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JP7537931B2 - 液晶ディスプレイ保護板、並びに、曲面付き液晶ディスプレイ保護板とその製造方法 - Google Patents

液晶ディスプレイ保護板、並びに、曲面付き液晶ディスプレイ保護板とその製造方法 Download PDF

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JP7537931B2 JP2020129187A JP2020129187A JP7537931B2 JP 7537931 B2 JP7537931 B2 JP 7537931B2 JP 2020129187 A JP2020129187 A JP 2020129187A JP 2020129187 A JP2020129187 A JP 2020129187A JP 7537931 B2 JP7537931 B2 JP 7537931B2
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Description

本発明は、液晶ディスプレイ保護板、並びに、曲面付き液晶ディスプレイ保護板とその製造方法に関する。
液晶ディスプレイ、及び、液晶ディスプレイとタッチパネルとを組み合わせたタッチパネルディスプレイにおいては、表面の傷付き防止等のため、その前面側に保護板が設けられる場合がある。本明細書では、この保護板のことを「液晶ディスプレイ保護板」と称す。
液晶ディスプレイ保護板は、少なくとも1層の熱可塑性樹脂層からなる樹脂板、及び必要に応じて樹脂板の少なくとも一方の表面に形成された硬化被膜を含む。
特許文献1には、メタクリル系樹脂板と、その少なくとも一方の表面に形成された硬化被膜とを含み、携帯型情報端末の表示窓保護板として好適な耐擦傷性樹脂板が開示されている(請求項1、2、7、段落0010等)。特許文献2には、ポリカーボネート系樹脂層の一方の表面にメタクリル系樹脂層を積層した積層板と、この積層板のメタクリル系樹脂層上に形成された硬化被膜とを含む液晶ディスプレイカバー用ポリカーボネート系樹脂積層体が開示されている(請求項1、段落0008等)。
特許文献1で用いられているメタクリル系樹脂は、環構造単位を有さない一般的なメタクリル系樹脂(非変性のメタクリル系樹脂)である。
液晶ディスプレイ保護板は、液晶ディスプレイの前面側(視認者側)に設置され、視認者はこの保護板を通して液晶ディスプレイの画面を見る。ここで、液晶ディスプレイ保護板は液晶ディスプレイからの出射光の偏光性をほとんど変化させないため、偏光サングラス等の偏光フィルタを通して画面を見ると、出射光の偏光軸と偏光フィルタの透過軸とがなす角度によっては、画面が暗くなり、画像の視認性が低下する場合がある(ブラックアウト現象)。
そこで、偏光フィルタを通して液晶ディスプレイの画面を見る場合の画像の視認性の低下を抑制しうる液晶ディスプレイ保護板が検討されている。例えば、特許文献3には、樹脂板の少なくとも一方の表面に硬化被膜が形成された耐擦傷性樹脂板からなり、面内のリタデーション値(「Re値」とも言う。)が85~300nmである液晶ディスプレイ保護板が開示されている(請求項1)。
特開2004-299199号公報 特開2006-103169号公報 特開2010-085978号公報 特開2018-103518号公報
近年、車載用のカーナビゲーションシステム及びディスプレイオーディオ等の用途において、デザイン性及び視認性等の観点から、曲面加工等の形状加工が施されたディスプレイが開発されている。曲面を有するディスプレイには、その形状に合わせた曲面付き液晶ディスプレイ保護板が用いられる。押出成形等により得られた平坦樹脂板に対して、必要に応じて硬化被膜を形成した後、プレス成形、真空成形、及び圧空成形等の熱成形を行うことで、曲面付き液晶ディスプレイ保護板を製造することができる。液晶ディスプレイ保護板に含まれる樹脂板は、熱成形前と熱成形後の双方において、Re値が好適な範囲内であり、Re値のバラツキが小さいことが好ましい。
特許文献4は、低温での熱成形性又は印刷性に優れ、熱成形後の色付き及び色ムラの発生が抑制される樹脂積層体(樹脂板)を提供することを目的としている。
特許文献4には、ポリカーボネート系樹脂層の少なくとも一方の面にアクリル系樹脂層が共押出成形により積層され、幅方向の加熱収縮率が-10~0%であり、押出方向の加熱収縮率が0~10%であり、Re値が1500nm以下である樹脂積層体が開示されている(請求項1)。
特許文献4では、ポリカーボネート系樹脂が特定の1価フェノールから誘導される末端構造を有することで、ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度を低くし、低温での熱成形性を可能としている(段落0018)。
特許文献4に記載の樹脂積層体は好ましくは、アクリル系樹脂層上にハードコート層をさらに有する(請求項7)。
特許文献3、4において、樹脂板は好ましくは、ポリカーボネート系樹脂層の少なくとも一方の表面にメタクリル系樹脂層が積層された積層板である(特許文献3の請求項6、特許文献4の段落0096)。これらの積層板では例えば、樹脂板の厚みに応じて成形条件を調整することで、ポリカーボネート系樹脂層の複屈折を調整し、液晶ディスプレイ保護板のRe値を好適な範囲内に調整することができる(特許文献3の段落0036等)。
応力と複屈折との関係、及び、配向複屈折と応力複屈折と光弾性係数との関係を示すイメージ図を図7に示す。
特許文献3、4に用いられているポリカーボネート系樹脂は、光弾性係数の絶対値が90×10-12/Paと非常に大きく、わずかな応力でRe値が変化する。そのため、ポリカーボネート系樹脂を用いる場合、光学的に均一な液晶ディスプレイ保護板を得ることが難しい。例えば、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察すると、Re値のバラツキに起因して、色ムラが観察される恐れがある。特に、熱成形後では、熱成形の冷却工程で生じる残留応力によって樹脂板のRe値のバラツキが大きくなる傾向がある。
特許文献1に用いられている、環構造単位を有さない一般的なメタクリル系樹脂(非変性のメタクリル系樹脂)は、光弾性係数の絶対値が3.2×10-12/Paと小さく、応力でRe値が変化しにくい。そのため、環構造単位を有さない一般的なメタクリル系樹脂を用いる場合、光学的に均一な液晶ディスプレイ保護板を得ることはできる。しかしながら、環構造単位を有さない一般的なメタクリル系樹脂は、配向複屈折の絶対値が4.0×10-4と小さいため、厚みにもよるが、得られる液晶ディスプレイ保護板のRe値は20nm程度と小さくなる傾向がある。そのため、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察すると、出射光の偏光軸と偏光フィルタの透過軸とがなす角度によっては、画面が真っ暗になるブラックアウトが発生し、画像の視認性が低下する恐れがある。
また、一般的に、液晶ディスプレイ保護板のRe値が好適な範囲より大きい場合、偏光フィルタを通して視認した場合に可視光域の各波長の光透過率の差が大きくなり、様々な色が見えて視認性が低下する恐れがある(色付き現象)。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、熱成形前と熱成形後の双方において、面内のリタデーション値(Re値)が好適な範囲内であり、そのバラツキが小さく、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際の、色ムラ、ブラックアウト、及び色付き等の視認性の低下を抑制することが可能な液晶ディスプレイ保護板を提供することを目的とする。
本発明は、以下の[1]~[14]の、液晶ディスプレイ保護板、並びに、曲面付き液晶ディスプレイ保護板とその製造方法を提供する。
[1] 基材層の少なくとも片面に位相差調整層が積層された平坦樹脂板を含み、
前記位相差調整層は、主鎖に、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の環構造単位を有し、ガラス転移温度(TgA0)が135~180℃であり、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、幅20mm、長さ40mm、厚み1mmの試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、当該試験片の中央部分の面内のリタデーション値を測定して求められる配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4~100.0×10-4である透明熱可塑性樹脂(A)を含み、
前記基材層は、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、幅20mm、長さ40mm、厚み1mmの試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、当該試験片の中央部分の面内のリタデーション値を測定して求められる配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4未満である透明熱可塑性樹脂(B)を含み、
前記位相差調整層のガラス転移温度をTg(℃)、前記基材層のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tg>Tgであり、
前記位相差調整層の合計厚みをT、前記基材層の厚みをTとしたとき、T<Tであり、
前記平坦樹脂板の面内のリタデーション値が50~330nmである、液晶ディスプレイ保護板。
[2] 透明熱可塑性樹脂(A)は、前記環構造単位30~99質量%とビニル系単量体単位70~1質量%とを有する共重合体である、[1]の液晶ディスプレイ保護板。
[3] 透明熱可塑性樹脂(A)は、前記環構造単位とメタクリル酸メチル単位とを有するメタクリル系樹脂である、[1]又は[2]の液晶ディスプレイ保護板。
[4] Tg-Tgが20℃以上である、[1]~[3]のいずれかの液晶ディスプレイ保護板。
[5] 前記平坦樹脂板は、幅17cm、長さ22cmの範囲内の面内のリタデーション値の標準偏差が15.0nm以下である、[1]~[4]のいずれかの液晶ディスプレイ保護板。
[6] 前記平坦樹脂板は、Tg以上Tg以下の温度に加熱した際、面内のリタデーション値の、加熱前に対する加熱後の変化率の絶対値が50%以下である、[1]~[5]のいずれかの液晶ディスプレイ保護板。
[7] 前記平坦樹脂板は、Tg以上Tg以下の温度に加熱した際、幅17cm、長さ22cmの範囲内の面内のリタデーション値の標準偏差が25.0nm以下である、[1]~[6]のいずれかの液晶ディスプレイ保護板。
[8] 基材層の少なくとも片面に位相差調整層が積層された、曲面を有する樹脂板を含み、
前記位相差調整層は、主鎖に、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の環構造単位を有し、ガラス転移温度(TgA0)が135~180℃であり、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、幅20mm、長さ40mm、厚み1mmの試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、当該試験片の中央部分の面内のリタデーション値を測定して求められる配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4~100.0×10-4である透明熱可塑性樹脂(A)を含み、
前記基材層は、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、幅20mm、長さ40mm、厚み1mmの試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、当該試験片の中央部分の面内のリタデーション値を測定して求められる配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4未満である透明熱可塑性樹脂(B)を含み、
前記位相差調整層のガラス転移温度をTg(℃)、前記基材層のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tg>Tgであり、
前記位相差調整層の合計厚みをT、前記基材層の厚みをTとしたとき、T<Tであり、
前記曲面を有する樹脂板の面内のリタデーション値が50~330nmである、曲面付き液晶ディスプレイ保護板。
[9] 透明熱可塑性樹脂(A)は、前記環構造単位30~99質量%とビニル系単量体単位70~1質量%とを有する共重合体である、[8]の曲面付き液晶ディスプレイ保護板。
[10] 透明熱可塑性樹脂(A)は、前記環構造単位とメタクリル酸メチル単位とを有するメタクリル系樹脂である、[8]又は[9]の曲面付き液晶ディスプレイ保護板。
[11] Tg-Tgが20℃以上である、[8]~[10]のいずれかの曲面付き液晶ディスプレイ保護板。
[12] 前記曲面を有する樹脂板は、幅17cm、長さ22cmの範囲内の面内のリタデーション値の標準偏差が25.0nm以下である、[8]~[11]のいずれかの曲面付き液晶ディスプレイ保護板。
[13] 少なくとも一方の最表面に硬化被膜を備える、[1]~[7]のいずれかの液晶ディスプレイ保護板、又は[8]~[12]のいずれかの曲面付き液晶ディスプレイ保護板。
[14] 前記基材層の少なくとも片面に前記位相差調整層が積層された平坦樹脂板を成形する工程と、
前記平坦樹脂板をTg以上Tg以下の温度に加熱し、曲面を有する形状に熱成形する工程とを有する、[8]~[12]のいずれかの曲面付き液晶ディスプレイ保護板の製造方法。
本発明によれば、熱成形前と熱成形後の双方において、面内のリタデーション値(Re値)が好適な範囲内であり、そのバラツキが小さく、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際の、色ムラ、ブラックアウト、及び色付き等の視認性の低下を抑制することが可能な液晶ディスプレイ保護板を提供することができる。
本発明に係る第1実施形態の液晶ディスプレイ保護板の模式断面図である。 本発明に係る第2実施形態の液晶ディスプレイ保護板の模式断面図である。 本発明に係る一実施形態の硬化被膜含有液晶ディスプレイ保護板の模式断面図である。 本発明に係る一実施形態の押出成形板の製造装置の模式図である。 [実施例]の項で用いた樹脂型の模式斜視図である。 [実施例]の項において、成形率の評価方法を説明するための模式断面図である。 応力と複屈折との関係、及び、配向複屈折と応力複屈折と光弾性係数との関係を示すイメージ図である。
一般的に、薄膜成形体に対しては、厚みに応じて、「フィルム」、「シート」、又は「板」の用語が使用されるが、これらの間に明確な区別はない。本明細書で言う「樹脂板」には、「樹脂フィルム」及び「樹脂シート」が含まれるものとする。
本明細書において、一般的な材料のガラス転移温度は「Tg」で表す。
[液晶ディスプレイ保護板]
本発明は、液晶ディスプレイ保護板に関する。液晶ディスプレイ保護板は、液晶ディスプレイ、及び、液晶ディスプレイとタッチパネルとを組み合わせたタッチパネルディスプレイの保護用途に好適に用いることができる。
本発明の液晶ディスプレイ保護板は、基材層の少なくとも片面に位相差調整層が積層された平坦樹脂板を含む。平坦樹脂板は、好ましくは押出成形板である。
上記の本発明の液晶ディスプレイ保護板を熱成形して、曲面付き液晶ディスプレイ保護板を製造することができる。
本発明の曲面付き液晶ディスプレイ保護板は、基材層の少なくとも片面に位相差調整層が積層された、曲面を有する樹脂板を含む。曲面を有する樹脂板は、平坦樹脂板を熱成形した熱成形板である。
本発明の液晶ディスプレイ保護板及び曲面付き液晶ディスプレイ保護板は必要に応じて、少なくとも一方の最表面に硬化被膜を有することができる。
硬化被膜を有する液晶ディスプレイ保護板は、「硬化被膜含有液晶ディスプレイ保護板」とも言う。
本発明の液晶ディスプレイ保護板及び曲面付き液晶ディスプレイ保護板において、位相差調整層は、特定の光学特性を有する透明熱可塑性樹脂(A)を含み、基材層は、特定の光学特性を有する透明熱可塑性樹脂(B)を含む。
透明熱可塑性樹脂(A)は、主鎖に、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の環構造単位を有する樹脂である。透明熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度(TgA0)は、135~180℃である。
位相差調整層のガラス転移温度をTg(℃)、基材層のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tg>Tgである。
位相差調整層の合計厚みをT、基材層の厚みをTとしたとき、T<Tである。
平坦樹脂板及び曲面を有する樹脂板の面内のリタデーション値(「Re値」とも言う。)は、50~330nmである。
平坦樹脂板は好ましくは、幅17cm、長さ22cmの範囲内のRe値の標準偏差が15.0nm以下である。
平坦樹脂板は、Tg以上Tg以下の温度に加熱した際、Re値の加熱前に対する加熱後の変化率の絶対値が、好ましくは50%以下である。
平坦樹脂板は、Tg以上Tg以下の温度に加熱した際、幅17cm、長さ22cmの範囲内のRe値の標準偏差が、好ましくは25.0nm以下である。
曲面を有する樹脂板は好ましくは、幅17cm、長さ22cmの範囲内のRe値の標準偏差が25.0nm以下である。
図1、図2は、本発明に係る第1、第2実施形態の液晶ディスプレイ保護板の模式断面図である。図3は、本発明に係る一実施形態の硬化被膜含有液晶ディスプレイ保護板の模式断面図である。図中、符号1、2は液晶ディスプレイ保護板、符号3は硬化被膜含有液晶ディスプレイ保護板、符号16A、16Bは平坦樹脂板、符号21は位相差調整層、符号22は基材層、符号31は硬化被膜をそれぞれ示す。
第1実施形態の液晶ディスプレイ保護板1は、基材層22の片面に位相差調整層21が積層された2層構造の平坦樹脂板16Aからなる。
第2実施形態の液晶ディスプレイ保護板2は、基材層22の両面に位相差調整層21が積層された3層構造の平坦樹脂板16Bからなる。
硬化被膜含有液晶ディスプレイ保護板3は、基材層22の両面に位相差調整層21が積層された3層構造の平坦樹脂板16Bの少なくとも一方の表面に硬化被膜31が形成されたものである。図3に示す例では、平坦樹脂板16Bの両面に硬化被膜31が形成されている。
液晶ディスプレイ保護板の構成は図示例に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜設計変更が可能である。
図1~図3に示すような平坦な液晶ディスプレイ保護板を熱成形して、曲面付き液晶ディスプレイ保護板を製造することができる。
平坦樹脂板及び曲面を有する樹脂板において、位相差調整層は、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、幅20mm、長さ40mm、厚み1mmの試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、一軸延伸後の試験片の中央部分の面内のリタデーション値を測定して求められる配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4~100.0×10-4である透明熱可塑性樹脂(A)を含む。
「リタデーション」とは、分子主鎖方向の光とそれに垂直な方向の光との位相差である。一般的に高分子は加熱溶融成形されることで任意の形状を得ることができるが、加熱及び冷却の過程において発生する応力及び分子の配向によってリタデーションが発生することが知られている。なお、本明細書において、「リタデーション」は特に明記しない限り、面内のリタデーションを示すものとする。
一般的に、樹脂板のRe値は、下記式(i)で表される。
[樹脂板のRe値]=[複屈折(ΔN)]×[厚み(d)]・・・(i)
複屈折(ΔN)は、下記式(ii)で表される。
[複屈折]=[応力複屈折]+[配向複屈折]・・・(ii)
応力複屈折、配向複屈折はそれぞれ、下記式(iii)、(iv)で表される。
[応力複屈折]=[光弾性係数(C)]×[応力]・・・(iii)
[配向複屈折]=[固有複屈折]×[配向度]・・・(iv)
式(iv)において、配向度は0~1.0の範囲の値である。
応力と複屈折との関係、及び、配向複屈折と応力複屈折と光弾性係数との関係を示すイメージ図を図7に示す。
本発明では、図7に模試的に示される光弾性係数と配向複屈折で透明熱可塑性樹脂(A)及び透明熱可塑性樹脂(B)の光学特性を特定している。
本発明の液晶ディスプレイ保護板及び曲面付き液晶ディスプレイ保護板では、上記特定の光学特性を有する透明熱可塑性樹脂(A)を含む位相差調整層を含むことで、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際の、色ムラ及びブラックアウト等の視認性の低下を抑制することが可能である。
本明細書において、「樹脂板のRe値」は、特に明記しない限り、幅17cm、長さ22cmの測定範囲内の約11万点の複屈折画素数のRe値の平均値である。「樹脂板のRe値の標準偏差」は、特に明記しない限り、幅17cm、長さ22cmの測定範囲内の約11万点の複屈折画素数のRe値の標準偏差である。
Re値の平均値と標準偏差は例えば、フォトニックラティス社製のリタデーション測定器「WPA-100-L」を用い、後記[実施例]の項に記載の方法にて測定することができる。
平坦樹脂板及び曲面を有する樹脂板のRe値は、50~330nmであり、好ましくは70~250nm、より好ましくは80~200nm、特に好ましくは90~150nmである。Re値が上記下限値未満では、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際、出射光の偏光軸と偏光フィルタの透過軸との関係によらず、ブラックアウトが発生する恐れがある。Re値が上記上限値超では、偏光フィルタを通して視認した際、可視光域の各波長の光透過率の差が大きくなり、様々な色が見えて視認性が低下する恐れがある(色付き現象)。
平坦樹脂板及び曲面を有する樹脂板のRe値の標準偏差は、小さい方が、Re値のバラツキが少なく、好ましい。Re値の標準偏差が充分に小さければ、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際、Re値のバラツキに起因する色ムラが抑制され、視認性が向上する。
平坦樹脂板のRe値の標準偏差は、好ましくは15.0nm以下、より好ましくは10.0nm以下、さらに好ましくは7.0nm以下、特に好ましくは5.0nm以下、最も好ましくは4.0nm以下である。
曲面を有する樹脂板のRe値の標準偏差は、好ましくは25.0nm以下、より好ましくは20.0nm以下、特に好ましくは15.0nm以下、最も好ましくは10.0nm以下である。
平坦樹脂板のRe値とRe値の標準偏差は、熱成形によって大きく変化しないことが好ましい。本発明において、熱成形温度は、好ましくはTg以上Tg以下、より好ましくはTg以上Tg未満の温度である。
平坦樹脂板は、Tg以上Tg以下の温度に加熱した際、Re値の加熱前に対する加熱後の変化率の絶対値が、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下、さらに好ましくは40%以下、特に好ましくは35%以下、最も好ましくは30%以下である。
Re値の加熱前に対する加熱後の変化率は、下記式で表される。
[Re値の加熱前に対する加熱後の変化率](%)=〔([加熱後のRe値]-[加熱前のRe値])/[加熱前のRe値]〕×100
平坦樹脂板は、Tg以上Tg以下の温度に加熱した際、幅17cm、長さ22cmの範囲内のRe値の標準偏差が、好ましくは25.0nm以下、より好ましくは20.0nm以下、特に好ましくは15.0nm以下、最も好ましくは10.0nm以下である。
平坦樹脂板及び曲面を有する樹脂板の全体の厚み(d)は特に制限されず、好ましくは0.2~6.0mm、より好ましくは0.3~4.0mm、特に好ましくは0.4~3.0mmである。薄すぎると液晶ディスプレイ保護板の剛性が不充分となる恐れがあり、厚すぎると液晶ディスプレイ又はこれを含むタッチパネルディスプレイの軽量化の妨げになる恐れがある。
(位相差調整層)
平坦樹脂板及び曲面を有する樹脂板は、位相差調整層を含む。位相差調整層は液晶ディスプレイ保護板のRe値を主に決定する層であり、特定の光学特性を有する透明熱可塑性樹脂(A)を含む。
<透明熱可塑性樹脂(A)>
透明熱可塑性樹脂(A)の光弾性係数(C)の絶対値は、10.0×10-12/Pa以下であり、好ましくは8.0×10-12/Pa以下、より好ましくは6.0×10-12/Pa以下、特に好ましくは5.0×10-12/Pa以下、最も好ましくは4.0×10-12/Pa以下である。光弾性係数(C)の絶対値が上記上限値以下であると、押出成形等の成形加工時に発生する残留応力による応力複屈折が小さく(図7を参照されたい。)、液晶ディスプレイ保護板のRe値の標準偏差を低減できる。その結果、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際、Re値のバラツキに起因する色ムラが抑制され、視認性が向上する。
透明熱可塑性樹脂(A)の配向複屈折(Δn)の絶対値は、10.0×10-4~100.0×10-4であり、好ましくは20.0×10-4~90.0×10-4、より好ましくは30.0×10-4~70.0×10-4、特に好ましくは35.0×10-4~60.0×10-4である。透明熱可塑性樹脂(A)の配向複屈折(Δn)の絶対値が上記範囲内であると、液晶ディスプレイ保護板のRe値を適切な範囲に制御することができる。
配向複屈折はポリマーの配向度に依存するため、成形条件及び延伸条件等の製造条件の影響を受ける。本明細書において、特に明記しない限り、「配向複屈折」は、後記[実施例]の項に記載の方法にて測定するものとする。
本発明において、透明熱可塑性樹脂(A)は、主鎖に、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の環構造単位を有する樹脂である。透明熱可塑性樹脂(A)は、1種又は2種以上用いることができる。
透明熱可塑性樹脂(A)として、主鎖に少なくとも1種の上記の環構造単位を有する樹脂を用いる場合、透明熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度(TgA0)を高くし、Tg>Tgを実現しやすい。また、光弾性係数をあまり変化させることなく、位相差調整層の配向複屈折を大きくできる。
透明熱可塑性樹脂(A)としては、環構造単位30~99質量%と1種以上のビニル系単量体単位70~1質量%とを含む共重合体が好ましい。
透明熱可塑性樹脂(A)中の環構造単位の含有量は、より好ましくは50~95質量%、特に好ましくは60~90質量%である。透明熱可塑性樹脂(A)中の環構造単位の含有量が30質量%以上であることで、透明熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度(TgA0)を効果的に高め、配向複屈折を効果的に大きくすることができる。透明熱可塑性樹脂(A)中のビニル系単量体単位の含有量が1質量%以上であることで、液晶ディスプレイ保護板の靭性を高めることができる。
透明熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度(TgA0)は、135~180℃であり、好ましくは140~170℃、より好ましくは145~160℃である。
ビニル系単量体としては特に制限されず、公知のものを用いることができる。例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸i-アミル、(メタ)アクリル酸n-へキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸シクロへキシル、(メタ)アクリル酸ノルボルネニル、及び(メタ)アクリル酸イソボニル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、及びイタコン酸等の不飽和カルボン酸;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、及び1-オクテン等のオレフィン;ブタジエン、イソプレン、及びミルセン等の共役ジエン;スチレン(St)、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-エチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、4-メチル-α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル;酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、及びフッ化ビニリデン等が挙げられる。
本明細書において、(メタ)アクリルは、アクリル及びメタクリルの総称であり、(メタ)アクリロニトリルは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルの総称である。
透明熱可塑性樹脂(A)としては、1種以上の上記の環構造単位、メタクリル酸メチル(MMA)単位、及び必要に応じて1種以上の他の単位を有する変性メタクリル系樹脂が好ましい。
上記の変性メタクリル系樹脂の製造方法は特に制限されず、公知方法を適用することができる。製造方法としては、環構造を有する単量体、メタクリル酸メチル(MMA)、及び必要に応じて他の単量体を含む複数種の単量体を公知方法により共重合する方法、及び、公知方法により、MMA単位を含み、環構造単位を有さないメタクリル系樹脂を製造した後、主鎖に環構造を導入して、環構造単位を形成する方法が挙げられる。
重合法としては、懸濁重合法、(連続)塊状重合法、溶液重合法、及び乳化重合法等のラジカル重合法;アニオン重合法等が挙げられる。
<酸無水物単位を有する樹脂>
酸無水物単位としては、マレイン酸無水物単位及びグルタル酸無水物単位等が挙げられる。
マレイン酸無水物単位としては、下記式(1)で表される単位が好ましい。
Figure 0007537931000001
式(1)中、R11及びR12はそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20の有機基である。有機基は、炭素数1~20であれば特に制限されず、例えば、直鎖子又は分岐状のアルキル基、直鎖子又は分岐状のアルキレン基、アリール基、-OCOCH基、及び-CN基等が挙げられる。有機基は、酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
有機基の炭素数は好ましくは1~10、より好ましくは1~5である。
特に好ましくは、R11及びR12がいずれも水素原子である。R11及びR12がいずれも水素原子である場合、製造容易性及び固有複屈折の調節等の観点から、通常、スチレン等の共重合成分が用いられる。
マレイン酸無水物単位を有する透明熱可塑性樹脂(A)の製造方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
マレイン酸無水物単位を有する透明熱可塑性樹脂(A)としては、スチレン-マレイン酸無水物共重合体(SMA樹脂);スチレン-メタクリル酸エステル-マレイン酸無水物共重合体(SMM樹脂);α-メチルスチレン-マレイン酸無水物-メタクリル酸エステル共重合体(αStMM樹脂)等が挙げられる。
マレイン酸無水物単位を有する透明熱可塑性樹脂の市販品として、以下の製品が挙げられる。
SMA樹脂:ダイセル-エボニック社製「Plexiglas」、Polyscope社製「XIBOND」、「XIRAN」等、
SMM樹脂:デンカ社製「レジスファイ」等。
グルタル酸無水物単位としては、下記式(2)で表される単位が好ましい。透明熱可塑性樹脂(A)として、グルタル酸無水物単位とメタクリル酸メチル(MMA)単位とを有するメタクリル系樹脂を用いることができ、このメタクリル系樹脂は、「グルタル酸無水物変性メタクリル系樹脂」又は「グルタル酸無水物変性PMMA」とも言う。
Figure 0007537931000002
上記式(2)中、R21及びR22はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、好ましくはメチル基である。
グルタル酸無水物単位を有するメタクリル系樹脂(グルタル酸無水物変性メタクリル系樹脂)の製造方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。不飽和カルボン酸単量体と不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体とを共重合した後、得られた共重合体を必要に応じて触媒の存在下で加熱し、脱アルコール及び/又は脱水による分子内環化反応を行う方法が好ましい。
<環構造を含むイミド単位を有する樹脂>
環構造を含むイミド単位としては、グルタルイミド単位、及び、N-置換又は無置換マレイミド単位等が挙げられ、グルタルイミド単位が好ましい。
グルタルイミド単位としては、下記式(3)で表される単位が好ましい。透明熱可塑性樹脂(A)として、グルタルイミド単位とメタクリル酸メチル(MMA)単位とを含むメタクリル系樹脂を用いることができ、このメタクリル系樹脂は、「グルタルイミド変性メタクリル系樹脂」又は「グルタルイミド変性PMMA」とも言う。
Figure 0007537931000003
上記式(3)中、R31及びR32はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、好ましくはメチル基である。R33は、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、又は芳香環を含む炭素数6~15の有機基であり、好ましくは、水素原子、メチル基、n-ブチル基、シクロヘキシル基、又はベンジル基であり、より好ましくはメチル基である。
グルタルイミド単位を有するメタクリル系樹脂(グルタルイミド変性メタクリル系樹脂)の製造方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
グルタルイミド変性メタクリル系樹脂の市販品として、以下の製品が挙げられる。
ダイセル-エボニック社製「Pleximid」。
<ラクトン環単位を有する樹脂>
製造容易性、製造収率、及び構造安定性等の観点から、ラクトン環単位としては、好ましくは4~8員環、より好ましくは5~6員環、特に好ましくは6員環のものを用いることができる。中でも、下記式(4)で表される6員環単位が特に好ましい。
透明熱可塑性樹脂(A)として、ラクトン環単位とメタクリル酸メチル(MMA)単位とを含むメタクリル系樹脂を用いることができ、このメタクリル系樹脂は、「ラクトン環変性メタクリル系樹脂」又は「ラクトン環変性PMMA」とも言う。
Figure 0007537931000004
上記式(4)中、R41、R42、及びR43はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~20の有機基である。有機基は、炭素数1~20であれば特に制限されず、例えば、直鎖子又は分岐状のアルキル基、直鎖子又は分岐状のアルキレン基、アリール基、-OCOCH基、及び-CN基等が挙げられる。有機基は、酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
有機基の炭素数は好ましくは1~10、より好ましくは1~5である。
特に好ましくは、R42がメチル基であり、R41及びR43が水素原子である。
ラクトン環単位を有するメタクリル系樹脂(ラクトン環変性メタクリル系樹脂)の製造方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。重合工程によって分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得、得られた重合体を加熱処理してラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環化縮合工程を行う方法が好ましい。
ラクトン環変性メタクリル系樹脂の市販品として、以下の製品が挙げられる。
日本触媒社製「アクリビュア」等。
<位相差調整層の特性>
環構造単位を有さない一般的なメタクリル系樹脂(非変性のメタクリル系樹脂)及びポリカーボネート系樹脂は、光弾性係数及び/又は配向複屈折が、本発明で用いる透明熱可塑性樹脂(A)の規定範囲外である。
ポリカーボネート系樹脂は、光弾性係数の絶対値が90×10-12/Paと非常に大きく、わずかな応力でRe値が変化する。そのため、ポリカーボネート系樹脂を用いる場合、光学的に均一な液晶ディスプレイ保護板を得ることが難しい。例えば、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察すると、Re値のバラツキに起因して、色ムラが観察される恐れがある。
特に、熱成形前に対して熱成形後では、樹脂板のRe値の変化が大きく、樹脂板のRe値のバラツキが大きくなる傾向がある。熱成形工程は例えば、樹脂板を加熱する工程と、加熱した樹脂板に型を押し付ける工程と、型内で樹脂板を冷却する工程と、冷却した樹脂板を型から取り出す工程とを有する。冷却工程では、樹脂板内に歪み(残留応力)が発生する。光弾性係数の絶対値が大きいポリカーボネート系樹脂を用いた樹脂板では、熱成形の冷却工程で生じる残留応力により顕著なリタデーションムラが生じ、樹脂板のRe値のバラツキが大きくなる傾向がある。
環構造単位を有さない一般的なメタクリル系樹脂(非変性のメタクリル系樹脂)は、光弾性係数の絶対値が3.2×10-12/Paと小さく、応力でRe値が変化しにくい。そのため、環構造単位を有さない一般的なメタクリル系樹脂を用いる場合、光学的に均一な液晶ディスプレイ保護板を得ることはできる。しかしながら、環構造単位を有さない一般的なメタクリル系樹脂は、配向複屈折の絶対値が4.0×10-4と小さいため、厚みにもよるが、得られる液晶ディスプレイ保護板のRe値は20nm程度と小さくなる傾向がある。そのため、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察すると、出射光の偏光軸と偏光フィルタの透過軸とがなす角度によっては、画面が真っ暗になるブラックアウトが発生し、画像の視認性が低下する恐れがある。
位相差調整層の合計厚み(T)は特に制限されず、好ましくは0.025~1.0mm、より好ましくは0.05~0.5mm、特に好ましくは0.05~0.4mm、最も好ましく0.05~0.3mmである。
位相差調整層は、主鎖に、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の環構造単位を有する透明熱可塑性樹脂(A)以外の1種以上の他の重合体を、少量であれば含むことができる。他の重合体の光弾性係数及び配向複屈折は、透明熱可塑性樹脂(A)の規定内でも規定外でもよい。
他の重合体の種類としては特に制限されず、環構造単位を有さない一般的なメタクリル系樹脂(非変性のメタクリル系樹脂)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びポリアセタール等の他の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、及びエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
一般的な非変性のメタクリル系樹脂としては、例えば、MMAに少量のアクリル酸メチルを共重合した樹脂が挙げられる。
位相差調整層中の透明熱可塑性樹脂(A)の含有量は多い方が好ましく、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。位相差調整層中の他の重合体の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
位相差調整層は必要に応じて、各種添加剤を含むことができる。添加剤としては、着色剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、光拡散剤、艶消し剤、コアシェル粒子及びブロック共重合体等のゴム成分(耐衝撃性改質剤)、及び蛍光体等が挙げられる。添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。位相差調整層の構成樹脂100質量部に対して、例えば、酸化防止剤の含有量は0.01~1質量部、紫外線吸収剤の含有量は0.01~3質量部、光安定剤の含有量は0.01~3質量部、滑剤の含有量は0.01~3質量部が好ましい。
位相差調整層に他の重合体及び/又は添加剤を添加させる場合、添加タイミングは、透明熱可塑性樹脂(A)の重合時でも重合後でもよい。
位相差調整層は、透明熱可塑性樹脂(A)と公知のゴム成分(耐衝撃性改質剤)とを含む樹脂組成物からなる樹脂層であってもよい。ゴム成分としては、コアシェル構造の多層構造重合体粒子、サラミ構造を持つゴム状重合体、及びブロックポリマー等が挙げられる。ゴム成分は、ジエン系単量体単位及びアクリル酸アルキル系単量体単位等を含むことができる。位相差調整層の透明性の観点から、ゴム成分の屈折率と主成分である透明熱可塑性樹脂(A)の屈折率との差はより小さい方が好ましい。
位相差調整層のガラス転移温度(Tg)はTg>Tgを満たせば、特に制限されない。好ましくは135~180℃、より好ましくは140~170℃、特に好ましくは145~165℃、最も好ましくは145~160℃である。
なお、「位相差調整層のガラス転移温度(Tg)」は、1種以上の透明熱可塑性樹脂(A)及び必要に応じて1種以上の任意成分からなる位相差調整層の全構成材料のガラス転移温度である。
TgとTgとの差(Tg-Tg)は、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上、さらに好ましくは30℃以上、特に好ましくは35℃以上、最も好ましくは40℃以上である。
Tg-Tgが20℃以上であれば、以下に詳述するように、樹脂板のRe値の変化を抑制しつつ、樹脂板を良好に熱成形することができ、さらに得られた曲面付き液晶ディスプレイ保護板の変形を抑制することができる。
本発明では、好ましくはTg以上Tg以下の温度で熱成形を行うことができる。
Tg+10℃~Tg+30℃の温度で熱成形を行うことがより好ましい。この温度範囲内であれば、樹脂板を所望の形状に良好に熱成形でき、熱成形の冷却工程で生じる残留応力を小さく抑えることができる。この場合、Re値の変化を抑制することができ、得られた曲面付き液晶ディスプレイ保護板の変形を抑制することができる。例えば、曲面付き液晶ディスプレイ保護板について車載用ディスプレイの信頼試験(例えば105℃で1000時間又は85℃85%RHで72時間)を実施した場合、残留応力の解放による変形が抑制され、好ましい。
Tg+10℃~Tg+30℃の範囲内で、かつ、Tg未満の温度で熱成形を行うことが特に好ましい。Tg未満の温度であれば、位相差調整層の応力と配向が解放されないため、Re値の変化及び曲面付き液晶ディスプレイ保護板の変形が効果的に抑制され、好ましい。
Tg+10℃未満の温度で熱成形すると、樹脂板を所望の形状に熱成形することが難しい。この温度域でも大きな荷重をかける、あるいは成形時間を長くするなどすれば、所望の形状に熱成形することができるが、樹脂板に大きな成形応力が発生する。この条件で得られた曲面付き液晶ディスプレイ保護板について車載用ディスプレイの信頼試験を実施した場合、大きな残留応力が解放され、大きく変形する恐れがある。
(基材層)
平坦樹脂板及び曲面を有する樹脂板は、位相差調整層よりもガラス転移温度(Tg)の低い基材層を含む。基材層は、樹脂板の全体の厚み(d)を増加させ、樹脂板の剛性を向上させることができる。
基材層は、液晶ディスプレイ保護板のRe値に影響を与えない樹脂層であることが好ましく、光弾性係数及び配向複屈折が充分に小さい透明熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂層であることが好ましい。
<透明熱可塑性樹脂(B)>
透明熱可塑性樹脂(B)の光弾性係数(C)の絶対値は小さい方が好ましく、好ましくは10.0×10-12/Pa以下、より好ましくは8.0×10-12/Pa以下、さらに好ましくは6.0×10-12/Pa以下、特に好ましくは5.0×10-12/Pa以下、最も好ましくは4.0×10-12/Pa以下である。光弾性係数(C)の絶対値が上記上限値以下であると、押出成形等の成形加工時に発生する残留応力による応力複屈折が充分に小さく(図7を参照されたい。)、樹脂板のRe値の標準偏差を低減できる。その結果、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際、Re値のバラツキに起因する色ムラが抑制され、視認性が向上する。
透明熱可塑性樹脂(B)の配向複屈折(Δnの絶対値は小さい方が好ましく、好ましくは10.0×10-4未満、より好ましくは8.0×10-4以下、さらに好ましくは6.0×10-4以下、特に好ましくは4.0×10-4以下、最も好ましくは2.0×10-4以下である。透明熱可塑性樹脂(B)の配向複屈折(Δn)の絶対値が上記上限値以下であると、樹脂板のRe値に与える影響が充分に小さく(図7を参照されたい。)、樹脂板のRe値を適切な範囲に良好に制御することができる。

透明熱可塑性樹脂(B)は、本発明で規定する光弾性係数(C)と配向複屈折(Δn)の範囲を満たす透明熱可塑性樹脂であれば、特に限定されない。具体例としては、一般的な非変性のメタクリル系樹脂(PM)、及びシクロオレフィンポリマー(COP)等が挙げられる。単量体組成又は変性率によっては透明熱可塑性樹脂(A)として例示した種類の樹脂(具体的には、SMA樹脂、SMM樹脂、及び変性メタクリル系樹脂等)が、透明熱可塑性樹脂(B)として使用できる場合がある。例えば、主鎖に含まれる環構造単位の含有量を低く調整するなどして、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下、配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4未満、Tg>Tgとなるように、設計することができる。
透明熱可塑性樹脂(B)は、1種又は2種以上用いることができる。
メタクリル系樹脂(PM)は、1種以上のメタクリル酸エステル単位を有する単独重合体又は共重合体である。透明性の観点から、メタクリル系樹脂(PM)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
好ましいメタクリル酸エステルとしては例えば、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル;メタクリル酸単環脂肪族炭化水素エステル;メタクリル酸多環脂肪族炭化水素エステル等が挙げられる。透明性の観点から、メタクリル系樹脂(PM)はMMA単位を有することが好ましく、メタクリル系樹脂(PM)中のMMA単位の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
メタクリル系樹脂(PM)は、メタクリル酸エステル以外の1種以上の他の単量体単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2-エチルヘキシル、及びアクリル酸2-ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル;スチレン類;(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。中でも、透明性の観点から、MAが好ましい。例えば、MMAとMAとの共重合体は、透明性に優れ、好ましい。この共重合体中のMMAの含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
メタクリル系樹脂(PM)は、好ましくはMMAを含む1種以上のメタクリル酸エステル、及び必要に応じて他の単量体を重合することで得られる。複数種の単量体を用いる場合は、通常、複数種の単量体を混合して単量体混合物を調製した後、重合を行う。重合方法としては特に制限されず、生産性の観点から、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、及び乳化重合法等のラジカル重合法が好ましい。
ポリカーボネート系樹脂は、光弾性係数及び配向複屈折が本発明の規定範囲外であり、透明熱可塑性樹脂(B)には含まれない。
ポリカーボネート系樹脂は、光弾性係数の絶対値が90×10-12/Paと非常に大きく、わずかな応力でRe値が変化する。そのため、ポリカーボネート系樹脂を用いる場合、光学的に均一な液晶ディスプレイ保護板を得ることが難しい。例えば、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察すると、Re値のバラツキに起因して、色ムラが観察される恐れがある。特に、熱成形前に対して熱成形後では、樹脂板のRe値の変化が大きく、樹脂板のRe値のバラツキが大きくなる傾向がある。
上記したように、位相差調整層のガラス転移温度をTg(℃)、基材層のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tg>Tgである。
基材層のガラス転移温度(Tg)はTg>Tgを満たせば、特に制限されない。好ましくは70~160℃、より好ましくは100~150℃、特に好ましくは110~140℃、最も好ましくは110~130℃である。
なお、「基材層のガラス転移温度(Tg)」は、1種以上の透明熱可塑性樹脂(B)及び必要に応じて1種以上の任意成分からなる基材層の全構成材料のガラス転移温度である。
基材層の厚みをTとする。本発明の液晶ディスプレイ保護板において、基材層の厚み(T)は、位相差調整層の合計厚み(T)よりも大きく設計される。すなわち、本発明の液晶ディスプレイ保護板は、T<Tを充足する。基材層の厚み(T)は、T<Tを満たせば特に制限されず、液晶ディスプレイ保護板の所望の厚み及び剛性に応じて適宜設計される。Tは、好ましくは0.05~5.0mm、より好ましくは0.5~4.0mm、特に好ましくは1.0~3.0mm、最も好ましくは1.5~2.5mmである。
本発明において、T/T>1であり、好ましくはT/T≧1.2、より好ましくはT/T≧1.5、さらに好ましくはT/T≧2.0、特に好ましくはT/T≧5.0、最も好ましくはT/T≧7.0である。
とTが上記関係にあれば、樹脂板の全体の厚み(d)に対する基材層の厚み(T)の割合が充分に大きく、曲面成形等の熱成形時に基材層に適した温度で成形を行うことができ、好ましい。
基材層の厚み(T)より位相差調整層の合計厚み(T)が大きい場合、基材層のガラス転移温度(Tg)近傍の温度の熱成形では、所望の成形率(賦形率)を達成することが難しい。この場合、位相差調整層のガラス転移温度(Tg)超で熱成形する必要がある。この温度条件では、位相差調整層の配向度が低下し、Re値が低下し、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際にブラックアウトが発生する恐れがある。T<Tであれば、熱成形時に基材層に適した温度で成形を行うことができ、好ましい。
基材層は、光弾性係数及び/又は配向複屈折が透明熱可塑性樹脂(B)として規定外である1種以上の他の重合体を、少量であれば含むことができる。他の重合体の種類としては特に制限されず、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びポリアセタール等の他の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、及びエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
基材層中の透明熱可塑性樹脂(B)の含有量は多い方が好ましく、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。基材層中の他の重合体の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
基材層は必要に応じて、各種添加剤を含むことができる。添加剤の種類の例示と好ましい添加量は、位相差調整層に使用可能な添加剤と同様である。
基材層に他の重合体及び/又は添加剤を添加させる場合、添加タイミングは、透明熱可塑性樹脂(B)の重合時でも重合後でもよい。
基材層は、透明熱可塑性樹脂(B)と公知のゴム成分(耐衝撃性改質剤)とを含む樹脂組成物からなる樹脂層であってもよい。ゴム成分の例示は、位相差調整層に使用可能なゴム成分と同様である。基材層の透明性の観点から、ゴム成分の屈折率と主成分である透明熱可塑性樹脂(B)の屈折率との差はより小さい方が好ましい。
(他の樹脂層)
平坦樹脂板及び曲面を有する樹脂板は、位相差調整層及び基材層以外の他の樹脂層を有していてもよい。樹脂板の積層構造としては、位相差調整層-基材層の2層構造;位相差調整層-基材層-位相差調整層の3層構造;位相差調整層-基材層-他の樹脂層の3層構造;他の樹脂層-位相差調整層-基材層の3層構造;位相差調整層-基材層-位相差調整層-他の樹脂層の4層構造;位相差調整層-基材層-他の樹脂層-位相差調整層の4層構造等が挙げられる。
(硬化被膜)
本発明の液晶ディスプレイ保護板及び曲面付き液晶ディスプレイ保護板は必要に応じて、少なくとも一方の最表面に形成された硬化被膜を有することができる。
硬化被膜は、耐擦傷性層(ハードコート層)又は視認性向上効果のための低反射性層として機能することができる。硬化被膜は、公知方法にて形成することができる。
硬化被膜の材料としては、無機系、有機系、有機無機系、及びシリコーン系等が挙げられ、生産性の観点から、有機系及び有機無機系が好ましい。
無機系硬化被膜は例えば、SiO、Al、TiO、及びZrO等の金属酸化物等の無機材料を、真空蒸着及びスパッタリング等の気相成膜で成膜することにより形成することができる。
有機系硬化被膜は例えば、メラミン系樹脂、アルキッド系樹脂、ウレタン系樹脂、及びアクリル系樹脂等の樹脂を含む塗料を塗工し加熱硬化する、又は、多官能アクリル系樹脂を含む塗料を塗工し紫外線硬化させることにより形成することができる。
有機無機系硬化被膜は例えば、表面に光重合反応性官能基が導入されたシリカ超微粒子等の無機超微粒子と硬化性有機成分とを含む紫外線硬化性ハードコート塗料を塗工し、紫外線照射により硬化性有機成分と無機超微粒子の光重合反応性官能基とを重合反応させることにより形成することができる。この方法では、無機超微粒子が、有機マトリックスと化学結合した状態で有機マトリックス中に分散した網目状の架橋塗膜が得られる。
シリコーン系硬化被膜は例えば、カーボンファンクショナルアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、及びテトラアルコキシシラン等の部分加水分解物、又はこれらにコロイダルシリカを配合した材料を重縮合させることにより形成することができる。
上記方法において、材料の塗工方法としては、ディップコート、グラビアロールコート等の各種ロールコート、フローコート、ロッドコート、ブレードコート、スプレーコート、ダイコート、及びバーコート等が挙げられる。
熱硬化性の被膜材料を積層する場合、樹脂板は他種の被膜材料を用いる場合よりも高い温度に曝され得る。硬化温度が不充分であると、被膜材料の硬化反応が充分に進まず、硬化被膜の表面硬度又は樹脂板に対する密着性が低下する恐れがある。硬化温度が不充分でも、硬化時間を長くすれば、充分に硬化できる可能性があるが、生産性の点で好ましくない。硬化反応を良好に進行させるためには充分に高い硬化温度が必要であるが、硬化温度が、硬化被膜の下地層のガラス転移温度(Tg)より高い場合、下地層が熱膨張している状態で被膜材料が硬化するため、液晶ディスプレイ保護板の皺及び/又は硬化被膜の割れが生じる恐れがある。
本発明の液晶ディスプレイ保護板に含まれる樹脂板は、基材層の少なくとも片面にガラス転移温度(Tg)の相対的に高い位相差調整層が積層された構造を有する。本発明では、ガラス転移温度(Tg)が相対的に高く、耐熱性に優れる位相差調整層上に硬化被膜を形成することができる。そのため、硬化温度を、硬化被膜の下地層である位相差調整層が熱膨張しない温度条件、すなわち硬化被膜の下地層である位相差調整層のガラス転移温度(Tg)以下の温度条件内で、硬化反応が良好に進行する充分に高い温度に設定することができる。熱硬化性の被膜材料を用いる場合の硬化温度は、好ましくはTg以上Tg以下、より好ましくはTg以上Tg未満の温度である。
本発明は特に、熱硬化性の被膜材料を用いて硬化被膜を形成する場合に有用である。本発明によれば、比較的高い硬化温度が必要とされる熱硬化性の被膜材料を用いて硬化被膜を形成する場合にも、硬化被膜の表面硬度と樹脂板に対する密着性が良好で、液晶ディスプレイ保護板の皺及び/又は硬化被膜の割れのない硬化被膜含有液晶ディスプレイ保護板を生産性良く安定的に製造することができる。
耐擦傷性(ハードコート性)硬化被膜(耐擦傷性層、ハードコート層)の厚みは、好ましくは2~30μm、より好ましくは5~20μmである。薄すぎると表面硬度が不充分となり、厚すぎると製造工程中の折り曲げにより割れが発生する恐れがある。低反射性硬化被膜(低反射性層)の厚みは、好ましくは80~200nm、より好ましくは100~150nmである。薄すぎても厚すぎても低反射性能が不充分となる恐れがある。
その他、本発明の液晶ディスプレイ保護板及び曲面付き液晶ディスプレイ保護板は必要に応じて、表面に、眩光防止(アンチグレア)層、反射防止(アンチリフレクション)層、及び防指紋層等の公知の表面処理層を有することができる。
[液晶ディスプレイ保護板の製造方法]
本発明の液晶ディスプレイ保護板の製造方法は、基材層の少なくとも片面に位相差調整層が積層された平坦樹脂板を成形する工程(X)を有し、さらに必要に応じて、得られた平坦樹脂板の少なくとも一方の表面に硬化被膜を形成する工程(Y)を有することができる。
(工程(X))
上記積層構造の平坦樹脂板は、キャスト成形法、射出成形法、及び押出成形法等の公知方法を用いて成形することができる。中でも、共押出成形法が好ましい。
以下、共押出成形法による平坦樹脂板の製造方法について、説明する。
図4に、一実施形態として、Tダイ11、第1~第3冷却ロール12~14、及び一対の引取りロール15を含む押出成形装置の模式図を示す。
各層の構成樹脂はそれぞれ押出機を用いて溶融混練され、所望の積層構造の形態で、幅広の吐出口を有するTダイ11から板状の形態で共押出される。
積層方式としては、Tダイ流入前に積層するフィードブロック方式、及びTダイ内部で積層するマルチマニホールド方式等が挙げられる。層間の界面平滑性を高める観点から、マルチマニホールド方式が好ましい。
Tダイ11から共押出された溶融状態の熱可塑性樹脂積層体は複数の冷却ロール12~14を用いて加圧及び冷却される。加圧及び冷却後に得られた平坦樹脂板16は、一対の引取りロール15により引き取られる。冷却ロールの数は、適宜設計することができる。なお、製造装置の構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜設計変更が可能である。
本発明では、平坦樹脂板のRe値が50~330nmとなるように、成形を行う。
さらに好ましくは、平坦樹脂板の幅17cm、長さ22cmの範囲内のRe値の標準偏差が15.0nm以下となるように、成形を行う。
Re値を制御するためには、分子の配向を制御する必要がある。分子の配向は例えば、高分子のガラス転移温度近傍での成形時の応力により発生する。押出成形の過程における製造条件を好適化することにより分子の配向を制御し、これによって、樹脂板の押出成形後のRe値を好適化することができる。
(工程(Y))
工程(Y)では、工程(X)で得られた平坦樹脂板の少なくとも一方の表面に、公知方法にて無機又は有機の硬化被膜を形成する。硬化被膜は、ガラス転移温度(Tg)の相対的に高い位相差調整層上に形成することが好ましい。
上記したように、本発明は特に、熱硬化性の被膜材料を用いて硬化被膜を形成する場合に有用である。熱硬化性材料を用いる場合、平坦樹脂板上に熱硬化性材料を塗工し、Tg以上Tg以下の温度で加熱して、硬化被膜を形成することが好ましい。この場合、硬化温度を、硬化被膜の下地層である位相差調整層が熱膨張しない温度条件、すなわち硬化被膜の下地層である位相差調整層のガラス転移温度(Tg)より低い温度条件内で、硬化反応が良好に進行する充分に高い温度に設定することができる。そのため、硬化被膜の表面硬度と樹脂板に対する密着性が良好で、液晶ディスプレイ保護板の皺及び/又は硬化被膜の割れのない硬化被膜含有液晶ディスプレイ保護板を生産性良く安定的に製造することができる。
(その他の工程)
本発明の液晶ディスプレイ保護板の製造方法は必要に応じて、上記工程(X)、(Y)以外の他の工程を有することができる。
例えば、工程(X)と工程(Y)との間に、平坦樹脂板に対する硬化被膜の密着性を向上させる目的で、工程(X)で得られた平坦樹脂板の硬化被膜を形成する面に対して、プライマー処理、サンドブラスト処理、及び溶剤処理等の表面凹凸化処理;コロナ放電処理、クロム酸処理、オゾン照射処理、及び紫外線照射処理等の表面酸化処理等の表面処理を施す工程を追加してもよい。
[曲面付き液晶ディスプレイ保護板の製造方法]
本発明の曲面付き液晶ディスプレイ保護板の製造方法は、
基材層の少なくとも片面に位相差調整層が積層された平坦樹脂板を成形する工程(X)と、
平坦樹脂板をTg以上Tg以下の温度に加熱し、曲面を有する形状に熱成形する工程(Z)とを有する。
本発明の曲面付き液晶ディスプレイ保護板の製造方法は、工程(X)と工程(Z)との間に、必要に応じて、平坦樹脂板の少なくとも一方の表面に硬化被膜を形成する工程(Y)を有することができる。この場合、工程(Z)では、硬化被膜付きの平坦樹脂板を熱成形する。
工程(X)、(Y)は、[液晶ディスプレイ保護板の製造方法]の項で説明したので、ここでは省略する。
工程(Z)において、平坦樹脂板又は硬化被膜付きの平坦樹脂板に対する曲面加工等の形状加工は、プレス成形、真空成形、及び圧空成形等の公知の熱成形により行うことができる。
本発明では、工程(X)において、平坦樹脂板のRe値が50~330nmとなるように、成形を行う。工程(X)において、好ましくは、平坦樹脂板の幅17cm、長さ22cmの範囲内のRe値の標準偏差が15.0nm以下となるように、成形を行う。
平坦樹脂板は、Tg以上Tg以下の温度に加熱した際、Re値の加熱前に対する加熱後の変化率の絶対値が、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下、さらに好ましくは40%以下、特に好ましくは35%以下、最も好ましくは30%以下である。
平坦樹脂板は、Tg以上Tg以下の温度に加熱した際、幅17cm、長さ22cmの範囲内のRe値の標準偏差が、好ましくは25.0nm以下、より好ましくは20.0nm以下、特に好ましくは15.0nm以下、最も好ましくは10.0nm以下である。
本発明では、熱成形を実施しても樹脂板のRe値の変化が抑制されるので、Re値が好適な範囲内であり、Re値のバラツキが小さい、曲面付き液晶ディスプレイ保護板を安定的に製造することができる。
以上説明したように、本発明によれば、熱成形前と熱成形後の双方において、Re値が好適な範囲内であり、そのバラツキが小さく、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際の、色ムラ、ブラックアウト、及び色付き等の視認性の低下を抑制することが可能な液晶ディスプレイ保護板を提供することができる。
[用途]
本発明の液晶ディスプレイ保護板及び曲面付き液晶ディスプレイ保護板は例えば、銀行等の金融機関のATM;自動販売機;テレビ;携帯電話(スマートフォンを含む)、パーソナルコンピュータ、タブレット型パーソナルコンピュータ等の携帯情報端末(PDA)、デジタルオーディオプレーヤー、携帯ゲーム機、コピー機、ファックス、及びカーナビゲーションシステム等のデジタル情報機器等に使用される、液晶ディスプレイ又はタッチパネルディスプレイの保護板として好適である。
本発明の液晶ディスプレイ保護板及び曲面付き液晶ディスプレイ保護板は例えば、車載用液晶ディスプレイの保護板として好適である。
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
[評価項目及び評価方法]
評価項目及び評価方法は、以下の通りである。
(グルタルイミド変性メタクリル系樹脂の共重合組成)
グルタルイミド変性メタクリル系樹脂の共重合組成は、核磁気共鳴装置(日本電子社製「400YH」)を用い、H-NMR法により求めた。内部標準物質としては、TMS(テトラメチルシラン)を用いた。
樹脂0.04gを重水素化クロロホルム0.55mlに溶解させて試料溶液を調製し、室温環境下、積算回数64回の条件にてH-NMRスペクトルを測定し、下記2つのピークを特定した。
グルタルイミドのN-メチル基に由来するピーク(δ=3.0ppm付近)、
メタクリル酸メチルのエステルに由来するピーク(δ=3.6ppm付近)。
上記2つのピークの積分比から試料中の環構造単位とMMA単位とのモル比を求め、これを質量比に換算し、共重合組成(環構造単位とMMA単位の含有量)を求めた。
(ラクトン環変性メタクリル系樹脂の共重合組成)
国際公開第2016/185722号の[実施例]の項に記載の方法に従って、ラクトン環変性メタクリル系樹脂の共重合組成(環構造単位とMMA単位の含有量)を求めた。
(透明熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg))
透明熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(「DSC-50」、リガク社製)を用いて、測定した。透明熱可塑性樹脂10mgをアルミパンに入れ、上記装置にセットした。30分以上窒素置換を行った後、10ml/分の窒素気流中、一旦25℃から200℃まで20℃/分の速度で昇温し、10分間保持し、25℃まで冷却した(1次走査)。次いで、10℃/分の速度で200℃まで昇温し(2次走査)、2次走査で得られた結果から、中点法でガラス転移温度(Tg)を算出した。なお、2種以上の樹脂を含有する樹脂組成物において複数のTgデータが得られる場合は、主成分の樹脂に由来する値をTgデータとして採用した。
(透明熱可塑性樹脂の光弾性係数)
透明熱可塑性樹脂をプレス成形して、1.0mm厚の樹脂板を得た。得られた樹脂板の中央部から、幅15mm、長さ80mmの試験片を切り出した。この試験片の長手方向の両端部を、一対のチャックで把持した。チャック間距離は70mmとした。
王子計測機器社製「X軸アリ式ステージ」を用いて、試験片に対して張力を付与した。張力は、0Nから30Nまで、10Nずつ段階的に高くした。張力は、イマダ社製「センサーセパレート型デジタルフォースゲージ ZTS-DPU-100N」によりモニターした。
0Nから100Nまでの各段階の張力付与条件について、以下の測定を実施した。
張力が付与された状態の試験片の中央部分の位相差値[nm]を、王子計測機器社製「KOBRA-WR」を用いて、測定波長589.5nmの条件で測定した。この後、一対のチャックから試験片を取り外し、位相差測定部分の厚み(d[mm])を測定した。試験片の断面積(S)[m](=15[mm]×d[mm]×10-6)、応力[Pa](=張力[N]/S[m])、複屈折(=位相差値[nm]×10-6/d[mm])をそれぞれ計算した。横軸に応力、縦軸に複屈折をプロットし、最小自乗法により求め得られた直線の傾きを光弾性係数として求めた。
(透明熱可塑性樹脂の配向複屈折)
透明熱可塑性樹脂をプレス成形して、1.0mm厚の樹脂板を得た。得られた樹脂板の中央部から、幅20mm、長さ50mmの試験片を切り出し、加熱チャンバー付きオートグラフ(SHIMADZU社製)にセットした。チャック間距離は20mmとした。ガラス転移温度(Tg)より10℃高い温度で3分間保持した後、3mm/分の速度で一軸延伸した。延伸率は100%とした。この条件では、延伸後のチャック間距離は40mmとなる。延伸後の試験片を上記装置から取り外し、23℃に冷却した後、厚み(d)を測定し、中央部分のRe値を王子計測機器社製「KOBRA-WR」を用いて、測定波長589.5nmの条件で測定した。得られたRe値を試験片の厚み(d)で除することで、配向複屈折の値を算出した。
(液晶ディスプレイ保護板のRe値の平均値と標準偏差)
曲面成形前の液晶ディスプレイ保護板の試験片(幅21cm、長さ30cm)及び曲面成形後の液晶ディスプレイ保護板の試験片(幅17cm、長さ22cm)について、以下のようにしてRe値の平均値と標準偏差を測定した。
フォトニックラティス社製「WPA-100-L」に標準レンズ(FUJINON HF12.5HA-1B)を取り付けた。測定範囲が幅17cm、長さ22cmとなるように、レンズの高さを調整した。約11万点の複屈折画素数のRe値を測定し、平均値と標準偏差を求めた。
下記式に基づいて、Re値の平均値の曲面成形前に対する曲面成形後の変化率を求めた。
[Re値の加熱前に対する加熱後の変化率](%)=〔([加熱後のRe値]-[加熱前のRe値])/[加熱前のRe値]〕×100
(各層の厚み)
ニコンインステック社製「万能投影機(V-12B)」を用いて各層の厚みを測定した。
(色ムラ)
液晶ディスプレイの視認側の偏光子の透過軸と樹脂板の押出成形方向とが互いに垂直になるように、液晶ディスプレイ保護板の試験片を液晶ディスプレイ上に載置した。さらにこの上に偏光フィルムを載置し、偏光フィルムを様々な角度に回転させ、Re値のバラツキに起因する色ムラが最も強くなる角度での見え方を次の3段階で目視評価した。
A(良):色ムラが全くなく、液晶ディスプレイの視認性が低下しない。
B(可):色ムラが少しあり、液晶ディスプレイの視認性がわずかに低下する。
C(不良):顕著な色ムラがあり、液晶ディスプレイの視認性が大きく低下する。
(ブラックアウト)
液晶ディスプレイの視認側の偏光子の透過軸と樹脂板の押出成形方向とが互いに垂直になるように、液晶ディスプレイ保護板の試験片を液晶ディスプレイ上に載置した。さらにこの上に偏光フィルムを載置し、偏光フィルムを様々な角度に回転させ、液晶ディスプレイの透過光強度が最も小さくなる角度での見え方を次の3段階で目視評価した。
A(良):透過光強度が充分に高く、液晶ディスプレイに表示されている文字等をはっきりと視認できる。
B(可):透過光強度がやや低く、液晶ディスプレイに表示されている文字等の視認性がわずかに低下する。
C(不良):透過光強度がほぼゼロであり、液晶ディスプレイに表示されている文字等を視認できない。
(色付き)
液晶ディスプレイの視認側の偏光子の透過軸と樹脂板の押出成形方向とが互いに垂直になるように、液晶ディスプレイ保護板の試験片を液晶ディスプレイ上に載置した。さらにこの上に偏光フィルムを載置し、偏光フィルムを様々な角度に回転させ、液晶ディスプレイの色付きが最も大きくなる角度での見え方を次の3段階で目視評価した。
A(良):顕著な色付きがなく、液晶ディスプレイの視認性が低下しない。
B(可):色付きがあり、液晶ディスプレイの視認性がわずかに低下する。
C(不良):顕著な色付きがあり、液晶ディスプレイの視認性が低下する。
(成形率)
曲面成形後の液晶ディスプレイ保護板について、以下のようにして成形率を求めた。図6を参照して、説明する。図6は、模式断面図である。図6中、液晶ディスプレイ保護板の曲率は、誇張して図示してある。
曲面成形後の液晶ディスプレイ保護板Pを、凸面側が上側となるように定盤T上に載置した。液晶ディスプレイ保護板Pの最上部と定盤Tとの離間距離D(mm)を、隙間ゲージを用いて測定し、下記式に基づいて、成形率を求めた。評価に用いた樹脂型では、D=5mmのときに、成形率が100%である。
[成形率](%)=〔D/5〕×100
[材料]
用いた材料は、以下の通りである。
<環構造単位を有する透明熱可塑性樹脂(A)>
(PMMI1)グルタルイミド変性メタクリル系樹脂、ダイセル・エボニック社製「PLEXIMID TT50」、Tg=155℃、環構造単位の含有量86質量%、メタクリル酸メチル(MMA)単位の含有量14質量%。
(PMMI2)グルタルイミド変性メタクリル系樹脂、Tg=125℃、環構造単位の含有量15質量%、メタクリル酸メチル(MMA)単位の含有量85質量%。特開2008-134490号公報の[実施例1]の項に記載の製造方法に従って、PMMI2を合成した。
(PMML1)ラクトン環変性メタクリル系樹脂、Tg=149℃、環構造単位の含有量65質量%、メタクリル酸メチル(MMA)単位の含有量35質量%。国際公開第2016/185722号の[実施例1]の項に記載の製造方法に従って合成した。
(PMML2)ラクトン環変性メタクリル系樹脂、Tg=132℃、環構造単位の含有量28質量%、メタクリル酸メチル(MMA)単位の含有量72質量%。国際公開第2016/185722号の[実施例1]の項に記載の製造方法に従って合成した。
<環構造単位を有さない非変性のメタクリル系樹脂>
(PMMA1)メタクリル酸メチル(MMA)に少量のアクリル酸メチル(MA)を共重合した重合体、クラレ社製「パラペット HR」、Tg=119℃、環構造単位の含有量0質量%。
<ポリカーボネート系樹脂>
(PC1)住化ポリカーボネート社製「SDポリカ 300シリーズ」、Tg=150℃。
[実施例1~2、比較例1~5]
(液晶ディスプレイ保護板の製造)
50mmφ単軸押出機(東芝機械社製)を用いて、基材層用の樹脂(透明熱可塑性樹脂(B)又は比較用樹脂)を溶融押出した。30mmφ単軸押出機(東芝機械社製)を用いて、位相差調整層用の樹脂(透明熱可塑性樹脂(A)又は比較用樹脂)を溶融押出した。溶融状態のこれらの樹脂をマルチマニホールド型ダイスを介して積層し、Tダイから、基材層の両面に位相差調整層が積層された3層構造の熱可塑性樹脂積層体を共押出した。この熱可塑性樹脂積層体を互いに隣接する第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込み、第2冷却ロールに巻き掛け、第2冷却ロールと第3冷却ロールとの間に挟み込み、第3冷却ロールに巻き掛けることにより冷却した。冷却後に得られた平坦樹脂板を一対の引取りロールによって引き取った。このようにして、基材層の両面に位相差調整層が積層された3層構造の平坦樹脂板からなる液晶ディスプレイ保護板(参照図面:図2)を得た。
得られた液晶ディスプレイ保護板の中央部から、押出成形方向(樹脂の流れ方向)が長辺方向となるように、幅21cm、長さ30cmの試験片を切り出した。この試験片を用いて、曲面成形前の液晶ディスプレイ保護板の評価を実施した。
各例について、用いた樹脂の種類と物性、位相差調整層の合計厚み、基材層の厚み、及び、曲面成形前の液晶ディスプレイ保護板の評価結果を、表1、表2に示す。表1の各例において、表に不記載の条件は共通条件とした。
Figure 0007537931000005
Figure 0007537931000006
(曲面成形)
上記試験片の中央部から、押出成形方向(樹脂の流れ方向)が長辺方向となるように、幅17cm、長さ22cmの曲面成形用試験片を切り出した。この試験片に対して、以下のようにして、曲面成形を実施した。
SSI社製「ケミカルウッド Prolab65」を用いて製造された樹脂型を用意した。
樹脂型は図5に示すような雌型(図示下型)と雄型(図示上型)との組合せからなり、全体の形状は、幅(図示x方向の寸法)200mm×長さ(図示y方向の寸法)250mm×高さ(図示z方向の寸法)35mmの直方体状であった。
雌型の上面には凹曲面が形成され、雄型の下面には雌型の凹曲面と接合する凸曲面が形成され、雌型の高さは15~20mm、雄型の高さは20~15mmであった。
雌型の凹曲面及び雄型の凸曲面のy-z面に平行な断面形状は、図示x方向の位置に関係なく均一で、曲率半径が600mmの円弧状であった。なお、図面上は、湾曲を誇張して図示してある。
オーブンの中にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート(300mm×300mm×12mm)を載置し、オーブン内を170℃に加熱した。この状態で、PTFEシート上に曲面成形用試験片を載置し、非接触温度計(オプテックス社製「PT-S80」)を用いて、試験片の温度が表3に記載の成形温度(例えば、実施例1では133℃)になるまで6~7分間保持した。次いで、PTFEシートとその上に載置された曲面成形用試験片をオーブンから取り出した。次いで、常温(20~25℃)の雌型上に上記成形温度の曲面成形用試験片を載置し、その上に常温(20~25℃)の雄型を載置し、その上から3kgの荷重をかけた。次いで、1~2分かけて、試験片の温度が常温近傍になるまで冷却した。冷却後の試験片を樹脂型から取り出し、この試験片を用いて、曲面成形後の液晶ディスプレイ保護板(曲面付き液晶ディスプレイ保護板)の評価を実施した。
各例について、熱成形温度、及び、曲面成形後の液晶ディスプレイ保護板の評価結果を、表3に示す。表3の各例において、表に不記載の条件は共通条件とした。
比較例1については、熱成形温度を変えて、曲面成形を実施した。比較例1において、熱成形温度を123℃とした例と比較例1-1とし、熱成形温度を140℃とした例と比較例1-2とした。
Figure 0007537931000007
[結果のまとめ]
実施例1、2では、基材層の両面に位相差調整層が積層された平坦樹脂板からなる液晶ディスプレイ保護板を製造した。これら実施例では、位相差調整層の材料として、主鎖に環構造単位(具体的にはグルタルイミド単位又はラクトン環単位)を有し、ガラス転移温度(TgA0)が135~180℃である変性メタクリル系樹脂を用いた。基材層の材料として、非変性メタクリル系樹脂を用いた。位相差調整層は、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4~100.0×10-4であった。基材層は、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4未満であった。位相差調整層のガラス転移温度をTg、基材層のガラス転移温度をTgとしたとき、Tg>Tgであった。位相差調整層の合計厚みをT、基材層の厚みをTとしたとき、T<Tであった。
実施例1、2で得られた曲面成形前の平坦な液晶ディスプレイ保護板はいずれも、Re値の平均値が50~330nmであり、Re値の標準偏差が15.0nm以下であった。これら実施例において、得られた液晶ディスプレイ保護板を用い、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際に、色ムラ、色付き、及びブラックアウトが効果的に抑制された。
実施例1、2では、得られた平坦な液晶ディスプレイ保護板をTg以上Tg以下(Tg以上Tg未満)の温度で熱成形し、曲面付き液晶ディスプレイ保護板を製造した。実施例1、2で得られた曲面付き液晶ディスプレイ保護板はいずれも、Re値の平均値が50~330nmであり、Re値の標準偏差が15.0nm以下であった。これら実施例において、Re値の平均値の熱成形前に対する熱成形後の変化率の絶対値は50%以下であった。これら実施例において、得られた曲面付き液晶ディスプレイ保護板を用い、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際に、色ムラ、色付き、及びブラックアウトが効果的に抑制された。
比較例1では、位相差調整層の材料として、主鎖に環構造単位を有する樹脂を用いたが、この樹脂は、環構造単位の含有量が30質量%未満であり、ガラス転移温度(TgA0)が135℃未満であり、配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4未満であった。
比較例1で得られた平坦な液晶ディスプレイ保護板は、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際に、ブラックアウトが顕著に見られた。
比較例1-1では、得られた平坦な液晶ディスプレイ保護板をTg以上Tg以下(Tg以上Tg未満)の温度で熱成形し、曲面付き液晶ディスプレイ保護板を製造した。成形温度がTgに近すぎたため、成形率が低く、曲面成形を良好に実施できなかった。得られた曲面付き液晶ディスプレイ保護板は、Re値が低く、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際に、ブラックアウトが顕著に見られた。
比較例1-2では、得られた平坦な液晶ディスプレイ保護板をTg超の温度で熱成形し、曲面付き液晶ディスプレイ保護板を製造した。得られた曲面付き液晶ディスプレイ保護板は、Re値の平均値の熱成形前に対する熱成形後の変化率の絶対値は50%超であった。この比較例で得られた曲面付き液晶ディスプレイ保護板はRe値が低く、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際に、色ムラとブラックアウトが顕著に見られた。
比較例2では、位相差調整層と基材層の材料として、実施例1と同じ樹脂を用いたが、T>Tとした。この比較例では、得られた平坦な液晶ディスプレイ保護板をTg以上Tg以下(Tg以上Tg未満)の温度で熱成形し、曲面付き液晶ディスプレイ保護板を製造した。T>Tの条件では、Tg以上Tg以下(Tg以上Tg未満)の温度で熱成形ができず、成形率が顕著に低くなった。
比較例3では、位相差調整層の材料として、主鎖に環構造単位を有する樹脂を用いたが、この樹脂は、環構造単位の含有量が30質量%未満であり、ガラス転移温度(TgA0)が135℃未満であり、配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4未満であった。
比較例3では、得られた平坦な液晶ディスプレイ保護板をTg以上Tg以下(Tg以上Tg未満)の温度で熱成形し、曲面付き液晶ディスプレイ保護板を製造した。成形温度がTgに近すぎたため、成形率が低く、曲面成形を良好に実施できなかった。得られた曲面付き液晶ディスプレイ保護板は、Re値が低く、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際に、ブラックアウトが顕著に見られた。
比較例4では、位相差調整層の樹脂として、光弾性係数(C)及び配向複屈折(Δn)が本発明の規定外であるポリカーボネート系樹脂を用いた。この比較例で得られた曲面成形前の平坦な液晶ディスプレイ保護板は、Re値が好適な範囲より大きく、Re値の標準偏差が大きく(Re値のバラツキが大きく)、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際に、色ムラ及び色付きが顕著に見られた。
比較例4では、平坦な液晶ディスプレイ保護板をTg以上Tg以下(Tg以上Tg未満)の温度で熱成形し、曲面付き液晶ディスプレイ保護板を製造した。この比較例において、Re値の平均値の熱成形前に対する熱成形後の変化率の絶対値は50%超であった。この比較例で得られた曲面付き液晶ディスプレイ保護板は、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際に、色ムラが顕著に見られた。
比較例5では、位相差調整層の材料として、環構造単位を有さない一般的な非変性のメタクリル系樹脂を用いた。この樹脂は、ガラス転移温度(TgA0)が135℃未満であり、配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4未満であった。基材層の材料として、光弾性係数(C)及び配向複屈折(Δn)が本発明の規定外であるポリカーボネート系樹脂を用いた。Tg<Tgであった。得られた曲面成形前の平坦な液晶ディスプレイ保護板は、Re値の標準偏差が大きく(Re値のバラツキが大きく)、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際に、色ムラが顕著に見られた。
比較例5では、Tg及びTgよりも高い温度で熱成形し、曲面付き液晶ディスプレイ保護板を製造した。Re値の平均値の熱成形前に対する熱成形後の変化率の絶対値は50%超であり、熱成形後のRe値の標準偏差は25.0nm超であった。この比較例で得られた曲面付き液晶ディスプレイ保護板はRe値の標準偏差が大きく(Re値のバラツキが大きく)、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際に、色ムラが顕著に見られた。
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更が可能である。
1、2 液晶ディスプレイ保護板
3 硬化被膜含有液晶ディスプレイ保護板
11 Tダイ
12~14 冷却ロール
15 引取りロール
16A、16B 平坦樹脂板
21 位相差調整層
22 基材層
31 硬化被膜

Claims (12)

  1. 基材層の少なくとも片面に位相差調整層が積層された平坦樹脂板を含み、
    前記位相差調整層は、主鎖に、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の環構造単位を有し、ガラス転移温度(TgA0)が135~180℃であり、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、幅20mm、長さ40mm、厚み1mmの試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、当該試験片の平面視における中心の面内のリタデーション値を測定して求められる配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4~100.0×10-4である透明熱可塑性樹脂(A)を含み、
    前記基材層は、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、幅20mm、長さ40mm、厚み1mmの試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、当該試験片の平面視における中心の面内のリタデーション値を測定して求められる配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4未満である透明熱可塑性樹脂(B)を含み、
    透明熱可塑性樹脂(A)は、前記環構造単位30~99質量%とビニル系単量体単位70~1質量%とを有する共重合体であり、前記位相差調整層中の透明熱可塑性樹脂(A)の含有量が90~100質量%であり、
    透明熱可塑性樹脂(B)は、非変性のメタクリル系樹脂及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる1種以上の樹脂であり、前記基材層中の透明熱可塑性樹脂(B)の含有量が90~100質量%であり、
    前記位相差調整層のガラス転移温度をTg(℃)、前記基材層のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tg>Tgであり、
    前記位相差調整層の合計厚みをT、前記基材層の厚みをTとしたとき、T<Tであり、
    前記平坦樹脂板の面内のリタデーション値が50~330nmである、液晶ディスプレイ保護板。
  2. 透明熱可塑性樹脂(A)は、前記環構造単位とメタクリル酸メチル単位とを有するメタクリル系樹脂である、請求項1に記載の液晶ディスプレイ保護板。
  3. Tg-Tgが20℃以上である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイ保護板。
  4. 前記平坦樹脂板は、幅17cm、長さ22cmの範囲内の面内のリタデーション値の標準偏差が15.0nm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイ保護板。
  5. 前記平坦樹脂板は、Tg以上Tg以下の温度に加熱した際、面内のリタデーション値の、加熱前に対する加熱後の変化率の絶対値が50%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイ保護板。
  6. 前記平坦樹脂板は、Tg以上Tg以下の温度に加熱した際、幅17cm、長さ22cmの範囲内の面内のリタデーション値の標準偏差が25.0nm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイ保護板。
  7. 基材層の少なくとも片面に位相差調整層が積層された、曲面を有する樹脂板を含み、
    前記位相差調整層は、主鎖に、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の環構造単位を有し、ガラス転移温度(TgA0)が135~180℃であり、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、幅20mm、長さ40mm、厚み1mmの試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、当該試験片の平面視における中心の面内のリタデーション値を測定して求められる配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4~100.0×10-4である透明熱可塑性樹脂(A)を含み、
    前記基材層は、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、幅20mm、長さ40mm、厚み1mmの試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、当該試験片の平面視における中心の面内のリタデーション値を測定して求められる配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4未満である透明熱可塑性樹脂(B)を含み、
    透明熱可塑性樹脂(A)は、前記環構造単位30~99質量%とビニル系単量体単位70~1質量%とを有する共重合体であり、前記位相差調整層中の透明熱可塑性樹脂(A)の含有量が90~100質量%であり、
    透明熱可塑性樹脂(B)は、非変性のメタクリル系樹脂及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる1種以上の樹脂であり、前記基材層中の透明熱可塑性樹脂(B)の含有量が90~100質量%であり、
    前記位相差調整層のガラス転移温度をTg(℃)、前記基材層のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tg>Tgであり、
    前記位相差調整層の合計厚みをT、前記基材層の厚みをTとしたとき、T<Tであり、
    前記曲面を有する樹脂板の面内のリタデーション値が50~330nmである、曲面付き液晶ディスプレイ保護板。
  8. 透明熱可塑性樹脂(A)は、前記環構造単位とメタクリル酸メチル単位とを有するメタクリル系樹脂である、請求項7に記載の曲面付き液晶ディスプレイ保護板。
  9. Tg-Tgが20℃以上である、請求項7又は8に記載の曲面付き液晶ディスプレイ保護板。
  10. 前記曲面を有する樹脂板は、幅17cm、長さ22cmの範囲内の面内のリタデーション値の標準偏差が25.0nm以下である、請求項7~9のいずれか1項に記載の曲面付き液晶ディスプレイ保護板。
  11. 少なくとも一方の最表面に硬化被膜を備える、請求項1~6のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイ保護板、又は請求項7~10のいずれか1項に記載の曲面付き液晶ディスプレイ保護板。
  12. 前記基材層の少なくとも片面に前記位相差調整層が積層された平坦樹脂板を成形する工程と、
    前記平坦樹脂板をTg以上Tg以下の温度に加熱し、曲面を有する形状に熱成形する工程とを有する、請求項7~10のいずれか1項に記載の曲面付き液晶ディスプレイ保護板の製造方法。
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