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JPH0775893A - 構造物の補修方法および予防保全方法 - Google Patents

構造物の補修方法および予防保全方法

Info

Publication number
JPH0775893A
JPH0775893A JP5220239A JP22023993A JPH0775893A JP H0775893 A JPH0775893 A JP H0775893A JP 5220239 A JP5220239 A JP 5220239A JP 22023993 A JP22023993 A JP 22023993A JP H0775893 A JPH0775893 A JP H0775893A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
region
defect
heat
repairing
energy
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP5220239A
Other languages
English (en)
Inventor
Keiichi Urashiro
慶一 浦城
Takahiko Kato
隆彦 加藤
Koichi Kurosawa
孝一 黒沢
Yasuhisa Aono
泰久 青野
Toshimi Matsumoto
俊美 松本
Masahiko Sakamoto
征彦 坂本
Eisaku Hayashi
英策 林
Yasukata Tamai
康方 玉井
Hiroshi Tsujimura
浩 辻村
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Hitachi Ltd
Original Assignee
Hitachi Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Hitachi Ltd filed Critical Hitachi Ltd
Priority to JP5220239A priority Critical patent/JPH0775893A/ja
Publication of JPH0775893A publication Critical patent/JPH0775893A/ja
Pending legal-status Critical Current

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Abstract

(57)【要約】 【目的】構造物や機器に発生した亀裂の進展による貫通
損傷を防止でき、かつ、その後も補修部分に割れが発生
しにくい補修方法を提供する 【構成】亀裂状の欠陥が存在する構造物1の補修方法で
あって、構造物1の欠陥が生じている領域3に熱エネル
ギーを投入して、領域を溶融した後、凝固させる第1の
工程と、領域3の表面部に熱エネルギーを投入し、領域
3の表面部6を再溶融した後、0.1μm以上3.0μ
m以下の大きさの樹枝状結晶が形成される冷却速度で凝
固させる第2の工程とを施す。 【効果】欠陥を補修するとともに、補修した部分の応力
腐食割れ感受性が高くなるのを防ぎ、補修後、経年劣化
により応力腐食割れが生じるのを防止することができ
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、原子炉炉内等に配置さ
れた構造物の割れによる事故防止及び機器の長寿命化を
目的とした構造物の補修方法および予防保全方法に係
り、特に、応力腐食割れあるいは疲労破壊に対する構造
物の補修方法および予防保全方法に関する。
【0002】
【従来の技術】軽水炉炉内構造物などのような応力腐食
環境あるいは振動等の環境下にある構造物は、原子炉の
長期間の稼働運転中に応力腐食や疲労などにより、割れ
が発生したり、亀裂が進展する恐れがあり、その対策が
検討されている。
【0003】例えば、構造物の応力腐食割れは、構造物
を構成する材料側の劣化因子、応力因子、環境因子の3
因子の重畳効果によって発生、進展するとされている。
材料側の劣化因子は、溶接時の熱影響等に起因する低温
鋭敏化などの劣化や、放射線照射による材料の内部組織
変化及び局部的な組成変化等に起因する照射劣化に代表
される。応力因子には、構造物を溶接する時に負荷され
る引張残留応力などがある。また、環境因子には、高温
高圧水腐食環境などがある。
【0004】この応力腐食割れが、構造物や機器を貫通
すると、プラントの重大な事故につながる恐れがあり、
割れ貫通の防止技術が求められている。
【0005】発生した亀裂等の欠陥を進展、貫通に至る
前に補修する方法として、大きな割れに対しては局部的
に割れを除去した後、フィラ−で材料を供給しながらレ
−ザやティグ(TIG、tungsten-insert gas )ア−ク
等で肉盛する手法や、小さな割れに対してはノンフィラ
−TIGア−クなどで割れ発生部を溶融し、亀裂等の欠
陥を消失させる手法が知られている。例えば、特開平3
−142085号公報では、レ−ザによる肉盛溶接が公
開されている。特開平3−169494号公報では、レ
ーザで欠陥部を溶融する方法が公開されている。
【0006】また、割れの発生していない段階における
応力腐食割れ等の感受性を有する熱鋭敏化部のような領
域に対する割れ発生防止の予防保全技術としては、例え
ば特開昭60−165323号、特開昭61−5231
5号、特開昭61−96025号、特開昭61−177
325号、特開昭63−53210号公報、特開平4−
214822号公報に記載されているように、当該領域
にレ−ザ光などを照射して表面を溶体化温度以上に加熱
後冷却する表面改質手法が知られている。さらに、50
0μm以下程度の微小な割れの存在する構造物に対して
は、特開平5−65530号公報において知られている
ように、割れを含む当該領域にレ−ザ光などを照射して
表面を溶融後冷却する表面改質手法により亀裂状欠陥を
消失させると同時に、耐食性、耐応力腐食割れ性の良好
な表面層を付与する手法が知られている。
【0007】また、特開昭59−163094号公報に
は、耐熱耐食合金鋼材を溶接する際に、溶接によって生
じるクラックを防止するため、表層をプラズマアークで
再溶融する方法が開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】このような従来技術に
よる原子炉炉内構造物及び機器の補修方法は、2つの問
題点を有している。
【0009】問題点の1つは、従来技術による補修方法
においては、補修した部分に、鋭敏化や耐食性劣化、引
張り残留応力の発生などが生じてしまい、その結果、補
修した部分の応力腐食割れ感受性が増加してしまうとい
うことである。
【0010】従来のTIGア−クによる溶融補修施工で
は、施工部の溶融面積が狭くかつ深い溶け込みのいわゆ
るキ−ホ−ル型の溶融部を形成することが困難であり、
割れ発生部を溶融消去するとその周辺部の広い領域まで
溶融される。この溶融凝固部には、不純物元素の凝固偏
析、凝固時の熱収縮による引張残留応力などの劣化因子
が発生し、施工部の応力腐食割れ感受性が高くなってし
まう。また、溶融部の周辺には、熱伝導により融点より
も低い温度に加熱された領域が生じる。この領域は、こ
の加熱によりCr炭化物の析出が生じ、鋭敏化される。
また、溶融部の凝固時の熱収縮による引張残留応力が、
周辺の領域にも及ぶ。
【0011】従って、従来の補修技術では、存在してい
た欠陥は消失できても、補修により、溶融部およびその
周辺に劣化因子が生じてしまうため、その後の材料の経
年劣化が加速されて補修部に新たな応力腐食割れ等の欠
陥が発生してしまう。この問題は、割れを除去した後に
レ−ザやア−クによって肉盛溶接した場合についても同
様に発生する。従って、当該構造物を含むプラントの長
寿命化を考慮した場合、発生した割れの進展は防止でき
ても、また新たな割れが発生してしまう可能性が高い。
【0012】一方、従来の小入熱のレ−ザ光の照射によ
る表面改質方法は、基本的には割れの発生していない部
分に対する予防保全施工であり、500μm程度以下の
深さを有する微小な割れを除いて、割れを補修すること
ができないため、割れが発生している部分には適用でき
なかった。また、特開昭59−163094号公報に記
載されている溶接後に表層をアークで再溶融する方法
は、クラック以外の劣化因子について考慮されておら
ず、そのためこの方法で、応力腐食割れ感受性の増加を
防ぐことはできない。
【0013】もう1つの問題点は、従来の補修方法が、
施工対象となる部材が中性子照射によって照射脆化して
いる場合には、適していないことである。原子炉炉内構
造物には2×1021n/cm2(中性子エネルギ−>0.
1MeV)あるいは4×102 1n/cm2(中性子エネル
ギ−>1MeV)以上の高い線量の中性子照射(約4d
pa以上)を受けている構造物がある。このような部分
に上記従来技術を適用すると凝固時の熱収縮による引張
応力のため補修施工部あるいはその周辺部に割れが発生
する可能性があり、さらに材料の経年劣化により割れが
進展してしまうという問題があった。
【0014】本発明の第1の目的は、上記の従来技術の
問題点を鑑み、構造物や機器に発生した亀裂の進展によ
る貫通損傷を防止でき、かつ、その後も補修部分に割れ
が発生しにくい補修方法を提供することにある。
【0015】本発明の第2の目的は、中性子照射を受け
た構造物や機器に発生した亀裂の進展による貫通損傷を
防止でき、かつ、その後も補修部分に割れが発生しにく
い補修施工方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】上記第1の目的を達成す
るために本発明では、構造物の欠陥が生じている領域に
熱エネルギーを投入して、前記領域を溶融した後凝固さ
せる第1の工程と、前記領域の表面部にエネルギーを投
入し、前記領域の表面部を再溶融した後、0.1μm以
上3.0μm以下の大きさの樹枝状結晶が形成される冷
却速度で凝固させる第2の工程とを施すことにより亀裂
状の欠陥が存在する構造物を補修する。
【0017】また、上記第2の目的を達成するために、
本発明では、前記構造物に照射脆化が生じている場合、
前記第1の工程を施す前に、前記第1の工程で処理する
領域を含む領域について、照射脆化を回復させるため
に、前記構造物を構成する材料の溶体化温度以下に加熱
する熱処理を施す。
【0018】また、本発明の補修方法または予防保全方
法を適用することができる構造物としては、原子炉圧力
容器やその内部の炉内構造物、例えばICMハウジン
グ、CRDスタブチュ−ブ、CRDハウジング、アクセ
スホ−ルカバ−、シュラウドサポ−ト、シュラウド、上
部格子板、炉心支持板、炉心スプレイ配管、炉心スプレ
イスパ−ジャ、ジェットポンプライザブレ−ス、ジェッ
トポンプ計測管、ジェットポンプディフ−ザ、ジェット
ポンプノズルセ−フエンド/サ−マルスリ−ブ及びその
溶接部などがある。
【0019】
【作用】まず、中性子照射による脆化が生じていない構
造物に対する本発明の補修方法の施工の作用を述べる。
【0020】炭素含有量の高いステンレス鋼やインコネ
ルなどのFe基あるいはNi基合金製等の溶接構造物1
において、図2に示すように溶接熱影響部に割れ等の欠
陥10が発生している場合を想定すると、欠陥10の周
囲の領域には溶接熱影響によってCr炭化物が析出して
いる。このような部位に補修施工を施す場合、図3
(a)に示すように従来技術で欠陥が溶融ビ−ド3内に
含まれるように溶融処理を施したり、図3(b)に示す
ように局部的にホ−ル7を形成して欠陥を除去した後、
肉盛溶接部8でホ−ル7を充填する肉盛溶接処理を施し
たりすると、どちらも入熱量が大きいため、処理部の周
囲に熱影響部4及び9を形成し、上記の溶接熱影響と複
合してCr炭化物の析出が加速される。
【0021】また、入熱量が大きいときには、溶融ビー
ド3および肉盛溶接部8においてCr炭化物が析出した
り、P,S,Si,Moなどのように耐食性に影響をお
よぼす原子の偏析が生じる。さらに入熱量が大きい溶融
処理では凝固収縮による引張残留応力が、溶融ビード3
及び肉盛溶接部8、あるいは熱影響部4及び9あるいは
その周辺において発生する。従って従来技術では存在し
ていた欠陥は消失できても、その後の材料の経年劣化が
加速されて補修部に新たな応力腐食割れ等の欠陥が発生
してしまう。
【0022】本発明では、第1の工程として、従来と同
様に欠陥を含む領域を溶融して凝固させ欠陥を消失させ
た後、第2の工程を施すことにより、補修後の材料の経
年劣化が加速されることを防ぐ。第2の工程は、第1の
工程で溶融凝固させた領域の表面部に再びエネルギーを
投入して、表面部を再溶融した後、0.1μm以上3.
0μm以下の大きさの樹枝状結晶から構成させる表面領
域を形成されるような冷却速度で凝固させるものであ
る。ここで、0.1μm以上3.0μm以下の大きさの
樹枝状結晶とは、樹枝状結晶の幹の部分の幅が0.1μ
m以上3.0μm以下のものをいう。このような組織構
造の表面領域が形成されるためには、溶融状態から急冷
される必要があり、図20に示すように、炭化物の析出
温度に保持される時間が短くなるため、Cr炭化物の析
出やP,S,Si,Moなどの原子の偏析が存在しない
かあるいは極めて低く抑止される。したがって、表面領
域が腐食環境下に長期間さらされても、Cr炭化物の析
出や原子の偏析による経年劣化は抑止される。また、第
1の工程で形成された領域の内部部分は、表面領域が破
壊されないかぎり、腐食環境下には接触しないため、経
年劣化は生じない。
【0023】さらに、この第2の工程で表面領域を成形
することによって、溶接時あるいは上記第1段階での補
修施工時に発生している引張残留応力は大きく低減され
る。したがって、第2の工程の施工によって当該部の引
っ張り残留応力因子による経年劣化は抑止される。
【0024】次に、中性子照射による照射脆化が生じて
いる構造物に対する本発明の補修方法の施工の作用を述
べる。
【0025】ステンレス鋼やインコネルなどのFe基あ
るいはNi基合金等に中性子が照射されたとき、中性子
と構成原子の相互作用によって構成原子が熱力学的平衡
状態で安定な格子点位置からはじきだされ、元の格子点
位置は原子空孔となり、はじきだされた原子と原子空孔
からなる一対の欠陥が形成される。ここで2×1021
/cm2(中性子エネルギ−>0.1MeV)あるいは4
×1021n/cm2(中性子エネルギ−>1MeV)以上
の高い線量の中性子照射(約4dpa以上)を受けてい
るステンレス鋼やインコネルなどのFe基あるいはNi
基合金等の構造物では上記の欠陥が多数存在している。
このような材料は引張応力が加わって変形しようとする
とき、結晶粒内において上記欠陥と転位との相互作用に
よって転位の移動が阻止され、結晶粒内での塑性変形は
著しく阻害される。従って、加わる引張応力が材料の塑
性変形を促すような大きさ(降伏点以上)になったと
き、材料は結晶粒の変形が阻害されているため、応力を
開放するために結晶粒界で割れ破壊が生じやすくなる。
これが中性子照射による材料の照射脆化である。
【0026】従って、図4のように、構造物の照射脆化
した領域12に亀裂状の欠陥10が生じている場合、図
5(a)のように本発明の第1の工程や従来技術で溶融
ビード3を形成したり、図5(b)に示すように、従来
技術でホール7を形成して肉盛溶接部6を形成すると、
必然的に凝固時に生じる凝固収縮によって応力が発生
し、この応力は材料の降伏点以上に達する場合が多い。
この応力によって溶融部周囲の脆化している部分、特に
熱影響部4及び9において、割れが発生する可能性が高
くなり、存在する割れを溶融処理によって消失させても
その周囲に新たな割れが発生して応力腐食割れ環境下で
割れが進展して事故に至る危険性が大きい。
【0027】そこで、本発明では、構造物が照射脆化し
ている場合、第1の工程を施す前に、第1の工程を施す
領域を含む領域について、照射によって形成された欠陥
を消去せしめ、照射脆化を回復させるための熱処理を行
う。具体的には、構造物の溶体化温度以下の温度で熱処
理を行う。照射脆化を回復させるための熱処理を行った
領域に第1の工程および第2の工程を施すことにより、
第1の工程で結晶粒界で割れが生じることを防止し、か
つ、補修後の経年劣化を防いだ補修を行うことができ
る。
【0028】
【実施例】以下に本発明の実施例を図面に基づいて説明
する。
【0029】本発明の実施例1から実施例4により、原
子炉炉内の構造物であって、中性子照射による照射脆化
の影響を考慮する必要が無い構造物に、応力腐食割れ等
によって発生した亀裂状の欠陥を補修する方法について
説明する。
【0030】この構造物の構成を図2を用いて説明す
る。構造物1は、炭素含有量が0.02wt%以上であ
るオ−ステナイト系ステンレス鋼などのFe基合金ある
いはインコネルなどのNi基合金製である。亀裂状の欠
陥10が存在している領域2は、溶接熱影響部などで材
料の結晶粒界にCr炭化物が析出しているか、あるいは
中性子照射の影響で粒界でのCr濃度が局部的に低下
し、鋭敏化している。構造物1が受けた中性子の照射量
は、2×1021n/cm2(中性子エネルギ−>0.1M
eV)以下あるいは4×1021n/cm2(中性子エネル
ギ−>1MeV)以下の低い線量の中性子照射(約4d
pa以上)であり、照射脆化の影響は無視することがで
きる。亀裂状の欠陥10の長さは、500μm以上であ
る。
【0031】(実施例1)まず、本発明の第1の実施例
として、溶融処理と表面処理とを含んだ2段階の処理に
より欠陥10を補修する方法について説明する。
【0032】まず、亀裂状の欠陥10の大きさや形状を
把握するために超音波あるいはX線等による非破壊探傷
検査を実施する。これにより、亀裂状の欠陥10の大き
さや形状を把握した後、図3(a)に示すように、レ−
ザ光あるいはア−クなどのエネルギ−5を投入して、欠
陥10が溶融ビ−ド3内に含まれるように溶融処理を施
し欠陥10を消失させる。欠陥10が完全に溶融した
ら、エネルギー5の投入を停止し、溶融ビード3を凝固
させる。これを第1段階とする。ただし、構造物1の領
域2が軽水炉の炉内構造物のように水環境に接してお
り、酸化皮膜等が付着している場合は、エネルギ−5を
投入する前に、水を抜き、前処理として、ワイヤ−ブラ
シやグラインダ−等で領域2の表面に付着している皮膜
等の不純物を除去しておく。これにより、溶融処理時に
不純物が混入することを防止できる。
【0033】エネルギー5により、投入される入熱量は
対象となる構造物の板厚や形状、あるいは発生している
欠陥の大きさに応じて調節する。また、この段階での熱
エネルギ−投入はできるだけ小入熱が望ましいが、後に
第2段階での表面処理を施すため、従来のように、大入
熱を投入してもよい。この第1段階の亀裂消失工程によ
って、存在していた欠陥10の進展を止めることがで
き、欠陥10が構造物1を貫通することによる応力腐食
割れ等の割れ破壊、あるいはプラントの水漏れ等の事故
を防止することが可能である。
【0034】なお、この溶融処理による第1段階の状態
では溶融ビ−ド3の周囲の熱影響部4が生じる。この熱
影響部4は、鋭敏化された領域2内に存在するため、鋭
敏化と第1段階の処理で受けた熱が複合して、Cr炭化
物の析出が加速される。また、溶融ビード3において
も、Cr炭化物の核形成やP,S,Si,Moなどの原
子が偏析している。さらに、溶融ビード3が凝固する際
の収縮により、引っ張り応力が溶融ビード3及び熱影響
部4に発生する。そのため、このままでは補修後の経年
劣化の原因となる。
【0035】そこで第2段階として、図1(a)に示す
ように溶融ビ−ド3及びその熱影響部4を含む領域、あ
るいは溶接熱影響部2全体を含む領域の表面に、再びレ
−ザ光あるいはア−クなどのエネルギ−5を投入して、
表面部を材料の融点以上に加熱しつつ、エネルギ−源を
移動させて、材料の自己冷却による急冷効果によって表
面部に急冷凝固スポット6が一部重なりあった層を形成
させる。具体的には、図21のように、形成された急冷
凝固スポット6が一部重なるようにパルス状のエネルギ
−5を移動させながら投入することによって、当該領域
に渡った表面改質層を形成する処理を行う。重ねる幅は
急冷凝固スポット6の幅の1/4〜1/2が適当であ
る。また、この時のエネルギ−5の投入に当たって、図
17に示すように入熱量を0.1〜100J/mmの範囲
に制御することにより、厚さ6mmから38mm程度の
通常の原子炉炉内構造物は、自己冷却により冷却速度1
3℃/s〜107℃/sの範囲で急冷される。この場
合、急冷凝固スポット6は、樹枝状結晶で構成され、樹
枝状結晶の幹の部分の幅は、0.1〜3.0μmの範囲
となる。以下、樹枝状結晶の幹の部分の幅をセル間隔と
呼ぶ。
【0036】このような条件を満たすように急冷した場
合、図20に示したように、炭化物析出温度に保持され
る時間が短くなるため、急冷凝固スポット6およびスポ
ット6の周辺の熱影響部に析出核が形成されないかまた
は形成される頻度が極めて小さい。そのため、Cr炭化
物の析出やP,S,Si,Moなどの原子の偏析が存在
しないかあるいは極めて低く抑止された5〜500μm
の表面改質層が形成される。したがって、表面改質部に
は、経年劣化を生じせしめるだけのCr炭化物やP,
S,Si,Moなどの原子の偏析が存在しないため、補
修後に低温鋭敏化条件におかれても、粒界腐食は発生し
ない。さらに、この表面改質によって溶接熱影響あるい
は第1段階の亀裂を溶融する処理で生じた引張残留応力
を低減させることができる。
【0037】以上のように2段階の工程を含んだ補修を
施すことによって、亀裂進展による事故を防止し、かつ
補修後の経年劣化による応力腐食割れ等の亀裂発生を抑
止し、構造物の健全性を長期化させることが可能であ
る。また、この2つの段階以外の工程を含めることもも
ちろん可能である。
【0038】上述の第1段階と第2段階のエネルギ−を
投入する際に、第1段階ではア−ク、第2段階ではレ−
ザというように異なったエネルギ−源を用いてもよい
が、第1及び第2段階ともに同じレ−ザを用いて、第1
段階では入熱量大、第2段階では図17に示す入熱範囲
というように照射条件を変化させれば、一連の施工手順
が簡略化し、補修時間が短縮化され、より効率的であ
る。
【0039】本実施例では、第2段階において、パルス
状のエネルギー5を図21のように線状に移動させなが
ら、表面改質部6を形成したが、以下のように急冷凝固
スポット6を形成することにより隣接する急冷凝固スポ
ット6間の熱影響を低減することができ、Cr炭化物の
析出や原子の偏析頻度をさらに低減することが可能であ
る。具体的には、エネルギー5を線状に移動させずに、
図22のように、(n−1)回目のパルスで形成した急
冷凝固スポット6と、n回目のパルスで形成した急冷凝
固スポット6と、(n+1)回目のパルスで形成した急
冷凝固スポット6とが、互いに重ならないように、パル
ス状のエネルギー5を改質すべき領域内で動かし、最終
的に図1(a)のように急冷凝固スポット6が重なりあ
った表面改質層を形成する。このようにパルス状のエネ
ルギー5を移動させることにより、完全に凝固した急冷
凝固スポット6に隣のスポット6が重なるため、熱影響
が低減される。
【0040】また、実施例1では、第2段階において、
エネルギー5の入熱量を0.1〜100J/mmの範囲に
制御することにより、構造物1の自己冷却で冷却速度を
103℃/s〜107℃/sに制御したが、構造物によっ
ては、入熱量を上記範囲に制御しても冷却速度が103
℃/s〜107℃/sの範囲に入らない可能性がある。
この場合には、構造物1を裏面側から水または液体窒素
で冷却しながら、急冷凝固スポット6を形成すること
で、冷却速度を上記範囲にすることができる。この場
合、冷却速度が上記範囲に入っているかどうかは、急冷
凝固スポット6のセル組織を観察することで確認でき
る。セル間隔が0.1〜3.0μmの範囲内に入ってい
れば、上記冷却速度が達成されている。
【0041】また、第2段階で投入するエネルギー5
は、必ずしもパルス状である必要はなく、連続したエネ
ルギーを用いることももちろん可能である。連続したエ
ネルギーを用いる場合には、入熱量を0.1〜100J
/mmの範囲に制御し、エネルギー源を線状に移動させる
ことにより、急冷凝固された表面改質層を形成すること
ができる。
【0042】さらに、第2段階において、エネルギー5
により表面部を溶融させる代わりに、材料の溶体化温度
以上融点以下に加熱しつつ、材料の自己冷却による急冷
効果によって表面部に溶体化層を形成させても有効であ
る。
【0043】(実施例2)本発明の第2の実施例とし
て、肉盛溶接と表面処理とを含んだ2段階の処理によ
り、図2の欠陥10を補修する方法について説明する。
【0044】本実施例も実施例1と同様に、図2のよう
に構造物1の鋭敏化している領域2において応力腐食割
れ等によって500μm以上の亀裂状の欠陥10が存在
する状態が初期状態である。
【0045】まず、実施例1と同様に欠陥10の大きさ
や形状を把握するために超音波あるいはX線等による非
破壊探傷検査を実施する。次に、欠陥10の大きさや形
状を把握した後、図3(b)に示すように、ドリル等の
機械切削あるいは放電加工等の方法によって欠陥10を
含む部分に、局部的にホ−ル7を形成して欠陥10を除
去する。
【0046】次にフィラ−状の溶加材11を供給しつつ
レ−ザ光あるいはア−クなどのエネルギ−5を投入して
溶加材11を溶融させ、上記ホ−ル7を溶融凝固した溶
加材からなる肉盛溶接金属で充填し、肉盛溶接部8を形
成させる。溶加材11の成分は、オ−ステナイト系ステ
ンレス鋼の場合、SUS308L,SUS316L等で
炭素含有量が0.02wt%以下であることが望まし
い。また、対象部位が軽水炉の炉内構造物のように水環
境に接しており、酸化皮膜等が付着している場合は、溶
融凝固時での不純物の混入を防止するため、欠陥除去処
理する前に前処理として、ワイヤ−ブラシやグラインダ
−等で皮膜等の不純物を除去した後に、欠陥10の除去
処理を実施する。また、この段階での熱エネルギ−5の
投入は大入熱を投入する従来技術でよい。
【0047】この第1段階としての欠陥10を消失させ
る工程によって、存在していた欠陥10が進展し構造物
1を貫通することによる応力腐食割れ等の割れ破壊、あ
るいはプラントの水漏れ等の事故を防止することが可能
である。なお、この第1段階の状態では肉盛溶接部8の
周囲の熱影響部9あるいは肉盛溶接部8においてCr炭
化物の核形成やP,S,Si,Moなどの原子が偏析し
ており、このままでは補修後の経年劣化の原因となる。
【0048】そこで第2段階として、実施例1と同様
に、図1(b)に示すように肉盛溶接部8及びその熱影
響部9を含む領域、あるいは溶接熱影響部2全体を含む
領域の表面に、再びレ−ザ光あるいはア−クなどのパル
ス状のエネルギ−5を投入して、表面部を材料の融点以
上に加熱しつつ、エネルギ−源を移動させて、材料の自
己冷却による急冷効果によって表面部に急冷凝固スポッ
ト6を重ねた層を形成させる。具体的には、形成された
急冷凝固スポット6が一部重なるようにエネルギ−5を
平行移動させながら投入することによって、当該領域に
渡った表面改質処理を行う。重ねる幅は急冷凝固スポッ
ト6の幅の1/4〜1/2が適当である。また、この時
のエネルギ−5の投入に当たって、実施例1と同じよう
に入熱量を0.1〜100J/mmの範囲に制御すること
により、エネルギ−の投入された材料の冷却速度を10
3℃/s〜107℃/sの範囲に制御する。これにより、
表面溶融処理の場合平均セル間隔が0.1〜3.0μm
の範囲にあるセル組織を持つ急冷凝固組織が形成され
る。
【0049】このような冷却条件で急冷凝固スポット6
を重ねると、実施例1で説明したように、Cr炭化物の
析出やP,S,Si,Moなどの原子の偏析が存在しな
いかあるいは極めて低く抑止された5〜500μmの表
面改質層が形成される。この表面改質層は、補修後の経
年劣化を生じせしめるだけのCr炭化物やP,S,S
i,Moなどの原子の偏析が存在しないため、補修後に
低温鋭敏化条件におかれても粒界腐食は発生しない。ま
た、この表面改質によって溶接熱影響あるいは第1段階
での亀裂消失処理で生じた引張残留応力を低減させるこ
とができる。
【0050】第2段階において、投入されるエネルギ−
5は、必ずしもパルス状である必要は無く、連続的なエ
ネルギによって表面改質部を形成させてもよい。
【0051】また、表面部を溶融させる代わりに、材料
の溶体化温度以上融点以下に加熱しつつ、材料の自己冷
却による急冷効果によって表面部に溶体化層を形成させ
ても有効である。
【0052】以上の2段階の工程を施すことによって、
亀裂進展による事故を防止し、かつ施工後の経年劣化に
よる応力腐食割れ等の亀裂発生を抑止し、構造物の健全
性を長期化させることが可能である。また、この2つの
段階以外の工程を含めることももちろん可能である。
【0053】ここで、第1段階と第2段階のエネルギ−
投入において、第1段階ではア−ク、第2段階ではレ−
ザというように異なったエネルギ−源を用いてもよい
が、第1及び第2段階ともに同じレ−ザを用いて、第1
段階では入熱量大、第2段階では第17図に示す入熱範
囲というように照射条件を変化させれば、一連の施工手
順が簡略化し、施工時間が短縮化され、より効率的であ
る。
【0054】(実施例3)本発明の第3の実施例とし
て、キ−ホ−ル形状の溶融ビ−ドを形成することにより
欠陥10を補修する方法について説明する。本実施例も
実施例1と同様に、図2のように構造物1の鋭敏化して
いる領域2において応力腐食割れ等によって500μm
以上の亀裂状の欠陥10が入っている状態が初期状態で
ある。
【0055】まず、欠陥10の大きさや形状を把握する
ために超音波あるいはX線等による非破壊探傷検査を実
施する。
【0056】次に、欠陥10の大きさや形状を把握した
後、図6(a)に示すように、焦点を領域2の表面にあ
わせたレ−ザ光をエネルギ−5として投入して、欠陥1
0がキ−ホ−ル型の溶融ビ−ド13内に含まれるように
溶融処理を施し、欠陥10を消失させる。対象部位が軽
水炉の炉内構造物のように水環境に接しており、酸化皮
膜等が付着している場合は、溶融凝固時での不純物の混
入を防止するため、エネルギ−を投入する前に前処理と
して、水を抜き、ワイヤ−ブラシやグラインダ−等で皮
膜等の不純物を除去した後に、エネルギ−5の投入によ
る溶融処理を実施する。この時投入される入熱量は対象
となる構造物の板厚や形状、あるいは発生している欠陥
の大きさによるが、できるだけ小入熱で深い溶け込みが
得られるように調節する。
【0057】しかし、本実施例では、実施例1のように
表面改質の工程を行わないので、施工後の経年劣化を抑
止するに、Cr炭化物析出抑止及び引張残留応力低減の
観点から、およそ入熱量は5×103J/mm以下にする
必要があり、かつ、同時に溶け込み深さの大きいキ−ホ
−ル型の溶融ビ−ド13を形成させるためにエネルギ−
の出力密度を高くする必要がある。低入熱かつ高出力密
度のレーザ光を照射することによって、溶融プール内に
形成されたキャビティ内にプラズマおよび金属蒸気が発
生し、キャビティ内の重力、表面張力、蒸気圧のバラン
スにより溶融幅が小さく、かつ、溶け込み深さの大きい
キーホール型の溶融ビード13が形成される。
【0058】具体的には、本実施例において亀裂深さが
0.5〜2.0mmの範囲とした場合、図18に示すよう
に、出力密度を104〜107W/mm2かつ入熱量を1×
101〜5×103J/mmの範囲に制御する。この制御範
囲においては、自己冷却による冷却速度が速いため、C
r炭化物の析出やP,S,Si,Moなどの原子の偏析
が存在しないかあるいは極めて低く抑止され、補修後の
経年劣化を防止することができる。
【0059】また、上記の入熱制御範囲では消失し切れ
ない大きさの欠陥に対しては、(1)入熱量を大きくし
て実施例1のように第2段階として表面改質処理を施す
一連の工程とするか、あるいは(2)亀裂先端部を残存
したまま亀裂の入り口を封じ込める処理とする(実施例
4にて詳述する)ことによって構造物の健全性は長期化
される。また、上記の入熱制御範囲の施工であっても安
全性をさらに高める観点から、第2段階として実施例1
で述べた表面改質処理を施す一連の工程とすることによ
って構造物の健全性はさらに長期化される。
【0060】以上の工程を施すことによって、亀裂進展
による事故を防止し、かつ施工後の経年劣化による応力
腐食割れ等の亀裂発生を抑止し、構造物の健全性を長期
化させることが可能である。
【0061】(実施例4)本発明の第4の実施例とし
て、欠陥10の先端部を残したまま、欠陥の入口を封じ
込めることにより、欠陥10を補修する方法について説
明する。本実施例も実施例1と同様に、図2のように鋭
敏化している領域2において応力腐食割れ等によって5
00μm以上の亀裂状の欠陥10が入っている状態が初
期状態である。
【0062】まず、欠陥10の大きさや形状を把握する
ために超音波あるいはX線等による探傷検査を行う。
【0063】次に、欠陥10の大きさや形状を把握した
後、図7に示すように、欠陥10を含む領域、あるいは
溶接熱影響部2全体を含む領域の表面にレ−ザ光あるい
はア−クなどのパルス状のエネルギ−5を投入して、表
面部を融点以上に加熱したのち、自己冷却により急冷
し、欠陥10の入り口が封じ込められるように表面溶融
処理を施す。エネルギ−5の投入に当たって、実施例1
の第2段階と同様に、入熱量を0.1〜100J/mmの
範囲に制御することにより、エネルギ−の投入された材
料の冷却速度を103℃/s〜107℃/sの範囲に制御
する。これにより、平均セル間隔が0.1〜3.0μm
の範囲にあるセル組織を持つ急冷凝固組織を形成され
る。
【0064】この制御範囲のときにCr炭化物の析出や
P,S,Si,Moなどの原子の偏析が存在しないかあ
るいは極めて低く抑止された深さ5〜500μmの急冷
凝固スポット6が重なった表面改質層が形成される。
【0065】応力腐食割れによる亀裂上の欠陥の進展
は、構造物が水環境に接している場合には、欠陥の先端
において引っ張り応力による皮膜破壊と金属の水環境へ
の溶解が繰り返されて生じる現象である。従って、本実
施例では欠陥10の入口を封じ込められるため、欠陥1
0の先端部はもはや原子炉の炉水とは接しないため、欠
陥10の先端が炉水に溶解することはなく、欠陥10の
進展を止めることができる。したがって、欠陥10が構
造物1を貫通する事故が防止でき、かつ、施工後の経年
劣化による応力腐食割れ等の亀裂発生を抑止し、構造物
の健全性を長期化させることが可能である。
【0066】また、エネルギ−5投入は、必ずしもパル
スある必要は無く、連続したレ−ザの照射によって、表
面改質層を形成させてもよい。この表面改質部6は、施
工後の経年劣化を生じせしめるだけのCr炭化物やP,
S,Si,Moなどの原子の偏析が存在しない。さら
に、この表面改質によって溶接熱影響で生じた引張残留
応力を低減させることができる。
【0067】また、エネルギー5を投入する際には、実
施例1で述べたように、構造物1を裏面から水や液体窒
素で冷却することにより、冷却速度を上述の範囲内に制
御する方法を用いることももちろん可能である。
【0068】次に、実施例5から10により、原子炉炉
内の構造物であって、中性子照射による照射脆化の影響
を考慮する必要のある構造物について、応力腐食割れ等
によって亀裂が発生するまえに表面改質を行い予防保全
する方法と、応力腐食割れ等によって発生した亀裂状の
欠陥を補修する方法について説明する。
【0069】この構造物の構成を図8を用いて説明す
る。構造物は、炭素含有量が0.02wt%以上である
オ−ステナイト系ステンレス鋼などのFe基合金あるい
はインコネルなどのNi基合金製である。この構造物の
領域12は、溶接熱影響部などであり、中性子照射によ
る材料の脆化及び結晶粒界でのCr欠乏が生じており、
かつ、溶接熱影響によって材料の結晶粒界にCr炭化物
が析出してCr濃度が低下し、鋭敏化している。構造物
が受けた中性子の照射量は、2×1021n/cm2(中性
子エネルギ−>0.1MeV)あるいは4×1021n/
cm2(中性子エネルギ−>1MeV)以上の高い線量の
中性子照射(約4dpa以上)である。
【0070】ステンレス鋼やインコネルなどのFe基あ
るいはNi基合金に中性子が照射されると、中性子と構
成原子の相互作用によって構成原子が熱力学的平衡状態
で安定な格子点位置からはじきだされ、元の格子点位置
は原子空孔となり、はじきだされた原子と原子空孔から
なる一対の欠陥が形成される。2×1021n/cm2(中
性子エネルギ−>0.1MeV)あるいは4×1021
/cm2(中性子エネルギ−>1MeV)以上の高い線量
の中性子照射(約4dpa以上)を受けているステンレ
ス鋼やインコネルなどのFe基あるいはNi基合金の構
造物では上記の欠陥が多数存在している。
【0071】このような構造物は、引張応力が加わって
変形しようとするとき、結晶粒内において上記欠陥と転
位との相互作用によって転位の移動が阻止され、結晶粒
内での塑性変形は著しく阻害される。従って、加わる引
張応力が材料の塑性変形を促すような大きさ(降伏点以
上)になったとき、材料は結晶粒の変形が阻害されてい
るため、応力を開放するために結晶粒界で割れ破壊が生
じやすくなる。これが中性子照射による材料の照射脆化
である。
【0072】このような構造物に実施例1〜4で説明し
たような溶融熱処理を施すと、凝固時に生じる凝固収縮
によって応力が発生し、この応力は材料の降伏点以上に
達する場合が多い。この応力によって溶融部周囲の脆化
している部分、特に熱影響部において、割れが発生する
可能性が高くなり、存在する割れを溶融処理によって消
失させてもその周囲に新たな割れが発生して応力腐食割
れ環境下で割れが進展して事故に至る危険性が大きい。
そのため、中性子照射による照射脆化の影響を考慮した
予防保全方法ならびに補修方法が必要である。
【0073】(実施例5)本発明の第5の実施例とし
て、照射脆化した構造物に対する欠陥発生の予防のため
の保全方法を説明する。図8(a)のように領域12に
おいて鋭敏化あるいは中性子照射によるCr欠乏が生じ
て応力腐食割れ感受性が高くなっており、かつ中性子照
射によって脆化している状態が初期状態である。
【0074】まず、第1段階として照射脆化の回復熱処
理を施す。適正な熱処理条件は構造物の種類によって異
なるが、本実施例ではオ−ステナイト系ステンレス鋼の
場合(SUS304、SUS308、SUS316等)
について述べる。
【0075】回復熱処理の条件としては、オ−ステナイ
ト系ステンレス鋼やインコネルなどの面心立方金属で
は、熱処理温度として約400℃以上溶体化温度(約1
300℃)以下が望ましい。温度保持時間としては低温
ほど長時間必要で高温では短時間の熱処理でよい。図1
9(a)に照射脆化を回復させるための熱処理の適正な
温度−保持時間範囲を示す。しかしながら、ステンレス
やインコネル等において材料の炭素含有量が0.02w
t%以上と高い場合、図19(b)に示すように500
〜800℃の温度範囲において粒界にCr炭化物が析出
し、材料が鋭敏化して耐食性が劣化する恐れがある。
【0076】補修施工の際、対象部近傍の局部的な熱処
理であれば第1段階の回復熱処理で熱影響部にCr炭化
物が析出して鋭敏化感受性を有することになっても、第
2段階以降の表面改質等の処理によって材料表面部の耐
食性は向上されることになるので問題はない。しかし、
補修対象部のみならず中性子照射された広い範囲に渡っ
た領域を回復熱処理させる場合、熱処理領域全てを表面
改質処理するには膨大な施工時間を要する。従って、広
い範囲に渡った領域を回復熱処理させる場合には上記の
500〜800℃の温度領域を避けることが望ましい。
【0077】すなわち、材料の炭素含有量が0.02w
t%以上と高い場合材料の回復熱処理における適正範囲
は図19(c)に示すように350〜500℃で30〜
120minあるいは800〜1300℃で0.01〜
30minである。一方、炭素含有量が0.02wt%
以下と低い場合、500〜800℃の温度範囲において
も鋭敏化感受性はあまり有しないので問題はない。
【0078】これをまとめると次のようになる。
【0079】(i)炭素含有量が0.02wt%以下の
低炭素オ−ステナイト系ステンレス鋼の場合、鋭敏化温
度を避ける必要はない。従って熱処理条件は、図19
(a)に示すように400〜1300℃で0.01〜1
20minの領域Aが望ましい。
【0080】(ii)炭素含有量が0.02wt%以上の
高炭素オ−ステナイト系ステンレス鋼の場合、鋭敏化温
度を避ける必要がある。従って熱処理条件は、図19
(C)に示すように400〜500℃で30〜120m
inの領域Cか、あるいは800〜1300℃で0.0
1〜30minの領域Bが望ましい。
【0081】回復熱処理を施す加熱源15は、図9
(a)に示すように高周波加熱装置か、あるいはレ−ザ
を用いる。加熱源15により、回復すべき範囲を含む領
域を加熱し、回復層16を形成する。回復層16の深さ
は、次の段階での急冷凝固スポット6の深さより大きく
しておく。本実施例では、回復層16を500μm以上
形成した。
【0082】次に第2段階として、図9(b)に示すよ
うに回復熱処理した回復層16の領域の表面に、再びレ
−ザ光あるいはア−クなどのエネルギ−5を投入して、
表面部を材料の融点以上に加熱したのち急冷し、表面部
に急冷凝固スポット6を形成させる。このとき急冷凝固
スポット6が照射脆化領域12に重ならないようにす
る。エネルギ−投入する回復層16は第1段階での熱処
理によって延性が回復しているので、凝固収縮等による
割れは発生しない。また、この段階での入熱条件等の施
工条件は実施例1での第2段階の表面改質条件と同様で
あるので説明を省略する。
【0083】この時、処理領域において、図10(a)
に示すように表面改質施工端部と回復層端部との間が未
表面処理の回復層部分17として残ることになる。対象
とする構造物の炭素含有量が0.02wt%以下である
場合、あるいは回復熱処理が前述したように鋭敏化領域
を避けて行われた場合には未表面処理の回復層部分17
が経年的に劣化することは無い。しかし、構造物の炭素
含有量が0.02wt%以上である場合、かつ回復熱処
理が鋭敏化領域に近いまたは冷却過程で鋭敏化領域を通
過する条件で行われた場合には上記の未表面処理の回復
層部分17が経年劣化する可能性がある。その場合には
第3段階として次のように端部処理を施す。
【0084】図10(b)に示すように未表面処理の回
復層部分17にレ−ザ光等のエネルギ−5を投入して表
面部を溶体化温度以上融点以下に加熱したのち急冷して
表面溶体化層18を形成させる。融点以下の表面加熱処
理であるので照射脆化領域12に重なる部分での凝固収
縮による割れ等は生じず、かつ経年劣化も抑止されるこ
とになる。
【0085】第2段階での表面改質施工の際、融点以上
に加熱せず表面溶体化処理とする場合には、第2段階と
第3段階を一緒にして一連の施工をすることができ、第
3段階は不要である。
【0086】以上の2段階(端部処理する場合には3段
階)の施工を施すことによって、表面部にCr炭化物の
析出や、原子の偏析が存在しないかあるいは極めて低く
抑止された表面改質層が形成されるので、中性子照射に
よって延性の低下した構造物にたいしても、施工後の経
年劣化による応力腐食割れ等の発生を抑止し、構造物の
健全性を長期化させることが可能である。
【0087】ここで、第1段階と第2段階の熱処理にお
いて、第1段階では高周波加熱、第2段階ではレ−ザと
いうように異なったエネルギ−源を用いてもよいが、第
1及び第2段階ともに同じレ−ザを用いて、第1段階で
は出力密度を小さくかつスポット径を大きくして表面溶
体化処理条件のように施工し、第2段階では第17図に
示す入熱範囲というように照射条件を変化させれば、一
連の施工手順が簡略化し、施工時間が短縮化され、より
効率的である。
【0088】(実施例6)本発明の第6の実施例とし
て、構造物の照射脆化領域に存在する500μm以下の
微小欠陥を補修する方法について説明する。図8(b)
のように照射脆化領域12において鋭敏化あるいは中性
子照射によるCr欠乏が生じて応力腐食割れ感受性が高
くなっているとともに500μm以下の微小な欠陥14
が存在しており、かつ中性子照射によって脆化している
状態が初期状態である。
【0089】まず、欠陥の大きさや形状を把握するため
に超音波あるいはX線等による探傷検査を実施する。欠
陥14が500μm以下の大きさである場合に限って、
本実施例は適用可能である。
【0090】次に、実施例5と同様に、図11(a)の
ように、第1段階として照射脆化の回復熱処理を施し
て、回復層16を形成し、第2段階として、図11
(b)のように、急冷凝固スポット6により表面溶融改
質層を形成する。表面溶融改質層の深さは、上記の存在
する欠陥14の深さより深くする。これにより、欠陥1
4は消失する。第1段階での熱処理条件及び第2段階で
の表面改質条件は実施例5と同様であるので説明を省略
する。また端部処理する必要が有るときは実施例5に示
した端部処理を表面溶体化層18を形成する処理を施
す。
【0091】以上の2段階(端部処理する場合は3段
階)の施工を基本とする一連の工程を施すことによっ
て、中性子照射によって延性の低下した構造物に対して
も、微小欠陥14を消失させると同時に施工後の経年劣
化による応力腐食割れ等の発生を抑止し、構造物の健全
性を長期化させることが可能である。
【0092】(実施例7)次に本発明の第7の実施例と
して、構造物の照射脆化領域に存在する500μm以上
の欠陥を、照射脆化の回復熱処理と欠陥の溶融処理と表
面処理によって補修する方法について説明する。照射脆
化領域において鋭敏化あるいは中性子照射によるCr欠
乏が生じて応力腐食割れ感受性が高くなっているととも
に500μm以上の欠陥が存在しており、かつ中性子照
射によって脆化している状態が初期状態である。
【0093】まず、欠陥10の大きさや形状を把握する
ために超音波あるいはX線等による非破壊探傷検査を実
施する。欠陥が500μm以下の大きさである場合に
は、実施例6の施工を実施すればよい。欠陥が500μ
m以上の大きさである場合には、以下に述べる施工を行
う。
【0094】まず、第1段階として照射脆化の回復熱処
理を行い、図12(a)のように回復層16を形成す
る。熱処理条件は実施例5と同様であるが、回復層16
の深さは、欠陥10近傍に対しては後の第2段階での欠
陥10の消失のための溶融ビ−ド3及び熱影響部4の深
さより大きくする必要があり、その周囲の処理対象部に
対しては、少なくとも第3段階での急冷凝固スポット6
を重ねた表面改質層の深さより大きくする必要がある。
【0095】次に、第2段階として欠陥10の大きさや
形状を把握した後、図12(b)に示すように、レ−ザ
光あるいはア−クなどのエネルギ−5を投入して、欠陥
10が溶融ビ−ド3内に含まれるように溶融処理を施し
欠陥10を消失させる。
【0096】さらに、第3段階として、図12(c)に
示すように溶融ビ−ド3及びその熱影響部4を含む領
域、あるいは回復熱処理した後の当該領域の表面に、急
冷凝固スポット6を重ねた表面改質層を形成させる。こ
の第2及び第3段階での施工条件は実施例1と同様であ
るので説明を省略する。また端部処理する必要が有ると
きは実施例5に示した端部処理を施す。
【0097】以上の3段階(端部処理をする場合には4
段階)の施工を基本とする一連の工程を施すことによっ
て、中性子照射によって延性の低下した構造物に対して
も、亀裂進展による事故を防止し、かつ施工後の経年劣
化による応力腐食割れ等の亀裂発生を抑止し、構造物の
健全性を長期化させることが可能である。
【0098】ここで、一連のエネルギ−投入において、
各段階で異なったエネルギ−源を用いてもよいが、同じ
レ−ザを用いて照射条件を変化させて一連の施工を行え
ば、施工時間が短縮化され、より効率的である。
【0099】(実施例8)本発明の第8の実施例とし
て、構造物の照射脆化領域に存在する500μm以上の
欠陥を、照射脆化の回復熱処理と欠陥部の肉盛溶接処理
と表面処理によって補修する方法について説明する。照
射脆化領域において鋭敏化あるいは中性子照射によるC
r欠乏が生じて応力腐食割れ感受性が高くなっていると
ともに500μm以上の欠陥存在しており、かつ中性子
照射によって脆化している状態が初期状態である。
【0100】まず、欠陥10の大きさや形状を把握する
ために超音波あるいはX線等による非破壊探傷検査を実
施する。欠陥が500μm以下の大きさである場合に
は、実施例6の施工を実施すればよい。欠陥が500μ
m以下の大きさである場合には、以下に述べる施工を行
う。
【0101】まず、第1段階として図13(a)のよう
に照射脆化の回復熱処理を行い、回復層16を形成す
る。熱処理条件は実施例5と同様であるが、回復層16
の深さは、欠陥部近傍に対しては後の第2段階での欠陥
除去のためのホ−ル7及びその熱影響部9のの深さより
大きくする必要があり、その周囲の処理対象部に対して
は、少なくとも第3段階での表面改質部6の深さより大
きくする必要がある。
【0102】次に第2段階として、図13(b)に示す
ように、ドリル等の機械切削あるいは放電加工等の方法
によって欠陥10を含む部分に局部的にホ−ル7を形成
して欠陥を除去する。次にフィラ−状の溶加材11を供
給しつつレ−ザ光あるいはア−クなどのエネルギ−5を
投入して溶加材11を溶融させ、上記ホ−ル7を溶融凝
固した溶加材からなる肉盛溶接金属で充填し、肉盛溶接
部8を形成する。この時の施工条件は実施例2と同様で
あるので説明を省略する。
【0103】さらに、第3段階として、図13(c)に
示すように肉盛溶接部8及びその熱影響部9を含む領
域、あるいは回復熱処理した後の当該領域の表面に、急
冷凝固スポット6を重ねた表面改質層を形成する。この
第2及び第3段階での施工条件は実施例1と同様であ
る。また端部処理する必要が有るときは実施例5に示し
た端部処理を施す。
【0104】以上の3段階(端部処理をする場合には4
段階)を施すことによって、中性子照射によって延性の
低下した構造物に対しても、亀裂進展による事故を防止
し、かつ施工後の経年劣化による応力腐食割れ等の亀裂
発生を抑止し、構造物の健全性を長期化させることが可
能である。
【0105】ここで、一連のエネルギ−投入において、
各段階で異なったエネルギ−源を用いてもよいが、同じ
レ−ザを用いて照射条件を変化させて一連の施工を行え
ば、施工時間が短縮化され、より効率的である。
【0106】(実施例9)本発明の第9の実施例とし
て、構造物の照射脆化領域に存在する500μm以上の
欠陥を、照射脆化の回復熱処理とキーホール形状の溶融
処理を中心にした工程によって補修する方法について説
明する。照射脆化領域において鋭敏化あるいは中性子照
射によるCr欠乏が生じて応力腐食割れ感受性が高くな
っているとともに500μm以上の欠陥存在しており、
かつ中性子照射によって脆化している状態が初期状態で
ある。
【0107】まず、欠陥10の大きさや形状を把握する
ために超音波あるいはX線等による探傷検査を実施す
る。欠陥が500μm以下の大きさである場合には、実
施例6の施工を実施すればよい。欠陥が500μm以下
の大きさである場合には、以下に述べる施工を行う。
【0108】まず、第1段階として図14のように照射
脆化の回復熱処理を行う。熱処理条件は実施例5と同様
である。この時、回復層の深さは、欠陥部近傍に対して
は後の第2段階での欠陥消失のための溶融ビ−ド13の
深さより大きくする必要がある。
【0109】次に第2段階として、図14(b)に示す
ように、レ−ザ光あるいはア−クなどのエネルギ−5を
投入して、欠陥10がキ−ホ−ル型の溶融ビ−ド13内
に含まれるように溶融処理を施し欠陥10を消失させ
る。この時の施工条件は実施例3と同様である。さらに
実施例3と同様に、図14(c)に示すように、キ−ホ
−ル型の溶融ビ−ド13を含む領域、あるいは回復熱処
理した後の当該領域の表面に、レ−ザ光を集光したエネ
ルギ−5を再び投入して、第3段階として表面改質処理
を行って急冷凝固スポット6を重ねた表面改質層を形成
すると、経年劣化に対する安全性はさらに向上する。ま
た端部処理する必要が有るときは実施例7に示した端部
処理を施す。
【0110】以上の2〜3段階(端部処理をする場合に
は3〜4段階)の施工を基本とする一連の工程を施すこ
とによって、中性子照射によって延性の低下した構造物
に対しても、亀裂進展による事故を防止し、かつ施工後
の経年劣化による応力腐食割れ等の亀裂発生を抑止し、
構造物の健全性を長期化させることが可能である。
【0111】ここで、一連のエネルギ−投入において、
各段階で異なったエネルギ−源を用いてもよいが、同じ
レ−ザを用いて照射条件を変化させて一連の施工を行え
ば、施工時間が短縮化され、より効率的である。
【0112】(実施例10)本発明の第10の実施例と
して、構造物の照射脆化領域に存在する500μm以上
の欠陥を、照射脆化の回復熱処理と欠陥の封じ込め処理
を中心にした工程によって補修する方法について説明す
る。照射脆化領域において鋭敏化あるいは中性子照射に
よるCr欠乏が生じて応力腐食割れ感受性が高くなって
いるとともに500μm以上の欠陥が存在しており、か
つ中性子照射によって脆化している状態が初期状態であ
る。
【0113】まず、欠陥10の大きさや形状を把握する
ために超音波あるいはX線等による探傷検査を実施す
る。欠陥が500μm以下の大きさである場合には、実
施例6の施工を実施すればよい。欠陥が500μm以下
の大きさである場合には、以下に述べる施工を行う。
【0114】まず、第1段階として照射脆化の回復熱処
理を行い、図15(a)のように回復層16を形成す
る。熱処理条件は実施例5と同様であるので説明を省略
する。この時、形成される回復層16の深さは、次の段
階で急冷凝固スポット6を重ねて形成する表面改質層の
深さより大きくする(500μm以上)必要がある。
【0115】次に第2段階として、図15(b)に示す
ように、欠陥10を含む領域、あるいは回復熱処理した
後の当該領域の表面にレ−ザ光あるいはア−クなどのエ
ネルギ−5を投入して、表面改質層16の表面部を融点
以上に加熱した後急冷し、急冷凝固スポット6を重ねた
表面改質層を形成する。この表面改質層によって、欠陥
10の入り口が封じ込められる。この時の施工条件は実
施例4と同様であるので説明を省略する。また、回復層
16の端部を処理する必要が有るときは実施例7に示し
た端部処理を施す。
【0116】以上の2段階(端部処理をする場合には3
段階)の施工を基本とする一連の工程を施すことによっ
て、中性子照射によって延性の低下した構造物に発生し
た欠陥10を封じ込めることができるので、欠陥10の
先端が炉水に溶解することがなく、欠陥10の進展を止
めることができる。したがって、亀裂進展による事故を
防止し、かつ施工後の経年劣化による応力腐食割れ等の
亀裂発生を抑止し、構造物の健全性を長期化させること
が可能である。
【0117】ここで、表面改質層16の形成のためのエ
ネルギー5の投入と、急冷凝固スポット6を形成するた
めのエネルギ−5の投入とにおいて、異なったエネルギ
−源を用いてもよいが、同じレ−ザを用いて照射条件を
変化させて一連の施工を行えば、施工時間が短縮化さ
れ、より効率的である。
【0118】(実施例11)次に、本発明の実施例11
として、上述の実施例1から実施例10に示した原子炉
炉内の構造物の補修方法または予防保全方法を実施する
ための装置について図16および図23を用いて説明す
る。
【0119】本実施例の装置の構成について説明する。
本実施例の装置は、原子炉炉内に導入されるロボット部
分と、原子炉炉外でロボット部分を駆動および制御する
部分とを備えている。ロボット部分は、図16のよう
に、第1ア−ム26と、第1アームに連結された第2ア
−ム27と、第2アームの先端部に取り付けられたヘッ
ド28とを備えている。第1アーム26と第2アーム2
7との連結部51、および、第2アーム27とヘッド2
8との連結部は、それぞれ、連結角度を変えることので
きる可動な連結部である。第1アーム26の端部には、
これら連結部51等を駆動するための駆動装置29が取
り付けられている。
【0120】ヘッド28について、図23を用いてさら
に説明する。ヘッド28は、補修または予防保全すべき
構造物に対してエネルギーを出射する部分である。例え
ば、ヘッド28として、高周波を照射するためのヘッド
や、TIG等のトーチや、レーザ光を出射する光学系等
のヘッドの何れかを取り付けることができるが、本実施
例では、レーザ光を出射する光学系を取り付けている。
【0121】原子炉炉外には、レーザ発振器31と、レ
ーザ発振器31の電源38と、レーザ発振器31を冷却
するための冷却系39が配置されている。レーザ発振器
31と、ヘッド28との間には、光ファイバ33が配置
され、レーザ発振器31から出射されたレーザ光をヘッ
ド28まで導いている。原子炉炉内では、光ファイバ3
3は、第1アーム26および第2アーム27の内部を引
き回されている。レーザ発振器31と光ファイバ33と
の間には、レーザ光を光ファイバ33に入射させるため
の入射光学系32が配置されている。
【0122】また、電源38には、電源38のレーザ発
振器38への出力を制御するための制御系34が接続さ
れている。制御系34とヘッド28との間には、ヘッド
28が出射したレーザ光の一部を制御系34まで導くた
めのモニタファイバ35が配置されている。制御系34
は、モニタファイバ35が導いた光の強度から、ヘッド
28が出射している光の強度を検出し、検出結果および
施工対象部の処理条件に応じて電源38がレーザ発振器
31に供給する電力を制御する。
【0123】また、ヘッド28には、炉外に配置された
ガスボンベ36に接続されたガスホース37の端部が配
置されている。ガスホース37の端部からは、ガスが噴
出され、補修または予防保全すべき部位の周囲をガス雰
囲気に保つ。ガスホース37は、炉内においては、第1
アーム26および第2アーム27の内部を引き回されて
いる。
【0124】次に、本実施例において、補修または予防
保全を行う原子炉の構成にについて簡単に説明する。図
16のように、原子炉圧力容器19内には、シュラウド
20と、シュラウドサポ−トレグ22と、シュラウドサ
ポ−トプレ−ト23、上部格子板24、炉心支持板25
が配置されている。その他の原子炉内部機器である、燃
料棒、制御棒、蒸気乾燥器、気水分離器、シュラウドヘ
ッド、燃料集合体等が実際には配置されているが、補修
または予防保全を行うために取り外してある。また、炉
水も予め抜いておく。本実施例の装置は、シュラウド2
0の補修を行う。
【0125】つぎに、本実施例の装置を用いて、軽水炉
炉内のシュラウドを補修または予防保全する方法を説明
する。シュラウドの補修または予防保全する施工対象部
は、2×1021n/cm2(中性子エネルギ−>0.1M
eV)あるいは4×1021n/cm2(中性子エネルギ−
>1MeV)以上の高い線量の中性子照射(約4dpa
以上)を受けており、中性子照射による照射脆化の影響
を考慮する必要が有る。また、処理対象部は、溶接熱影
響部等のように、溶接の際発生する引張残留応力といっ
た応力因子と、中性子照射の影響で粒界でのCr濃度の
局部的な低下、あるいは、結晶粒界におけるCr炭化物
の析出のような材料劣化とが複合しており、応力腐食割
れ感受性が高い。
【0126】まず、本実施例の装置のうちロボットの部
分を原子炉炉内に導入する。これをさらに説明する。駆
動装置29は、連結部51等を動かし、第2ア−ム27
およびヘッド28を第1アーム26に重ねるように折た
たみ、ロボットをシュラウド20の中心位置から上部格
子板24を通過させる。通過後、駆動装置29は第2ア
−ム27やヘッド28を開き、かつ、施工対象部にアク
セス可能なように位置付ける。
【0127】つぎに、ガスボンベ36からガスホース3
7を介して、施工対象部の周囲をガスを吹き付けて、ガ
ス雰囲気にする。この状態で、レーザ発振器31が発し
たレーザ光を光ファイバ33でヘッドまで導き、施工対
象部を熱処理することにより補修または予防保全を行
う。
【0128】具体的な施工条件は、実施例5から10で
述べた補修方法または予防保全方法を用いる。ただし、
本実施例では、ヘッド28としてレーザ光を出射する光
学系のヘッドを取り付けているので、実施例5から10
では高周波熱源を用いて行った第1段階の照射脆化の回
復熱処理を、レーザ光で処理する。もちろん、ヘッド2
8として、高周波を照射するためのヘッドを取り付けれ
ば、高周波で照射脆化の回復熱処理を行うことができ
る。ここで、第1段階での回復熱処理施工時に用いる熱
源がレ−ザの場合は第2段階以降の工程においてヘッド
28を交換する必要は無いが、回復熱処理施工時に高周
波等の熱源を用いた場合は、第2段階以降の施工に当た
って、一端ロボットを炉外に取り出し、ヘッド28をレ
−ザ、TIG等の加熱源に交換する必要がある。具体的
な、施工方法や、処理対象部の表面に酸化膜が付着して
いる場合の表面グラインド等の処理を必要に応じて施す
ことについては、実施例1〜10にて述べた通りである
であるので、説明を省略する。
【0129】以上のように、本実施例の装置を用いて補
修または予防保全の工程を施すことによって、中性子照
射によって延性の低下したシュラウドについて、欠陥の
発生の予防、ならびに、発生した亀裂状の欠陥の進展を
防止することができる。これにより、シュラウドの応力
腐食割れ破壊あるいは亀裂の貫通による炉水漏洩等の事
故を防止すると同時に、施工後の経年劣化による応力腐
食割れ等の発生を抑止し、構造物の健全性を長期化させ
ることが可能である。
【0130】本実施例では炉内構造物への適用の一例と
して、シュラウドの内面施工について概略を説明した
が、本発明では中性子照射による照射脆化の有無にかか
わらず、オ−ステナイト系ステンレス鋼やインコネル製
の全ての炉内構造物に対して適用が可能であり、健全性
が長期化された軽水炉とすることができる。
【0131】
【発明の効果】本発明によれば、構造物の欠陥の補修を
行うとともに、補修部の応力腐食割れ感受性を低く抑え
ることができるため、経年劣化を防止することができ、
施工後の原子炉プラントの健全性を長期化させるのに効
果が有る。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)本発明の第1の実施例の補修方法によっ
て補修された構造物の構成を示す断面図。(b)本発明
の第2の実施例の補修方法によって補修された構造物の
構成を示す断面図。
【図2】本発明の第1から第4の実施例で補修を行う構
造物の補修前の欠陥の状態を示す断面図。
【図3】(a)本発明の第1の実施例の補修方法によっ
て溶融処理を施した構造物の断面図。(b)本発明の第
2の実施例の補修方法によって肉盛溶接処理を施した構
造物の断面図。
【図4】中性子等の照射により脆化し、さらに亀裂状の
欠陥が生じた構造物の断面図。
【図5】(a)図4の構造物を従来の溶融処理によって
補修した場合の断面図。(b)図4の構造物を従来の溶
接肉盛によって補修した場合の断面図。
【図6】(a)本発明の第3の実施例の補修方法によっ
てキーホール形状の溶融ビードを形成した構造物の断面
図。(c)本発明の第3の実施例の補修方法によって補
修された構造物の構成を示す断面図。
【図7】本発明の第4の実施例の補修方法によって補修
された構造物の構成を示す断面図。
【図8】(a)本発明の第5の実施例の予防保全方法を
おこなう前の構造物の状態を示す断面図。(b)本発明
の第6から第10の実施例で補修を行う構造物の欠陥の
状態を示す断面図。
【図9】(a)本発明の第5の実施例の予防保全方法に
よって、照射脆化の回復熱処理層を形成した構造物の断
面図。(b)本発明の第5の実施例の予防保全方法によ
って予防保全された構造物の断面図。
【図10】(a)本発明の第5の実施例の予防保全方法
によって予防保全された構造物の断面図。(b)本発明
の第5の実施例の予防保全方法によって予防保全された
構造物にさらに端部処理を施した場合の構造物の断面
図。
【図11】(a)本発明の第6の実施例の補修方法によ
って照射脆化の回復熱処理層を形成した構造物の断面
図。(b)本発明の第6の実施例の補修方法によって補
修された構造物の断面図。
【図12】本発明の第7の実施例の補修方法によって、
(a)照射脆化の回復熱処理層を形成した構造物の断面
図。(b)照射脆化の回復熱処理層に溶融処理を施した
構造物の断面図。(c)補修された構造物の断面図。
【図13】本発明の第8の実施例の補修方法によって、
(a)照射脆化の回復熱処理層を形成した構造物の断面
図。(b)照射脆化の回復熱処理層に溶接肉盛処理を施
した構造物の断面図。(c)補修された構造物の断面
図。
【図14】本発明の第9の実施例の補修方法によって、
(a)照射脆化の回復熱処理層を形成した構造物の断面
図。(b)照射脆化の回復熱処理層にキーホール形状の
溶融ビートを形成した構造物の断面図。(c)補修され
た構造物の断面図。
【図15】本発明の第10の実施例の補修方法によっ
て、(a)照射脆化の回復熱処理層を形成した構造物の
断面図。(b)補修された構造物の断面図。
【図16】本発明の第11の実施例の装置の構成を示す
ブロック図。
【図17】本発明の第1の実施例において、急冷凝固ス
ポット6を形成する際の入熱量と施工後の経年劣化度と
の関係を示すグラフ。
【図18】本発明の第3の実施例の補修方法においてキ
ーホール状の溶融ビートを形成するための入熱量および
出力密度の範囲を示すグラフ。
【図19】本発明の第5の実施例の予防保全方法におい
て(a)照射脆化を回復させるための熱処理に適した温
度と保持時間の関係を示すグラフ。(b)熱処理によっ
て鋭敏化が生じる温度範囲と保持時間の関係を示すグラ
フ。(c)材料の炭素含有量が高い場合の照射脆化を回
復させるための熱処理に適した温度と保持時間の関係を
示すグラフ。
【図20】本発明の第1の実施例において、急冷凝固ス
ポット6およびその熱影響部の温度と時間との関係を示
すグラフ。
【図21】本発明の第1の実施例において、急冷凝固ス
ポット6を形成する順序を示す説明図。
【図22】本発明の第1の実施例において、急冷凝固ス
ポット6を形成する順序を示す説明図。
【図23】図16の装置のヘッド部をの構成を示すため
の斜視図。
【符号の説明】
1…炉内構造物、2…鋭敏化部、3…溶融ビード、4…
溶融処理における熱影響部、5…熱エネルギ−、6…急
冷凝固スポット、7…ホ−ル、8…肉盛溶接部、9…肉
盛溶接時の熱影響部、10、14…欠陥、11…フィラ
−状の溶加材、12…照射脆化部、13…キ−ホ−ル形
状の溶融部、15…加熱源、16…回復層、17…未表
面処理の回復層部分、18…表面溶体化層、19…圧力
容器、20…シュラウド、21…シュラウド溶接部、2
2…シュラウドサポ−ト、23…シュラウドサポ−トレ
グ、24…上部格子板、25…炉心支持板、26…第1
ア−ム、27…第2ア−ム、28…ヘッド、29…駆動
装置、31…レ−ザ発振器、32…入射光学系、33…
光ファイバ−、34…制御系、35…モニタファイバ
−、36…ガスボンベ、37…ガスホ−ス、38…電
源、39…冷却系。
【手続補正書】
【提出日】平成6年4月19日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】図6
【補正方法】変更
【補正内容】
【図6】(a)本発明の第3の実施例の補修方法によっ
てキーホール形状の溶融ビードを形成した構造物の断面
図。(b)本発明の第3の実施例の補修方法によって補
修された構造物の構成を示す断面図。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 青野 泰久 茨城県日立市大みか町七丁目1番1号 株 式会社日立製作所日立研究所内 (72)発明者 松本 俊美 茨城県日立市大みか町七丁目1番1号 株 式会社日立製作所日立研究所内 (72)発明者 坂本 征彦 茨城県日立市大みか町七丁目1番1号 株 式会社日立製作所日立研究所内 (72)発明者 林 英策 茨城県日立市幸町三丁目1番1号 株式会 社日立製作所日立工場内 (72)発明者 玉井 康方 茨城県日立市幸町三丁目1番1号 株式会 社日立製作所日立工場内 (72)発明者 辻村 浩 茨城県日立市幸町三丁目1番1号 株式会 社日立製作所日立工場内

Claims (11)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】亀裂状の欠陥が存在する構造物の補修方法
    であって、 前記構造物の前記欠陥が生じている領域に熱エネルギー
    を投入して、前記領域を溶融した後、凝固させる第1の
    工程と、 前記領域の表面部に熱エネルギーを投入し、前記領域の
    表面部を再溶融した後、0.1μm以上3.0μm以下
    の大きさの樹枝状結晶が形成される冷却速度で凝固させ
    る第2の工程とを有することを特徴とする構造物の補修
    方法。
  2. 【請求項2】亀裂状の欠陥が存在する構造物の補修方法
    であって、 前記構造物の前記欠陥を含む領域を取り除き凹部を形成
    した後、前記構造物を構成する材料に含まれる元素を少
    なくとも一部含む材料による肉盛溶接で前記凹部を充填
    する第1の工程と、 前記領域の表面部にエネルギーを投入し、前記領域の表
    面部を再溶融した後、0.1μm以上3.0μm以下の
    大きさの樹枝状結晶が形成される冷却速度で凝固させる
    第2の工程とを有することを特徴とする構造物の補修方
    法。
  3. 【請求項3】請求項1または2において、前記第2の工
    程において、凝固時の冷却速度は、103℃/s以上1
    7℃/s以下であることを特徴とする構造物の補修方
    法。
  4. 【請求項4】請求項1または2において、前記第2の工
    程において、前記領域の表面部に投入するエネルギーを
    0.1J/mm以上100J/mm以下の範囲に制御す
    ることを特徴とする構造物の補修方法。
  5. 【請求項5】請求項1または2において、前記構造物に
    照射脆化が生じている場合、 前記第1の工程を施す前に、前記第1の工程で処理する
    領域を含む領域について、照射脆化を回復させるため
    に、前記構造物を構成する材料の溶体化温度以下に加熱
    して熱処理を施すことを特徴とする構造物の補修方法。
  6. 【請求項6】請求項5において、前記構造物を構成する
    材料が、含有量0.02wt/%以上の割合で炭素を含
    む鉄合金または含有量0.02wt/%以上の割合で炭
    素を含むニッケル合金である場合、前記熱処理を、50
    0℃以下、または、800℃以上の温度で行うことを特
    徴とする構造物の補修方法。
  7. 【請求項7】請求項6において、前記照射脆化を回復さ
    せる熱処理を施した領域と、前記第2の工程で前記樹枝
    状結晶を形成した領域との間の領域であって、前記構造
    物の表面に位置する領域を、前記構造物を構成する材料
    の溶体化温度以上融点以下に加熱した後凝固させて溶体
    化する第3の工程を有することを特徴とする構造物の補
    修方法。
  8. 【請求項8】請求項1において、前記第1の工程におい
    て、前記熱エネルギーは、入熱量1×10J/mm以上
    5×103J/mm、かつ、密度1×104W/mm2
    上1×107W/mm2 以下であることを特徴とする構
    造物の補修方法。
  9. 【請求項9】照射脆化が生じている構造物の予防保全方
    法であって、 前記構造物の照射脆化が生じている領域を、前記構造物
    を構成する材料の溶体化温度以下の温度に加熱して熱処
    理を施す第1の工程と、 前記領域の表面部にエネルギーを投入し、前記領域の表
    面部を再溶融した後、0.1μm以上3.0μm以下の
    大きさの樹枝状結晶が形成される冷却速度で凝固させる
    第2の工程とを有することを特徴とする構造物の予防保
    全方法。
  10. 【請求項10】原子炉炉内の構造物であって、 表面から深さ方向に形成された一旦溶融した後凝固した
    領域と、前記領域の表面部に形成された表面改質層とを
    有し、 前記表面改質層は、0.1μm以上3.0μm以下の大
    きさの樹枝状結晶から構成されていることを特徴とする
    原子炉炉内の構造物。
  11. 【請求項11】請求項10において、前記構造物は、溶
    体化温度以下の温度で熱処理された熱処理領域を有し、
    前記溶融度凝固した領域は、前記熱処理領域内に含まれ
    ていることを特徴とする原子炉炉内の構造物。
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