以下、図面を用いて、本発明に係る車両用空調装置1の一実施形態を説明する。本実施形態の車両用空調装置1は、車両走行用の駆動力を電動モータから得る電気自動車に搭載されている。本実施形態の車両用空調装置1は、電気自動車において、空調対象空間である車室内の空調を行うとともに、冷却対象物であるバッテリ70を冷却する冷却機能付きの車両用空調装置である。
バッテリ70は、電動モータ等の車載機器へ供給される電力を蓄える二次電池である。バッテリ70は、複数の電池セルを電気的に直列的あるいは並列的に接続することによって形成された組電池である。
電池セルは、充放電可能な二次電池である。本実施形態では、電池セルとして、リチウムイオン電池を採用している。それぞれの電池セルは、扁平な直方体形状に形成されている。それぞれの電池セルは、平坦面同士が対向するように積層配置されて一体化されている。このため、バッテリ70全体としても略直方体形状に形成されている。
この種のバッテリ70は、低温になると出力が低下しやすく、高温になると劣化が進行しやすい。このため、バッテリ70の温度は、バッテリ70が充分な充放電性能を発揮することのできる適切な温度範囲内(本実施形態では、15℃以上、かつ、55℃以下)に維持されている必要がある。
さらに、複数の電池セルを電気的に接続することによって形成されたバッテリ70は、いずれかの電池セルの性能が低下してしまうと、組電池全体としての性能が低下してしまう。このため、バッテリ70を冷却する際には、全ての電池セルを均等に冷却することが望ましい。
本実施形態の車両用空調装置1は、図1に示す冷凍サイクル装置10、熱媒体回路20、室内空調ユニット30、電池パック40、および図2に示す空調制御装置50等を備えている。
まず、冷凍サイクル装置10について説明する。冷凍サイクル装置10は、車両用空調装置1において、車室内へ送風される空調用送風空気、およびバッテリ70に吹き付けられる冷却用送風空気を冷却する。冷凍サイクル装置10は、冷媒回路として、電池単独サイクル、空調単独サイクル、空調電池サイクルを切り替えることができる。
空調単独サイクルは、冷却用送風空気を冷却することなく空調用送風空気を冷却する際に切り替えられる冷媒回路である。より詳細には、空調単独サイクルは、後述する右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bへ冷媒を流入させることなく、後述する空調用蒸発器16へ冷媒を流入させる冷媒回路である。
電池単独サイクルは、空調用送風空気を冷却することなく冷却用送風空気を冷却する際に切り替えられる冷媒回路である。より詳細には、電池単独サイクルは、空調用蒸発器16へ冷媒を流入させることなく、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bへ冷媒を流入させる冷媒回路である。電池単独サイクルは冷却単独サイクルの一例である。
空調電池サイクルは、空調用送風空気および冷却用送風空気の双方を冷却する際等に切り替えられる冷媒回路である。より詳細には、空調電池サイクルは、空調用蒸発器16へ冷媒を流入させるとともに、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bへ冷媒を流入させる冷媒回路である。
冷凍サイクル装置10では、冷媒として、HFO系冷媒(具体的には、R1234yf)を採用している。冷凍サイクル装置10は、高圧側の冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない蒸気圧縮式の亜臨界冷凍サイクルを構成する。冷媒には、圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されている。本実施形態では、冷凍機油として、液相冷媒に相溶性を有するPAGオイル(ポリアルキレングリコールオイル)を採用している。冷凍機油の一部は、冷媒とともにサイクルを循環している。
圧縮機11は、冷凍サイクル装置10において、冷媒を吸入し、圧縮して吐出する。圧縮機11は、車両の前方側の駆動装置室に配置されている。駆動装置室は、車両走行用の駆動力の発生あるいは調整のために用いられる機器(例えば、電動モータ)等の少なくとも一部が配置される空間を形成している。
圧縮機11は、吐出容量が固定された固定容量型の圧縮機構を電動モータにて回転駆動する電動圧縮機である。圧縮機11は、空調制御装置50から出力された制御信号によって、回転数(すなわち、冷媒吐出能力)が制御される。
圧縮機11の吐出口には、凝縮器12の冷媒入口側が接続されている。凝縮器12は、圧縮機11から吐出された高圧冷媒と外気ファン12aから送風された外気とを熱交換させる。凝縮器12は、冷媒の有する熱を外気へ放熱させて、冷媒を凝縮させる凝縮用の熱交換部である。凝縮器12は、駆動装置室の前方側に配置されている。凝縮器12は、放熱部の一例である。
外気ファン12aは、凝縮器12へ向けて外気を送風する電動送風機である。外気ファン12aは、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、回転数(すなわち、送風能力)が制御される。外気ファン12aは、凝縮器12へ外気を送ることができれば、吸込方式のファンを採用してもよいし、吹出方式のファンを採用してもよい。外気ファン12aは、送風ファンの一例である。
凝縮器12の冷媒出口側には、レシーバ12bが接続されている。レシーバ12bは、凝縮器12から流出した冷媒の気液を分離して、分離された液相冷媒の一部を下流側に流出させるとともに、残余の液相冷媒をサイクルの余剰冷媒として蓄える受液部である。本実施形態の凝縮器12とレシーバ12bは、一体的に形成されている。
レシーバ12bの出口には、レシーバ12bから流出した冷媒の流れを分岐する分岐部13aの流入口側が接続されている。分岐部13aは、互いに連通する3つの流入出口を有する三方継手である。分岐部13aでは、3つの流入出口のうちの1つを流入口として用い、残りの2つを流出口として用いている。
分岐部13aの一方の流出口には、空調用電磁弁14aを介して、空調用膨張弁15の入口側が接続されている。分岐部13aの他方の流出口には、電池用電磁弁14bを介して、電池側分岐部13cの流入口側が接続されている。
空調用電磁弁14aは、分岐部13aの一方の流出口から空調用膨張弁15の入口へ至る冷媒通路を開閉する空調用開閉部である。空調用電磁弁14aは、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、開閉作動が制御される。冷凍サイクル装置10では、空調用電磁弁14aが冷媒通路を開閉することによって、冷媒回路を切り替えることができる。従って、空調用電磁弁14aは、冷媒回路の切替部である。
空調用膨張弁15は、分岐部13aの一方の流出口から流出した冷媒を低圧冷媒となるまで減圧させる空調用減圧部である。さらに、空調用膨張弁15は、空調用蒸発器16へ流入する冷媒流量を調整する空調用流量調整部である。
本実施形態では、空調用膨張弁15として、機械的機構で構成された温度式膨張弁を採用している。より具体的には、空調用膨張弁15は、空調用蒸発器16の出口側冷媒の温度および圧力に応じて変形する変形部材(具体的には、ダイヤフラム)を有する感温部と、変形部材の変形に応じて変位して絞り開度を変化させる弁体部とを有している。
これにより、空調用膨張弁15では、空調用蒸発器16の出口側の冷媒の過熱度が予め定めた基準過熱度(本実施形態では、5℃)に近づくように、絞り開度を変化させる。ここで、機械的機構とは、電力の供給を必要とすることなく、流体圧力による荷重や弾性部材による荷重等によって作動する機構を意味している。
空調用膨張弁15の出口には、空調用蒸発器16の冷媒入口側が接続されている。空調用蒸発器16は、空調用膨張弁15にて減圧された低圧冷媒と空調用送風空気とを熱交換させる。空調用蒸発器16は、空調用送風空気を冷却するために低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる空調用蒸発部である。空調用蒸発器16は、室内空調ユニット30の空調用ケーシング31内に配置されている。
空調用蒸発器16の出口には、逆止弁17を介して、合流部13bの一方の流入口側が接続されている。逆止弁17は、空調用蒸発器16の出口側から合流部13bの一方の流入口側へ冷媒が流れることを許容し、合流部13bの一方の流入口側から空調用蒸発器16の出口側へ冷媒が流れることを禁止する。
合流部13bは、分岐部13aと同様の三方継手である。合流部13bでは、3つの流入出口のうちの2つを流入口として用い、残りの1つを流出口として用いている。合流部13bの流出口には、圧縮機11の吸入口側が接続されている。
また、電池用電磁弁14bは、分岐部13aの他方の流出口から電池側分岐部13cの流入口へ至る冷媒通路を開閉する冷却用開閉部である。電池用電磁弁14bの基本的構成は、空調用電磁弁14aと同様である。冷凍サイクル装置10では、電池用電磁弁14bが冷媒通路を開閉することによって、冷媒回路を切り替えることができる。従って、電池用電磁弁14bは、空調用電磁弁14aとともに、冷媒回路の切替部である。
電池側分岐部13cは、分岐部13aと同様の構成の三方継手である。電池側分岐部13cの一方の流出口には、右側電池用膨張弁18aの入口側が接続されている。電池側分岐部13cの他方の流出口には、左側電池用膨張弁18bの入口側が接続されている。
右側電池用膨張弁18aは、電池側分岐部13cの一方の流出口から流出した冷媒を低圧冷媒となるまで減圧させる冷却用減圧部である。さらに、右側電池用膨張弁18aは、右側電池用蒸発器19aへ流入する冷媒流量を調整する冷却用流量調整部である。
本実施形態では、右側電池用膨張弁18aとして、電気的機構で構成された電気式膨張弁を採用している。より具体的には、右側電池用膨張弁18aは、絞り開度を変化させる弁体部と、弁体部を変位させる電動アクチュエータ(具体的には、ステッピングモータ)を有している。
右側電池用膨張弁18aは、空調制御装置50から出力される制御パルスによって、その作動が制御される。さらに、右側電池用膨張弁18aは、絞り開度を全閉とすることで、冷媒通路を閉塞する全閉機能を有している。ここで、電気的機構とは、電力が供給されることによって作動する機構を意味している。
右側電池用膨張弁18aの出口には、右側電池用蒸発器19aの冷媒入口側が接続されている。右側電池用蒸発器19aは、右側電池用膨張弁18aにて減圧された低圧冷媒とバッテリ70に吹き付けられる冷却用送風空気とを熱交換させる。右側電池用蒸発器19aは、バッテリ70を冷却するために低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させることによって、冷却用送風空気を冷却する冷却用蒸発部である。
左側電池用膨張弁18bは、電池側分岐部13cの他方の流出口から流出した冷媒を低圧冷媒となるまで減圧させる冷却用減圧部である。さらに、左側電池用膨張弁18bは、左側電池用蒸発器19bへ流入する冷媒流量を調整する冷却用流量調整部である。左側電池用膨張弁18bの基本的構成は、右側電池用膨張弁18aと同様である。
左側電池用膨張弁18bの出口には、左側電池用蒸発器19bの冷媒入口側が接続されている。左側電池用蒸発器19bは、左側電池用膨張弁18bにて減圧された低圧冷媒とバッテリ70に吹き付けられる冷却用送風空気とを熱交換させる。左側電池用蒸発器19bは、バッテリ70を冷却するために低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させることによって、冷却用送風空気を冷却する冷却用蒸発部である。
従って、本実施形態の冷却用蒸発部は、複数設けられている。複数の冷却用蒸発部は、冷媒流れに対して互いに並列的に接続されている。また、冷却用流量調整部は、複数の冷却用蒸発部と同数設けられている。それぞれの冷却用流量調整部は、それぞれの冷却用蒸発部の冷媒流れ上流側に配置されて、それぞれの冷却用蒸発部へ流入する冷媒流量を個別に調整できるようになっている。
右側電池用蒸発器19aの出口には、電池側合流部13dの一方の流入口側が接続されている。左側電池用蒸発器19bの出口には、電池側合流部13dの他方の流入口側が接続されている。電池側合流部13dは、合流部13bと同様の構成の三方継手である。電池側合流部13dの流出口には、合流部13bの他方の流入口側が接続されている。
上述した右側電池用膨張弁18a、左側電池用膨張弁18b、右側電池用蒸発器19a、左側電池用蒸発器19b、および電池側合流部13dは、電池パック40の電池用ケーシング41内に配置されている。
ここで、空調用蒸発器16、右側電池用蒸発器19a、および左側電池用蒸発器19bの詳細構成について説明する。冷凍サイクル装置10では、空調用蒸発部(すなわち、空調用蒸発器16)と冷却用蒸発部(すなわち、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19b)が、冷媒の流れに対して並列的に接続されている。さらに、空調用蒸発器16、右側電池用蒸発器19a、および左側電池用蒸発器19bとして、いわゆるタンクアンドチューブ型の熱交換器を採用している。
タンクアンドチューブ型の熱交換器は、複数の冷媒チューブと一対のタンクとを有している。冷媒チューブは、内部に冷媒を流通させる金属製の管である。複数の冷媒チューブは、間隔を空けて所定方向に積層配置されている。隣り合う冷媒チューブ同士の間には、冷媒と熱交換する空気を流通させる空気通路が形成される。
タンクは、複数の冷媒チューブの積層方向に延びる金属製の有底筒状部材である。一対のタンクは、それぞれ複数の冷媒チューブの両端部に接続されている。タンクの内部には、複数の冷媒チューブへ冷媒を分配する分配空間、および複数の冷媒チューブから流出した冷媒を集合させる集合空間が形成されている。
これにより、各冷媒チューブを流通する冷媒と空気通路を流通する空気とを熱交換させる熱交換コア部が形成されている。空気通路には、冷媒と空気との熱交換を促進させる熱交換フィンが配置されている。従って、タンクアンドチューブ型の熱交換器における冷媒と空気との熱交換面積は、空気の流れ方向から見たときの熱交換コア部の正面面積(換言すると、投影面積)と熱交換フィンの表面積の合計値によって定義することができる。
そして、本実施形態では、空調用蒸発器16として、その熱交換面積が、右側電池用蒸発器19aの熱交換面積と左側電池用蒸発器19bの熱交換面積の合計値よりも大きいものを採用している。さらに、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bについては、熱交換面積が同等のものを採用している。
次に、熱媒体回路20について説明する。熱媒体回路20は、空調用送風空気と熱交換させる熱媒体を循環させる回路である。熱媒体回路20では、熱媒体として、エチレングリコール水溶液を採用している。熱媒体回路20は、水ポンプ21、水加熱ヒータ22、ヒータコア23、およびリザーブタンク24を有している。
水ポンプ21は、水加熱ヒータ22へ向けて熱媒体を圧送する。水ポンプ21は、インペラ(すなわち、羽根車)を電動モータで回転駆動する電動式の羽根車ポンプである。水ポンプ21は、駆動装置室に配置されている。水ポンプ21は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、回転数(圧送能力)が制御される。
水加熱ヒータ22は、水ポンプ21から圧送された熱媒体を加熱する熱媒体加熱部である。水加熱ヒータ22は、PTC素子(すなわち、正特性サーミスタ)を有するPTCヒータである。水加熱ヒータ22は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、発熱量が制御される。
水加熱ヒータ22の下流側には、ヒータコア23の熱媒体入口側が接続されている。ヒータコア23は、水加熱ヒータ22にて加熱された熱媒体と空調用送風空気を熱交換させる。ヒータコア23は、熱媒体の有する熱を空調用送風空気に放熱させて、空調用送風空気を加熱する加熱用の熱交換部である。ヒータコア23は、室内空調ユニット30の空調用ケーシング31内に配置されている。
ヒータコア23の熱媒体出口には、リザーブタンク24の入口側が接続されている。リザーブタンク24は、熱媒体回路20で余剰となっている熱媒体を貯留する貯留部である。熱媒体回路20では、リザーブタンク24を配置することで、熱媒体回路20を循環する熱媒体の液量低下を抑制している。リザーブタンク24は、熱媒体回路20内の熱媒体の量が不足した際に熱媒体を補給するための供給口を有している。
次に、室内空調ユニット30について説明する。室内空調ユニット30は、車室内の空調のために適切な温度に調整された空調用送風空気を、車室内の適切な箇所へ吹き出すためのユニットである。室内空調ユニット30は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されている。
室内空調ユニット30は、空調用送風空気の空気通路を形成する空調用ケーシング31内に、空調用送風機32、空調用蒸発器16、ヒータコア23等を収容したものである。空調用ケーシング31は、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂(例えば、ポリプロピレン)にて成形されている。空調用ケーシング31内には、内部に空調用送風空気が流れる空気通路が形成されている。
空調用ケーシング31の送風空気流れ最上流側には、内外気切替装置33が配置されている。内外気切替装置33は、空調用ケーシング31内へ導入される内気(すなわち、車室内空気)および外気(すなわち、車室外空気)の導入割合を調整する。内外気切替装置33は、空調用ケーシング31内に配置された空調用蒸発器16へ流入する空調用送風空気中の外気の割合である外気率を調整する内外気切替部である。
より具体的には、内外気切替装置33には、空調用ケーシング31内へ内気を導入させる内気導入口33a、および外気を導入させる外気導入口33bが形成されている。内外気切替装置33の内部には、内気導入口33aおよび外気導入口33bの開口面積を連続的に調整する内外気切替ドア33cが配置されている。
従って、内外気切替装置33では、内外気切替ドア33cを変位させることによって、空調用ケーシング31内に導入される内気の風量と外気の風量との風量割合(すなわち、外気率)を調整する。内外気切替ドア33cは、内外気切替装置用の電動アクチュエータ33eによって駆動される。内外気切替装置用の電動アクチュエータ33eは、空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
内外気切替装置33の送風空気流れ下流側には、空調用送風機32が配置されている。空調用送風機32は、内外気切替装置33を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する。空調用送風機32は、遠心多翼ファンを電動モータにて駆動する電動送風機である。空調用送風機32は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、回転数(すなわち、送風能力)が制御される。空調用送風機32は、空調用送風部の一例である。
空調用送風機32の送風空気流れ下流側には、空調用蒸発器16とヒータコア23が、送風空気流れに対して、この順に配置されている。つまり、空調用蒸発器16は、ヒータコア23よりも、送風空気流れ上流側に配置されている。
空調用ケーシング31内には、空調用蒸発器16通過後の空調用送風空気を、ヒータコア23を迂回させて流す冷風バイパス通路35が設けられている。空調用ケーシング31内の空調用蒸発器16の送風空気流れ下流側であって、かつ、ヒータコア23の送風空気流れ上流側には、エアミックスドア34が配置されている。
エアミックスドア34は、空調用蒸発器16通過後の空調用送風空気のうち、ヒータコア23側を通過させる風量と冷風バイパス通路35を通過させる風量との風量割合を調整する風量割合調整部である。エアミックスドア34は、エアミックスドア用の電動アクチュエータ34aによって駆動される。エアミックスドア用の電動アクチュエータ34aは、空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
空調用ケーシング31内のヒータコア23および冷風バイパス通路35の送風空気流れ下流側には、混合空間36が形成されている。混合空間36は、ヒータコア23にて加熱された空調用送風空気と冷風バイパス通路35を通過して加熱されていない空調用送風空気とを混合させる空間である。
空調用ケーシング31の送風空気流れ下流部には、混合空間36にて混合されて温度調整された空調用送風空気を、車室内へ吹き出すための開口穴が配置されている。
開口穴としては、フェイス開口穴37a、フット開口穴37b、およびデフロスタ開口穴37cが設けられている。フェイス開口穴37aは、乗員の上半身側に向けて空調風を吹き出すための開口穴である。フット開口穴37bは、乗員の足元側に向けて空調風を吹き出すための開口穴である。デフロスタ開口穴37cは、フロント窓ガラス内面側に向けて空調風を吹き出すための開口穴である。
フェイス開口穴37a、フット開口穴37b、およびデフロスタ開口穴37cは、それぞれ空気通路を形成するダクトを介して、車室内に設けられたフェイス吹出口、フット吹出口およびデフロスタ吹出口(いずれも図示せず)に接続されている。
従って、エアミックスドア34が、ヒータコア23を通過させる風量と冷風バイパス通路35を通過させる風量との風量割合を調整することによって、混合空間36にて混合される空調風の温度が調整される。そして、各吹出口から車室内へ吹き出される空調用送風空気(すなわち、空調風)の温度が調整される。
また、フェイス開口穴37a、フット開口穴37b、およびデフロスタ開口穴37cの送風空気流れ上流側には、フェイスドア38a、フットドア38b、およびデフロスタドア38cが配置されている。フェイスドア38aは、フェイス開口穴37aの開口面積を調整する。フットドア38bは、フット開口穴37bの開口面積を調整する。デフロスタドア38cは、フロスタ開口穴の開口面積を調整する。
フェイスドア38a、フットドア38b、およびデフロスタドア38cは、吹出口モードを切り替える吹出口モード切替部を形成している。吹出口モード切替部は、空調用蒸発器16にて冷却された空調用送風空気の吹出方向を切り替える。
フェイスドア38a、フットドア38b、およびデフロスタドア38cは、リンク機構等を介して、吹出口モードドア用の電動アクチュエータ38dによって連動して回転操作される。吹出口モードドア用の電動アクチュエータ38dは、空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
吹出口モード切替部によって切り替えられる吹出口モードとしては、具体的に、フェイスモード、バイレベルモード、フットモード等がある。
フェイスモードは、フェイス吹出口を全開としてフェイス吹出口から車室内乗員の上半身に向けて空気を吹き出す吹出口モードである。バイレベルモードは、フェイス吹出口とフット吹出口の両方を開口して車室内乗員の上半身と足元に向けて空気を吹き出す吹出口モードである。フットモードは、フット吹出口を全開とするとともにデフロスタ吹出口を小開度だけ開口して、フット吹出口から主に空気を吹き出す吹出口モードである。
さらに、乗員が操作パネル60に設けられた吹出口モードの切替スイッチをマニュアル操作することによって、デフロスタモードに切り替えることもできる。デフロスタモードは、デフロスタ吹出口を全開としてデフロスタ吹出口からフロント窓ガラス内面に空気を吹き出す吹出口モードである。
次に、電池パック40について説明する。電池パック40は、バッテリ70を冷却可能に収容するパッケージである。
電池パック40は、車室の床下に配置されている。電池パック40は、冷却用送風空気の空気通路を形成する電池用ケーシング41の内に、冷却用送風機42、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19b等を収容したものである。電池用ケーシング41は、電気的絶縁処理および断熱処理が施された金属製の密閉ケースである。
電池用ケーシング41内には、冷却用空間43、右側空気通路44a、左側空気通路44b、電池用空間45が形成されている。電池用空間45は、バッテリ70を収容する空間である。冷却用空間43は、冷却用送風機42、右側電池用蒸発器19a、左側電池用蒸発器19b等が収容される空間である。
電池用空間45および冷却用空間43は、互いに連通している。冷却用送風機42は、電池用空間45から吸い込んだ冷却用送風空気を、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bの双方へ向けて送風する電動送風機である。冷却用送風機42の基本的構成は、空調用送風機32と同様である。冷却用送風機42は、冷却用送風部の一例である。本実施形態では、冷却用送風機42として、最大送風能力が空調用送風機32の最大送風能力よりも小さいものが採用されている。
右側空気通路44aは、右側電池用蒸発器19aを通過した冷却用送風空気を流通させる空気通路である。右側空気通路44aは、右側電池用蒸発器19aを通過した冷却用送風空気をバッテリ70の積層方向から見たときに、バッテリ70の右側へ導く。換言すると、右側空気通路44aは、冷却用送風空気を複数の電池セルの一方の端面側へ導く。
左側空気通路44bは、左側電池用蒸発器19bを通過した冷却用送風空気を流通させる空気通路である。左側空気通路44bは、左側電池用蒸発器19bを通過した冷却用送風空気をバッテリ70の積層方向から見たときに、バッテリ70の左側へ導く。換言すると、左側空気通路44bは、冷却用送風空気を複数の電池セルの他方の端面側へ導く。
また、本実施形態の車両用空調装置1は、ステアリングヒータ91、シート送風装置92、シートヒータ93、および膝輻射ヒータ94を備えている。ステアリングヒータ91、シート送風装置92、シートヒータ93、および膝輻射ヒータ94は、車室内の暖房の行う際に乗員の暖房感を向上させる暖房補助装置である。暖房補助装置は、空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
より具体的には、ステアリングヒータ91は、電気ヒータでステアリングを加熱するステアリング加熱部である。シート送風装置92、座席の内側から乗員に向けて空気を送風するシート送風部である。シートヒータ93は、電気ヒータで乗員が着座する座席の表面を加熱するシート加熱部である。膝輻射ヒータ94は、熱源光を乗員の膝に向けて照射する膝用加熱部である。
次に、図2を用いて、本実施形態の電気制御部について説明する。空調制御装置50は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。空調制御装置50は、ROM内に記憶された制御プログラムに基づいて、各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種制御対象機器の作動を制御する。
空調制御装置50の入力側には、各種センサ群が接続されている。各種のセンサ群は、内気センサ51、外気センサ52、日射センサ53、高圧冷媒圧力センサ54、空調用蒸発器温度センサ55、右側冷却用蒸発器温度センサ56a、左側冷却用蒸発器温度センサ56bを含んでいる。更に、各種のセンサ群には、冷却用蒸発器圧力センサ57、水温センサ58、電池温度センサ59、湿度センサ59a等が含まれている。
内気センサ51は、車室内温度である内気温Trを検出する内気温度検出部である。外気センサ52は、外気温Tamを検出する外気温度検出部である。日射センサ53は、車室内の日射量Tsを検出する日射量検出部である。
高圧冷媒圧力センサ54は、高圧側の冷媒圧力Phを検出する高圧冷媒圧力検出部である。本実施形態の高圧冷媒圧力センサ54は、レシーバ12bから流出した冷媒の圧力を検出している。
空調用蒸発器温度センサ55は、空調用蒸発器16の温度である空調用蒸発器温度TEを検出する空調用蒸発部温度検出部である。本実施形態の空調用蒸発器温度センサ55では、空調用蒸発器16の熱交換フィン温度を検出している。このため、空調用蒸発器温度TEは、空調用蒸発器16から吹き出される空調用送風空気の温度と同等の値となる。
右側冷却用蒸発器温度センサ56aは、右側電池用蒸発器19aから流出した冷媒の温度である右側冷却用蒸発器温度TEBRを検出する冷却用蒸発部温度検出部である。本実施形態の右側冷却用蒸発器温度センサ56aでは、右側電池用蒸発器19aの出口から電池側合流部13dへ至る冷媒配管の温度を検出している。
左側冷却用蒸発器温度センサ56bは、左側電池用蒸発器19bから流出した冷媒の温度である左側冷却用蒸発器温度TEBLを検出する冷却用蒸発部温度検出部である。本実施形態の左側冷却用蒸発器温度センサ56bでは、左側電池用蒸発器19bの出口から電池側合流部13dへ至る冷媒配管の温度を検出している。
冷却用蒸発器圧力センサ57は、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bから流出した冷媒の圧力である冷却用蒸発器圧力PEBを検出する冷却用蒸発部圧力検出部である。水温センサ58は、水加熱ヒータ22の出口側の熱媒体温度TWを検出する熱媒体温度検出部である。
電池温度センサ59は、電池温度TB(すなわち、バッテリ70の温度)を検出する電池温度検出部である。本実施形態の電池温度センサ59は、複数の温度センサを有し、バッテリ70の複数の箇所の温度を検出している。このため、空調制御装置50では、バッテリ70の各部の温度差を検出することもできる。さらに、電池温度TBとしては、複数の温度センサの検出値の平均値を採用している。
湿度センサ59aは、車室内のフロント窓ガラス近傍の相対湿度である窓近傍湿度RHWを検出する湿度検出部である。
さらに、空調制御装置50の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された操作パネル60が接続されている。空調制御装置50には、操作パネル60に設けられた各種スイッチの操作信号が入力される。
操作パネル60に設けられた操作スイッチとしては、具体的に、エアコンスイッチ60a、オートスイッチ60b、吸込口モードの切替スイッチ60c、吹出口モードの切替スイッチ60d、風量設定スイッチ60e、エコノミースイッチ60f、温度設定スイッチ60g等がある。
エアコンスイッチ60aは、乗員の操作によって空調用蒸発器16にて空調用送風空気の冷却を行うことを要求する空調用冷却要求部である。オートスイッチ60bは、乗員の操作によって車両用空調装置1の自動空調制御を設定あるいは解除する自動制御設定部である。
吸込口モードの切替スイッチ60cは、乗員の操作によって吸込口モードを切り替える吸込口モード設定部である。吹出口モードの切替スイッチ60dは、乗員の操作によって吹出口モードを切り替える吹出口モード設定部である。
風量設定スイッチ60eは、空調用送風機32の送風量を手動設定するための風量設定部である。温度設定スイッチ60gは、乗員の操作によって車室内目標温度Tsetを設定する目標温度設定部である。エコノミースイッチ60fは、乗員の操作によって冷凍サイクル装置10の省動力化を要求する省動力化要求部である。
また、空調制御装置50は、その他の車両用制御装置80に電気的に接続されている。その他の車両用制御装置80としては、車両走行用の駆動力を出力する電動モータの作動を制御する駆動力制御装置等が該当する。
空調制御装置50と車両用制御装置80は、互いに通信可能に接続されている。従って、一方の制御装置に入力された検出信号あるいは操作信号に基づいて、他方の制御装置が出力側に接続された各種機器の作動を制御することもできる。例えば、車両用制御装置80が、空調制御装置50に入力された電池温度TBを用いて、車両走行用の電動モータの出力を変化させることができる。
なお、空調制御装置50は、その出力側に接続された各種制御対象機器を制御する制御手段が一体に構成されたものである。空調制御装置50において、それぞれの制御対象機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)は、それぞれの制御対象機器の作動を制御する制御部を構成する。
例えば、空調制御装置50のうち、切替部である空調用電磁弁14a及び電池用電磁弁14bの作動を制御する構成が、切替制御部50aである。又、空調制御装置50のうち、右側電池用膨張弁18a及び左側電池用膨張弁18bの作動を制御する構成が、冷却用流量制御部50bである。
そして、空調制御装置50のうち、後述するステップS412にて、右側電池用膨張弁18a及び左側電池用膨張弁18bにおける絞り開度を決定する構成が、徐変制御部50cとなる。又、空調制御装置50のうち、後述するステップS410にて、徐変制御における制限時間LTopを決定する構成が、制限時間決定部50dである。
空調制御装置50のうち、後述するステップS411にて、徐変制御における制限開度LDopを決定する構成が、制限開度決定部50eである。そして、空調制御装置50のうち、圧縮機11の冷媒吐出能力の上限値を決定する構成が、上限値決定部50fである。更に、空調制御装置50のうち、圧縮機11の冷媒吐出能力を制御する構成は、冷媒吐出能力制御部50gである。
又、空調制御装置50のうち、内外気調整部である内外気切替装置33用の電動アクチュエータ33eの作動を制御する構成は、内外気制御部50hである。そして、空調制御装置50のうち、送風ファンである外気ファン12aの作動を制御する構成は、ファン制御部50iである。
次に、図3~図28を用いて、上記構成における本実施形態の車両用空調装置1の作動を説明する。図3は、本実施形態の車両用空調装置1のメインルーチンとしての制御処理を示すフローチャートである。この制御処理は、車両システムが起動している状態で、オートスイッチ60bが投入(ON)されるとスタートする。各図のフローチャートに記載された各制御ステップは、空調制御装置50が有する各種の機能実現部である。
まず、図3のステップS1では、空調制御装置50の記憶回路によって構成されるフラグ、タイマ等の初期化、および上述した電動アクチュエータ(具体的には、ステッピングモータ)の初期位置合わせ等のイニシャライズが行われる。なお、ステップS1のイニシャライズでは、フラグや演算値のうち、前回の車両用空調装置の停止時や車両システム終了時に記憶された値が読み出されるものもある。
例えば、本実施形態では、トリップカウンタTcntの値が読み出される。トリップカウンタTcntは、車両システムの起動から停止までを1回の走行と定義したときに、過去に何回の走行が行われたかを記憶したメモリーである。
次に、ステップS2では、操作パネル60の操作信号等を読み込んでステップS3へ進む。続くステップS3では、空調制御に用いられる車両環境状態の信号、すなわち上述したセンサ群の検出信号を読み込む。さらに、ステップS3では、車両用制御装置80の入力側に接続されたセンサ群の検出信号、および車両用制御装置80から出力された制御信号を、車両用制御装置80から読み込む。
次に、ステップS4では、下記数式F1を用いて、車室内へ吹き出される送風空気の目標温度としての目標吹出温度TAOを算出する。
TAO=Kset×Tset-Kr×Tr-Kam×Tam-Ks×Ts+C…(F1)
Tsetは、温度設定スイッチ60gによって設定された車室内目標温度である。Trは、内気センサ51によって検出された内気温である。Tamは、外気センサ52によって検出された外気温である。Tsは、日射センサ53によって検出された日射量である。また、Kset、Kr、Kam、Ksは制御ゲインであり、Cは補正用の定数である。
次に、ステップS5では、空調用電磁弁14aの開閉状態を決定する。ステップS5では、ステップS2で読み込まれたエアコンスイッチ60aの操作信号に基づいて、空調用蒸発器16にて空調用送風空気の冷却を行うことが要求されている際に、空調用電磁弁14aを開く。
次に、ステップS6では、空調用送風機32によって送風される空調用送風空気の送風量、および冷却用送風機42によって送風される冷却用送風空気の送風量を決定する。
空調用送風機32の送風量については、目標吹出温度TAOに基づいて決定する。具体的には、図4の制御特性図に示すように、目標吹出温度TAOの極低温域(最大冷房域)および極高温域(最大暖房域)では、空調用送風機32へ印加する空調用ブロワ電圧を最大値(MAX)とし、空調用送風機32の送風量を最大風量とする。
目標吹出温度TAOが極低温域から中間温度域に向かって上昇すると、目標吹出温度TAOの上昇に応じて空調用ブロワ電圧を低下させて、空調用送風機32の送風量を低下させる。目標吹出温度TAOが極高温域から中間温度域に向かって低下すると、目標吹出温度TAOの低下に応じて空調用ブロワ電圧を低下させて、空調用送風機32の送風量を低下させる。
目標吹出温度TAOが所定の中間温度域内に入ると、空調用ブロワ電圧を最小値(min)として、空調用送風機32の送風量を最小風量とする。
また、冷却用送風機42の送風量については、目標吹出温度TAOや電池温度TBによらず、冷却用送風機42へ印加する冷却用ブロワ電圧を予め定めた基準電圧として、冷却用送風機42の送風量を基準風量とする。冷却用送風機42の基準風量は、空調用送風機32の最小風量以下に設定されている。
このため、冷却用送風機42の送風量は、空調用送風機32の送風量以下となる。換言すると、冷却用蒸発部にて低圧冷媒と熱交換する冷却用送風空気の風量(本実施形態では、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bにて熱交換する合計風量)は、空調用蒸発部にて低圧冷媒と熱交換する空調用送風空気の風量以下となる。
次に、ステップS7では、吸込口モードを決定する。ステップS7の詳細については、図5を用いて説明する。
まず、ステップS71では、電池温度TBが予め定めた基準許容温度KTBmax(本実施形態では、49℃)より高くなっているか否かが判定される。ステップS71にて、電池温度TBが基準許容温度KTBmaxより高くなっていると判定された場合は、ステップS72へ進む。ステップS71にて、電池温度TBが基準許容温度KTBmaxより高くなっていないと判定された場合は、ステップS76へ進む。
ここで、基準許容温度KTBmaxは、電池温度TBが基準許容温度KTBmaxより高くなっている際には、バッテリ70の劣化を抑制するために、バッテリ70の冷却を行う必要がある温度に設定されている。
ステップS72では、外気温Tamが予め定めた基準防曇温度KTamd(本実施形態では、15℃)以下となっているか否かが判定される。ステップS72にて、外気温Tamが基準防曇温度KTamdより低くなっていると判定された場合は、ステップS73へ進む。ステップS72にて、外気温Tamが基準防曇温度KTamd以下になっていないと判定された場合は、ステップS76へ進む。
ここで、基準防曇温度KTamdは、外気温Tamが基準防曇温度KTamd(本実施形態では、15℃)以下となっている際には、フロント窓ガラスに窓曇りが生じ易い温度に設定されている。
ステップS73では、空調用蒸発器温度TEが後述するステップS11にて決定された目標空調用蒸発器温度TEOより高くなっているか否かが判定される。ステップS73にて、空調用蒸発器温度TEが目標空調用蒸発器温度TEOより高くなっていると判定された場合は、ステップS74へ進む。ステップS73にて、空調用蒸発器温度TEが目標空調用蒸発器温度TEOより高くなっていないと判定された場合は、ステップS76へ進む。
ここで、空調用蒸発器温度TEが目標空調用蒸発器温度TEOよりも高くなっている際には、空調用蒸発器16にて空調用送風空気が充分に冷却されておらず、空調用送風空気の除湿が不充分になりやすい。
ステップS74では、後述するステップS14にて決定される電池冷却作動が許可されているか否かが判定される。ステップS74にて、電池冷却作動が許可されていると判定された場合は、ステップS75へ進む。ステップS74にて、電池冷却作動が許可されていないと判定された場合は、ステップS76へ進む。
従って、ステップS75へ進む場合は、バッテリ70の冷却を行う必要があり、フロント窓ガラスに窓曇りが生じ易く、空調用送風空気の除湿が不充分になっているにも関わらず、電池冷却作動が許可されていると判定された場合である。
そこで、ステップS75では、外気率が100%となるように、内外気切替装置用の電動アクチュエータ33eへ出力される制御信号が決定されて、ステップS8へ進む。外気率を100%とすることで、車室内の換気を行うことができ、窓ガラス内面の窓曇りを抑制することができる。
ステップS76では、外気温Tamが予め定めた基準高温側外気温KTamh(本実施形態では、35℃)より高くなっているか否かが判定される。ステップS76にて、外気温Tamが基準高温側外気温KTamhより高くなっていると判定された場合は、ステップS79へ進む。ステップS76にて、外気温Tamが基準高温側外気温KTamhより高くなっていないと判定された場合は、ステップS77へ進む。
ステップS77では、冷媒回路が空調電池サイクルに切り替えられているか否かが判定される。ステップS77にて、冷媒回路が空調電池サイクルに切り替えられていると判定された場合は、ステップS79へ進む。ステップS77にて、冷媒回路が空調電池サイクルに切り替えられていないと判定された場合は、ステップS78へ進む。
ステップS78では、図5のステップS78に記載された制御特性図に示すように、内外気切替装置用の電動アクチュエータ33eへ出力される制御信号が決定されて、ステップS8へ進む。ステップS78では、目標吹出温度TAOの上昇に伴って、外気率を増加させるように、内外気切替装置用の電動アクチュエータ33eへ出力される制御信号が決定される。
ステップS79では、外気率が0%となるように、内外気切替装置用の電動アクチュエータ33eへ出力される制御信号が決定されて、ステップS8へ進む。これによれば、比較的低温となっている内気を空調用蒸発器16へ導入して、空調用蒸発器16から吹き出される空調用送風空気の温度上昇を緩和することができる。
次に、ステップS8では、吹出口モードを決定する。吹出口モードは、目標吹出温度TAOに基づいて決定される。具体的には、目標吹出温度TAOが低温域から高温域へ上昇するに伴って、フェイスモード、バイレベルモード、フットモードの順で切り替える。従って、夏季は主にフェイスモード、春秋季は主にバイレベルモード、そして冬季は主にフットモードが選択され易くなる。
また、乗員が吹出口モードの切替スイッチ60dをマニュアル操作して、吹出口モードを変化させた際には、ステップS8で決定された吹出口モードよりも、乗員の操作が優先される。
次に、ステップS9では、水加熱ヒータ22の通電状態が決定される。ステップS9の詳細については、図6、図7を用いて説明する。
ステップS9では、図6の制御特性図に示すように、目標熱媒体温度TWOから熱媒体温度TWを減算した温度差ΔTW(ΔTW=TWO-TW)に基づいて、水加熱ヒータ22の作動を制御する。具体的には、温度差ΔTWが増加過程にある時は、温度差ΔTWが基準上限温度差KΔTW1(本実施形態では、3℃)以上となった際に、水加熱ヒータ22へ非通電から通電(図6では、ON)へ切り替えることを決定する。
温度差ΔTWが減少過程にある時は、温度差ΔTWが基準下限温度差KΔTW2(本実施形態では、0℃)以上となった際に、水加熱ヒータ22への通電から非通電(図6では、OFF)へ切り替えることを決定する。基準上限温度差KΔTW1と基準下限温度差KΔTW2との差は、制御ハンチングを防止するためのヒステリシス幅である。
また、目標熱媒体温度TWOは、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップを参照して決定される。本実施形態では、図7の制御特性図に示すように、目標吹出温度TAOの上昇に伴って、目標熱媒体温度TWOを上昇させるように決定する。
次に、ステップS10では、水ポンプ21の作動状態を決定する。ステップS10の詳細については、図8を用いて説明する。
まず、ステップS101では、熱媒体温度TWが空調用蒸発器温度TEよりも高くなっているか否かを判定する。ステップS101にて、熱媒体温度TWが空調用蒸発器温度TEよりも高くなっていると判定された場合は、ステップS102へ進む。ステップS101にて、熱媒体温度TWが空調用蒸発器温度TEよりも高くなっていないと判定された場合は、ステップS104へ進む。
ステップS102では、空調用送風機32が作動しているか否かが判定される。ステップS102にて、空調用送風機32が作動していると判定された場合は、ステップS103へ進む。ステップS102にて、空調用送風機32が作動していないと判定された場合は、ステップS104へ進む。
ステップS103では、水ポンプ21を作動させることを決定して、ステップS11へ進む。ステップS104では、水ポンプ21を停止させることを決定して、ステップS11へ進む。
次に、ステップS11では、下記数式F2を用いて、エアミックスドア34の目標開度SWを算定する。
SW=(TAO-TE)/(TW-TE)×100(%)…(F2)
空調用蒸発器温度TEは、空調用蒸発器温度センサ55によって検出された空調用蒸発器温度である。熱媒体温度TWは、水温センサ58によって検出された熱媒体温度である。
数式F2において、SW=0%になると、エアミックスドア34は、最大冷房位置に変位する。つまり、エアミックスドア34は、冷風バイパス通路35を全開とし、ヒータコア23側の空気通路を全閉とする位置に変位する。
また、数式F2において、SW=100%になると、エアミックスドア34は最大暖房位置に変位する。つまり、エアミックスドア34は、冷風バイパス通路35を全閉とし、ヒータコア23側の空気通路を全開とする位置に変位する。
本実施形態では、ステップS9にて説明したように、目標吹出温度TAOの上昇に伴って、目標熱媒体温度TWOを上昇させるように決定している。さらに、目標熱媒体温度TWOは、熱媒体温度TWが目標熱媒体温度TWOへ上昇した際に、目標開度SWが概ね100%となるように決定されている。
これによれば、乗員が、温度設定スイッチ60gをマニュアル操作して車室内目標温度Tsetを低下させた際等に、目標開度SWを低下させることによって、車室内へ吹き出される空調風の温度を速やかに低下させることができる。
次に、ステップS12では、目標空調用蒸発器温度TEOおよび目標冷却用蒸発器温度TEOBを決定する。ステップS12の詳細については、図9を用いて説明する。
まず、ステップS201では、第1仮目標空調用蒸発器温度f(TAO)が決定される。具体的には、ステップS201では、図9のステップS201に記載された制御特性図に示すように、目標吹出温度TAOの上昇に伴って、第1仮目標空調用蒸発器温度f(TAO)を上昇させるように決定して、ステップS202へ進む。
ステップS202では、第2仮目標空調用蒸発器温度f(外気温)が決定される。具体的には、ステップS202では、図9のステップS202に記載された制御特性図に示すように、外気温Tamの上昇に伴って、第2仮目標空調用蒸発器温度f(外気温)を上昇させるように決定して、ステップS203へ進む。
ステップS203では、第1仮目標空調用蒸発器温度f(TAO)および第2仮目標空調用蒸発器温度f(外気温)のうち、小さい方の値を目標空調用蒸発器温度TEOに決定して、ステップS204へ進む。
ステップS204では、目標冷却用蒸発器温度TEOBが決定される。具体的には、ステップS204では、図9のステップS204に記載された制御特性図に示すように、外気温Tamの上昇に伴って、目標冷却用蒸発器温度TEOBを上昇させるように決定して、ステップS13へ進む。
次に、ステップS13では、圧縮機11の冷媒吐出能力(具体的には、圧縮機11の回転数)を決定する。ステップS13における圧縮機回転数の決定は、図3のメインルーチンが繰り返される制御周期τ毎に行われるものではなく、所定の制御間隔(本実施形態では1秒)毎に行われる。ステップS13の詳細については、図10~図12を用いて説明する。
まず、ステップS301では、冷媒回路に応じた圧縮機11の回転数の変化量Δf_Cを決定して、ステップS302へ進む。
具体的には、ステップS301では、冷媒回路が電池単独サイクルに切り替えられている際には、ステップS204にて決定された目標冷却用蒸発器温度TEOBから冷却用蒸発部の代表温度を減算した温度偏差Enを算出する。さらに、今回算出された偏差Enから前回算出された偏差En-1を減算した偏差変化率Edot(Edot=En-(En-1))を算出する。
そして、温度偏差Enと偏差変化率Edotとを用いて、予め空調制御装置50に記憶された電池単独サイクル用のメンバシップ関数およびルールに基づくファジー推論によって、前回の圧縮機回転数に対する回転数変化量Δf_Cを求める。
ここで、本実施形態では、冷却用蒸発部の代表温度として、右側冷却用蒸発器温度TEBRと左側冷却用蒸発器温度TEBLとの平均値あるいはいずれか一方を採用している。このため、代表温度と実際の冷却用蒸発部の温度との間には誤差が生じてしまう可能性がある。ところが、冷却用蒸発部では冷却用送風空気を冷却しているので、ある程度の誤差が生じていても、電池の冷却や乗員の空調フィーリングに悪影響を及ぼすことはない。
また、冷媒回路が空調単独サイクルあるいは空調電池サイクルに切り替えられている際には、ステップS203にて決定された目標空調用蒸発器温度TEOから空調用蒸発器温度TEを減算した温度偏差Enを算出する。さらに、今回算出された偏差Enから前回算出された偏差En-1を減算した偏差変化率Edot(Edot=En-(En-1))を算出する。
そして、温度偏差Enと偏差変化率Edotとを用いて、予め空調制御装置50に記憶された空調単独サイクルあるいは空調電池サイクル用のメンバシップ関数およびルールに基づくファジー推論によって、前回の圧縮機回転数に対する回転数変化量Δf_Cを求める。
冷媒回路が空調単独サイクルあるいは空調電池サイクルに切り替えられている際には、回転数変化量Δf_Cを決定するために、空調用蒸発器温度TEをフィードバックすることができる。空調用蒸発器温度TEは、空調用蒸発器16から吹き出される空調用送風空気の温度と同等の値なので、オーバーシュート等を招くことなく、空調用蒸発器温度TEを適切に調整することができる。
ステップS302では、圧縮機11の回転数の上限値に対する上限値補正量f(電池温度)を決定して、ステップS303へ進む。
ここで、冷媒回路が空調単独サイクルに切り替えられている際には、冷却用蒸発部(すなわち、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19b)へ冷媒を流入させる必要がない。従って、冷媒回路が空調単独サイクルに切り替えられている際には、圧縮機11に所定値以上の効率を発揮させつつ、振動および騒音を抑制できるように、圧縮機11の回転数の上限値を決定することが望ましい。
これに対して、冷媒回路が空調電池サイクルに切り替えられている際には、空調用蒸発器16へ冷媒を流入させるだけでなく、冷却用蒸発部へも冷媒を流入させなければならない。このため、空調単独サイクルと同様に圧縮機11の回転数の上限値を決定すると、空調用蒸発器16へ流入する冷媒流量が減少して、空調用送風空気を所望の温度に冷却することができなくなってしまう可能性がある。
このため、冷媒回路が空調電池サイクルに切り替えられている際には、空調用送風空気および冷却用送風空気の双方を、適切な温度に冷却することができるように、圧縮機11の回転数の上限値を決定する必要がある。換言すると、冷媒回路が空調電池サイクルに切り替えられている際には、空調単独サイクルに切り替えられている際よりも、圧縮機11の回転数の上限値を増加させる必要がある。
そこで、ステップS302では、図10のステップS302に記載された制御特性図に示すように、電池温度TBの上昇に伴って、上限値補正量f(電池温度)を増加させるように決定する。さらに、ステップS302では、車速の低下に伴って、上限値補正量f(電池温度)を減少させるように決定する。これは、車速の低下に伴って、バッテリ70の発熱量が低下するからである。
さらに、電池温度TBの上昇に伴って、上限値補正量f(電池温度)を増加させることで、空調用蒸発器温度TEを速やかに目標空調用蒸発器温度TEOに近づけることができる。従って、後述するステップS404にて説明するように、電池冷却作動が許可されやすくなる。その結果、バッテリ70の温度上昇を抑制することができる。
ステップS303では、冷媒回路と車速に応じて、空調電池要件に基づく圧縮機11の回転数の上限値(以下、空調電池要件上限値と記載する。)を決定して、ステップS304へ進む。従って、ステップS303は、圧縮機11の冷媒吐出能力の上限値を決定する上限値決定部である。
具体的には、ステップS303では、冷媒回路と車速に応じて、空調電池要件に基づく圧縮機11の回転数の上限値(以下、空調電池要件上限値と記載する。)を決定して、ステップS304へ進む。従って、ステップS303は、圧縮機11の冷媒吐出能力の上限値を決定する上限値決定部である。
具体的には、ステップS303では、図13の図表に示すように、冷媒回路が電池単独サイクルに切り替えられている際には、車速によらず、電池温度TBの上昇に伴って、空調電池要件上限値を増加させるように決定する。これは、電池温度TBが高くなるに伴って、バッテリ70の発熱量が多くなり、バッテリ70の冷却に必要な冷媒流量が増加するからである。
先ず、冷媒回路が空調単独サイクルに切り替えられている際であって、車速が予め定めた基準車速(本実施形態では、25km/h)以下になっている際の空調電池要件上限値について説明する。この場合には、予め定められた第1基準上限値(本実施形態では、3500rpm)に、ステップS302で決定された上限値補正量f(電池温度)を加えた値を空調電池要件上限値に決定する。
次に、冷媒回路が空調単独サイクルに切り替えられている際であって、車速が基準車速よりも高くなっている際には、第2基準上限値(本実施形態では、5000rpm)に上限値補正量f(電池温度)を加えた値を空調電池要件上限値に決定する。
また、冷媒回路が空調電池サイクルに切り替えられている際には、空調電池要件上限値は、冷媒回路が空調単独サイクルに切り替えられている際の上限値よりも大きな値に決定される。
より具体的には、冷媒岐路が空調電池サイクルに切り替えられている際であって、車速が基準速度以下になっている際には、第3基準上限値(本実施形態では、4500rpm)に上限値補正量f(電池温度)を加えた値を空調電池要件上限値に決定する。ここで、第3基準上限値は、上述した第1基準上限値に対して、予め定められた加算値(本実施形態では、1000rpm)を加算した値である。
また、冷媒回路が空調電池サイクルに切り替えられている際であって、車速が基準車速より高くなっている際には、第4基準上限値(本実施形態では、6000rpm)に上限値補正量f(電池温度)を加えた値を空調電池要件上限値に決定する。ここで、第4基準上限値は、上述した第2基準上限値に対して、予め定められた加算値(本実施形態では、1000rpm)を加えた値である。
つまり、ステップS303において、電池単独サイクル、空調単独サイクル、空調電池サイクルの各サイクルでの圧縮機11の回転数の上限値は、電池単独サイクル、空調単独サイクル、空調電池サイクルの順に大きくなる。
これにより、空調電池サイクル時に圧縮機11の回転数の上限値を高くできるので、電池冷却に必要な冷媒を確保できる。この結果、冷凍サイクル流の冷媒密度を上げて、冷媒に溶け込んでいる冷凍機油を圧縮機11へ戻しやすくすることで、右側電池用膨張弁18a及び左側電池用膨張弁18bの最小開度を、さらに絞ることが可能となる。
従って、車両用空調装置1は、空調冷却サイクルにおける右側電池用蒸発器19a及び左側電池用蒸発器19bの温度上昇を抑制して、空調能力を維持すると共に、バッテリ70の冷却効率の低下を抑制することができる。
ステップS304では、圧縮機11の騒音や振動を抑制するための圧縮機11の回転数の上限値(以下、NV要件上限値と記載する。)を決定して、ステップS305へ進む。具体的には、ステップS304では、車速が基準車速以下になっている際には、第1NV上限値(本実施形態では、5200rpm)に決定される。車速が基準車速より高くなっている際には、第2NV上限値(本実施形態では、8600rpm)に決定される。
ここで、車速の低下に伴ってロードノイズも小さくなるので、乗員が圧縮機11の騒音や振動を感じやすくなる。そこで、本実施形態では、第1NV上限値を第2NV上限値よりも低い値に設定している。
ステップS305では、ステップS303で決定された空調電池要件上限値とNV要件上限値とのうち小さい方の値を、圧縮機11の回転数の上限値に決定して、ステップS306へ進む。
ステップS306では、オイル回収制御を実行するために必要な圧縮機11の回転数の下限値(以下、オイル回収用下限値と記載する。)を決定して、ステップS307へ進む。従って、ステップS306は、圧縮機11の冷媒吐出能力の下限値を決定する下限値決定部である。ステップS306では、オイル回収用下限値を、オイル回収制御が実行されていない通常運転時の下限値よりも高い値に決定する。
さらに、ステップS306では、図10のステップS306に記載された制御特性図に示すように、外気温Tamの低下に伴って、オイル回収用下限値を上昇させるように決定する。
これは、外気温Tamの低下に伴って、サイクルを循環させる循環冷媒流量が低下するので、空調用蒸発器16、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19b内等に冷凍機油が滞留しやすくなるからである。そこで、外気温Tamの低下に伴って、オイル回収用下限値を上昇させて、冷凍機油を空調用蒸発器16、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bから圧縮機11へ戻しやすくしている。
さらに、ステップS306では、冷媒回路が空調電池サイクルに切り替えられている際には、冷媒回路が空調単独サイクルあるいは電池単独サイクルに切り替えられている際よりもオイル回収用下限値を上昇させる。これは、空調電池サイクルでは、空調単独サイクルおよび電池単独サイクルよりも冷媒の流通する冷媒経路が増加するので、冷凍機油を圧縮機11へ戻すために必要な循環冷媒流量が増加するからである。
図11のステップS307では、バッテリ70の冷却を開始する際の圧縮機11の回転数補正度合(以下、かさ上げレベルという。)を決定して、ステップS308へ進む。かさ上げレベルは、圧縮機11の回転数補正度合の「高」「中」「低」を判定するために用いられる制御フラグである。
ステップS307では、図11のステップS307に記載された制御特性図に示すように、空調用蒸発器温度TEから目標空調用蒸発器温度TEOを減算した判定値(空調用蒸発器温度TE-目標空調用蒸発器温度TEO)を用いて、かさ上げレベルを決定する。
判定値が増加過程にある時は、判定値が第2判定値(本実施形態では、-0.5℃)以上となった際に、かさ上げレベルを「低」から「中」へ切り替える。さらに、判定値が第4判定値(本実施形態では、3℃)以上となった際に、かさ上げレベルを「中」から「高」へ切り替える。
判定値が減少過程にある時は、判定値が第3判定値(本実施形態では、2℃)以下となった際に、かさ上げレベルを「高」から「中」へ切り替える。さらに、判定値が第1判定値(本実施形態では、-1℃)以下となった際に、かさ上げレベルを「中」から「低」へ切り替える。第1判定値と第2判定値との差、および第3判定値と第4判定値との差は、制御ハンチングを防止するためのヒステリシス幅である。
従って、ステップS307では、空調用蒸発器温度TEから目標空調用蒸発器温度TEOを減算した判定値(空調用蒸発器温度TE-目標空調用蒸発器温度TEO)の増加に伴って、かさ上げレベルを「低」「中」「高」の順に変化させる。これは、空調用蒸発器温度TEが高くなるに伴って、バッテリ70の冷却を開始した際の空調用蒸発器温度TEの温度変動が大きくなるからである。
ステップS308では、ステップS307にて決定されたかさ上げレベルに基づいて、ステップS301で決定された回転数変化量Δf_Cを変更して、ステップS309へ進む。より具体的には、ステップS308における回転数変化量Δf_Cの変更は、ステップS306で決定された今回の圧縮機11の回転数の上限値が、前回の圧縮機11の回転数の上限値よりも1000rpm以上増加している際に行われる。
今回の圧縮機11の回転数の上限値が、前回の圧縮機11の回転数の上限値よりも1000rpm以上増加している際であって、ステップS307にて決定されたかさ上げレベルが「低」の場合は、回転数変化量Δf_Cを変更しない。従って、回転数変化量Δf_Cは、ステップS301で決定された値に維持される。
また、今回の圧縮機11の回転数の上限値が、前回の圧縮機11の回転数の上限値よりも1000rpm以上増加している際であって、ステップS307にて決定されたかさ上げレベルが「中」の場合は、回転数変化量Δf_Cを500rpmに変更する。本実施形態のメンバシップ関数およびルールによれば、回転数変化量Δf_Cを500rpmに変更することで、回転数変化量Δf_Cを確実に増加させることができる。
また、今回の圧縮機11の回転数の上限値が、前回の圧縮機11の回転数の上限値よりも1000rpm以上増加している際であって、ステップS307にて決定されたかさ上げレベルが「高」の場合は、回転数変化量Δf_Cを2000rpmに変更する。その他の場合は、回転数変化量Δf_Cを変更しない。
従って、ステップS308では、かさ上げレベルが「低」「中」「高」の順で高くなるに伴って、バッテリ70の冷却を開始する際の圧縮機11の回転数を急増させることができる。
ステップS309では、回転数変化量Δf_Cの上限値である上限変化量f(冷媒圧力)を決定して、ステップS310へ進む。具体的には、ステップS309では、図11のステップS309に記載された制御特性図に示すように、高圧側の冷媒圧力Phの上昇に伴って、上限変化量f(冷媒圧力)を低下させるように決定する。これにより、高圧側の冷媒圧力が異常上昇してしまうことが抑制される。
図12に示すステップS310では、空調用蒸発器16に着霜が生じているか否かを示す空調用着霜判定フラグの値を決定して、ステップS311へ進む。
ステップS310では、空調用蒸発器温度TEが下降過程にある時は、空調用蒸発器温度TEが予め定めた第1空調用着霜温度KTE1(本実施形態では、-1℃)以下となった際に、空調用着霜判定フラグが「無」から「有」となる。また、空調用蒸発器温度TEが上昇過程にある時は、空調用蒸発器温度TEが予め定めた第2空調用着霜温度KTE2(本実施形態では、0℃)以上となった際に、空調用着霜判定フラグが「有」から「無」となる。
第1空調用着霜温度KTE1と第2空調用着霜温度KTE2との差は、制御ハンチングを防止するためのヒステリシス幅である。
ステップS311では、空調用着霜判定フラグを用いて、空調用蒸発器16に着霜が生じているか否かを判定する。ステップS311にて、空調用着霜判定フラグが「有」になっている場合は、ステップS312へ進む。ステップS311にて、空調用着霜判定フラグが「無」になっている場合は、ステップS313へ進む。
ステップS312では、今回の圧縮機11の回転数を0rpmとする。これにより、空調用蒸発器16に冷媒が流入しなくなり、空調用蒸発器16の除霜がなされる。
ステップS313では、今回の圧縮機11の回転数を決定して、ステップS14へ進む。具体的には、ステップS313では、ステップS308にて決定された回転数変化量Δf_CおよびステップS309にて決定された上限変化量f(冷媒圧力)のうち、小さい方の値を前回の圧縮機11の回転数に加算する。これにより第1仮圧縮機回転数を求める。
そして、第1仮圧縮機回転数およびステップS305にて決定された圧縮機11の回転数の上限値のうち小さい方の値を第2仮圧縮機回転数とする。第2仮圧縮機回転数とステップS306にて決定されたオイル回収用下限値のうち、大きい方の値を今回の圧縮機11の回転数に決定する。
次に、ステップS14では、電池用電磁弁14b、右側電池用膨張弁18aおよび左側電池用膨張弁18bの作動状態を決定する。ステップS14における右側電池用膨張弁18aおよび左側電池用膨張弁18bの絞り開度の決定は、図3のメインルーチンが繰り返される制御周期τ毎に行われるものではなく、所定の制御間隔(本実施形態では2秒)毎に行われる。ステップS14の詳細については、図14~図25を用いて説明する。
まず、図14に示すステップS401では、電池温度TBが予め定めた基準電池冷却温度KTB1(本実施形態では、35℃)より高くなっているか否かを判定する。ステップS401にて、電池温度TBが基準電池冷却温度KTB1より高くなっていると判定された場合は、ステップS402へ進む。ステップS401にて、電池温度TBが基準電池冷却温度KTB1より高くなっていないと判定された場合は、ステップS406へ進む。
基準電池冷却温度KTB1は、電池温度TBが基準電池冷却温度KTB1より高くなっている際には、バッテリ70の冷却を行うことが望ましいと判断される温度に設定されている。従って、基準電池冷却温度KTB1は、ステップS71で説明した基準許容温度KTBmaxよりも低い温度に設定されている。基準電池冷却温度KTB1は、基準対象物冷却温度の一例である。
ステップS406では、電池用電磁弁14bを閉じることが決定されて、ステップS15へ進む。これは、電池温度TBが基準電池冷却温度KTB1以下になっている際には、バッテリ70の冷却を必要としないからである。これにより、冷却用蒸発部に冷媒が供給されることはなく、バッテリ70の冷却は行われない。
ステップS402では、乗員によって車室内の空調を行うことが要求されているか否かを判定する。具体的には、ステップS402では、エアコンスイッチ60aが投入(ON)されている場合、あるいは、風量設定スイッチ60eによって空調用送風機32に送風能力を発揮させている場合に、乗員によって車室内の空調を行うことが要求されていると判定する。
ステップS402にて、乗員によって車室内の空調を行うことが要求されていないと判定された場合は、ステップS403へ進む。乗員によって車室内の空調を行うことが要求されていない場合は、車室内の空調への影響を考慮することなく電池冷却を実行することができる。そこで、ステップS403では、電池冷却作動が許可されて、ステップS405へ進む。
電池冷却作動が許可されたこと、あるいは、電池冷却作動が禁止されたことは、専用の制御フラグに記憶される。このことは他の制御ステップにおいても同様である。
ステップS402にて、乗員によって車室内の空調を行うことが要求されていると判定された場合は、ステップS404へ進む。乗員によって車室内の空調を行うことが要求されている場合は、車室内の空調が実行されている。従って、電池冷却を実行すると、冷却用蒸発部へ流入する冷媒流量が増加した際に、空調用蒸発器16へ流入する冷媒流量が低下して、空調用送風空気の温度や湿度が上昇してしまうおそれがある。
すなわち、車室内の空調が実行されている際に、同時に電池冷却を実行すると乗員の空調フィーリングが悪化してしまうおそれがある。そこで、ステップS404では、図16の図表に示すように、電池冷却作動の可否(すなわち、許可あるいは禁止)を決定して、ステップS405へ進む。
図16に示すステップS404における電池冷却作動の可否の決定では、乗員が吹出口モードの切替スイッチ60dを操作したことによって、デフロスタモードに切り替えているか否かを判定する。デフロスタモードに切り替えられている場合には、車両の環境条件が、フロント窓ガラスに窓曇りを生じ易い条件になっているか否か、すなわち防曇要求が高いか低いかを判定する。
本実施形態では、外気温Tamが基準防曇温度KTamd(本実施形態では、15℃)以下となっている場合は、窓曇りを生じ易く、防曇要求が高いと判定する。また、外気温Tamが基準防曇温度KTamdより高くなっている場合は、窓曇りを生じ難く、防曇要求が低いと判定する。
そして、外気温Tamが基準防曇温度KTamd以下となっており、防曇要求が高いと判定された場合は、空調用送風空気の温度が窓曇りを防止できる程度まで低くなっているか否か、すなわち防曇能力の有無を判定する。
具体的には、空調用蒸発器温度TEが目標空調用蒸発器温度TEO以下となっている場合は、空調用蒸発器16にて空調用送風空気が充分に冷却されており、空調用送風空気の充分な除湿がなされていると判定する。従って、空調用蒸発器温度TEが目標空調用蒸発器温度TEO以下となっている場合は、充分な防曇能力が有ると判定されて、電池冷却作動が許可される。
また、空調用蒸発器温度TEが目標空調用蒸発器温度TEOより高くなっている場合は、空調用蒸発器16にて空調用送風空気が充分に冷却されておらず、空調用送風空気の充分な除湿がなされていないと判定する。従って、空調用蒸発器温度TEが目標空調用蒸発器温度TEOより高くなっている場合は、充分な防曇能力が無いと判定されて、電池冷却作動が禁止される。
但し、空調用蒸発器温度TEが目標空調用蒸発器温度TEOより高くなっていても、電池温度TBが基準許容温度KTBmax(本実施形態では、49℃)より高くなっている場合は、電池冷却作動が許可される。
一方、外気温Tamが基準防曇温度KTamdより高くなっており、防曇要求が低いと判定された場合は、急激な窓曇りの可能性は低い。そこで、この場合は、蒸発器温度判定値f2(蒸発器温度)を用いて、防曇能力が有るか否かを判定する。蒸発器温度判定値f2(蒸発器温度)は、空調用蒸発器温度TEの「高」「低」を判定するために用いられる制御フラグである。
蒸発器温度判定値f2(蒸発器温度)では、実際の空調用蒸発器温度TEを用いて判定する場合に対して、防曇能力が有ると判定されやすくなっている。
具体的には、図17に示すように、空調用蒸発器温度TEが下降過程にある時は、空調用蒸発器温度TEが、目標空調用蒸発器温度TEOに補正値β1を加算した値以下となった際に、蒸発器温度判定値f2(蒸発器温度)が「低」となる。蒸発器温度判定値f2(蒸発器温度)が「低」となっている場合は、空調用蒸発器温度TEが低く、防曇能力が有ると判定される。その結果、電池冷却作動が許可される。
また、空調用蒸発器温度TEが上昇過程にある時は、空調用蒸発器温度TEが、目標空調用蒸発器温度TEOに補正値β1およびヒステリシスβ2を加算した値以上となった際に、蒸発器温度判定値f2(蒸発器温度)が「高」となる。蒸発器温度判定値f2(蒸発器温度)が「高」となっている場合は、空調用蒸発器温度TEが高く防曇能力が無いと判定される。その結果、電池冷却作動が禁止される。
但し、蒸発器温度判定値f2(蒸発器温度)が「高」になっていても、電池温度TBが基準許容温度KTBmax(本実施形態では、49℃)より高くなっている場合は、電池冷却作動が許可される。図17において、ヒステリシスβ2は、制御ハンチングを防止するためのヒステリシス幅となる。
補正値β1は、図18に示すように、電池温度TBの上昇に伴って、大きな値に決定される。従って、電池温度TBの上昇に伴って、防曇能力が有ると判定されやすくなる。これは、電池温度TBに伴って、バッテリ70の劣化が進行しやすくなるので、車室内の快適性の確保に対して電池冷却を優先するためである。
ヒステリシスβ2は、図19に示すように、空調用蒸発器温度TEの上昇に伴って、大きな値に決定される。空調用蒸発器温度TEが高くなると、空調用蒸発器16へ流入する空調用送風空気の温度(いわゆる、吸い込み温度)の変動によって、空調用蒸発器温度TEが変動しやすい。そこで、空調用蒸発器温度TEの上昇に伴って、ヒステリシスβ2を大きくすることによって、制御ハンチングを抑制している。
また、デフロスタモードに切り替えられていない場合も、デフロスタモードに切り替えられている場合と同様に、防曇要求が高いか低いかを判定する。そして、外気温Tamが基準防曇温度KTamd以下となっており、防曇要求が高いと判定された場合は、デフロスタモードに切り替えられている場合と同様に、防曇能力の有無を判定する。
具体的には、空調用蒸発器温度TEが目標空調用蒸発器温度TEO以下となっている際には、空調用送風空気の温度が窓曇りを防止できる程度まで低くなっており、充分な防曇能力が有ると判定する。従って、電池冷却作動が許可される。
また、空調用蒸発器温度TEが目標空調用蒸発器温度TEOより高くなっている際には、空調用送風空気の温度が窓曇りを防止できる程度まで低くなっておらず、充分な防曇能力が無いと判定する。従って、電池冷却作動が禁止される。但し、電池温度TBが基準許容温度KTBmax以上となっている際には、電池冷却作動が許可される。
一方、外気温Tamが基準防曇温度KTamdより高くなっており、防曇要求が低いと判定された場合は、車室内の快適性に基づいて、電池冷却作動の許可あるいは禁止を決定する。快適性を判定するためには、内気温判定値f1(電池温度)および蒸発器温度判定値f2(蒸発器温度)が用いられる。内気温判定値f1(電池温度)は、内気温Trの「高」「低」を判定するために用いられる制御フラグである。
具体的には、図20に示すように、内気温Trが下降過程にある時は、内気温Trが、予め定めた基準内気温KTr(本実施形態では、30℃)に補正値α1を加算した値以下となった際に、内気温判定値f1(電池温度)が「高」から「低」となる。内気温判定値f1(電池温度)が「低」となっている場合は、内気温Trが低く、車室内の快適性が高いと判定される。
また、内気温Trが上昇過程にある時は、内気温Trが、基準内気温KTrに補正値α1およびヒステリシスα2(本実施形態では、2℃)を加算した値以上となった際に、内気温判定値f1(電池温度)が「低」から「高」となる。内気温判定値f1(電池温度)が「高」となっている場合は、内気温Trが高く、車室内の快適性が低いと判定される。
補正値α1は、図21に示すように、電池温度TBの上昇に伴って、大きな値に決定される。従って、電池温度TBの上昇に伴って、快適性が高いと判定されやすくなる。これは、電池温度TBに伴って、バッテリ70の劣化が進行しやすくなるので、車室内の快適性の確保に対して電池冷却を優先するためである。
さらに、蒸発器温度判定値f2(蒸発器温度)を用いて、車室内の快適性が判定される。この判定は、実質的に、デフロスタモードに切り替えられている際に行われる防曇能力の有無の判定と同様である。
具体的には、蒸発器温度判定値f2(蒸発器温度)が「低」となっている場合は、空調用蒸発器温度TEが低く、車室内の快適性が高いと判定される。また、蒸発器温度判定値f2(蒸発器温度)が「高」となっている場合は、空調用蒸発器温度TEが高く、車室内の快適性が低いと判定される。
そして、内気温判定値f1(電池温度)を用いた快適性の判定および蒸発器温度判定値f2(蒸発器温度)を用いた快適性の判定の双方で、快適性が高いと判定された場合は、電池冷却作動が許可される。
また、内気温判定値f1(電池温度)を用いた快適性の判定および蒸発器温度判定値f2(蒸発器温度)を用いた快適性の判定の少なくとも一方で、快適性が低いと判定された場合は、経過時間判定値f3(電池温度)に基づいて、電池冷却作動の許可あるいは禁止を決定する。
具体的には、図22に示すように、車両システムの起動からの経過時間が基準経過時間TIMER以上となっている場合には、経過時間判定値f3(電池温度)は許可となり、電池冷却作動が許可される。また、車両システムの起動からの経過時間が基準経過時間TIMERを超えていない場合は、経過時間判定値f3(電池温度)は禁止となり、電池冷却作動が禁止される。
これにより、乗員が窓を開けている場合等のように、長時間に亘って電池冷却作動が許可されない場合であっても、車両システムの起動からの経過時間によって、確実に、電池冷却作動を許可することができる。
さらに、基準経過時間TIMERは、図23に示すように、電池温度TBの上昇に伴って短い時間に設定される。従って、電池温度TBの上昇に伴って、短時間で電池冷却を許可することができ、バッテリ70の劣化を効果的に抑制することができる。
図14のステップS405では、電池冷却作動が許可されているか否かが判定される。ステップS405にて、電池冷却作動が許可されていない(すなわち、電池冷却作動が禁止されている)と判定された場合は、ステップS406へ進む。ステップS405にて、電池冷却作動が許可されていると判定された場合は、ステップS407へ進む。ステップS407では、電池用電磁弁14bを開くことが決定されて、ステップS408へ進む。
ここで、ステップS407にて、電池用電磁弁14bを開くことが決定されることによって、空調単独サイクルから空調電池サイクルへ切り替えられた場合について検討する。
この場合の冷凍サイクル装置10では、冷却用蒸発部へ流入する冷媒流量が急増し、冷却用蒸発部に並列的に接続された空調用蒸発器16へ流入する冷媒流量が急減してしまう可能性がある。その結果、空調用蒸発器16における空調用送風空気の冷却が不充分になってしまう可能性がある。
そこで、本実施形態では、以下の制御ステップにて、冷却用蒸発部へ流入する冷媒の流量を時間経過に伴って徐々に増加させる徐変制御を実行する。
まず、ステップS408では、ステップS407にて電池用電磁弁14bを開くことによって、電池用電磁弁14bが閉じた状態から開いた状態に変化するか否かが判定される。ステップS408にて、電池用電磁弁14bが閉じた状態から開いた状態に変化すると判定された場合は、ステップS409へ進む。
ステップS409では、ステップS407にて電池用電磁弁14bを開くことが決定されたことによって、冷媒回路が空調単独サイクルから空調電池サイクルへ切り替えられたか否かが判定される。ステップS409にて、冷媒回路が空調単独サイクルから空調電池サイクルへ切り替えられたと判定された場合は、ステップS410へ進む。
ステップS410では、徐変制御を実行する時間(以下、制限時間LTopという。)が決定されて、ステップS411へ進む。ステップS410では、図24の制御特性図に示すように、オイル回収制御が実行されていない通常運転時の制限時間LTopおよびオイル回収制御時の制限時間LTopを決定する。従って、ステップS410は、制限時間決定部である。また、オイル回収制御時とは、オイル回収制御の実行時である。
通常運転時の制限時間LTopについては、外気温Tamの上昇に伴って、制限時間LTopが長くなるように決定する。これは、外気温Tamの上昇に伴って、凝縮器12における高圧冷媒の放熱量が減少して、冷却用蒸発部の温度を低下させるために要する時間が長くなるからである。また、外気温Tamの低下に伴って、冷却用蒸発部の温度が不必要に低下してしまう可能性が高くなるからである。
オイル回収制御時の制限時間LTopについては、外気温Tamの上昇に伴って、制限時間LTopが短くなるように決定する。これは、外気温Tamの上昇に伴って、冷凍機油が空調用蒸発器16、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19b等に滞留しにくくなるからである。
ステップS411では、徐変制御時の冷却用流量調整部(すなわち、右側電池用膨張弁18aおよび左側電池用膨張弁18b)の最大絞り開度(以下、制限開度LDopという。)が決定されて、ステップS412へ進む。ステップS411では、図25の制御特性図に示すように、通常運転時の制限開度LDopおよびオイル回収制御時の制限開度LDopを決定する。従って、ステップS411は、制限開度決定部である。
制限開度LDopは、冷却用流量調整部の全開時(つまり、100%)に対する開度比率で定義される。
通常運転時の制限開度LDopについては、外気温Tamの上昇に伴って、制限開度LDopが大きくなるように決定する。これは、外気温Tamの上昇に伴って、凝縮器12における高圧冷媒の放熱量が減少して、冷却用蒸発部の温度を低下させるために要する時間が長くなるからである。また、外気温Tamの低下に伴って、冷却用蒸発部の温度が不必要に低下してしまう可能性が高くなるからである。
オイル回収制御時の制限開度LDopについては、外気温Tamの上昇に伴って、制限開度LDopが小さくなるように決定する。これは、外気温Tamの上昇に伴って、冷凍機油が空調用蒸発器16、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bに滞留しにくくなるからである。さらに、オイル回収制御時の制限開度LDopについては、少なくとも空調用蒸発器16、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bに滞留している冷凍機油を圧縮機11へ戻すことのできる範囲内で決定する。
ステップS412では、徐変制御時の冷却用流量調整部の絞り開度ODopを決定して、ステップS414へ進む。ステップS412では、電池用電磁弁14bが閉じた状態から開いた状態に変化したと判定されてからの切替経過時間Topに応じて、絞り開度ODopを変化させる。
具体的には、ステップS412では、制限開度LDop以下となる範囲で、冷却用流量調整部の絞り開度ODopを増加させる。さらに、ステップS412では、単位時間当たりの絞り開度ODopの増加量が予め定めた基準増加量(本実施形態では、1秒当たりの増加量が最大開度の0.1%)となるように、冷却用流量調整部の絞り開度ODopを増加させる。
そして、切替経過時間Topが制限時間LTopに達する前に、絞り開度ODopが制限開度LDopに到達した場合は、切替経過時間Topが制限時間LTopに達する迄、絞り開度ODopが制限開度LDopに維持される。また、切替経過時間Topが、制限時間LTopに達した場合は、絞り開度ODopによらず、徐変制御を終了する。すなわち、制限開度LDopを100%とする。
一方、ステップS408にて、電池用電磁弁14bが閉じた状態から開いた状態に変化していないと判定された場合は、ステップS413へ進む。また、ステップS409にて、冷媒回路が空調単独サイクルから空調電池サイクルへ切り替えられていないと判定された場合は、ステップS413へ進む。ステップS413へ進んだ場合は、徐変制御を実行する必要がないので、制限開度LDopを100%とする。
図15に示すステップS414では、オイル回収制御が実行されているか否かが判定される。ステップS414にて、オイル回収制御が実行されていると判定された場合は、ステップS415へ進む。ステップS414にて、オイル回収制御が実行されていないと判定された場合は、ステップS416へ進む。
ステップS415およびステップS416では、着霜判定フラグの値を決定してステップS417へ進む。着霜判定フラグには、冷却用蒸発部に着霜が生じていると判定された場合は「有」が記憶される。また、冷却用蒸発部に着霜が生じていないと判定された場合は「無」が記憶される。
ステップS415では、冷却用蒸発器温度の最低温度TEBminが下降過程にある時は、最低温度TEBminが予め定めた第1基準着霜温度KTEB1(本実施形態では、-5℃)以下となった際に、着霜判定フラグが「無」から「有」となる。また、冷却用蒸発器温度の最低温度TEBminが上昇過程にある時は、最低温度TEBminが予め定めた第2基準着霜温度KTEB2(本実施形態では、-3℃)以上となった際に、着霜判定フラグが「有」から「無」となる。
第1基準着霜温度KTEB1と第2基準着霜温度KTEB2との差は、制御ハンチングを防止するためのヒステリシス幅である。
ステップS416では、最低温度TEBminが下降過程にある時は、最低温度TEBminが予め定めた第3基準着霜温度KTEB3(本実施形態では、-1℃)以下となった際に、着霜判定フラグが「無」から「有」となる。また、冷却用蒸発器温度の最低温度TEBminが上昇過程にある時は、最低温度TEBminが予め定めた第4基準着霜温度KTEB4(本実施形態では、0℃)以上となった際に、着霜判定フラグが「有」から「無」となる。
第3基準着霜温度KTEB3と第4基準着霜温度KTEB4との差は、制御ハンチングを防止するためのヒステリシス幅である。
また、本実施形態では、右側冷却用蒸発器温度TEBRおよび左側冷却用蒸発器温度TEBLのうち低い方の値を、冷却用蒸発器温度の最低温度TEBminとしている。
さらに、第1基準着霜温度KTEB1は、第3基準着霜温度KTEB3よりも低い温度に設定されている。第2基準着霜温度KTEB2は、第4基準着霜温度KTEB4よりも低い温度に設定されている。このため、オイル回収制御の実行中は、通常運転時よりも着霜判定フラグが「有」になりにくくなっている。
ステップS417では、着霜判定フラグを用いて、冷却用蒸発部に着霜が生じているか否かを判定する。ステップS417にて、着霜判定フラグが「有」になっている場合は、ステップS418へ進む。ステップS418では、冷却用流量調整部(すなわち、右側電池用膨張弁18aおよび左側電池用膨張弁18b)を全閉(0%)とする。これにより、冷却用蒸発部へ冷媒が流入しなくなり、冷却用蒸発部の除霜がなされる。
ステップS417にて、着霜判定フラグが「無」になっている場合は、ステップS419へ進む。ステップS419では、右側電池用膨張弁18aの右側絞り開度ODRを決定して、ステップS420へ進む。右側絞り開度ODRは、右側電池用蒸発器19aの出口側の冷媒の右側過熱度SHBRが、予め定めた目標冷却側過熱度SHBO(本実施形態では、10℃)に近づくように決定される。
具体的には、ステップS419では、右側絞り開度ODRの右側変化量fR(右側過熱度)を決定する。本実施形態では、図15のステップS419に記載された制御特性図に示すように、右側過熱度SHBRから目標冷却側過熱度SHBO(本実施形態では、10℃))を減算した値の増加に伴って、右側変化量fR(右側過熱度)を増加させるように決定する。
さらに、ステップS419では、前回の右側絞り開度ODRに右側変化量fR(右側過熱度)を加えた値、並びに、ステップS412にて決定された通常作動時の徐変制御中の絞り開度ODopのうち、小さい方の値を右側絞り開度ODRとする。
ステップS420では、左側電池用膨張弁18bの左側絞り開度ODLを決定して、ステップS15へ進む。左側絞り開度ODLは、基本的に右側絞り開度ODRと同等の値に決定される。つまり、左側絞り開度ODLは、右側絞り開度ODRの決定に同期して、右側絞り開度ODRと同等の増減量となるように決定される。
但し、左側電池用蒸発器19bの出口側の冷媒の左側過熱度SHBLと右側過熱度SHBRが乖離した際には、左側電池用膨張弁18bの絞り開度を補正する。具体的には、ステップS420では、図15のステップS420に記載された制御特性図に示すように、左側過熱度SHBLから右側過熱度SHBRを減算した値の増加に伴って、左側補正量を増加させるように決定する。
但し、左側過熱度SHBLから右側過熱度SHBRを減算した値が一定値以下(本実施形態では、-5以上かつ+5以下)である場合、左側補正量を0にする。右側過熱度SHBRおよび左側過熱度SHBLは、右側冷却用蒸発器温度TEBR、左側冷却用蒸発器温度TEBLおよび冷却用蒸発器圧力PEBから導出される。
これにより、右側電池用蒸発器19aと左側電池用蒸発器19bとの過熱度の差があっても、バッテリ70の冷却が不均一にならない程度であれば右側電池用膨張弁18aの目標開度と左側電池用膨張弁18bの目標開度とを同一にする。
さらに、ステップS420では、前回の右側絞り開度ODRに右側変化量fR(右側過熱度)および左側補正量を加えた値、並びに、ステップS412にて決定された通常作動時の徐変制御中の絞り開度ODopのうち、小さい方の値を左側絞り開度ODLとする。
次に、ステップS15では、外気ファン12aの稼働率(すなわち、外気の送風量)を決定する。外気ファン12aの送風量については、高圧側の冷媒圧力Phに基づいて決定する。具体的には、図26の制御特性図に示すように、冷媒圧力Phの上昇に伴って、外気ファン12aの稼働率を上昇させて、送風量を増加させる。
次に、ステップS16では、上述のステップS5~S15で決定された制御状態が得られるように、空調制御装置50より各種制御対象機器に対して、制御信号および制御電圧が出力される。次に、ステップS17では、制御周期τ(本実施形態では、250ms)の間待機し、制御周期τの経過を判定するとステップS2に戻る。
ここで、本実施形態のように、冷媒に冷凍機油が混入されている冷凍サイクル装置では、冷媒回路内に冷凍機油が滞留してしまうことがある。特に、液相冷媒を蒸発させる空調用蒸発器16、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19b内には、冷凍機油が滞留しやすい。このような冷凍機油の滞留は、空調用蒸発器16、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bの熱交換性能を低下させてしまう。
そこで、本実施形態の車両用空調装置1では、冷凍サイクル装置10の空調用蒸発器16、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19b内等に滞留した冷凍機油を圧縮機11へ戻すためのオイル回収制御を実行することができる。オイル回収制御については、図27を用いて説明する。図27に示すオイル回収制御用の制御処理は、図3に示すメインルーチンの制御処理と並行して実行される。
オイル回収制御用の制御処理では、オイル回収制御の実行よりも車室内の防曇が優先される防曇条件が成立した際に、オイル回収制御を禁止する。まず、ステップS801では、空調経過時間ACTが予め定めた基準空調実行時間KACT1(本実施形態では、120秒)以内である否かが判定される。
ここで、基準空調実行時間KACT1は、空調運転の開始時から空調用送風空気が車室内の快適な空調を実現可能な温度に低下して安定する迄に要する時間に決定されている。換言すると、基準空調実行時間KACT1は、空調用蒸発器温度TEが目標空調用蒸発器温度TEOへ到達して安定する迄に要する時間として決定されている。
なお、空調用蒸発器温度TEが安定するとは、単位時間当たりの変化量の予め定めた基準変化量以下となっている状態である。
ステップS801にて、空調経過時間ACTが基準空調実行時間KACT1以内であると判定された場合は、ステップS802へ進む。ステップS801にて、空調経過時間ACTが基準空調実行時間KACT1以内ではないと判定された場合は、ステップS809へ進む。
ステップS801にて、空調経過時間ACTが基準空調実行時間KACT1以内ではないと判定された場合は、既に車室内の安定した空調が実現されている。さらに、空調用蒸発器16に付着した凝縮水量も増加している。従って、オイル回収制御を実行すると、空調用蒸発器16における空調用送風空気の冷却能力および除湿能力が低下して、防曇能力を低下させてしまう可能性がある。
そこで、ステップS809では、オイル回収制御を実行しないこと(すなわち、オイル回収制御の禁止)が決定されて、再びステップS801へ戻る。つまり、本実施形態では、空調経過時間ACTが基準空調実行時間KACT1を超えている際に、防曇条件が成立するものとしている。
ステップS802では、トリップカウンタTcntが予め定めた基準回数KTcnt(本実施形態では、5回)以上となっているか否かが判定される。ステップS802にて、トリップカウンタTcntが基準回数KTcnt以上になっていると判定された場合は、ステップS803へ進む。ステップS802にて、トリップカウンタTcntが基準回数KTcnt以上になっていないと判定された場合は、ステップS809へ進む。
ステップS803では、電池冷却作動が許可されているか否か判定される。ステップS803にて、電池冷却作動が許可されていないと判定された場合は、ステップS804へ進む。ステップS803にて、電池冷却作動が許可されていると判定された場合は、ステップS809へ進む。
ここで、空調運転が開始された状態で、電池冷却作動が許可されている場合は、空調用蒸発器16だけでなく、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bにも冷媒が供給される。従って、オイル回収制御を実行しなくても、空調用蒸発器16、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19b内に滞留した冷凍機油を圧縮機11へ戻すことができる。
ステップS804では、ステップS417と同様に、着霜判定フラグを用いて、冷却用蒸発部に着霜が生じているか否かが判定される。ステップS804にて、着霜判定フラグが「無」と判定された場合は、ステップS805へ進む。ステップS804にて、着霜判定フラグが「有」と判定された場合は、ステップS809へ進む。
ステップS805では、外気温Tamが基準防曇必要温度KTamL(本実施形態では、10℃)より高くなっている否かが判定される。ステップS805にて、外気温Tamが基準防曇必要温度KTamLより高くなっていると判定された場合は、ステップS806へ進む。ステップS805にて、外気温Tamが基準防曇必要温度KTamL以上になっていないと判定された場合は、ステップS809へ進む。
基準防曇必要温度KTamLは、外気温Tamが基準防曇必要温度KTamL以下になっている際に、急激な窓曇りを生じる可能性が高いと判断される温度に設定されている。そのため、基準防曇必要温度KTamLは、基準防曇温度KTamdよりも低い温度に設定されている。
従って、外気温Tamが基準防曇必要温度KTamLより高くなっていないと判定された際には、オイル回収制御が禁止される。つまり、本実施形態では、外気温Tamが基準防曇必要温度KTamL以下となった際に、防曇条件が成立するものとしている。
ステップS806では、吹出口モードがデフロスタモードに切り替えられているか否かが判定される。ステップS806にて、吹出口モードがデフロスタモードに切り替えられていないと判定された場合は、ステップS807へ進む。ステップS806にて、吹出口モードがデフロスタモードに切り替えられていると判定された場合は、ステップS809へ進む。
吹出口モードがデフロスタモードに切り替えられている場合は、乗員の操作によってフロント窓ガラスの防曇が要求されており、窓曇りを生じる可能性が高い状態である。従って、オイル回収制御を実行すると、防曇能力が低下して窓曇りが生じてしまう可能性がある。
そこで、吹出口モードがデフロスタモードに切り替えられている場合は、オイル回収制御が禁止される。つまり、本実施形態では、吹出口モードがデフロスタモードに切り替えられている際に、防曇条件が成立するものとしている。
ステップS807では、空調経過時間ACTが予め定めた基準空調安定時間KACT2(本実施形態では、20秒)以内である否かが判定される。ステップS807にて、空調経過時間ACTが基準空調安定時間KACT2以内であると判定された場合は、ステップS809へ進む。ステップS807にて、空調経過時間ACTが基準空調安定時間KACT2以内ではないと判定された場合は、ステップS810へ進む。
ここで、基準空調安定時間KACT2は、空調運転の開始時から空調用蒸発器16の温度分布が解消される迄に要する時間を想定して決定されている。空調用蒸発器16に温度分布が生じている間は、空調用送風空気の温度が車室内の快適な空調を実現可能な温度へ低下していない。
従って、空調経過時間ACTが基準空調安定時間KACT2以内であると判定された場合は、オイル回収制御が禁止される。つまり、本実施形態では、空調経過時間ACTが基準空調安定時間KACT2以内になっている際に、防曇条件が成立するものとしている。
ステップS808では、オイル回収制御を実行して、ステップS810へ進む。具体的には、オイル回収制御では、電池用電磁弁14bを開き、ステップS13で決定された回転数で圧縮機11を作動させる。つまり、オイル回収制御では、冷媒回路が空調電池サイクルに切り替えられて、冷却用蒸発部に冷媒を流通させる。
また、オイル回収制御が実行されているか否かは、専用の制御フラグに記憶される。従って、専用の制御フラグにオイル回収制御が実行されていることが記憶されていない場合は、オイル回収制御が実行されていない通常運転となる。
ステップS810では、オイル回収制御が完了したか否かが判定される。具体的には、ステップS810では、オイル回収制御の実行時間が、ステップS410にて決定されたオイル回収制御時の制限時間LTopに達したか否かが判定される。そして、オイル回収制御の実行時間が、制限時間LTopに達している際には、オイル回収制御が完了したと判定される。
ステップS810にて、オイル回収制御が完了したと判定された際には、ステップS808へ進む。ステップS811では、トリップカウンタTcntをリセットして(すなわち、トリップカウンタTcntを0回に設定して)、ステップS801へ戻る。ステップS810にて、オイル回収制御が完了していないと判定された際には、トリップカウンタTcntの値を維持したまま、再びステップS801へ戻る。
上述したステップS801~ステップS807の制御から明らかなように、オイル回収制御は、防曇条件が成立した際に禁止される。このため、図28のタイムチャートに示すように、オイル回収制御は、空調経過時間ACTが基準空調安定時間KACT2を超えており、かつ、基準空調実行時間KACT1以内となっている際に実行される。
そして、他の防曇条件が成立せず、オイル回収制御が実行されると冷媒回路が空調単独サイクルから空調電池サイクルへ切り替えられる。さらに、図28に一例として示すように、オイル回収制御の終了後に、バッテリ70の冷却が必要なければ、冷媒回路が空調電池サイクルから空調単独サイクルへ切り替えられる。
このため、本実施形態の車両用空調装置1では、図29の図表に示すように冷凍サイクル装置10の冷媒回路が切り替えられる。
具体的には、エアコンスイッチ60aが投入されておらず、ステップS14にて電池冷却作動が許可されている場合は、基本的に電池単独サイクルに切り替えられる。なお、エアコンスイッチ60aが投入されておらず、電池冷却作動が禁止されており、さらに、電池温度TBが基準許容温度KTBmax以下になっている場合は、圧縮機11を停止させるので、いずれの冷媒回路に切り替えられていてもよい。
また、エアコンスイッチ60aが投入されており、電池冷却作動が許可されている場合は、空調電池サイクルに切り替えられる。エアコンスイッチ60aが投入されており、電池冷却作動が禁止されている場合は、基本的に空調単独サイクルに切り替えられる。但し、エアコンスイッチ60aが投入されており、電池冷却作動が禁止されている場合であってもオイル回収制御の実行中は、空調電池サイクルに切り替えられる。
冷凍サイクル装置10が空調単独サイクルに切り替えられている際には、空調用蒸発部へ冷媒を流入させるとともに冷却用蒸発部へ冷媒を流入させることを禁止する空調モードの運転が実行される。
空調モードの冷凍サイクル装置10では、圧縮機11から吐出された高圧冷媒が、凝縮器12へ流入する。凝縮器12へ流入した高圧冷媒は、外気ファン12aから送風された外気と熱交換して凝縮する。凝縮器12にて凝縮した冷媒は、レシーバ12bにて気液分離される。
レシーバ12bから流出した液相冷媒は、電池用電磁弁14bが閉じているので、分岐部13aおよび空調用電磁弁14aを介して空調用膨張弁15へ流入して減圧される。空調用膨張弁15にて減圧された低圧冷媒は、空調用蒸発器16へ流入する。
空調用蒸発器16へ流入した冷媒は、空調用送風機32から送風された空調用送風空気と熱交換して蒸発する。これにより、空調用送風空気が冷却される。空調用蒸発器16から流出した冷媒は、逆止弁17および合流部13bを介して圧縮機11へ吸入され、再び圧縮される。
空調モードの熱媒体回路20では、水ポンプ21から圧送された熱媒体が、水加熱ヒータ22にて加熱される。水加熱ヒータ22によって加熱された熱媒体は、ヒータコア23へ流入する。ヒータコア23へ流入した熱媒体は、空調用蒸発器16にて冷却された空調用送風空気と熱交換する。これにより、空調用送風空気が再加熱される。
ヒータコア23から流出した熱媒体は、リザーブタンク24を介して、水ポンプ21に吸入され、再び圧送される。
空調モードの室内空調ユニット30では、内外気切替装置33から流入した空気が空調用送風機32へ吸入される。空調用送風機32から送風された空調用送風空気は、空調用蒸発器16へ流入して冷却される。空調用蒸発器16にて冷却された空調用送風空気の一部は、エアミックスドア34の開度に応じてヒータコア23にて再加熱される。
ヒータコア23にて加熱された空調用送風空気と冷風バイパス通路35を通過した空調用送風空気は、混合空間36にて混合されて目標吹出温度TAOに近づく。そして、混合空間36にて適切な温度に調整された空調用送風空気が、吹出口モードに応じて、車室内の適切な場所へ吹き出される。これにより、車室内の快適な空調が実現される。
また、冷凍サイクル装置10が電池単独サイクルに切り替えられている際には、空調用蒸発部へ冷媒を流入させることを禁止するとともに冷却用蒸発部へ冷媒を流入させる冷却モードの運転が実行される。
冷却モードの冷凍サイクル装置10では、空調単独サイクルと同様に、凝縮器12にて凝縮した冷媒が、レシーバ12bにて気液分離される。レシーバ12bから流出した液相冷媒は、空調用電磁弁14aが閉じているので、分岐部13aおよび電池用電磁弁14bを介して電池側分岐部13cへ流入する。
電池側分岐部13cの一方の流出口から流出した冷媒は、右側電池用膨張弁18aへ流入して減圧される。右側電池用膨張弁18aにて減圧された低圧冷媒は、右側電池用蒸発器19aへ流入する。
右側電池用蒸発器19aへ流入した冷媒は、冷却用送風機42から送風された冷却用送風空気と熱交換して蒸発する。これにより、冷却用送風空気が冷却される。右側電池用蒸発器19aから流出した冷媒は、電池側合流部13dおよび合流部13bを介して圧縮機11へ吸入され、再び圧縮される。
電池側分岐部13cの他方の流出口から流出した冷媒は、左側電池用膨張弁18bへ流入して減圧される。左側電池用膨張弁18bにて減圧された低圧冷媒は、左側電池用蒸発器19bへ流入する。
左側電池用蒸発器19bへ流入した冷媒は、冷却用送風機42から送風された冷却用送風空気と熱交換して蒸発する。これにより、冷却用送風空気が冷却される。左側電池用蒸発器19bから流出した冷媒は、電池側合流部13dおよび合流部13bを介して圧縮機11へ吸入され、再び圧縮される。
冷却モードの電池パック40では、電池用空間45内の空気が冷却用送風機42へ吸入される。冷却用送風機42から送風された冷却用送風空気は、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bへ流入して冷却される。
右側電池用蒸発器19aにて冷却された冷却用送風空気は、右側空気通路44aを介して電池用空間45へ導かれ、バッテリ70の右側に吹き付けられる。これにより、複数の電池セルの一方の端面が冷却される。左側電池用蒸発器19bにて冷却された冷却用送風空気は、左側空気通路44bを介して電池用空間45へ導かれ、バッテリ70の左側に吹き付けられる。これにより、複数の電池セルの他方の端面が冷却される。
また、冷凍サイクル装置10が空調電池サイクルに切り替えられている際には、空調用蒸発部へ冷媒を流入させるとともに冷却用蒸発部へ冷媒を流入させる空調冷却モードの運転が実行される。
空調冷却モードの冷凍サイクル装置10では、空調単独サイクルおよび電池単独サイクルと同様に、凝縮器12にて凝縮した冷媒が、レシーバ12bにて気液分離される。レシーバ12bから流出した液相冷媒は、分岐部13aへ流入する。
分岐部13aの一方の流出口から流出した冷媒は、空調単独サイクルに切り替えられている際と同様に、空調用電磁弁14aを介して空調用膨張弁15へ流入する。そして、空調単独サイクルに切り替えられている際と同様に、空調用蒸発器16にて空調用送風空気が冷却される。
分岐部13aの他方の流出口から流出した冷媒は、電池単独サイクルに切り替えられている際と同様に、電池用電磁弁14bを介して電池側分岐部13cへ流入する。そして、電池単独サイクルに切り替えられている際と同様に、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bにて冷却用送風空気が冷却される。
空調冷却モードの熱媒体回路20および室内空調ユニット30では、空調単独サイクルに切り替えられている際と同様に作動する。従って、冷凍サイクル装置10の冷媒回路が空調電池サイクルに切り替えられている際にも、適切に温度調整された空調用送風空気が、車室内の適切な箇所に吹き出され、車室内の快適な空調が実現される。
空調冷却モードの電池パック40では、各構成機器が電池単独サイクルに切り替えられている際と同様に作動する。従って、冷凍サイクル装置10の冷媒回路が空調電池サイクルに切り替えられている際にも、バッテリ70を冷却することができる。
さらに、冷凍サイクル装置10の冷媒回路が空調電池サイクルに切り替えられている際には、空調用蒸発器16、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bに冷媒を流通させることができる。従って、オイル回収制御を実行するために必要な流量の冷媒を循環させることで、空調用蒸発器16、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bに滞留した冷媒を圧縮機11へ戻すことができる。
本実施形態の車両用空調装置1では、冷却用蒸発部が、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bとして、複数設けられている。
これによれば、バッテリ70を、2つの冷却用蒸発部(すなわち、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19b)によって冷却することができる。このため、1つの冷却用蒸発部によって冷却される電池セルの数が少なくなるので、バッテリ70を冷却する際に電池セル間で温度分布が生じてしまうことを抑制できる。その結果、複数の電池セルを均等に冷却することができるので、バッテリ70の性能を十分に発揮させることができる。
さらに、冷却用蒸発部を電池パック40の冷却用空間43を有効に利用して配置することができる。すなわち、冷却用蒸発部を、バッテリ70を効果的に冷却できるように配置することができる。
また、本実施形態の車両用空調装置1では、冷却用流量調整部が、右側電池用膨張弁18aおよび左側電池用膨張弁18bとして、複数設けられている。そして、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bへ流入させる冷媒流量を個別に調整できるようになっている。これによれば、複数の冷却用蒸発部における冷媒蒸発温度を個別に調整することができ、バッテリ70の効果的な冷却を実現することができる。
そして、ステップS420の制御特性図に示すように、左側電池用蒸発器19bの左側過熱度SHBLから右側電池用蒸発器19aの右側過熱度SHBRを減算した値が基準範囲内の場合、左側補正量を0にする。つまり、右側電池用蒸発器19aと左側電池用蒸発器19bとの過熱度の差があっても、バッテリ70の冷却が不均一にならない程度であれば右側電池用膨張弁18aの目標開度と左側電池用膨張弁18bの目標開度とを同じにする。
また、本実施形態の車両用空調装置1では、右側電池用膨張弁18a及び左側電池用膨張弁18bと、右側電池用蒸発器19a及び左側電池用蒸発器19bは、冷媒の流れに対して並列に接続されている。この為、一方の冷却用流量調整部にて、一方の冷却用蒸発部の過熱度を調整しようとすると、他方の冷却用蒸発部の過熱度が変化してしまう。
これに対し、ステップS420にて説明したように、バッテリ70の冷却が不均一にならない程度であれば右側電池用膨張弁18aの目標開度と左側電池用膨張弁18bの目標開度とを同じにしている。つまり、本実施形態の車両用空調装置1では、右側電池用膨張弁18aの開度と左側電池用膨張弁18bの開度が同期して同方向に制御されている。これにより、右側電池用蒸発器19a及び左側電池用蒸発器19bの制御の安定性を実現している。
また、本実施形態の車両用空調装置1では、ステップS412にて説明したように、空調単独サイクルから空調電池サイクルに切り替える際には、右側電池用膨張弁18a及び左側電池用膨張弁18bの徐変制御が行われる。徐変制御では、制限開度LDop以下の範囲内において、単位時間当たりの絞り開度ODopの増加量が予め定めた基準増加量となるように、冷却用流量調整部の絞り開度ODopを増加させる。
これにより、車両用空調装置1は、空調単独サイクルから空調電池サイクルに切り替わる際に、冷却用蒸発部に流入する冷媒流量を徐々に増加させることができ、空調用蒸発部に流入する冷媒流量が急に減少することを抑制できる。
つまり、車両用空調装置1によれば、空調電池サイクルにてバッテリ70の冷却を開始する際に、空調用蒸発部における冷媒流量の不足を抑制して、快適性及び除湿量の低下を抑制することができる。
又、本実施形態の車両用空調装置1では、徐変制御の終了条件として、制限時間LTopを経過したことを採用しており、制限時間LTopを経過した時点で徐変制御を終了する。制限時間LTopは、冷却用蒸発部における冷媒の挙動が安定する為に要する時間として定められている。
従って、車両用空調装置1によれば、制限時間LTopの経過に伴って徐変制御を終了した時点では、冷却用蒸発部における冷媒の挙動が安定しており、冷却用蒸発部が充分に冷えた状態にすることができる。これにより、その後の冷却用流量調整部の制御において絞り開度の変化を緩やかにすることができ、バッテリ70の冷却に伴う快適性及び除湿量の低下を抑制することができる。
そして、本実施形態の車両用空調装置1では、ステップS410において、外気温Tamの低下に伴って、制限時間LTopを短く決定する。外気温Tamの低下に伴って、冷却用蒸発部の温度が不必要に低下してしまう可能性が高くなり、冷却用蒸発部及び冷媒配管に凍結割れが生じることが考えられる。この為、車両用空調装置1は、外気温の低下に伴って制限時間LTopを短く決定することで、冷却用蒸発部等における凍結割れの発生を抑制することができる。
又、本実施形態の車両用空調装置1では、徐変制御における制限開度LDopを、冷却用蒸発部を均一に冷却する為に十分な冷却用流量調整部の絞り開度の上限値に決定している。このように制限開度LDopを定めることで、冷却用蒸発部に流入する冷媒流量の上限を規制して、空調用蒸発部における冷媒流量の減少を抑えることができる。
これにより、車両用空調装置1は、車室内の空調に加えて、バッテリ70の冷却を開始する際の空調フィーリングの低下を防止することができる。又、冷却用蒸発部に流入する冷媒流量の上限を規制することは、冷却用蒸発部の冷え過ぎを抑制することになる。この為、冷却用蒸発部の冷え過ぎによる冷媒配管等の凍結割れを抑制することができる。
そして、本実施形態の車両用空調装置1では、ステップS411において、外気温Tamの低下に伴って、制限開度LDopを小さく決定する。外気温Tamの低下に伴って、冷却用蒸発部の温度が不必要に低下してしまう可能性が高くなり、冷却用蒸発部及び冷媒配管に凍結割れが生じることが考えられる為からである。従って、車両用空調装置1によれば、図24の制御特性図に従って制限開度LDopを決定することで、冷媒配管等の凍結割れを抑制することができる。
また、本実施形態の車両用空調装置1は、ステップS409にて、空調単独サイクルから空調電池サイクルに切り替わったと判定された場合に、ステップS410~ステップS412の徐変制御を行う。一方で、ステップS409で、停止状態から電池単独サイクルに切り替わったと判定された場合は、徐変制御を行わずに、ステップS413に進む。換言すると、停止状態から電池単独サイクルに切り替わった場合、徐変制御の実行は緩和されている。
停止状態から電池単独サイクルに切り替わった場合は、バッテリ70の冷却が車室内空調に影響を与えることはなく、徐変制御を実行する必要性は少ない。この為、徐変制御の実行を緩和することで、車両用空調装置1は、バッテリ70を早期に冷却することができ、電気自動車が走行制限状態になる可能性を低減することができる。
また、本実施形態の車両用空調装置1は、ステップS77にて空調電池サイクルに切り替えられていると判定された場合、外気率を0%に決定して内外気切替装置33の作動を制御する。この結果、空調電池サイクルの運転開始に先立って、空調用蒸発器16に供給される内気率は100%に増加する。
これによれば、バッテリ70の冷却を開始する前に、空調用蒸発器16に導入される空気の温度を極力低下させることができるので、バッテリ70の冷却作動を開始したときに空調用蒸発器16の温度が上がることを極力抑制できる。
また、本実施形態の車両用空調装置1は、ステップS305において、電池温度TBが高くなって空調電池要件上限値が高くなっても、圧縮機11の回転数の上限値がNV要件上限値以下になるように決定している。
これにより、車両用空調装置1は、車室内の空調及びバッテリ70の冷却に関する要求に応えると同時に、圧縮機11の騒音や振動に関する要求にも対応した適切な圧縮機11の回転数の上限値に決定することができる。
また、本実施形態の車両用空調装置1は、ステップS13で説明したように、ステップS404でバッテリ70の冷却を許可した場合、電池用電磁弁14bがバッテリ70の冷却作動を開始する前に圧縮機11の冷媒吐出能力の上限値を高くする。
これによれば、空調用蒸発器16の温度を極力下げてからバッテリ70の冷却を開始できるので、バッテリ70の冷却を開始したときに空調用蒸発器16の温度が上がることを極力抑制できる。又、圧縮機11の冷媒吐出能力の上限値を高くすることで、サイクル中の冷媒密度を上げて、冷凍機油を循環させやすくすることができる。これにより、冷却用流量調整部の最小開度が小さくても、圧縮機11の焼きつきを抑制しながら、サイクルを作動させることができる。
また、本実施形態の車両用空調装置1は、ステップS301にて、空調電池サイクルの場合における圧縮機の冷媒吐出能力を、空調用蒸発器16の空調用蒸発器温度TEと、目標空調用蒸発器温度TEOの差を用いたフィードバック制御手法を用いて決定する。
これにより、空調電池サイクルの場合でも、バッテリ70の冷却と、車室内の快適性及び防曇性を確保できる圧縮機11の冷媒吐出能力を実現することができ、車両の走行安全と、バッテリ70の冷却を両立させることができる。
また、本実施形態の車両用空調装置1は、ステップS76にて外気温Tamが基準高温側外気温KTamhよりも高いと判定された場合、外気率を0%に決定して内外気切替装置33の作動を制御する。つまり、空調用蒸発器16に導入される外気の量が減少するように、内外気切替装置33の作動が制御される。
これにより、空調用蒸発器16に導入される空気の温度を極力低下させることができるので、空調用送風空気の温度をできるだけ早期に目標値まで下げることができ、バッテリ70の冷却が空調に及ぼす影響を抑制することができる。
そして、本実施形態の車両用空調装置1では、ステップS15にて説明したように、高圧側の冷媒圧力Phの上昇に伴って、外気ファン12aの稼働率を上昇させて、凝縮器12に対する送風量を増加させている。
これにより、凝縮器12にて高圧冷媒から外気へ放熱される放熱量を増大させることができるので、冷凍サイクル装置10の低圧側における吸熱量を増大させることができる。この結果、車両用空調装置1は、空調用蒸発部、冷却用蒸発部における冷却能力を充分に確保することができる。
また、本実施形態の車両用空調装置1では、冷却用送風部である冷却用送風機42の送風量は、空調用送風部である空調用送風機32の送風量よりも少なくなるように定められている。
これによれば、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bにて冷却用送風空気を冷却するために冷媒を蒸発させても、空調用蒸発器16における空調用送風空気の冷却に影響を与えにくくすることができる。
また、本実施形態の車両用空調装置1では、空調用蒸発器16における熱交換面積が、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bにおける熱交換面積の合算値よりも大きくなっている。これによれば、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bへ流入させる冷媒流量が少なくなるので、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bにて発揮される冷却能力を安定化させやすい。
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
冷凍サイクル装置10は、上述の実施形態に開示された構成に限定されない。例えば、電池用電磁弁14bを廃止して、右側電池用膨張弁18aおよび左側電池用膨張弁18bの有する全閉機能によって、分岐部13aの他方の流出口から電池側分岐部13cの流入口へ至る冷媒通路を開閉してもよい。この場合は、右側電池用膨張弁18aおよび左側電池用膨張弁18bの作動に充分な応答性が確保されていることが望ましい。
また、上述の実施形態では、例えば、右側電池用膨張弁18aの絞り開度を予め定めた空調制御装置50に記憶された制御特性図に基づいて作動させた例を説明したが、これに限定されない。例えば、右側過熱度SHBRから目標冷却側過熱度SHBOを減算した過熱度差に基づいてフィードバック制御手法を用いて、右側電池用膨張弁18aの絞り開度を変化させてもよい。
また、上述の実施形態では、冷却用蒸発部として、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bの2つを採用した例を説明したが、冷却用蒸発部の数量は限定されない。
また、上述の実施形態では、バッテリ70を冷却する際に、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bの双方へ同時に冷媒を流入させる例を説明したが、これに限定されない。例えば、低外気温時等には、右側電池用蒸発器19aおよび左側電池用蒸発器19bに交互に冷媒を流入させるようにしてもよい。
また、上述の実施形態では、冷凍サイクル装置10の冷媒としてR1234yfを採用した例を説明したが、冷媒はこれに限定されない。例えば、R134a、R600a、R410A、R404A、R32、R407C等を採用してもよい。または、これらのうち複数の冷媒を混合させた混合冷媒等を採用してもよい。
また、熱媒体回路20は、上述の実施形態に開示された構成に限定されない。例えば、上述の実施形態では、熱媒体として、エチレングリコール水溶液を採用した例を説明したが、これに限定されない。熱媒体として、ジメチルポリシロキサン、あるいはナノ流体等を含む溶液、不凍液、アルコール等を含む水系の液冷媒、オイル等を含む液媒体等を採用してもよい。
また、電池パック40は、上述の実施形態に開示された構成に限定されない。上述の実施形態では、電池パック40の電池用ケーシング41内で、冷却用蒸発部にて冷却された冷却用送風空気を循環させることによって、バッテリ70を冷却する例を説明したがこれに限定されない。
例えば、冷却用流量調整部から流出した低圧冷媒と低温側熱媒体とを熱交換させて、低温側熱媒体を冷却する冷媒-熱媒体熱交換器を設ける。そして、冷媒-熱媒体熱交換器にて冷却された低温側熱媒体を、バッテリ70に接触するように形成された冷却水通路へ流入させてバッテリ70を冷却してもよい。
また、上述の実施形態では、冷却対象物としてバッテリ70を冷却する例を説明したが、冷却対象物はこれに限定されない。冷却対象物として、例えば、インバータ、モータジェネレータ、電力制御ユニット(いわゆる、PCU)、先進運転支援システム(いわゆる、ADAS)用の制御装置等のように作動時に発熱する車載機器を採用してもよい。
また、空調制御装置50は、上述の実施形態に開示された構成に限定されない。例えば、電池温度センサ59は、車両用制御装置80に接続されていてもよい。そして、空調制御装置50が、車両用制御装置80に入力された電池温度TBを読み込んで、各種制御に用いるようになっていてもよい。
また、空調制御装置50による制御は、上述の実施形態に開示されたものに限定されない。例えば、上述のステップS412では、基準増加量として、1秒当たりの増加量が最大開度の0.1%を採用した例を説明したが、これに限定されない。空調用蒸発器16へ流入する冷媒の急減を抑制することができれば、0.1%以下としてもよい。
さらに、上述のステップS412のように、基準増加量を変化させてもよい。すなわち、切替経過時間Topが制限時間LTopに達する迄は基準増加量を0.1%とし、制限時間LTop以降では基準増加量を0%に変化させてもよい。この際、基準増加量を段階的に変化させてもよいし、連続的に変化させてもよい。
また、上述の実施形態では、ステップS410にて外気温Tamに応じて制限時間LTopを決定し、ステップS411にて外気温Tamに応じて制限開度LDopを決定した例を説明したが、これに限定されない。例えば、制限時間LTopを固定値(例えば、30秒)とし、制限開度LDopを固定値(例えば、5%)としてもよい。
また、上述の実施形態のステップS404では、防曇要求の高低を、外気温Tamを用いて判定した例を説明したが、これに限定されない。湿度センサ59aによって検出された窓近傍湿度RHWを用いて防曇要求の高低を判定してもよい。
また、上述の実施形態では、図26に示すオイル回収制御用の制御処理をメインルーチンの制御処理と並行して実行する例を説明したが、これに限定されない。例えば、ステップS806へ進み、オイル回収制御の禁止が決定された際には、次の車両システムの起動迄、オイル回収制御用の制御処理を停止させてもよい。
また、上述の実施形態では、ステップS805にてオイル回収制御が実行された際の冷却用送風機42の作動について言及していないが、オイル回収制御では、冷却用送風機42を通常運転時と同様に作動させてもよいし、停止させてもよい。さらに、オイル回収制御では、圧縮機11を連続的に作動させてもよいし、断続的に作動させてもよい。
また、上述の実施形態のステップS802で用いられる基準回数KTcntについては、システム構成に応じて、サイクル内への冷凍機油の滞留のしやすさを考慮して決定すればよい。さらに、ステップS803にて電池冷却作動が許可されていると判定された際に、トリップカウンタTcntをリセットしてもよい。
また、上述した実施形態では、ステップS409にて、停止状態から電池単独サイクルに切り替わったと判定された場合には、制限開度LDopを100%として、徐変制御を実行しないようにしていたが、これに限定されない。例えば、徐変制御の制限時間LTopに関して、停止状態から電池単独サイクルに切り替わった場合の制限時間LTopを、空調単独サイクルから空調電池サイクルに切り替わった場合の制限時間LTopよりも短く決定しても良い。