[プリンターの全体構成]
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。まず、本発明に係る液体供給ユニット乃至は液体噴射装置が適用されるインクジェット式プリンターについて説明する。図1は、実施形態に係るインクジェット式プリンター1の外観を示す斜視図、図2は、図1のII-II線方向の断面図、図3は、アウターカバー102を取り外した状態の、プリンター1の正面図である。なお、図1~図3、後出の図において、前後、左右、上下の方向表示を付しているが、これは説明の便宜のためであり、何ら方向の限定を企図したものではない。
プリンター1は、各種サイズの紙シートや樹脂シート、或いは布生地などの各種ワークWに、インクジェット方式で印字、印画などの印刷処理を行うプリンターであって、とりわけ大サイズ且つ長尺のワークに対する印刷処理に好適なプリンターである。プリンター1は、キャスター付きのベースフレーム101と、このベースフレーム101に載置され、前記印刷処理を実行する装置本体11とを含む。
装置本体11は、ワーク搬送路12、搬送ローラー13、ピンチローラーユニット14及びキャリッジ2を含む。ワーク搬送路12は、印刷処理の施されるワークWを、後方側から装置本体11へ搬入し、前方側から搬出するための、前後方向に延びる搬送路である。搬送ローラー13は、左右方向に延び、ワーク搬送路12のワークWを間欠送りする駆動力を発生するローラーである。ピンチローラーユニット14は、搬送ローラー13に対して上方から対向するように配置され、搬送ローラー13と搬送ニップを形成するピンチローラーを備えている。ピンチローラーユニット14は、左右方向に所定間隔を置いて複数個配置されている。
キャリッジ2は、ワークWに対して印刷処理を行うユニットが搭載され、ベースフレーム101上において左右方向に往復移動が可能な移動体である。ベースフレーム101の後方側には、キャリッジ2の前記往復移動をガイドするガイドレールを備えたキャリッジガイド15が、左右方向に延在するように立設されている。キャリッジガイド15には、タイミングベルト16が左右方向に周回移動が可能に組み付けられている。キャリッジ2は、タイミングベルト16に対する固定部を有し、タイミングベルト16の正転又は逆転の前記周回移動に伴って、前記ガイドレールに案内されつつ、左右方向に移動する。
前記印刷処理は、搬送ローラー13及びピンチローラーユニット14がワークWを間欠送りし、ワークWの停止中にキャリッジ2が左右方向に移動して当該ワークWを印画走査するという態様で実行される。なお、ワーク搬送路12において、キャリッジ2の通過経路の下方には、ワークWを吸引する機能が付設されたプラテン121(図2)が配置されている。前記印刷処理時には、ワークWがプラテン121に吸着された状態で、キャリッジ2が印画走査を実行する。
装置本体11は、アウターカバー102によって覆われている。アウターカバー102の右方側の領域には、サイドステーション103が配置されている。サイドステーション103の内部には、印刷処理用のインク(所定の液体)を貯留するインクカートリッジIC(図5、図6)を保持する、不動のインクカートリッジ棚17が収容されている。
サイドステーション103の前方部分は、キャリッジ2の退避空間となるキャリッジ退避エリア104である。図3に示すように、ベースフレーム101には、ワーク搬送路12に応じた間隔を左右方向に置いて、左フレーム105及び右フレーム106が立設されている。これら左右フレーム105、106間が、前記印刷処理が実行可能な印刷エリアとされている。キャリッジガイド15は、前記印刷エリアよりも長い左右幅を有しており、キャリッジ2は前記印刷エリアの右外側まで移動可能である。前記印刷処理が実行されないとき、キャリッジ2はキャリッジ退避エリア104に退避する。また、後述する加圧パージ処理も、このキャリッジ退避エリア104において実行される。
ベースフレーム101の後方側には、印刷処理対象のワークWの巻回体である送り出しロールWaを収容する送り出し部107が備えられている。また、ベースフレーム101の前方側には、印刷処理後のワークWの巻回体である巻き取りロールWbを収容する巻き取り部108が備えられている。巻き取り部108は、巻き取りロールWbの巻回軸を回転駆動する図略の駆動源を備え、テンションローラー109で所定の張力をワークWに付与しつつ、当該ワークWを巻き取る。
[キャリッジの構成]
図4は、キャリッジ2の全体斜視図である。キャリッジ2には、ワークWに対してインク(液体)を噴射するヘッドユニット21(液体噴射ヘッド)と、インクカートリッジICからヘッドユニット21へインクを供給する液体供給ユニット3とが搭載されている。図4では、2台のヘッドユニット21と、8台の液体供給ユニット3とがキャリッジ2に搭載されている例を示している。すなわち、1台のヘッドユニット21当たり、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの各インクを供給するために、4台の液体供給ユニット3が装備されている。なお、各液体供給ユニット3に異なる色のインクが充填され、2つのヘッドユニット21から最大8色のインクが噴射される態様でもよい。
キャリッジ2は、ヘッドユニット21及びヘッドユニット21を保持するキャリッジフレーム20を備える。キャリッジフレーム20は、最も下方に位置する下段フレーム201と、下段フレーム201の上方に間隔を置いて配置された上段フレーム202と、上段フレーム202の上面に組み付けられたラック203と、上段フレーム202の後方面に取り付けられた背面フレーム204とを含む。下段フレーム201と上段フレーム202とは、上下方向に延びる連結支柱205によって連結されている。背面フレーム204には、図略のボールねじ機構が搭載されており、そのボールねじで駆動されるナット部が、下段フレーム201に取り付けられている。また、背面フレーム204には、上下方向に延びるガイド支柱206が備えられている。前記ボールねじ機構の駆動により、下段フレーム201及び上段フレーム202の連結体は、ガイド支柱206でガイドされつつ、上下方向へ移動することができる。つまり、キャリッジ2の本体部分は、背面フレーム204に対して上下方向に移動可能である。
下段フレーム201には、ヘッドユニット21が搭載されている。キャリッジ2の本体部分は上記の通り上下方向に移動可能であるので、ワークWに対するヘッドユニット21の上下方向の高さ位置が調整可能である。上段フレーム202には、液体供給ユニット3が搭載されている。8台の液体供給ユニット3は、ラック203内において左右方向に整列された態様で、上段フレーム202に支持されている。背面フレーム204には、キャリッジガイド15の前記ガイドレールでガイドされる被ガイド部や、タイミングベルト16への固定部等が具備されている。
図5は、一つの液体供給ユニット3及びヘッドユニット21を示す斜視図である。液体供給ユニット3は、タンク部31及びポンプ部32を備えた本体部30と、本体部30のインク供給方向(液体供給方向)の上流側に配置される上流管33(第1供給路の一部)と、本体部30の下流側に配置される下流管34(第2供給路の一部)と、バイパス管35(バイパス供給路)とを備える。タンク部31は、負圧環境下でヘッドユニット21に供給されるインクを一時的に貯留する空間を形成する領域である。ポンプ部32は、前記負圧環境の形成のための減圧処理、並びにヘッドユニット21(インク吐出部22)の清浄化のための加圧パージ処理の際に稼働されるポンプ9(加圧機構;図6)を収容する領域である。
上流管33は、タンク部31とインクカートリッジIC(液体収容容器)とを連通する供給管である。上流管33の上流端331は、インクカートリッジICから延出されたチューブ(図略)の終端部に接続され、下流端332はタンク部31の入口部分に接続されている。下流管34は、タンク部31とヘッドユニット21とを連通する供給管である。下流管34の上流端341は、タンク部31の出口部分に接続され、下流端342はヘッドユニット21に接続されている。バイパス管35は、タンク部31の前記負圧環境(後述の第2室42)を経由せずに、インクを下流管34に送るための管路である。
ヘッドユニット21は、インク吐出部22、制御ユニット部23、エンドチューブ24及び排出チューブ25を含む。インク吐出部22は、インク滴をワークWに向けて吐出するノズル部分である。インク吐出部22におけるインク滴の吐出方式としては、ピエゾ素子を用いたピエゾ方式、加熱素子を用いたサーマル方式などを適用することができる。制御ユニット部23は、インク吐出部22が備える前記ピエゾ素子又は前記加熱素子を制御する制御基板を備え、インク吐出部22からのインク滴の吐出動作を制御する。
エンドチューブ24は、下流管34の下流端342とインク吐出部22とを繋ぐチューブである。下流端342はキャップ式ソケットであり、エンドチューブ24の上端嵌合部にワンタッチ装着が可能である。排出チューブ25は、初期使用時に液体供給ユニット3に封入されている保存液を排出するためのチューブである。初期使用時、下流管34の下流端342がエンドチューブ24の上端嵌合部に装着され、排出チューブ25には別途チューブを接続し、前記保存液の貯留空間を開放することにより、前記保存液を排出する動作が実行される。
[液体供給システムの概要]
本実施形態では、インクカートリッジICがヘッドユニット21の上方に配置され、水頭差によってインクがヘッドユニット21に供給される装置構成とされている。インクを水頭差供給する場合、常圧での供給を行うとヘッドユニット21のインク吐出部22から常時インクが吐出してしまう。このため、インクの供給経路中に負圧環境を作る負圧形成部を介在させ、インク吐出部22を適度な負圧とする必要がある。液体供給ユニット3のタンク部31は、上記の負圧形成部として機能する。
図6は、本実施形態のキャリッジ2において採用されている液体供給システムを概略的に示すブロック図である。インクカートリッジICは、インク吐出部22よりも高さhだけ高い位置に配置されている。この高さhが水頭差となり、この水頭差によって、インクカートリッジICのインクがヘッドユニット21に供給される。液体供給ユニット3は、インクカートリッジICとヘッドユニット21との間のインク供給経路の途中に組み入れられている。液体供給ユニット3のタンク部31は、前記水頭差を受けて大気圧よりも高い圧力となる第1室41(上流室/第1供給路の一部)と、第1室41に対してインク供給方向の下流側に配置され、負圧に設定される第2室42(圧力室)とを備える。第1室41は、負圧操作が与えられない部屋であって、大気圧に加えて前記水頭差による圧力Pが加わる部屋となる。この圧力Pは、水の密度(インクは密度において水と同等に扱える)をρ、重力加速度をg、水頭差をhとするとき、P=ρgh[Pa]で表される。第1室41は、上流管33を介してインクカートリッジICと連通している。第2室42は、下流管34を介してインク吐出部22と連通している。
第1室41と第2室42とを区画する壁面には、押圧部材5に連結された開閉バルブ6が配置されている。また、第2室42を区画する壁部の一部は、大気圧検知フィルム7(可撓性フィルム部材)によって構成されている。第2室42内が所定の閾値を超える負圧になると、大気圧検知フィルム7が大気圧を検知して変位する。この変位力が押圧部材5に与えられ、連結されている開閉バルブ6が閉姿勢から開姿勢に姿勢変更し、第1室41と第2室42とが連通状態とされる。通常の印刷処理時におけるインク供給ルートは、上流管33、第1室41、第2室42及び下流管34を通過するルートである。これに加え、第2室42を経由せずに第1室41と下流管34とを短絡させるバイパス管35が具備されている。バイパス管35には、正逆回転が可能なポンプ9が配置されている。
図6は、当該液体供給システムが印刷処理を行う印刷モード(液体の通常供給時)が実行されている状態を示す図でもある。前記印刷モードにおいて、第1室41及び第2室42にはインクが所定量充填され、第2室42が所定の負圧とされる。第1室41の圧力は、上述の通り水頭差により大気圧+ρgh[Pa]であり、いつでもインクカートリッジICから水頭差によってインクが供給され得る状態である。印刷モードの基本設定として、開閉バルブ6は閉姿勢とされ、第1室41と第2室42とは隔離された状態とされる。ポンプ9は停止状態とされる。後述するが、ポンプ9はチューブポンプであり、当該ポンプ9の停止時にはバイパス管35は閉止状態となる。このため、下流管34及びインク吐出部22も、負圧に維持された状態となる。
第2室42へのインク充填をスムースに行わせるため、第2室42には空気抜き機構部37が付設されている。イニシャルの使用時やメンテナンス後などにおいて、第2室42に所定量のインクを初期充填する必要がある。空気抜き機構部37は、負圧環境に設定される第2室42を一時的に大気と連通させて(第2室42の空気を抜いて)、前記初期充填を促進させる。また、第2室42に収容されたインクが、高熱化によって気泡を発生する場合がある。空気抜き機構部37は、前記気泡に基づく空気を第2室42から除去する際にも用いられる。
ヘッドユニット21が作動し、インク吐出部22がインク滴を吐出すると、第2室42内のインクが消費され、これに伴い第2室42の負圧の程度が進行してゆく。つまり、インク吐出部22は、インク滴の吐出の度に、大気と隔離された状態にある第2室42からインクを吸い取る動作を行い、第2室42の負圧度を高めて行く。そして、第2室42内のインクの減少に伴い、当該第2室42が所定の閾値を超える負圧となると、上記の通り大気圧検知フィルム7が大気圧を検知して変位する。この変位力によって、押圧部材5を通して開閉バルブ6が閉姿勢から開姿勢に姿勢変更し、第1室41と第2室42とが連通状態となる。従って、両室の圧力差によって、第1室41から第2室42へインクが流入する。
第2室42へのインクの流入に伴い、当該第2室42の負圧度は徐々に緩和され、大気圧に近づいてゆく。同時に、大気圧検知フィルム7から押圧部材5へ与えられる変位力も徐々に小さくなってゆく。そして、第2室42が前記所定の閾値を下回る負圧となると、開閉バルブ6は閉姿勢に復帰し、第1室41と第2室42とは再び隔離された状態となる。この際、第1室41から第2室42へ流入した分だけ、水頭差によってインクカートリッジICから第1室41へインクが補充される。印刷モードでは、このような動作が繰り返されることになる。
本実施形態の液体供給システムは、上記の印刷モードの他、加圧パージモードと、減圧モードとが実行可能とされている。加圧パージモードは、インク吐出部22におけるインク詰まりを解除若しくは予防するため、高圧のインクをインク吐出部22に供給し、吐出させるモードである。減圧モードは、イニシャルの使用時やメンテナンス後などに、常圧状態の第2室42を前記所定の負圧に設定するためのモードである。
図7(A)は、加圧パージモードが実行されている状態を示す図である。加圧パージモードでは、ポンプ9は正転駆動される。ポンプ9の正転駆動によって、インクは、第2室42を迂回して、上流管33から第1室41及びバイパス管35を経て、下流管34へ直接向かうことになる。つまり、ポンプ9で加圧されたインクが、インク吐出部22に供給される。これにより、インク吐出部22からインクが強制吐出され、インク吐出部22が清浄化される。なお、加圧パージモードと同様の動作が、初期使用時において液体供給ユニット3に封入されている保存液を排出する際にも実行される。
このように、本実施形態では、インクカートリッジICからヘッドユニット2への液体供給経路において、第2室42を通過する経路と並列にバイパス管35を通過する経路が設けられている。バイパス管35にはポンプ9が配置されている。このため、負圧機構を有する第2室42を経由することなく、バイパス管35を用いて加圧されたインクをヘッドユニット2に供給することができる。すなわち、第2室42と並列にバイパス管35及びポンプ9を配置するというシンプルな構成にて、インク吐出部22を加圧パージする動作を簡易に実行させることができる。
さらに、加圧パージモードの実行の際、加圧されたインクが下流管34を通して第2室42へ逆流することを防止するために、逆流防止機構部38が備えられている。逆流防止機構部38は、下流管34とバイパス管35の下流端との合流部aよりも上流側において、下流管34に配置されている。逆流防止機構部38により、下流管34の合流部aよりも上流側が閉止されるので、バイパス管35において生成される高圧インクは、全てインク吐出部22に向かう。従って、第2室42を区画している大気圧検知フィルム7の破損が防止される。
図7(B)は減圧モードが実行されている状態を示す図である。減圧モードでは、ポンプ9は逆転駆動される。ポンプ9が逆転駆動されると、下流管34及びバイパス管35を通して、インク吐出部22及び第2室42が減圧される。インク吐出部22及び第2室42は、この減圧モードによって所定の負圧、つまり、水頭差供給を行う場合にあっても、インク吐出部22からインク滴が漏れ落ちない負圧に設定される。なお、インク吐出部22を過度の負圧にすると、インク吐出部22におけるピエゾ素子等の駆動によるインク吐出が阻害されることがある。従って、インク吐出部22及び第2室42は、例えば-0.2~-0.7kPa程度の弱い負圧とすることが望ましい。
[液体供給ユニットの全体構造]
続いて、上述した液体供給システムの各モードの実行を可能とする、本実施形態に係る液体供給ユニット3の構造について詳述する。図8(A)は、液体供給ユニット3の正面図、図8(B)は、その側面図、図8(C)は、その上面図である。図9は、液体供給ユニット3の第1室41側、図10は、第2室42側の内部構造を示す斜視図である。図11(A)は第2室42側から、図11(B)は第1室41側から見た、液体供給ユニット3の分解斜視図である。
図5~図7に基づき予備的に説明した通り、液体供給ユニット3は、タンク部31及びポンプ部32を有する本体部30、上流管33、下流管34、バイパス管35、空気抜き機構部37、逆流防止機構部38、押圧部材5、開閉バルブ6及び大気圧検知フィルム7を備える。この他、液体供給ユニット3は、第2室42のインク液面をモニターするためのモニター管36と、ポンプ部32と第1室41とを連通させる連絡管32Pと、第1室41を区画する壁面の一部を構成する封止フィルム7Aとを備えている。
本体部30は、前後方向に延びる平板からなるベース基材300(図9及び図10、図22も参照)を備える。ベース基材300の前方側が、タンク部31の基板となるタンク部ベース板310(壁部)、後方側が、ポンプ部32においてハウジング構造を形成するポンプ部ハウジング320である。タンク部ベース板310の左面側に第1室41が配置され、右面側に第2室42が配置されている。タンク部ベース板310には、第1室41と第2室42とを連通させる連通口43が穿孔されている。この連通口43に、上述の開閉バルブ6が配置されている。
図9に示されているように、第1室41は、大略的に平面視でL字型の形状を有している。第1室41は、タンク部ベース板310から左方に突設された第1区画壁411によって区画されている。第1区画壁411のうちの最上部の壁には、インクの流入口412が穿孔されている。インクの流入口412に対応して、第1区画壁411の外側面には受けプラグからなる流入ポート417(図22)が立設されている。この流入ポート417には、上流管33の下流端332が挿入接続される。つまり、流入口412は、インクカートリッジICと第1室41とを連通させる開口であり、当該流入口412から水頭差によりインクが第1室41内に流入する。
第1区画壁411の底壁部413は、タンク部ベース板310の下端に位置している。底壁部413に近い第1区画壁411の後側壁には、パージポート414が設けられている。連絡管32Pの上流端が、このパージポート414に接続されている。第1室41の上下方向の中央付近には、円筒状のキャビティからなるバネ座415が突設されている。バネ座415は、後述の付勢バネ45を収容するキャビティであり、第2室42側に開口している。
連通口43は、第1室41内においてバネ座415の上方に位置している。既述の通り、第1室41には減圧処理等が行われず、大気圧に加えて水頭差による圧力P=ρghが加わる部屋である。流入口412からインクが流入すると、底壁部413からインクが溜まり始める。インクの液位が連通口43を超過すると、当該連通口43を通してインクを第2室42へ供給可能な状態となる。また、ポンプ9が稼働されると、パージポート414及び連絡管32Pを通して、第1室41に貯留されたインクが吸引され、バイパス管35及び下流管34を通して、高圧化されたインクがヘッドユニット21に供給される。
図10及び図22を参照して、第2室42は、大略的に平面視で円形の形状を有している。第2室42は、タンク部ベース板310から右方に突設された第2区画壁421によって区画されている。第2区画壁421は、円筒型の形状を有する円筒壁422と、円筒壁422の上方に突設された矩形部分からなる上部壁423とを有している。上述のバネ座415は、円筒壁422で囲まれる領域の中心位置、つまり円筒壁422と同心となる位置において、タンク部ベース板310に凹設されている。連通口43は、バネ座415の中心点を通る鉛直線上において、バネ座415の上に配置されている。
第2室42の下端には、連絡室44(第2供給路の一部)が連設されている。連絡室44は、前後方向に細長い矩形の空間であって、円筒壁422の下端から前方へ直線状に延在している。連絡室44は、壁部441によって区画されている。円筒壁422の下端には、第2室42と連絡室44とを連通させる下部通路424が設けられている。壁部441は、下部通路424の位置において円筒壁422に繋がっている。連絡室44は、第2室42と下流管34とを繋ぐ空間であって負圧とされる空間であり、実質的に第2室42の一部を構成している。
第2室42の上部壁423で囲まれる領域において、タンク部ベース板310から前後一対の支持板425が右方へ突設されている。一対の支持板425は、後述の押圧部材5を軸支する軸支部426を各々備えている。上部壁423の最上部を構成(第2室42の天壁を区画)する天壁423Aには、ボス部427とモニターポート428とが上方へ突設されている。ボス部427は、第2室42を大気と連通させる開口であるボス孔42A(図19)を内部に備えている。このボス部427は、空気抜き機構部37の一部を構成しており、後述のレバー部材46及び復帰バネ47(図19)が組み付けられる。
天壁423Aにおいて、ボス孔42Aよりも前方側には、上モニター孔42Bが穿孔されている。また、連絡室44を区画する壁部441の天壁442には、下モニター孔444が穿孔されている。上モニター孔42Bに対応して、天壁423Aには、上モニターポート428が立設されている。下モニター孔444に対応して、天壁442には、下モニターポート445が立設されている。モニター管36の上端が上モニターポート428に、下端が下モニターポート445に各々接続されている。つまり、モニター管36は、第2室42の上端側と下端側とに連通し、モニター管36内のインク液位は、第2室42内のインク液位と連動したものとなる。
本実施形態ではモニター管36は、透明な樹脂チューブからなる。従って、ユーザーは、モニター管36を視認することで、第2室42内のインク液位を知見することができる。本実施形態では、図4に示したように、キャリッジ2に複数の液体供給ユニット3が左右方向に並列配置される構成とされる。このため、たとえ右側面に位置する大気圧検知フィルム7として透明なフィルムを用いたとしても、最右部の液体供給ユニット3以外は、第2室42内のインク液位を視認させることができない。しかし、本実施形態では、液体供給ユニット3の前方側に、モニター管36が立設される態様とされている。このため、ユーザーは、キャリッジ2の前方側から、各液体供給ユニット3のモニター管36を視認することで、それぞれの第2室42内のインク液位を知見することができる。
逆流防止機構部38は、連絡室44の前端付近において、天壁442上に設置されている。逆流防止機構部38に対応して、天壁442には供給孔443が穿孔されている。下流管34の上流端341は、逆流防止機構部38に接続されている。第2室42に貯留されたインクは、インク吐出部22に吸引される態様で、供給孔443及び逆流防止機構部38を通して、下流管34に供給される。逆流防止機構部38については、後記で詳述する。
図11を参照して、第1室41の左面側の開口は、樹脂製の封止フィルム7Aによって封止される。封止フィルム7Aは、第1区画壁411の左面視の壁形状に合致した外形形状を有している。封止フィルム7Aの周縁部が第1区画壁411の端面に溶着又は接着されることで、封止フィルム7Aは第1室41の開口を封止する。
第2室42の右面側の開口は、可撓性を有する樹脂製のフィルム部材からなる大気圧検知フィルム7によって封止される。大気圧検知フィルム7は、第2室42の第2区画壁421及び連絡室44の壁部441を一体化した壁形状に合致した外形形状を有している。すなわち、大気圧検知フィルム7は、第2室42の円筒壁422に対応した本体部71と、矩形の上部壁423に対応した上延長部72と、連絡室44の壁部441に対応した下延長部73とを備えている。本体部71の周縁部が円筒壁422の端面に、上延長部72の周縁部が上部壁423の端面に、そして下延長部73の周縁部が壁部441の端面に溶着又は接着されることで、大気圧検知フィルム7は第2室42及び連絡室44の開口を封止する。なお、大気圧検知フィルム7は、特段テンションが付与されない状態で、溶着又は接着される。
ポンプ部32は、タンク部31の後方に隣接して配置され、ポンプ9を収容するポンプキャビティ321と、ポンプ9の偏心カム91(図24)を軸支するカム軸93(図4)が挿通されるカム軸挿通孔322とを備えている。ポンプキャビティ321は、ポンプ部ハウジング320の前後及び上下の中央位置に配置された円筒状のキャビティである。カム軸挿通孔322は、ポンプキャビティ321と同心となる位置に設けられたボス孔である。ポンプキャビティ321の右面側の開口は、ポンプカバー323によって封止されている。このように、本実施形態では、タンク部31の基板となるタンク部ベース板310と一体的にポンプキャビティ321が備えられ、液体供給ユニット3自身に加圧パージ用のポンプ9を搭載させる構成である。これによりキャリッジ2の装置構成のコンパクト化、シンプル化を図ることができる。
[負圧供給機構の詳細]
続いて、第2室42内のインクの減少に応じて、第1室41から第2室42へインクが供給される負圧供給機構について詳述する。負圧供給機構は、先に図6に基づいて動作の概要を説明した押圧部材5、開閉バルブ6及び大気圧検知フィルム7を含み、さらに付勢バネ45(付勢部材)を備えている。開閉バルブ6は連通口43に配置され、連通口43を閉じる閉姿勢と、連通口43を開く開姿勢との間で姿勢変更する。付勢バネ45は、開閉バルブ6を前記閉姿勢に向かう方向に付勢する。押圧部材5は、開閉バルブ6を前記開姿勢に向かう方向に押圧可能である。大気圧検知フィルム7は、第2室42内のインクの減少に伴って発生する負圧に基づいて変位し、その変位力を押圧部材5に伝達する。
<押圧部材>
図12(A)及び図12(B)は、互いに斜視方向を異ならせた押圧部材5の斜視図である。押圧部材5は、第2室42内に回動可能に配置される部材である。押圧部材5は、円形の平板からなる円板部51(平板部)と、円板部51の上端側(一端側)から外方へ延出された一対のアーム部52と、各アーム部52の延出先端部に設けられた支点部53(回動支点)と、一対のリンクボス54(押圧部)とを備えている。一対の支点部53は、第2室42に配置されている一対の支持板425の軸支部426(図10、図22)で軸支されている。これにより、円板部51は、支点部53の軸回りに回動可能である。
円板部51は、第2室42の大部分を区画する円筒壁422の内径に対して、1/2程度のサイズの直径を有する円板である。円筒壁422と軸支部426で軸支された状態における円板部51との配置関係は、概ね同心状である。円板部51は、大気圧検知フィルム7と対向する第1面51Aと、開閉バルブ6と対向する第2面51Bとを備えている。円板部51の径方向中央には、バネ嵌合突起511が第2面51B側から突出するように設けられている。このバネ嵌合突起511には、コイルバネからなる付勢バネ45の右端部が嵌合される。なお、第1面51A側においては、バネ嵌合突起511の領域は円柱状の凹部となっている。
円板部51は、大気圧検知フィルム7から変位力を受ける受圧部5Aと、付勢バネ45から付勢力を受ける被付勢部5Bとを備える。受圧部5Aは、円板部51の第1面51Aにおいてバネ嵌合突起511の周縁部の領域である。被付勢部5Bは、第2面51B側であって、付勢バネ45が嵌合されるバネ嵌合突起511の領域である。すなわち、被付勢部5Bは、受圧部5Aに対応する位置に設定されている。
受圧部5Aが大気圧検知フィルム7から変位力を受けない場合、円板部51は、自然垂下に近い状態となる。但し、付勢バネ45の右端が被付勢部5Bに当接しており、大気圧検知フィルム7の内面に第1面51Aが接する状態となる。一方、受圧部5Aが大気圧検知フィルム7から付勢バネ45の付勢力以上の変位力を受けると、円板部51は、支点部53の軸回りに左方へ回動し、垂下状態から左方へ傾いた状態となる。
一対のアーム部52の下端部521は、バネ嵌合突起511の両側部に各々位置しており、バネ嵌合突起511が一対の下端部521で挟まれる位置関係に有る。一対のアーム部52は、各下端部521からそれぞれ上方へ直線状に延出している。一対のアーム部52間において円板部51には、径方向に沿って切り欠かれた切り欠き部512が設けられている。一対のアーム部52は、この切り欠き部512を挟んで平行に円板部51から延出している。
各アーム部52の上下方向の中間には、矩形状の厚肉部522が設けられている。厚肉部522は、円板部51の上端付近であって、切り欠き部512の側部に配置されている。つまり、一対の厚肉部522が、切り欠き部512を挟んで前後方向に対峙している。各アーム部52の延出端である先端部523からは、各々支点部53が前後方向に突設されている。詳しくは、前側の先端部523の前側面から支点部53が前方に、後側の先端部523の後側面から支点部53が後方にというように、互いに離間する方向に突設されている。支点部53は、支持板425の軸支部426に嵌め込まれる。アーム部52の延出先端部523に支点部53を設けることは、後述の梃子比を大きくすることに貢献する。
一対の支点部53は、前後方向に延びる回動軸5AX上に並んでいる。前側の支点部53と、後側の支点部53とは、所定の間隔Dを置いて配置されている。つまり、一対の支点部53は、円板部51の平面方向の中央領域に相当する部分を挟んで互いに離間して配置されている。間隔Dは、例えば円板部51の直径の40%~80%程度のサイズに設定することができる。これにより、一対の支点部53が作る回動支点は、円板部51の中央領域を挟む程度に離間した幅広の回動支点となる。このため、前記回動支点回りに回動する円板部51は、回動軸5AXと直交する軸回りに捻転し難くなる。従って、円板部51の回動動作を安定化させることができる。
一対のリンクボス54は、円板部51の上端付近くにおいて、第2面51Bから左方に向けて突設されている。詳しくは、一対の厚肉部522の切り欠き部512に臨む各端縁から、矩形の平板からなるリンクボス54が各々立設されている。従って、一対のリンクボス54は、一対の支点部53の内側であって、円板部51の中央領域に位置している。各リンクボス54は、リンク孔541を備えている。このリンク孔541は、押圧部材5と開閉バルブ6とのリンク結合に用いられる。このリンク結合により、押圧部材5の回動動作に開閉バルブ6の開閉動作が連動するようになる。
換言すると、リンクボス54が、支点部53の軸回りに回動する押圧部材5の回動動作に応じて、開閉バルブ6を左右方向に移動するよう押圧する押圧部となる。受圧部5A(力点)と支点部53(支点)との関係において、リンクボス54(作用点)は、受圧部5Aと支点部53との間に設定されている。つまり、受圧部5A、支点部53及びリンクボス54は、第2種梃子の位置関係が成立するように設定されている。従って、受圧部5Aが受ける大気圧検知フィルム7の変位力を梃子比の割合だけ大きくして、押圧力をリンクボス54から開閉バルブ6に与えることができる。
<開閉バルブ>
続いて、開閉バルブ6について説明する。図11(A)及び図11(B)に示すように、開閉バルブ6は、第1室41と第2室42とを連通させる連通口43に配置される。そして、開閉バルブ6は、押圧部材5の回動動作に従動して連通口43内で左右方向に移動することで、連通口43を開閉する。前記回動動作への従動のため、開閉バルブ6は円板部51のリンクボス54(押圧部)とリンク結合されている。
図13(A)は、開閉バルブ6の斜視図、図13(B)は、開閉バルブ6の分解斜視図である。図14(A)は、図8のXIV-XIV線断面図、図14(B)は、図14(A)のA1部の拡大図である。図15(A)は、図8のXV-XV線断面図、図15(B)は、図15(A)のA2部の拡大図である。開閉バルブ6は、バルブホルダー61と、このバルブホルダー61によって保持されるアンブレラバルブ66との組立体からなる。連通口43は、断面円形の開口であって、大径部43Aと、該大径部43Aより内径が小さい小径部43Bと、両者の径差に基づく段部43Cとを有している。
バルブホルダー61は、連通口43に組み付けられた状態において、第1室41側(左側)に位置する第1端部611と、第2室42側(右側)に位置する第2端部612とを備える、半筒形の部材である。バルブホルダー61は、第1端部611側の筒部62と、第2端部612側の平板部63と、筒部62と平板部63との間に位置する中間部64と、平板部63に配設されたリンクピン65とを含む。アンブレラバルブ66は、バルブホルダー61の第1端部611側において保持されている。
筒部62は、バルブホルダー61において最も外径の大きい筒状部分である。筒部62は、筒部62の外周面であるガイド面62Sと、筒部62の一部が周方向に切り欠かれてなる流路切り欠き621と、筒部62の内周側に環状に凹設された保持溝622と、を含む。筒部62は、連通口43の大径部43Aに収容され、開閉バルブ6が左右方向に移動する際に、ガイド面62Sが大径部43Aの内面でガイドされる。流路切り欠き621は、開閉バルブ6が開姿勢の時にインクが流れる流路となる。保持溝622は、アンブレラバルブ66の係止球部663を係止するための溝である。
中間部64は、筒部62よりも外径が小さい筒状部分である。中間部64には、流路切り欠き621に連なる開放部分である開放部641と、アンブレラバルブ66のピン部662を収容するピン収容部642とを含む。中間部64は、連通口43の小径部43Bに収容され、その外周面も小径部43Bの内面でガイドされる。筒部62と中間部64との境界部には、両者の外径差に基づく段差によって形成された環状当接部62Aが存在する。環状当接部62Aは、連通口43の段部43Cと対向し、当接する。
平板部63は、開閉バルブ6が連通口43に組み付けられた状態において、連通口43から右方に突出する部分である。平板部63は、左右方向に延びる表裏一対の平面を有している。リンクピン65は、前記一対の平面に対して鉛直方向に各々突設されている。このリンクピン65は、図15(B)に示す通り、押圧部材5のリンクボス54に備えられているリンク孔541に嵌合される。この嵌合により、押圧部材5と開閉バルブ6とはリンク結合され、押圧部材5の回動運動を、開閉バルブ6の直線運動に変換することができる。
アンブレラバルブ66は、ゴム製の物品であって、傘部661、傘部661から右方に延出するピン部662、及びピン部662に一体的に設けられた係止球部663を備えている。傘部661は、連通口43の大径部43Aの内径よりも大きい傘直径を有している。傘部661の内側(右面側)の周縁部は、シール面67である。シール面67は、連通口43の周囲の壁面であるシール壁面416と当接することによって、連通口43を封止状態とすることが可能である(閉姿勢)。反面、シール面67がシール壁面416から離間すると、前記封止状態は解除される(開姿勢)。なお、傘部661は、右面側に所定の圧力が加わると、その傘形状が反転する(図26)。
ピン部662は、左右方向に延びる棒状部分であり、傘部661の支柱となる部分である。ピン部662は、バルブホルダー61の筒部62及び中間部64のピン収容部642に入り込む。つまり、傘部661はバルブホルダー61の第1端部611に当接する一方で、ピン部662はバルブホルダー61の内側筒部内に嵌り込むことが可能である。係止球部663は、ピン部662の左端寄りの部分が球状に膨設されてなり、保持溝622に嵌り込む部分である。係止球部663が保持溝622に嵌合されることで、アンブレラバルブ66は、左右方向の移動が規制された状態でバルブホルダー61に保持される。すなわち、アンブレラバルブ66は、バルブホルダー61と一体的に左右方向へ移動する。
<付勢バネ>
付勢バネ45は、円板部51の第2面51Bとタンク部ベース板310との間に介在され、第2面51Bを支持(付勢)するコイルバネである。詳しくは、図14(B)に示されているように、付勢バネ45の右端側は円板部51のバネ嵌合突起511に嵌め込まれ、左端側はタンク部ベース板310に凹設されているバネ座415に収容されている。円板部51の受圧部5Aが、付勢バネ45の右方向の付勢力に抗する左方向の変位力を受けたとき、円板部51は支点部53の軸回りに、左方へ回動することになる。前記変位力を受けない場合は、前記付勢力によって円板部51は垂下した姿勢を維持することになる。
<開閉バルブの動作>
続いて、開閉バルブ6の開閉動作について説明する。図14及び図15は、開閉バルブ6が閉姿勢の状態を示している。この状態は、大気圧検知フィルム7が押圧部材5(円板部51)を回動させるほど変位力を発生していない状態、すなわち、付勢バネ45のバネ圧(付勢力)と第2室42の内圧との合計が、大気圧よりも勝っている状態である。第2室42は負圧ではあるが、付勢バネ45は、前記負圧による大気圧検知フィルム7の変位力に打ち勝つ付勢力で、円板部51の被付勢部5Bを付勢している。このため、円板部51は、支点部53の軸回りに回動せず、上述の垂下した姿勢を維持する。
この場合、リンクボス54において押圧部材5とリンク結合されている開閉バルブ6は、最も右方側に位置する閉姿勢を取る。すなわち、付勢バネ45の付勢力によって、リンクボス54を介してバルブホルダー61が右方に牽引されている状態となる。このため、バルブホルダー61の環状当接部62Aが連通口43の段部43Cに突き当たると共に、アンブレラバルブ66のシール面67がシール壁面416に当接した状態となる。従って、連通口43がアンブレラバルブ66によって封止される。付勢バネ45は、円板部51を右方に付勢することで、梃子の力を利用して、開閉バルブ6を閉姿勢に向かう方向に付勢していると言うことができる。
図16(A)は、図14(A)に対応する図であって、開閉バルブ6が開姿勢の状態を示す断面図、図16(B)は、図16(A)のA3部の拡大図である。図17は、図15(B)に対応する図であって、開閉バルブ6が開姿勢の状態を示す断面図である。図14及び図15の状態から、インク吐出部22がインク滴の吐出動作を継続してゆくと、密閉空間である第2室42は、インクの減少に伴い、徐々に負圧度が高まってゆく。やがて、第2室42が所定の閾値を超える負圧となると、大気圧検知フィルム7は付勢バネ45の付勢力に抗する押圧力を円板部51の受圧部5Aへ与えるようになる。すなわち、付勢バネ45のバネ圧と第2室42の内圧との合計が、大気圧に劣る状態となる。
この場合、円板部51は、付勢バネ45の付勢力に抗して支点部53の軸回りに左方へ回動する。そして、この回動によって、リンクボス54は開閉バルブ6を左方に向かわせる押圧力を発生し、開閉バルブ6を開姿勢に姿勢変更させる。つまり、リンクボス54のリンク孔541からバルブホルダー61のリンクピン65に押圧力が伝達され、ガイド面62Sが連通口43の内面でガイドされつつ、バルブホルダー61が左方へ直線移動する。この移動に伴ってアンブレラバルブ66も左方へ移動し、そのシール面67がシール壁面416から離間し、ギャップGが形成された状態となる。従って、アンブレラバルブ66による連通口43の封止が解除される。
開閉バルブ6が開姿勢となると、図17に矢印Fで示すように、大気圧+ρghの圧力の第1室41と負圧度が進行した第2室42との圧力差により、第1室41から第2室42へインクが流入する。具体的には、アンブレラバルブ66のシール面67とシール壁面416とのギャップGと、バルブホルダー61の筒部62に用意された流路切り欠き621と、中間部64に用意された開放部641とからなる流路を通して、インクは第2室42へ流入する。
第2室42へのインク流入が進行すると、第2室42の負圧度は徐々に緩和されてゆく。やがて、付勢バネ45のバネ圧と第2室42の内圧との合計が、大気圧よりも優勢になると、付勢バネ45の付勢力によって円板部51は右方に押し戻されてゆく。すなわち、第2室42が所定の閾値を下回る負圧となると、円板部51は、付勢バネ45の付勢力に押圧されて支点部53の軸回りに右方へ回動する。これにより開閉バルブ6も、リンクボス54に牽引されて右方に直線移動する。いずれ、バルブホルダー61の環状当接部62Aが連通口43の段部43Cに突き当たり、アンブレラバルブ66のシール面67がシール壁面416に当接する。従って、開閉バルブ6は閉姿勢に復帰する。
<負圧供給機構の作用効果>
以上の構成を有する本実施形態の負圧供給機構の作用効果について、図18(A)、図18(B)の模式図を用いて説明する。図18(A)は、押圧部材5(円板部51)が垂下姿勢であって開閉バルブ6が閉姿勢の状態を、図18(B)は、押圧部材5が回動した傾斜姿勢であって開閉バルブ6が開姿勢の状態を、各々示している。
まず、押圧部材5は支点部53という回動支点を有し、第2室42内に配設された支持板425で軸支されている。このため、受圧部5Aが大気圧検知フィルム7の変位力を受けると支点部53の軸回りに回動する。つまり、大気圧検知フィルム7の変位という不安定な移動力を、支点部53の軸回りの回動という安定的な移動力に変換させることができる。このため、大気圧検知フィルム7の変位力を、リンクボス54(押圧部)を通して効率良く開閉バルブ6に伝達させることができる。例えば、開閉バルブ6の押圧部材が大気圧検知フィルム7に貼付される等、前記押圧部材が回動支点を持たない場合、その挙動は不安定となり、開閉バルブ6への押圧力伝達が不安定となる。しかし、本実施形態によれば、押圧部材5は安定的な押圧力を発生できるので、開閉バルブ6を所期のタイミングで閉姿勢と開姿勢との間で姿勢変更させることができ、ヘッドユニット21への安定的なインク供給を行わせることができる。
また、押圧部材5は、梃子の力を利用してリンクボス54に大きな押圧力を発生させることができる。具体的には、受圧部5Aと支点部53との間に、開閉バルブ6を押圧するリンクボス54が配置されている。つまり、押圧部材5は、支点部53による軸支点を支点P1、受圧部5Aを力点P2、リンクボス54を作用点P3として、梃子の原理を用いた開閉バルブ6の押圧構造を実現している。従って、大気圧検知フィルム7の変位力により受圧部5Aへ与えられた押圧力を、梃子比の割合だけ大きくして、リンクボス54から開閉バルブ6に与えることができる。従って、リンクボス54に開閉バルブ6を大きな押圧力で押圧させることができ、開閉バルブ6をタイムリーに移動させるための十分な押圧力を確保することができる。
押圧部材5は、円板部51の上端側から上方へ延出されたアーム部52を備え、回動支点となる支点部53は、当該アーム部52の延出先端部523に設けられている。この構成は、受圧部5A(力点P2)とリンクボス54(作用点P3)の距離を長くし、梃子比を大きくすることに貢献する。従って、押圧部材5が発生する押圧力を一層大きくすることが可能となる。
さらに、別視点の利点として、開閉バルブ6は、押圧部材5とリンク結合されていることによる利点を挙げることができる。詳しくは、開閉バルブ6の右端(第2端部612)付近に配設されたリンクピン65と、リンクボス54のリンク孔541とでリンク結合が形成されている。そして、付勢バネ45は、円板部51の被付勢部5Bを押圧することで、開閉バルブ6を閉姿勢に向かう方向に付勢している。このため、円板部51は支点部53の軸回りに回動するので傾くが、前記リンク結合により円板部51の傾き動作に追従して開閉バルブ6が傾かないようにすることができる。従って、開閉バルブ6を連通口43内において、左右方向へ直線的に移動させることができ、開閉バルブ6を閉姿勢と開姿勢との間で安定的に動作させることができる。
ここで、変形実施形態として、付勢バネ45に相当する付勢部材が、開閉バルブ6を直接右方(閉姿勢に向かう方向)へ付勢する構造とすることもできる。しかし、本実施形態では、付勢バネ45に円板部51を押圧させ、間接的に開閉バルブ6を閉姿勢に向かう方向に付勢している。このため、連通口43の近傍に付勢構造を設ける場合に比較して、開閉バルブ6の付勢構造の自由度を高めることができる。また、付勢バネ45から付勢力を受ける被付勢部5Bが、受圧部5Aに対応する位置に設定されている。このため、付勢バネ45による円板部51を介した開閉バルブ6の付勢においても、梃子の原理を適用して効率的な付勢構造を実現している。
[第2室の空気抜き機構部]
次に、第2室42に付設されている空気抜き機構部37について詳述する。図19(A)は、分解された空気抜き機構部37を含む液体供給ユニット3の斜視図、図19(B)及び図19(C)は、レバー部材46の斜視図である。既述の通り、空気抜き機構部37は、イニシャルの使用時やメンテナンス後などにおける、第2室42へのインクの初期充填の際の空気抜きや、インクから発生する気泡の脱気の際などに使用される。
空気抜き機構部37は、第2室42を区画する第2区画壁421に突設された既述のボス部427に加え、レバー部材46、シールリング46C及び復帰バネ47を含む。ボス部427は、第2室42の最上面を区画する天壁423Aに突設されており、第2室42を大気と連通させる開口、つまり空気抜き孔であるボス孔42Aを有する。ボス孔42Aを、第2室42の最上方位置にある天壁423Aに設けることで、第2室42の脱気を確実に行わせることができる。
レバー部材46は、ボス孔42Aに一部が挿通される棒状部材461と、その下方に連設された押圧片464とを備えたショベル型の形状を有している。レバー部材46は、ボス孔42Aを封止する封止姿勢と、ボス孔42Aを開放する開放姿勢との間で姿勢変更する一種の弁部材である。本実施形態では、レバー部材46の姿勢変更動作と、押圧部材5を介して開閉バルブ6の姿勢変更動作とが連動するように構成されている。具体的には、レバー部材46が前記封止姿勢の状態では、開閉バルブ6が前記閉姿勢となることを許容し、レバー部材46が前記開放姿勢の状態のとき、開閉バルブ6を前記閉姿勢から前記開姿勢に姿勢変更させる。
レバー部材46の棒状部材461は、ボス孔42Aの孔径よりも小さい外径を有する円柱体であり、上端部462と下端部463とを有する。上端部462は、ユーザーから下方へレバー部材46を押圧する操作押圧力を受ける入力部となる。下端部463は、押圧片464に繋がっている。押圧片464は、上端部462に与えられた操作押圧力を押圧部材5(受け斜面55)に伝達する伝達部として機能する。
押圧片464の、棒状部材461の下端部463が繋がる上面は、ボス孔42Aの孔径よりも大きいフランジ面464Fである。フランジ面464Fは棒状部材461の軸線と直交する矩形平面であり、棒状部材461がボス孔42Aに挿通された状態では、天壁423Aの内面と対向する。押圧片464は、前後方向視で台形、左右方向視で略正方形の形状を備え、上記のフランジ面464Fの下方に、棒状部材461の軸線に対して傾斜した一対の押圧斜面465と、最下端において前後方向に延びる下端縁466とを有する。一対の押圧斜面465は、下端縁466の前後端部を起点として、それぞれ上方に延出する斜面(斜辺)である。
押圧斜面465及び下端縁466は、レバー部材46が前記操作押圧力を受けたとき、押圧部材5と干渉する部分となる。図12を参照して、押圧部材5は、支点部53よりも下方であって大気圧検知フィルム7と対向する側の第1面51Aに、一対の受け斜面55を備えている。受け斜面55は、円板部51の上端において、リンクボス54とアーム部52との間に配置されている。一対の押圧斜面465の間隔に合致するよう、一対の受け斜面55の間隔が設定されている。押圧斜面465及び下端縁466は、ユーザーが前記操作押圧力を加えたとき、受け斜面55に当接し、当該操作押圧力を押圧部材5へ伝達する。これにより、押圧部材5は支点部53の軸回りに左方へ回動し、開閉バルブ6を閉姿勢から開姿勢に姿勢変更させる。
棒状部材461の上端部462の近傍には、係合溝467が形成されている。係合溝467には、復帰バネ47の上端を係止するワッシャー47Wが嵌め込まれる。押圧片464のフランジ面464Fには、シールリング46Cを嵌め込むシール溝468が形成されている。復帰バネ47は、ボス部427の外径よりも大きい内径、及びボス部427の上下長よりも長いバネ長さを有するコイルバネであって、ボス部427に外嵌される。シールリング46Cは、棒状部材461よりもやや大きい内径を有するOリングである。シールリング46Cは、棒状部材461の上端部462から嵌め込まれ、シール溝468に据え付けられる。なお、シール溝468は省いても良い。
続いて、レバー部材46の動作について説明する。図20(A)は、レバー部材46が動作前の状態を、図20(B)は、レバー部材46の動作によって第2室42の空気抜きが実行されている状態を各々示す断面図である。図21は、図20(B)のA4部拡大図である。図20(A)は、レバー部材46の上端部462が押下されていない状態、つまりレバー部材46がボス孔42Aを封止する封止姿勢を示している。一方、図20(B)は、上端部462が下方に押下され操作押圧力が加えられている状態、つまりレバー部材46がボス孔42Aを開放する開放姿勢を示している。
前記封止姿勢は、復帰バネ47の付勢力によって維持されている。復帰バネ47は、ワッシャー47Wを介してレバー部材46を上方に持ち上げる力を発生している。つまり、復帰バネ47は、レバー部材46を前記封止姿勢に向けて付勢している。これにより、フランジ面464Fに保持されているシールリング46Cが、ボス孔42Aの周縁の天壁423Aと当接する。従って、ボス孔42Aは封止された状態となる。このときの状態は、先に図14(A)及び図14(B)に示した状態と同じである。レバー部材46の押圧片464(押圧斜面465及び下端縁466)は、押圧部材5の受け斜面55に対して離間した状態であり、何ら押圧部材5に力を与えていない。従って、開閉バルブ6は閉姿勢を維持している。
一方、レバー部材46が操作押圧力を受けて下降し、前記開放姿勢を取ると、フランジ面464Fも下降することに伴い、シールリング46Cが天壁423Aから離間する。このため、ボス孔42Aは開放された状態となる。すなわち、ボス孔42Aの内面と棒状部材461の外周面との間の隙間を通して、第2室42と外気とが連通した状態となる。従って、第2室42に滞留している空気を、ボス孔42Aを通して外部へ排気することが可能な状態が形成される。
また、レバー部材46が前記開放姿勢を取ると、操作押圧力が押圧部材5へ伝達されるようになる。図21に示すように、押圧斜面465及び下端縁466が受け斜面55を押圧する。受け斜面55は、支点部53よりも上方であって、右方寄り(大気圧検知フィルム7側)に位置している。このため、受け斜面55が押圧されると、押圧部材5(円板部51)は支点部53の軸回りに左方へ回動する。既述の通り、押圧部材5が左方へ回動すると、リンクボス54を介して開閉バルブ6を左方へ押圧し、開閉バルブ6を閉姿勢から開姿勢に姿勢変更させることになる。これにより、連通口43の封止が解除され、第1室41と第2室42とが連通された状態となる。
このように、レバー部材46が前記開放姿勢を取ると、第2室42に対する流体の入口(連通口43)と、流体の出口(ボス孔42A)とが確保された状態となる。従って、イニシャルの使用時において、第2室42の空気をボス孔42Aから抜きつつ、連通口43を通して第1室41から第2室42へインクを充填する動作を、水頭差供給を利用してスムースに実行させることができる。また、インクから気泡が発生する等して、第2室42の空気量が増加した場合(第2室42内のインク液位が低下するのでモニター管36で確認できる)、レバー部材46を前記開放姿勢とすることで、容易に第2室42の空気抜きを行うことができる。
上記実施形態では、大気圧検知フィルム7から変位力を受ける受圧部5Aと、受圧部5Aが受けた変位力によって開閉バルブ6を押圧するリンクボス54とを備えた押圧部材5を利用して、レバー部材46が前記開放姿勢を取ることに連動させて、開閉バルブ6を開姿勢に姿勢変更させている。つまり、レバー部材46のワンタッチ操作で、第2室42に対する流体の入口及び出口を確保できる構成である。従って、ユーザーは第2室42の空気抜き動作を容易に実行することができる。また、空気抜き機構部37がタンク部31の上面に配置されているので、図4に示したように、複数の液体供給ユニット3がキャリッジ2に搭載されたままの状態でも、ユーザーはキャリッジ2の前方側からアクセスして、各液体供給ユニット3に対する空気抜き動作を行うことができる。
[逆流防止機構部]
次に、図7(A)に基づき説明した加圧パージモードの実行の際に、加圧されたインクが第2室42へ逆流することを防止する逆流防止機構部38の構成について説明する。図22は、逆流防止機構部38の分解斜視図を含む液体供給ユニット3のベース基材300の斜視図である。逆流防止機構部38は、バルブ管路81、分岐ヘッド部82、球体83、シール部材84、コイルスプリング85及びOリング86を含む。バルブ管路81は、連絡室44の天壁442と一体の部材であり、他の部品はバルブ管路81に対して組み付けられている。図23(A)及び図23(B)は、バルブ管路81を除く逆流防止機構部38の斜視図、図23(C)は、分岐ヘッド部82の下方視の斜視図である。
バルブ管路81は、天壁442の上面から上下方向に延びる管路である。バルブ管路81は、連絡室44と下流管34とを繋ぐインク流路を提供するものであって、第2室42からインク吐出部22に至るインク供給路の一部を構成している。分岐ヘッド部82を係止するために、バルブ管路81の外周面には係止片811が突設され、内周面には嵌合環状突起812が突設されている。
分岐ヘッド部82は、図6及び図7に基づき先述した合流部aを形成する部材である。分岐ヘッド部82は、第1入口ポート821、第2入口ポート822、出口ポート823、胴部824、係止窓825、切り欠き部826及び嵌合爪827を含む。第1入口ポート821は、第2室42の下流端が接続されるポートであって、本実施形態ではバルブ管路81及び連絡室44を経由して、第2室42が連通している。第2入口ポート822は、バイパス管35の下流端が接続されるポートである。出口ポート823は、下流管34の上流端341が接続されるポートである。上述の印刷モードでは、インクは、第1入口ポート821を通して下流管34に供給される。一方、加圧パージモードでは、第2入口ポート822を通して下流管34に供給される。
胴部824は、下方を向く第1入口ポート821の外側に、互いに対向するように配置された一対の円弧片からなる。バルブ管路81は、一対の胴部824と第1入口ポート821との間の隙間に入り込む。係止窓825は、一対の胴部824に設けられた開口であり、バルブ管路81の係止片811が係合する開口である。切り欠き部826は、筒状の第1入口ポート821の周壁の一部が切り欠かれた部分であり、インクの流路を確保するための部分である。嵌合爪827は、第1入口ポート821の下端から下方に突設されたフック形状を有する部分であり、バルブ管路81の嵌合環状突起812を係合する。つまり、分岐ヘッド部82は、バルブ管路81の内周において係止片811と係止窓825との係合により、外周において嵌合環状突起812と嵌合爪827との係合により、バルブ管路81に固定される。
球体83は、バルブ管路81内に、インク供給方向へ移動可能に収容され、弁の働きをする。球体83の外径は、バルブ管路81の内径よりも小さく、さらにコイルスプリング85の内径よりも小さい。球体83を形成する素材としては、種々の材料を用いることができるが、好ましくはインクの比重に対して2倍以下の比重を有する材料で形成することが望ましい。球体83は、バルブ管路81内においてインク中に埋没する。球体83の比重をインクの比重に近づけることで、球体83のインク供給方向(ここでは上下方向)の動作圧を小さくすることができる。
一般に、インクジェット式プリンターに用いられるインクは、水溶性液体であって、比重=1若しくはその近傍の比重を有する。従って、球体83の材料としては、比重<2の材料を選択することが望ましい。また、前記材料は、インクと常時接触しても劣化しない耐薬品性、耐摩耗性の性質を備えていることが望ましい。これらの観点から、球体83の材料としては、ポリアセタール樹脂(比重≒1.5)を用いることが特に好ましい。
シール部材84は、例えば図24(B)に示されているように、球体83の下方であって、バルブ管路81の底壁上(天壁442の上面)の座部813に着座するリング形状を有するシール部品である。シール部材84のリング内径(貫通孔)は、球体83の外径よりも小径である一方、天壁442に穿孔されている供給孔443よりも大径に設定されている。図23(A)に示すように、このシール部材84から球体83が離間したときには、バルブ管路81は開となる。一方、図23(B)に示すように、シール部材84に球体83が接したときには、バルブ管路81は閉となる。
コイルスプリング85は、その下端部がシール部材84に当接し、上端部が分岐ヘッド部82の第1入口ポート821の下端縁828に当接するように、バルブ管路81に内装される圧縮バネである。コイルスプリング85は、シール部材84を座部813に向けて付勢しており、これによりシール部材84は座部813に常時圧接されている。また、コイルスプリング85の内側には球体83が収容されており、コイルスプリング85は球体83のインク供給方向への移動をガイドする役目も果たす。従って、バルブ管路81内における球体83の遊動が規制され、シール部材84に対する球体83の離接により成立する弁構造を安定化させることができる。
Oリング86は、バルブ管路81と分岐ヘッド部82との突き合わせ部をシールしている。Oリング86は、第1入口ポート821の外周面に嵌め込まれ、第1入口ポート821の突設基部829に当接している。
図24(A)は、印刷モードにおける逆流防止機構部38の状態を示す断面図、図24(B)は、図24(A)のA5部拡大図である。図24(A)には、ポンプ部32に収容されたポンプ9が示されている。ポンプ9は、偏心カム91及びしごきチューブ92を備えたチューブポンプである。偏心カム91の軸孔91Aには、当該偏心カム91の回動軸となるカム軸93(図4)が挿通される。この偏心カム91には、図略の駆動ギアから回転駆動力が与えられる。しごきチューブ92は、偏心カム91の周面に配置され、偏心カム91のカム軸93回りの回転によってしごかれ、チューブ内の液体(インク)を一端側から他端側へ送り出す。本実施形態では、しごきチューブ92は、連絡管32P及びバイパス管35と一体のチューブである。すなわち、しごきチューブ92の一端側は第1室41の底壁部413に連通し(連絡管32P)、他端側が分岐ヘッド部82の第2入口ポート822に連通し(バイパス管35)、中央部分が偏心カム91の周面に配置されるしごき部とされている。
既述の通り、ポンプ9は、図6に示した印刷モードでは停止状態とされる。この場合、偏心カム91がしごきチューブ92を圧潰して停止した状態となるので、バイパス管35を通るインク供給路は閉止されることになる。一方、図7(A)に示した加圧パージモードでは、ポンプ9は正転駆動される。図24(A)において、偏心カム91の正転方向は、反時計方向である。このようなポンプ9の正転駆動によって、インクは、第1室41から連絡管32Pを通して吸引され、バイパス管35から合流部aである逆流防止機構部38へ向かうことになる。なお、ポンプ9が逆転駆動されると、図7(B)に示した通り、バイパス管35及び分岐ヘッド部82を通して、連絡室44及び第2室42と、下流管34とが負圧化する。
続いて、逆流防止機構部38の動作について説明する。印刷モード(第1状態)ではインクは、第2室42から、連絡室44、逆流防止機構部38及び下流管34を通る供給ルートでヘッドユニット21に供給される。このような印刷モードにおいては、図24(B)に示す通り、球体83はシール部材84から離間し、上方へ浮き上がった状態となる。これは、第2室42から下流管34へ至る供給ルートが、印刷モードでは負圧に維持されていることに依る。ヘッドユニット21のインク吐出部22は、インク滴を吐出する度に、前記供給ルート内に存在するインクを吸引することも相俟って、球体83にはインク供給方向へ向かう力が作用し、球体83はインクの液体中においてシール部材84から浮き上がる。
球体83がシール部材84から離間することから、連絡室44の供給孔443は開放された状態となる。一方、インク吐出部22の吸引力によって、球体83が第1入口ポート821の下端縁828に接するまで浮上することもある。図23(A)は、球体83が最上位まで浮上した状態を示している。このような場合でも、第1入口ポート821の周壁には切り欠き部826が具備されているので、インクの通路は確保されている。従って、インクは、連絡室44から分岐ヘッド部82へ通り抜けることができる。
図25(A)は、加圧パージモード(第2状態)における逆流防止機構部38の状態を示す断面図、図25(B)は、図25(A)のA6部拡大図である。加圧パージモードでは、ポンプ9の正転駆動によって、バイパス管35を通して加圧されたインクが、分岐ヘッド部82の第2入口ポート822(合流部a)に供給される。このため、バイパス管35と、合流部aよりも下流側に位置する下流管34とが、加圧されたインクによって加圧されることになる。この場合、インクは100kPaを超過するような高圧に加圧される。このような高圧が仮に第2室42に加わった場合、第2室42の一部を区画している大気圧検知フィルム7は、破裂したり、第2区画壁421に対する取り付け部が剥がれたりすることがある。
しかし、本実施形態では、合流部aに加わる加圧力によって、球体83は下方(インク供給方向の上流側)へ押圧され、球体83がシール部材84に接するようになる。図23(B)及び図25(B)は、前記押圧によって、球体83がシール部材84のリング内に嵌り込んでいる状態を示している。コイルスプリング85により座部813へ押し付けられているシール部材84に球体83が接することで、供給孔443は塞がれた状態となる。すなわち、印刷モードにおけるインク供給経路のうち、合流部aよりも上流側に位置する連絡室44及び第2室42が加圧インクによる加圧から遮断される。従って、大気圧検知フィルム7の破損等を未然に防止することができる。
[アンブレラバルブによる二重保護機構]
上記の通り、本実施形態においては、逆流防止機構部38を設けることで、加圧パージモードにおいて加圧されたインクが第2室42に逆流することを防止している。しかし、逆流防止機構部38の何らかの不具合により、例えば球体83の動作不良により、加圧力が第2室42に作用することが起こり得る。この点に鑑み、本実施形態では二重の保護機構、開閉バルブ6に圧力を開放させる機構を具備させている。つまり、正常時には第2室42が負圧で第1室41が大気圧+ρghであるという圧力関係が逆転し、第2室42が第1室41よりも高圧になった場合に、第2室42から第1室41へ圧力を開放させる圧力解放機構を、開閉バルブ6は具備している。
上記の圧力解放機構を担うのは、開閉バルブ6のアンブレラバルブ66である。図14~図17に基づいて説明した通り、アンブレラバルブ66は、第2室42が所定の閾値を下回る負圧である場合には、シール面67がシール壁面416に当接して連通口43を封止する。これにより、第1室41から第2室42へのインクの流入を禁止する。一方、第2室42が所定の閾値を超える負圧になると、押圧部材5とリンク結合されたバルブホルダー61と共にアンブレラバルブ66は左方へ移動し、シール面67がシール壁面416から離間して連通口43を開放する(封止の解除)。これにより、第1室41から第2室42へのインクの流入を許容する。
これに加えてアンブレラバルブ66は、加圧パージモードの際に加圧インクの圧力が第2室42加わる等の要因で、第2室42と第1室41との圧力関係が逆転した場合に、アンブレラバルブ66単体で連通口43を開放する。つまり、押圧部材5の押圧アシストを受けることなく、アンブレラバルブ66は連通口43の封止状態を解除し、第2室42の圧力を第1室41へ解放する。すなわち、アンブレラバルブ66の傘部661(シール面67)は、その右面側に所定の圧力が印加されると、その傘形状が反転する。
図26(A)は、アンブレラバルブ66が連通口43を封止している状態を、図26(B)は、アンブレラバルブ66が連通口43を開放している状態を各々示す断面図である。図26(A)の状態は、先に説明した図14(B)の状態に等しい。傘部661は、左方に向けて凸の傘形状を有している。また、バルブホルダー61は、付勢バネ45の付勢力によって最も右方に位置しており、その環状当接部62Aが連通口43に段部43Cに当止している。従って、シール面67はシール壁面416に接する状態となる。
図26(B)の状態は、アンブレラバルブ66の傘部661の傘形状が、第2室42側から与えられる圧力によって反転した状態を示している。つまり傘部661は、右方に向けて凸の傘形状に変形している。この反転状態は、第2室42が第1室41よりも所定値だけ高圧となった場合に形成される。本実施形態では、加圧パージによる高い正圧が第2室42に加わり、結果として大気圧+ρghの第1室41よりも第2室42が高圧となる場合を想定している。前記所定値は、傘部661の反転圧力に依存する。この反転圧力は、大気圧検知フィルム7の破裂強度乃至は大気圧検知フィルム7の第2区画壁421に対する取り付け強度よりも低い値に設定される。
第2室42が加圧された場合、押圧部材5は左方へ回動しない。つまり、押圧部材5は、開閉バルブ6を左方に押圧する押圧力を発生しない。大気圧検知フィルム7が、第2室4の高圧化によって右方に膨らむ側に変位し、受圧部5Aに変位力を与えないからである。従って、付勢バネ45の付勢力によって、バルブホルダー61は最も右方に位置する状態が維持される。
しかし、バルブホルダー61が移動せずとも、傘部661の傘形状が反転することで、シール面67はシール壁面416から離間し、両者間にはギャップgが生じることとなる。従って、連通口43は開放された状態となる。これにより、第2室42内の加圧インク(圧力)は、連通口43を通して第1室41側へ逃がされる(解放される)。従って、大気圧検知フィルム7自体、若しくはその取付部に、過度の力が作用しないようにすることができ、破損を防止することができる。
[変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を取り得る。
(1)上記実施形態では、押圧部材5が、支点部53を支点P1、受圧部5Aを力点P2、リンクボス54を作用点P3として、梃子の原理を用いて開閉バルブ6を押圧させる例を示した(図18)。本発明では、受圧部5A及びリンクボス54の設定位置に制限はない。開閉バルブ6を移動させるために必要な押圧力に応じて、受圧部5A及びリンクボス54の位置を設定することができる。例えば、円板部51において受圧部5Aと同位置の裏面(第2面51B)に、リンクボス54を配置しても良い。
(2)上記実施形態では、押圧部材5と開閉バルブ6とが、リンクボス54とリンクピン65とでリンク結合されている例を示したが、両者はリンク結合されていなくとも良い。例えば、押圧部材5の一部と開閉バルブ6の一部とがバネ等で常時接触する状態を形成し、その接触部を通して押圧部材5が開閉バルブ6を押圧する構造としても良い。
(3)上記実施形態では、押圧部材5が互いに回動軸方向に離間した一対の支点部53を具備する例を示した。これに代えて、回動軸方向に延びる1本の長い軸を支点部53として用いても良い。或いは、押圧部材5の回動捻れが問題にならない場合は、1本のアームの先端に支点部を形成したものを、上記実施形態の一対のアーム部52及び一対の支点部53に代替させても良い。また、アーム部52を省き、円板部51の上端付近に支点部53を設けるようにしても良い。
(4)上記実施形態では、球体83を利用した逆流防止機構部38を例示したが、これは一例であり、種々の逆流防止構造を採用することができる。例えば、復帰バネ付きの弁体を、バルブ管路81内において供給孔443に対向して配置し、加圧パージの圧力が加わったときに前記弁体が供給孔443を塞ぐ構成を採用することができる。
(5)上記実施形態では、弁機構として、図13(A)及び図13(B)に示した開閉バルブ6を例示したが、他の形態のバルブに変更しても良い。図27(A)は、変形例に係る開閉バルブ6Aの斜視図、図27(B)は、開閉バルブ6Aの分解斜視図である。開閉バルブ6Aは、バルブホルダー61Aと、このバルブホルダー61Aによって保持されるアンブレラバルブ66との組立体からなる。アンブレラバルブ66は、先に図13(B)に基づき説明したものと同一構造であるので、ここでは説明を省く。
バルブホルダー61Aは、連通口43に組み付けられた状態において、第1室41側に位置する第1端部1611と、第2室42側に位置する第2端部1612とを備える。バルブホルダー61Aは、第1端部1611側の筒部162と、第2端部1612側の平板部163と、筒部162と平板部163との間に位置する中間部164と、平板部163に配設されたリンクピン165とを含む。アンブレラバルブ66は、バルブホルダー61Aの第1端部1611側において保持されている。
筒部162は、径方向の中心にアンブレラバルブ66のピン部662を貫通させる貫通孔166を有する円筒状の部分である。貫通孔166の内径はアンブレラバルブ66の係止球部663よりも径小であるが、ゴム弾性を利用して係止球部663を押し込み通過させる態様で、第1端部1611側からピン部662が貫通孔166に挿通される。筒部162の外周面には、径方向に凹む流路溝167が、周方向に等ピッチで複数設けられている。流路溝167は、開閉バルブ6Aが開姿勢の時にインクが流れる流路となる。
中間部164は、筒部162の外径とほぼ同一の幅員を有し、平板部163よりも幅広の平板部分である。中間部164から平板部163に亘り、ピン部662を収容する切り欠きからなるピン収容部168が設けられている。筒部162及び中間部164が連通口43の大径部43Aに収容される。筒部162及び中間部164の外周面が、開閉バルブ6が左右方向に移動する際に、大径部43Aでガイドされるガイド面162Sとなる。平板部163と中間部164との境界部には、両者の幅員差に基づく段差によって形成された当接部164Aが存在する。当接部164Aは、連通口43の段部43C(図14(B))と対向し、当接する。平板部163に突設されたリンクピン165は、押圧部材5のリンクボス54に備えられているリンク孔541(図12(B))に嵌合される。
この開閉バルブ6Aにおいても、閉姿勢のときにはアンブレラバルブ66のシール面67がシール壁面416に当接することで(図14(B))、連通口43を封止する。一方、開姿勢のときには、シール面67がシール壁面416から離間し、流路溝167を通してインクが流れるようになる。また、過度の内圧が第2室42に作用した際には、傘部661の傘形状が反転する点は、図26(A)、(B)の説明と同様である。以上のような開閉バルブ6Aでも、弁機構としての作用を果たすことができる。