JP7357144B2 - 電極組成物、全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池の製造方法 - Google Patents
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Description
このような界面抵抗の上昇に対して、無機固体電解質の中でも有機電解液に迫る高いイオン伝導度を示す硫化物系無機固体電解質の使用が期待されている。また、比表面積を大きくした活物質が、界面抵抗の上昇を抑制でき、ひいては全固体二次電池のサイクル特性を改善しうることが報告されている。このような硫化物系無機固体電解質及び比表面積が大きな活物質を用いた、全固体二次電池の構成層を形成する材料(活物質層形成材料)として、例えば、特許文献1には、負極活物質として比表面積が20m2/gのSi球状粒子粉45.7質量%と、硫化物系無機固体電解質45.7質量%と、導電助剤としてアセチレンブラック5質量%とを含有する混合粉末(比較例1)が記載されている。
すなわち、分散媒に対してそもそも分散しにくい活物質についてその比表面積を大きくすると、活物質の、調製直後の分散性は更に低下し、これに加えて調製直後の分散性を安定して維持する特性(分散安定性)も顕著に悪化する。更に、活物質の表面積が大きくなった分だけ、他の固体粒子だけでなく集電体との界面接触状態が著しく制約されて、これらに対する密着力も低下する。
このように、比表面積が大きな活物質自体は界面抵抗の上昇を抑制できる材料として有望であるものの、特許文献1には上記観点からの検討はなされていなく、比表面積が大きな活物質の特性を十分に活かして優れた電池性能を示す全固体二次電池を実現するには、上記問題の解消が重要であることが分かった。
<1>周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有する硫化物系無機固体電解質と、ポリマーバインダーと、活物質と、分散媒とを含有する、全固体二次電池用の電極組成物であって、
上記活物質が10m2/g以上の比表面積を有し、
上記ポリマーバインダーを形成するポリマーが、SP値が19.0MPa1/2以上である、(メタ)アクリルモノマー若しくはビニルモノマーに由来する構成成分を有する、電極組成物。
<2>ポリマーバインダーが分散媒に溶解している、<1>に記載の電極組成物。
<3>活物質が構成元素としてケイ素元素を有する、<1>又は<2>に記載の電極組成物。
<4>上記構成成分が、活性水素を含む極性基又はヘテロ環基を有する、<1>~<3>のいずれか1つに記載の電極組成物
Lは連結基を示す。L1、L2及びL3は単結合又は連結基を示す。
Xは-O-、-S-又は-NRM-を示し、RMは水素原子又は置換基を示す。
Zは-OH又は-COOHを示す。
<7>導電助剤を含有する、<1>~<6>のいずれか1つに記載の電極組成物。
<8>上記<1>~<7>のいずれか1つに記載の電極組成物で構成した層を集電体表面に有する全固体二次電池用電極シート。
<9>正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で具備する全固体二次電池であって、
正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも1つの層が<1>~<7>のいずれか1つに記載の電極組成物で構成されている、全固体二次電池。
<10>上記<1>~<7>のいずれか1つに記載の電極組成物を集電体表面で製膜する、全固体二次電池用電極シートの製造方法。
<11>上記<10>に記載の製造方法を経て全固体二次電池を製造する、全固体二次電池の製造方法。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
本発明において化合物の表示(例えば、化合物と末尾に付して呼ぶとき)については、この化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、置換基を導入するなど一部を変化させた誘導体を含む意味である。
本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタアクリルの一方又は両方を意味する。(メタ)アクリレートについても同様である。
本発明において、置換又は無置換を明記していない置換基、連結基等(以下、置換基等という。)については、その基に適宜の置換基を有していてもよい意味である。よって、本発明において、単に、YYY基と記載されている場合であっても、このYYY基は、置換基を有しない態様に加えて、更に置換基を有する態様も包含する。これは置換又は無置換を明記していない化合物についても同義である。好ましい置換基としては、例えば後述する置換基Tが挙げられる。
本発明において、特定の符号で示された置換基等が複数あるとき、又は複数の置換基等を同時若しくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。また、特に断らない場合であっても、複数の置換基等が隣接するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を形成していてもよい意味である。
本発明において、ポリマーは、重合体を意味するが、いわゆる高分子化合物と同義である。また、ポリマーバインダーは、ポリマーで構成されたバインダーを意味し、ポリマーそのもの、及びポリマーを含んで形成されたバインダーを包含する。
本発明において、電極組成物は、正極活物質を含有する正極組成物と、負極活物質を含有する負極組成物とを包含する。そのため、正極組成物及び負極組成物のいずれか一方、又は両方を合わせて、単に電極組成物と称することがある。また、本発明において、正極活物質層及び負極活物質層のいずれか一方、又は両方を合わせて、単に活物質層又は電極活物質層と称することがあり、正極活物質及び負極活物質のいずれか一方、又は両方を合わせて、単に活物質又は電極活物質と称することがある。
本発明の電極組成物は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有する硫化物系無機固体電解質と、ポリマーバインダーと、活物質と、分散媒とを含有している。
この電極組成物において、ポリマーバインダーは、電極組成物(特に活物質)の調製直後の初期分散性及び分散安定性(両者をまとめて分散特性という。)の点で活物質に吸着していることが好ましいが、硫化物系無機固体電解質には吸着していてもいなくてもよい。本発明の電極組成物は、活物質、更には硫化物系無機固体電解質が分散媒中に分散したスラリーであることが好ましい。この場合、ポリマーバインダーは、固体粒子を分散媒中に分散させる機能を有することが好ましい。
ポリマーバインダーは、活物質層中において、活物質、硫化物系無機固体電解質、更には、共存しうる導電助剤等の固体粒子同士を結着させる結着剤として、機能する。また集電体と固体粒子とを結着させる結着剤としても機能する。電極組成物中において、ポリマーバインダーは固体粒子同士を結着させる機能を有していてもいなくてもよい。
一方、電極組成物中において、ポリマーバインダーは、SP値が19.0MPa1/2以上である特定のモノマーに由来する構成成分と活物質の表面(通常、酸化された極性が高くなる部位を有している)との相互作用が強化されていると考えられる。そのため、このポリマーバインダーは、電極組成物中での活物質への吸着が促進され、10m2/g以上もの大きな比表面積を有する活物質であっても、高度に分散させることができ(初期分散性に優れ)、経時による再凝集若しくは沈降を抑制できる(優れた分散安定性を発現する)。
加えて、上述の吸着状態は活物質層においても維持され、しかも、活物質層中において各成分が偏在にしにくく、ポリマーバインダーの集電体への十分な接触(密着)を確保できると考えられる。これにより、活物質同士の密着力だけでなく、集電体との密着力をも強化することができる。そのため、通常条件での充放電に加えて大電流での高速充放電においても活物質の膨張収縮による空隙の発生が効果的に抑えられ、優れたサイクル特性を実現できる。
本発明において、上記相互作用は、ポリマーバインダーと活物質とが吸着する限り、特に制限されず、化学的な相互作用でも物理的な相互作用でもよい。
上記理由の詳細について比表面積が大きな活物質とポリマーバインダーとに着目して説明したが、活物質と共存する固体粒子(硫化物系無機固体電解質、導電助剤等)による分散安定性及び密着性の低下等の影響は小さいと考えられ、ポリマーバインダーはこれら固体粒子に対しても活物質と同様に機能して上記作用効果を奏すると考えられる。
本発明の電極組成物は、硫化物系無機固体電解質を含有する。電極組成物が硫化物系無機固体電解質を含有していると、形成した電極活物質層は変形性に優れ、層内での硫化物系無機固体電解質、活物質等の固体粒子同士の接触面積、更には集電体と電極活物質層との接触面積を増大できる。したがって、硫化物系無機固体電解質を用いると、電極活物質層内及び集電体間で構築されるイオン伝導パスを多くすることができ、更に低比表面積の活物質を使用した際のイオン伝導パスの構築を促進するという効果を奏する。
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(S1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性硫化物系無機固体電解質が挙げられる。
La1Mb1Pc1Sd1Ae1 (S1)
式(S1)中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1は1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましく、0~1がより好ましい。d1は2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1は0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(Li2S)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P2S5))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS2、SnS、GeS2)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
硫化物系無機固体電解質の平均粒径(体積平均粒子径)は、特に制限されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
硫化物系無機固体電解質の平均粒径の測定は、以下の手順で行う。硫化物系無機固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mLサンプル瓶中で1質量%の分散液試料を希釈調製する。希釈後の分散液試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要により日本産業規格(JIS) Z 8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
本発明において、固形分(固形成分)とは、電極組成物を、1mmHgの気圧下、窒素雰囲気下150℃で6時間乾燥処理したときに、揮発若しくは蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、後述の分散媒以外の成分を指す。
本発明の電極組成物には、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質を含有する。
本発明の電極組成物が含有する活物質は、少なくとも電極組成物中において粒子状である。粒子の形状は、特に制限されず、偏平状、無定形等であってもよいが、球状若しくは顆粒状が好ましい。
活物質(粒子)は10m2/g以上の比表面積を有している。本発明においては、後述するポリマーバインダーと併用することにより、比表面積が大きな活物質に顕著な低い分散特性を改善することができ、このような比表面積が大きな活物質を用いることができる。そのため、比表面積が10m2/g以上の活物質を含有する活物質層はリチウムイオンの伝導パスが多数構築されており、優れたサイクル特性を示す全固体二次電池を実現できる。
活物質の比表面積は、分散特性の改善とサイクル特性の向上とをバランスよく達成できる範囲で好ましく設定される。その下限値は、12m2/g以上であることが好ましく、15m2/g以上であることがより好ましく、20m2/g以上であることが更に好ましい。一方、上限値は、50m2/g以下であることが好ましく、45m2/g以下であることがより好ましく、40m2/g以下であることが更に好ましい。
本発明において、比表面積は、BET比表面積を意味し、窒素吸着法によるBET(一点)法で算出される値とする。具体的には、電極組成物に用いる活物質、又は全固体二次電池用電極シート若しくは全固体二次電池の活物質層から下記のようにして抽出した活物質について、下記測定装置を用いて下記条件により測定された値とする。
- BET比表面積の測定方法 -
比表面積/細孔分布測定装置:BELSORP MINI(商品名、マイクロトラック・ベル社製)を使用してガス吸着法(窒素)により測定する。活物質0.3gを内径3.6mmの試料管に詰め、6時間80℃で窒素をフローして乾燥させたものを測定に用いる。
- 活物質層からの活物質の抽出方法 -
活物質層0.5gを酪酸ブチル50gに加え、3000rpmで1時間遠心分離する。上澄みを分離して得られた沈殿物にN-メチルホルムアミド50gを加え、室温で1時間撹拌する。こうして得られた分散液を5000rpmで1時間遠心分離した後、上澄みを分離して沈殿物を得た。この沈殿物をNーメチルホルムアミド25gで2回洗浄した後、100℃で2時間真空乾燥することで、活物質層から抽出した活物質を得ることができる。
活物質の平均粒径は、硫化物系無機固体電解質の平均粒径と同様にして測定できる。
平均粒径の調整方法は、特に制限されず、公知の方法を適用でき、例えば、通常の粉砕機又は分級機を用いる方法が挙げられる。粉砕機又は分級機としては、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等が好適に用いられる。粉砕時には水又はメタノール等の分散媒を共存させた湿式粉砕を行うことができる。所望の平均粒径とするためには分級を行うことが好ましい。分級は、特に限定はなく、篩、風力分級機等を用いて行うことができる。分級は乾式及び湿式ともに用いることができる。
(負極活物質)
負極活物質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質であり、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、金属酸化物、金属複合酸化物、リチウム単体、リチウム合金、リチウムと合金形成可能(合金化可能)な負極活物質等が挙げられる。中でも、炭素質材料、金属複合酸化物又はリチウム単体が信頼性の点から好ましく用いられる。全固体二次電池の大容量化が可能となる点では、リチウムと合金化可能な活物質が好ましい。本発明の電極組成物で形成した活物質層は固体粒子同士の強固な結着状態を維持できるため、負極活物質としてリチウムと合金形成可能な負極活物質を用いることができる。これにより、全固体二次電池の大容量化と電池の長寿命化とが可能となる。
これらの炭素質材料は、黒鉛化の程度により難黒鉛化炭素質材料(ハードカーボンともいう。)と黒鉛系炭素質材料に分けることもできる。また炭素質材料は、特開昭62-22066号公報、特開平2-6856号公報、同3-45473号公報に記載される面間隔又は密度、結晶子の大きさを有することが好ましい。炭素質材料は、単一の材料である必要はなく、特開平5-90844号公報記載の天然黒鉛と人造黒鉛の混合物、特開平6-4516号公報記載の被覆層を有する黒鉛等を用いることもできる。
炭素質材料としては、ハードカーボン又は黒鉛が好ましく用いられ、黒鉛がより好ましく用いられる。
Sn、Si、Geを中心とする非晶質酸化物に併せて用いることができる負極活物質としては、リチウムイオン又はリチウム金属を吸蔵及び/又は放出できる炭素質材料、リチウム単体、リチウム合金、リチウムと合金化可能な負極活物質が好適に挙げられる。
負極活物質、例えば金属酸化物は、チタン元素を含有すること(チタン酸化物)も好ましく挙げられる。具体的には、Li4Ti5O12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから高速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制されリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
一般的に、これらの負極活物質を含有する負極(例えば、ケイ素元素含有活物質を含有するSi負極、スズ元素を有する活物質を含有するSn負極等)は、炭素負極(黒鉛及びアセチレンブラックなど)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位質量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量(エネルギー密度)を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。
ケイ素元素含有活物質としては、例えば、Si、SiOx(0<x≦1)等のケイ素材料、更には、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、ランタン等を含むケイ素含有合金(例えば、LaSi2、VSi2、La-Si、Gd-Si、Ni-Si)、又は組織化した活物質(例えば、LaSi2/Si)、他にも、SnSiO3、SnSiS3等のケイ素元素及びスズ元素を含有する活物質等が挙げられる。なお、SiOxは、それ自体を負極活物質(半金属酸化物)として用いることができ、また、全固体二次電池の稼働によりSiを生成するため、リチウムと合金化可能な負極活物質(その前駆体物質)として用いることができる。
スズ元素を有する負極活物質としては、例えば、Sn、SnO、SnO2、SnS、SnS2、更には上記ケイ素元素及びスズ元素を含有する活物質等が挙げられる。また、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、Li2SnO2を挙げることもできる。
負極活物質層を形成する場合、負極活物質層の単位面積(cm2)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
正極活物質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質であり、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく電池を分解して、遷移金属酸化物、又は、有機物、硫黄などのLiと複合化できる元素などでもよい。
中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素Ma(Co、Ni、Fe、Mn、Cu及びVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素Mb(リチウム以外の金属周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P及びBなどの元素)を混合してもよい。混合量としては、遷移金属元素Maの量(100モル%)に対して0~30モル%が好ましい。Li/Maのモル比が0.3~2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物及び(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn2O4(LMO)、LiCoMnO4、Li2FeMn3O8、Li2CuMn3O8、Li2CrMn3O8及びLi2NiMn3O8が挙げられる。
(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO4及びLi3Fe2(PO4)3等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP2O7等のピロリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類並びにLi3V2(PO4)3(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、Li2FePO4F等のフッ化リン酸鉄塩、Li2MnPO4F等のフッ化リン酸マンガン塩及びLi2CoPO4F等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4、Li2CoSiO4等が挙げられる。
本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、LCO又はNMCがより好ましい。
正極活物質層を形成する場合、正極活物質層の単位面積(cm2)当たりの正極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
正極活物質及び負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi、Nb、Ta、W、Zr、Al、Si又はLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、ニオブ酸リチウム系化合物等が挙げられ、具体的には、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、LiTaO3、LiNbO3、LiAlO2、Li2ZrO3、Li2WO4、Li2TiO3、Li2B4O7、Li3PO4、Li2MoO4、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、Li2SiO3、SiO2、TiO2、ZrO2、Al2O3、B2O3等が挙げられる。
また、正極活物質又は負極活物質を含む電極表面は硫黄又はリンで表面処理されていてもよい。
更に、正極活物質又は負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていてもよい。
本発明の電極組成物が含有するポリマーバインダー(バインダーともいう。)は、上述の、10m2/g以上の比表面積を有する活物質に組み合わせて用いられるものであり、活物質に相互作用して電極組成物中での分散安定性を改善する。また、活物質以外の固体粒子についても分散安定性を改善できる。更に、硫化物系無機固体電解質及び活物質を併用されることにより、集電体に対する高密着性、更には固体粒子同士の高密着性を発現する。
本発明において、バインダーが分散媒に溶解しているとは、分散媒にすべてのバインダーが溶解している態様に限定されず、例えば、分散媒に対する溶解度が80%以上であることをいう。溶解度の測定方法は下記の通りである。
すなわち、測定対象とするバインダーをガラス瓶内に規定量秤量し、そこへ電極組成物が含有する分散媒と同種の分散媒100gを添加し、25℃の温度下、ミックスローター上において80rpmの回転速度で24時間攪拌する。こうして得られた24時間攪拌後の混合液の透過率を以下条件により測定する。この試験(透過率測定)をバインダー溶解量(上記規定量)を変更して行い、透過率が99.8%となる上限濃度X(質量%)をバインダーの上記分散媒に対する溶解度とする。
- 透過率測定条件 -
動的光散乱(DLS)測定
装置:大塚電子製DLS測定装置 DLS-8000
レーザ波長、出力:488nm/100mW
サンプルセル:NMR管
ポリマーバインダーを形成するポリマー(バインダー形成ポリマーともいう。)は、SP値が19.0MPa1/2以上である、(メタ)アクリルモノマー若しくはビニルモノマーに由来する構成成分を有していれば特に制限されないが、後述するように、(メタ)アクリルポリマー又はビニルポリマーが好ましく挙げられる。
ポリマーバインダーを形成するポリマーは1種でも2種以上でもよい。
上記構成成分(極性基を有さないものを含むが、便宜上、極性基含有構成成分ということがある。)を導くモノマーのSP値は、19.0MPa1/2以上であれば、固体粒子、特に活物質の分散特性を改善でき、更には密着力を強化できる。固体粒子、特に活物質の分散特性及び密着力の更なる向上の点で、19.5MPa1/2以上であることが好ましく、20.0MPa1/2以上であることがより好ましく、20.5MPa1/2以上であることが更に好ましい。SP値の上限値は、活物質の比表面積等に応じて適宜に設定でき、例えば、強固な密着力を損なうことなく優れた分散特性を維持できる点で、28.0MPa1/2以下であることが好ましく、26.5MPa1/2以下であることがより好ましい。
モノマーのSP値は、モノマーに導入する極性基の種類、数等に応じて、調整できる。
(メタ)アクリルモノマーは、(メタ)アクリロイルオキシ基若しくは(メタ)アクリロイルアミノ基を有するモノマー、更には(メタ)アクリロニトリル化合物等を包含する。(メタ)アクリルモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物及び(メタ)アクリロニトリル化合物等の(メタ)アクリル化合物(M)が挙げられ、中でも、(メタ)アクリル酸エステル化合物が好ましい。(メタ)アクリル酸エステル化合物は、特に制限されず、例えば、脂肪族若しくは芳香族の炭化水素又は脂肪族若しくは芳香族の複素環化合物等のエステルが挙げられ、これらの炭化水素、複素環化合物等の炭素数、ヘテロ原子の種類若しくは数は特に限定されず、適宜に設定される。例えば、炭素数は1~30とすることができる。
ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル化合物(M)以外のビニル基を含有するモノマーであり、特に制限されないが、例えば、ビニル基含有芳香族化合物(スチレン化合物、ビニルナフタレン化合物等)、ビニル基含有ヘテロ環化合物(ビニルカルバゾール化合物、ビニルピリジン化合物、ビニルイミダゾール化合物、N-ビニルカプロラクタム等のビニル基含有芳香族ヘテロ環化合物、ビニル基含有非芳香族(脂肪族)ヘテロ環化合物等)、アリル化合物、ビニルエーテル化合物、ビニルケトン化合物、ビニルエステル化合物、イタコン酸ジアルキル化合物、不飽和カルボン酸無水物等のビニル化合物が挙げられる。ビニル化合物としては、例えば、特開2015-88486号公報に記載の「ビニル系モノマー」が挙げられる。
式(M1)及び式(M2)において、各符号で表される原子、置換基、連結基等は、上記SP値を考慮して適宜の組み合わせで選択される。
R、R1、R2及びR3は、それぞれ、水素原子又は置換基を示す。R、R1、R2又はR3としてとりうる置換基としては、特に制限されず、後述する置換基Tが挙げられ、中でも、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等が好ましい。R、R1、R2及びR3としては、それぞれ、水素原子、アルキル基又はハロゲン原子が好ましく、水素原子、メチル又はエチルがより好ましい。更に好ましくは、R1及びR3は水素原子であり、R2はメチルである。
L1及びL2は、それぞれ、単結合又は連結基を示し、好ましくはL1及びL2の少なくとも一方が連結基である。L1及びL2としてとりうる連結基としては、下記連結基の中から適宜に選択され、アルキレン基又はアルケニレン基が好ましく、アルキレン基がより好ましい。
Xは、-O-、-S-又は-NRM-を示し、-O-が好ましい。RMは水素原子又は置換基を示す。RMとしてとりうる置換基は、特に制限されず、後述する置換基Tが挙げられる。RMは水素原子又はアルキル基が好ましい。
式(M1)において、L1、L2及びXを含んで構成される環構造は、L1、L2及びXを適宜に組み合わせたものであれば特に制限されないが、上述の、極性基含有構成成分が有する極性基としてとりうるヘテロ環基になりうる環構造が好ましく、脂肪族ヘテロ環構造がより好ましく、脂肪族飽和ヘテロ環構造が更に好ましく、環状エーテル構造が特に好ましい。式(M1)中の上記環構造の環員数は、特に制限されないが、3~10員環であることが好ましく、4~8員環であることがより好ましく、4~6員環であることが更に好ましい。式(M1)中の上記環構造としては、例えば、エポキシ環構造、オキセタン環構造、テトラヒドロフラン環構造、テトラヒドロピラン環構造が好ましく挙げられる。
Zは-OH又は-COOHを示す。
本発明において、連結基は、特に制限されないが、例えば、アルキレン基(炭素数は1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が更に好ましい)、アルケニレン基(炭素数は2~6が好ましく、2~3がより好ましい)、アリーレン基(炭素数は6~24が好ましく、6~10がより好ましい)、酸素原子、硫黄原子、イミノ基(-NRN-:RNは水素原子、炭素数1~6のアルキル基若しくは炭素数6~10のアリール基を示す。)、カルボニル基、リン酸連結基(-O-P(OH)(O)-O-)、ホスホン酸連結基(-P(OH)(O)-O-)、又はこれらの組み合わせに係る基等が挙げられる。アルキレン基と酸素原子とを組み合わせてポリアルキレンオキシ鎖を形成することもできる。連結基としては、アルキレン基、アリーレン基、カルボニル基、酸素原子、硫黄原子及びイミノ基を組み合わせてなる基が好ましく、アルキレン基、アリーレン基、カルボニル基、酸素原子及びイミノ基を組み合わせてなる基がより好ましく、-CO-O-基、-CO-N(RN)-基(RNは上記の通りである。)を含む基が更に好ましく、-CO-O-基又は-CO-O-アルキレン基が特に好ましい。
本発明において、連結基を構成する原子の数は、1~36であることが好ましく、1~24であることがより好ましく、1~12であることが更に好ましい。連結基の連結原子数は10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。下限としては、1以上である。上記連結原子数とは所定の構造部間を結ぶ最少の原子数をいう。例えば、-CH2-C(=O)-O-の場合、連結基を構成する原子の数は6となるが、連結原子数は3となる。連結基を構成する原子の数及び連結原子数は上記の通りであるが、連結基を構成するポリアルキレンオキシ鎖については、上記の限りではない。
上記連結基は、それぞれ、置換基を有していてもいなくてもよい。有していてもよい置換基としては、例えば置換基Tが挙げられ、ハロゲン原子等が好適に挙げられる。
アクリル酸ブチル(SP値19.8MPa1/2)、メタクリル酸シクロヘキシル(SP値19.0MPa1/2)、メタクリル酸グリシジル(SP値22.2MPa1/2)、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(SP値25.9MPa1/2)、グリセリンモノメタクリレート(SP値26.2MPa1/2)、メタクリル酸(SP値19.0MPa1/2)、こはく酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)(SP値21.8MPa1/2)、ビニルイミダゾール(SP値20.8MPa1/2)、アクリル酸テトラヒドロフルフリル(SP値21.4MPa1/2)、アクリル酸メトキシエチル(SP値20.9MPa1/2)、アクリル酸エチル(SP値20.1MPa1/2)、アクリル酸プロピル(SP値19.8MPa1/2)、メタクリル酸メチル(SP値19.4MPa1/2)、メタクリル酸ベンジル(SP値20.0MPa1/2)、メタクリル酸2-(2-メトキシエトキシ)エチル(SP値20.4MPa1/2)、アクリルニトリル(SP値25.3MPa1/2)、スチレン(SP値19.3MPa1/2)
バインダー形成ポリマー中における、スチレン構成成分以外の極性基含有構成成分(極性基を有さない構成成分を除く。)の含有率CA(モル%)は、上記範囲を考慮して適宜に設定されるが、0モル%を超え80モル%以下であることが好ましく、0.1~60モル%であることがより好ましく、1~40モル%であることが更に好ましく、1~30モル%であることが特に好ましく、1~15モル%であることが最も好ましい。極性基含有構成成分の中でも極性基を有さない構成成分(例えば上記アルキル基を有する構成成分)の、バインダー形成ポリマー中における含有率は、適宜に設定され、例えば0~90モル%に設定できる。一方、スチレン構成成分の、バインダー形成ポリマー中の含有率CS(モル%)は、上記範囲を考慮して適宜に設定されるが、20~90モル%であることが好ましく、20~80モル%であることがより好ましく、40~80モル%であることが更に好ましく、70~80モル%であることが特に好ましい。
バインダー形成ポリマーが極性基含有構成成分としてスチレン構成成分を有さない場合、他の構成成分の含有率は、上記範囲を考慮して適宜に設定されるが、30~90モル%であることが好ましく、下限値としては、40モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることが更に好ましく、80モル%以上であることが特に好ましい。一方、極性基含有構成成分としてスチレン構成成分を有する場合、他の構成成分の含有率は、上記範囲を考慮して適宜に設定されるが、15~50モル%であることが好ましく、15~40モル%であることがより好ましく、15~30モル%であることが更に好ましい。
また、極性基含有構成成分の含有率と他の構成成分の含有率とのモル比は、上記含有率を満たす限り特に制限されず、適宜に設定できる。
ビニルポリマーとしては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル化合物(M)以外のビニルモノマーを例えば50モル%以上含有するポリマーが挙げられる。ビニルモノマーとしては上述のビニル化合物等が挙げられる。ビニルポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリ酢酸ビニル、又はこれらを含む共重合体等を包含する。
このビニルポリマーは、ビニルモノマー由来の構成成分以外に、後述する(メタ)アクリルポリマーを形成する(メタ)アクリル化合物(M)由来の構成成分を有していてもよい。ビニルモノマー由来の構成成分の含有率は(メタ)アクリルポリマーにおける(メタ)アクリル化合物(M)由来の構成成分の含有率と同じであることが好ましい。(メタ)アクリル化合物(M)由来の構成成分の含有率は、ポリマー中、50モル%未満であれば特に制限されないが、0~40モル%であることが好ましく、5~35モル%であることがより好ましい。
(メタ)アクリルポリマーにおける構成成分の含有率は、特に制限されず、適宜に選択され、例えば、以下の範囲に設定できる。上述の、極性基含有構成成分の含有率は上述の通りである。
(メタ)アクリル化合物(M)に由来する構成成分(極性基含有構成成分を含む。)の、(メタ)アクリルポリマー中の含有率は、特に限定されず、100モル%とすることもできる。重合性化合物(N)に由来する構成成分を含有する場合、1~90モル%であることが好ましく、10~80モル%であることがより好ましく、20~70モル%であることが更に好ましく、下限は50モル%を超えることが特に好ましい。
(メタ)アクリルポリマーが重合性化合物(N)に由来する構成成分を含有する場合、この構成成分の、(メタ)アクリルポリマー中の含有率は、特に限定されないが、1モル%以上50モル%以下であることが好ましく、10モル%以上50モル%以下であることがより好ましく、20モル%以上50モル%以下であることが特に好ましい。上限値として10モル%を採用することもできる。
バインダー形成ポリマーは、公知の方法により、原料化合物(モノマー)を選択し、原料化合物を重合して、合成することができる。
アルキル基(好ましくは炭素数1~20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t-ブチル、ペンチル、ヘプチル、1-エチルペンチル、ベンジル、2-エトキシエチル、1-カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素数2~20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素数2~20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3~20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4-メチルシクロヘキシル等、本明細書においてアルキル基というときには通常シクロアルキル基を含む意味であるが、ここでは別記する。)、アリール基(好ましくは炭素数6~26のアリール基、例えば、フェニル、1-ナフチル、4-メトキシフェニル、2-クロロフェニル、3-メチルフェニル等)、アラルキル基(好ましくは炭素数7~23のアラルキル基、例えば、ベンジル、フェネチル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素数2~20のヘテロ環基で、より好ましくは、少なくとも1つの酸素原子、硫黄原子、窒素原子を有する5又は6員環のヘテロ環基である。ヘテロ環基には芳香族ヘテロ環基及び脂肪族ヘテロ環基を含む。例えば、テトラヒドロピラン環基、テトラヒドロフラン環基、2-ピリジル、4-ピリジル、2-イミダゾリル、2-ベンゾイミダゾリル、2-チアゾリル、2-オキサゾリル、ピロリドン基等)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1-ナフチルオキシ、3-メチルフェノキシ、4-メトキシフェノキシ等、本明細書においてアリールオキシ基というときにはアリーロイルオキシ基を含む意味である。)、ヘテロ環オキシ基(上記ヘテロ環基に-O-基が結合した基)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2-エチルヘキシルオキシカルボニル、ドデシルオキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、1-ナフチルオキシカルボニル、3-メチルフェノキシカルボニル、4-メトキシフェノキシカルボニル等)、ヘテロ環オキシカルボニル基(上記ヘテロ環基に-O-CO-基が結合した基)、アミノ基(好ましくは炭素数0~20のアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基を含み、例えば、アミノ(-NH2)、N,N-ジメチルアミノ、N,N-ジエチルアミノ、N-エチルアミノ、アニリノ等)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0~20のスルファモイル基、例えば、N,N-ジメチルスルファモイル、N-フェニルスルファモイル等)、アシル基(アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロ環カルボニル基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシル基、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、オクタノイル、ヘキサデカノイル、アクリロイル、メタクリロイル、クロトノイル、ベンゾイル、ナフトイル、ニコチノイル等)、アシルオキシ基(アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、アルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヘテロ環カルボニルオキシ基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、オクタノイルオキシ、ヘキサデカノイルオキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、クロトノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ、ニコチノイルオキシ等)、アリーロイルオキシ基(好ましくは炭素数7~23のアリーロイルオキシ基、例えば、ベンゾイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1~20のカルバモイル基、例えば、N,N-ジメチルカルバモイル、N-フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1~20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1~20のアルキルチオ基、例えば、メチルチオ、エチルチオ、イソプロピルチオ、ベンジルチオ等)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6~26のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ、1-ナフチルチオ、3-メチルフェニルチオ、4-メトキシフェニルチオ等)、ヘテロ環チオ基(上記ヘテロ環基に-S-基が結合した基)、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル等)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6~22のアリールスルホニル基、例えば、ベンゼンスルホニル等)、アルキルシリル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルシリル基、例えば、モノメチルシリル、ジメチルシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル等)、アリールシリル基(好ましくは炭素数6~42のアリールシリル基、例えば、トリフェニルシリル等)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~20のアルコキシシリル基、例えば、モノメトキシシリル、ジメトキシシリル、トリメトキシシリル、トリエトキシシリル等)、アリールオキシシリル基(好ましくは炭素数6~42のアリールオキシシリル基、例えば、トリフェニルオキシシリル等)、ホスホリル基(好ましくは炭素数0~20のリン酸基、例えば、-OP(=O)(RP)2)、ホスホニル基(好ましくは炭素数0~20のホスホニル基、例えば、-P(=O)(RP)2)、ホスフィニル基(好ましくは炭素数0~20のホスフィニル基、例えば、-P(RP)2)、ホスホン酸基(好ましくは炭素数0~20のホスホン酸基、例えば、-PO(ORP)2)、スルホ基(スルホン酸基、-SO3RP)、カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、シアノ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)が挙げられる。RPは、水素原子又は置換基(好ましくは置換基Tから選択される基)である。
また、これらの置換基Tで挙げた各基は、上記置換基Tが更に置換していてもよい。
上記アルキル基、アルキレン基、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基及び/又はアルキニレン基等は、環状でも鎖状でもよく、また直鎖でも分岐していてもよい。
上記ポリマーバインダー、又はバインダー形成ポリマーは下記物性若しくは特性等を有することが好ましい。
バインダー形成ポリマーのSP値は、各構成成分のSP値を上記のようにして求め、下記式から算出する。なお、上記文献に準拠して求めた、構成成分のSP値をSP値(MPa1/2)に換算して用いる。
SPp 2=(SP1 2×W1)+(SP2 2×W2)+・・・
式中、SP1、SP2・・・は構成成分のSP値を示し、W1、W2・・・は構成成分の質量分率を示す。
本発明において、構成成分の質量分率は、当該構成成分(この構成分分を導く原料化合物)のバインダー形成ポリマー中の質量分率とする。
バインダー形成ポリマーは、非晶質であることが好ましい。本発明において、ポリマーが「非晶質」であるとは、典型的には、ガラス転移温度で測定したときに結晶融解に起因する吸熱ピークが見られないことをいう。
本発明において、ポリマー、ポリマー鎖等の重合体の分子量については、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算の質量平均分子量をいう。その測定法としては、基本として下記条件1又は条件2(優先)の方法が挙げられる。ただし、ポリマーの種類によっては適宜適切な溶離液を選定して用いればよい。
(条件1)
カラム:TOSOH TSKgel Super AWM-H(商品名、東ソー社製)を2本つなげる
キャリア:10mMLiBr/N-メチルピロリドン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
(条件2)
カラム:TOSOH TSKgel Super HZM-H、TOSOH TSKgel Super HZ4000、TOSOH TSKgel Super HZ2000(いずれも商品名、東ソー社製)をつないだカラムを用いる。
キャリア:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
ポリマーバインダーの、電極組成物中の含有量は、特に制限されないが、分散安定性、集電体密着性及びサイクル特性の点で、固形分100質量%中、0.1~10.0質量%であることが好ましく、0.2~8質量%であることがより好ましく、0.3~6質量%であることが更に好ましく、0.5~3質量%であることが特に好ましい。
本発明の電極組成物は、上記の各成分を分散若しくは溶解させる分散媒を含有する。
分散媒としては、使用環境において液状を示す有機化合物であればよく、例えば、各種有機溶媒が挙げられ、具体的には、アルコール化合物、エーテル化合物、アミド化合物、アミン化合物、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ニトリル化合物、エステル化合物等が挙げられる。
分散媒としては、非極性分散媒(疎水性の分散媒)でも極性分散媒(親水性の分散媒)でもよいが、優れた分散性を発現できる点で、非極性分散媒が好ましい。非極性分散媒とは、一般に水に対する親和性が低い性質をいうが、本発明においては、例えば、エステル化合物、ケトン化合物、エーテル化合物、香族化合物、脂肪族化合物等が挙げられる。
ケトン化合物としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、ジプロピルケトン、ジブチルケトン、ジイソプロピルケトン(DIPK)、ジイソブチルケトン(DIBK)、イソブチルプロピルケトン、sec-ブチルプロピルケトン、ペンチルプロピルケトン、ブチルプロピルケトンなどが挙げられる。
芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
脂肪族化合物としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、パラフィン、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリルなどが挙げられる。
エステル化合物としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、ペンタン酸ブチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸イソブチル、ピバル酸プロピル、ピバル酸イソプロピル、ピバル酸ブチル、ピバル酸イソブチルなどが挙げられる。
分散媒は、固体粒子の分散安定性の点で、例えば、SP値(単位:MPa1/2)が、14~24であることが好ましく、15~22であることがより好ましく、16~20であることが更に好ましい。分散媒とポリマーバインダーとのSP値の差(絶対値)は、特に制限されないが、分散媒中でポリマーバインダーを形成するポリマーの分子鎖が広がって自身の分散性が向上することにより、固体粒子の分散安定性を更に向上させることができる点で、3以下であることが好ましく、0~2であることがより好ましく、0~1であることが更に好ましい。上記SP値の差(絶対値)は、本発明の電極組成物が2種以上のバインダーを含有する場合、少なくとも1種のバインダーが上記SP値の差(絶対値)を満たしていることが好ましく、すべてのバインダーが上記SP値の差(絶対値)を満たしていることも好ましい態様の1つである。
分散媒のSP値は、上述のHoy法により算出したSP値を単位MPa1/2に換算した値とする。電極組成物が2種以上の分散媒を含有する場合、分散媒のSP値は、分散媒全体としてのSP値を意味し、各分散媒のSP値と質量分率との積の総和とする。具体的には、構成成分のSP値に代えて各分散媒のSP値を用いること以外は上述のポリマーのSP値の算出方法と同様にして算出する。
分散媒のSP値(単位を省略する)を以下に示す。
MIBK(18.4)、ジイソプロピルエーテル(16.8)、ジブチルエーテル(17.9)、ジイソプロピルケトン(17.9)、DIBK(17.9)、酪酸ブチル(18.6)、酢酸ブチル(18.9)、トルエン(18.5)、エチルシクロヘキサン(17.1)、シクロオクタン(18.8)、イソブチルエチルエーテル(15.3)、N-メチルピロリドン(NMP、25.4)
本発明において、電極組成物中の、分散媒の含有量は、特に制限されず適宜に設定することができる。例えば、電極組成物中、20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましく、40~60質量%が特に好ましい。
本発明の電極組成物は、導電助剤を含有していることが好ましく、例えば、負極活物質としてのケイ素元素含有活物質は導電助剤と併用されることが好ましい。
導電助剤としては、特に制限はなく、一般的な導電助剤として知られているものを用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック類、ニードルコークスなどの無定形炭素、気相成長炭素繊維若しくはカーボンナノチューブなどの炭素繊維類、グラフェン若しくはフラーレンなどの炭素質材料であってもよいし、銅、ニッケルなどの金属粉、金属繊維でもよく、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体などの導電性高分子を用いてもよい。
本発明において、活物質と導電助剤とを併用する場合、上記の導電助剤のうち、電池を充放電した際に周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン(好ましくはLiイオン)の挿入と放出が起きず、活物質として機能しないものを導電助剤とする。したがって、導電助剤の中でも、電池を充放電した際に活物質層中において活物質として機能しうるものは、導電助剤ではなく活物質に分類する。電池を充放電した際に活物質として機能するか否かは、一義的ではなく、活物質との組み合わせにより決定される。
導電助剤の形状は、特に制限されないが、粒子状が好ましい。この場合の平均粒径は特に限定されず適宜に設定される。また、比表面積は、通常、後述する活物質の比表面積よりも小さな値を有するが、これに限定されず、適宜に設定される。
本発明の電極組成物が導電助剤を含む場合、電極組成物中の導電助剤の含有量は、固形分100質量%において、0~10質量%が好ましい。
本発明の電極組成物は、硫化物系無機固体電解質以外の無機固体電解質を含有していてもよい。例えば、全固体二次電池に通常用いられる、酸化物系硫化物系無機固体電解質、ハロゲン化物系硫化物系無機固体電解質、水素化物系無機固体電解質等が挙げられる。硫化物系無機固体電解質以外の無機固体電解質の、電極組成物中の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を損なわない範囲において適宜に設定される。
本発明の電極組成物は、リチウム塩(支持電解質)を含有することも好ましい。
リチウム塩としては、通常この種の製品に用いられるリチウム塩が好ましく、特に制限はなく、例えば、特開2015-088486の段落0082~0085記載のリチウム塩が好ましい。
本発明の電極組成物がリチウム塩を含む場合、リチウム塩の含有量は、固体電解質100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。上限としては、50質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
本発明の電極組成物は、上述のポリマーバインダーが分散剤として機能するため、このポリマーバインダー以外の分散剤を含有していなくてもよいが、分散剤を含有してもよい。分散剤としては、全固体二次電池に通常使用されるものを適宜選定して用いることができる。一般的には粒子吸着と立体反発及び/又は静電反発を意図した化合物が好適に使用される。
本発明の電極組成物は、上記各成分以外の他の成分として、適宜に、イオン液体、増粘剤、架橋剤(ラジカル重合、縮合重合又は開環重合により架橋反応するもの等)、重合開始剤(酸又はラジカルを熱又は光によって発生させるものなど)、消泡剤、レベリング剤、脱水剤、酸化防止剤等を含有することができる。イオン液体は、イオン伝導度をより向上させるため含有されるものであり、公知のものを特に制限されることなく用いることができる。また、上述のポリマーバインダーを形成するポリマー以外のポリマー、通常用いられる結着剤等を含有していてもよい。
本発明の電極組成物は、硫化物系無機固体電解質、ポリマーバインダー、活物質及び分散媒、更に導電助剤、適宜にリチウム塩、任意の他の成分を、例えば通常用いる各種の混合機で混合する。これにより、混合物として、好ましくはスラリーとして調製することができる。
混合方法は特に制限されず、一括して混合してもよく、順次混合してもよい。混合する環境は特に制限されないが、乾燥空気下又は不活性ガス下等が挙げられる。
本発明の全固体二次電池用電極シート(単に、電極シートということもある。)は、全固体二次電池の電極(活物質層と集電体との積層体)を形成しうるシート状成形体であって、その用途に応じて種々の態様を含む。
本発明の電極シートは、上述の本発明の電極組成物で構成した活物質層を集電体表面に有している。そのため、活物質層と集電体とが強固に密着し(集電体密着性が強固で)、更には固体粒子同士も強固に密着しており、活物質層は高強度を示す。この電極シートは、工業的製造法、例えば生産性が高いロール トゥ ロール法によっても、また、製造工程中又は製造後に巻芯に巻き取られても、活物質層と集電体とが密着状態を維持できる。更には、活物質層の欠陥(欠け、割れ、ヒビ又は剥がれ等)の発生も抑制できる。この電極シートは、全固体二次電池の電極(活物質層及び集電体の積層体)として用いられることにより、全固体二次電池に優れたサイクル特性を付与できる。
本発明において、全固体二次電池用シートを構成する各層は、単層構造であっても複層構造であってもよい。
なお、固体電解質層等の構成層は通常の材料で形成される。
本発明の全固体二次電池用電極シートの製造方法は、特に制限されず、本発明の電極組成物を用いて集電体表面上の活物質層を形成することにより、製造できる。例えば、好ましく集電体(基材)の表面上に本発明の電極組成物を製膜(塗布乾燥)して、電極組成物からなる層(塗布乾燥層)を形成する方法が挙げられる。これにより、集電体と塗布乾燥層とを有するシートを作製することができる。ここで、塗布乾燥層とは、本発明の電極組成物を塗布し、分散媒を乾燥させることにより形成される層(すなわち、本発明の電極組成物を用いてなり、本発明の電極組成物から分散媒を除去した組成からなる層)をいう。塗布乾燥層又は塗布乾燥層からなる活物質層は、本発明の効果を損なわない範囲であれば分散媒が残存していてもよく、残存量としては、例えば、各層中、3質量%以下とすることができる。この塗布乾燥層は、上述のように、ポリマーバインダーを含有している。
本発明の全固体二次電池用電極シートの製造方法において、塗布、乾燥等の各工程については、下記全固体二次電池の製造方法において説明する。
上記の好ましい方法において、本発明の電極組成物を集電体上で製膜して全固体二次電池用電極シートを作製すると、集電体と活物質層との密着を強固にできる。
得られた塗布乾燥層は適宜に加圧処理等が施されて活物質層となる。
また、本発明の全固体二次電池用電極シートの製造方法においては、基材、保護層(特に剥離シート)等を剥離することもできる。
本発明の全固体二次電池は、正極活物質層と、この正極活物質層に対向する負極活物質層と、正極活物質層及び負極活物質層の間に配置された固体電解質層とを有する。正極活物質層は、好ましくは正極集電体上に形成され、正極を構成する。負極活物質層は、好ましくは負極集電体上に形成され、負極を構成する。
負極活物質層及び正極活物質層の少なくとも1つの層が本発明の電極組成物で形成されており、負極活物質層及び正極活物質層が本発明の電極組成物で形成されることも好ましい態様の1つである。本発明において、全固体二次電池の活物質層を本発明の電極組成物で形成するとは、本発明の全固体二次電池用電極シート(ただし、本発明の電極組成物で形成した活物質層及び集電体以外の層を有する場合はこれらの層を除去したシート)で活物質層と集電体との積層体(電極)を形成する態様を包含する。本発明の電極組成物で形成された活物質層は、好ましくは、含有する成分種及びその含有量について、本発明の電極組成物の固形分におけるものと同じである。なお、活物質層又は固体電解質層が本発明の電極組成物で形成されない場合、公知の材料を用いることができる。
本発明の全固体二次電池は、用途によっては、上記構造のまま全固体二次電池として使用してもよいが、乾電池の形態とするためには更に適当な筐体に封入して用いることが好ましい。筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金又は、ステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
全固体二次電池10においては、正極活物質層及び負極活物質層が本発明の電極組成物で形成されている。換言すると、正極活物質層と正極集電体とを積層した正極、及び負極活物質層と負極集電体とを積層した負極が本発明の電極シートで形成されている。
正極活物質層4及び負極活物質層2が含有する硫化物系無機固体電解質及びポリマーバインダーは、それぞれ、互いに同種であっても異種であってもよく、正極活物質と負極活物質との比表面積は同一でも異なっていてもよい。
本発明において、正極集電体及び負極集電体のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、集電体と称することがある。
正極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたもの(薄膜を形成したもの)が好ましく、その中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金がより好ましい。
負極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム、銅、銅合金又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましく、アルミニウム、銅、銅合金及びステンレス鋼がより好ましい。
集電体の厚みは、特に制限されないが、1~500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
本発明において、負極集電体、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層及び正極集電体の各層の間又はその外側には、機能性の層、部材等を適宜介在若しくは配設してもよい。また、各層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
全固体二次電池は、常法によって、製造できる。具体的には、全固体二次電池は、本発明の電極組成物等を用いて少なくとも一方の活物質層を形成し、又は本発明の電極シートを用いて少なくとも一方の電極を形成し、公知の材料を用いて固体電解質層、適宜に他方の活物質層若しくは電極を形成すること等により、製造できる。
例えば、正極集電体である金属箔上に、正極材料(正極組成物)として、正極活物質を含有する電極組成物を製膜して正極活物質層を形成し、全固体二次電池用正極シートを作製する。次いで、この正極活物質層の上に、固体電解質層を形成するための固体電解質組成物を製膜して、固体電解質層を形成する。更に、固体電解質層の上に、負極材料(負極組成物)として、負極活物質を含有する電極組成物を製膜して、負極活物質層を形成する。負極活物質層の上に、負極集電体(金属箔)を重ねることにより、正極活物質層と負極活物質層の間に固体電解質層が挟まれた構造の全固体二次電池を得ることができる。これを筐体に封入して所望の全固体二次電池とすることもできる。
また、各層の形成方法を逆にして、負極集電体上に、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層を形成し、正極集電体を重ねて、全固体二次電池を製造することもできる。
また別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートを作製する。また、これとは別に、電極組成物を基材上に製膜して、固体電解質層からなる全固体二次電池用固体電解質シートを作製する。更に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートで、基材から剥がした固体電解質層を挟むように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
更に、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート又は全固体二次電池用負極シート、及び全固体二次電池用固体電解質シートを作製する。次いで、全固体二次電池用正極シート又は全固体二次電池用負極シートと全固体二次電池用固体電解質シートとを、正極活物質層又は負極活物質層と固体電解質層とを接触させた状態に、重ねて、加圧する。こうして、全固体二次電池用正極シート又は全固体二次電池用負極シートに固体電解質層を転写する。その後、全固体二次電池用固体電解質シートの基材を剥離した固体電解質層と全固体二次電池用負極シート又は全固体二次電池用正極シートとを(固体電解質層に負極活物質層又は正極活物質層を接触させた状態に)重ねて加圧する。こうして、全固体二次電池を製造することができる。この方法における加圧方法及び加圧条件等は、特に制限されず、後述する、塗布した組成物の加圧において説明する方法及び加圧条件等を適用できる。
上記の製造方法においては、集電体の表面に製膜する電極組成物(負極組成物及び正極組成物の少なくとも一方)に本発明の電極組成物を用いる。
本発明の電極組成物以外の電極組成物で活物質層を形成する場合、また固体電解質層を形成する場合、それらの材料としては、通常用いられる組成物等が挙げられる。また、上記各製造方法において、負極(負極活物質層と負極集電体との積層体)としてリチウム金属層を用いることもできる。更に、全固体二次電池の製造時に負極活物質層を形成せずに、後述する初期化若しくは使用時の充電で負極集電体に蓄積した、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンを電子と結合させて、金属として負極集電体等の上に析出させることにより、負極活物質層を形成することもできる。
本発明の電極組成物等の塗布方法は、特に制限されず、適宜に選択できる。例えば、塗布(好ましくは湿式塗布)、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート塗布、スリット塗布、ストライプ塗布、バーコート塗布が挙げられる。
塗布された組成物は乾燥処理(加熱処理)されることが好ましい。乾燥処理は、電極組成物をそれぞれ塗布した後に施してもよいし、重層塗布した後に施してもよい。乾燥温度は、特に制限されず、例えば、30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。上限は、特に制限されないが、例えば、全固体二次電池の各部材の損傷を防止できる点で、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましい。
また、塗布した電極組成物は、加圧と同時に加熱してもよい。加熱温度としては特に制限されず、一般的には30~300℃の範囲である。硫化物系無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。なお、バインダー形成ポリマーのガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。ただし、一般的にはこのポリマーの融点を越えない温度である。
加圧は分散媒を予め乾燥させた状態で行ってもよいし、分散媒が残存している状態で行ってもよい。
なお、各組成物は同時に塗布してもよいし、塗布乾燥プレスを同時及び/又は逐次行ってもよい。別々の基材に塗布した後に、転写により積層してもよい。
プレス時間は短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。全固体二次電池用電極シート以外、例えば全固体二次電池の場合には、中程度の圧力をかけ続けるために、全固体二次電池の拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。
プレス圧はシート面等の被圧部に対して均一であっても異なる圧であってもよい。
プレス圧は被圧部の面積又は膜厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で変えることもできる。
プレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
上記のようにして製造した全固体二次電池は、製造後又は使用前に初期化を行うことが好ましい。初期化は特に制限されず、例えば、プレス圧を高めた状態で初充放電を行い、その後、全固体二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を解放することにより、行うことができる。
本発明の全固体二次電池は種々の用途に適用することができる。適用態様には特に制限はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源などが挙げられる。その他民生用として、自動車、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
下記化学式及び表1に示すポリマーS-1~S-10、T-1及びT-2を以下のようにして合成して、バインダー溶液若しくは分散液S-1~S-10、T-1及びT-2をそれぞれ調製した。
100mLメスシリンダーに、メタクリル酸2-(2-メトキシエトキシ)エチル(東京化成工業社製)27.0、メタクリル酸ドデシル(東京化成工業社製)9.0g及び重合開始剤V-601(商品名、富士フイルム和光純薬社製)0.36gを加え、酪酸ブチル36gに溶解してモノマー溶液を調製した。
300mL3つ口フラスコに酪酸ブチル18gを加え80℃で撹拌したところへ、上記モノマー溶液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、90℃に昇温し、2時間撹拌してポリマーS-1(メタクリルポリマー)を合成し、ポリマーS-1からなるバインダー分散液S-1(濃度40質量%)を得た。この分散液中のバインダーS-1の平均粒径は360nmであった。
合成例1において、ポリマーS-2~S-10が下記化学式及び表1に示す組成(構成成分の種類及び含有率)となるように各構成成分を導く化合物を用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ポリマーS-2~S-6、S-8及びS-9((メタ)アクリルポリマー)、並びにポリマーS-7及びS-10(ビニルポリマー)をそれぞれ合成して、各ポリマーからなるバインダー溶液S-2~S-10(濃度40質量%)をそれぞれ得た。
200mL三角フラスコに4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(東京化成工業社製)60g及びN-メチルピロリドン(NMP)39.3gを加え、撹拌して溶液を得た。
500mL3つ口フラスコに、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(東京化成工業社製)27.0g及びNMP90gを加え、撹拌して溶解させた後、上記4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物のNMP溶液を反応系中の温度が60℃を超えないように加えた。このNMP溶液すべてを添加してから4時間撹拌して、ポリマーのNMP溶液(濃度40質量%)を得た。
次いで、500mL3つ口ナスフラスコにポリマーのNMP溶液10g及びNMP30gを加えて撹拌した後、酪酸ブチル316gを1時間かけて滴下した。得られた分散液を1L分液漏斗に移し、水250gで3回洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥した。
こうして、ポリマーT-1(ポリイミド)を合成し、ポリマーT-1からなるバインダー分散液T-1(濃度1.3質量%)を得た。
この分散液中のバインダーT-1の平均粒径は530nmであった。
合成例1において、ポリマーT-2が下記化学式及び表1に示す組成(構成成分の種類及び含有率)となるように各構成成分を導く化合物を用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ポリマーT-2(アクリルポリマー)を合成して、ポリマーT-2からなるバインダー溶液T-2(濃度40質量%)を得た。
表中、構成成分欄中の「-」は該当する構成成分を有していないことを示す。
下記に示す、各構成成分のSP値の単位はMPa1/2である。
- 構成成分M1 -
構成成分M1はSP値が19.0MPa1/2未満の構成成分等の他の構成成分を示す。
LMA:メタクリル酸ドデシル(東京化成工業社製)
LA:アクリル酸ドデシル(東京化成工業社製)
6FDA:4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(東京化成工業社製)
DAE:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(東京化成工業社製)
EtHexA:アクリル酸2-エチルヘキシル(東京化成工業社製)
- 構成成分M2 -
構成成分M2は、SP値が19.0MPa1/2以上の、(メタ)アクリルモノマー若しくはビニルモノマーに由来する構成成分を示す。
DGMEM:メタクリル酸2-(2-メトキシエトキシ)エチル(東京化成工業社製)
AN:アクリロニトリル(富士フイルム和光純薬社製)
VP:ビニルピリジン(東京化成工業社製)
OXE-30:(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレート(大阪有機化学工業社製)
THFA:テトラヒドロフルフリルアクリレート(富士フイルム和光純薬社製)
HEM:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(富士フイルム和光純薬社製)
HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル(富士フイルム和光純薬社製)
St:スチレン(富士フイルム和光純薬社製)
BA:ブチルアクリレート(東京化成工業社製)
cHMA:シクロヘキシルメタクリレート(東京化成工業社製)
(1)正極活物質として、下記のLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NMC)を準備した。
NMC1:比表面積が13m2/g、平均粒径が0.3μmのNMC(豊島製作所社製)
NMC2:比表面積が4m2/g、平均粒径が1.0μmのNMC(アルドリッチ社製)
(2)負極活物質として、下記のSiを準備した。
Si1:比表面積が23m2/g、平均粒径が0.1μmのSi(アルドリッチ社製)
Si2:比表面積が2m2/g、平均粒径が2.8μmのSi(Alfa Aesar社製)
[合成例A]
硫化物系無機固体電解質は、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.Hama,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235、及び、A.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873の非特許文献を参考にして合成した。
具体的には、アルゴン雰囲気下(露点-70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(Li2S、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42g及び五硫化二リン(P2S5、Aldrich社製、純度>99%)3.90gをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入し、メノウ製乳棒を用いて、5分間混合した。Li2S及びP2S5の混合比は、モル比でLi2S:P2S5=75:25とした。
次いで、ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66g投入し、上記の硫化リチウムと五硫化二リンの混合物全量を投入し、アルゴン雰囲気下で容器を完全に密閉した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)に容器をセットし、温度25℃で、回転数720rpmで24時間メカニカルミリングを行うことで、黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li-P-S系ガラス、以下、LPSと表記することがある。)6.20gを得た。Li-P-S系ガラスの平均粒径は11μmであり、比表面積は0.8m2/gであった。
表2に示す各電極組成物を以下のようにして調製した。
<正極組成物の調製>
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを60g投入し、合成例Aで合成したLPSを9.9g、及び、分散媒として酪酸ブチル14g(総量)を投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)にこの容器をセットし、25℃で、回転数200pmで30分間攪拌した。その後、この容器に、表2に示す正極活物質を25.2g、導電助剤としてアセチレンブラック(AB、平均粒径2.3μm、デンカ社製)を0.72g、表2に示すバインダー溶液又は分散液を0.18g(固形分質量)投入し、遊星ボールミルP-7に容器をセットし、温度25℃、回転数200rpmで30分間混合を続け、正極組成物(スラリー)PK-1~PK-10及びPKc11をそれぞれ調製した。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを60g投入し、合成例Aで合成したLPSを8.7g、表2に示すバインダー溶液又は分散液0.1g(固形分質量)、及び表2に示す分散媒を20.8g(総量)投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)にこの容器をセットし、温度25℃、回転数300pmで60分間混合した。その後、表2に示す負極活物質9.6g、導電助剤としてVGCF(平均粒径0.8μm、昭和電工社製)0.8gを投入し、同様に、遊星ボールミルP-7に容器をセットして、温度25℃、回転数100rpmで10分間混合して、負極組成物(スラリー)NK-1~NK-10及びNKc21~NKc23をそれぞれ調製した。
組成物含有量は組成物の総量に対する含有量(質量%)を示し、固形分含有量は組成物の固形分100質量%に対する含有量(質量%)を示す。
NMC1及びNMC2:上記で準備したNMC
Si1及びSi2:上記で準備したSi
AB:アセチレンブラック(比表面積は62m2/g)
VGCF:カーボンナノチューブ(比表面積は13m2/g)
調製した各組成物について、分散安定性を以下のようにして評価した。
調製した各組成物(スラリー)を直径10mm、高さ4cmのガラス試験管に高さ4cmまで投入し、25℃で4日間静置した。静置前後のスラリー液面から1cm分の固形分比を算出した。具体的には、静置直後において、スラリー液面から下方に1cmまでの液をそれぞれ取り出し、アルミニウム製カップ内で、120℃、2時間加熱乾燥した。その後のカップ内の固形分量の質量を測定して、静置前後の各固形分量を求めた。こうして得られた、静置前の固形分量WBに対する静置後の固形分量WAの固形分比[WA/WB]を求めた。
この固形分比が下記評価基準のいずれに含まれるかにより、固体電解質組成物の分散安定性として、固体粒子の沈降のしやすさ(沈降性)を評価した。本試験において、上記固形分比が1.0に近いほど、分散安定性に優れることを示し、評価基準「D」以上が合格レベルである。結果を表3に示す。
なお、本発明の組成物は調製直後の分散性も電極形成材料として十分なものであった。
- 評価基準 -
A:0.9≦固形分比≦1.0
B:0.8≦固形分比<0.9
C:0.7≦固形分比<0.8
D:0.6≦固形分比<0.7
E:0.5≦固形分比<0.6
F: 固形分比<0.5
上記で得られた表3の「電極組成物」欄に示す各正極組成物を厚み20μmのアルミニウム箔上にベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201)を用いて塗布し、80℃で1時間加熱し、更に110℃で1時間加熱して、正極組成物を乾燥(分散媒を除去)した。その後、ヒートプレス機を用いて、乾燥させた正極組成物を25℃で加圧(20MPa、1分)して、膜厚75μmの正極活物質層を有する全固体二次電池用正極シート(表3において正極シートと表記する。)101~106、113~116及びc11をそれぞれ作製した。
上記で得られた表3の「電極組成物」欄に示す各負極組成物を厚み20μmの銅箔上に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201)を用いて塗布し、80℃で1時間加熱し、更に110℃で1時間加熱して、負極組成物を乾燥(分散媒を除去)した。その後、ヒートプレス機を用いて、乾燥させた負極組成物を25℃で加圧(20MPa、1分)して、膜厚60μmの負極活物質層を有する全固体二次電池用負極シート(表3において負極シートと表記する。)107~112、117~120及びc21~c23をそれぞれ作製した。
作製した各シート101~120、c11及びc21~c23を幅3cm×長さ14cmの長方形に切り出した。切り出したシートを、円筒形マンドレル試験機(商品コード056、マンドレル直径10mm、Allgood社製)を用いて、日本産業規格(JIS) K5600-5-1(耐屈曲性(円筒形マンドレル:タイプ2の試験装置を用いた試験)、国際標準規格(ISO)1519と同試験。)に従って、屈曲させた。なお、試験片はその活物質層をマンドレルとは逆側(集電体をマンドレル側)に、幅方向をマンドレルの軸線と平行に、セットした。試験は、マンドレルの直径を、32mm、25mm、19mm、16mm、12mm、10mm、6mm、5mm、3mmm及び2mmの順に変更して行い、活物質層が集電体(アルミニウム箔又は銅箔)から剥離しなかった最小直径を測定して、この最小直径が下記評価基準のいずれに該当するかで評価した。
本試験において、上記最小直径が小さいほど、活物質層と集電体との密着力が強固であることを示し、評価基準「D」以上が合格レベルである。結果を表3示す。
- 評価基準 -
A: 2mm
B: 3mm又は 5mm
C: 6mm又は10mm
D: 12mm又は16mm
E: 19mm又は25mm
F: 32mm
(固体電解質層を備えた全固体二次電池用正極シートの作製)
次いで、表4の「電極活物質層」欄に示す各全固体二次電池用正極シートの正極活物質層上に、下記で作製した全固体二次電池用固体電解質シート201を固体電解質層が正極活物質層に接するように重ね、プレス機を用いて25℃で加圧(50MPa)して転写(積層)した後に、25℃で更に加圧(600MPa)することで、膜厚30μmの固体電解質層を備えた全固体二次電池用正極シート(正極活物質層の膜厚55μm)101~106、113~116及びc11をそれぞれ作製した。
次いで、表4の「電極活物質層」欄に示す各全固体二次電池用負極シートの負極活物質層上に、下記で作製した全固体二次電池用固体電解質シート201を固体電解質層が負極活物質層に接するように重ね、プレス機を用いて25℃で加圧(50MPa)して転写(積層)した後に、25℃で更に加圧(600MPa)することで、膜厚30μmの固体電解質層を備えた全固体二次電池用負極シート(負極活物質層の膜厚42μm)107~112、117~120及びc21~c23をそれぞれ作製した。
(無機固体電解質含有組成物201の調製)
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを60g投入し、上記合成例Aで合成したLPS8.43g、KYNAR FLEX 2500-20(商品名、PVdF-HFP:ポリフッ化ビニリデンヘキサフルオロプロピレン共重合体、アルケマ社製)を固形分質量として0.17g、及び分散媒として酪酸ブチルを16g投入した。その後に、この容器をフリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)にセットした。温度25℃、回転数150rpmで10分間混合して、無機固体電解質含有組成物(スラリー)201を調製した。
(全固体二次電池用固体電解質シート201の作製)
上記で調製した無機固体電解質含有組成物201を厚み20μmのアルミニウム箔上に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201、テスター産業社製)を用いて塗布し、80℃で2時間加熱して、無機固体電解質含有組成物を乾燥(分散媒を除去)させた。その後、ヒートプレス機を用いて、120℃の温度及び40MPaの圧力で10秒間、乾燥させた無機固体電解質含有組成物を加熱及び加圧して、全固体二次電池用固体電解質シート201を作製した。固体電解質層の膜厚は48μmであった。
以下のようにして、図1に示す層構成を有する全固体二次電池No.101を作製した。
上記で得られた固体電解質層を備えた全固体二次電池用正極シートNo.101(固体電解質含有シートのアルミニウム箔は剥離済み)を直径14.5mmの円板状に切り出し、図2に示すように、スペーサーとワッシャー(図2において図示せず)を組み込んだステンレス製の2032型コインケース11に入れた。次いで、固体電解質層上に直径15mmの円盤状に切り出したリチウム箔を重ねた。その上に更にステンレス箔を重ねた後、2032型コインケース11をかしめることで、図2に示すNo.101の(コイン型)全固体二次電池(ハーフセル)13を製造した。このようにして製造した、全固体二次電池用正極シートNo.101評価用全固体二次電池No.101は、図1に示す層構成を有する(ただし、リチウム箔が負極活物質層2及び負極集電体1に相当する)。
以下のようにして、図1に示す層構成を有する全固体二次電池No.107を作製した。
上記で得られた固体電解質を有する各全固体二次電池用負極シートNo.107(固体電解質含有シートのアルミニウム箔は剥離済み)を直径14.5mmの円板状に切り出し、図2に示すように、スペーサーとワッシャー(図2において図示せず)を組み込んだステンレス製の2032型コインケース11に入れた。次いで、下記で作製した全固体二次電池用正極シートCSから直径14.0mmで打ち抜いた正極シート(正極活物質層)を固体電解質層上に重ねた。その上に更にステンレス鋼箔(正極集電体)を重ねて全固体二次電池用積層体12(ステンレス鋼箔-アルミニウム箔-正極活物質層-固体電解質層-負極活物質層-銅箔からなる積層体)を形成した。その後、2032型コインケース11をかしめることで、図2に示す、全固体二次電池用負極シートNo.107評価用全固体二次電池(フルセル)No.107を製造した。
(正極組成物の調製)
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記合成例Aで合成したLPSを2.7g、KYNAR FLEX 2500-20(商品名、PVdF-HFP:ポリフッ化ビニリデンヘキサフルオロプロピレン共重合体、アルケマ社製)を固形分質量として0.3g、及び酪酸ブチルを22g投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)にこの容器をセットし、25℃で、回転数300rpmで60分間攪拌した。その後、正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NMC、比表面積13m2/g、平均粒径0.3μm)7.0gを投入し、同様にして、遊星ボールミルP-7に容器をセットし、25℃、回転数100rpmで5分間混合を続け、正極組成物CSを調製した。
(固体二次電池用正極シートCSの作製)
上記で得られた正極組成物CSを厚み20μmのアルミニウム箔(正極集電体)上に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201、テスター産業社製)により塗布し、100℃で2時間加熱し、正極組成物CSを乾燥(分散媒を除去)した。その後、ヒートプレス機を用いて、乾燥させた正極組成物を25℃で加圧(10MPa、1分)し、膜厚75μmの正極活物質層を有する全固体二次電池用正極シートCSを作製した。
製造した各評価用全固体二次電池について、放電容量維持率を充放電評価装置TOSCAT-3000(商品名、東洋システム社製)により測定した。
具体的には、各評価用全固体二次電池を、それぞれ、25℃の環境下で、電流密度0.1mA/cm2で電池電圧が3.6Vに達するまで充電した。その後、電流密度0.1mA/cm2で電池電圧が2.5Vに達するまで放電した。この充電1回と放電1回とを充放電1サイクルとして、同じ条件で充放電を3サイクル繰り返して、初期化した。次いで、電流密度1.0mA/cm2で電池電圧が3.6Vに達するまで高速充電した。その後、電流密度1.0mA/cm2で電池電圧が2.5Vに達するまで高速放電した。この高速充電1回と高速放電1回とを高速充放電1サイクルとして、同じ条件で高速充放電を繰り返して行った。高速充放電サイクルを行う毎に各評価用全固体二次電池の放電容量を、充放電評価装置:TOSCAT-3000(商品名)により、測定した。
初期化後の高速充放電1サイクル目の放電容量(初期放電容量)を100%としたときに、放電容量維持率(初期放電容量に対する放電容量)が80%に達した際の高速充放電サイクル数が、下記評価基準のいずれに含まれるかにより、サイクル特性を評価した。
本試験において、評価基準「D」以上が合格レベルであり、評価基準が高いほど、サイクル特性に優れ、高速充放電を複数回繰り返しても(長期の使用においても)初期の電池性能を維持できる。結果を表4に示す。全固体二次電池c101及びc201は評価基準「E」に含まれるが、上記高速充放電サイクル数はそれぞれ210サイクル及び106サイクルであった。
なお、本発明の評価用全固体二次電池において、高速充放電1サイクル目の放電容量は、いずれも、全固体二次電池として機能するのに十分な値を示した。また、上記高速充放電ではなく、上記の初期化と同条件で通常の充放電サイクルを繰り返して行っても、本発明の評価用全固体二次電池は優れたサイクル特性を維持していた。
- 評価基準(ハーフセル)-
A:600サイクル以上
B:500サイクル以上、600サイクル未満
C:400サイクル以上、500サイクル未満
D:300サイクル以上、400サイクル未満
E:200サイクル以上、300サイクル未満
F:200サイクル未満
- 評価基準(フルセル) -
A:500サイクル以上
B:400サイクル以上、500サイクル未満
C:300サイクル以上、400サイクル未満
D:200サイクル以上、300サイクル未満
E:100サイクル以上、200サイクル未満
F:100サイクル未満
比較例PKc11及びNKc21~NKc23に示す、硫化物系無機固体電解質と、本発明で規定する活物質及びポリマーバインダーとを組み合わせて含有しない電極組成物は分散安定性に劣る。これらの組成物を用いて作製したシートc11及びc21~c23は集電体との密着性に劣り、全固体二次電池c101及びc201~c203は高速充放電により放電容量が著しく低下する。
これに対して、本発明のPK-1~PK-10及びNK-1~NK-10で示した、硫化物系無機固体電解質と、本発明で規定する活物質及びポリマーバインダーを組み合わせて含有する電極組成物は、いずれも、比表面積の大きな活物質を含有していても経時による再凝集若しくは沈降を抑制でき、4日間経過後でも十分な分散性を維持している。これらの電極組成物を全固体二次電池の活物質層の形成に用いることにより、全固体二次電池用電極シートの集電体密着性を強化でき、また高速充放電においても放電容量の低下を抑制でき、優れたサイクル特性を示す全固体二次電池を実現できる。この作用効果は、比表面積の大きな活物質を含有する電極組成物において、ポリマーバインダーが活物質、更には硫化物系無機固体電解質に吸着することによって奏されると考えられる。
2 負極活物質層
3 固体電解質層
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位
10 全固体二次電池
11 2032型コインケース
12 全固体二次電池用積層体
13 コイン型全固体二次電池
Claims (12)
- 周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有する硫化物系無機固体電解質と、ポリマーバインダーと、活物質と、分散媒とを含有する、全固体二次電池用の電極組成物であって、
前記活物質が10m2/g以上の比表面積を有し、
前記ポリマーバインダーが前記分散媒に溶解しており、
前記ポリマーバインダーを形成するポリマーが、SP値が19.0MPa1/2以上である(メタ)アクリルモノマー若しくはビニルモノマーに由来する構成成分を有する、(メタ)アクリルポリマー又はビニルポリマーである、電極組成物。 - 前記活物質が構成元素としてケイ素元素を有する、請求項1に記載の電極組成物。
- 前記構成成分が、活性水素を含む極性基又はヘテロ環基を有する、請求項1又は2に記載の電極組成物。
- 前記ポリマーバインダーを形成するポリマーが、SP値が19.0MPa 1/2 未満の、(メタ)アクリルモノマー若しくはビニルモノマーに由来する構成成分を更に有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の電極組成物。
- 前記ポリマーバインダーを形成するポリマーが、17.0~21.0MPa 1/2 のSP値を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の電極組成物。
- 導電助剤を含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の電極組成物。
- 前記活物質がLiイオン伝導性樹脂に連続的に覆われていない、請求項1~7のいずれか1項に記載の電極組成物。
- 請求項1~8のいずれか1項に記載の電極組成物で構成した層を集電体表面に有する全固体二次電池用電極シート。
- 正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で具備する全固体二次電池であって、
前記正極活物質層及び前記負極活物質層の少なくとも1つの層が請求項1~8のいずれか1項に記載の電極組成物で構成されている、全固体二次電池。 - 請求項1~8のいずれか1項に記載の電極組成物を集電体表面で製膜する、全固体二次電池用電極シートの製造方法。
- 請求項11に記載の製造方法を経て全固体二次電池を製造する、全固体二次電池の製造方法。
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