以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。なお、各図面は、発明の内容の理解を高めるためのものであり、誇張された表示が含まれる他、各図面間において、縮尺等は厳密に一致していない点が予め指摘される。
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「方法」ということがある。)は、回転するタイヤがその周辺の流体に及ぼす影響(以下、単に「影響」ということがある。)を、コンピュータを用いて計算するための方法である。本実施形態の方法において、計算対象とする流体については、空気である場合が例示される。また、計算される影響については、回転するタイヤの空力性能やノイズ性能である場合が例示される。
図1は、本発明のタイヤのシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態のタイヤのシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
図2は、タイヤの一例を示す断面図である。本実施形態のタイヤ2は、乗用車用タイヤである場合が例示されるが、特に限定されない。本実施形態のタイヤ2は、図2に示されるように、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至るカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2aの内部に配されるベルト層7とが設けられている。さらに、タイヤ2には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックスゴム8が設けられている。
カーカス6は、少なくとも1枚、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aを含んで構成されている。ベルト層7は、タイヤ半径方向の内側、及び、外側に配された2枚のベルトプライ7A、7Bを含んで構成されている。
本実施形態のタイヤ2は、その表面3から凹んだ少なくとも1つの凹部4を有している。本実施形態の凹部4は、路面(図示省略)に接地する踏面3aから凹んだ溝10として構成されている。本実施形態の溝10は、タイヤ周方向に連続してのびる主溝10Aと、主溝10Aに交わる向きにのびる横溝10Bとを含んで構成されている。なお、凹部4は、これらの溝10(主溝10A、横溝10B)に限定されるわけではなく、例えば、バットレス面やサイドウォール面等に設けられたディンプル(図示省略)や、冷却用のフィン(図示省略)など、凹凸が形成された部分(図示省略)であってもよい。
図3は、タイヤのシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の方法では、先ず、コンピュータ1に、タイヤモデルが入力される(工程S1)。図4は、タイヤモデル12及び路面モデル17の一例を示す概念図である。図5は、タイヤモデル12の一例を示す断面図である。
図5に示されるように、工程S1では、タイヤ2(図2に示す)に関する情報(例えば、タイヤ2の輪郭データ等)に基づいて、有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化している。本実施形態では、図2に示したトレッドゴムを含むゴム部材2G、カーカスプライ6A、及び、各ベルトプライ7A、7B等の各タイヤ構成部材が、有限個の要素(以下、単に、「要素」ということがある。)F(i)で離散化されている。これにより、タイヤ2をモデル化したタイヤモデル12が設定される。
各要素F(i)は、数値解析法により取り扱い可能なものである。数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法等を適宜採用できる。本実施形態の数値解析法には、有限要素法が採用されている。また、各要素F(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素や、それ以上の面をもつ多面体のソリッド要素などが用いられるのが望ましい。各要素F(i)には、複数個の節点15が設けられる。これらの各要素F(i)には、要素番号、節点15の番号、節点15の座標値、及び、材料特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)などの数値データが定義される。
タイヤモデル12は、その表面13から凹んだ少なくとも1つの凹部14が設けられている。この凹部14は、図2に示したタイヤ2の輪郭に基づいて、タイヤ2の凹部4(本実施形態では、溝10)を表現したものである。本実施形態の凹部14は、タイヤ2の主溝10A(図2に示す)に基づいて設定された主溝14Aと、タイヤ2の横溝10B(図2に示す)に基づいて設定された横溝14B(図4及び図6に示す)とを含んでいる。タイヤモデル12は、コンピュータ1に入力される。
次に、本実施形態の方法では、コンピュータ1に、路面モデル17(図4に示す)が入力される(工程S2)。本実施形態の路面モデル17は、平坦路(図示省略)をモデル化したものが例示されているが、このような態様に限定されない。路面モデル17は、例えば、円筒状に形成されたドラム試験機(図示省略)の外周面をモデル化したものでもよい。工程S2では、路面(本実施形態では、平坦路)に関する情報に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)で離散化する。これにより、工程S2では、路面モデル17が設定される。
本実施形態の路面モデル17の外面は、平滑なスムース路面として設定されているが、このような態様に限定されない。路面モデル17の外面には、例えば、走行騒音試験に用いられる路面(ISO路面)や、アスファルト路面に基づいて、凹凸(図示省略)が設定されてもよい。また、有限個の要素(以下、単に、「要素」ということがある。)G(i)としては、変形不能に設定された剛平面要素が採用される。各要素G(i)には、複数の節点18が設けられている。これらの各要素G(i)には、要素番号や、節点18の座標値等の数値データが定義される。路面モデル17は、コンピュータ1に記憶される。
図6は、タイヤモデル12、背景モデル21、及び、流体モデル22の一例を示す断面図である。図7は、タイヤモデル12及び背景モデル21の一例を示す斜視図である。図8は、図7のA-A断面図である。なお、図6では、タイヤモデル12、背景モデル21、及び、流体モデル22の各要素を省略し、タイヤモデル12、及び、流体モデル22のはみ出す領域T7を色付けして示している。また、図7では、背景モデル21の各要素を省略して示している。また、図8では、タイヤモデル12及び背景モデル21の各要素を省略し、かつ、タイヤモデル12を色付けして示している。
次に、本実施形態の方法では、コンピュータ1に、有限個の要素H(i)(i=1、2、…)を用いて、タイヤ2(図2に示す)が回転する静止領域を定義した背景モデル21が入力される(工程S3)。静止領域(図示省略)は、回転するタイヤ2の周辺を囲み、かつ、タイヤ2の回転の影響を受けずに静止している仮想空間(領域)である。本実施形態の静止領域(図7に示す背景モデル21)の形状は、立方体として定義されるが、このような態様に限定されるわけではない。静止領域は、例えば、半球や半円柱のほか、車輌形状を考慮した形状等に適宜定義されてもよい。
背景モデル21は、上記特許文献1の音空間領域と同様に定義することができる。本実施形態の背景モデル21は、静止領域(図示省略)が、図8に示した有限個の要素(以下、単に、「要素」ということがある。)H(i)を用いて分割(離散化)されたオイラーメッシュ(オイラー要素)によって構成されている。本実施形態の各要素H(i)には、流体(空気)の流速や圧力といった物理量が割り当てられる。各要素H(i)には、複数の節点23が設けられている。各節点23では、静止領域(背景モデル21)での物理量が計算される。
離散化する手法としては、例えば、有限体積法が用いられる。各要素H(i)のサイズについては、適宜設定することができる。例えば、評価される物理量が音(ノイズ)である場合、各要素H(i)のサイズは、ノイズの周波数に応じた圧力変動を、十分に表現できる大きさに設定されるのが望ましい。
図7及び図8に示されるように、本実施形態の背景モデル21が占める領域T1は、タイヤモデル12を囲む立方体が占める領域T2から、タイヤモデル12が占める領域T3を差し引くことによって決定される。なお、タイヤモデル12が占める領域T3は、内圧が充填され、かつ、路面モデル17に接地した状態で荷重L(図4に示す)が定義されたタイヤモデル12に基づいて設定されてもよい。
背景モデル21には、背景モデル21が占める領域T1を画定するための境界面24が含まれている。本実施形態の境界面24は、前壁面24f、後壁面24r、及び、前壁面24fと後壁面24rとの間をのびる側壁面24sを含んでいる。さらに、本実施形態の境界面24には、第1境界面31及び第3境界面33が含まれる。
本実施形態の第1境界面31は、回転するタイヤモデル12を接触させるためのものである。第1境界面31は、一つの側壁面24sで定義されている。本実施形態の第1境界面31(側壁面24s)は、路面モデル17(図4に示す)の形状に合わせて設定されるのが望ましい。
図8に示されるように、本実施形態の第3境界面33は、タイヤモデル12の表面13を嵌め込み可能なように、タイヤモデル12の表面13及び凹部14に一致している。第3境界面33には、タイヤモデル12の表面13に対して相対移動可能に条件付けられている(例えば、スライディングサーフェース等の境界条件)。これにより、タイヤモデル12は、背景モデル21に対して、回転することができる。
これらの境界面24(即ち、前壁面24f、後壁面24r、側壁面24s、第1境界面31及び第3境界面33)には、流体が通過不能に定義される。これにより、背景モデル21の計算範囲が限定されるため、計算時間を短縮するのに役立つ。
背景モデル21には、前壁面24fから、タイヤ2の走行速度に近似する速度を持った空気の流入を定義するとともに、後壁面24rから空気の自由流出が定義されてもよい。これにより、背景モデル21は、実車走行時の空気の流れを再現することができる。なお、空気の流入及び流出は、例えば、前壁面24fと後壁面24rとで入れ替えて定義されてもよいし、タイヤに対して上下方向や斜め方向からの空気の流入及び流出が定義されてもよい。
図7に示されるように、背景モデル21の一辺の幅L1w、前後方向の長さL1d、及び、高さL1hについては、適宜設定することができる。幅L1w、長さL1d及び高さL1hが大きいと、背景モデル21の計算範囲が大きくなり、計算時間が増大するおそれがある。逆に、幅L1w、長さL1d及び高さL1hが小さいと、背景モデル21の計算範囲が小さくなり、回転するタイヤ2が流体に及ぼす影響を、精度良く計算できないおそれがある。このため、幅L1wは、タイヤモデル12の直径(幅)L2(図8に示す)の3~10倍程度が望ましい。長さL1dは、タイヤモデル12の直径(幅)L2の3~20倍程度が望ましい。高さL1hは、タイヤモデル12の直径(幅)L2の0.5~10倍程度が望ましい。なお、高さL1hの下限値が、直径(幅)L2の0.5倍に設定されているのは、例えば、ノイズの発生減が路面近傍であることに基づき、タイヤモデルの中心よりも下に設定された背景モデル21で解析する態様を含んでいるからである。背景モデル21は、コンピュータ1に入力される。
図9は、タイヤモデル12及び流体モデル22の一例を示す断面図である。図10は、図9の部分拡大図である。なお、図9では、タイヤモデル12、及び、流体モデル22の各要素を省略し、かつ、タイヤモデル12を色付けして示している。また、図10では、タイヤモデル12の要素を省略し、かつ、タイヤモデル12の縁部を色付けして示している。
次に、本実施形態の方法では、コンピュータ1に、回転するタイヤ2(図2に示す)の周辺の流体(図示省略)を、図10に示した有限個の要素J(i)(i=1、2、…)でモデル化した流体モデル22を入力する(工程S4)。上述したように、本実施形態の流体は、空気である。また、回転するタイヤ2の周辺の流体としては、図2に示したタイヤ2の表面3(タイヤモデル12の表面13)から所定の厚さW1を有する領域T4に存在する空気として定義される。
図9に示されるように、流体モデル22は、タイヤモデル12の表面13(図2に示したタイヤ2の表面3)から所定の厚さW1を有する外周面28を含んで構成されている。この外周面28は、タイヤモデル12の回転中心16(図2に示したタイヤ2の回転中心)から所定の半径L3を有している。流体モデル22は、図7及び図8に示した背景モデル21とは独立して定義されている。本実施形態の流体モデル22は、静止した状態が定義される背景モデル21とは異なり、タイヤモデル12と一体で回転するように関連付けられている(境界条件が設定されている)。
本実施形態の流体モデル22は、回転するタイヤ2(図2に示す)の周辺の流体(図示省略)が、図10に示した有限個の要素(以下、単に、「要素」ということがある。)J(i)を用いて分割(離散化)されたオイラーメッシュ(オイラー要素)によって構成される。本実施形態の各要素J(i)には、流体(空気)の流速や圧力といった物理量が割り当てられる。各要素J(i)には、複数の節点27が設けられている。各節点27では、回転するタイヤ2の周辺の流体(図示省略)の物理量が計算される。離散化する手法については、背景モデル21(図8に示す)と同一の手法が採用される。また、各要素J(i)のサイズについては、背景モデル21の要素H(i)(図8に示す)のサイズと同様に設定されるのが望ましい。
本実施形態の流体モデル22の各要素J(i)は、図8に示した背景モデル21の各要素H(i)との重なりを許容するオーバーセットメッシュ(キメラメッシュ)として定義される。これにより、図6に示されるように、流体モデル22は、背景モデル21に重ねられた状態で、背景モデル21に対して相対移動(タイヤモデル12と一体で回転)することができる。
図9に示されるように、本実施形態の流体モデル22が占める領域T4は、流体モデル22の外周面28で囲まれる領域T5から、タイヤモデル12が占める領域T3を差し引くことによって決定される。なお、タイヤモデル12が占める領域T3は、内圧が充填され、かつ、路面モデル17に接地した状態で荷重L(図4に示す)が定義された後のタイヤモデル12に基づいて設定されてもよい。
流体モデル22には、流体モデル22が占める領域T4を画定するための境界面29が含まれている。境界面29には、流体モデル22の外周面28を画定する第2境界面32と、タイヤモデル12の表面13を嵌め込み可能なように、タイヤモデル12の表面13及び凹部14に一致する内壁面29iとを含んでいる。これらの境界面29(第2境界面32、内壁面29i)には、流体(図示省略)が通過不能に定義される。これにより、流体モデル22(即ち、回転するタイヤ2がその周辺の流体に及ぼす影響)の計算範囲が限定されるため、計算時間を短縮するのに役立つ。
本実施形態の流体モデル22は、タイヤモデル12の凹部14の中に位置する第1モデル部34と、凹部14の外側でタイヤモデル12の表面13に接触している第2モデル部35とを含んで構成されている。図11は、図9のB-B断面図である。図11では、タイヤモデル12、及び、流体モデル22の各要素を省略し、かつ、タイヤモデル12の縁部を色付けして示している。
本実施形態の第1モデル部34は、図11に示したタイヤモデル12の主溝14Aの中に位置する主溝モデル部34Aと、図9に示したタイヤモデル12の横溝14Bの中に位置する横溝モデル部34Bとを含んで構成されている。
主溝モデル部34Aの要素J(i)(図示省略)と、図10に示した横溝モデル部34Bの要素J(i)とは、互いの節点27、27を共有させるのが望ましい。これにより、工程S4では、主溝モデル部34A及び横溝モデル部34Bを一体として、要素J(i)で離散化(モデル化)できるため、モデル作成時間、及び、計算時間を短縮することができる。なお、互いの節点27、27を共有させない場合には、主溝モデル部34Aの要素J(i)と、横溝モデル部34Bの要素J(i)との境界において、拘束条件が定義されるのが望ましい。
図10に示されるように、第1モデル部34の各要素J(i)は、凹部14が占める領域を、凹部14の壁面14sの輪郭に沿って層状に分割(離散化)して定義されるのが望ましい。このような第1モデル部34は、凹部14の壁面14s側の流体(図示省略)の流れと、凹部14の内部の流体の流れとを独立して計算できるため、流体(図示省略)の物理量の計算精度を向上させることができる。
図9に示されるように、本実施形態の第2モデル部35は、タイヤ周方向に連続する筒状に定義されている。図10に示されるように、第2モデル部35の各要素J(i)は、タイヤモデル12の表面13と外周面28(図9に示す)との間の領域を、タイヤモデル12の表面13の輪郭に沿って、層状に分割(離散化)して定義されるのが望ましい。このような第2モデル部35は、タイヤモデル12の表面13側の流体(図示省略)の流れと、流体モデル22の外周面28(図9に示す)側の流体の流れとを独立して計算できるため、流体の物理量の計算精度を向上させることができる。
図9に示した第2モデル部35の厚さ(図2に示したタイヤ2の表面3からの厚さ)W1については、例えば、求められる計算精度等に基づいて、適宜設定することができる。本実施形態の厚さW1は、回転するタイヤ2が流体に及ぼす影響を評価する位置(例えば、ノイズ性能が評価される場合、集音マイクの位置)に、第2モデル部35が配置されるように設定されている。なお、第2モデル部35の厚さW1が大きいと、流体モデル22(第2モデル部35)の計算範囲が大きくなり、計算時間が増大するおそれがある。このような観点より、第2モデル部35の厚さW1は、1~15cmが望ましい。
図10に示されるように、第2モデル部35の要素J(i)と、第1モデル部34の要素J(i)とは、互いに節点27、27を共有させるのが望ましい。これにより、工程S4では、第1モデル部34及び第2モデル部35を一体として、要素J(i)で離散化(モデル化)できるため、モデル作成時間、及び、計算時間を短縮することができる。なお、互いの節点27、27を共有させない場合には、第1モデル部34の要素J(i)と、第2モデル部35の要素J(i)との境界において、拘束条件が定義されるのが望ましい。流体モデル22は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の方法では、回転するタイヤモデル12の物理量を計算する(第1物理量計算工程S5)。本実施形態の第1物理量計算工程S5では、図4に示したタイヤモデル12を路面モデル17上で回転(転動)させて、タイヤモデル12の物理量が計算される。なお、本実施形態の第1物理量計算工程S5では、背景モデル21(図8に示す)や流体モデル22(図9に示す)が用いられていない。これにより、第1物理量計算工程S5では、背景モデル21及び流体モデル22を計算対象外に設定できるため、タイヤモデル12の物理量の計算時間を短縮することができる。図12は、第1物理量計算工程S5の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第1物理量計算工程S5では、先ず、コンピュータ1に、図4に示したタイヤモデル12を路面モデル17に回転(転動)させるための境界条件が入力される(工程S51)。工程S51では、先ず、タイヤモデル12を路面モデル17に接触させるための境界条件が入力される。この境界条件としては、例えば、タイヤモデル12と路面モデル17との間の接触条件、タイヤモデル12の内圧条件、リム条件、荷重条件(荷重L)、キャンバー角、又は、タイヤモデル12と路面モデル17との間の摩擦係数等が含まれる。内圧条件及び荷重条件としては、適宜設定することができる。本実施形態の内圧条件及び荷重条件としては、タイヤ2(図2に示す)が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ2毎に定める空気圧及び荷重が設定される。
さらに、工程S51では、タイヤモデル12を路面モデル17に回転(転動)させるための境界条件が入力される。境界条件としては、例えば、タイヤモデル12のスリップ角、走行速度V、走行速度Vに対応するタイヤモデル12の角速度Va、走行速度Vに対応する路面モデル17の並進速度Vb、又は、タイヤモデル12と路面モデル17との間の動摩擦係数等が含まれる。これらの境界条件は、コンピュータ1に入力される。
次に、本実施形態の第1物理量計算工程S5では、コンピュータ1が、内圧充填後のタイヤモデル12を計算する(工程S52)。工程S52では、先ず、図5に示されるように、タイヤ2のリム39(図2に示す)をモデル化したリムモデル40によって、タイヤモデル12のビード部12c、12cが拘束される。リムモデル40は、例えば、リム39に関する情報(輪郭データ等)に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素(図示省略)で離散化されることによって設定される。リムモデル40を構成する要素は、例えば、変形不能に設定された剛平面要素(図示省略)として定義されるのが望ましい。
さらに、工程S52では、境界条件として入力された内圧条件に相当する等分布荷重wに基づいて、タイヤモデル12の変形が計算される。これにより、工程S52では、内圧充填後のタイヤモデル12が計算される。
タイヤモデル12の変形計算は、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス及び減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、前記各種の条件を当てはめて運動方程式が作成され、これらを微小時間(単位時間Tx(x=0、1、…))ごとにタイヤモデル12の変形計算が行われる。このようなタイヤモデル12の変形計算は、例えば、Dassault Systems社製のAbaqus、LSTC社製のLS-DYNA、又は、MSC社製のNASTRANなどの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。なお、単位時間Txについては、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定することができる。
次に、本実施形態の第1物理量計算工程S5では、コンピュータ1が、荷重条件が定義されたタイヤモデル12を計算する(工程S53)。工程S53では、先ず、図4に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル12と路面モデル17との接触が設定される。次に、工程S53では、タイヤモデル12の回転軸12sに、境界条件として入力された荷重条件(荷重L)が設定される。これにより、工程S53では、荷重条件が負荷されて変形したタイヤモデル12が計算される。
次に、本実施形態の第1物理量計算工程S5では、コンピュータ1が、予め定められた走行速度Vに基づいて、路面モデル17上を回転(転動)するタイヤモデル12を計算する(工程S54)。工程S54では、境界条件として入力された角速度Vaが、タイヤモデル12の回転軸12sに定義される。さらに、境界条件として入力された並進速度Vbが、路面モデル17に定義される。これにより、工程S54では、路面モデル17上を、走行速度Vで回転(転動)するタイヤモデル12を、単位時間Tx毎に計算することができる。
工程S54では、タイヤモデル12の回転計算(転動計算)によって、タイヤモデル12の変形が計算される。さらに、工程S54では、単位時間Tx毎に、タイヤモデル12の要素F(i)の物理量(例えば、摩耗エネルギー等)が計算される。これらの物理量は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第1物理量計算工程S5では、コンピュータ1に、タイヤモデル12の表面13の節点15(図5に示す)の座標データが入力される(工程S55)。本実施形態において、座標データが入力されるタイヤモデル12の表面13としては、タイヤモデル12のトレッド部12aからサイドウォール部12bを経てビード部12cに連続する外表面である。このような節点15の座標データは、タイヤモデル12の表面13及び凹部14を含む回転中(転動中)のタイヤモデル12の表面13の形状を、単位時間Tx毎に特定するのに役立つ。座標データは、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第1物理量計算工程S5では、コンピュータ1が、予め定められた終了時間が経過したか否かを判断する(工程S56)。終了時間としては、例えば、タイヤモデル12の取得すべき物理量や、後述の第2物理量計算工程S6での流体モデル22の取得すべき物理量に応じて、適宜設定することができる。
工程S56において、終了時間が経過したと判断された場合(工程S56で、「Y」)、次の第2物理量計算工程S6(図3に示す)が実施される。他方、工程S56において、終了時間が経過していないと判断された場合(工程S56で、「N」)、単位時間Txを一つ進めて(工程S57)、工程S54~工程S56が再度実施される。これにより、第1物理量計算工程S5では、回転開始から回転終了までのタイヤモデル12の座標データを、単位時間Tx毎の時系列データとして取得することができる。
次に、本実施形態の方法では、図6に示されるように、コンピュータ1が、タイヤモデル12を回転させて、流体モデル22の要素J(i)(図10に示す)の物理量を計算する(第2物理量計算工程S6)。第2物理量計算工程S6では、タイヤモデル12、背景モデル21、及び、流体モデル22を用いて、流体モデル22の物理量が計算される。第2物理量計算工程S6の一連の処理は、例えば、CD-adapco社製のSTAR-CD、又は、ANSYS社のFLUNETなどの市販の流体解析用のアプリケーションソフトを用いて行うことができる。図13は、第2物理量計算工程S6の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第2物理量計算工程S6では、先ず、図6に示されるように、流体モデル22(図8に示す)及び背景モデル21(図9に示す)が互いに重ねられる(工程S61)。工程S61では、先ず、図8に示されるように、背景モデル21に、タイヤモデル12を配置する。本実施形態では、背景モデル21の第1境界面31に、タイヤモデル12の表面13を接触させている。さらに、本実施形態では、背景モデル21の第3境界面33に、タイヤモデル12の表面13を接触させている。上述したように、背景モデル21の第3境界面33には、タイヤモデル12の表面13に対して相対移動可能に条件付けられているため、図6に示されるように、タイヤモデル12を背景モデル21に対して回転させることができる。
次に、工程S61では、図6に示されるように、背景モデル21に、流体モデル22を配置する。本実施形態では、タイヤモデル12の表面13に、流体モデル22の内壁面29iを接触させている。図10に示した流体モデル22の要素J(i)は、オーバーセットメッシュとして(キメラメッシュ)として定義されているため、図6に示されるように、流体モデル22と背景モデル21との重なり(重複)が許容される。
上述したように、流体モデル22は、タイヤモデル12と一体で回転するように関連付けられている。したがって、第2物理量計算工程S6では、図6に示されるように、後述の工程S63において、タイヤモデル12とともに、流体モデル22を回転させることができる。
本実施形態では、タイヤモデル12を、背景モデル21の第1境界面31に接触させている。このため、流体モデル22には、背景モデル21からはみ出す領域(以下、単に「はみ出す領域」ということがある。)T7が含まれている。上述したように、タイヤモデル12が接触する第1境界面31は、路面モデル17(図4に示す)に基づいて設定されている。このため、流体モデル22のはみ出す領域T7は、タイヤ2(図2に示す)が転動する路面(図示省略)の内部の領域に相当し、実際には、タイヤ2の周辺の流体(空気)が存在していない。このため、後述の流体モデル22の物理量を計算する工程S64では、はみ出す領域T7を、流体モデル22の各要素J(i)の物理量の計算対象から除くのが望ましい。これにより、本実施形態の方法では、例えば、はみ出す領域T7が形成されないように、複雑な形状の流体モデル22を定義したり、タイヤモデル12と第1境界面31との間で厚さW1を部分的に小さくなる流体モデル22を定義したりする必要がない。したがって、本実施形態の方法では、回転するタイヤ2の周辺の流体(流体モデル22)を、簡単に定義することができる。
次に、本実施形態の第2物理量計算工程S6では、回転するタイヤモデル12の表面13の形状が取得される(工程S62)。取得されるタイヤモデル12の表面13の形状は、後述の工程S63において、タイヤモデル12を回転させるのに用いられる。
工程S62では、先ず、第1物理量計算工程S5(図12に示す)で入力された座標データに基づいて、単位時間Txにおけるタイヤモデル12の表面13の形状が取得される。工程S62では、後述の工程S65での終了判定が満たされるまで繰り返し実施されることにより、タイヤモデル12の回転開始から回転終了までの間、回転するタイヤモデル12の表面13の形状が、単位時間Txごとに取得される。
次に、本実施形態の第2物理量計算工程S6では、タイヤモデル12を背景モデル21内で回転させる(工程S63)。工程S63では、流体モデル22及び背景モデル21が互いに重ねられた状態で、タイヤモデル12を背景モデル21内で回転させている。
本実施形態では、工程S62で特定されたタイヤモデル12の表面13の形状に基づいて、タイヤモデル12の回転を計算している。工程S63では、背景モデル21内において、工程S62で特定されたタイヤモデル12の表面13の形状に一致するように、タイヤモデル12をタイヤ周方向に移動させる。これにより、第2物理量計算工程S6では、路面モデル17上を回転(転動)するタイヤモデル12を計算しなくても、単位時間Tx後の回転(転動)したタイヤモデル12を計算できるため、第2物理量計算工程S6での計算(流体モデル22の物理量の計算)が複雑になるのを防ぐことができる。
上述したように、流体モデル22は、タイヤモデル12と一体で回転するように関連付けられている。このため、工程S63では、背景モデル21内において、タイヤモデル12とともに流体モデル22を回転させることができる。これにより、本実施形態では、流体モデル22の第1モデル部34(主溝モデル部34A及び横溝モデル部34B)を、タイヤモデル12の凹部14(主溝14A及び横溝14B)の中に位置させることができる。
このように、本実施形態の方法では、上記特許文献1の方法のように、タイヤモデル12の回転に合わせて、複数の溝内領域(図9及び図10に示した第1モデル部34に相当)をそれぞれ、タイヤ周方向にそれぞれ移動させる必要がない。したがって、本実施形態の方法では、回転するタイヤ2の周辺の流体を、簡単に定義することができる。
さらに、本実施形態の方法では、背景モデル21と流体モデル22とが独立して定義されているため、タイヤモデル12の回転に合わせて、背景モデル21を再定義(例えば、リメッシュや、変形計算)する必要がない。したがって、本実施形態の方法は、回転するタイヤ2の周辺の流体を、短時間で定義することができる。
また、本実施形態の方法では、流体モデル22及び背景モデル21が互いに重ねられているため、タイヤモデル12と背景モデル21との間で、流体モデル22の要素J(i)が潰れることもない。したがって、本実施形態の方法は、要素潰れによる異常終了を防ぐことができるため、後述の工程S64において、流体モデル22の物理量を安定して計算することができる。
なお、図6に示したタイヤモデル12の表面13や凹部14が、タイヤモデル12の回転(転動)によって変形する場合には、図10に示した流体モデル22の第1モデル部34及び第2モデル部35の各要素J(i)を変形させるのが望ましい。これにより、本実施形態では、第1モデル部34及び第2モデル部35の形状を、タイヤモデル12の表面13や凹部14の形状に一致させることができる。
各要素J(i)の変形方法については、適宜選択することができる。各要素J(i)の変形方法としては、例えば、その節点27の移動によって変形させる所謂モーフィングを採用することができる。モーフィングは、上記した有限要素解析アプリケーションソフトを用いることで、容易に実施することができる。
本実施形態では、流体モデル22を、タイヤモデル12と一体でタイヤ周方向に移動させる態様が例示されたが、このような態様に限定されない。例えば、回転後のタイヤモデル12の表面13及び凹部14の形状、並びに、厚さW1(図9に示す)に基づいて、流体モデル22を再度定義(リメッシュ)することで、タイヤモデル12と一体で回転する流体モデル22が定義されてもよい。これにより、このような方法では、流体モデル22の移動や、流体モデル22の第1モデル部34及び第2モデル部35の各要素J(i)の変形計算を必要としないため、流体モデル22を簡単に定義することができる。
次に、本実施形態の第2物理量計算工程S6では、図10に示す流体モデル22の各要素J(i)の物理量が計算される(工程S64)。工程S64では、上記特許文献1のシミュレーション方法と同様に、予め設定された少なくとも一つの観測点(図示省略)において、流体モデル22の各要素J(i)の物理量が計算される。
工程S64では、図10に示した流体モデル22の各要素J(i)の物理量、及び、図8に示した背景モデル21の各要素H(i)の物理量がそれぞれ計算される。本実施形態のように、流体が空気として定義される場合には、流体(空気)の運動が、例えばナビエ・ストークスの式によって表される。このナビエ・ストークスの式は、例えばコンピュータ1で計算可能な近似式に変換して計算されることにより、空気の運動、即ち、流体モデル22の各要素J(i)、及び、背景モデル21の各要素H(i)での圧力及び速度などが計算される。流体モデル22の各要素J(i)、及び、背景モデル21の各要素H(i)の物理量の計算は、上記の流体解析用のアプリケーションソフトを用いて計算できる。
流体モデル22の各要素J(i)では、タイヤモデル12の回転の影響を受けたタイヤモデル周辺の流体(空気)の流れが計算される。本実施形態では、はみ出す領域T7を、流体モデル22の各要素J(i)の物理量の計算対象から除いている。これにより、第2物理量計算工程S6では、実際のタイヤ2の回転時に流体が存在しないような領域(即ち、タイヤ2が転動する路面(図示省略)の内部の領域)において、物理量が計算されるのを防ぐことができる。
一方、背景モデル21の各要素H(i)では、タイヤモデル12の回転の影響を受けることなく、タイヤ2の走行速度に近似する速度を持った空気の流入のみが計算される。
図6に示されるように、流体モデル22と背景モデル21とが重なる領域(以下、単に「重複領域」ということがある。)T8では、流体モデル22及び背景モデル21の互いの物理量に基づいて、流体モデル22の各要素J(i)の物理量が計算される。重複領域T8では、流体モデル22の物理量と、背景モデル21の物理量との関連付け(データマッピング)が行われる。これにより、工程S64では、背景モデル21に対する流体モデル22の挙動を整合させることができる。
このように、本実施形態の方法では、流体モデル22及び背景モデル21の互いの物理量を考慮して、流体モデル22の物理量が計算されるため、回転するタイヤ2がその周辺の流体(図示省略)に及ぼす影響を、精度よく計算することができる。さらに、本実施形態の方法では、回転するタイヤ2がその周辺の流体に及ぼす影響の計算範囲が、タイヤ2の表面3から所定の厚さW1(図9に示す)で定義された流体モデル22に限定されるため、計算時間を短縮することができる。
流体モデル22の物理量としては、例えば、空気の圧力変動、流速、又は、任意の時刻における流体モデル22の各部の空気圧力分布などが含まれる。本実施形態では、タイヤモデル12の主溝14Aに設けられた主溝モデル部34A(図11に示す)の回転により、図2に示したタイヤ2の主溝10A(図2に示す)に形成される気柱管に起因するレゾナンスノイズを再現した物理量が計算される。また、タイヤモデル12の主溝14A及び横溝14Bに設けられた主溝モデル部34A及び横溝モデル部34B(図9に示す)により、ポンピングノイズを再現した物理量を計算することができる。流体モデル22の物理量は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の第2物理量計算工程S6では、全ての(第1物理量計算工程S5の回転開始から回転終了までの)タイヤモデル12の表面13の形状が取得されたか否かが判断される(工程S65)。工程S65において、第1物理量計算工程S5の回転開始から回転終了まで、タイヤモデル12の表面13の形状が取得されたと判断された場合(工程S65で、「Y」)、第2物理量計算工程S6の一連の処理が終了する。他方、工程S65において、回転開始から回転終了まで、タイヤモデル12の表面13の形状が取得されていないと判断された場合、次の単位時間Txのタイヤモデル12の表面13の形状が取得され(工程S62)、かつ、工程S63~S65が再度実施される。これにより、第2物理量計算工程S6では、タイヤモデル12を回転開始から回転終了まで単位時間Tx毎に回転させて、流体モデル22の物理量を計算することができる。
次に、本実施形態の方法は、流体モデル22の要素J(i)(図10に示す)の物理量が許容範囲内であるか否かが判断される(工程S7)。流体モデル22の物理量の許容範囲については、タイヤ2(図2に示す)に求められる性能(例えば、空力性能やノイズ性能など)に応じて適宜設定することができる。
工程S7において、流体モデル22の要素J(i)(図10に示す)の物理量が許容範囲内である場合(工程S7において、「Y」)、タイヤモデル12に基づいて、タイヤ2(図2に示す)が製造される(工程S8)。他方、工程S7において、流体モデル22の物理量が許容範囲外である場合(工程S7において、「N」)、タイヤ2の設計因子を変更して(工程S9)、工程S1~工程S7が再度実施される。したがって、本実施形態の方法では、流体モデル22の物理量が許容範囲内なるまで、タイヤ2の設計因子が変更されるため、高い性能を有するタイヤを効率良く設計することができる。
本実施形態の方法では、図6に示されるように、流体モデル22及び背景モデル21が互いに重ねられた状態で、タイヤモデル12を背景モデル内で回転させたが、このような態様に限定されない。流体モデル22は、背景モデル21の内部に、背景モデル21に重ねられることなく配置されてもよい。
図14は、本発明の他の実施形態のタイヤモデル12、背景モデル21及び流体モデル22の一例を示す断面図である。図15は、本発明の他の実施形態のタイヤモデル12及び背景モデル21の断面図である。図14では、タイヤモデル12、背景モデル21、及び、流体モデル22の各要素を省略し、タイヤモデル12、及び、流体モデル22のはみ出す領域T7を色付けして示している。また、図15では、タイヤモデル12、及び、背景モデル21の各要素を省略し、タイヤモデル12及び背景モデル21に色付けして示している。なお、この実施形態において、前実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態の背景モデル21を入力する工程S3(図3に示す)において、背景モデル21の第3境界面33は、流体モデル22の第2境界面32を嵌め込み可能なように、第2境界面32と一致するように設定されている。第3境界面33には、第2境界面32に対して相対移動可能に条件付けられている(例えば、スライディングサーフェース等の境界条件)。これにより、流体モデル22は、背景モデル21に対して、回転することができる。
図16は、本発明の他の実施形態の第2物理量計算工程S6の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態の第2物理量計算工程S6では、図14に示されるように、先ず、背景モデル21の内部に、流体モデル22が配置される(工程S67)。工程S67では、前実施形態の方法とは異なり、背景モデル21に重ねられることなく、背景モデル21の内部に、流体モデル22を配置している。
この実施形態の工程S67では、先ず、前実施形態の工程S61と同様に、図15に示されるように、背景モデル21に、タイヤモデル12を配置する。次に、工程S67では、図14に示されるように、背景モデル21に、流体モデル22を配置する。この実施形態では、流体モデル22の第2境界面32と、背景モデル21の第3境界面33とを接触させている。
この実施形態の第2物理量計算工程S6の回転させる工程S63では、流体モデル22の第2境界面32と、背景モデル21の第3境界面33とを接触させた状態で、タイヤモデル12及び流体モデル22を、背景モデル21内で回転させている。タイヤモデル12及び流体モデル22の回転は、前実施形態と同一の手順に基づいて計算される。
この実施形態の方法では、前実施形態の方法と同様に、回転するタイヤ2の周辺の流体を、簡単に定義することができる。さらに、この実施形態の方法では、前実施形態の方法と同様に、タイヤモデル12の回転に合わせて、背景モデル21を再定義(例えば、リメッシュや、変形計算)する必要がないため、回転するタイヤ2の周辺の流体(流体モデル22)を、短時間で定義することができる。
この実施形態の第2物理量計算工程S6において、流体モデル22の物理量を計算する工程S64では、第2境界面32と第3境界面33とが接触する領域(以下、単に「接触領域」ということがある。)T9において、流体モデル22及び背景モデル21の互いの物理量に基づいて、流体モデル22の各要素J(i)の物理量が計算される。接触領域T9では、流体モデル22の物理量と、背景モデル21の物理量との関連付け(データマッピング)が行われる。これにより、工程S64では、背景モデル21に対する流体モデル22の挙動を整合させることができる。
このように、この実施形態の方法では、前実施形態の方法と同様に、流体モデル22及び背景モデル21の互いの物理量を考慮して、流体モデル22の物理量が計算されるため、回転するタイヤ2がその周辺の流体(図示省略)に及ぼす影響を、精度よく計算することができる。さらに、この実施形態では、前実施形態に比べて、流体モデル22の物理量と、背景モデル21の物理量との関連付け(データマッピング)が、接触領域T9に限定されるため、計算時間を短縮することができる。
これまでの実施形態では、計算対象とする流体として、空気である場合が説明されたが、このような態様に限定されない。計算対象とする流体は、例えば、全体または一部分が液体(水)であってもよい。これにより、本発明の方法は、例えば、回転するタイヤが、路面の水膜に及ぼす影響(排水性能等)を計算することができる。さらに、計算対象とする流体には、例えば、全体または一部分が、雪、砂及び泥などであってもよい。これにより、雪などの軟弱な路面を走行するタイヤを解析することができる。
また、図13及び図16に示した第2物理量計算工程S6では、回転中のタイヤモデル12の表面13の形状を取得する工程S62を実施せずに、タイヤモデル12を単に回転させながら、流体モデル22の物理量が計算されてもよい。このような方法では、タイヤモデル12の変形計算を行う第1物理量計算工程S5(図3及び図12に示す)を省略することができるため、計算コストをさらに低減することができる。
これまでの実施形態の方法では、流体(空気)の力によってタイヤ2が変形しないと仮定して、流体モデル22の物理量の計算(第2物理量計算工程S6)に先立ち、回転中のタイヤモデル12の表面13の座標データが予め取得された(第1物理量計算工程S5)が、このような態様に限定されない。例えば、回転中のタイヤモデル12の表面13の形状の計算と、流体モデル22の物理量の計算とが、単位時間Tx毎に同時に計算されてもよい。このような方法では、流体(例えば、水や雪など)などの力によって変形するタイヤモデル12を計算することが可能となるため、回転するタイヤがその周辺の流体に及ぼす影響の計算精度を、さらに高めることができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図3に示した処理手順にしたがって、回転するタイヤがその周辺の流体に及ぼす影響(ノイズ性能)が、コンピュータを用いて計算された(実施例1、実施例2)。実施例1及び実施例2では、タイヤの表面から厚さW1を有する流体モデルが定義された。この流体モデルは、タイヤモデルと一体で回転するように関連付けられた。実施例1及び実施例2では、同一のタイヤモデルが用いられた。
実施例1では、図12及び図13に示した手順にしたがい、流体モデル及び背景モデルが互いに重ねられた状態で、タイヤモデルを背景モデル内で回転させる工程と、流体モデルと背景モデルとが重なる領域では、流体モデル及び背景モデルの互いの物理量に基づいて、流体モデルの要素の物理量を計算する工程とが実施された。
一方、実施例2は、流体モデルの第2境界面を嵌め込み可能なように、第2境界面と一致する第3境界面を含む背景モデルが定義された。これにより、実施例2の流体モデルは、実施例1の流体モデルとは異なり、背景モデルの内部に、背景モデルに重ねられることなく配置された。そして、実施例2では、図12及び図16に示した手順にしたがい、流体モデルの第2境界面と背景モデルの第3境界面とを接触させた状態で、タイヤモデル及び流体モデルを、背景モデル内で回転させる工程と、第2境界面と第3境界面とが接触する領域では、流体モデル及び背景モデルの互いの物理量に基づいて、流体モデルの要素の物理量を計算する工程とが実施された。
そして、実施例1及び実施例2において、流体モデルの作成時間、流体モデルの回転定義時間、流体モデルの物理量計算時間、及び、これらの時間を合計した総解析時間が測定された。
また、比較のために、上記特許文献1に記載の手順にしたがって、回転するタイヤがその周辺の流体に及ぼす影響(ノイズ性能)が、コンピュータを用いて計算された(比較例)。比較例では、実施例1及び実施例2と同一のタイヤモデルが用いられた。また、比較例では、タイヤモデルのトレッド部の周辺に、流体が流れる空間をモデル化した音空間領域が設定された。音空間領域は、タイヤのトレッド溝の内部空間に相当する複数の溝内領域と、それ以外の主領域とを含んでいる。
比較例の音空間領域は、主領域が変化しないものとして固定される一方、複数の溝内領域を主領域に沿ってタイヤ周方向に移動(スライド)させることで、転動中のタイヤの音空間領域を再現している。そして、比較例では、各溝内領域と主領域との間の境界面において、各溝内領域及び主領域で計算された物理量を整合させるための補完計算が行われ、音空間領域の物理量が計算された。そして、比較例において、音空間領域の作成時間、音空間領域の回転(移動)定義時間、音空間領域の物理量計算時間、及び、これらの時間を合計した総解析時間が測定された。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:195/65R15
第1物理量計算工程(転動シミュレーション):
タイヤモデルの変形計算の単位時間(初期値):5×10-5秒
路面モデル:平坦路
荷重L:4kN
内圧:220kPa
走行速度V:80km/h
流体モデルの厚さW1:10cm
テストの結果を表1に示す。
テストの結果、実施例1、2の方法では、比較例の方法に比べて、流体モデルの作成時間、流体モデルの回転定義時間、及び、物理量計算時間を大幅に短縮することができた。したがって、実施例1、2は、比較例に比べて、回転するタイヤの周辺の流体を、簡単に定義することができた。
さらに、実施例2では、実施例1に比べて、流体モデルの物理量と、背景モデルの物理量との関連付け(データマッピング)の計算量を小さくでき、物理量計算時間を短縮することができた。
また、実施例1、2は、比較例のように、要素(メッシュ)が、タイヤと路面との間で楔形に潰れることがないため、物理量の計算精度を向上させることができた。