(基本構成)
(1)概要
以下、本構成に係る内接噛合遊星歯車装置1の概要について、図1A~図4を参照して説明する。本開示で参照する図面は、いずれも模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。例えば、図1A~図4における、内歯21及び外歯31の歯形、寸法及び歯数等は、いずれも説明のために模式的に表しているに過ぎず、図示されている形状に限定する趣旨ではない。
本構成に係る内接噛合遊星歯車装置1(以下、単に「歯車装置1」ともいう)は、内歯歯車2(図4参照)と、遊星歯車3と、複数の内ピン4と、を備える歯車装置である。この歯車装置1では、環状の内歯歯車2の内側に遊星歯車3が配置され、さらに、遊星歯車3の内側には偏心体軸受け5が配置される。偏心体軸受け5は、偏心体内輪51及び偏心体外輪52を有し、偏心体内輪51の中心C1(図3参照)からずれた回転軸Ax1(図3参照)まわりで偏心体内輪51が回転(偏心運動)することによって、遊星歯車3を揺動させる。偏心体内輪51は、例えば、偏心体内輪51に挿入される偏心軸54が回転することにより、図4に示すように、回転軸Ax1まわりで回転(偏心運動)する。
内歯歯車2は、内歯21を有する。特に、本構成では、内歯歯車2は、環状の歯車本体22と、複数の外ピン23と、を有する。複数の外ピン23は、自転可能な状態で歯車本体22の内周面221に保持され、内歯21を構成する。遊星歯車3は、内歯21に部分的に噛み合う外歯31を有する。つまり、内歯歯車2の内側で遊星歯車3は内歯歯車2に対して内接し、外歯31の一部が内歯21の一部に噛み合った状態となる。この状態で、偏心軸54が回転すると遊星歯車3が揺動して、内歯21と外歯31との噛み合い位置が内歯歯車2の円周方向に移動し、遊星歯車3と内歯歯車2との歯数差に応じた相対回転が両歯車(内歯歯車2及び遊星歯車3)の間に発生する。ここで、内歯歯車2が固定されているとすれば、両歯車の相対回転に伴って、遊星歯車3が回転(自転)することになる。その結果、遊星歯車3からは、両歯車の歯数差に応じて、比較的高い減速比で減速された回転出力が得られる。
この種の歯車装置1は、遊星歯車3と内歯歯車2との間の相対的な回転、つまり内歯歯車2が固定されている場合の遊星歯車3の自転成分相当の回転を、例えば、固定部材に対する回転部材の相対的な回転として取り出すように使用される。要するに、歯車装置1は、固定部材が固定されている状態で、その出力をもって回転部材を回転させる。これにより、歯車装置1は、偏心軸54を入力側とし、回転部材を出力側として、比較的高い減速比の歯車装置として機能する。そこで、本構成に係る歯車装置1では、遊星歯車3と内歯歯車2との間の相対的な回転を、固定部材及び回転部材に伝達するべく、固定部材及び回転部材の一方に歯車本体22を固定し、かつ固定部材及び回転部材の他方に遊星歯車3を複数の内ピン4にて連結する。
複数の内ピン4は、遊星歯車3に形成された複数の遊嵌孔32にそれぞれ挿入された状態で、それぞれ遊嵌孔32内を公転しながら内歯歯車2に対して相対的に回転する。つまり、遊嵌孔32は、内ピン4よりも大きな直径を有し、内ピン4は、遊嵌孔32に挿入された状態で遊嵌孔32内を公転するように移動可能である。そして、遊星歯車3の揺動成分、つまり遊星歯車3の公転成分は、遊星歯車3の遊嵌孔32と内ピン4との遊嵌によって吸収される。言い換えれば、複数の内ピン4がそれぞれ複数の遊嵌孔32内を公転するように移動することで、遊星歯車3の揺動成分が吸収される。したがって、固定部材又は回転部材には、複数の内ピン4により、遊星歯車3の揺動成分(公転成分)を除いた、遊星歯車3の回転(自転成分)が伝達されることになる。
このようにして、遊星歯車3と内歯歯車2との間の相対的な回転は、歯車本体22と複数の内ピン4との相対的な回転として、固定部材及び回転部材に伝達される。したがって、歯車装置1では、遊星歯車3と内歯歯車2とのいずれからでも、減速された回転出力を取り出すことができる。すなわち、例えば、歯車本体22が固定部材に固定されている場合には、遊星歯車3は複数の内ピン4にて回転部材と連結されるため、遊星歯車3と内歯歯車2との間の相対的な回転は、遊星歯車3から取り出される。一方で、歯車本体22が回転部材に固定されている場合には、遊星歯車3は複数の内ピン4にて固定部材と連結されるため、遊星歯車3と内歯歯車2との間の相対的な回転は、内歯歯車2から取り出される。
また、歯車装置1は、(第1)軸受け部材6を備えている。軸受け部材6は、(第1)内輪61及び(第1)外輪62を有している。内輪61は、外輪62の内側に配置され、外輪62に対して相対的に回転可能に支持される。軸受け部材6は、固定部材に対して回転部材を回転可能に支持するための部品である。言い換えれば、(第1)軸受け部材6は、歯車本体22に対して複数の内ピン4を回転可能に支持する部品である。歯車装置1は、このような軸受け部材6により、回転部材が固定部材に対して回転可能な状態で支持されるのであって、結果的に、遊星歯車3と内歯歯車2との間の相対的な回転を、固定部材に対する回転部材の回転として出力可能となる。
ところで、この種の歯車装置1では、関連技術として、軸受け部材にクロスローラベアリングを用いることが知られている。クロスローラベアリングでは、円筒状の転動体(コロ)の軸が、回転軸Ax1に直交する平面に対して45度の傾きを有し、かつ内輪の外周に対して直交し、さらに、内輪の円周方向において互いに隣接する一対の転動体の軸が互いに直交する。すなわち、歯車装置1においては、その用途によって、ラジアル方向の荷重、スラスト方向(回転軸Ax1に沿う方向)の荷重、及び回転軸Ax1に対する曲げ力(曲げモーメント荷重)のように、様々な方向の荷重が作用し得る。関連技術においては、これら様々な方向の荷重に耐え得るように、軸受け部材にクロスローラベアリングが用いられている。しかし、関連技術では、軸受け部材としてクロスローラベアリングが用いられているため、比較的複雑な構造を持つクロスローラベアリングによって、歯車装置1全体としての構造の簡略化の妨げとなることがある。本構成に係る歯車装置1は、以下の構成により、構造の簡略化を図りやすい内接噛合遊星歯車装置1を提供可能とする。
すなわち、本構成に係る歯車装置1は、図1~図3に示すように、内歯歯車2と、遊星歯車3と、複数の内ピン4と、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7と、を備える。内歯歯車2は、環状の歯車本体22と、自転可能な状態で前記歯車本体22の内周面221に保持され内歯21を構成する複数の外ピン23と、を有する。遊星歯車3は、内歯21に部分的に噛み合う外歯31を有する。複数の内ピン4は、遊星歯車3に形成された複数の遊嵌孔32にそれぞれ挿入された状態で、遊嵌孔32内を公転しながら歯車本体22に対して相対的に回転する。第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7は、回転軸Ax1方向の2箇所で、歯車本体22に対して複数の内ピン4を回転可能に支持する。ここで、第1軸受け部材6は、第1内輪61、第1外輪62及び複数の軸受けピン63を有する。さらに、複数の内ピン4は、回転軸Ax1方向の一方から見て第2軸受け部材7の内側に位置する。
この態様によれば、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7は、回転軸Ax1方向の2箇所で、歯車本体22に対して複数の内ピン4を回転可能に支持するので、歯車本体22に対して複数の内ピン4が二点支持される。したがって、回転軸Ax1方向の1箇所で歯車本体22に対して複数の内ピン4が支持される一点支持に比較して、回転軸Ax1に対する曲げ力(曲げモーメント荷重)のような荷重に耐えやすい。しかも、第1軸受け部材6は、第1内輪61、第1外輪62及び複数の軸受けピン63を有する。つまり、第1軸受け部材6は、軸受けピン63を「転動体(コロ)」とするニードルベアリングであって、ラジアル方向の荷重については比較的大きな荷重に耐え得る。さらに、二点支持としながらも、第2軸受け部材7が回転軸Ax1方向の一方から見て複数の内ピン4の外側に位置するので、複数の内ピン4の内側の限られたスペースは比較的シンプルな構造とすることができる。したがって、軸受け部材としてクロスローラベアリングを用いる関連技術に比べて、本構成に係る歯車装置1では、構造の簡略化を図りやすい、という利点がある。
さらに、クロスローラベアリングは軸受け部材の中では高価な部類に入るので、本構成に係る歯車装置1の構成によれば、このようなクロスローラベアリングを省略できるので、低コスト化を図りやすい、という利点もある。
(2)定義
本開示でいう「環状」は、少なくとも平面視において、内側に囲まれた空間(領域)を形成する輪(わ)のような形状を意味し、平面視において真円とある円形状(円環状)に限らず、例えば、楕円形状及び多角形状等であってもよい。さらに、例えば、カップ状のように底部を有する形状であっても、その周壁が環状であれば、「環状」に含まれる。
本開示でいう「遊嵌」は、遊び(隙間)をもった状態に嵌められることを意味し、遊嵌孔32は内ピン4が遊嵌される孔である。つまり、内ピン4は、遊嵌孔32の内周面との間に、空間的な余裕(隙間)を確保した状態で遊嵌孔32に挿入される。言い換えれば、内ピン4のうち、少なくとも遊嵌孔32に挿入される部位の径は、遊嵌孔32の径よりも小さい(細い)。そのため、内ピン4は、遊嵌孔32に挿入された状態で、遊嵌孔32内を移動可能、つまり遊嵌孔32の中心に対して相対的に移動可能である。よって、内ピン4は、遊嵌孔32内を公転可能となる。ただし、遊嵌孔32の内周面と内ピン4との間には、空洞としての隙間が確保されることは必須ではなく、例えば、この隙間に液体等の流体が充填されていてもよい。
本開示でいう「公転」は、ある物体が、この物体の中心(重心)を通る中心軸以外の回転軸まわりを周回することを意味し、ある物体が公転すると、この物体の中心は回転軸を中心とする公転軌道に沿って移動することになる。したがって、例えば、ある物体の中心(重心)を通る中心軸と平行な偏心軸を中心に、この物体が回転する場合には、この物体は、偏心軸を回転軸として公転していることになる。一例として、内ピン4は、遊嵌孔32の中心を通る回転軸まわりを周回するようにして、遊嵌孔32内を公転する。
また、本開示では、回転軸Ax1の一方側(図3の右側)を「入力側」といい、回転軸Ax1の他方側(図3の左側)を「出力側」という場合がある。図3の例では、回転軸Ax1の「入力側」から回転体(偏心体内輪51)に回転が与えられ、回転軸Ax1の「出力側」から遊星歯車3と内歯歯車2との間の相対的な回転が取り出される。ただし、「入力側」及び「出力側」は、説明のために付しているラベルに過ぎず、歯車装置1から見た、入力及び出力の位置関係を限定する趣旨ではない。
本開示でいう「回転軸」は、回転体の回転運動の中心となる仮想的な軸(直線)を意味する。つまり、回転軸Ax1は、実体を伴わない仮想軸である。偏心体内輪51は、回転軸Ax1を中心として回転運動を行う。
本開示でいう「内歯」及び「外歯」は、それぞれ単体の「歯」ではなく、複数の「歯」の集合(群)を意味する。つまり、内歯歯車2の内歯21は、内歯歯車2(歯車本体22)の内周面221に配置された複数の歯の集合からなる。同様に、遊星歯車3の外歯31は、遊星歯車3の外周面に配置された複数の歯の集合からなる。
(3)構成
以下、本構成に係る内接噛合遊星歯車装置1の詳細な構成について、図1A~図10を参照して説明する。
図1Aは、歯車装置1の概略構成を示し、歯車装置1を回転軸Ax1の出力側(図3の左側)から見た斜視図である。図1Bは、歯車装置1の概略構成を示し、歯車装置1を回転軸Ax1の入力側(図3の右側)から見た斜視図である。図2は、歯車装置1を回転軸Ax1の出力側から見た概略の分解斜視図である。図3は、歯車装置1の概略断面図である。図4は図3のA1-A1線断面図、及びその一部拡大図である。図5は、主に歯車装置1の内歯歯車2及び遊星歯車3周辺の構成を示すための斜視図であって、図6は、その分解斜視図である。図7は図3のB1-B1線断面図、及びその一部拡大図である。図8は、主に歯車装置1の第1軸受け部材6周辺の構成を示すための斜視図であって、図9は、その分解斜視図である。図10は、図3の領域Z1の拡大図である。ただし、図4及び図7では、偏心軸54以外の部品について、断面であってもハッチングを省略している。
(3.1)全体構成
本構成に係る歯車装置1は、図1A~図3に示すように、内歯歯車2と、遊星歯車3と、複数の内ピン4と、偏心体軸受け5と、第1軸受け部材6と、第2軸受け部材7と、偏心軸54と、支持体8と、を備えている。また、本構成では、歯車装置1は、保持部材55、バランスウェイト56、第1ベアリング91、第2ベアリング92、スペーサ93及びケース10を更に備えている。本構成では、歯車装置1の構成要素である内歯歯車2、遊星歯車3、複数の内ピン4、偏心体軸受け5、第1軸受け部材6、第2軸受け部材7等の材質は、ステンレス、鋳鉄、機械構造用炭素鋼、クロムモリブデン鋼、リン青銅又はアルミ青銅等の金属である。さらに、偏心軸54、支持体8、保持部材55、バランスウェイト56及びケース10等の材質についても、上記と同様の金属である。ここでいう金属は、窒化処理等の表面処理が施された金属を含む。
また、本構成では、歯車装置1の一例として、トロコイド系歯形を用いた内接式遊星歯車装置を例示する。つまり、本構成に係る歯車装置1は、トロコイド系曲線歯形を有する内接式の遊星歯車3を備えている。
また、本構成では一例として、歯車装置1は、複数の内ピン4を保持する保持部材55(図2参照)が固定部材(後述するハブ部材14等)に固定された状態で使用される。すなわち、遊星歯車3は複数の内ピン4にて固定部材と連結され、歯車本体22は回転部材(後述する胴部11等)に固定されるため、遊星歯車3と内歯歯車2との間の相対的な回転は、内歯歯車2から取り出される。言い換えれば、本構成では、歯車本体22に対して複数の内ピン4が相対的に回転する際、歯車本体22の回転力を出力として取り出すように構成されている。
さらに、詳しくは後述するが、本構成では一例として、歯車装置1は車輪装置W1(図11参照)に用いられる。この場合、回転部材(胴部11等)が車輪本体102(図11参照)として機能することで、内歯歯車2と遊星歯車3との相対回転に伴って、車輪本体102を回転させることができる。このように、本構成では、歯車装置1を車輪装置W1に用いることで、歯車本体22に対して複数の内ピン4が相対的に回転する際の回転出力により、走行面上において車輪本体102を転がすように車輪本体102を駆動できる。要するに、歯車装置1は、車輪装置W1として用いられる場合、偏心軸54に入力としての回転力が加わることで、車輪本体102としての回転部材(胴部11等)から出力としての回転力が取り出される。つまり、歯車装置1は、偏心軸54の回転を入力回転とし、歯車本体22が固定された回転部材(胴部11等)の回転を出力回転として動作する。これにより、歯車装置1では、入力回転に対して、比較的高い減速比にて減速された出力回転が、車輪本体102の回転として得られることになる。
さらに、本構成に係る歯車装置1では、図3に示すように、入力側の回転軸Ax1と、出力側の回転軸Ax1とは、同一直線上にある。言い換えれば、入力側の回転軸Ax1と、出力側の回転軸Ax1とは、同軸である。ここで、入力側の回転軸Ax1は、入力回転が与えられる偏心軸54の回転中心であって、出力側の回転軸Ax1は、出力回転を生じる歯車本体22の回転中心である。つまり、歯車装置1では、同軸上において、入力回転に対して、比較的高い減速比にて減速された出力回転が得られることになる。
ケース10は、図1A及び図1Bに示すように、円筒状であって、歯車装置1の外郭を構成する。本構成では、ケース10は車輪本体102として機能するので、円筒状のケース10の中心軸は、回転軸Ax1と一致するように構成されている。つまり、ケース10は、少なくとも外周面が、平面視において(回転軸Ax1方向の一方から見て)回転軸Ax1を中心とする真円となる。
ケース10は、胴部11と、キャップ12と、リングキャップ13と、ハブ部材14と、を有している。胴部11は、回転軸Ax1方向の両端面が開口する円筒状の部品である。キャップ12は、胴部11における回転軸Ax1の出力側(図3の左側)の端面に取り付けられ、胴部11における回転軸Ax1の出力側の開口面を閉塞する円盤状の部品である。リングキャップ13は、胴部11における回転軸Ax1の入力側(図3の右側)の端面に取り付けられる円環状の部品である。ハブ部材14は、リングキャップ13の内側に配置される円環状の部品である。胴部11における回転軸Ax1の入力側の開口面の一部は、ハブ部材14にて塞がれることになる。ここで、胴部11、キャップ12、リングキャップ13及びハブ部材14は、いずれも平面視において回転軸Ax1を中心とする真円状に形成されている。
胴部11における回転軸Ax1の出力側の端面には、複数(一例として8つ)のねじ穴111(図5参照)が形成されている。複数のねじ穴111は、キャップ12を胴部11に固定するために用いられる。具体的には、固定用の複数本(一例として8本)のねじ151が、キャップ12を通して、ねじ穴111に締め付けられることにより、キャップ12が胴部11に対して固定される。胴部11における回転軸Ax1の入力側の端面の周囲には、複数(一例として8つ)のねじ穴112(図8参照)が形成されている。複数のねじ穴112は、リングキャップ13を胴部11に固定するために用いられる。具体的には、固定用の複数本(一例として8本)のねじ152が、リングキャップ13を通して、ねじ穴112に締め付けられることにより、リングキャップ13が胴部11に対して固定される。
そして、胴部11、キャップ12、リングキャップ13及びハブ部材14で囲まれた空間、つまりケース10の内部空間には、内歯歯車2、遊星歯車3、複数の内ピン4、偏心体軸受け5、第1軸受け部材6、第2軸受け部材7及び支持体8等が収容される。ハブ部材14は、複数の内ピン4を保持する保持部材55に回転軸Ax1の入力側から取り付けられる。保持部材55における回転軸Ax1の入力側の端面には、複数(一例として8つ)のねじ穴554(図9参照)が形成されている。複数のねじ穴554は、ハブ部材14を保持部材55に固定するために用いられる。具体的には、固定用の複数本(一例として8本)のねじ153が、ハブ部材14を通して、ねじ穴554に締め付けられることにより、ハブ部材14が保持部材55に対して固定される。
ここで、ハブ部材14における回転軸Ax1の入力側の端面には、複数(一例として4つ)の固定穴141(図1B参照)が形成されている。複数の固定穴141は、ハブ部材14を固定するために用いられる。本構成では、歯車装置1は車輪装置W1に用いられるので、ハブ部材14は、車輪装置W1が取り付けられる車体100(図11参照)に対して固定される。具体的には、固定用の複数本(一例として4本)のねじが、車体100の一部を通して、固定穴141に締め付けられることにより、ハブ部材14が車体100に対して固定される。このように、ハブ部材14は、車輪本体102を構成するケース10の中でも、車体100に固定されて、歯車装置1の駆動時にも回転しない「固定部材」を構成する。一方、胴部11、キャップ12及びリングキャップ13は、歯車装置1の駆動時に、ハブ部材14に対して相対的に回転する「回転部材」を構成する。つまり、歯車本体22に対して複数の内ピン4が相対的に回転する際、固定部材(ハブ部材14)に対する回転部材(胴部11、キャップ12及びリングキャップ13)の回転が、歯車装置1の出力として取り出される。ケース10が車輪本体102として用いられる場合には、これら回転部材が回転して走行面上を転がることになる。
そこで、回転部材であるリングキャップ13と固定部材であるハブ部材14とは、回転軸Ax1を中心として相対的に回転可能に構成されている。具体的には、ハブ部材14の外径はリングキャップ13の内径よりも小さく、ハブ部材14がリングキャップ13の内側に配置された状態で、ハブ部材14とリングキャップ13との間には隙間が生じる。
また、ハブ部材14は、平面視における中央部に、ハブ部材14を回転軸Ax1方向に貫通する貫通孔142を有している。貫通孔142は、偏心軸54を通すための孔である。ハブ部材14と偏心軸54とは、回転軸Ax1を中心として相対的に回転可能に構成されている。具体的には、ハブ部材14の内径(貫通孔142の孔径)は偏心軸54(の軸心部541)の外径よりも大きく、偏心軸54が貫通孔142に挿通された状態で、ハブ部材14と偏心軸54との間には隙間が生じる。
さらに、本構成では、回転部材である胴部11の外周面が、車輪本体102における走行面との接触面、つまり接地面となる。そのため、胴部11の外周面には、例えば、ゴム製のタイヤ103が装着される。図1A及び図1Bでは、タイヤ103を想像線(二点鎖線)で示している。
ところで、本構成では、回転部材である胴部11には、内歯歯車2の歯車本体22と、第1軸受け部材6の第1外輪62と、第2軸受け部材7の第2外輪72と、が固定される。ここでは一例として、歯車本体22及び第1外輪62は、胴部11と一体化されている。そして、胴部11は、第2外輪72を固定するための外輪固定枠74(図10参照)を有している。特に、本構成では、歯車本体22、第1外輪62及び外輪固定枠74は1つの金属部材にて一体に形成されており、これにより、歯車本体22、第1外輪62及び外輪固定枠74はシームレスな1部品(胴部11)として扱われる。歯車本体22、第1外輪62及び外輪固定枠74は、回転軸Ax1の出力側から、歯車本体22、第1外輪62、外輪固定枠74の順に並ぶ。そのため、胴部11の内周面は、図2に示すように、歯車本体22の内周面221及び第1外輪62の内周面621を含んでいる。
内歯歯車2は、図4~図6に示すように、内歯21を有する環状の部品である。本構成では、内歯歯車2は、少なくとも内周面が平面視において真円となる、円環状を有している。円環状の内歯歯車2の内周面には、内歯21が、内歯歯車2の円周方向に沿って形成されている。内歯21を構成する複数の歯は、全て同一形状であって、内歯歯車2の内周面における円周方向の全域に、等ピッチで設けられている。つまり、内歯21のピッチ円は、平面視において真円となる。内歯21のピッチ円の中心は、回転軸Ax1上にある。また、内歯歯車2は、回転軸Ax1の方向に所定の厚みを有している。内歯21の歯筋は、いずれも回転軸Ax1と平行である。内歯21の歯筋方向の寸法は、内歯歯車2の厚み方向よりもやや小さい。
ここで、内歯歯車2は、上述したように、環状(円環状)の歯車本体22と、複数の外ピン23と、を有している。複数の外ピン23は、自転可能な状態で歯車本体22の内周面221に保持され、内歯21を構成する。言い換えれば、複数の外ピン23は、それぞれ内歯21を構成する複数の歯として機能する。具体的には、歯車本体22の内周面221には、図6に示すように、円周方向の全域に複数の溝が形成されている。これら複数の溝は、それぞれ複数の外ピン23の保持構造としての複数の歯車側溝222(図4参照)である。言い換えれば、複数の外ピン23の保持構造は、歯車本体22の内周面221に形成された複数の歯車側溝222を含む。複数の歯車側溝222は、全て同一形状であって、等ピッチで設けられている。複数の歯車側溝222は、いずれも回転軸Ax1と平行であって、歯車本体22の全幅にわたって形成されている。
ただし、本構成では、上述したように歯車本体22は胴部11の一部であるので、複数の歯車側溝222は胴部11のうちの歯車本体22に対応する部位(図10参照)にのみ形成されている。複数の外ピン23は、複数の歯車側溝222に嵌るようにして、歯車本体22(胴部11)に組み合わされている。複数の外ピン23の各々は、歯車側溝222内において自転可能な状態で保持され、歯車側溝222により歯車本体22の円周方向への移動が規制される。
遊星歯車3は、図4~図6に示すように、外歯31を有する環状の部品である。本構成では、遊星歯車3は、少なくとも外周面が平面視において真円となる、円環状を有している。円環状の遊星歯車3の外周面には、外歯31が、遊星歯車3の円周方向に沿って形成されている。外歯31を構成する複数の歯は、全て同一形状であって、遊星歯車3の外周面における円周方向の全域に、等ピッチで設けられている。つまり、外歯31のピッチ円は、平面視において真円となる。外歯31のピッチ円の中心C1は、回転軸Ax1から距離ΔL(図4参照)だけずれた位置にある。また、遊星歯車3は、回転軸Ax1の方向に所定の厚みを有している。外歯31は、いずれも遊星歯車3の厚み方向の全長にわたって形成されている。外歯31の歯筋は、いずれも回転軸Ax1と平行である。遊星歯車3においては、内歯歯車2とは異なり、外歯31が遊星歯車3の本体と1つの金属部材にて一体に形成されている。
ここで、遊星歯車3に対しては、偏心体軸受け5及び偏心軸54が組み合わされる。つまり、遊星歯車3には、図5及び図6に示すように、円形状に開口する開口部33が形成されている。開口部33は、遊星歯車3を厚み方向に沿って貫通する孔である。平面視において、開口部33の中心と遊星歯車3の中心とは一致しており、開口部33の内周面(遊星歯車3の内周面)と外歯31のピッチ円とは同心円となる。遊星歯車3の開口部33には、偏心体軸受け5が収容される。さらに、偏心体軸受け5(の偏心体内輪51)に偏心軸54が挿入されることで、偏心体軸受け5及び偏心軸54が遊星歯車3に組み合わされる。遊星歯車3に偏心体軸受け5及び偏心軸54が組み合わされた状態で、偏心軸54が回転すると、遊星歯車3は回転軸Ax1まわりで揺動する。
このように構成される遊星歯車3は、内歯歯車2の内側に配置される。平面視において、遊星歯車3は内歯歯車2に比べて一回り小さく形成されており、遊星歯車3は、内歯歯車2と組み合わされた状態で、内歯歯車2の内側で揺動可能となる。ここで、遊星歯車3の外周面には外歯31が形成され、内歯歯車2の内周面には内歯21が形成されている。そのため、内歯歯車2の内側に遊星歯車3が配置された状態では、外歯31と内歯21とは、互いに対向することになる。
さらに、外歯31のピッチ円は、内歯21のピッチ円よりも一回り小さい。そして、遊星歯車3が内歯歯車2に内接した状態で、外歯31のピッチ円の中心C1は、内歯21のピッチ円の中心(回転軸Ax1)から距離ΔL(図4参照)だけずれた位置にある。そのため、外歯31との内歯21とは、少なくとも一部が隙間を介して対向することになり、円周方向の全体が互いに噛み合うことはない。ただし、遊星歯車3は、内歯歯車2の内側において回転軸Ax1まわりで揺動(公転)するので、外歯31と内歯21とが部分的に噛み合うことになる。つまり、遊星歯車3が回転軸Ax1まわりを揺動することで、図4に示すように、外歯31を構成する複数の歯のうちの一部の歯が、内歯21を構成する複数の歯のうちの一部の歯に噛み合うことになる。結果的に、歯車装置1では、外歯31の一部を内歯21の一部に噛み合わせることが可能となる。
ここで、内歯歯車2における内歯21の歯数は、遊星歯車3の外歯31の歯数よりもN(Nは正の整数)だけ多い。本構成では一例として、Nが「1」であって、遊星歯車3の(外歯31の)歯数は、内歯歯車2の(内歯21の)歯数よりも「1」多い。このような遊星歯車3と内歯歯車2との歯数差は、歯車装置1での入力回転に対する出力回転の減速比を規定する。
また、本構成では一例として、遊星歯車3の厚みは、内歯歯車2における歯車本体22の厚みよりも小さい。厳密には、遊星歯車3の厚みは、胴部11のうちの歯車本体22として機能する部分の(図10参照)、回転軸Ax1に平行な方向の寸法よりも小さい。さらに、外歯31の歯筋方向(回転軸Ax1に平行な方向)の寸法は、内歯21の歯筋方向(回転軸Ax1に平行な方向)の寸法よりも小さい。言い換えれば、回転軸Ax1に平行な方向においては、内歯21の歯筋の範囲内に、外歯31が収まることになる。
本構成では、上述したように、遊星歯車3と内歯歯車2との間の相対的な回転は、歯車本体22と複数の内ピン4との相対的な回転として、固定部材及び回転部材に伝達される。遊星歯車3には、図5及び図6に示すように、複数の内ピン4を挿入するための複数の遊嵌孔32が形成されている。遊嵌孔32は内ピン4と同数だけ設けられており、本構成では一例として、遊嵌孔32及び内ピン4は、8個ずつ設けられている。複数の遊嵌孔32の各々は、円形状に開口しており、遊星歯車3を厚み方向に沿って貫通する孔である。複数(ここでは8個)の遊嵌孔32は、開口部33と同心の仮想円上に、円周方向に等間隔で配置されている。
複数の内ピン4は、遊星歯車3と固定部材又は回転部材とを連結する部品である。本構成では特に、遊星歯車3は複数の内ピン4にて固定部材(ハブ部材14等)と連結され、歯車本体22は回転部材(胴部11等)に固定される。そのため、遊星歯車3は、複数の内ピン4にて、固定部材(ハブ部材14等)に対して直接的又は間接的に連結される。複数の内ピン4の各々は、円柱状に形成されている。複数の内ピン4の直径及び長さは、複数の内ピン4において共通である。内ピン4の直径は、遊嵌孔32の直径よりも一回り小さい。これにより、内ピン4は、遊嵌孔32の内周面との間に、空間的な余裕(隙間)を確保した状態で遊嵌孔32に挿入される(図4及び図5参照)。
保持部材55は、複数の内ピン4を保持する部品である。本構成では、保持部材55は、図8及び図9に示すように、平面視において回転軸Ax1を中心とする真円状であって、かつハブ部材14と同程度のサイズに形成されている。保持部材55は、複数の内ピン4がそれぞれ挿入される複数の保持孔551を有している。保持孔551は内ピン4と同数だけ設けられており、本構成では一例として、保持孔551は8個設けられている。複数の保持孔551の各々は、円形状に開口しており、保持部材55を厚み方向に沿って貫通する孔である。複数(ここでは8個)の保持孔551は、保持部材55の外周と同心の仮想円上に、円周方向に等間隔で配置されている。保持孔551の直径は、内ピン4の直径以上であって、遊嵌孔32の直径よりも小さい。
本構成では、保持孔551の直径は、内ピン4の直径と略同一であって、内ピン4の直径よりも僅かに大きい。そのため、内ピン4は、保持孔551内での移動が規制、つまり保持孔551の中心に対する相対的な移動が禁止される。したがって、内ピン4は、遊星歯車3においては遊嵌孔32内を公転可能な状態で保持され、保持部材55に対しては保持孔551内を公転不能な状態で保持される。これにより、遊星歯車3の揺動成分、つまり遊星歯車3の公転成分は、遊嵌孔32と内ピン4との遊嵌によって吸収され、保持部材55には、複数の内ピン4により、遊星歯車3の揺動成分(公転成分)を除いた、遊星歯車3の回転(自転成分)が伝達される。
さらに、本構成では、内ピン4の直径が保持孔551よりも僅かに大きいことで、内ピン4は、保持孔551に挿入された状態において、保持孔551内での公転は禁止されるものの、保持孔551内での自転は可能である。つまり、内ピン4は、保持孔551に挿入された状態でも、保持孔551に圧入される訳ではないので、保持孔551内で自転可能である。このように、本構成に係る歯車装置1では、複数の内ピン4の各々は、自転可能な状態で保持部材55に保持されるので、遊嵌孔32内を内ピン4が公転する際に、内ピン4自体が自転可能である。
要するに、本構成においては、内ピン4は、遊星歯車3に対しては遊嵌孔32内での公転及び自転の両方が可能な状態で保持され、保持部材55に対しては保持孔551内での自転のみが可能な状態で保持される。つまり、複数の内ピン4は、各々の自転が拘束されない状態(自転可能な状態)で、複数の遊嵌孔32内で公転可能である。したがって、複数の内ピン4にて遊星歯車3の回転(自転成分)を保持部材55に伝達するに際しては、内ピン4は、遊嵌孔32内で公転及び自転をしつつ、保持孔551内で自転することができる。そのため、遊嵌孔32内を内ピン4が公転する際に、内ピン4は、自転可能な状態にあるので、遊嵌孔32の内周面に対して転動することになる。言い換えれば、内ピン4は、遊嵌孔32の内周面上を転がるようにして遊嵌孔32内で公転するので、遊嵌孔32の内周面と内ピン4との間の摩擦抵抗による損失が生じにくい。
このように、本構成に係る構成では、そもそも遊嵌孔32の内周面と内ピン4との間の摩擦抵抗による損失が生じにくいので、内ローラを省略することが可能である。そこで、本構成では、複数の内ピン4の各々は、遊嵌孔32の内周面に直接的に接触する構成を採用する。つまり、本構成では、内ローラが装着されていない状態の内ピン4を遊嵌孔32に挿入し、内ピン4が直接的に遊嵌孔32の内周面に接触する構成とする。これにより、内ローラを省略できて、遊嵌孔32の径を比較的小さく抑えることができるので、遊星歯車3の小型化(特に小径化)が可能となり、歯車装置1全体としても小型化を図りやすくなる。遊星歯車3の寸法を一定とするのであれば、例えば、内ピン4の数(本数)を増やして回転の伝達をスムーズにしたり、内ピン4を太くして強度を向上させたりすることも可能である。さらに、内ローラの分だけ部品点数を少なく抑えることができ、歯車装置1の低コスト化にもつながる。
保持部材55は、固定部材であるハブ部材14に固定される。これにより、遊星歯車3は、複数の内ピン4にて、保持部材55を介して固定部材(ハブ部材14)と連結されることになる。このように、保持部材55はハブ部材14に固定されるので、保持部材55についても「固定部材」に含まれてもよい。結果的に、複数の内ピン4は、固定部材に直接的又は間接的に保持されるので、回転軸Ax1に対する相対位置が固定されることになる。さらに、保持孔551における、回転軸Ax1の入力側の開口面は、例えば、ハブ部材14にて閉塞される。これにより、回転軸Ax1の入力側への内ピン4の移動に関しては、ハブ部材14で規制される。
また、保持部材55は、平面視における中央部に、保持部材55を回転軸Ax1方向に貫通する軸受け孔552を有している。軸受け孔552は、偏心軸54を通すための孔であって、ハブ部材14の貫通孔142と連通する。そして、保持部材55と偏心軸54とは、回転軸Ax1を中心として相対的に回転可能に構成されている。具体的には、保持部材55の内径(軸受け孔552の孔径)は偏心軸54(の軸心部541)の外径よりも大きく、偏心軸54が軸受け孔552に挿通された状態で、保持部材55と偏心軸54との間には隙間が生じる。
ここにおいて、保持部材55に対しては、第1軸受け部材6の第1内輪61及び第2軸受け部材7の第2内輪71が固定される。本構成では一例として、第1内輪61は保持部材55と一体化されている。具体的には、第1内輪61は、保持部材55における回転軸Ax1の出力側の端部において、保持部材55の外周面553から全周にわたって突出するフランジ形状をなす。特に、本構成では、保持部材55及び第1内輪61は1つの金属部材にて一体に形成されており、これにより、保持部材55及び第1内輪61はシームレスな1部品として扱われる。
第1軸受け部材6は、歯車本体22に対して複数の内ピン4を回転可能に支持する部品である。言い換えれば、第1軸受け部材6は、固定部材(ハブ部材14等)に対して回転部材(胴部11等)を回転可能に支持するための部品である。
第2軸受け部材7は、歯車本体22に対して複数の内ピン4を回転可能に支持する部品である。言い換えれば、第2軸受け部材7は、第1軸受け部材6と共に、固定部材(ハブ部材14等)に対して回転部材(胴部11等)を回転可能に支持するための部品である。
第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7は、回転軸Ax1方向に並べて配置されており、回転軸Ax1方向の2箇所で、歯車本体22に対して複数の内ピン4を回転可能に支持する。ここで、本構成では、第1内輪61及び第2内輪71は、固定部材(ハブ部材14等)に対して固定され、第1外輪62及び第2外輪72は、回転部材(胴部11等)に対して固定される。したがって、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7は、いずれも内輪と外輪とが相対的に回転可能であることにより、固定部材(ハブ部材14等)に対して回転部材(胴部11等)を回転可能に支持する。第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7については、「(3.2)軸受け部材」の欄でより詳細に説明する。
偏心軸54は、図2に示すように、円柱状の部品である。偏心軸54は、軸心部541と、偏心部542と、を有している。軸心部541は、少なくとも外周面が平面視において真円となる、円柱状を有している。軸心部541の中心(中心軸)は、回転軸Ax1と一致する。偏心部542は、少なくとも外周面が平面視において真円となる、円盤状を有している。偏心部542の中心(中心軸)は、回転軸Ax1からずれた中心C1と一致する。ここで、回転軸Ax1と中心C1との間の距離ΔL(図2参照)は、軸心部541に対する偏心部542の偏心量となる。偏心部542は、軸心部541の長手方向(軸方向)の両端部以外の一部において、軸心部541の外周面から全周にわたって突出するフランジ形状をなす。上述した構成によれば、偏心軸54は、回転軸Ax1を中心に軸心部541が回転(自転)することで、偏心部542が偏心運動することになる。
本構成では、軸心部541及び偏心部542は1つの金属部材にて一体に形成されており、これにより、シームレスな偏心軸54が実現される。このような形状の偏心軸54は、偏心体軸受け5と共に遊星歯車3に組み合わされる。そのため、遊星歯車3に偏心体軸受け5及び偏心軸54が組み合わされた状態で偏心軸54が回転すると、遊星歯車3は、回転軸Ax1まわりで揺動する。
偏心体軸受け5は、偏心体外輪52及び偏心体内輪51を有し、偏心軸54の回転のうちの自転成分を吸収し、偏心軸54の自転成分を除いた偏心軸54の回転、つまり偏心軸54の揺動成分(公転成分)のみを遊星歯車3に伝達するための部品である。偏心体軸受け5は、偏心体外輪52及び偏心体内輪51に加えて、複数の転動体53(図4参照)を有している。
偏心体外輪52及び偏心体内輪51は、いずれも環状の部品である。偏心体外輪52及び偏心体内輪51は、いずれも平面視で真円となる、円環状を有している。偏心体内輪51は、偏心体外輪52よりも一回り小さく、偏心体外輪52の内側に配置される。ここで、偏心体外輪52の内径は偏心体内輪51の外径よりも大きいため、偏心体外輪52の内周面と偏心体内輪51の外周面との間には隙間が生じる。
複数の転動体53は、偏心体外輪52と偏心体内輪51との間の隙間に配置されている。複数の転動体53は、偏心体外輪52の円周方向に並べて配置されている。複数の転動体53は、全て同一形状の金属部品であって、偏心体外輪52の円周方向の全域に、等ピッチで設けられている。本構成では一例として、偏心体軸受け5は、転動体53として球体(ボール)を用いた深溝玉軸受けからなる。
ここで、偏心体内輪51の内径は、偏心軸54における偏心部542の外径と一致する。偏心体軸受け5は、偏心体内輪51に偏心軸54の偏心部542が挿入された状態で、偏心軸54と組み合わされる。また、偏心体外輪52の外径は、遊星歯車3における開口部33の内径(直径)と一致する。偏心体軸受け5は、遊星歯車3の開口部33に偏心体外輪52が嵌め込まれた状態で、遊星歯車3と組み合わされる。言い換えれば、遊星歯車3の開口部33には、偏心軸54の偏心部542に装着された状態の偏心体軸受け5が収容される。
また、本構成では一例として、偏心体軸受け5における偏心体内輪51及び偏心体外輪52の幅方向(回転軸Ax1に平行な方向)の寸法は、いずれも偏心軸54の偏心部542の厚みと略同一である。さらに、偏心体内輪51及び偏心体外輪52の幅方向の寸法は、遊星歯車3の厚みに比べて大きい。そのため、回転軸Ax1に平行な方向においては、偏心体軸受け5の範囲内に、遊星歯車3が収まることになる。
偏心体軸受け5及び偏心軸54が遊星歯車3に組み合わされた状態で、偏心軸54が回転すると、偏心体軸受け5においては、偏心体内輪51の中心C1からずれた回転軸Ax1まわりで偏心体内輪51が回転(偏心運動)する。このとき、偏心軸54の自転成分は偏心体軸受け5で吸収される。したがって、遊星歯車3には、偏心体軸受け5により、偏心軸54の自転成分を除いた偏心軸54の回転、つまり偏心軸54の揺動成分(公転成分)のみが伝達されることになる。よって、遊星歯車3に偏心体軸受け5及び偏心軸54が組み合わされた状態で偏心軸54が回転すると、遊星歯車3は、回転軸Ax1まわりで揺動する。
支持体8は、図2に示すように、環状に形成され、複数の内ピン4を支持する部品である。支持体8は、少なくとも外周面81が平面視において真円となる、円環状を有している。支持体8は、複数の内ピン4がそれぞれ挿入される複数の支持孔82を有している。支持孔82は内ピン4と同数だけ設けられており、本構成では一例として、支持孔82は8個設けられている。複数の支持孔82の各々は、円形状に開口しており、支持体8を厚み方向に沿って貫通する孔である。複数(ここでは8個)の支持孔82は、支持体8の外周面81と同心の仮想円上に、円周方向に等間隔で配置されている。支持孔82の直径は、内ピン4の直径以上であって、遊嵌孔32の直径よりも小さい。本構成では一例として、支持孔82の直径は、保持部材55に形成されている保持孔551の直径と等しい。そのため、支持体8は、複数の内ピン4の各々が自転可能な状態で、複数の内ピン4を支持する。つまり、複数の内ピン4の各々は、保持部材55と支持体8とのいずれに対しても、自転可能な状態で保持されている。
支持体8は、図3に示すように、回転軸Ax1の一方側(出力側)から遊星歯車3に対向するように配置される。そして、複数の支持孔82に複数の内ピン4が挿入されることで、支持体8は、複数の内ピン4を束ねるように機能する。これにより、支持体8は、遊星歯車3の回転(自転成分)を固定部材又は回転部材に伝達する際の、複数の内ピン4にかかる荷重を分散する。
さらに、支持体8は、外周面81を複数の外ピン23に接触させることにより位置規制されている。ここで、支持体8の外周面81の直径は、内歯歯車2における内歯21の先端を通る仮想円(歯先円)の直径と同一である。そのため、複数の外ピン23は、全て支持体8の外周面81に接触する。よって、支持体8が複数の外ピン23にて位置規制された状態では、支持体8の中心は、内歯歯車2の中心(回転軸Ax1)と重なるように位置規制される。これにより、支持体8の芯出しが行われ、結果的に、支持体8に支持されている複数の内ピン4についても、複数の外ピン23にて芯出しが行われる。
また、複数の外ピン23は、内歯歯車2の内歯21を構成する。したがって、歯車本体22と複数の内ピン4との相対的な回転時には、複数の内ピン4を支持する支持体8は、複数の内ピン4と共に、内歯歯車2(歯車本体22)に対して相対的に回転する。このとき、支持体8は複数の外ピン23にて芯出しがされているので、支持体8の中心が回転軸Ax1上に維持された状態で、支持体8は内歯歯車2に対して円滑に回転する。しかも、支持体8の外周面81は、複数の外ピン23に接した状態で複数の内ピン4と一緒に歯車本体22に対して相対的に回転する。そのため、内歯歯車2の歯車本体22を「外輪」、支持体8を「内輪」とみなせば、両者の間に介在する複数の外ピン23は「転動体(コロ)」として機能する。このように、支持体8は、内歯歯車2(歯車本体22及び複数の外ピン23)と共に、ニードルベアリング(針状ころ軸受け)を構成することとなり、円滑な回転が可能となる。
さらに、支持体8は、歯車本体22との間に複数の外ピン23を挟んでいるので、支持体8は、歯車本体22の内周面221から離れる向きの外ピン23の移動を抑制する「ストッパ」としても機能する。つまり、複数の外ピン23は、支持体8の外周面81と歯車本体22の内周面221との間で挟まれることになり、歯車本体22の内周面221からの浮きが抑制される。要するに、本構成では、複数の外ピン23の各々は、支持体8の外周面81に接触することで、歯車本体22から離れる向きの移動が規制されている。
また、本構成では、図3に示すように、支持体8は、遊星歯車3を挟んで、保持部材55と反対側に位置する。つまり、支持体8、遊星歯車3及び保持部材55は、回転軸Ax1に平行な方向に並べて配置されている。そして、支持体8は、保持部材55と共に、内ピン4の長手方向(回転軸Ax1に平行な方向)の両端部を支持し、内ピン4の長手方向の中央部が、遊星歯車3の遊嵌孔32に挿通される。このように、支持体8及び保持部材55は、内ピン4の長手方向の両端部を支持するので、内ピン4の傾きが生じにくい。特に、複数の内ピン4にかかる回転軸Ax1に対する曲げ力(曲げモーメント荷重)をも受けやすくなる。
また、本構成では、回転軸Ax1に平行な方向において、支持体8は、遊星歯車3とケース10(キャップ12)との間に挟まれている。これにより、支持体8は、回転軸Ax1の出力側(図9の左側)への移動がケース10にて規制される。支持体8の支持孔82を貫通して、支持体8から回転軸Ax1の出力側へ突出する内ピン4についても、回転軸Ax1の出力側への移動はケース10にて規制される。
第1ベアリング91及び第2ベアリング92は、それぞれ偏心軸54の軸心部541に装着される。具体的には、第1ベアリング91及び第2ベアリング92は、図3に示すように、回転軸Ax1に平行な方向において偏心部542を挟むように、軸心部541における偏心部542の両側に装着される。第1ベアリング91は、偏心部542から見て、回転軸Ax1の出力側に配置される。第2ベアリング92は、偏心部542から見て、回転軸Ax1の入力側に配置される。本構成では一例として、第1ベアリング91及び第2ベアリング92はいずれも、転動体として球体(ボール)を用いた深溝玉軸受けからなる。
第1ベアリング91は、ケース10に保持される。具体的には、キャップ12における回転軸Ax1の入力側の面には、円形状の窪みが形成されており、この窪みに第1ベアリング91が嵌め込まれることにより、ケース10に対して第1ベアリング91が取り付けられる。一方、第2ベアリング92は、保持部材55に保持される。具体的には、保持部材55における軸受け孔552に第2ベアリング92が嵌め込まれることにより、保持部材55に対して第2ベアリング92が取り付けられる。言い換えれば、第2ベアリング92は、保持部材55と偏心軸54との間の隙間に装着される。これにより、偏心軸54の軸心部541は、回転軸Ax1に平行な方向における偏心部542の両側の2箇所において、回転可能に保持されることになる。
バランスウェイト56は、偏心軸54の軸心部541が挿通される部品である。ここで、本構成に係る歯車装置1のように、高速回転側となる入力回転が偏心運動を伴う場合、高速回転する回転体の重量バランスがとれていないと、振動等につながる可能性がある。そこで、バランスウェイトは、偏心体内輪51及び偏心体内輪51と共に回転する部材(偏心軸54)の少なくとも一方からなる回転体の、回転軸Ax1に対する重量バランスをとるために設けられている。バランスウェイト56は、回転軸Ax1に対して非対称に形成されており、本構成では一例として、略扇形状に形成されている。ここでは、バランスウェイト56は、回転軸Ax1から見て、偏心体外輪52の中心C1とは反対側に重量を付加することで、偏心軸54の重量バランスを、回転軸Ax1から周方向に均等に近づけるように作用する。
スペーサ93は、偏心軸54の軸心部541が挿通される部品である。スペーサ93は、円環状の部品であって、偏心軸54の偏心部542と第1ベアリング91との間に配置される。これにより、偏心部542と第1ベアリング91との間には、スペーサ93の分だけ間隔が確保される。
また、本構成に係る歯車装置1は、図3に示すように、複数のオイルシール94,95,96等を更に備えている。オイルシール94は、ハブ部材14とリングキャップ13との間に装着され、ハブ部材14とリングキャップ13との間の隙間を塞いでいる。オイルシール95,96は、偏心軸54の軸心部541に装着された状態で、ハブ部材14の貫通孔142内に配置されることにより、ハブ部材14と偏心軸54との間の隙間を塞いでいる。これら複数のオイルシール94,95,96で密閉された、ケース10の内部空間は、密閉空間を構成する。
そして、密閉空間(ケース10の内部空間)には、潤滑剤が注入されている。潤滑剤は液体であって、密閉空間内を流動可能である。そのため、歯車装置1の使用時においては、例えば、複数の外ピン23からなる内歯21と遊星歯車3の外歯31との噛み合い部位には、潤滑剤が入り込む。本開示でいう「液体」は、液状又はゲル状の物質を含む。ここでいう「ゲル状」は、液体と固体との中間の性質を有する状態を意味し、液相と固相との2つの相からなるコロイド(colloid)の状態を含む。例えば、分散媒が液相であって、分散質が液相であるエマルション(emulsion)、分散質が固相であるサスペンション(suspension)等の、ゲル(gel)又はゾル(sol)と呼ばれる状態が「ゲル状」に含まれる。また、分散媒が固相であって、分散質が液相である状態も、「ゲル状」に含まれる。本構成では一例として、潤滑剤は、液状の潤滑油(オイル)である。
上述した構成の歯車装置1では、偏心軸54に入力としての回転力が加えられて、偏心軸54が回転軸Ax1を中心に回転することで、遊星歯車3は、回転軸Ax1まわりで揺動(公転)する。このとき、遊星歯車3は、内歯歯車2の内側で内歯歯車2に対して内接し、外歯31の一部が内歯21の一部に噛み合った状態で揺動するので、内歯21と外歯31との噛み合い位置が内歯歯車2の円周方向に移動する。これにより、遊星歯車3と内歯歯車2との歯数差に応じた相対回転が両歯車(内歯歯車2及び遊星歯車3)の間に発生する。そして、遊星歯車3は複数の内ピン4にて固定部材(ハブ部材14等)と連結され、歯車本体22は回転部材(胴部11等)に固定されるため、遊星歯車3と内歯歯車2との間の相対的な回転は、内歯歯車2から取り出される。このとき、内歯歯車2からは、遊星歯車3の揺動成分(公転成分)を除いた遊星歯車3の回転(自転成分)に相当する回転のみが取り出される。その結果、歯車本体22が固定された回転部材からは、両歯車の歯数差に応じて、比較的高い減速比で減速された回転出力が得られることになる。
ところで、本構成に係る歯車装置1においては、上述したように、内歯歯車2と遊星歯車3との歯数差は、歯車装置1での入力回転に対する出力回転の減速比を規定することになる。つまり、内歯歯車2の歯数を「V1」、遊星歯車3の歯数を「V2」とした場合、減速比R1は、下記式1で表される。ただし、ここでは、遊星歯車3と内歯歯車2との間の相対的な回転は、歯車本体22が回転部材に固定されて内歯歯車2から取り出されるケースを想定する。
R1=V1/(V1-V2)・・・(式1)
要するに、内歯歯車2と遊星歯車3との歯数差(V1-V2)が小さいほど、減速比R1は大きくなる。一例として、内歯歯車2の歯数V1が「30」、遊星歯車3の歯数V2が「29」、その歯数差(V1-V2)が「1」であるので、上記式1より、減速比R1は「30」となる。この場合、回転軸Ax1の入力側から見て、偏心軸54が回転軸Ax1を中心に時計回りに1周(360度)回転すると、歯車本体22は回転軸Ax1を中心に歯数差「1」の分(つまり約12.0度)だけ時計回りに回転する。
本構成に係る歯車装置1によれば、このように高い減速比R1が、1段の歯車(内歯歯車2及び遊星歯車3)の組み合わせで実現可能である。
また、歯車装置1は、少なくとも、内歯歯車2と、遊星歯車3と、複数の内ピン4と、第1軸受け部材6と、第2軸受け部材7と、を備えていればよく、例えば、スプラインブッシュ等を構成要素として更に備えていてもよい。
(3.2)軸受け部材
次に、本構成に係る第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7の構成について、より詳細に説明する。
第1軸受け部材6は、図2及び図3に示すように、第1内輪61及び第1外輪62を有している。第1内輪61と第1外輪62とは、回転軸Ax1を中心として相対的に回転可能な関係にある。第1軸受け部材6は、図2及び図3に示すように、第1外輪62及び第1内輪61に加えて、複数の軸受けピン63を有している。
第1内輪61及び第1外輪62は、図7~図9に示すように、いずれも環状の部品である。第1内輪61及び第1外輪62は、いずれも平面視で回転軸Ax1を中心とする真円となる、円環状を有している。第1内輪61は、第1外輪62よりも一回り小さく、第1外輪62の内側に配置される。ここで、第1外輪62の内径は第1内輪61の外径よりも大きいため、第1外輪62の内周面621と第1内輪61の外周面611(図7参照)との間には隙間が生じる。
第1内輪61は、上述したように、保持部材55に固定されている。第1内輪61の外周面611は、平面視において、保持部材55の外周面553と同心状に形成されている。本構成では特に、第1内輪61は保持部材55と一体化されており、保持部材55の外周面553から全周にわたって突出するフランジ形状の部分が、第1内輪61を構成する。つまり、図7において、想像線(二点鎖線)で示す外周面553の外側の部分が、第1内輪61に相当する。保持部材55はハブ部材14に固定されるので、結果的に、第1内輪61は、固定部材(ハブ部材14等)に対して固定されることになる。
第1外輪62は、上述したように、回転部材である胴部11に固定されている。第1外輪62の内周面621は、平面視において、第1内輪61の外周面611と同心状に形成されている。本構成では特に、第1外輪62は胴部11と一体化されており、胴部11の一部が第1外輪62を構成する。
複数の軸受けピン63は、第1内輪61と第1外輪62との間に配置されている。複数の軸受けピン63は、第1外輪62の円周方向に並べて配置されている。複数の軸受けピン63は、全て同一形状の金属部品であって、第1外輪62の円周方向の全域に、等ピッチで設けられている。複数の軸受けピン63の各々は、円柱状に形成されている。複数の軸受けピン63の直径及び長さは、複数の軸受けピン63において共通である。
ここで、複数の軸受けピン63は、自転可能な状態で第1内輪61及び第1外輪62の間に保持される。そして、複数の軸受けピン63は、第1内輪61の外周面611及び第1外輪62の内周面621に挟まれた状態にあるので、第1外輪62が第1内輪61に対して相対的に回転すると、第1外輪62の回転に伴って、複数の軸受けピン63の各々は回転(自転)する。よって、第1軸受け部材6は、ニードルベアリング(針状ころ軸受け)を構成する。
本構成では、複数の軸受けピン63は、それぞれ自転可能な状態で第1外輪62の内周面621に保持される。具体的には、第1外輪62の内周面621には、図9に示すように、円周方向の全域に複数の溝が形成されている。これら複数の溝は、それぞれ複数の軸受けピン63の保持構造としての複数の軸受け側溝622(図7参照)である。言い換えれば、複数の軸受けピン63の保持構造は、第1外輪62の内周面621に形成された複数の軸受け側溝622を含む。複数の軸受け側溝622は、全て同一形状であって、等ピッチで設けられている。複数の軸受け側溝622は、いずれも回転軸Ax1と平行であって、歯車本体22の全幅にわたって形成されている。
ただし、本構成では、上述したように第1外輪62は胴部11の一部であるので、複数の軸受け側溝622は胴部11のうちの第1外輪62に対応する部位(図10参照)にのみ形成されている。複数の軸受けピン63は、複数の軸受け側溝622に嵌るようにして、第1外輪62(胴部11)に組み合わされている。複数の軸受けピン63の各々は、軸受け側溝622内において自転可能な状態で保持され、軸受け側溝622により第1外輪62の円周方向への移動が規制される。
このように、第1軸受け部材6がニードルベアリングであることにより、第1軸受け部材6では、主としてラジアル方向の荷重を受けやすくなる。ニードルベアリングは、深溝玉軸受け等に比較してラジアル方向の耐荷重が大きいので、このような第1軸受け部材6を備えることで、歯車装置1全体としてラジアル方向の耐荷重(負荷容量)を大きくできる。
すなわち、第1軸受け部材6は、内歯歯車2の内歯21を構成する複数の外ピン23と、基本的に共通の構成を有する複数の軸受けピン63を、転動体として用いている。本構成では特に、軸受けピン63と外ピン23とでは、その本数及び直径等が同一である。つまり、図4及び図7に示すように、外ピン23及び軸受けピン63は30本ずつ設けられており、外ピン23の直径φ1(図4参照)と軸受けピン63の直径φ2(図7参照)とは同一(φ1=φ2)である。
さらに、外ピン23と軸受けピン63とでは、回転軸Ax1方向の一方から見た配置が同一である。そのため、回転軸Ax1に平行な方向において、外ピン23と軸受けピン63とは互いに重なるように配置される。具体的には、歯車本体22の内周面221に形成された複数の外ピン23の保持構造としての複数の歯車側溝222と、第1外輪62の内周面621に形成された複数の軸受けピン63の保持構造としての複数の軸受け側溝622とは、共有の配置を採用する。つまり、複数の歯車側溝222と複数の軸受け側溝622とは、いずれも胴部11の一部である歯車本体22又は第1外輪62に形成されているところ、回転軸Ax1方向の一方から見た配置は同一である(図2参照)。これにより、歯車側溝222に保持される外ピン23と、軸受け側溝622に保持される軸受けピン63とでは、回転軸Ax1方向の一方から見た配置が同一となる。
ただし、外ピン23の保持構造としての歯車側溝222と、軸受けピン63の保持構造としての軸受け側溝622とでは、その形状が異なる。本構成では、歯車側溝222の深さD1(図4参照)は、軸受け側溝622の深さD2(図7参照)より大きい。つまり、複数の歯車側溝222と複数の軸受け側溝622とでは各々の深さが異なる(D1>D2)。具体的には、歯車側溝222及び軸受け側溝622は、回転軸Ax1方向の一方から見て、いずれも外ピン23又は軸受けピン63の直径φ1(=φ2)以上の径の円弧状の底面を有する溝である。言い換えれば、歯車側溝222及び軸受け側溝622の底面は、いずれも外ピン23又は軸受けピン63の半径以上の曲率半径を有する。ここでは一例として、歯車側溝222及び軸受け側溝622の底面は、いずれも外ピン23又は軸受けピン63の半径と同一の曲率半径を有する。そして、軸受け側溝622の方が、歯車側溝222よりも浅く構成されている。
そして、本構成では、外ピン23の直径φ1と軸受けピン63の直径φ2とは同一(φ1=φ2)であるので、複数の軸受け側溝622は、複数の歯車側溝222に比べて、保持するピンの径に対する深さの比率が小さくなる。つまり、軸受け側溝622における軸受けピン63の直径φ2に対する深さD2の比率(D2/φ2)は、歯車側溝222における外ピン23の直径φ1に対する深さD1の比率(D1/φ1)より小さくなる。本構成では一例として、歯車側溝222の深さD1の外ピン23の直径φ1に対する比率(D1/φ1)は、「1/2」である。一方、軸受け側溝622の深さD2の軸受けピン63の直径φ2に対する比率(D2/φ2)は、「1/3」である。ここで、少なくとも軸受け側溝622の深さD2の軸受けピン63の直径φ2に対する比率(D2/φ2)は、「1/2」以下であることが好ましく、「1/3」以下であることがより好ましく、例えば「1/4」程度であってもよい。
要するに、外ピン23には主に回転軸Ax1まわりの回転方向の力が掛かるのに対して、軸受けピン63には主にラジアル方向の力が掛かるので、軸受けピン63を保持する軸受け側溝622は、軸受けピン63が脱落しない最低限の深さD2があれば足りる。むしろ、軸受け側溝622の深さD2を小さく抑えることで、軸受け側溝622の内面と軸受けピン63との間の摩擦抵抗を低減でき、第1軸受け部材6での損失を低減できるという利点がある。さらに、軸受け側溝622の深さD2を小さく抑えることで、軸受け側溝622内に潤滑剤が入り込みやすくなるという利点もある。
以上説明したように、本構成では、外ピン23と軸受けピン63とでは、径(直径)が同一であって、かつ回転軸Ax1方向の一方から見た配置が同一である。そのため、本構成では、外ピン23が回転(自転)する際の中心となる中心軸Ax2(図10参照)と、軸受けピン63が回転(自転)する際の中心となる中心軸Ax3(図10参照)と、は一直線上に位置することになる。言い換えれば、複数の軸受けピン63の各々は、複数の外ピン23の各々と同心に配置されている。
また、本構成では、複数の軸受けピン63の各々は、複数の外ピン23の各々と別体である。外ピン23の回転(自転)と軸受けピン63の回転(自転)とは、そもそも非同期であるところ、別体として構成された外ピン23と軸受けピン63とは、個別に回転することが可能である。言い換えれば、外ピン23の回転(自転)と軸受けピン63の回転(自転)とは互いに干渉しにくく、互いの回転を阻害しにくい。ただし、外ピン23と軸受けピン63とは、一部同期して回転してもよい。
また、本構成では、第1内輪61の外周面611は、第1内輪61の外周面611に隣接する一表面に比べて表面粗さが小さい。つまり、第1内輪61における回転軸Ax1方向の両端面に比べて、外周面611の表面粗さは小さい。本開示でいう「表面粗さ」は、物体の表面の粗さの程度を意味し、値が小さい程、表面の凹凸が小さく(少なく)、滑らかである。本構成では一例として、表面粗さは算術平均粗さ(Ra)であることとする。例えば、研磨等の処理により、第1内輪61の外周面611は、第1内輪61の外周面611以外の面に比べて、表面粗さが小さくされている。この構成では、第1内輪61に対する第1外輪62の回転がより円滑になる。
また、本構成では、第1内輪61の外周面611の硬度は、複数の軸受けピン63の周面より低く、第1外輪62の内周面621より高い。本開示でいう「硬度」は、物体の硬さの程度を意味し、金属の硬度は、例えば、鋼球を一定の圧力で押しつけてできるくぼみの大小で表される。具体的には、金属の硬度の一例として、ロックウェル硬さ(HRC)、ブリネル硬さ(HB)、ビッカース硬さ(HV)又はショア硬さ(Hs)等がある。金属部品の硬度を高める(硬くする)手段としては、例えば、合金化又は熱処理等がある。本構成では一例として、浸炭焼き入れ等の処理により、第1内輪61の外周面611の硬度が高められている。この構成では、第1内輪61に対する第1外輪62の回転によっても摩耗粉等が生じにくく、第1軸受け部材6の円滑な回転を長期にわたって維持しやすい。
このように、表面粗さが小さく、かつ硬度が高い面構成は、支持体8の外周面81にも適用されることが好ましい。つまり、本構成では、支持体8は第1軸受け部材6と同様のニードルベアリングの「内輪」として機能するので、内輪の外周面に相当する支持体8の外周面81についても、適切な表面粗さ、かつ硬度が適用されることが好ましい。
第2軸受け部材7は、図2及び図3に示すように、第2外輪72及び第2内輪71を有している。第2内輪71と第2外輪72とは、回転軸Ax1を中心として相対的に回転可能な関係にある。第2軸受け部材7は、図2及び図3に示すように、第2外輪72及び第2内輪71に加えて、複数の第2転動体73を有している。
第2内輪71及び第2外輪72は、図2に示すように、いずれも環状の部品である。第2内輪71及び第2外輪72は、いずれも平面視で回転軸Ax1を中心とする真円となる、円環状を有している。第2内輪71は、第2外輪72よりも一回り小さく、第2外輪72の内側に配置される。ここで、第2外輪72の内径は第2内輪71の外径よりも大きいため、第2外輪72の内周面と第2内輪71の外周面との間には隙間が生じる。さらに、本構成では、図3に示すように、第2外輪72の内径は、第1内輪61の外径より大きく第1外輪62の内径より小さい。第2内輪71の外径は、第1内輪61の外径より小さい。
第2内輪71は、保持部材55に固定されている。ここで、第2内輪71の内径は、保持部材55(の外周面553)の外径と一致する。第2軸受け部材7は、第2内輪71に保持部材55が挿入された状態で、保持部材55と組み合わされる。保持部材55はハブ部材14に固定されるので、結果的に、第2内輪71は、固定部材(ハブ部材14等)に対して固定されることになる。
第2外輪72は、回転部材である胴部11に固定されている。第2外輪72の外径は、胴部11における外輪固定枠74(図3参照)の内径と一致する。第2軸受け部材7は、胴部11の外輪固定枠74に第2外輪72が嵌め込まれた状態で、胴部11と組み合わされる。言い換えれば、回転部材である胴部11の外輪固定枠74には、保持部材55に装着された状態の第2軸受け部材7が収容される。
複数の第2転動体73は、第2内輪71と第2外輪72との間の隙間に配置されている。複数の第2転動体73は、第2外輪72の円周方向に並べて配置されている。複数の第2転動体73は、全て同一形状の金属部品であって、第2外輪72の円周方向の全域に、等ピッチで設けられている。本構成では一例として、第2軸受け部材7は、第2転動体73として球体(ボール)を用いた深溝玉軸受けからなる。つまり、第2軸受け部材7は、深溝玉軸受けを含む。
このように、第2軸受け部材7が深溝玉軸受けであることにより、第2軸受け部材7では、主としてスラスト方向(回転軸Ax1に沿う方向)の荷重を受けやすくなる。つまり、第2軸受け部材7は、少なくとも回転軸Ax1方向に沿った荷重を受ける。深溝玉軸受けは、ニードルベアリングに比較してラジアル方向の耐荷重が小さいものの、スラスト方向の耐荷重が大きいので、このような第2軸受け部材7を備えることで、歯車装置1全体としてスラスト方向の耐荷重(負荷容量)を大きくできる。
要するに、本構成に係る歯車装置1では、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7を備えることで、ラジアル方向の荷重及びスラスト方向の荷重を受けやすくなる。つまり、歯車装置1は、ラジアル方向の荷重についてはニードルベアリングからなる第1軸受け部材6で受け、スラスト方向の荷重については深溝玉軸受けからなる第2軸受け部材7で受けることができる。さらに、歯車装置1は、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7により、回転軸Ax1方向の2箇所で、歯車本体22に対して複数の内ピン4を回転可能に支持する。そのため、歯車装置1は、回転軸Ax1に対する曲げ力(曲げモーメント荷重)のいずれをも受けやすくなる。
このように、本構成に係る歯車装置1においては、クロスローラベアリングを用いなくても、ラジアル方向の荷重、スラスト方向の荷重、及び回転軸Ax1に対する曲げ力の3種類の荷重に耐えることができ、必要な剛性を確保することができる。しかも、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7で分担して荷重を受けることで、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7の各々の長寿命化にも寄与する。
次に、図3及び図10を参照して、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7の相対的な位置関係を含む、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7の配置について説明する。すなわち、本構成では、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7は、回転軸Ax1方向の2箇所で、歯車本体22に対して複数の内ピン4を回転可能に支持する。したがって、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7は、回転軸Ax1に平行な方向に並べて配置されている。
本構成では、図3に示すように、内歯歯車2、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7は、回転軸Ax1の出力側から、内歯歯車2、第1軸受け部材6、第2軸受け部材7の順で並ぶように配置されている。すなわち、第1軸受け部材6は、回転軸Ax1に平行な方向において、内歯歯車2と第2軸受け部材7との間に位置する。言い換えれば、第1軸受け部材6は、複数の外ピン23に対して、第2軸受け部材7と回転軸Ax1方向の同じ側に位置する。本構成では、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7は、いずれも複数の外ピン23に対して、回転軸Ax1の入力側(図3の右側)に位置する。
さらに、複数の軸受けピン63は、回転軸Ax1方向において第2軸受け部材7と複数の外ピン23との間に位置する。つまり、第1軸受け部材6は複数の外ピン23に対して、回転軸Ax1の入力側(図3の右側)に位置し、第2軸受け部材7は第1軸受け部材6に対して、回転軸Ax1の入力側(図3の右側)に位置する。したがって、第1軸受け部材6の複数の軸受けピン63は、回転軸Ax1に平行な方向において、第2軸受け部材7と複数の外ピン23との間に挟まれることになる。
ここで、内歯歯車2、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7は、回転軸Ax1に平行な方向において、略隙間なく並んでいる。具体的には、図10に示すように、胴部11を回転軸Ax1に平行な方向において3つの領域に分割したときに、これら3つの領域が、それぞれ内歯歯車2、第1軸受け部材6の第1外輪62、第2軸受け部材7を固定するための外輪固定枠74として機能する。すなわち、本構成では歯車本体22、第1外輪62及び外輪固定枠74はシームレスな1部品(胴部11)を構成するので、図10において、想像線(二点鎖線)で示す境界線により、歯車本体22、第1外輪62及び外輪固定枠74が区分される。
上述したような配置により、複数の軸受けピン63の回転軸Ax1方向の一端は、第2外輪72又は第2内輪71に接触する。具体的には、図10に示すように、軸受けピン63の回転軸Ax1の入力側(図10の右側)の端面は、第2軸受け部材7の第2外輪72に接触する。これにより、回転軸Ax1の入力側への軸受けピン63の移動に関しては、第2外輪72で規制される。さらに、複数の軸受けピン63の回転軸Ax1方向の他端は、外ピン23に接触する。具体的には、図10に示すように、軸受けピン63の回転軸Ax1の出力側(図10の左側)の端面は、外ピン23に接触する。これにより、回転軸Ax1の出力側への軸受けピン63の移動に関しては、外ピン23で規制される。
また、本構成に係る歯車装置1では、複数の内ピン4の各々は、少なくとも一部が第1軸受け部材6の軸方向(回転軸Ax1方向)において第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7と同じ位置に配置されている。つまり、図10に示すように、回転軸Ax1に平行な方向においては、内ピン4は、その少なくとも一部が第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7と同じ位置に配置されている。
言い換えれば、複数の内ピン4の各々は、少なくとも一部が第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7の内側に配置されることになる。要するに、本構成では、上述したように、複数の内ピン4は、回転軸Ax1方向の一方から見て第2軸受け部材7の内側に位置する。さらに、複数の内ピン4は、第1軸受け部材6との関係でも、回転軸Ax1方向の一方から見て第1軸受け部材6の内側に位置する。このように、複数の内ピン4の各々の少なくとも一部が、第1軸受け部材6の軸方向において第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7と同じ位置に配置されることで、回転軸Ax1に平行な方向における歯車装置1の寸法を小さく抑えることができる。
また、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7は、複数の内ピン4を保持する保持部材55との位置関係については、以下の関係にある。すなわち、第1軸受け部材6及び第2軸受け部材7は、回転軸Ax1方向の一方から見て保持部材55の外側に位置する。具体的には、第1軸受け部材6の第1内輪61は、保持部材55の外周面553から全周にわたって突出するフランジ形状をなすので、回転軸Ax1方向の一方から見て保持部材55の外側に位置する。第2軸受け部材7は、第2内輪71に保持部材55が挿入された状態で保持部材55と組み合わされるので、回転軸Ax1方向の一方から見て保持部材55の外側に位置する。
(4)適用例
次に、本構成に係る歯車装置1の適用例について、図11を参照して説明する。
本構成に係る歯車装置1は、車輪本体102と共に、車輪装置W1を構成する。言い換えれば、本構成に係る車輪装置W1は、歯車装置1と、車輪本体102と、を備えている。車輪本体102は、歯車本体22に対して複数の内ピン4が相対的に回転する際の回転出力により、走行面上を転がる。本構成では、歯車装置1の外郭を構成するケース10のうち、「回転部材」としての胴部11、キャップ12及びリングキャップ13が、車輪本体102を構成する。つまり、本構成に係る車輪装置W1においては、歯車装置1が、偏心軸54の回転を入力回転とし、歯車本体22が固定された回転部材(胴部11等)の回転を出力回転として動作することで、車輪本体102が回転して走行面上を転がることになる。ここで、車輪本体102における走行面との接触面、つまり接地面となる胴部11の外周面には、例えば、ゴム製のタイヤ103が装着される。
そして、歯車装置1を用いた車輪装置W1は、例えば、図11に示すように、車体100と共に車両V1を構成する。言い換えれば、本構成に係る車両V1は、車輪装置W1と、車体100と、を備えている。車体100は、車輪装置W1を保持する。つまり、本構成に係る車両V1は、歯車装置1を含む車輪装置W1を車輪として用い、車輪本体102が回転して走行面上を転がることで、床面等からなる平坦な走行面上を走行する。図11の例では、車両V1は、4つの車輪装置W1を備えており、平面視矩形状の車体100の四隅にそれぞれ車輪装置W1が装着されている。このような車両V1は、車輪装置W1に駆動力を与えるための駆動源101を備えている。図11の例では、車両V1には4つの駆動源101が搭載されており、駆動源101は車輪装置W1と一対一に対応する「インホイールモータ」のレイアウトを採用する。
駆動源101は、各車輪装置W1に含まれる歯車装置1の遊星歯車3を揺動させるための駆動力を発生する。具体的には、駆動源101は、モータ(電動機)等の動力の発生源である。駆動源101で発生した動力は、歯車装置1における偏心軸54に伝達される。つまり、駆動源101は、対応する車輪装置W1の偏心軸54を、回転軸Ax1を中心に回転させることにより、遊星歯車3を揺動させる。これにより、駆動源101で発生する回転(入力回転)が、歯車装置1において比較的高い減速比にて減速され、車輪本体102を比較的高トルクで回転させる。
このようにして、複数(ここでは4つ)の車輪装置W1が個別に駆動されることにより、車両V1は、走行面上を任意の方向に移動可能となる。例えば、車両V1は、複数の車輪装置W1が同一方向に同一速度で回転駆動されることによって、直線的に走行し、複数の車輪装置W1間に回転差が与えられることによって、進行方向を変えてカーブ走行又は旋回等を実行することができる。したがって、車両V1は、前進、後進、左右方向への旋回等を行うことができる。ここでいう旋回には、信地旋回及び超信地旋回を含む。
このように、車両V1は、駆動輪として車輪装置W1を用いることで、駆動源101の制御によって、走行面上を自在に走行可能となる。特に、本構成に係る車両V1は、無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)のように、比較的高いトルクを必要とする車両に好適である。この無人搬送車としての車両V1は、例えば、車体100上に搬送物を積載した状態で走行面上を自律走行する。これにより、車両V1は、ある場所に置かれている搬送物を、別の場所に搬送することが可能である。
この種の車両V1においては、車輪装置W1は、車体100の重量だけでなく、車体100上に積載された搬送物の重量も支える必要がある。つまり、車両V1の走行時だけでなく、車両V1の停車時においても、車輪装置W1には、ラジアル方向(回転軸Ax1に直交する方向)に比較的大きな荷重がかかる場合がある。本構成に係る車輪装置W1は、歯車装置1の第1軸受け部材6として、軸受けピン63を「転動体(コロ)」とするニードルベアリングを用いているので、ラジアル方向の荷重については比較的大きな荷重に耐え得る。
そして、車両V1がカーブ走行又は旋回等を行う際には、車輪装置W1には、スラスト方向(回転軸Ax1に沿う方向)の荷重もかかり得るが、スラスト方向の荷重は、ラジアル方向の荷重に比べて十分に小さくなる。しかも、本構成に係る車輪装置W1は、歯車装置1の第2軸受け部材7として、深溝玉軸受けを用いているので、このようなスラスト方向の荷重については第2軸受け部材7にて受けることができる。要するに、無人搬送車のように、ラジアル方向に比較的大きな荷重がかかりやすく、スラスト方向にはそれほど大きな荷重がかからない車両V1にとっては、本構成に係る歯車装置1を用いた車輪装置W1は特に好適である。
さらに、本構成では、歯車装置1は、歯車本体22の回転力を出力として取り出すので、車輪装置W1の駆動時には、歯車本体22と一体化された第1外輪62についても、回転軸Ax1を中心に回転することになる。第1外輪62が回転すると、第1外輪62の複数の軸受け側溝622に保持されている複数の軸受けピン63についても、回転軸Ax1を中心に回転する。その結果、主にラジアル方向の荷重を受ける第1軸受け部材6においては、回転軸Ax1の上下方向に位置する軸受けピン63が随時変化するので、一部の軸受けピン63に集中的に荷重がかかることを回避しやすい。
また、本構成では、駆動源101は車輪装置W1の構成要素に含まないこととするが、この例に限らず、駆動源101は車輪装置W1の構成要素に含まれていてもよい。この場合、車輪装置W1は、駆動源101、歯車装置1及び車輪本体102を備えることになる。
(5)変形例
基本構成は、本開示の様々な構成の一つに過ぎない。基本構成は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、本開示で参照する図面は、いずれも模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。以下、基本構成の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
基本構成では、遊星歯車3が1つのタイプの歯車装置1を例示したが、歯車装置1は、遊星歯車3を複数備えていてもよい。例えば、歯車装置1が遊星歯車3を2つ備える場合、これら2つの遊星歯車3は、回転軸Ax1まわりで180度の位相差をもって配置されることが好ましい。また、歯車装置1が遊星歯車3を3つ備える場合、これら3つの遊星歯車3は、回転軸Ax1まわりで120度の位相差をもって配置されることが好ましい。このように、複数の遊星歯車3が、回転軸Ax1を中心とする周方向において均等に配置されている場合には、複数の遊星歯車3間での重量バランスをとることが可能である。
また、歯形及びその他の構造(原理)についても適宜変更可能であって、歯車装置1は、例えば、サークリュート(Circulute)歯形の遊星歯車3を採用した偏心揺動タイプの歯車装置(一例として特開2017-137989号公報参照)等であってもよい。さらに、歯車装置1は、例えば、インプットギヤの回転をスパーギヤ及びクランク軸を介して偏心揺動に変換する偏心揺動タイプの歯車装置(一例として特開2020-85213号参照)等であってもよい。
また、図12に示すように、複数の軸受けピン63の各々は、複数の外ピン23の各々と一体であってもよい。すなわち、図12の例では、1本のピンを軸方向に延長し、その一部を軸受けピン63として機能させ、他の一部を外ピン23として機能させる。本変形例の構成では、外ピン23と軸受けピン63とは一緒に回転することになり個別に回転できないものの、部品点数を少なく抑えることが可能である。
また、複数の内ピン4の各々が、回転軸Ax1方向において第1軸受け部材6又は第2軸受け部材7と同じ位置に配置されることは、歯車装置1において必須の構成ではない。すなわち、複数の内ピン4の各々は、回転軸Ax1方向において第1軸受け部材6又は第2軸受け部材7と並ぶ(対向する)ように配置されてもよい。
また、基本構成で説明した内ピン4の数、及び外ピン23の数(内歯21の歯数)、及び外歯31の歯数等は、一例に過ぎず、適宜変更可能である。
また、第2軸受け部材7は、深溝玉軸受けに限らず、例えば、クロスローラベアリング又はアンギュラ玉軸受等であってもよい。さらに、第2軸受け部材7は、例えば、4点接触玉軸受け等のように、ラジアル方向の荷重、スラスト方向(回転軸Ax1に沿う方向)の荷重、及び回転軸Ax1に対する曲げ力(曲げモーメント荷重)のいずれに対しても耐え得る構成であってもよい。
また、歯車装置1は、第2軸受け部材7とは別に、例えば、深溝玉軸受け、クロスローラベアリング又はアンギュラ玉軸受等の軸受け部材を、更に備えていてもよい。
また、偏心体軸受け5は、深溝玉軸受けに限らず、例えば、アンギュラ玉軸受等であってもよい。さらには、偏心体軸受け5は、玉軸受に限らず、例えば、転動体53がボール状でない「ころ」からなる、円筒ころ軸受、針状ころ軸受又は円錐ころ軸受等のころ軸受であってもよい。
また、歯車装置1の各構成要素の材質は、金属に限らず、例えば、エンジニアリングプラスチック等の樹脂であってもよい。
また、歯車装置1としては、歯車本体22に対して複数の内ピン4が相対的に回転する際、歯車本体22の回転力が出力として取り出される構成に限らない。例えば、遊星歯車3が複数の内ピン4にて回転部材と連結され、歯車本体22が固定部材に固定されることで、歯車本体22に対して複数の内ピン4が相対的に回転する際、遊星歯車3の回転力(自転成分)が出力として取り出されてもよい。
また、潤滑剤は、潤滑油(オイル)等の液状の物質に限らず、グリス等のゲル状の物質であってもよい。
また、歯車装置1は内ローラを備えていてもよい。つまり、歯車装置1において、複数の内ピン4の各々が、遊嵌孔32の内周面に直接的に接触することは必須ではなく、複数の内ピン4の各々と遊嵌孔32との間に内ローラが介在してもよい。この場合、内ローラは、内ピン4に装着されて内ピン4を軸に回転可能となる。さらに、そもそも複数の内ピン4の各々が、保持部材55に対して自転可能な状態で保持されることは必須ではない。
また、複数の内ピン4の各々は、少なくとも一部が回転軸Ax1方向において第1軸受け部材6又は第2軸受け部材7と同じ位置に配置されていればよい。例えば、複数の内ピン4の各々は、その全体が、回転軸Ax1方向において第1軸受け部材6又は第2軸受け部材7の範囲内に収まってもよい。
また、複数の内ピン4は、遊星歯車3を、固定部材(ハブ部材14等)に保持部材55を介して連結することは、歯車装置1において必須ではない。例えば、複数の内ピン4は、ハブ部材14に形成された保持孔に挿入されることで、遊星歯車3を固定部材(ハブ部材14等)に直接的に連結してもよい。
また、支持体8が、周方向及び径方向の両方について、複数の内ピン4の支持体8に対する位置決めを行うことは、歯車装置1において必須ではない。例えば、支持体8は、径方向(ラジアル方向)に延びるスリット状の支持孔82を有し、周方向についてのみ、複数の内ピン4の支持体8に対する位置決めを行ってもよい。反対に、支持体8は、径方向についてのみ、複数の内ピン4の支持体8に対する位置決めを行ってもよい。
また、基本構成のように、バランスウェイト56を備えることは、歯車装置1に必須の構成ではない。すなわち、バランスウェイト56を付加するのではなく、回転体(偏心体内輪51及び偏心軸54等)の一部を肉抜きすることで軽量化し、これによって回転軸Ax1に対する回転体の重量バランスをとることも可能である。この構成によれば、部品点数を少なく抑えつつも、高速回転する回転体の重量バランスに起因した振動等の抑制が期待できる。
また、車両V1は、車輪装置W1を1つ以上備えていればよく、車輪装置W1の数は4つ(四輪)に限らない。一例として、車両V1は、車輪装置W1を1~3つ備えていてもよいし、5つ以上備えていてもよい。さらに、車輪装置W1を駆動するための駆動源101は、車輪装置W1に対して一対一となるインホイールモータのレイアウトに限らず、複数の車輪装置W1に対して1つの駆動源101が設けられていてもよい。また、基本構成に係る車輪装置W1は、車両V1の駆動輪にのみ設けられればよいのであって、例えば、車両V1は、駆動輪としての車輪装置W1に加えて、1つ以上の従動輪を備えていてもよい。従動輪は、駆動源101からの動力が伝達されず、車両V1の走行のための駆動力を発生しない「非駆動輪」である。
また、基本構成に係る歯車装置1を含む車輪装置W1を用いた車両V1は、無人搬送車(AGV)に限らず、例えば、監視車両又は撮影車両等の、搬送用途以外の車両であってもよい。さらに、車両V1は、無人で走行する自律走行型の車両に限らず、例えば、人が乗り込んで操作(運転)する車両、又は人が遠隔操作する車両等であってもよい。
また、基本構成に係る歯車装置1は、車輪装置W1としての用途に限らず、例えば、水平多関節ロボット、いわゆるスカラ(SCARA:Selective Compliance Assembly Robot Arm)型ロボットのようなロボットに適用されてもよい。この場合、歯車装置1は、遊星歯車3を揺動させるための駆動力を発生する駆動源101と共にアクチュエータを構成し、当該アクチュエータがロボットに搭載される。さらに、歯車装置1及びアクチュエータの適用例は、水平多関節ロボットに限らず、例えば、水平多関節ロボット以外の産業用ロボット、又は産業用以外のロボット等であってもよい。水平多関節ロボット以外の産業用ロボットには、一例として、垂直多関節型ロボット又はパラレルリンク型ロボット等がある。産業用以外のロボットには、一例として、家庭用ロボット、介護用ロボット又は医療用ロボット等がある。
また、基本構成のように、歯車本体22、第1外輪62及び外輪固定枠74が一体化されていることは、歯車装置1に必須の構成ではない。例えば、歯車本体22、第1外輪62及び外輪固定枠74は、別体(別々の部品)であって、これら歯車本体22、第1外輪62及び外輪固定枠74が、圧入、溶接又は接着等の固定手段で、胴部11に固定されていてもよい。
また、基本構成のように、第1内輪61が保持部材55と一体化されていることは、歯車装置1に必須の構成ではない。例えば、第1内輪61と保持部材55とは別体(別々の部品)であって、これら第1内輪61が、圧入、溶接又は接着等の固定手段で、保持部材55に固定されていてもよい。さらに、第2内輪71は保持部材55と一体化されていてもよい。
(実施形態1)
本実施形態に係る内接噛合遊星歯車装置1A(以下、単に「歯車装置1A」ともいう)は、図13及び図14に示すように、第1軸受け部材6Aの構成が、基本構成に係る歯車装置1と相違する。以下、基本構成と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。図13は、歯車装置1Aの概略断面図である。図14は図13のB1-B1線断面図、及びその一部拡大図である。ただし、図14では、偏心軸54以外の部品について、断面であってもハッチングを省略している。
ところで、上述した関連技術では、軸受け部材としてクロスローラベアリングが用いられているため、比較的複雑な構造を持つクロスローラベアリングによって、歯車装置1全体としての構造の簡略化の妨げとなることがある。本実施形態に係る歯車装置1Aは、以下の構成により、構造の簡略化を図りやすい内接噛合遊星歯車装置1Aを提供可能とする。
すなわち、本実施形態に係る歯車装置1Aは、図13及び図14に示すように、内歯歯車2と、遊星歯車3と、複数の内ピン4と、第1軸受け部材6Aと、を備える。内歯歯車2は、環状の歯車本体22と、自転可能な状態で歯車本体22の内周面221に保持され内歯21を構成する複数の外ピン23と、を有する。遊星歯車3は、内歯21に部分的に噛み合う外歯31を有する。複数の内ピン4は、遊星歯車3に形成された複数の遊嵌孔32にそれぞれ挿入された状態で、遊嵌孔32内を公転しながら歯車本体22に対して相対的に回転する。第1軸受け部材6Aは、第1内輪61及び第1外輪62と、複数の軸受けピン63と、を有する。複数の軸受けピン63は、自転可能な状態で第1内輪61及び第1外輪62の間に保持される。ここで、複数の外ピン23と複数の軸受けピン63とでは、各々の径が異なり、かつ保持構造が異なる。
この態様によれば、第1軸受け部材6Aは、第1内輪61、第1外輪62及び複数の軸受けピン63を有する。つまり、第1軸受け部材6Aは、軸受けピン63を「転動体(コロ)」とするニードルベアリングであって、ラジアル方向の荷重については比較的大きな荷重に耐え得る。しかも、複数の外ピン23と複数の軸受けピン63とでは、各々の径が異なり、かつ保持構造も異なるので、軸受けピン63の径及び保持構造の設定次第で、想定される様々な荷重に耐えやすくなる。したがって、軸受け部材としてクロスローラベアリングを用いる関連技術に比べて、本実施形態に係る歯車装置1Aでは、構造の簡略化を図りやすい、という利点がある。
すなわち、複数の外ピン23と複数の軸受けピン63とでは、各々の径が異なる。本実施形態では、基本構成に比較して、第1軸受け部材6Aにおける軸受けピン63の長さに対する直径φ2(図14参照)の比率が大きくなっている。つまり、本実施形態では、軸受けピン63として太いピンが用いられている。そのため、図13に示すように、軸受けピン63は外ピン23に比べて太い径を有する。言い換えれば、軸受けピン63の直径φ2は、外ピン23の直径φ1(図4参照)に比べて大きい。したがって、本実施形態に係る第1軸受け部材6Aでは、基本構成に係る第1軸受け部材6に比較して、ラジアル方向の耐荷重(負荷容量)を大きくでき、歯車装置1A全体としても、ラジアル方向の耐荷重(負荷容量)を大きくできる。
また、本実施形態において、複数の外ピン23と複数の軸受けピン63とでは、保持構造が異なる。本開示でいう「保持構造が異なる」とは、外ピン23を保持するための保持構造と、軸受けピン63を保持するための保持構造とで、何らかの違いがあることを意味する。一例として、基本構成で説明したように、外ピン23の保持構造としての歯車側溝222と、軸受けピン63の保持構造としての軸受け側溝622とで、その形状(深さ)が異なるケースも、「保持構造が異なる」ことに含まれる。他の例として、複数の外ピン23と複数の軸受けピン63とでは、保持構造の材質又は硬度等の性質が異なるケースも、「保持構造が異なる」ことに含まれる。
本実施形態では、まず基本構成と同様に、歯車側溝222の深さD1(図4参照)は、軸受け側溝622の深さD2(図14参照)より大きい。つまり、複数の歯車側溝222と複数の軸受け側溝622とでは各々の深さが異なる(D1>D2)。具体的には、軸受け側溝622は、回転軸Ax1方向の一方から見て、軸受けピン63の直径φ2(>φ1)以上の径の円弧状の底面を有する溝である。言い換えれば、軸受け側溝622の底面は、歯車側溝222の底面よりも大きな曲率半径を有する。ここでは一例として、軸受け側溝622の底面は、軸受けピン63の半径と同一の曲率半径を有する。その上で、軸受け側溝622の方が、歯車側溝222よりも浅く構成されている。
そして、本実施形態では、外ピン23の直径φ1と軸受けピン63の直径φ2とは異なる(φ1<φ2)ものの、複数の軸受け側溝622は、複数の歯車側溝222に比べて、保持するピンの径に対する深さの比率が小さく設定されている。つまり、軸受け側溝622における軸受けピン63の直径φ2に対する深さD2の比率(D2/φ2)は、歯車側溝222における外ピン23の直径φ1に対する深さD1の比率(D1/φ1)より小さい。本実施形態では一例として、軸受け側溝622の深さD2の軸受けピン63の直径φ2に対する比率(D2/φ2)は、「1/4」以下である。
要するに、本実施形態では、外ピン23の保持構造(歯車側溝222)と、軸受けピン63の保持構造(軸受け側溝622)との違いとして、深さ(D1及びD2)の違いだけでなく、底面の曲率半径の違いも含んでいる。このように、歯車側溝222と軸受け側溝622とで形状が異なる場合、胴部11に対して歯車側溝222及び軸受け側溝622を形成するための加工が複雑になるものの、径が異なる外ピン23及び軸受けピン63をそれぞれ確実に保持できる。
また、本実施形態では、外ピン23と軸受けピン63とでは、径(直径)が異なるため、外ピン23が回転(自転)する際の中心となる中心軸Ax2と、軸受けピン63が回転(自転)する際の中心となる中心軸Ax3とは、互いにずれて配置される。言い換えれば、複数の軸受けピン63の各々は、複数の外ピン23の各々と同心に配置されていない。本実施形態では、図13に示すように、軸受けピン63の中心軸Ax3が、外ピン23の中心軸Ax2よりも内側(回転軸Ax1)側に位置する。
さらに、本実施形態では、支持体8(の外周面81)の直径は、内歯歯車2における内歯21の先端を通る仮想円(歯先円)の直径よりも一回り小さい。そのため、支持体8の外周面81は複数の外ピン23に接触しておらず、支持体8の外周面81と複数の外ピン23との間には隙間が生じる。
実施形態1の変形例として、図15に示すように、複数の軸受けピン63の各々は、複数の外ピン23の各々と一体であってもよい。すなわち、図15の例では、1本のピンを軸方向に延長し、その一部を軸受けピン63として機能させ、他の一部を外ピン23として機能させる。ここで、軸受けピン63の直径φ2と外ピン23の直径φ1とが異なるため、外ピン23が回転(自転)する際の中心となる中心軸Ax2と、軸受けピン63が回転(自転)する際の中心となる中心軸Ax2と、は一直線上に配置される。これにより、外ピン23及び軸受けピン63が一体化されたピンを、中心軸Ax2まわりで回転させることができる。本変形例の構成では、外ピン23と軸受けピン63とは一緒に回転することになり個別に回転できないものの、部品点数を少なく抑えることが可能である。
実施形態1の他の変形例として、第2軸受け部材7は適宜省略可能である。つまり、歯車装置1Aは、内歯歯車2と、遊星歯車3と、複数の内ピン4と、第1軸受け部材6Aと、を備えていればよく、第2軸受け部材7は省略されてもよい。
実施形態1の他の変形例として、軸受けピン63の直径φ2は外ピン23の直径φ1よりも小さくてもよい。さらに、軸受けピン63と外ピン23とで、本数が異なっていてもよい。
また、実施形態1の他の変形例として、支持体8の外周面81の直径は、内歯歯車2における内歯21の先端を通る仮想円(歯先円)の直径と同一であってもよい。この場合、基本構成と同様に、支持体8は、外周面81を複数の外ピン23に接触させることにより位置規制される。
実施形態1の構成(変形例を含む)は、基本構成で説明した構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて適用可能である。
(実施形態2)
本実施形態に係る内接噛合遊星歯車装置1B(以下、単に「歯車装置1B」ともいう)は、図16及び図17に示すように、第1軸受け部材6Bの構成が、実施形態1に係る歯車装置1Aと相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。図16は、歯車装置1Bの概略断面図である。図17は図16のB1-B1線断面図、及びその一部拡大図である。ただし、図17では、偏心軸54及び保持器64以外の部品について、断面であってもハッチングを省略している。
本実施形態では、第1軸受け部材6Bは、複数の軸受けピン63が第1外輪62に対して、相対的に第1外輪62の円周方向へ移動可能に構成されている。一方、内歯歯車2においては、実施形態1と同様に、複数の外ピン23が歯車本体22に対して、相対的に歯車本体22の円周方向へ移動が規制されている。したがって、複数の軸受けピン63は複数の外ピン23に対して、相対的に第1外輪62の円周方向へ移動可能となる。結果的に、本実施形態に係る歯車装置1Bにおいては、歯車本体22に対して複数の内ピン4が相対的に回転するのに伴って、複数の軸受けピン63は複数の外ピン23に対して相対的に回転する。
具体的には、第1軸受け部材6Bは、図17に示すような保持器64(リテーナ)を有している。複数の軸受けピン63は、それぞれ自転可能な状態で第1外輪62の内周面621と第1内輪61の外周面611との間に配置され、かつ保持器64にて保持される。保持器64は、複数の軸受けピン63を、第1外輪62の円周方向において等ピッチで保持する。さらに、保持器64は、第1外輪62の内周面621及び第1内輪61の外周面611に対して固定されておらず、回転軸Ax1を中心に、第1内輪61及び第1外輪62の各々に対して相対的に回転可能である。これにより、保持器64の回転に伴って、保持器64にて保持されている複数の軸受けピン63は、第1外輪62の円周方向へ移動することになる。言い換えれば、複数の軸受けピン63の保持構造は、第1外輪62と第1内輪61との間に配置された保持器64を含む。保持器64は、一例として、金属製である。
要するに、本実施形態では、外ピン23の保持構造が歯車側溝222であるのに対して、軸受けピン63の保持構造が保持器64であって、外ピン23と軸受けピン63とで、保持構造が方式からして異なる。この場合、胴部11に対しては保持構造として歯車側溝222のみを形成すればよく、胴部11の加工が容易になる。
実施形態2の変形例として、軸受けピン63の直径φ2は外ピン23の直径φ1と同一(φ1=φ2)であってもよいし、軸受けピン63の直径φ2は外ピン23の直径φ1よりも小さくてもよい。
実施形態2の他の変形例として、歯車本体22に対して複数の内ピン4が相対的に回転するのに伴って、複数の軸受けピン63は複数の外ピン23に対して相対的に回転可能であればよく、保持器64は必須ではない。また、保持器64の材質は、金属に限らず、例えば、エンジニアリングプラスチック等の樹脂であってもよい。
実施形態2の構成(変形例を含む)は、基本構成又は実施形態1で説明した構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて適用可能である。
(まとめ)
以上説明したように、第1の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)は、内歯歯車(2)と、遊星歯車(3)と、複数の内ピン(4)と、第1軸受け部材(6,6A,6B)と、を備える。内歯歯車(2)は、環状の歯車本体(22)と、自転可能な状態で歯車本体(22)の内周面(221)に保持され内歯(21)を構成する複数の外ピン(23)と、を有する。遊星歯車(3)は、内歯(21)に部分的に噛み合う外歯(31)を有する。複数の内ピン(4)は、遊星歯車(3)に形成された複数の遊嵌孔(32)にそれぞれ挿入された状態で、遊嵌孔(32)内を公転しながら歯車本体(22)に対して相対的に回転する。第1軸受け部材(6,6A,6B)は、歯車本体(22)に対して複数の内ピン(4)を回転可能に支持する。第1軸受け部材(6,6A,6B)は、第1内輪(61)及び第1外輪(62)と、複数の軸受けピン(63)と、を有する。複数の軸受けピン(63)は、自転可能な状態で第1内輪(61)及び第1外輪(62)の間に保持される。複数の外ピン(23)と複数の軸受けピン(63)とでは、各々の径が異なり、かつ保持構造が異なる。
この態様によれば、第1軸受け部材(6,6A,6B)は、軸受けピン(63)を「転動体(コロ)」とするニードルベアリングであって、ラジアル方向の荷重については比較的大きな荷重に耐え得る。しかも、複数の外ピン(23)と複数の軸受けピン(63)とでは、各々の径が異なり、かつ保持構造も異なるので、軸受けピン(63)の径及び保持構造の設定次第で、想定される様々な荷重に耐えやすくなる。したがって、構造の簡略化を図りやすい、という利点がある。
第2の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)では、第1の態様において、複数の外ピン(23)の保持構造は、歯車本体(22)の内周面(221)に形成された複数の歯車側溝(222)を含む。複数の軸受けピン(63)の保持構造は、第1外輪(62)の内周面(621)に形成された複数の軸受け側溝(622)を含む。複数の歯車側溝(222)と複数の軸受け側溝(622)とでは各々の深さが異なる。
この態様によれば、歯車側溝(222)と軸受け側溝(622)との深さの違いで、複数の外ピン(23)と複数の軸受けピン(63)との異なる保持構造を実現できる。
第3の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)は、第1の態様において、歯車本体(22)に対して複数の内ピン(4)が相対的に回転するのに伴って、複数の軸受けピン(63)は複数の外ピン(23)に対して相対的に回転する。
この態様によれば、複数の軸受けピン(63)の位置が複数の外ピン(23)に対して相対的に変化するので、一部の軸受けピン(63)に集中的に荷重がかかりにくくなる。
第4の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)では、第3の態様において、複数の軸受けピン(63)の保持構造は、第1外輪(62)と第1内輪(61)との間に配置された保持器(64)を含む。
この態様によれば、保持器(64)にて、複数の軸受けピン(63)のピッチを維持できる。
第5の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)では、第1~4のいずれかの態様において、複数の軸受けピン(63)の各々は、複数の外ピン(23)の各々と同心に配置されている。
この態様によれば、軸受けピン(63)の回転と外ピン(23)の回転とを同期させやすい。
第6の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)では、第1~5のいずれかの態様において、複数の軸受けピン(63)の各々は、複数の外ピン(23)の各々と一体である。
この態様によれば、部品点数を少なく抑えやすい。
第7の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)は、第1~6のいずれかの態様において、第2軸受け部材(7)を更に備える。第2軸受け部材(7)は、第1軸受け部材(6,6A,6B)と共に、回転軸(Ax1)方向の2箇所で、歯車本体(22)に対して複数の内ピン(4)を回転可能に支持する。
この態様によれば、回転軸(Ax1)方向の1箇所で歯車本体(22)に対して複数の内ピン(4)が支持される一点支持に比較して、回転軸(Ax1)に対する曲げ力(曲げモーメント荷重)のような荷重に耐えやすい。
第8の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)では、第7の態様において、複数の内ピン(4)は、回転軸(Ax1)方向の一方から見て第2軸受け部材(7)の内側に位置する。
この態様によれば、複数の内ピン(4)の内側の限られたスペースは比較的シンプルな構造とすることができる。
第9の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)は、第7又は8の態様において、第1軸受け部材(6,6A,6B)は、複数の外ピン(23)に対して、第2軸受け部材(7)と回転軸(Ax1)方向の同じ側に位置する。
この態様によれば、複数の内ピン(4)を効果的に二点支持でき、しかも回転軸(Ax1)方向の小型化を図りやすい。
第10の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)では、第1~9のいずれかの態様において、複数の外ピン(23)の保持構造は、歯車本体(22)の内周面(221)に形成された複数の歯車側溝(222)を含む。複数の軸受けピン(63)の保持構造は、第1外輪(62)の内周面(621)に形成された複数の軸受け側溝(622)を含む。複数の軸受け側溝(622)は、複数の歯車側溝(222)に比べて、保持するピンの径に対する深さの比率が小さい。
この態様によれば、軸受け側溝(622)の内面と軸受けピン(63)との間の摩擦抵抗を低減しやすい。
第11の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)は、第1~10のいずれかの態様において、歯車本体(22)に対して複数の内ピン(4)が相対的に回転する際、歯車本体(22)の回転力を出力として取り出すように構成されている。
この態様によれば、歯車本体(22)又は歯車本体(22)と一体化された部材を回転部材として用いることができる。
第12の態様に係る車輪装置(W1)は、第1~11のいずれかの態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)と、歯車本体(22)に対して複数の内ピン(4)が相対的に回転する際の回転出力により、走行面上を転がる車輪本体(102)と、を備える。
この態様によれば、構造の簡略化を図りやすい、という利点がある。
第13の態様に係る車両(V1)は、第12の態様に係る車輪装置(W1)と、車輪装置(W1)を保持する車体(100)と、を備える。
この態様によれば、構造の簡略化を図りやすい、という利点がある。
第2~11の態様に係る構成については、内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。