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JP7505611B2 - イオン源及び質量分析装置 - Google Patents

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Description

本願は、分析機器に関するものであり、具体的には、イオン源及び質量分析装置である。
誘電体バリア放電(DBD,Dielectric Barrier Discharge)は、均一かつ分散、安定な放電現象である。高電圧・高周波の交流電圧が絶縁誘電体で仕切られた一対の電極に印加されると、絶縁誘電体の存在により、絶縁誘電体の周囲に連続的かつ迅速なパルス放電現象が生じ、巨視的には1つの分散、均一かつ安定なプラズマ領域をなす。この領域にガス状物質が流れると、放電または電荷転送によりイオンが形成されるため、ますます多くの研究者が、この現象を利用して分析機器に供するイオン源が制作できることを察知した。
現在、比較的広く用いられているイオン源では、エレクトロスプレーイオン化(Electrospray Ionization,ESI)には、溶媒から形成されたスプレーにより試料をイオン化する必要があり、大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization,APCI)には、キャリアガスによってイオン化を補佐する必要があり、イオン源の構造が比較的複雑になってしまう。電子イオン化(Electron Ionization,EI)には高い真空度が必要であり、その応用環境は比較的厳しく、ひいてはイオン源構造が複雑でフットプリントが大きくなってしまう。マトリックス支援レーザ脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization,MALDI)には、マトリックス及び高性能レーザを個別に用意する必要があるため、高価である。PIイオン化源に用いられる真空紫外光源(vacuum ultra-violet,VUV)光源には、通常、専門のイオン化チャンバを設計する必要があり、PIイオン化源を使用するには大きなフットプリントが必要となる。一方、DBDイオン化源は、体積が小さく、コンパクトな構造を有し、放電が安定し、適用可能な試料が幅広いなどの利点を有する。
従来技術では、イオン化源として使用可能な通常のDBD装置は、軸心型、内外二重環型、および外部二重環型を含む。
特許文献1には、誘電体バリア放電構造をイオン源とする質量分析装置が開示され、放電領域の気圧は2torr~300torrであり、試料容器中の分析対象試料が揮発して発生したガス状物質は、負圧によりイオン化領域に入り、さらにイオン化した試料は質量分析器に取り込まれて検出される。この装置は、特定の揮発しやすい物質の分析の適用に限られるものであり、そのイオン化構造には比較的低い気圧を要求し、大気圧では作動できないため、その適用範囲はさらに制限される。
特許文献2には、誘電体バリア放電によるイオン化装置が開示され、電極は、誘電体素子によって構成された中空構造体の内側と外側に位置する。試料は、中空構造体を通流する際にイオン化される。イオン化領域の気圧は、60KPa以上であるが、大気圧で動作可能であることが好ましい。このような装置構造は、高い組立精度が要求されるため、加工や製造が困難であった。また、試料移行経路において、誘電体材料が高い割合で露出することから誘電素子表面に電荷の蓄積が生じてキャリアガスや試料のイオン化効果に影響を及ぼす。さらに、軸方向に大きいスペースが必要であるため、質量分析の表示画面の前の構造が過度に厚くなり、質量分析装置の小型化を阻害する。また、試料が直接的にプラズマ領域を通過して高圧電極に接触するため、イオン化時にフラグメントイオンがたくさん生成するおそれがある。
特許文献3には、誘電体バリア放電によるイオン化プローブが記載され、キャリアガス(例えば、ヘリウムガス、窒素等)がDBDイオン化領域を通過した後にプローブから噴出して多数の荷電粒子を含む低温プラズマのテールフレイム(tail flame)を形成し、テールフレイム及び被検物質は、電荷転送などのメカニズムによりイオン化される。当該技術案は、高い融通性と実用性があるが、電荷転送効率の制限及び荷電粒子が互いに排斥し合うことによりかなりのイオン損失があるため、後続分析には感度を損なう。また、軸心型の電極配置では、平行度を確保することが難しく、部分放電が集中的に発生し、放電位置が不安定になるなどの問題がイオン流の安定性に影響するおそれがある。
特許文献4には、複数の環状誘電体バリア放電カスケード装置が記載され、複数の環状放電電極によって励起されたプラズマは、反発電極の作用でイオン化チャンバから離れ、反発電極の電圧の正負を変えることにより正負イオンを選択的に噴射することができるから高い感度を有するが、絶縁誘電体チャンバの外部にある環状放電電極間の平行度は確保されにくく、放電領域は一方側に集中するおそれがある。また、電極と絶縁誘電体との間に空隙がないことを確保する必要もあり、さもないと絶縁誘電体チャンバの外部で放電するおそれがある。
従来技術の上記問題に鑑み、質量分析の分野では、小型化(またはコンパクト型)質量分析装置に適用可能で、小型化イオン源の低気圧または常圧作動の気圧要求を満足でき、優れたイオン化効率と加工製造の容易さという利点がある、誘電体バリア放電イオン源への要望が強い。
近年、いくつかの研究グループは平面型DBD放電現象に関する研究論文を発表し、平板状の電極や絶縁誘電体が積層して形成された平面型DBDによっても、放電の安定的な進行を維持することができると報告した。これらの研究論文は、平面型DBDの放電現象のメカニズムを鋭意検討し、平面型DBD構造のスペクトル解析への応用を発見した。
具体的には、Kimらは、非特許文献1に、サンドイッチ構造の平面型DBD放電構造を開示し、当該サンドイッチ構造の平面型DBD放電構造には、円環状の接地電極と、円形の誘電体板と、外径が接地電極の内径に整合している高圧電極とを含み、放電領域は、円環形の接地電極の内縁に位置している。当該文献は、このような平面型DBD放電構造の放電メカニズムおよび特性を検討した。
R.Hemingらが発表した非特許文献2には、中央に貫通孔を有するマイクロメートルサイズのDBD装置が開示され、この装置を原子発光スペクトルのスペクトル信号源とし、さらに、このDBD装置は、ガスイオン化によるイオントーチの光信号の供給に供するものであり、光信号を収集するための光ファイバも設けられる。当該文献では、DBD装置がスペクトル信号を生成するものであり、DBD装置によってイオン化したイオンが収集されることはない。また、その中央貫通孔は、スペクトル信号を他方側にある光ファイバに受信されるために設けられるものである。当該中央貫通孔が光の透過のみに供するものであるため、その寸法を大きく設置する必要がなく、この文献では、中央貫通孔径を0.1mmから0.3mmとするため、質量分析の分野での応用が制限される。
US2013/0161507A1 CN108701578B WO2009/102766 CN102522310A
Applied Sciences,8(8),1294 Analytical & Bioanalytical Chemistry, 2009, 395(5), 611
従来の上記問題、即ち小型化質量分析装置のイオン化源作動気圧範囲、イオン化安定性、製造プロセスの難易度の要求を如何にともに満足できるかという問題を解決するために、本発明は、順次平行に密着している第1電極板と、誘電体仕切板と、第2電極板とで構成される誘電体バリア放電ユニットを備え、第1電極板を貫通する第1貫通孔と、誘電体仕切板を貫通する第2貫通孔と、第2電極板を貫通する第3貫通孔とが、互いに対応して設けられてイオン化対象ガスのガス通路になる、イオン源を提供する。
発明者は下記の知見を得た。サンドイッチ構造のDBD装置の中央に気流通路である貫通孔を開口することにより、上述した構成を有するイオン源であっても、低気圧または常圧での安定したイオン化を実現することができ、このような平面型DBDは、平板状の電極(すなわち、第1電極板、第2電極板)と、絶縁誘電体(誘電体仕切板)を採用しそれらの組み合わせからなるため、電極、絶縁誘電体のそれぞれの板面が概ね平坦かつ滑らかであれば互いに高度な精度でもって貼り合わせることができ、電極や絶縁誘電体の円弧面精度を厳しく管理する必要がなく、加工精度の要求が比較的に低いとともに放電の安定性をより維持しやすい。
なお、DBD装置の中央貫通孔を気流通路として用いることにより、気流をイオン化しながら、イオン化したイオンを、直接的に気流とともにDBD装置の他側へ搬送することができる。DBD装置の軸方向は気流の搬送方向となり、DBD装置が複数枚の板状物によって軸方向に積み重ねられたものであるため、軸方向の厚さが複数枚の板状物の厚さの合計に過ぎない。従って、このDBD装置を質量分析装置のイオン源として使用する場合、質量分析装置の軸方向長さを効果的に削減することができ、質量分析装置の小型化に有利である。
以上のように、本発明に係る技術案によれば、よりシンプルでコンパクトな装置を利用して小型化質量分析装置のイオン化源作動気圧範囲、イオン化安定性及び製造プロセスの難易度の要求を同時に満たすことができる。
本発明の好ましい技術案では、第1貫通孔の半径は、第2貫通孔の半径よりも大きいとともに、第1貫通孔の半径は、第3貫通孔の半径よりも大きい。
以上により、誘電体仕切板により第1電極板と第2電極板との間に誘電体バリアが形成される。第1貫通孔の半径が第2貫通孔の半径よりも大きいので、誘電体仕切板は、第1電極板と第2電極板との誘電体バリアを効果的に形成することができ、アークが誘電体仕切板を越えて第1電極板と第2電極板を導通させることを回避でき、電極板の間の絶縁破壊を防止する。さらに、第1貫通孔の半径が第3貫通孔の半径よりも大きいため、異なる孔径の電極板を使用することで電極板の間により広いプラズマ放電領域が形成されてイオン化安定性を向上させることができる。
本発明の好ましい技術案では、第1貫通孔の半径と第3貫通孔の半径との差が5mm以内である。
この技術案によれば、第1貫通孔と第3貫通孔との半径差が5mm以内である場合に、第1電極板、第2電極板の放電によるプラズマ領域の大きさの要求を満たしつつ、イオン源構造を小型化することができ、生産コストを低減し、イオン源構造内の空間利用率を向上させることができる。
本発明の好ましい技術案では、前記第1貫通孔、前記第2貫通孔及び前記第3貫通孔は、同軸に設けられ、第1貫通孔の半径は、第3貫通孔の半径と同じであり、両方とも第2貫通孔の半径よりも大きい。
この技術案によれば、第1貫通孔の半径と第3貫通孔の半径は同じであるため、第1電極板、第2電極板は、同じ仕様やサイズの電極板を使用可能で製作コストを低減することができる。第1貫通孔、第3貫通孔は、両方とも第2貫通孔より半径が大きいため、誘電体仕切板によって第1電極板と第2電極板との間により安定した誘電体バリアを形成し、電極板の間の絶縁破壊の確率を低減することができる。
本発明の好ましい技術案では、ガス通路の方向は、第1電極板から第2電極板へ、或いは第2電極板から第1電極板へ通じるような方向である。
本発明の好ましい技術案では、イオン源は、複数の誘電体バリア放電ユニットを有し、複数の誘電体バリア放電ユニットのガス通路は同軸に設けられている。
この技術案によれば、複数の誘電体バリア放電ユニットを簡易に積み重ねるだけで、ガスが誘電体バリア放電ユニット内でイオン化作用を受ける経路長さを延長でき、イオン化対象ガスを誘電体バリア放電領域において充分にイオン化することができ、イオン化効果を高める。
本発明の好ましい技術案では、隣接する2つの誘電体バリア放電ユニットの間に、誘電体仕切板よりも絶縁能力が大きいユニット間誘電体仕切板が設けられている。
この技術案によれば、ユニット間誘電体仕切板の設置により、各誘電体バリア放電ユニットがそれぞれ単独に放電し、隣接する誘電体バリア放電ユニット間の放電が互いに影響し、さらに、イオン化対象ガスのイオン化効果に影響するのを回避するように、隣接する誘電体バリア放電ユニットの放電にブロックが生じるので、有利である。
本発明の好ましい技術案では、第1電極板、第2電極板及び誘電体仕切板は、いずれも環状をなす。
この技術案によれば、環状の第1電極板、誘電体仕切板及び第2電極板が互いに平行に密着して設けられ、環状板部材の中央開口部が互いに対応的に連通してガス通路として用いられる。このような配置方式はイオン源構造のコンパクト性を高め、電極板間の平行度を確保し、イオン源が構造上の欠陥による放電現象の発生を防止するのに有利である。
本発明の好ましい技術案では、誘電体仕切板は、セラミック、ガラスまたは石英である。
本発明の好ましい技術案では、イオン源の作動圧力は大気圧、または100Paから大気圧までの低気圧環境である。
この技術案によれば、イオン源の作動圧力が大気圧または低気圧環境であることで、真空システムへの要求を低減でき、イオン源及び対応する質量分析システムの小型化に有利である。
本発明の好ましい技術案では、第1電極板は交流電源に接続され、第2電極板は接地される、或いは第1電極板は接地され、第2電極板は交流電源に接続される。
本発明の好ましい技術案では、イオン化対象ガスは、ガス状試料、気化した試料或いはキャリアガスである。
この技術案によれば、イオン源によって、ガス通路を流れるガス状試料または気化した試料を直接的にイオン化することができ、または、ガス通路を流れるキャリアガスをイオン化した後、イオントーチと試料とをイオン交換させて試料を間接的にイオン化することもできる。
本発明の好ましい技術案では、第2貫通孔の半径は、0.5mm以上5mm以下である。
この技術案によれば、第2貫通孔の半径が0.5mmより小さいと、質量分析装置の検出機器などの後段の機器へ吸気量が制限される可能性があり、一方、第2貫通孔の半径が5mmを超えると、径方向においての誘電体バリア放電領域とガス通路の距離が拡大されてイオン化されたイオンがDBD装置を順調に通過できなくなるため、イオン化が不十分になり、イオン化効率が低下しやすくなってしまう。
本発明は、上記イオン源を用いた質量分析装置をさらに提供する。
本発明の第1実施形態に係る誘電体バリア放電ユニットの断面構造概略図である。 本発明の第2実施形態に係る誘電体バリア放電ユニットの断面構造概略図である。 本発明の第3実施形態に係る誘電体バリア放電ユニットの断面構造概略図である。 本発明の第4実施形態に係る誘電体バリア放電ユニットの断面構造概略図である。 本発明の第5実施形態に係る誘電体バリア放電ユニットの断面構造概略図である。 本発明の第1実施形態に係る誘電体バリア放電ユニットによってイオン化、気化したベラパミル溶液から得られたマススペクトル信号図である。 本発明の第1実施形態に係る誘電体バリア放電ユニットによってイオン化、気化したベラパミル溶液から得られたマススペクトルである。
以下、本発明の実施例における技術案を、本発明の実施例における図面に合わせて、明確且つ完全に説明するが、説明される実施例は本発明の実施例の一部に過ぎず、すべての実施例ではないことが明らかである。本発明における実施例に基づいて、当業者は、創造的な労働なしに取得される他のすべての実施例は、いずれも本発明の保護範囲に属する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るイオン源の断面構造概略図である。図1に示すように、本発明の第1実施形態は、誘電体バリア放電ユニット1を含むイオン源であって、誘電体バリア放電ユニット1は、順次平行に密着している第1電極板11と、誘電体仕切板12と、第2電極板13とで構成され、第1電極板11を貫通する第1貫通孔111と、誘電体仕切板12を貫通する第2貫通孔121と、第2電極板13を貫通する第3貫通孔131とは、互いに対応して設けられてイオン化対象ガスのガス通路14(図1の矢印で示す領域であり、矢印の方向は、イオン化対象ガスの流れ方向)になる、イオン源を提供する。
本発明の実施形態では、第1電極板11は交流電源の出力端子(図示せず)に接続され、第2電極板13は接地される、或いは第1電極板11は接地され、第2電極板13は交流電源の出力端子に接続される。第1電極板11、第2電極板13に交流電圧を印加することにより、第1電極板11と第2電極板13の間は、内径差によって互いにずれて形成された誘電体バリア放電領域2により誘電体バリア放電現象が発生し、イオン化対象ガスが誘電体バリア放電領域2(図1の楕円形で示す領域)を通過する際にイオン化され、イオン化された試料は質量分析装置の検出機器の注入口から入り、さらなる検出に利用可能となる。
さらに、イオン化対象ガスは、ガス状試料、気化した試料或いはキャリアガスであり、イオン源は、ガス状試料または気化した試料をそのままガス通路14に沿って誘電体バリア放電ユニット1を通過させるように配置されてもよく、交流電圧が印加された誘電体バリア放電ユニット1は、ガス状試料または気化した試料をイオン化して後段の機器、例えば質量分析装置の検出機器に輸送することができる。一実施形態では、イオン源は、窒素ガスまたは不活性ガスであるキャリアガスをガス通路14に沿って誘電体バリア放電ユニット1を通過させるように配置されてもよく、キャリアガスがイオン化して形成されたイオントーチがガス状試料流路または気化した試料流路に結合されてからガス状試料或いは気化後の試料とイオン交換して試料をイオン化し、イオン化した試料をさらに後段の機器例えば質量分析装置の検出機器に輸送し、イオン分析を実行する。
本発明の実施形態で採用する交流の電圧範囲は1000V~10000Vであり、周波数は40KHz~1MHzであり、好ましくは40KHz~100KHzである。当該高圧電源は、ガス状試料や気化した試料を直接的にイオン化する他、キャリアガスをイオン化してプラズマのテールフレイムを形成し、さらに試料をイオン化することもでき、キャリアガスはヘリウム、アルゴン、ネオン、窒素のうち1種または複数種の組み合わせである。
具体的には、誘電体バリア放電領域2は、誘電体仕切板12の内側(すなわち、図1~図5における右側)、外側(すなわち、図1~図5における左側)のいずれか一方に位置してもよく、または、誘電体仕切板12の両側にそれぞれ分散してもよい。
図1、図2に示す実施形態では、第1貫通孔111の半径が第3貫通孔131の半径よりも大きく、第2貫通孔121の半径が第3貫通孔131の半径以上であり、誘電体バリア放電領域2が誘電体仕切板12の外側に位置している。図1において、第2貫通孔121の半径は、第3貫通孔131の半径と同じであり、イオン化対象ガスと誘電体バリア放電領域2との接触面積がより大きくなり、イオン化効率もより高くなる。
具体的には、図1に示すように、本発明の第1実施形態では、第1貫通孔111の半径が第3貫通孔131の半径よりも大きく、第2貫通孔121の半径が第3貫通孔131の半径に等しい。第1貫通孔111の半径と第3貫通孔131の半径との差が5mm以内である。第1貫通孔111と第3貫通孔131との半径差が5mm以内である場合に、第1電極板11、第2電極板13の放電による誘電体バリア放電領域2の大きさの要求を満たしつつ、イオン源構造を小型化することができ、生産コストを低減し、イオン源構造内の空間利用率を向上させることができる。
図2に示す第2実施形態では、第1貫通孔111の半径が第2貫通孔121の半径よりも大きいとともに第1貫通孔111の半径が第3貫通孔131の半径よりも大きい。第1貫通孔111の半径が第2貫通孔121の半径よりも大きいので、誘電体仕切板12は、第1電極板11と第2電極板13との誘電体バリアを効果的に形成することができ、アークが誘電体仕切板12を越えて第1電極板11と第2電極板13を導通させることを回避することで電極板の間の絶縁破壊を防止する。一方、第1貫通孔111の半径は、第3貫通孔131の半径よりも大きいので、異なる孔径の電極板を用いることで電極板の間により広い誘電体バリア放電領域2を形成することができ、ガス状試料と誘電体バリア放電領域2との接触面積がより大きくなり、イオン化効率を向上させる。
図3に示す第3実施形態では、第1電極板11の中央の第1貫通孔111の半径は、第2電極板13の中央の第3貫通孔131の半径よりも小さく、誘電体バリア放電領域2は、誘電体仕切板12の内側に位置することにより、イオン化対象ガスは主に気流に連れられて発生したプラズマのテールフレイムと接触し、気流からの影響が弱く、安定性がより高く、さらにイオン化がより柔軟になる、すなわち、より少ないフラグメントイオンを生成する。本実施形態では、第2貫通孔121の半径は、第1貫通孔111の半径と同じであってもよく、或いは第1貫通孔111の半径よりも大きくてもよい。
図4に示す第4実施形態では、第1貫通孔111の半径は第3貫通孔131の半径と等しく、誘電体バリア放電領域2は誘電体仕切板12の両側に位置する。このような配置方式では、誘電体仕切板12が延伸して第1電極板11と第2電極板13との間に突出しているため、絶縁破壊の問題を効果的に解決できる。また、第1貫通孔111と第3貫通孔131の半径が等しいので、第1電極板11は、第2電極板13と同じ仕様やサイズの電極板を用いることができ、製作コストをさらに低減する。この構造によって、第1貫通孔111と第3貫通孔131との間で安定した放電を実現することもできる。本発明の他の実施形態において、第1貫通孔111の半径は、第3貫通孔131の半径と異なっていてもよい。
本発明の実施形態において、第1電極板11と第2電極板13は、内径差を有してもよい。内径差を有する第1電極板11と第2電極板13との間は、誘電体バリア放電領域2の位置を簡単な装置構造によって決めることができ、誘電体バリア放電ユニット1のイオン化強度及びイオン化安定性の確保とイオン化効率の向上に寄与する。変形例として、例えば、図4に提供される実施形態のように、第1電極板11と第2電極板13は、同じ直径であってもよい。
本発明の実施形態における「内」、「外」は、質量分析装置の検出機器に対する概念であり、具体的には、誘電体仕切り板12の質量分析装置の検出機器に面する側を内側とし、誘電体仕切り板12の質量分析装置の検出機器から離反する側を外側とする。
本発明の実施形態において、ガス通路14の方向は、第1電極板11から第2電極板13へ通じる方向であるが、他の実施形態においては、ガス通路14の方向は、第2電極板13から第1電極板11へ通じるようになってもよい。本発明の実施形態では、ガス通路14の方向を限定することなく、当業者は、実際の状況に応じてガス通路14の方向を決定してもよい。
本発明の実施形態では、第1貫通孔111、第2貫通孔121及び第3貫通孔131は、いずれも、互いに対応して設けられている。さらに、第1貫通孔111、第2貫通孔121及び第3貫通孔131は、同軸に設けられている。同軸に設けられた第1貫通孔111、第2貫通孔121及び第3貫通孔131は、よりコンパクトな構造を有しつつ、イオントーチの分布がより均一であるため、イオン化もより安定となる。また、ガス通路14が第1貫通孔111、第2貫通孔121及び第3貫通孔131の軸線方向が位置する領域に形成されることで、ガス通路14、誘電体バリア放電領域2の秩序性及びガス通路14の通流性を増したため、イオン化対象ガスを、ガス通路14及び誘電体バリア放電領域2に円滑に進入させ、さらに十分にイオン化させることができ、イオン化効率とイオン化効果が向上する。一実施形態において、第1貫通孔111、第2貫通孔121及び第3貫通孔131は、異なる軸で互いに対応して設けられてもよい。
本発明の好ましい実施形態では、イオン源の作動圧力は大気圧、または100Paから大気圧までの低気圧雰囲気である。本発明の実施形態におけるイオン源の作動圧力は、大気圧または低気圧雰囲気であるため、イオン源の真空システムは、よりコンパクトなポンプを使用してもよく、或いは、イオン源の真空システムを省略してもよく、イオン源の小型化に有利である。
本発明の好ましい実施形態では、誘電体仕切板12は、セラミック、ガラスまたは石英である。セラミック、ガラスまたは石英等の材料を用いて誘電体仕切板12を作製する場合に、これらの材料は、良好な断熱性能だけでなく、良好な絶縁性能も有し、製作や加工が容易で安価である。さらに、誘電体仕切板12の厚さは、0.2mm以上5mm以下である。よりさらに、誘電体仕切板12の厚さは0.25mm、0.5mm、1mm、2mmである。誘電体仕切板12の誘電体バリア効果を発揮しつつ、小型化しやすいことから、誘電体仕切板12の厚さは0.25mm未満であるのが好ましい。誘電体仕切板12の厚さは、イオン源構造の重要なパラメータであり、比較的強く、安定した放電装置が得られるように、この厚さは交流電源の電圧や周波数に合わせる必要がある。
また、キャリアガスを用いる場合、キャリアガスの流速は、誘電体バリア放電領域2にイオン化対象ガスが滞在する時間に影響を与え、ひいてはイオン化対象ガスのイオン化効率及び安定性にも影響を与える。キャリアガス流量が高すぎると、空間の絶縁係数を低下させて絶縁破壊による放電が発生するおそれがある点に注目されたい。上記問題を配慮すれば、キャリアガス流量を1ml/min~500ml/minの範囲内に制御することが好ましい。
本発明の好ましい実施形態では、第1電極板11、第2電極板13及び誘電体仕切板12は、いずれも環状をなす。環状の第1電極板11、誘電体仕切板12及び第2電極板13は、互いに平行に密着して設けられた平面型DBD装置では、平板状の第1電極板11、第2電極板13、誘電体仕切板12を採用しそれらの組み合わせからなるため、三者の板面が概ね平坦かつ滑らかであれば互いに高度な精度でもって貼り合わせることができ、電極や絶縁誘電体の円弧面精度を厳しく管理する必要がなく、加工精度の要求が比較的に低いとともに放電の安定性を維持しやすい。また、DBD装置の中央貫通孔を気流通路14として用いることにより、気流をイオン化しながら、イオン化したイオンを、直接的に気流とともにDBD装置の他側へ搬送することができる。DBD装置の軸方向は気流の搬送方向となり、DBD装置が複数枚の板状物によって軸方向に積み重ねられたものであるため、軸方向の厚さが複数枚の板状物の厚さの合計に過ぎない。従って、このDBD装置を質量分析装置のイオン源として使用する場合、質量分析装置全体の軸方向長さを効果的に削減することができ、質量分析装置の小型化に有利である。
さらに、環状の第1電極板11、誘電体仕切板12及び第2電極板13の表面は、平坦かつ滑らかであるため、電極板の局所的な放電や加工欠陥により放電が発生し易くなるのを防止するのに有利である。
一実施形態では、第1電極板11、第2電極板13及び誘電体仕切板12は、三角形、矩形等の異なる形状であってもよい。
さらに、本発明の好ましい実施形態では、第2貫通孔121の半径は、0.5mm以上5mm以下である。第2貫通孔121の半径が過大あるいは過小になってはいけない。気流が第2貫通孔121を通過して質量分析装置の検出機器のイオン入口に到着するため、第2貫通孔121の半径が0.5mmより小さいと、第2貫通孔121の半径が過小となり、後段の質量分析検出機器の吸気量の大きさが制限される可能性があり、第2貫通孔121の半径が5mmより大きいと、ガス通路14が広すぎて、径方向においての誘電体バリア放電領域2とガス通路14の距離が拡大されてイオン化されたイオンがDBD装置を順調に通過できなくなるため、イオン化が不十分になり、イオン化効率が低下しやすくなってしまう。
図5は、本発明の第5の実施形態に係るイオン源の断面構造概略図である。本発明の好ましい実施形態では、イオン源は、複数の誘電体バリア放電ユニット1を有し、複数の誘電体バリア放電ユニット1のガス通路14は同軸に設けられている。
具体的には、複数の誘電体バリア放電ユニット1は、同じ仕様の誘電体バリア放電ユニット1であってもよいし、異なる仕様の誘電体バリア放電ユニット1であってもよい。ここでの仕様とは、各誘電体バリア放電ユニット1の第1貫通孔111、第2貫通孔121及び第3貫通孔131の半径、並びに第1電極板11、第2電極板13及び誘電体仕切板12の材質や厚さなどのパラメータである。本発明は、複数の誘電体バリア放電ユニット1の仕様に対しては限定しない。
また、図5を引き続き参照すると、第5実施形態では、隣接する2つの誘電体バリア放電ユニット1の間に、誘電体仕切板12よりも絶縁能力が大きいユニット間誘電体仕切板3が設けられ、例えば、厚さが比較的厚い、或いは絶縁係数が高いユニット間誘電体仕切板3が設けられている。
具体的には、ユニット間誘電体仕切板3は絶縁誘電体であり、このようなユニット間誘電体仕切板3の設置により、各誘電体バリア放電ユニット1がそれぞれ単独に放電し、隣接する誘電体バリア放電ユニット1間の放電が互いに影響するのを回避するように、隣接する誘電体バリア放電ユニット1の放電にブロックが生じることに有利である。厚さが比較的大きいユニット間誘電体仕切板3により、絶縁バリア性が高められ、第1電極板11及び第2電極板13の絶縁破壊を回避することに有利である。
本発明のいくつかの実施例において、ユニット間誘電体仕切板3の誘電率が高い場合には、ユニット間誘電体仕切板3の絶縁性能が良好であると、イオン源構造の小型化のために、ユニット間誘電体仕切板3の厚さを誘電体仕切板12の厚さよりも小さくしてもよい。
本発明の他の実施例において、ユニット間誘電体仕切板3を省略し、空気の絶縁特性により、互いに影響しないように、隣接する2つの誘電体バリア放電ユニット1の間にそれぞれ単独に放電させることができ、イオン源の各誘電体バリア放電ユニット1による放電の均一性及びイオン化効果の均一性を向上させる。ユニット間誘電体仕切板3の厚さ及び隣接する誘電体バリア放電ユニット1間の距離は限定されない。
以上説明したように、本発明の実施形態における第1電極板11、誘電体仕切板12及び第2電極板13は、いずれも板状材であり、互いに平行に密着し易く、構造が簡単で組み立て易く、部分放電現象の低減に有利である。また、イオン源の体積が小さくて質量分析検出機器のインターフェイス前の構造の厚さも小さいため、質量分析装置の小型化に寄与し、また、誘電体仕切板12がガス通路14内に一部だけ露出することで、誘電体仕切板12の表面の電荷の蓄積を低減できる。
本発明は、以上の実施形態に係るイオン源を含む質量分析装置をさらに提供する。上記イオン源を含む質量分析装置は、イオン化効率が高く、小型化で製作でき、低コストであり、また、常圧または低気圧条件下で動作することができる。当該イオン源の適用対象である質量分析装置は、手持ち式質量分析装置或いはメサ型質量分析装置であることが好ましい。
本実施形態で提供される誘電体バリア放電ユニット1のイオン化効果をさらに検証するために、本実施形態では、誘電体仕切板12として、厚さ0.2mm、内径2mmのセラミックガスケットを採用し、内径がそれぞれ3mm及び2mmの第1電極板11及び第2電極板12とともに図1に示す方法に従って配置され、ポリエーテルエーテルケトン材料からなる支持体で組み立てられた。このDBDイオン源を質量分析検出機器の注入口に設置し、電源を2000V、70KHzとし、さらに昇温脱離の手段にて1ngのベラパミル溶液を気化し、質量分析検出機器の注入口での負圧により、ガス状のベラパミル溶液が、図1の実施形態に係るイオン源を流してから質量分析装置に入った。5回繰り返しテストで得られたススペクトル信号を図6に示す。図6の横軸はサンプリング時間(Time/秒)であり、縦軸はトータルイオンクロマトグラムが抽出した質量数455の抽出イオンクロマトグラムXICである。得られたマススペクトルを図7に示す。図7の横軸は質量数、縦軸は信号強度である。図6及び図7より、本発明の実施形態では、イオン源が微量試料のテストにおいて高いイオン化効率と高い再現性を有することがわかる。
以上は、本発明を限定するものではなく、本発明の好適な実施例のみであり、本発明の旨に従って実施されたあらゆる修正、同等の置換および改良は本発明の保護範囲に含まれるものとする。
1 誘電体バリア放電ユニット
11 第1電極板
111 第1貫通孔
12 誘電体仕切板
121 第2貫通孔
13 第2電極板
131 第3貫通孔
14 ガス通路
2 誘電体バリア放電領域
3 ユニット間誘電体仕切板

Claims (14)

  1. 順次平行に密着している第1電極板と、誘電体仕切板と、第2電極板とで構成される誘電体バリア放電ユニットを備え、前記第1電極板を貫通する第1貫通孔と、前記誘電体仕切板を貫通する第2貫通孔と、前記第2電極板を貫通する第3貫通孔とが、互いに対応して設けられてイオン化対象ガスのガス通路になる、ことを特徴とするイオン源。
  2. 前記第1貫通孔の半径は、前記第2貫通孔の半径よりも大きいとともに、前記第1貫通孔の半径は、前記第3貫通孔の半径よりも大きい、ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
  3. 前記第1貫通孔の半径と第3貫通孔の半径との差が5mm以内である、ことを特徴とする請求項2に記載のイオン源。
  4. 前記第1貫通孔、前記第2貫通孔及び前記第3貫通孔は、同軸に設けられ、前記第1貫通孔の半径は、前記第3貫通孔の半径と同じであり、両方とも前記第2貫通孔の半径よりも大きい、ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
  5. 前記ガス通路の方向は、前記第1電極板から前記第2電極板へ、或いは前記第2電極板から前記第1電極板へ通じる方向である、ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
  6. 前記イオン源は、複数の前記誘電体バリア放電ユニットを有し、複数の前記誘電体バリア放電ユニットのガス通路は同軸に設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
  7. 隣接する2つの前記誘電体バリア放電ユニットの間に、前記誘電体仕切板よりも絶縁能力が大きいユニット間誘電体仕切板が設けられる、ことを特徴とする請求項6に記載のイオン源。
  8. 前記第1電極板、前記第2電極板及び前記誘電体仕切板は、いずれも環状をなす、ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
  9. 前記誘電体仕切板は、セラミック、ガラスまたは石英である、ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
  10. 前記イオン源の作動圧力は大気圧、または100Paから大気圧までの低気圧雰囲気である、ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
  11. 前記第1電極板は交流電源に接続され、前記第2電極板は接地される、或いは前記第1電極板は接地され、前記第2電極板は交流電源に接続される、ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
  12. 前記イオン化対象ガスは、ガス状試料、気化した試料或いはキャリアガスである、ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
  13. 前記第2貫通孔の半径は、0.5mm以上5mm以下である、ことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
  14. 請求項1~13のいずれか一項に記載のイオン源を備えることを特徴とする質量分析装置。
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