本開示の安定型A1cの測定方法は、血中ヘモグロビンの分子表面電荷に基づく分離分析における安定型A1cの測定方法であって、
分離分析で得られるヘモグロビンの時間分布から、HbA0として同定される分画に対し正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積がHbA0を含む分画のピーク面積又はヘモグロビンの時間分布のヘモグロビンを含む全ピーク面積に占める割合である第1の割合が、第1の閾値以上であるかどうかを判別する工程、及び、
第1の割合が第1の閾値以上である場合に、ヘモグロビンの時間分布における化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積から、又はHbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積から、HbA0が化学修飾されずに残った割合である残存率を算出し、ヘモグロビンの時間分布におけるHbA0を含む分画のピーク面積又はヘモグロビンを含む全ピーク面積に対する、安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を残存率で補正して得た値を当該分画の測定値とする工程、
を含んでなる。
上記分離分析の具体的な方法としては、ヘモグロビンの分子表面電荷の多寡に基づいてその種類を分離することのできる方法であれば特に限定されず、たとえば、HPLC(High Performance Liquid Chromatography、高速液体クロマトグラフィー)法、あるいはキャピラリー電気泳動法が挙げられる。このうち、より簡便な測定システムによってより多数の検体を短時間で分析する観点からは、キャピラリー電気泳動法が適している。
ヘモグロビンの時間分布とは、ヘモグロビンを流路内で分離し、分離された各ヘモグロビンを流路上の特定の地点にある測定部位で検出した時間とシグナル強度を、横軸に時間、縦軸にシグナル強度を示すグラフに表したものである。横軸の時間は、ヘモグロビンが所定の距離を移動するために要した時間を示す。横軸の時間は、分離を開始した時点から、検体成分が流路の特定の地点にある測定部位で検出された時点までの時間ともいえる。ヘモグロビンの時間分布としては、たとえば、クロマトグラフィーから得られるクロマトグラム、キャピラリー電気泳動から得られるエレクトロフェログラムが含まれる。
たとえば、キャピラリー電気泳動法やイオン交換を原理としたHPLC法の場合、ヘモグロビン分子表面の電荷の多寡に応じて移動速度が変動する。そのため、分離開始からそのヘモグロビン分子がキャピラリー管内又はカラム内を移動して特定の地点を通過するまでの経過時間、つまりそのヘモグロビン分子が所定の距離を移動するためにかかった時間は、そのヘモグロビン分子の分子表面電荷の多寡とみなすことができる。そして、泳動開始からの経過時間に応じたシグナル(たとえば、吸光度)の強度が、いくつかの山(ピーク)と谷(ボトム)とをもった曲線、すなわちエレクトロフェログラム又はクロマトグラムとして表現される。このエレクトロフェログラム又はクロマトグラムの形状を基にして、ヘモグロビンがいくつかの分画に分離される。たとえば、特定のピークを中心とした分画が、ヘモグロビンの特定の成分として同定される。
ヘモグロビンの時間分布の横軸は、分子表面電荷の多寡を示すものであればよい。そのため、上述のように所定の距離を移動するためにかかった時間の他に、各ヘモグロビン分子の移動速度であってもよく、特定の時間における移動距離であってもよい。ヘモグロビンの時間分布の縦軸は、ヘモグロビンの量を示すものであればよい。たとえば、ヘモグロビンの含有量そのものやヘモグロビンの濃度であってもよい。また、測定部位の検出器から出力されるシグナル強度であってもよく、吸光度や蛍光や発光強度といった光学的な測定値であってもよい。また、吸光度変化の単位時間当たりの変化量であってもよい。ヘモグロビンの吸収スペクトルを考慮すると、波長415nm又はその付近の吸光度を測定し、その吸光度を縦軸にすることが望ましい。このヘモグロビンの時間分布の形状から得られた分画のピーク面積やピークの高さは、分離されたそのヘモグロビン成分の量を示す。
分離分析で得られるヘモグロビンの時間分布から、HbA0として同定される分画に対し正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積が、HbA0を含む分画のピーク面積又は前記ヘモグロビンの時間分布のヘモグロビンを含む全ピーク面積に占める割合である第1の割合が、第1の閾値以上であるかどうかが判別する工程について説明する。
たとえばキャピラリー電気泳動のように、陽イオン交換を原理とする分離分析法で血液中のヘモグロビンを分離分析すると、正電荷量の少ないヘモグロビンから正電荷量の多いヘモグロビンの順に、各ヘモグロビンが検出される。具体的には、HbFを含む分画が検出され、その後、カルバミル化HbA0、アルデヒド化HbA0及び不安定型A1cを含む分画が検出される。さらにその後、順に、安定型A1cを含む分画、HbA0を含む分画に隣接する分画、HbA0を含む分画が検出される。ここで検出される安定型A1cを含む分画は、カルバミル化又はアルデヒド化などの化学修飾がされずに残った安定型A1cに由来する分画である。上述のように、カルバミル化HbA0又はアルデヒド化HbA0と不安定型A1cは同じ分画に検出されるため、カルバミル化HbA0又はアルデヒド化HbA0を含む分画のピーク面積の大きさから、その検体がカルバミル化HbA0又はアルデヒド化HbA0を含んでいるのか、あるいは不安定型A1cを含んでいるのか判断できない。一方、検体に含まれるヘモグロビンを人為的にカルバミル化又はアルデヒド化すると、カルバミル化HbA0又はアルデヒド化HbA0及び不安定型A1cを含む分画のピーク面積だけでなく、HbA0として同定される分画に対し正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積も増大する。そして、HbA0として同定される分画に対し正電荷量が少ない側に隣接する分画には、不安定型A1cは含まれない。そのため、HbA0を含む分画のピーク面積又はヘモグロビンの時間分布のヘモグロビンを含む全ピーク面積に対する、HbA0として同定される分画に対し正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積の割合が第1の閾値以上であるかどうかを判断することで、分離分析した検体がカルバミル化HbA0又はアルデヒドHbA0を多く含む検体であるのかどうかを適切に判別できる。
なお、不安定型A1cが、カルバミル化HbA0又はアルデヒド化HbA0を含む分画と同じ分画に含まれるのは、カルバミル化HbA0又はアルデヒド化HbA0及び不安定型A1cの分子表面電荷がそれぞれ近いからと考えられる。一方、不安定型A1cが、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画に含まれる物質とは異なる分画に含まれるのは、不安定型A1cの分子表面電荷は、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画に含まれる物質の表面電荷と十分に異なることによると考えられる。また、HbA0として同定される分画に対し正電荷量が少ない側に隣接する分画は、HbA0がカルバミル化又はアルデヒド化される際に、カルバミル化HbA0又はアルデヒド化HbA0とともに生成される物質を含む分画と考えられる。またこの物質は波長415nmに対して吸光する性質を有する。このことから、この物質は何らかのヘモグロビン化合物であると推測される。
このHbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画は、安定型A1cとして同定される分画に対し、正電荷が多い側に存在する分画ともいえる。又は、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接し、かつ、安定型A1cとして同定される分画に対し、正電荷が多い側に存在する分画ともいえる。又は、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画は、HbA0として同定される分画に対し、検出される時間が早い分画ともいえる。又は、安定型A1cとして同定される分画に対し、検出される時間が遅い分画ともいえる。又は、HbA0として同定される分画に対し、検出される時間が早く、かつ、安定型A1cとして同定される分画に対し、検出される時間が遅い分画ともいえる。
血液に含まれる総ヘモグロビン量の大部分は、HbA0量が占める。そのため、HbA0を含む分画のピーク面積と前記ヘモグロビンの時間分布の全ピーク面積の値は近似する。よって、HbA0を含む分画のピーク面積又は前記ヘモグロビンの時間分布の全ピーク面積のいずれを用いて第1の割合を算出しても、適切に本発明を実施できる。
第1の閾値は、適宜設定することができる。上述したように、不安定型A1cを多く含む検体であっても、HbA0として同定される分画に対し正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積は大きくならず、検体に含まれるHbA0のカルバミル化、アルデヒド化の程度を適切に示す。そこで、たとえば、カルバミル化又はアルデヒド化されていない検体、化学修飾の影響が無視できる検体、又は、健常者の検体を複数集めて分離分析し、そこから得られる第1の割合から第1の閾値を設定してもよい。たとえば、複数の検体から得られた第1の割合の最大値を第1の閾値としてもよいし、その最大値よりも大きい値を第1の割合にしてもよい。この分画がこのような大きい値以上である場合には、カルバミル化又はアルデヒド化の影響を確実に受けていると判断できる。換言すると、第1の割合がこのような大きい値である第1の閾値以上であれば、検体は、カルバミル化又はアルデヒド化の影響を確実に受けていると考えられる。一方、カルバミル化もアルデヒド化もされていない検体の第1の割合はこの第1の閾値以上となることはほとんどない。これにより、不安定型A1cを多く含む検体を、カルバミル化HbA0やアルデヒド化HbA0を多く含む検体と誤って判断することを回避できる。そして、カルバミル化やアルデヒド化された影響を補正する必要がない検体を補正することを回避でき、適切に安定型A1cの割合を測定できる。また、厳密な判別が求められていないのであれば、複数の検体から得られた第1の割合の最大値よりも小さい値を第1の閾値としてもよい。たとえば得られた第1の割合の平均値や中央値などを、この第1の閾値としてもよい。第1の閾値は、たとえば、4%以上であり、9%以上とすることが好ましい。
次に、第1の割合が第1の閾値以上である場合に、ヘモグロビンの時間分布における化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積から、又はHbA0として同定される分画に対し正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積から、HbA0が化学修飾されずに残った割合である残存率を算出し、ヘモグロビンの時間分布におけるHbA0を含む分画のピーク面積又はヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を残存率で補正して得た値が当該分画の測定値、すなわち、安定型A1cを含む分画の測定値とされる。この測定値とは、全ヘモグロビン量に占める安定型A1cの割合としての意義を有する値である。
この残存率は、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の合計値に対する、HbA0を含む分画のピーク面積の割合としてもよい。また、後述するように、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画から化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積を算出する。そして、HbA0を含む分画のピーク面積と算出した化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の合計値に対する、HbA0を含む分画のピーク面積の割合を残存率としてもよい。また、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の合計値に対する、化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の割合である修飾率を用いて残存率を算出してもよい。たとえば、1から修飾率を減じることで残存率を算出してもよい。修飾率は、化学修飾されていないHbA0と化学修飾されたHbA0の合計量に対する、化学修飾されたHbA0の量の割合ともいえる。
以下に修飾率の算出について説明する。血液に含まれる、化学修飾されていないHbA0量(なお、本開示において、単に「HbA0」というときには、化学修飾されていないHbA0を意味する。)と化学修飾されたHbA0量との合計量の大部分は、HbA0量が占める。そのため、ヘモグロビンの時間分布から得られる、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積との合計値の大部分は、HbA0を含む分画のピーク面積が占める。よって、HbA0を含む分画のピーク面積を、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の合計値とみなして、修飾率を算出してもよい。また、血液に含まれるヘモグロビンの大部分はHbA0が占める。そのため、ヘモグロビンの時間分布から得られるヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積の大部分は、HbA0を含む分画のピーク面積が占める。よって、HbA0を含む分画のピーク面積を、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積とみなして、修飾率を算出してもよい。また、同じ理由で、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積を、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の合計値とみなして、修飾率を算出してもよい。また、HbA0として同定される分画に対し正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積から、化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積を算出し、修飾率を算出してもよい。
なお、本開示において、ヘモグロビンの時間分布の形状から得られた全ての分画のピーク面積を、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積としてもよい。
化学修飾されたHbA0を含む分画は、安定型A1cとして同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画である。また、HbFよりも正電荷量が多い側に存在する分画ともいえる。又は、安定型A1cとして同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に存在し、かつ、HbFよりも正電荷量が多い側に存在する分画ともいえる。又は、安定型A1cとして同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接し、かつ、HbFよりも正電荷量が多い側に存在する分画ともいえる。又は、化学修飾されたHbA0を含む分画は、安定型A1cとして同定される分画に対し、検出される時間が早い分画である。また、HbFよりも検出される時間が遅い分画ともいえる。又は、安定型A1cとして同定される分画に対し、検出時間が早く、かつ、HbFよりも検出時間が遅い分画ともいえる。この化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積は、ヘモグロビンがカルバミル化あるいはアルデヒド化したときに、増大する。
また、残存率や修飾率は、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画を用いて算出してもよい。理由は定かではないが、上述したように、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積はヘモグロビンがカルバミル化あるいはアルデヒド化したときに、増大する。よって、例えば、健常者の検体を人為的にカルバミル化又はアルデヒド化し、その検体のHbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積と、カルバミル化HbA0及びアルデヒド化HbA0のピーク面積の相関関係を予め求めておく。そして、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積に相関関係から得られた所定の係数で除することで、不安定型A1cのピーク面積を含まないカルバミル化HbA0及びアルデヒド化HbA0のピーク面積補正値を算出する。そして、算出したカルバミル化HbA0及びアルデヒド化HbA0のピーク面積補正値から、残存率や修飾率を算出してもよい。
化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積は、そのままの数値として用いてもよいし、適宜の修正を加えた後の数値として用いてもよい。たとえば、化学修飾されたHbA0を含む分画に、化学修飾されたHbA0量以外の成分が含まれている場合、化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積から化学修飾されたHbA0以外の成分に由来するピーク面積を所定のピーク面積値として控除することが挙げられる。化学修飾されたHbA0以外の成分に由来するピーク面積が既知である場合、その既知のピーク面積を所定のピーク面積値として控除してもよい。また、複数の健常者の検体を分離分析し、化学修飾を被ったHbA0以外の成分のピーク面積の統計的な値を、検体の安定型A1cの測定前に求めておく。そして、検体を測定時に化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積からこの値を所定のピーク面積値として控除してもよい。たとえば、この統計的な値は平均値や中央値などである。
HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積も、化学修飾されたHbA0を含む分画について上記で述べたのと同様に、そのままの数値として用いてもよいし、適宜の修正を加えた後の数値として用いてもよい。HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画に、HbA0が化学修飾される際にともに生成する物質以外の成分が含まれている場合も、化学修飾されたHbA0を含む分画について上記で述べたのと同様である。
次に、分離分析で得られたヘモグロビンの時間分布から、HbA0を含む分画のピーク面積又はヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を残存率で補正する。この補正により得られた値が、前記したように、当該分画、すなわち安定型A1cを含む分画の測定値とされる。
本明細書で述べるヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積とは、分離分析した検体に含まれる総ヘモグロビン量に相当するピーク面積の値とも言える。得られたヘモグロビンの時間分布においてヘモグロビンに由来する分画のピーク面積の合計値とも言える。なお、検体に含まれるヘモグロビン量の大部分は、HbA0が占める。そのため、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積は、当該HbA0分画のピーク面積と同じ値とみなして補正してもよい。また、HbA0分画のピーク面積に加え、ヘモグロビンの時間分布の形状において隣接する分画のピーク面積を含んで算出された合計値を、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積とみなして補正してもよい。
そして、安定型A1cもまた、上記したHbA0が化学修飾された修飾率にて化学修飾を被っており、検体に含まれる安定型A1cは化学修飾されずに残った安定型A1cであるとの推定の下に、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を残存率で補正する。換言すると、残存率を用いて、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、化学修飾されずに残った安定型A1cを含む分画のピーク面積と化学修飾された安定型A1cを含む分画のピーク面積の合計値の割合を算出する。この補正により、過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映した安定型A1cの割合を算出する。
たとえば、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を残存率で補正する方法は、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を残存率で除することとしてもよい。
ここで、第1の割合が第1の閾値未満である場合には、化学修飾の影響を受けていないか、あるいは無視できるほど小さいものとみなして、上記した残存率による補正は行わないこととしてもよい。この場合、上記した残存率による補正が行われていない、ヘモグロビンの時間分布におけるHbA0を含む分画のピーク面積又はヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合が、当該分画の測定値とされる。この測定値の意義については前記したとおりである。また、あらかじめ、上記した残存率による補正をしていないピーク面積の割合と、残存率による補正をしたピーク面積の割合との両方を算出しておいて、第1の割合が第1の閾値以上であるかどうかを判別する工程を行い、第1の割合が第1の閾値未満である場合に、残存率で補正していないピーク面積の割合を前記した測定値としてもよい。
前記した、第1の割合が所定の第1の閾値以上であるかどうかを判別する工程に加えて、前記ヘモグロビンの時間分布から、化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積がHbA0を含む分画のピーク面積又は前記ヘモグロビンの時間分布の全ピーク面積に占める割合である第2の割合が、第2の閾値以上であるかどうかを判別する工程を有していてもよい。分離分析した検体の第1の割合が第1の閾値以上であり、安定型A1c分画に対して正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積の大きさも一定以上であることを判別することで、その検体は化学修飾されたHbA0を含むことがさらに適切に判断できる。換言すると、第1の割合が第1の閾値以上であり、第2の割合が第2の閾値以上の検体であれば、その検体は、カルバミル化又はアルデヒド化の影響を確実に受けていると考えられる。そして第1の割合が第1の閾値以上であり、第2の割合が第2の閾値以上である場合に、上記した残存率で補正した割合を前記した測定値としてもよい。第2の割合が第2の閾値以上であるかどうかを判別する工程は、第1の割合が第1の閾値以上であるかどうかを判別する工程に先立って、又はその後に実行されることとしてもよい。
第2の閾値は、たとえば、カルバミル化又はアルデヒド化されておらず、不安定型A1c量が通常と思われる検体を複数集めて分離分析し、そこから得られる第2の割合の最大値としてもよい。また、たとえば、複数の検体から得られた第2の割合の最大値よりも大きい値を第2の閾値にしてもよい。また、判別に高い精度が求められていない場合は、複数の検体から得られた第2の割合の平均値や中央値といった任意の値を第2の閾値としてもよい。この第2の閾値は、たとえば、総ヘモグロビン量に対し3%以上とすることができる。
そして、第1の割合が第1の閾値以上であっても、第2の割合がこの第2の閾値未満である検体は、化学修飾されたHbA0を含んでいない、又はほとんど含まれていないと解される。そのため、HbA0を含む分画のピーク面積又は前記ヘモグロビンの時間分布のヘモグロビンを含む全ピーク面積に対する、安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を、前記した残存率で補正した割合を前記した測定値とはしない。そして、前記した残存率で補正していないHbA0を含む分画のピーク面積又はヘモグロビンの時間分布の全ピーク面積に対する、安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合が前記した測定値とされる。
一方、第1の割合が第1の閾値以上で、第2の割合がこの第2の閾値以上である場合には、HbA0を含む分画のピーク面積又は前記ヘモグロビンの時間分布の全ピーク面積に対する、安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を、前記したように残存率で補正して得た値を前記した測定値とする。
[分析システム]
図1は、本開示の安定型A1cの測定方法が実施される分析システムA1の一例の概略構成を示している。分析システムA1は、分析装置1及び分析チップ2を備えて構成されている。分析システムA1は、人体から採取された血液である試料Saを対象として血中ヘモグロビンの分子表面電荷に基づいて、陽イオン交換を原理とするヘモグロビンの分離分析を実行するシステムである。以下、分子表面の正電荷量の違いを利用した電気泳動を原理とする分析システムを用いて本発明を説明するが、本発明は、電気泳動を原理とする分離分析に限定されない。
<分析チップの準備>
分析チップ2は、試料Saを保持し、かつ分析装置1に装填された状態で試料Saを対象とした分析の場を提供するものである。本実施形態においては、分析チップ2は、1回の分析を終えた後に廃棄されることが意図された、いわゆるディスポーザブルタイプの分析チップとして構成されている。図2及び図3に示すように、分析チップ2は、本体21、混合槽22、導入槽23、フィルタ24、排出槽25、電極槽26、キャピラリー管27及び連絡流路28を備えている。図2は、分析チップ2の平面図であり、図3は、図2のIII-III線に沿う断面図である。なお、分析チップ2は、ディスポーザブルタイプのものに限定されず、複数回の分析に用いられるものであってもよい。また、本実施形態の分析システムは、別体の分析チップ2を分析装置1に装填する構成に限定されず、分析チップ2と同様の機能を果たす機能部位が分析装置1に一体に組み込まれた構成であってもよい。
本体21は、分析チップ2の土台となるものであり、その材質は特に限定されず、たとえば、ガラス、溶融シリカ、プラスチック等があげられる。本実施形態においては、本体21は、図3における上側部分2Aと下側部分2Bとが別体に形成されており、これらが互いに結合された構成である。なお、これに限らず、たとえば、本体21を一体的に形成してもよい。
混合槽22は、後述する試料Saと希釈液Ldとを混合する混合工程が行われる箇所の一例である。混合槽22は、たとえば、本体21の上記上側部分2Aに形成された貫通孔によって、上方に開口した凹部として構成されている。導入槽23は、混合槽22における混合工程によって得られた試料溶液としての混合試料Smが導入される槽である。導入槽23は、たとえば、本体21の上記上側部分2Aに形成された貫通孔によって、上方に開口した凹部として構成されている。
フィルタ24は、導入槽23への導入経路の一例である導入槽23の開口部に設けられている。フィルタ24の具体的構成は限定されず、好適な例として、たとえばセルロースアセテート膜フィルタ(ADVANTEC社製、孔径0.45μm)が挙げられる。
排出槽25は、電気泳動法における電気浸透流の下流側に位置する槽である。排出槽25は、たとえば、本体21の上記上側部分2Aに形成された貫通孔によって,上方に開口した凹部として構成されている。電極槽26は、電気泳動法による分析工程において、電極31が挿入される槽である。電極槽26は、たとえば、本体21の上記上側部分2Aに形成された貫通孔によって、上方に開口した凹部として構成されている。連絡流路28は、導入槽23と電極槽26とを繋いでおり、導入槽23と電極槽26との導通経路を構成している。
キャピラリー管27は、導入槽23と排出槽25とを繋ぐ微細流路であり、電気泳動法における電気浸透流(EOF、electro-osmotic flow)が生じる場である。キャピラリー管27は、たとえば本体21の上記下側部分2Bに形成された溝として構成されている。なお、本体21には、キャピラリー管27への光の照射及びキャピラリー管27を透過した光の出射を促進するための凹部等が適宜形成されていてもよい。キャピラリー管27のサイズは特に限定されないが、その一例を挙げると、その幅が25μm~100μm、その深さが25μm~100μm、その長さが5mm~150mmである。分析チップ2全体のサイズは、キャピラリー管27のサイズ及び混合槽22、導入槽23、排出槽25及び電極槽26のサイズや配置等に応じて適宜設定される。
なお、上記構成の分析チップ2は一例であって、電気泳動法による分析が可能な構成の分析チップを適宜採用することができる。
<分析装置>
分析装置1は、試料Saが点着された分析チップ2が装填された状態で、試料Saを対象とした分析処理を行う。分析装置1は、図1に示すように、電極31,32、光源41、光学フィルタ42、レンズ43、スリット44、検出器5、分注器6、ポンプ61、希釈液槽71、泳動液槽72及び制御部8を備えている。なお、光源41、光学フィルタ42、レンズ43及び検出器5は、本発明でいう測定部の一例を構成する。
電極31及び電極32は、電気泳動法においてキャピラリー管27に所定の電圧を印加するためのものである。電極31は、分析チップ2の電極槽26に挿入されるものであり、電極32は、分析チップ2の排出槽25に挿入されるものである。電極31及び電極32に印加される電圧は特に限定されないが、たとえば0.5kV~20kVである。
光源41は、電気泳動法において光学測定値としての吸光度を測定するための光を発する部位である。光源41は、たとえば所定の波長域の光を出射するLEDチップを具備する。光学フィルタ42は、光源41からの光のうち所定の波長の光を減衰させつつ、その余の波長の光を透過させるものである。レンズ43は、光学フィルタ42を透過した光を分析チップ2のキャピラリー管27の分析箇所へと集光するためのものである。スリット44は、レンズ43によって集光された光のうち、散乱などを引き起こしうる余分な光を除去するためのものである。
検出器5は、分析チップ2のキャピラリー管27を透過してきた光源41からの光を受光するものであり、たとえばフォトダイオードやフォトICなどを具備して構成されている。
このように、光源41から発した光が検出器5へと至る経路が光路である。そして、当該光路がキャピラリー管27と交わる位置でそのキャピラリー管27を流れる溶液(すなわち、試料溶液及び泳動液のいずれか又はその混合溶液)について光学測定値が測定される。すなわち、キャピラリー管27において光源41から検出器5へ至る光路が交わる位置が、光学測定値の測定部である。この光学測定値としては、たとえば吸光度が挙げられる。吸光度は、該光路の光がキャピラリー管27を流れる溶液によって吸収された度合いを表すものであり、入射光強度と透過光強度の比の常用対数の値の絶対値を表したものである。この場合、検出器5としては汎用的な分光光度計を利用することができる。なお、吸光度を使用せずとも、単純に透過光強度の値そのものなど、光学測定値であれば本発明に利用することができる。以下においては、光学測定値として吸光度を使用した場合を例に説明する。
分注器6は、所望の量の希釈液Ldや泳動液Lm及び混合試料Smを分注するものであり、たとえばノズルを含む。分注器6は図示しない駆動機構によって分析装置1内の複数の所定位置を自在に移動可能である。ポンプ61は、分注器6への吸引源及び吐出源である。また、ポンプ61は、分析装置1に設けられた図示しないポートの吸引源及び吐出源として用いてもよい。これらのポートは、泳動液Lmの充填などに用いられる。また、ポンプ61とは別の専用のポンプを備えてもよい。
希釈液槽71は、希釈液Ldを貯蔵するための槽である。希釈液槽71は、分析装置1に恒久的に設置された槽でもよいし、所定量の希釈液Ldが封入された容器が分析装置1に装填されたものであってもよい。泳動液槽72は、泳動液Lmを貯蔵するための槽である。泳動液槽72は、分析装置1に恒久的に設置された槽でもよいし、所定量の泳動液Lmが封入された容器が分析装置1に装填されたものであってもよい。
制御部8は、分析装置1における各部を制御するものである。制御部8は、図4のハードウェア構成に示すように、CPU(Central Processing Unit)81、ROM(Read Only Memory)82、RAM(Random Access Memory)83及びストレージ84を有する。各構成は、バス89を介して相互に通信可能に接続されている。
CPU81は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU81は、ROM82又はストレージ84からプログラムを読み出し、RAM83を作業領域としてプログラムを実行する。CPU81は、ROM82又はストレージ84に記録されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。
ROM82は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM83は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ84は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)又はフラッシュメモリにより構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。本態様では、ROM82又はストレージ84には、測定や判定に関するプログラムや各種データが格納されている。また、ストレージ84には、測定データを保存しておくこともできる。
制御部8は、上記ハードウェア構成のうちCPU81が、前記したプログラムを実行することによって、分析装置1において図5に示すような各工程を実施する。これらの工程の詳細については後述する。
<希釈液、泳動液、混合試料の調製>
希釈液Ldは、試料Saと混合されることにより、試料溶液としての混合試料Smを生成するためのものである。希釈液Ldの主剤は特に限定されず、水、生理食塩水が挙げられ、好ましい例として後述する泳動液Lmと類似の成分の液体が挙げられる。また、希釈液Ldは、上記主剤の他に、必要に応じて添加物が添加されてもよい。
泳動液Lmは、電気泳動法による分析工程において、排出槽25及びキャピラリー管27に充填され、電気泳動法における電気浸透流を生じさせる媒体である。泳動液Lmは、特に制限されないが、酸を用いたものが望ましい。上記酸は、たとえば、クエン酸、マレイン酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、フタル酸、マロン酸、リンゴ酸がある。また、泳動液Lmは、弱塩基を含むことが好ましい。上記弱塩基としては、たとえば、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリス等がある。泳動液LmのpHは、たとえば、pH4.5~6の範囲である。泳動液Lmのバッファーの種類は、MES、ADA、ACES、BES、MOPS、TES、HEPES等がある。また、泳動液Lmにも、希釈液Ldの説明で述べたのと同様に、必要に応じて添加物が添加されてもよい。
泳動液Lm、希釈液Ld、及び混合試料Smは以下を例示するが、後述する界面到達時点において、試料溶液(混合試料Sm)と泳動液Lmとの界面の到達に起因する光学測定値の変化が生じる組み合わせであれば任意に選択できる。
<準備工程、電気泳動工程、分析工程>
次に、分析システムA1を用いて行うヘモグロビンの分離分析の一例について、以下に説明する。図5は、本実施形態におけるヘモグロビンの分離分析方法を示すフロー図である。本分離分析方法は、準備工程S1、電気泳動工程S2、及び分析工程S3を有する。
<準備工程S1>
図6は、準備工程S1における具体的な手順を示すフロー図である。本実施形態において、準備工程S1は、同図に示すように、試料採取工程S11、混合工程S12、泳動液充填工程S13、及び導入工程S14を有する。
<試料採取工程S11>
まず、試料Saを用意する。本実施形態においては、試料Saは、人体から採取された血液である。血液としては、全血、成分分離血液又は溶血処理が施されたもの等であってもよい。そして、試料Saが分注された分析チップ2を分析装置1に装填する。
<混合工程S12>
次いで、試料Saと希釈液Ldとを混合する。具体的には、図7に示すように、所定量の試料Saが分析チップ2の混合槽22に点着されている。次いで、分注器6によって希釈液槽71の希釈液Ldを所定量吸引し、図8に示すように、所定量の希釈液Ldを分析チップ2の混合槽22に分注する。そして、ポンプ61を吸引源及び吐出源として、分注器6から希釈液Ldの吸引及び吐出を繰り返す。これにより、混合槽22において試料Saと希釈液Ldとが混合され、試料溶液としての混合試料Smが得られる。試料Saと希釈液Ldとの混合は、分注器6の吸引及び吐出以外の方法によって行ってもよい。
<泳動液充填工程S13>
次いで、分注器6によって泳動液槽72の泳動液Lmを所定量吸引し、図9に示すように、所定量の泳動液Lmを分析チップ2の排出槽25に分注する。そして、上述したポートで排出槽25の上方の開口を覆い、ポートから排出槽25内部に空気を吐出や吸引を適宜実施するなどの手法により、排出槽25及びキャピラリー管27に泳動液Lmを充填する。
<導入工程S14>
次いで、図10に示すように、混合槽22から所定量の混合試料Smを分注器6によって採取する。そして、分注器6から導入槽23に所定量の混合試料Smを導入する。この導入においては、導入槽23への導入経路の一例である導入槽23の開口部に設けられたフィルタ24を混合試料Smが通過する。また、本実施形態においては、混合試料Smが導入槽23から連絡流路28を通じて電極槽26へと充填される。この際、導入槽23から連絡流路28を介した電極槽26への混合試料Smの流動が起こることとなるが、導入槽23から連絡流路28へは、キャピラリー管27の長手方向に対してほぼ直交する方向へ混合試料Smが流動する(図2参照)。一方、キャピラリー管27の泳動液Lmはこの段階ではほとんど移動していない。この結果、導入槽23とキャピラリー管27との接続部(図3参照)においてせん断流が生じることで、混合試料Smと泳動液Lmとの明瞭な界面が生じた状態となる。なお、混合溶液Smと泳動液Lmとの界面が生じる方法であれば、物理的に導入槽23とキャピラリー管27との境界に移動可能なフィルタを設けたり、制御的に流動方法を変更したりする等、あらゆる手段を採用することができる。
<電気泳動工程S2>
次いで、電極槽26(図2参照)に電極31(図1参照)を挿入し、排出槽25に電極32(図1参照)を挿入する。続いて、制御部8からの指示により電極31及び電極32に電圧を印加する。この電圧は、たとえば0.5kV~20kVである。これにより電気浸透流を生じさせ、導入槽23から排出槽25へとキャピラリー管27中において混合試料Smを徐々に移動させる。この際、導入槽23に混合試料Smが充填されているため、キャピラリー管27において混合試料Smが連続的に供給されている状態で、上記分析成分であるヘモグロビン(Hb)を電気泳動させることとなる。このとき、混合試料Smと泳動液Lmとの上記した界面が維持された状態のまま、混合試料Smは泳動液Lmを下流方向へ押しやりつつキャピラリー管27を泳動していくことになる。また、光源41からの発光を開始し、検出器5による吸光度の測定を行う。そして、電極31及び電極32からの電圧印加開始時からの経過時間と吸光度との関係を測定する。
<分析工程S3>
ここで、混合試料Sm中の移動速度が比較的速い成分(換言すると、分子表面の正電荷量が比較的少ない成分)に対応した吸光度ピークは、上記電圧印加開始時からの経過時間が比較的短い時点で現れる。一方、混合試料Sm中の移動速度が比較的遅い成分(換言すると、分子表面の正電荷量が比較的多い成分)に対応した吸光度ピークは、上記電圧印加開始時からの経過時間が比較的長い時点で現れる。このことを利用して、混合試料Sm中の成分の分析(分離測定)が行われる。測定された吸光度を基に、制御部8の制御によって、図11Aに示す分析工程S3が実行される。本実施形態の分析工程S3は、波形形成工程S31、界面到達時点決定工程S32及び成分同定工程S33を含む。
<波形形成工程S31>
本工程においては、測定された上記吸光度を制御部8による演算処理により、エレクトロフェログラムを作成する。ここで、電圧印加開始時を測定開始時として、当該測定開始後の経過時間に対応した光学測定値の変化を表す吸光度に関する測定波形としてのエレクトロフェログラムが形成される。具体的には、測定された上記吸光度を時間微分することによって微分値の波形を形成する。図12は、吸光度の時間微分によって形成された微分波形の一例を示している。図中のx軸は時間軸であり、y軸は微分値軸である。以降の図及び説明においては、時間軸xに沿った負方向側を方向x1側及び正方向側を方向x2側とし、微分値軸yに沿った負方向側を方向y1側及び正方向側を方向y2側とする。
<界面到達時点決定工程S32>
本工程においては、電圧印加によりキャピラリー管の下流方向に泳動する混合試料Smと泳動液Lmとの界面が検出器5に到達した時点である界面到達時点を決定する工程である。この混合試料Smと泳動液Lmとの界面は、電気泳動開始後に最初に現れるピークである。この混合試料Smと泳動液Lmとの界面のピークを図13に示す。図13に示すように、この混合試料Smと泳動液Lmとの界面が示すピークのうち、このエレクトロフェログラムにおける基準値Lsから微分値が最も離間している点を決定する。図示された例においては、基準値Lsから方向y2に離間した点が基準値Lsから最も離間しており、この点が最離間点PLとして決定される。ここで、前記した電気泳動工程S2において電圧の印加を開始した時点を0として、この最離間点PLが検出された時点を界面到達時点とする。
<成分同定工程S33>
前記した波形形成工程S31において得られる、界面到達時点以後の微分波形の一例を、図14に示す。同図においては、x軸は電圧の印加を開始した時点を0とした泳動時間(単位:sec)を示し、y軸は吸光度を時間微分した値であるSLOPE値(単位:mAbs/sec)を示している。また、泳動時間11.5秒付近のピークは、図13に示す最離間点PLであり、この時点が界面到達時点である。そして、本工程において、この微分波形からヘモグロビン成分が特定される。具体的には、界面到達時点以降で最大となるピークを有する分画αがHbA0と特定される。そして、界面到達時点からHbA0のピークまでに出現する各ピークについては、界面到達時点からHbA0のピークが検出された時間までの間の時間に対する、界面到達時点から当該ピークの検出時間までの時間の比率によって当該ピークが示す成分を同定した。たとえば、図14においては、安定型A1c(S-A1c)を示すピーク(分画β)がこのようにして同定される。
そして、このようにして同定された各ピークから、各成分の量が算出される。具体的には、ある成分として同定されたピークを極大値として、その極大値を含む分画の面積を当該ピークに対応する成分の量とすることができる。ここで、その分画の両端は適宜定めることができ、たとえば、その極大値の両側にある極小値をもってその両端としてもよい。
このようにして、S331に示す総ヘモグロビン算出工程において、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積を算出する。ここで、HbA0量は総ヘモグロビン量の大部分を占めている。そのため、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積は、HbA0分画のみで算出した面積であってもよく、また、HbA0分画とその周辺の分画を含む面積に準拠してもよく、さらには、エレクトロフェログラムのうちヘモグロビンに帰せられる領域の全ての面積としてもよい。いずれの場合も、後述する補正前値(X)及び補正後値(Y)の計算には大きな影響は及ぼさない。
次に、S332に示す補正前値算出工程において、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を算出することで、補正前値(X)が算出される。この補正前値(X)の算出に用いる安定型A1cを含む分画のピーク面積は、図14に示すS-A1cピークの両端にある極小値間の分画βの面積として求められる。つまり、この安定型A1cを含む分画βのピーク面積は、化学修飾されずに残った安定型A1cに由来するピーク面積である。そのため補正前値(X)は、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、化学修飾されずに残った安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合である。換言すると、化学修飾された安定型A1cを加味していないピーク面積の割合ともいえる。
次に、S333に示す判別工程において、上記で算出された補正前値(X)の補正を行うかどうかが判別される。すなわち、まず、図11BのS333aの工程において、第2の割合が第2の閾値以上であるかが判断される。具体的には、HbA0を含む分画のピーク面積又は前記ヘモグロビンの時間分布の全ピーク面積に対する、安定型A1cの分画に対して早い時間の側に隣接する分画、換言すると、正電荷量が少ない側に隣接する、泳動時間19秒付近の分画γのピーク面積の割合が、第2の閾値以上であるかどうかが判別される。第2の割合が第2の閾値以上であると判断された場合は、S333bに示す工程へ進む。一方、第2の割合が第2の閾値未満であると判断された場合は、S333cに示す工程へ進んで、補正前値(X)を安定型A1cの分画の測定値として、分析工程S3は終了する。
次に、S333に示す判別工程のS333bの工程において、第1の割合が第1の閾値以上であるかが判断される。具体的には、HbA0を含む分画のピーク面積又は前記ヘモグロビンの時間分布の全ピーク面積に対する、HbA0分画に対して早い時間の側に隣接する分画、換言すると、正電荷量が少ない側に隣接する、泳動時間25秒付近の分画δのピーク面積の割合が、第1の閾値以上であるかどうかが判別される。第1の割合が第1の閾値以上であると判断された場合は、再び図11Aに戻り、S334に示す工程へ進む。一方、第1の割合が第1の閾値未満であると判断された場合は、S333cに示す工程へ進んで、補正前値(X)を安定型A1cの分画の測定値として、分析工程S3は終了する。
次に、S334に示す残存率算出工程において、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の合計値に対する化学修飾されたHbA0を含むピーク面積の割合である修飾率(P)が算出される。そして、この修飾率(P)から、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の合計値に対するHbA0の割合である残存率(Q)が算出される。
具体的には、安定型A1cの分画に対して早い時間の側に隣接する分画、換言すると、正電荷量が少ない側に隣接する、泳動時間19秒付近の分画γには、後述の実施例で示すように、カルバミル化したHbA0及びアルデヒド化したHbA0のいずれか又は両方が含まれていると考えられる。残存率算出工程S334においては、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の合計値に対するこの分画γの割合を、修飾率(P)とする。なお、上述のように、分画γのピーク面積とHbA0を含む分画のピーク面積の合計値の大部分は、HbA0を含む分画のピーク面積が占める。そのため、HbA0を含む分画のピーク面積に対する分画γのピーク面積の割合を算出して、この修飾率(P)としてもよい。また、HbA0を含む分画のピーク面積は、検体に含まれる総ヘモグロビンに相当するピーク面積と近似することから、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画γのピーク面積の割合を算出して、この修飾率(P)としてもよい。
一方、HbA0分画に対して早い時間の側に隣接する分画、換言すると、正電荷量が少ない側に隣接する、泳動時間25秒付近の分画δには、HbA0がカルバミル化又はアルデヒド化される際に化学修飾したHbA0とともに生成する物質が含まれていると考えられる。残存率算出工程S334においては、上述したように、この分画δのピーク面積から化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積を算出し、修飾率(P)を算出してもよい。具体的には、HbA0を含む分画のピーク面積と分画δから算出した化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の合計値に対する、分画δから算出した化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の割合を算出して、修飾率(P)を算出してもよい。なお、上述のように、化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積とHbA0を含む分画のピーク面積の合計値の大部分は、HbA0を含む分画のピーク面積が占める。そのため、HbA0を含む分画のピーク面積に対する分画δから算出した化学修飾されたHbA0のピーク面積の割合を算出して、この修飾率(P)としてもよい。また、HbA0を含む分画のピーク面積は、検体に含まれる総ヘモグロビンに相当するピーク面積と近似することから、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画δから算出した化学修飾されたHbA0のピーク面積の割合を算出して、この修飾率(P)としてもよい。
そして、1から算出された修飾率(P)を減じることで残存率(Q)を算出する。なお、残存率(Q)の算出は、この算出方法に限定されるものではない。
そして、S335に示す補正後値算出工程において、上記で算出された補正前値(X)及び残存率(Q)から、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、化学修飾されずに残った安定型A1cを含む分画のピーク面積と化学修飾された安定型A1cを含む分画のピーク面積の合計値の割合である補正後値(Y)が算出される。具体的には、補正前値(X)を残存率(Q)で除することによって補正後値(Y)が算出される。
<カルバミル化の影響>
実施例1として、通常検体に人為的にシアン酸ナトリウムを添加し、ヘモグロビンをカルバミル化した検体において、本開示の安定型A1cの測定方法が有効であることを示す。
[カルバミル化検体の調製]
通常検体として、健常者から採取した全血を使用した。この通常検体に、下記表1に示すような終濃度となるようシアン酸ナトリウムを添加して37℃でインキュベートした検体1~検体4を調整し、これらをそれぞれ前記した試料Sa(図7参照)として使用した。
なお、上記表1中の検体1のシアン酸ナトリウム濃度は0mg/dLであるが、これはシアン酸ナトリウムを添加していない、通常検体そのままであることを意味する。
[泳動液]
前記した泳動液Lm(図9参照)は、以下の組成とした。
クエン酸:40mM
コンドロイチン硫酸Cナトリウム:1.25%w/v
ピペラジン:20mM
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(商品名:エマルゲンLS-110、花王社製):0.1%w/v
アジ化ナトリウム:0.02%w/v
プロクリン300:0.025%w/v
以上の成分の他、pH調整用のジメチルアミノエタノールを滴下して、pH5.0に調整した。
[希釈液]
前記した希釈液Ld(図8参照)は、以下の組成とした。
クエン酸:38mM
コンドロイチン硫酸Cナトリウム:0.95%w/v
1-(3-スルホプロピル)ピリジニウムヒドロキシド分子内塩(NDSB-201):475mM
2-モルホリノエタンスルホン酸(MES):19mM
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(商品名:エマルゲンLS-110、花王社製):0.4%w/v
アジ化ナトリウム:0.02%w/v
プロクリン300 0.025%w/v
以上の成分の他、pH調整用のジメチルアミノエタノールを滴下して、pH6.0に調整した。
[混合試料Sm]
1.5μLの試料Saを60μLの希釈液Ldに添加して、混合試料Sm(図8~図10参照)を作成した。この混合試料Smを前記した分析システムA1に供して、ヘモグロビンの分離分析を実行した。
[エレクトロフェログラム]
電圧を印加した時点を分離分析の開始の時点とし、電圧を印加した時点を0秒の時点としたエレクトロフェログラムを得た。シアン酸ナトリウムが添加されていない検体1のエレクトロフェログラムは、図15に示すとおりである。最離間点PLが検出された界面到達時点は泳動時間11.5秒付近である。また、HbF分画である分画εは泳動時間17.3秒付近にピークを有する。安定型A1c分画である分画βは泳動時間21秒付近にピークを有する。HbA0分画である分画αは泳動時間27.3秒付近にピークを有する。そして、分画βより早い泳動時間19秒付近(19.4秒)にピークを有する分画γは、不安定型A1cを含む分画とされているが、この分画にはカルバミル化を被ったHbA0も含まれる。また、分画αより早い泳動時間25秒付近(25.2秒)にピークを有する分画δには、HbA0がカルバミル化される際にカルバミル化HbA0と共に生成される物質が含まれる。
シアン酸ナトリウムが12.5mg/dLの濃度で添加されている検体2のエレクトロフェログラムは、図16に示すとおりである。最離間点PLが検出された界面到達時点は検体1とほぼ変わらないが、分画ε、分画γ、分画β、分画δ及び分画αのピークはそれぞれ泳動時間16.7秒、19.0秒、20.0秒、23.8秒及び25.6秒に観察されている。そして、分画γ及び分画δの面積は検体1より増大している。
シアン酸ナトリウムが18.8mg/dLの濃度で添加されている検体3のエレクトロフェログラムは、図17に示すとおりである。最離間点PLが検出された界面到達時点は検体1及び検体2とほぼ変わらないが、分画ε、分画γ、分画β、分画δ及び分画αのピークはそれぞれ泳動時間16.9秒、18.5秒、19.6秒、23.5秒及び25.4秒と、検体2とほぼ同じ時間に観察されている。そして、分画γ及び分画δの面積は検体2よりもさらに増大している。
シアン酸ナトリウムが25mg/dLの濃度で添加されている検体4のエレクトロフェログラムは、図18に示すとおりである。最離間点PLが検出された界面到達時点は検体1から検体3とほぼ変わらず、分画ε、分画γ、分画β、分画δ及び分画αのピークが観察される泳動時間もほぼ検体3と同じであるが、分画γ及び分画δの面積は検体3よりもさらに増大している。なお、検体1、検体2、検体3、検体4でそれぞれの分画が観察される時間が検体によって異なっているが、本実施例での安定型A1cの測定には影響しない。
[補正前値(X)の算出]
図15~図18における分画βから、安定型A1cのピーク面積の割合としての補正前値(X)は、下記表2に示すとおりに算出された。
上記表中の補正前値(X)の算出に当たっては、まず、各エレクトロフェログラムにおけるSLOPE値が0以上の部分の面積(ただし、PLをピークとする部分を除く)の総和が算出され、これをヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積とした。このヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積は、分画αとして同定されるHbA0のピーク面積を含む。そして、このヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画βのピーク面積の割合から上記表中の補正前値(X)を算出した。
上記表2に示すとおり、検体中のシアン酸ナトリウム濃度が高くなるにつれ、補正前値(X)が低くなっていくことが認められる。また検体1の補正前値(X)に対する増減の割合(すなわち、各検体の補正前値(X)から検体1の補正前値(X)である6.48%を減じた値の、検体1の補正前値(X)に対する割合)を示す相対誤差の値も、シアン酸ナトリウム濃度の増大に伴い、大きくなった。これは、安定型A1c量が、シアン酸ナトリウムによるカルバミル化を被ることで減少していくことを示している。
[第1の割合及び第2の割合]
ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、安定型A1cとして同定される分画βに対し、正電荷量が少ない側、換言すると泳動速度が速い側で隣接する分画γの割合である第2の割合は下記表3に示すとおりであった。また、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、HbA0として同定される分画αに対し、正電荷量が少ない側、換言すると泳動速度が速い側で隣接する分画δから算出される第1の割合も、下記表3に示すとおりであった。
すなわち、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画γの面積の割合である第2の割合は、検体1で2.9%、検体2で6.1%、検体3で8.1%、及び検体4で9.6%であった。また、分画δの面積の割合である第1の割合は、検体1で4.5%、検体2で9.3%、検体3で11.8%、及び検体4で16.1%であった。
[補正の必要性の判定]
上記表3中の第1の割合が、第1の閾値以上であるかどうかを判断した。第1の閾値は、例として、カルバミル化やアルデヒド化の影響を被っていないと考えられる検体で通常観察される分画δのピーク面積の最大値を上回る値である9%を用いた。同様に、第2の割合が、第2の閾値以上であるかどうかを判断した。第2の閾値は、例として、カルバミル化又はアルデヒド化されておらず、不安定型A1c量が通常と思われる検体、つまり健常者の検体でこの泳動速度で通常観察される分画γのピーク面積の最大値を上回る値である5%を用いた。
まず、検体2~4については、いずれも第1の割合は第1の閾値である9%以上であった。さらに第2の割合も第2の閾値である5%以上であった。そのため、HbA0を含む分画のピーク面積又は前記エレクトロフェログラムの全ピーク面積に対する、安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を残存率で補正すると判断された。一方、検体1については、第2の割合は第2の閾値である5%未満であり、また、第1の割合は第1の閾値である9%未満であった。そのため、上述の補正はしないと判断された。なお、本実施例では、第1の割合が第1の閾値以上であり、かつ、第2の割合が第2の閾値以上であるかを判断している。しかし、第1の割合が第1の閾値以上であるかのみを判断して、補正をするかどうかを判断してもよい。
[分画γによる補正]
次に、安定型A1cとして同定される分画βに対し、正電荷量が少ない側、換言すると泳動速度が速い側で隣接する分画γを用いて、下記表3に示すように、上記表2の補正前値(X)の補正を行った。
ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画γの面積の割合を、上記表3中の左端列に挙げており、具体的には、検体1で2.9%、検体2で6.1%、検体3で8.1%、及び検体4で9.6%であった。
検体1では、表3に示すように、第1の割合は第1の閾値未満であり、また、第2の割合は第2の閾値未満であった。よって、残存率(Q)による補正はせずに、補正前値(X)を安定型A1c分画の測定値とした。なお、検体2から検体4の補正後値(Y)と相対誤差を比較する便宜上、表4の補正後値(Y)欄に補正前値(X)である6.48%を示す。
一方、検体2~4では、表3に示すように、第1の割合は第1の閾値以上であり、かつ、第2の割合は第2の閾値以上であった。そこでまず、カルバミル化やアルデヒド化の影響を被っておらず、不安定型A1c量が通常量と考えられる健常者の検体が通常有する分画γのピーク面積として、複数の健常者の分画γのピーク面積の平均的な値である3%を所定のピーク面積値として、分画γのピーク面積から控除した。この値が上記表4中の修飾率(P)である。この値を1から減じた値が上記表中の残存率(Q、ただし百分率で表示)であり、この割合で残存した安定型A1cが、前記した表2中の補正前値(X)、すなわち分画βとしてエレクトロフェログラムに現れていると考えられる。よって、補正前値(X)をこの残存率(Q)で除した値である、上記表4中の補正後値(Y)が、真の安定型A1c量と考えられ、この補正後値(Y)を安定型A1c分画の測定値とした。ここで、前記表2から、補正前値(X)に基づく相対誤差の絶対値は、検体4で最大の6.5%であったところ、上記表3から、補正後値(Y)に基づく相対誤差(すなわち、各検体の補正後値(Y)から、化学修飾の影響を受けていないと考えられる検体1の補正前値(X)(表2参照)を減じた値の、検体1の補正前値(X)に対する割合)の絶対値は、検体3で最大の1.8%であった。そのため、補正の必要性を判定し、補正が必要と判定した場合に補正を行うことで、化学修飾されることによって生じる相対誤差の幅は小さくなった。
よって、補正の必要性を判定し、補正が必要と判定した場合に分画γを用いた補正をすることによって、カルバミル化による化学修飾の影響が軽減ないし排除されて、過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映した安定型A1cの割合により近い値が求められると考えられる。
[分画δによる補正]
次に、HbA0として同定される分画αに対し、正電荷量が少ない側、換言すると泳動速度が速い側で隣接する分画δを用いて、下記表5に示すように、上記表2の補正前値(X)の補正を行った。
ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画δの面積の割合を、上記表5中の左端列に挙げており、具体的には、検体1で4.5%、検体2で9.3%、検体3で11.8%、及び検体4で16.1%であった。
ここで、上記したように、検体1では、表3に示すように、第1の割合は第1の閾値未満であり、また、第2の割合は第2の閾値未満であった。よって、残存率(Q)による補正はしなかった。検体1の補正前値(X)を補正しなかったが、検体2から検体4の補正後値(Y)と相対誤差を比較する便宜上、表5の補正後値(Y)欄に補正前値(X)の6.48%を示す。
一方、検体2~4では、表3に示すように、第1の割合は第1の閾値以上であり、かつ、第2の割合は第2の閾値以上であった。そこでまず、カルバミル化やアルデヒド化の影響を被っていないと考えられる健常者の検体において通常観察される分画δのピーク面積として、複数の健常者の分画δのピーク面積の平均的な値である4%を所定のピーク面積値として、分画δのピーク面積から控除した。そして、HbA0が化学修飾される際にともに生成される物質のピーク面積は、カルバミル化HbA0のピーク面積である分画γの約1.65倍を示す。このことから分画δから所定のピーク面積値としての4%が控除された値をこの1.65という所定の係数で除した値をヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対するカルバミル化HbA0のピーク面積の割合とみなし、これを修飾率(P)とした。この他、残存率(Q)、補正後値(Y)及び相対誤差の算出は表4と同様である。ただし、表5中の補正後値(Y)は、前記表2中の補正前値(X)を表5中の残存率(Q)で除した値である。また、表5中の相対誤差は、表4と同様に、各検体の補正後値(Y)から、化学修飾の影響を受けていないと考えられる検体1の補正前値(X)(表2参照)を減じた値の、検体1の補正前値(X)に対する割合である。
上記表5からも、補正後値(Y)の相対誤差の幅は補正前の補正前値(X)の相対誤差(表2参照)の幅よりも小さくなっているといえる。よって、補正の必要性を判定し、補正が必要と判定された場合に分画δを用いた補正をすることによっても、カルバミル化による化学修飾の影響が軽減ないし排除されて、過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映した安定型A1cの割合により近い値が求められると考えられる。
[カルバミル化の影響について小活]
上記の表2~表5のまとめとして、各シアン化ナトリウム濃度で処理した検体を、補正せずに測定した場合と、補正の必要性を判定し、補正が必要と判定された場合に分画γによる補正を用いて測定した場合と、補正の必要性を判定し、補正が必要と判定された場合に分画δによる補正を用いて測定した場合とにおける相対誤差を下記表6に掲げる。
上記表6に掲げた相対誤差を、シアン酸ナトリウム濃度を横軸に取ってグラフ化した図19からも明らかなように、第1の閾値及び第2の閾値を用いた判定を行った上で、必要に応じ補正前値(X)を残存率(Q)によって補正することで、シアン酸ナトリウムによる安定型A1cのカルバミル化の影響を最も排除することが可能であることが認められた。
<アルデヒド化の影響>
実施例2として、通常検体に人為的にアセトアルデヒドを添加し、ヘモグロビンをアルデヒド化した検体においても、本開示の安定型A1cの測定方法が有効であることを示す。
[アルデヒド化検体の調製]
通常検体として、健常者から採取した全血を使用した。この通常検体に、下記表7に示すような終濃度となるようアセトアルデヒドを添加して37℃でインキュベートした検体1~検体4を調整し、これらをそれぞれ前記した試料Sa(図7参照)として使用した。
なお、上記表7中の検体5のアセトアルデヒド濃度は0mg/dLであるが、これはアセトアルデヒドを添加していない、通常検体そのままであることを意味する。また、泳動液Lm、希釈液Ld及び混合試料Smについては前記した実施例1と同様である。
[エレクトロフェログラム]
電圧を印加した時点を分離分析の開始の時点とし、電圧を印加した時点を0秒の時点としたエレクトロフェログラムを得た。アセトアルデヒドが添加されていない検体5のエレクトロフェログラムは、図20に示すとおりである。電圧を印加した時点が分離分析の開始の時点であり、エレクトロフェログラム上の泳動時間0秒の時点である。最離間点PLが検出された界面到達時点は泳動時間11.9秒付近である。また、HbF分画である分画εは泳動時間18.8秒付近にピークを有する。安定型A1c分画である分画βは泳動時間21.9秒付近にピークを有する。HbA0分画である分画αは泳動時間28.3秒付近にピークを有する。そして、分画βより早い泳動時間20.4秒付近にピークを有する分画γは、不安定型A1cを含む分画とされているが、この分画にはアルデヒド化を被ったHbA0も含まれる。また、分画αより早い泳動時間26.2秒付近にピークを有する分画δにも、アルデヒド化を被ったHbA0が含まれる。
アセトアルデヒドが12.5mg/dLの濃度で添加されている検体6のエレクトロフェログラムは、図21に示すとおりである。また、アセトアルデヒドが25mg/dLの濃度で添加されている検体7のエレクトロフェログラムは、図22に示すとおりである。図20~図22より、前記したカルバミル化の場合と同様、アセトアルデヒドの濃度が増大するにつれて、分画γ及び分画δの面積が増大していくことが認められる。
[補正前値(X)の算出]
図20~図22における分画βから、安定型A1cのピーク面積の割合としての補正前値(X)は、下記表8に示すとおりに算出された。なお、補正前値(X)の算出方法については前記した実施例1と同様である。
上記表8に示すとおり、検体中のアセトアルデヒド濃度が高くなるにつれ、補正前値(X)が低くなっていくことが認められる。また、検体5の補正前値(X)に対する増減の割合(すなわち、各検体の補正前値(X)から検体5の補正前値(X)である5.47%を減じた値の、検体5の補正前値(X)に対する割合)を示す相対誤差の値も、アセトアルデヒド濃度の増大に伴い、大きくなった。これは、安定型A1c量が、アセトアルデヒドによるアルデヒド化を被ることで減少していくことを示している。
[第1の割合及び第2の割合]
ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、安定型A1cとして同定される分画βに対し正電荷量が少ない側、換言すると泳動速度が速い側で隣接する分画γから算出される第2の割合と、HbA0として同定される分画αに対し、正電荷量が少ない側、換言すると泳動速度が速い側で隣接する分画δから算出される第1の割合とは、下記表9に示すとおりであった。
すなわち、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画γの面積の割合である第2の割合は、検体5で2.4%、検体6で4.6%、及び検体7で7.3%であった。また、分画δの面積の割合である第1の割合は、検体1で4.5%、検体2で8.1%、及び検体3で12.6%であった。
[補正の必要性の判定]
上記表9中の第1の割合が第1の閾値以上であるかどうかを判断した。第1の閾値については、前記実施例1と同様に9%を用いた。同様に、第2の割合が、第2の閾値以上であるかどうかを判断した。第2の閾値もまた、前記実施例1と同様に5%を用いた。
まず、検体7については、第1の割合は第1の閾値である9%以上であり、また、第2の割合は第2の閾値である5%以上であった。そのため、HbA0を含む分画のピーク面積又は前記エレクトロフェログラムの全ピーク面積に対する、安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を残存率で補正すると判断された。一方、検体5及び検体6については、第1の割合は第1の閾値である9%未満であり、また、第2の割合は第2の閾値である5%未満であった。そのため、上述の補正はしないと判断された。
[分画γによる補正]
次に、安定型A1cとして同定される分画βに対し、正電荷量が少ない側、換言すると泳動速度が速い側で隣接する分画γを用いて、下記表10に示すように、上記表8の補正前値(X)の補正を行った。
まず、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画γの面積の割合を、上記表10中の左端列に挙げており、具体的には、検体5で2.4%、検体2で4.6%、及び検体3で7.3%であった。
まず、検体5及び検体6では、表9に示すように、いずれも第1の割合は第1の閾値未満であり、また、第2の割合は第2の閾値未満であった。よって、残存率(Q)による補正はせずに、補正前値(X)を安定型A1c分画の測定値とした。なお、検体5及び検体6についてはこのように補正前値(X)は補正しなかったが、検体7の補正後値(Y)と相対誤差を比較する便宜上、表10の補正後値(Y)欄に補正前値(X)である5.47%及び5.36%を示す。
一方、検体7では、表9に示すように、第1の割合は第1の閾値以上であり、かつ、第2の割合は第2の閾値以上であった。前記実施例1と同様に、カルバミル化やアルデヒド化の影響を被っておらず、不安定型A1c量も通常と考えられる健常者の検体において通常観察される分画γのピーク面積として、複数の健常者の分画γのピーク面積の平均的な値である3%を所定のピーク面積値として、分画γのピーク面積から控除した。この値が上記表10中の修飾率(P)である。この値を1から減じた値が上記表中の残存率(Q、ただし百分率で表示)であり、この割合で残存した安定型A1cが、前記した表8中の補正前値(X)、すなわち分画βとしてエレクトロフェログラムに現れていると考えられる。よって、補正前値(X)をこの残存率(Q)で除した値である、上記表10中の補正後値(Y)が、真の安定型A1c量と考えられ、この補正後値(Y)を安定型A1c分画の測定値とした。ここで、前記表8から、補正前値(X)に基づく検体7の相対誤差の絶対値は、最大の5.1%であったところ、上記表10から、補正後値(Y)に基づく相対誤差(すなわち、各検体の補正後値(Y)から、化学修飾の影響を受けていないと考えられる検体5の補正前値(X)(表8参照)を減じた値の、検体5の補正前値(X)に対する割合)の絶対値は、0.8%にまで減じた。そのため、補正の必要性を判定し、補正が必要と判定された場合に補正を行うことで、化学修飾されることによって生じる相対誤差の幅は小さくなった。
よって、補正の必要性を判定し、補正が必要と判定された場合に分画γを用いた補正によって、アルデヒド化による化学修飾の影響が軽減ないし排除されて、過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映した安定型A1cの割合により近い値が求められると考えられる。
[分画δによる補正]
次に、HbA0として同定される分画αに対し、正電荷量が少ない側、換言すると泳動速度が速い側で隣接する分画δを用いて、下記表5に示すように、上記表8の補正前値(X)の補正を行った。
まず、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画δの面積の割合を、上記表11中の左端列に挙げており、具体的には、検体5で4.5%、検体6で8.1%、及び検体7で12.6%であった。
ここで、上記したように、検体5及び検体6では、表9に示すように、いずれも第1の割合は第1の閾値未満であり、また、第2の割合は第2の閾値未満であった。よって、残存率(Q)による補正はしなかった。検体5及び検体6の補正前値(X)を補正しなかったが、検体7の補正後値(Y)と相対誤差を比較する便宜上、表11の補正後値(Y)欄に補正前値(X)の5.47%及び5.36%を示す。
一方、検体7では、表9に示すように、第1の割合は第1の閾値以上であり、かつ、第2の割合は第2の閾値以上であった。そこでまず、前記実施例1と同様に、カルバミル化やアルデヒド化の影響を被っていないと考えられる健常者の検体において通常観察される分画δのピーク面積として、複数の健常者の分画δのピーク面積の平均的な値である4%を所定のピーク面積値として、分画δのピーク面積から控除した。そして、また前記実施例1と同様に、分画δから所定のピーク面積値としての4%が控除された値を前記した所定の係数としての1.65で除することにより、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対するアルデヒド化HbA0のピーク面積の割合を算出し、これを修飾率(P)とした。この他、残存率(Q)、補正後値(Y)及び相対誤差の算出は表10と同様である。ただし、表11中の補正後値(Y)は、前記表8中の補正前値(X)を表11中の残存率(Q)で補正した値である。また、表11中の相対誤差は、表10と同様に、各検体の補正後値(Y)から、化学修飾の影響を受けていないと考えられる検体5の補正前値(X)(表8参照)を減じた値の、検体5の補正前値(X)に対する割合である。
上記表11からも、補正後値(Y)の相対誤差の幅は補正前の補正前値(X)の相対誤差(表8参照)の幅よりも小さくなっているといえる。よって、補正の必要性を判定し、補正が必要と判定された場合に分画δを用いた補正をすることによっても、アルデヒド化による化学修飾の影響が軽減ないし排除されて、過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映した安定型A1cの割合により近い値が求められると考えられる。
[アルデヒド化の影響について小活]
以上の表8~表11のまとめとして、各アセトアルデヒド濃度で処理した検体を、補正せずに測定した場合と、補正の必要性を判定し、補正が必要と判定された場合に分画γによる補正を用いて測定した場合と、補正の必要性を判定し、補正が必要と判定された場合に分画δによる補正を用いて測定した場合とにおける相対誤差を下記表12に掲げる。
上記表12に掲げた相対誤差を、アセトアルデヒド濃度を横軸に取ってグラフ化した図23からも明らかなように、第1の閾値及び第2の閾値を用いた判定を行った上で、必要に応じ補正前値(X)を残存率(Q)によって補正することで、アセトアルデヒドによる安定型A1cのアルデヒド化の影響を最も排除することが可能であることが認められた。
<不安定型A1cの影響>
通常検体に人為的にグルコースを添加し、不安定型A1cを生じさせた検体においても、本開示の安定型A1cの測定方法が有効であることを示す。
[不安定型A1cを含む検体の調製]
通常検体として、健常者から採取した全血を使用した。この通常検体に、下記表13に示すような終濃度となるようD-グルコースを添加して37℃でインキュベートした検体8~検体12を調製し、これらをそれぞれ前記した試料Sa(図7参照)として使用した。検体中のD-グルコース濃度の増加に応じて、検体中の不安定型A1c濃度は増加する。
なお、上記表中の検体8のD-グルコース濃度は0mg/dLであるが、これはD-グルコースを添加していない、通常検体そのままであることを意味する。また、泳動液Lm、希釈液Ld及び混合試料Smについては前記した実施例1と同様である。
[エレクトロフェログラム]
電圧を印加した時点を分離分析の開始の時点とし、電圧を印加した時点を0秒の時点としたエレクトロフェログラムを得た。グルコースが添加されていない検体8のエレクトロフェログラムは、図24に示すとおりである。電圧を印加した時点が分離分析の開始の時点であり、エレクトロフェログラム上の泳動時間0秒の時点である。最離間点PLが検出された界面到達時点は泳動時間12.3秒付近である。また、HbF分画である分画εは泳動時間18.3秒付近にピークを有する。安定型A1c分画である分画βは泳動時間22.1秒付近にピークを有する。HbA0分画である分画αは泳動時間28.4秒付近にピークを有する。そして、分画βより早い泳動時間20.8秒付近にピークを有する分画γは、不安定型A1cを含む分画とされているが、この分画にはカルバミル化を被ったHbA0、アルデヒド化を被ったHbA0も含まれる。また、分画αより早い泳動時間26.3秒付近にピークを有する分画δには、HbA0がカルバミル化又はアルデヒド化される際に生成される物質が含まれる。
D-グルコースが375mg/dLの濃度で添加されている検体9、D-グルコースが750mg/dLの濃度で添加されている検体10、D-グルコースが1125mg/dLの濃度で添加されている検体11、D-グルコースが1500mg/dLの濃度で添加されている検体12のエレクトロフェログラムは、それぞれ図25、図26、図27、図28に示すとおりである。図24~図28より、前記したカルバミル化、アルデヒド化の場合と同様、不安定型A1cを作成するために用いるD-グルコースの濃度が増大するにつれて、分画γのピーク面積が増大していくことが認められる。分画δのピーク面積もわずかに増大していくが、その増大量は分画γよりも極めて少ないことが認められる。このように、検体をD-グルコースで処理することで検体中の不安定型A1cが高くなっても、分画δのピーク面積は大きくならない。一方、検体をカルバミル化、アルデヒド化で処理することで検体中のカルバミル化HbA0、アルデヒド化HbA0が増加すると、分画δのピーク面積は増加する。そのため、分画δのピーク面積が一定の値を超えた場合に補正をすることで、カルバミル化、アルデヒド化HbA0の含有量が少なく不安定型A1cを多く含む検体を誤って補正することを回避することができる。
[補正前値(X)の算出]
図24~図28における分画βから、安定型A1cピーク面積の割合としての補正前値(X)は、下記表14に示すとおりに算出された。なお、補正前値(X)の算出方法については前記した実施例1と同様である。
上記表14に示すとおり、検体中のグルコース濃度が高くなるにつれ、補正前値(X)が僅かに高くなっていくが、ほとんど変化しないことが認められる。検体8の補正前値(X)に対する増減の割合を示す相対誤差の値も、グルコース濃度の増大に伴ってもほとんど変化しない。これは、安定型A1c量が、グルコースによって化学修飾をほとんど受けないことに符合する。
[第1の割合及び第2の割合]
実施例1及び実施例2と同様に、第1の割合と第2の割合を算出した。その結果は下記表15に示すとおりであった。
すなわち、分画γの面積の割合である第2の割合は、検体8で1.8%、検体9で3.5%、及び検体10で5.1%、検体11で6.8%、検体12で8.5%であった。また、分画δの面積の割合である第1の割合は、検体8で3.8%、検体9で4.5%、及び検体10で4.7%、検体11で5.3%、検体12で5.9%であった。
[第1の閾値による判定]
上記表中の第1の割合が第1の閾値以上であるかどうかを判断した。第1の閾値は、実施例1及び実施例2と同様に9%を用いた。
まず、検体8~検体12のいずれの検体においても、第1の割合は第1の閾値である9%未満であった。そのため、検体8~検体12に対して、HbA0を含む分画のピーク面積又は前記エレクトロフェログラムの全ピーク面積に対する、安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合については、残存率による補正は行わないと判断した。
すなわち、補正の必要性を判定し、補正が必要と判定された場合に補正を行う本発明の測定方法による安定型A1c分画の測定値は、前記表14に示す補正前値(X)となる。そして、この補正前値(X)に基づく補正誤差も、前記表14に示すとおりである。
[判定を行わない場合]
ここで、上記した第1の閾値による判定を行わずに、検体8から検体12を残存率による補正を行って測定した場合について説明する。この場合は、第1の割合が第1の閾値以上であるかどうかを判別する工程を有さない。そのため、検体8から検体12のいずれの検体についても、HbA0を含む分画のピーク面積又は前記エレクトロフェログラムの全ピーク面積に対する、安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を残存率で補正を行う。分画γを用いて補正を行った場合の測定結果を下記表16に示す。
ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画γの面積の割合を、上記表16中の左端列に挙げており、具体的には、検体8で1.8%、検体9で3.5%、検体10で5.1%、検体11で6.8%、及び検体12で8.5%であった。
この分画γのピーク面積の割合からは、前記した実施例1と同様の理由でカルバミル化やアルデヒド化の影響を被っておらず、不安定型A1c量が通常と考えられる健常者の検体において通常観察される分画γのピーク面積として、複数の健常者の分画γのピーク面積の平均的な値である3%が所定のピーク面積値として控除され、これが上記表16中に示す修飾率(P)として掲げられている数値である。ここで、検体8における分画γは1.8%でありこの3%を下回っているが、この場合は計算上、修飾率(P)が0であるものとして取り扱った。
この修飾率(P)を1から減じた値が上記表16中の残存率(Q、ただし百分率で表示)である。そして、補正前値(X)をこの残存率(Q)で除して、上記表16中の補正後値(Y)を算出した。そして、補正後値(Y)から、分画γを用いて補正した場合の相対誤差を算出した。すなわち、各検体の補正後値(Y)から、検体8の補正前値(X)(表14参照)を減じた値の、検体8の補正前値(X)に対する割合が上記表16中の相対誤差である。
[不安定型A1cの影響について小括]
以上の表13~表16のまとめとして、各グルコース濃度で処理した検体を、判定工程を行わずに補正を行った場合と、判定工程を行った結果に基づき補正をしなかった場合とにおける相対誤差を下記表17に掲げる。
上記表17に掲げた相対誤差を、D-グルコース濃度を横軸に取ってグラフ化した図29からも明らかなように、判定工程を行わずに補正を行った場合は、判定工程を行った結果に基づき補正をしなかった場合よりも相対誤差が大きくなった。これは、分画γに含まれる不安定型A1cのピーク面積をカルバミル化HbA0、アルデヒド化HbA0のピーク面積として残存率を算出して補正したためである。一方、判定工程を行うことで、過剰な補正による相対誤差の悪化が回避された。これは、不安定型A1cの影響を受けない分画δのピーク面積の値から、カルバミル化およびアルデヒド化の影響に対する補正の必要性を判定したためである。よって、判定工程を有する当該補正は、検体に含まれる不安定型A1cの影響を少なくとも軽減されることが認められた。