(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、一つの実施形態に対して適用可能な各種の変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中に挿入されると、当該実施形態の理解が妨げられるおそれがある。このため、変形例は、実施形態の説明の後にまとめて記載する。
(第一実施形態:構成)
図1を参照すると、物体検知装置1は、移動体としての車両Cに搭載されることで、当該車両Cの周囲すなわち外部の物体Bを検知するように構成されている。本実施形態において、車両Cは、いわゆる自動車であって、外板部材C1によって箱状に形成された車体を備えている。外板部材C1は、例えば、バンパーまたはボディパネルであって、合成樹脂または金属製の板材によって形成されている。物体検知装置1が車両Cに搭載された状態を、以下「車載状態」と称する。また、本実施形態に係る物体検知装置1を搭載する車両Cを、以下「自車両」と称する。
物体検知装置1は、送受信器2と、駆動信号生成部3と、受信信号処理部4と、制御部5とを備えている。送受信器2、駆動信号生成部3、および受信信号処理部4は、超音波センサユニット6の不図示の筐体に収容されている。すなわち、超音波センサユニット6は、送受信器2、駆動信号生成部3、および受信信号処理部4を筐体により収容しつつ支持した構成を有している。
超音波センサユニット6は、いわゆるソナーと称されるセンサユニットであって、車載状態にて外板部材C1に固定されている。車両Cには、複数の超音波センサユニット6が搭載されている。複数の超音波センサユニット6の各々は、制御部5と、車載ネットワーク回線を介して情報通信可能に接続されている。なお、図1においては、図示の簡略化のため、複数の超音波センサユニット6のうちの1つのみが図示されているものとする。
送受信器2は、超音波である探査波を外部に向けて送信するとともに、探査波の物体Bによる反射波を受信するように構成されている。具体的には、送受信器2は、送信部20Aと受信部20Bとを有している。送信部20Aは、探査波を外部に向けて送信可能に設けられている。受信部20Bは、送信部20Aから送信された探査波の物体Bによる反射波を含む受信波を受信可能に設けられている。
本実施形態においては、超音波センサユニット6は、送受信一体型の構成を有している。すなわち、超音波センサユニット6は、1個の送受信器2を備えることで、当該送受信器2にて送受信機能を奏するように構成されている。
具体的には、送受信器2は、1個のトランスデューサ21を有している。送信部20Aおよび受信部20Bは、共通のトランスデューサ21を用いて、送信機能および受信機能を実現するように構成されている。すなわち、トランスデューサ21は、入力された電気信号である駆動信号の周波数に応じた周波数の探査波を発信するとともに、受信した超音波である受信波における強度および周波数に応じた電気信号である受信信号を出力するように構成されている。本実施形態においては、トランスデューサ21は、略円筒形状のマイクロフォン筐体に圧電素子等の電気-機械エネルギー変換素子を内蔵した、共振型の超音波マイクロフォンとしての構成を有している。
また、本実施形態においては、送受信器2は、複数の周波数すなわち第一周波数f1およびこれとは異なる第二周波数f2を有する探査波を送信可能に構成されている。具体的には、送受信器2は、例えば、広帯域の特性を有している。あるいは、例えば、送受信器2は、複数の共振周波数を有する、いわゆる複共振マイクロフォンとしての構成を有している。すなわち、送受信器2は、第一周波数f1に対応する第一共振周波数fr1と、第二周波数f2に対応する第二共振周波数fr2とを有している。
車載状態にて、トランスデューサ21は、自車両の外表面に面する位置に配置されることで、探査波を自車両の外部に送信可能および反射波を自車両の外部から受信可能に設けられている。具体的には、トランスデューサ21は、車載状態にて、自車両における外板部材C1に形成された貫通孔である装着孔C2から送受信面21aが自車両の外部空間に露出するように、外板部材C1に装着されている。送受信面21aは、トランスデューサ21におけるマイクロフォン筐体の外表面であって、探査波の送信面および受信波の受信面として機能するように設けられている。
送受信器2は、トランスデューサ21と、送信回路22と、受信回路23とを備えている。トランスデューサ21は、送信回路22および受信回路23と電気接続されている。送信部20Aは、トランスデューサ21と送信回路22とによって構成されている。また、受信部20Bは、トランスデューサ21と受信回路23とによって構成されている。
送信回路22は、入力された駆動信号に基づいてトランスデューサ21を駆動することで、トランスデューサ21にて駆動信号の周波数に対応する周波数の探査波を発信させるように構成されている。駆動信号の周波数を、以下「駆動周波数」と称する。また、探査波の周波数を、以下「送信周波数」と称する。なお、説明の簡略化のため、本実施形態においては、駆動周波数は、送信周波数と略一致するものとする。
具体的には、送信回路22は、デジタル/アナログ変換回路等を有している。すなわち、送信回路22は、駆動信号生成部3から出力された駆動信号に対してデジタル/アナログ変換等の信号処理を施すことで、素子入力信号を生成するように構成されている。素子入力信号は、トランスデューサ21を駆動するための交流電圧信号である。そして、送信回路22は、生成した素子入力信号をトランスデューサ21に印加してトランスデューサ21における電気-機械エネルギー変換素子を駆動することで、送受信面21aを励振して探査波を外部に送信するように構成されている。
受信回路23は、トランスデューサ21による受信波の受信結果に対応する受信信号を生成して受信信号処理部4に出力するように構成されている。具体的には、受信回路23は、増幅回路およびアナログ/デジタル変換回路等を有している。すなわち、受信回路23は、トランスデューサ21が出力した素子出力信号に対して、増幅およびアナログ/デジタル変換等の信号処理を施すことで、受信信号を生成するように構成されている。素子出力信号は、受信波の受信により送受信面21aが励振された際に、トランスデューサ21に設けられた電気-機械エネルギー変換素子にて発生する、交流電圧信号である。また、受信回路23は、受信波すなわち素子出力信号の振幅および周波数に関する情報が含まれる、生成した受信信号を、受信信号処理部4に出力するように構成されている。受信波の周波数を、以下「受信周波数」と称する。
このように、送受信器2は、トランスデューサ21により、探査波を送信するとともに物体Bからの反射波を受信波として受信することで、トランスデューサ21と物体Bとの距離および受信周波数に応じた受信信号を生成するように構成されている。送受信器2が、自身の送信した探査波の反射波を受信した場合の受信波を、以下「正規波」と称する。これに対し、他装置からの探査波に起因する受信波を、以下「非正規波」と称する。「他装置」には、自車両とは異なる他車両に搭載された、他の送受信器2も含まれる。
駆動信号生成部3は、制御部5から受信した制御信号に基づいて、駆動信号を生成して送受信器2すなわち送信回路22に向けて出力するように設けられている。駆動信号は、送受信器2すなわち送信部20Aを駆動して、トランスデューサ21から探査波を送信させるための信号である。制御信号は、駆動信号生成部3から送受信器2への駆動信号の出力を制御するための信号である。
受信信号処理部4は、受信信号に対して各種の信号処理を施すことで制御部5における物体検知動作に必要な情報あるいは信号を生成して、かかる信号を制御部5に出力するように設けられている。具体的には、受信信号処理部4は、振幅生成部40と、距離算出部41と、バンドパスフィルタ42と、振幅生成部43とを有している。
振幅生成部40は、送受信器2から出力された受信信号における振幅を取得するように設けられている。距離算出部41は、TOF、および、振幅生成部40にて取得した振幅に基づいて、測距距離を算出するように設けられている。TOFは、Time of Flightの略であり、探査波の送信から反射波の受信までの所要時間である。TOFは、伝播時間とも称され得る。測距距離は、受信波が物体Bによる探査波の反射波であると仮定した場合に、伝播時間の半分に音速を乗算することで算出される、探査波を送信したトランスデューサ21から当該物体Bまでの距離である。測距距離は、伝播距離の半分である。伝播距離は、探査波がトランスデューサ21から物体Bに到達して当該物体Bにて反射され、当該物体Bによる反射波がトランスデューサ21に到達するまでの、超音波の伝播経路における距離である。具体的には、距離算出部41は、受信信号における振幅が所定の閾値を超える場合に、TOFに基づいて測距距離を算出するようになっている。また、距離算出部41は、算出した測距距離を、制御部5に出力するようになっている。
バンドパスフィルタ42は、特定の周波数帯域の信号を選択的に通過させるように設けられている。受信信号処理部4には、探査波が複数の送信周波数を有することに対応して、複数のバンドパスフィルタ42が設けられている。具体的には、本実施形態においては、受信信号処理部4は、第一周波数f1に対応するバンドパスフィルタ42と、第二周波数f2に対応するバンドパスフィルタ42とを有している。第一周波数f1に対応するバンドパスフィルタ42は、第一周波数f1を中心とした所定帯域幅の信号を通過させるようになっている。同様に、第二周波数f2に対応するバンドパスフィルタ42は、第二周波数f2を中心とした所定帯域幅の信号を通過させるようになっている。
振幅生成部43は、バンドパスフィルタ42を通過した信号に対して各種信号処理を施すことで、振幅信号を生成するように設けられている。振幅信号は、受信信号の振幅に対応する信号である。受信信号処理部4には、複数のバンドパスフィルタ42が設けられていることに対応して、複数の振幅生成部43が設けられている。具体的には、本実施形態においては、受信信号処理部4は、第一周波数f1に対応するバンドパスフィルタ42を通過した信号に基づいて振幅信号を生成する振幅生成部43と、第二周波数f2に対応するバンドパスフィルタ42を通過した信号に基づいて振幅信号を生成する振幅生成部43とを有している。振幅生成部43は、生成した振幅信号を、制御部5に出力するようになっている。
制御部5は、物体検知装置1の全体の動作を制御する、いわゆるソナーECUであって、CPU、ROM、不揮発性リライタブルメモリ、RAM、入出力インタフェース、等を備えた車載マイクロコンピュータとしての構成を有している。ECUはElectronic Control Unitの略である。CPUはCentral Processing Unitの略である。ROMはRead Only Memoryの略である。不揮発性リライタブルメモリは、例えば、EPROM、EEPROM、フラッシュメモリ、磁気記録媒体、等である。EPROMはErasable Programmable Read Only Memoryの略である。EEPROMはElectrically Erasable Programmable Read Only Memoryの略である。RAMはRandom access memoryの略である。ROM、不揮発性リライタブルメモリ、およびRAMは、非遷移的実体的記憶媒体である。ROMおよび/または不揮発性リライタブルメモリは、本実施形態に係る物体検知プログラムを記憶する、非遷移的実体的記憶媒体に相当するものである。
制御部5は、ROMまたは不揮発性リライタブルメモリに記憶されたプログラムを読み出して実行することで、自車両における物体検知動作およびこれに伴う報知等の各種動作を実行可能に構成されている。具体的には、制御部5は、送受信器2における探査波の送信を制御するとともに、送受信器2にて受信された受信波に基づいて物体Bを検知するようになっている。本実施形態においては、制御部5は、マイクロコンピュータ上にて実現される機能構成として、温度取得部51と、駆動制御部52と、受信判定部53と、物体検知部54とを有している。
温度取得部51は、環境温度を取得するように設けられている。「環境温度」は、物体検知装置1すなわち送受信器2が搭載された、自車両の周囲の温度である。具体的には、温度取得部51は、車両Cに搭載された不図示の外気温センサによる外気温の検出値を、不図示の車載ネットワーク経由で受信するようになっている。
駆動制御部52は、駆動信号生成部3に制御信号を出力することで、送受信器2からの探査波の発信状態を制御するように設けられている。具体的には、駆動制御部52は、駆動信号生成部3にて生成および出力される駆動信号における、駆動周波数、波形パターン、および出力タイミング等を、制御信号により設定するようになっている。すなわち、駆動制御部52は、探査波の送信タイミングおよび送信波形を制御するようになっている。
受信判定部53は、受信部20Bにおける受信波の受信結果に対応する受信信号に基づいて、ノイズ判定を行うように設けられている。ノイズ判定は、送受信器2における受信部20Bが受信した受信波が、同じ送受信器2における送信部20Aから送信された探査波の物体Bによる反射波であるか、これとは異なるノイズであるかの判定である。「ノイズ」には、非正規波も含まれる。すなわち、ノイズ判定は、受信波が正規波であるか否かの判定である。ノイズ判定およびこれに対応する受信判定部53の機能構成の詳細については後述する。
物体検知部54は、受信信号処理部4から取得した情報あるいは信号と、受信判定部53によるノイズ判定の結果とに基づいて、物体Bを検知するように設けられている。具体的には、物体検知部54は、受信波が正規波である場合に、距離算出部41から取得した測距距離に基づいて、物体Bの存在およびトランスデューサ21と物体Bとの距離を検知するようになっている。
(ノイズ判定)
以下、本実施形態におけるノイズ判定の原理、および、これに対応する受信判定部53の機能構成の詳細について説明する。
ここで、或るトランスデューサ21から距離Xを隔てた位置に存在する物体Bによる、当該トランスデューサ21から送信された探査波の反射波を、当該トランスデューサ21にて受信する例を想定する。かかる想定例における、受信波の電力である受信電力P
rは、下記式(1)により示される。受信電力P
rは、受信信号の振幅と所定の対応関係を有することで、当該振幅とほぼ同視することが可能な値である。
上記式(1)において、第1項「PtGs/4πX2」は、探査波のトランスデューサ21からの放射の際の拡散損失を示す。第2項「e-mX」は、探査波がトランスデューサ21から物体Bに向かう往路における、空気による吸収損失を示す。第3項「σ」は、物体Bにおける反射率である。第4項「e-mX」は、反射波が物体Bからトランスデューサ21に向かう復路における、空気による吸収損失を示す。第5項「As/4πX2」は、反射波の物体Bにおける反射すなわち再放射の際の拡散損失を示す。Ptは探査波の送信電力であり、Gsは送信時の指向性利得であり、mは吸収損失を示す吸収係数であり、Asはトランスデューサ21における開口面の有効面積と受信時の指向利得とで決まる受信感度特性である。
吸収係数mは、下記式(2)により示される。下記式(2)において、tは温度であり、fは周波数であり、Mは所定の定数である。
上記式(2)におけるkは、下記式(3)により示される。下記式(3)において、P0は飽和蒸気圧であり、Pは気圧であり、hは相対湿度である。
上記式(1)から明らかなように、探査波がトランスデューサ21から物体Bまで伝播し、物体Bにて反射し、物体Bからトランスデューサ21まで伝播する間に、超音波の電力が減衰する。また、上記式(1)~式(3)から明らかなように、かかる減衰には周波数依存性がある。すなわち、伝播経路が完全に一致していても、送信周波数が第一周波数f1の場合と第二周波数f2とで、減衰の度合いが異なる。
具体的には、送信周波数が第一周波数f1の場合の受信電力PrをPr(f1)とし、送信周波数が第二周波数f2の場合の受信電力PrをPr(f2)とすると、第一周波数f1<第二周波数f2の場合、Pr(f1)>Pr(f2)となる。図2は、f1=40kHz、f2=60kHzの場合の、距離Xの増加に伴う受信振幅Amの低下の様子を示す。図2において、受信振幅Amは、受信信号における振幅をデシベル表示したものである。また、実線はf1=40kHzの場合を示し、破線はf2=60kHzの場合を示す。
例えば、図3に示された周波数特性を有する探査波を送信した場合を想定する。図3において、横軸Tは時間あるいは時刻を示し、縦軸fは送信周波数を示す。具体的には、この場合、探査波の送信開始タイミングTSから周波数遷移タイミングTTまでの期間T1において、送信周波数が第一周波数f1に設定される。周波数遷移タイミングTTにて、送信周波数が第二周波数f2にステップ状に変化する。周波数遷移タイミングTTから送信終了タイミングTEまでの期間T2において、送信周波数が第二周波数f2に維持される。なお、後述するように、本発明は、かかる周波数特性には限定されない。
図4は、図3に示された周波数特性を有する探査波を送信した場合の、受信振幅Amの変化の様子を示す。図4において、縦軸は受信振幅Amを電圧表示したものであり、横軸は時間Tである。なお、図4においては、図示の簡略化、および、説明の便宜のため、距離X=3mの場合と、距離X=5mの場合とが、横並びで示されている。
図4において、実線は、第一周波数f1に対応する受信振幅Amを示す。これは、第一周波数f1に対応するバンドパスフィルタ42を通過した信号に基づいて振幅生成部43にて生成された振幅信号に相当するものである。点線は、第二周波数f2に対応する受信振幅Amを示す。これは、第二周波数f2に対応するバンドパスフィルタ42を通過した信号に基づいて振幅生成部43にて生成された振幅信号に相当するものである。
図4に示された結果から明らかなように、f1=40kHzの場合よりも、f2=60kHzの場合の方が、距離Xの増加による減衰がより顕著になる。なお、時刻Tuは、受信信号において、f1=40kHzからf2=60kHzへの切り替えが検出された時点である。f1=40kHzからf2=60kHzへの切り替えは、探査波および受信波における符号に相当し得る。よって、時刻Tuは、符号検出タイミングとも称され得る。
図5A~図5Cは、受信波が正規波である場合と、非正規波すなわちノイズである場合とにおける、受信電圧Vの周波数特性を、模式的に示す。図5A~図5Cにおいて、横軸Tは時間を示す。
受信波が正規波である場合、図5Aに示されているように、受信電圧Vの波形は、第一周波数f1から第二周波数f2への遷移を含む。また、第一周波数f1における受信電圧V1と、第二周波数f2における受信電圧V2との間には、測距距離に応じた所定の大小関係が成立する。測距距離は、例えば、受信電圧Vにおける、第一周波数f1から第二周波数f2への切り替えの検出時点(すなわち図4における時刻Tu)の、送信開始タイミングからの経過時間に基づいて算出され得る。
図5Bは、一定の送信周波数f0を有する、他車両からの送信波を、ノイズとして受信した場合を示す。この場合、受信電圧Vの波形は、第一周波数f1から第二周波数f2への遷移を含まない。したがって、この場合、受信波が、図3に示された周波数特性を有する探査波の反射波ではないことが明らかである。
一方、図5Cは、自車両に搭載されたものと同一構成の物体検知装置1を搭載した他車両からの送信波を、ノイズとして受信した場合を示す。この場合、受信電圧Vの波形は、図5Aに示された正規波と同様に、受信電圧Vの波形は、第一周波数f1から第二周波数f2への遷移を含む。よって、第一周波数f1から第二周波数f2への遷移を含むか否かという波形的特徴だけでは、ノイズと正規波との峻別は困難である。
しかしながら、通常、正規波とこのようなノイズとで、探査波の送信時刻と伝播距離とが一致することはない。すなわち、このようなノイズは、通常、正規波とは異なる送信時刻にて送信されており、正規波とは伝播距離あるいは伝播時間が異なる。多くの場合、ノイズの方が正規波よりも伝播距離が長くなる。また、例えば、自車両と他車両との対面走行中の混信ノイズは、通常、物体反射を介さず、自車両のトランスデューサ21に直接到達する。このため、混信ノイズにおいては、物体反射における反射率および再放射相当分、減衰が小さくなる。よって、混信ノイズは、遠くからのものでも、振幅が大きく検出できてしまう。
このため、ノイズにおいては、第一周波数f1における受信電圧V1と、第二周波数f2における受信電圧V2との間の大小関係が、測距距離に応じた所定の大小関係から大きくずれる。具体的には、例えば、ノイズの場合、図5Cに示されているように、図5Aに示された正規波の場合よりも、第二周波数f2における受信電圧V2の低下度合いが大きくなる。
送信周波数が第一周波数f1の場合の吸収係数mをm1とし、送信周波数が第二周波数f2の場合の吸収係数mをm2とする。また、送信周波数が第一周波数f1の場合の、送信電力PtをPt1、送信指向性GsをGs1、反射率σをσ1、受信感度特性AsをAs1とする。同様に、送信周波数が第二周波数f2の場合の、送信電力PtをPt2、反射率σをσ2、受信感度特性AsをAS2とする。これらの数値は、周波数が一定であれば定数となる。よって、Pt1/Pt2、Gs1/Gs2、σ1/σ2、AS1/AS2は、それぞれ定数となる。
したがって、上記式(1)より、
となる。Lは上記のP
t1/P
t2等をまとめた定数である。
この式の両辺をそれぞれデシベル変換すると、
となる。α=20・log
10e、β=10・log
10Lである。このように、送信周波数が第一周波数f1の場合と第二周波数f2の場合との受信信号の振幅の比をデシベル変換した値と、距離Xとの間には、線形関係が成立する。
図6は、正規波とノイズとの峻別を行うためのマップを模式化して示したものである。図6において、縦軸の受信振幅比RAは、受信電圧V1と受信電圧V2との比すなわちPr(f1)/Pr(f2)を、対数すなわちデシベルで表示したものである。
図6に示されているように、正規波である場合、受信振幅比RAは、上記式(5)に相当する実線の直線状プロットを中心とした、所定範囲内に収まる。下側閾値RAth1は、かかる所定範囲における下限を示し、上側閾値RAth2は、かかる所定範囲における上限を示す。
すなわち、測距距離Xが取得された場合に、かかる測距距離Xに対応する下側閾値RAth1と上側閾値RAth2との間に受信振幅比RAが収まっていれば、受信波が正規波であることとなる。これに対し、かかる測距距離Xに対応する下側閾値RAth1と上側閾値RAth2との間に受信振幅比RAが収まっていなければ、受信波がノイズであることとなる。
以上の検討結果に基づき、受信判定部53は、第一周波数f1から第二周波数f2への遷移を含むか否かという波形的特徴に基づいて、ノイズ判定を行うように構成されている。また、受信判定部53は、受信波の伝播時間または伝播距離に対応する物理量である伝播物理量と、受信信号の振幅との関係に基づいて、ノイズ判定を行うように構成されている。具体的には、受信判定部53は、距離取得部531と、振幅関係取得部532と、ノイズ判定部533とを有している。
伝播物理量取得部としての距離取得部531は、測距距離Xを取得するように設けられている。具体的には、距離取得部531は、距離算出部41にて算出された測距距離Xを、距離算出部41から取得するようになっている。伝播物理量としての測距距離Xは、伝播距離の半値であって、送信部20Aおよび受信部20Bから物体Bまでの距離である。
振幅関係取得部532は、振幅関係を取得するように設けられている。振幅関係は、距離取得部531にて取得された測距距離Xと、振幅信号との関係である。具体的には、本実施形態においては、振幅関係は、第一振幅V1と第二振幅V2との比に基づいて取得すなわち算出される、上述の受信振幅比RAである。すなわち、受信振幅比RAは、受信信号における、第一周波数f1に対応する第一部分の振幅である第一振幅V1と、第二周波数f2に対応する第二部分の振幅である第二振幅V2との関係である。また、振幅関係取得部532は、振幅関係を取得するにあたって、温度取得部51にて取得した環境温度により補正した、受信信号の振幅を用いるようになっている。
ノイズ判定部533は、受信波がノイズであるか探査波の物体Bによる反射波としての正規波であるかのノイズ判定を行うように設けられている。本実施形態においては、ノイズ判定部533は、受信波における所定の周波数遷移に対応する符号の検出結果に基づいて、ノイズ判定を行うようになっている。具体的には、ノイズ判定部533は、受信波が第一周波数f1から第二周波数f2への遷移という波形的特徴を含まない場合、当該受信波がノイズであると判定するようになっている。また、ノイズ判定部533は、伝播物理量と振幅関係とに基づいて、受信波が正規波であるかノイズであるかを判定するようになっている。具体的には、ノイズ判定部533は、距離取得部531にて取得された測距距離Xに基づいて、下側閾値RAth1と上側閾値RAth2とを取得するようになっている。また、ノイズ判定部533は、振幅関係取得部532にて取得された受信振幅比RAが下側閾値RAth1と上側閾値RAth2との間に収まっているか否かに応じて、受信波が正規波であるかノイズであるかを判定するようになっている。
ここで、上記のように、振幅関係取得部532により取得された振幅関係すなわち受信振幅比RAは、温度取得部51にて取得した環境温度により補正した振幅に基づいて取得されたものである。したがって、受信判定部53すなわちノイズ判定部533は、温度取得部51にて取得した環境温度により補正した振幅に基づいて、ノイズ判定を行うようになっている。
(動作概要)
本実施形態に係る物体検知装置1、ならびに、これにより実行される処理および当該処理を実現するためのコンピュータ指令を含む物体検知プログラムを、以下単に「本実施形態」と称する。以下、本実施形態による動作の概要について、本実施形態により奏される効果とともに、各図面を参照しつつ説明する。
所定の物体検知条件が成立すると、物体検知装置1は、物体検知動作を開始する。物体検知条件は、例えば、自車両の走行速度が所定範囲内であること、自車両のシフトポジションが後退を含む走行ポジションであること、等を含む。物体検知条件が不成立となると、物体検知装置1は、物体検知動作を終了する。
物体検知動作中、駆動制御部52は、所定周期で送信開始タイミングTSの到来を判定する。所定周期は、例えば、数百ミリ秒周期である。送信開始タイミングTSの到来判定は、制御部5に設けられたタイマ等の計時手段を用いて実行される。
送信開始タイミングTSが到来すると、駆動制御部52は、制御信号を駆動信号生成部3に向けて出力する。これにより、送信処理が実行される。駆動信号生成部3は、制御信号が入力されると、駆動信号を生成して送受信器2すなわち送信部20Aに向けて出力する。すると、送信部20Aは、超音波である探査波を、自車両の外部の空間に向けて送信する。
具体的には、送信回路22は、入力された駆動信号に基づいて、トランスデューサ21を駆動する。すると、トランスデューサ21は、駆動周波数に対応する周波数の超音波である探査波を送信する。このようにして、物体検知装置1は、物体検知動作中、探査波を所定周期で繰り返し送信する。このため、上記の所定周期は「送信周期」とも称される。
駆動信号の周波数である駆動周波数は、送信開始タイミングTSから周波数遷移タイミングTTまでの期間T1にて第一周波数f1であり、周波数遷移タイミングTTにて第二周波数f2にステップ状に変化し、周波数遷移タイミングTTから送信終了タイミングTEまでの期間T2にて第二周波数f2である。本実施形態においては、送信処理において、物体検知装置1すなわち制御部5は、第一周波数f1に対応する第一共振周波数fr1と第二周波数f2に対応する第二共振周波数fr2とを有する送信部20Aを用いて、探査波を送信する。
送信終了タイミングTEが到来した後、所定の残響発生期間が経過すると、送受信器2は、交流電圧信号である受信信号を出力可能となる。物体検知動作中における所定の受信可能期間にて、送受信器2は、受信動作を実行する。受信可能期間は、送受信一体型である本実施形態の構成においては、今回の送信処理における送信終了タイミングTEとその次の回の送信処理における送信開始タイミングTSとの間の期間のうち、残響等の影響による不感帯を除いた期間である。
送受信器2における受信部20Bすなわちトランスデューサ21は、受信波を受信する。受信波が正規波である場合、かかる受信波は、当該送受信器2における送信部20Aから送信された探査波の物体Bによる反射波を含む。受信回路23は、受信可能期間にて、受信波の振幅および周波数に応じた交流電圧信号である受信信号を出力する。受信信号処理部4は、受信信号に対して各種の信号処理を施すことで制御部5における物体検知動作に必要な情報あるいは信号を生成して、かかる信号を制御部5に出力する。
具体的には、振幅生成部40は、送受信器2から出力された受信信号における振幅を取得する。距離算出部41は、TOF、および、振幅生成部40にて取得した振幅に基づいて、測距距離Xを算出する。具体的には、例えば、振幅生成部40は、送受信器2から出力された受信信号から振幅信号を生成する。距離取得部41は、振幅のピーク検出により波高値およびTOFを取得し、取得した波高値およびTOFに基づいて測距距離Xを算出する。なお、測距距離Xの算出方法は、上記の具体例に限定されない。距離算出部41にて算出された測距距離Xは、制御部5に送信される。
また、受信信号は、バンドパスフィルタ42および振幅生成部43における処理を経て、制御部5に送信される。具体的には、第一周波数f1に対応するバンドパスフィルタ42は、受信信号における、第一周波数f1近辺の周波数帯域の信号を選択的に通過させる。第一周波数f1に対応する振幅生成部43は、第一周波数f1に対応するバンドパスフィルタ42を通過した信号に基づいて振幅信号を生成する。第二周波数f2に対応するバンドパスフィルタ42は、受信信号における、第二周波数f2近辺の周波数帯域の信号を選択的に通過させる。第二周波数f2に対応する振幅生成部43は、第二周波数f2に対応するバンドパスフィルタ42を通過した信号に基づいて振幅信号を生成する。振幅生成部43にて生成された振幅信号は、制御部5に送信される。
制御部5において、受信判定部53は、受信判定処理を実行する。受信判定処理は、ノイズ判定処理を含む。ノイズ判定は、受信部20Bにおける受信波の受信結果に対応する受信信号に基づいて、当該受信波が正規波であるかノイズであるかを判定する処理である。また、受信判定処理は、ノイズ判定処理に加えて、温度取得処理と、伝播物理量取得処理と、温度補正処理と、振幅関係取得処理とを含む。
温度取得処理にて、温度取得部51は、環境温度を取得する。伝播物理量取得処理にて、距離取得部531は、距離算出部41にて算出された伝播物理量としての測距距離Xを、距離算出部41から取得する。振幅関係取得部532は、振幅生成部43にて生成された振幅信号を、振幅生成部43から取得する。
温度補正処理にて、振幅関係取得部532は、取得した振幅信号を、温度取得部51にて取得した環境温度により補正する。具体的には、例えば、取得した環境温度をパラメータとする計算式、ルックアップテーブル、またはマップを用いて取得される補正値を用いて、振幅信号を補正することが可能である。これらの計算式、ルックアップテーブル、またはマップは、上記式(1)~式(3)に基づいて、算出あるいは適合試験により作成され得る。
振幅関係取得処理にて、振幅関係取得部532は、距離取得部531にて取得された測距距離Xと振幅信号との関係である、振幅関係を取得する。具体的には、振幅関係取得部532は、受信信号における、第一周波数f1に対応する第一部分の振幅である第一振幅V1と第二周波数f2に対応する第二部分の振幅である第二振幅V2との関係である、受信振幅比RAを取得する。
ノイズ判定処理にて、ノイズ判定部533は、第一周波数f1から第二周波数f2への遷移の検出タイミングである符号検出タイミングTuの有無と、伝播物理量としての測距距離Xと、振幅関係としての受信振幅比RAとに基づいて、受信波が正規波であるかノイズであるかを判定する。なお、上記の通り、振幅関係取得処理において、振幅信号には温度補正処理がなされている。したがって、ノイズ判定部533は、温度取得処理にて取得した環境温度により補正した、受信信号の振幅に基づいて、ノイズ判定処理を行う。
具体的には、ノイズ判定部533は、受信波が第一周波数f1から第二周波数f2への遷移という波形的特徴すなわち符号を含まない場合、当該受信波がノイズであると判定する。また、ノイズ判定部533は、測距距離Xに基づいて、下側閾値RAth1と上側閾値RAth2とを、計算式、ルックアップテーブル、またはマップから取得する。これらは、上式(1)~(3)に基づいて、算出あるいは適合試験により作成され得る。図6に下側閾値RAth1と上側閾値RAth2とを示す。また、ノイズ判定部533は、受信振幅比RAが下側閾値RAth1と上側閾値RAth2との間に収まっているか否かに応じて、受信波が正規波であるかノイズであるかを判定する。
物体検知部54は、ノイズ判定の結果に基づいて、物体Bを検知する。すなわち、物体検知部54は、受信波が正規波である場合、受信波の受信結果に関する情報(例えば測距距離X等)を、物体Bに対応する情報として、所定の記憶領域(例えばRAM)に時系列で記憶する。一方、物体検知部54は、受信波がノイズである場合、所定のノイズ処理を実行する。具体的には、例えば、受信波の受信結果に関する情報を、ノイズフラグを付与しつつ、上記の記憶領域に時系列で記憶する。あるいは、例えば、受信波の受信結果に関する情報を、上記の記憶領域には記憶せず消去する。
このように、本実施形態においては、受信判定部53は、複数の送信周波数を用いた場合の各周波数における伝播距離に対する振幅減衰度合いの相違を用いて、正規波とノイズとを峻別する。したがって、本実施形態によれば、他車両から送信された超音波がノイズとして受信波に混入した場合に、これをノイズと精度よく判定することが可能となる。また、ノイズ判定において、受信波における所定の周波数遷移に対応する符号の検出結果と、複数の送信周波数を用いた場合の各周波数における伝播距離に対する振幅減衰度合いの相違との双方が考慮される。すなわち、例えば、ノイズ判定部533は、受信波が第一周波数f1から第二周波数f2への遷移という波形的特徴を含まない場合、当該受信波がノイズであると判定することができる。また、ノイズ判定部533は、受信波が所定の周波数遷移という波形的特徴を含む場合に、伝播物理量と振幅関係とに基づいて、当該受信波が正規波であるかノイズであるかを判定することができる。したがって、より確実な正規波の判定が可能となる。
本実施形態のように、複数の送信周波数を用いる場合、広帯域の特性を有するトランスデューサ21を用いることが一般的である。この点、複数の共振周波数を有する複共振マイクロフォンとしての構成を有するトランスデューサ21を用いると、第一周波数f1と第二周波数f2との差を可能な限り大きくすることで判定性能を向上させることが可能となる。
上記式(1)~式(3)から明らかなように、反射波の振幅は、温度tの影響を受ける。そこで、本実施形態においては、環境温度により補正した、受信信号の振幅に基づいて、ノイズ判定を行う。したがって、本実施形態によれば、良好なノイズ判定精度が実現され得る。
(動作例)
以下、本実施形態における具体的な動作あるいは処理の一例について、図7に示されたフローチャートを用いて説明する。なお、図面中において、「ステップ」を単に「S」と略記する。
物体検知装置1、すなわち、制御部5におけるCPUは、所定以上の強度すなわち振幅の受信波の受信を検知すると、図7に示された一連の処理を開始する。ステップ701にて、CPUは、距離算出部41から測距距離Xを取得する。ステップ702にて、CPUは、振幅生成部43から振幅信号を取得する。ステップ703にて、CPUは、取得した振幅信号に対して温度補正を行うとともに、かかる補正結果を用いて振幅関係すなわち受信振幅比RAを取得する。
ステップ704にて、CPUは、ノイズ判定処理を実行する。すなわち、CPUは、受信振幅比RAが下側閾値RAth1と上側閾値RAth2との間に収まっている場合、受信波が正規波であると判定する。一方、CPUは、受信振幅比RAが下側閾値RAth1と上側閾値RAth2との間に収まっていない場合、受信波がノイズであると判定する。
受信波が正規波である場合(すなわちステップ704=NO)、CPUは、ステップ705にて物体検知処理を実行する。これに対し、受信波がノイズである場合(すなわちステップ704=YES)、CPUは、ステップ706にてノイズ処理を実行する。
(第二実施形態)
以下、第二実施形態について、図8を参照しつつ説明する。なお、以下の第二実施形態の説明においては、主として、上記第一実施形態と異なる部分について説明する。また、第一実施形態と第二実施形態とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の第二実施形態の説明において、第一実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記第一実施形態における説明が適宜援用され得る。後述の第三実施形態においても同様である。
本実施形態においては、受信判定部53は、方位取得部534をさらに備えている。方位取得部534は、自車両における搭載位置が互いに異なる複数の受信部20Bにおける受信結果に基づいて、受信波の受信方位を取得するように設けられている。そして、受信判定部53は、方位取得部534にて取得した受信方位により補正した、受信信号の振幅に基づいて、ノイズ判定処理を行うようになっている。
上記式(1)~式(3)から明らかなように、反射波の振幅は、指向性の影響を受ける。具体的には、指向性は周波数に応じて異なるため、送信周波数が第一周波数f1の場合の指向性利得をGs1とし、送信周波数が第二周波数f2の場合の指向性利得をGs2とする。
また、送信周波数が第一周波数f1の場合の受信感度特性をAs1とし、送信周波数が第二周波数f2の場合の受信感度特性をAs2とする。また、送信周波数が第一周波数f1の場合の、受信電力PtをPt1、反射率σをσ1とする。同様に、送信周波数が第二周波数f2の受信電力PtをPt2、反射率σをσ2とする。これらの数値は、周波数が一定であれば定数となる。よって、Pt1/Pt2、σ1/σ2、は、それぞれ定数となる。
すると、上記式(1)より、
となる。
上記式(6)において、Mは、上記のP
t1/P
t2等をまとめた定数である。
この式の両辺をそれぞれデシベル変換すると、
となる。上記式(7)において、α=20・log
10e、β=10・log
10Mである。すなわち、図6に示されている、実線のプロット、および、上側閾値RAth2と上側閾値RAth2とによって囲まれた判定窓が、方位に因って図中上下にオフセットする。
そこで、本実施形態においては、自車両における搭載位置が互いに異なる複数の受信部20Bにおける受信結果に基づいて、受信波の受信方位を取得する。具体的には、受信方位は、例えば、車幅方向に隣接する一対の超音波センサユニット6すなわち送受信器2における受信波を用いた三角測量により、取得すなわち算出可能である。
また、本実施形態においては、かかる方位取得処理にて取得した送信および受信方位により補正した、受信信号の振幅に基づいて、ノイズ判定を行う。具体的には、例えば、取得した受信方位をパラメータとする計算式、ルックアップテーブル、またはマップを用いて取得される補正値を用いて、振幅信号を補正することが可能である。これらの計算式、ルックアップテーブル、またはマップは、上記式(1)~式(3)に基づいて、算出あるいは適合試験により作成され得る。したがって、本実施形態によれば、良好なノイズ判定精度が実現され得る。
(動作例)
以下、本実施形態における具体的な動作あるいは処理の一例について、図9に示されたフローチャートを用いて説明する。物体検知装置1、すなわち、制御部5におけるCPUは、所定以上の強度すなわち振幅の受信波の受信を検知すると、図9に示された一連の処理を開始する。
ステップ901にて、CPUは、複数の超音波センサユニット6の各々における距離算出部41から、測距距離Xを取得する。ステップ902にて、CPUは、取得した測距距離Xと、複数の超音波センサユニット6の各々における位置関係とに基づき、三角測量により受信方位を取得する。ステップ903にて、CPUは、複数の超音波センサユニット6の各々における振幅生成部43から、振幅信号を取得する。
ステップ904にて、CPUは、取得した振幅信号を、受信方位により補正する。なお、このとき、CPUは、温度補正もあわせて行う。ステップ905にて、CPUは、温度補正および方位補正の結果を用いて、振幅関係すなわち受信振幅比RAを取得する。
ステップ906にて、CPUは、ノイズ判定処理を実行する。受信波が正規波である場合(すなわちステップ906=NO)、CPUは、ステップ907にて物体検知処理を実行する。これに対し、受信波がノイズである場合(すなわちステップ906=YES)、CPUは、ステップ908にてノイズ処理を実行する。
(第三実施形態)
以下、第三実施形態について、図10および図11を参照しつつ説明する。
他車両からの送信波をノイズとして受信する場合、かかるノイズは、物体Bによる反射を介さない直接伝播波であるのが通常である。したがって、上記式(1)との対比のため、かかる直接伝播波の伝播距離を2Xとすると、かかる直接伝播波の電力である受信電力P
rは、下記式(8)により示される。
上記式(1)と式(8)との対比から明らかなように、距離に対する減衰度合いは、正規波と直接伝播波ノイズとで異なる。具体的には、正規波の場合、受信電力Prすなわち受信振幅は、「距離Xの4乗とe2mXとの積」に反比例する。これに対し、直接伝播波ノイズの場合、受信電力Prすなわち受信振幅は、「距離Xの2乗とe2mXとの積」に反比例する。図10は、正規波および直接伝播波ノイズにおける、距離Xの増加に伴う受信振幅Amの低下の様子を示す。図10において、破線は直接伝播波ノイズの場合を示し、実線は正規波の場合を示す。
図11は、本実施形態に係る物体検知装置1の概略構成を示す。本実施形態においては、探査波は、単一周波数でもよい。この場合、図11に示されているように、受信信号処理部4において、図1等に示されているバンドパスフィルタ42は、省略され得る。また、受信信号処理部4には、距離算出部41と、受信信号に基づいて振幅信号を生成する振幅生成部43とが設けられている。
本実施形態においては、受信判定部53は、伝播距離の半値である測距距離Xと、受信信号の振幅とが、所定の関係を満たしているか否かに基づいて、ノイズ判定を行うように設けられている。具体的には、振幅関係取得部532は、測距距離Xとこれに対応する振幅信号との関係が、図10にて実線で示した関係、すなわち、上記式(1)のような「距離Xの4乗とe2mXとの積」に反比例する関係を満たすか否かを検定するようになっている。そして、ノイズ判定部533は、かかる検定結果に基づいて、ノイズ判定処理を実行するようになっている。
本実施形態においては、測距距離Xと受信信号の振幅とが所定の関係を満たしている場合に、当該受信信号が正規波であると判定する。一方、測距距離Xと受信信号の振幅とが所定の関係を満たしていない場合に、当該受信信号がノイズであると判定する。したがって、本実施形態によれば、良好なノイズ判定精度が実現され得る。
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。故に、上記実施形態に対しては、適宜変更が可能である。以下、代表的な変形例について説明する。以下の変形例の説明においては、上記実施形態との相違点を主として説明する。また、上記実施形態と変形例とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の変形例の説明において、上記実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記実施形態における説明が適宜援用され得る。
本発明は、上記実施形態にて示された具体的な装置構成に限定されない。例えば、物体検知装置1は、車載構成、すなわち、車両Cに搭載される構成に限定されない。よって、具体的には、例えば、物体検知装置1は、船舶あるいは飛行体にも搭載され得る。
送受信器2は、いわゆる送受信一体型に限定されない。すなわち、送受信器2は、送信部20Aを備えた送信器と、受信部20Bを備えた受信器とが互いに別体として設けられた構成を有していてもよい。この場合、測距距離Xは、送信部20Aまたは受信部20Bから物体Bまでの距離である。
トランスデューサ21に備えられる電気-機械エネルギー変換素子は、圧電素子に限定されない。すなわち、例えば、かかる電気-機械エネルギー変換素子として、容量型素子が用いられ得る。
受信信号処理部4において、受信信号の高速フーリエ変換により得られる周波数スペクトラムから、第一周波数f1および第二周波数f2に対応する振幅を取得してもよい。この場合、バンドパスフィルタ42は省略される。すなわち、受信信号における、複数の周波数のそれぞれに対応する振幅の生成は、バンドパスフィルタ42とこれに対応する振幅生成部43との組み合わせによるものに限定されない。
駆動信号生成部3および受信信号処理部4のうちの、全部または一部は、制御部5に設けられていてもよい。すなわち、例えば、超音波センサユニット6は、送受信器2のみを備えていてもよい。あるいは、制御部5のうちの全部または一部は、超音波センサユニット6に設けられていてもよい。
本実施形態においては、上記の各機能構成および方法は、専用コンピュータにより実現されている。かかる専用コンピュータは、コンピュータプログラムにより具体化された一つあるいは複数の機能を実行するようにプログラムされた、プロセッサおよびメモリを構成することによって提供される。しかしながら、本発明は、かかる態様に限定されない。すなわち、制御部5は、CPU等を備えた周知のマイクロコンピュータに限定されない。
具体的には、例えば、上記の各機能構成および方法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、上記の各機能構成および方法は、一つあるいは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。すなわち、制御部5の全部または一部は、上記のような機能を実現可能に構成されたデジタル回路、例えばゲートアレイ等のASICあるいはFPGAであってもよい。ASICはApplication Specific Integrated Circuitの略である。FPGAはField Programmable Gate Arrayの略である。
また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移的実体的記憶媒体に記憶されていてもよい。すなわち、本発明に係る装置あるいは方法は、上記の各機能あるいは方法を実現するための手順を含むコンピュータプログラム、あるいは、当該プログラムを記憶した非遷移的実体的記憶媒体としても表現可能である。
上記実施形態において、制御部5には、本発明の特徴を構成する機能構成要素が設けられている。このため、本発明に係る装置は、物体検知制御装置としての制御部5であるものと評価することが可能である。しかしながら、本発明は、かかる態様に限定されない。すなわち、例えば、本発明に係る装置は、送受信器2等を含んだ物体検知装置1であるものと評価することも可能である。
第一実施形態および/または第二実施形態と、第三実施形態とは、併用され得る。すなわち、例えば、第一実施形態および/または第二実施形態における振幅関係取得部532は、複数の振幅生成部43のうちの少なくともいずれか1つの出力に基づく、受信信号の振幅が測距距離Xの4乗に反比例しているか否かの検定も、併せて行ってもよい。
この場合、ノイズ判定部533は、受信振幅比RAが下側閾値RAth1と上側閾値RAth2との間に収まっているか否かの第一判定結果と、測距距離Xと受信信号の振幅とが所定の関係を満たしているか否かの第二判定結果とを用いて、ノイズ判定処理を実行する。
具体的には、例えば、第一判定結果が「正規波」であり、第二判定結果が「正規波」である場合、ノイズ判定部533は、受信波が正規波であると判定する。同様に、第一判定結果が「ノイズ」であり、第二判定結果が「ノイズ」である場合、ノイズ判定部533は、受信波が正規波であると判定する。
これに対し、第一判定結果と第二判定結果とが一致しない場合、ノイズ判定部533は、例えば、第一判定結果の信頼度P1と第二判定結果の信頼度P2とに基づいて、受信波が正規波であるかノイズであるかを判定する。すなわち、ノイズ判定部533は、第一判定結果の信頼度P1と第二判定結果の信頼度P2とを、算出あるいは決定する。そして、ノイズ判定部533は、第一判定結果と、第一判定結果の信頼度P1と、第二判定結果と、第二判定結果の信頼度P2とに基づいて、受信波が正規波であるかノイズであるかを判定する。
具体的には、例えば、ノイズ判定部533は、第一判定結果の信頼度P1と第二判定結果の信頼度P2とを、ともに最低値0%~最高値100%として、算出あるいは決定する。そして、ノイズ判定部533は、第一判定結果の信頼度P1と第二判定結果の信頼度P2とうちの、信頼度が高い方の判定結果を採用する。なお、第一判定結果の信頼度P1と第二判定結果の信頼度P2とに基づくノイズ判定は、上記の具体例に限定されない。
第一判定結果の信頼度P1は、例えば、受信波における強度および/またはSN比等の受信特性に基づいて算出することが可能である。第二判定結果の信頼度P2は、例えば、上記式(1)に示された関係からの誤差の大きさに基づいて算出することが可能である。あるいは、第二判定結果の信頼度P2は、例えば、第一周波数f1の場合と第二周波数f2とのうちの少なくともいずれか一方にて、受信信号の振幅が測距距離Xの4乗に反比例する関係が成立するか否かに基づいて決定され得る。なお、第一判定結果の信頼度P1、および、第二判定結果の信頼度P2の、算出あるいは決定の方法も、上記の具体例に限定されない。具体的には、例えば、第一判定結果の信頼度P1は、上記式(5)の関係からの誤差の大きさに基づいて算出することも可能である。
本発明は、上記実施形態にて示された具体的な動作態様および処理態様に限定されない。具体的には、例えば、探査波の周波数特性は、図3に示された具体例に限定されない。すなわち、例えば、第一周波数f1>第二周波数f2であってもよいし、第一周波数f1<第二周波数f2であってもよい。また、探査波は、第一周波数f1~第N周波数fNを有していてもよい。Nは3以上の整数である。さらに、第K周波数fKと第(K+1)周波数fK+1との切り替え部分は、図3に示されているようなステップ状に限定されない。Kは1以上の整数である。
周知の通り、「比」は、対数の差と数学的に等価である。また、条件によっては、「比」と「偏差」との間で、結果に顕著な差が生じないこともあり得る。このため、本発明における「振幅関係」は、振幅比に限定されない。
図6における横軸は、測距距離Xに代えて、TOF/2あるいはTOFであってもよい。すなわち、本発明における「伝播物理量」は、距離であってもよいし、時間であってもよい。また、取得した温度に基づいて算出した音速の変化によりTOFを補正することで、ノイズ判定の精度がよりいっそう向上する。
受信判定部53すなわちノイズ判定部533は、受信波の振幅が閾値を超えた時間、受信波の振幅のピーク時間、および、受信波における周波数遷移に対応する符号の検出時間のいずれか1つを伝播時間とし、伝播時間を基準とした規定の時間範囲内での伝播物理量と受信信号の振幅とに基づいて、ノイズ判定を行ってもよい。すなわち、例えば、ノイズ判定部533は、振幅のピーク検出時刻を基準とした所定の時間範囲内にて、ノイズ判定を行ってもよい。あるいは、例えば、ノイズ判定部533は、受信信号における周波数遷移部である符号検出タイミングTuを検出し、検出した符号検出タイミングTuを基準とした所定の時間範囲内にて、ノイズ判定を行ってもよい。これにより、ノイズ判定の精度が向上する。
上記第三実施形態に関し、正規波に対応する式(1)と、直接伝播波ノイズに対応する式(8)とで、伝播距離「2X」による吸収損失e-2mXは共通である。よって、かかる吸収損失e-2mXの影響を除外できれば、正規波と直接伝播波ノイズとの違いは、強度あるいは振幅が測距距離Xの4乗に反比例するか測距距離Xの2乗に反比例するかの違いとなる。すなわち、測距距離Xと受信信号の振幅とが所定の関係を満たすか否かに基づくノイズ判定における「所定の関係」として、「測距距離をXとした場合に振幅が「Xの4乗とe2mXとの積」に反比例する関係」に代えて、「振幅を吸収損失e-2mXで補正した値が測距距離Xの4乗に反比例する関係」を用いてもよい。
このような観点から、上記第三実施形態は、以下のように変容され得る。すなわち、振幅生成部43または振幅関係取得部532は、伝播距離に対応する吸収損失を補償する補正値で振幅信号を補正した、補正後振幅信号を生成する。また、振幅関係取得部532は、補正後振幅信号と測距距離Xとの関係が、測距距離Xの4乗に反比例する関係であるか否かを検定する。そして、ノイズ判定部533は、かかる検定結果に基づいて、ノイズ判定処理を実行する。かかる態様によっても、上記第三実施形態と同様の効果が奏され得る。
「取得」、「検出」、「算出」、「演算」、「推定」等の、互いに概念が類似する表現同士は、技術的矛盾が生じない限り、互いに入れ替え可能である。また、各判定処理における不等号は、等号付きであってもよいし、等号無しであってもよい。すなわち、例えば、「閾値以上」は、「閾値を超える」に変更され得る。同様に、「閾値以下」は、「閾値未満」に変更され得る。
上記実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に本発明が限定されることはない。同様に、構成要素等の形状、方向、位置関係等が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に特定の形状、方向、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、方向、位置関係等に本発明が限定されることはない。
変形例も、上記の例示に限定されない。また、複数の変形例が、互いに組み合わされ得る。更に、上記実施形態の全部または一部と、変形例の全部または一部とが、互いに組み合わされ得る。