以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。本明細書においては、電気機器の一例として電池パックにて動作する電動工具を用いて説明するものとする。
図1は本発明の実施例にかかる電池パック100を用いた管理システムの全体概略図である。電動工具本体1は、電池パック100-1を電源として使用可能な携帯型の電気機器であって、従来から広く用いられるインパクト工具である。本実施例の電池パック100は、内部にマイコンが搭載され、そのマイコンとの近接無線通信を可能とするブルートゥース(Bluetooth:Bluetooth SIG, Inc. USAの登録商標)が搭載される。このように電池パック100の内部に無線通信装置が搭載されるため、外部機器たる端末装置301との電池パック100-1~3の間での双方向に無線通信が可能となる。端末装置301は、電動工具本体1に装着されている状態の電池パック100-1との通信も可能であるし、電動工具本体1等の電気機器から取り外した状態の電池パック100-2、100-3とも通信が可能である。
電池パック100-1~nは、定格電圧3.6Vのリチウムイオン電池セルを複数本直列接続して、例えば18V又は36Vの直流電流を選択的に出力可能としたものである。電池パック100が装着される側の電動工具(図示せず)には、ブルートゥース(登録商標)が設けられている機種も存在する。その場合は、端末装置301が電動工具と接続することによって、端末装置301が電池パック100の情報を間接的に取得することも可能な場合もある。しかしながら、本実施例では電池パック100と端末装置301が直接通信を行うことによって、どんな電動工具に装着されている電池パック100であっても、また、電動工具から取り外された状態の電池パック100であっても、端末装置301は電池パック100の情報を読み取ることが可能である。
電池パック100-1~3は、ここでは同一型式、同一容量の電池パックとしているが、同一の電池パック100だけに限られず、異なる形式の様々な電圧、容量の電池パックでも良い。但し、それぞれの電池パック100内には電池の管理を行うプロセッサと無線通信装置を有することが重要である。端末装置301は、例えば電話会社が販売するスマートフォンを用いることができる。端末装置301は、電話通信網361を用いて電話会社の基地局360に接続可能であり、インターネット等のネットワーク350を用いて、電池パック100の製造メーカーや、サポート会社300のサーバ装置に接続可能である。よって、端末装置301は電池パック100-1~3から受信した情報をサポート会社300のサーバ装置に送信することが可能であり、また、端末装置301から何らかの情報を受信して表示画面302に表示することができる。さらには、無線通信装置を用いて特定の電池パック(例えば100-2)と無線通信を行い、電池パック100-2のマイコンに情報を書き込むことが可能である。
電池パック100(例えば100-1)は端末装置301とペアリングを行う。「ペアリング」とは、無線通信を用いて端末装置301と、電池パック100側の関連づけ登録を行う作業であり、これらの登録作業(ペアリング)を行うことにより、端末装置301は、ペアリングされた電池パック100から必要な情報を取得することができる。このペアリング相手の関係は、端末装置:電池パックの数=1:1でも良いが、図のように1:n(nは自然数)であっても良い。nがいくつまでペアリングできるかは、使用する無線通信規格に依存する。また、所有するすべての無線接続可能な電池パックと同時にペアリングさせても良いが、必ずしも全数を同時に行う必要は無く、状態を確認したい対象の電池パック100だけを選択してペアリングさせるようにしても良い。
端末装置301は、電池パック100から無線通信によって受信した情報を処理し、電池パック100の状態、特に充電回数、過充電回数、過放電回数、装着した電動工具の種類や、使用時の電圧記録の各種使用状況を取得し、電池パック100の現在の状態を把握する。把握された情報は電話通信網361、ネットワーク350を介してサポート会社300にそのデータが送信される。端末装置301には、電池パック100との無線通信を可能とするために、専用のソフトウェア、いわゆるアプリケーションソフトをインストールしておく。なお、端末装置301は、いわゆるスマートフォンだけに限定されず、電池パック100側の無線通信装置と双方向または片方向の無線通信が可能であれば、タブレット型のPC(Personal Computer)や、汎用のPC等であっても良い。
図2は本発明の実施例に係る電池パック100の斜視図である。この電池パック100は、3.6Vのリチウムイオン電池のセルが5本直列接続されたセルユニットが2組収容され、2組のセルユニットの接続方法の変更により、18V出力(低電圧出力)と36V出力(高電圧出力)の双方を切り換えることができる「電圧可変電池パック」である。
電池パック100の筐体は、上下方向に分割可能な下ケース101と上ケース110により形成される。上ケース110は、電動工具本体1の電池パック装着部2c(図3で後述)に取り付けるために2本のレール138a、138bが形成された装着機構が形成される。レール138a、138bは、電池パック100の装着方向と平行な方向に延びるように、且つ、上ケース110の左右側面に突出するように形成される。レール138a、138bは、電動工具本体1の電池パック装着部2cに形成されたレール溝(図示せず)と対応した形状に形成され、レール138a、138bが電気機器本体側のレール溝と嵌合した状態で、ラッチ141の爪となる係止部142にて係止することにより電池パック100が電動工具本体1に固定される。電池パック100を電動工具本体1から取り外すときは、左右両側にあるラッチ141を押すことにより、係止部142が内側に移動して係止状態が解除されるので、その状態で電池パック100を装着方向と反対側に移動させる。
上ケース110の下段面111と上段面115は階段状に高さが異なるように形成され、それらの接続部分から後方側に延びる複数のスロット121~128が形成される。スロット121~128は電池パック装着方向に所定の長さを有するように切り欠かれた部分であって、この切り欠かれた部分の内部には、電動工具本体1又は外部の充電装置(図示せず)の機器側端子と嵌合可能な複数の接続端子(接続端子群)が配設される。スロット121~128は、電池パック100の右側のレール138aに近い側のスロット121が充電用正極端子(C+端子)の挿入口となり、スロット122が放電用正極端子(+端子)の挿入口となる。また、左側のレール138bに近い側のスロット127が負極端子(-端子)の挿入口となる。正極端子と負極端子の間には、電池パック100と電動工具本体1や外部の充電装置(図示せず)への信号伝達用の複数の信号端子が配置され、ここでは信号端子用の4つのスロット123~126が電力端子群の間に設けられる。スロット123は予備の端子挿入口であり、本実施例では端子は設けられない。スロット124は電池パック100の識別情報となる信号を電動工具本体又は充電装置に出力するためのT端子用の挿入口である。スロット125は外部の充電装置(図示せず)からの制御信号が入力されるためのV端子用の挿入口である。スロット126はセルに接触して設けられた図示しないサーミスタ(感温素子)による電池の温度情報を出力するためのLS端子用の挿入口である。負極端子(-端子)の挿入口となるスロット127の左側には、さらに電池パック100内に含まれる電池保護回路(図示せず)による異常停止信号を出力するLD端子用のスロット128が設けられる。
上段面115の後方側には、隆起するように形成された隆起部132が形成される。隆起部132の中央付近に窪み状のストッパ部131が形成される。ストッパ部131は、電池パック100を、電池パック装着部2c(図3にて後述)に装着した際に突き当て面となる。電池パック100が電動工具本体1の所定の位置に装着されると電動工具本体1に配設された複数の端子(機器側端子)と電池パック100に配設された複数の接続端子が接触して導通状態となる。下段面111の前方左側角部には、従来の18V用電池パックを36V用の電動工具本体に装着できないようにするための、識別用の切り欠き部111aが形成される。
図3は本発明に係る電池パック100が装着される電動工具本体1の斜視図である。ここで示す電動工具本体1はインパクトドライバであって、ハウジング2の胴体部分から下方に延びるハンドル部2bが設けられ、ハンドル部2bの下側に電池パック装着部10が形成される。ハンドル部2bにはトリガスイッチ4が設けられる。ハウジング2の前方側には出力軸たるアンビル(図示せず)が設けられ、アンビルの先端には先端工具9を装着するための先端工具保持部8が設けられる。ここでは先端工具9としてプラスのドライバービットが装着されている。電動工具だけに限られずに、電池パックを用いた電気機器全般では、装着される電池パックの形状に対応させた電池パック装着部10が形成され、電池パック装着部10に適合しない電池パックを装着できないように構成する。電池パック装着部10には、左右両側の内壁部分に前後方向に平行に延びるレール溝11a、11bが形成され、それらの間にターミナル部20が設けられる。ターミナル部20は、合成樹脂等の不導体材料の一体成形により製造され、そこに金属製の複数の端子、例えば正極入力端子22、負極入力端子27、LD端子(異常信号端子)28が鋳込まれる。ターミナル部20は、装着方向(前後方向)の突き当て面となる垂直面20aと、水平面20bが形成され、水平面20bは電池パック100の装着時に、上段面115(図2参照)と隣接、対向する面となる。水平面20bの前方側には、電池パック100の隆起部132(図2参照)と当接する湾曲部12が形成され、湾曲部12の左右中央付近には突起部14が形成される。突起部14は左右方向に2分割で形成される電動工具本体1のハウジングのネジ止め用のボスを兼ねると共に、電池パック100の装着方向への相対移動を制限するストッパの役目も果たす。
図4は図3の電池パック100の展開斜視図である。電池パック100の筐体は、上下方向に分離可能な上ケース110と下ケース101によって形成され、下ケース101の内部空間には、10本の電池セルが収容される。複数の電池セル(図示せず)は、5本ずつ2段にスタックさせた状態で、合成樹脂等の不導体で構成されたセパレータ245にて固定される。セパレータ245は電池セルの両端部となる左右両側だけが開口するようにして複数の電池セルを保持する。
セパレータ245の上側には、リチウムイオン電池セルを覆うように回路基板150が固定される。回路基板150は複数の接続端子(161、162、164~168、171、172、177)を半田付けによって固定すると共に、これら接続端子と図示しない回路パターンとの電気的な接続を行う。回路基板150にはさらに、電池保護ICやPTCサーミスタ、抵抗、コンデンサ、ヒューズ、発光ダイオード等の様々な電子素子(ここでは図示していない)を搭載する。さらに、点線152で占める領域には、無線通信装置を形成する通信モジュールとアンテナ(ともに後述)が搭載される。回路基板150の材質は、素材に対して絶縁性のある樹脂を含浸した基板上に、銅箔など導電体によってパターン配線を印刷したプリント基板と呼ばれるものであり、単層基板、両面基板、多層基板を用いることができる。本実施例では、両面基板を用いて回路基板150の上面(表面であって図4から見える上側の面)と下面(裏面)に配線パターンが形成される。回路基板150の前後方向の中央よりもやや前側には、接続端子群160が設けられ、そこに複数の接続端子(161、162、164~168、171、172、177)が横方向に並べて固定される。
正極端子(161、162、171、172)と負極端子(167、177)は、左右方向に大きく離れた箇所に配置され、それらの間には3つの信号端子(T端子164、V端子165、LS端子166)が設けられる。本実施例では電力端子用の部品として、水平方向に延びる腕部が上側の左右に1組、下側の左右に1組の合計2組設けられたものを用いる。負極端子対(167、177)の左側にはLD端子168が設けられる。すべての信号端子(164~166、168)は、回路基板150の形成された複数の取付孔151a、151bにそれぞれの脚部を表面から裏面にまで貫通させて、裏面側で半田付けにより固定される。以上のように、回路基板150上に図示しない電子素子が搭載され、複数の接続端子が半田付けにより固定されたあとに、回路基板150の表面に防水塵のために樹脂(図示せず)を塗布する。
下ケース101は、上面が開口された略直方体の形状である。前面壁のほぼ中央には、スリット104が設けられる。上ケース110のスリット134は、充電装置にて充電を行う際に電池パック100の内部空間に充電装置側から送出される冷却風を流入させるための流入口として用いられ、下ケース101のスリット104は冷却風の排出口として用いられる。
電池セル側からの出力の回路基板150との接続は、上方向に板状に延びる接続用の引出しタブ261a、266a、271a、276aを介して行われる。また直列接続された電池セルの中間接続点からのリード線の端部294b、296b~299bが上方向に延びるように配置され、回路基板上に半田付けされる。さらに、直列接続された電池セルの中間接続点からの中間引出しタブ262a、263aが回路基板150に接続されるべく、上方向に延びるように配置される。セパレータ245の上側には、回路基板150を固定する為のネジボス247a、247bが形成される。
次に図5を用いて、2組の電力端子の形状を説明する。図5は電池パック100の回路基板150の部分図であり、回路基板150に固定された正極端子対(上側正極端子162と下側正極端子172)と、負極端子対(上側負極端子167と下側負極端子177)だけを図示したものである。図5(A)は本実施例の電池パック100の正極端子(162と172)、負極端子(167と177)の形状を示す部分斜視図と高電圧出力時の接続回路を示す図である。図5(B)は高電圧用電気機器のターミナル部50と、電池パック100側の端子との接続状況を示すための部分斜視図である。図5(A)に示すように、電池パック100のスロット122(図2参照)には、上側正極端子162と下側正極端子172が並んで配置される。上側正極端子162と下側正極端子172は金属板のプレス加工によって形成され、脚部を回路基板150に半田付け等により強固に固定したものである。上側正極端子162と下側正極端子172は距離を隔てて配置され、電気的に非導通状態にある。同様にしてスロット127(図2参照)には、上側負極端子167と下側負極端子177が並んで配置される。上側正極端子162と上側負極端子167は同じ金属部品であり、下側正極端子172と下側負極端子177は同じ金属部品である。
電池パック100の内部には、5本のリチウムイオン電池セルが直列に接続された上側セルユニット(第一セルユニット)146と下側セルユニット(第二セルユニット)147が収容され、上側セルユニット146の正極が第一正極端子に相当する上側正極端子162に接続され、上側セルユニット146の負極が第一負極端子に相当する下側負極端子177に接続される。同様にして、下側セルユニット147の正極が第二正極端子に相当する下側正極端子172に接続され、下側セルユニット147の負極が第二負極端子に相当する上側負極端子167に接続される。このような電池パック100の形態において、電動工具本体1側の正極用入力端子を上側正極端子162に接続し、負極用入力端子を上側負極端子167に接続するとともに、点線59で示すように下側正極端子172と下側負極端子177を電気的に接続すれば、上側セルユニット146と下側セルユニット147の直列接続の出力、即ち定格36Vが電池パック100から電動工具本体1の負荷装置70に出力されることになる。
出力用の正極端子は、電気的に独立した上側正極端子162と下側正極端子172が、回路基板150の取り付け位置で見て前後方向に並ぶように配置される。これらは互いに近接して配置される複数の端子(162、172)であって、電圧の切替え用に使用される切替端子群として機能する。上側正極端子162と下側正極端子172は、それぞれが前方側に延在する腕部組(腕部162aと162b、腕部172aと172b)を有する。ここでは腕部162a、162bと腕部172a、172bが上下方向に離れた位置であって、その嵌合部の前後方向位置がほぼ同一となるような形状とされる。これら正極端子対(162、172)は、単一のスロット122内に配置される。負極端子対も、正極端子対の形状と同じであって、上側負極端子167と下側負極端子177により構成され、これら負極端子対(167、177)が単一のスロット127の内部に配置される。これらは互いに近接して配置される複数の端子(167、177)であって、電圧の切替え用に使用される切替端子群として機能する。スロット127の内部では、上側に上側負極端子167の腕部組が配置され、上側負極端子167の腕部組の下側に下側負極端子177の腕部組が配置される。尚、図5では図示していないが、放電用の正極端子対(上側正極端子162と下側正極端子172)の右側には、充電用の正極端子対(上側正極端子161と下側正極端子171:図4参照)が配置される。充電用の正極端子対(161、171)の形状は、上側正極端子162と下側正極端子172と同じである。
図5(B)は定格36Vの電動工具本体1のターミナル部50と、電池パック100側の接続端子(162、167、172,177)との接続関係を示す図である。ターミナル部50は、電動工具本体1の電池パック装着部2cに設けられる。ターミナル部50には、電池パック100のスロット121~128(図2参照)に対応する機器側端子(52、59a、54~56、57、59b、58)が設けられ、合成樹脂製の基台51に鋳込まれるようにして固定される。基台51の上側の接続端子部と、下側の板状の端子部であって同じ参照符号の部分は電気的に導通されている金属板により構成される。ここではスロット123(図2参照)に対応する位置には機器側端子は設けられない。電力用の入力端子として、受電用の正極入力端子52と、負極入力端子57が小さいサイズで、短絡用端子59a、59bの上側に設けられる。正極入力端子52と短絡用端子59aは導通していない。また、負極入力端子57と短絡用端子59bは導通していない。
電池パック100の装着時において、正極入力端子52は上側正極端子162だけに嵌合し、負極入力端子57は上側負極端子167だけに嵌合する。また、電動工具本体1のターミナル部50には、下側正極端子172と下側負極端子177を短絡させる小さい端子59a、59bが設けられる。小さい端子59a、59bは短絡回路59の両側端部であり、基台51の内部で接続されている。
正極入力端子52は、上側正極端子162と嵌合する部分であって平板状に形成された端子部と、電動工具本体1側の回路基板側との結線を行うものであって基台51の上方に突出する端子部により構成される。正極入力端子52は合成樹脂製の基台51に鋳込まれる。負極入力端子57も正極入力端子52と同様であって、端子の高さが、他の端子部(54~56、58)に比べて半分よりやや小さい程度の大きさとされる。他の端子部(54~56、58)は信号伝達用の端子である。ターミナル部50の合成樹脂製の基台51の前側と後側には、ハウジングによって挟持されるための凹部51aと51bが設けられる。
図5(B)において、電池パック100を装着する際には、電池パック100を電動工具本体1に対して差し込み方向に沿って相対移動させると、正極入力端子52と短絡用端子59bが同一のスロット122(図2参照)を通って内部まで挿入され、上側正極端子162と下側正極端子172にそれぞれ嵌合される。このとき、正極入力端子52が上側正極端子162の嵌合部間を押し広げるようにして上側正極端子162の腕部162aと162bの間に圧入され、短絡用端子59bが下側正極端子172の腕部172aと172bの間を押し広げるようにして圧入される。同様にして、負極入力端子57と短絡用端子59bが同一のスロット127(図2参照)を通って内部まで挿入され、それぞれ上側負極端子167と下側負極端子177に嵌合される。この際、負極入力端子57が嵌合部間を押し広げるようにして上側負極端子167の腕部167aと167bの間に圧入される。さらに、短絡用端子59bが下側負極端子177の腕部177aと177bの間を押し広げるようにして圧入される。このように図5(B)の接続形態の実現によって、上側セルユニット146と下側セルユニット147の直列接続の出力、即ち定格36Vが電池パック100から出力されることになる。
図6(A)及び(B)は、18V用の電動工具本体1(図3参照)に本実施例の電池パック100を装着した際の接続状態を示す図である。電池パック100が電動工具本体1に取り付けられるときは、正極入力端子82の端子部は、上側正極端子162と下側正極端子172の開口端部の双方を押し広げるように嵌合圧入されて、正極入力端子82の端子部の上側一部の領域が上側正極端子162と接触し、下側一部の領域が下側正極端子172と接触する。このように正極入力端子82の端子部を上側正極端子162の腕部162a、162bと下側正極端子172の腕部172a、172bに同時に嵌合させることによって、2つの正極端子(162と172)が短絡状態となる。同様にして負極入力端子87の端子部は、上側負極端子167と下側負極端子177の開口端部の双方を押し広げるように嵌合圧入されて、負極入力端子87の端子部の上側一部の領域が上側負極端子167と接触し、下側一部の領域が下側負極端子177と接触する。このように負極入力端子87の端子部を上側負極端子167の腕部167a、167bと下側負極端子177の腕部177a、177bに同時に嵌合させることによって、2つの負極端子(167と177)が短絡状態となり、電動工具本体1には上側セルユニット146と下側セルユニット147の並列接続の出力、即ち定格18Vが出力される。
以上のように本実施例の電池パック100は、18V用の電動工具本体1(図3参照)か36V用の電動工具本体(図示せず)のいずれかに装着することにより、電池パック100の出力が自動的に切り替わる。この電圧切り替えは電池パック100側にて行うのではなくて、電動工具本体1側のターミナル部の形状によって自動的に行われるので、電圧設定ミスが生ずる虞が全くない。また、電池パック100側には、機械的なスイッチのような専用の電圧切替機構を設ける必要が無いので、構造が単純で故障の虞が低く、長寿命の電池パックを実現できる。
電池パック100を外部充電装置(図示せず)を用いて充電する場合は、従来の18V用電池パックと同じ充電装置にて充電が可能である。電池パック100のスロット121には、上側正極端子162と下側正極端子172と同等の形状の充電用の正極端子が設けられるので、放電用の正極端子(162、172)の代わりに、充電用の正極端子(図示せず)を外部充電装置(図示せず)の正極端子に接続するようにすれば良い。
次に図7の展開斜視図を用いてセパレータ245(図4参照)を用いた電池セルのスタック状況および配線方法を説明する。セパレータ245(図4参照)は10本の電池セル146a~146e、147a~147eを5本ずつ、上下2段にスタックしたものである。図7では電池セル146a~146e、147a~147eがセパレータ245から引き出された状態を示しているが、組立時にはセパレータ245の円筒状の空間246内に挿入され、セパレータの左右両側に露出した端子間に、接続板262~265、272~275にて相互に接続され、引出し板261、266、271、276が電池セルに接続される。その後に、絶縁のために絶縁シート278a、278bが接続板262~265、272~275や引出し板261、266、271、276の上に貼り付けられる。
各電池セルの軸線はそれぞれ平行になるように積み重ねられ、隣接するセルの向きを交互に逆になるように配置して、隣接する電池セルの正極端子と負極端子を金属製の接続板262~265、272~275を用いて接続される。電池セルの両側端子と接続板262~265、272~275は、複数箇所のスポット溶接によって固定される。ここでは上段に設置された5本の直列接続された電池セルが上側セルユニット146(図9にて詳述)を形成し、下側に設置された5本の直列接続された電池セルが下側セルユニット147(図9にて詳述)を形成する。
電池セル146a~146e、147a~147eは、18650サイズと呼ばれる直径18mm、長さ65mmの複数回充放電可能なリチウムイオン電池セル(図示せず)が用いられるが、電池セルのサイズや本数は任意である。電池セルの長さ方向の両端には2つの電極が設けられている。2つの電極のうち、一方は正極であり他方は負極である。
上側セルユニット146の正極は、引出しタブ261aが形成された引出し板261を用いて回路基板150に接続され、上側セルユニット146の負極は、引出しタブ266aが形成された引出し板266を用いて回路基板150に接続される。同様にして下側セルユニット147の正極は、引出しタブ271aが形成された引出し板271を用いて回路基板150に接続され、下側セルユニット147の負極は、引出しタブ276aが形成された引出し板276を用いて回路基板150に接続される。セパレータ245の上面には、金属の薄板を折り曲げた形状の引出し板261、266、271、276のタブを保持するためのタブホルダ250~252、255~257が形成される。タブホルダ250~252、255~257は、L字状に折り曲げられた引出しタブ261a、262a、263a、266a、271a、276aを保持するために形成されるタブ保持部であり、セパレータ245の成形時に座面、背面、両側側面を有する凹部として一体成形され、この凹部に引出しタブ261a、262a、263a、266a、271a、276aがそれぞれ嵌め込まれる。セパレータ245の上部には回路基板150をネジ止めするための2つのネジボス247a、247bが形成される。引出し板261、271と接続板263、265、273、275の右側は絶縁シート278aにて覆われ、引出し板266、276と接続板262、264、272、274の左側は絶縁シート278bにて覆われる。絶縁シート278aは電気を通さない材質であって、その内側部分はシール材が塗布されている。
図8は電池パック100が装着される電動工具本体(高電圧用電気機器)1の回路図であり、電動工具本体1内に短絡回路(短絡経路)59を組み込んだ構成である。右側が電池パック100であり、ここでは説明を容易にするため必要な構成だけを抜き出して図示している。定格36Vの電動工具本体1に、電池パック100から36Vの電圧を取り出すのは、電動工具本体1側のターミナル部50に、太線で示す短絡回路59を設ける。短絡回路59は金属板でできた短絡子で構成でき、図5で示したように正極入力端子52や負極入力端子57等の他の機器側端子と共に、合成樹脂製の基台51にU字状に折り曲げた金属板を鋳込むことで構成できる。U字状に折り曲げた金属板の一方側の端部が短絡用端子59aとなり、他方側の端部が短絡用端子59bとなる。このような形状のターミナル部50に電池パック100を装着するだけで、正極入力端子52と負極入力端子57に定格36Vの直流電力が供給される。電動工具本体1には、モータ3の回転制御を行うためのマイコン60が含まれる。マイコン60の駆動用の電圧(5V又は3.3V)は、短絡用端子59aと負極入力端子57の両端電圧を入力とする電源装置61により供給される。このように電動工具本体1に短絡回路59を有するターミナル部50を設けることによって、2つの正極端子(162、172)と2つの負極端子(167、177)を有する本実施例の電池パック100を装着するだけで、上側セルユニット146と下側セルユニット147の直列接続回路を確立することができる。
図9は本実施例の電池パック100の内部回路を示すブロック図である。ここでは上側セルユニット146及び下側セルユニット147に対する、マイコン154と保護IC180、190の接続状況を説明するための基本的な構成部分だけを図示しており、その他の関連する回路、特に、本体機器側の信号端子とのやりとりを行うための回路等の図示を省略している。電池パック100は、図4にて示したように上側正極端子(上+)162と、下側正極端子(下+)172と、上側負極端子(上-)167と、下側負極端子(下+)177を有して構成される。電池パック100にはこれら以外に、その他の信号端子群(T端子、V端子、LS端子、LD端子)が設けられるが、ここではそれらの図示を省略している。上側正極端子162と下側負極端子177には、上側セルユニット146の出力が接続される。即ち、上側セルユニット146の正極(+出力)が上側正極端子162に接続され、上側セルユニット146の負極(-出力)が下側負極端子177に接続される。同様にして、下側セルユニット147の正極(+出力)が下側正極端子172に接続され、下側セルユニット147の負極(-出力)が上側負極端子167に接続される。
上側セルユニット146と下側セルユニット147にはそれぞれ、電池セルの電圧を監視するための保護IC180、190が接続され、これら保護IC180、190にはマイコン154が接続される。保護IC180は、上側セルユニット146の各電池セルの両端電圧を入力することにより、過充電保護機能、過放電保護機能の他、セルバランス機能、カスケード接続機能、断線検出機能を実行するもので、“リチウムイオン電池用保護IC”として市販されている集積回路である。また、保護IC180は、上側セルユニット146の電池セルの電圧が所定値未満に低下して過放電状態になった場合は、過放電を示す信号(ハイ信号)183をマイコン154に出力し、上側セルユニット146の電池セルの電圧が充電時に所定値以上に到達して過充電状態でなった場合は、過充電を示す信号(ハイ信号)184をマイコン154に出力する。
下側セルユニット147には保護IC190が接続される。ここでは、下側セルユニット147の回路中、即ち下側正極端子172と上側負極端子167の間の回路中に、マイコン(Micro Controller Unit)154が接続される。マイコン154には、保護IC180からの出力(過放電信号183、過充電信号184)と、保護IC190からの出力(過放電信号191、過充電信号192)が入力される。マイコン154には、例えばアナログ・フロント・エンド(AFE)と呼ばれる電圧検出回路を含み、電流検出回路193の出力電圧から下側セルユニット147に流れる電流値を測定する。マイコン154の駆動用の電源は、下側セルユニット147に接続される電源回路185によって生成され、電源電圧(VDD1)がマイコン154に供給される。下側セルユニット147のグランド側には電流値を測定するためのシャント抵抗194が設けられる。
マイコン154は、電流値やセル温度の監視を行うと共に、上側セルユニット146と下側セルユニット147の状態を監視して双方の動作状況を統合して制御する。また、電動工具本体1の緊急的な停止が必要となった場合には、図示しないLD端子を介して放電禁止信号を電気機器本体側に送出する。保護IC190は下側セルユニット147内の電池セルの電圧を監視し、電圧が所定の下限値まで低下した状態(過放電状態)を検出した場合に過放電信号191をマイコン154に送出する。マイコン154には、図示しないマイクロプロセッサとともに、タイマー回路や記憶装置が含まれる。マイコン154は監視された電池電圧、温度、充電回数のカウント値を記憶装置に格納する。
マイコン154には無線通信回路155が接続される。無線通信回路155にはアンテナ156が接続される。ここでは市販されている無線通信モジュール153を用いて、それを回路基板150に搭載する。無線通信モジュール153は、無線通信回路155とアンテナ156を共通のベース(図示せず)にまとめて搭載したものである。ここで、無線通信モジュール153又はアンテナ156が本発明における無線通信部に該当する。
電池パック100が図示しない外部の充電装置に装着されて、充電が行われている際に、保護IC190は電池セルの電圧が所定の上限値を越えたことを検出した場合に、過充電状態を示す過充電信号192をマイコン154に送出する。マイコン154はその情報を記憶装置に格納するとともに、図示しないLS端子を介して図示しない充電装置に充電停止信号を送出する。
電源回路185は、下側セルユニット147の電力によってマイコン154の動作用の電源を生成するものである。下段側にマイコン154用の電源回路185を設け、マイコン154を下側セルユニット147の回路中に設けた。このマイコン154の配置により、出力電圧を定格18Vと36Vの切替式としてもマイコン154を安定して稼働させることができる。マイコン154は、自身にかかる電源電圧(VDD1)の保持と、解除を切り替えることができ、通常動作状態(ノーマルモード)と動作停止状態(いわゆるスリープモード)を有する。
マイコン154には、上側正極端子162に接続される上側電圧検出回路182の出力が入力される。この出力は、電池パック100が電動工具本体1や外部充電装置(図示せず)に装着されていない場合は、上側セルユニット146の電位を示す。一方、低電圧(18V)用の電動工具本体1に装着された場合、上側正極端子162と下側正極端子172が接続されるため、上側セルユニット146と下側セルユニット147の各々の正極が同電位となり、各々の負極が同電位となる。このことからマイコン154は、上側正極端子162の電位と、下側正極端子172の電位を比較することによって、電池パック100が非装着の状態であるか、低電圧機器本体に装着されているか、高電圧機器に装着されているかを判別できる。尚、下側正極端子172の電位検出のためには、下側セルユニット147内の電池セルのうち最上位の電池セル147aの正極電位をマイコン154が取得できるように構成すると良い。図5では図示していないが、電池パック100からの電力供給を止めなければならない状況、例えば、放電時の過大電流、放電時のセル電圧の低下(過放電)、セル温度の異常上昇(過温度)等が生じた際には、マイコン154を介して電動工具本体側にLD信号を伝達することで、電動工具本体1の動作を素早く停止できる。
図10は図5に示した部品を組み立てた後のセパレータ245の側面図であり、(A)は右側面であり、(B)は左側面図である。ここでは説明上の容易さから、接続端子群は、放電用の正極端子(162、177)と、負極端子(167、177)の2組だけを図示し、その他の接続端子(161、164~166,168、171)の図示を省略している。また、回路基板150の上の樹脂層は形成される前の状況を示している。上側セルユニット146は上段側に配置された電池セル146a~146eにより構成され、正極側の引出し板261から上方に延びる引出しタブ261aと、負極側の引出し板266から上方に延びる引出しタブ266aにて回路基板150に接続される。回路基板150にはスリット状の貫通孔(図示せず)が開けられ、その貫通孔を下側から上側まで貫通させて、引出しタブ261a、266aの上部が回路基板150の表面から上側に露出する。その部分を半田付けすることにより、回路基板150と引出しタブ261a、266aとの電気的な接続が行われる。同様にして、下側セルユニット147は下段側に配置された電池セル147a~147eにより構成され、両端に設けられた引出し板271、276から上方に延びる接続用の引出しタブ271a、276aにて回路基板150に接続される。回路基板150にはスリット状の貫通孔(図示せず)が開けられ、その貫通孔を下側から上側まで貫通させて、引出しタブ271a、276aの上部が回路基板150の表面から上側に露出する。その部分を半田付けすることにより、回路基板150と引出しタブ271a、276aとの電気的な接続が行われる。
図10(A)に示す接続板263には上方に延びる中間引出しタブ263aが設けられ、図10(B)に示す接続板262には上方に延びる中間引出しタブ262aが設けられる。中間引出し262a、263aは、上段側に配置される接続板262、263から上側に板状部材を延ばして、回路基板150に沿って内側に折り曲げ、再度上側に折り曲げることによって中間引出しタブ262a、263aを形成した金属の薄板の折曲体である。回路基板150にはスリット状の貫通孔(図示せず)が開けられ、その貫通孔を下側から上側まで貫通させて、中間引出しタブ262a、263aの上部が回路基板150の表面から上側に露出する。中間引出しタブ262a、263aは回路基板150に半田付けすることにより固定される。中間引出しタブ262a、263aの幅(前後方向の距離)は、図10(A)の引出しタブ261aや図10の引出しタブ266aの幅(前後方向長さ)よりも小さく形成される。これは引出しタブ261a、266a、271a、276aは電力の出力用の端子であって高電圧、大電流が流れる端子であるのに対して、中間引出しタブ262a、263aは中間電位の測定用に接続される端子であり、わずかな電流しか流れないためである。上段側に設けられるその他の接続板264と接続板265にも中間引出しタブを形成することも可能である。しかしながら、ここでは配線パターンの形成の関係から、接続端子264a、265aを設けて図示しないリード線にて回路基板150と接続することにした。下段側に設けられる接続板272~275については、引出しタブによる回路基板150との接続が困難であるため、接続端子272a~275aを設けてリード線296~299にて回路基板150と接続するようにした。
図11はセパレータ245に回路基板150を固定した状態を示す斜視図であって、左前上方より見た状態を示す。回路基板150にはスリット状の貫通孔159a~159dからタブ261a、266a、271a、276aの上部が回路基板150の表面から上側に露出する。それらのタブの露出部分を半田付けすることにより、回路基板150と引出しタブ261a、266a、271a、276aとの電気的な接続が行われる。以上のようにして上側セルユニット146の電池セル146a~146eは回路基板150に直接接続され、下側セルユニット147の電池セル147a~147eは回路基板150に直接接続される。また、接続板262~264及び接続板272~274の電位を測定するためのリード線296~299(但し図11では297、299は見えない)が接続される。図4に示したリード線の端部294b、296b、297b、298b、299bは回路基板150に半田付けされる。回路基板150に近接している接続板262、263(図12参照)は、L字状に折り曲げられ、垂直板部分が上方に延びる中間引出しタブ262a、263aを用いて回路基板150に直接接続される。
上側セルユニット146の出力(+出力、-出力)用の引出しタブ261a、266aは正面視又は後面視で略L字形状となるような形状とされ、その長手方向は略長方形の回路基板150の長辺と平行になるように配置される。引出しタブ261a、266aは、引出し板261、266の電池セルの端子に固定された面を上側に延ばして内側に折り曲げ、セパレータの上面を水平方向内側に少し延ばして、適当な箇所で上方向にL字状に折り曲げることにより、折り曲げた鉛直壁部分を引出しタブ261a、266aとした、金属の薄板の折曲体である。しかしながら、下段に配置した電池セルからは、上段に電池セル用の電極が位置するため、同様の引き出し方法は採用できない。そこで、本実施例では下側セルの端子面271b(図13(A)も参照)からの引出し板271を前方側に延ばしてから左側に直角に折り曲げて側面部271cを形成し、側面部271cを上側に延ばす。つまり、引出し板271をセパレータ245の上面視で短辺側となる側面を這わせて上方向に延ばし、セパレータ245の前側側面から後方側に折り曲げて水平面部271dを形成し、水平面部271dを上側に直角にタブ状に延ばして引出しタブ271aを形成した。引出しタブ271aは回路基板150に形成されたスリット状の貫通孔159cを裏面から表面まで貫通させ、半田付けされる。引出しタブ271a、276aの長手方向は略長方形の短辺と平行になるように配置される。このように形成することによって、下段側の電池セルからの引出し板271を、上段側の電池セルの引出し板に干渉することなく配置することができる。
下段のマイナス端子からの引出し板276も同様の方法で引き出され(後述の図12参照)、引出しタブ276aまで引き出される。このように、セパレータを左右両側側面だけでなく、前側側面及び後側側面を利用して上方向に引き出すことによって、下段に配置された電池セルからの出力を、上段の電池セルの上側部分、即ちセパレータの上面部にまで効率良く引き出すことができる。引出し板271にはさらに、接続経路の幅を大きく絞った部分、即ちヒューズ部271eを形成した。ヒューズ部271eは、引出し板271の右側から切り抜き部271fを形成し、左側から切り抜き部271gを形成して残りの部分の幅(左右方向幅)を十分狭くしたもので、この部分によって引出し板271に電力ヒューズとしての機能を持たせた。同様のヒューズ機能は、上側セルユニット146のプラス端子からの引出し板261(図12参照)の引出しタブ261aの近傍にも同様に設けられる。隣接する電池セルの電極間を接続するための長円状の接続板262、264、273、274は、ステンレス等の金属の薄板にて形成され、電池セルに対してスポット溶接をすることで固定される。
上側セルユニット146は、プラス出力用として引出しタブ261aが設けられ、マイナス出力用として引出しタブ266aが設けられる。また、下側セルユニット147は、プラス出力用として引出しタブ271aが設けられ、マイナス出力用として引出しタブ276aが設けられる。本実施例では引出しタブ261a、266a、271a、276aの設置位置も工夫した。回路基板150の左右中心線又は正極端子対(162、172)と負極端子対(167、177)の中心線を点線で示す左右中心線A1とする。また、上側正極端子162と下側正極端子172の脚部間の中心位置と、上側負極端子167と下側負極端子177の脚部間の中心位置の2つの中心位置を結んだ線を点線で示す仮想線A2とする。これら左右中心線A1と前後方向の脚部中心線A2を引いた際に、上側正極端子162の脚部がある領域内に上側セルユニット146の正極の引出しタブ261aが存在し、下側正極端子172の脚部がある領域内に下側セルユニット147の正極の引出し板271aが存在するようにした。このように引出しタブ261a、271aを配置することによって引出しタブ261aと上側正極端子162、引出し板271aと下側正極端子172を回路基板150上に配置する配線パターンにて効率良く接続できる。同様にして、上側負極端子167の脚部がある領域内に下側セルユニット147の負極の引出しタブ276aが存在し、下側負極端子177の脚部がある領域内に上側セルユニット146の負極の引出しタブ266aが存在するようにした。このように引出しタブ276a、266aを配置することによって上側負極端子167、下側負極端子177と回路基板150上に配置する配線パターンにて効率良く接続できる。
図12は、セパレータ245に回路基板150を固定した状態を示す斜視図であって、右後上方より見た状態を示す。回路基板150の前後方向にみて中央付近の左右縁部には、回路基板150のセパレータ245に対する位置決めのための凹部150c、150dが形成され、それらにセパレータ245に形成された凸部245c、245dが係合する。また、セパレータ245の前方側には、回路基板150の前端を保持する突当て部245eが形成され、回路基板150の前縁部に当接する。尚、引出し板261には電池セルの電極と平行に延在する端子面261bと、端子面261bからセパレータ245の上側に直角方向に折り曲げられた水平面部261cが形成され、水平面部261cを上側に直角にタブ状に延ばして引出しタブ261aを形成した。ヒューズ部261dは水平面の一部を前方側から大きく切り抜いた切り抜き部261eを形成することによって、ヒューズ部261dの幅(前後方向の距離)を小さくしたものである。引出し板261だけでなく、その他の引出し板266、271、276や、接続板262~265、272~275はステンレス等の薄板をプレス加工することにより形成される。従って、上側セルユニット146と下側セルユニット147に別体式のヒューズ素子を付加する必要が無い。
図13は電池パック100の 引出し板261、266、271、276と正極端子(162、172)及び負極端子(167、177)への接続方法を説明するための図である。(A)が前方側から見た図であり、(B)が後方側から見た図である。接続端子群のうち、放電用の正極端子(162、172)と負極端子(167、177)以外の接続端子の図示は省略している。上側セルユニット146の+出力となる引出しタブ261aは上側正極端子162の後方側の領域丸2にて回路基板150に接続される。点線で示すように引出しタブ261aと上側正極端子162は直線的に短い距離にて接続できる。上側セルユニット146の-出力となる引出しタブ266aは下側負極端子177の前方側の領域丸3にて回路基板150に接続される。点線で示すように引出しタブ266aと下側負極端子177は直線的に短い距離にて接続できる。下側セルユニット147の+出力となる引出しタブ271aは下側正極端子172の前方側の領域丸1にて回路基板150に接続される。従って点線で示すように引出しタブ271aと下側正極端子172は直線的に短い距離にて接続できる。下側セルユニット147の-出力となる引出しタブ276aは上側負極端子167の後方側の領域丸4にて回路基板150に接続される。従って点線で示すように引出しタブ276aと上側負極端子167は直線的に短い距離にて接続できる。以上のように、回路基板150上に示した4本の点線のように電力用の配線は接続端子(162、167、172、177)へ直線的に接続できるので、それらの配線パターンが交差すること無く太い配線パターンとして回路基板上に効率良く配置できる。
このように本実施例の電池パック100においては、電池セルから正極端子(162、172)及び負極端子(167、177)への出力端子群への接続を回路基板150上の配線パターンにおいて実現した。そのため、無線通信回路や無線アンテナの設置は配線パターンから離れた位置に設けるのが好ましい。そうすると、設置箇所の後方は、上面視で長方形の回路基板150の前側の短辺付近であって左右中央付近か、回路基板150の後側の短辺付近であって左右中央付近の2カ所しか候補がない。しかしながら、本実施例では点線152で示す後辺付近の左右中央付近は、電池電圧チェック用のLEDが4つ設けられ、その隣に電圧チェックボタン用のスイッチ290が設けられるので、そこに無線通信回路を搭載することは難しい。そこで、本実施例では点線152に示す位置に、無線通信回路とアンテナ部を搭載するようにした。この位置に搭載することによって回路基板150の裏面であって、金属部分が多い接続端子群から可能な限り遠い位置であって、主要なパワーライン(電力用の配線)から可能な限り通り領域に無線通信回路を搭載することができた。なお、回路基板150の端部にアンテナ部を配置することで、無線通信時のアンテナ効率の低下を抑制する効果がある。
図14は本発明に係る電池パック100の回路基板150の上面図である。ここでは上面視で四角形の領域に無線通信モジュール153を配置した。無線通信モジュール153は樹脂製の基台上に、アンテナ156を配線パターンによって形成したもので、アンテナ156の一方側端部にはマイコン154が設けられ、アンテナ156の他方側端部にはコンデンサ157が設けられる。コンデンサ157はアンテナ156の先端に設けられ、アンテナ156を回路基板150の配線パターンに半田付けするためにも用いられる。マイコン154は、ブルートゥース(登録商標)の通信回路を組み込んだ汎用マイコンであって、ここでは電池の充放電制御用の保護IC180、190と接続されることにより、保護IC180、190からの情報を集約して、装着される電気機器本体、充電器へLD信号やLS信号を送信する制御を行う共に、上側セルユニット146、下側セルユニット147の状態を監視し、図示しない記憶装置(不揮発性メモリ)内に電池セルの状態を定期的に記憶する。さらにマイコン154は、外部からのペアリング要求に応じて、ブルートゥース(登録商標)による通信を可能とし、ここでは外部の端末装置301(図1参照)との通信を行う。
本実施例の回路基板150には18V直流又は36V直流による大電流が流れる正極、負極の金属端子261a、266a、271a、276aが対角に配置される。また、図13にて示したように金属端子261a、266a、271a、276aから、接続端子群160への配線が回路基板150に形成された回路パターンによって行われる(尚、これらをリード線を用いた配線でも良い)。このように、無線通信モジュール153の近傍には、高電圧・高電流が流れる部分があり、さらには、大きな金属端子が存在するため、無線通信の妨げとなる。そこで、本実施例ではこれらの影響を低減させてアンテナ156からの放射効率を良くするために、無線通信モジュール153を、電池パック100の装着方向を基準にして回路基板150の前側縁部のほぼ中央に配置した。しかも、アンテナ156がマイコン154よりも前側に位置するようにして、接続端子群160とも極力離すように配置した。このように配置すれば、アンテナ156の周囲、特に前側、上側、下側を金属製部分にて覆わずにすむので、アンテナ156から良好に電波が放射される。
回路基板150の中央付近、例えば矢印150bに示す位置付近に無線通信モジュール153を配置することを想定すると、前側に金属製の接続端子群、右側や左側には電池セルからの延びる金属端子(中間引出しタブ262a、263a、引出しタブ261a、276a)があり、後方には保護IC180、190等があり、金属製の部品にて周囲が囲まれることになる。しかも、装着される電気機器が図3に示すようなインパクト工具の場合は、矢印150bの上側には電動工具本体側の制御回路基板(図示せず)が搭載されることになり、電波の放射環境としては好ましくない。
回路基板150の後方縁部で左右中央付近に無線通信モジュール153を配置することも想定される。しかしながら、後方の取付孔151bの近傍には、電圧チェック用のスイッチユニット(図13の290参照)と、5つのLED158が搭載される。従って、その位置に無線通信モジュール153を搭載することはできない。以上の観点を総合して本実施例では、回路基板150の接続端子群160の前側領域を左右方向に3等分した際に、左右両側の領域内に電池セルからの接続タブをそれぞれ配置し、中央の領域内に無線通信モジュール153を搭載するようにした。
図15は図14の回路基板150のうち、無線通信用のモジュールを取り外した状態を示す上面図である。図14との違いは、無線通信モジュール153部分を取り外した状態し、回路基板150に形成された半田付け用のパッド(ランド)群195を示している。ここでは図示していないが無線通信モジュール153の背面図も、接続パッド群195に対応する形状であり、これらをリフロー行程によって半田付けを行う。
図16は図14の回路基板150のA-A断面図である。ここでは無線通信モジュール153の大きさと保護IC190だけを図示しており、それ以外の金属端子や搭載素子の図示は省略している。マイコン154は金属製のカバーによって覆われており、そのカバー比べるとアンテナ156の配線は十分小さい。従って、アンテナ156からの電波の放射を考えると、マイコン154よりも前側にアンテナ156が位置するようにした方が良い。また、保護IC190を含む電池セルの制御回路は、接続端子群160よりも後方側に配置した。
図17は図14の電池パック100の回路基板150の正面図である。この図も無線通信モジュール153(マイコン154、アンテナ156、コンデンサ157)の大きさと保護IC180だけを図示している。この図からアンテナ156は回路基板150にほぼ密着するように配置されることが理解できるであろう。
図18は本発明に係る電池パック100の回路基板150へのシリコン塗布状況を示す図である。回路基板150に搭載されるすべての電子素子を半田付けし、さらには接続端子群まで半田付けが完了したら、防塵及び防水のために回路基板150の上面のほぼすべてにシリコン樹脂層を形成する。シリコン樹脂層の形成は種々考えられるが、例えば塗布により形成できる。この際、アンテナとマイコンが1モジュール化されている部分のすべてに、防水塵の目的によりシリコンを塗布すると、アンテナの上にもシリコン樹脂層が形成されるので、シリコン自体が電波放射の遮蔽物になりえる可能性がある。そこで、本実施例では可能な限りアンテナ部へのシリコン樹脂の塗布を避けるようにした。しかしながら、量産工程において、シリコン塗布に細かい制約を求めることは生産効率を大きく落とす要因になり得ると同時に、不良率の増加や完成品の性能個体差を大きくしてしまう。そこで本実施例では、ゴムの型枠281による防水壁を形成し、防水壁となる型枠281の内側部分にはシリコン樹脂を塗布しないようにした。型枠281はゴムの一体成形であり、マイコン154の外枠部分にはめ込むようにして位置づけする。電池パック100の上ケース110と下ケース101とを一体とした状態において、型枠281の上面は、上ケース110のセルユニット側の面と接触し、型枠281と上ケース110との間に隙間がなくなるように構成される。これにより、アンテナ部にシリコン樹脂を塗布しなくても、アンテナ部に水や塵が入り込むことがなくなる。
シリコン樹脂は、波線のハッチングで示すように回路基板150の上面すべてに塗布される。接続端子群160は、ハンダ付けされる脚部分の周囲にだけ樹脂を塗布する。接続端子群160の後方側は、樹脂を塗布する必要が無い左右の両サイド285a、285bを除いてすべての部分に樹脂を塗布する。尚、図18では見えないが回路基板150の裏面もほぼ全面をシリコン樹脂にて覆うようにすると好ましい。
図19は図18の型枠281の斜視図である。型枠281はゴムの一体成形によって製造されたもので、アンテナ部(アンテナ線156とコンデンサ157)とマイコン154の外枠部分にはめ込むものである。型枠281と電池パック100の上ケース110とを接触させるのではなく、型枠281の上側にはゴムシート282をさらに設けても良い。これにより、アンテナ部にシリコン樹脂を塗布しなくても、アンテナ部に水や塵が入り込むことがなくなる。ゴムシート282は、接着によって型枠281の上面に固定すれば良い。
図20は図18とは別の方法による回路基板150へのシリコン塗布状況を示す図である。ここでは型枠281によってマイコン154の前後左右方向を制限するのでなくて、シート状のゴム283にてマイコン154の前後左右だけでなく上面を覆うようにした。但し、アンテナ156まで覆ってしまうと電波の放射効率の低下を招く恐れがあるので、アンテナ156の周囲だけはゴムシート283の前側縁部に凹状の切り欠き283aを設けるようにした。この際、切り欠き283aの縁部をマイコン154を覆うシールドの側面に密着させるように貼り付けることで防水性が担保される。ゴムシート283の周囲、特に右側、左側、後側にはシリコン樹脂が塗布されるが、ゴムシート283の外縁に隙間無く接するように塗布するのが難しい場合は、図20のように外縁部分283bの上側に樹脂がつくようにゴムシート283にも重ねて樹脂を塗布する。
図18~図20で示した実施例によれば、無線通信モジュール153以外の回路基板150をほぼすべてシリコンにて覆うことにより樹脂層を形成したので、回路基板150に搭載される電子素子の防水性、防塵性を大幅に向上させることができた。また、無線通信モジュール153については、特にアンテナ部分を樹脂で覆わないようにしたので、電波の放射性能を低下させる虞をなくすことができた。尚、樹脂層の材質はシリコンだけに限られず、加工性や防水、防塵性が優れているそのほかの樹脂であっても良い。
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば上述の実施例では電圧可変電池パックにブルートゥース(登録商標)を搭載するようにしたが、電圧可変電池パックだけでなく、電圧固定電池パックにおいても本発明を用いて無線通信装置を搭載するようにしても良い。