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JP7572871B2 - 圧電薄膜素子 - Google Patents

圧電薄膜素子 Download PDF

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JP7572871B2 JP2021022666A JP2021022666A JP7572871B2 JP 7572871 B2 JP7572871 B2 JP 7572871B2 JP 2021022666 A JP2021022666 A JP 2021022666A JP 2021022666 A JP2021022666 A JP 2021022666A JP 7572871 B2 JP7572871 B2 JP 7572871B2
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Description

本発明の一側面は、圧電薄膜素子に関する。
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)が注目されている。MEMS(微小電気機械システム)とは、機械要素部品及び電子回路等が、微細加工技術によって一つの基板上に集積化されたデバイスである。センサ、トランスデューサ、フィルタ、ハーベスタ、又はアクチュエータ等の機能を有するMEMSでは、圧電薄膜が利用される。圧電薄膜を用いたMEMSの製造では、シリコン又はサファイア等の基板上に下部電極層、圧電薄膜、及び上部電極層が積層される。続く後工程(パターンニング、エッチング及びダイシング等の微細加工)を経ることで、任意の特性を有するMEMSが得られる。圧電特性に優れた圧電薄膜を選択することで、MEMS等の圧電薄膜素子の特性が向上し、圧電薄膜素子の小型化が可能になる。圧電薄膜の圧電特性は、例えば、正圧電定数(圧電歪定数)d、及び圧電出力係数gに基づいて評価される。gはd/εεに等しい。εは真空の誘電率であり、εは圧電薄膜の比誘電率である。d及びgの増加によって、圧電薄膜素子の特性が向上する。
圧電薄膜を構成する圧電組成物としては、例えば、Pb(Zr,Ti)O(チタン酸ジルコン酸鉛,略称;PZT)、LiNbO(ニオブ酸リチウム)、AlN(窒化アルミニウム)、ZnO(酸化亜鉛)及びCdS(硫化カドミウム)等が知られている。
PZT及びLiNbOは、ペロブスカイト型構造を有する。ペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜のdは比較的大きい。しかし、圧電薄膜がペロブスカイト型構造を有する場合、圧電薄膜の厚みの減少に伴って、dが減少し易い。したがって、ペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜は、微細加工に不向きである。またペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜のεは比較的大きいため、ペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜のgは比較的小さい傾向がある。
一方、AlN、ZnO及びCdSは、ウルツ鉱型構造(wurtzite structure)を有する。ウルツ鉱型構造を有する圧電薄膜のdは、ペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜のdに比べて小さい。しかし、ウルツ鉱型構造を有する圧電薄膜のεは比較的小さいため、ウルツ鉱型構造を有する圧電薄膜は、ペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜に比べて大きいgを有することが可能である。したがって、大きいgが求められる圧電薄膜素子にとって、ウルツ鉱型構造を有する圧電組成物は有望な材料である。
AlNを含む圧電薄膜が、金属からなる下部電極層の表面に形成される場合、AlNと下部電極層との相互作用に因り、下部電極層の表面に略平行な引張応力(tensile stress)が圧電薄膜内に生じ易い。この引張応力(残留応力)に因り、圧電薄膜が破壊され易い。例えば、圧電薄膜の機械加工(ダイシング等)に伴って、引張応力に因り、下部電極層の表面に略垂直な方向に沿って、クラック(crack)が圧電薄膜に形成され易い。このような圧電薄膜の破壊によって、圧電薄膜の圧電特性及び絶縁性が劣化し、圧電薄膜素子の歩留まり率(yield rate)が低下してしまう。したがって、引張応力が低減(緩和)され、高い機械的強度が圧電薄膜素子に求められる。
例えば、下記特許文献1に記載の圧電体層は、引張応力層及び圧縮応力層から構成される積層構造を有している。引張応力層中の引張応力を圧縮応力層中の圧縮応力と相殺することにより、圧電体層の機械的強度が高まり、圧電体層のクラックが抑制される。
下記特許文献2に記載の圧電薄膜はAlN結晶から構成され、AlN結晶中のAlの一部が第1元素で置換され、Alのイオン半径よりも大きいイオン半径を有する第2元素がAlN結晶に添加されている。第1元素及び第2元素のドーピングにより、圧電薄膜中の残留応力が低減される。
国際公開第2007/063842号パンフレット 国際公開第2016/111280号パンフレット
圧電薄膜中の引張応力を低減する従来の方法では、AlNの結晶構造の配向性が悪化し、圧電薄膜の圧電特性が悪化する。したがって、従来とは異なる方法で引張応力を低減する必要がある。
本発明の一側面の目的は、機械的強度及び圧電特性に優れた圧電薄膜を有する圧電薄膜素子を提供することである。
本発明の一側面に係る圧電薄膜素子は、基板と、基板に積層された第一電極層と、第一電極層に積層された圧電薄膜と、圧電薄膜に積層された第二電極層と、を備え、圧電薄膜が、窒化アルミニウム及び酸素を含み、圧電薄膜における酸素の濃度の平均値が、0.001原子%以上6原子%以下である。
圧電薄膜が、第一電極層に積層された第一圧電層と、第一圧電層に積層され、且つ第二電極層に接する第二圧電層と、からなっていてよく、第一圧電層における酸素の濃度が、第二圧電層における酸素の濃度よりも低くてよい。
圧電薄膜の厚みに対する第二圧電層の厚みの割合が、0.1%以上60%以下であってよく、圧電薄膜中の酸素の総量に対する第二圧電層中の酸素の総量の割合が、60%よりも大きく100%以下であってよい。
圧電薄膜が積層された第一電極層の表面に略垂直であり、且つ第一電極層から第二電極層へ向く方向に沿って、第二圧電層における酸素の濃度が増加してよい。
第一電極層が、白金、イリジウム、金、ロジウム、パラジウム、銀、ニッケル、銅、アルミニウム、モリブデン、タングステン、バナジウム、クロム、ニオブ、タンタル、ルテニウム、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、イットリウム、スカンジウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含んでよい。
本発明の一側面によれば、機械的強度及び圧電特性に優れた圧電薄膜を有する圧電薄膜素子が提供される。
図1は、本発明の一実施形態に係る圧電薄膜素子の模式的な断面であり、図1に示される断面は、基板、第一電極層、圧電薄膜及び第二電極層の積層方向に略垂直である。 図2は、窒化アルミニウムの結晶構造(ウルツ型構造)の単位胞(unit cell)の斜視図である。 図3は、圧電薄膜における酸素の濃度分布の一例である。 図4は、圧電薄膜における酸素の濃度分布の他の一例である。 図5は、圧電薄膜における酸素の濃度分布の他の一例である。 図6は、圧電薄膜における酸素の濃度分布の他の一例である。 図7は、圧電薄膜の形成工程における基板の温度のプロファイルである。
以下、場合により図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。本発明は下記実施形態に限定されない。各図において、同一又は同等の構成要素には同一の符号が付される。図1に示されるX、Y及びZは、互いに直交する3つの座標軸を意味する。
図1に示されるように、本実施形態に係る圧電薄膜素子10は、基板6と、基板6の表面に直接積層された密着層5と、密着層5を介して基板6の表面に間接的に積層された第一電極層4と、第一電極層4の表面に直接又は間接的に積層された圧電薄膜3と、圧電薄膜3の表面に直接又は間接的に積層された第二電極層7と、を備える。基板6、密着層5、第一電極層4、圧電薄膜3及び第二電極層7の積層方向は、Z軸に略平行な方向である。基板6、密着層5、第一電極層4、圧電薄膜3及び第二電極層7其々は、XY面方向(X軸及びY軸)に沿って延びる平坦な形状を有してよい。基板6、密着層5、第一電極層4、圧電薄膜3及び第二電極層7其々の厚みは、略均一であってよい。密着層5は、基板6の表面の一部又は全体を直接覆ってよい。第一電極層4は、密着層5の表面の一部又は全体を直接覆ってよい。圧電薄膜3は、第一電極層4の表面の一部又は全体を直接又は間接的に覆ってよい。第二電極層7は、圧電薄膜3の表面の一部又は全体を直接又は間接的に覆ってよい。密着層5は圧電薄膜素子10にとって必須ではなく、第一電極層4は基板6の表面に直接積層されてもよい。密着層5がない場合、第一電極層4は、基板6の表面の一部又は全体を直接覆ってよい。第一電極層4は、下部電極層と言い換えられてよい。第二電極層7は、上部電極層と言い換えられてよい。第一中間層(第一バッファ層)が、第一電極層4と圧電薄膜3の間に設けられてよい。例えば、第一中間層は導電体又は圧電体からなっていてよい。第一電極層4の表面に略平行な方向おける第一中間層の格子定数は、同方向における第一電極層4の格子定数以下であってよく、且つ同方向における圧電薄膜3の格子定数以上であってよい。第二中間層(第二バッファ層)が、圧電薄膜3と第二電極層7との間に設けられてよい。例えば、第二中間層は導電体又は圧電体からなっていてよい。第一電極層4の表面に略平行な方向おける第二中間層の格子定数は、同方向における第二電極層7の格子定数以下であってよく、且つ同方向における圧電薄膜3の格子定数以上であってよい。
圧電薄膜3は、結晶質の窒化アルミニウム(AlN)を含む。圧電薄膜3を構成するAlNは、単結晶又は多結晶であってよい。AlNの結晶構造は、六方晶系のウルツ鉱型構造である。図2は、ウルツ鉱型構造の単位胞ucwを示す。単位胞ucwは、正六角柱である。圧電薄膜3中のAlNは、第一電極層4の表面の法線方向に延びる柱状結晶であってよい。
圧電薄膜3中のAlNの(001)面及び(002)面は、圧電薄膜3が積層された第一電極層4の表面に略平行であってよい。換言すれば、圧電薄膜3中のAlNの(001)面及び(002)面は、第一電極層4の表面の法線方向において配向してよい。AlNの(001)面は、図2に示される単位胞ucwにおける正六角形状の結晶面に相当する。圧電薄膜3が、複数のAlNの結晶粒(crystalline grain)を含む場合、一部又は全部の結晶粒の(001)面及び(002)面が、第一電極層4の表面に略平行であってよい。
AlNの圧電特性が発現する結晶方位は、AlNの[001]である。したがって、AlNの(001)面及び(002)面が、第一電極層4の表面に略平行であることにより、圧電薄膜3は優れた圧電特性を有することができる。同様の理由から、窒化アルミニウムのウルツ鉱型構造の(001)面及び(002)面が、第一電極層4に接する圧電薄膜3の表面に略平行であってよい。換言すれば、圧電薄膜3中のAlNの(001)面及び(002)面が、圧電薄膜3の表面の法線方向において配向してよい。
圧電薄膜3は、AlNのみならず酸素(O)を含み、圧電薄膜3における酸素の濃度の平均値は、0.001原子%以上6.000原子%以下である。その結果、圧電薄膜3が高い機械的強度と優れた圧電特性を有することができる。その理由は以下の通りである。
圧電薄膜3は結晶質の第一電極層4の表面においてエピタキシャルに成長するので、圧電薄膜3及び第一電極層4の間の格子不整合が生じ易い。その結果、圧電薄膜3と第一電極層4との界面では、面内方向にウルツ鉱型構造を拡張させる応力が生じ易い。つまり、第一電極層4の表面に略平行な引張応力(残留応力)が圧電薄膜3内に生じ易い。仮に圧電薄膜3が酸素を含まない場合、引張応力に因り、第一電極層4の表面に略平行な方向において圧電薄膜3が断裂し易い。例えば、引張応力に因り、第一電極層4の表面に略垂直な方向に沿って、クラックが圧電薄膜3に形成され易い。その結果、圧電薄膜3の圧電特性及び絶縁性が劣化してしまう。
しかし、本実施形態に係る圧電薄膜3は酸素を含むので、圧電薄膜3を構成するAlNの結晶格子が酸素原子を内包する。AlNの結晶格子が酸素原子を内包することに因り、AlNの結晶構造が第一電極層4の表面に略平行な方向において拡張する。つまり、第一電極層4の表面に略平行な方向においてAlNの格子定数が増加する。その結果、圧電薄膜3及び第一電極層4の間の格子不整合が低減され、圧電薄膜3中の引張応力が低減(緩和)され、圧電薄膜3が高い機械的強度を有することができる。つまり圧電薄膜3中の残留応力に因る圧電薄膜3の破壊が抑制される。その結果、圧電薄膜3の圧電特性及び絶縁性が向上する。上記と同様の理由から、本実施形態に係る圧電薄膜素子10の製造過程における圧電薄膜3の破壊が抑制され、圧電薄膜素子10の歩留まり率が高まる。
圧電薄膜3における酸素の濃度の平均値の減少に伴って、AlNの結晶性及びAlNの配向性が向上し、圧電薄膜3の圧電特性も向上する傾向がある。しかし、圧電薄膜3における酸素の濃度の平均値が、0.001原子%よりも低い場合、圧電薄膜3中の酸素が少な過ぎるため、圧電薄膜3における引張応力を十分に低減されず、圧電薄膜3が高い機械的強度を有することは困難である。
圧電薄膜3における酸素の濃度の平均値の増加に伴って、圧電薄膜3における引張応力が減少し、圧電薄膜3の機械的強度が増加する傾向がある。しかし、圧電薄膜3における酸素の濃度の平均値が、6.000原子%よりも高い場合、圧電薄膜3中の酸素が多過ぎるため、AlNの結晶性及び配向性が悪化し、圧電薄膜3が優れた圧電特性を有することは困難である。
圧電薄膜3における酸素の濃度の平均値の増加に伴って、圧電薄膜3の誘電正接(tanδ)が増加する傾向がある。特に、圧電薄膜3における酸素の濃度の平均値が、6.000原子%よりも高い場合、圧電薄膜3の誘電正接が著しく大きい。圧電薄膜3の誘電正接は小さいことが好ましい。例えば、圧電薄膜3の誘電正接は、0%以上5%以下、0%以上3%以下、0%以上2%以下、又は0%以上1%以下であってよい。
圧電薄膜3が高い機械的強度と優れた圧電特性を有し易く、圧電薄膜3の誘電正接が低減され易いことから、圧電薄膜3における酸素の濃度の平均値は、0.021原子%以上5.800原子%以下であってよい。
圧電薄膜3は、第一電極層4に直接積層された第一圧電層1と、第一圧電層1に直接積層され、且つ第二電極層7に接する第二圧電層2と、からなっていてよい。第一圧電層1における酸素の濃度は、第二圧電層2における酸素の濃度よりも低くてよい。第一圧電層1における酸素の濃度の平均値が、第二圧電層2における酸素の濃度の平均値よりも低くてよい。第一圧電層1は酸素を含まなくてもよい。第一圧電層1は酸素を含んでもよい。第一圧電層1の厚みT1は略均一であってよい。第二圧電層2の厚みT2は略均一であってよい。圧電薄膜3のT3は、T1+T2に等しい。
圧電薄膜3の形成工程では、第一圧電層1が第一電極層4の表面において成長した後、第二圧電層2が第一圧電層1に連続して成長する。したがって、第二圧電層2に含まれるAlNの結晶性及び配向性は、第一圧電層1に含まれるAlNの結晶性及び配向性に依存する。つまり、第一圧電層1に含まれるAlNの結晶性の向上に因り、第二圧電層2に含まれるAlNの結晶性も向上し、第一圧電層1に含まれるAlNの(001)面が配向することに因り、第二圧電層2に含まれるAlNの(001)面も同方向に配向する。また第一圧電層1における酸素の濃度の減少に伴って、第一圧電層1に含まれるAlNの結晶性及び配向性は向上する。以上の理由から、第一圧電層1における酸素の濃度が、第二圧電層2における酸素の濃度よりも低い場合、第二圧電層2に含まれるAlNが、第一圧電層1に含まれるAlNの優れた結晶性及び配向性を引き継ぎ、圧電薄膜3全体におけるAlNの結晶性及び配向性が向上する。その結果、圧電薄膜3が優れた圧電特性を有することができる。
また第二圧電層2における酸素の濃度が、第一圧電層1における酸素の濃度よりも高い場合、第二電極層7に接する第二圧電層2の表面近傍に位置する酸素が、第二圧電層2を構成する元素(金属元素等)と結合し易い。その結果、第二電極層7が第二圧電層2に密着し易く、第二圧電層2(圧電薄膜3)からの第二電極層7の剥離が抑制される。
圧電薄膜3の厚みT3に対する第二圧電層2の厚みT2の割合(T2/T3)は、0.1%以上60%以下であってよく、圧電薄膜3中の酸素の総量に対する第二圧電層2中の酸素の総量の割合は、60%よりも大きく100%以下であってよい。酸素の総量の単位は、モルであってよい。圧電薄膜3中の酸素の総量に対する第二圧電層2中の酸素の総量の割合の単位は、モル%又は原子%であってよい。T2/T3が0.1%以上である場合、圧電薄膜3が十分に高い機械的強度を有し易い。T2/T3が60%以下である場合、圧電薄膜3の圧電特性を損なうことなく圧電薄膜3が十分に高い機械的強度を有し易く、圧電薄膜3の誘電正接が低減され易い。圧電薄膜3中の酸素の総量に対する第二圧電層2中の酸素の総量の割合が60%よりも大きい場合、圧電薄膜3が十分に高い機械的強度を有し易い。圧電薄膜3が高い機械的強度と優れた圧電特性を有し易いことから、T2/T3は、1%以上60%以下であってもよい。圧電薄膜3が高い機械的強度と優れた圧電特性を有し易いことから、圧電薄膜3中の酸素の総量に対する第二圧電層2中の酸素の総量の割合は、60%よりも大きく99.9%以下、又は64%以上95%以下であってもよい。
圧電薄膜3の厚みT3は、例えば、100nm以上30000nm以下、又は200nm以上2000nm以下であってよい。第二圧電層2の厚みT2は、(0.001×T3)nm以上(0.600×T3)nm以下であってよい。第二圧電層2の厚みT2は、例えば、10nm以上1200nm以下であってよい。第一圧電層1の厚みT1は、T3-T2に等しい。第一圧電層1の厚みT1は、例えば、300nm以上990nm以下であってよい。
第一電極層4の表面に略垂直であり、且つ第一電極層4から第二電極層7へ向く方向は、圧電薄膜3の厚み方向Dと表記される。圧電薄膜3に含まれるAlNの[001](結晶方位)は、厚み方向Dと略平行であってよい。厚み方向Dに沿った圧電薄膜3における酸素の濃度分布の具体例は、図3、図4、図5及び図6に示される。各図に示される横軸は、厚み方向Dにおける第一電極層4の表面からの距離d(単位:nm)を示し、圧電薄膜3中の任意の位置に相当する。各図に示されるグラフの縦軸は、第一電極層4の表面からの距離dでの酸素の濃度[O](単位:原子%)を示す。
第二圧電層2における酸素の濃度は、厚み方向Dに沿って徐々に又は段階的に増加してよい。つまり、第二圧電層2における酸素の濃度分布は、厚み方向Dに沿って増加する勾配を有してよい。第二圧電層2における酸素の濃度が厚み方向Dに沿って増加する場合、圧電薄膜3中の引張応力が低減され易く、圧電薄膜3が高い機械的強度を有し易い。
図3に示されるように、第二圧電層2における酸素の濃度分布は、直線で表されてよい。
図4に示されるように、第二圧電層2における酸素の濃度分布は、下に凸な曲線で表されてよい。図4に示される酸素の濃度分布の場合、酸素は、第二電極層7に接する第二圧電層2の表面近傍に局在する。その結果、圧電薄膜3の圧電特性を損なうことなく圧電薄膜3が十分に高い機械的強度を有し易く、第二電極層7が第二圧電層2に密着し易い。
図5に示されるように、第二圧電層2における酸素の濃度分布は、上に凸な曲線で表されてもよい。
図6に示されるように、第二圧電層2における酸素の濃度は、略均一であってもよい。
図3、図4、図5及び図6に示されるように、第一圧電層1における酸素の濃度は、略均一であってよい。第一圧電層1における酸素の濃度が略均一である場合、圧電薄膜3全体におけるAlNの結晶性及び配向性が向上し易い。ただし、厚み方向Dに沿って、第一圧電層1における酸素の濃度が増加してもよい。
第一圧電層1における酸素の濃度の平均値[O]は、例えば、0.000原子%以上5.000原子%以下、又は0.001原子%以上5.000原子%以下であってよい。[O]は、例えば、厚み方向Dに沿った第一圧電層1における酸素の濃度分布の積分を、第一圧電層1の厚みT1で除した値であってよい。
第二圧電層2における酸素の濃度の平均値[O]は、例えば、2.000原子%以上6.000原子%以下であってよい。[O]は、例えば、厚み方向Dに沿った第二圧電層2における酸素の濃度分布の積分を、第二圧電層2の厚みT2で除した値であってよい。
上述の通り、圧電薄膜3における酸素の濃度の平均値[O]は、0.001原子%以上6.000原子%以下である。[O]は、例えば、厚み方向Dに沿った圧電薄膜3における酸素の濃度分布の積分を、圧電薄膜3の厚みT3で除した値であってよい。[O]は、T1及びT2に基づく[O]及び[O]の加重平均値に等しい。つまり[O]は、(T1/T3)×[O]+(T2/T3)×[O]に等しい。
第一圧電層1及び第二圧電層2は、酸素の濃度の違いに基づいて互いに区別されてよい。例えば、第一圧電層1及び第二圧電層2の界面は、厚み方向Dに沿った圧電薄膜3における酸素の濃度分布を示す線の屈曲点又は変曲点を含む平面であってよい。
圧電薄膜3全体において、酸素の濃度は略均一であってもよい。圧電薄膜3が第一圧電層1及び第二圧電層2から構成されず、圧電薄膜3における酸素の濃度が厚み方向Dに沿って連続的に増加してもよく、且つ厚み方向Dに沿った圧電薄膜3における酸素の濃度分布を示す線が屈曲点及び変曲点を有しなくてもよい。
圧電薄膜3は、Al、N及びOのみからなっていてよい。ただし、圧電薄膜3の機械的強度及び圧電特性が損なわれない限りにおいて、圧電薄膜3は、Al、N及びOに加えて、他の元素を更に含んでよい。例えば、圧電薄膜3は、1価の(monovalent)金属元素Mm、2価の(divalent)金属元素Md、3価の(trivalent)金属元素Mtr、4価の(tetravalent)金属元素Mt、及び5価の(pentavalent)金属元素Mpからなる群より選ばれる少なくとも一種の添加元素を更に含んでよい。AlNへの上記添加元素のドーピングにより、AlNのウルツ鉱型構造が歪んだり、ウルツ鉱型構造中の原子間の化学結合の強度が変化したりする。その結果、圧電薄膜3の圧電特性が向上する場合がある。
1価の金属元素Mmは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。
2価の金属元素Mdは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
3価の金属元素Mtrは、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、ランタノイド及びIn(インジウム)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。
4価の金属元素Mtは、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
5価の金属元素Mpは、Cr(クロム)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)及びTa(タンタル)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であってよい。
圧電薄膜3に含まれる添加元素の価数の平均値は、3であってよい。
窒化アルミニウム中の1価の金属元素Mmの含有量の合計は、[Mm]原子%と表されてよい。窒化アルミニウム中の5価の金属元素Mpの含有量の合計は、[Mp]原子%と表されてよい。[Mm]/[Mp]は、略1.0であってよい。
窒化アルミニウム中の2価の金属元素Mdの含有量の合計は、[Md]原子%と表されてよい。窒化アルミニウム中の4価の金属元素Mtの含有量の合計は、[Mt]原子%と表されてよい。[Md]/[Mt]は、略1.0であってよい。
基板6は、例えば、半導体基板(シリコン基板、若しくはガリウム砒素基板等)、光学結晶基板(サファイア基板等)、絶縁体基板(ガラス基板、若しくはセラミックス基板等)、又は金属基板(ステンレス鋼板等)であってよい。
第一電極層4は、Pt(白金)、Ir(イリジウム)、Au(金)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ru(ルテニウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Ti(チタン)、Y(イットリウム)、Sc(スカンジウム)及びMg(マグネシウム)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素(金属Me)を含んでよい。第一電極層4は、一種類の金属Meのみからなってよい。第一電極層4は、少なくとも二種類の金属Meのみからなっていてもよい。つまり、第一電極層4は、少なくとも二種類の金属Meから構成される合金のみからなってよい。第一電極層4は、上記金属Me以外の元素を更に含んでもよい。
第一電極層4を構成する金属Meは、結晶構造を有してよい。つまり、第一電極層4は結晶質であってよい。例えば、金属Meが、Pt、Ir、Au、Rh、Pd、Ag、Ni、Cu及びAlからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である場合、金属Meは面心立方(fcc)構造を有し易く、fcc構造の(111)面が、第一電極層4の表面の法線方向において配向し易い。金属Meが、Mo、W、V、Cr、Nb及びTaからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である場合、金属Meは体心立方(bcc)構造を有し易く、bcc構造の(110)面が、第一電極層4の表面の法線方向において配向し易い。金属Meが、Ru、Zr、Hf、Ti、Y、Sc及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である場合、金属Meは六方最密充填(hcp)構造を有し易く、hcp構造の(001)面が、第一電極層4の表面の法線方向において配向し易い。
第一電極層4の表面に略平行な方向において、金属Meの結晶構造の格子長が、AlNの格子長よりも大きくてよい。例えば、第一電極層4の表面に略平行な方向において、金属Meの結晶構造における原子間隔が、AlNにおける原子間隔よりも大きくてよい。または、第一電極層4の表面に略平行な方向において、金属Meの結晶構造の格子定数が、AlNの格子定数よりも大きくてよい。例えば、モリブデンの結晶構造における格子長は、AlNにおける格子長よりも大きい。第一電極層4の表面に略平行な方向において、金属Meの結晶構造における格子長が、AlNにおける格子長よりも大きい場合、第一電極層4(金属Me)と従来の圧電薄膜(AlN)との間の格子不整合に因り、第一電極層4の表面に略平行な方向において、引張応力が従来の圧電薄膜中に生じ易い。しかし、本実施形態に係る圧電薄膜3は酸素を含むため、圧電薄膜3における引張応力が低減され、圧電薄膜3が高い機械的強度を有することができる。
密着層5は、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)、Ti(チタン)、Zn(亜鉛)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Cr(クロム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)及びCe(セリウム)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含んでよい。密着層5は、金属単体、合金又は化合物(酸化物等)であってよい。密着層5は、別の圧電薄膜、高分子、又はセラミックスから構成されていてもよい。密着層5の介在により、第一電極層4のfcc構造の(111)面が、第一電極層4の表面の法線方向において配向し易い。または密着層5の介在により、第一電極層4のbcc構造の(110)面が、第一電極層4の表面の法線方向において配向し易い。または密着層5の介在により、第一電極層4のhcp構造の(001)面が、第一電極層4の表面の法線方向において配向し易い。密着層5は、機械的な衝撃等に因る第一電極層4の剥離を抑制する機能も有する。密着層5は、界面層、支持層、バッファ層又は中間層と言い換えられてよい。
第二電極層7は、Pt、Ir、Au、Rh、Pd、Ag、Ni、Cu、Al、Mo、W、V、Cr、Nb、Ta、Ru、Zr、Hf、Ti、Y、Sc及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含んでよい。第二電極層7は、金属単体であってよい。第二電極層7は、上記の群より選ばれる少なくとも二種の元素を含む合金であってもよい。
基板6の厚みは、例えば、50μm以上10000μm以下であってよい。密着層5の厚みは、例えば、0.003μm以上1μm以下であってよい。第一電極層4の厚みは、例えば、0.01μm以上1μm以下であってよい。第二電極層7の厚みは、例えば、0.01μm以上1μm以下であってよい。
密着層5、第一電極層4、圧電薄膜3及び第二電極層7其々は、スパッタリング等の気相成長法によって基板6の表面に積層されてよい。密着層5、第一電極層4、圧電薄膜3及び第二電極層7其々は、少なくとも一種のターゲットを用いたスパッタリングによって形成されてよい。複数のターゲットを用いたスパッタリングによって、密着層5、第一電極層4、圧電薄膜3及び第二電極層7其々が形成されてもよい。ターゲットは、各層又は圧電薄膜を構成する元素のうち少なくとも一種を含んでよい。所定の組成を有するターゲットの選定及び組合せにより、目的とする組成を有する各層及び圧電薄膜3其々を形成することができる。例えば、ターゲットは、金属単体、合金又は酸化物であってよい。スパッタリングの雰囲気の組成が、各層及び圧電薄膜3其々の組成の制御因子であってよい。各ターゲットに与えられる入力パワー(電力密度)は、各層及び圧電薄膜3其々の組成及び厚みの制御因子である。スパッタリングの雰囲気の全圧、雰囲気中の原料ガス(例えば窒素)の分圧又は濃度、各ターゲットのスパッタリングの継続時間、圧電薄膜が形成される基板表面の温度、及び基板バイアス等も、各層及び圧電薄膜3其々の組成及び厚みの制御因子である。エッチング(例えばプラズマエッチング)により、所望の形状又はパターンを有する圧電薄膜が形成されてよい。
圧電薄膜3を形成するためのスパッタリングの雰囲気(成膜雰囲気)は、窒素ガス(N)及び酸素ガス(O)を含む。圧電薄膜3に含まれる酸素は、成膜雰囲気中の酸素に由来する。例えば成膜雰囲気は、希ガス(アルゴン等)、窒素ガス及び酸素ガスを含む混合ガスであってよい。成膜雰囲気における酸素ガスの分圧は、例えば、5.11×10-7Paであってよい。成膜雰囲気における酸素ガスの分圧が5.11×10-7Paよりも高い場合、圧電薄膜3における酸素の濃度の平均値が6原子%よりも高くなる傾向がある。成膜雰囲気における酸素ガスの分圧が低過ぎる場合、圧電薄膜3における酸素の濃度の平均値が0.001原子%よりも低くなる傾向がある。
圧電薄膜3の形成工程における基板6の温度のプロファイルは、図7に示される。図7の横軸は、時間(単位:秒)を示す。図7の縦軸は、基板6の温度(単位:℃)を示す。
酸素の濃度が略均一である圧電薄膜3を形成する場合、圧電薄膜3の形成工程は、基板6の温度を初期温度T0から初期成膜温度TIまで上げる第一昇温工程と、成膜雰囲気中で基板6の温度を初期成膜温度TIに保持する第一成膜工程と、を有する。第一昇温工程は、Alを含むターゲットのスパッタリングを開始する前に実施されてよい。つまり、ターゲットのスパッタリングの開始に伴って、第一成膜工程(成膜雰囲気中での圧電薄膜3の成長)が開始してよい。酸素の濃度が略均一である圧電薄膜3を形成する場合、初期成膜温度TIは、例えば、300℃よりも高く400℃よりも低く、好ましくは350℃である。初期成膜温度TIの増加に伴い、圧電薄膜3における酸素の濃度が増加する傾向がある。初期成膜温度TIが350℃よりも低い場合、圧電薄膜3における酸素の濃度の平均値が0.001原子%よりも低くなる傾向がある。初期成膜温度TIが350℃よりも高い場合、圧電薄膜3における酸素の濃度の平均値が6原子%よりも高くなる傾向がある。酸素の濃度が略均一である圧電薄膜3を形成する場合、成膜時間tTOTALは、第一成膜工程の継続時間(第一成膜時間ti)に等しい。
第一圧電層1及び第二圧電層2からなる圧電薄膜3を形成する場合、圧電薄膜3の形成工程は、第一昇温工程及び第一成膜工程に続く第二昇温工程を更に有する。第二昇温工程は、基板6の温度を初期成膜温度TIから最終成膜温度TFまで上げる工程である。第一圧電層1及び第二圧電層2からなる圧電薄膜3を形成する場合、圧電薄膜3の形成工程は、上述の第二昇温工程に続く第二成膜工程を更に有してよい。第二成膜工程は、成膜雰囲気中で基板6の温度を最終成膜温度TFに保持する工程である。第一成膜工程において第一圧電層1が形成されてよい。第二昇温工程及び第二成膜工程において、酸素の濃度分布の勾配を有する第二圧電層2が形成されてよい。発明者らは、第二昇温工程における基板6の温度上昇に伴って、成膜雰囲気中の酸素が電離し易くなることに因り、酸素の濃度が高い第二圧電層2が形成される、と推察する。第一圧電層1及び第二圧電層2からなる圧電薄膜3を形成する場合、初期成膜温度TIは、例えば、200℃以上300℃以下であってよい。初期成膜温度TIの増加に伴い、第一圧電層1における酸素の濃度が増加する傾向がある。第二昇温工程における昇温速度(第二昇温速度R)は、例えば、1.0℃/秒以上1.9秒以下であってよい。最終成膜温度TFは、例えば、230℃以上350℃以下であってよい。最終成膜温度TFの増加に伴い、第二圧電層2における酸素の濃度が増加する傾向がある。最終成膜温度TFが350℃よりも高い場合、圧電薄膜3における酸素の濃度の平均値が6原子%よりも高くなる傾向がある。第一圧電層1及び第二圧電層2からなる圧電薄膜3を形成する場合、成膜時間tTOTALは、第一成膜時間ti、第二昇温工程の所要時間、及び第二成膜工程の継続時間(第二成膜時間tf)の合計である。第一圧電層1及び第二圧電層2からなる圧電薄膜3を形成する場合、第一成膜時間tiは、第一成膜工程の開始時点から第二昇温工程の開始時点までの時間と言い換えられる。
成膜時間tTOTAL、第一成膜時間ti及び第二成膜時間tf其々の単位は、秒であってよい。成膜時間tTOTALの増加に伴い、圧電薄膜3の厚みT3が増加する傾向がある。第一成膜時間tiの増加に伴い、第一圧電層1の厚みT1が増加する傾向がある。第二昇温工程の所要時間、及び第二成膜時間tfの増加に伴い、第二圧電層2の厚みT2が増加する傾向がある。
密着層5、第一電極層4、圧電薄膜3及び第二電極層7其々の結晶構造は、X線回折(XRD)法によって特定されてよい。各層及び圧電薄膜3の組成は、蛍光X線分析法(XRF法)、X線光電子分光(XPS)、エネルギー分散型X線分析(EDX)、誘導結合プラズマ質量分析(ICP‐MS)、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA‐ICP‐MS)、及び電子線マイクロアナライザ(EPMA)のうち少なくともいずれか一つの分析方法にとって特定されてよい。密着層5、第一電極層4、圧電薄膜3及び第二電極層7其々の厚みは、厚み方向Dに平行な圧電薄膜素子10の断面において、走査型電子顕微鏡(SEM)によって測定されてよい。厚み方向Dに沿った圧電薄膜3におけるAl、N及びO其々の濃度分布は、例えば、光電子分光(XPS)によって測定されてよい。厚み方向Dに平行な圧電薄膜3の断面がSEMによって観察されてよく、この圧電薄膜3の断面におけるEDXを用いた線分析により、厚み方向Dに沿った圧電薄膜3におけるAl、N及びO其々の濃度分布が測定されてもよい。厚み方向Dに沿った圧電薄膜3におけるOの濃度分布に基づいて、第一圧電層1の厚みT1及び第二圧電層2の厚みT2が特定されてよい。
本実施形態に係る圧電薄膜素子の用途は、多岐にわたる。例えば、圧電薄膜素子は、圧電アクチュエータであってよい。圧電アクチュエータは、ハプティクス(haptics)に用いられてよい。つまり、圧電アクチュエータは、皮膚感覚(触覚)によるフィードバックが求められる様々なデバイスに用いられてよい。皮膚感覚によるフィードバックが求められるデバイスは、ウェアラブルデバイス、タッチパッド、ディスプレイ、又はゲームコントローラであってよい。圧電アクチュエータは、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、又はハードディスクドライブに用いられてもよい。圧電アクチュエータは、プリンタヘッド、又はインクジェットプリンタ装置に用いられてもよい。圧電アクチュエータは、圧電スイッチに用いられてもよい。圧電薄膜素子は、圧電センサ又は圧電トランスデューサであってもよい。圧電センサ又は圧電トランスデューサは、例えば、ジャイロセンサ、圧力センサ、脈波センサ、超音波センサ、超音波トランスデューサ、又はショックセンサに用いられてよい。超音波トランスデューサは、圧電微小機械超音波トランスデューサ(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer; PMUT)であってよい。圧電微小機械超音波トランスデューサを応用した製品は、例えば、生体認証センサ、若しくは医療/ヘルスケア用センサ(指紋センサ、若しくは超音波式血管認証センサ)、又はToF(Time of Flight)センサであってよい。圧電薄膜素子は、圧電マイクロフォン、フィルタ(SAWフィルタ又はBAWフィルタ)、ハーベスタ、発振子、共振子、又は音響多層膜に用いられてよい。上述された各圧電薄膜素子は、MEMSの一部又は全部であってよい。
本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、第一圧電層1における酸素の濃度が、第二圧電層2における酸素の濃度よりも高くてよい。
以下では実施例及び比較例により、本発明が詳細に説明される。本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
基板として、Siの単結晶からなるウェハが用いられた。基板の表面は、Siの(100)面に平行であった。基板の厚みは、725μmであった。基板の直径は、約8インチであった。基板の厚みは均一であった。
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、Moからなる第一電極層(下部電極層)が密着層の表面全体に直接形成された。スパッタリングターゲットしては、Moの単体が用いられた。真空チャンバー内の雰囲気は、Arガスであった。スパッタリングターゲットの単位面積当たりの入力パワーは、0.93W/cmであった。第一電極層の形成過程における基板の温度は、600℃に保持された。第一電極層の厚みは均一であった。第一電極層の厚みは、0.2μmであった。
圧電薄膜の形成工程では、真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、圧電薄膜が、第一電極層の表面全体に直接形成された。スパッタリングターゲットとしては、Alの単体が用いられた。スパッタリングターゲットの単位面積当たりの入力パワーは、3.72W/cmであった。圧電薄膜の形成工程では、上述の第一昇温工程及び第一成膜工程が実施された。実施例1の場合、上述の第二昇温工程及び第二成膜工程は実施されなかった。圧電薄膜の成膜雰囲気は、Ar、N及びOからなる混合ガスであった。成膜雰囲気の全圧は、0.4Paであった。成膜雰囲気におけるOの分圧は、5.11×10-7Paに維持された。
実施例1の成膜時間tTOTAL及び初期成膜温度TIは、下記表1に示される。実施例1の圧電薄膜の厚みT3は、下記表1及び表2に示される値に調整された。圧電薄膜の厚みT3は均一であった。
第一電極層と同様の方法で、Moからなる第二電極層が圧電薄膜の表面全体に直接形成された。第二電極層の厚みは、第一電極の厚みと同じであった。第二電極層の厚みは均一であった。
上記の手順で作製された積層体は、基板と、基板に直接積層された第一電極層と、第一電極層に直接積層された圧電薄膜と、圧電薄膜に直接積層された第二電極と、から構成されていた。続くフォトリソグラフィにより、基板上の積層構造のパターニングが行われた。パターニング後、積層体全体をダイシングにより切断することにより、四角形状の実施例1の圧電薄膜素子が得られた。圧電薄膜素子は、基板と、基板に直接積層された第一電極層と、第一電極層に直接積層された圧電薄膜と、圧電薄膜に直接積層された第二電極層と、から構成されていた。
以上の方法により、複数の実施例1の圧電薄膜素子が作製された。これらの圧電薄膜素子に関する以下の分析及び測定が実施された。
<圧電薄膜全体の組成>
圧電薄膜全体の組成が、蛍光X線分析法(XRF法)により分析された。XRF法には、株式会社リガク製の波長分散型蛍光X線装置(RIGAKU AZX-400)が用いられた。XRF法により、圧電薄膜におけるAl、N及びO其々の濃度(単位:原子%)が定量された。
<厚み方向Dにおける圧電薄膜中の元素の濃度分布>
上述の厚み方向Dに沿った圧電薄膜におけるAl、N及びO其々の濃度分布が、X線光電子分光(XPS)により測定された。つまり、第一電極層に直接積層された圧電薄膜の表面のスパッタリングにより、圧電薄膜の厚みT3を徐々に且つ均一に減少させながら、圧電薄膜の表面におけるXPSが連続的に実施された。XPS法には、ULVAC-PHI,Inc.製のX線光電子分光装置(PHI Quantera IITM)が用いられた。
<圧電薄膜の結晶構造>
第一電極層に直接形成された圧電薄膜の結晶構造が、X線回折(XRD)法により分析された。XRD法には、株式会社リガク製の多目的X線回折装置(SmartLab)が用いられた。第一電極層に直接形成された圧電薄膜の表面において、上記のX線回折装置を用いた2θ‐θスキャン、ωスキャン及び2θχ-φスキャンが行われた。XRD法に基づく分析の結果、圧電薄膜はウルツ鉱型構造を有することが確認された。ウルツ鉱型構造の(002)面は、圧電薄膜が接する第一電極層の表面に平行であった。第一電極層を構成するMo(体心立方構造)の(110)面が、圧電薄膜が接する第一電極層の表面の法線方向において配向していた。
以上の分析から、実施例1の圧電薄膜が以下の特徴を有することが確認された。
実施例1の圧電薄膜は、酸素を含む結晶質のAlNからなり、AlNはウルツ鉱型構造を有していた。AlNの(002)面は、圧電薄膜の厚み方向D(第一電極層の表面の法線方向)において配向していた。実施例1の圧電薄膜における酸素の濃度は、厚み方向Dにおいて均一であった。実施例1の圧電薄膜における酸素の濃度の平均値[O]は、下記表2に示される。
<誘電正接>
実施例1の圧電薄膜の誘電正接(tanδ)が測定された。tanδの測定には、Agilent社製のLCRメーター(E4980A)が用いられた。tanδの測定では、1V/μmの電界が圧電薄膜へ印加された。第一電極層及び第二電極層其々において電界が印加された部分の面積は、600×600μmであった。実施例1のtanδは、下記表2に示される。
<圧電定数d33
実施例1の圧電薄膜の圧電定数d33(単位:pC/N)が測定された。圧電定数d33の測定の詳細は以下の通りであった。実施例1の圧電定数d33(3点測定点平均値)は、下記表2に示される。
測定装置:Piezotest社製のd33メーター(PM200)
周波数: 110Hz
クランプ圧: 0.25N
<クラック率Rc>
積層方向における圧電薄膜素子のダイシングにより、100個のサンプルが作製された。各サンプルの寸法は均一であり、各サンプルが、チップ状の圧電薄膜素子である。各サンプルの圧電薄膜へ0.4V/μmの電界を印加することにより、各サンプルの圧電薄膜における導通の有無が検査された。導通の検査には、市販のマルチメータが用いられた。100個のサンプルのうち、圧電薄膜における導通が検出されたサンプルの数nが数えられた。クラック率Rcは、n%と定義される。上述のダイシングに因るクラックが各サンプルの圧電薄膜において形成されている場合、クラックは導通経路として機能するため、各サンプルの圧電薄膜における導通が検出される。圧電薄膜の機械的強度が高いほど、ダイシングに因るクラックが抑制され、クラック率Rcは低い。実施例1のクラック率Rcは、下記表2に示される。
(実施例2~6)
実施例2~6其々の圧電薄膜の形成工程では、第一昇温工程及び第一成膜工程に続いて、上述の第二昇温工程及び第二成膜工程が実施された。
実施例2~6其々の成膜時間tTOTAL、初期成膜温度TI、最終成膜温度TF、第一成膜時間ti、第二成膜時間tf及び第二昇温速度Rは、下記表1に示される。実施例2~6其々の圧電薄膜の厚みT3は、下記表1及び表2に示される値に調整された。実施例2~6其々の圧電薄膜の厚みT3は均一であった。
圧電薄膜の形成工程を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~6其々の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例2~6其々の圧電薄膜素子に関する分析及び測定が実施された。分析の結果、実施例2~6のいずれの場合も、圧電薄膜は以下の特徴を有することが確認された。
圧電薄膜は、酸素を含む結晶質のAlNからなり、AlNはウルツ鉱型構造を有していた。AlNの(002)面は、圧電薄膜の厚み方向D(第一電極層の表面の法線方向)において配向していた。圧電薄膜は、第一電極層に直接積層された第一圧電層と、第一圧電層に直接積層され、且つ第二電極層に接する第二圧電層と、からなっていた。第一圧電層における酸素の濃度は、第二圧電層における酸素の濃度よりも低かった。第一圧電層中の酸素の濃度は、厚み方向Dにおいて均一であった。第二圧電層における酸素の濃度は、厚み方向Dに沿って徐々に増加していた。第一圧電層の厚みT1は均一であった。第二圧電層の厚みT2も均一であった。
実施例2~6其々の圧電薄膜における酸素の濃度の平均値[O]は、下記表2に示される。
実施例2~6其々の第一圧電層における酸素の濃度の平均値[O]は、下記表2に示される。
実施例2~6其々の第二圧電層における酸素の濃度の平均値[O]は、下記表2に示される。
実施例2~6其々の第一圧電層の厚みT1は、下記表2に示される。
実施例2~6其々の第二圧電層の厚みT2は、下記表2に示される。
下記表2中のT2/T3は、圧電薄膜の厚みT3に対する第二圧電層の厚みT2の割合である。実施例2~6其々のT2/T3は、下記表2に示される。
下記表2中のR[O]は、圧電薄膜中の酸素の総量に対する第二圧電層中の酸素の総量の割合を意味する。R[O]は、{(T2/T3)×[O]}/[O]に等しい。実施例2~6其々のR[O]は、下記表2に示される。
実施例2~6其々のtanδ、d33及びRcは、下記表2に示される。
(比較例1及び2)
比較例1及び2其々の成膜時間tTOTAL及び初期成膜温度TIは、下記表1に示される。比較例1及び2の場合、上述の第二昇温工程及び第二成膜工程は実施されなかった。比較例1及び2其々の圧電薄膜の厚みT3は、下記表1及び表2に示される値に調整された。比較例1及び2其々の圧電薄膜の厚みT3は均一であった。
圧電薄膜の形成工程を除いて実施例1と同様の方法で、比較例1及び2其々の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、比較例1及び2其々の圧電薄膜素子に関する分析及び測定が実施された。
比較例1の圧電薄膜は、酸素を含んでいなかった。比較例1の圧電薄膜は、結晶質のAlNのみからなり、AlNはウルツ鉱型構造を有していた。比較例1のAlNの(002)面は、圧電薄膜の厚み方向D(第一電極層の表面の法線方向)において配向していた。
比較例2の圧電薄膜は、酸素を含む結晶質のAlNからなり、AlNはウルツ鉱型構造を有していた。比較例2のAlNの(002)面は、圧電薄膜の厚み方向D(第一電極層の表面の法線方向)において配向していた。比較例2の圧電薄膜における酸素の濃度は、厚み方向Dにおいて均一であった。
比較例1及び2其々の圧電薄膜における酸素の濃度の平均値[O]は、下記表2に示される。比較例1及び2其々のtanδ、d33及びRcは、下記表2に示される。
Figure 0007572871000001
Figure 0007572871000002
例えば、本発明の一側面に係る圧電薄膜素子は、マイク、センサ、トランスデューサ、フィルタ、ハーベスタ、又はアクチュエータに用いられてよい。
1…第一圧電層、2…第二圧電層、3…圧電薄膜、4…第一電極層、5…密着層、6…基板、7…第二電極層、10…圧電薄膜素子、ucw…ウルツ鉱型構造の単位胞。

Claims (4)

  1. 基板と、
    前記基板に積層された第一電極層と、
    前記第一電極層に積層された圧電薄膜と、
    前記圧電薄膜に積層された第二電極層と、
    を備え、
    前記圧電薄膜が、窒化アルミニウム及び酸素を含み、
    前記圧電薄膜における酸素の濃度の平均値が、0.001原子%以上6原子%以下であり、
    前記圧電薄膜が、前記第一電極層に積層された第一圧電層と、前記第一圧電層に積層され、且つ前記第二電極層に接する第二圧電層と、からなり、
    前記第一圧電層における酸素の濃度が、前記第二圧電層における酸素の濃度よりも低い、
    圧電薄膜素子。
  2. 前記圧電薄膜の厚みに対する前記第二圧電層の厚みの割合が、0.1%以上60%以下であり、
    前記圧電薄膜中の酸素の総量に対する前記第二圧電層中の酸素の総量の割合が、60%よりも大きく100%以下である、
    請求項に記載の圧電薄膜素子。
  3. 前記圧電薄膜が積層された前記第一電極層の表面に略垂直であり、且つ前記第一電極層から前記第二電極層へ向く方向に沿って、前記第二圧電層における酸素の濃度が増加する、
    請求項1又は2に記載の圧電薄膜素子。
  4. 前記第一電極層が、白金、イリジウム、金、ロジウム、パラジウム、銀、ニッケル、銅、アルミニウム、モリブデン、タングステン、バナジウム、クロム、ニオブ、タンタル、ルテニウム、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、イットリウム、スカンジウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む、
    請求項1~のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
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