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JP7513008B2 - 耳割れ発生率の低い鋼板の製造方法 - Google Patents

耳割れ発生率の低い鋼板の製造方法 Download PDF

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JP7513008B2 JP2021206706A JP2021206706A JP7513008B2 JP 7513008 B2 JP7513008 B2 JP 7513008B2 JP 2021206706 A JP2021206706 A JP 2021206706A JP 2021206706 A JP2021206706 A JP 2021206706A JP 7513008 B2 JP7513008 B2 JP 7513008B2
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Description

本発明は、鋼板製造用鋼素材を熱間圧延して鋼板を製造する際に、熱間圧延時に耳割れ発生率の低い鋼板の製造方法及び耳割れ発生率の低い鋼板製造用鋼素材に関する。
一般に、鋼板製造用鋼素材を熱間圧延して鋼板(厚鋼板)を製造する場合、成形パスの後で、鋼板製造用鋼素材である連続鋳造スラブを90°転回させて幅出し圧延を行った後、それを再び90°転回させて、通常の長手方向の圧延を行っている。ところが、このような圧延を行うと、圧延された鋼板の表裏面の幅方向先端から5~100mmくらいの位置に、長手方向への割れを生ずることがある。このような割れは、「耳割れ」と呼ばれ、一般にはその深さも深く、発生した部分を鋼板から除去する必要があるので、鋼板の歩留まりを低下させる原因の一つとなっている。
特許文献1には、熱間圧延において、制御圧延により低温で仕上げる場合に耳割れが多発すること、及び、幅出し比が大きいほど鋼板の幅先端から幅方向内部に耳割れが発生することが、経験的に良く知られているとの報告がある。これに対し、特許文献1は、鋼板製造用鋼素材(厚板用スラブ)の隅角部を20mm~80mmの曲率半径で丸みをつけた形状として、熱間圧延を行うことにより、隅角部の局所的な温度低下を防止し、鋼板(厚鋼板)の耳割れの発生を防止する方法を開示している。
特許文献2には、このような耳割れは、オーステナイト系ステンレス鋼や耐熱鋼などの、熱間加工時に割れの発生しやすい、いわゆる難加工性の材料で発生しやすいが、炭素鋼や低合金鋼などのように、通常は熱間加工性に大きな問題がないとされている材料でも、連続鋳造スラブを室温近くまで冷却することなく温間で加熱炉に装入して加熱し熱間圧延する場合や、加熱炉での加熱温度が高すぎる場合に発生しやすいことが経験的に知られていると記載されている。そして、特許文献2は、鋳片の側面の一部または全部を内側に湾曲あるいは屈曲させることにより、板厚方向で引張応力が作用することを防止し、耳割れの発生を軽減するための鋳片を開示している。
また、特許文献3には、高ニッケル鋼及び高ニッケルークロム鋼の鋼片の表面、または、カルシウム、マグネシウム、イットリウム、希土類元素のうちの一種以上を含有させた高ニッケル鋼及び高ニッケルークロム鋼の鋼片の表面に、酸化防止剤を塗布し、その表面の一部または全部を鋼板で被覆して加熱時の粒界酸化を防止して、熱間圧延時における耳割れを防止する方法が開示されている。
特公昭59-39202号公報 特公昭60-56561号公報 特公昭63-11083号公報
しかしながら、上記従来技術には以下の問題がある。
すなわち、特許文献1及び特許文献2では、熱間圧延に先立って鋼板製造用鋼素材である鋳片や鋼片の機械加工が必要であり、鋼板の大量生産を前提としたプロセスとしては、製造コスト面及び製造リードタイムの観点から問題があった。また、特許文献3の鋼板製造用鋼素材表面の酸化防止法についても、同様の問題があった。
このように、従来技術では、熱間圧延で生ずる鋼板の耳割れを、工程生産ベースで防止することは困難であった。そして、鉄鋼製造技術が当時よりも格段に発展した今日においても、いまだその問題解決に至っていないのが現状である。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、鋼板製造用鋼素材を熱間圧延して鋼板を製造する際に、耳割れ発生率の低い鋼板の製造方法及び耳割れ発生率の低い鋼板製造用鋼素材を提供することである。
今日に至っても、いまだ鋼板(厚鋼板)の耳割れを完全に防止することができない理由は、上述のように、耳割れが発生する傾向は経験的に知られているものの、その発生メカニズムが明確になっていないためである。背景技術に記載した耳割れ発生傾向からも、いくつかの冶金的側面が関係していることが見て取れる。
すなわち、鋼板製造用鋼素材(以下、単に「鋼素材」とも記す)の加熱炉装入時の変態・析出状態、鋼素材の加熱時の粒界酸化挙動、さらに、鋼素材の熱間圧延時の加工性などである。耳割れ発生の一つの冶金的側面が理解されても、それ以外の冶金的側面が複合的に関連していることにより、耳割れの根本的解決に至っていないと考えられる。
このような状況を鑑み、本発明者らは、近年急速な進歩を遂げている機械学習に着目し、10万点にも及ぶ鋼板の熱間圧延操業データを解析し、耳割れ発生に対する重要度の高い特徴量を抽出した。ここで、鋼素材である連続鋳造スラブの厚みは245mm、幅は1200~2300mm、連続鋳造スラブのトップ(鋳造終了時の部位)・ボトム(鋳造初期の部位)や、連続鋳造時に鋳型内湯面変動などの何らかの操業パラメータが規定値範囲を超えたスラブも削除せずに、全ての鋼板製造用鋼素材を耳割れ発生状況の調査対象に含めた。また、熱間圧延後の製品厚みは6mm~50mm、製品幅は1500mm~5000mmを主体として含む。また、熱間圧延の区分としては、熱間圧延まま材(特別な圧延制御なし)、制御圧延材、TMCP(Thermo-Mechanical Control Process)材、また、熱間圧延後に熱処理を施される鋼板の全てが含まれている。
その結果、鋼板製造用鋼素材の成分組成の「マンガン(Mn)+硅素(Si)」の含有量が少ないほど、また、加熱炉装入時の鋼板製造用鋼素材の表面温度が低いほど、耳割れ発生率を低減できることが確認された。以下に、その推定メカニズムについて説明する。
先ず、幅出し比が大きいほど鋼板の幅先端から幅方向内部側に耳割れが発生するという経験を踏まえると、耳割れは、形状調整圧延や幅出し圧延などの圧延初期に、その起点が形成されていると考えられる。圧延初期に割れの起点となるようなノッチ効果を有する因子の一つとして、加熱時の粒界酸化が考えられる。粒界酸化の深さは、加熱パターンの影響を大きく受けるが、オーステナイト粒径にも依存しており、加熱時のオーステナイト粒径が細粒であれば、粒界酸化深さは浅くなると考えられる。このことから、圧延初期に割れ起点が形成されるようなケースでは、鋼板製造用鋼素材の表層が粗大なオーステナイト粒の組織となっていると推測される。
鋼素材の成分組成では、硅素は、加熱時の粒界酸化に影響を及ぼすと推測される。すなわち、鋼素材の硅素含有量の増加に伴って、高温で液相化するファイアライト(Fe2SiO4)量が増大し、地鉄粒界への浸潤が顕著になることで、粒界酸化が促進されると考えられる。
一方、鋼素材のマンガン含有量は、鋼素材の加熱時のオーステナイト粒径に影響を及ぼしていると考えられる。すなわち、鋼素材のマンガン含有量が多いと、鋼素材(連続鋳造スラブ)の製造過程の冷却工程で、鋼素材の表層にオーステナイト-フェライト二相状態が残りやすく、鋼素材の加熱炉装入時の表面温度が高い場合には、加熱炉での加熱に伴って元の粗大なオーステナイト粒組織が形成されると考えられる。
すなわち、鋼板製造用鋼素材の成分組成のマンガン(Mn)含有量と硅素(Si)含有量との合計値、及び、加熱炉装入時の鋼板製造用鋼素材の表面温度は、耳割れの起点となる鋼素材加熱時の粒界酸化深さに関与するパラメータになると考えられる。
本発明は、以上の知見を踏まえ、さらに検討を加えて完成されたものである。上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] マンガン含有量と硅素含有量との合計含有量が1.5質量%以下である成分組成を有する鋼板製造用鋼素材の表面温度を300℃以下に冷却する冷却工程と、
前記鋼板製造用鋼素材を加熱炉で1000℃以上1170℃以下に加熱する加熱工程と、
加熱された前記鋼板製造用鋼素材を熱間圧延する圧延工程と、
を有する、耳割れ発生率の低い鋼板の製造方法。
[2] 前記鋼板製造用鋼素材は、成分組成として、炭素;0.04~0.40質量%、硅素;0.05~0.50質量%、マンガン;0.25質量%以上1.50質量%未満、燐;0.050質量%以下、硫黄;0.010質量%以下、アルミニウム;0.080質量%以下、及び、窒素;0.0015~0.0060質量%を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる、上記[1]に記載の耳割れ発生率の低い鋼板の製造方法。
[3] 前記鋼板製造用鋼素材は、成分組成として、銅;0.05~0.50質量%、ニッケル;0.05~2.00質量%、クロム;0.05~2.00質量%、モリブデン;0.05~0.50質量%、ニオブ;0.003~0.050質量%、バナジウム;0.01~0.30質量%、チタン;0.003~0.050質量%、ボロン;0.0005~0.0050質量%、カルシウム;0.0005~0.0050質量%、マグネシウム;0.0005~0.0050質量%、及び、REM(希土類元素);0.0005~0.0050質量%からなる群より選択される1種または2種以上をさらに含有する、上記[2]に記載の耳割れ発生率の低い鋼板の製造方法。
[4] 前記鋼板製造用鋼素材の熱間圧延時の耳割れ発生率は2.0%以下である、上記[1]から上記[3]のいずれかに記載の耳割れ発生率の低い鋼板の製造方法。
[5] マンガン含有量と硅素含有量との合計含有量が1.5質量%以下である成分組成を有する鋼板製造用鋼素材であって、
前記鋼板製造用鋼素材の熱間圧延時の耳割れ発生率が2.0%以下である、
耳割れ発生率の低い鋼板製造用鋼素材。
[6] 前記鋼板製造用鋼素材は、成分組成として、炭素;0.04~0.40質量%、硅素;0.05~0.50質量%、マンガン;0.25質量%以上1.50質量%未満、燐;0.050質量%以下、硫黄;0.010質量%以下、アルミニウム;0.080質量%以下、及び、窒素;0.0015~0.0060質量%を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる、上記[5]に記載の耳割れ発生率の低い鋼板製造用鋼素材。
[7] 前記鋼板製造用鋼素材は、成分組成として、銅;0.05~0.50質量%、ニッケル;0.05~2.00質量%、クロム;0.05~2.00質量%、モリブデン;0.05~0.50質量%、ニオブ;0.003~0.050質量%、バナジウム;0.01~0.30質量%、チタン;0.003~0.050質量%、ボロン;0.0005~0.0050質量%、カルシウム;0.0005~0.0050質量%、マグネシウム;0.0005~0.0050質量%、及び、REM(希土類元素);0.0005~0.0050質量%からなる群より選択される1種または2種以上をさらに含有する、上記[6]に記載の耳割れ発生率の低い鋼板製造用鋼素材。
本発明によれば、鋼板製造用鋼素材を熱間圧延して鋼板を製造するに際し、耳割れ発生率を抑えて鋼板を製造することが実現される。その結果、鋼板の品質及び圧延能率が向上し、製造コストの低減が可能となる。
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な実施形態の例を示すものであって、本発明はこれに限定されない。先ず、本発明に係る鋼板製造用鋼素材の成分組成(化学成分)について述べる。
[成分組成]
耳割れ発生率の低い鋼板の製造に用いられる本発明に係る鋼板製造用鋼素材においては、鋼板製造用鋼素材の成分組成のマンガン(Mn)含有量と硅素(Si)含有量との合計含有量が1.5質量%以下であることが必要であり、1.3質量%以下とすることが好ましい。
マンガン含有量と硅素含有量との合計含有量が1.5質量%を超えると、前述したように、耳割れの発生率が高くなるからである。マンガン含有量と硅素含有量との合計含有量は少ないほど好ましく、したがって、所定の鋼板性能の確保が可能であるならば、マンガン含有量と硅素含有量との合計含有量の下限は特に制限しない。
本発明に係る鋼板製造用鋼素材の成分組成においては、マンガン含有量と硅素含有量との合計含有量が1.5質量%以下であることが重要であり、その他の成分組成は、特に重要ではない。しかしながら、鋼板製造用鋼素材から製造される製品は鋼板であり、鋼板は所定の鋼板性能を確保する必要があるので、鋼板製造用鋼素材は、下記の成分組成であることが好ましい。
炭素(C);0.04~0.40質量%
炭素は、鋼の強度を向上させる元素であり、その効果を得る観点から、炭素含有量の下限は0.04質量%であることが好ましい。一方、炭素含有量が0.40質量%を超えると、溶接性を著しく損なう。このため、炭素含有量の上限は、0.40質量%とすることが好ましい。
硅素(Si);0.05~0.50質量%
硅素は、脱酸元素である。その効果を得る観点から、硅素含有量の下限は0.05質量%とすることが好ましい。一方、硅素含有量が0.50質量%を超えると、耳割れなど鋼板の表面疵を生じやすいうえ、鋼板の溶接熱影響部の靱性が低下する。このため、硅素含有量の上限は0.50質量%とすることが好ましい。ただし、本発明に係る鋼板製造用鋼素材では、マンガン含有量と硅素含有量との合計含有量が1.5質量%以下であるので、マンガン含有量に応じて硅素含有量の上限を調整する必要がある。
マンガン(Mn);0.25質量%以上1.50質量%未満
マンガンは、強度及び靱性を向上させる元素である。その効果を得る観点から、マンガン含有量の下限は0.25質量%が好ましい。一方、マンガン含有量が1.50質量%以上になると、耳割れなど鋼板の表面疵を生じやすいうえ、溶接熱影響部の靱性が低下する。このため、マンガン含有量の上限は1.50質量%未満とすることが好ましい。ただし、本発明に係る鋼板製造用鋼素材では、マンガン含有量と硅素含有量との合計含有量が1.5質量%以下であるので、硅素含有量に応じて硅素含有量の上限を調整する必要がある。例えば、硅素含有量が0.20質量%の場合は、マンガン含有量の上限は1.35質量%未満となる(この場合の硅素含有量とマンガン含有量との合計含有量1.55質量%未満(=0.20+1.35未満)は、有効数字から判定すれば1.5質量%となる)。
燐(P);0.050質量%以下
燐は、不純物であり、燐含有量が0.050質量%を超えると、鋼板や鋼板の溶接熱影響部の靱性、耐水素脆化特性が低下する。したがって、燐含有量は0.050質量%以下とすることが好ましい。一方、燐含有量は、少ないほど望ましいため、燐含有量の下限には特に制限はない。
硫黄(S);0.010質量%以下
硫黄は、不純物であり、その含有量が0.010質量%を超えると、熱間圧延時に圧延方向に伸長するMnSを生成して、鋼板や鋼板の溶接熱影響部の靱性を低下する。したがって、硫黄含有量は0.010質量%以下とすることが好ましい。硫黄含有量は、少ないほど望ましいため、硫黄含有量の下限には特に制限はない。
アルミニウム(Al);0.080質量%以下
アルミニウムは、通常、脱酸元素として含有される元素である。しかし、アルミニウム含有量が多すぎると、酸化物系非金属介在物が増加して、延性や靭性が損なわれる。このため、アルミニウム含有量の上限を0.080質量%とすることが好ましい。なお、アルミニウムは、鋼中に意図的に含有させる場合だけでなく、鋼中に不純物として混入する場合もあり得る。アルミニウムが鋼中に不純物として混入する場合、アルミニウム含有量は少ないほど望ましいので、アルミニウム含有量の下限には特に制限はない。
窒素(N);0.0015~0.0060質量%
窒素は、AlN、TiN、NbNなどの窒化物を形成する元素である。窒化物を利用して加熱時のオーステナイト粒径を微細にするために、窒素含有量の下限は0.0015質量%以上とすることが好ましい。しかし、窒素含有量が0.0060質量%を超えると、固溶窒素の増大や炭窒化物の粗大化を招いて靭性を損なう。したがって、窒素含有量の上限は0.0060質量%とすることが好ましい。
本発明の一実施形態における鋼板製造用鋼素材は、上記の成分を含有することが好ましく、残部は鉄(Fe)及び不可避的不純物からなる。
また、本発明の他の実施形態においては、鋼板製造用鋼素材は、上記の成分組成以外に、任意に、下記の範囲で、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、ボロン(B)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、REM(希土類元素)からなる群より選択される1種または2種以上をさらに含有することができる。以下、各元素及びその含有量を限定する理由を説明する。
銅(Cu);0.05~0.50質量%
銅は、靱性を低下させずに強度を上昇させることに有効な元素であり、また、耐食性にも有効な元素である。その効果を得る観点から、銅含有量の下限は0.05質量%とすることが好ましい。しかし、銅含有量が多すぎると、鋼板製造用鋼素材の加熱時や鋼板の溶接時に割れを生じやすくする。したがって、銅含有量の上限は0.50質量%とすることが好ましい。
ニッケル(Ni);0.05~2.00質量%
ニッケルは、靱性を低下させずに強度を上昇させることに有効な元素である。その効果を得る観点から、ニッケル含有量の下限は0.05質量%することが好ましい。しかし、ニッケル含有量が多すぎると、ニッケルは高価であり製造コストの観点で不利になると同時に、鋼板製造用鋼素材の加熱時や鋼板の溶接時に割れを生じやすくなる。したがって、ニッケル含有量の上限は2.00質量%とすることが好ましい。
クロム(Cr);0.05~2.00質量%
クロムは、鋼の強度を向上させるために有効な元素である。その効果を得る観点から、クロム含有量の下限は0.05質量%とすることが好ましい。しかし、クロム含有量が多すぎると、鋼板の焼入れ性を上昇させ、ベイナイトが過剰となり、靱性が低下する場合がある。したがって、クロム含有量の上限は2.00質量%とすることが好ましい。
モリブデン(Mo);0.05~0.50質量%
モリブデンは、焼入れ性を向上させると同時に、炭窒化物を形成して強度を改善する元素である。その効果を得る観点から、モリブデン含有量の下限は0.05質量%とすることが好ましい。一方、モリブデン含有量が多すぎると、ベイナイトが過剰となり、鋼板の靱性が低下する場合がある。したがって、モリブデン含有量の上限は0.50質量%とすることが好ましい。
ニオブ(Nb);0.003~0.050質量%
ニオブは、炭化物及び窒化物を形成し、強度の向上に寄与する元素である。その効果を得る観点から、ニオブ含有量を0.003質量%以上とすることが好ましい。しかし、ニオブ含有量が多すぎると、粗大なニオブの炭窒化物の形成を招いて靭性が低下する。したがって、ニオブ含有量の上限は0.050質量%とすることが好ましい。
バナジウム(V);0.01~0.30質量%
バナジウムは、炭化物及び窒化物を形成し、強度の向上に寄与する元素である。その効果を得る観点から、バナジウム含有量を0.01質量%以上とすることが好ましい。しかし、バナジウム含有量が多すぎると、靱性の低下を招くことがある。したがって、バナジウム含有量の上限は、0.30質量%とすることが好ましい。
チタン(Ti);0.003~0.050質量%
チタンは、炭化物、窒化物を形成し、結晶粒微細化に利用される元素である。その効果を得る観点から、チタン含有量を0.003質量%以上とすることが好ましい。しかし、チタンを過剰に含有すると、粗大な炭窒化物の形成によって靱性が低下する。したがって、チタン含有量の上限は0.050質量%とすることが好ましい。
ボロン(B);0.0005~0.0050質量%
ボロンは、焼入れ性を高めるために添加される元素である。その効果を得る観点から、ボロン含有量を0.0005質量%以上とすることが好ましい。しかし、ボロンは、過剰に含有すると、焼入れ性向上効果が飽和するとともに、粒界への炭窒化物形成によって靱性を低下させる元素でもある。したがって、ボロン含有量の上限は0.0050質量%とすることが好ましい。
カルシウム(Ca);0.0005~0.0050質量%
カルシウムは、硫化物のCaSを生成し、圧延方向に伸長するMnSの生成を抑制し、靭性や耐水素誘起割れ性の改善に寄与する元素である。カルシウム含有量が0.0005質量%未満では、上記効果が得られないので、カルシウム含有量の下限は0.0005質量%とすることが好ましい。一方、カルシウム含有量が0.0050質量%を超えると、酸化物が集積粗大化し、靭性や耐水素誘起割れ性を逆に損なうので、カルシウム含有量の上限は0.0050質量%とすることが好ましい。
マグネシウム(Mg);0.0005~0.0050質量%
マグネシウムは、脱酸剤及び脱硫剤として有効な元素であり、特に、微細な酸化物を形成して、溶接熱影響部の靭性の向上にも寄与する元素である。その効果を得る観点から、マグネシウム含有量を0.0005質量%以上とすることが好ましい。しかし、マグネシウム含有量が多すぎると、酸化物が凝集及粗大化し、靭性や耐水素誘起割れ性を損なうことから、マグネシウム含有量の上限は0.0050質量%とすることが好ましい。
REM(希土類元素);0.0005~0.0050質量%
REMは、脱酸剤及び脱硫剤として有効な元素である。その効果を得る観点から、REM含有量の下限を0.0005質量%とすることが好ましい。しかし、REM含有量が多すぎると、粗大な酸化物を生じ、鋼板及び溶接熱影響部の靱性の低下をもたらすことがある。したがって、REM含有量の上限は0.0050質量%とすることが好ましい。なお、本明細書中において、「REM」とは希土類元素を意味し、また、「REM;0.0050質量%」とは、希土類元素の合計含有量が0.0050質量%であることを指す。
[鋼板製造用鋼素材]
鋼板製造用鋼素材としては、上述した成分組成を有するものであれば任意のものを用いることができる。熱間圧延によって鋼板製造用鋼素材から得られる鋼板の成分組成は、使用した鋼板製造用鋼素材の成分組成と同じである。鋼板製造用鋼素材は、例えば、スラブ及びブルームの一方または両方を用いることができる。スラブとしては、例えば、連続鋳造スラブ及び鋼塊(インゴット)の分塊圧延スラブが挙げられる。
鋼板製造用鋼素材の製造方法は、とくに限定されないが、例えば、上記した成分組成を有する溶鋼を常法により溶製し、鋳造して製造することができる。前記溶製は、転炉、電気炉、誘導炉など、任意の方法により行うことができる。また、前記鋳造は、生産性の観点から連続鋳造法で行うことが好ましいが、造塊法で行ってもよい。
[鋼板の製造条件]
次に、本発明に係る耳割れ発生率の低い鋼板の製造方法について説明する。本発明に係る耳割れ発生率の低い鋼板の製造方法は、上記成分組成を有する鋼板製造用鋼素材に対して、下記の(1)~(3)の工程を順次施すことによって製造する。
(1)鋼板製造用鋼素材の冷却工程
(2)鋼板製造用鋼素材の加熱工程
(3)鋼板製造用鋼素材の圧延工程
以下、各工程における条件について説明する。なお、特に断らない限り、温度は被処理物(鋼素材または鋼板)の表面温度を指すものとする。
(1)鋼板製造用鋼素材の冷却工程
連続鋳造法または分塊圧延法で得られた上記成分組成を有する鋼板製造用鋼素材を、熱間圧延の加熱工程前に冷却する。冷却方法は、水冷、空冷、徐冷などあり、特に限定しないが、空冷とすることが好ましい。
冷却工程における鋼板製造用鋼素材の冷却停止温度は、表面温度で300℃以下とする。つまり、鋼板製造用鋼素材の表面温度が300℃以下になるまで、鋼板製造用鋼素材を冷却する。これは、鋼素材の表面温度を300℃以下とすることで、耳割れ発生率が各段に低減するからである。好ましくは、冷却停止温度を200℃以下とする。
(2)鋼板製造用鋼素材の加熱工程
上記鋼板製造用鋼素材を、熱間圧延に先だって1170℃以下の加熱温度で、加熱炉などで加熱する。加熱温度が1170℃を超えると、ファイアライト(Fe2SiO4)が液相化し、特に硅素含有量が多いと、粒界酸化を促進するためである。加熱温度の下限は特に限定しないが、鋼素材の加熱温度が1000℃未満では、炭窒化物の固溶が不十分で必要な強度が得られない場合があるので、1000℃以上であることが好ましい。
(3)鋼板製造用鋼素材の圧延工程
次いで、前記加熱された鋼素材を熱間圧延して鋼板とする。圧延条件は特に限定されず、常法にしたがって行うことができる。本発明においては、圧延条件は特に限定されない。しかし、鋼素材の変形抵抗を低下させ、圧延機への負荷を低減するという観点からは、圧延終了温度を750℃以上とすることが好ましく、800℃以上とすることがより好ましく、850℃以上とすることがさらに好ましい。一方、オーステナイト粒の著しい粗大化と、それに起因する熱処理後の延性の低下を防止するという観点からは、圧延終了温度を1000℃以下とすることが好ましく、950℃以下とすることがより好ましい。
[耳割れ発生率]
本発明での熱間圧延における鋼板の耳割れ発生率は、操業上の手入れ負荷、製造コストの増加を抑えるために、2.0%以下を目標とする。好ましくは、1.5%以下である。なお、本発明において、耳割れ発生の有無は、目視観察によって判断する。熱間圧延工程後に所定の製品サイズにするために切断される場合は、切断される部分を含めて圧延された鋼板の全面を対象として目視観察し、圧延幅端近傍に、仕上げ圧延方向に伸びた形状の疵、割れ、微小ヒビが認められた場合に、耳割れ発生有りと判断する。そして、鋼種毎に、全鋼板枚数に対する、耳割れ発生有りと判断した鋼板枚数の比率(百分率)を算出し、この比率を耳割れ発生率とする。
以上説明したように、本発明によれば、鋼板製造用鋼素材を熱間圧延して鋼板を製造するに際し、耳割れ発生率を抑えて鋼板を製造することが実現される。その結果、鋼板の品質及び圧延能率が向上し、製造コストの低減が可能となる。
以下、本発明の作用・効果について、実施例を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
以下の手順で鋼板を製造した。先ず、転炉-連続鋳造法により、表1に示す成分組成を有する連続鋳造スラブ(鋼板製造用鋼素材)を製造した。連続鋳造スラブの厚みは245mmである。いずれの成分組成に関しても、数百枚単位以上の鋼板を製造して統計的データを採るために複数チャージの出鋼を行っており、表1に示す化学成分値は、その代表的な溶鋼分析値を表している。SteelA~Dは、本発明に係る鋼板製造用鋼素材が規定する成分組成を満足する鋼素材であり、SteelE~Fは、本発明に係る鋼板製造用鋼素材が規定する成分組成を満足しない鋼素材である。
Figure 0007513008000001
上記連続鋳造スラブを、表2に示す冷却停止温度まで冷却した。続いて、同じく表2に示す加熱温度で加熱炉にて加熱し、加熱後、熱間圧延を施し、熱間圧延後の鋼板について、耳割れ発生率を評価した。熱間圧延後の鋼板の板厚は6mm~50mm、板幅は1500~5000mmである。また、圧延材には、熱間圧延まま材、制御圧延材、TMCP材があり、熱間圧延後に熱処理を施されるものが含まれている。
鋼板の耳割れ発生有無は、オペレータの目視観察により判断し、圧延幅端近傍に、仕上げ圧延方向に伸びた形状の疵、割れ、微小ヒビが認められた場合に、耳割れ発生有りと判断した。成分組成毎に、全鋼板枚数に対する、耳割れ発生有りと判断した鋼板枚数の比率(百分率)を算出し、耳割れ発生率とした。
表2に、表1に示すSteelA~Fの6種類の鋼種に対して、冷却工程における連続鋳造スラブの冷却停止温度を変化させたとき、及び、スラブ加熱工程での加熱温度を変化させた時の耳割れ発生率を示す。
Figure 0007513008000002
表2に示すように、連続鋳造スラブのマンガン含有量と硅素含有量との合計含有量が多い鋼種ほど、耳割れ発生率が高い傾向となり、また、同じ鋼種でも、冷却停止温度が高いほど、耳割れ発生率が高い傾向となっていた。
成分組成が、本発明に係る鋼板製造用鋼素材の規定する成分組成を満足し、連続鋳造スラブの冷却停止温度が300℃以下で、且つ、連続鋳造スラブの加熱温度が1170℃以下の条件(本発明例)では、耳割れ発生率は2.0%以下となっており、良好な成績であった。これに対して、本発明の条件を満足しない比較例では、耳割れ発生率は2.0%を超えており、4.0%を超えることもあった。
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者らによってなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術などは全て本発明の範疇に含まれる。

Claims (3)

  1. マンガン含有量と硅素含有量との合計含有量が1.5質量%以下である成分組成を有する鋼板製造用鋼素材の表面温度を300℃以下に冷却する冷却工程と、
    前記鋼板製造用鋼素材を加熱炉で1000℃以上1170℃以下に加熱する加熱工程と、
    加熱された前記鋼板製造用鋼素材を熱間圧延する圧延工程と、を有し、
    前記鋼板製造用鋼素材は、成分組成として、炭素;0.04~0.40質量%、硅素;0.05~0.50質量%、マンガン;0.25質量%以上1.50質量%未満、燐;0.050質量%以下、硫黄;0.010質量%以下、アルミニウム;0.080質量%以下、及び、窒素;0.0015~0.0060質量%を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる、耳割れ発生率の低い鋼板の製造方法。
  2. 前記鋼板製造用鋼素材は、成分組成として、銅;0.05~0.50質量%、ニッケル;0.05~2.00質量%、クロム;0.05~2.00質量%、モリブデン;0.05~0.50質量%、ニオブ;0.003~0.050質量%、バナジウム;0.01~0.30質量%、チタン;0.003~0.050質量%、ボロン;0.0005~0.0050質量%、カルシウム;0.0005~0.0050質量%、マグネシウム;0.0005~0.0050質量%、及び、REM(希土類元素);0.0005~0.0050質量%からなる群より選択される1種または2種以上をさらに含有する、請求項1に記載の耳割れ発生率の低い鋼板の製造方法。
  3. 前記鋼板製造用鋼素材の熱間圧延時の耳割れ発生率は2.0%以下である、請求項1又は2に記載の耳割れ発生率の低い鋼板の製造方法。
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