図1は、本発明の一の実施の形態に係る浮体構造物1を示す側面図である。図2は、浮体構造物1を示す平面図である。浮体構造物1は、水面91に浮かぶ構造物である。図1および図2に示す例では、浮体構造物1は、水底92に係留されて風力発電を行う浮体式の水上風力発電システムである。浮体構造物1が海に設置される場合、水面91および水底92は、海面および海底である。この場合、浮体構造物1は洋上風力発電システムとも呼ばれる。
浮体構造物1は、係留用浮体2と、係留システム3とを備える。係留用浮体2は、浮体本体21と、風車22とを備える。浮体本体21は、水面に浮かぶ構造物である。図1および図2に示す例では、浮体本体21は、セミサブ型の浮体であり、略上下方向に延びる4本の支柱26と、4本の支柱26を接続する接続部27とを備える。浮体本体21では、1本の支柱26の周囲に、残り3本の支柱26が略等角度間隔で配置される。また、接続部27は、中央の1本の支柱26から、周囲の3本の支柱26へと略直線状にそれぞれ延びる3つの部位を有する。各支柱26の直径および高さ(すなわち、上下方向の長さ)は、例えば、7m~15mおよび25m~35mである。中央の支柱26と周囲の支柱26との間の距離は、例えば、30m~50mである。浮体本体21の喫水は、15m~25mである。浮体本体21の大きさおよび構造は、様々に変更されてよい。
風車22は、浮体本体21上に立設する風力発電用の構造物である。風車22は、複数のブレード23と、ナセル24と、風車用支柱25とを備える。複数(例えば、3枚)のブレード23は、略水平な回転軸を中心としてナセル24に回転可能に取り付けられる。複数のブレード23およびナセル24は、略上下方向に延びる風車用支柱25により、浮体本体21の上端部よりも上側にて支持される。風車22では、複数のブレード23が風を受けて回転することにより、複数のブレード23の回転軸に接続された発電機(図示省略)により発電が行われる。例えば、風車22のロータ径は約100mであり、風車用支柱25の高さは約70m~80mである。風車22の定格出力は、例えば5~10MW(メガワット)である。風車22の大きさおよび構造は、様々に変更されてよい。
係留システム3は、係留用浮体2の水上における係留に利用される。係留用浮体2が係留される設置水域の水深は、例えば、40m~200mである。係留システム3は、水底92に配置された錨と、錨および浮体本体21を接続する係留ラインとを備える。図2では、便宜上、錨を黒丸にて示し、係留ラインを太線にて示す(後述する図5~図12においても同様)。図1および図2に示す例では、係留システム3は、複数組の錨および係留ラインを備える。1組の錨および係留ラインを「係留システム要素」と呼ぶと、図1および図2に例示する係留システム3は、浮体本体21を中心とする周方向(以下、単に「周方向」とも呼ぶ。)に配置される4つの係留システム要素を備える。
以下の説明では、図2中において浮体本体21から左上に延びる係留システム要素を「第1係留システム要素31a」と呼び、第1係留システム要素31aの錨および係留ラインを「第1錨32a」および「第1係留ライン33a」と呼ぶ。また、図2中において浮体本体21から右下に延びる係留システム要素を「第2係留システム要素31b」と呼び、第2係留システム要素31bの錨および係留ラインを「第2錨32b」および「第2係留ライン33b」と呼ぶ。図2中において浮体本体21から左下に延びる係留システム要素を「第3係留システム要素31c」と呼び、第3係留システム要素31cの錨および係留ラインを「第3錨32c」および「第3係留ライン33c」と呼ぶ。図2中において浮体本体21から右上に延びる係留システム要素を「第4係留システム要素31d」と呼び、第4係留システム要素31dの錨および係留ラインを「第4錨32d」および「第4係留ライン33d」と呼ぶ。
図2に示す例では、浮体本体21を中心とする時計回りに、第1係留ライン33a、第4係留ライン33d、第2係留ライン33bおよび第3係留ライン33cがこの順に配置される。第2係留ライン33bおよび第4係留ライン33dは、浮体本体21を挟んで第1係留ライン33aとは反対側に延びる。すなわち、第2係留ライン33bおよび第4係留ライン33dは、平面視において、浮体本体21を通るとともに第1係留ライン33aに垂直な直線を挟んで、第1係留ライン33aとは反対側に位置する。また、第2係留ライン33bおよび第4係留ライン33dは、浮体本体21を挟んで第3係留ライン33cとは反対側に延びる。
以下の説明では、平面視における2本の係留ラインの成す角度とは、当該2本の係留ラインにより形成される2つの角度のうち小さい方の角度、または、当該2つの角度が同じ場合は180°を意味する。また、平面視における係留ラインと仮想直線との成す角度についても同様である。平面視において第1係留ライン33aと第2係留ライン33bとの成す角度は、90°よりも大きく、かつ、180°未満である。また、平面視において第3係留ライン33cと第4係留ライン33dとの成す角度は、90°よりも大きく、かつ、180°未満である。
図2に示す例では、第1錨32aおよび第3錨32cは、浮体本体21を中心とする径方向(以下、単に「径方向」とも呼ぶ。)において、略同じ位置に位置する。また、第2錨32bおよび第4錨32dは、第1錨32aおよび第3錨32cよりも径方向外側において、径方向の略同じ位置に位置する。なお、第2錨32bおよび第4錨32dは、第1錨32aおよび第3錨32cよりも径方向内側に位置してもよく、第1錨32aおよび第3錨32cと径方向の略同じ位置に位置してもよい。また、第2錨32bと第4錨32dとは、必ずしも径方向の略同じ位置に位置する必要はない。すなわち、第1錨32a、第2錨32b、第3錨32cおよび第4錨32dの径方向の位置は、様々に変更されてよい。また、第1係留ライン33a、第2係留ライン33b、第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dの長短関係も、様々に変更されてよい。
第1錨32a~第4錨32dは、好ましくは超高把駐力アンカーである。第1係留ライン33a~第4係留ライン33dは、好ましくは係留チェーンである。図1および図2では、図示の都合上、係留用浮体2に比べて第1係留ライン33a~第4係留ライン33dの長さを短く描いている。なお、第1錨32a~第4錨32dは、高把駐力アンカー以外の種類のアンカーであってもよい。第1係留ライン33a~第4係留ライン33dは、係留チェーンと係留索(例えば、係留ワイヤ)とが接続されたものであってもよく、係留索のみにより構成されてもよい。
図2に示す例では、第1係留ライン33aと第3係留ライン33cとは、浮体本体21の中心を通って図中の左右方向に延びる仮想直線である中心線L1に対して、平面視において略線対称に配置される。換言すれば、平面視における第1係留ライン33aと中心線L1との成す角度は、第3係留ライン33cと中心線L1との成す角度と略同じである。第2係留ライン33bと第4係留ライン33dとは、上述の中心線L1に対して、平面視において略線対称に配置される。換言すれば、平面視における第2係留ライン33bと中心線L1との成す角度は、第4係留ライン33dと中心線L1との成す角度と略同じである。
第1係留ライン33aと第3係留ライン33cとの成す角度は、例えば、30°~60°である。第2係留ライン33bと第4係留ライン33dとの成す角度は、例えば、90°~120°である。これらの角度は、様々に変更されてよい。また、第1係留ライン33a~第4係留ライン33dの配置、および、第1錨32a~第4錨32dの配置も、様々に変更されてよい。例えば、第1係留ライン33aと第3係留ライン33cとは、必ずしも線対称に配置される必要はなく、第2係留ライン33bと第4係留ライン33dとも、必ずしも線対称に配置される必要はない。
次に、図3を参照しつつ、浮体構造物1の設置の流れについて説明する。浮体構造物1が設置される際には、まず、浮体構造物1の設置水域(すなわち、係留水域)において、係留用浮体2が配置されていない状態で、係留システム3が仮設置される。具体的には、係留システム3の第1係留システム要素31a~第4係留システム要素31dが、上記設置水域に順次搬送されて仮敷設される。続いて、第1係留システム要素31a~第4係留システム要素31dについて把駐力試験が実施され、第1係留システム要素31a~第4係留システム要素31dが所定の把駐力を有していることが確認される(ステップS11)。把駐力試験が終了すると、係留用浮体2が、設置水域の設置予定位置に搬送され、係留システム3の第1係留システム要素31a~第4係留システム要素31dと接続される(ステップS12)。これにより、係留用浮体2が、係留システム3により設置予定位置に係留されて設置される。
次に、図4ないし図12を参照しつつ、上述の把駐力試験の詳細について説明する。図4は、把駐力試験の流れを示す図である。図5、図7および図10は、把駐力試験の様子を示す側面図である。図6、図8、図9、図11および図12は、把駐力試験の様子を示す平面図である。
係留システム3の把駐力試験が行われる際には、まず、上述のように、係留用浮体2の係留に利用される第1係留ライン33a~第4係留ライン33d、および、第1錨32a~第4錨32dが準備される(ステップS21)。具体的には、図5および図6に示すように、第1係留ライン33aおよび第1錨32aが作業船5により港湾施設等から設置水域に搬入され、当該設置水域の水底92の敷設予定位置に仮敷設される。作業船5は、例えば、全長が約110mの作業台船である。第1係留ライン33aの端部には、第1係留ライン33aの仮敷設位置を示す浮標(図示省略)が、ワイヤ等を介して接続される。その後、作業船5が設置水域と港湾施設等とを3回往復し、上記と同様に、第2係留ライン33bおよび第2錨32b、第3係留ライン33cおよび第3錨32c、並びに、第4係留ライン33dおよび第4錨32dを、設置水域へと順次搬送して水底92に仮敷設する。第2係留ライン33b、第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dの端部にも、第1係留ライン33aと同様に、仮敷設位置を示す浮標(図示省略)がワイヤ等を介して接続される。
続いて、図5および図6に示すように、第1係留システム要素31a~第4係留システム要素31dの把駐力試験に利用される1組の試験用ライン43および試験用錨42が準備される(ステップS22)。具体的には、試験用ライン43および試験用錨42が、作業船5により港湾施設等から設置水域に搬送される。そして、図6に示すように、試験用ライン43は、第2係留ライン33bと第4係留ライン33dとの間において、上述の中心線L1(図2参照)上に配置される。また、試験用錨42は、径方向において第2錨32bおよび第4錨32dと略同じ位置に配置される。試験用錨42は、例えば、第1錨32a~第4錨32dと略同様の超高把駐力アンカーである。試験用ライン43は、例えば、第1係留ライン33a~第4係留ライン33dと略同様のチェーンである。
次に、図7および図8に示すように、第1係留ライン33aの作業船5側の端部(すなわち、上端部)が、作業船5に接続される。図7および図8に示す例では、第1係留ライン33aの上端部は、作業船5の舷側に設けられたデッキエンドローラ等を介して作業船5の甲板上に延び、作業船5の船首側(すなわち、図7および図8中の左側)の甲板上に配置されたウインドラス等の第1巻き取り機構51に接続される。第1係留ライン33aの下端部に接続されている第1錨32aは、作業船5の船首から前方に離間した位置にて水底92に載置されている。
第1係留ライン33aの接続が終了すると、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43の作業船5側の端部(すなわち、上端部)が、作業船5に接続される(ステップS23)。図8に示す例では、第2係留ライン33bの上端部および試験用ライン43の上端部は、作業船5の近傍において、1本の接続ライン45の一方の端部に接続される。そして、接続ライン45の他方の端部が、作業船5の舷側に設けられたデッキエンドローラ等を介して作業船5の甲板上に延び、作業船5の船尾側(すなわち、図7および図8中の右側)の甲板上に配置されたウインドラス等の第2巻き取り機構52に接続される。すなわち、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43は、接続ライン45の端部にて一纏めにされ、接続ライン45を介して間接的に作業船5に接続される。
接続ライン45は、例えば、試験用ライン43と略同様のチェーンであり、第2巻き取り機構52とは反対側の端部にシャックル等の接続部が設けられる。第2係留ライン33bおよび試験用ライン43は、当該シャックル等を介して接続ライン45に接続される。第2係留ライン33bの下端部に接続されている第2錨32b、および、試験用ライン43の下端部に接続されている試験用錨42は、作業船5の船尾から後方に離間した位置にて水底92に載置されている。上述の第1係留ライン33aの作業船5への接続、並びに、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43の作業船5への接続は、どちらが先に行われてもよく、並行して行われてもよい。また、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43の作業船5への接続では、例えば、作業船5から延びる接続ライン45に試験用ライン43がシャックル等を介して接続された状態で、第2係留ライン33bが水底92から引き上げられてシャックル等に接続される。あるいは、試験用ライン43と第2係留ライン33bとが予めシャックル等により接続されて水底92へと戻されており、試験時にまとめて水底92から引き上げられて作業船5に接続されてもよい。なお、第3係留ライン33cおよび第3錨32c、並びに、第4係留ライン33dおよび第4錨32dは、作業船5に接続されることなく、水底92に載置されている。
第1係留ライン33a、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43の作業船5への接続が終了すると、第2巻き取り機構52により接続ライン45が巻き取られる。これにより、第2錨32bおよび試験用錨42が作業船5に近づく方向に水底92を引きずられ、水底92に潜り込んで水底92に固定される。また、第1巻き取り機構51により第1係留ライン33aが巻き取られることにより、第1錨32aが作業船5に近づく方向に水底92を引きずられ、水底92に潜り込んで水底92に固定される。あるいは、第1錨32aの水底92への固定は、第2錨32bおよび試験用錨42が水底92に固定された状態で、第2巻き取り機構52により接続ライン45がさらに巻き取られて作業船5が後方(すなわち、船尾側)へと移動し、第1錨32aが水底92を引きずられることにより行われてもよい。また、第1錨32aの固定、並びに、第2錨32bおよび試験用錨42の固定は、どちらか一方が先に行われてもよく、並行して行われてもよい。
第1係留ライン33a、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43の水底92への固定が終了すると、第1巻き取り機構51による第1係留ライン33aの巻き取り、および、第2巻き取り機構52による接続ライン45の巻き取りのうち少なくとも一方が行われる。これにより、第1係留ライン33a、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43のたるみが減少し、第1係留ライン33a、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43に付与される張力が増大する。
そして、第1係留ライン33aの張力と、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43の合成張力とが平面視において釣り合うことにより、水面91における作業船5の水平位置が固定される。このとき、図9に示すように、第2係留ライン33bが延びる方向と試験用ライン43が延びる方向との合成方向である第2引張方向D2は、作業船5を間に挟んで、第1係留ライン33aが延びる方向である第1引張方向D1と反対向きとなる。換言すれば、第1引張方向D1と第2引張方向D2とは、作業船5を通る同一直線上において反対側を向く。上述の合成方向とは、第2係留ライン33bの張力と試験用ライン43の張力との合力の方向である。当該合成方向は、第2係留ライン33bの延びる方向と試験用ライン43の延びる方向との中央に位置してもよく、当該中央からずれていてもよい。第2係留ライン33bおよび試験用ライン43は、第1係留ライン33aの把駐力試験における反力用ラインとして働く。また、第1係留ライン33aは、第2係留ライン33bの把駐力試験における反力用ラインとして働く。
図9に示す状態では、第2係留ライン33bと試験用ライン43との成す角度は、第2錨32bおよび試験用錨42の横滑りを防止するという観点から、60°以下であることが好ましい。また、当該角度は、第2錨32bと試験用錨42との干渉(例えば、水底92の砂の乱れ等)による把駐力減少を防止するという観点から、径方向の略同じ位置に位置する第2錨32bと試験用錨42との間隙の周方向の大きさが第2錨32bの横幅に略等しくなる角度以上であることが好ましい。
把駐力試験では、第1係留ライン33aおよび第2係留ライン33bに所定の第1試験張力および第2試験張力がそれぞれ付与された状態が、所定の試験時間(例えば15分間)維持される。第1試験張力は、例えば、作業船5上、または、第1係留ライン33a上に設けられたロードセル等の張力センサにより測定される。ロードセル等が作業船5の舷側よりも外側において第1係留ライン33a上に設けられる場合、当該ロードセル等は、作業船5の舷側近傍に設けられることが好ましい。第1試験張力は、設置水域の気象条件等に基づいて第1係留ライン33aについて予め定められている最大張力である第1設計張力と同じ力、または、第1設計張力よりも大きい力である。なお、張力センサとして、ロードセル以外のものが用いられてもよい。
第2試験張力は、例えば、作業船5上、または、接続ライン45の端部のシャックル等に設けられたロードセル等の張力センサにより測定された接続ライン45の張力(すなわち、当該張力センサの測定値)に基づいて算出される。具体的には、第2引張方向D2を向く接続ライン45の張力を、公知の方法により、第2係留ライン33bが延びる方向を向く力と、試験用ライン43が延びる方向を向く力とに分解し、第2係留ライン33bが延びる方向を向く力を第2試験張力として求める。第2試験張力は、設置水域の気象条件等に基づいて第2係留ライン33bについて予め定められている最大張力である第2設計張力と同じ力、または、第2設計張力よりも大きい力である。第2設計張力は、好ましくは、上述の第1設計張力よりも小さい。なお、第2係留ライン33bに付与される第2試験張力は、ロードセル等の張力センサが第2係留ライン33b上に設けられ、直接的に測定されてもよい。この場合、ロードセル等は第2係留ライン33b上において、シャックル等の接続部近傍に設けられることが好ましい。
把駐力試験では、上述の試験時間の間、第1錨32aおよび第2錨32bの位置が維持され、かつ、第1係留ライン33aおよび第2係留ライン33bに破断等の損傷が生じていないことが確認される。当該確認により、第1錨32aおよび第1係留ライン33a、並びに、第2錨32bおよび第2係留ライン33bが所定の係留性能を有していることが認められ、第1係留システム要素31aの把駐力試験、および、第2係留システム要素31bの把駐力試験が同時に終了する(ステップS24)。第1錨32aおよび第2錨32bの位置が維持されている(すなわち、第1錨32aおよび第2錨32bの移動が生じていない)ことの確認は、例えば、遠隔操作型の無人潜水機(ROV:Remotely Operated Vehicle)に搭載された水中カメラを介しての目視により行われる。
第1係留システム要素31aおよび第2係留システム要素31bの把駐力試験が終了すると、第1係留ライン33aおよび第2係留ライン33bと作業船5との接続が解除される(ステップS25)。第1係留ライン33aおよび第2係留ライン33bは、係留用浮体2の係留に使用されるまで水底92に載置される。第1係留ライン33aおよび第2係留ライン33bの端部には、上述の浮標が接続される。
続いて、ステップS23と略同様に、図10および図11に示すように、第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dの作業船5側の端部(すなわち、上端部)が、作業船5に接続される(ステップS26)。具体的には、第3係留ライン33cは、第1係留ライン33aと略同様に、第1巻き取り機構51に接続される。第3係留ライン33cの下端部に接続されている第3錨32cは、作業船5の船首から前方に離間した位置にて水底92に載置されている。第4係留ライン33dは、第2係留ライン33bと略同様に、接続ライン45の端部のシャックル等に接続され、当該シャックル等に既に接続されている試験用ライン43と共に、接続ライン45を介して第2巻き取り機構52に接続される。第4係留ライン33dの下端部に接続されている第4錨32d、および、試験用ライン43の下端部に接続されている試験用錨42は、作業船5の船尾から後方に離間した位置にて水底92に載置されている。なお、第3係留ライン33cの作業船5への接続、および、第4係留ライン33dの作業船5への接続は、どちらが先に行われてもよく、並行して行われてもよい。なお、第1係留ライン33aおよび第1錨32a、並びに、第2係留ライン33bおよび第2錨32bは、作業船5に接続されることなく、水底92に載置されている。
第3係留ライン33c、第4係留ライン33dおよび試験用ライン43の作業船5への接続が終了すると、第2巻き取り機構52により接続ライン45が巻き取られる。これにより、第4錨32dおよび試験用錨42が作業船5に近づく方向に水底92を引きずられ、水底92に潜り込んで水底92に固定される。また、第1巻き取り機構51により第3係留ライン33cが巻き取られることにより、第3錨32cが作業船5に近づく方向に水底92を引きずられ、水底92に潜り込んで水底92に固定される。あるいは、第3錨32cの水底92への固定は、第4錨32dおよび試験用錨42が水底92に固定された状態で、第2巻き取り機構52により接続ライン45がさらに巻き取られて作業船5が後方(すなわち、船尾側)へと移動し、第3錨32cが水底92を引きずられることにより行われてもよい。また、第3錨32cの固定、並びに、第4錨32dおよび試験用錨42の固定は、どちらか一方が先に行われてもよく、並行して行われてもよい。
第3係留ライン33c、第4係留ライン33dおよび試験用ライン43の水底92への固定が終了すると、第1巻き取り機構51による第3係留ライン33cの巻き取り、および、第2巻き取り機構52による接続ライン45の巻き取りのうち少なくとも一方が行われる。これにより、第3係留ライン33c、第4係留ライン33dおよび試験用ライン43のたるみが減少し、第3係留ライン33c、第4係留ライン33dおよび試験用ライン43に付与される張力が増大する。
そして、第3係留ライン33cの張力と、第4係留ライン33dおよび試験用ライン43の合成張力とが平面視において釣り合うことにより、水面91における作業船5の水平位置が固定される。このとき、図12に示すように、第4係留ライン33dが延びる方向と試験用ライン43が延びる方向との合成方向である第4引張方向D4は、作業船5を間に挟んで、第3係留ライン33cが延びる方向である第3引張方向D3と反対向きとなる。換言すれば、第3引張方向D3と第4引張方向D4とは、作業船5を通る同一直線上において反対側を向く。上述の合成方向とは、第4係留ライン33dの張力と試験用ライン43の張力との合力の方向である。当該合成方向は、第4係留ライン33dの延びる方向と試験用ライン43の延びる方向との中央に位置してもよく、当該中央からずれていてもよい。第4係留ライン33dおよび試験用ライン43は、第3係留ライン33cの把駐力試験における反力用ラインとして働く。また、第3係留ライン33cは、第4係留ライン33dの把駐力試験における反力用ラインとして働く。
図12に示す状態では、第4係留ライン33dと試験用ライン43との成す角度は、第4錨32dおよび試験用錨42の横滑りを防止するという観点から、60°以下であることが好ましい。また、当該角度は、第4錨32dと試験用錨42との干渉(例えば、水底92の砂の乱れ等)による把駐力減少を防止するという観点から、径方向の略同じ位置に位置する第4錨32dと試験用錨42との間隙の周方向の大きさが第4錨32dの横幅に略等しくなる角度以上であることが好ましい。
把駐力試験では、第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dに所定の第3試験張力および第4試験張力がそれぞれ付与された状態が、所定の試験時間(例えば15分間)維持される。第3試験張力は、例えば、作業船5上、または、第3係留ライン33c上に設けられたロードセル等の張力センサにより測定される。第3試験張力は、設置水域の気象条件等に基づいて第3係留ライン33cについて予め定められている最大張力である第3設計張力と同じ力、または、第3設計張力よりも大きい力である。
第4試験張力は、例えば、作業船5上、または、接続ライン45の端部のシャックル等に設けられたロードセル等の張力センサにより測定された接続ライン45の張力(すなわち、当該張力センサの測定値)に基づいて算出される。具体的には、第4引張方向D4を向く接続ライン45の張力を、公知の方法により、第4係留ライン33dが延びる方向を向く力と、試験用ライン43が延びる方向を向く力とに分解し、第4係留ライン33dが延びる方向を向く力を第4試験張力として求める。第4試験張力は、設置水域の気象条件等に基づいて第4係留ライン33dについて予め定められている最大張力である第4設計張力と同じ力、または、第4設計張力よりも大きい力である。第4設計張力は、好ましくは、上述の第3設計張力よりも小さい。なお、第4係留ライン33dに付与される第4試験張力は、ロードセル等の張力センサが第4係留ライン33d上に設けられ、直接的に測定されてもよい。
把駐力試験では、上述の試験時間の間、第3錨32cおよび第4錨32dの位置が維持され、かつ、第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dに破断等の損傷が生じていないことが確認される。当該確認により、第3錨32cおよび第3係留ライン33c、並びに、第4錨32dおよび第4係留ライン33dが所定の係留性能を有していることが認められ、第3係留システム要素31cの把駐力試験、および、第4係留システム要素31dの把駐力試験が同時に終了する(ステップS27)。第3錨32cおよび第4錨32dの位置が維持されていることの確認は、上述のように、水中カメラを介しての目視により行われる。
第3係留システム要素31cおよび第4係留システム要素31dの把駐力試験が終了すると、第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dと作業船5との接続が解除される(ステップS28)。第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dは、係留用浮体2の係留に使用されるまで水底92に載置される。第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dの端部には、上述の浮標が接続される。
そして、第2巻き取り機構52により接続ライン45および試験用ライン43が巻き取られる等して、接続ライン45、試験用ライン43および試験用錨42が作業船5上に積載される。接続ライン45、試験用ライン43および試験用錨42は、上述の把駐力試験専用であり、係留用浮体2の係留には利用されない。このため、接続ライン45、試験用ライン43および試験用錨42は、作業船5により設置水域から搬出されて除去される(ステップS29)。
このように、第1係留システム要素31a~第4係留システム要素31dの把駐力試験が終了すると、上述のステップS12のように、係留用浮体2が、設置水域の設置予定位置に搬送され、第1係留システム要素31a~第4係留システム要素31dと接続される。これにより、係留用浮体2が、係留システム3により設置予定位置に係留されて設置される。
以上に説明したように、係留システム3の設置方法は、設置水域における係留用浮体2の係留に利用される第1係留ライン33aおよび第2係留ライン33bを準備する工程(ステップS21)と、第1係留ライン33aおよび第2係留ライン33bの把駐力試験に利用される試験用ライン43を準備する工程(ステップS22)と、第2係留ライン33bが延びる方向と試験用ライン43が延びる方向との合成方向である第2引張方向D2が、把駐力試験に利用される作業船5を挟んで、第1係留ライン33aが延びる第1引張方向D1と反対向きになるように、第1係留ライン33a、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43を作業船5に接続する工程(ステップS23)と、作業船5により第1係留ライン33a、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43に張力を付与し、第1係留ライン33aの張力と第2係留ライン33bおよび試験用ライン43の合成張力とが釣り合った状態で、第1係留ライン33aの張力を所定の第1設計張力以上に維持し、第2係留ライン33bの張力を所定の第2設計張力以上に維持して、第1係留ライン33aおよび第2係留ライン33bの把駐力試験を同時に行う工程(ステップS24)と、を備える。
当該係留システム3の設置方法では、1本の試験用ライン43を利用して、第1係留ライン33aおよび第2係留ライン33bの把駐力試験を同時に行うことができる。したがって、第1係留ライン33aの把駐力試験と第2係留ライン33bの把駐力試験とを順次に行う場合に比べて、把駐力試験の試験時間を短縮することができる。また、第1係留ライン33aの把駐力試験を行うための反力用チェーンおよび反力用錨、並びに、第2係留ライン33bの把駐力試験を行うための反力用チェーンおよび反力用錨を個別に準備する場合に比べて、これらの反力用チェーン等の設置水域への搬送および敷設に要する労力および時間を削減することができる。その結果、係留システム3の把駐力試験に要する工数を低減することができる。
上述の把駐力試験では、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43が第1係留ライン33aの反力用ラインとして働くため、第1係留ライン33aに付与される第1試験張力は、第2係留ライン33bに付与される第2試験張力よりも大きくなる。したがって、第1設計張力は、上述のように、第2設計張力よりも大きいことが好ましい。これにより、第1設計張力が第2設計張力以下である場合に比べて、第1試験張力と第1設計張力との差を小さくすることができる。その結果、把駐力試験において、第1係留ライン33aに過大な第1試験張力を付与することを抑制することができる。
上述のように、第2係留ライン33bと試験用ライン43との成す角度は60°以下であることが好ましい。これにより、把駐力試験において、第2錨32bおよび試験用錨42の横滑りを防止することができる。また、当該角度は、第2錨32bと試験用錨42とが上記径方向の同じ位置に位置する場合に、第2錨32bと試験用錨42との間隙の周方向の大きさが第2錨32bの横幅に等しくなる角度以上であることが好ましい。これにより、第2錨32bと試験用錨42との干渉により、第2錨32bおよび/または試験用錨42の把駐力が減少することを防止することができる。
上述のように、第2係留ライン33bの作業船5側の端部、および、試験用ライン43の作業船5側の端部は、1本の接続ライン45を介して作業船5に接続されることが好ましい。また、ステップS24において、接続ライン45の張力が張力センサにより測定され、第2係留ライン33bの張力は、当該張力センサの測定値に基づいて算出されることが好ましい。このように、第2係留ライン33bよりも作業船5に近い接続ライン45に張力センサを設けることにより、張力センサを第2係留ライン33bに設ける場合に比べて、張力センサの設置を容易とすることができる。その結果、把駐力試験に要する工数をさらに低減することができる。また、第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dの把駐力試験を行う際に、張力センサを第2係留ライン33bから取り外して設置し直す必要がないため、把駐力試験に要する工数を、より一層低減することができる。
好ましくは、係留システム3の設置方法は、設置水域における係留用浮体2の係留に利用される第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dを準備する工程(ステップS21)と、第4係留ライン33dが延びる方向と試験用ライン43が延びる方向との合成方向である第4引張方向D4が、作業船5を挟んで、第3係留ライン33cが延びる第3引張方向D3と反対向きになるように、第3係留ライン33c、第4係留ライン33dおよび試験用ライン43を作業船5に接続する工程(ステップS26)と、作業船5により第3係留ライン33c、第4係留ライン33dおよび試験用ライン43に張力を付与し、第3係留ライン33cの張力と第4係留ライン33dおよび試験用ライン43の合成張力とが釣り合った状態で、第3係留ライン33cの張力を所定の第3設計張力以上に維持し、第4係留ライン33dの張力を所定の第4設計張力以上に維持して、第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dの把駐力試験を同時に行う(ステップS27)工程と、をさらに備える。
当該係留システム3の設置方法では、1本の試験用ライン43を利用して、第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dの把駐力試験を同時に行うことができる。したがって、第3係留ライン33cの把駐力試験と第4係留ライン33dの把駐力試験とを順次に行う場合に比べて、把駐力試験の試験時間を短縮することができる。また、第3係留ライン33cの把駐力試験を行うための反力用チェーンおよび反力用錨、並びに、第4係留ライン33dの把駐力試験を行うための反力用チェーンおよび反力用錨を個別に準備する場合に比べて、これらの反力用チェーン等の設置水域への搬送および敷設に要する労力および時間を削減することができる。その結果、係留システム3の把駐力試験に要する工数をさらに低減することができる。その上、第1係留ライン33aおよび第2係留ライン33bの把駐力試験にて使用した設置済みの試験用ライン43を、第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dの把駐力試験に利用することにより、係留システム3の把駐力試験に要する工数を、より一層低減することができる。
好ましくは、上記係留システム3の設置方法は、把駐力試験の終了後、試験用ライン43を設置水域から除去する工程(ステップS29)をさらに備える。当該係留システム3の設置方法では、上述のように、把駐力試験に使用される反力用チェーンおよび反力用錨の数を削減可能であるため、当該除去工程に要する工数も低減することができる。したがって、係留システム3の把駐力試験に要する工数をさらに低減することができる。
上述の係留用浮体2の設置方法は、上記係留システム3の設置方法により把駐力試験が行われた第1係留ライン33aおよび第2係留ライン33bを、係留用浮体2に接続する工程(ステップS12)を備える。既述のように、当該係留システム3の設置方法によれば把駐力試験に要する工数を低減することができるため、係留用浮体2の設置に要する工数も低減することができる。
上述のように、係留用浮体2は、水面91に浮かぶ浮体本体21と、浮体本体21上に立設する風力発電用の風車22とを備えることが好ましい。上述の係留用浮体2の設置方法では、既述の通り、設置に要する工数も低減することができるため、当該係留用浮体2の設置方法は、係留システムが大型化して設置工数が増大し易い風力発電用の係留用浮体2の設置に特に適している。
係留システム3の設置方法では、例えば、第1係留ライン33aに第1設計張力以上の第1試験張力を付与した際に、第2係留ライン33bに付与される張力が第2設計張力未満である場合等、第2係留ライン33bの把駐力試験は、第1係留ライン33aの把駐力試験と必ずしも同時に行われる必要はない。また、例えば、第3係留ライン33cに第3設計張力以上の第3試験張力を付与した際に、第4係留ライン33dに付与される張力が第4設計張力未満である場合等、第4係留ライン33dの把駐力試験は、第3係留ライン33cの把駐力試験と必ずしも同時に行われる必要はない。これらの場合であっても、第1係留ライン33aの把駐力試験にて使用した設置済みの試験用ライン43を、第3係留ライン33cの把駐力試験に利用することにより、係留システム3の把駐力試験に要する工数を低減することができる。
具体的には、図13に示すように、まず、上述のステップS21と同様に、第1係留ライン33a~第4係留ライン33d、および、第1錨32a~第4錨32dが、作業船5により設置水域に順次搬入されて準備される(ステップS31)。続いて、ステップS22と同様に、第1係留システム要素31aおよび第3係留システム要素31cの把駐力試験に利用される1組の試験用ライン43および試験用錨42が、作業船5により設置水域に搬入されて準備される(ステップS32)。ステップS32では、第2係留システム要素31bの把駐力試験、および、第4係留システム要素31dの把駐力試験に利用される他の試験用ラインおよび試験用錨も準備される。
次に、上述のステップS23と同様に、第1係留ライン33a、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43が、図7および図8に示すように作業船5に接続される(ステップS33)。第2係留ライン33bおよび試験用ライン43は、接続ライン45を介して作業船5に間接的に接続される。その後、第1係留ライン33aおよび/または接続ライン45の巻き取りが行われることにより、第1錨32a、第2錨32bおよび試験用錨42が水底92に固定され、第1係留ライン33a、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43に張力が付与される。
そして、第1係留ライン33aの張力と、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43の合成張力とが平面視において釣り合うことにより、水面91における作業船5の水平位置が固定される。このとき、図9に示すように、第2係留ライン33bが延びる方向と試験用ライン43が延びる方向との合成方向である第2引張方向D2は、作業船5を間に挟んで、第1係留ライン33aが延びる方向である第1引張方向D1と反対向きとなる。
把駐力試験では、第1係留ライン33aに第1設計張力以上の第1試験張力が付与された状態が、所定の試験時間(例えば15分間)維持される。そして、当該試験時間の間、第1錨32aの位置が維持され、かつ、第1係留ライン33aに破断等の損傷が生じていないことが確認されることにより、第1錨32aおよび第1係留ライン33aが所定の係留性能を有していることが認められ、第1係留システム要素31aの把駐力試験が終了する(ステップS34)。
第1係留システム要素31aの把駐力試験が終了すると、上述のステップS25と同様に、第1係留ライン33aおよび第2係留ライン33bと作業船5との接続が解除される(ステップS35)。続いて、ステップS26と同様に、第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dが、図10および図11に示すように作業船5に接続される(ステップS36)。第4係留ライン33dは、上述のように、試験用ライン43が既に接続されている接続ライン45を介して、作業船5に間接的に接続される。その後、第3係留ライン33cおよび/または接続ライン45の巻き取りが行われることにより、第3錨32c、第4錨32dおよび試験用錨42が水底92に固定され、第3係留ライン33c、第4係留ライン33dおよび試験用ライン43に張力が付与される。
そして、第3係留ライン33cの張力と、第4係留ライン33dおよび試験用ライン43の合成張力とが平面視において釣り合うことにより、水面91における作業船5の水平位置が固定される。このとき、図12に示すように、第4係留ライン33dが延びる方向と試験用ライン43が延びる方向との合成方向である第4引張方向D4は、作業船5を間に挟んで、第3係留ライン33cが延びる方向である第3引張方向D3と反対向きとなる。
把駐力試験では、第3係留ライン33cに第3設計張力以上の第3試験張力が付与された状態が、所定の試験時間(例えば15分間)維持される。そして、当該試験時間の間、第3錨32cの位置が維持され、かつ、第3係留ライン33cに破断等の損傷が生じていないことが確認されることにより、第3錨32cおよび第3係留ライン33cが所定の係留性能を有していることが認められ、第3係留システム要素31cの把駐力試験が終了する(ステップS37)。
第3係留システム要素31cの把駐力試験が終了すると、上述のステップS28と同様に、第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dと作業船5との接続が解除される(ステップS38)。その後、上述の他の試験用ラインおよび試験用錨を用いて、第2係留システム要素31bの把駐力試験、および、第4係留システム要素31dの把駐力試験が順次行われる。第2係留システム要素31bの把駐力試験は、例えば、当該他の試験用ラインが延びる方向が、第2係留ライン33bの延びる方向と作業船5を挟んで反対向きになるように、他の試験用ラインおよび他の試験用錨が配置された状態で行われる。第4係留システム要素31dの把駐力試験についても同様である。なお、第1係留システム要素31a~第4係留システム要素31dの把駐力試験の順番は適宜変更されてよい。
第1係留システム要素31a~第4係留システム要素31dの把駐力試験が終了すると、接続ライン45、試験用ライン43および試験用錨42、並びに、他の試験用ラインおよび他の試験用錨が、作業船5により設置水域から順次搬出されて除去される(ステップS39)。
このように、第1係留システム要素31a~第4係留システム要素31dの把駐力試験が終了すると、上述のステップS12のように、係留用浮体2が、設置水域の設置予定位置に搬送され、第1係留システム要素31a~第4係留システム要素31dと接続される。これにより、係留用浮体2が、係留システム3により設置予定位置に係留されて設置される。
以上に説明したように、図13に示す係留システム3の設置方法は、設置水域における係留用浮体2の係留に利用される第1係留ライン33a、第2係留ライン33b、第3係留ライン33cおよび第4係留ライン33dを準備する工程(ステップS31)と、第1係留ライン33aおよび第3係留ライン33cの把駐力試験に利用される試験用ライン43を準備する工程(ステップS32)と、第2係留ライン33bが延びる方向と試験用ライン43が延びる方向との合成方向である第2引張方向D2が、把駐力試験に利用される作業船5を挟んで、第1係留ライン33aが延びる第1引張方向D1と反対向きになるように、第1係留ライン33a、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43を作業船5に接続する工程(ステップS33)と、作業船5により第1係留ライン33a、第2係留ライン33bおよび試験用ライン43に張力を付与し、第1係留ライン33aの張力と第2係留ライン33bおよび試験用ライン43の合成張力とが釣り合った状態で、第1係留ライン33aの張力を所定の第1設計張力以上に維持して、第1係留ライン33aの把駐力試験を行う工程(ステップS34)と、を備える。
また、当該係留システム3の設定方法は、第4係留ライン33dが延びる方向と試験用ライン43が延びる方向との合成方向である第4引張方向D4が、作業船5を挟んで第3係留ライン33cが延びる第3引張方向D3と反対向きになるように、第3係留ライン33c、第4係留ライン33dおよび試験用ライン43を作業船5に接続する工程(ステップS36)と、作業船5により第3係留ライン33c、第4係留ライン33dおよび試験用ライン43に張力を付与し、第3係留ライン33cの張力と第4係留ライン33dおよび試験用ライン43の合成張力とが釣り合った状態で、第3係留ライン33cの張力を所定の第3設計張力以上に維持して、第3係留ライン33cの把駐力試験を行う工程(ステップS37)と、をさらに備える。
当該係留システム3の設置方法では、1本の試験用ライン43を利用して、第1係留ライン33aの把駐力試験、および、第3係留ライン33cの把駐力試験を行うことができる。したがって、第1係留ライン33aの把駐力試験を行うための反力用チェーンおよび反力用錨、並びに、第3係留ライン33cの把駐力試験を行うための反力用チェーンおよび反力用錨を個別に準備する場合に比べて、これらの反力用チェーン等の設置水域への搬送および敷設に要する労力および時間を削減することができる。その結果、係留システム3の把駐力試験に要する工数を低減することができる。
好ましくは、上記係留システム3の設置方法は、把駐力試験の終了後、試験用ライン43を設置水域から除去する工程(ステップS39)をさらに備える。当該係留システム3の設置方法では、上述のように、把駐力試験に使用される反力用チェーンおよび反力用錨の数を削減可能であるため、当該除去工程に要する工数も低減することができる。したがって、係留システム3の把駐力試験に要する工数をさらに低減することができる。
上述の係留用浮体2の設置方法は、上記係留システム3の設置方法により把駐力試験が行われた第1係留ライン33aおよび第3係留ライン33c、並びに、第2係留ライン33bおよび第4係留ライン33dを、係留用浮体2に接続する工程(ステップS12)を備える。既述のように、当該係留システム3の設置方法によれば把駐力試験に要する工数を低減することができるため、係留用浮体2の設置に要する工数も低減することができる。
上述のように、係留用浮体2は、水面91に浮かぶ浮体本体21と、浮体本体21上に立設する風力発電用の風車22とを備えることが好ましい。上述の係留用浮体2の設置方法では、既述の通り、設置に要する工数も低減することができるため、当該係留用浮体2の設置方法は、係留システムが大型化して設置工数が増大し易い風力発電用の係留用浮体2の設置に特に適している。
上述の係留システム3の設置方法、および、係留用浮体2の設置方法では、様々な変更が可能である。
上述の作業船5は、必ずしも作業台船である必要はなく、例えば、揚重作業船である起重機船またはクレーン付台船、あるいは、築造作業船であるスパッド台船または自己昇降式台船(SEP)等であってもよい。また、設置水域に対する係留ラインや錨の搬出入は、把駐力試験に利用される作業船5以外の台船等により行われてもよい。
上述のステップS21~S29における係留システム3の設置では、第3係留システム要素31cおよび第4係留システム要素31dの把駐力試験において、必ずしも試験用ライン43および試験用錨42が利用される必要はない。また、第3係留システム要素31cおよび第4係留システム要素31dの把駐力試験は、必ずしも同時に行われる必要はない。
上述の係留システム3の設置では、ステップS29,S39における試験用ライン43の除去は省略されてもよい。また、ステップS22,S32における試験用ライン43の準備(すなわち、設置水域への搬入等)は、ステップS21,S31における第1係留システム要素31a~第4係留システム要素31dの準備よりも前、あるいは、当該準備と並行して行われてもよい。
ステップS23では、第2係留ライン33bと試験用ライン43とが、接続ライン45やシャックル等を介することなく、個別に作業船5に接続されてもよい。ステップS26においても同様に、第4係留ライン33dと試験用ライン43とが、接続ライン45やシャックル等を介することなく、個別に作業船5に接続されてもよい。ステップS33,S36においても同様である。
ステップS24の把駐力試験時において、第2係留ライン33bと試験用ライン43との成す角度は60°よりも大きくてもよい。ステップS27の把駐力試験時における第4係留ライン33dと試験用ライン43との成す角度についても、60°よりも大きくてもよい。
係留システム3では、第1係留ライン33aの第1設計張力は、第2係留ライン33bの第2設計張力以下であってもよい。また、第3係留ライン33cの第3設計張力は、第4係留ライン33dの第4設計張力以下であってもよい。
係留システム3に含まれる係留システム要素(すなわち、係留ラインと錨との組み合わせ)の数は、上述の4つには限定されず、2つ以上の範囲で適宜変更されてよい。例えば、図14に示すように、係留システム3が、1つの第1係留システム要素31aと、2つの第2係留システム要素31bとを備えていてもよい。2本の第2係留ライン33bは、作業船5を挟んで第1係留ライン33aとは反対側に延びる。この場合、2つの第2係留システム要素31bの間に試験用ライン43および試験用錨42が配置されて把駐力試験が行われる。当該把駐力試験では、第1係留ライン33aの張力と、2本の第2係留ライン33bの張力および試験用ライン43の張力の合成張力とが平面視において釣り合った状態で、第1係留ライン33aの張力が第1設計張力以上に維持され、各第2係留ライン33bの張力が第2設計張力以上に維持される。これにより、第1係留システム要素31aおよび2つの第2係留システム要素31bの把駐力試験を同時に行うことができる。その結果、上記と同様に、係留システム3の把駐力試験に要する工数を低減することができる。
また、上述の把駐力試験では、例えば、試験用錨42が設置される水底92の地盤が軟弱である場合等、複数組の試験用ライン43および試験用錨42が利用されてもよい。この場合、第1係留ライン33aの張力と、第2係留ライン33bおよび当該複数の試験用ライン43の合成張力とが釣り合った状態で、第1係留ライン33a(および第2係留ライン33b)の把駐力試験が行われる。なお、把駐力試験に利用される試験用ライン43の本数は、係留ラインの本数よりも少なく、これにより、上述のように、係留システム3の把駐力試験に要する工数を低減することができる。
係留用浮体2では、浮体本体21および風車22の大きさ、形状および構造は様々に変更されてよい。例えば、浮体本体21は、セミサブ型には限定されず、ポンツーン型であってもよい。浮体本体21の平面視における形状は、図2に示す略放射状には限定されず、略矩形状または略六角形状等であってもよい。風車22では、ブレード23の数は、1枚、2枚または4枚以上であってもよい。また、風車22は、上述のような水平軸型風車(すなわち、横軸風車)には限定されず、ダリウス型風車等の垂直軸型風車(すなわち、縦軸風車)であってもよい。
係留用浮体2は、必ずしも風力発電用の風車22を有する必要はなく、風力発電以外の目的に利用されてもよい。
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。