JP7215004B2 - リチウムイオン二次電池用正極活物質とその製造方法、リチウムイオン二次電池用正極合剤ペースト、及び、リチウムイオン二次電池 - Google Patents
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Description
図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質100(以下、「正極活物質100」ともいう。)の一例を示す図である。図1に示すように、正極活物質100は、リチウムニッケル複合酸化物10と、非晶質のLiBO2(図1中、符号「LB」で示す。以下、「非晶質LiBO2」ともいう。)と、を含み、リチウムニッケル複合酸化物10の表面の少なくとも一部を非晶質LiBO2が被覆する。すなわち、正極活物質100は、非晶質LiBO2がリチウムニッケル複合酸化物10の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層(LiBO2層ともいう)を含む。
リチウムニッケル複合酸化物10は、リチウムと、ニッケルと、コバルトと、元素Mとを含み、これらの各元素の物質量の比(モル比)が、Li:Ni:Co:M=a:(1-x-y):x:y(ただし、0.95≦a≦1.10、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.10、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、W、Zr、及び、Alから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、層状の結晶構造を構成する。また、リチウムニッケル複合酸化物10は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子を含む。なお、上記の各元素の物質量の比(各元素の含有量)は、ICP発光分光法により測定することができる。
正極活物質100は、リチウムニッケル複合酸化物10の表面の少なくとも一部を非晶質LiBO2が被覆することにより、正極活物質100を二次電池に用いた際、電池容量の低下、及び、正極抵抗の上昇による出力特性の低下の抑制と、電極作製時の正極合剤ペーストのゲル化の抑制とを両立することができる。
正極活物質100に含まれるホウ素(B)の含有量は、正極活物質全体に対して、0.01質量%以上0.1質量%以下であり、好ましくは0.03質量%以上0.06質量%以下である。ホウ素の含有量が上記範囲である場合、正極活物質100を二次電池に用いた際、電池容量、及び、出力特性の低下の抑制と、電極作製時の正極合剤ペーストのゲル化の抑制との両立が可能となる。
次に、図2(A)及び(B)を参照して、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法(以下、「正極活物質の製造方法」ともいう。)について説明する。図2(A)は、本実施形態に係る正極活物質の製造方法の一例を示した図である。図2(B)は、リチウムニッケル複合酸化物10a(原料)に含まれるリチウムとホウ素化合物Bとの反応の説明図である。本実施形態に係る正極活物質の製造方法により、上述したような表面の少なくとも一部が非晶質LiBO2で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物10を含む正極活物質100を、工業的規模で生産性よく製造することができる。
本実施形態の正極活物質の製造方法では、まず、ホウ素化合物Bと、リチウムニッケル複合酸化物10a(原料)を混合して、ホウ素混合物を得る(ステップS1)。
次に、ホウ素混合物を、酸素雰囲気中、300℃以上で500℃以下の温度で熱処理して、非晶質LiBO2で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物10を得る(ステップS2)。ホウ素化合物Bを含むリチウムニッケル複合酸化物10を熱処理することで、図2(B)に示すように、リチウムニッケル複合酸化物10表面に残存する水酸化リチウムとホウ素化合物Bを反応させ、非晶質LiBO2を生成させることができる。なお、ホウ素はリチウムニッケル複合酸化物10内に固溶しにくいため、ホウ素化合物Bとして添加したホウ素の大部分はLiBO2を形成すると考えられる。
次に、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極合剤ペースト(以下、「正極合剤ペースト」、「ペースト」ともいう。)の製造方法について説明する。本実施形態のペーストは、非晶質LiBO2で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物10(正極活物質100)を含む。よって、ペースト中、リチウムニッケル複合酸化物10(正極活物質100)からのリチウムの溶出が低減され、ペーストのゲル化が抑制される。したがって、ペーストを長期間保存した場合でも、ペーストの粘度変化が少なく、ペーストは高い安定性を有することができる。このようなペーストを用いて正極を製造した場合、安定して優れた特性を有する正極を得ることができ、最終的に得られる二次電池の特性を安定して高いものとすることができる。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、上述した正極活物質を正極材料含む正極を備える。リチウムイオン二次電池は、従来公知のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素により構成されることができ、例えば、正極、負極及び非水系電解液を備える。また、二次電池は、例えば、正極、負極、及び固体電解質を備えてもよい。また、二次電池は、リチウムイオンの脱離及び挿入により、充放電を行う二次電池であればよく、例えば、非水系電解液二次電池であってもよく、全固体リチウム二次電池であってもよい。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良した形態で実施することができる。また、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
(正極)
まず、上記の正極活物質100、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合剤ペーストを作製する。正極合剤ペーストは、上述の本実施形態の正極合剤ペーストを用いることができる。
負極として、金属リチウムやリチウム合金などを用いてもよい。また、負極として、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合剤を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
正極と負極との間には、必要に応じてセパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
非水系電解質としては、非水系電解液を用いることができる。非水系電解液は、例えば、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いてもよい。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状を示す塩をいう。
二次電池の構成は、特に限定されず、上述したように正極、負極、セパレータ、非水系電解質などで構成されてもよく、正極、負極、固体電解質などで構成されもよい。また、二次電池の形状は、特に限定されず、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
初期放電容量は、実施例で使用したコイン型電池CBAを製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を測定した値である。
得られた正極活物質を硝酸で溶解した後、ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPS-8100)で測定した。
得られた正極活物質をX線回折装置(商品名:X‘Pert PRO、パナリティカル製)およびラマン分光装置(商品名:DXR2、Thermo Fisher Scientific製)により評価した。
正極活物質25.0gと、導電材のカーボン粉1.5gと、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)2.9gと、N-メチル-2ピロリドン(NMP)とを遊星運動混練機により混合し正極合剤ペーストを得た。N-メチル-2ピロリドン(NMP)は、JIS Z 8803:2011に規定される振動粘度計による粘度測定方法により、粘度が1.5~2.5Pa・sとなるように添加量を調整した。得られた正極合剤ペーストを76時間保管してゲル化の発生状況を目視で評価し、ゲル化が発生していないものを○、ゲル化が発生したものを×とした。
得られた正極活物質15gを75mlの純水に分散させた後、10分間静置させ、上澄み液10mlを50mlの純水で希釈し、希釈した液に10%塩化バリウム水溶液を5mL加え、この水溶液中に溶出されたLi量を1mol/リットルの塩酸を加える中和滴定法により測定した。中和滴定では上澄み液の水溶液のpHは2段階で低下する。1段目のpHの低下分が余剰水酸化リチウム分を示すものとし(第一中和点)、第一中和点までの塩酸量から、溶出したLi量(余剰水酸化リチウム量)を算出した。余剰水酸化リチウム量は、正極活物質100を分散させたスラリー中に塩化バリウム水溶液を加えて、炭酸塩を一旦沈殿させた際の、第一中和点までの塩酸量から測定されたLi量が、すべて水酸化リチウム(LiOH)に由来するとして、算出した。
(評価用コイン型電池の作製)
得られた正極活物質70質量%に、アセチレンブラック20質量%及びPTFE10質量%を混合し、ここから150mgを取り出してペレットを作製し、正極とした。負極としてリチウム金属を用い、電解液として、1MのLiClO4を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液(富山薬品工業製)を用い、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス中で、図4に示すような2032型のコイン型電池CBAを作製した。製造したコイン型電池CBAの性能を、初期放電容量等に基づいて評価した。
初期放電容量は、コイン型電池CBAを製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの放電容量を測定し、大気暴露前の初期放電容量とした。
コイン型電池CBAを充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して、交流インピーダンス法により内部抵抗を測定すると、図3に示すナイキストプロットが得られる。ナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、及び、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表している。得られたナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出した。
平均粒径13μmのリチウムニッケル複合酸化物の粒子に、ホウ素化合物H3BO3(和光純薬製)を得られる正極活物質に対してホウ素量が0.03質量%となる量を添加し、ホウ素混合物を形成した。混合は、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて行った。得られたこの混合物を酸素気流中(酸素:100容量%)にて、300℃(熱処理温度)で1時間焼成(熱処理)し、冷却した後に篩掛けして正極活物質を得た。得られた正極活物質は、ホウ素を正極活物質に対して0.03質量%含有し、組成式Li1.03Ni0.82Co0.15Al0.03O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物であった。
ホウ素含有量を正極活物質に対して0.06質量%となるようにH3BO3を加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
熱処理温度を450℃とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
ホウ素含有量を正極活物質に対して0.06質量%となるようにH3BO3を加え、熱処理温度を450℃とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
ホウ素含有量を正極活物質に対して0.06質量%となるように、ホウ素化合物B2O3を加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
ホウ酸(ホウ素化合物)を添加しない以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
ホウ素含有量を正極活物質に対して0.005質量%となるようにH3BO3を加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
熱処理温度を600℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
熱処理温度を200℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
ホウ素含有量を正極活物質に対して0.2質量%となるようにH3BO3を加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
実施例1~5、比較例1~5で得られた正極活物質のX線回折を測定したところ、リチウムニッケル複合酸化物のピークが検出された。また、比較例3ではリチウムニッケル複合酸化物のピーク以外にLi3BO3のピークも検出された。また、実施例1~5、比較例2、5で得られた正極活物質をラマン分光装置で分析したところ、LiBO2のブロードなピークが検出された。
10……リチウムニッケル複合酸化物
10a……リチウムニッケル複合酸化物(原料)
LB……非晶質LiBO2
B……ホウ素化合物
CBA……コイン型電池
CA……ケース
PC……正極缶
NC……負極缶
GA……ガスケット
PE……正極
NE……負極
SE……セパレータ
Claims (7)
- リチウムニッケル複合酸化物と、前記リチウムニッケル複合酸化物の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを備え、
前記リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムと、ニッケルと、コバルトと、元素Mとを含み、各元素の物質量の比(モル比)が、Li:Ni:Co:M=a:(1-x-y):x:y(ただし、0.95≦a≦1.10、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.10、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、W、Zr、及び、Alから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、
前記被覆層は、ホウ酸リチウムから構成され、前記ホウ酸リチウムは、非晶質のLiBO 2 を含み、
ホウ素の含有量が、正極活物質全体に対して、0.01質量%以上0.1質量%以下である、
リチウムイオン二次電池用正極活物質。 - リチウムニッケル複合酸化物と、ホウ素化合物とを混合して、混合物を得ることと、
前記混合物を、酸素雰囲気中、300℃以上で500℃以下の温度で熱処理して、前記ホウ素化合物と、前記リチウムニッケル複合酸化物中のリチウムとを反応させて、前記リチウムニッケル複合酸化物の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層を形成することと、を備え、
前記リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムと、ニッケルと、コバルトと、元素Mとを含み、各元素の物質量の比(モル比)が、Li:Ni:Co:M=a:(1-x-y):x:y(ただし、0.95≦a≦1.10、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.10、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、W、Zr、及び、Alから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、
前記被覆層は、ホウ酸リチウムから構成され、前記ホウ酸リチウムは、非晶質のLiBO 2 を含み、
前記混合物は、ホウ素化合物中のホウ素を、前記混合物全体に対して、0.01質量%以上0.1質量%以下含む、
リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。 - 前記ホウ素化合物は、H3BO3およびB2O3から選ばれる少なくとも一つを含む、請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
- 前記リチウムニッケル複合酸化物の表面の少なくとも一部を非晶質のLiBO2が被覆する、請求項2又は請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
- 前記熱処理後に得られる正極活物質を水に分散させたときに溶出する、中和滴定法によって測定される水酸化リチウム量が、正極活物質全体に対して、0.01質量%以上0.2質量%未満の範囲となるように調整する、請求項2から請求項4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
- 請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む、リチウムイオン二次電池用正極合剤ペースト。
- 正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、前記正極は、請求項1に記載の正極活物質を含む、リチウムイオン二次電池。
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