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JP7568115B2 - 熱間プレス部材、熱間プレス用鋼板、および熱間プレス部材の製造方法 - Google Patents

熱間プレス部材、熱間プレス用鋼板、および熱間プレス部材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、熱間プレス部材、熱間プレス用鋼板、および熱間プレス部材の製造方法に関する。
近年、自動車の分野では素材鋼板の高性能化とともに軽量化が促進されており、防錆性を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼板または電気亜鉛めっき鋼板の使用が増加している。しかし、多くの場合、鋼板の高強度化に伴ってそのプレス成形性が低下するため、複雑な部品形状を得ることは困難になる。例えば、自動車用途で、防錆性が必要であり、かつ難成形部品としてはシャシーなどの足回り部材やBピラーなどの骨格用構造部材が挙げられる。
このような背景から、近年では冷間プレスに比べてプレス成形性と高強度化の両立が容易である、熱間プレスによる自動車用部品の製造が急速に増加している。中でもAl系めっき鋼板は、耐高温酸化性に優れることから熱間プレス用鋼板として注目されており、熱間プレスに適した様々なAl系めっき鋼板と、前記Al系めっき鋼板を用いた熱間プレス部材が提案されている。
例えば、特許文献1では、Siを1~15質量%、Mgを0.5~10質量%含有するAl系めっき層を有する、熱間プレス用Al系めっき鋼板が提案されている。
特開2003-034845号公報
しかし、特許文献1で提案されているような従来の技術には、以下に述べる問題があった。
すなわち、上述したように熱間プレスは、自動車用の骨格用構造部材などの製造に広く用いられている。そして、熱間プレス部材としては、熱間プレス成形後の引張強度で1.5GPa級のものが主流であったが、自動車車体のさらなる軽量化のため、引張強度1.8GPa級以上となるような高強度化が望まれている。
しかし、鋼材の強度が高くなると、それにともなって水素脆化の問題が顕著となるため、熱間プレス部材の高強度化のためには、より高度な水素脆化対策が必要となる。
ここで、水素脆化の原因となる拡散性水素が鋼中に侵入する原因は、熱間プレス部材の製造過程における水素の侵入と、熱間プレス部材を実際に使用した際の腐食反応によって生じた水素の侵入の2つに大別することができる。しかし、一般的な自動車の使用環境において、Al系めっき鋼板を素材として用いた熱間プレス部材の腐食速度は小さく、腐食反応により生じる水素量も比較的小さい。
一方、熱間プレス部材の製造過程において侵入する水素としては、熱間プレス用鋼板の製造時に導入される水素、熱間プレス工程で導入される水素、塗装工程で導入される水素などが挙げられる。Al系めっき鋼板を素材として用いた熱間プレス部材の場合、熱間プレス工程で導入される水素量が極めて大きいことが知られている。
そのため、Al系めっき鋼板を素材として用いる場合には、熱間プレス工程で導入される拡散性水素量を低減することが特に重要となる。
一方、熱間プレス工程で多量の水素が鋼中に導入された場合であっても、熱間プレス後に十分な滞留時間を設けることで水素を放出させ、鋼中水素量を低減できる場合がある。
しかし、既存のAl系めっき鋼板を素材として用いた熱間プレス部材では、めっき層を介した水素の放出速度が極めて小さい。そのため、実用上問題の生じないレベルまで拡散性水素量を低減させるためには、滞留時間を著しく長く設ける必要があり、生産性を低下させる要因となっていた。
そのため、熱間プレス部材には、熱間プレス工程で侵入する水素量が少ないことに加えて、侵入した水素を短時間で放出できることが求められる。
しかし、従来の熱間プレス部材は、侵入水素量の低減および侵入水素の放出のいずれの点でも十分な性能を有しているとはいえなかった。
本発明は、上記の実状に鑑みてなされたものであり、熱間プレス工程で侵入する水素量が少なく、かつ侵入した水素を短時間で放出可能であり、耐遅れ破壊特性に優れる熱間プレス部材を提供することを目的とする。
本発明は上記課題を解決することを目的としたものであり、その要旨は以下の通りである。
1.鋼材と、
前記鋼材の少なくとも一方の面に配された、厚さ10~35μmのAl-Fe系金属間化合物層と、
前記Al-Fe系金属間化合物層と前記鋼材との間の界面に配された拡散層とを備え、
前記Al-Fe系金属間化合物層が、Al濃度40質量%以上であるAlリッチ相と、Al濃度40質量%未満であるFeリッチ相とを含み、
前記Feリッチ相の断面における板厚方向と垂直な方向の平均長さが10μm以下である、熱間プレス部材。
2.前記鋼材中の拡散性水素量が0.30質量ppm以下である、上記1に記載の熱間プレス部材。
3.母材鋼板と、
前記母材鋼板の少なくとも一方の面に配された、厚さ10~35μmのめっき層とを備え、
前記めっき層は、
前記母材鋼板上に配された界面合金層と、
前記界面合金層上に配された、Al含有量が50質量%以上である金属層とを備え、
前記界面合金層が、Si濃度4質量%以上であるSiリッチ相を含み、
前記界面合金層全体に対する前記Siリッチ相の断面積率が5%以上30%以下である、熱間プレス用鋼板。
4.前記金属層が、
Si:0.5~7.0質量%、および
Fe:0~30質量%を含有する、上記3に記載の熱間プレス用鋼板。
5.前記金属層がさらに、
Mg:0.1~4.0質量%を含有する、上記4に記載の熱間プレス用鋼板。
6.上記3~5のいずれか一項に記載の熱間プレス用鋼板を熱間プレスして熱間プレス部材とする、熱間プレス部材の製造方法。
本発明によれば、熱間プレス工程で侵入する水素量が少なく、かつ侵入した水素を短時間で放出可能であり、耐遅れ破壊特性に優れる熱間プレス部材を得ることができる。
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な一実施態様を示すものであり、以下の説明によって何ら限定されるものではない。また、含有量の単位である「%」は、とくに断らない限り「質量%」を表す。
(1)熱間プレス部材
本発明の一実施形態における熱間プレス部材は、母材としての鋼材と、前記鋼材の少なくとも一方の面に配されたAl-Fe系金属間化合物層と、前記Al-Fe系金属間化合物層と前記鋼材との間の界面に形成された拡散層とを有する。以下、各部について説明する。
[鋼材]
本発明では、後述するように、鋼材の表面に所定の条件を満たすAl-Fe系金属間化合物層と拡散層とを設けることによって上記課題を解決している。したがって、上記鋼材としては、特に限定されることなく任意の鋼材を用いることができる。
なお、本発明の熱間プレス部材は、後述するように熱間プレス用鋼板を熱間プレスすることにより製造される。したがって、前記鋼材は、熱間プレスにより成形された鋼板ということもできる。前記鋼板としては、冷延鋼板および熱延鋼板のいずれを用いることもできる。
自動車用部材等として使用する観点からは、熱間プレス部材の強度が高いことが好ましい。特に、引張強度で980MPa級を超える、好ましくは1.8GPa級以上の熱間プレス部材を得るためには、下記の成分組成を有する鋼材を用いることが好ましい。
C :0.05~0.50%、
Si:0.1~1.5%、
Mn:0.5~5.0%、
P :0.1%以下、
S :0.01%以下、
Al:0.10%以下、および
N :0.01%以下を含有し、
残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成。
以下、上記好ましい成分組成における各元素の作用効果と好適な含有量について説明する。
C:0.05~0.50%
Cは、マルテンサイトなどの組織を形成させることで強度を向上させる作用を有する元素である。980MPa級を超える強度を得るという観点からは、C含有量を0.05%以上とすることが好ましく、0.10%以上とすることがより好ましい。一方、C含有量が0.50%を超えると、スポット溶接部の靱性が劣化する。したがって、C含有量は0.50%以下とすることが好ましく、0.45%以下とすることがより好ましく、0.43%以下とすることがさらに好ましく、0.40%以下とすることが最も好ましい。
Si:0.1~1.5%
Siは、鋼を強化して良好な材質を得るのに有効な元素である。前記効果を得るために、Si含有量を0.1%以上とすることが好ましく、0.2%以上とすることがより好ましい。一方、Si含有量が1.5%を超えるとフェライトが安定化されるため、焼き入れ性が低下する。そのため、Si含有量は1.5%以下とすることが好ましく、1.3%以下とすることがより好ましく、1.1%以下とすることがさらに好ましい。
Mn:0.5~5.0%
Mnは、冷却速度によらず高い強度を得るために有効な元素である。優れた機械特性や強度を確保するという観点からは、Mn含有量を0.5%以上とすることが好ましく、0.7%以上とすることがより好ましく、1.0%以上とすることがさらに好ましい。一方、Mn含有量が5.0%を超えるとコストが上昇することに加え、Mnの添加効果が飽和する。そのため、Mn含有量は5.0%以下とすることが好ましく、4.5%以下とすることがより好ましく、4.0%以下とすることがさらに好ましい。
P:0.1%以下
P含有量が過剰であると、鋳造時のオーステナイト粒界へのP偏析に伴う粒界脆化により、局部延性が劣化する。そしてその結果、鋼板の強度と延性のバランスが低下する。そのため、鋼板の強度と延性のバランスを向上させるという観点からは、P含有量を0.1%以下とすることが好ましい。一方、精錬コストの観点からは、P量を0.01%以上とすることが好ましい。
S:0.01%以下
Sは、MnSなどの介在物となって、耐衝撃性の劣化や溶接部のメタルフローに沿った割れの原因となる。そのため、S含有量は極力低減することが望ましく、具体的には0.01%以下とすることが好ましい。また、良好な伸びフランジ性を確保するという観点からは、0.005%以下とすることがより好ましく、0.001%以下とすることがさらに好ましい。一方、精錬コストの観点からは、S含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。
Al:0.10%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素である。しかし、Al含有量が0.1%を超えると、素材の鋼板のブランキング加工性および焼入れ性が低下する。そのため、Al含有量は0.10%以下とすることが好ましく、0.07%以下とすることがより好ましく、0.04%以下とすることがさらに好ましい。一方、脱酸材としての効果を確保する観点からは、Al含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
N:0.01%以下
N含有量が0.01%を超えると、熱間圧延時や熱間プレス前の加熱時にAlNの窒化物を形成し、素材の鋼板のブランキング加工性や焼入れ性を低下させる。そのため、N含有量は0.01%以下とすることが好ましい。一方、精錬コストの観点から、N量は0.001%以上とすることが好ましい。
また、上記成分組成は、さらに任意に、
Nb:0.10%以下、
Ti:0.05%以下、
B :0.0002~0.005%、
Cr:0.1~1.0%、および
Sb:0.003~0.03%
からなる群より選択される少なくとも1つを含有することができる。
Nb:0.10%以下
Nbは、鋼の強化に有効な成分であるが、過剰に含まれると圧延加重が増大する。そのため、Nbを添加する場合、Nb含有量を0.10%以下とすることが好ましく、0.05%以下とすることがより好ましい。一方、Nb含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、精錬コストの観点からはNb含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
Ti:0.05%以下
Tiは、Nbと同様に鋼の強化に有効な成分であるが、過剰に含まれると形状凍結性が低下する。そのため、Tiを添加する場合、Ti含有量を0.05%以下とすることが好ましく、0.03%以下とすることがより好ましい。一方、Ti含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、精錬コストの観点からはTi含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
B:0.0002~0.005%
Bは、オーステナイト粒界からのフェライトの生成および成長を抑制する作用を有する。Bを添加する場合、前記効果を得るために、B含有量を0.0002%以上とすることが好ましく、0.0010%以上とすることがより好ましい。一方、Bの過剰な添加は成形性を低下させる。そのため、Bを添加する場合、B含有量を0.005%以下とすることが好ましく、0.003%以下とすることがより好ましい。
Cr:0.1~1.0%
Crは、Mnと同様に鋼の強化および焼き入れ性を向上させるために有用な元素である。Crを添加する場合、前記効果を得るためにCr含有量を0.1%以上とすることが好ましく、0.2%以上とすることがより好ましい。一方、Crは高価な元素であるため、過剰なCrの添加は大幅なコストアップを招く。そのため、Crを添加する場合、Cr含有量を1.0%以下とすることが好ましく、0.6%以下とすることがより好ましい。
Sb:0.003~0.03%
Sbは、母材鋼板の製造の際、焼鈍工程において鋼板表層の脱炭を抑止する作用を有する元素である。Sbを添加する場合、前記効果を得るためにSb含有量を0.003%以上とすることが好ましく、0.005%以上とすることがより好ましい。一方、Sb含有量が0.03%を超えると圧延荷重が増加するため、生産性が低下する。そのため、Sbを添加する場合、Sb含有量を0.03%以下とすることが好ましく、0.02%以下とすることがより好ましく、0.01%以下とすることがさらに好ましい。
[Al-Fe系金属間化合物層]
本発明の熱間プレス部材は、鋼材の少なくとも一方の面に、Al-Fe系金属間化合物層を有する。熱間プレス部材の表面にAl-Fe系金属間化合物からなる層を設けることにより、鋼材の腐食に伴う水素の発生と侵入を防止することができる。例えば、熱間プレス部材の表面に塗膜が設けられている場合でも、通常は、塗膜の傷部や塗装端部など、塗膜による防錆機能が低下した箇所から腐食が進行する。しかし、Al-Fe系金属間化合物が存在することにより、そのような場合であっても腐食を抑制し、その結果、水素の発生と侵入を防止することができる。
前記Al-Fe系金属間化合物層は、鋼材の少なくとも一方の面に設けられていればよいが、両面に設けられていることが好ましい。
前記Al-Fe系金属間化合物層を構成する金属間化合物の種類は特に限定されない。前記Alリッチ相の構成要素としては、FeAl、FeAl13、FeAl、などが例示される。前記Feリッチ相の構成要素としてはFeAl、FeAlなどが例示される。また、前記Al-Fe系金属間化合物は、FeAlSiなどのAl-Fe-Si系金属間化合物を含有することもできる。すなわち、本発明の一実施形態におけるAl-Fe系金属間化合物層は、FeAl、FeAl13、FeAl、FeAl、FeAl、およびFeAlSiからなる群より選択される少なくとも1つを含有する層であってよい。また、前記Al-Fe系金属間化合物層は、FeAl、FeAl13、FeAl、FeAl、FeAl、およびFeAlSiからなる群より選択される少なくとも1つからなる層であってもよい。これらの金属間化合物の種類の同定は、X線回折により行うことができる。
平均長さ:10μm以下
本発明の熱間プレス部材では、上記Al-Fe系金属間化合物層は、Al濃度40%以上であるAlリッチ相と、Al濃度40%未満であるFeリッチ相とを含む。そして、本発明では、前記Feリッチ相の断面における板厚方向と垂直な方向の平均長さを10μm以下とすることが重要である。以下、その理由について説明する。
一般的に、Al系めっき鋼板を熱間プレスした場合、Al-Fe系金属間化合物層が形成されるが、そのAl-Fe系金属間化合物層は層状構造を有している。典型的には、前記Al-Fe系金属間化合物層は、Alリッチ相とFeリッチ相とが交互に3層以上、より一般的には5層以上積層した構造を有している。
本発明者らの検討の結果、Al-Fe系金属間化合物層が上記層構造を有する場合、水素が層間の界面にトラップされるため、水素の放出が阻害されることが分かった。すなわち、従来の熱間プレス部材では、Al-Fe系金属間化合物層の構造が原因で、熱間プレス工程で鋼中に侵入した水素が放出される速度が極めて遅くなっている。
これに対して本発明の熱間プレス部材では、Feリッチ相の断面における板厚方向と垂直な方向の平均長さ(以下、単に「平均長さ」という場合がある)を10μm以下としている。これは、Feリッチ相が板面方向において微細に分断されていることを表している。本発明の熱間プレス部材は、このようにFeリッチ相が分断された構造を有するため、優れた水素放出特性を有している。このように、本発明は、Feリッチ相の分断により水素の放出を促進させるという、まったく新しい技術的思想に基づくものである。
水素放出特性の観点からは、前記平均長さは8μm以下とすることが好ましく、6μm以下とすることがより好ましい。一方、前記平均長さの下限は特に限定されないが、耐疵付き性の観点からは、前記平均長さを2μm以上とすることが好ましく、3μm以上とすることが好ましい。
また、前記Al-Fe系金属間化合物層におけるFeリッチ相の断面積率は特に限定されないが、水素放出速度をさらに向上させるという観点からは、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。一方、Feリッチ相の断面積率の下限についても特に限定されないが、Feに比べてAlは軟質であるため、Feリッチ相が存在せずAlリッチ相単相であると、耐疵付き性が低下する。そのため、耐疵付き性の観点からは、Feリッチ相の断面積率が3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。
また、水素放出速度をさらに向上させるという観点からは、Feリッチ相がAlリッチ相中に島状に分布していることが好ましい。
Al-Fe系金属間化合物層の構造、各相の寸法、および断面積率は、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を備えた走査電子顕微鏡(SEM)によりAl-Fe系金属間化合物層の断面を観察し、得られた像を画像解析することにより測定することができる。より具体的には、実施例に記載した方法で測定することができる。
厚さ:10~35μm
前記Al-Fe系金属間化合物層の厚さは、使用する熱間プレス用鋼板のめっき層厚さと、熱間プレス条件とに依存する。前記Al-Fe系金属間化合物層の厚さが10μm未満であると、所望の塗装後耐食性を得ることができない。そのため、前記Al-Fe系金属間化合物層の厚さは10μm以上、好ましくは13μm以上、より好ましくは15μm以上とする。一方、前記Al-Fe系金属間化合物層の厚さが35μmを超えると、Feリッチ相の形態が本発明の要件を満たしていたとしても、脱水素に要する時間が長くなる。そのため、Al-Fe系金属間化合物層の厚さは、35μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下とする。
上記Al-Fe系金属間化合物層の厚さは、実施例に記載した方法で測定することができる。なお、前記鋼材の両面にAl-Fe系金属間化合物層が設けられている場合、それぞれの面におけるAl-Fe系金属間化合物層の厚さを10~35μmとする。ただし、一方の面におけるAl-Fe系金属間化合物層の厚さは、他方の面におけるAl-Fe系金属間化合物層の厚さと同じであってもよく、異なっていてもよい。
[拡散層]
本発明の熱間プレス部材は、前記Al-Fe系金属間化合物層と前記鋼材との界面に形成された拡散層を有する。拡散層は、前記金属間化合物層と比較し水素拡散係数が大きいため、水素放出を阻害しない。そのため、本発明において拡散層の厚さは限定されないが、Al-Fe系金属間化合物層と鋼材の良好な密着性を維持するため、1μm以上であることが好ましい。また、同様の理由から、前記拡散層の厚さは20μm以下であることが好ましい。
本発明の熱間プレス部材における、鋼材中の拡散性水素量は特に限定されないが、0.30質量ppm以下であることが好ましい。拡散性水素量が0.30質量ppm以下であれば、熱間プレス部材の組付け・溶接などにより残留応力が生じた際の、遅れ破壊のリスクを一層低減することができる。遅れ破壊のリスクをさらに低減するためには、鋼材中の拡散性水素量を0.20質量ppm以下とすることがより好ましく、0.10質量ppm以下とすることがさらに好ましい。前記拡散性水素量は低ければ低いほど良いため下限は特に限定されず、0質量ppmであってよいが、分析の定量限界を考慮すると0.01質量ppm以上であってもよい。
なお、本発明においては、Al-Fe系金属間化合物層を研削加工などにより除去した後、昇温脱離分析法により300℃まで昇温した際の水素量の積算値を前記拡散性水素量と定義する。
前記熱間プレス部材の強度は特に限定されないが、熱間プレス部材は一般的に自動車用部品など、強度が求められる用途に用いられることから、強度が高いことが望ましい。特に、衝突による変形を抑制するセンターピラーなどの骨格部品には1320MPaを超える引張強さが求められる。そのため、前記熱間プレス部材の引張強度は1320MPaを超えることが好ましく、1.5GPaを超えることがより好ましく、1.8GPaを超えることがさらに好ましい。一方、前記引張強度の上限についてもとくに限定されないが、典型的には2.5GPa以下であってよく、2.2GPa以下であってよい。
また、エネルギー吸収を求められるサイドメンバーなどの部品に用いる場合には、降伏強度と伸びに優れることが求められる。そのため、前記熱間プレス部材の降伏強度は700MPaを超えることが好ましい。また、前記熱間プレス部材の全伸びは7%を超えることが好ましい。一方、前記降伏強度の上限はとくに限定されないが、典型的には1100MPa以下であってよく、900MPa以下であってよい。また、前記全伸びの上限についてもとくに限定されないが、典型的には20%以下であってよく、15%以下であってよい。
(2)熱間プレス用鋼板
本発明の一実施形態における熱間プレス用鋼板は、母材鋼板と、前記鋼板の少なくとも一方の面に配された、厚さ10~35μmのめっき層とを備える。そして、前記めっき層は、前記母材鋼板上に配された界面合金層と、前記界面合金層上に配された、Al含有量が50%以上である金属層とを有する。前記界面合金層は、Si濃度4%以上であるSiリッチ相を含み、前記界面合金層全体に対するSiリッチ相の断面積率が5%以上30%以下である。
[めっき層]
前記めっき層の厚さが10μm未満であると、十分な耐食性を得られないことに加え、腐食に起因する水素の侵入量が増大し、遅れ破壊耐性が低下する。そのため、めっき層の厚さを10μm以上、好ましくは12μm以上、より好ましくは15μm以上とする。一方、めっき層の厚さが35μmを超えると、めっき層の酸化量が大きくなるため、拡散性水素量を十分に低減することができない。そのため、めっき層の厚さは、35μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下とする。なお、母材鋼板の両面にめっき層が存在する場合、いずれの面においてもめっき層の厚さを10μm以上35μm以下とする。前記めっき層の厚さは、電磁式膜厚計を用いることで直接的に計測可能である。
母材鋼板の一方の面のめっき層の厚さと、他方の面のめっき層の厚さは、同じであってもよく、異なっていてもよい。言い換えると、母材鋼板の一方の面のめっき層の厚さが10μm以上35μm以下であり、かつ、他方の面のめっき層の厚さも10μm以上35μm以下であればよい。
前記めっき層は、母材鋼板の表面に直接設けられていてもよいが、母材鋼板とめっき層との間に、さらに別の層(下地皮膜)を備えていてもよい。前記下層皮膜は、例えば、前記めっき層とは異なる組成を有する第2のめっき層(下地めっき層)であってもよい。前記第2のめっき層としては、例えば、FeまたはNiを主体とする下地めっき層などを用いることが好ましい。
また、本発明の熱間プレス用鋼板は、前記めっき層の上に、さらに別の層(上層皮膜)を備えていてもよい。前記上層皮膜としては、例えば、前記めっき層とは異なる組成を有する第3のめっき層や、化成処理皮膜を用いることができる。前記第3のめっき層としては、例えば、Niを主体とする後めっき層を用いることが好ましい。また、前記化成処理皮膜としては、例えば、リン酸塩、ジルコニウム化合物、チタン化合物などを含有する化成処理皮膜を用いることが好ましい。
[界面合金層]
上記熱間プレス用鋼板は、典型的には後述するように母材鋼板に溶融めっきを施すことにより製造される。その際、母材鋼板に含まれるFeやMnなどと、めっき浴に含まれるAlやSiなどの成分が反応し、母材鋼板と金属層との界面に界面合金層が形成される。
Siリッチ相の断面積率:5%以上30%以下
本発明の熱間プレス用鋼板においては、前記界面合金層が、Si濃度4%以上であるSiリッチ相を含み、前記界面合金層全体に対する前記Siリッチ相の断面積率が5%以上30%以下であることが重要である。以下、その理由について説明する。
先に述べたように、本発明の熱間プレス部材では、Al-Fe系金属間化合物層に含まれるFeリッチ相を板面方向において微細に分断することによって優れた水素放出特性を実現している。
そして、本発明者らの検討の結果、熱間プレス部材のAl-Fe系金属間化合物層におけるFeリッチ相の構造は、熱間プレス用鋼板の界面合金層に占めるSiリッチ相の割合に依存することが分かった。
詳細な機構は明らかでないが、Siリッチ相はSi濃度の低い相と比べて比較的融点が高く、熱間プレス過程で溶融しないためと推定される。界面合金層に占めるSiリッチ相の割合を適当な範囲に制御することで、熱間プレス部材のAl-Fe系金属間化合物層におけるFeリッチ相の断面積率と長さが低減し、水素脱離速度の大きな熱間プレス部材を得ることができる。
界面合金層全体に対するSiリッチ相の断面積率が30%より高いと、熱間プレス部材のAl-Fe系金属間化合物層におけるFeリッチ相が連続化した状態となり、所望の水素脱離特性を得ることができない。そのため、Siリッチ相の断面積率は30%以下とする。一方、Siリッチ相は、熱間プレス工程における母材鋼板からめっき層へのFeの拡散を低減し、熱間プレス部材におけるAl-Fe系金属間化合物層の過剰な厚膜化を抑制する効果も有している。先に述べたように、Al-Fe系金属間化合物層が過度に厚いと水素脱離速度が低下する。そのため、前記Siリッチ相の断面積率は5%以上とする。前記Siリッチ相の断面積率は5%以上であれば、Al-Fe系金属間化合物層の厚さを所望の範囲にとすることが容易となり、その結果、熱間プレス部材を得るための製造条件(加熱条件など)が緩和され、生産性が向上する。
なお、ここで、Siリッチ相とは、Si濃度が4%以上である相を指すものとする。
前記Siリッチ相におけるSi濃度の上限は特に限定されないが、30%以下であることが好ましい。また、前記Siリッチ相におけるSi以外の成分についても特に限定されないが、本発明の一実施形態においては、前記Siリッチ層が、Siに加え、母材鋼板およびめっき層に由来する任意の成分を含有してもよい。前記Siリッチ相は、Siに加え、Fe、Mn、およびAlを含むことが好ましい。前記Siリッチ相の典型的な組成としては、Fe:20~40%、Si:4~30%、およびMn:0.1~5%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものが例示される。
本発明では界面合金層におけるSiリッチ相の断面積率を制御することによって熱間プレス用鋼板におけるAl-Fe系金属間化合物層の構造を制御している。したがって、界面合金層におけるSiリッチ相の分布や形状は特に限定されない。前記Siリッチ相は、例えば、層状であってもよい。
これらの界面合金層における相別は、EDXを具備したSEMで観察して得た像を画像解析することで求めることができる。より具体的には、実施例に記載した方法で測定することができる。
[金属層]
本発明の熱間プレス用鋼板は、前記界面合金層上に金属層を有する。前記金属層は、Al含有量が50%以上であればよく、その他の組成は特に限定されない。
本発明の一実施形態では、前記金属層が、Si:0.5~7.0%およびFe:0~30%を含有することができる。以下、その理由について説明する。
Si:0.5~7.0%
金属層中のSiは、熱間プレス過程でAl、Feと合金化し、Al-Fe-Si金属間化合物、特に前述のFeリッチ相を形成する。熱間プレス部材のAl-Fe系金属間化合物層におけるFeリッチ相を不連続化させるためには、金属層中のSi量を制限することが肝要であることから、金属層中のSi濃度は7.0%以下とすることが好ましい。金属層中のSi濃度は、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下とする。一方、Si濃度が0.5%未満であると、熱間プレス部材のAl-Fe系金属間化合物層におけるFeリッチ相が形成されにくくなり、その結果、耐疵付き性が低下する。そのため、金属層中のSi濃度は0.5%以上とすることが好ましく、より好ましくは1.0%以上とする。
Fe:0~30%
Feは、溶融めっき法によりめっき層を成膜する場合に、めっき浴と母材が反応することにより合金層を形成して金属層に含有されるほか、めっき浴に母材が溶出し、これが溶融めっきされることによっても金属層に含有される。金属層中のFe濃度は、主としてめっき浴と母材の反応により形成される合金層の厚さによって決定されるため、めっき浴温、浴への浸入時の板の温度および表面状態、浴中の板の滞在時間、などによって変化する。
金属層中のFe濃度が30%を超えると、金属層中にFeを含有する金属間化合物が過剰に析出する。その結果、合金化速度が大きくなり、熱間プレス部材における金属間化合物層が厚くなりやすくなる。そのため、金属層中のFe濃度は30%以下とすることが好ましく、18%以下とすることがより好ましく、12%以下とすることがさらに好ましい。一方、熱間プレス鋼板における金属間化合物低減の観点からは、金属層中のFe濃度は低い方が好ましい。そのため、金属層中のFe濃度の下限は0%とする。
本発明の一実施形態における熱間プレス用鋼板においては、上記金属層は、Si:0.5~7.0%およびFe:0~30%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物である成分組成を有することが好ましい。
前記不可避的不純物としては、母材鋼板に由来する成分や、めっき浴中の不可避的不純物が挙げられる。前記不可避的不純物の総含有量は特に限定されない。しかし、金属層と電位差を有する金属間化合物が析出することでめっき層の耐食性が劣化することを防止するという観点からは、めっき層に含まれる不可避的不純物の量は合計で1%以下であることが好ましい。
上記金属層は、Mg:0.1~4.0%をさらに含有することが好ましい。以下、その理由について説明する。
Mg:0.1~4.0%
熱間プレス部材における拡散性水素は、熱間プレス工程において、めっき層の金属が雰囲気に含有される水蒸気により酸化されることで生じる。例えば、一般的な熱間プレス用Al系めっき鋼板の表層には金属状態のAlとSiが存在しており、これらが水蒸気と反応することにより水素原子が発生する。その際、Alの原子価は3であるため、Alと水蒸気が反応した場合には3個の水素原子が発生する。同様に、Siの原子価は4であるため、Siと水蒸気が反応した場合には4個の水素原子が発生する。
これに対して、Mgの原子価は2であるため、1原子あたりの水素発生量がAlおよびSiよりも少ない。加えて、MgはAlおよびSiより易酸化性であるため、Mgが存在する場合、水蒸気はMgと優先的に反応する。そのため、Mgをめっき層に含有させることで、水素発生量を低減できる。
金属層中のMg濃度が0.1%以上であれば、Alの酸化が十分に抑制されるため、拡散性水素量がさらに減少する。そのため、拡散性水素量をさらに低減するという観点からは、金属層中のMg濃度を0.1%以上とすることが好ましく、0.3%以上とすることがより好ましく、1%以上とすることがさらに好ましい。一方、Mg濃度が4.0%以下であると、Mgの酸化により形成される酸化物が粒状ではなく膜状となり、Mg自身の酸化に対する保護性が向上する。そしてその結果、拡散性水素量がさらに低下する。そのため、拡散性水素量をさらに低減するという観点からは、Mg濃度を4.0%以下とすることが好ましく、3.0%以下とすることがより好ましく、2.0%以下とすることがさらに好ましい。
本発明の他の実施形態においては、前記金属層の成分組成は、さらに、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Ni、Co、Sb、Zr、およびBからなる群より選択される少なくとも1つを、合計で1%以下含有することができる。
(3)熱間プレス部材の製造方法
次に、本発明の熱間プレス部材の好適な製造方法について説明する。
本発明の一実施形態においては、上記熱間プレス用めっき鋼板を熱間プレスして熱間プレス部材を製造する。上述した条件を満たす熱間プレス用鋼板を一般的な条件で熱間プレスすることで、上記条件を満たす熱間プレス部材を得ることができる。
熱間プレスを行う方法はとくに限定されず、常法に従って行うことができる。典型的には、熱間プレス用鋼板を所定の加熱温度まで加熱し(加熱工程)、次いで、前記加熱工程で加熱された前記熱間プレス用鋼板を熱間プレスする(熱間プレス工程)。以下、好ましい熱間プレス条件について説明する。
[加熱]
前記加熱工程における加熱温度が母材鋼板のAc3変態点より低いと、最終的な熱間プレス部材の強度が低くなる。そのため、前記加熱温度は母材鋼板のAc3変態点以上とすることが好ましい。前記加熱温度は860℃以上とすることが好ましい。一方、前記加熱温度が1000℃を超えると、母材や被覆層が酸化して生じる酸化物層が過度に厚くなることにより、得られる熱間プレス部材の塗料密着性が劣化するおそれがある。そのため、前記加熱温度は1000℃以下とすることが好ましく、960℃以下とすることがより好ましく、920℃以下とすることがさらに好ましい。なお、母材鋼板のAc3変態点は鋼成分により異なるが、フォーマスタ試験により求められる。
前記加熱を開始する温度はとくに限定されないが、一般的には室温である。
加熱を開始してから前記加熱温度に到達するまでの昇温に要する時間(昇温時間)はとくに限定されることなく、任意の時間とすることができる。しかし、前記昇温時間が300秒を超えると、高温にさらされる時間が長くなるため、母材やめっき層が酸化して生じる酸化物層が過度に厚くなる。そのため、酸化物による塗料密着性の低下を抑制するという観点からは、前記昇温時間を300秒以下とすることが好ましく、270秒以下とすることがより好ましく、240秒以下とすることがさらに好ましい。一方、前記昇温時間が150秒未満であると、加熱途中に被覆層が過度に溶融し、加熱装置や金型を汚損するおそれがある。そのため、加熱装置や金型の汚損を防止する効果をさらに高めるという観点からは、前記昇温時間を150秒以上とすることが好ましく、180秒以上とすることがより好ましく、210秒以上とすることがさらに好ましい。
前記加熱温度に到達した後は、当該加熱温度に保持してもよい。前記保持を行う場合、保持時間はとくに限定されず、任意の長さの保持を行うことができる。しかし、保持時間が300秒を超えると、母材や被覆層が酸化して生じる酸化物層が過度に厚くなることにより、得られる熱間プレス部材の塗料密着性が劣化するおそれがある。そのため、保持時間は300秒以下とすることが好ましく、210秒以下とすることがより好ましく、120秒以下とすることがさらに好ましい。一方、保持時間の下限についても限定されず、0秒であってもよいが、母材鋼板を均質にオーステナイト化させるという観点からは、10秒以上とすることが好ましい。
前記加熱工程における雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気下ならびに大気雰囲気の流入する雰囲気のもとで加熱を行うことができる。熱間プレス後の部材に残留する拡散性水素量をさらに低減するという観点からは、前記雰囲気の露点を0℃以下とすることが好ましい。前記露点の下限についてもとくに限定されないが、例えば、-40℃以上であってよい。
熱間プレス用鋼板を加熱する方法はとくに限定されず、任意の方法で加熱することができる。前記加熱は、例えば、炉加熱による加熱、通電加熱、誘導加熱、高周波加熱、火炎加熱などにより行うことができる。前記加熱炉としては、電気炉やガス炉など、任意の加熱炉を用いることができる。
[熱間プレス]
上記加熱の後、鋼板を熱間プレス加工して熱間プレス部材とする。前記熱間プレスにおいては、加工と同時または直後に金型や水などの冷媒を用いて冷却が行われる。本発明においては、熱間プレス条件は特に限定されない。例えば、一般的な熱間プレス温度範囲である600~800℃でプレスを行うことが出来る。
(4)熱間プレス用鋼板の製造方法
次に、本発明の熱間プレス用鋼板の好適な製造方法について説明する。
本発明の熱間プレス用鋼板は、母材鋼板に対して溶融めっきを施すことによって製造することができる。ただし、得られる熱間プレス用鋼板におけるSiリッチ相の断面積率を30%以下とするためには、製造過程において、下記(A)および(B)の両者を行う必要がある。
(A)めっき浴中のSi量の低減
(B)鋼板最表層におけるSi量の低減
そして、上記(B)の具体的な方法としては、下記(B-1)~(B-3)が挙げられる。
(B-1)熱延後の巻取り温度の高温化
(B-2)再結晶焼鈍の高露点化
(B-3)Fe系プレめっき層の形成
以下、これらの手法を利用して熱間プレス用鋼板を製造するための具体的な条件について説明する。
[母材鋼板]
上記母材鋼板としては、特に限定されることなく任意の鋼板を用いることができる。前記母材鋼板の成分組成はとくに限定されないが、上述した鋼材の好適な成分組成と同様とすることが好ましい。
前記母材鋼板は、熱延鋼板および冷延鋼板のいずれであってもよい。
前記母材鋼板として熱延鋼板を用いる場合、前記熱延鋼板は常法に従って製造することができる。典型的には、素材としての鋼スラブを加熱し、次いで熱間圧延すればよい。前記熱間圧延においては、粗圧延および仕上圧延を順次施すことができる。前記熱間圧延後には、酸洗を行うことが好ましい。
(B-1)熱延後の巻取り温度の高温化
得られた熱延鋼板は、コイル状に巻取られる。その際、巻取温度を高くすることにより、鋼板表層の内部に内部酸化物を形成することができる。内部酸化物を形成させることで、溶融めっき過程での鋼板最表層へのSiの拡散速度を低下させることができ、その結果、熱間プレス用鋼板におけるSiリッチ相の断面積率を低下させることができる。そのため、Siリッチ相の断面積率を30%以下とするために、巻取温度を600℃以上、好ましくは620℃以上、より好ましくは630℃以上、さらに好ましくは650℃以上とする。一方、巻取温度が高すぎると、鋼板の内部酸化層が厚くなり過ぎ、溶接性が低下する。そのため、溶接性の観点からは、前記巻取温度を800℃以下とすることが好ましい。
前記母材鋼板として冷延鋼板を使用する場合には、上記熱延鋼板を酸洗した後、さらに常法に従って冷間圧延を行えばよい。前記冷間圧延における圧下率はとくに限定されないが、鋼板の機械的特性の観点からは前記圧下率を30%以上とすることが好ましい。また、圧延コストの観点からは、前記圧下率を90%以下とすることが好ましい。
前記鋼板には、溶融めっきに先だって再結晶焼鈍を施してもよい。前記再結晶焼鈍の条件についてもとくに限定されず、常法に従って行うことができる。例えば、鋼板に脱脂などの清浄化処理を施した後、焼鈍炉を用いて、前段の加熱帯で鋼板の所定温度まで加熱する加熱処理を行い、後段の均熱帯で所定の熱処理を施すことができる。焼鈍炉内の雰囲気はとくに限定されないが、鋼板の表層を活性化するために還元雰囲気とすることが好ましい。
(B-2)再結晶焼鈍の高露点化
上記再結晶焼鈍を行う場合、該再結晶焼鈍を行う際の雰囲気の露点を高くすることにより、鋼板表層の内部に内部酸化物を形成させ、溶融めっき過程での鋼板最表層へのSiの拡散速度を低下させることができる。前記効果を得るためには、露点を0℃以上とする必要がある。前記露点の上限はとくに限定されないが、露点を20℃以上で安定的に制御するには、大掛かりな加湿設備を必要とし、設備コスト高となる。そのため、前記露点は20℃以下であることが好ましい。
(B-3)Fe系プレめっき層の形成
上記母材鋼板には、溶融めっきに先だってFe系プレめっき層を形成することが好ましい。母材鋼板の表面にFe系プレめっき層を形成することにより、鋼板最表層におけるSi量を低減し、その結果、熱間プレス用鋼板におけるSiリッチ相の断面積率を低減することができる。前記Fe系プレめっき層の組成は特に限定されないが、この観点からは、前記Fe系プレめっき層におけるSi濃度は0.1%未満とすることが好ましく、前記Fe系プレめっき層がSiを実質的に含まないことがより好ましい。前記Fe系プレめっき層に含まれるFe以外の成分の合計濃度は10%未満とすることが好ましい。言い換えると、前記Fe系プレめっき層は、Feを90%以上含むめっき層であることが好ましい。前記Fe系プレめっき層は、例えば、Feめっき層、Fe-P合金めっき層、Fe-B合金めっき層、Fe-O合金めっき層であってよい。
前記Fe系プレめっき層の成膜方法は特に限定されないが、成膜速度と経済性に優れる電気めっき法により形成することが好ましい。前記Fe系プレめっき層の付着量は、めっき品質の安定化の観点からは、100mg/m以上とすることが好ましい。一方、付着量を過剰に大きくしても鋼板最表層のSi量を低減する効果は飽和し、製造コストが増加するばかりである。そのため、前記Fe系プレめっき層の付着量は10g/m以下とすることが好ましい。
[溶融めっき]
本発明では、鋼板を溶融めっき浴に浸漬してめっき層を形成する。前記めっき浴としては、下記の成分組成を有するめっき浴を用いる必要がある。以下、その理由について説明する。
Si:0.5~7.0%、および
Fe:0~10.0%、を含有し
残部がAlおよび不可避的不純物からなる成分組成。
Si:0.5~7.0%
Siは、浴中のAlや母材のFe、Mn等と反応し、熱間プレス用鋼板における界面合金層を形成する元素である。めっき浴におけるSi含有量が0.5%未満であると、めっき浴中での界面合金層の成長が著しく速く、冷間加工性に劣る皮膜となるとともに、厚さ10~30μmのめっき層を安定的に得るのが困難となる。そのため、Si含有量は0.5%以上とする。一方、Si含有量が7.0%より高いと、熱間プレス用鋼板におけるSiリッチ相の断面積率が30%より高くなってしまう。そのため、Si含有量は7.0%以下とする。
Siリッチ相の断面積率が30%以下である熱間プレス用鋼板を得るためには、上述したように、めっき浴におけるSi含有量を7.0%以下とすることに加えて、先に述べた(B-1)、(B-2)、および(B-3)のうち少なくとも1つを行う必要がある。
Fe:0~10.0%
Feは、鋼板または浴中機器から溶け出すことで浴中に存在する成分である。めっき浴中のFe含有量が10.0%を超えると、浴中のドロス量が過大となり、めっき鋼板に付着することで外観品質の劣化を生じる。そのため、めっき浴中のFe濃度は10.0%以下、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下とする。外観品質の観点からは、めっき浴中のFe濃度は低ければ低いほどよい。そのため、めっき浴中のFe含有量の下限は0%とする。なお、めっき浴中のFe含有量が0%であっても、溶融めっきの際に地鉄とめっき浴の成分とが反応することにより金属間化合物層が形成される。
上記めっき浴の成分組成は、さらにMgを含有することができる。
Mg:0.1~4.0%
熱間プレス工程で侵入する水素量をさらに低減する目的で、前述のように、熱間プレス用鋼板の金属層にMgを添加してもよく、そのためにはめっき浴にも適量のMgを添加すればよい。金属層中のMg濃度はめっき浴中のMg濃度と同程度の値となることから、めっき浴における好ましいMg含有量の範囲およびその理由は、金属層中のMg濃度に関する説明と同様である。
前記不可避的不純物としては、母材鋼板に由来する成分や、溶融めっき浴成分を供給するための金属材料(インゴットなど)に含まれる不可避的不純物が挙げられる。前記不可避的不純物の総含有量は特に限定されないが、合計で1%以下であることが好ましい。
本発明の他の実施形態においては、前記溶融めっき浴の成分組成は、さらに、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Ni、Co、Sb、Zr、およびBからなる群より選択される少なくとも1つを、合計で1%以下含有することができる。
前記めっき浴の温度については、凝固開始温度+20℃~700℃の範囲とすることが好ましい。めっき浴の温度が(凝固開始温度+20℃)以上であれば、めっき浴の局所的な温度低下に起因する成分の局所的な凝固を防止することができる。また、めっき浴の温度が700℃以下であれば、めっき後の急速冷却を行うことが容易となり、鋼板と金属層との間に形成される金属間化合物層が過度に厚くなることを防止できる。
また、前記めっき浴に浸入する母材鋼板の温度(浸入板温)については、特に限定はしないが、連続式溶融めっき操業におけるめっき特性の確保や浴温度の変化を防ぐ点から、前記めっき浴の温度に対して±20℃以内に制御することが好ましい。
前記鋼板の溶融めっき浴中での浸漬時間は、とくに限定されないが、めっき層の厚さを安定して確保するという観点からは、1秒以上とすることが好ましい。一方、前記浸漬時間の上限についてもとくに限定されないが、鋼板と金属層との間に形成される金属間化合物層が過度に厚くなることを防止するという観点からは、浸漬時間を5秒以下とすることが好ましい。
なお、前記母材鋼板の前記めっき浴中への浸漬条件については、特に限定はしない。例えば、板厚0.6mm以上、1.6mm未満の比較的薄い鋼板に対してめっき処理を行う場合は、150~230mpm程度のラインスピードとすることが好ましい。板厚1.6mm以上、3.0mm以下の比較的厚い鋼板に対してめっき処理を行う場合には、40mpm程度のラインスピードとすることが好ましい。また、浸漬長さは、5~7m程度とすることが好ましい。
本発明において、母材鋼板のめっき浴への浸漬後の冷却の方法は特に限定されず、任意の方法で行うことができる。前記冷却は、窒素ガス雰囲気下で行うことが好ましい。冷却を窒素ガス雰囲気下で行うことが好ましい理由は、冷却速度を極端に大きくする必要がなく、かつ大掛かりな冷却設備を必要としないことから経済性に優れるためである。前記窒素ガス雰囲気は、4体積%以下の水素ガスを含有してもよい、
特に限定はされないが、前記熱間プレス用鋼板の製造は、連続式溶融めっき設備において行うことが好ましい。なお、連続式めっき設備としては、無酸化炉を有する連続式めっき設備と、無酸化炉を有しない連続式めっき設備のいずれをも用いることができる。本発明の熱間プレス用鋼板は、このように特殊な設備を必要とせず、一般的な溶融めっき設備により実施することができるため、生産性の面でも優れている。
以下、本発明の作用・効果について、実施例を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
まず、以下の手順で母材鋼板を作製した。
質量%で、C:0.34%、Si:0.25%、Mn:1.20%、P:0.005%、S:0.001%、Al:0.03%、N:0.004%、Ti:0.02%、B:0.002%、Cr:0.18%、およびSb:0.008%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼を転炉で溶製し、大気下にて冷却することにより鋼スラブを得た。前記鋼のAc変態点は783℃、Ar変態点は706℃であった。
前記鋼スラブを1200℃まで加熱した後、熱間圧延して厚さ3.0mmの熱延鋼板とした。前記熱間圧延における仕上温度は930℃とした。得られた熱延鋼板は、表1に示す巻取り温度でコイル状に巻き取り、次いで、大気中で冷却した。
前記熱延鋼板を酸洗し、次いで冷間圧延して板厚1.4mmの冷延鋼板を得た。
得られた冷延鋼板の表面に、プレめっき層としてのFeめっき層を形成した。前記Feめっき層の形成は電気めっき法で行い、その際の条件は次の通りとした。なお、比較のため、一部の実施例では前記Feめっき層を形成しなかった(表1)。
・めっき液組成
硫酸第一鉄:300g/L
硫酸ナトリウム:50g/L
・pH:1.8~2.2
・液温:55℃
・電流密度:100A/dm
・Feめっき層の付着量:500mg/m
上記母材鋼板を、表1に示す成分組成を有するめっき浴に浸漬して溶融めっきを施した。使用しためっき浴の浴温は660℃とした。前記めっき浴から鋼板を引上げた後、15℃/秒の平均冷却速度で冷却を行ってめっき層を凝固させ、熱間プレス用鋼板を得た。前記冷却は、Nガスワイピングにより実施した。
得られた熱間プレス用鋼板について、以下の方法でめっき層の厚さ、金属層の成分組成、およびSiリッチ層の断面積率を測定した。測定結果は表2に示す。
(めっき層の厚さ)
前記各熱間プレス用鋼板を導電性樹脂に埋め込み、断面をSEMにより観察して反射電子像を得た。前記観察は、倍率500倍で、無作為に選択した5視野において実施した。得られた反射電子像をコントラストに基づき画像解析し、視野内におけるめっき層の面積を算出し、視野の幅で除することによって、その視野におけるめっき層の平均厚さとした。5視野分の平均厚さの相加平均を、その熱間プレス用鋼板におけるめっき層の厚さとした。
(Siリッチ相の断面積率)
前記各熱間プレス用鋼板の界面合金層について、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)により元素分布と濃度を定量した。前記観察は、倍率1000倍で、無作為に選択した5視野において実施した。まず、反射電子像のコントラストの閾値を設定し、金属層と母材の間の界面合金層を抽出し、前記界面合金層の断面積(S1)を求めた。なお、すべての実施例の熱間プレス用鋼板は、界面合金層と、前記界面合金層の上の金属層とを有していた。
次に、EPMAによる定量値で、Si濃度が4質量%以上である領域をSiリッチ相とし、前記Siリッチ相の断面積(S2)を求めた。前記5視野のそれぞれについて、得られたS2をS1で割ることによって界面合金層全体に対するSiリッチ相の断面積率を求め、その平均値を当該熱間プレス用鋼板におけるSiリッチ層の断面積率とした。
(金属層の成分組成)
前記各熱間プレス用鋼板の金属層についても、界面合金層と同様に、EPMAにより元素分布と濃度を測定した。前記測定は、倍率1000倍で、無作為に選択した5視野において実施した。まず、反射電子像のコントラストの閾値を設定することで金属層を抽出し、前記金属層においてEPMAによる面分析を行うことで、該金属層の平均組成を測定した。5視野分における測定値を平均して代表値とした。
次に、得られた熱間プレス用鋼板を以下の手順で熱間プレスして熱間プレス部材を作製した。まず、前記熱間プレス用鋼板から100mm×200mmの試験片を採取し、電気炉によって加熱処理を行った。前記加熱処理における加熱温度は910℃、昇温時間は210秒、保持時間は180秒とした。前記加熱は、露点10℃の雰囲気中で行った。
所定の保持時間が経過した後、試験片を電気炉から取り出し、直ちにハット型金型を用いて成形開始温度720℃で熱間プレスを行って熱間プレス部材を得た。なお、得られた熱間プレス部材の形状は上面の平坦部長さ100mm、側面の平坦部長さ30mm、下面の平坦部長さ20mmであった。また、金型の曲げRは上面の両肩、下面の両肩いずれも7Rであった。
得られた熱間プレス部材について、以下の方法でAl-Fe系金属間化合物層の厚さと、組成分析およびFeリッチ相の形態の測定を行った。測定結果は表3に示す。
(Al-Fe系金属間化合物層の厚さ)
得られた熱間プレス部材の頭頂平坦部を導電性樹脂に埋め込み、断面をSEMにより観察して反射電子像を得た。前記観察は、倍率500倍で、無作為に選択した5視野において実施した。得られた反射電子像をコントラストに基づき画像解析し、視野内におけるAl-Fe系金属間化合物層の面積を算出し、視野の幅で除することによって、その視野におけるAl-Fe系金属間化合物層の平均厚さとした。5視野分の平均厚さの相加平均を、その熱間プレス部材におけるAl-Fe系金属間化合物層の厚さの代表値とした。
(Al-Fe系金属間化合物層の形態の分析)
得られた熱間プレス部材の頭頂平坦部を導電性樹脂に埋め込み、Al-Fe合金層全厚を含む視野で、EPMAにより元素分布と濃度を定量した。前記観察は、倍率1000倍で、無作為に選択した5視野において実施した。EPMAによる定量値で、Al濃度が40質量%未満である領域をFeリッチ相とし、残部、すなわちAl濃度が40質量%以上である領域をAlリッチ相とした。各視野におけるFeリッチ相の面積をAl-Fe系金属間化合物層の面積で割ることによりFeリッチ相の断面積率を算出し、5視野における前記断面積率の平均値を、当該熱間プレス用鋼板におけるFeリッチ相の断面積率とした。また、各視野内に存在する、独立したFeリッチ相の板面内方向の断面方向の長さを測定し、5視野分すべての測定値を平均することで、Feリッチ相の断面における板厚方向と垂直な方向の平均長さとした。
得られた熱間プレス部材の、熱間プレス過程で侵入した水素に起因する耐水素脆化特性を評価するために、プレス直後の鋼中拡散性水素量を測定するとともに、室温保管中の水素量の経時変化を測定することで水素の脱離速度を測定した。
(鋼中拡散性水素量)
得られた熱間プレス部材の、プレス直後の拡散性水素量を以下の手法で測定した。熱間プレス部材の加工度の小さい平坦部より10×15mmの小片を切り出し、両面の金属間化合物層および拡散層を、精密リュータで研削加工することにより除去した。その後、昇温脱離分析を行って、300度まで昇温した際の水素量の積算値を拡散性水素量とした。前記昇温脱離分析には、ジェイ・サイエンス社製昇温脱離分析装置を使用し、キャリアガスはアルゴン、昇温速度は200℃/sとした。得られた鋼中拡散性水素量を下記の基準で評価した。評価結果を表3に示す。
1:0.30質量ppm未満
2:0.30質量ppm以上0.50質量ppm未満
3:0.50質量ppm以上1.00質量ppm未満
4:1.00質量ppm以上
(水素脱離時間)
熱間プレス後、24時間または1週間、室温25度の恒温室内で保管した熱間プレス部材について、前記、プレス直後の拡散性水素量の測定と同様に小片を切り出して鋼中拡散性水素量を測定した。拡散性水素量の時間変化に対し、熱間プレス直後の点と、24時間後、1週間後の3点のデータより、最小二乗法を用いて指数関数による近似式を作製した。前記近似式により、鋼中拡散性水素量が0.20質量ppmまで低下するのに要する時間を推定し、これを水素離脱時間とした。なお、熱処理直後に拡散性水素量が0.20質量ppm未満であった熱間プレス部材については、水素脱離の評価を実施しなかった。得られた水素離脱時間を元に、下記の基準で水素離脱特性を評価した。評価結果を表3に示す。
1:24時間未満
2:24時間以上120時間未満
3:120時間以上240時間未満
4:240時間以上
-:熱処理直後の拡散性水素量が0.20質量ppm未満のため評価実施せず
上記鋼中拡散性水素量および水素離脱時間の評価結果に基づき、下記の基準で総合評価を行った。
1:鋼中拡散性水素量が1
2:鋼中拡散性水素量が2または3、かつ水素離脱時間が1または2
3:鋼中拡散性水素量が2または3、かつ水素離脱時間が3
4:鋼中拡散性水素量および水素離脱時間の少なくとも一方が4
表3に示した結果から分かるように、本発明の条件を満たす熱間プレス部材は、総合評価が2か1であった。すなわち、本発明の熱間プレス部材は、熱間プレス直後の拡散性水素量が0.30質量ppm以下と少なく、水素脆化のリスクが小さいか、または熱間プレス直後の水素量が0.30質量ppm超えと高い場合でも、120時間以内室温で保管することで0.20質量ppm以下となり、製造時に侵入する水素に起因する脆化のリスクを容易に低減可能である。一方、本発明の条件を満たさない熱間プレス部材は、熱間プレス直後の水素量が多く、さらに短時間での水素量の低減も困難であった。
Figure 0007568115000001
Figure 0007568115000002
Figure 0007568115000003

Claims (6)

  1. 鋼材と、
    前記鋼材の少なくとも一方の面に配された、厚さ10~35μmのAl-Fe系金属間化合物層と、
    前記Al-Fe系金属間化合物層と前記鋼材との間の界面に配された拡散層とを備え、
    前記Al-Fe系金属間化合物層が、Al濃度40質量%以上であるAlリッチ相と、Al濃度40質量%未満であるFeリッチ相とを含み、
    前記Alリッチ相が、FeAl 、Fe Al 13 、およびFe Al の少なくとも一つを含み、
    前記Feリッチ相の断面における板厚方向と垂直な方向の平均長さが10μm以下である、熱間プレス部材。
  2. 前記鋼材中の拡散性水素量が0.30質量ppm以下である、請求項1に記載の熱間プレス部材。
  3. 母材鋼板と、
    前記母材鋼板の少なくとも一方の面に配された、厚さ10~35μmのめっき層とを備え、
    前記めっき層は、
    前記母材鋼板上に配された界面合金層と、
    前記界面合金層上に配された、Al含有量が50質量%以上である金属層とを備え、
    前記界面合金層が、Si濃度4質量%以上であるSiリッチ相を含み、
    前記界面合金層全体に対する前記Siリッチ相の断面積率が5%以上30%以下である、熱間プレス用鋼板。
  4. 前記金属層が、
    Si:0.5~7.0質量%、および
    Fe:0~30質量%を含有する、請求項3に記載の熱間プレス用鋼板。
  5. 前記金属層がさらに、
    Mg:0.1~4.0質量%を含有する、請求項4に記載の熱間プレス用鋼板。
  6. 請求項3~5のいずれか一項に記載の熱間プレス用鋼板を熱間プレスして熱間プレス部材とする、熱間プレス部材の製造方法。
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