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JP7499620B2 - 相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法、相分離構造形成用樹脂組成物精製品、及び相分離構造を含む構造体の製造方法 - Google Patents

相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法、相分離構造形成用樹脂組成物精製品、及び相分離構造を含む構造体の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法、相分離構造形成用樹脂組成物精製品、及び相分離構造を含む構造体の製造方法に関する。
近年、大規模集積回路(LSI)のさらなる微細化に伴い、より繊細な構造体を加工する技術が求められている。
このような要望に対し、互いに非相溶性のブロック同士が結合したブロックコポリマーの自己組織化により形成される相分離構造を利用して、より微細なパターンを形成する技術の開発が行われている(例えば、特許文献1参照)。
ブロックコポリマーの相分離構造を利用するためには、ミクロ相分離により形成される自己組織化ナノ構造を、特定の領域のみに形成し、かつ、所望の方向へ配列させることが必須とされる。これらの位置制御及び配向制御を実現するために、ガイドパターンによって相分離パターンを制御するグラフォエピタキシーや、基板の化学状態の違いによって相分離パターンを制御するケミカルエピタキシー等のプロセスが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
ブロックコポリマーは、相分離により規則的な周期構造の構造体を形成する。
「構造体の周期」とは、相分離構造の構造体が形成された際に観察される相構造の周期を意味し、互いに非相溶である各相の長さの和をいう。相分離構造が基板表面に対して垂直なシリンダー構造を形成する場合、構造体の周期(L0)は、隣接する2つのシリンダー構造の中心間距離(ピッチ)となる。
構造体の周期(L0)は、重合度N、及び、フローリー-ハギンズ(Flory-Huggins)の相互作用パラメータχなどの固有重合特性によって決まることが知られている。すなわち、χとNとの積「χ・N」が大きくなるほど、ブロックコポリマーにおける異なるブロック間の相互反発は大きくなる。このため、χ・N>10(以下「強度分離限界点」という)のときには、ブロックコポリマーにおける異種類のブロック間の反発が大きく、相分離が起こる傾向が強くなる。そして、強度分離限界点においては、構造体の周期はおよそN2/3・χ1/6となり、下式(1)の関係が成り立つ。つまり、構造体の周期は、分子量と、異なるブロック間の分子量比と、に相関する重合度Nに比例する。
L0 ∝ a・N2/3・χ1/6 ・・・(1)
[式中、L0は、構造体の周期を表す。aは、モノマーの大きさを示すパラメータである。Nは、重合度を表す。χは、相互作用パラメータであり、この値が大きいほど、相分離性能が高いことを意味する。]
したがって、ブロックコポリマーの組成及び総分子量を調整することによって、構造体の周期(L0)を調節することができる。
ブロックコポリマーが形成する周期構造は、ポリマー成分の体積比等に伴ってシリンダー(柱状)、ラメラ(板状)、スフィア(球状)と変化し、その周期は分子量に依存することが知られている。
このため、ブロックコポリマーの自己組織化により形成される相分離構造を利用して、比較的大きい周期(L0)の構造体を形成するためには、ブロックコポリマーの分子量を大きくする方法が考えられる。
特開2008-36491号公報
プロシーディングスオブエスピーアイイー(Proceedings of SPIE),第7637巻,第76370G-1(2010年).
しかしながら、現状、汎用のブロックコポリマー(例えば、スチレンのブロックとメタクリル酸メチルのブロックとを有するブロックコポリマー等)の自己組織化により形成される相分離構造を利用して構造体を形成するに際し、相分離性能の更なる向上を図ることが困難である。
一方、ブロックポリマーを含む相分離構造形成用樹脂組成物においては、相分離性能を更に向上するために、ディフェクト(表面欠陥)発生を抑えることも検討されている。
ここで「ディフェクト」とは、例えば、KLAテンコール社製の表面欠陥観察装置(商品名「KLA」)により、相分離パターンを真上から観察した際に検知される不具合全般のことである。この不具合とは、例えば、相分離パターン形成後のスカム(樹脂組成物残渣)、泡、ゴミ等の相分離パターン表面への異物や析出物の付着による不具合や、ラインパターン間のブリッジ、コンタクトホールパターンのホールの穴埋まり等のパターン形状に関する不具合、パターンの色むら等をいう。
加えて、相分離構造形成用材料においては、樹脂組成物溶液(溶液状態の相分離構造形成用樹脂組成物)を保管中に微粒子状の異物が発生する、異物経時特性(保存安定性の一つ)も問題とされており、その改善が望まれている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、不純物がより低減された相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法、及び前記製造方法により製造された相分離構造形成用樹脂組成物精製品、並びに前記相分離構造形成用樹脂組成物精製品を用いた相分離構造を含む構造体の製造方法を提供すること、を課題とする。
すなわち、本発明の第1の態様は、相分離構造形成用樹脂組成物を、隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有するフィルターで濾過する工程(i)を含む、相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法であって、前記フィルターは、ポリイミド及びポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも一種の樹脂を含有する多孔質膜を備え、前記相分離構造形成用樹脂組成物は、ブロックポリマーと、有機溶剤成分とを含有する、相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法である。
本発明の第2の態様は、前記第1の態様の相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法により、相分離構造形成用樹脂組成物精製品を得る工程と、前記相分離構造形成用樹脂組成物精製品を用いて、基板上にブロックコポリマーを含む層(BCP層)を形成する工程と、前記BCP層を相分離させる工程と、を含む、相分離構造を含む構造体の製造方法である。
本発明の第3の態様は、ブロックポリマーと、有機溶剤成分とを含有する相分離構造形成用樹脂組成物精製品であって、
光散乱式液中粒子計数器によって計数される、0.11μm以上のサイズの被計数体の数が、5個/cm未満である、相分離構造形成用樹脂組成物精製品である。
本発明の第4の態様は、前記第3の相分離構造形成用樹脂組成物精製品を用いて、基板上にブロックコポリマーを含む層(BCP層)を形成する工程と、前記BCP層を相分離させる工程と、を含む、相分離構造を含む構造体の製造方法である。
本発明によれば、不純物がより低減された相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法、及び前記製造方法により製造された相分離構造形成用樹脂組成物精製品、並びに前記相分離構造形成用樹脂組成物精製品を用いた相分離構造を含む構造体の製造方法を提供することができる。
ポリイミド系樹脂多孔質膜を構成する連通孔の一実施形態を模式的に示した図である。 本発明に係る、相分離構造を含む構造体の製造方法の一実施形態例を説明する概略工程図である。 任意工程の一実施形態例を説明する図である。
本明細書及び本特許請求の範囲において、「脂肪族」とは、芳香族に対する相対的な概念であって、芳香族性を持たない基、化合物等を意味するものと定義する。
「アルキル基」は、特に断りがない限り、直鎖状、分岐鎖状及び環状の1価の飽和炭化水素基を包含するものとする。アルコキシ基中のアルキル基も同様である。
「アルキレン基」は、特に断りがない限り、直鎖状、分岐鎖状及び環状の2価の飽和炭化水素基を包含するものとする。
「ハロゲン化アルキル基」は、アルキル基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された基であり、該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
「フッ素化アルキル基」又は「フッ素化アルキレン基」は、アルキル基又はアルキレン基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された基をいう。
「構成単位」とは、高分子化合物(樹脂、重合体、共重合体)を構成するモノマー単位(単量体単位)を意味する。
「置換基を有していてもよい」又は「置換基を有してもよい」と記載する場合、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
「露光」は、放射線の照射全般を含む概念とする。
「アクリル酸エステルから誘導される構成単位」とは、アクリル酸エステルのエチレン性二重結合が開裂して構成される構成単位を意味する。
「アクリル酸エステル」は、アクリル酸(CH=CH-COOH)のカルボキシ基末端の水素原子が有機基で置換された化合物である。
アクリル酸エステルは、α位の炭素原子に結合した水素原子が置換基で置換されていてもよい。該α位の炭素原子に結合した水素原子を置換する置換基(Rα0)は、水素原子以外の原子又は基であり、たとえば炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のハロゲン化アルキル基等が挙げられる。また、置換基(Rα0)がエステル結合を含む置換基で置換されたイタコン酸ジエステルや、置換基(Rα0)がヒドロキシアルキル基やその水酸基を修飾した基で置換されたαヒドロキシアクリルエステルも含むものとする。なお、アクリル酸エステルのα位の炭素原子とは、特に断りがない限り、アクリル酸のカルボニル基が結合している炭素原子のことである。
以下、α位の炭素原子に結合した水素原子が置換基で置換されたアクリル酸エステルを、α置換アクリル酸エステルということがある。また、アクリル酸エステルとα置換アクリル酸エステルとを包括して「(α置換)アクリル酸エステル」ということがある。
「アクリルアミドから誘導される構成単位」とは、アクリルアミドのエチレン性二重結合が開裂して構成される構成単位を意味する。
アクリルアミドは、α位の炭素原子に結合した水素原子が置換基で置換されていてもよく、アクリルアミドのアミノ基の水素原子の一方または両方が置換基で置換されていてもよい。なお、アクリルアミドのα位の炭素原子とは、特に断りがない限り、アクリルアミドのカルボニル基が結合している炭素原子のことである。
アクリルアミドのα位の炭素原子に結合した水素原子を置換する置換基としては、前記α置換アクリル酸エステルにおいて、α位の置換基として挙げたもの(置換基(Rα0))と同様のものが挙げられる。
「ヒドロキシスチレンから誘導される構成単位」とは、ヒドロキシスチレンのエチレン性二重結合が開裂して構成される構成単位を意味する。「ヒドロキシスチレン誘導体から誘導される構成単位」とは、ヒドロキシスチレン誘導体のエチレン性二重結合が開裂して構成される構成単位を意味する。
「ヒドロキシスチレン誘導体」とは、ヒドロキシスチレンのα位の水素原子がアルキル基、ハロゲン化アルキル基等の他の置換基に置換されたもの、並びにそれらの誘導体を含む概念とする。それらの誘導体としては、α位の水素原子が置換基に置換されていてもよいヒドロキシスチレンの水酸基の水素原子を有機基で置換したもの;α位の水素原子が置換基に置換されていてもよいヒドロキシスチレンのベンゼン環に、水酸基以外の置換基が結合したもの等が挙げられる。なお、α位(α位の炭素原子)とは、特に断りがない限り、ベンゼン環が結合している炭素原子のことをいう。
ヒドロキシスチレンのα位の水素原子を置換する置換基としては、前記α置換アクリル酸エステルにおいて、α位の置換基として挙げたものと同様のものが挙げられる。
「ビニル安息香酸若しくはビニル安息香酸誘導体から誘導される構成単位」とは、ビニル安息香酸若しくはビニル安息香酸誘導体のエチレン性二重結合が開裂して構成される構成単位を意味する。
「ビニル安息香酸誘導体」とは、ビニル安息香酸のα位の水素原子がアルキル基、ハロゲン化アルキル基等の他の置換基に置換されたもの、並びにそれらの誘導体を含む概念とする。それらの誘導体としては、α位の水素原子が置換基に置換されていてもよいビニル安息香酸のカルボキシ基の水素原子を有機基で置換したもの;α位の水素原子が置換基に置換されていてもよいビニル安息香酸のベンゼン環に、水酸基およびカルボキシ基以外の置換基が結合したもの等が挙げられる。なお、α位(α位の炭素原子)とは、特に断りがない限り、ベンゼン環が結合している炭素原子のことをいう。
「スチレン誘導体」とは、スチレンのα位の水素原子がアルキル基、ハロゲン化アルキル基等の他の置換基に置換されたもの、並びにそれらの誘導体を含む概念とする。それらの誘導体としては、α位の水素原子が置換基に置換されていてもよいヒドロキシスチレンのベンゼン環に置換基が結合したもの等が挙げられる。なお、α位(α位の炭素原子)とは、特に断りがない限り、ベンゼン環が結合している炭素原子のことをいう。
「スチレンから誘導される構成単位」、「スチレン誘導体から誘導される構成単位」とは、スチレン又はスチレン誘導体のエチレン性二重結合が開裂して構成される構成単位を意味する。
上記α位の置換基としてのアルキル基は、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が好ましく、具体的には、炭素数1~5のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基)等が挙げられる。
また、α位の置換基としてのハロゲン化アルキル基は、具体的には、上記「α位の置換基としてのアルキル基」の水素原子の一部または全部を、ハロゲン原子で置換した基が挙げられる。該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、特にフッ素原子が好ましい。
また、α位の置換基としてのヒドロキシアルキル基は、具体的には、上記「α位の置換基としてのアルキル基」の水素原子の一部または全部を、水酸基で置換した基が挙げられる。該ヒドロキシアルキル基における水酸基の数は、1~5が好ましく、1が最も好ましい。
「ポリイミド系樹脂」とは、ポリイミドもしくはポリアミドイミドの一方、又は両方を意味する。このポリイミド及びポリアミドイミドは、それぞれ、カルボキシ基、塩型カルボキシ基、及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有していてもよい。
ポリイミド及びポリアミドイミドの少なくとも一方を含有する多孔質膜を「ポリイミド系樹脂多孔質膜」ということがある。ポリイミドを含有する多孔質膜を「ポリイミド多孔質膜」ということがある。ポリアミドイミドを含有する多孔質膜を「ポリアミドイミド多孔質膜」ということがある。
本明細書及び本特許請求の範囲において、化学式で表される構造によっては、不斉炭素が存在し、エナンチオ異性体(enantiomer)やジアステレオ異性体(diastereomer)が存在し得るものがある。その場合は一つの化学式でそれら異性体を代表して表す。それらの異性体は単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
(相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法)
本発明の第1の態様にかかる相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法は、隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有するフィルターで濾過する工程(i)を含む。前記フィルターは、ポリイミド及びポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも一種の樹脂を含有する多孔質膜を備える。前記相分離構造形成用樹脂組成物は、ブロックポリマーと、有機溶剤成分とを含有する。
工程(i)により、相分離構造形成用樹脂組成物から、パーティクル等の不純物が除去され、高純度の相分離構造形成用樹脂組成物精製品が得られる。
かかる製造方法によれば、特に、隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有し、且つポリイミド及びポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも一種の樹脂を含有する多孔質膜を備えるフィルターが用いられていることで、相分離構造形成用樹脂組成物から、従来では取り除くことが困難であった高極性成分、高分子が充分に除去され、中でも高極性高分子が特異的に除去される。
加えて、工程(i)では、相分離構造形成用樹脂組成物から、不純物として金属成分も充分に除去される。この金属成分は、相分離構造形成用樹脂組成物を構成する成分中に元来含まれていることもあるが、製造装置等の配管、継ぎ手などの相分離構造形成用樹脂組成物移送経路から混入することもある。工程(i)では、例えば、製造装置等から混入しやすい鉄、ニッケル、亜鉛、クロム等を効果的に除去することができる。
<工程(i)>
工程(i)は、相分離構造形成用樹脂組成物を、隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有するフィルターで濾過する工程である。
≪フィルター≫
本工程で用いるフィルターは、隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有するものである。
例えば、かかるフィルターは、隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜の単体からなるものでもよいし、該多孔質膜とともに他の濾材が用いられたものでもよい。
他の濾材としては、例えば、ナイロン膜、ポリテトラフルオロエチレン膜、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)膜又はこれらを修飾した膜等が挙げられる。
かかるフィルターでは、相分離構造形成用樹脂組成物の供給液と濾液とが混在せず分離するように、通液する前後の該多孔質膜の領域が好ましくはシーリングされる。このシーリングの方法としては、例えば、該多孔質膜を、光(UV)硬化による接着若しくは熱による接着(アンカー効果による接着(熱溶着等)を含む)若しくは接着剤を用いた接着等により加工する方法、又は、該多孔質膜と他の濾材とを組み込み法等により接着して加工する方法が挙げられる。かかるフィルターとしては、前記のような該多孔質膜を、熱可塑性樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、PFA、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド、ポリアミドイミド等)からなる外側容器に備えたものも挙げられる。
かかるフィルターにおいて、該多孔質膜の形態としては、平面状、又は、該多孔質膜の相対する辺を合わせたパイプ状が挙げられる。パイプ状の該多孔質膜は、供給液と接触する面積が増大する点から、表面がヒダ状であることが好ましい。
・「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」について
かかるフィルターが備える、前記「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」は、隣接した球状セル同士が連通した連通孔を有する。
連通孔は、該多孔質膜に多孔質性を付与する個々の孔(セル)により形成している。かかる孔には、孔の内面のほぼ全体が曲面である孔が含まれ、これ以外の形状の孔が含まれていてもよい。
本明細書においては、この孔の内面のほぼ全体が曲面である孔を「球状セル」又は「略球状孔」という。球状セル(略球状孔)は、孔の内面が略球状の空間を形成している。球状セルは、後述のポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法で用いられる微粒子が略球状である場合に容易に形成される。
「略球状」とは、真球を含む概念であるが、必ずしも真球のみに限定されず、実質的に球状であるものを含む概念である。「実質的に球状である」とは、粒子の長径を短径で除した値で表される、長径/短径によって定義される真球度が1±0.3以内であること、を意味する。ここでの球状セルは、かかる真球度が、好ましくは1±0.1以内であり、より好ましくは1±0.05以内である。
隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜においては、隣接した球状セル同士で連通孔の少なくとも一部が形成される。
図1は、多孔質膜を構成する連通孔の一実施形態を模式的に示している。
本実施形態の多孔質膜において、球状セル1a及び球状セル1bは、それぞれの内面のほぼ全体が曲面であり、略球状の空間を形成している。
球状セル1aと球状セル1bとは隣接し、隣り合う球状セル1aと球状セル1bとの重なり部分Qが貫通した連通孔5が形成されている。そして、濾過対象物は、例えば球状セル1aから球状セル1bの方向(矢印方向)に、連通孔5内を通流する。
このように、隣接する球状セルが相互に連通した構造を有する多孔質膜においては、複数の孔(球状セル、連通孔)が繋がり、全体として濾過対象物の流路が形成されていることが好ましい。
前記「流路」は、通常、個々の「孔」及び/又は「連通孔」が相互に連通することにより形成されている。個々の孔は、例えば、後述のポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法において、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜中に存在する、個々の微粒子、が後工程で除去されることによって形成される。また、連通孔は、後述のポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法において、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜中に存在する、個々の微粒子同士が接していた部分に、該微粒子が後工程で除去されることによって形成される、隣接する孔同士である。
多孔質膜においては、球状セルと、隣接した球状セル同士が連通した連通孔と、が形成され、多孔質の程度が高くされている。また、多孔質膜においては、球状セル又は該連通孔が多孔質膜表面に開口し、一方の表面に開口する連通孔が多孔質膜内部を連通して他方(裏側)の表面に開口し、流体が多孔質膜内部を通過し得る流路が形成されている。そして、多孔質膜によれば、濾過対象物が前記流路を流れることにより、濾過対象物に含まれる異物が濾過前の濾過対象物から取り除かれる。
多孔質膜は、内面に曲面を有する球状セルで形成される連通孔が連続してなる流路を内部に有するため、球状セル内面の表面積が大きい。これによって、濾過対象物が、多孔質膜の内部を通過できるのみならず、個々の球状セルの曲面に接触しながら通過する際、球状セル内面との接触頻度が高まるため、濾過対象物に存在する異物が球状セル内面により吸着して、濾過対象物から異物が除去されやすくなっている。
多孔質膜は、平均球径が10~500nmである球状セルが相互に連通した構造を有するものが好ましい。球状セルの平均球径は、より好ましくは30~500nm、さらに好ましくは50~400nmである。
球状セルの平均球径とは、2つの隣接した球状セルから形成される連通孔の直径の平均値をいう。球状セルの平均球径は、パームポロメーター(例えば、ポーラスマテリアルズ社製)を用い、バブルポイント法に基づいて孔の径を測定した値である。具体的には、後述の多孔質膜における平均孔径と同様の方法により求めることができる。
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」が内部に有する流路は、前記の球状セル、及び前記球状セル同士の連通孔に加えて、これ以外の形状の孔又はこれを含む連通孔を有していてもよい。
また、球状セルは、その内面に、さらに凹部を有していてもよい。該凹部には、例えば、球状セルの内面に開口する、該球状セルよりも孔径が小さい孔が形成されていてもよい。
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」は、樹脂を含有するものが挙げられ、実質的に樹脂のみからなるものであってもよく、多孔質膜全体の、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上が樹脂であるものが挙げられる。
該多孔質膜は、ポリイミド系樹脂を含有するものである。ポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜は、異物除去性と強度や、ろ過前後のリソグラフィー特性の安定性との点で優れている。
該多孔質膜は、樹脂としてポリイミド及びポリアミドイミドの少なくとも一方を含有するものであり、好ましくはポリイミドを少なくとも含有するものである。該多孔質膜は、樹脂としてポリイミドのみを含有するものでもよく、ポリアミドイミドのみを含有するものでもよいが、ポリイミドのみを含有するものが好ましい。
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」としては、多孔質膜全体の95質量%以上がポリイミド及びポリアミドイミドの少なくとも一方であるものが特に好ましい。
以下、樹脂としてポリイミド系樹脂を含有する、隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜(ポリイミド系樹脂多孔質膜)について説明する。
・・ポリイミド系樹脂多孔質膜
ポリイミド系樹脂は、カルボキシ基、塩型カルボキシ基、及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有するものであってもよい。
該ポリイミド系樹脂としては、前記官能基を主鎖末端以外に有するものが好ましい。前記官能基を主鎖末端以外に有する、好ましいものとしては、例えば、ポリアミド酸(ポリアミック酸)が挙げられる。
本明細書において、「塩型カルボキシ基」とは、カルボキシ基における水素原子が陽イオン成分に置換した基を意味する。「陽イオン成分」とは、完全にイオン化した状態である陽イオン自体であってもよいし、-COOとイオン結合して事実上電荷のない状態である陽イオン構成要素であってもよいし、これら両者の中間的な状態である部分電荷を有する陽イオン構成要素であってもよい。
「陽イオン成分」がn価の金属MからなるMイオン成分である場合、陽イオン自体としてはMn+と表され、陽イオン構成要素としては「-COOM1/n」における「M1/n」で表される要素である。
「陽イオン成分」としては、後述のエッチング液に含有される化合物として挙げられる化合物がイオン解離した場合の陽イオンが挙げられる。代表的には、イオン成分又は有機アルカリイオン成分が挙げられる。例えば、アルカリ金属イオン成分がナトリウムイオン成分の場合、陽イオン自体としてはナトリウムイオン(Na)であり、陽イオン構成要素としては「-COONa」における「Na」で表される要素である。部分電荷を有する陽イオン構成要素としては、Naδ+である。
陽イオン成分としては、特に限定されず、無機成分;NH 、N(CH 等の有機成分が挙げられる。無機成分としては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属;Mg、Ca等のアルカリ土類金属等の金属元素が挙げられる。有機成分としては、例えば、有機アルカリイオン成分が挙げられる。有機アルカリイオン成分としては、NH 、例えばNR (4つのRはいずれも有機基を表し、それぞれ同一でも異なってもよい。)で表される第四級アンモニウムカチオン等が挙げられる。前記Rの有機基としては、アルキル基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基がより好ましい。第四級アンモニウムカチオンとしては、N(CH 等が挙げられる。
塩型カルボキシ基における陽イオン成分の状態は、特に限定されず、通常、ポリイミド系樹脂が存在する環境、例えば水溶液中であるか、有機溶媒中であるか、乾燥しているか等の環境に依存する。陽イオン成分がナトリウムイオン成分である場合、例えば、水溶液中であれば、-COOとNaとに解離している可能性があり、有機溶媒中であるか又は乾燥していれば、-COONaは解離していない可能性が高い。
ポリイミド系樹脂は、カルボキシ基、塩型カルボキシ基、及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有するものであってもよいが、これらの少なくとも1つを有する場合、通常、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基と、-NH-結合と、の両方を有する。ポリイミド系樹脂は、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基に関していえば、カルボキシ基のみを有してもよいし、塩型カルボキシ基のみを有してもよいし、カルボキシ基と塩型カルボキシ基との両方を有してもよい。ポリイミド系樹脂が有するカルボキシ基と塩型カルボキシ基との比率は、同一のポリイミド系樹脂であっても、例えば、ポリイミド系樹脂が存在する環境に応じて変動し得るし、陽イオン成分の濃度にも影響される。
ポリイミド系樹脂が有するカルボキシ基と塩型カルボキシ基との合計モル数は、ポリイミドの場合は、通常、-NH-結合と等モルである。
特に、後述のポリイミド多孔質膜の製造方法において、ポリイミドにおけるイミド結合の一部から、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する場合、実質的に同時に-NH-結合も形成される。形成されるカルボキシ基と塩型カルボキシ基との合計モル数は、形成される-NH-結合と等モルである。
ポリアミドイミド多孔質膜の製造方法の場合は、ポリアミドイミドにおけるカルボキシ基と塩型カルボキシ基との合計モル数は、-NH-結合と必ずしも等モルではなく、後述のエッチング(イミド結合の開環)工程におけるケミカルエッチング等の条件次第である。
ポリイミド系樹脂は、例えば、下記の一般式(1)~(4)でそれぞれ表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1種の構成単位を有するものが好ましい。
ポリイミドである場合、下記一般式(1)で表される構成単位及び下記一般式(2)で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1種の構成単位を有するものが好ましい。
ポリアミドイミドである場合、下記一般式(3)で表される構成単位及び下記一般式(4)で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1種の構成単位を有するものが好ましい。
Figure 0007499620000001
Figure 0007499620000002
前記の式(1)~(3)中、X~Xは、互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、水素原子又は陽イオン成分である。
Arは、アリール基であり、後述のポリアミド酸(ポリアミック酸)を構成する式(5)で表される構成単位、又は芳香族ポリイミドを構成する式(6)で表される構成単位においてそれぞれカルボニル基が結合しているRArで表されるアリール基と同様のものが挙げられる。
~Yは、それぞれ独立に、ジアミン化合物のアミノ基を除いた2価の残基であり、後述のポリアミド酸を構成する式(5)で表される構成単位、又は芳香族ポリイミドを構成する式(6)で表される構成単位においてそれぞれNが結合しているR’Arで表されるアリーレン基と同様のものが挙げられる。
ポリイミド系樹脂としては、一般的なポリイミド又はポリアミドイミドが有するイミド結合(-N[-C(=O)])の一部が開環して、ポリイミドの場合は上記の一般式(1)又は一般式(2)で表される各構成単位、ポリアミドイミドの場合は上記の一般式(3)で表される構成単位をそれぞれ有することになったものであってもよい。
ポリイミド系樹脂多孔質膜は、イミド結合の一部を開環させることで、カルボキシ基、塩型カルボキシ基、及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有するポリイミド系樹脂を含有するものでもよい。
イミド結合の一部を開環させる場合の不変化率は、以下の手順(1)~(3)により求められる。
手順(1):後述のエッチング(イミド結合の開環)工程を行わないポリイミド系樹脂多孔質膜(但し、該多孔質膜を作製するためのワニスがポリアミド酸を含む場合、未焼成複合膜を焼成する工程において、実質的にイミド化反応が完結しているものとする。)について、フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT-IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値で表される値(X01)を求める。
手順(2):前記の値(X01)を求めた多孔質膜と同一のポリマー(ワニス)を用いて得られたポリイミド系樹脂多孔質膜に対し、後述のエッチング(イミド結合の開環)工程を行った後のポリイミド系樹脂多孔質膜について、フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT-IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値で表される値(X02)を求める。
手順(3):下式より不変化率を算出する。
不変化率(%)=(X02)÷(X01)×100
ポリイミド系樹脂多孔質膜における不変化率は、60%以上であることが好ましく、70~99.5%であることがより好ましく、80~99%であることがさらに好ましい。
ポリアミドイミドを含有する多孔質膜の場合、-NH-結合を含むため、不変化率は100%であってもよい。
ポリイミド多孔質膜である場合、FT-IR装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT-IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値を「イミド化率」とする。
上記手順(2)で求められる値(X02)についてのイミド化率は、好ましくは1.2以上であり、より好ましくは1.2~2であり、さらに好ましくは1.3~1.6であり、特に好ましくは1.30~1.55であり、最も好ましくは1.35以上1.5未満である。また、上記手順(1)で求められる値(X01)についてのイミド化率は、好ましくは1.5以上である。
かかるイミド化率は、相対的に数字が大きいほど、イミド結合の数が多い、即ち、上述の開環したイミド結合が少ないことを表す。
・・ポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法
ポリイミド系樹脂多孔質膜は、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドにおけるイミド結合の一部から、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する工程(以下「エッチング工程」という。)を含む方法により製造することができる。
エッチング工程において、イミド結合の一部から、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する場合、実質的に同時に、理論上これらの基と等モルの-NH-結合も形成される。
ポリイミド系樹脂多孔質膜が含有する樹脂が実質的にポリアミドイミドからなる場合、該多孔質膜は、エッチング工程を施さなくても既に-NH-結合を有しており、濾過対象物中の異物に対して良好な吸着力を示す。かかる場合、濾過対象物の流速を遅くする必要も特にない点で、エッチング工程は必ずしも必要ではないが、本発明の目的をより効果的に達成する点から、エッチング工程を設けることが好ましい。
ポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法としては、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドを主成分とする成形膜(以下「ポリイミド系樹脂成形膜」と略称することがある。)を作製した後、エッチング工程を行うことが好ましい。
エッチング工程を施す対象である、ポリイミド系樹脂成形膜は、多孔質であってもよいし非多孔質であってもよい。
また、ポリイミド系樹脂成形膜の形態は、特に限定されないが、得られるポリイミド系樹脂多孔質膜における多孔質の程度を高めることができる点で、膜等の薄い形状であることが好ましく、多孔質であり、かつ、膜等の薄い形状であることがより好ましい。
ポリイミド系樹脂成形膜は、上述のように、エッチング工程を施す際に非多孔質であってもよいが、その場合、エッチング工程の後に多孔質化することが好ましい。
ポリイミド系樹脂成形膜をエッチング工程の前又は後で多孔質化する方法としては、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドと、微粒子と、の複合膜(以下「ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜」という。)から該微粒子を取り除いて多孔質化する[微粒子の除去]工程を含む方法が好ましい。
ポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法としては、下記の製造方法(a)又は製造方法(b)が挙げられる。
製造方法(a):[微粒子の除去]工程の前に、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドと微粒子との複合膜にエッチング工程を施す方法
製造方法(b):[微粒子の除去]工程の後に、該工程により多孔質化したポリイミド系樹脂成形膜にエッチング工程を施す方法
これらの中でも、得られるポリイミド系樹脂多孔質膜における多孔質の程度をより高めることができる点から、後者の製造方法(b)が好ましい。
以下に、ポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法の一例について説明する。
[ワニスの調製]
予め微粒子を有機溶剤に分散させた微粒子分散液と、ポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドとを任意の比率で混合する、又は、前記微粒子分散液中でテトラカルボン酸二無水物及びジアミンを重合してポリアミド酸とするか、もしくは、さらに該ポリアミド酸をイミド化してポリイミドとすることで、ワニスが調製される。
ワニスの粘度は、300~2000cP(0.3~2Pa・s)が好ましく、400~1800cP(0.4~1.8Pa・s)がより好ましい。ワニスの粘度が前記範囲内であれば、より均一に成膜をすることが可能である。
ワニスの粘度は、温度条件25℃で、E型回転粘度計により測定できる。
上記ワニスには、焼成(焼成が任意の場合は乾燥)してポリイミド系樹脂-微粒子複合膜とした際に、微粒子/ポリイミド系樹脂の比率が好ましくは1~4(質量比)、より好ましくは1.1~3.5(質量比)となるように、樹脂微粒子と、ポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドと、が混合される。
また、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜とした際に、微粒子/ポリイミド系樹脂の体積比率が好ましくは1.1~5となるように、より好ましくは1.1~4.5となるように、微粒子と、ポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドと、が混合される。
前記の質量比又は体積比が、前記範囲の好ましい下限値以上であれば、多孔質膜として適切な密度の孔を容易に得ることができ、前記範囲の好ましい上限値以下であれば、粘度の増加や、膜中のひび割れ等の問題を生じにくく、安定的に成膜できる。
尚、本明細書において、体積比は、25℃における値を示す。
・・・微粒子
微粒子の材料には、ワニスに用いられる有機溶剤に不溶で、成膜後選択的に除去可能なものであれば特に限定されることなく使用できる。
微粒子の材料としては、例えば、無機材料としてシリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al)、炭酸カルシウム等の金属酸化物などが挙げられる。有機材料としては、例えば、高分子量オレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン等)、ポリスチレン、アクリル系樹脂(メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等)、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエチレン等の有機高分子が挙げられる。
これらの中でも、多孔質膜に、内面に曲面を有する微小な孔が形成されやすいことから、無機材料としては、コロイダルシリカ等のシリカが好ましい。有機材料としては、PMMA等のアクリル系樹脂が好ましい。
樹脂微粒子としては、例えば、通常の線状ポリマーや公知の解重合性ポリマーから、目的に応じて特に限定されることなく選択できる。通常の線状ポリマーは、熱分解時にポリマーの分子鎖がランダムに切断されるポリマーである。解重合性ポリマーは、熱分解時にポリマーが単量体に分解するポリマーである。何れのポリマーも、加熱時に、単量体、低分子量体、又はCOまでに分解することで、ポリイミド系樹脂膜から除去可能である。
解重合性ポリマーの中でも、孔形成時の取り扱い上の点から、熱分解温度の低いメタクリル酸メチル若しくはメタクリル酸イソブチルの単独(ポリメチルメタクリレート若しくはポリイソブチルメタクリレート)又はこれを主成分とする共重合ポリマーが好ましい。
樹脂微粒子の分解温度は、200~320℃が好ましく、230~260℃がより好ましい。分解温度が200℃以上であれば、ワニスに高沸点溶剤を使用した場合も成膜を行うことができ、ポリイミド系樹脂の焼成条件の選択の幅がより広くなる。分解温度が320℃以下であれば、ポリイミド系樹脂に熱的なダメージを与えることなく、樹脂微粒子のみを容易に消失させることができる。
微粒子は、形成される多孔質膜における孔の内面に曲面を有しやすい点で、真球率が高いものが好ましい。使用する微粒子の粒径(平均直径)は、例えば、50~2000nmが好ましく、200~1000nmがより好ましい。
微粒子の平均直径が前記範囲内であると、微粒子を取り除いて得られるポリイミド系樹脂多孔質膜に濾過対象物を通過させる際、該多孔質膜における孔の内面に濾過対象物を万遍なく接触させることができ、濾過対象物に含まれる異物の吸着を効率良く行うことができる。
微粒子の粒径分布指数(d25/d75)は、好ましくは1~6、より好ましくは1.6~5、さらに好ましくは2~4である。
粒径分布指数を、前記範囲の好ましい下限値以上とすることで、多孔質膜内部に微粒子を効率的に充填させることができるため、流路を形成しやすく、流速が向上する。また、サイズの異なる孔が形成されやすくなり、異なる対流が生じて異物の吸着率がより向上する。
尚、d25及びd75は、粒度分布の累積度数がそれぞれ25%、75%の粒子径の値であり、本明細書においてはd25が粒径の大きい方となる。
また、後述の[未焼成複合膜の成膜]において、未焼成複合膜を2層状として形成する場合、第1のワニスに用いる微粒子(B1)と、第2のワニスに用いる微粒子(B2)とは、互いに同じものを用いてもよいし異なったものを用いてもよい。基材に接する側の孔をより稠密にするには、微粒子(B1)は、微粒子(B2)よりも粒径分布指数が小さいか、又は同じであることが好ましい。あるいは、微粒子(B1)は、微粒子(B2)よりも真球率が小さいか、又は同じであることが好ましい。また、微粒子(B1)は、微粒子(B2)よりも微粒子の粒径(平均直径)が小さいことが好ましく、特に、微粒子(B1)が100~1000nm(より好ましくは100~600nm)、微粒子(B2)が500~2000nm(より好ましくは700~2000nm)のものをそれぞれ用いることが好ましい。微粒子(B1)に微粒子(B2)より小さい粒径のものを用いることで、得られるポリイミド系樹脂多孔質膜表面の孔の開口割合を高く、その径を均一にすることができ、かつ、ポリイミド系樹脂多孔質膜全体を、微粒子(B1)単独とした場合よりも多孔質膜の強度を高めることができる。
本実施形態では、ワニスに、微粒子を均一に分散することを目的として、上記微粒子とともにさらに分散剤を添加してもよい。分散剤をさらに添加することにより、ポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドと、微粒子と、をいっそう均一に混合でき、さらには、未焼成複合膜中に微粒子を均一に分布させることができる。その結果、最終的に得られるポリイミド系樹脂多孔質膜の表面に稠密な開口を設け、かつ、ポリイミド系樹脂多孔質膜の透気度が向上するように、該多孔質膜の表裏面を連通させる連通孔を効率良く形成することが可能となる。
前記の分散剤は、特に限定されることなく、公知のものを用いることができる。前記の分散剤としては、例えば、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキシド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキシド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルその他のポリオキシアルキレン一級アルキルエーテル又はポリオキシアルキレン二級アルキルエーテル系のノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミドその他のポリオキシアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールが挙げられる。上記の分散剤は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
・・・ポリアミド酸
本実施形態に用い得るポリアミド酸としては、任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合して得られるものが挙げられる。
・・・・テトラカルボン酸二無水物
テトラカルボン酸二無水物は、従来よりポリアミド酸の合成原料として用いられているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。
テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であってもよいし、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよい。
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2,6,6-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-へキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス無水フタル酸フルオレン、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
上記の中では、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。その中でも、価格、入手容易性等の点から、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。
テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
・・・・ジアミン
ジアミンは、従来よりポリアミド酸の合成原料として用いられているジアミンから適宜選択することができる。このジアミンは、芳香族ジアミンであってもよいし、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。ジアミンは、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個あるいは2~10個程度が結合したジアミノ化合物が挙げられる。芳香族ジアミンとして、具体的には、フェニレンジアミン又はその誘導体、ジアミノビフェニル化合物又はその誘導体、ジアミノジフェニル化合物又はその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物又はその誘導体、ジアミノナフタレン又はその誘導体、アミノフェニルアミノインダン又はその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物又はその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物又はその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体が挙げられる。
フェニレンジアミンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミンが好ましい。フェニレンジアミン誘導体としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミン、例えば、2,4-ジアミノトルエン、2,4-トリフェニレンジアミン等が挙げられる。
ジアミノビフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基がフェニル基同士で結合したものである。ジアミノビフェニル化合物としては、例えば、4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等が挙げられる。
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合したものである。他の基としては、エーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン基又はその誘導体基、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、ウレイレン結合等が挙げられる。アルキレン基は、好ましくは炭素数が1~6程度であり、その誘導体基は、アルキレン基の水素原子の1つ以上がハロゲン原子等で置換されたものである。
ジアミノジフェニル化合物としては、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルケトン、3,4’-ジアミノジフェニルケトン、2,2-ビス(p-アミノフェニル)プロパン、2,2’-ビス(p-アミノフェニル)へキサフルオロプロパン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)-1-ペンテン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)-2-ぺンテン、イミノジアニリン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)ペンタン、ビス(p-アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニル尿素、4,4’-ジアミノジフェニルアミド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と1つのフェニレン基がそれぞれ他の基を介して結合したものである。他の基としては、ジアミノジフェニル化合物における他の基と同様のものが挙げられる。
ジアミノトリフェニル化合物としては、1,3-ビス(m-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン等が挙げられる。
ジアミノナフタレンとしては、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン等が挙げられる。
アミノフェニルアミノインダンとしては、5又は6-アミノ-1-(p-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン等が挙げられる。
ジアミノテトラフェニル化合物としては、4,4’-ビス(p-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’-ビス[p-(p’-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス[p-(p’-アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2,2’-ビス[p-(m-アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等が挙げられる。
カルド型フルオレンジアミン誘導体としては、9,9-ビスアニリンフルオレン等が挙げられる。
脂肪族ジアミンは、例えば、炭素数が2~15程度のものが好ましく、具体的には、ペンタメチレンジアミン、へキサメチレンジアミン、へプタメチレンジアミン等が挙げられる。
尚、ジアミンにおいては、水素原子がハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基で置換された化合物であってもよい。
上記の中でも、ジアミンとしては、フェニレンジアミン、フェニレンジアミン誘導体、ジアミノジフェニル化合物が好ましい。その中でも、価格、入手容易性等の点から、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルが特に好ましい。
ポリアミド酸の製造方法には、特に制限はなく、例えば、有機溶剤中で任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させる方法等の、公知の手法が用いられる。
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、有機溶剤中で行われる。ここで用いられる有機溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンをそれぞれ溶解することができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しないものであれば特に限定されない。有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いられる有機溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類;クレゾール類等のフェノール系溶剤が挙げられる。
これらの中でも、ここでの有機溶剤としては、生成するポリアミド酸の溶解性の点から、含窒素極性溶剤を用いることが好ましい。
また、成膜性等の観点から、ラクトン系極性溶剤を含む混合溶剤を用いることが好ましい。この場合、有機溶剤全体(100質量%)に対して、ラクトン系極性溶剤の含有量は、1~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。
ここでの有機溶剤には、含窒素極性溶剤及びラクトン系極性溶剤からなる群より選択される1種以上を用いることが好ましく、含窒素極性溶剤とラクトン系極性溶剤との混合溶剤を用いることがより好ましい。
有機溶剤の使用量は、特に制限はないが、反応後の反応液中の、生成するポリアミド酸の含有量が5~50質量%となる程度が好ましい。
テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの各使用量は、特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミン0.50~1.50モルを用いることが好ましく、0.60~1.30モルを用いることがより好ましく、0.70~1.20モルを用いることが特に好ましい。
反応(重合)温度は、一般的には-10~120℃、好ましくは5~30℃である。
反応(重合)時間は、使用する原料組成により異なるが、通常は3~24(時間)である。
また、このような条件下で得られるポリアミド酸溶液の固有粘度は、好ましくは1000~100000cP(センチポアズ)(1~100Pa・s)、より好ましくは5000~70000cP(5~70Pa・s)の範囲である。
ポリアミド酸溶液の固有粘度は、温度条件25℃で、E型回転粘度計により測定できる。
・・・ポリイミド
本実施形態に用い得るポリイミドは、ワニスに使用する有機溶剤に溶解可能であれば、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。
ポリイミドは、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基、又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。
ワニスに使用する有機溶剤に可溶なポリイミドとするため、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するためのモノマーの使用が有効である。
このモノマーとしては、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2-メチル-1,4-フェニレンジアミン、o-トリジン、m-トリジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2,3,3’,4’-オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’-オキシジフタル酸無水物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
また、かかる有機溶剤への溶解性を向上する、官能基を有するモノマーを使用することも有効である。このような官能基を有するモノマーとしては、例えば、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2-トリフルオロメチル-1,4-フェニレンジアミン等のフッ素化ジアミンが挙げられる。
さらに、かかる官能基を有するモノマーに加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の説明の中で例示したモノマーを併用することもできる。
ポリイミドの製造方法としては、特に制限はなく、例えば、ポリアミド酸を、化学イミド化又は加熱イミド化させて有機溶剤に溶解させる方法等の、公知の手法が挙げられる。
本実施形態に用い得るポリイミドとしては、脂肪族ポリイミド(全脂肪族ポリイミド)、芳香族ポリイミド等が挙げられ、中でも、芳香族ポリイミドが好ましい。
芳香族ポリイミドとしては、下記一般式(5)で表される構成単位を有するポリアミド酸を、熱又は化学的に閉環反応させて得られるもの、又は、下記一般式(6)で表される構成単位を有するポリイミドを、溶媒に溶解して得られるものでよい。
式中、RArはアリール基、R’Arはアリーレン基を示す。
Figure 0007499620000003
前記の式中、RArは、4n+2個のπ電子をもつ環状共役系であれば特に限定されず、単環式でも多環式でもよい。芳香環の炭素数は、5~30であることが好ましく、5~20がより好ましく、6~15がさらに好ましく、6~12が特に好ましい。芳香環として具体的には、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素環;前記芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換された芳香族複素環等が挙げられる。芳香族複素環におけるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。芳香族複素環として具体的には、ピリジン環、チオフェン環等が挙げられる。中でも、RArは、芳香族炭化水素環が好ましく、ベンゼン、ナフタレンがより好ましく、ベンゼンが特に好ましい。
前記の式中、R’Arは、前記のRArにおける芳香環から水素原子2つを除いた基が挙げられる。中でも、R’Arは、芳香族炭化水素環から水素原子2つを除いた基が好ましく、ベンゼン又はナフタレンから水素原子2つを除いた基がより好ましく、ベンゼンから水素原子2つを除いたフェニレン基が特に好ましい。
Arにおけるアリール基、R’Arにおけるアリーレン基は、それぞれ、置換基を有していてもよい。
・・・ポリアミドイミド
本実施形態に用い得るポリアミドイミドは、ワニスに使用する有機溶剤に溶解可能であれば、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。
ポリアミドイミドは、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基、又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。
かかるポリアミドイミドには、任意の無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応により得られるものや、任意の無水トリメリット酸の反応性誘導体とジアミンとの反応により得られる前駆体ポリマーをイミド化して得られるものを、特に限定されることなく使用できる。
上記任意の無水トリメリット酸の反応性誘導体としては、例えば、無水トリメリット酸クロライド等の無水トリメリット酸ハロゲン化物、無水トリメリット酸エステル等が挙げられる。
上記任意のジイソシアネートとしては、例えば、メタフェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、o-トリジンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、4,4’-オキシビス(フェニルイソシアネート)、4,4’-ジイソシアネートジフェニルメタン、ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2’-ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジエチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
上記任意のジアミンとしては、上記ポリアミド酸の説明の中で例示したジアミンと同様のものが挙げられる。
・・・有機溶剤
ワニスの調製に用い得る有機溶剤としては、ポリアミド酸及び/又はポリイミド系樹脂を溶解することができ、微粒子を溶解しないものであれば、特に限定されず、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いられる有機溶剤と同様のものが挙げられる。
有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
ワニス中、有機溶剤の含有量は、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~85質量%とされる。ワニスにおける固形分濃度は、好ましくは5~50質量%、より好ましくは15~40質量%とされる。
また、後述の[未焼成複合膜の成膜]において、未焼成複合膜を2層状として形成する場合、第1のワニスにおけるポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミド(A1)と微粒子(B1)との体積比を、19:81~45:55とすることが好ましい。微粒子(B1)が占める体積割合が全体を100とした場合に、55以上であれば、粒子が均一に分散し、また、81以下であれば、粒子同士が凝集することなく分散しやすくなる。これにより、ポリイミド系樹脂成形膜の基材側面側に孔を均一に形成できるようになる。
また、第2のワニスにおけるポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミド(A2)と微粒子(B2)との体積比を、20:80~50:50とすることが好ましい。微粒子(B2)が占める体積割合が全体を100とした場合に、50以上であれば、粒子単体が均一に分散しやすく、また、80以下であれば、粒子同士が凝集することなく、また、表面にひび割れ等が生じにくくなる。これにより、応力、破断伸度等の機械的特性の良好なポリイミド系樹脂多孔質膜が形成されやすくなる。
上記の体積比について、第2のワニスは、上記第1のワニスよりも、微粒子含有比率の低いものであることが好ましい。上記条件を満たすことにより、微粒子がポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミド中に高度に充填されていても、未焼成複合膜、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜、及びポリイミド系樹脂多孔質膜の強度や柔軟性が確保される。また、微粒子含有比率の低い層を設けることで、製造コストの低減が図れる。
ワニスを調製する際、上記した成分のほかに、帯電防止、難燃性付与、低温焼成化、離型性、塗布性等を目的として、帯電防止剤、難燃剤、化学イミド化剤、縮合剤、離型剤、表面調整剤等の公知の成分を必要に応じて配合することができる。
[未焼成複合膜の成膜]
ポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドと、微粒子と、を含有する未焼成複合膜の成膜は、例えば、基材上に上記ワニスを塗布し、常圧又は真空下で0~120℃(好ましくは0~100℃)、より好ましくは常圧下で60~95℃(さらに好ましくは65~90℃)の条件により乾燥して行われる。塗布膜厚は、例えば、好ましくは1~500μm、より好ましくは5~50μmである。
尚、基材上には、必要に応じて離型層を設けてもよい。また、未焼成複合膜の成膜において、後述の[未焼成複合膜の焼成]の前に、水を含む溶剤への浸漬工程、乾燥工程、プレス工程をそれぞれ任意の工程として設けてもよい。
上記離型層は、基材上に離型剤を塗布して乾燥あるいは焼き付けを行うことによって作製できる。ここで使用される離型剤は、アルキルリン酸アンモニウム塩系離型剤、フッ素系離型剤又はシリコーン系離型剤等の、公知の離型剤が特に制限なく使用可能である。
乾燥後の未焼成複合膜を基材から剥離する際、未焼成複合膜の剥離面にわずかながら離型剤が残存する。この残存した離型剤は、ポリイミド系樹脂多孔質膜表面の濡れ性や不純物混入に影響し得るため、これを取り除いておくことが好ましい。
そこで、上記基材から剥離した未焼成複合膜を、有機溶剤等を用いて洗浄することが好ましい。洗浄の方法としては、洗浄液に未焼成複合膜を浸漬した後に取り出す方法、シャワー洗浄する方法等の、公知の方法が挙げられる。
洗浄後の未焼成複合膜を乾燥するため、例えば、洗浄後の未焼成複合膜は、室温で風乾される、又は、恒温槽中で適切な設定温度まで加温される。その際、例えば、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定して、変形を防ぐ方法を採ることもできる。
一方、未焼成複合膜の成膜において、離型層を設けず基材をそのまま使用する場合は、上記離型層形成の工程や、未焼成複合膜の洗浄工程を省くことができる。
また、未焼成複合膜を2層状で成膜する場合、まず、ガラス基板等の基材上にそのまま、上記第1のワニスを塗布し、常圧又は真空下で0~120℃(好ましくは0~90℃)、より好ましくは常圧で10~100℃(さらに好ましくは10~90℃)の条件により乾燥して、膜厚1~5μmの第1未焼成複合膜の形成を行う。
続いて、第1未焼成複合膜上に、上記第2のワニスを塗布し、同様にして、0~80℃(好ましくは0~50℃)、より好ましくは常圧で10~80℃(更に好ましくは10~30℃)の条件により乾燥して、膜厚5~50μmの第2未焼成複合膜の形成を行うことで、2層状の未焼成複合膜を成膜できる。
[未焼成複合膜の焼成]
上記[未焼成複合膜の成膜]の後、未焼成複合膜に対し、加熱処理(焼成)を施すことにより、ポリイミド系樹脂と微粒子とからなる複合膜(ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜)が形成される。
ワニスにポリアミド酸を含む場合、本工程の[未焼成複合膜の焼成]で、イミド化を完結させることが好ましい。
加熱処理の温度(焼成温度)は、未焼成複合膜に含有されるポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドの構造や縮合剤の有無によっても異なるが、120~400℃が好ましく、より好ましくは150~375℃である。
焼成を行うには、必ずしも前工程での乾燥と明確に操作を分ける必要はない。例えば、375℃で焼成を行う場合、室温から375℃までを3時間で昇温させた後、375℃で20分間保持させる方法や、室温から50℃刻みで段階的に375℃まで昇温(各刻みで20分間保持)し、最終的に375℃で20分間保持させる等の段階的な乾燥-熱イミド化法を用いることもできる。その際、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定して変形を防ぐ方法を採ってもよい。
加熱処理(焼成)後のポリイミド系樹脂-微粒子複合膜の厚さは、例えば、1μm以上が好ましく、5~500μmがより好ましく、8~100μmであることがさらに好ましい。
ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜の厚さは、マイクロメーターを用い、複数の箇所の厚さを測定し、これらを平均することで求めることができる。
尚、本工程は任意の工程である。特にワニスにポリイミド又はポリアミドイミドが用いられる場合、本工程は行われなくてもよい。
[微粒子の除去]
上記[未焼成複合膜の焼成]の後、未ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜から、微粒子を除去することにより、ポリイミド系樹脂多孔質膜が製造される。
例えば、微粒子としてシリカを採用した場合、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜を、低濃度のフッ化水素(HF)水に接触させることによって、シリカが溶解除去され、多孔質膜が得られる。また、微粒子が樹脂微粒子の場合、樹脂微粒子の熱分解温度以上で、かつ、ポリイミド系樹脂の熱分解温度未満の温度に加熱することによって、樹脂微粒子が分解除去され、多孔質膜が得られる。
[エッチング(イミド結合の開環)]
エッチング工程は、ケミカルエッチング法若しくは物理的除去方法、又は、これらを組み合わせた方法により行うことができる。
・ケミカルエッチング法について
ケミカルエッチング法には、従来公知の方法を用いることができる。
ケミカルエッチング法としては、特に限定されず、無機アルカリ溶液又は有機アルカリ溶液等のエッチング液による処理が挙げられる。中でも、無機アルカリ溶液による処理が好ましい。
無機アルカリ溶液としては、例えば、ヒドラジンヒドラートとエチレンジアミンとを含むヒドラジン溶液;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の溶液;アンモニア溶液;水酸化アルカリとヒドラジンと1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとを主成分とするエッチング液等が挙げられる。
有機アルカリ溶液としては、エチルアミン、n-プロピルアミン等の第一級アミン類;ジエチルアミン、ジ-n-ブチルアミン等の第二級アミン類;トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三級アミン類;ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩;ピロール、ピヘリジン等の環状アミン類等の、アルカリ性のエッチング液が挙げられる。エッチング液におけるアルカリ濃度は、例えば0.01~20質量%である。
上記の各エッチング液の溶媒には、純水、アルコール類を適宜選択でき、また、界面活性剤を適量添加したものを使用することもできる。
・物理的除去方法について
物理的除去方法には、例えば、プラズマ(酸素、アルゴン等)、コロナ放電等によるドライエッチング法を用いることができる。
上記したケミカルエッチング法又は物理的除去方法は、上記[微粒子の除去]の前に適用することも、上記[微粒子の除去]の後に適用することもできる。
中でも、ポリイミド系樹脂多孔質膜の内部の連通孔がより形成されやすく、異物の除去性が高められることから、上記[微粒子の除去]の後に適用することが好ましい。
エッチング工程でケミカルエッチング法を行う場合、余剰のエッチング液を除去するため、本工程の後にポリイミド系樹脂多孔質膜の洗浄工程を設けてもよい。
ケミカルエッチング後の洗浄は、水洗単独でもよいが、酸洗浄と水洗とを組み合わせることが好ましい。
また、エッチング工程の後、ポリイミド系樹脂多孔質膜表面の有機溶媒への濡れ性向上、及び、残存有機物除去のため、ポリイミド系樹脂多孔質膜に対し、加熱処理(再焼成)を行ってもよい。この加熱条件は、上記[未焼成複合膜の焼成]における条件と同様である。
例えば上述した製造方法によって製造されるポリイミド系樹脂多孔質膜は、球状セルと、隣接した球状セル同士が連通した連通孔と、が形成され、好ましくは、一方の外部表面に開口する連通孔が、多孔質膜の内部を連通し、他方(裏側)の外部表面にまで開口して、流体が多孔質膜を通過し得る流路が確保されるような連通孔を有する。
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」のガーレー透気度は、例えば、該多孔質膜を通過する濾過対象物の流速をある程度高く維持しつつ、異物除去を効率良く行う点から、30秒以上が好ましい。該多孔質膜のガーレー透気度は、より好ましくは30~1000秒であり、さらに好ましくは30~600秒であり、特に好ましくは30~500秒であり、最も好ましくは30~300秒である。ガーレー透気度が、前記範囲の好ましい上限値以下であれば、多孔質の程度(連通孔の存在比など)が充分に高いため、異物除去の効果がより得られやすくなる。
該多孔質膜のガーレー透気度は、JIS P 8117に準じて測定できる。
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」は、孔径が1~200nmである連通孔を含むものが好ましく、より好ましくは3~180nm、さらに好ましくは5~150nm、特に好ましくは10~130nmである。
かかる連通孔の孔径とは、連通孔の直径をいう。尚、1つの連通孔は、前述の製造方法によって、通常2つの隣接する粒子から形成されるため、該直径には、例えば、連通孔を構成する2つの孔が隣り合う方向を長手方向とすると、該長手方向に垂直な方向を直径としている場合が含まれる。
前述のエッチング(イミド結合の開環)工程を設けない場合、連通孔の孔径が小さくなる傾向にある。
また、「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」の平均孔径は、100~2000nmが好ましく、より好ましくは200~1000nm、さらに好ましくは300~900nmである。
該多孔質膜の平均孔径は、前述のケミカルエッチングを行った多孔質膜(例えば、ポリイミド多孔質膜)については、パームポロメーター(例えば、ポーラスマテリアルズ社製)を用い、バブルポイント法に基づいて連通孔の径を測定した値である。ケミカルエッチングを行わない多孔質膜(例えば、ポリアミドイミド多孔質膜)については、多孔質膜の製造に使用した微粒子の平均粒径が平均孔径とされる。
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」は、上述のように、好ましくは数百ナノメートル単位の平均孔径を有する孔を含有する多孔質膜である。このため、例えばナノメートル単位の微小物質をも、多孔質膜における孔及び/又は連通孔に吸着もしくは捕捉することができる。
かかる連通孔の孔径は、「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」に多孔質性を付与する個々の孔の孔径の分布がブロードな方が、隣接する孔同士で形成される連通孔の孔径が小さくなる傾向にある。
連通孔の孔径を小さくする観点では、「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」の空隙率は、例えば、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60~90質量%、さらに好ましくは60~80質量%、特に好ましくは70質量%程度である。空隙率が、前記範囲の好ましい下限値以上であれば、異物除去の効果がより得られやすくなる。前記範囲の好ましい上限値以下であれば、多孔質膜の強度がより高められる。
該多孔質膜の空隙率は、該多孔質膜を製造する際に用いられる樹脂等と微粒子との合計質量に対する、微粒子の質量の割合を算出することにより求められる。
また、「隣接した球状セル同士が連通した多孔膜」は、BET法により求められる平均孔径が0.01~50nmの連通孔を含むことが好ましく、0.05~10nmの連通孔を含むことがより好ましい。該連通孔の平均孔径は、0.1~40nmであることがより好ましく、1~30nmであることがさらに好ましく、1~20nmであることが特に好ましい。
BET法による平均孔径が上記範囲である連通孔を有することにより、sパターンの欠陥の原因となり得る高分子量体(例えば、分子量分布における分子量3万以上の分子)を、半導体製造工程に用いられる樹脂において効果的に低減することができる。
BET法とは、多孔質体に吸着分子(例えば、窒素)を吸脱着させることにより吸着等温線を測定し、測定したデータを式下記(Be1)で表されるBET式に基づき解析する方法である。この方法に基づき比表面積A及び全細孔容積Vを算出することができ、さらに、得られた比表面積A及び全細孔容積Vに基づき式[4V/A]から平均孔径を算出することができる。
具体的には、まず、多孔質体に吸着分子を吸脱着させることにより、吸着等温線を求める。そして、得られた吸着等温線から、下記式(B1)に基づき[P/{Va(P0-P)}]を算出し、平衡相対圧(P/P0)に対してプロットする。そして、このプロットを直線と見なし、最小二乗法に基づき、傾きs(=[(C-1)/(Vm・C)])及び切片i(=[1/(Vm・C)])を算出する。そして、求められた傾きs及び切片iから式(Be2-1)、式(B2-2)に基づき、Vm及びCを算出する。更には、Vmから、式(Be3)に基づき比表面積Aを算出することができる。更に、求められた吸着等温線の吸着データを直線補間し、細孔容積算出相対圧で設定した相対圧での吸着量を求める。この吸着量から全細孔容積Vを算出することができる。なお、このBET法は、JIS R1626-1996「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」に準じた測定方法である。BET法による測定装置としては特に制限はないが、マイクロメリティックス(島津社製)等が挙げられる。
[P/{V(P-P)}]
=[1/(V・C)]+[(C-1)/(V・C)](P/P) ・・・(1)
=1/(s+i) ・・・(2-1)
C=(s/i)+1 ・・・(2-2)
A=(V・L・σ)/22414 ・・・(3)
Va:吸着量
Vm:単分子層の吸着量
P:吸着分子の平衡時の圧力
P0:吸着分子の飽和蒸気圧
L:アボガドロ数
σ:吸着分子の吸着断面積
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」は、応力、破断伸度等の機械的特性に優れる。
フィルターが備える「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」の応力は、例えば、10MPa以上が好ましく、より好ましくは15MPa以上、さらに好ましくは15~50MPaである。
該多孔質膜の応力は、サイズ4mm×30mmの試料を作製し、試験機を用いて5mm/minの測定条件で測定した値とされる。
また、「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」の破断伸度は、例えば、10%GL以上が好ましく、より好ましくは15%GL以上である。かかる破断伸度の上限は、例えば、50%GL以下が好ましく、より好ましくは45%GL以下、さらに好ましくは40%GL以下である。ポリイミド系樹脂多孔質膜の空隙率を下げると、破断伸度が高くなる傾向がある。
該多孔質膜の破断伸度は、サイズ4mm×30mmの試料を作製し、試験機を用いて5mm/minの測定条件で測定した値とされる。
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」の熱分解温度は、200℃以上が好ましく、320℃以上がより好ましく、350℃以上がさらに好ましい。
該多孔質膜の熱分解温度は、空気雰囲気下、10℃/minの昇温速度で1000℃まで昇温することで測定できる。
本実施形態におけるフィルターは、図1に示すような隣り合う球状セル1aと球状セル1bとが連通した連通孔5が形成された多孔質膜を備えたものに限定されず、連通孔5に加えてこれ以外の形態のセル又は連通孔が形成された多孔質膜を備えるものでもよい。
これ以外の形態のセル(以下これを「他のセル」という。)としては、形状もしくは孔径が異なるセルが挙げられ、例えば楕円状セル、多面体状セル、孔径の異なる球状セル等が挙げられる。前記の「これ以外の形態の連通孔」としては、例えば、球状セルと他のセルとが連通した連通孔が挙げられる。
他のセルの形状又は孔径は、除去対象とされる不純物の種類に応じて適宜決定すればよい。球状セルと他のセルとが連通した連通孔は、上述の微粒子の材料選択、微粒子の形状制御などによって形成できる。
隣接した球状セル同士が連通した連通孔に加えてこれ以外の形態のセル又は連通孔が形成された多孔質膜を備えたフィルターによれば、濾過対象物から、種々の異物をより効率的に除去できる。
また、本実施形態におけるフィルターは、半導体製造プロセスにおける各種薬液の供給ライン又はPOU(point of use)で、これまで設置されていた微粒子状不純物除去のためのフィルターカートリッジ等に置き換えて、又はこれと組み合わせて用いることができる。このため、従来と全く同一の装置及び操作で、濾過対象物(樹脂組成物溶液)から、種々の異物を効率良く除去でき、高純度の相分離構造形成用樹脂組成物精製品を調製できる。
≪相分離構造形成用樹脂組成物の濾過≫
隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有するフィルターによる相分離構造形成用樹脂組成物の濾過は、差圧なしの状態で行ってもよいし(即ち、相分離構造形成用樹脂組成物をフィルターに重力のみで通過させてもよいし)、差圧を設けた状態で行ってもよい。中でも、後者が好ましく、相分離構造形成用樹脂組成物をフィルターに差圧によって通過させる操作を行うことが好ましい。
「差圧を設けた状態」とは、フィルターが備えるポリイミド系樹脂多孔質膜の一方の側と他方の側との間に圧力差があること、をいう。
例えば、ポリイミド系樹脂多孔質膜の片方の側(相分離構造形成用樹脂組成物供給側)に圧力を加える加圧(陽圧)、ポリイミド系樹脂多孔質膜の片方の側(濾液側)を負圧にする減圧(陰圧)等が挙げられる。本実施形態における濾過工程では、前者の加圧が好ましい。
加圧は、ポリイミド系樹脂多孔質膜を通過させる前のレジスト組成物(以下「供給液」ということがある。)が存在する、ポリイミド系樹脂多孔質膜の供給液側に圧力を加えるものである。
例えば、供給液の循環若しくは送流で生じる流液圧を利用すること、又はガスの陽圧を利用することにより、供給液側に圧力を加えることが好ましい。
流液圧は、例えばポンプ(送液ポンプ、循環ポンプ等)の積極的な流液圧付加方法により発生させることができる。ポンプとしては、ロータリーポンプ、ダイヤフラムポンプ、定量ポンプ、ケミカルポンプ、プランジャーポンプ、べローズポンプ、ギアポンプ、真空ポンプ、エアーポンプ、液体ポンプ等が挙げられる。
ポンプによる供給液の循環若しくは送液を行う場合、通常、ポンプは、供給液槽(又は循環槽)とポリイミド系樹脂多孔質膜との間に配置される。
流液圧としては、例えば、供給液をポリイミド系樹脂多孔質膜に重力のみで通過させる際に、該供給液によりポリイミド系樹脂多孔質膜に加えられる圧力であってもよいが、上記の積極的な流液圧付加方法により加えられる圧力であることが好ましい。
加圧に用いられるガスとしては、供給液に対して不活性又は非反応性のガスが好ましく、具体的には、窒素、又はヘリウム、アルゴン等の希ガス等が挙げられる。
供給液側に圧力を加える方法としては、ガスの陽圧を利用することが好ましい。その際、ポリイミド系樹脂多孔質膜を通過した濾液側は、減圧せず大気圧でよい。
また、加圧は、流液圧とガスの陽圧との両方を利用するものであってもよい。また、差圧は、加圧と減圧とを組み合わせてもよく、例えば、流液圧と減圧との両方を利用するもの、ガスの陽圧と減圧との両方を利用するもの、又は、流液圧及びガスの陽圧と減圧とを利用するものであってもよい。差圧を設ける方法を組み合せる場合、製造の簡便化等の点で、流液圧とガスの陽圧との組合せ、流液圧と減圧との組合せが好ましい。
本実施形態においては、ポリイミド系樹脂多孔質膜を用いることから、差圧を設ける方法として、例えば、ガスによる陽圧等の1つの方法であっても、異物除去性能に優れる。
減圧は、ポリイミド系樹脂多孔質膜を通過した濾液側を減圧するものであり、例えば、ポンプによる減圧であってもよいが、真空にまで減圧することが好ましい。
相分離構造形成用樹脂組成物をフィルターに通過させる操作を、差圧を設けた状態で行う場合、その圧力差は、使用するポリイミド系樹脂多孔質膜の膜厚、空隙率若しくは平均孔径、又は所望の精製度、流量、流速、又は供給液の濃度若しくは粘度等を勘案して適宜設定される。例えば、いわゆるクロスフロー方式(ポリイミド系樹脂多孔質膜に対して平行に供給液を流す)の場合の圧力差は、例えば0.3MPa以下が好ましい。
いわゆるデッドエンド方式(ポリイミド系樹脂多孔質膜に対して交差するように供給液を流す)の場合の圧力差は、例えば1MPa以下が好ましく、0.3MPa以下がより好ましい。それぞれの圧力差の下限値は、0.01MPa以上が好ましく、0.05MPa以上がより好ましい。
工程(i)において、相分離構造形成用樹脂組成物を、上述したポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターに通過させる操作は、レジスト組成物(供給液)の流速を高く維持した状態で行うことができる。
この場合の流速としては、特に限定されないが、例えば、室温(20℃)において0.08MPaで加圧した場合の純水の流速が、好ましくは1mL/分以上、より好ましくは3mL/分以上、さらに好ましくは5mL/分以上、特に好ましくは10mL/分以上である。流速の上限値は、特に限定されず、例えば、50mL/分以下とされる。
本実施形態においては、上述したポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターが用いられるため、このように流速を高く維持しながら濾過を行うことができ、相分離構造形成用樹脂組成物に含まれる異物の除去率を高められる。
また、工程(i)において、相分離構造形成用樹脂組成物をフィルターに通過させる操作は、相分離構造形成用樹脂組成物の温度を、0~30℃に設定して行うことが好ましく、5~25℃に設定して行うことがより好ましい。
また、工程(i)では、相分離構造形成用樹脂組成物を、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターに複数回通過させても(複数回循環ろ過を行っても)よいし、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターを少なくとも含む、複数のフィルターに通過させてもよい。
また、供給液をポリイミド系樹脂多孔質膜に通過させる前に、ポリイミド系樹脂多孔質膜の洗浄、供給液に対する濡れ性向上、又は、ポリイミド系樹脂多孔質膜と供給液との表面エネルギー調整のために、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールもしくはアセトン、メチルエチルケトン等のケトン、水、供給液に含まれる溶媒又はそれらの混合物等の溶液を、ポリイミド系樹脂多孔質膜に接触させて通液してもよい。
上記溶液とポリイミド系樹脂多孔質膜とを接触させるには、上記溶液にポリイミド系樹脂多孔質膜を含浸させてもよいし浸漬させてもよい。上記溶液をポリイミド系樹脂多孔質膜と接触させることによって、例えば、ポリイミド系樹脂多孔質膜の内部の孔に溶液を浸透させることができる。上記溶液とポリイミド系樹脂多孔質膜との接触は、上述した差圧を設けた状態で行ってもよく、特に、ポリイミド系樹脂多孔質膜の内部の孔にも溶液を浸透させる場合は加圧下で行うことが好ましい。
<他の工程>
本実施形態にかかる製造方法は、前記工程(i)に加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルター以外の他のフィルターで濾過する工程が挙げられる。前記ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルター以外のフィルターは、特に限定されないが、例えば、ナイロン膜等のポリアミド膜、ポリエチレン膜、ポリプロピレン膜、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)膜、及びこれらを修飾した膜等の熱可塑性樹脂の多孔質膜を備えるフィルター等が挙げられる。中でも、異物の除去性能に優れることから、他のフィルターとしては、ポリアミド樹脂を含有する多孔質膜を備えるフィルター及び/又はポリエチレン樹脂を含有する多孔質膜を備えるフィルターを用いることが好ましく、ポリアミド樹脂を含有する多孔質膜を備えるフィルターを用いることがより好ましい。
≪工程(iia)≫
本実施形態にかかる製造方法は、前記工程(i)に加えて、ポリアミド樹脂を含有する多孔質膜を備えるフィルターで濾過する工程(iia)を、さらに含むことが好ましい。
ポリアミド樹脂を含有する多孔質膜(以下「ポリアミド樹脂多孔質膜」ともいう)は、ポリアミド樹脂のみからなるものであってもよく、ポリアミド樹脂と他の樹脂とを含むものであってもよいが、ポリアミド樹脂のみからなるものが好ましい。
ポリアミド樹脂多孔質膜は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。ポリアミド樹脂多孔質膜は、汎用性に優れることから、ナイロン6及び/又はナイロン66の多孔質膜を用いることが好ましく、ナイロン66の多孔質膜を用いることがより好ましい。
かかるポリアミド樹脂多孔質膜の平均孔径は、特に限定されないが、微細な異物を除去する観点から、0.1~100nmが好ましく、0.3~50nmがより好ましく、0.5~10nmがさらに好ましい。
かかるポリアミド樹脂多孔質膜を備えるフィルターとしては、ポリアミド樹脂多孔質膜を、熱可塑性樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、PFA、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド、ポリアミドイミド等)からなる外側容器に備えたものも挙げられる。
工程(iia)は、前記工程(i)の前に行ってもよく、前記工程(i)の後に行ってもよい。
工程(iia)は、前記工程(i)の後に行うことが好ましく、この場合、ポリアミド樹脂多孔質膜の平均孔径は、前記ポリイミド系多孔質膜の連通孔の平均孔径よりも小さいことが好ましい。
本実施形態の製造方法においては、前記工程(i)の後に工程(iia)を行うことを繰り返し行ってもよい。この場合、レジスト組成物(供給液)を常時循環しながら、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターと、ポリアミド樹脂樹脂多孔質膜を備えるフィルターと、に通過させる。前記のような循環型の濾過を行う場合、該循環経路において、両フィルターは、相分離構造形成用樹脂組成物がポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターを通過した後にポリアミド樹脂多孔質膜を備えるフィルターを通過するように配置されることが好ましい。
工程(iia)を行う場合、前記工程(i)において記載したのと同様に、供給液をポリアミド樹脂多孔質膜に通過させる前に、ポリアミド樹脂多孔質膜の洗浄、供給液に対する濡れ性向上、又は、ポリアミド樹脂多孔質膜と供給液との表面エネルギー調整のために、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールもしくはアセトン、メチルエチルケトン等のケトン、水、供給液に含まれる溶媒又はそれらの混合物等の溶液を、ポリアミド樹脂多孔質膜に接触させて通液してもよい。
≪工程(iib)≫
本実施形態にかかる製造方法は、前記工程(i)に加えて、又は前記工程(i)及び前記工程(iia)に加えて、ポリエチレン樹脂を含有する多孔質膜を備えるフィルターで濾過する工程(iib)を、さらに含むことが好ましい。
ポリエチレン樹脂を含有する多孔質膜(以下「ポリエチレン樹脂多孔質膜」ともいう)は、ポリエチレン樹脂のみからなるものであってもよく、ポリエチレン樹脂と他の樹脂とを含むものであってもよいが、ポリエチレン樹脂のみからなるものが好ましい。
ポリエチレン樹脂多孔質膜は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。ポリエチレン樹脂多孔質膜は、耐衝撃性、耐摩耗性、及び耐薬品に優れることから、超高分子量ポリエチレン(UPE)の多孔質膜を用いることが好ましい。
かかるポリエチレン樹脂多孔質膜の平均孔径は、特に限定されないが、微細な異物を除去する観点から、0.1~100nmが好ましく、0.3~50nmがより好ましく、0.5~10nmがさらに好ましい。
かかるポリエチレン樹脂多孔質膜を備えるフィルターとしては、ポリエチレン樹脂多孔質膜を、熱可塑性樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、PFA、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド、ポリアミドイミド等)からなる外側容器に備えたものも挙げられる。
工程(iib)は、前記工程(i)の前に行ってもよく、前記工程(i)の後に行ってもよい。
また、前記工程(iia)を行う場合、工程(iib)は、前記工程(iia)の前に行ってもよく、前記工程(iia)の後に行ってもよいが、前記工程(iia)の後に行うことが好ましく、前記工程(i)、前記工程(iia)及び工程(iib)の順に行うことがより好ましい。
工程(iib)において、ポリエチレン樹脂多孔質膜の平均孔径は、前記ポリイミド系多孔質膜の連通孔の平均孔径よりも小さいことが好ましい。
本実施形態の製造方法においては、前記工程(i)の前又は後に工程(iib)を行うことを繰り返し行ってもよい。この場合、相分離構造形成用樹脂組成物(供給液)を常時循環しながら、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターと、ポリエチレン樹脂多孔質膜を備えるフィルターと、に通過させる。前記のような循環型の濾過を行う場合、該循環経路において、両フィルターは、相分離構造形成用樹脂組成物がポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターを通過した後にポリエチレン樹脂多孔質膜を備えるフィルターを通過するように配置されることが好ましい。
工程(iib)を行う場合、前記工程(i)において記載したのと同様に、供給液をポリエチレン樹脂多孔質膜に通過させる前に、ポリエチレン樹脂多孔質膜の洗浄、供給液に対する濡れ性向上、又は、ポリエチレン樹脂多孔質膜と供給液との表面エネルギー調整のために、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールもしくはアセトン、メチルエチルケトン等のケトン、水、供給液に含まれる溶媒又はそれらの混合物等の溶液を、ポリエチレン樹脂多孔質膜に接触させて通液してもよい。
<相分離構造形成用樹脂組成物>
本実施形態において、濾過対象物である相分離構造形成用樹脂組成物は、ブロックポリマーと、有機溶剤成分とを含有する。
<ブロックコポリマー>
ブロックコポリマーは、複数種類のブロック(同種の構成単位が繰り返し結合した部分構成成分)が結合した高分子である。ブロックコポリマーを構成するブロックは、2種類であってもよく、3種類以上であってもよい。
ブロックコポリマーを構成する複数種類のブロックは、相分離が起こる組み合わせであれば特に限定されるものではないが、互いに非相溶であるブロック同士の組み合わせであることが好ましい。また、ブロックコポリマーを構成する複数種類のブロック中の少なくとも1種類のブロックからなる相が、他の種類のブロックからなる相よりも、容易に選択的に除去可能な組み合わせであることが好ましい。
また、ブロックコポリマーを構成する複数種類のブロック中の少なくとも1種類のブロックからなる相が、他の種類のブロックからなる相よりも、容易に選択的に除去可能な組み合わせであることが好ましい。容易に選択的に除去可能な組み合わせとしては、エッチング選択比が1よりも大きい、1種又は2種以上のブロックが結合したブロックコポリマーが挙げられる。
ブロックコポリマーとしては、例えば、芳香族基を有する構成単位のブロックと、(α置換)アクリル酸エステルから誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー;芳香族基を有する構成単位のブロックと、(α置換)アクリル酸から誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー;芳香族基を有する構成単位のブロックと、シロキサン又はその誘導体から誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー;アルキレンオキシドから誘導される構成単位のブロックと、(α置換)アクリル酸エステルから誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー;アルキレンオキシドから誘導される構成単位のブロックと、(α置換)アクリル酸から誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー;シルセスキオキサン構造含有構成単位のブロックと、(α置換)アクリル酸エステルから誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー;シルセスキオキサン構造含有構成単位のブロックと、(α置換)アクリル酸から誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー;シルセスキオキサン構造含有構成単位のブロックと、シロキサン又はその誘導体から誘導される構成単位のブロックと、が結合したブロックコポリマー等が挙げられる。
芳香族基を有する構成単位としては、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基を有する構成単位が挙げられる。中でも、スチレン又はその誘導体から誘導される構成単位が好ましい。
スチレン又はその誘導体としては、例えば、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-n-オクチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、4-メトキシスチレン、4-t-ブトキシスチレン、4-ヒドロキシスチレン、4-ニトロスチレン、3-ニトロスチレン、4-クロロスチレン、4-フルオロスチレン、4-アセトキシビニルスチレン、4-ビニルベンジルクロリド、1-ビニルナフタレン、4-ビニルビフェニル、1-ビニル-2-ピロリドン、9-ビニルアントラセン、ビニルピリジン等が挙げられる。
(α置換)アクリル酸は、アクリル酸、又は、アクリル酸におけるα位の炭素原子に結合した水素原子が置換基で置換されているもの、の一方又は両方を意味する。該置換基としては、炭素数1~5のアルキル基等が挙げられる。
(α置換)アクリル酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
(α置換)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル、又は、アクリル酸エステルにおけるα位の炭素原子に結合した水素原子が置換基で置換されているもの、の一方又は両方を意味する。該置換基としては、炭素数1~5のアルキル基等が挙げられる。
(α置換)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸アントラセン、アクリル酸グリシジル、アクリル酸3,4-エポキシシクロヘキシルメタン、アクリル酸プロピルトリメトキシシラン等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸アントラセン、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸3,4-エポキシシクロヘキシルメタン、メタクリル酸プロピルトリメトキシシラン等のメタクリル酸エステルなどが挙げられる。
これらの中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸t-ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸t-ブチルが好ましい。
シロキサン又はその誘導体としては、例えば、ジメチルシロキサン、ジエチルシロキサン、ジフェニルシロキサン、メチルフェニルシロキサン等が挙げられる。
アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、イソプロピレンオキシド、ブチレンオキシド等が挙げられる。
シルセスキオキサン構造含有構成単位としては、かご型シルセスキオキサン構造含有構成単位が好ましい。かご型シルセスキオキサン構造含有構成単位を提供するモノマーとしては、かご型シルセスキオキサン構造と重合性基とを有する化合物が挙げられる。
上記の中でも、ブロックコポリマーとしては、芳香族基を有する構成単位のブロックと、(α置換)アクリル酸又は(α置換)アクリル酸エステルから誘導される構成単位のブロックと、を含むものが好ましい。
基板表面に対して垂直方向に配向したシリンダー状の相分離構造を得る場合は、芳香族基を有する構成単位と、(α置換)アクリル酸又は(α置換)アクリル酸エステルから誘導される構成単位と、の質量比は、60:40~90:10であることが好ましく、60:40~80:20であることがより好ましい。
また、基板表面に対して垂直方向に配向したラメラ状の相分離構造を得る場合は、芳香族基を有する構成単位と、(α置換)アクリル酸又は(α置換)アクリル酸エステルから誘導される構成単位と、の質量比は、35:65~60:40であることが好ましく、40:60~60:40であることがより好ましい。
かかるブロックコポリマーとして、具体的には、スチレンから誘導される構成単位のブロックとアクリル酸から誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、スチレンから誘導される構成単位のブロックとアクリル酸メチルから誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、スチレンから誘導される構成単位のブロックとアクリル酸エチルから誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、スチレンから誘導される構成単位のブロックとアクリル酸t-ブチルから誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、スチレンから誘導される構成単位のブロックとメタクリル酸から誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、スチレンから誘導される構成単位のブロックとメタクリル酸メチルから誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、スチレンから誘導される構成単位のブロックとメタクリル酸エチルから誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、スチレンから誘導される構成単位のブロックとメタクリル酸t-ブチルから誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、かご型シルセスキオキサン(POSS)構造含有構成単位のブロックとアクリル酸から誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー、かご型シルセスキオキサン(POSS)構造含有構成単位のブロックとアクリル酸メチルから誘導される構成単位のブロックとを有するブロックコポリマー等が挙げられる。
本実施形態においては、特に、スチレンから誘導される構成単位のブロック(PS)とメタクリル酸メチルから誘導される構成単位のブロック(PMMA)とを有するブロックコポリマー(PS-PMMAブロックコポリマー)を用いることが好ましい。
ブロックコポリマーの数平均分子量(Mn)(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算基準)は、20000~200000が好ましく、30000~150000がより好ましく、50000~90000がさらに好ましい。
ブロックコポリマーの分散度(Mw/Mn)は、1.0~3.0が好ましく、1.0~1.5がより好ましく、1.0~1.3がさらに好ましい。尚、「Mw」は質量平均分子量を示す。
相分離構造形成用樹脂組成物において、ブロックコポリマーは、1種を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
相分離構造形成用樹脂組成物中、ブロックコポリマーの含有量は、形成しようとするブロックコポリマーを含む層の厚さ等に応じて調整すればよい。
<イオン液体>
本実施形態において、相分離構造形成用樹脂組成物は、イオン液体を含んでもよい。イオン液体は、特定のカチオン部とアニオン部とを有する化合物(IL)を含む。
イオン液体とは、液体で存在する塩をいう。イオン液体は、カチオン部とアニオン部とで構成され、これらのイオン間の静電相互作用は弱く、結晶化しにくい塩である。イオン液体は、融点が100℃以下のものであり、さらに下記の特徴1)~5)を有する。
特徴1)蒸気圧が極めて低い。特徴2)広い温度範囲で不燃性を示す。特徴3)広い温度範囲で液状を保つ。特徴4)密度を大きく変えられる。特徴5)極性の制御が可能である。
また、本実施形態において、イオン液体は、非重合性であることが好ましい。
イオン液体の質量平均分子量(Mw)は1000以下が好ましく、750以下がより好ましく、500以下が更に好ましい。
≪化合物(IL)≫
化合物(IL)は、カチオン部とアニオン部とを有する化合物である。
・化合物(IL)のカチオン部
化合物(IL)のカチオン部は、特に限定されないが、相分離性能の向上効果がより得られやすいことから、カチオン部の双極子モーメントが3debye以上であることが好ましく、より好ましくは3.2~15debye、さらに好ましくは3.4~12debyeである。
「カチオン部の双極子モーメント」とは、カチオン部の極性(電荷の偏り)を定量的に示すパラメータをいう。1debye(デバイ)は1×10-18esu・cmと定義される。本明細書において、カチオン部の双極子モーメントは、CACheによるシミュレーション値を示す。例えば、CAChe Work System Pro Version 6.1.12.33により、MM geometry(MM2)、PM3 geometryを用いて構造最適化を行うことにより測定される。
双極子モーメントが3debye以上のカチオンとしては、例えば、イミダゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、アンモニウムイオンが好適に挙げられる。
すなわち、好ましい化合物(IL)としては、例えば、イミダゾリウム塩、ピロリジニウム塩、ピペリジニウム塩又はアンモニウム塩が挙げられる。これらの塩の中でも、相分離性能がより向上しやすいことから、そのカチオン部が、置換基を有するカチオンであることが好ましい。その中でも、置換基を有していてもよい炭素数2以上のアルキル基を含むカチオン、又は極性基を含むカチオンであるものが好ましい。前記のカチオンが含む炭素数2以上のアルキル基は、好ましくは炭素数が2~12、より好ましくは炭素数が2~6である。前記のアルキル基は、直鎖状アルキル基であっても分岐鎖状アルキル基であってもよいが、直鎖状アルキル基であることが好ましい。炭素数2以上のアルキル基が有していてもよい置換基としては、ヒドロキシ基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。なお、炭素数2以上のアルキル基は、置換基を有さないことが好ましい。前記のカチオンが含む極性基としては、例えば、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基等が挙げられる。
より好ましい化合物(IL)のカチオン部としては、置換基を有するピロリジニウムイオンが挙げられ、その中でも、置換基を有していてもよい炭素数2以上のアルキル基を含むピロリジニウムイオンであることが好ましい。
・化合物(IL)のアニオン部
化合物(IL)のアニオン部は、特に限定されないが、下記一般式(a1)~(a5)のいずれかで表されるアニオン等が挙げられる。
Figure 0007499620000004
[式(a1)中、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい脂肪族環式基、又は置換基を有していてもよい鎖状の炭化水素基を表す。式(a2)中、R’はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基を表す。kは1~4の整数であり、lは0~3の整数であり、かつ、k+l=4である。式(a3)中、R”は、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基を表す。mは1~6の整数であり、nは0~5の整数であり、かつ、m+n=6である。]
Figure 0007499620000005
[式(a4)中、X”は、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された炭素数2~6のアルキレン基を表す。式(a5)中、Y”及びZ”は、それぞれ独立に、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された炭素数1~10のアルキル基を表す。]
前記一般式(a1)中、Rは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい脂肪族環式基、又は置換基を有していてもよい鎖状の炭化水素基を表す。
前記一般式(a1)中、Rが置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である場合、Rに含まれる芳香環として具体的には、ベンゼン、ビフェニル、フルオレン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素環;前記芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換された芳香族複素環;等が挙げられる。芳香族複素環におけるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。
該芳香族炭化水素基として具体的には、前記芳香族炭化水素環から水素原子を1つ除いた基(アリール基);前記アリール基の水素原子の1つがアルキレン基で置換された基(たとえば、ベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基、2-ナフチルエチル基等のアリールアルキル基);等が挙げられる。前記アルキレン基(アリールアルキル基中のアルキル鎖)の炭素数は、1~4であることが好ましく、1~2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
Rの芳香族炭化水素基としては、フェニル基もしくはナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
前記一般式(a1)中、Rが置換基を有していてもよい脂肪族環式基である場合、多環式であってもよく、単環式であってもよい。単環式の脂肪族環式基としては、モノシクロアルカンから1個の水素原子を除いた基が好ましい。該モノシクロアルカンとしては炭素数3~8のものが好ましく、具体的にはシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等が挙げられる。多環式の脂肪族環式基としては、ポリシクロアルカンから1個の水素原子を除いた基が好ましく、該ポリシクロアルカンとしては炭素数7~12のものが好ましく、具体的にはアダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカン等が挙げられる。
中でも、前記脂肪族環式基としては、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカン等のポリシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基であることがより好ましい。
前記一般式(a1)中、Rの鎖状の炭化水素基としては、鎖状のアルキル基が好ましい。鎖状のアルキル基としては、炭素数が1~10であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖状のアルキル基;1-メチルエチル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基等の分岐鎖状のアルキル基;が挙げられる。鎖状のアルキル基は、炭素数が1~6であることがより好ましく、炭素数が1~3であることがさらに好ましい。また、直鎖状のアルキル基であることが好ましい。
前記一般式(a1)中、Rの芳香族炭化水素基、脂肪族環式基又は鎖状の炭化水素基が有していてもよい置換基としては、水酸基、アルキル基、フッ素原子又はフッ素化アルキル基等が挙げられる。
前記一般式(a1)中、Rとしては、メチル基、トリフルオロメチル基又はp-トリル基が好ましい。
前記一般式(a2)中、R’は、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基を表す。
kは、1~4の整数であり、好ましくは3~4の整数、最も好ましくは4である。
lは、0~3の整数であり、好ましくは0~2の整数、最も好ましくは0である。lが2以上の場合、複数のR’は、相互に同一であってもよいし異なっていてもよいが、相互に同一であることが好ましい。
前記一般式(a3)中、R”は、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基を表す。
mは、1~6の整数であり、好ましくは3~6の整数、最も好ましくは6である。
nは、0~5の整数であり、好ましくは0~3の整数、最も好ましくは0である。nが2以上の場合、複数のR”は、相互に同一であってもよいし異なっていてもよいが、相互に同一であることが好ましい。
前記の式(a4)中、X”は、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された炭素数2~6のアルキレン基を表す。ここでのアルキレン基は、直鎖状であってもよいし分岐鎖状であってもよく、炭素数は2~6であり、好ましくは炭素数3~5、最も好ましくは炭素数3である。
前記の式(a5)中、Y”及びZ”は、それぞれ独立に、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された炭素数1~10のアルキル基を表す。ここでのアルキル基は、直鎖状であってもよいし分岐鎖状であってもよく、炭素数は1~10であり、好ましくは炭素数1~7、特に好ましくは炭素数1~3である。
X”のアルキレン基の炭素数、又は、Y”及びZ”の各アルキル基の炭素数は、上記炭素数の範囲内において、有機溶剤成分への溶解性も良好である等の理由により、小さいほど好ましい。
また、前記X”のアルキレン基、又は、前記Y”及びZ”の各アルキル基においては、酸の強度が強くなる等の理由により、フッ素原子で置換されている水素原子の数が多いほど好ましい。該アルキレン基又はアルキル基のフッ素化率は、好ましくは70~100%、さらに好ましくは90~100%であり、最も好ましくは、全ての水素原子がフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキレン基又はパーフルオロアルキル基である。
化合物(IL)のアニオン部としては、前記一般式(a1)~(a5)のいずれかで表されるアニオン部の中でも、一般式(a1)又は(a5)で表されるアニオン部が好ましい。
化合物(IL)のカチオン部とアニオン部の好ましい組合せとしては、ピロリジニウムイオンからなるカチオン部と前記一般式(a1)又は(a5)で表されるアニオン部との組合せが挙げられる。
以下に、化合物(IL)の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
Figure 0007499620000006
Figure 0007499620000007
Figure 0007499620000008
本実施形態において、相分離構造形成用樹脂組成物がイオン液体を含む場合、化合物(IL)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
相分離構造形成用樹脂組成物中、化合物(IL)の含有量は、ブロックコポリマー100質量部に対して0.05~50質量部であることが好ましく、0.1~40質量部であることがより好ましく、0.5~30質量部であることがさらに好ましい。
化合物(IL)の含有量が前記の好ましい範囲内であると、相分離性能の向上効果がより得られやすくなる。
(有機溶剤成分)
本実施形態において、相分離構造形成用樹脂組成物に含まれる有機溶剤成分(以下、単に「有機溶剤」という場合がある。)としては、使用する各成分を溶解し、均一な溶液とすることができるものであればよく、従来、樹脂を主成分とする膜組成物の溶剤として公知のものの中から任意のものを1種または2種以上適宜選択して用いることができる。
例えば、塩化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、塩化エチル、ジクロロエタン、n-プロピルクロライド、n-ブチルクロライド、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチル-n-ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2-ヘプタノン(メチルアミルケトン)などのケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、またはジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類または前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテルまたはモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体[これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい];ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン等の芳香族系有機溶剤などを挙げることができる。
これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。
中でも、クロロホルム、2-ヘプタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、シクロヘキサノン、ELが好ましく、PGMEAがより好ましい。
また、PGMEAと極性溶剤とを混合した混合溶媒も好ましい。その配合比(質量比)は、PGMEAと極性溶剤との相溶性等を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは1:9~9:1、より好ましくは2:8~8:2の範囲内とすることが好ましい。たとえば極性溶剤としてELを配合する場合は、PGMEA:ELの質量比は、好ましくは1:9~9:1、より好ましくは2:8~8:2である。また、極性溶剤としてPGMEを配合する場合は、PGMEA:PGMEの質量比は、好ましくは1:9~9:1、より好ましくは2:8~8:2、さらに好ましくは3:7~7:3である。また、極性溶剤としてPGMEおよびシクロヘキサノンを配合する場合は、PGMEA:(PGME+シクロヘキサノン)の質量比は、好ましくは1:9~9:1、より好ましくは2:8~8:2、さらに好ましくは3:7~7:3である。
また、相分離構造形成用樹脂組成物中の有機溶剤として、その他には、PGMEA、EL、または前記PGMEAと極性溶剤との混合溶媒と、γ-ブチロラクトンとの混合溶剤も好ましい。この場合、混合割合としては、前者と後者の質量比が好ましくは70:30~95:5とされる。
相分離構造形成用樹脂組成物中の有機溶剤の使用量は特に限定されるものではなく、塗布可能な濃度で、塗布膜厚に応じて適宜設定されるものであるが、一般的にはブロック共重合体の固形分濃度が0.2~70質量%、好ましくは0.2~50質量%の範囲内となる様に用いられる。
以上説明した、本態様の相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法によれば、工程(i)で、濾過対象物(相分離構造形成用樹脂組成物)が、隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有し、且つポリイミド及びポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも一種の樹脂骨格を含有する多孔質膜を備えるフィルターにより濾過される。これによって、濾過対象物から、有機物、金属不純物などの異物がこれまで以上に除去される。特に、ポリイミド系樹脂多孔質膜が用いられていることで、濾過対象物から、従来では取り除くことが困難であった高極性成分、高分子が充分に除去され、中でも高極性高分子が特異的に除去される。加えて、工程(i)では、濾過対象物から、不純物として金属成分も充分に除去される。このように、かかる製造方法により、種々の異物が効率良く除去され、高純度の相分離構造形成用樹脂組成物精製品が得られる。
本態様におけるフィルターは、図1に示すような隣り合う球状セル1aと球状セル1bとが連通した連通孔5が形成された多孔質膜を備えたものに限定されず、球状セル1a、1bが連通した連通孔5に加えてこれ以外の形態のセル又は連通孔が形成された多孔質膜を備えるものでもよい。
これ以外の形態のセル(以下これを「他のセル」という。)としては、形状もしくは孔径が異なるセルが挙げられ、例えば楕円状セル、多面体状セル、孔径の異なる球状セル等が挙げられる。前記の「これ以外の形態の連通孔」としては、例えば、球状セルと他のセルとが連通した連通孔が挙げられる。
他のセルの形状又は孔径は、除去対象とされる不純物の種類に応じて適宜決定すればよい。球状セルと他のセルとが連通した連通孔は、上述の微粒子の材料を選択したり、微粒子の形状を制御したりすることによって形成できる。
隣接した球状セル同士が連通した連通孔に加えてこれ以外の形態のセル又は連通孔が形成された多孔質膜を備えたフィルターによれば、濾過対象物から、種々の異物をより効率的に除去できる。
また、濾過工程で用いられる、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターは、半導体製造プロセスにおける相分離構造形成用樹脂組成物の供給ライン又はPOU(point of use)で、これまで設置されていた微粒子状不純物除去のためのフィルターカートリッジ等に置き換えて、又はこれと組み合わせて用いることができる。このため、従来と全く同一の装置及び操作で、濾過対象物から、種々の異物を効率良く除去でき、高純度の相分離構造形成用樹脂組成物精製品を製造できる。
(相分離構造を含む構造体の製造方法)
本発明の第2の態様にかかる相分離構造を含む構造体の製造方法は、前記第1の態様の相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法により、相分離構造形成用樹脂組成物精製品を得る工程(以下、「工程(i’)」という。)と、前記相分離構造形成用樹脂組成物精製品を用いて、基板上にブロックコポリマーを含む層(BCP層)を形成する工程(以下「工程(i)」という。)と、前記BCP層を相分離させる工程(以下「工程(ii)」という。)と、を含む。
以下、かかる相分離構造を含む構造体の製造方法について、図2を参照しながら具体的に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
図2は、相分離構造を含む構造体の製造方法の一実施形態例を示す。本実施形態においては、あらかじめ、前記第1の態様の相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法により、相分離構造形成用樹脂組成物精製品を得る(工程(i’))。
まず、必要に応じて、基板1上に下地剤を塗布して、下地剤層2を形成する(図2(I))。
下地剤層2上に、前記相分離構造形成用樹脂組成物精製品を塗布して、ブロック共重合体を含む層(BCP層)3を形成する(図2(II);以上、工程(i))。
次に、加熱してアニール処理を行い、BCP層3を、相3aと相3bとに相分離させる(図2(III);工程(ii))。
かかる本実施形態の製造方法、すなわち、工程(i’)、工程(i)及び工程(ii)を有する製造方法によれば、下地剤層2が形成された基板1上に、相分離構造を含む構造体3’が製造される。
[工程(i’)]
工程(i’)では、前記第1の態様と同様の方法により相分離構造形成用樹脂組成物精製品を得る。
[工程(i)]
工程(i)では、基板1上に、相分離構造形成用樹脂組成物精製品を用いて、BCP層3を形成する。
基板は、その表面上に相分離構造形成用樹脂組成物精製品を塗布し得るものであれば、その種類は特に限定されない。
基板としては、例えば、シリコン、銅、クロム、鉄、アルミニウム等の金属からなる基板、ガラス、酸化チタン、シリカ、マイカ等の無機物からなる基板、アクリル板、ポリスチレン、セルロース、セルロースアセテート、フェノール樹脂等の有機化合物からなる基板などが挙げられる。
基板の大きさや形状は、特に限定されるものではない。基板は必ずしも平滑な表面を有する必要はなく、様々な材質や形状の基板を適宜選択することができる。例えば、曲面を有する基板、表面が凹凸形状の平板、薄片状などの様々な形状のものを多様に用いることができる。
基板の表面には、無機系および/または有機系の膜が設けられていてもよい。無機系の膜としては、無機反射防止膜(無機BARC)が挙げられる。有機系の膜としては、有機反射防止膜(有機BARC)が挙げられる。
基板1にBCP層3を形成する前に、基板1の表面を洗浄してもよい。基板の表面を洗浄することにより、相分離構造形成用樹脂組成物精製品又は下地剤の基板1への塗布を、より良好に行うことができる。
洗浄処理としては、従来公知の方法を利用でき、例えば酸素プラズマ処理、水素プラズマ処理、オゾン酸化処理、酸アルカリ処理、化学修飾処理等が挙げられる。例えば、基板を硫酸/過酸化水素水溶液等の酸溶液に浸漬させた後、水洗し、乾燥させる。その後、当該基板の表面に、BCP層3又は下地剤層2を形成する。
BCP層3を形成する前に、基板1を中性化処理することが好ましい。
中性化処理とは、基板表面を、相分離構造形成用樹脂組成物精製品を構成するいずれのポリマーとも親和性を有するように改変する処理をいう。中性化処理を行うことにより、相分離によって特定のポリマーからなる相のみが基板表面に接することを抑制することができる。例えば、BCP層3を形成する前に、基板1表面に、用いる相分離構造形成用樹脂組成物精製品の種類に応じた下地剤層2を形成しておくことが好ましい。これに伴い、BCP層3の相分離によって、基板1表面に対して垂直方向に配向したシリンダー状又はラメラ状の相分離構造が形成しやすくなる。
具体的には、基板1表面に、相分離構造形成用樹脂組成物精製品を構成するいずれのポリマーとも親和性を有する下地剤を用いて下地剤層2を形成する。
下地剤には、相分離構造形成用樹脂組成物精製品を構成するポリマーの種類に応じて、薄膜形成に用いられる従来公知の樹脂組成物を適宜選択して用いることができる。
かかる下地剤としては、例えば、相分離構造形成用樹脂組成物精製品を構成する各ポリマーの構成単位をいずれも有する樹脂を含有する組成物や、相分離構造形成用樹脂組成物精製品を構成する各ポリマーと親和性の高い構成単位をいずれも有する樹脂を含有する組成物等が挙げられる。
例えば、スチレンから誘導される構成単位のブロック(PS)とメタクリル酸メチルから誘導される構成単位のブロック(PMMA)とを有するブロックコポリマー(PS-PMMAブロックコポリマー)を用いる場合、下地剤としては、PSとPMMAとの両方を含む樹脂組成物や、芳香環等と親和性が高い部位と、極性の高い官能基等と親和性の高い部位と、の両方をブロックとして含む化合物又は組成物を用いることが好ましい。
PSとPMMAとの両方をブロックとして含む樹脂組成物としては、例えば、PSとPMMAとのランダムコポリマー、PSとPMMAとの交互ポリマー(各モノマーが交互に共重合しているもの)等が挙げられる。
また、PSと親和性が高い部位と、PMMAと親和性の高い部位と、の両方を含む組成物としては、例えば、モノマーとして、少なくとも、芳香環を有するモノマーと極性の高い置換基を有するモノマーとを重合させて得られる樹脂組成物が挙げられる。芳香環を有するモノマーとしては、フェニル基、ビフェニル(biphenyl)基、フルオレニル(fluorenyl)基、ナフチル基、アントリル(anthryl)基、フェナントリル基等の、芳香族炭化水素の環から水素原子を1つ除いた基を有するモノマー、又はこれらの基の環を構成する炭素原子の一部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子で置換されたヘテロアリール基を有するモノマーが挙げられる。また、極性の高い置換基を有するモノマーとしては、トリメトキシシリル基、トリクロロシリル基、カルボキシ基、水酸基、シアノ基、アルキル基の水素原子の一部がフッ素原子で置換されたヒドロキシアルキル基等を有するモノマーが挙げられる。
その他、PSと親和性が高い部位と、PMMAと親和性の高い部位と、の両方を含む化合物としては、フェネチルトリクロロシラン等のアリール基と極性の高い置換基との両方を含む化合物や、アルキルシラン化合物等のアルキル基と極性の高い置換基との両方を含む化合物等が挙げられる。
また、下地剤としては、例えば、熱重合性樹脂組成物、ポジ型レジスト組成物やネガ型レジスト組成物等の感光性樹脂組成物も挙げられる。
これらの下地剤層は、常法により形成することができる。
下地剤を基板1上に塗布して下地剤層2を形成する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法により形成できる。
たとえば、下地剤を、スピンコート又はスピンナーを用いる等の従来公知の方法により基板1上に塗布して塗膜を形成し、乾燥させることにより、下地剤層2を形成できる。
塗膜の乾燥方法としては、下地剤に含まれる溶媒を揮発させることができればよく、たとえばベークする方法等が挙げられる。この際、ベーク温度は、80~300℃が好ましく、180~270℃がより好ましく、220~250℃がさらに好ましい。ベーク時間は、30~500秒間が好ましく、60~400秒間がより好ましい。
塗膜の乾燥後における下地剤層2の厚さは、10~100nm程度が好ましく、40~90nm程度がより好ましい。
次いで、下地剤層2の上に、相分離構造形成用樹脂組成物精製品を用いて、BCP層3を形成する。
下地剤層2の上にBCP層3を形成する方法としては、特に限定されるものではなく、例えばスピンコート又はスピンナーを用いる等の従来公知の方法により、下地剤層2上に相分離構造形成用樹脂組成物精製品を塗布して塗膜を形成し、乾燥させる方法が挙げられる。
相分離構造形成用樹脂組成物精製品の塗膜の乾燥方法としては、相分離構造形成用樹脂組成物精製品に含まれる有機溶剤成分を揮発させることができればよく、例えば振り切り乾燥やベークする方法等が挙げられる。
BCP層3の厚さは、相分離が起こるために充分な厚さであればよく、基板1の種類、又は、形成される相分離構造の構造周期サイズもしくはナノ構造体の均一性等を考慮すると、10~100nmが好ましく、30~80nmがより好ましい。
例えば、基板1がSi基板又はSiO基板の場合、BCP層3の厚さは、20~100nmが好ましく、30~80nmがより好ましい。
基板1がCu基板の場合、BCP層3の厚さは、10~100nmが好ましく、30~80nmがより好ましい。
[工程(ii)]
工程(ii)では、基板1上に形成された、BCP層3を相分離させる。
工程(i)後の基板1を加熱してアニール処理を行うことにより、ブロック共重合体の選択除去によって、基板1表面の少なくとも一部が露出するような相分離構造が形成する。すなわち、基板1上に、相3aと相3bとに相分離した相分離構造を含む構造体3’が製造される。
アニール処理の温度条件は、210℃以上が好ましく、220℃以上であることがより好ましく、230℃以上であることが更に好ましく、240℃以上であることが特に好ましい。アニール処理の温度条件の上限は、特に限定されないが、ブロックコポリマーの熱分解温度未満であることが好ましい。例えば、アニール処理の温度条件は、400℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることがさらに好ましい。アニール処理の温度条件の範囲としては、例えば、210~400℃、220~350℃、230~300℃、又は240~300℃等が挙げられる。
また、アニール処理における加熱時間は、1分以上であることが好ましく、5分以上であることがより好ましく、10分以上であることがさらに好ましく、15分以上であることが特に好ましい。加熱時間を長くすることにより、相分離構造形成用樹脂組成物精製品に化合物(IL)が含まれる場合、BCP層における化合物(IL)の残存量をより減らすことができる。加熱時間の上限は、特に限定されないが、工程時間管理の観点から、240分以下とすることが好ましく、180分以下とすることがより好ましい。アニール処理における加熱時間の範囲としては、例えば、1~240分、5~240分、10~240分、15分~240分、15~180分等が挙げられる。
また、アニール処理は、窒素等の反応性の低いガス中で行われることが好ましい。
相分離構造形成用樹脂組成物精製品に化合物(IL)が含まれる場合、アニール処理を行うことにより、BCP層から化合物(IL)が気化して除去されるため、アニール処理後のBCP層(すなわち、図1(III)における構造体3’)では、アニール処理前のBCP層と比較して、気化して除去された化合物(IL)の量に応じて膜厚が減少する。アニール処理前のBCP層の厚さ(tb(nm))に対する、アニール処理後のBCP層の厚さ(ta(nm))の割合(ta/tb)は、例えば、0.90以下であることが好ましい。(ta/tb)の値は、0.85以下であることがより好ましく、0.80以下であることがさらに好ましく、0.75以下であることが特に好ましい。(ta/tb)の値が小さくなると、BCP層における化合物(IL)の残存量が減少するため、ラフネスの発生が低減された良好な形状の構造体を得ることができる。(ta/tb)の下限値は、特に限定されないが、0.50以上が挙げられる。
上述した本態様の相分離構造を含む構造体の製造方法によれば、前記第1の態様にかかる相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法により得た相分離構造形成用樹脂組成物精製品が用いられているため、ディフェクト発生がより抑制されて、スカムやマイクロブリッジ発生等の不具合が低減された、良好な形状の相分離構造を含む構造体(相分離パターン)を形成できる。
尚、相分離パターンについてのディフェクトカウントは、表面欠陥観察装置(例えばKLAテンコール社製など)を用い、支持体内トータルの欠陥数(全欠陥数、単位:個)を測定することにより求められる。
(相分離構造形成用樹脂組成物精製品)
本発明の第3の態様にかかる相分離構造形成用樹脂組成物精製品は、ブロックポリマーと、有機溶剤成分とを含有する。該相分離構造形成用樹脂組成物精製品は、光散乱式液中粒子計数器によって計数される、0.11μm以上のサイズの被計数体の数が、5個/cm未満であるであることを特徴とする。
本態様にかかる相分離構造形成用樹脂組成物精製品は、上述した第1の態様にかかる相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法により得ることができる。前記第1の態様にかかる製造方法により得た相分離構造形成用樹脂組成物精製品は、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターを通過して濾過が施されていることで、異物が除去されたものである。したがって、本態様にかかる相分離構造形成用樹脂組成物精製品では、光散乱式液中粒子計数器によって計数される、0.11μm以上のサイズの被計数体の数が、5個/cm未満となり、異物の数が非常に少ないレジスト組成物組成製品を実現できる。
本態様にかかる相分離構造形成用樹脂組成物精製品において、光散乱式液中粒子計数器によって計数される、0.11μm以上のサイズの被計数体の数は、3個/cm以下が好ましく、2個/cm以下がより好ましく、1.8個/cm以下がさらに好ましく、1個/cm以下がさらに好ましい。
本態様にかかるレジスト組成物精製品は、このように異物の数が非常に少ないことにより、ディフェクトの少ないレジストパターンを形成することができる。
光散乱式液中粒子計数器としては、例えば、リオン株式会社製のKS-41B等を用いることができる。
(相分離構造を含む構造体の製造方法)
本発明の第4の態様にかかる相分離構造を含む構造体の製造方法は、前記第3の相分離構造形成用樹脂組成物精製品を用いて、基板上にブロックコポリマーを含む層(BCP層)を形成する工程と、前記BCP層を相分離させる工程と、を含む。
本態様にかかる相分離構造を含む構造体の製造方法は、上述の第2の態様にかかる相分離構造を含む構造体の製造方法と同様に行うことができる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
<相分離構造形成用樹脂組成物の調製(1)>
ポリスチレン(PSブロック)とポリメタクリル酸メチル(PMMAブロック)とのブロックコポリマー[Mn:PS30000,PMMA30000,合計60000;PS/PMMA組成比(質量比)50/50;分散度1.02]100質量部をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)7660質量部に溶解し、相分離構造形成用樹脂組成物(P)-1を調製した。
<相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造(1)>
前記相分離構造形成用樹脂組成物(P)-1を、表2に示す各フィルター及びろ過条件で濾過することによって、相分離構造形成用樹脂組成物精製品をそれぞれ製造した。なお、フィルターは上流から下流に向かって第1フィルター、第2フィルター及び第3フィルターの順で配置した。また、各例において、前記相分離構造形成用樹脂組成物(P)-1を各フィルターに10回通過させる循環ろ過を行った。
各フィルター(1)、(2)及び(3)の種類は表1に示す。フィルター(1)における多孔質膜は、特開2017-68262号公報に記載の製法に準じて得られる。なお、(1)及び(2)のフィルターについて、BET法による連通孔の平均孔径は、それぞれ約8nm及び約18nm及びであった。
Figure 0007499620000009
Figure 0007499620000010
≪相分離構造形成用樹脂組成物精製品についての評価(1)≫
各例の相分離構造形成用樹脂組成物精製品について、動的光散乱法に基づいて、光散乱式液中粒子計数器[リオン株式会社製、型番:KS-41B、光源:半導体レーザ励起固体レーザ(波長532nm、定格出力500mW)、定格流量:5mL/分]を用いて、0.11μm以上のサイズの被計数体の計数を行った。計数は3回行い、その平均値を計測値とした。なお、上記光散乱式液中粒子計数器は、PSL(Polystyrene Latex)標準粒子液で校正を行った後に用いた。結果を「パーティクル量(個/cm)」として表3に示す。
Figure 0007499620000011
表3に示す結果から、実施例1~5の相分離構造形成用樹脂組成物精製品は、比較例1~3の相分離構造形成用樹脂組成物精製品と比べて、パーティクル量が低減されていること、が確認できる。
<相分離構造形成用樹脂組成物の調製(2)>
ポリスチレン(PSブロック)とポリメタクリル酸メチル(PMMAブロック)とのブロックコポリマー[Mn:PS30000,PMMA30000,合計60000;PS/PMMA組成比(質量比)50/50;分散度1.02]100質量部と、下記化学式(IL-1)で表される化合物(IL)-1とをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)7660質量部に溶解し、相分離構造形成用樹脂組成物(P)-2を調製した。
Figure 0007499620000012
<相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造(2)>
前記相分離構造形成用樹脂組成物(P)-1を、表4に示す各フィルター及びろ過条件で濾過することによって、相分離構造形成用樹脂組成物精製品をそれぞれ製造した。なお、フィルターは上流から下流に向かって第1フィルター、第2フィルター及び第3フィルターの順で配置した。また、各例において、前記相分離構造形成用樹脂組成物(P)-2を各フィルターに10回通過させる循環ろ過を行った。
各フィルター(1)、(2)及び(3)の種類は表1に示す。
Figure 0007499620000013
≪相分離構造形成用樹脂組成物精製品についての評価(2)≫
各例の相分離構造形成用樹脂組成物精製品について、動的光散乱法に基づいて、光散乱式液中粒子計数器[リオン株式会社製、型番:KS-41B、光源:半導体レーザ励起固体レーザ(波長532nm、定格出力500mW)、定格流量:5mL/分]を用いて、0.11μm以上のサイズの被計数体の計数を行った。計数は3回行い、その平均値を計測値とした。なお、上記光散乱式液中粒子計数器は、PSL(Polystyrene Latex)標準粒子液で校正を行った後に用いた。結果を「パーティクル量(個/cm)」として表5に示す。
Figure 0007499620000014
表5に示す結果から、実施例6~10の相分離構造形成用樹脂組成物精製品は、比較例4~6の相分離構造形成用樹脂組成物精製品と比べて、パーティクル量が低減されていること、が確認できる。
1a 球状セル、1b 球状セル、5 連通孔。

Claims (7)

  1. 相分離構造形成用樹脂組成物を、隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有し、ポリイミドからなる多孔質膜を備えるフィルターで濾過する工程(i)と、
    前記工程(i)後の相分離構造形成用樹脂組成物を、ポリアミド樹脂からなる多孔質膜を備えるフィルターで濾過する工程(ii)を含む、
    相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法であって、
    前記相分離構造形成用樹脂組成物は、ブロックポリマーと、有機溶剤成分とを含有
    前記相分離構造形成用樹脂組成物精製品は、光散乱式液中粒子計数器によって計数される、0.11μm以上のサイズの被計数体の数は、1個/cm 以下である、
    相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法。
  2. 前記球状セルの平均球径が、10~500nmである、請求項1に記載の相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法。
  3. 前記多孔質構造は、BET法による平均孔径が1~50nmである連通孔を含む、請求項1又は2に記載の相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法。
  4. 前記相分離構造形成用樹脂組成物は、更にカチオン部とアニオン部とを有する化合物を含むイオン液体を含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法。
  5. 前記請求項1~のいずれか一項に記載の相分離構造形成用樹脂組成物精製品の製造方法により、相分離構造形成用樹脂組成物精製品を得る工程と、
    前記相分離構造形成用樹脂組成物精製品を用いて、基板上にブロックコポリマーを含む層(BCP層)を形成する工程と、
    前記BCP層を相分離させる工程と、
    を含む、相分離構造を含む構造体の製造方法。
  6. ブロックポリマーと、有機溶剤成分とを含有する相分離構造形成用樹脂組成物精製品であって、
    光散乱式液中粒子計数器によって計数される、0.11μm以上のサイズの被計数体の数が、個/cm 以下である、
    相分離構造形成用樹脂組成物精製品。
  7. 請求項に記載の相分離構造形成用樹脂組成物精製品を用いて、基板上にブロックコポリマーを含む層(BCP層)を形成する工程と、
    前記BCP層を相分離させる工程と、
    を含む、相分離構造を含む構造体の製造方法。
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