【発明の詳細な説明】
電気泳動法による化学分析
本発明は、一般に化学種の分析技術、特に界面運動学的分離による分析に関連
するものである。
背景技術
毛管電気泳動は、化学成分の分離法として良く知られている。
分離すべき分子を含むサンプル溶液を、電気泳動媒体が入っている毛管中に入れ
る。毛管に電界を与えると、サンプル内の異なった成分が電気泳動媒体内で各成
分の相対的な電気泳動移動度に従い、逆に帯電している毛管の末端に固有の速度
で移動する。電気泳動速度はそれぞれ異なるので、サンプル成分は毛管内を進む
につれて別個のゾーン、またはグループへと分離される。サンプルの各成分は、
毛管のそれぞれ別の部分において検知される。
電気泳動はタンパク質、核酸、および細胞のような荷電物質の分離に応用され
ている。このような分離は、電荷密度、分子サイズ、移動相添加剤との分配また
は複合体形成反応合成の違いに依存する。米国特許第 5,061,361号は、体積1ナ
ノリットルのサンプルを毛管に導入し、電界を与えて荷電成分を分離する毛管ゾ
ーン電気泳動システムに関する。毛管の長さ方向に沿ってイオンが移動し終わる
と、紫外線吸収によりサンプル中の成分が検出される。米国特許5,084,150は、
移動中の電荷コロ
イド粒子の表面が、被分離サンプル分子に対して選択的に相互作用するように処
理されるという、界面運動学的分離法に関連する。コロイド粒子と分離されるサ
ンプルが入った毛状管に電界が加えられる。米国特許第 5,045,172号では、毛状
管の両端に電極が設置され、検知器が管に連結されている毛管電気泳動装置に関
連する。米国特許第 4,181,589号は、電界を用いて生物細胞を分離する方法に関
する。上記各米国特許は引用により本明細書中に援用する。
本発明の一目的は、毛管内で微量のサンプルと少量の分析試薬を用いるだけで
、生成物の検出ができるような化学変化を起こすことである。二つの成分、例え
ば、一つのサンプルと一つの試薬が混合され、化学量論的にサンプル内の分析対
象物と反応し、ある生成物を形成する。その生成物は電気泳動的に分離測定され
て、サンプル内に存在した分析対象物の量が示されるようにすることである。本
発明の他の目的は、生成物をそれに特徴的な方向に誘導することなしにサンプル
内での分析対象物を化学的に分析可能にすることである。もう一つの目的は、サ
ンプルを高温にさらすことなく、高電圧で電気泳動により、生成物をサンプルお
よび反応物から迅速に分離することである。さらに本発明は、サンプル及び/又
は生成物の希釈および拡散を最小限として、積極的に混合するプロセス無しに、
化学成分を実質上一瞬のうちに混合することである。さらに別の目的は、毛管電
気泳動システムをフラッシングの必要無しに再生することにある。別の目的は、
機械的なポンプの必要無しに毛管内の電気浸透によりサンプルを移動させること
である。さらに別の目的は、同一サンプルの複数の成分に関して、ほぼ同時に化
学
分析をすることである。
発明の要約
本発明はサンプル内の分析対象物の分析法を包含し、サンプル内の分析対象物
を検出可能な生成物に転化することによりきわめて少量のサンプルの毛管電気泳
動を利用して、分析対象物を迅速に分析測定ができるという発見に基づくもので
ある。
本発明の方法は、分析対象物と反応物とを電気泳動的に接触させ、それにより
共有結合を生成または消滅させ、生成物が生成または消滅する新規な概念の化学
分析に関する。生成物は電界内で、固有の速度で検知器に向かって移動する。こ
のプロセスは本発明の分析法にの根本原理であり、これを電気泳動法による化学
分析(electrophoretically mediated chemicalanalysis: EMCA)と名付け
る。これは、次の三段階から構成される。分析対象物と反応物のゾーンが電気泳
動的混合により一体となる反応前段階、共有結合の形成または消滅により生成物
が形成される。または消滅する反応段階、および、生成物が電気泳動により検知
器に移動し検出される反応後段階の三段階である。反応前段階の間には、サンプ
ル内に存在する複数の分析対象物を分離することが可能である。反応後段階でも
、反応しなかった分析対象物、反応物、もしくは反応に伴う他の化学種から、生
成物を分離することが可能である。
伝統的な電気泳動と異なり、本発明に基づく電気泳動は、所与の電気泳動媒体
内での生成物及び/又は分析対象物および反応物について、これらの成分を混合
あるいは分離するために電気泳動速度の固有の差あるいは誘発される差を利用す
るものである。化学種の電気泳動による混合は、従来の化学分析の分野
の伝統的な方法に対して、特別の利点をもたらすものである。すなわち、ゾーン
内に含まれる化学種を実質的に希釈することなく、分析対象物および反応物を電
気泳動により混合するのである。加えられた電位と、選択された電気泳動媒体の
影響によって、化学種は本質的に独自の電気泳動移動度を持ち、それによってバ
ルク溶液とは無関係に電気泳動を行う。こうして分析対象物のゾーンと反応物の
ゾーンが電界内を異なった電気泳動移動度で移動して、大量のバルク溶液を加え
なくても、相互に浸透し合うことができる。さらに、電気泳動による混合によっ
て二つのゾーンを完全に一体化させるときに乱流を引き起こさないですむ。この
ように化学分析のための本発明の方法は、従来の化学分析法に比べてより簡単で
能率的である。高電位、例えば300-2000ボルト/cmでは二つのゾーンがミリ秒単
位で完全に電気泳動により混合できることが多い。
本発明の方法の電気泳動による分離技術により、化学反応後はもちろん反応前
の化学種の分離も可能になった。このような強力な能力によって、従来の化学分
析法にはなかった多くの利点が与えられる。化学反応を妨げるような化学種を、
その化学反応の前に電気泳動にかけて関心がある分析対象物から取り除くことが
でき、反応の選択性を高めることができる。化学反応後に、検出可能な生成物か
ら、その検出を妨げるような反応副生物を分離することもできる。化学反応が開
始もしくは完了した後、電気泳動分離法によって、生成物を他の化学成分から分
離し、反応の感度を高めることができる。この物理的分離プロセスを利用すると
、各化学反応の生成物に固有の検出可能な特性が無くとも、複数の化学分析が同
時に行える。
当業者は本発明の実験パラメータの範囲で操作して、検出可能な生成物を選択
的に監視するだけでなく、分析対象物と反応物のゾーンの結合および分離を管理
できる。その結果、本発明の分析法は、単数および複数の分析対象物を含むサン
プルの分析のための任意の化学反応に応用できる。本発明に有用な反応の中には
、触媒反応、非触媒反応、および組み合わせた反応系などがある。
本発明の一つの方法では、反応物と分析対象物を含むサンプルとを、電気泳動
用緩衝液を有する毛管に導入する。本明細書で用いる「毛管」(capillary)い
う用語は、容易に熱を消失する直径 500ミクロン未満の導管の任意のものを意味
する。分析対象物または反応物、もしくは両方が帯電すると、固有の電気泳動移
動度で電界内の荷電極方向に移動する。ここで十分な時間だけ電位差をかけ、毛
管内で分析対象物と反応物が電気泳動運動によって化学的接触を行えるようにす
る。生成物をつくる化学反応は、生成物が形成もしくは消失するように一つの分
析対象物または反応物の共有結合の消滅または形成を伴い、その生成物が検出さ
れる。
本発明のこの方法での好ましい具体化では、電気泳動用緩衝液は反応物をまん
べんなく含有する。あるいは、反応物を毛管の一部のみを占めるゾーン内に限定
する。分析対象物が帯電し、サンプル内に分析対象物と反応物の間の化学反応を
妨げるような成分が含まれているときには、分析対象物と反応物との化学的接触
の前に、毛管に電位を十分な時間かけて電気泳動により分析対象物をその他のサ
ンプル内の成分から分離して反応を妨げる成分と分析対象物とを分離することが
好ましい。もう一つ
の好ましい具体化では、検出前に十分な時間電位を与えて、分析対象物および反
応物のうちの一方、もしくは両方から生成物を分離することが望ましい。
本発明の実施においては、化学的に接触した分析対象物と反応物から十分な時
間電位を取り除き、毛管内の化学的に接触した分析対象物と反応物を電位ゼロと
して生成物の量をさらに増したりあるいは生成物を消失させる工程を追加するこ
ともできる。その後で生成物を検出する。さらに、検出前に電位を毛管に再び十
分な時間だけかけて、生成物を分析対象物および反応物の一方もしくは両方から
分離することができる。
また本発明によると、サンプル内の複数の分析対象物の分析をほぼ同時に行う
ことができる。この方法では、電気泳動用緩衝液および一つ以上の反応物を含む
毛管にサンプルを導入する。分析すべきサンプルは少なくとも第一および第二の
分析対象物を含む。次のペアの反応成分の各々のうち一つが帯電されねばならな
い。即ち、(a)第一分析対象物および対応する反応物、および(b)第二分析
対象物および対応する反応物。これにより、帯電成分は電界に運ばれ、適当な濃
度、緩衝液、毛管内の位置、および電位の条件下で他の成分と接触する。毛管の
長さ方向に沿って次の化学反応の成分、即ち、(i)反応物と第一分析対象物、
及び(i)反応物と第二分析対象物、を化学的に接触させるに十分な時間電位を
与えると第一および第二の検出可能な生成物が各々生成する。この化学的接触に
より、各化学反応の一方の成分、即ち、第一分析対象物もしくはその反応物のう
ちの一つ、及び、第二分析対象物もしくはその反応物のうちの一つ、の共有結合
が消滅あるいは生成して検出可能な生成
物ができる。
本発明のこの局面においては、反応物の性質は無制限であり、第一および第二
分析対象物が、異なる反応物と反応して異なる生成物を生成してもよく、同じ反
応物と反応して同じ生成物を生成してもよく、あるいは同じ反応物と反応して異
なる生成物を生成してもよい。さらに、検出できる生成物は、少なくともそれを
検出するために使用されるパラメータに関しては同一のものであるが、そうでな
い場合には生成物は区別できるものになる。生成物が同一であっても、サンプル
内の第一および第二分析対象物はそれを形成した分析対象物もしくは反応物の電
気泳動移動度を異なるものとすることにより生じる立体配置の違いにより別々に
測定できる。即ち、サンプルが毛管内に導入され電位が与えられると、第一およ
び第二分析対象物は各々それ自体の速度で電界内を移動する。各分析対象物が反
応物と出会うとその分析対象物の付近で生成物が形成されもしくは消失し、第一
および第二分析対象物のそれぞれから形成された生成物は形成もしくは消失した
他の生成物の全てと同じ速度で毛管内を移動するが、出発点はそれが形成された
位置からである。例えば、第一分析対象物が第二分析対象物よりも速く移動する
と、第一分析対象物から形成された生成物は第二分析対象物からの生成物よりも
検知器まで移動する距離が短くなる。こうして第一分析対象物生成物は第二分析
対象物生成物のピークの前にピークとして検知器を通過する。
電位ゼロでも化学反応はすることができ、このようにして形成または消失した
生成物は再び電位を与えると分離し検出することができる。即ち、分析対象物お
よび反応物を化学的に接触
させた後で、生成物を検知する前に、生成物の量を増すために十分な時間電位を
取り除き毛管の電位をゼロとすることができる。次いで、再び電位を毛管の長さ
方向に沿って十分な時間与え、生成物の分離を行う。電位ゼロで複数の分析対象
物の分析を行うと、サンプル内の分析対象物の相当な量を反応させることができ
毛管の限られた区域で生成物を形成させもしくは消失させることができる。こう
して、電位が再び与えられると第一分析対象物の生成物の分子移動の出発点は第
一分析対象物のゾーン内であり、第二分析対象物のゾーンの生成物の分子移動の
出発点とは異なる。ゼロ電位工程は本発明のこの方法の感度と精密度を高める。
本発明のその他の変性では、サンプル内の複数の分析対象物の分析に、各々の
分析対象物に異なった生成物を生成あるいは消滅させて、ある分析対象物では検
出されるが他の分析対象物では検出されない性質により、それぞれの生成物を検
出する。この方法では、少なくとも第一及び第二の分析対象物を含むサンプルを
使用し、電気泳動用緩衝液と少なくとも一つの反応物を含む毛管にサンプルを導
入する。この方法では、単一の反応物がそれぞれの分析対象物と反応して、異な
った生成物を生成あるいは消滅させることがある。あるいは複数の反応物が存在
し、各々の反応物がそれぞれの分析対象物と反応して別々に生成物を生成するこ
ともある。第一あるいは第二の分析対象物または反応物のうちの一つは、帯電し
ていなくてはならない。それによって、毛管に電位が与えられたとき、反応物と
第一の分析対象物との電気化学的接触によって検出可能な第一の生成物が生成(
あるいは消滅)する。また、反応物と第二の分析対象
物との電気化学的接触により、第二の検出可能な生成物が生成(あるいは消滅)
する。各々の化学的接触において、第一の分析対象物または反応物、および第二
の分析対象物または反応物で、共有結合が形成あるいは消滅する。そこで、第一
及び第二の生成物が検出される。
第一及び第二の生成物は異なる電気泳動移動度でもよくこの場合は、検出器に
到達する時間は異なる。また、本発明のこの方法においては第一及び第二の分析
対象物は同じ電気泳動移動度を有してもよい。何となれば、第一及び第二の生成
物が形成されると直ちに、これらの生成物は異なる速度で電界を移動し、異なる
ピークとして検出されるからである。
上記の本発明における全ての分析法に応用可能な変性の一つに、サンプルと反
応物が当初毛管内で占める場所を二つの別々の分子のゾーンに限定する方法があ
る。電位が与えられた後に、分析対象物の分子と反応物の分子との電気泳動移動
度が異なるために、ゾーンは一緒になってしまう。つまり、分析対象物及び反応
物の分子が化学的に接触すると、分析対象物と反応物の別々のゾーンが相互浸透
する。
生成物は分析対象物と反応物の化学反応の結果として生成し、あるいは化学反
応により化学成分は消滅または消費される。化学反応によって化学成分が消滅す
る場合には、化学反応の結果(即ち、「生成物」の消費)が検出器の位置に到達
するのにつれて検出器は減少した成分量を検知する。
本発明はまたミクロ電気化学分析装置としての特色を有しており、この分析装
置は、電気泳動装置と毛管とを画定する装置、毛管を電気泳動装置および反応物
と電気的に結合する装置、お
よび生成物を検出する装置を含むものであり、上記反応物は反応物あるいは分析
対象物のうちの一つについて共有結合を消滅または形成することにより分析対象
物を検出可能な生成物に転換するものである。
本発明はまたミクロ電気化学分析装置としての特色を有しており、この分析装
置は、電気泳動用緩衝液および反応物が充填された毛管、毛管の長さ方向に沿っ
て電界を形成させる装置、および毛管内の生成物を検出する装置を含むものであ
り、上記反応物は反応物あるいは分析対象物のうちの一つについて共有結合を消
滅または形成することにより分析対象物を検出可能な生成物に転換するものであ
る。
本発明はさらにまた、直径が 500ミクロン未満で電気泳動用緩衝液を含む毛管
としての特色を有しており、この毛管は互いに離れて配置されている分析対象物
と反応物を含み、分析対象物と反応物は化学的に接触すると活性であり共有結合
を消滅または形成することにより生成物をつくるものである。
本発明の長所には次のことが含まれる。
本発明の方法によると、サンプル内の一つ以上の分析対象物を迅速に、たとえ
ば10秒で分析することができる。分析に用いる毛管の容量は、たとえば10-100ナ
ノリットル/cmと少量なので、本発明による分析に必要なサンプルの量も非常
に少量であり、たとえば、非常に小さな毛管において1分間の分析で消費される
サンプルは僅か1ナノリットルであり、本発明はサンプル分析の費用を少なくす
ることができる。本発明によれば、サンプル内の複数の分析対象物を同時に分析
することができ、単一の生成物を測定することも、所望により数個の生成物を測
定することも可能である。
本発明の方法のもう一つの長所は、毛管系内に化学成分を送り込むのに機械的
なポンプが不要なことでである。成分は毛管系内を電気浸透的に、つまり、化学
成分自身の電荷と電界での移動性によって移動する。すなわち、高い電荷を持つ
成分は毛管内を反対側に帯電している電極に向かって速やかに移動し、同様に、
比較的低い電荷を持つ成分はゆっくりと移動する。
毛管系は、セルフフラッシングするように設計することもできる。すなわち運
転の間に、電気浸透によって毛管の一方の極に向かって流れる緩衝液の純対流(
net convective flow)が得られる。電気浸透は毛管壁上のイオンの純マイナス
またはプラスチャージによってつくられる性質である。これらのイオンは毛管に
電位が与えられると移動し、その際毛管内の液体を一緒に引っ張る。
この引っ張りには減少効果があり、毛管の内壁に最も近い液体は、毛管中央部
の液体より速い速度で引っ張られる。電気浸透の効果の一つは、毛管を運転と運
転の間に機械的にフラッシングするする必要がないことである。それは、電気泳
動系が1-70nl/min の割合で、毛管内の緩衝液を連続的に動かしているからであ
る。電気浸透効果は、毛管壁の電荷を変化させるか、毛管内壁をコーティングし
いるポリマーの粘度を変化させるか、毛管内の溶液の粘度を変化させれることに
より変動させることができる。
本明細書に記載した方法のパラメータ、例えば、サンプル量、反応物量、電位
、毛管の長さ、電気浸透流の調節をすることによって、当業者は化学反応そのも
の従って系の感度を精巧に制
御することができる。
本発明の方法のもう一つの長所は、化学成分が相互に反応し得る時間を電位を
上げたり下げたりして制御できることである。例えば、化学反応が遅くしか進ま
ない場合には、電位を下げるか電源を切って、化学成分が相互作用して生成物を
生成あるいは消滅する時間を増すことができる。逆に化学反応が速かに生じる場
合には、電位を上げて生成あるいは消滅するのにつれて生成物を分離することが
できる。これにより分析に必要な時間を著しく短縮することができる。
本発明によるサンプル分析は、化学反応の初期プロフィールが生成された後、
繰り返し日常的に行なうことができる。サンプルに含まれる特定の分析対象物の
試験は、一旦毛管内で生成物のピークが他の成分、即ち、反応物、未反応の分析
対象物、あるいは汚染物と相対的にいつ検知器を通過するかが分かれば、数百の
サンプルについて日常的に行なうことができる。さらに本発明では、複数の分析
対象物を同時に分析することができる。たとえば、分析対象物(i)が反応物(
i)によって生成物(i)に転化し、分析対象物(ii)が反応物(ii)によって
生成物(ii)に転化し、分析対象物(ii)が反応物(ii)によって生成物(ii)
に転化し、分析対象物(iii)が反応物(iii)によって生成物(iii)に同時に
転化(convert)されうる。分析対象物(i)、(ii)および(iii)の存在を示
す生成物(i)、(ii)および(iii)の分析を同一アッセイで行なうことは本
発明によれば容易である。本発明によれば、さらに複雑な反応の分析も可能であ
る。例えば、分析対象物(a)が生成物(a)に転化し、分析対象物(b)が生
成物(b)に転化し、分析対
象物(c)が生成物(a)に転化されうる。電界で分析対象物(a)及び(c)
が異なる電気泳動移動度のものであったとすると、分析対象物(a)及び(c)
の各々について生成物(a)の分析は本発明により容易に行なわれる。さらに、
生成物(a)及び(b)が検知について異なる性質を有する場合には、これらの
生成物は容易に分析できる。このように本発明によると、同一の生成物を生成す
る複数の反応、異なる生成物を生成する複数の反応の分析ができる。
本発明は、異なる反応物による多くの異なる分析対象物の分析を包括する。分
析対象物および反応物の例を以下にあげるが、これらに限定されるものではない
。分析対象物が酵素の場合は、反応物はその酵素に対する基質でよい。逆に、分
析対象物が基質であれば、反応物はその基質を生成物に転化することができる酵
素でよい。分析対象物の定量が所望の場合は化学量論的に生成物に転化する任意
の物質を、分析対象物の単なる検知が所望の場合は非化学量論的に生成物に転化
する任意の物質を、分析対象物あるいは反応物は含有することもできる。本発明
によって検出される生成物には、例えば、熱、電磁エネルギー、放射線あるいは
蛍光のような任意の従来の検出法により検出できる性質を有する任意の物質が包
含される。従来の検出法は本発明において用いられ本明細書で述べる。
本発明のその他の特徴および長所は以下の記述および請求の範囲から明らかに
なろう。
図面の簡単な説明
本発明を詳細に説明する前に図面について簡単に説明する。
図1(a)−(g)は、本発明のプロセスを図解するもであり、二つのゾーン
が、(a)互いに接近、(b)化学的接触を開始し生成物をつくり始める、(c
)重なり合ってくる、(d)互いに相互浸透、(e)離れはじめる、(f)完全
に離れる、(g)互いに遠のく。点で示した生成物が同時に生成し、ゾーン内の
化学種から電気泳動により分離する。
図2は、分析のピーク形状をシミュレートしたものであり、μem.p>μem.a(
左側のピーク)、およびμem.a>μem.p(右側のピーク)の場合のものである。
このプロファイルにおける実験上のパラメータは、μem.p = 5 x 10-4 cm2/Vs ;
μem = 0cm2/Vs ; μeo = 5 x 10-4 cm2/Vs ; k = 0.1 ; [A]i = 0.1 M; 適
用
電位 = 8000 V ; l = 25cm ; および L = 40 cmである。
図3(A)−(C)は、EMCA酵素アッセイにおけるエレクトロフェログラ
ムを図解したものであり、(A)はESがPより早く動き、(B)はPがESよ
り早く動き、(C)は多重アイソザイムアッセイで生成物の相対的な移動度がそ
れを形成しているアイソザイムの移動度よりも遅い場合のものである。
図4は、本発明により適用される電位プログラムであり、電圧をゼロに落とし
、次に再び電圧をかけたのもので、(上図)、その結果生ずるエレクトロフェロ
グラム(下図)と共に示す。
図5は、本発明による、酵素による基質の分析の理論的なピーク形状である。
このシミュレーションにおける速度論的なパラメータは、k3 = 1; [Eτ] = 0.00
01 M; Km = 0.001 M; および[S]i = 0.01 Mである。
図6は、本発明の方法を実施するのに使用できる装置の概略図である。
図7(A)および7(B)は、(A)G-6-PDH および(B)緩衝液の吸光度を
波長の関数として示す。
図8 (a-f)は、ゼロ電位での340 nmにおける NADPHの吸光度を(a) 2, (b) 4,
(c) 6, (d) 8, (e) 10 および (f) 28分について示す。
図9 (a) −9 (b)は、 G-6-PDHを(a) 高電位、(b) 低電位、で分析したとき
にできるエレクトロフェログラムである。
図10は、(a) 電気泳動が開始される前に NADPHを重ねたとき、(b) G-6-PDH
が検知窓を通過する直前に NADPHを重ねたときにでる重なりピークを示すエレク
トロフェログラムである。
図11は、ゼロ電位に切替えたときの NADPHの重なりを示すエレクトロフェロ
グラムである。
図12は、検知された NADPH生成物のピーク面積とG-6-PDH分析対象物の対応
する濃度との関係をプロットしたものである。
図13は、本発明によりアルコールデヒドロゲナーゼ酵素を用いてエタノール
基質の分析を行なったときに得られる補正曲線である。
図14は、本発明によるエタノールのアッセイと従来のシグマエタノール分光
光度法アッセイと比較したものである。
発明の説明
本発明は、サンプルを毛管電気泳動系に導入して分析対象物を検知可能な生成
物に転化する化学反応あるいは検知可能な化学種を消滅させる化学反応を開始す
ることにより、サンプル中の分析対象物、例えば、基質あるいは酵素、の存在及
び/又は濃度を測定する新規な方法に関する。化学反応の開始は電気泳
動による移動あるいは電気浸透フローによる分析対象物と反応物との混合により
、生成物の検知は生成物の電気泳動による検知器への移動による。化学反応によ
り生成あるいは消滅する生成物が検知されることは分析対象物の存在を示すこと
になる。分析対象物の測定が定量的な場合には、分析対象物の生成物への転化あ
るいは生成物の消滅は化学量論的になる。化学量論的な分析対象物の生成物への
転化、即ち、検知される生成物の量がサンプル中の分析対象物の濃度に比例する
場合には、検知される生成物を測定することによりサンプル中に存在する分析対
象物の量を計算することができる。このように本発明の方法は、サンプル中の分
析対象物の存在を測定することができる。さらに、本発明の方法により、サンプ
ル中の分析対象物の量、例えば、反応ボリューム中の基質の濃度あるいはサンプ
ル中の酵素の量あるいは活量、を測定することができる。
本発明の毛管電気泳動法は、サンプル中の分析対象物の測定には三段階がある
。即ち、分析対象物と反応物の混合、化学反応自体、および、その生成あるいは
消滅が目的の分析対象物の存在、濃度、あるいは量を示す化学種の検知、の三段
階である。
本発明によるアッセイを実施するのに要する時間(tassay)には、次の時間的
局面がある。即ち、分析対象物と反応物とを電気泳動により混合するのに要する
時間(tmix)、化学反応に要する時間(trxn)、および、検知可能な化学種が検
知器に移動するのに要する時間(tdet)である。
tassay = tmix + trxn + tdet (1)
生成物を生成するための、分析の混合および反応局面の実施に当てられる時間
帯(tform)は、一般に分析対象物を注入し
てから分析対象物が検知器を通過するまでの時間により限定される。
ここで、L は電位V が与えられている毛管の全長であり、μemは所与の電気泳動
媒体中の分析対象物の電気泳動移動度であり、μeoは毛管電気泳動系の電気浸透
フローである。
1.試薬の混合
本発明において行なわれる分析対象物と反応物の混合は、化学種間で電気泳動
速度に違いがあることを利用しておこなう。本発明の方法では、少なくとも反応
物あるいは分析対象物の一つの化学種が帯電しており電界において固有の移動度
を有していることが必要である。分析対象物と反応物の両者が帯電している場合
には電荷密度の差により電界における電気泳動移動度の差異が生じる。電気泳動
による混合は、(i)より速く移動する成分がより遅く移動する成分を、一方あ
るいは両方が同じ電極に向かって移動する間に追抜くときに混合するか、あるい
は、(ii)反対方向に移動しているイオン成分が毛管内を移動中に互いに電気泳
動しながら混合するか、により行なわれる。
或る化学種の電気泳動速度は、化学種の電気泳動移動度μemと、毛管電気泳動
系の電気浸透フローμeoとの合計である。電気泳動移動度は、選択した電気泳動
媒体の性質による。緩衝電気泳動媒体を用いるフリーゾーン毛管電気泳動系では
、帯電した化学種の電気泳動移動度はその物質の電荷密度により支配され次式に
より定義される。
ここで、Z は化学種の有効ネット電荷であり、e は電荷であり、ηは溶液粘度で
あり、a は化学種の流体学的半径である。
ふるい媒体を毛管ゲル電気泳動において用いるが、電気泳動移動度は電荷密度
および分子の大きさの両方によって決まる。ミセル電気泳動分離においては、電
気泳動移動度は、化学種のバルク溶液中での電気泳動移動度と、それ自体の電気
泳動移動度を有する帯電したミセル添加剤としての化学種の分配係数との両者に
依存する。電気泳動媒体中に錯体の添加物を含む毛管電気泳動分離の様々な形態
においては、電気泳動移動度は、分析対象物の電荷密度、および、それ自体の電
気泳動移動度を有する帯電した又は帯電してない添加物との錯化の程度により決
まる。異なる電気泳動媒体が入手できるので、分析対象物または反応物の電気泳
動速度を変えるためにそれらの種々の物理的性質を利用できる。したがって、こ
のことは成分が電界中で異なる速度で電気泳動することを可能にする。従って、
空間的に離れた化学種のゾーンを、電界内で物理的に接触させることができる。
典型的には、本発明のアッセイにおいて、分析対象物を含むゾーンあるいはプ
ラグが反応物を含むゾーンと一緒になる。電位が与えられると、ゾーンは互いに
図1(a)に示すように、所与の電気泳動媒体における二つの目的成分の電気泳
動移動度の差に依存する速度でお互いを目指して移動する。毛管沿いの或る点で
ゾーンは接触し一緒になり始める(図1(b))。同時に生成物の生成が開始し
、その固有の速度で検知器に向かっ
て移動する。図1では、生成物を点で示す。試薬ゾーンが物理的接触をするのに
要する時間(tcontact)は、二つの化学種の電気泳動移動度の差(Δμem)、ゾ
ーン間の距離(d:電気泳動速度の速い方のゾーンの先端と、電気泳動速度の遅
い方のゾーンの末端との距離)、および与えた電界強度(V/L )に基づいて計算
することができる。
二つのゾーンの相互浸透は電位が維持される限り継続し、生成物の生成及び分
離も継続する。式(4)を用いて、二つの試薬ゾーンが完全に相互浸透する(つ
まり、小さい方のゾーンが大きい方のゾーンに完全に吸収される)のに要する時
間を求めることもできる。この際、dは二つの先端間あるいは二つの末端間の距
離のうち短い方と定義する(図1(c))。小さい方のゾーンが大きい方のゾー
ンに含まれる完全相互浸透は、図1(d)に示すように、ゾーンの分離が始まる
(図1(e))まで、継続する。
小さい方のゾーンが大きい方のゾーンに吸収される完全相互浸透が終了する時
間は、式(4)を用いて計算することができる。この際、dは二つの先端間ある
いは二つの末端間の距離のうち長い方と定義する。ゾーンの完全合体が行なわれ
る時間(Δtmerge)は次式で推算できる。
ここで、Δw は二つのピークの幅の差である。
二つのゾーンが完全に互いに通過する(図1(g))とゾー
ンの結合が終わる(図1(f))。二つのゾーンが完全に分離する時間は、式(
4)を用いて計算することができる。この際、dは電気泳動速度の速い方のゾー
ンの末端から、電気泳動速度の遅い方のゾーンの先端までの距離と定義する。
電気泳動による混合には、従来のバルク溶液による混合にはない数々の利点が
ある。分子種は本質的にバルク溶液とは独立に電気泳動するので、電気泳動によ
る混合では電気泳動成分の二つ以上のゾーンを、容積を実質的に変化させること
なく従ってゾーンを希釈せずに、一緒にすることができる。毛管電気泳動系につ
いての現在の理論は、縦方向の拡散が試薬ゾーンの希釈の主要な要因であること
を示唆している。分析対象物のゾーンは、分析対象物の小さなゾーンを反応物の
大きなゾーンを通って移動させれば、分析対象物のゾーン自体の容積の数百倍も
の反応物ゾーンと交わることができる。比較的狭い分析対象物ゾーンが比較的広
い反応物ゾーンを通過するとき交わる反応物容積の分析対象物容積に対する比(
Rvol)は、二つの化学種の電気泳動移動度の差(Δμem)、分析対象物ゾーンの
幅(W)、二つのゾーンの交わりが生じる時間(t engage)、および与えた電界
(V/L )により決まる。
電気泳動による混合では、乱流とそれによるバンドの広がり無しに二つのゾー
ンを相互浸透させることができる。本発明の化学分析においては、ナノリットル
の溶離液の流れと基質が数秒内に混合し、生成物は層流の系内を最小限のバンド
の広がりで検知器に到達する。化学反応の継続時間に比較して、生成物
が検知器に速やかに運ばれるために、バンドの広がりが最小限となる。即ち、生
成物ができると直ちに検知器に運ばれる。輸送時間が短いのは、毛管のサイズが
小さいこと、および系に与えられる電位が大きいことによる。典型的には、毛管
は直径25-100μ、長さ5-100 cmである。系に与える電位の範囲は通常は1-300 ボ
ルト/cm であるが、2000-3000 ボルト/cm のように高くてもよい。アッセイの所
要時間を短縮する多くの方法がある。例えば、毛管の長さを短くし系に与える電
圧もそれに応じて低下させたり、あるいは、毛管の長さを増し系に与える電圧も
それに応じて増大させるなどである。すなわち、本発明の方法は、一旦迅速な電
気泳動による混合により化学反応が開始し生成物ができると、生成物は迅速に検
知器に運ばれるというように最適に活用される。本発明の分析法の効率は、理論
段数105 より大きいのが典型的であり、バンドの広がりを最小限にして試薬ゾー
ンの輸送と混合を可能にする。また有意な乱流が無いため、分析法についての理
論的及び実験的考慮が簡単になる。
本発明の方法の前反応段階(pre-reaction phase)はまた、同じ又は類似の検
知可能な生成物を生成あるいは消滅させる同じ又は異なる分析試薬と相互作用す
るサンプル中の異なった分析対象物を分離するのに使用することができる。電気
泳動媒体中における分析対象物中の電気泳動速度の差は、反応物を含むゾーンと
交わる前に分析対象物の分離を行なうのに利用することができる。これにより、
選択した電気泳動媒体において分析対象物それ自体が類似していない電気泳動移
動度を有する場合には、区別ができない生成物に転化した複数の分析対象物の分
析が可能になる。
2.本発明で用いられる化学反応
分析対象物を分析するために本発明において電気泳動により行なわれる化学反
応は、検知可能な生成物を生成あるいは消滅させる分析対象物と試薬との反応を
含む。生成物は、その独特な電気泳動移動度あるいは電気泳動特性により検知さ
れる。本発明により行なわれる反応には三つのカテゴリーがあるが、すべてが、
サンプル分析対象物と反応物との反応による生成物の生成、および、分析対象物
、反応物あるいは生成物に組み込まれた共有結合の消滅あるいは生成を含む。
(1)非触媒反応
或る反応では、触媒の助けなしに熱力学的に自発反応が進む。例えば、分析さ
れている分析対象物が試薬と化学量論的に反応し、分析対象物自体より遥かに検
知しやすい性質を持つ生成物を生成しあるいは消滅させる。生成物は、独自の電
気泳動性により検知できる。
(2)触媒反応
化学反応の活性化に必要なエネルギーは、触媒たとえば酵素によって減少する
。或る反応は、触媒が存在する場合にのみ起こる。本発明の方法は、酵素、基質
あるいは反応に必須の任意の化学種、たとえば補酵素を分析するのに用いること
ができる。
(3)共役反応(coupled reaction)
或る化学反応では、分析対象物と反応物との反応で検知可能な生成物が生成あ
るいは消滅しない。しかしながら、生成物を検知可能な他の生成物に転化させる
ことができる。例えば、グリセルアルデヒドキナーゼは、グリセルアルデヒドと
ATPとを、グリセルアルデヒド-3- フォスフェート(glyceraldehyde-3-
phosphate: G-3-P)とADPとに転化する。G-3-P は、NAD の存在下でグリセルア
ルデヒド-3- フォスフェートデヒドロゲナーゼにより3-ホスホグリセリン酸とNA
DHとに転化する。NADHは340nm の独特の吸光度を持つので、サンプル中の他の物
質の存在下で定量することができる。NADHの存在は、サンプル中の分析対象物(
例えば、グリセルアルデヒド、グリセルアルデヒドキナーゼあるいはATP )の存
在と相関づけられる。この反応の共役したセット(coupled set of reactions)
により、独特の発色団を持たない物質をその反応をNADHの還元と共役させること
により分光光度法により測定できるようになる。共役反応は触媒反応でも非触媒
反応でもよい。多重共役反応は、異なる分析対象物ゾーンおよび反応物ゾーンが
、異なる電気泳動速度を有する場合には実質的に同時に行なうことができる。
毛管電気泳動の分離能力によって、分析反応を独特の検知特性を持つ化学種を
生成する反応と共役させる必要がなくなる。分析反応によって特異な電気泳動性
を持つ生成物を生成あるいは消滅させる場合には、毛管電気泳動の分離能力によ
って、独特の検知特性を持つ化学種を生成あるいは消費しなくてもこの物質を検
知できる。例えば、グルコースはヘキソキナーゼによって、ADP のATP への転化
と同時に、グルコース-6- フォスフェートに転化する。これらの化学種はどれも
独特なUV検知特性を持たないので、グルコースの臨床的酵素測定では、グルコ
ース-6- フォスフェートデヒドロゲナーゼにより、NAD のNADHへの転化と同時に
、グルコース-6- フォスフェートを酵素的に6-ホスホグルコン酸に転化させる必
要がある。共役反応において生成するNADHによる340nm で観察される吸光度の増
加を、サ
ンプル中に存在するグルコースの量と相関づけることができる。あるいは、グル
コースは、グルコースの転化を第二の反応と共役させないで、ヘキソキナーゼと
の反応により分析することができる。ADP 及びATP は各々、270nm で類似したモ
ル吸光度を示す。しかしながら、ADP とATP の電荷密度は異なっており、従って
電気泳動移動度も異なる。その結果、グルコース、ヘキソキナーゼ及びATP の化
学反応においては、消費されるATP あるいは生成されるADP は、検知窓を通過す
るADP及び/又はATPの電気泳動をモニターすることにより分析できる。生じるAD
Pのピーク及びATP の欠損ピークは、それぞれサンプル中に存在するグルコース
の定量的な尺度になる。
表Iは、本明細書において説明する毛管電気泳動による化学分析方法によって
行なわれる化学反応の代表的な例を示したものである。下記に示す各反応におい
ては、化学系の種々の成分が測定できる。例えば、酵素系では、基質の消滅、生
成物の蓄積、あるいは反応副成物(たとえば、NAD あるいはNADHのような補酵素
)の生成又は消滅が検知できる。さらに、モニターする化学種と目的の分析対象
物との化学量論的関係によって、反応系の種々の成分の定量が可能になる。酵素
系においては、化学種をモニターすることにより、基質、酵素又は補因子を定量
することができる。
本発明により行なうことができる化学反応のこのリストは包括的なものを意図
したものではなく、分析中に実施できる化学反応のいくつかを単に示すだけのも
のである。
表1
I)非触媒反応
1)5I+IO3+6H2 →3I2+3H2O
2)o−トルイジン+グルコース→グリコサミン
3)α−アミノ酸+NH2Cl →Cl−HN2−C(−R)−COO+NH3
4)2Mn2++5BiO3 -+14H+ →2MnO4 -+5Bi3++H2O
5)R−CHOH−CHOH−R1+HIO4
→RCHO+R1CHO+HIO3
6)R−CO−CO−R1+HIO4 →RCOOH+R1COOH+HIO3
7)R2C=CR2+Br2 →R2BrC−CBrR2
II)触媒反応
III)共役反応
3.速度論的検討
本発明において行なわれる化学反応は、選択した系の反応速度(kinetics)に
支配される。次の単純な不可逆反応を例として考える。
ここで、A は分析対象物、Rは分析試薬、Pは検知可能な生成物である。本発明に
おける分析法によるアッセイでは、分析試薬は分析対象物より過剰であり([A]<
<[R])、分析対象物のプラグが試薬ゾーンを通過するときには擬似一次反応速度
(Pseudo-first order kinetics)となるのが典型的である。分析対象物ゾーン
が分析試薬ゾーンと交わると、A が消滅し、相互浸透するゾーン内の或る点での
消滅しつつあるA の瞬間的な濃度に正比例する速度でP が生成する。このような
条件下で行なわれるアッセイにおける全体としての擬似一次反応速度式は
[A]=[A]ie-kt (7)
である。ここで、[A]i 及び[A]は各々、A の初期及び最終の濃度であり、k は擬
似一次反応速度定数である。
分析反応が行なわれるのに要する時間および混合過程に要する時間が分かると
、本発明によるアッセイを設計できる。最小の分析時間でしかもアッセイが行な
われるのに十分な時間があるように、分離長さおよび与えるべき電界についてア
ッセイを設計できる。式(7)を用いて、所望の量的な反応の程度(ε)に達す
るのに要する反応時間(trxn)は次のように推算される。
本発明によってなされるアッセイとして期待される反応速度の第二の例は、酵
素反応が関与するものである。ミカエリス−メンテンモデルは、多くの酵素につ
いて速度論的性質を次のように説明する。
酵素 (E)は基質 (S)と結合し、酵素−基質複合体 (ES) を速度定数 k1 で形成す
る。ES複合体は、E とS に速度定数 k2 で解離するか、速度定数 k3 で生成物P
をつくることができる。ミカエリス−メンテンの式
は、単一の基質の酵素との反応速度 (v)は、酵素が基質で飽和したときの最大反
応速度(Vmax)、基質の濃度([S])、およびミカエリス−メンテン定数(km)
に依存することを示している。Vmax は、K3(代謝回転数(turnover number))
と全酵素濃度([ET])との積である。ほとんどの酵素についてその生理基質との
代謝回転数は、1秒あたり1乃至106 であるのが典型的である。Km = (k2 + K3
)/K1と定義すると、酵素についてのkm の値は広い範囲の間にあるが、10-1と
10-7Mとの間にあるのが一般的である。酵素についてのkmの値は、温度、pH
、およびイオン強度のような環境条件と共に個々の基質に依存する。
ミカエリス−メンテン式によると、酵素が基質で飽和している高い基質濃度(
[S] >> Km)ではv はVmax に近付き、基質が消滅するまで、あるいは生成物が蓄
積して反応が抑制されるまでは比較的一定であることが分かる。低い基質濃度(
[S] << Km)では、反応速度は基質濃度に正比例する。基質のゾーンが酵素を含
むゾーンと一緒になるときの化学反応の初期速度は、オーバーラップした領域内
の基質と酵素との相対的な濃度による。基質濃度が十分高く酵素が基質で飽和さ
れた状態が優勢であれば、基質が十分に消滅し最早酵素が基質で飽和された条件
が存在しなくなるまでは、比較的反応速度(Vmax)は一定である。基質が消滅す
ると、反応速度、従って検知可能な生成物の生成あるいは消滅も減少する。基質
の消滅が起こる速度は、酵素及び基質の相対濃度、及び酵素の代謝回転数に依存
する。この速度はまた、その基質に対する酵素のミカエリス−メンテン定数にも
よる。
4.生成物の検知
本発明の分析法による検知プロセスは、通常、毛管電気泳動系の電気浸透フロ
ーによって検知可能な生成物が検知器に輸送されることによって行なわれる。検
知可能な生成物が電気浸透フローと同じ方向に進む電気泳動移動度を有するか、
検知可能な生成物の電気泳動移動度が逆方向であるがその大きさが小さい限りは
、分析対象物が検知器の窓を通過する前に生成する全ての検知可能な生成物が観
察できる。
検知可能な生成物は、分析対象物から一定の速度(分析対象物と検知可能な生
成物の電気泳動移動度の差に等しい)で電気泳動により離れるので、エレクトロ
フェログラムに生ずるピー
クが反応速度のプロフィルを示す。観測される検知可能の生成物が検知器へ移動
するのに要する時間(tmix)は、式(10)、(11)、および(12)に示す
ようにして計算することができる。Tmig は、生成物ができる前に分析対象物が
注入点(d)から毛管内を移動する時間(μem.a)、および、生成物が検知器の
窓までの残りの距離(1−d)を移動するのに要する時間(μem.p)による。
このアッセイにおいて所与の観察される生成物が生成される時間を、次の式によ
り推算することができる。
反応速度に基づいて、予期されるピークの形状を予知することができる。前述の
簡単な擬似一次反応の例では、混合プロセスが非常に迅速に生じるとすると、即
ち tmix << trxn であると仮定すれば、生成物の生成時間は、分析対象物ゾーン
が試薬ゾ
trxn)。この仮定により、反応速度、従って所与の移動時間に生成する検知可能
な生成物の量を求める式を誘導することができる。
v=K[A]iex (14)
ここで
検知可能な生成物の電気泳動移動度が分析対象物の電気泳動移動度より速い場合
、次の条件が存在する。
分析対象物の或る領域によって生成する最初の検知可能な生成物が、最初に検知
器に到達し、ピークの形状に対する反応速度の効果が、図2の左側のピークに示
すように、ピークの末端で観察される。検知可能の生成物の電気泳動移動度が分
析対象物より小さければ、次の状態になっている。
さらに、分析対象物の或る領域によって最初に生成される生成物は最後に検知器
に到達し、ピークの形状に対する反応速度の効果が、図2の右側のピークに示す
ように、ピークの先端で観
察される。
実験におけるピークの形状はさらに、分析対象物の容積あるいはプラグの幅、
分析対象物と検知可能な化学種による拡散、および、試薬ゾーンが相互浸透する
のに要する時間に起因する分析対象物ゾーンの不均一な消滅のような要因に影響
される。速い反応速度の反応では、反応速度により予知されるピークの形状はこ
れらの要因のために、曖昧になることがある。しかしながら、比較的遅い反応で
は、反応速度は図2の実験ピーク形状に観察される。逆に、実験によるピーク形
状を用いて、反応速度がピークのプロフィルに支配的な影響を及ぼすピークにつ
いて、反応速度パラメータを推算することができる。
分析対象物が検知器を通過する前に反応物容積を完全に反応しなければ、分析
対象物容積の反応が不完全であることが観察されることがある。このポイントを
超えてから検知可能な生成物が生成しても検知されないからである。同様に、二
つのゾーンが分離する前に反応物ゾーンの容積が分析対象物を完全に反応させる
には不十分であれば不完全な反応が観察されることがある。不完全な反応は、検
知可能な生成物について得られるピークの先端が切れることにより分かる。
5.連続電界あるいは電界の中断
電気泳動による混合中の分析対象物と反応物との接触は、一時的でも連続的で
もよい。一時的な接触は、異なる速度で移動する二つの狭いゾーンが電気泳動導
管内で会う時に生じる。最初は二つのゾーンが互の中に移動しこれにより混合す
る。続いて、二つの化学種が電気泳動移動度の違いによって離れるにしたがって
ゾーンが分離する。生成物は、二つのゾーンが一緒に
なって接触している間だけにしか生成しない。ゾーンが離れると化学反応は停止
する。
連続的な接触は、いくつかの方法により行なうことができる。ゾーンが一緒に
なり混合している間に、ゼロ電位(「フロー停止モード」)にしておくか又は電
位を一定にしておくことにより化学反応が行なわれる。ゼロ電位では、電界が電
位を切ることにより中断されると、界面動電も電気泳動輸送も生じないので、反
応物は生成物が蓄積する単一のゾーン内に混合されたまま留まる。これは、従来
の酵素アッセイにおける固定時間反応に対応する。検知するのに十分な生成物を
生成するのに比較的長い定温放置(インキュベーション)時間を要する酵素、た
とえば希釈した調製酵素あるいは代謝回転数が低い酵素は、ゼロ電位モードによ
りアッセイすることができる。連続接触のこの方法は感度が高いが、電界を中断
するためにはゾーンが一緒になる瞬間を確かめる必要がある。この確認は、ゾー
ンの相対位置を示す或るパラメータをモニターするか、あるいは、或る毛管の長
さ及び直径、電位、及び分析対象物と反応物の移動度が与えられた場合に、ゾー
ンの位置を予測できるようにシステムを標準化するかによって可能になる。サン
プルゾーンと反応物ゾーンの相対位置が観察できない場合には、十分長い時間を
かけて電気泳動させてゾーンを移動させ互いに通過するようにして、全体の時間
中での検知により反応をフォローする。
電位を一定にする場合には、分析対象物及び反応物は連続的に混合され生成物
から分離する。従来のアッセイにおいては、化学反応の成分の電気泳動による混
合と分離は行なわれない。分析対象物と反応物とが急速に混合するために、生成
物の他の
成分からの分離が妨げられるので、同時に生成物の蓄積と分離を行なうことは従
来のアッセイでは困難である。即ち、サンプル成分、反応物、および生成物の混
合と分離とは、化学反応中にも化学反応後にも生じる。本発明の方法は、混合と
分離との両者が化学反応の成分の電気泳動移動度に依存するので、即ち、迅速な
分析対象物と反応物との電気泳動による混合によって化学反応が開始し、次に生
成物が他の成分から電気泳動により分離するので、生成物の反応物からの分離が
妨害されることがない。本発明による一定電位で行なわれるアッセイは、普通は
短時間の固定時間アッセイに対応する。何故ならば、反応は、例えば酵素触媒に
よる反応は、分離速度より速いオーダーの速度で行なわれるからである。例えば
、モルベースでの生成物の生成は、酵素の代謝回転数およびゾーンに与える電位
によって、酵素の量の 102−104 倍になる。
連続接触によるもう一つの方法では、分析対象物を含むサンプルの容積と比較
して大きな容積の反応物を用いる。毛管などの小さな電気泳動導管内では、分析
対象物が相対的により大きな反応物ゾーンを通過するのに相当な時間を要する。
分析対象物と反応物との反応は、分析対象物が大きな反応物ゾーンを通過する間
中ずっと、継続する。この混合の連続接触法において、生成物は反応物ゾーン全
体で生成され、サンプルゾーンから連続的に電気泳動により離れる。従って生成
物は、電界の中断中に生成する蓄積生成物より、希薄である。
小さなサンプルでは希釈が大になり、反応物の容積が大きくなると減少する。
従来の化学反応では、サンプルと反応物との混合中に生ずるサンプルの希釈によ
って検知感度が低下するの
が一般的である。本発明による化学分析においては、サンプルの希釈もサンプル
と反応物との相対的な容積の関数であるが、それも本明細書に記載するように或
る程度のサンプル濃度までについてのことである。そのサンプル濃度を超えると
、混合による希釈は無い。
電気泳動による混合においては、希釈作用をほとんど起こさず感度を最大にす
るのに最適なサンプル容積がある。このサンプル容積は、理論段数、毛管半径、
分析対象物の拡散係数、使用緩衝液の粘度、電位、及びバンドの広がりを支配す
るその他の変数に関係する。この最適容積は次のようにして計算することができ
る。
電気泳動でのバンドの広がりの理論によれば、ある理論段数 Nの毛管カラムに
ついて、サンプルはサンプルが検知器を通過する際の検知容積(Vd)に含まれる
。この容積、Vd は、サンプル容積(Vs)とは無関係であると言われる。即ち、
サンプル容積は容積Vd まで希釈される。この点に関して、電気泳動による混合
は他のタイプの混合と類似している。即ち全ての混合法において、サンプルの希
釈作用がいくらか生じる。しかしながら、サンプル容積 Vs が増加しほぼ Vd に
近付くと、 Vd はほとんど増加しない。最終的には、 Vs が分析系に見られる容
積 Vd よりはるかに大きいときには、ピークの先端及び末端を除き、希釈作用は
全く生じない。
サンプルゾーンおよび反応物ゾーンの相対的な大きさはまた、電気泳動による
混合が起こる速度および容易さに影響する。二つの小さなゾーンの混合は高電圧
では、非常に速やかに起こる。最初にゾーンの端が混合し、次いで二つのゾーン
の形状と容積
が全く同じであれば完全に重なる。一般的には混合は瞬間的ではない。従って、
分析対象物と反応物との反応速度、および、反応速度が系の反応物の濃度に依存
する程度との両方次第では、混合が終了する前に化学反応が開始することがある
。混合の過程で生成物の生成が一定ではない可能性もある。生成物が電気泳動ピ
ークとして蓄積され検知器に輸送されるとき、このピークにすべての電気泳動系
を特徴づけるものと同じバンドの広がり(希釈)現象が現われる。サンプル容積
が小さければ、バンドの広がり効果は最大になる。サンプル容積が増加すれば、
バンドの広がりは減少する。
本発明の分析法を実施するのに最適な容積は、少容積と大容積とを組み合わせ
ることである。例えば、少容積のサンプルと大容積の試薬とを次のようにして混
合する。(試薬が少容積で、サンプルが大容積の場合の手順も基本的に同じであ
る。)まず、毛管に大容積のもの、例えば試薬、を満たし、次に毛管の入口から
少容積のサンプルを導入する。毛管に電界を与えると数秒間の高電位(たとえば
100-300 ボルト/cm)の後、分析対象物と反応物は混合する。ここで、反応時間
を調節し反応を完結させるために電位を変えることが可能になる。例えば、ゼロ
電位では生成物は限られた領域に蓄積するので、検知感度が増すことになる。あ
るいは、電位を中断せずに連続的に反応させれば、分析対象物と反応物からの生
成物の分離を促進する。連続電位下では、生成物の蓄積はゼロ電位での反応によ
り生成される生成物よりも少なく、結果として検知感度が低くなる。
二つの少容積の混合、あるいは少容積と大容積との混合とは対照的に、二つの
大容積の混合は電気泳動に長い時間を要する。
さらに、二つの大容積が一緒になったゾーン内での化学反応の程度はより多様性
がある。二つの大きなゾーンの先端は末端より先に接触し、従って先端にある分
析対象物と反応物とは末端にある分析対象物と反応物とよりも早く反応する。こ
の多様性は系に与える電位を上げると減少する。即ち、少容積と大容積とを用い
て迅速に混合し反応を開始することが望ましいが、二つの大容積の混合及び開始
も高電位で行なえば可能である。
6.酵素活度又は酵素濃度のアッセイ
前述のミカエリス−メンテン速度論により得られる電気泳動図の形状は、基質
と酵素との相対的な濃度に依存する。本発明によるいずれの酵素のアッセイにお
いても、反応物ゾーン(この例では基質)は、基質及び補酵素のような反応に必
要な全ての化学種を酵素飽和濃度で含有している。分析対象物(酵素)ゾーンが
反応物(基質)ゾーンと相互浸透するのに伴い、酵素/基質反応が行なわれ、そ
れにより検知可能な生成物が生成あるいは消滅する。基質領域を酵素が電気泳動
する間中ずっと酵素飽和状態を維持できるように基質が充分な濃度であれば、反
応速度は比較的一定であり従って検知可能な化学種の生成又は消滅が比較的一定
に観察される。ゾーンが最初に相互浸透を開始するときは、ゾーンの重なりが最
小限なため又はゾーンの端部では低濃度であるため検知可能な生成物の量は少な
い(図1(b)参照)。一旦酵素ゾーンが基質ゾーンと完全に一緒になれば比較
的一定した反応速度が観察される筈である。酵素飽和の基質ゾーン内では、酵素
の殆どは酵素−基質(enzyme-sub-strate: ES)複合体中に隔離され、酵素はES
複合体の電気泳動移動度により基質領域内を横断する。ES複合体の電気泳動移動
度は、個々のE あるいは Sの電気泳動移動度とは異なっていてもよい。
最大の感度(すなわち最大の生成物蓄積)は、代謝回転数が大きく、ES複合体
と検知可能な生成物との電気泳動移動度がほとんど変わらない系内での酵素によ
って達成される。得られる電気泳動図は、酵素が基質領域内を横断する時の比較
的一定した反応速度を表す水平部分を示す。個々の酵素が基質と反応する最大速
度は、与えられた実験条件における酵素の代謝回転数により決まる。様々な酵素
の注入サンプルに対する水平部分の高さに差があるのは、観察された反応速度に
差があることに対応しているが、これは最大速度で反応している酵素の量と関連
づけられるべきである。即ち、水平部分の高さは、注入された分析対象物に含ま
れる酵素の量と直接的に関連づけられる。酵素ゾーンが検知器の位置を通過する
まで又は二つのゾーンが離れるまで得られるエレクトロフェログラムに水平部分
が観測される。
ES複合体の電気泳動速度が検知可能な生成物の電気泳動速度より速い系におけ
る理論的なエレクトロフェログラムプロフィルを図(A)に示す。ES複合体が、
検知される生成物(P)より速い速度で検知器に向かって移動するので、検知器
の窓で最初に観測される生成物(エレクトロフェログラムでの点「A」)は酵素が
検知器を通過する際にできた生成物である。これと対照的に、エレクトロフェロ
グラムのもう一方の端(点「B」)で検知される生成物は、酵素が最初に基質ゾー
ンと一緒になった際できた生成物である。B におけるピーク(スパイク)は、或
る容積の酵素が、基質を含む領域の直近部に注入された場合観察されるものであ
る。このスパイクは、酵素が毛管に導入さ
れてから電位を与えるまでの間に生じた拡散により二つのゾーンの界面において
生成された、検知可能な生成物の結果である。位置点 「C」 でのエレクトロフェ
ログラムのトレースの高さは、酵素が毛管を横断する際生成する生成物の量に対
応し、一定電流での酵素の濃度に比例する。
検知可能な生成物の電気泳動速度がES複合体の電気泳動速度よりも速いES/P系
のエレクトロフェログラムを図3(B)に示す。検知器に到達する最初の検知可
能な生成物(点「A」)は、ゾーンが最初に一緒になったときに生成したものであ
る。検知器に到達する最初の検知可能な生成物(点「B」)は、酵素が検知器の窓
を通過する際生成した生成物である。いずれの状況においても、注入された酵素
容積の幅が比較的狭ければ、観察されるピークの幅は、ES複合体と検知可能な生
成物との電気泳動移動度の差を表す。従って、エレクトロフェログラムをトレー
スすることによりESとP との相対的な輸送速度及び分析対象物の輸送時間を容易
に確かめることができる。
観察されるピークの幅(Δt)は、ES複合体と検知可能な化学種の電気泳動移
動度の差(Δμem)、ゾーンがその中で一緒になる毛管の長さ(l)、与える電
界強度(V/L)と次のように関係づけられる。
図3(c)は、二つのアイソザイムによって生成した異なるES複合体が異なる
電気泳動速度を示すアイソザイムの多重分析対象物測定によって得られる理論的
なプロフィルを示す。各反
応により同じ検知可能な化学種が生成しても、選択された電気泳動媒体における
電気泳動速度の違いによって特定することができる。
ゼロ電位モードにおいて行なう酵素アッセイでは、酵素容積に電位を与えて電
気泳動によって基質と混合し、次に検知可能な生成物が蓄積する間は電位を与え
るのを或る一定時間停止する。基質の酵素飽和濃度が定温放置期間を通じて維持
されれば、この間に生成あるいは消滅する生成物量は、最大速度で反応する酵素
の量と直接的な関係がある。得られるエレクトロフェログラムには、電気泳動に
よる混合および生成物の検知器の窓への輸送を誘起させるのに必要な間中電位を
与え続けたことを示す、生成物を表わす水平部分に、蓄積された生成物を表わす
ピークが重なって表われる。感度がより高くなるため、希釈された酵素溶液ある
いは代謝回転数が小さい酵素の分析には、特にゼロ電位モードが好ましい。
本発明における分析法の感度は、所与の実験条件(Δμem、毛管の長さ、分離
長さ)に対して、与える電界と逆の関係になる。この効果は、目的のサンプルの
酵素濃度が非常に低いものを取扱う場合に特に有益である。感度の増大は、酵素
の代謝回転数、および、電位を与えないで反応が行なわれる時間に比例する。図
4は、ゼロ電位モードにおいて用いる電位プログラム(上部)および予期される
エレクトロフェログラムプロフィル(下部)を示す。
7.基質濃度のアッセイ
本発明による基質濃度の分析では酵素反応を含み、分析対象物(基質)ゾーン
はミカエリス−メンテン式により試薬(酵素)
ゾーンと出会う。基質濃度が高いと、反応速度したがって検知可能な生成物の生
成あるいは消滅は比較的一定で、基質濃度とは無関係である。従って、純粋な酵
素飽和条件は、基質の測定における分析的価値はあまりない。しかしながら、基
質が消滅するに従い酵素飽和条件が消滅すると、最終的には反応速度は基質濃度
と正比例関係になる。基質プラグが酵素ゾーンを通過し続けると、図5に示すよ
うに、反応速度が減少し従って検知可能な生成物の生成あるいは消滅が減少する
。
図5は、基質領域について、ミカエリス−メンテン式により予知される反応速
度を時間の関数として示すものである。検知可能な化学種は、反応している基質
から電気泳動により一定速度で離れる。この一定速度は、基質と検知可能な生成
物の電気泳動速度の差に基づくものである。検知可能な生成物についてのエレク
トロフェログラムに得られるピークは、アッセイ中の任意の時間における反応速
度の目安となる。このピークは一般的に図5に示したものと類似する。検知可能
な生成物が、基質/分析対象物より速い電気泳動速度を有する場合には、生成す
る最初の検知可能な生成物がまず検知され、エレクトロフェログラムの水平部分
は下降線になる。検知可能な生成物の電気泳動速度が基質/分析対象物より小さ
い場合には、最初に生成する検知可能な生成物は最後に検知されることになり、
エレクトロフェログラムの水平部分は上昇線になる。ピークの相対的な高さと幅
は、所与の実験条件での、基質と生成物との相対電気泳動移動度、試薬の相対的
な濃度、 Km の速度パラメータ、および代謝回転数に依存する。実験的に得られ
るエレクトロフェログラムはまた、基質ボリュームの幅、基質ゾーンおよび検知
可能化学種ゾーンの希釈、および試薬ゾーンの相互浸透中に生じる基質ボリュー
ムの不均一な消失によっても影響を受ける。
本発明による基質アッセイでは、電気泳動による混合が比較的迅速に生じるも
のであり、且つ酵素ゾーンの幅が十分で基質が注入されて検知位置に移動する間
中ずっと二つのゾーンの合体が維持される場合には、観察される基質の反応に当
てられる時間は、式(2)で求まる注入点から検知窓まで基質が移動するのに要
する時間と等しい。ミカエリス−メンテン式を積分すると酵素的に反応する所与
の量の基体が反応に要する時間(trxn)が求められる。
ここで、[S]i および[S]f は各々基質の初期濃度および最終濃度である。
臨床的基質アッセイにおいては、分光高度計による読取りの前に反応が基本的
に完結するように基質濃度の測定に終点アッセイ法(end-point assay method)
がしばしば用いられる。本発明の方法では、実質的に全ての基質が検知窓を通過
する前に反応する。その結果、得られる下降線部分あるいは上昇線部分はベース
ラインに達することになり、曲線下の面積は注入した基質量と正比例する。
残された基質が検知窓を通過する前に反応が完結しなかつた場合には、残りの
未反応基質が検知窓を通過するのでピークはベースラインに戻らず頭が切れる(
トランケートされる)。ピークをベースラインに外挿しようとすると、ピーク末
尾は非線形なので系に誤差が生じる。この先端欠損(トランケーション)
効果は、この技術の線形範囲の上限をなすものである。しかしながら、毛管を通
じて移動している間中酵素飽和している基質濃度にまで本法の動的範囲は広がっ
ている。検知器を通過する生成物量の測定は、検知器の窓を通過する前に十分な
量の基質が消滅している限りは、注入された基質量の動的な目安となる。このよ
うな条件下では、測定結果は線形ではなくとも、非酵素飽和の条件に近づけるこ
とが望ましい。ミカエリス−メンテン速度式によるとこの反応は真に完結するこ
とはないが、許容できる程度に化学反応が達するのに要する時間εは、反応した
基質の初期のフラクションとして定義され次式から推算できる。
tr=(1/Vmax(n[S]i −Km log n) (19)
式(2)と(19)とを組み合わせることにより、反応することができる基質
の最大濃度を計算することができる。
したがって、所与の組合せの実験条件での線形範囲の上限は式(21)により
計算される。
基質濃度が高いほど、εで定義したトランケーションよりも大きなトランケーシ
ョンとなる。式(21)から、或る組合せの実験条件での所与の基質の初期濃度
において経験されるトランケーションの程度(1‐IT)を推算することができる
。式(21)から計算されるように、線形範囲の上限は、毛管の分離長さを増すか
又は与える電位を減少させることによって、延ばすことができる。これらの方法
はいずれも、毛管中での基質の反応時
間を増すことによって、反応し得る基質の量を増加する。線形範囲が広がれば、
分離長さに比例し適用電界の減少に反比例する分析時間が長くなる。分析時間を
増加させることなく線形範囲を延長する別の方法は、緩衝溶液中の酵素(及び、
必要に応じて補酵素)の濃度を増すことである。これによって個々の酵素の代謝
回転数が変化することはないが、与えられた代謝回転数において反応することが
できる酵素分子の数を増やすことにより、Vmax の値が比例して増える。
典型的には、一個の基質分子は一個の生成物の分子に転化する。従って、サン
プル内の基質のアッセイとして、生成物の存在の検知あるいは量の検知は、基質
を数倍量の生成物に転化する酵素のアッセイのように、増幅することはできない
。臨床的測定において日常的に用いられ、本発明によって分析できる基質は、た
とえば、アデノシン 5'-トリホスフェート(ATP) 、アンモニア、胆汁酸、二酸化
炭素、コレステロール、エタノール、グルコース、乳酸塩、シュウ酸塩、ピルビ
ン酸塩、トリグリセライド、尿素、窒素及び尿酸である。
8.実験用パラメータ
本発明による方法において、変えることができる実験パラメータとしては、電
気浸透フロー、電気泳動移動度、電気泳動媒体の性質、pH、温度、イオン強度
、粘度、サンプル容積、電位、毛管の長さ、検知法、及び反応種の濃度が挙げら
れる。これらのパラメータは本発明によって行なわれる任意の化学分析法につい
て最適化できる。これらのパラメータのうち一つ以上を変えることにより、当業
者は本発明の化学分析の多数を利用することができ、本発明に従って開発された
任意の方法に多様
性が与えられる。
(a)電気浸透フロー
電気浸透フローを制御すると再現性がある化学分析ができる。電気浸透フロー
は系内に存在する各化学種の電気泳動速度に固有の要因であり、試薬の接触持続
時間、及び検知可能な生成物の検知窓までの輸送に影響を及ぼす。電気浸透フロ
ーの大きさと方向により、式(2)で表されるように、分析対象物と反応物とが
接触できる時間および化学反応をすることができる時間が決定される。本発明に
おける定量分析には、検知窓を通過する化学種の速度がピーク面積と反比例する
ので首尾一貫した再現性がある電気浸透フローが必須である。電気浸透フローは
、毛管のコーティングの性質を変えることにより、増加させ、減少させ、あるい
は逆転させることができる。毛管コーティングの粘度を変化させると、系内の分
子に対する溶液の引張り(solution drag)が増加あるいは減少することにより
、電気浸透フローに直接的な影響を及ぼす。さらに、電気泳動媒体のpHおよび
イオン強度は、毛管/溶液界面でのゼータ電位を変化させ、それによって溶液の
流れを変化させる。
また電気浸透フローにより、機械的なフラッシングの必要なしに毛管のフラッ
シングが可能になる。電気泳動系は典型的には、毛管の直径と与える電位によっ
て、一分間に数ナノリットルから数百ナノリットルのバルク溶液を電気浸透フロ
ーによって汲み出す。このようにして、毛管が洗浄され、次の分析のための電気
泳動条件が再生される。系の電気浸透フローによるフラッシングはまた、運転と
運転の間の毛管の温度を下げ、高電界におけるジュール熱効果を阻止する。
(b)電気泳動速度
分析における化学成分の電気泳動速度は、電界における電気泳動移動度、及び
電気浸透フローによって決まる。成分の電気泳動移動度は、電気泳動媒体の性質
、例えばpH、イオン強度、粘度等により影響される。電気泳動媒体、たとえば
遊離溶液、ふるいゲル(sieving gel)、分配用添加剤あるいは複合体形成添加
剤、あるいは、等電点電気泳動媒体などは、系の或る成分の電気泳動移動度を選
択的に阻害する物理的性質が得られるように選択することができる。例えば、粘
度がより高い媒体は、化学種の分子の引張りを強め、従って電気泳動移動度を減
少させる。さらに、系内に含まれる帯電した分子のイオン化の程度は、媒体を種
々のpHで緩衝させたりイオン強度を変化させたりすることで選択的に変更する
ことができる。式(4)は、電気泳動媒体、pH、イオン強度及び粘度を選択す
ることによって、電気泳動移動度が変わることを示している。
(c)粘度
電気泳動媒体の粘度は、所与の化学種の拡散係数に影響を及ぼす。媒体の粘度
を変えることは、ゼロ電位にてアッセイを実施する際、特に有益である。媒体の
粘度が増すほど、成分の拡散が小さくなる。ゼロ電位条件下では、系内の化学成
分の拡散が増すことは、検知可能な生成物の蓄積が減少するという点で望ましく
ない。媒体の粘度は、下記を含む、当業者に知られている任意のパラメータによ
って、変更することができる。非分配性添加剤を、たとえばエチレングリコール
や線形ポリマーのような媒体に添加してよい。ゲルは溶液の純粘度を大幅に増大
し、生成物の拡散をほとんどあるいは全く起こさず、生成物の
蓄積を長時間にわたって延長するので、媒体はゲルでもよい。
(d)サンプル及び反応物の容積
サンプル及び反応物の容積および毛管内に導入する順序は、その他の実験的パ
ラメータ、たとえば、分析対象物及び反応物の相対電気泳動速度、ゾーン内にあ
る分析対象物又は反応物の濃度、化学反応自体の速度等に照らし合わせて選択す
る。二つの成分の電気泳動速度が同じ方向のものであれば、一般に、より速い電
気泳動速度を有する成分を含むゾーンは、遅い成分のゾーンより後に毛管に導入
し、速度の速い成分が遅い成分に追いつくようにするのが望ましい。二つの化学
種が逆方向に進む電気泳動速度を有する場合、分析対象物ゾーン及び反応物ゾー
ンは、互いに逆方向から接近するように毛管の別個の端から導入すればよい。サ
ンプルプラグ及び反応物プラグの相対的な幅は、分析対象物及び反応物の相対濃
度及び所望の検知感度を基準に選択する。たとえば、高濃度分析対象物の小さな
ゾーンを注入する場合は、毛管の長さを長くすること等により、非常に多い容積
の反応物を用いるのが望ましい。即ち、分析対象物はそれ自体の数倍量の反応物
と出会い、反応物と定量的に反応する(式(6)参照)。分析対象物/反応物の
典型的な容積比は、1/10、1/100 、あるいは1/1000等であり、より多い容積の反
応物を用いると、結果的に反応した分析対象物の比率が増加する。反応物容積を
より多くすることが望ましい別の例は、相互浸透する試薬のゾーン横断速度と比
較して、反応速度が極めて遅い場合である。逆に、反応物の濃度が分析対象物の
濃度と比較して高い場合、本発明による化学分析法を実施するために、それぞれ
の小さなプラグを注入すればよい。少容積の分析対象物あ
るいは反応物はまた、化学反応時間がゾーンの相互浸透時間と比較して速い場合
に使用する。
(e)与える電位
電気泳動による移動を起こすのに必要な電位は、典型的には1センチメートル
あたり数百ボルトから数千ボルトまでの電界強度の高電圧電源によって、毛管に
与える。引用により本明細書中に援用する米国特許第 4,865,706号及び第 4,865
,707号を参照されたい。電位の適用は手動、波形発生機(waveform generator)
、あるいはコンピューター制御等によって制御する。
毛管電気泳動における化学種の移動速度は、電気泳動及び電気浸透の効果のた
め適用電界に正比例する。電界強度は、式(2)、(4)、(5)、(6)から明ら
かなように、化学種の相対移動速度には影響しないが、アッセイ時間、ゾーン結
合が生じる時間、相互浸透に要する総時間、従って反応は適用電位によって支配
される。一旦、分析対象物ゾーンと反応物ゾーンが一緒になれば、与える電位に
よって接触の性質が決まり、ゼロより大きい電位では動的、ゼロ電位では静的と
なる。本明細書においては、低電位とはおよそ1 volts/cmから100 volts/cm、
高電位とはおよそ100 volts/cmから300 volts/cmまでを指す。電界強度を低くす
れば化学種の移動は遅くなり、二つのゾーンの接触時間が増加する。さらに、検
知可能な化学種が、分析対象物(あるいは酵素アッセイにおける酵素飽和条件下
の一時的な酵素基質複合体)と異なった電気泳動移動度を有する場合、電位を低
くすれば、それに比例して反応直後から検知可能な種の反応した場所からの分離
速度は遅くなる。その結果、低電位によって検知
感度は最大になる。低電位の一例は、検知可能な生成物の蓄積量が最大になりそ
れにともなう優れた検知感度が得られるゼロ電位モードである。
電位を高くすれば、それに比例して、アッセイにおける種の移動速度が増す(
しかし相対速度ではない)ので、スピードの長所を与える。高電位ではまたゾー
ンの混合を迅速にし、十分な反応時間及び検知感度を必要としない反応について
、分析時間を最小にすることができる。アッセイに含まれる一定の化学系での要
求に関する知識があれば、当業者は、アッセイに含まれる各段階をそれぞれ最適
化するための電位を選択することができる。たとえば、ゾーン結合段階では迅速
で均一な混合を行なうために高電位でおこなう。しかし、続いての化学反応局面
では、反応が生じるのに十分な時間を与え、最大の検知感度を得るために、より
低い電位でおこなってもよい。その後は、電位は、検知可能な種を迅速に検知器
を通過させ分析時間を最小にするために、上げてもよい。
化学反応は、化学反応が起きる速度、つまり生成物が生成する速度とは異なっ
た速度での混合により開始するのが望ましい。即ち混合速度は、反応速度より実
質的に速い、あるいは遅いものにしなければならない。サンプルゾーンと反応物
ゾーンの混合速度は、毛管に与える電位を変化させることによって調節できる。
たとえば、反応が迅速に生じる場合には、ゾーン結合が生じる際、生成物生成が
サンプルゾーン全体において均一になるように混合を非常に速い速度で行なうか
、あるいは生成物生成がゾーン全体において完結するように混合を非常にゆっく
り行なうかのいずれかが望ましい。電気泳動による混合は高電位
ではより速い速度で生じるので、混合は高電位における方が望ましい。数千V/cm
において混合はミリセカンド単位で生じる。反応を開始させるために混合した後
は、電位を減少あるいは停止させればよい。さらに、高電位では各段階の時間間
隔が短いので、熱はほとんど生じない。
機械による混合法と比較して電気泳動による混合に独特の特性は、移動速度の
差によってゾーンが一緒になる点である。電気泳動系中のゾーン中の濃度は常に
不連続であるので、反応物の濃度はゾーン結合中に変化する。ゾーンの異なる領
域における結合が一定の速度になることが望ましい。ゾーンがガウス型である場
合には、ピークの先端あるいは末端は、ピークの中心部より低い濃度を有する。
ゾーンが電気泳動により一緒になるとき、低い濃度のゾーンから先に混合する。
即ち反応は低濃度において開始し、生成物生成速度はピーク全体を通じて一定で
はない。データの解釈を簡単にするために、一定速度に近い生成物生成速度とな
るようにゾーンを迅速に合体することが望ましい。たとえば、毛管が反応物で満
たされておりそこに分析対象物を含む少量のサンプルが導入される場合には、ゾ
ーンの先端は、迅速に重なる末端と比較して遅い速度で重なる。与えている電位
を突然中断すると、ゾーン先端は電気泳動により互いに通過していくが、ゾーン
末端はゼロ電位下で接触する。従って、ゾーンの相対位置は注意深くモニターし
なければならない。
(f)毛管の長さ
与えた電位と共に、用いられた毛管の長さは、電解強度を決定し、又その故に
、各化学的な種の移動速度に影響を与える。毛管の全体の長さに加えて、分析物
が毛管に移入される点と生
成物が検知窓を通過する位置との間の長さのような離隔長さが、このアッセイに
影響を与える今一つのパラメータである。離隔長さは、反応式(2)に示される
ように、このアッセイの混合および反応フェースの実行に使用できる時間に影響
を与える。連続した電位の下で行われる、より遅い反応では、分析物が検知器を
通過する前に生じる反応に対し十分な時間を供与するには、より長い離隔長さが
必要なことがしばしばである。
又、スペーサーの組込(分析物と分析試薬ゾーンとの間に置かれた非反応媒体
を含むゾーン)により、分析物の反応前分離の実験的調整が可能になる。このオ
プションは、特有な電気泳動速度を持っているサンプル内の多くの分析物が、分
析試薬と反応して、同じ検知可能な種又は非常に類似の電気泳動速度を持つ種を
生成するようなシステムにおいては、重要である。この機構においては、分析物
分子は、毛管内で空間的に、及び/又は、時間的に、別個の場所で試薬ゾーンに
遭遇するような、別個のゾーンに分離されることになる。その結果、検知可能な
種は、反応室内の独自の場所、および/又は、時間で生成され、従って、その生
成にかかわっている特定の分析物を示す時間に、検知窓において観察できる。
(g)反応速度の変化
反応速度のパラメータは、pH、イオン強度、粘度、及び温度のような要因の
選択によって変わる。反応速度は、BoltzmannDistributionに述べられている通
り、温度と与えられた反応に要する活性化エネルギーに依存するところが大きい
。サーモスタットを付けた毛管電気泳動システムを使用すると、反応温度を選択
することができる。更に、電気泳動媒体のpHとイオン
強度は、可逆性反応の方向と速度を決定する為に変更できる。殆どの酵素反応は
可逆性であり、従って、分析物基体の生成を最大にする為に最適のpHとイオン
強度範囲を必要とする。拡散がコントロールされている反応では、電気泳動媒体
の粘度が、分析物に対する反応物の最大の供給可能性を、従って、生成物生成の
総合速度を決定できる。
又、粘度、pH、イオン強度は、異なる粘度、pH、イオン強度の2つのゾー
ンのインタフェースで種を濃縮することにより、本発明の方法の敏感さを強める
のに用いることができる。
化学的な種は、2つの粘度の異なる隣接域における異なった電気泳動移動性の為
に又は2つの粘度域間の電界の変わりやすさの為に、そのようなインタフェース
で「積み重ね」られる。等速伝達の原理は、このようにして毛管電気泳動システ
ムのサンプルを濃縮する為に使用できる。(Chien and Burgi, 1991,J. Chromat ogr.
559; 141; Aebersold and Morrison, 1990,J. Chromatogr. 516: 79)
(h)電気泳動の媒体
電気泳動の媒体は、前述の通り、EMCAに含まれている物理的工程を実行す
るのに必要な電気泳動速度の変わりやすさを試薬種に与えて、その物理特性を利
用できるようにするので、EMCAにおいて重要である。EMCAに用いられて
いる電気泳動の媒体は、毛管電気泳動で利用されるものに似ている。それぞれは
、試薬種の独特な物理的パラメータを利用できるようにする。これらの電気泳動
媒体は、自由溶液、ゲル、コンプレックス形成試薬、分配性添加物、および両性
電界質を含むが、それには限定されない。
一般に、自由溶液の電気泳動は、緩衝媒体内で行われる。自由溶液における電
気泳動移動性は、反応式(3)で前述の通り、与えられた種の電荷密度によって
決まる。pHおよびイオン強度のパラメータは、選ばれた緩衝液そのものと濃度
によって決まる。緩衝液は、化学成分中に含まれるさまざまな部分のイオン化度
、そしてその電気泳動移動性を変えることができる。又、電気泳動媒体は、毛管
表面および結果的に電気浸透フローにおける、ゼータ電位に影響を与える。当業
者が選んだ電気泳動媒体の型は、システムの化学成分の電気泳動速度のコントロ
ールを可能にする。このコントロールは、本発明の方法に含まれる物理的工程に
及ぶ。利用可能なpH範囲を通じての無数の無機、有機、および生物学的緩衝剤
は、毛管電気泳動システムで利用されている。自由溶液電気泳動システムは、無
数の種類の無機、有機、および生物学的分子を含む、電荷を持ち得るあらゆる型
の分子に可変電気泳動移動性を与えるのに用いられている。
ゲル毛管電気泳動は、化学種の電荷および分子の大きさに基づく電気泳動移動
性に変わりやすさを与える。この現象は、本発明方法に含まれる物理工程のコン
トロールに独特な選択性を供与する。毛管電気泳動に最もよく用いられるゲルは
、ポリアクリルアミドとアガロース・ゲルであり、ペプチド、プロテンおよびD
NA断片のような分子を分析するのに用いることができる。
電気泳動媒体における錯化剤の使用によって、荷電又は荷電せぬ試薬種と荷電
又は荷電せぬ溶液添加物との選択的相互作用が起きる。当業者によって、分析対
象物と錯体を生成する能力に基づいて、特定の添加物を選ぶことができる。錯体
は、それ
から固有の移動性によって電界内を移動する。例えば、クラウン・エーテルとシ
クロデキストランは、キラル化合物と選択的に錯体を形成することができる添加
剤として使われている。
ミセル溶液を作る為にイオン化界面活性剤を添加するような分配媒体の使用に
よって、本発明の分析方法を微細に調整するもう一つの方法がある。固有の電気
泳動移動性を有する荷電ミセルに化学種を選択分配することにより、自由溶液に
おいて固有の速度を持たない中性の種が種々の速度を持つことが可能になる。硫
酸ドデシルナトリウム(SDS)と胆汁酸塩を含むイオン化界面活性剤が多数使
われている。ミセル相は、アミノ酸、麻薬、麻薬代謝物質のような種の分析に利
用されている。
電気泳動媒体に両性分子を添加することは、分析物、反応物および生成物が電
気泳動移動性では極く僅かの差異しかない分析の微細調整方法になる。又、両性
分子は、反応に関係する種が、電子的中性が存在し、従って電気泳動移動性が消
失する毛管内の点に移動する場合に有用である。生成する不均一な溶液は、検知
器を通り過ぎて進むことができる。
9.EMCAによる多分析物の決定
本発明の方法では、サンプル中の複数の分析物を実質上同時に測定することが
可能である。従って、例えば、血液サンプルを、多くの異なる分析物として同時
に分析することができる。異なる分析物は、同じか又は異なる電気泳動速度を持
ち、複数の分析物は複数の反応物と接触してできる生成物と同じか又は異なる速
度で電界内を移動できる。サンプル中の複数の分析物の分析例は、次の通りであ
る。
分析物A,B,およびCは、反応物Rと反応し、生成物Pを
生成又は消耗する。分析物A,B,およびCとRとを含む各化学反応でPは実質
的に同一のものであり得る。反対に、Pは、各反応について別であるが、電界を
同一速度で移動し、その電気泳動速度の点では区別できないこともある。
この例における分析物A,B,およびCは、選ばれた電気泳動媒体において、異
なる、そして既知の相対電気泳動移動性を持っている場合に識別できる。その固
有の電気泳動移動性を利用して、3つの分析物の電気泳動による分離をRとの反
応に先だって進めることができる。このようにして、それぞれ別の分析物A,B
,およびCがRと化学反応してPが生成され、Pの3つの明瞭なゾーンが生成さ
れる。Pの各ゾーンが検知器を通り過ぎて移動する時に、検知されるPの量はサ
ンプル中に存在するA,B,およびCのそれぞれの濃度に相関があり得る。
分析物A,B,およびCは、反応物Rと反応し、3つの異なる生成物PA ,PB
,およびPC を生成し又は消耗する。これらの生成物は、独自の検知性能又は
独自の電気泳動移動性のいずれかを持っている。
この例では、予備反応による分析物の分離は必要ないし、又分
析物が異なる相関電気泳動移動性を持っていることも必要でない。生成物PA ,
PB およびPC それぞれの別個の電気泳動検知特性又は移動性が知られていなけ
ればならない。分析物A,B,およびCと反応物Rとの電気泳動混合および化学
反応が同時に、そして/又は、同一速度で起きることがある。各生成物は、検知
器を通り過ぎて移動するので、その検知量はサンプル中の対応分析物の濃度に相
当する。
分析物A,B,およびCは、反応物RA ,RB およびRC と反応して生成物PA
,PB およびPC を生成しまたは消失することができる。
この例では、3つの生成物が独特の検知又は電気泳動特性を持っていない場合
には、分析物が電界で異なる相関移動性を持たねばならず、分析物の予備反応に
よる分離が行われねばならない。分析物が電界内を同一速度で移動する場合には
、生成物が明白な相関的電気泳動移動性又は明白な検知特性を持っていれば、同
時に分析が可能である。
10.装置
図6では、装置10は入口端14および出口端16を持つ毛管12を含んでい
る。毛管は、引き伸ばされたガラス管か又は電気泳動用のマイクロ・サンプルの
為の何らかの手段である。 荷電された電極18は、電導性媒体26と、そして
電導性媒体30で反対に荷電されている電極20と連絡している。電極18およ
び20は、電力供給元22と電気的に接続されている。 又、装置10は、コン
ジツト24を通して管12の入口14に電導性媒体26の新鮮な供給を受けてい
る。緩衝剤は、管を満たし、貯槽30へコンジット28を通じて排出される。毛
管の
直径は、1−500μmで、好ましいのは25−200μmで、最も好ましいのは
75−100μmである。毛管の長さは、入口から出口端迄1−500cmで、好
ましいのは5−100cmである。cm当たり数百ボルトからcm当たり数千ボルト又
はそれ以上の電界の下で作動する毛管が好まれている。参考に組み込まれた、米
国特許4,865,706および4,865,707を参照されたい。
検知器36からの出力は、コンピュータ46に接続されている記録器44に接
続されている。記録器44は、データをエレクトロフェログラム(electrophero
gram)48として記録する。サンプル34は、コンジット32を通して管12へ
導かれる。検知器36は、管を通じて通る化学成分を、例えば、38の位置で検
知する。検知器36は、検知器と結ばれている毛管12をサンプルの成分が移動
する時に感知できる。紫外線、赤外線、および蛍光感知器のような電磁放射の変
化を検知して作動する検知器は、検知器が作動することになっている毛管の部分
の上では、毛管24上の有機材料の保護被覆を必ず除去せねばならない。
もう一つの検知のオンカラム(on-colum)方法は、適切に設計された放射線検
出装置を使用して、放射線でラベルした反応成分を検知することを含んでいる。
又、この検知法は、オフラインでの回収およびそれに続く測定に用いることがで
きる。
又、毛管12を出る時に、別個のサンプル成分を直接検知することによって検
知器を作動させることが可能である。そのような検知器の例としては、大量分光
光度検知器および電気化学的検知器がある。大量分光光度検知では、毛管12の
出口端16は、大量分光光度計の入口に非常に近接して置かれており、
そして電極は、毛管の出口の導電媒体に接触してこの毛管端に非常に近接して置
かれている。毛管を通しての電界は、この毛管端の電極と、毛管入口端14が接
触している導電媒体に接触している対応電極又は電線との間で作られている。毛
管12を出る導電媒体に検知器又はプローブが接触せねばならない場合に、有用
な、更に別の検知器の具体例としては、毛管の出口端は多孔質のガラス・スリー
ブで毛管の非常に短い追加部分に接続されていて、このスリーブは導電媒体に浸
されている。電気泳動電界を形成する為の電気的接触は、毛管のそれぞれの端の
導電媒体の貯槽で行われ、検知プローブは毛管延長を出る導電媒体に接触して置
かれている。
任意のプログラムできるコンピュータが、印加電位をコントロールする為に任
意の波形発生器と通信し、そして入力を指示する。このコンピュータは、単独装
置又は2つの独立した装置である。この発生器は、次には電力源22に通じ、そ
して入力を指示する。電力源22からの電気出力は、電極18を通って導電媒体
26に、又は電極20を通って導電媒体30に流れる。
プログラム可能なコンピュータは、与えられた電気泳動化学反応で望まれる振
幅又は周波数を作ることを波形発生器に指示するようにプログラムすることがで
きる。又、このコンピュータは、任意の自動サンプラーの運転を指示できる。自
動サンプラーは今度は電気泳動システムへ、又はから、サンプルを入れたり出し
たりすることを指示できる。例えば、サンプラーは、サンプル34と媒体26の
間の入口端14を閉じ、サンプル又は媒体を毛管に入れることができる。
この波形発生器は、普通の波形発生器でよい。(例:Model
75, Wavetech, San Diego, CA )波形はコンピュータ・コントロール又はスタン
ドアバブ(stand-above)モードで操作できる。サイン波、方形波、三角波、等
の各種波形を決められた参照電圧に関連して正又は負の方向に提供できる。
運転中、装置10は、次のように分析物を検知するのに使われる。例えば、決
定されつつある分析物が酵素の活性である場合、酵素34を含むサンプルは、電
気泳動で、又はコンジット32を通してのサイホン作用で入口14から毛管12
に導入される。基質は毛管12の中に含まれている。この例の酵素と基質は、電
荷と、電位が印加された場合に毛管中の反対の方向に向かう電気泳動移動性とを
持っている。電力源22をオンにして、印加された電位を電極18および20を
通して毛管に伝達するように調整する。酵素と基質は、このようにして電界の中
を移動し始め、そして生成物が生成され、図1に示されている通り、検知器36
に向かって移動し始める。生成物が検知器36に到達すると、信号が記録器44
およびコンピュータ46に送られる。それから、エレクトロフェログラム48が
作られる。即ち毛管12中で試薬と電気泳動で混合される管中の荷電された各成
分は、その電荷に従って管に沿って移動し、異なる速度で移動する他の成分と混
合する。
急速混合は、液体クロマトグラフィー ・システム(Schlabachet al., 1978,
Clinical Chemistry 24:1351; Snyder, 1976,Journal of Chromatography 125;
287; Deelder et al., 1977.Journal of Chromatography 125:287)のような後
反応検知器(E1 Rassi, 1976, Journal of Chromatography 559:367)を用いて
達成できる。例えば、基質は、毛管の入口端で混合T字管
(例えば、図1でコンジット32と24が接続される所)を通してシステムに加
えられる。そして反応混合物は毛管にポンプで送られる。生成物検知は、一般の
毛細電気泳動検知器を用いて毛管の出口端の近くで行われている。混合T字管と
検知器の間の移動時間は一定であるので、このシステムは、固定時間アッセイに
近づく。酵素の活性度又は基質の濃度は、酵素および基質を含む酵素反応の生成
物を、それを検知している検知器のところまで電気泳動させて検定できる。ここ
に述べた通り、一定の電位の下では、酵素と生成物の移動速度は一般に異なり、
生成物は、生成後直ちに酵素から分離する。
11.毛管の製作
本発明に使用する毛管は、一般に珪素で作られ、外面をポリイミドのような薬
品で被覆されており、珪素の脆弱な性質に基づく破損を防いでいる。本発明に使
用する毛管の長さ又は内径に本質的な制限はないが、長さは一般に5−100c
mである。本発明では、10−500Mの直径の毛管を使用している。
本発明方法では、毛管被覆の使用が有利であることがしばしばある。これらの
被覆は、被覆されていない珪素の使用に対していくつかの利点をもたらす。シラ
ノール・グループのイオン化は、負に荷電した珪素面を作る。プロテンのように
正に荷電した分析物は、負に荷電した壁によく吸着され、それによって珪素/溶
液インタフェースのゼータ電位を変える。ゼータ電位の破壊は、電気浸透フロー
を変え、再現性を減じ、生成物の再生を減らす。電気浸透フローの変動は、毛管
電気泳動で観察されるピークの面積が、種の電気泳動速度に逆比例であるので、
定量分析で特に有害である。電気浸透フローの変化は、それに
伴ってピーク面積の変化を生じる。又、毛管表面の変性は電気浸透フローのコン
トロールに有用である。電気浸透フローを制御する能力は、本発明の実行に有力
な手段である。検知可能な生成物の検知器の移動は勿論、ゾーンの電気泳動によ
る混合の工程は、電気泳動速度、従ってシステムの電気浸透フローに依存してい
る。
毛管電気泳動に使用されている被覆は、毛管壁を動的に改良する為の緩衝剤添
加物の使用は勿論、珪素表面の共有改良を含んでいる。共有改良技術の代表例と
しては、エポキシ・ポリマー(Towns et al., J. Chromatogr. 599:227)、ポリ
エチレン−イミン(Towns and Regnier, 1990, J.Chromatogr. 516:69)、アミ
ノプロピル−シアル酸塩被覆(Moseley et al., Anal. Chem.63:109)、ポリア
クリルアミド(Cobb et al., 1990, Anal. Chem.62:2478; Hjerten, 1985, J. C
hromatogr. 471:429)がある。
動的被覆使用の代表例としては、アミン添加物(Lauer andMcManigill, 1986, A nal. Chem.
58:166; Nielsen et al.,1989, Anal. Biochem. 177:20)、陽性ポ
リマー (Wiktorowiczand Coloburn, 1990, Electrophoresis 11:769)、およ
び陽性フルオロ界面活性剤(Emmer et al., 1991, J. Chromatogr.547:544)が
ある。又、シラン誘導面に吸着された非イオン界面活性剤の使用におけるように
、吸着された動的被覆と結びついた共有改良も又用いられている。(Towns and
Regnier, 1991,Anal. Chem. 63:1126)
12.検知器および検知法
本発明においては、一般の毛管電気泳動法に使用されているものも含んで、一
般の検知法を使用できる。化学種の物理的性
質の検知ができる検知法を選ぶことができる。これらの検知システムには、紫外
線又は可視光線照射、蛍光、反射指標、ラマン、大量分光測定、電気化学的、そ
して電気伝導度を含むが、それには限らない。電気泳動で移動する生成物の検知
は、毛管の長さに沿って別々の位置でオフラインで行われるか、参照としてここ
に引用する毛管の全長をイメージする方法によって行われる(Wu et al., 1992, Anal. Chem.
54:219)。
14.注入法
サンプル又は反応物のボリュームは、流体力学、動電学、真空、注入口、
およびスポイド法を含む毛管電気泳動システムで使用されるどのような方法によ
って導入しても差し支えない。更に、システムは、一般に入手可能な自動注入機
で注入するように容易に自動化することができる。
発明の好ましい具体化
本発明はサンプル内の分析対象物、例えば酵素の活性もしくは基質の濃度など
を分析するための化学反応を生じさせる、超ミクロ単位の手法を特色とする。酵
素がサンプル内にあるとすると、基質の変化が観察されることによってサンプル
内の酵素の存在が明らかになる。または、サンプル内に基質があるとすると、酵
素活性(たとえば補捉因子の利用もしくは酵素の不活性化)が観察されて基質の
存在が明らかになる。酵素活性のアッセイは、基質を飽和濃度に設定して行い、
一方、基質の濃度の検査は、酵素を飽和状態にして行う。検査は、図6に示すよ
うな、毛管電気泳動装置の不活性化溶融シリカガラス毛管内で行う。
実施例
以下に記載する手法に従って毛管内で酵素アッセイを行った結果によって、少
量の酵素もしくは基質が毛管ゾーン電気泳動システム内に検出されることを欠き
の結果が説明する。このアッセイは、電位差をかけると単数もしくは複数の酵素
、試薬、生成物の移動速度が異なる現象を利用しており、この特性は、電気泳動
的に反応体を混合するときにも、電気泳動的に酵素と基質を生成物から分離する
ときにも用いられる。生成物は毛管内を移動して検知機に達し、そこで濃度が決
定されて、サンプル内の酵素の濃度もしくは活性と関連づけられたり、サンプル
内の基質の濃度と関連づけられたりする。本発明手法に基づいた検出限度は、従
来のアッセイの検出限度より3桁分も感度が向上している。
1.グルコース-6-燐酸塩脱水素酵素の分析
本発明に基づく分析には、グルコース-6- 燐酸塩脱水素酵素(G-6-PDH, EC 1.
1.1.49)が代表的な酵素として用いられる。
G-6-PDH はほぼあらゆる動物組織および微生物に見られ、六炭糖単燐酸塩の分路
内の最初の反応に触媒作用を及ぼす。G-6PDH欠乏症に関する臨床生化学は詳細に
研究されている。(吉田、1973、 Science 179:532)
D-グルコース-6- 燐酸塩;NADP酸化還元酵素とも呼ばれるグルコース-6- 燐酸
塩脱水素酵素(G-6-PDH)は即座に分光測光によって検査できるため超ミクロ酵
素のアッセイをするために選ばれた。(シグマ診断法No.345-UV 1990)G-6-PDH
はグルコース-6- 燐酸塩(G-6-P)を酸化して6-ホスホグルコナート(6-PG)
とし、一方で、G-6-P が存在するとニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン
酸(NADP)を還元してNADPH に変える。
生成物NADPH の吸光度スペクトルは、G-6-PDH (図7(A))もしくは運転バッフ
ァ(図7(B))の吸光度スペクトルと比べると固有の違いがある。従ってこのスペ
クトルが反応の監視に用いられる。(シグマ診断法No.345-UV 1990)NADPH は、
340nm(ξ = 6.22 x 106 cm2/mole)において最大吸収度を示す。6-ホスホグル
コン酸−脱水素酵素(6-PDH)はG-6-PDH を持たない赤血球からの6-PGDHに汚染
された血清サンプル内でのように干渉することができる。6-PGDHがあると、6-ホ
スホグルコン酸がさらに酸化されて2モル目のNADPH が生成される。定温放置さ
れた混合物にマレイミドを加えると6-PGDHが抑制される。図8はゼロ電位差で、
それぞれ(a)2、(b)4、(c)6、(d)8、(e)10、(f)28 分後に測定された、340nm で
のNADPH の吸収度増加率を示している。
この例で説明されている本発明の手法には、従来の毛管電気泳動システムであ
ればいずれでも使用できる。(例えば上記に文献として引用されている米国特許
に表記されるものなど)しかし毛管電気泳動装置として好ましいものはISCO 385
0 毛管電気泳動システム(インスツルメント・スペシャルティー社、ネブラスカ
州、リンカーン市)である。このシステムは「インジェクト」というソフトウェ
ア(バイオアナリティカル・システム社、インディアナ州、ラファイエット市)
を使ったパソコンとインターフェースを使って接続してデータを収集し処理する
。
もう一つ推奨する毛管電気泳動システムは、カラムを作るのに内径50μm 、光学
密度 360μm 、長さ35-60cm の、ポリアミノ・コートされた溶融シリカガラス毛
管(ポリミクロ・テクノロジ社、アリゾナ州、フェニックス市)を使用して構成
されたシステムである。分離長は15-40cm にわたって変わる。様々な波長のUV吸
光度検知器で検出が行われる(モデルV4、インスツルメント・スペシャルティー
社、ネブラスカ州、リンカーン市)。蛋白質溶出は200nm で認められ、生成物は
それに適す波長で検出される。例えばNADPH は340nm で認められる。中性マーカ
ー、メシチルオキシドは 254nmで検出される。ストリップチャート記録はリニア
2000レコーダ(リニア社、ネバダ州、レノ市)で求められる。
試薬類、例えば、基質、補捉因子、酵素、マーカーなどはあらゆる薬品もしく
は化学製品会社、すなわち、シグマ化学社(ミズーリ州、セントルイス市)、ア
ルドリッチ社(ウィスコンシン州、ミルウオーキー市)、もしくはカルビオケム
社(カリフォルニア州、サンディエゴ市)などで求められる。ここで詳細にわた
り説明する例では、グルコース-6- 燐酸塩脱水素酵素試薬とG-6-PDH 基質溶剤を
シグマ化学社から購入した。試薬の準備およびアッセイの実施はLohrその他の記
載に従って行ない、グルコース-6- 燐酸塩脱水素酵素に関してはH.U.バーグマイ
ヤー編集、「酵素分析法」の英語編集第2版、1974年、ニューヨーク市、ワイン
ハイム・アカデミック・プレス社、pp.636に記載されている。エチレングリコー
ル・ジグリシデルエーテル(EGDE)、3-グリシドオキシプロピルトリメトシラン(G
OX) 、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]-オクタン(DABCO) 、メシチルオキ
シド、溶剤および緩衝液はアルドリッチ化学社(ウィスコンシン州、ミルウォー
キー市)から購入した。バッファは脱イオン二重蒸留水で準備した。
蛋白質サンプルがサイホン式で毛管電気泳動装置内に注入される。毛管の入り
口を蛋白質サンプル内に挿入し、5秒間、5cmほど持ち上げる。中性マーカーも
同様にして毛管内に導入する。ランニングバッファの中には酵素活性を検査する
に必要な試薬が全て入っている。アッセイ用の試薬は試薬製造業者(シグマ化学
社、ミズーリ州、セントルイス市)によって再組成されている(ジョーゼンソン
その他、1982、分析化学 53:1298)。例えば、ここで説明するG-6-PDH の検査に
は、スタビライザおよび溶解剤に加えて、0.7mmol/L のグルコース-6- 燐酸塩(G
-6-P) 、0.5mmol/L の補酵素ニコチンアミドジヌクレオチド二燐酸塩(NADP)、4m
mol/L のマレイミドがバッファ溶液に入っている。電位差を限定して、電流を35
から50μA の範囲で調整し、60μA を越えないようにする。全てのアッセイは温
度管理をせず、常温で行う。毛管の洗浄は、0.01M 水酸化ナトリウム、二重蒸留
水、および使用中のバッファ溶液によって行われる。
不活性化は、共有結合したエポキシポリマー層を使用して行う。この被膜剤に
よって、毛管電気泳動の蛋白質が95%以上回収できることがわかった。これらの
不活性化した毛管内の電気浸透フローは大部分が還元され、負に帯電したNADPH
などの化学種は30cmの毛管内を通るのに20-30 分を要する。G-6-PDH は比較的高
いPI値を持っているため、速く移動する。G-6-PDH およびNADPH の電気泳動移動
度はそれぞれ5および18分とわかった。
毛管ゾーン電気泳動システムは、バッファタンクおよび毛管に、試験に必要な
試薬のうち酵素以外を全て含んだ運転バッファを満たした状態で使用する。サン
プル酵素を毛管内に注入して導入し、電位差をかけて酵素と基質の電気泳動混合
を開始する。生成物の組成を340nm で、UV検知器を用いて測定する。各アッセイ
は、一定の電位差モードで行われる時には、アッセイ中は反応物にかけられる電
位差を一定にし、ゼロ電位差モードで行なわれる時にはアッセイの途中で反応物
の分離を中止した。
図9(a)に示される、一定電位差で得られたG-6-PDH アッセイのエレクトロフェ
ログラムは、触媒作用を及ぼした反応の生成物よりも大きな移動速度を持つ酵素
に対する予想図3の一般形状を有している。この場合の検査に要する総時間数は
12分弱である。より長い毛管とより希釈された酵素溶液を用いると、図9に示す
ように、水平部の高さがより低く、酵素の溶出時間がより長くなっている。この
場合、注入による人工ピーク末端が溶出する前にデータ収集を終えた(注入人工
ピークの高さは変化しやすく分析上価値がない)。注入人工ピークの大きさは次
の3つの要因に関連するとわかった。注入中の、混合のサイズ、ボリューム、程
度。サンプル内の酵素濃度。および注入と電気泳動の開始時間との時間差。
エレクトロフェログラムの1例として、図10(a) ではサンプルの注入と電気泳
動の開始に数分の時間差を与えてある。比較のため、図10(b) では、サンプルを
すばやく注入し、酵素が検知器を通過する前に数分間電位差をゼロに落とすとい
う検査の結果を示している。約8分にある大きなピークは電位差の数分の中断、
すなわち5分間運転が中断している結果である。
毛管を短くすれば、感度を下げることなく分析時間を12分以下に短縮すること
ができるだろう。分析時間を最小にするためには、生成物の溶出曲線が安定水準
に達するために必要な毛管の長さが最適となる。分析時間を短縮させるために電
位差を増すと、増加電位差が生成物の蓄積および感度を減少させるため、逆効果
であることがわかった。
図10(a) 、10(b) で、3.5 分、6.0 分にそれぞれ溶出する小さなピークは200
および340nmで吸着している。これは、340nmで吸着もしくはNADPH を拘束するか
、触媒では作用しない、サンプル内の蛋白質かもしれない。
酵素が毛管から溶出する前に電位差をゼロに切り換えるとすると、定温培養時
間が増すことによって感度が高まる。電位差ゼロのアッセイは、毛管の41cmの、
最高約6分間電位差をゼロにして行う。3分後に電位差が中断され、5分間ゼロ
の状態に置く。その後生成物の溶出を促すため電位差が8700V まで復元される。
G-6-PDH を4.6 x 10-17 モル含有していると推測されるサンプルのエレクトロフ
ェログラムが図11に示されている。この推定値は、注入量を2nlと仮定した場合
の値である。20分にピークがあるのは、5分間のゼロ電位差培養が原因である。
この分析法を用いたG-6-PDH の投与量反応曲線が図12に示してある。この図のデ
ータは表2から求めた。表2に見られるG-6-PDH の分析は、長さ17.8/41cmの、G
OX-EDGEで被膜された毛管を使用して行われた(内径50μm)。電源を8700ボル
ト、50μAに設定する。毛管の陽極端を10秒間持ち上げてサンプルを注入する。3
40nm 、感度0.02auに設定して検出を行った。一定電位差による生成物の、プラ
トーを超えたピーク領域をエレクトロ
フェログラムで検査し、その結果に基づいて計量を行う。1ユニット/ml のG-6-
PDH を含む溶液は約 3 x 10-8M である。検査のリニアダイナミック・レンジを
決定しようという試みはなかったが、肉眼で同様に検査した結果、2桁である可
能性もある(シグマ診断法 No.345-UV 1990)。
2.エタノール基質の分析
エタノール基質が本発明の毛管電気泳動手法を使用して分析された。アルコー
ル脱水素酵素(ADH、EC 1.1.1)で基質を生成物に変換した後に、その基質の種
類を識別する。ADH は触媒作用を及ぼしてエタノールを酸化しアセトアルデヒド
に変換する。
340nm で吸光度が増加することにより、NAD+が同時にNADHに還元されていること
がわかる。pHが中性の状態では、平衡がはるかに左に寄っているが、緩衝剤を使
ってpH9.0の状態に保ち、ヒドラジンのような試薬によりアセトアルデヒドをト
ラップすることによって右側に寄せることができる。次のような実験で、サンプ
ル内のエタノールの量が測定された。
分析には、表面を処理してないポリイミド被膜の石英ガラス毛管(ポリミクロ
・テクノロジ社、アリゾナ州、フェニックス市)を使用して行った。この毛管は
全体の長さも仕切りも様々な、内径50μm 、外径360μm の管である。ISCO(ネ
ブラスカ州、リンカーン市)CV毛管電気泳動吸光度検知器を360nm で使用して検
出が行われた。毛管に電界をかけるために、スペルマン・モデルFHR 30P 60/EI
(スペルマン・ハイ・ボルテージ・エレクトロニクス社、ニューヨーク州、プレ
インビュー市)の電源を使用した。データは、リニア社(ネバダ州、レノ市)の
ストリップ・チャート・レコーダもしくは、PC-LPM-16 I/0 ボードおよびNI-DAQ
DOSソフトウェア(ナショナル・インスツルメント社、テキサス州、オースチン
市)に接続した1486パソコンで収集した。分光測光法による検出は、スペクトロ
ニク20D(ミルトン・ロイ社、ニューヨーク州、ナイアガラフォールズ市)の分
光計を360mn で使用して行なった。
イースト・アルコール脱水素酵素、NAD 、グリシン・バッファ溶液およびpニ
トロフェノールはシグマ化学社(ミズーリ州、セントルイス市)から購入した。
電気泳動運転バッファは、
0.500Mのグリシン・バッファ溶液(ヒドラジンを含む)を、脱ガスした二重蒸留
消イオン水で10の換算係数で希釈し、調製した。ADH およびNAD を希釈バッファ
溶液に溶解し、試薬/バッファ溶液を作る。絶対エタノールはミッドウェスト・
ソルベンツ社(イリノイ州、パーキン市)から購入した。エタノール標準液は、
エタノールを適量の二重蒸留消イオン水で希釈し、内標準としてp−ニトロフェ
ノールを加えて準備した。メシチル・オキシド(電気泳動移動度の測定に用いら
れる中性マーカー)はアルドリッチ化学社(ウィスコンシン州、ミルウォーキー
市)から購入した。
毛管は使用前に、IN NaOH で10分間処理した後、10分間バッファ溶液で洗い流
す。毛管とバッファ貯蔵場所にはバッファ/試薬溶液を満たしておく。エタノー
ルのプラグを所定の時間、毛管の陽極端にサイホン式に導入する。電位差をかけ
、360nmで吸光度エレクトロフェログラムを監視して検査を行った。全てのアッ
セイは温度管理をせずに常温で行った。エタノールの分光測光法による分析は、
ここに参照として引用するシグマ診断法332-UV、1990の説明通りに行った。
エタノール基質の検査をするためには、まずアルコール脱水素酵素、補酵素(N
AD) 、および捕獲(ヒドラジン)の入ったpH9.0 のグリシン・バッファ溶液を、
被膜されていない毛管に満たしておき、これにエタノールを導入する。エタノー
ルは電気的に中性(μem = 0cm2/Vs)なため、電気浸透流(μeo = 5.4x10-4cm2
/Vs)と共に負の電極に向かって移動する。アルコール脱水素酵素(μem = -1.6
x10-4cm2/Vs)およびNAD(μem= -1.2x10-4cm2/Vs)はどちらもpH9.0 では負に
帯電しているため、
電気浸透流に逆の向きに電気泳動で移動する。しかし、電気浸透流の力が強いた
め、どちらも負の電極および検出窓に向かって移動する。1500v/cmの電界内で、
0.5mm 幅のエタノールのプラグに、回りのアルコール脱水素酵素およびNAD ゾー
ンが、わずか0.3 秒弱で完全に浸透する(式(4))。酵素と補酵素が基質のゾー
ン内に電気泳動するにつれて、エタノールは酸化されてアセトアルデヒドになり
、NAD が還元されてNADH(μem =-2.3x10-4cm2/Vs)となる。NADHは、340nm で
測定可能な吸光量を示す唯一の種であるため、NADHが検出窓を通過する際の、34
0nm での吸光度増加量は、直接的に反応程度を調べる尺度となる。エタノールプ
ラグの幅が比較的狭いと仮定すると、ある時刻での生成されたNADHの濃度を調べ
れば、エタノールと酵素のその時間の反応率がわかる。NADHは電気泳動速度がエ
タノールより遅いため、エレクトロフェログラムの結果を見ると、プラトーが上
った形となる。幅0.5mm のエタノールプラグは、25cmの分離長の場合、元の体積
の約100 倍のNAD と、元の体積の約150 倍のアルコール脱水素酵素に接すること
になる(式(6))。
毛管電気泳動アッセイによって正確に量を量るためには、導入量の再現精度が
まちまちなため結果の正確性を損なうことがあってはならない。導入された基質
の濃度ではなく、むしろ基質の量を決定する場合には、内標準が導入量を測定す
るために用いられる。pニトロフェノールは340nm で高い吸光度を示し、pH9.0
で十分に負に帯電するため、(μem = -3.2x10-4cm2/Vs)、NADH生成物ピークと
同時に移動するのを防ぐため、この検査の内標準として選択した。内標準はサン
プルではなく運転バッファに加えられ、結果として生じる空位ピークを、導入量
の測定
基準として使用する。ミクロサンプルが対象の場合には、内標準を再現的にサン
プルに加えることが困難であるが、この技術を用いるとその必要が無くなる。
図13は、エタノールを毛管電気泳動検査した時の典型的な口径測定曲線を示し
ている。この口径測定曲線のための実験条件は次の通りであった。この電気泳動
システムは25cmの分離長を含む。電界は1500V/cmであり、毛管の陽極端を5秒間1
0cmの高さに持ち上げて導入する。ADH 濃度は75ユニット/mLで、NAD濃度は0.9mM
である。リニア・レンジは4g/Lエタノールに及ぶ。4g/L以上の濃度では、導
入されたエタノールの反応が不完全なため、NADHピークの切り捨てが起きた。オ
リジナルで強行すると、線形回帰で0.9994の相関係数を生み出す。標準測定を5
回繰り返した。相対的な標準偏差は3.0 から5.4%に渡っていた。この例での最低
検出限度は0.01g/L であった。
この技術のリニア・レンジおよびダイナミック・レンジは、検出窓を通過する
前に酸化されるエタノールの量によって決定される。従って、これらは選択した
検査条件に強く影響を受ける。運転バッファ内の酵素および補酵素の濃度を増す
ことによって、検出窓の通過前に酸化されるエタノール量を増加させて、この技
術のリニア・レンジを基質のより高い濃度にまで拡張できる。比較的少量の基質
を導入すると高濃度末端でのリニア・レンジを増大し、同時に検出の下限をも伸
ばす。(一定の電界で)毛管の分離長を増したり、(一定の毛管長で)電界を下
げたりすると、効果的に反応時間が伸び、リニア・レンジも拡張するが、分析時
間は長くなる。
口径測定曲線の測定(標準毎に5回のくり返し試験)で計算
されたように、この手法の再現精度は、一般的に、1から8%の相対標準偏差値
の範囲に入る。分析対象物および酵素の濃度が低いときに、もっとも大きな変動
性が見られるが、これは広く平坦なピークのグラフがピークとベースラインの境
界を明確にするのが難しいためである。高い反復回数(n=10)で行った2つの定量
(1.0g/L と 2.0g/L)によって、それぞれ3.2 および1.8%の相対標準偏差値が計
算された。本発明に基づいて行われる量的毛管電気泳動の再現精度は、電気浸透
流の固有の変動性によって制限される。ピーク面積は、検出窓を通過するときの
、検出される成分の電気浸透速度に反比例する。電気浸透速度は電気泳動移動度
と電気浸透流の和である。従って電気浸透流に変動があると、必ずピーク面積に
変化が生じる。検査毎に生じる変動を解決するために、内標準が使用される。し
かし電気浸透流の変化が検出過程で起きると、容易には解決できない。サンプル
の母体が帯電した蛋白質のような毛管壁に吸着しやすい成分を含んでいると、ξ
電位差を変化させて電気浸透流を生じるが、このようなときに電気浸透流の変動
が特に著しくなる。血液標本のようなサンプルには干渉する成分が入っているた
め、吸着を防ぐために表面処理を施した毛管を使用する必要がある。
または、干渉する成分をサンプルから除外するための準備段階を用いてもよい。
本発明の毛管電気泳動手法を、従来の、エタノール分析の分光測光法と比較し
た。0から4g/L のエタノールを含む10のサンプルを毛管電気泳動検査とシグマ
診断アルコール・キットの両方で分析した。シグマ分光測光法は電気泳動アッセ
イと同様の酵素反応を利用する。ADH 、NAD およびヒドラジン捕試薬
を含んだpH9.0 のバッファにサンプルを10分間定温放置すると、340nm での吸光
度の増加はサンプル内のアルコール濃度に正比例する。図14では2つのアッセイ
結果を比較している。データの線形回帰分析は、相関係数が0.995の時、Y(シグ
マ) =1.04 x (毛管電気泳動) - 0.038g/Lとなる。8つのサンプルの対になっ
た結果は、表の数値、2.365 のt 0.950 に対してtcalc = 0.284 という対のt 計
算をもたらす。これらの結果から、2つの方法はエタノール定量に同様の数値を
算出することがわかる。毛管電気泳動手法の再現精度はシグマ検査の再現精度に
も匹敵する。(エタノールを少量加えた2つの血清プールでの相対標準偏差値は
、4.1%および1.08%)
このアッセイで見られた特異性は、あらゆるADH アッセイで観察された特異性
と一致する。ADH はメタノールもしくはアセトンに対しては、はっきりとわかる
ような反応を示さないが、エタノール以外の一定のアルコールには反応する。こ
れらのアルコールの酸化率は次のような順序で減少する。エタノール=アリル・
アルコール>nプロパノール>nブタノール>nアミル・アルコール>イソプロ
パノール。ADH を基にしたあらゆる検査にとって、このような特異性の欠如は不
利ではあるが、イソプロパノールだけが臨床的に見られる唯一の干渉アルコール
となる。前述した検査条件では(pH9 、内径60μm の被膜なしの毛管、25cmの分
離長、100V/cm)バッファ/試薬溶液の流速は約0.38μL/分である。標準的な16
分の検査では、約5ナノモルのNAD と0.5 単位のADH を含んだ6μL のバッファ
/試薬溶液だけを必要とする。
他の具体化は次の請求の範囲で述べる。
【手続補正書】特許法第184条の8
【提出日】1994年10月4日
【補正内容】
英文明細書第2頁第5行から第3頁第12行
(明細書翻訳文第1頁末行から第3頁第1行)
米国特許5,084,150は、移動中の電荷コロイド粒子の表面が、被分離サンプル分
子に対して選択的に相互作用するように処理されるという、界面運動学的分離法
に関連する。コロイド粒子と分離されるサンプルが入った毛状管に電界が加えら
れる。米国特許第 5,045,172号では、毛状管の両端に電極が設置され、検知器が
管に連結されている毛管電気泳動装置に関連する。米国特許第 4,181,589号は、
電界を用いて生物細胞を分離する方法に関する。上記各米国特許は引用により本
明細書中に援用する。米国特許第 5,145,567号は、アイソザイムの分析法に関す
るもので、酵素サンプルを毛管中に基質を含む緩衝液中に入れ、この酵素サンプ
ル中のアイソザイムは毛管ゾーン電気泳動により分離される。そこで、電界を与
えるのを止め、生成物を生成させ、生成物を検知領域に動かし、この酵素サンプ
ル中の異なるアイソザイムによる生成物の生成を測定する。
本発明の一目的は、毛管内で微量のサンプルと少量の分析試薬を用いるだけで
、生成物の検出ができるような化学変化を起こすことである。二つの成分、例え
ば、一つのサンプルと一つの試薬が混合され、化学量論的にサンプル内の分析対
象物と反応し、ある生成物を形成する。その生成物は電気泳動的に分離測定され
て、サンプル内に存在した分析対象物の量が示されるようにすることである。本
発明の他の目的は、生成物をそれに特徴的な方向に誘導することなしにサンプル
内での分析対象物を化学的に分析可能にすることである。もう一つの目的は、サ
ンプルを高温にさらすことなく、高電圧で電気泳動により、生成物をサンプルお
よび反応物から迅速に分離することである。さらに本発明は、サンプル及び/又
は生成物の希釈および拡散を最小限として、積極的に混合するプロセス無しに、
化学成分を実質上一瞬のうちに混合することである。さらに別の目的は、毛管電
気泳動システムをフラッシングの必要無しに再生することにある。別の目的は、
機械的なポンプの必要無しに毛管内の電気浸透によりサンプルを移動させること
である。さらに別の目的は、同一サンプルの複数の成分に関して、ほぼ同時に化
学分析をすることである。
請求の範囲
1. サンプル中の分析対象物の定量分析方法において、
(a)反応物、および分析対象物を含むサンプルを、電気泳動用緩衝液を含む
毛管に導入し(この導入において、上記分析対象物又は上記反応物の一方は帯電
しており、且つ、上記分析対象物と上記反応物との化学的接触により上記分析対
象物又は上記反応物の少なくとも一方の共有結合が破壊又は生成して検知可能な
生成物を生成し又は消滅させる)、
(b)上記毛管内の電気泳動による移動により上記分析対象物と上記反応物と
を化学的に接触させ上記生成物の生成を誘起するか又は上記生成物を消滅させる
に充分な時間上記毛管の長さに沿って電位を与え、
(c)上記生成物を検知し、上記毛管内で生成又は消滅した上記生成物の量を
定量分析し、且つ、
(d)ステップ(c)で分析した上記毛管中で生成又は消滅した上記生成物の
量に基づき上記サンプル中の上記分析対象物の濃度を定量的に測定する、
ことを含む定量分析方法。
2. 請求項1の方法において、ステップ(a)に用いる上記毛管が、上記サン
プルの導入前に装入された反応物を含有する方法。
3. 請求項1の方法において、上記電位が、ステップ(c)の前に上記分析対
象物と上記反応物とのうち一方を分離するために十分な時間、上記毛管に与えら
れる方法。
4. 請求項1の方法において、上記分析対象物と上記反応物
との上記化学的接触の前に、上記分析対象物がその他のサンプル成分から電気泳
動による移動により分離するのに充分な時間上記電位が与えられる方法。
5. 請求項1の方法において、ステップ(c)の前に、
上記分析対象物と上記反応物との化学的接触の後に電位を取り除くことにより
上記生成物が生成又は消滅するのに充分な時間上記毛管をゼロ電位とする
ステップをさらに含む方法。
6. 請求項5の方法において、上記毛管をゼロ電位とする上記ステップの後で
、且つ、ステップ(c)の前に、
上記生成物が上記分析対象物及び反応物から分離するのに充分な時間上記毛管
の長さに沿って上記電位を再び与える
ステップをさらに含む方法。
7. サンプル中の複数の分析対象物の同時定量分析方法において、上記方法が
(a)第一及び第二分析対象物を含むサンプルを与え、
(b)上記サンプル及び反応物を、電気泳動用緩衝液を含む毛管に導入し(こ
の導入において、上記第一又は第二分析対象物の一方又は上記反応物は電荷を有
している)、
(c)上記毛管内の電気泳動による移動により、上記反応物と上記第一分析対
象物とを化学的に接触させ第一の検知可能な生成物の生成を誘起するか消滅させ
且つ上記反応物と上記第二分析対象物とを化学的に接触させ第二の検知可能な生
成物の生成を誘起するか消滅させるに充分な時間上記毛管の長さに沿って電位を
与え(ここにおいて、上記電気化学的接触により上記第一分析対象物又は上記反
応物の及び上記第二分析対象物又は
上記反応物の共有結合が破壊又は生成する)、
(d)上記第一及び第二生成物を検知し、上記毛管内で生成又は消滅した上記
第一及び第二生成物の量を定量分析し、且つ、
(e)ステップ(d)で測定した上記毛管中で生成又は消滅した上記第一及び
第二生成物の量に基づき上記サンプル中の上記第一及び第二分析対象物の濃度を
定量的に測定する、
ことを含む定量分析方法。
8. 請求項7の方法において、上記電位が、上記反応物との上記化学的接触前
に上記第一分析対象物および上記第二分析対象物を電気泳動による移動によって
分離するために十分な時間、上記毛管に与えられる方法。
9. 請求項7の方法において、ステップ(c)の後で且つステップ(d)の前
に、上記電位を取り除くことにより上記第一及び第二生成物の少なくとも一方が
生成又は消滅するのに充分な時間上記毛管をゼロ電位とし、且つ、上記第一及び
第二生成物が分離するのに充分な時間上記毛管の長さに沿って上記電位を再び与
えるステップをさらに含む方法。
10. 請求項7の方法において、上記第一生成物及び第二生成物が同一のもの
である方法。
11. 請求項7の方法において、上記第一生成物および第二生成物が、検知に
より識別可能である方法。
12. 請求項7の方法において、上記第一生成物および第二生成物が、別々の
電気泳動移動度を有する方法。
13. 請求項1又は7の方法において、上記サンプル及び上記反応物が上記毛
管内で離れて配置され、上記電位を与えると直ちに上記サンプル中の上記分析対
象物と上記反応物とが互に
向かって移動し化学的に接触する方法。
14. 請求項1又は7の方法において、上記分析対象物が酵素を含有し、且つ
、上記反応物が酵素基質を含有する方法。
15. 請求項1又は7の方法において、上記分析対象物が酵素基質を含有し、
且つ、上記反応物が酵素を含有する方法。
16.
(a)毛管を区画する手段
(この手段は、
電気泳動緩衝液、
分析対象物を含むサンプル、
上記毛管内に配置された反応物(この反応物は上記分析対象物と反応的に接触
し、上記反応物又は上記分析対象物の少なくとも一つの共有結合を破壊又は生成
することにより検知可能な生成物を生成又は消滅し、ここで上記分析対象物又は
上記反応物の少なくとも一つは帯電している)を有する)、及び
(b)上記反応物及び上記分析対象物が電気泳動による移動により化学的に接
触し、それにより上記反応物又は上記分析対象物の少なくとも一つの共有結合を
破壊又は生成して上記毛管内に検知可能な生成物を生成又は消滅するように、上
記毛管に電位を与える電気泳動装置、及び
(c)上記毛管内で生成又は消滅した上記生成物を検知しその量を定量的に測
定する手段、
を含む分析装置。
17. 請求項16の装置において、上記生成物の量を検知および定量的に測定
する上記手段が、さらに、上記検知可能生成物の測定量に基づいて、上記サンプ
ル中の上記分析対象物の濃
度を定量的に測定する手段を包含する装置。
18. 請求項17の装置において、上記分析対象物及び上記反応物が上記毛管
内で離れて配置され、上記電気泳動装置によって上記毛管全体に電界を与えると
直ちに、上記分析対象物が上記毛管内を電気泳動によって移動し、且つ上記毛管
内の電気泳動による移動によって誘起される上記分析対象物と上記反応物の化学
的接触前に、上記分析対象物を上記サンプル中の妨害成分から分離する装置。
19. 請求項16の装置において、上記毛管の上記サンプルが第一分析対象物
及び第二分析対象物を含有し、上記毛管が上記分析対象物の各々と反応する反応
物を含有し、少なくとも1つの上記分析対象物又は上記反応物が帯電しており、
上記第一分析物及び第二分析物及び上記反応物が毛管内に配置されており、上記
電気泳動装置により上記毛管の長さに沿って電位を与えると直ちに、上記毛管内
の電気泳動による移動により上記反応物と上記第一分析対象物が化学的に接触し
第一の検知可能な生成物を生成又は消滅させるか上記反応物と上記第二分析対象
物が化学的に接触し第二の検知可能な生成物が生成又は消滅する(ここにおいて
、上記の電気化学的接触により、上記第一分析対象物又は上記反応物において、
及び上記第二分析対象物又は上記反応物において共有結合を破壊又は生成する)
ように上記毛管内に配置され、且つ、上記検知手段が上記毛管内で生成又は消滅
する上記第一生成物及び第二生成物を検知及びその量を定量分析する手段を有す
る装置。
20. 請求項16の装置において、上記毛管の直径が、約500ミクロン未満
である装置。
21. 請求項16、18、又は20の装置において、上記分析対象物が酵素を
含有し、上記反応物が上記酵素の基質である装置。
22. 請求項16、18、又は20の装置において、上記分析対象物が酵素基
質および上記基質を転化する酵素中に上記反応物を有する装置。
23. 請求項16、18又は20の装置において、上記毛管が、内側に帯電し
た表面を含む装置。
24. 請求項17の装置において、上記分析対象物及び上記反応物が、上記毛
管内で離れて配置され、上記電気泳動装置によって電位を与え上記の検知可能な
生成物が生成すると直ちに、上記検知手段による上記生成物の検知前に、上記の
検知可能な生成物が上記毛管内で上記分析対象物の一方又は両方と上記反応物か
ら分離するように配置されている装置。
25. サンプル中の分析対象物の分析方法において、
(a)反応物、および分析対象物を含むサンプルを電気泳動用緩衝液を含む毛
管に導入し(この導入において、上記分析対象物又は上記反応物の一方が帯電し
ており、且つ、上記分析対象物と上記反応物の化学的接触により、上記分析対象
物の共有結合を破壊又は生成し、検知可能な生成物を生成又は消滅させる)、
(b)電気泳動移動度によって上記毛管内で上記分析対象物および上記反応物
が化学的に接触し、上記生成物の生成を誘起又は消滅させるに十分な時間、上記
毛管の長さに沿って電位を与え、且つ
(c)上記生成物を検知する方法、を含む分析方法。
26. 請求項25の方法において、ステップ(a)に用いる上記毛管が、上記
サンプルの導入前に装入される反応物を含有する方法。
27. 請求項25の方法において、上記電位が、ステップ(c)の前に上記分
析対象物および上記反応物の一方から、上記生成物をを分離するために十分な時
間、上記毛管に与えられる方法。
28. 請求項25の方法において、上記分析対象物と上記反応物の上記による
化学的接触の前に、電気泳動による移動によってサンプルの他の成分から上記分
析対象物を分離するために十分な時間、上記電位を上記毛管に与える方法。
29. サンプル中の複数の分析対象物の同時分析方法において、
(a)第一分析対象物および第二分析対象物を含有するサンプルが供給され、
(b)上記サンプルおよび反応物を電気泳動用緩衝液を含む毛管に導入し(こ
こにおいて、上記第一又は第二分析対象物のうちの1つ又は上記反応物が帯電し
ている)、
(c)上記毛管内の電気泳動による移動によって、上記反応物と上記第一分析
対象物が化学的に接触し第一の検知可能な生成物が生成又は消滅し、且つ上記反
応物と上記第二分析対象物が化学的に接触し第二の検知可能な生成物が生成又は
消滅するに十分な時間、上記毛管の長さに沿って電位を与え(ここにおいて、上
記電気化学的接触により上記第一分析対象物及び上記第二分析対象物の共有結合
が破壊又は生成する)、
(d)上記第一生成物および第二生成物を検知するこ
とを含む方法。
30. 請求項29の方法において、上記反応物との化学的接触の前に、上記第
一分析対象物及び上記第二分析対象物を電気泳動による移動によって分離するた
めに十分な時間、上記電位を上記毛管に与える方法。
31. 請求項29の方法において、上記第一生成物および第二生成物が同一の
ものである方法。
32. 請求項29の方法において、上記第一生成物および第二生成物が、検知
により識別することが可能である方法。
33. 請求項29の方法において、上記第一生成物および第二生成物が別々の
電気泳動移動度を有する方法。
34. 請求項29の方法において、上記分析対象物が酵素基質を含有し、上記
反応物が酵素を含有する方法。
35.
(a)毛管を区画する手段、
(この手段は、
電気泳動用緩衝液、
分析対象物を含むサンプル、
上記毛管内に配置された反応物(この反応物は上記分析対象物と反応的に接触
し、上記分析対象物上の共有結合を破壊又は生成することにより検知可能な生成
物を生成し、ここで上記分析対象物及び上記反応物の少なくとも一方は帯電して
いる)を有する)、及び
(b)上記毛管全体に電位を与え、電気泳動による移動により上記反応物と上
記分析対象物が化学的に接触し、且つ上記分析対象物上の共有結合を破壊又は生
成することにより、上記毛
管内で検知可能な生成物を生成又は消滅させる電気泳動装置を含む分析装置。
36. 請求項35の装置において、さらに
(c)上記毛管内での上記検知可能生成物の生成あるいは消滅を検知する手段
を含む装置。
37. サンプル中の分析対象物の分析方法において、
(a)第一及び第二反応物並びに分析対象物を含むサンプルを電気泳動用緩衝
液を含む毛管に導入し(この導入において上記分析対象物と上記第一反応物の化
学的接触により上記分析対象物の共有結合を破壊又は生成し第一の生成物を生成
し、上記第一生成物と上記第二反応物の化学的接触により上記第一生成物の共有
結合を破壊又は生成し検出可能な第二の生成物を生成し、且つ上記分析対象物及
び上記第一生成物、あるいは上記反応物が帯電している)、
(b)上記毛管内で電気泳動による移動により上記分析対象物と上記第一反応
物が化学的に接触し上記第一生成物の生成を誘起し、次に上記第一生成物と上記
第二反応物が化学的に接触し上記第二の検知可能な生成物が生成するに十分な時
間、上記毛管の長さに沿って電位を与え、且つ、
(c)上記第二生成物を検知することを含む方法。
38. 請求項37の方法において、ステップ(a)に用いる上記毛管が、上記
サンプルの導入前に装入される上記第一反応物および第二反応物を含有する方法
。
39. 請求項37の方法において、上記電位が、ステップ (c)の前に、上
記分析対象物あるいは上記反応物から上記第
二生成物を分離するために十分な時間、上記毛管に与えられる方法。
40. 請求項37の方法において、上記電位が、上記分析対象物と上記第一反
応物の上記化学的接触前に、サンプルの他の成分から電気泳動による移動によっ
て上記分析対象物を分離するために十分な時間、上記毛管に与えられる方法。
41.請求項37の方法において、上記分析対象物および上記第1生成物が酵素
基質を含有し、上記第一反応物および第二反応物が、それぞれ酵素を含有する方
法。
42.
(a)毛管を区画する手段
(この手段は、
電気泳動緩衝液、
分析対象物を含むサンプル、
上記毛管内に配置された第一の反応物(この反応物は上記分析対象物と反応的
に接触し、上記分析対象物の共有結合を破壊又は生成することにより第一生成物
を生成する)を有し、且つ
上記毛管内に配置された第二の反応物(この反応物は上記第一生成物と反応的
に接触し、上記第一生成物の共有結合を破壊又は生成することにより第二の検知
可能な生成物を生成する)を有する)、さらに
(b)上記第一反応物及び上記分析対象物が電気泳動による移動により化学的
に接触し、それにより上記分析対象物の共有結合を破壊又は生成して上記毛管内
に第一生成物を生成し、上記第二反応物及び上記第一生成物が電気泳動による移
動により化学的に接触し、それにより上記第一生成物の共有結合を破壊
又は生成して上記毛管内に第二の検知可能な生成物を生成するように、上記毛管
に電位を与える電気泳動装置、を含む分析装置。
43. 請求項42の装置において、さらに
(c)上記毛管内で上記第二生成物の生成を検知する手段を含む装置。
44.サンプル中の分析対象物を分析する方法において、
(a)反応物、および分析対象物含有サンプルを電気泳動用緩衝液含有毛管に
導入し(ここで、上記分析対象物又は上記反応物の一方が帯電しており、上記分
析対象物と上記反応物との化学的接触により少なくとも上記分析対象物又は上記
反応物の一方の共有結合が非触媒的に破壊するか又は生成して検知可能な生成物
が生成又は消滅する)、
(b)上記毛管の長さに沿って、上記毛管内の電気泳動により、上記分析対象
物と上記反応物とが化学的に接触し上記生成物が非触媒的に生成が生成又は消滅
するのに充分な時間電位を与え、且つ
(c)上記生成物を検知することを含む方法。
45.
(a)毛管を区画する手段
(この手段は、
電気泳動緩衝液、
分析対象物を含むサンプル、
上記毛管内に配置された反応物(この反応物は上記分析対象物と反応的に接触
し、少なくとも上記分析対象物又は上記反応物の一方の共有結合を非触媒的に破
壊又は生成することにより
検知可能な生成物を生成又は消滅し、ここで上記分析対象物又は上記反応物の少
なくとも一方が帯電している)を有する)、及び
(b)上記反応物及び上記分析対象物が電気泳動による移動により化学的に接
触し、それにより少なくとも上記分析対象物又は上記反応物の一方の共有結合を
非触媒的に破壊又は生成して上記毛管内に検知可能な成物を生成又は消滅するよ
うに、上記毛管に電位を与える電気泳動装置、
を含む分析装置。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(72)発明者 ハーモン,ブライアン ジョーゼフ
アメリカ合衆国 47906 インディアナ,
ウェスト ラファイエット,アパートメン
ト 13,アンスロプ ドライブ 1193
(72)発明者 パターソン,デイル ハンセン
アメリカ合衆国 47906 インディアナ,
ウェスト ラファイエット,シャーロン
ロード 318
(72)発明者 レグニール,フレッド イー.
アメリカ合衆国 47906 インディアナ,
ウェスト ラファイエット,タカホウ レ
イン 1219