさえ一定でない。内因性ポリメ
ラーゼ反応で、プラス鎖DNAの3'末端へヌクレオチドが付加することにより、一
本鎖のギャップが修復される。第二の非対称は、ウイルスゲノムの二つの鎖の5'
末端で起こる。マイナス鎖の5'末端にはタンパク質が共有結合し、一方プラス鎖
の5'末端にはオリゴヌクレオチドが結合する。
HBVの複製は、第一および第二のDNA鎖の生成のため、タンパク質およびRNAプ
ラ
イマーを用いたRNA中間体の逆転写を経て進行する。ゲノムの大きい断片は、複
数のリーディングフレームで翻訳される。ある特定のリーディングフレーム内で
、異なる相内(in-phase)開始コドンを用いたオーバーラップ転写により複数のタ
ンパク質が発現する。結果として得られる密接に関連した遺伝子産物は、翻訳後
にプロセシングを受け、構造または細胞内分布の異なる様々な構造へと組み立て
られる。
HBVマイナス鎖によりコードされた4つの主要なオープンリーディングフレーム
(ORFs)が、同定され、その特徴が解析されている。1)HBsAgおよびその他のいく
つかのよく解析されていない遺伝子産物をコードするプレ-SおよびS遺伝子、2)H
BcAgおよびHBeAgをコードするC遺伝子、3)ウイルスDNAポリメラーゼをコードす
るP遺伝子、および4)肝細胞癌の患者で多く見られるトランス活性化Xタンパク質
、HBxをコードするX遺伝子。(HBeAgは、p22プレコア中間体のタンパク分解によ
り生じ、細胞から分泌される。血清中で17kdのタンパク質として見いだされる。
)
以下の4つの主要な段階が、ヘパドナウイルスゲノムの複製の基本であると考
えられている。
1.プラス鎖DNAの3'末端にヌクレオチドが付加することにより一本鎖のギャップ
が埋められ、感染肝細胞の核内で共有結合により閉じた環状DNA(covalently clo
sed circular DNA/cccDNA)が形成される。
2.宿主RNAポリメラーゼにより、cccDNAが、逆転写のためのプラス鎖極性のRNA鋳
型へと転写され、プレゲノムRNAがウイルスコアへとカプシドに包まれる。
3.タンパク質プライマーを用いたプレゲノムRNAの複写により第一の(マイナス
)DNA鎖が合成される。(この段階は、コア関連逆転写と呼ばれる。)
4.ウイルスRNAのオリゴマーをプライマーとして用いて、第二の(プラス)DNA鎖
が合成され、成熟ウイルスゲノムDNAが生成する。ウイルスゲノムの増殖は、プ
レゲノムRNAの合成中にcccDNAから起こると考えられている。
HBVウイルスRNAは、逆転写を介したゲノムDNAの合成の鋳型としても、あるウ
イルスタンパク質の合成のためのメッセンジャーRNAとしても作用する。これは
、二つのクラスのウイルスRNA、すなわちゲノムRNA(3.5kbの長さ、ウイルス遺
伝情報を完全に含む)およびサブゲノムRNA(2.1および2.4kbの長さ)の合成に
より行わ
れる。これらのRNAは全て、プラス鎖の極性をもち、スプライシングされず、共
通の3'末端がポリアデニル化されている。HBVゲノム内には、ウイルスの生活環
において重要な役割を果たすシス作用性の因子が保存されている。これらの中で
主要なものは、DR1およびDR2と表される11-ヌクレオチドの「直接反復(direct r
epeat)」配列である。DR1およびDR2は、ゲノム内の位置、隣接配列、および生物
学的機能により互いに区別される。DR1およびDR2は、HBVプラス鎖の5'末端およ
び3'末端の近傍にそれぞれ位置し、ウイルスDNA合成の開始において重要な役割
を果たす。プレゲノムRNAでは、二つのDR1が、3'末端および5'末端にそれぞれ存
在し、一つのDR2が3'末端の近傍に存在する。
その他の主要な保存配列は、コア抗原コーディング配列の5'末端内に見られる
因子TATAAA(配列番号:1)である。それは、ウイルスmRNAの共通の3'末端の特
徴である切断/ポリアデニル化シグナル部分を形成する。DR1およびDR2配列の構
造および機能の詳細については、「Ganem&Varmus,The Molecular Biology of th
e Hepatitis B Viruses,Ann.Rev.Biochem.56:651-93(1987)」および「Seeger,Ga
nem,and Varmus,Science 232:477-484(1986)」を参照のこと。これらの開示は、
参照として本明細書に含まれる。HBVウイルスゲノムの地図を示す図1も参照のこ
と。これは、4つの主要なORFおよびプレゲノムRNAおよびサブゲノムRNAの組織構
造を示している。
ウイルスDNAのマイナス鎖の合成は、プレゲノムRNAの5'末端および3'末端両方
に見られる末端反復領域Rに存在するDR1配列で開始すると考えられている。開始
は、RNA鋳型の5'末端または3'末端いずれかの近傍で起こると考えられる。なぜ
なら、DR1は、プレゲノムRNAで末端に反復しているR配列内に存在するからであ
る。「Ganem&Varmus,supra,at 663-664」に記載されているように、3'末端で開
始すれば、完全なゲノム配列が中断されることなく伸張し、DR1開始部位とRの5'
側の境界との間に見られる第二の9ヌクレオチド配列で終結することができる。
一方、5'末端で開始すると、伸張中のマイナス鎖DNA分子が、その3'末端または
別のRNA分子へ転移することが必要となる。
プラス鎖DNAの合成開始部位は、マイナス鎖DNA鋳型の、DR2に相補的な配列(DR
2')に存在する。ウイルスRNAの短いオリゴマー、すなわちRNAse Hにより生成さ
れ
るプレゲノムRNAの断片が、この部位でDNAに共有結合する。しかし、結合したRN
Aの配列を決定したところ(Lien et al.J.Virol.57:229-37(1986))、予想DR配列
は、予想されたDR2領域ではなく、DR1領域の6ヌクレオチドに隣接するものであ
った。このことより、5'末端または3'末端いずれかのR由来のDR1を含むオリゴマ
ーが、DNAマイナス鎖のDR2'部位と塩基対を形成し、その部位からのプラス鎖合
成の開始のプライマーとしてはたらくということが示された。そのオリゴマーが
5'キャップ構造を有するという事実より、プラス鎖プライマーはプレゲノムRNA
の5'末端から生じていることは明らかであるが、そのような複雑なプライマー機
構をとる理由はまだ明らかでない。プラス鎖の合成は、タンパク質が結合したマ
イナス鎖鋳型5'末端で進行を妨げられ、マイナス鎖鋳型の3'末端へと一部のプラ
ス鎖を移動させる必要が生じる。理由は明らかでないが、プラス鎖は通常マイナ
ス鎖の全長までは伸張しない。プラス鎖は、長さが不完全で不均一であり、ウイ
ルス粒子DNAの主な形態である不完全な環状構造をとる。
DR2および、DR2の5'側および3'側両方の隣接配列のヌクレオチド配列は、様々
なHBV HBsAgサブタイプおよび株の間で、高度に保存されている。HBV HBsAgのサ
ブタイプADWのDR2領域のヌクレオチド配列を、ジェンバンク(GenBank)で入手で
きる配列データを用いて、その他の株やサブタイプの多くのHBVのそれに対応す
る配列と比較した。配列および表記は、「GenBankR」で記載されているものであ
る。以下の表Iを参照のこと。記号「:」は、HPBADWの対応するヌクレオチドと
同一のヌクレオチドを表す。ジェンバンクによると、HPBADW(B型肝炎ウイルス
サブタイプADW)は、ヌクレオチド1592から1602からなり、配列TTCACCTCTGC(配
列番号:2)を有する。表Iに挙げた数字は、ジェンバンクのB型肝炎ウイルスサ
ブタイプADWのものである。様々な肝炎ウイルス株のヌクレオチド配列が、「Oka
moto et al.,J.Gen.Virol.69:2575-2583(1988)」およびジェンバンクに開示され
ている。これらの参照の開示は、参照として本明細書に含まれる。
本発明の抗ウイルスアンチセンスオリゴマーは、HBVプラス鎖DNAのある領域に
相補的であり、HBV複製を完全に阻害することができる。該領域には、DR2、およ
び少なくとも3、好ましくは少なくとも4の保存された5'側隣接ヌクレオチド、お
よび0〜30、好ましくは0〜20、より好ましくは0〜10、最も好ましくは4〜6の3'
側隣接ヌクレオチドを含む。「アンチセンス」という用語は、センス(またはプ
ラス)鎖に相補的であることを意味する。アンチセンスヌクレオチドは、アンチ
センス分子に相補的な配列を含む細胞の核酸標的と、配列特異的に相互作用する
。本発明のオリゴヌクレオチドは、HBVプラス鎖DNAのDR2領域、および(プラス
鎖極性である)HBV RNAに相補的であり、これらの領域と相互作用し、それによ
りHBVウイルス複製を阻害する。このようなオリゴヌクレオチドの、それらに相
補的な、または「受容体」配列との相互作用は、ハイブリダイゼーション相互作
用、または未だ完全に理解されていないその他の機構により行われる。アンチセ
ンスオリゴヌクレオチドの治療への適用は、例えば以下の参照文献に記載されて
いる。「ル・ドーン(Le Doan)ら、強力な抗ウイルスおよび抗癌剤としてのアン
チセンスオリゴヌクレオチド、(Bull.Cancer 76:849-852(1989))」、「ドルニッ
ク(Dolnick)、BJ、医学におけるアンチセンス試薬、(Biochem.Pharmacol.Toxico
l.32:329-76(1992))」。
本発明は、HBVゲノムのプラス鎖の一部に実質的に相補的なヌクレオチド配列
を有する抗ウイルスオリゴヌクレオチド、好ましくはオリゴデオキシヌクレオチ
ドから本質的になる組成物に関する。該部分は、DR2および5'側隣接配列、そし
て選択的に3'側隣接配列を含み、好ましくはDR2および5'側と3'側両方の隣接配
列を含む。該オリゴヌクレオチドは、それに対応するプラス鎖極性のRNA(例え
ば、メッセンジャーRNAまたはゲノムRNA)に対しても相補的である。アンチセン
スオリゴヌクレオチドは、HBVのDR2領域に実質的に相補的であるため、生理的条
件下でHBVプラス鎖にハイブリダイズすることができる。本発明のアンチセンス
オリゴヌクレオチドは、HBV複製を完全に阻害することができることが示されて
いる。したがって、本発明は、HBVを含む細胞におけるHBV複製を阻害する方法に
も関する。該方法には、HBVにさらされた動物のHBV感染を予防する方法、および
HBVに感染した動物を治療する方法が含まれる。該動物には、例えば、ヒトやチ
ンパンジーなど
のその他の霊長類が含まれる。本発明はまた、HBVにさらされた動物のHBV感染の
予防、またはHBV感染動物の治療に用いるための薬学的組成物に関する。好まし
くは、該薬学的組成物は、非経口投与用に調製される。該薬学的組成物は、抗ウ
イルスに有効な量の本発明のオリゴヌクレオチド、および薬剤学的に許容される
担体を含む。
本発明はまた、HBVゲノムのプラス鎖の一部に実質的に相補的な少なくとも一
つの抗ウイルスアンチセンスオリゴヌクレオチドから本質的になる物質の組成物
にも関する。該部分は、DR2および5'側および/または3'側の隣接配列を含み、
好ましくは、HBVサブタイプADW(HPBVADW)のヌクレオチド1588から1606の全てま
たは実質的に全て、好ましくはヌクレオチド1588から1608の全てまたは実質的に
全てに相補的な残基を含む。例えば、表1(下記)に挙げた株、およびその他の
単離、配列決定されている株、およびこれからされるであろう株のようなHBVサ
ブタイプADW以外のHBV株のそれに対応する配列も、例えばジェンバンクのような
利用可能なデータベースを用いて、配列の相同性を比較することにより、当業者
により決定されうる。
本発明の抗ウイルスオリゴヌクレオチドはDNAまたはRNAとして外因的に標的細
胞に供給することもできるし、標的細胞により諸望のオリゴヌクレオチドが転写
されうるようなDNA配列を外因的に供給することもできる。後者の場合、発現さ
れるDNAは、DR2配列および隣接オリゴヌクレオチドを含む組換え核酸(例えば、
DNA分子)として、標的細胞、好ましくは肝細胞に供給され、該DNAの発現は、ウ
イルス複製を阻害することができる。該核酸分子は、(a)肝細胞中に通常広がっ
ている条件下で、肝細胞中で複製されることができ、そして(b)DR2および5'側お
よび3'側隣接配列を含むB型肝炎ウイルスゲノムのプラス鎖の一部に実質的に相
補的なオリゴヌクレオチドを産生するように肝細胞中で転写される。抗ウイルス
オリゴヌクレオチドへ転写されうる配列は、好ましくは肝細胞中で発現を行うた
めの細胞特異的プロモーターに機能的に結合される。本発明はまた、オリゴヌク
レオチド分子自体を直接細胞中に導入するか、またはオリゴリボヌクレオチドと
して抗ウイルスオリゴヌクレオチドを複数コピー産生するように細胞内で転写さ
れる核酸を細胞内に導入することにより、細胞におけるB型肝炎ウイルスの複製
を阻害す
る方法を含む。
特別な態様の記載
ウイルス複製の阻害のための方法およびオリゴヌクレオチド組成物が提供され
る。
アンチセンスオリゴヌクレオチド自体が、ウイルスに感染した、またはウイル
ス感染に感受性の宿主細胞に外因的に提供されうる。しかし、もう一つの方法は
、抗ウイルスオリゴヌクレオチドの宿主細胞における発現を提供することである
。本方法において、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドへと転写されうる
DNAが、組織特異的または全身的な発現を提供する適当なプロモーターの下流に
発現ベクターに組み込まれ、該プロモーターと機能的に結合される。肝炎ウイル
スを治療または予防するために、本発明のDNAが、肝臓での肝細胞による発現を
誘導するための肝臓特異的プロモーターの下流に挿入される。しかし、非肝細胞
におけるアンチセンスオリゴヌクレオチドの発現は細胞に対して無害であるため
、肝臓特異的プロモーターを使用することは必要ではない。適当な調節領域を有
するDNAが、発現を行うための適切な方向で提供される。このような発現ベクタ
ーを構築する方法は、当業者に既知である。特に、「分子クローニング(Molecul
ar Cloning)、実験マニュアル(A Laboratory Manual)、サンブルック(Sambrook)
ら編、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor La
boratory)、第2版、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク州(1989)」
を参照のこと。
広範な種類の転写調節配列が用いられうる。シグナルは、アデノウイルス、ウ
シパピローマウイルス、サルウイルスなどのウイルスに由来する。該調節シグナ
ルは、高レベルの発現を有する特定の遺伝子と関連したものである。また、アク
チン、コラーゲン、ミオシンなどの、哺乳類発現産物由来のプロモーターも用い
られうる。
真核細胞の宿主におけるHBV DNAの発現には、真核細胞の調節領域を用いる必
要がある。このような領域には、一般的に、アンチセンスRNA合成の開始を十分
に行うことができるプロモーター領域が含まれる。典型的なプロモーターには、
マウスメタロチオニンI遺伝子(Hammer,D.et al.,J.Mol.Appl.Gen.1:273-288(198
2))の
プロモーター、ヘルペスウイルスのプロモーター(McKnight,S.,Cell 31:355-365
(1982))、SV40初期プロモーター(Benoist et al.,Nature 290:304-310(1981))な
どが含まれる。その他の有用なプロモーターには、アルブミン、アルファ-フェ
トプロテイン、アルファ-1-アンチトリプシン、レチノール結合タンパク質、ア
シアロ糖タンパク質レセプター、ならびにサイトメガロウイルス、ヘルペス単純
I型およびII型ウイルス、A、B、およびC型肝炎ウイルス、およびラウス肉腫ウイ
ルス(RSV)のようなウイルスのプロモーターおよびエンハンサーが含まれる(Fang
,X.J.et al.,Hepatology 10:781-787(1989))。このような肝臓特異的プロモータ
ーは、本発明のDNA配列が肝細胞を形質転換することができるベクター中に挿入
された場合に特に有用であると考えられる。遺伝子は、組織特異的または全身的
な発現を提供する適当なプロモーターの下流に挿入される。DNAは、その標的RNA
にハイブリダイズし、それによりウイルス複製を阻害するRNAを産生するように
転写される。この作用に有用な特別なベクターは、「Morsey et al.,Abstract S
Z 109,"Efficient Adenoviral Gene Transduction in Human and Mouse Hepanoc
ytes In Vitro and in Mouse Liver In Vitro",in J.of Cellular Biochemistry
,Suplement 17E,Keystone Symposia on Molecular and Cellular Biology,March
29-April 25,1993」に開示されたようなアデノウイルス系に基づくもの、また
は「Rosenberg et al.,N.Eng.J.Med.323,No.9:570-578(1990)」に開示されたよ
うな、LNL6のようなレトロウイルスベクター、モロニーマウス白血球ウイルスで
ある。欠陥ヘルペス単純ウイルスベクターを用いた肝細胞への遺伝子導入は、「
Rosenberg et al.,N.Eng.J.Med.323,No.9:570-578(1990)」に記載されている。
この後者の方法は、分裂中でない肝細胞への遺伝子導入に特に価値がある。なぜ
なら、HSV-1は、発現のためにゲノムへ取り込まれる必要がないからである。DNA
および必須の調節因子は、「Wu et al.,Biotherapy 3:87-95(1991)」に記載のよ
うなアシアロ糖タンパク質担体系を用いても肝細胞へ導入されうる。
目的のウイルスDNAおよび機能的に結合したプロモーターは、直鎖状分子、ま
たはより好ましくは共有結合により閉じた環状分子である、複製能のないDNAま
たはRNA分子として受容細胞中に導入されうる。このような分子は、自律複製を
することができないため、目的の受容体分子の発現は、導入された配列の一時的
な発現
により起こる。より長期的な発現が必要な場合には、配列は宿主の染色体に取り
込ませることができる。または、導入される配列を、受容体宿主において自律的
に複製することができるプラスミドまたはウイルスベクター中へ挿入する。その
ようなベクターには、「Okayama,H.,Mol.Cell.Bio.3:280(1983)」などに記載のc
DNA発現ベクターが含まれる。ウイルスベクターには、WO89/07136(特に肝細胞
での発現のため)に開示されたようなレトロウイルスベクターが含まれる。これ
は、参照として本明細書に含まれる。
本発明の方法において、アンチセンスオリゴヌクレオチド自体、または本発明
のアンチセンスRNAへと転写されうるDNAが、ウイルス疾患を患う動物の細胞中に
導入される。
本明細書において用いられているように、「実質的に相補的」とは、生理的条
件下でそのRNAまたはDNA標的とハイブリダイズすることができる本発明のアンチ
センスオリゴヌクレオチドを意味する。HBVヌクレオチド配列の番号付けは、ジ
ェンバンクによるB型肝炎ウイルス(サブタイプADW)の番号付けに関連して行っ
た。例えば、表1(下記)に挙げた株、およびその他の単離、配列決定されてい
る株、およびこれからされるであろう株のようなHBVサブタイプADW以外のHBV株
のそれに対応する配列も、例えばジェンバンクのような利用可能なデータベース
を用いて、配列の相同性を比較することにより、当業者により決定されうる。こ
のことにより、特定の集団または地理的な地域において流行しているヒト以外の
哺乳動物種またはヒトHBV株に特異的な配列を選択することができる。また、複
数のHBV株の対応する配列を比較することにより、より広範な適用性を有する対
応する同一のまたは保存された配列が容易に決定されうる。このような対応配列
は、ADWおよびADW1の配列と機能的に等価であると考えられる。
本発明の方法およびオリゴヌクレオチド組成物は、ウイルス感染を予防するた
め、およびウイルス感染を治療するために利用できる。本発明の抗HBVオリゴヌ
クレオチドへと転写されうる核酸を含むベクターを含有する組成物が、ウイルス
感染を予防するか、または宿主に侵入した後ウイルスを攻撃するよう投与される
。
本明細書において用いられるように、「から本質的になる」とは、通常用いら
れている意味を有する。すなわち、一つまたは複数の本発明の物質の組成物は、
本発明の本質的な性質を変化させることがないその他の物質と共に、混合物とし
て、または一つの分子へと結合させて共に用いられうる。例えば、本発明のアン
チセンスオリゴヌクレオチド配列は本発明の本質であるが、それらは、一つまた
は複数の他の物質と混合して、または化学結合させて用いられうると考えられる
。他の物質には、HBV RNAの他の部分に対する他のオリゴヌクレオチドアンチセ
ンス、オリゴヌクレオチドの生物学的安定性を増強する物質、または標的肝細胞
への選択的透過、その標的RNAへの到達、ハイブリダイズ能を増大させる物質が
含まれる。さらに、オリゴヌクレオチドは、安定性を増加させるために修飾する
ことができることが理解される。修飾には、ホスホロチオネート(phosphorothio
nates)、メチルホスホネート(methylphosphonates)、ホスホロジチオエート(pho
sphorodithioates)、ホスホロアミデート(phosphoroamidates)、リン酸エステル
(phosphate esters)のような骨格の修飾、およびその他の「Uhlman and Peyman,
Antisense Oligonucleotides:A New Therapeutic Principle.Chemical Reviews
90(4):544-584(1990),at 546-560」に記載されているような修飾が含まれる。こ
れらの開示は、参照として本明細書に含まれる。これらの修飾体は、全て本発明
のアンチセンスオリゴヌクレオチドと等価物であると考えられる。
以下の記載は、用いられうる修飾の種類の例を提供するが、当業者は、その他
のものを容易に理解するであろう。例えば、アンチセンスヌクレオチドは、ホス
ホトリエステル結合で、またはメチルホスホノジエステル結合でエキソヌクレア
ーゼの攻撃を遮断することにより、3'デオキシチミジンで、フェニルイソウレア
誘導体として、またはアミノアクリジンやポリリジンのような分子をオリゴヌク
レオチドの3'末端に結合させることにより、安定化された形態で提供される。例
えば、「Anticancer Research 10:1169-1182,at 1171-2(1990)」を参照のこと。
その開示は、参照として本明細書に含まれる。外因的に供給されるアンチセンス
オリゴヌクレオチドの場合、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドを、ASOR
(アシアロオロソムコイド)のような天然リガンド、または肝臓アシアロ糖タン
パク質(ASGP)受容体に結合する合成リガンドに結合させることにより、肝細胞へ
の選択性を高めることができる。例えば、「Biochemistry 29,No..43(1990),Spi
ess,"The Asialoglycoprotein Receptor:A Model for Endocytic Transport Rec
e
ptors"」を参照のこと。また、「Wu and Wu,J.Biol.chem.267,No..18:12436-124
39(1992)」も参照のこと。これは、HBVポリアデニル化シグナルと相補的な21残
基のオリゴヌクレオチドによる、HepG2細胞におけるHBVウイルス遺伝子の発現お
よび複製の阻害を報告している。オリゴマーを、肝細胞のアシアロ糖タンパク質
受容体を標的とする(ポリ)L-リジン-アシアロオロソムコイドへと結合させ複
合体とした。もう一つの態様において、本発明のオリゴヌクレオチドへと結合さ
せることによりリボザイムを指向化することができる。なぜなら、ウイルスRNA
のDR2領域には多数のリボザイム標的切断部位が存在するためである。例えば、
「Biochem.Biophys.Res.Commun.189:743-748(1992)」を参照のこと。上述の参照
の開示は、参照として本明細書に含まれる。
一般的に、インビボ治療のための効率の良い細胞特異的な輸送系は、以下のも
のを含む多数の手法を利用する。1)上記のようなアシアロ糖タンパク質受容体な
どの肝細胞特異的受容体を介した方法による特異的な輸送、2)特異的細胞表面受
容体に対するモノクローナル抗体で特異的に指向化した、またはしていないリポ
ソームに封入したアンチセンスオリゴヌクレオチドの輸送、3)目的のアンチセン
ス構造物を発現するDNAのレトロウイルスを介した移動、および4)受容体を介し
たエンドサイトーシスの過程に作用する細胞表面受容体に特異的なモノクローナ
ル抗体へ結合させることによるアンチセンスオリゴヌクレオチドの直接の細胞へ
の指向化、5)複製能欠損HBVベクターを介した肝細胞への特異的輸送。インビボ
のヘパドナウイルス感染を修飾するためは、実質的に全ての肝細胞に有効量のア
ンチセンス構造物が提供されるような肝細胞特異的な輸送系が、おそらく必要で
ある。本発明のアンチセンス組成物は、単独の治療剤として、またはその他の治
療剤と組み合わせて投与されうる。それらは、単独でも投与されうるか、一般的
には、選ばれた投与経路および標準的な薬剤学における慣習に基づき選択される
薬剤学的に許容される担体と共に投与される。投与量は、もちろん、特定の薬剤
の既知の薬物動態学/薬力学的特徴、投与の方法と経路、患者の年齢、体重、お
よび健康状態(腎および肝機能を含む)、疾患の性質と程度、併用する治療の種
類、治療の頻度と期間、および目的とする効果に応じて様々に変化する。通常、
有効成分の一日量は、体重1キログラム当たり約0.1から100mgである。通常、体
重1キ
ログラム当たり0.5から50、好ましくは1から10mgを分割して投与するか、または
持続的に放出させる(持続的な静脈注入を含む)ことにより、有効に目的の効果
が得られる。
内用投与に適した投与形態は、一般的に、一単位当たり約1ミリグラムから約5
00ミリグラムの有効成分を含む。有効成分は、通常、薬剤学的調製物の総量の約
0.5から95%の量で存在する。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、非
経口的に(例えば静脈から、好ましくは静脈注射により)投与されることが期待
される。非経口投与のための組成物は、無菌的な、非発熱性の溶液、懸濁液、ま
たは乳濁液として調製される。調製物は、液剤または凍結乾燥粉末として供給さ
れる。凍結乾燥粉末は、適当な浸透圧をもつ、薬剤学的に許容される、無菌的な
、非発熱性の非経口投与用の担体で希釈される。それらには、例えば、注射用水
、通常の生理的食塩水、または適当な糖含有担体が含まれる。また、糖含有担体
には、D5W、D5/0.45、D5/0.2、またはマンニトール、デキストロース、もしくは
ラクトースを含む担体などが含まれる。薬剤学的調製物に用いるための適当な薬
剤学的担体、および薬剤学的必要成分は、当分野における標準的な参考書である
「レミントンの薬剤学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」、およびUSP/
NFに記載されている。
オリゴヌクレオチドまたはそれらの誘導体はまた、リポソームやマイクロスフ
ェア(微粒子)に取り込ませて投与することができる。患者に投与するためのリ
ポソームやマイクロスフェアを調整する方法は、当業者に知られている。米国特
許第4,789,734号は、生物学的物質をリポソームに封入する方法を開示している
。物質は、必要に応じて界面活性剤と共に適当なリン脂質および脂質を添加した
水溶液に溶解される。物質はさらに、必要に応じて、透析または超音波処理を受
ける。既知の方法は、[G.グレゴリアディス(G.Gregoriadis)、第14章、「リポ
ソーム」、生物学および医学における薬物担体(Drug Carriers in Biology and
Medicine)、287〜341頁(アカデミック・プレス、1979年)]に記載されている
。ポリマーで形成されるマイクロスフェアは、当業者に周知であり、胃腸管から
直接血流へと通過するように調製されうる。また、オリゴマーまたはそれらの誘
導体を、マイクロスフェアに取り込ませ、長期間にわたり徐放されるように植え
込むこ
とができる。例えば米国特許第4,925,673号および第3,625,214号を参照のこと。
以下の実施例は、説明のために提供され、制限を目的とするものではない。
実施例IHuH7細胞の形質転換
HuH7肝癌細胞(Cancer Research 42:3858-3863(1982))を、6穴プレートに入れ(
35mm/ウェル)、10%胎児ウシ血清を添加したダルベッコ(Dulbecco)最少必須培地
で70〜90%凋密になるまで培養した。細胞を、「Chen and Okayama,Mol.Cell.Bi
ol.7:2745-2752(1987)」に記載の方法に修正を加えて形質転換した。[実際の形
質転換の段階の間、より低いCO2濃度で細胞をインキュベートしたのに対し、実
験の間を通して5%CO2存在下で細胞をインキュベートするという修正を加えた。
]HBV DNA配列を含む複製能を有するHBVプラスミド構築物[HBV DNA HBsAgサブ
タイプadwの頭部と尾部を結合させたダイマーを挿入したpGEM-72f(+)(プロメガ
/Promega)]35〜50ngで、デュプリケートで細胞を形質転換した。プラスミド構
築物は、ボストン、MGHのJ.ワンズ(J.Wands)より入手した(「Blum et al.,J.Vir
ol.65(4):1836-1842(1991)」を参照)。形質転換後、6日間、一日ごとに細胞上清
を収集し、細胞を一ウェル当たり2mlの培養液で一日ごとに再培養した。上清は
、イリノイ州ノースシカゴのアボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories)
より購入できる「オースザイムモノクローナル診断キット(Auszyme Monoclonal
Diagnostic Kit)」を用いてHBsAgの存在を試験するまで、4℃で保存した。HBsAg
は、ウイルス複製のマーカーであり、オリゴヌクレオチドがHBsAg生成を阻害す
る能力は、ウイルス増殖の阻害の指標となる。オリゴヌクレオチド
以下のオリゴデオキシヌクレオチドを、アシアロエチル−ホスホロアミダイト
合成法(Tetrahedron Lett 22:1859-1862(1981))を用いたミリゲン・バイオサー
チ(Milligen Biosearch)8750DNA合成機で合成した。オリゴ番号
HBV10011記載
DR2アンチセンス配列
5' CAA CGT GCA GAG GTG AAG CGA 3'(配列番号:6)オリゴ番号
HBV10012
記載
DR2スクランブルアンチセンス配列
5' AGC GAA GTG AGG ACG TGC AAC 3'(配列番号:7)オリゴ番号
CP10053記載
DR1アンチセンス配列
5' TTA GGC AGA GGT GAA AAA GTT 3'(配列番号:8)オリゴ番号
CP10052記載
DR1スクランブルアンチセンス配列
5' ATC GGA GGA TGG TTA AAT GAA 3'(配列番号:9)オリゴデオキシヌクレオチドの精製
アンチセンスおよびスクランブルのオリゴデオキシヌクレオチドが、NH4OH分
離(55℃、6時間)、および逆相HPLC(トリチル、TEAA 0.1M、pH7.25/アセトニ
トリル勾配)による0.1M NaHCO3でのNAP25カラム(ファルマシア)脱塩の後精製
された。オリゴデオキシヌクレオチドを凍結乾燥し、1M酢酸で1時間脱保護し、1
.0M NaHCO3で中和し、NAP10カラムを通過させ、それから凍結乾燥して粉末にし
た。結果
HTD HBVサブタイプadw2ゲノムを含むプラスミド35〜50ngで形質転換し、形質
転換時にDR2アンチセンスオリゴヌクレオチドHBV10011(配列番号:6)8μg/ウ
ェルで処理したHuH7肝細胞は、6日間の試験期間中、アンチセンスオリゴヌクレ
オチドで処理していない対照の形質転換細胞と比較して有意に少ないHBsAgを産
生した。対照的に、DR1アンチセンスオリゴヌクレオチドCP10053(配列番号:8
)では、オリゴヌクレオチド未処理の形質転換細胞由来の対照の上清と比較して
、HBsAgの蓄積の減少は検出されなかった。二つのスクランブルアンチセンスオ
リゴヌクレオチド、HBV10012(配列番号:7)およびCP10052(配列番号:9)は
、上清中に存在するHBsAgの量をわずかに減少させた。DR1およびDR2アンチセン
スオリゴヌクレオチドの活性に違いが見られるのは、DR1およびDR2が11の同一の
ヌクレオチドを共有し、いずれもHBV複製において重要な役割を果たしているこ
とを考慮すると、驚くべきことである。さらに、第一のDNA鎖はDR1で開始すると
考えられることから、DR1は、HBV複製の初期の段階に関与していると考えられる
。
DR2アンチセンスオリゴヌクレオチドは、いくつかの可能性のあるレベルのい
ず
れにおいても作用している可能性がある。それは、3.5kbのHBVプレゲノムRNA、2
.1kbのHBV mRNAおよび/または2.4kbのHBV mRNAに結合し、アンチセンス効果を
及ぼしうる。DR2配列は、ポリメラーゼおよびXタンパク質ORFsのいずれにも存在
する。抗ウイルスオリゴヌクレオチドはまた、HBV複製中に生成されるオリゴリ
ボヌクレオチドプライマーに結合し、それによりマイナス鎖のDR2部位における
オリゴリボヌクレオチドによるプライマー作用を阻害し、プラス鎖の合成を阻害
するかもしれない。しかし、本発明のオリゴマーは、DR2を含むプラス鎖HBV DNA
にも相補的であり、ハイブリダイズすることができるということを認識しなけれ
ばならない。この領域のヌクレオチド配列は、異なるHBV鎖の間で高度に保存さ
れているが、その発見は、このヌクレオチドの配列およびウイルス複製における
機能が重要であるということを示しており、二次構造および四次構造もタンパク
質の相互作用に関して重要であるかもしれないことを示している。しかし、請求
の範囲に記載された本発明は、DR2オリゴヌクレオチドがHBV複製を阻害するため
の一つまたは複数の特定の機序に基づくものではない。
DR1およびDR2は、11の同一のヌクレオチドを共有しているが、隣接配列は異な
っている。DR1およびDR2いずれの隣接配列も、様々な種や株の間で保存されてお
り、このことは、HBV DNAの複製においてこれらの領域が重要であることを示し
ている。さらに、多くのヒトやウッドチャックのHBVのDR2の隣接配列は、2倍対
称を含み、それによりDR2配列の大部分およびDR2の5'側隣接領域が一本鎖のルー
プを形成する。サブオプティマルRNA折りたたみプログラム(suboptimal RNA fol
ding program)を用いて推定した、HBV DNAのDR2領域の二次構造を図2に示す(「J
aeger,JA,Turner,DH,and Zuker,M,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:7706(1989)」を
参照)。しかし、プレゲノムRNAにおける二つのDR1配列の二次構造の評価より、D
R1配列の一つが、一本鎖のループとして見いだされることが示された。にもかか
わらず、上記に示したように、DR1アンチセンスではHBsAgの蓄積は減少しなかっ
た。
考えられるアンチセンスオリゴヌクレオチドの作用機序においては、オリゴヌ
クレオチドがRNA標的中のその相補配列にハイブリダイズすることが必要である
。したがって、アンチセンスオリゴヌクレオチドが効果を発揮するには、相補的
な標的配列がハイブリダイズできる状態になければならない。ほとんどの場合、
標
的mRNAは一本鎖のランダムコイルではなく、二次構造および四次構造を含む。標
的RNAの構造は、オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションの親和性および速
度、ならびにアンチセンスオリゴヌクレオチドの効率に影響を与えることが示さ
れている(「Yoon,K.Turner,D.H.,and Tinco,I.,Jr.,J.Mol.Biol.99:507(1975)」
「Freier,S.M.and Tinoco,I.,Jr.,Biochemistry 14:3310(1975)」「Unlenbeck,O
.C.,J.Molec.Biol 65:25(1972)」「Herschlag D.and Cech,T.R.,Biochemistry 2
9:10159(1990)」および「Fedor,M.J.and Uhlenbeck.O.C.,Proc.Natl.Acad.Sci.U
.S.A.87:1668(1990)」を参照)。したがって、アンチセンスオリゴヌクレオチド
を設計する際には、mRNA構造、およびオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーショ
ンに対するこの構造の大きな影響を考慮することが役に立つ。例えば、アンチセ
ンスオリゴヌクレオチドの最も強力な結合は、標的構造の破壊が最小限になる標
的部位で起こる(「Lima,W.F.,Monia,R.P.,Ecker,D.J.and Freier,S.M.Biochemis
try 31:12055(1992)」を参照)。したがって、標的二次構造を考慮すると、二本
鎖領域よりも一本鎖領域が選択されるべきである。しかしながら、全ての一本鎖
領域がハイブリダイゼーションに適した構造とは限らない(例えば、ループの一
本鎖の部分)。kras RNAの一本鎖ループの5'側に相補的なオリゴヌクレオチドは
、ループの3'側に相補的なオリゴヌクレオチドと比較して、より強い結合親和性
を示すことが報告されている(Lima et al.,supra)。しかし、やはり一本鎖ルー
プを含むHIV mRNAのtat領域およびtar領域は、ループの3'側により強く結合する
ということはなかった(Ecker et al.,Science 257:958-961(1992))。
mRNAのある領域における一本鎖ループの存在は探索のための理論的な要点の指
標となるが、アンチセンス攻撃のための標的部位は、本明細書における情報の開
示に基づき、やはり実験により決定されなければならない。しかし、推定RNA二
次構造の研究より、実験より得られた結果を洞察することができる。
オリゴヌクレオチドを、MTTアッセイにより非特異的な細胞毒性について試験
した。本アッセイは、生存細胞のミトコンドリアのヒドロゲナーゼにより、テト
ラゾリウム塩MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニル-2H-テ
トラゾリウムブロマイド)が還元され、ブルーホルマザン生成物が生じることに
よるものである(D.Gerlier et al.,J.Immunol.Methods 94:57-63(1986);D.S.Heo
et
al.,Cancer Res 50:3681-3690(1990))。本アッセイは、細胞呼吸を測定するもの
であり、生成ホルマザンの量が、培養液中の生存細胞の数に比例する。本発明の
オリゴヌクレオチド、またはスクランブル対照の存在下でインキュベートしたHu
H7細胞は、MTTアッセイにおいて、オリゴヌクレオチドを添加せずにインキュベ
ートしたHuH7細胞で観察されたのと類似の測定値を示した。したがって、本発明
のオリゴヌクレオチドで観察されたHBsAg発現の減少は、特異的な阻害であり、
オリゴヌクレオチドの一般的な細胞毒性効果ではないと考えられる。
実施例2
DR2領域中のプラス鎖HBV DNAに相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドの構
造活性相関をさらに解明するため、さらに多くのオリゴヌクレオチドを合成し、
上記の方法で抗ウイルス活性を試験した。オリゴヌクレオチド
以下のオリゴデオキシヌクレオチドを、アシアロエチル−ホスホロアミダイト
合成法(Tetrahedron Lett 22:1859-1862(1981))を用いたミリゲン・バイオサー
チ(Milligen Biosearch)8750DNA合成機で合成した。オリゴ番号
CJP114記載
DR2アンチセンス配列
5' CGA CGT GCA GAG GTG AAG CGA 3'(配列番号:10)オリゴ番号
CJP113記載
DR2アンチセンス配列
5' TGC AGA GGT GAA GC 3'(配列番号:11)オリゴ番号
CJP112記載
DR2アンチセンス配列
5' TGA AGC GAA GTG CA 3'(配列番号:12)オリゴ番号
CJP111記載
DR2アンチセンス配列
5' GAG GTG AAG CGA AG 3'(配列番号:13)オリゴ番号
CJP110記載
DR2アンチセンス配列
5' GGT GAA GCG A 3'(配列番号:14)オリゴ番号
CJP109記載
DR2アンチセンス配列
5' CGT GCA GAG GTG AAG CGA AGT 3'(配列番号:15)オリゴ番号
CJP108記載
DR2アンチセンス配列
5' CGA CGT GCA GAG GTG AAG CGA AGT 3'(配列番号:16)オリゴ番号
CJP101記載
DR2アンチセンス配列
5' GGT GAA GCG A 3'(配列番号:17)オリゴ番号
CJP100記載
DR2アンチセンス配列
5' CGA CGT GCA GA3'(配列番号:18)結果
DR2アンチセンスオリゴヌクレオチドHBV10011(5' CAA CGT GCA GAG GTG AAG
CGA 3';配列番号:6)が、強力な抗HBV活性を示したため、プラス鎖HBV DNAのD
R2領域に相補的な一連のその他のオリゴヌクレオチドを合成し上記の方法で試験
した。まず、DR2ループ領域(図1)の推定二次構造に基づき、一連のDR2アンチ
センスオリゴヌクレオチドを設計した。H-ras mRNAと同様に(Lima,1992)、ハイ
ブリダイズに適したDR2ループの推定一本鎖領域を、アンチセンスオリゴヌクレ
オチドの標的とするという原理を用いた。これらのオリゴヌクレオチドの各々の
抗ウイルス効果を表2に示し、以下に記載する。
HBV10011は、DR2の全11ヌクレオチド、および5'側の4隣接ヌクレオチド、およ
び3'側の6隣接ヌクレオチドに相補的な21残基を含むヌクレオチドである。CJP11
4と名付けられたオリゴデオキシヌクレオチドは、HBV10011とn.t.n1607(ジェン
バンクのHPBV ADWと比較した数)で一ヌクレオチドのみが異なる21残基である。
ジェンバンクを用いて様々なHBV株のDR2領域を比較することにより、HBV ADWのT
が、HBV ADW1およびHBV ADRCGでCに変化していることが明らかになった。n.t.n1
607にAではなくGを含むCJP114は、HBV ADW1株のプラス鎖に相補的である。これ
ら
の実験で用いたHBV複製の阻害の試験では、n.t.n.1607にTを有するHBV ADW2株を
用いたにもかかわらず、CJP114はHBV ADW2の複製を阻害した。
オリゴヌクレオチドCJP108は、24残基であり、DR2の隣接領域に相補的なヌク
レオチドをさらに3つ有するという点で、CJP114と異なる。驚くべきことに、CJP
108は、HBV複製を阻害しない。同様に、(CJP108と比較して)DR2の3'隣接領域
の3ヌクレオチドを含まないCJP109は、HBV複製を阻害しない。HBV10011の配列を
もち、3'末端に保護基を有するオリゴヌクレオチドCJP126も、抗ウイルス活性の
減少を示した。このことは、HBV10011の隣接配列または3'末端の基が、抗ウイル
ス活性にとって有害であるということをさらに証明している。
全DR2領域に相補的なヌクレオチドおよび5'側と3'側両方の隣接領域由来の数
ヌクレオチドが、抗ウイルス活性には必要であると思われる。全DR2、5'側隣接
領域の2ヌクレオチドのみ、および3'隣接領域の1ヌクレオチドに相補的な14ヌク
レオチド残基を含むオリゴデオキシヌクレオチドCJP113は、HBV複製を阻害しな
かった。11のDR2ヌクレオチドのうちの8ヌクレオチド、5'側隣接領域の6ヌクレ
オチドに相補的なCJP111は、HBV複製を阻害しなかった。11のDR2ヌクレオチドの
うちの6ヌクレオチド、および5つの5'側隣接ヌクレオチドに相補的な10残基を含
むCJP101およびCJP110は、HBV複製を阻害しなかった。11のDR2ヌクレオチドのう
ちの4、および5'側隣接領域の10ヌクレオチドに相補的な14ヌクレオチド残基を
含むCJP112は、HBV複製を阻害しなかった。11のDR2ヌクレオチドのうちの5残基
、および6残基の3'側隣ヌクレオチドに相補的な11残基、CJP100は、HBV複製を阻
害しなかった。
驚くべきことに、DR2領域の推定ループ領域にハイブリダイズするよう設計さ
れたアンチセンスオリゴヌクレオチド(CJP111およびCJP110)、ならびに推定ル
ープおよび5'側または3'側いずれかの隣接領域にハイブリダイズするよう設計さ
れたアンチセンスオリゴヌクレオチド(CJP113、CJP109、CJP108、CJP112)は、
抗ウイルス活性を示さなかった。しかし、一ヌクレオチドのみが異なるHBV10011
およびCJP114は、抗ウイルス活性を示した。このことは、アンチセンスオリゴヌ
クレオチドHBV10011およびCJP114の5'末端の2ヌクレオチドは、抗ウイルス活性
にとって重要ではないということを示している。この仮説を検討するため、後者
の二つの5'ヌクレオチドが欠損している以外は、HBV10011およびCJP114と同一の
オリ
ゴヌクレオチドCJP140を合成し、試験した。CJP140は、HVB複製を完全に阻害す
ることが示された。したがって、4つより多い5'側隣接ヌクレオチドは、完全な
抗ウイルス活性にとって必要でないと考えられる。12以下、好ましくは6以下の5
'側隣接ヌクレオチドを含ませることができるが、4以下の5'側隣接ヌクレオチド
が、合成および薬学的輸送を容易にするためには、より好ましい。
これらの構造活性相関をさらに解明するため、3'側または5'側隣接配列を含ま
ない、DR2配列のみに相補的な11残基であるオリゴヌクレオチドHBV1018(配列番
号:19)を合成し、試験した。これは、HBV複製を阻害することができなかった
。
3'末端の一ヌクレオチドが欠失していること以外は、CJP114と同一のオリゴヌ
クレオチドCJP150(配列番号:20)は、HBVプラスミドDNAのみで形質転換した細
胞上清に見られるレベルの5%にまで、形質転換細胞の上清中のHBsAgの量を減少
させた。オリゴヌクレオチドCJP150の抗ウイルス活性は、オリゴヌクレオチドHB
V10011およびCJP114と比較してわずか少ないのみであるため、HBVゲノムのヌク
レオチド1588に相補的なA残基は、完全な抗ウイルス活性にとって必要でないと
考えられる。配列 5'-ACGTGCAGAGGTGAAGCG-3'(配列番号:21)を有する改変オ
リゴヌクレオチドもまた、抗ウイルス活性を有することが期待される。
このように、DR2配列の狭い領域を標的としたオリゴヌクレオチドのみが、抗
ウイルス活性を示す。これらの実験の結果を以下の表2に示す。推定二次構造(
図1)と実験で観察された抗ウイルス活性の間には、明らかな相関はないように
見える。しかし、RNA構造だけでなく、そのタンパク質との相互作用も、抗ウイ
ルス活性にとって重要であるかもしれない。このことは、実験により決定されな
ければならない。予備的な実験結果から、本発明のオリゴヌクレオチドはHBVに
対して特異的な抗ウイルス活性を示すことが示されている。なぜなら、本発明の
オリゴヌクレオチドはミトコンドリア酵素アッセイにおいて非毒性であり、さら
に肉眼的形態学によると培養液における肝細胞に対する毒性は存在しない。
表2に示した実験結果より、DR2および隣接配列を含む領域が、HBVの正常な機
能にとって重要であることが示された。いずれもB型肝炎ゲノムを含めてヌクレ
オチド1588から1609に相当するヌクレオチドHBV10011およびCJP114は、細胞上清
中のHBsAgの検出可能なレベルの蓄積を阻害した。HBV10011およびCJP114は、相
互に1607位のみが異なり、HBV10011はAを含み、CJP114はGを含む。このことは、
1607位における抗ウイルスオリゴヌクレオチドとウイルスの核酸との間の塩基対
形成は、実験で見られる抗ウイルス効果にとって重要ではないということを示し
ている。したがって、配列 3'AGCGAAGTGGAGACGTGCA5'(オリゴCJP140;配列番号
:24)をもつオリゴヌクレオチドを合成したところ、抗ウイルス活性を有するこ
とが示された。
1588位から1598位に相当する抗ウイルスオリゴヌクレオチドCJP101は、HBV表
面抗原発現を阻害しない。このことは、1599位から1609位に相当するオリゴヌク
レオチドの一部または全部が抗ウイルス活性にとって重要であるということを示
している。1599位から1609位に相当するオリゴヌクレオチドCJP100は、B型肝炎
表面抗原の蓄積に影響を与えなかった。このことは、1588位から1597位に相当す
るヌクレオチドの一部または全部もまた、オリゴヌクレオチドHBV10011およびCJ
P114により行われる阻害にとって決定的に重要であるということを示している。
オリゴヌクレオチドCJP113は、1590位から1603位に相当し、B型肝炎複製の阻害
剤としての活性をもたなかった。このことは、1588位、1589位、1604位、1605位
、1606位、1607位、1608位、および1609位に位置するヌクレオチドの全部または
一部が、抗ウイルス活性に必要であることを示している。オリゴヌクレオチドCJ
P108は、3'末端に3ヌクレオチドが多いこと以外にはCJP114と同一であるが、抗
ウイルス活性を示さない。3つの3'ヌクレオチドのうちの一つまたは複数が追加
されることにより、抗ウイルス活性は失われるようである。オリゴヌクレオチド
CJP109もまた、CJP108と同じ3つの3'末端ヌクレオチドを含み、やはりアッセイ
において不活性であった。同様に、オリゴヌクレオチドCJP112およびCJP111は、
アッセイにおいて抗ウイルス活性を示さなかった。いずれも、活性を失わせうる
3'側の一つまたは複数のヌクレオチドを含み、HBV10011およびCJP114に存在する
重要な5'配列を含まない。
上記の結果と一致して、以下のDR2オリゴヌクレオチド(5'から3'で示す)も
また、抗HBV活性を示すことが期待される。
オリゴCJP141:CGTGCAGAGGTGAAGCGA(配列番号:25)、
オリゴCJP142:GTGCAGAGGTGAAGCGA(配列番号:26)、
オリゴCJP143:TGCAGAGGTAAGCGA(配列番号:27)、
オリゴCJP144:GCAGAGGTGAAGCGA(配列番号:28)、
オリゴCJP145:CAGAGGTGAAGCGA(配列番号:29)、
オリゴCJP146:AGAGGTGAAGCGA(配列番号:30)、
オリゴCJP147:GAGGTGAAGCGA(配列番号:31)、
オリゴCJP148:AGGTGAAGCGA(配列番号:32)、
オリゴCJP149:CGACGTGCAGAGGTGAAGC(配列番号:33)、
オリゴCJP150:GCGAAGTGGAGACGTGCAGC(配列番号:20)、
オリゴCJP151:CGACGTGCAGAGGTGAAG(配列番号:34)、
オリゴCJP152:CGACGTGCAGAGGTGAA(配列番号:35)、
オリゴCJP153:CGACGTGCAGAGGTGA(配列番号:36)、
オリゴCJP154:CGACGTGCAGAGGTG(配列番号:37)、
オリゴCJP155:CGACGTGCAGAGGT(配列番号:38)、
オリゴCJP156:CGACGTGCAGAGG(配列番号:39)、
オリゴCJP157:CGACGTGCAGAG(配列番号:40)、
オリゴCJP158:AACGTGCAGAGGTGAAGCGA(配列番号:41)、
オリゴCJP159:CGACGTGCAGAGGTGAAGCGAAG(配列番号:42)、
オリゴCJP160:CGACGTGCAGAGGTGAAGCGAA(配列番号:43)。
活性の3'側および5'側の境界を明確にし、共通のヌクレオチド配列を選択する
ために行った実験の結果に基づき、さらに多数の活性配列を決定することができ
る。
本明細書に記載した出版物および特許出願は全て、本発明が属する技術分野の
当業者のレベルを示している。出版物および特許出願は全て、特別に、個別に参
照として含まれると記載した各出版物および特許出願と同程度に参照として本明
細書に含まれる。
上記の発明は、明確な理解を目的として、説明、例示のため詳細に開示されて
いるが、添付の「請求の範囲」の範囲内である程度の変更、および改変が行われ
うることは明らかであろう。
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フロントページの続き
(72)発明者 ユーン キョンジュン
アメリカ合衆国 ペンシルベニア州 ベー
ルン レイニリー レーン 802