JPH078544U - 内燃機関用ピストン - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 内燃機関の特に暖機前の中速回転高負荷入力
時において、圧縮上死点回りのモーメントが生じても、
ピストン本体の傾きを極力小さくして、クラウン部のト
ップランド打音を防止し、且つスラスト側スカート部の
シリンダ内壁との焼付きを有効に防止可能とした内燃機
関用ピストンを提供する。 【構成】 ピストン本体Ａのピストンピン孔７の中心Ｏ
をピストン本体Ａの軸中心線Ｃに対しスラスト側にオフ
セットさせると共に、クラウン部１にオイルリング溝１
３を形成し、オイルリング溝１３のスラスト側底部にス
リット１０を設け、スリット１０の長さａは、両エプロ
ン部４、５の基本外壁幅ｂより長くなっている。更に、
ピストン本体Ａが、両スカート部２、３側が長径で両エ
プロン部４、５側が短径となる楕円形を呈して構成して
おり、スラスト側スカート部２より反スラストスカート
部３のオーバル量を小さくした。

Description

【考案の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】

本考案は、自動車等の内燃機関用ピストンの改良に関する。

【０００２】

【従来の技術】

従来、この種のピストンにおいては、スラップ音の抑制と耐焼き付き性を向上 させる目的で、ピストン本体のピストンピン孔中心を、ピストン本体の中心線に 対してスラスト側へオフセットさせ、反スラスト側のスカート部の肉厚をスラス ト側のスカート部の肉厚よりも大にし、オイルリング溝の前記反スラスト側にス リットを設けたものが知られている（例えば、実開平2-90342 号公報）。そして 、このようなピストンは、反スラスト側のスカート部の肉厚を厚くすることで重 量バランスを意図的に変更し、慣性によるピストン本体の首振りを抑制してスラ ップ音の低減を図り、また反スラスト側のスリットにより、肉厚にしたスカート 部がシリンダ壁に対して局部的高面圧によるシリンダ壁との焼付きを防ぐために 、反スラスト側をスリットによって変形しやすくしたものである。

【０００３】

【考案が解決しようとする課題】

しかしながら、このような従来の内燃機関用ピストンにおいては、その慣性力 の影響よりも、内燃機関の運転状態特に燃焼圧荷重の影響がはるかに大きい機関 暖機前の中速回転高負荷入力時、圧縮上死点回りで、クラウン部の冠面に燃焼圧 力による負荷がかかると、ピストンピン孔中心のオフセットにより、ピストン本 体を、反スラスト側からスラスト側へ回転させるようなモーメントが発生する。 このモーメントにより、スラスト側スカート部は、ピストンピンの中心から下部 側で、又反スラスト側スカート部は、ピストンピン孔の中心から上部側で、シリ ンダ内壁に接触して止まる。 この時、両スカート部は、シリンダ内壁より反力 を受けて変形し傾き、クラウン部の反スラスト側トップランドがシリンダ内壁に 衝突して、トップランド打音が発生する。そして、クラウン部のオイルリング溝 には、スリットが設けてあるため、反スラスト側スカート部が固定端となって、 クラウン部が鞭打ちの状態となり、トップランド打音を反って助長することとな る。

【０００４】 又、スラスト側スカート部に注目すると、上記モーメントが発生した場合、こ のモーメントは、エプロン部と共にこれに連結しているスカート部上側が固定端 となり、スカート部下側はエプロン部が連結していない結果開放端となって、こ のスカート部下側が変形させられることとなる。そしてこの変形量は、下側に行 けば行くほど大きくなって、シリンダ内壁と大きく面接触することとなり、この 面接触によりピストン本体がその軸心に対する傾きが不可避となって、反ってス カート部が摩耗し易くなる虞があった。

【０００５】 本考案は、かかる点に鑑み、内燃機関の特に燃焼圧荷重の影響が大きい機関暖 機前の中速回転高負荷入力時において、圧縮上死点回りのモーメントが生じても 、ピストン本体の傾きを極力小さくして、クラウン部におけるトップランド打音 を防止すると共に、スラスト側スカート部のシリンダ内壁との強度の摩耗接触を 有効に防止可能とした内燃機関用ピストンを提供することを目的とする。

【０００６】

【課題を解決するための手段】

本考案の内燃機関用ピストンは、ピストン本体のピストンピン孔中心をピスト ン本体の軸中心線に対しスラスト側にオフセットさせると共に、クラウン部にオ イルリング溝を形成し、該オイルリング溝のスラスト側底部にスリットを設け、 該スリットが、少なくともエプロン部近傍まで達していることを特徴とする。

【０００７】

【作用】

かかる構成のもとに、内燃機関の運転状態特に燃焼圧荷重の影響がはるかに大 きい機関暖機前の中速回転高負荷入力時、圧縮上死点回りで、クラウン部の冠面 に燃焼圧力による負荷がかかり、ピストン本体を反スラスト側からスラスト側へ 回転させるようなモーメントが発生して、このモーメントにより、スラスト側ス カート部が、ピストンピン孔の中心から下部側で、又反スラスト側スカート部が 、ピストンピン孔の中心から上部側で、シリンダ内壁に接触して止まった場合、 反スラスト側においては、オイルリング溝にスリットが形成されていないために 、クラウン部の鞭打ち現象を起こさせず、そのトップランドの反スラスト側がシ リンダ内壁に衝突することにより発生するトップランド打音を発生させない。

【０００８】 又、スラスト側スカート部に注目すると、上記モーメントが発生した場合、こ のモーメントは、スカート部上側が、スカート部下側と共に開放端となっている ため、シリンダ内壁から受ける反力を、スカート部下側と共に、上側も変形して 吸収し、ピストン本体の傾きを減少させる。

【０００９】

【実施例】

次に、本考案の一実施例につき、図を用いて説明する。

【００１０】 図１は、本考案の一実施例を採用した内燃機関用ピストンのピストンピン孔方 向から見た正面図、図２は、図１のＸ矢視図である。

【００１１】 Ａは、ピストン本体を示し、アルミニウム合金等の軽量合金を母材として製作 されており、機関の燃焼室を構成するクラウン部１とこのクラウン部１のスラス ト側および反スラスト側に連続して形成されたスカート部２および３と、両スカ ート部２および３を連結し且つクラウン部１に連続するエプロン部４および５と を有して構成されている。

【００１２】 前記両エプロン部４および５には、ピンボス部６がそれぞれ設けられており、 このピンボス部６には、不図示のピストンピンを挿入するピストンピン孔７が形 成されている。このピストンピン孔７は、その中心Ｏが、ピストン本体Ａの軸中 心線Ｃに対して、スラスト側に所定幅オフセットＳして、ピンボス部６に形成さ れている。

【００１３】 前記クラウン部１の外周部には、シリンダ８の燃焼室９側より順に、２本のコ ンプレッションリング２１および２２がそれぞれ挿着されるコンプレッションリ ング溝１１，１２および１本のオイルリング２３が挿着されるオイルリング溝１ ３が刻設されており、これら溝によってトップランド１４、セカンドランド１５ およびサードランド１６が形成されている。

【００１４】 前記オイルリング溝１３のスラスト側底部には、スリット１０が設けられてお り、このスリット１０の長さａは、前記両エプロン部４および５の基本外壁間幅 ｂより長くなっている。

【００１５】 更に、前記ピストン本体Ａは、両スカート部２および３側が長径で、両エプロ ン４および５側が短径となる楕円形を呈しており、且つ反スラスト側スカート部 ３のオーバル量が、スラスト側スカート部２側に比べて、所定量小さくなってお り、従って、反スラスト側スカート部３の形状がより円形に近くなっている。

【００１６】 次に、上記実施例の作用について、図３を用いて説明する。図３は、内燃機関 運転時のピストン本体の首振り運動を説明する説明図である。内燃機関の運転状 態では、不図示のクランクシャフトがＫ方向（図中時計方向）に回転することに より、コネクチングロッド１７を介して、ピストン本体Ａが上下動することとな るが、このピストン本体Ａに、圧縮上死点回り、特に機関暖機前の中速回転高負 荷入力時の圧縮上死点回りにおいて、クラウン部１の冠面に燃焼圧力による負荷 がかかると、ピストンピン孔７のオフセットＳにより、反スラスト側からスラス ト側へ回転させるようなモーメントＭが発生する。このモーメントＭにより、ピ ストン本体Ａは、図中時計方向に傾いて、ピストンピン孔７の中心に、力Ｆを発 生させる。この力Ｆは、スラスト側スカート部２では、ピストンピン孔７の中心 から下部側がシリンダ８のシリンダ内壁８ａに接触して止まり、又反スラスト側 スカート部３では、ピストンピン孔７の中心から上部側で、シリンダ８のシリン ダ内壁８ａに接触して止まり反力を受けることとなる。

【００１７】 そして、このような状態で、先ずピストン本体Ａの反スラスト側の傾きについ て注目して記述すると、反スラスト側のシリンダ内壁８ａからの反力は、スラス ト側の反力より小さいが、反スラスト側スカート部３におけるピストンピン孔７ の中心Ｏより上部に、シリンダ内壁８ａとの間で上側接触部１９を形成すること となる。そして、反スラスト側スカート部３におけるピストンピン孔７の中心Ｏ より上部は、従来のようにオイルリング溝の反スラスト側にスリットを設けた場 合には、前記反力による変形が大きくなり、ピストン本体Ａの軸中心線Ｃの傾き を大きくすることとなるが、この実施例では、オイルリング溝１３の反スラスト 側には、スリットを形成していないために、反スラスト側スカート部３における ピストンピン孔７の中心Ｏより上部の変形量を最少化することができ、クラウン 部１のトップランド１４にシリンダ内壁８ａとの接触部２０が形成されても、ク ラウン部１の鞭打ち現象を起こさせず、トップランド１４の反スラスト側がシリ ンダ内壁に衝突することにより発生するトップランド打音を発生させない。

【００１８】 ただ、反スラスト側スカート部３における変形量を抑制したために、反スラス ト側スカート部３の中央部にシリンダ内壁８ａに対して局部当たりのおそれがあ るが、この問題を解決するために、この実施例においては、前述したように、ピ ストン本体Ａを、両スカート部２および３側が長径で、両エプロン４および５側 が短径となる楕円形を呈する形状とすると共に反スラスト側スカート部３のオー バル量を、スラスト側スカート部２側に比べて、所定量小さくしている結果、反 スラスト側スカート部３はより円形に近くなって、円周方向の広い面積でシリン ダ内壁８ａとの上側接触部１９を形成して、広い範囲で荷重を支えることとなり 、反スラスト側スカート部３におけるシリンダ内壁８ａとの局部当たりを避けて いる。

【００１９】 又、スラスト側スカート部２に注目すると、上記モーメントＭが発生した場合 、オイルリング溝１３のスラスト側底部にスリット１０が設けられており、この スリット１０の長さａが、両エプロン部４および５の基本外壁間幅ｂより長くな っているために、スラスト側スカート部におけるピストンピン孔の中心Ｏより上 側が、下側と共に開放端となることとなって、シリンダ内壁８ａから受ける反力 を緩和することとなり、ピストン本体Ａのスラスト側の傾きを大幅に減少させる こととなる。

【００２０】 なお、上記実施例においては、スリット１０の長さａを、両エプロン部４およ び５の基本外壁間幅ｂより長くしているが、これに限定されるものでなく、両エ プロン部４および５の基本外壁間幅ｂと同等の長さ、すなわち少なくともエプロ ン部４および５の近傍まで達している構成としても、同等な効果を発揮するもの である。

【００２１】

【考案の効果】

以上の構成にかかる本考案の内燃機関用ピストンは、機関の燃焼室を構成する クラウン部とこのクラウン部のスラスト側および反スラスト側に連続して形成さ れたスカート部と該両スカート部を連結し且つ前記クラウン部に連続するエプロ ン部とを有してピストン本体を構成した内燃機関用ピストンにおいて、前記ピス トン本体のピストンピン孔中心をピストン本体の軸中心線に対しスラスト側にオ フセットさせると共に、前記クラウン部にオイルリング溝を形成し、該オイルリ ング溝のスラスト側底部にスリットを設け、該スリットが、少なくとも前記エプ ロン部近傍まで達しているよう構成したために、内燃機関の運転状態特に燃焼圧 荷重の影響がはるかに大きい機関暖機前の中速回転高負荷入力時、圧縮上死点回 りで、クラウン部の冠面に燃焼圧力による負荷がかかり、ピストン本体を反スラ スト側からスラスト側へ回転させるようなモーメントが発生して、このモーメン トにより、スラスト側スカート部が、ピストンピン孔の中心から下部側で、又反 スラスト側スカート部が、ピストンピン孔の中心から上部側で、シリンダ内壁に 接触して止まった場合、反スラスト側においては、オイルリング溝にスリットが 形成されていないために、クラウン部の鞭打ち現象を起こさせず、そのトップラ ンドの反スラスト側がシリンダ内壁に衝突することにより発生するトップランド 打音を発生させない。

【００２２】 又、スラスト側スカート部に注目すると、上記モーメントが発生した場合、こ のモーメントは、スカート部上側が、スカート部下側と共に開放端となっている ため、シリンダ内壁から受ける反力をスカート部下側と共に、上側も変形して吸 収し、ピストン本体の傾きを減少させることとなって、スカート部のシリンダ内 壁との強度の摩耗接触による焼き付き等を防止することができる。

【００２３】 更に、本考案においては、ピストン本体が、スカート部側が長径でエプロン側 が短径となる楕円形を呈して構成すると共に、スラスト側スカート部より反スラ ストスカート部のオーバル量を小さくしたことによって、反スラスト側スカート 部はより円形に近くなって、円周方向の広い面積でシリンダ内壁との接触部を形 成して、広い範囲で荷重を支えることとなり、反スラスト側スカート部における 変形量を抑制したことによるシリンダ内壁に対する局部当たりを防ぐことができ る。そして、このシリンダ内壁に対する局部当たりを従来のようにスカート部の 肉厚を厚くして防いだのではないために、ピストン本体全体の軽量化にも繋がる こととなる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本考案の第１の実施例を採用した内燃機関用ピ
ストンのピストン孔方向から見た正面図である。

【図２】図１のＸ矢視図である。

【図３】図１に示すピストン本体における内燃機関運転
時の首振り運動を説明するための説明図である。

【符号の説明】

Ａ ピストン本体 Ｃ ピストン本体の軸中心線 Ｏ ピストンピン孔中心 １ クラウン部 ２ スラスト側スカート部 ３ 反スラスト側スカート部 ４ エプロン部 ５ エプロン部 ７ ピストンピン孔 ８ シリンダ ８ａ シリンダ内壁 ９ 燃焼室 １０ スリット

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.⁶ 識別記号 庁内整理番号 ＦＩ 技術表示箇所 Ｆ１６Ｊ 9/00 Ａ

Claims (2)

【実用新案登録請求の範囲】
1. 【請求項１】機関の燃焼室を構成するクラウン部とこの
   クラウン部のスラスト側および反スラスト側に連続して
   形成されたスカート部と該両スカート部を連結し且つ前
   記クラウン部に連続するエプロン部とを有してピストン
   本体を構成した内燃機関用ピストンにおいて、前記ピス
   トン本体のピストンピン孔中心をピストン本体の軸中心
   線に対しスラスト側にオフセットさせると共に、前記ク
   ラウン部にオイルリング溝を形成し、該オイルリング溝
   のスラスト側底部にスリットを設け、該スリットが、少
   なくとも前記エプロン部近傍まで達していることを特徴
   とする内燃機関用ピストン。
2. 【請求項２】前記ピストン本体が、スカート部側が長径
   でエプロン部側が短径となる楕円形を呈して構成してお
   り、前記スラスト側スカート部より反スラストスカート
   部のオーバル量を小さくしたことを特徴とする請求項１
   記載の内燃機関用ピストン。