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JP7305936B2 - キッチンペーパー、キッチンロール及びキッチンペーパーの製造方法 - Google Patents

キッチンペーパー、キッチンロール及びキッチンペーパーの製造方法 Download PDF

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JP7305936B2 JP2018148241A JP2018148241A JP7305936B2 JP 7305936 B2 JP7305936 B2 JP 7305936B2 JP 2018148241 A JP2018148241 A JP 2018148241A JP 2018148241 A JP2018148241 A JP 2018148241A JP 7305936 B2 JP7305936 B2 JP 7305936B2
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Description

本発明は、キッチンペーパー及びキッチンロールに関する。
従来、キッチンペーパーやキッチンロールは台所等で広く使用されている。このようなキッチンペーパーは、台所周りや調理器具等の拭き清掃のほか、煮物の落とし蓋、油漉し、揚げ物の過剰油分の吸収等にも用いられる。このため、キッチンペーパーには、吸水性に加えて、吸油性等が求められる。
例えば、特許文献1には、表裏に凸部に対応する凹部を有するキッチンペーパーが開示されている。ここでは、エンボス加工された二枚のクレープ紙を、凸部形成面を対面させて、ネステッド形式で積層することで一体化している。このように、エンボス加工された二枚のクレープ紙を積層することで、吸水性と吸油性を高めることが検討されている。
特開2017-170699号公報
ところで、キッチンペーパーは、台所等で使用されるものであり、使用後には生ゴミ等と一緒に廃棄されることがある。生ゴミからは異臭が発せられる場合が多く、その異臭を緩和することが求められている。また、台所は様々な食材に由来する臭気や廃棄食材に由来する臭気が滞留する場所であるため、台所周りの臭気の抑制も求められる場合がある。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、台所周りにおいて優れた消臭機能を発揮し得るキッチンペーパーを提供することを目的として検討を進めた。
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、キッチンペーパーに繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含有させることにより、優れた消臭機能を発揮し得るキッチンペーパーが得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含有するキッチンペーパー。
[2] 繊維状セルロースは、アニオン基を有する[1]に記載のキッチンペーパー。
[3] アニオン基は、カルボキシル基、カルボキシル基に由来する置換基、リン酸基及びリン酸基に由来する置換基から選択される少なくとも1種である[2]に記載のキッチンペーパー。
[4] アニオン基は、リン酸基及びリン酸基に由来する置換基から選択される少なくとも1種である[2]又は[3]に記載のキッチンペーパー。
[5] 繊維状セルロースは、Ag、Au、Pt、Pd、Cu及びZnから選択される少なくとも1種の金属成分を担持する[1]~[4]のいずれかに記載のキッチンペーパー。
[6] 繊維状セルロースの含有量は、0.05~15g/mである[1]~[5]のいずれかに記載のキッチンペーパー。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載のキッチンペーパーをロール状としたキッチンロール。
本発明によれば、優れた消臭機能を発揮し得るキッチンペーパーを得ることができる。
図1は、キッチンロールの構成を説明する斜視図である。 図2は、リン酸基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。 図3は、カルボキシル基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
(キッチンペーパー)
本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含有するキッチンペーパーに関する。キッチンペーパーは、所定の大きさにカットされた薄葉紙であってもよい。このような薄葉紙は、所定枚数が外装容器に収容されて流通する。また、本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含有するキッチンペーパーを巻き取ってなるキッチンロールに関するものでもある。なお、本明細書において、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースのことを、微細繊維状セルロースともいう。
本発明のキッチンペーパーは上記構成を有するものであるため、優れた消臭機能を発揮する。具体的には、キッチンペーパーは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含有するため、消臭機能を発揮する機能性物質を繊維間で捕捉したり、繊維上に担持したりすることができる。これにより、消臭機能を発揮する機能性物質の脱落等が抑制され、キッチンペーパーは優れた消臭機能を長期間に亘って発揮することができる。
消臭機能を発揮する機能性物質としては、例えば、Ag、Au、Pt、Pd、Cu及びZnから選択される少なくとも1種の金属成分を挙げることができ、このような金属成分は、Ag、Cu及びZnから選択される少なくとも1種であることが好ましく、Agであることが特に好ましい。なお、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース自体も消臭効果を発揮するものである。
本発明のキッチンペーパーは上記構成を有するものであるため、消臭機能を発揮する機能性物質の他に、他の機能性物質を担持することもできる。他の機能性物質としてはさらに、芳香性物質、抗菌性物質、ウイルスを不活性化する作用を有する物質、保湿作用を有する物質等を挙げることができる。このような機能性物質を含有することにより、消臭機能に加えて、多様な機能をキッチンペーパーに付与することができる。
また、本発明のキッチンペーパーは上記構成を有するものであるため、キッチンペーパーの強度が高められている。微細繊維状セルロースを含有することで、キッチンペーパーの引張強度を高めることができ、さらに、湿潤時のキッチンペーパーの引張強度を高めることもできる。
キッチンペーパーは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースからなるシートであってもよいが、他の繊維を含む層であることが好ましい。他の繊維としては、天然繊維、合成繊維及び再生繊維から選択される少なくとも1種を挙げることができる。天然繊維としては、パルプ、綿、羊毛、絹等を挙げることができる。合成繊維としては、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ナイロン繊維、アクリル樹脂繊維等を挙げることができる。再生繊維としては、レーヨン繊維、アセテート繊維等を挙げることができる。中でも、キッチンペーパーはパルプを含むことが好ましく、繊維幅が1000nmを超える粗大パルプ繊維を含むことが好ましい。
キッチンペーパーにおける微細繊維状セルロースの含有量は、0.05g/m以上であることが好ましく、0.1g/m以上であることがより好ましく、0.5g/m以上であることがさらに好ましい。また、微細繊維状セルロースの含有量は、15g/m以下であることが好ましく、12g/m以下であることがより好ましく、10g/m以下であることがさらに好ましい。
キッチンペーパーがパルプ繊維を含む場合、パルプ繊維と微細繊維状セルロースの比率は、1:0.0001~1:0.1であることが好ましく、1:0.0005~1:0.05であることがより好ましい。
キッチンペーパーを形成するシートは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、上述した他の繊維に加えて、さらに他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、バインダー成分等を挙げることができる。バインダー成分としては、熱可塑性樹脂や澱粉等を挙げることができる。また、バインダー成分としては、水溶性高分子を挙げることができ、具体的には、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、メタクリル酸アルキル・アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリアクリルアミド等を挙げることができる。
他の成分としては、さらに、乾燥紙力剤、湿潤紙力剤、柔軟剤、香料等を挙げることができる。乾燥紙力剤としては、例えば、カチオン化澱粉、ポリアクリルアミド(PAM)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を挙げることができる。湿潤紙力剤としては、ポリアミドエピクロロヒドリン、尿素、メラミン、熱架橋性ポリアクリルアミド等を挙げることができる。柔軟剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を挙げることができる。香料としては、植物の精油(ラベンダー、ローズマリー、ペパーミント、スペアミント、ユーカリ等)、メントール、シトロネロール等を挙げることができる。上記の任意成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
キッチンペーパーは、1プライのキッチンペーパーであってもよいが、2プライ以上のキッチンペーパーであることが好ましい。キッチンペーパーのプライ数はキッチンペーパーウェブの重ね合わせ枚数を意味する。プライ数は、2以上であればよく、2以上4以下であることが好ましく、2もしくは3であることがより好ましく、2であることが特に好ましい。なお、キッチンペーパーが2プライ以上のものである場合、微細繊維状セルロースは、いずれかの層に含まれていればよいが、キッチンペーパーの露出表面に含まれていることが好ましい。これにより、消臭機能がより発揮されやすくなる。
キッチンペーパーの1プライ当たりの坪量は、12~30g/mであることが好ましく、15~25g/mであることがより好ましく、17~23g/mであることがさらに好ましい。キッチンペーパーの1プライ当たりの坪量を上記範囲内とすることにより、より効果的に消臭機能を発揮することができる。
キッチンペーパーには、エンボス加工が施されていることが好ましい。エンボス加工は、キッチンペーパーの全領域にわたって、均一に施されていても良いが、デザイン性や機能性を付与するために、不均一に施されていてもよい。この場合、所定領域において、エンボス密度が異なっていてもよい。エンボスパターン(形状)は、特に限定されず、円形、楕円形、多角形(三角形、四角形、五角形、六角形、等)でも良い。
キッチンペーパーのエンボスパターンでは、1個のエンボス直径(多角形の場合は、外接円の直径、楕円形の場合は、最も長い径)は0.5mm以上5mm以下であることが好ましく、0.7mm以上3mm以下であることがより好ましく、0.7mm以上3mm以下であることがさらに好ましく、1mm以上2.5mm以下であることが特に好ましい。また、エンボス密度は5個/cm以上50個/cm以下であることが好ましく、10個/cm以上30個/cm以下であることがより好ましく、15個/cm以上25個/cm以下であることがさらに好ましい。また、エンボスの高さは、100~800μmであることが好ましく、200~700μmであることがより好ましい。
上述したようなエンボスは、2プライのキッチンペーパーを重ね合わせた状態にしたまま、その全域にエンボス加工を施すことによって形成されることが好ましい。これにより、2プライのキッチンペーパーは、エンボス加工によって一体化されやすくなる。
2プライキッチンペーパーの厚みは、50μm以上であることが好ましく、250μm以上であることがより好ましく、300μm以上であることがさらに好ましい。また、2プライキッチンペーパーの厚みは、5000μm以下であることが好ましく、3000μm以下であることがより好ましく、2000μm以下であることがさらに好ましく、1000μm以下であることが特に好ましい。
(キッチンロール)
本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含有するキッチンペーパーをロール状としたキッチンロールに関するものでもある。キッチンロールにおいては、上述したキッチンペーパーを巻芯紙管に巻き取ることで形成されるものであることが好ましい。
図1は、キッチンロール1の構成を説明する斜視図である。キッチンロール1においては、巻芯紙管10にキッチンペーパー20がロール状に巻回されている。このように、キッチンロールは、巻芯紙管10と、巻芯紙管10に巻回されたキッチンペーパー20と、を備えるものであることが好ましい。
キッチンロールに用いられる巻芯紙管の内径は50mm以下であることが好ましく、45mm以下であることがより好ましい。巻芯紙管の内径は、10mm以上であることが好ましく、20mm以上であることがより好ましい。
なお、キッチンロールの直径は、100mm以上であることが好ましく、105mm以上であることがより好ましく、110mm以上であることがさらに好ましい。また、キッチンロールの直径は、300mm以下であることが好ましい。
なお、巻芯紙管にも微細繊維状セルロースが含まれていてもよい。
図1に示されるようにキッチンペーパー20は、エンボス21を有することが好ましい。図1では、エンボス加工は、キッチンペーパーの全領域にわたって、均一に施されている。
(微細繊維状セルロース)
キッチンペーパーは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(微細繊維状セルロース)を含む。
繊維状セルロースの平均繊維幅は、2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることがとくに好ましい。繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、繊維状セルロースは、たとえば単繊維状のセルロースである。
繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
繊維状セルロースの繊維長は、とくに限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、とくに限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば繊維状セルロースを水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
本実施形態における繊維状セルロースは、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。とくに、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い微細繊維状セルロースは、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
本実施形態における繊維状セルロースは、アニオン基を有することが好ましい。アニオン基としては、たとえばリン酸基またはリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基またはカルボキシル基に由来する置換基(単にカルボキシル基ということもある)、およびスルホン基またはスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、カルボキシル基、カルボキシル基に由来する置換基、リン酸基及びリン酸基に由来する置換基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基及びリン酸基に由来する置換基から選択される少なくとも1種であることがとくに好ましい。リン酸基は、カルボキシル基等と比較して、1分子あたりのアニオン基数が多いため、より多くの金属成分を担持することができる。これにより、より優れた消臭効果が発揮されるものと考えられる。
リン酸基は、たとえばリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-POで表される基である。リン酸基に由来する置換基には、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれる。なお、リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)として繊維状セルロースに含まれていてもよい。
リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、たとえば下記式(1)で表される置換基である。
Figure 0007305936000001
式(1)中、a、b及びnは自然数である(ただし、a=b×mである)。α,α,・・・,α及びα’のうちa個がOであり、残りはR,ORのいずれかである。なお、各αn及びα’の全てがOであっても構わない。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、又はt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、又は3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシル基、ヒドロキシル基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リン酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
繊維状セルロースに対するアニオン基の導入量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、繊維状セルロースに対するアニオン基の導入量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.50mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。アニオン基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。
ここで、単位mmol/gは、アニオン基の対イオンが水素イオン(H)であるときの繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量を示す。
繊維状セルロースに対するアニオン基の導入量は、たとえば伝導度滴定法により測定することができる。伝導度滴定法による測定では、得られた繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながら伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定する。
図2は、リン酸基を有する繊維状セルロースに対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するリン酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を観察し、図2に示すような滴定曲線を得る。図2に示すように、最初は急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このように、滴定曲線には、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。このため、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。したがって、上記で得られた滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リン酸基導入量(mmol/g)となる。
図3は、カルボキシル基を有する繊維状セルロースに対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するカルボキシル基の導入量は、たとえば次のように測定される。まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を観察し、図3に示すような滴定曲線を得る。滴定曲線は、図3に示すように、電気伝導度が減少した後、伝導度の増分(傾き)がほぼ一定となるまでの第1領域と、その後に伝導度の増分(傾き)が増加する第2領域に区分される。なお、第1領域、第2領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、カルボキシル基の導入量(mmol/g)となる。
なお、上述のカルボキシル基導入量(mmol/g)は、カルボキシル基の対イオンが水素イオン(H)であるときの繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量(以降、カルボキシル基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、カルボキシル基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するカルボキシル基量(以降、カルボキシル基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によってカルボキシル基導入量を算出する。
カルボキシル基導入量(C型)=カルボキシル基量(酸型)/{1+(W-1)×(カルボキシル基量(酸型))/1000}
W:陽イオンCの1価あたりの式量(例えば、Naは23、Alは9)
<微細繊維状セルロースの製造工程>
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、とくに限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
<リン酸基導入工程>
微細繊維状セルロースがリン酸基を有する場合、微細繊維状セルロースの製造工程は、リン酸基導入工程を含む。リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リン酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リン酸基導入繊維が得られることとなる。
本実施形態に係るリン酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、とくに限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、とくに限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、またはリン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、またはリン酸二水素アンモニウムがより好ましい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。
反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、とくに限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
リン酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば攪拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いることができる。
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリン酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリン酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリン酸基を導入することができる。本実施形態においては、好ましい態様の一例として、リン酸基導入工程を2回行う場合が挙げられる。
<カルボキシル基導入工程>
微細繊維状セルロースがカルボキシル基を有する場合、微細繊維状セルロースの製造工程は、カルボキシル基導入工程を含む。カルボキシル基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、特に限定されないが、たとえばマレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばカルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、特に限定されないが、たとえばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、たとえば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
カルボキシル基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合には、たとえばその処理をpHが6以上8以下の条件で行うことが好ましい。このような処理は、中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、例えばリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、繊維原料としてパルプと、触媒としてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシル基まで酸化することができる。
また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、たとえば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
<洗浄工程>
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてアニオン基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶剤によりアニオン基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、とくに限定されない。
<アルカリ処理工程(中和工程)>
微細繊維状セルロースを製造する場合、アニオン基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶剤のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶剤などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるリン酸基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばリン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、アニオン基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、アニオン基導入繊維を水や有機溶剤により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったアニオン基導入繊維を水や有機溶剤により洗浄することが好ましい。
<解繊処理>
アニオン基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
解繊処理工程においては、たとえばリン酸基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶剤などの有機溶剤から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶剤としては、とくに限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン性極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、リン酸基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのリン酸基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
(金属成分)
微細繊維状セルロースは、Ag、Au、Pt、Pd、Cu及びZnから選択される少なくとも1種の金属成分を担持するものであることが好ましい。このような金属成分は、Ag、Cu及びZnから選択される少なくとも1種であることが好ましく、Agであることが特に好ましい。上述した金属成分は、例えば、リン酸基を有する微細繊維状セルロースに含まれるリン酸基と、配位結合、水素結合、またはイオン結合することで担持される。このような結合の状態は、たとえばX線光電子分光分析もしくは赤外分光分析により解析できる。
微細繊維状セルロース1g当たりに含まれる金属イオンの含有量は、1.0~100mgであることが好ましく、5.0~80mgであることがより好ましい。
<金属成分の担持>
微細繊維状セルロースに金属成分を担持させる方法としては、アニオン基を有する微細繊維状セルロースに対して金属化合物水溶液を接触させる方法を挙げることができる。例えば、アニオン基を有する微細繊維状セルロースの分散液に対して金属化合物の水溶液を添加してもよく、アニオン基を有する微細繊維状セルロースを含む繊維層に対して金属化合物の水溶液を滴下して含浸させてもよい。金属化合物の水溶液としては、たとえば金属塩または有機金属化合物の水溶液を用いることができる。金属塩としては、たとえば金属成分の錯体(錯イオン)、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、および酢酸塩が含まれる。なお、金属塩は水溶性であることが好ましい。
金属化合物水溶液の濃度は特に限定されないが、アニオン基を有する微細繊維状セルロース100質量部に対して10質量部以上80質量部以下が好ましく、30質量部以上60質量部以下がより好ましい。金属化合物を接触させる時間は適宜調整してよい。接触させる際の温度は特に限定されないが20℃以上40℃以下が好ましい。また、接触させる際の液のpHは2.5以上pH13以下が好ましい。
アニオン基を有する微細繊維状セルロースに対して金属化合物水溶液を接触させた後には、アニオン基を有する微細繊維状セルロースに結合した金属化合物を還元する工程を設けてもよい。これにより、還元されて得られた金属粒子などの金属成分がセルロース繊維の表面に担持されることとなる。還元反応は、公知の方法で行ってよいが、金属化合物を還元しつつ、金属化合物とアニオン基との結合を開裂しないように行うことが好ましい。本実施形態においては、たとえば水素による気相還元法、および水素化ホウ素ナトリウム水溶液などの還元剤を用いた液相還元法により還元処理を行うことができる。気相還元における時間、温度等の条件は適宜調整されるが、たとえば50℃以上60℃以下で1時間以上3時間以下程度反応させることができる。液相還元における反応温度は、たとえば4℃以上40℃以下が好ましく、室温がより好ましい。なお、本実施形態においては、金属化合物を還元する当該処理を実施しなくともよい。
また、アニオン基を有する微細繊維状セルロースに対して金属化合物水溶液を接触させた後には、洗浄工程が設けられてもよい。例えば、金属化合物水溶液として硝酸塩水溶液を用いた場合、洗浄工程を設けることにより硝酸イオン等の除去を行うことができる。
なお、キッチンペーパーには、任意成分として、微細繊維状セルロースに担持されていない金属化合物や無機化合物等が含まれていてもよい。このような任意成分としては、たとえば、二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化鉄(FeO)、酸化イットリウム(Y)、3酸化インジウム(InO)、酸化マグネシウム(MgO)、二酸化チタン(TiO)、二酸化セリウム(CeO)、四酸化三マンガン(Mn)、五酸化ニオブ(Nb)、炭化珪素(SiC)、炭化ホウ素(BC)、窒化アルミニウム(AlN)、ホウ化チタン(TiB)、ゼオライト、ハイドロキシアパタイト、およびシリカに金属ナノ粒子が結合したナノプラチナ-シリカ粒子等を挙げることができる。上記金属ナノ粒子としては、たとえば金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄、白金、ルテニウム、亜鉛、パナジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムなどが挙げられる。
(キッチンペーパーの製造方法)
キッチンペーパーの製造方法は、金属成分を担持した微細繊維状セルロースを含むキッチンペーパーを得る工程を含むことが好ましい。
金属成分を担持した微細繊維状セルロースを含むキッチンペーパーを得る工程は、キッチンペーパー原紙と、金属成分を担持した微細繊維状セルロース含有スラリーを接触させる工程を含むことが好ましい。このような工程としては、例えば、該スラリーを噴霧する工程や、該スラリーを塗工する工程、該スラリーにキッチンペーパー原紙を含浸させる工程を挙げることができる。中でも、金属成分を担持した微細繊維状セルロース含有スラリーを接触させる工程は、キッチンペーパー原紙に金属成分を担持した微細繊維状セルロース含有スラリーをロール塗工(ロール転写)する工程であることが好ましい。
金属成分を担持した微細繊維状セルロース含有スラリーをロール塗工する場合、金属成分を担持した微細繊維状セルロース含有スラリーを、乾燥後の固形分量が0.1g/m以上となるように塗工することが好ましく、0.5g/m以上となるように塗工することがより好ましく、1g/m以上となるように塗工することがさらに好ましく、2g/m以上となるように塗工することが特に好ましい。なお、金属成分を担持した微細繊維状セルロース含有スラリーの塗工量の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、50g/mとなるように塗工することが好ましい。なお、塗工に供される金属成分を担持した微細繊維状セルロース含有スラリーの固形分濃度は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
上記工程(噴霧、塗工又は含浸工程)の後には、乾燥工程を設けることが好ましく、乾燥の方法は特に限定されない。乾燥工程は、例えば、23℃、相対湿度50%の環境下に1時間以上静置することで行うことができる。
なお、金属成分を担持した微細繊維状セルロースを含むキッチンペーパーを得る工程は、微細繊維状セルロースを含むキッチンペーパー原紙を得る工程と、キッチンペーパー原紙を得る工程の後に、金属化合物水溶液を接触させる工程を設けてもよい。この場合、微細繊維状セルロースを含むキッチンペーパー原紙を得る工程では、例えばパルプ繊維含有スラリーと微細繊維状セルロース含有スラリーを混合して、微細繊維状セルロースを含むキッチンペーパー原紙を抄紙することができる。このように、微細繊維状セルロースを含むキッチンペーパー原紙を抄紙することで、より強度の高いキッチンペーパーを得ることができる。
キッチンペーパーの製造工程は、さらにエンボス加工を施す工程を含むことが好ましい。エンボス加工を施す工程は、1プライのキッチンペーパーウェブを貼り合わせる工程の後に設けられる。エンボス加工は、エンボスパターンを構成する凸構造が設置されたエンボスロールとラバーロールとの間に2プライとなるように積層したキッチンペーパーウェブを通し、エンボスパターンを型押しすることによって行われる。エンボスロールのエンボス高さや、押し込み量、押し込み圧を変更することによって、所望のエンボス高さを有するエンボスを形成することができる。
キッチンロールを製造する場合には、上記エンボス工程の後に、さらに巻き取り工程が設けられる。この巻き取り工程においては、所定の製品長を満たすように、所定の長さ分の巻き取りを行う。そして、得られた巻取ロールを所定の幅に断裁する。巻き取り工程では、例えばマンドレルシャフトを有するワインダーを用いて、以下のように行うことができる。(1)まず巻芯紙管をマンドレルシャフトに挿入し、固定する。(2)巻芯紙管に接着剤を付着させ、紙管にキッチンペーパーの始端部を接着固定する。(3)マンドレルシャフトを回転させることにより、2プライのキッチンペーパーを製品長さ分だけ芯管に巻き取る。
以下に製造例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の製造例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
(例1)
<微細繊維状セルロースの作製>
[リン酸化]
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/mシート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。この原料パルプに対してリン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃に設定した送風乾燥機で、10分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
次いで、得られたリン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
洗浄後のリン酸化パルプに対して、さらに上記リン酸化処理、上記洗浄処理をこの順に1回ずつ行った。
[中和処理]
次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。
次いで、中和処理後のリン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。
これにより得られたリン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基に基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。
また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
[解繊処理]
得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて2回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(1)を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、4nmであった。なお、後述する測定方法で測定されるリン酸基量(強酸性基量)は、1.00mmol/gだった。
[繊維幅の測定]
微細繊維状セルロースの繊維幅は下記の方法で測定した。
湿式微粒化装置にて処理をして得られた微細繊維状セルロース分散液(1)の上澄み液を、微細繊維状セルロースの濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。これを乾燥した後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL-2000EX)により観察した。
[リン酸基量の測定]
微細繊維状セルロースのリン酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(1)をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、30秒に1回、50μLずつ加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測することにより行った。リン酸基量(mmol/g)は、計測結果のうち図2に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
[イオン交換処理及び金属イオン担持]
得られた微細繊維状セルロース分散液(1)をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理を行った。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%の微細繊維状セルロース分散液に体積比で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024:オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。次いで、硝酸銀(I)をリン酸基導入量の2倍等量となるように添加し、30分攪拌を行い、金属成分として銀イオンを担持した微細繊維状セルロース含有スラリー(1)を得た。
[洗浄及びスラリーの調製]
次いで、得られたスラリー(1)の濾過洗浄を行い、系内に残留する硝酸イオンの除去を実施した。具体的には、ガラスフィルターの上に1.0μm孔径のPTFE製メンブランフィルターを載せ、フィルターをIPAで湿らせた後、スラリーを注ぎ、減圧度-0.09MPa(絶対真空度10kPa)にて減圧濾過を実施した。PTFE製メンブランフィルターの上に、銀イオンを担持した微細繊維状セルロースの堆積物が形成されたことを確認した後、元のスラリーと同量の水を注ぎ、減圧濾過する工程を2度繰り返した。得られた銀イオンを担持した微細繊維状セルロースの堆積物をイオン交換水で含有量が1.0質量%となるように希釈し、銀イオンを担持した洗浄済みの微細繊維状セルロース含有スラリー(1)を得た。
<キッチンペーパーの作製>
キッチンペーパー原紙として、2プライのキッチンペーパー(1プライの坪量22.0g/m、2プライの厚さ550μm)を用いた。銀イオンを担持した微細繊維状セルロース含有スラリー(1)を乾燥後の固形分量が0.1g/mとなるようにキッチンペーパー原紙の片面にロール塗工した。静置して自然乾燥を行い、微細繊維状セルロースを含有するキッチンペーパーを得た。
(例2)
銀イオンを担持した微細繊維状セルロース含有スラリー(1)を、乾燥後の固形分量が0.5g/mとなるように塗工した以外は例1と同様にしてキッチンペーパーを作製した。
(例3)
銀イオンを担持した微細繊維状セルロース含有スラリー(1)を、乾燥後の固形分量が1.0g/mとなるように塗工した以外は例1と同様にしてキッチンペーパーを作製した。
(例4)
銀イオンを担持した微細繊維状セルロース含有スラリー(1)を、乾燥後の固形分量が5.0g/mとなるように塗工した以外は例1と同様にしてキッチンペーパーを作製した。
(例5)
銀イオンを担持した微細繊維状セルロース含有スラリー(1)を、乾燥後の固形分量が10.0g/mとなるように塗工した以外は例1と同様にしてキッチンペーパーを作製した。
(例6)
銀イオンを担持した微細繊維状セルロース含有スラリー(1)を塗工しなかった以外は例1と同様にしてキッチンペーパーを作製した。
(評価)
(臭気)
ビニール袋(10L)にろ紙を入れ、ろ紙に10%アンモニア水を1ml含浸させた。次にビニール袋中のろ紙と接触しないように、ビニール袋にキッチンペーパー(2プライ、幅230mm、縦200mm)を入れ、ビニール袋を密閉した。密閉してから5分後、ビニール袋を開封し、下記の5段階でビニール袋中の臭気を評価した。被験者10名で評価を行い、10名の平均値を評価値とした。結果を表1に示す。
5:全く臭いを感じなかった
4:ほとんど臭いを感じなかった
3:やや臭いを感じた
2:臭いを感じた
1:強く臭いを感じた
Figure 0007305936000002
(例7)
[TEMPO酸化]
乾燥質量100質量部相当の未乾燥の針葉樹晒クラフトパルプと2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部とを水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して3.8mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上10.5以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
次いで、得られたTEMPO酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、TEMPO酸化後のパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。得られたカルボキシル基変性セルロース繊維を用いて、例1と同様に機械処理を行い、微細繊維状セルロース(2)を得た。微細繊維状セルロース分散液(2)に含まれる微細繊維状セルロースの平均繊維幅は4nmであった。なお、後述する測定方法で測定されるカルボキシル基量は、1.01mmol/gだった。
[カルボキシル基量の測定]
微細繊維状セルロースのカルボキシル基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(2)をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を30秒に1回、50μLずつ加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測することにより行った。カルボキシル基量(mmol/g)は、計測結果のうち図3に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
[イオン交換処理及び金属イオン担持]
得られた微細繊維状セルロース分散液(2)に対して、例1と同様の方法でイオン交換処理及び金属イオン担持を行った。また、例1と同様の方法で洗浄を行い、銀イオンを担持した微細繊維状セルロース含有スラリー(2)の調製を行った。
<キッチンペーパーの作製>
キッチンペーパー原紙として、2プライのキッチンペーパー(1プライの坪量22.0g/m、2プライの厚さ550μm)を用いた。銀イオンを担持した微細繊維状セルロース含有スラリー(2)を乾燥後の固形分量が0.1g/mとなるようにキッチンペーパー原紙の片面にロール塗工した。静置して自然乾燥を行い、微細繊維状セルロースを含有するキッチンペーパーを得た。
(例8)
銀イオンを担持した微細繊維状セルロース含有スラリー(2)を、乾燥後の固形分量が0.5g/mとなるように塗工した以外は例7と同様にしてキッチンペーパーを作製した。
(例9)
銀イオンを担持した微細繊維状セルロース含有スラリー(2)を、乾燥後の固形分量が1.0g/mとなるように塗工した以外は例7と同様にしてキッチンペーパーを作製した。
(例10)
銀イオンを担持した微細繊維状セルロース含有スラリー(2)を、乾燥後の固形分量が5.0g/mとなるように塗工した以外は例7と同様にしてキッチンペーパーを作製した。
(例11)
銀イオンを担持した微細繊維状セルロース含有スラリー(2)を、乾燥後の固形分量が10.0g/mとなるように塗工した以外は例7と同様にしてキッチンペーパーを作製した。
(評価)
上述した臭気評価の方法で例7~例11の評価を行った。
Figure 0007305936000003
微細繊維状セルロースを含有するキッチンペーパーは、消臭効果を発揮することが確認された。特に例1~5において、リン酸基を有する微細繊維状セルロースを含有するキッチンペーパーでは高い消臭効果が発揮されていた。
(例12)
2プライのキッチンペーパー(2プライの厚さ550μm、幅230mm)の片面に、銀イオンを担持した微細繊維状セルロース含有スラリー(1)を乾燥後の固形分量が0.1g/mとなるようにロール塗工した。ドライヤーで乾燥後、巻芯紙管(外径40mm)にキッチンペーパーをロール状に巻き取った。このようにして、2プライのキッチンペーパーを含むキッチンロール(巻長さ22m、巻径112mm)を得た。
例12で得たキッチンロールについても、消臭効果を上述した方法と同様にして評価した。
Figure 0007305936000004
1 キッチンロール
10 巻芯紙管
20 キッチンペーパー
21 エンボス

Claims (3)

  1. 繊維幅が2nm以上10nm以下の繊維状セルロースを含有するキッチンペーパーの製造方法であって、
    前記繊維幅が2nm以上10nm以下の繊維状セルロースを含有するスラリーを得る工程と、
    キッチンペーパー原紙に前記スラリーを噴霧、塗工もしくは含浸させる工程と、を含み、
    前記繊維状セルロースは、リン酸基及びリン酸基に由来する置換基から選択される少なくとも1種を有する、キッチンペーパーの製造方法。
  2. 前記繊維状セルロースは、Ag、Au、Pt、Pd、Cu及びZnから選択される少なくとも1種の金属成分を担持する、請求項1に記載のキッチンペーパーの製造方法。
  3. 前記キッチンペーパーにおける前記繊維状セルロースの含有量が、0.05~15g/m である請求項1又は2に記載のキッチンペーパーの製造方法。
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